Executive Functioning and Children’s Theories of Mind L. J. Moses, 2005. Other Minds (pp.11-25). 発表 志波 泰子 2005/11/30 BBS 1 他者の心について 他者の心の存在はデカルト以来の問題 社会心理学、認知心理学の問題としては ❏ 我々は心的状態の帰属を どのように行っているのか ❏ 我々は心的状態についての知識を 初めに、どのようにして獲得するのか をあつかおう 2 ❏心的状態概念の獲得に関する 主な理論 ( ): ToMは生得的モジュール ⒉.統語論説(deVilliers & deVilliers, 1999): 心的概念の発達と言語能力の発達は結びついている 3.理論説(Flavell, 1988; Wellman, 1990; Perner, 1991; Astington & Gopnik, 1991)他者の心を理論的に理解する必要 1.モジュール説 Baron-Cohen, 1995; Leslie, 1994 4. シミュレーション説(模擬説) (Johnson, 1988; Gordon, 1992; Haris, 1992; Goldman, )理論は必要ではなく、自分自身の心を覗いて“その人の状況 に置かれたら自分ならどうするだろう”と考えて、それを他者の心のシ ミュレーションとして用いる 5. 実行機能( Executive functioning )説(Russell, 1996; Carlson & Moses, & Hix, 1998,Perner & Lang, 1999) 2001 3 ❏Executive functioning(実行機能)説 実行機能(EF)は、主にモニタリング、思考と行動を制 御: 自己制御、プランニング、行為の組織化、認知の 柔軟性(set shifting)、エラーの探索と修正、抑制 反応、干渉への抵抗を含む(Rslinger, 1996; Zelazo, Carter, Reznick, & Frye, 1997) 特に 抑制能力(IC)は前頭葉のホールマーク(Luria, 1973; Passler, Isaac, & Hynd, 1985) ICは認知し表象された目標を追跡しつつ、不適切な 反応を抑える能力(Rothbart & Posner, 1985) 4 ❏EFとToM関係は偶然ではない 自閉症児は、ToMに重大な欠陥(Baron-Cohen, TagerFlusberg, & Cohen, 2000)、ToMとEF双方に欠損がある (Russell, 1997) 脳イメージング研究: 課題、 ( 課題どちらも近接又は一部重複した神経回路が活性化 ) Fry ら(1995)の研究:EF課題とToM課題は相関 Carlson & Moses (2001)の研究 107人の幼稚園児による10のEF課題とToM課題8バッテリー2つの バッテリーはr=.66 および Carlson, Moses, & Breton(2002)のEF-ToM EF ToM Kain & Perner, 2005 関係とICとWMとの関連性研究など 5 ▲ICとToM間のCarlson & Moses (2001)の研究 ToM 誤信念 IC 課題 (場所) (内容) ToMの 騙し 見かけ バッテリー 昼/夜 .33**(.22*) .24*(.11) .28**(.18*) .24*(.08) .36**(.23*) 草/雪 .36***(.13) .26**(.07) .35***(.18*) .38***(.14) .45***(.21*) 空間葛藤 .26**(.06) .15(−.01) .37***(.25**) .20*(−.04) .33**(.11) 熊/竜 .38***(.06) .31**(.16) .55***(.45***) .49***(.31**) .57***(.42***) CS .34***(.09) .36***(.20*) .27**(.07) .27**(−.03) .40***(.12) ピンボール.26**(.09) .25*(.12) .25*(.13) .27**(.12) .33**(.17*) 贈り物 .26**(.11) .29**(.18*) .17(.03) .33**(.19) .34***(.19*) 塔 .27**(.08) .28**(.14) .11(-.06) .34***(.16) .32**(.10) KRISP .26**(−.11) .31**(.11) .29**(.06) .45***(.18*) .42***(.09) ささやき .30**(.18*) .30**(.19*) .26**(.16) .40***(.31**) .41***(.31**) 葛藤課題 .49***(.24**).40***(.20*) .55***(.40***) .50***(.24**) .64***(.41**) 遅延課題 .36***(.08) .39***(.22*) .27**(.06) .49***(.26**) .49***(.23*) IC battery .50***(.20*) .47***(.27**) .50***(.31**) .57***(.31**) .66***(.41***) 6 ▲Carlson, Moses, & Breton(2002)の EF-ToM関係とICとWMとの関連の検証: ▪ 課題: WMは、数えと命名、数字逆唱、単語逆唱課題 ToMは、スマーティ、サリーとアンと見かけ課題 ICは、熊と竜、ささやき、贈り物課題を使用 ▪ 結果: ICとToMでは、年齢とIQを統制したとき、ICの葛藤課題の みが 誤信念課題 と偏相関があり、遅延課題は相関がみら れなかった 葛藤課題はWMとも相関し、年齢とIQを統制しても偏相関 ✦ToMとWMは、見かけ、誤信念課題に相関が見られたが、 年齢とIQを統制したとき、どちらの相関も消えた 7 ▲ToMとICとWM間の相関および偏相関 (Carlson, Moses, & Breton, 2002) IC/ToM課題 見かけ 誤信念 遅延 0.19(0.13) 0.17(0.09) 葛藤 0.30*(0.05) 0.52***(0.30*) WMバッテリー 0.36*(0.03) 0.39**(0.03) N=47,()の数値は年齢とIQを統制したもの 8 ▲ICの葛藤/遅延課題とWMとの相関および年齢とIQを 統制した偏相関 (Carlson, Moses, & Breton, 2002) 1.00 0.75 *** 0.50 葛藤課題 遅延課題 * 0.25 0.00 相関 偏相関 9 ❏実行機能の因果方向性 ToM➔EFへの因果方向性仮説(Perner &Lang,1999) EF➔ToMへの因果方向性: 創発(emergence)仮説(Russell,1994,1996) 表現( expression )仮説(Carlson, Moses, & Hix, 1998) 10 ToM➔EFへの因果方向性仮説 ▪ ToMがEFに大きく影響(Perner & Lang, 1999; Perner, Lang, & Kloo, 2002) ToMの中心にあるメタ表象はEFにも必要 メタ表象能力が実行抑制(executive inhibition)をうまく 働かせる 抑制:不適当な行動スキーマとその関連する行動の表象 誤信念:心的状態とその関連する行動の表象が必要 ➔誤信念の評価に実行抑制が働くには、ToMの中核にある メタ表象が必要 11 EFからToMの因果方向へ一致するデータが 圧倒的に多い ▪ Hughes(1998)の縦断研究: 3、4歳のEFは1年後のToMをToMよりもっと良く予 測、特にIC課題は、年齢、言語能力を統制しても、 予測できた ▪ Carlsonら(2004)の縦断研究: 2歳時のEFは3歳時のToMを性、年齢、言語能力をこ えて 有意に予測 ▪ Flynn, O’Malley, & Wood (2000) ICの習得は誤信念遂行より発達的に先んじる 12 Pernerらからの反論 ▪ メタ表象はどちらにも必要 ▪ EF課題が実際はToMを計測する課題 ➔ そのようなEF課題の成績がToM課題の成績 をその逆よりもっとよく予測したとしてもそれだけ では不十分(Kloo & Perner, 2003 ) 13 Pernerら(ToM➔EF仮説)への反論 ▪ すべてのEF課題がToMと強く相関するわけではない ➔IC課題を葛藤課題と遅延課題に2分した分析の 結果は葛藤課題のほうが遅延課題よりToMに結び つくという事実(Carlson & Moses, 2001)は Pernerらの説と矛盾する (どちらもメタ表象が必要な課題なら、同じ結果の はず) 14 PernerらのToM➔EF仮説への反論(2) ▪ ICとWMはEF-ToM関係に共同して関与している ToMと強力に関連するEF(IC)課題は抑制スキルのみで なく、WMスキルも必要 主にWMのみにかかる課題、単に抑制のみに掛かる課題 はToMとの相関は低い(Carlson, Moses, Breton, 2002; Hala, 2003 ) ▪ PernerらはToMの成長がWMの成長をどれほど生み出す かを明らかにしていない (彼らによれば、WMもToMと同じメタ表象のEFの背後にあると 思われるのだが) 15 最新のクロスカルチャーのデータ ▪ アメリカに比べ、北京の子どもたちのEFは成長している がToMは成長していない(Sabbagh, Xu, Carlson, Moses, & Lee, in press) (ToMが原因ならToMの成長なしにはEFの成長はわからな いはず) ❏ これらのデータはToM➔ EF 仮説とは一致しない 16 ❏EF➔ToMへの因果方向性: 創発(emergence)仮説と表現( expression )仮説 創発仮説: ウインドウズ課題のような欺き課題で3歳児が困難なのは ToM能力にEF能力が大きく関わっていて、本質的な違い を与えているため(Russell, 1994,1996) 表現仮説: 欺き課題では、子どもは指で示すという方法はうまく使えな いが相手に矢印を指して知らせる方法ならもっとうまく騙 せた➔もっと大きなIC能力が必要(Carlson, Moses, & Hix, 1998) 17 創発( emergence)仮説 (Russell, 1996 ; Moses, 2001; Scholl & Leslie, 2001) EFはToM概念の創発に影響 複雑な概念構成には一定のEF水準が必要 現在の刺激から自分を引き離す能力であるEFが これらの概念獲得に関連する(Russell, 1996) このような概念を作るのにどれほどの実行スキルが必 要か➔ToM概念創発には、1歳児の探し物課題 (Diamond,2002)での実行スキルで十分 18 表現(expression)仮説 (Carlson, Moses,&Hix ,1998) ▪ EFはすでに存在するToM能力の表現に影響 ToM 概念はすでにあるが、実行スキルの発達が弱い ▪ 誤信念課題に成功するには、関連するToM 概念とこれ らの概念を表現する実行能力が必要 ▪ 誤信念課題には実行要求EF(WMとIC)に負荷をかける課 題がある(Carlson, Moses, & Breton, 2002) ➔知っている優勢な知識と間違っている非優勢な知識の2つ の表象をもちつつ、前者は抑え、後者の立場で答えねばな らない) 19 2つの仮説の検証: 実行機能要求を操作する意義 ▪ 誤信念課題で、実行機能要求を増加させれば成績 が低下(Leslie & Polizzi, 1998) ▪ 178の誤信念研究をメタ分析した結果からは 実行機能要求を操作すれば誤信念課題で成績が 向上(Wellman, Cross, & Watson, 2001) 20 ToM課題の実行機能要求:メタ分析からの指摘 1.場所が移動するのは欺きであるということ 2.子どもたちが場所が移動したことを体験していること 3.誤信念質問の時にその物がないこと 4.主人公の心的状態が特に強調されたり、述べられたりし ていること(Wellman, Cross, & Watson, 2002) 1、2、4は信念の顕現性(salience)が増加し、3は 物の真実の状態の顕現性が低くなっている ➔EFの問題 21 実行機能要求を操作した実験研究 ▪ EFの負荷のないToM課題とEF課題が 関係がある➔創発仮説を支持するだろう 関係がない➔表現仮説を支持するだろう 結果は ▪ 誤信念予測課題、説明課題はどちらもEF課題の成績 と高い相関(Perner,Lang, & Kloo 2002) ▪ 標準的誤信念課題、非優勢誤信念課題とEF 課題も高く相関(Moses, Carlson, Stieglitz, & Claxton, 2005) ➔表現仮説より創発仮説有利 22 ❏EFはToMに影響するというより ToMを可能にする決定要因 ▪ EFはToM発達の単なる遂行要因ではない ☛年少児にたいし実行要求を減らしても潜在的な 概念能力が明らかになるという証拠がほとんど ない (Moses, 2001; Scholl & Leslie, 2001) 23 ❏EFがToMの創発を可能にする ▪ EFの影響はToM創発時点で、強力に出現 優勢反応選択をさせるToM課題と、非優勢なToM課題(知 識の源課題、心的状態確実性課題)の成績は どちらも幼稚 園期に、目だって発達し、EFと相互相関している ☛先行するToM能力の表現するものとEFが関係しないなら、 非優勢ToM課題とEF課題の相関はわからないはず 24 ❏EFがToMの創発を可能にするさらなる証拠 ▪ Carlsonら(2004)の縦断研究は、2歳時のEFが3 歳時のEFを超えて3歳時のToMを予測 ☛ToM概念表現の困難だけの問題ではないこ とを示唆 ▪ 北京の子どもたちのデータも表現仮説に合致し ない ☛彼らのEFは成長しているが、まだ、ToM能力 は発現していなかった 25 ❏他者の心の推論は領域固有か領域普遍か 他者の心の推論はどちらも必要な複雑なスキル これまでの証拠は領域普遍的能力であるEFが子 どものToMと深い関係を示唆 (幼稚園期のEFとToMの関係は信頼性と頑健性) 実行機能説の創発仮説が正しいなら、ToMを説 明する他の理論とどう関わるのか 26 創発仮説と整合しない モジュール説と統語論説 モジュール説(Baron-Cohen; Leslie, 1994): ▪ ToMは生得的モジュール(特定の神経システムが 心的状態に関連する社会情報の処理に用いられてお り、これらのシステムやモジュールの成熟すれば、子 どもたちは適切な心的状態の帰属ができる) ☚ToMの発達は成熟のタイムテーブルによると いうのは整合しない ToMモジュールはEFのような領域普遍的プロ セスには認知的に通じない 27 創発仮説と整合しない(2) 統語論説(deVilliers & deVilliers, 1999): ▪心的概念の発達と言語能力の発達は結びついて いる、子どもたちは信念のような概念をその発 話が基づく統語構造を獲得するまで習得できな い ☚統語構造の獲得は伝統的にも領域固有のプ ロセス 28 ❏創発仮説は理論説とシミュレーション説と整合し補足できる ▪ 理論説は EFの成長は子どものToM概念の変化を可能にするのに重要 ▪ シミュレーション説は EF の成長はシミュレーション説がよってたつ類推や内省の発達 にともに重要 ❏ToM発達を説明するときには、EFのような領域普遍能力 が子どもたちのメンタルライフ理解の発達に確かに果た している役割にも取り組むべきである 29 追加説明:▲理論説(Flavell, 1988; Wellman, 1990; Perner, 1991; Astington & Gopnik, 1991, etc.)とは ▪ 外に現れた他者の行動を内的な信念や 欲求、意図などで予測し、説明する、それが科学 理論と類似(Astington & Gopnik, 1991) ▪ 幼児はこのような概念を次第に順次獲得 (Wellman, 1990) ▪ この説では 心の理解過程は心的表象に関する子ども自身の 能動的な理論形成として扱い、他者の誤信と自 分の誤信の理解は同時期である (木下孝司 1997 心の理論研究の展望、心理学研究、Vol. 68, 5167からの抜粋) 30 追加説明▲シミュレーション説(模擬説) (Johnson, 1988; Gordon, 1992; Haris, 1992; Goldman, 2001)とは ▪ 他者の心は、自己の心的経験をベースに他者の心的状態をシミュ レーションすることで理解される ▪ オンラインからオフラインのシミュレーション: 乳児の共同注視は生得的シミュレーション、生後1年目ごろからオフ ラインで他者の感じるものや見ているものをシミュレーションできる (Haris, 1992) ▪ この説では、自分の心的状態は表象として理解されるが、他者の心 的状態は自分との類推で理解されるため発達的には遅れて理解さ れる 1994 (松村暢隆 幼児の心の理論と理論説、心理学評論、 107からの抜粋) Vol.37, 92- 31 ▲Goldman(2001)は ▪ ミラーニューロン(MN)の発見(1996)はSTを後押し 猿(人)が、物を握る、掴む、持つのような目的行為をする時、 又、相手がするのを見る時にも活動するニューロン (Rizzolatti, Fadiga, Gallese, & Fogassini, 1996) ▪ MNはSTの原型バージョン:人が他者の行為を観察する時 同じ行為をするというプランやイメージが生じるが、これが 正常な人では抑制されて、運動は出力されない(オフライ ン)(Gallese & Goldman, 1998)➔STと類似 ▪ MNは ST が前提とする目標行為の心的再創造の証拠 ▪ ST こそが哲学上も心理学上も、素朴心理学のミステリーを 解く重要な手がかりを握るものである 32 ▲PERNERら( 2005)は ▪ これまでの2大論争結果は、我々は両方の種類のプロセスを用い ているという妥協的結果となっている ▪ STとTTの他者の心のアプローチは全く違う 一般的にシミュレーションとは、どのように機能するかの 理論がないときに、用いられるもの 同じ類似の因果構造を持つものの機能を探索することで獲得 しかし、メンタルシミュレーションはあくまででメンタルプロセス、本 物のシミュレーションとは違うもの ▪ シミュレーションは、随時、理論的知識を加えて有効に用いられて いることは多くのデータから明らかになっている ▪ シミュレーションは、身体上、時間上の制約はあるが、他者の心を 理解する能力を説明するための有益な概念 33 REFERENCES Carlson, S. M., & Moses, L. J. (2001). Indvidual differemces in inhibitory control and Children’s theory of mind, Child Development, 72, 1032-1053. Carlson,S. M., Moses, L. J., & Breton, C. (2002). How specific is the relation between executive function and theory of mind ? Contributions of inhibitory control and working memory. Infant and Child Development, 11, 73-92 Goldman, A. i.(2001). Desire, intention, and the simulation theory. Intention and intentionality:Foundations of social cognition (pp.207224).Cambridge, MA:MIT Press (1996) : ,68,51-67. Moses, L. J., (2005). Executive Functioning and Children’s Theories of Mind. Other minds (pp.11-25). New York. London: Guilford Press. (1994) . 37, 92-107. Perner, J. & K hberger, A. (2005). Mental Simulation, Royal Road to Other Minds?. Other Minds (pp.174-189): Guilford Press 木下孝司 究 心の理論研究の展望 心の理解をめぐる諸説の概要、心理学研 松村暢隆 幼児の心の理論と理論説 心理学評論, ű 34
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