長崎大学グローバルCOE プログラム 熱帯病・新興感染症の 地球規模統合制御戦略 平成20年度 研究成果報告書 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University -Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases- 長崎大学熱帯医学研究所 グローバル COE 推進室 〒8 5 2 ‐ 8 5 2 3 長崎市坂本1丁目1 2番4号 TEL.0 9 5 ‐ 8 1 9 ‐ 7 8 7 0/FAX.0 9 5 ‐ 8 1 9 ‐ 7 8 0 5 e-mail [email protected] http://www.tm.nagasaki-u.ac.jp 平成2 2年3月発行 Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases Contents 学長あいさつ 01 拠点リーダーあいさつ 02 概要 03 事業推進担当者 04 平成20年度活動紹介 05 研究報告 1 ■基礎研究班 ●分子疫学的手法に基づくウイルス性胃腸炎の実態解明とその制御戦略への展開 (中込治) 10 ●プリオンの感染増殖機構およびプリオン病の病態解明 (西田教行) 12 ●サルモネラ・エン トロキシンの多型と下痢原性発現機構(平山壽哉) 14 ●マラリア原虫の宿主細胞への侵入機構とその制御 (金子修) 16 ●マラリア感染における宿主T細胞免疫応答の解析 (由井克之) 18 2 ィールド研究班 ■フ ●熱帯地域の新興ウイルスの調査と迅速検出法の開発 (森田公一) 20 ●ヒ ト型抗体を用いた新出現ウイルスに対する治療用製剤の開発に関する研究(山城哲) 22 ●熱帯地域のアルボウイルスの疫学的調査と病原性の解明 (森田公一) 24 ●地域住民参加によるマラリアの実態把握と予防に関する社会技術開発研究 (金子聰) 26 ●スバコーホー トを利用したマラリア媒介蚊と感染の制御研究(皆川昇) 28 ●デング出血熱、 シャーガス病、 マラリアの重症化遺伝子解析(平山謙二) 30 ●メラネシア島嶼におけるマラリア排除:疫学・生態学・進化学的アプローチ (金子明) 32 3 ■創薬科学班 ●インフルエンザ肺炎における重症化因子の迅速検出法の開発 (河野茂) 34 ●抗ウイルス剤開発 (小林信之) 36 ●HIV感染・再活性化を助長する細菌の制御薬物開発のための基礎研究 (中山浩次) 38 ●エイズ及びプリオン病の検査法と治療薬の開発 (甲斐雅亮) 40 ●マラリア・住血吸虫ワクチン開発 (平山謙二) 42 ●基盤技術の医薬品開発応用 (池田正行) 44 業績一覧 46 Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases 片 峰 茂 長崎大学 学長 学長あいさつ サブプライムローン破綻に始まる米国の1 0 0年に一度 貢献を果たしています。これら学内外のインフラ整備を といわれる経済不況が、瞬時にして世界を覆ってしまい 基盤に、既にいくつかの特筆すべき研究成果を世界に発 ました。経済不況にかぎらずエネルギー問題、食糧問題、 信しつつあります。人材育成面でも従来の博士課程(新 環境破壊、感染症など現代の最大懸案は全て地球規模で 興感染症病態制御学系専攻)に新たにコースワークを導 あり、地球と人間の存立そのものを脅かしかねない拡が 入し教育の実質化を図るとともに、医歯薬学総合研究科 りを見せつつあります。このような時代におけるアカデ に熱帯医学修士課程を、独立研究科として学際性に富む ミアとしての大学の責務は、世界と人類に貢献する新し 国際保健開発研究科を新設しました。いずれも本邦初の い知の創造であり、それを担う次世代人材の育成だと思 特色ある修士課程であり、途上国現地で活躍できる研 います。その観点から、グローバル COE プログラム 「熱 究・国際協力人材の育成を目指しています。 帯病・新興感染症の地球規模統合制御戦略」はまさに長 崎大学を代表する”知の発信拠点”といえます。 5年間の2 1世紀 COE プログラムの成果を受け、2 0 0 8 年度からグローバル COE プログラム「熱帯病・新興感 長崎大学の感染症研究の歴史は古く、戦前からの長 染症の地球規模統合制御戦略」として長崎大学の熱帯医 崎県の離島を中心に流行した感染症(風土病)克服のた 学・感染症研究は新たなスタートをきりました。新型イ めの研究に始まり、幾多の世界に誇る業績をあげてきま ンフルエンザなど感染症まん延に対する対策は最重要の した。1 9 6 7年の風土病研究所の熱帯医学研究所への改 地球規模課題となっており、本プログラムの責任はます 組を契機に、研究活動はアジア、アフリカなどの途上国 ます重要性を増しています。基礎研究で得られた発見の に拡大し、特色ある熱帯医学研究が展開されてきました。 成果を医薬品開発研究に応用した新しいワクチンや薬剤 このような長年にわたる先輩たちの努力と蓄積が評価さ の開発や、途上国流行地でこれらの医薬品を効果的に流 れ、2 0 0 3年「熱帯病・新興感染症の地球規模制御戦略 通・配布するための社会開発学的研究成果など、世界の 拠点」 が2 1世紀 COE プログラムに採択されました。2 0 0 5 感染症対策にインパクトを与える成果を量産する義務を 年には永年の懸案であった本学スタッフが長期間常駐す 背負っているといってよいでしょう。 る海外感染症研究拠点をベトナムとケニアに創設しまし 本プログラムにより世界の多様な科学者が集結する真 た。学長直轄の「国際連携研究戦略本部」には国際協力 の意味でのグローバル拠点が長崎に形成され、2 1世紀世 の現場に通暁した専門家人材が集結し、本プログラムの 界の平和と人類の福祉(安全・安心)に大きく貢献する 国際連携研究や海外拠点の運営・マネジメントに多大の ことを確信しています。 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 0 1 平 山 謙 二 長崎大学熱帯医学研究所 所長 拠点リーダーあいさつ 私は2 0 0 8年から2 0 1 2年まで5年計画で進められるグ どこかの国のマスゲームは別ですが、本当にヒトはまち ローバル COE のリーダーを務めることになりました熱 まちで同じことをやろうとしても同じにはできません。 帯医学研究所長の平山です。私の専門は、寄生虫学・免 この個性の大部分は遺伝子の多様性により出来上がって 疫遺伝学で、これまでヒトが感染症にかかったあと重症 います。もちろん、神経ネットワークのでき方や免疫抗 化したりあるいは簡単に回復したりするのがなぜなのか 体の種類などはその人のそれまでの環境や経験に影響さ 研究してきました。たとえ同じように新型インフルエン れるでしょう。しかしそれでも遺伝子の影響はやはり大 ザウイルスにさらされたとしても、決して死亡率1 0 0% きなものです。この遺伝子自体の性質として、多様性を にはなりません。かならず生き残るヒトがいるはずです。 保とうとする性質があることがわかっています。この多 どうして「いるはずです」などと言えるのでしょうか。 様性がどんな外敵が来てもヒトが全滅することを許さな それには大きく二つの理由があります。 いのです。 ひとつは、人類は生命の誕生以来、長い間生き延びて そうは言ってもやはり自分がその生き延びるほうに入 きたことです。長い進化の歴史の中でヒトあるいは生物 ると確信できる人は少ないでしょう。この GCOE は実 は環境のあらゆるリスクにさらされながらもなんとか生 は皆さんがすべて生き残れると確信できるようにしたい き延びてきました。その間の経験はすべて我々の細胞が と思っています。長い進化の過程で培われた感染症に対 持っている遺伝子 DNA の中に刻み込まれていますエネ する防御システムを理解し、多様な個性をもった人たち ルギーを作り出す仕組み、太陽や地球環境に対応する感 にその人たちに合った防御システムを使ってもらえるよ 覚受容器、外部刺激を入力統合して外部に反応する神経 うにしていく。私は自分の専門領域からこのような夢を 筋肉システム、そして他の生物の体内への侵入や増殖を 話しましたが、我々の GCOE は2 2名のいろいろな分野 防御する免疫システムなどはすべて非常に単純なモチー の専門家が感染症防御システムの理解に取り組んでいき フを徐々に進化させて今のヒトが持っているような巧妙 ます。世界中から若い優秀な学生や研究者も集うことに なものに作り上げていったのです。ちょっとやそっとの なっています。これらの人たちの相乗作用がどんな大爆 外敵でやられるような柔な体ではないはずなのです。も 発を起こすのか、どうぞ楽しみにごらんください。 う一つは、ヒトが一人一人個性を持っているからです。 0 2 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases 概 要 近年、病原体の進化、新たなウイルスの出現、地球温 こうした感染症を制御し克服するためには周到な計画、 暖化、交通手段の高速化や国際貿易の発展などで、一定 実行できる人材、適切な技術が必要です。そのため教育 の地域で起きた感染症があっという間に世界中に広がっ にも力を入れ、ケニアやベトナムには海外拠点も設け、 てしまいます。長崎大学は日本唯一の感染症教育研究拠 地道な現地での調査・研究、臨床研究および若手研究者 点として、国際社会の脅威となっている主要感染症を制 の育成を行いながら、感染症の制御・克服へ向けて日々、 御し克服することを目的としています。この目的を達成 研究を行っています。 するためにあらゆる感染症の中から、特に、子どもたち の犠牲が大きい!エイズ "マラリア #下痢症 $見 捨てられた感染症 %新出現ウイルス &プリオン病と いう6つの感染症群を対象に「基礎研究」 、 「医薬品開発」 、 「社会技術」という3つの研究領域から取り組んでいま す。 (図!)6つの感染症群は子どもたちの犠牲が大き いものばかりです。 (図")#下痢症は先進国では解決 ▲ケニア・ナイロビ市 ケニア中央医学研究所(KEMRI)内 していても、世界では依然蔓延しています。$見捨てら れた感染症では発生源が貧しい開発途上国であったため にかえりみられることのなかったデング熱や住血吸虫症 などに焦点をあてたことが大きな特徴です。 ▲ベトナム・ハノイ市 国立衛生疫学研究所(NIHE)内 図! 図" 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 0 3 0 4 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 明 昇 太郎 紅也 浩幸 正行 雅亮 金子 皆川 山本 有吉 森内 池田 甲斐 フィールド (8名) 教育担当 (5名) 創薬科学 正美 聰 金子 丹羽 哲 山城 茂 公一 森田 河野 克之 由井 信之 浩次 中山 小林 教行 西田 (9名) 敬 修 金子 伊藤 俊文 松山 壽哉 治 中込 平山 基礎研究 謙二 平山 属 医歯薬学総合研究科(生命薬科 学専攻) ・教授 医歯薬学総合研究科(新興感染 症病態制御学系専攻) ・教授 医歯薬学総合研究科(新興感染 症病態制御学系専攻) ・教授 医歯薬学総合研究科(医療科学 専攻) ・教授 神経薬理学 感染症学 感染病学 機能性分子化学 創薬科学 小児科学 医学部創薬科学・教授 感染症学 医歯薬学総合研究科(新興感染 症病態制御学系専攻) ・教授 国際保健学 衛生動物学 マラリア学 公衆衛生学 微生物学 ウイルス学 免疫学 微生物学 微生物学 生化学 病原細菌学 原虫学 免疫学 感染分子疫学 免疫遺伝学 研究領域 熱帯医学研究所・教授 熱帯医学研究所・教授 熱帯医学研究所・教授 熱帯医学研究所・客員教授 熱帯医学研究所・教授 熱帯医学研究所・教授 熱帯医学研究所・教授 医歯薬学総合研究科(医療科学 専攻) ・教授 医歯薬学総合研究科(新興感染 症病態制御学系専攻) ・准教授 医歯薬学総合研究科(新興感染 症病態制御学系専攻) ・教授 医歯薬学総合研究科(新興感染 症病態制御学系専攻) ・教授 熱帯医学研究所・教授 熱帯医学研究所・教授 医歯薬学総合研究科(新興感染 症病態制御学系専攻) ・教授 医歯薬学総合研究科(新興感染 症病態制御学系専攻) ・教授 熱帯医学研究所・教授 所 事業推進担当者(2 2名) 医薬品開発 医薬品開発 基礎研究(HIV/エイズ) 医薬品開発 医薬品開発 HIV/エイズ HIV/エイズ 社会技術 媒介昆虫・マラリア マラリア ケニア海外拠点・社会技術 ベトナム拠点 新出現ウイルス マラリア 医薬品開発 プリオン病 医薬品開発 下痢症 マラリア HIV/エイズ 下痢症 見捨てられた病気 研究テーマ 佐藤 阿部 山本 土屋 佐野 光 朋子 和子 菜歩 和憲 Mohammed Nasir (ベトナム) Pun Sher Bahadur (ネパール) 助教/ポスドク 吉田 江口 山川 藤井 実幸 克之 歩 麻美 技術補助員 玉華(中国) 里香 須藤 結香 一ノ瀬 亨 劉 格 (中国) 郭 朝万 (中国) 三原 智 高園 貴弘 小佐井康介 西條 朋美 喩 志強 (中国) HOSSAIN MD TOWHID (バングラデシュ) 唐 辰紅 (中国) 山筋睦美 Wainaina Njoroge Moses (ケニア) ZHANG HUAN (中国) Kounnavong Sengchanh(ラオス) 駒澤 大佐 森 正彦 Vu Thi Huong(ベトナム) 伊達木澄人 国場 英雄 長沼 成子 岡本 健太 NGUYEN DONG TU (ベトナム) MURAO LYRE ANNI ESPADA (フィ リピン) DINH TUAN DUC (ベトナム) Posadas Herrera Guillermo (メキシコ) 大下 一美 亀井 祖母井香織 中垣 岳大 Kaewthamasorm Morakot(タイ) 紗羅知明子 馬 Tran Thi Ngoc Ha (ベトナム) HELEGER GIDEIN KOFI (ガーナ) Ekhlas Hamed Hafeez Ahdou (エジプト) 山崎朗子 HGUYEN THI PHUONG LAN (ベトナム) 大学院生 (平成2 1年3月現在) Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases いました。初日の最後のセッションである特別臨床講演 ●国際シンポジウム では、国立感染症研究所の宮崎義継博士が現代の真菌感 「The 3rd Nagasaki Symposium on Tropical and Emerging Infectious Diseases and The 9th Nagasaki-Singapore Medical Symposium」 金子 修(熱帯医学研究所・原虫学 教授) 染症の特徴を、シンガポール国立大学の Dale Fisher 博 士がポータブル輸液セットによる在宅医療について講演 されました。懇親会の場でも、若手研究者は招待講演者 と研究内容について議論し、また、 シニアの方々は日本・ シンガポールの組織運営の違いなどについて意見を交わ したりと、活発な交流が行われていました。 2日 目 に は 南 ア フ リ カ 共 和 国 National Institute for 2 0 0 9年1 0月1 0日!と1 1日"に、The 3rd Nagasaki Sym- Communicable Diseases of the National Health Labora- posium on Tropical and Emerging Infectious Diseases/ tory Service の Janusz Paweska 博士が発表を行う予定 The 9th Nagasaki-Singapore Medical Symposium 合同 でしたが、一週間前ほど前に南アフリカ共和国で未知の 大会を長崎大学坂本キャンパス良順会館にて開催しまし 出血性ウイルス感染による4人の死者が出、その対策の た。 ために来日することができなくなりました。その旨を長 初日は、シンガ 崎大学の森田公一教授が Paweska 博士が研究を行って ポール国立大学の いる P4施設等の写真を示しながら説明しました。 John Wong 博 士 Paweska 博士の不在により、未知のウイルスの恐ろし に よ り、シ ン ガ さがかえって現実味を増し、聴衆一同襟を正して説明に ポールにおけるシ 聞き入りました。 ンガポール大学の 本シンポジウムは元々、長崎・シンガポール感染症シ 役割や、研究の方 ンポジウムとして計画が進められていましたが、多くの 向性、重点領域な シンガポールからの招待講演者に加えて、スウェーデン どの講演がありま からの参加や、現在はシンガポールの研究機関に所属し した。後日、シン ていても出身地はドイツやチェコスロバキア、フランス、 ガポール側の参加 オーストラリアという研究者も多く、国際色豊かな会で 者にとっても研究 した。会期を通じて最前列に座られていた永井美之博士 費の流れなどがわかり、有意義な講演であったと聞きま からの質問を始めとし、多くの聴衆からの質問があり、 した。続くセッションでは理研感染症研究ネットワーク 活発な討論が行われていました。長崎・シンガポール間 支援センター長の永井美之博士がアジア・アフリカ感染 の、あるいは長崎・スウェーデン間のさらなる共同研究 症研究ネットワークについて、設立からこれまで4年間 の発展と推進を誓い盛会のうちに全スケジュールを終え の進捗状況についての話をされ、引き続き、長崎大学熱 ました。 帯医学研究所所長の平山謙二博士より長崎大学・感染症 グローバル COE の目的と戦略について話がありました。 午後は北里大学生命科学研究所の大村智教授の記念講演 から始まりました。フィラリアなどの蠕虫に対する特効 薬であるイベルメクチンの発見などの講演は非常に興味 深いものでした。マラリアのセッションでは、 シンガポー ル南洋理工大学の Peter Preiser、Zbynek Bozdech、シ ンガポール国立大学の Kevin Tan、長崎大学の Richard Culleton、金子修が発表を行いました。定量プロテオー ム解析などを含めスケールが大きな研究が多いように思 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 0 5 ●平成2 0年度教育改革 プログラム合同フォーラム 實藤 英子(GCOE 推進室) 組みについて知る良い機会となりました。他の大学の取 り組んでいる姿勢を目の当たりにすることで、今後の私 たちのプログラムの進め方を改めて考えていこうと気持 ちの引き締まる2 0 0 9年の幕開けとなったフォーラムでし た。 2 0 0 9年1月1 2日・1 3日パシフィコ横浜会議センターに おいて文部科学省と!文教協会主催の第2 0回教育改革プ ログラム合同フォーラムが開催されました。私たちは2 日目の1 3日"GCOE のポスターセッションに参加しま した。長崎では久しぶりに数日連続して雪が降るような 寒い日が続いていたため、むしろこの日は関東の方が暖 かく感じられました。 会場で発表したポスター ●ロンドン熱帯医学校とのアフリカ ロンドン長崎奨学金の設立 ル COE ほか、大学教育改革支援、大学教育の国際化加 Inauguration of Africa / London / Nagasaki Scholarship Establish by London School of Hygine and Tropical Medicine and institute of Tropical Medicine (NEKKEN). 速、産学連携による実践型人材育成事業プログラムなど 2 0 0 9年3月2日、 8つのプログラムをテーマにした分科会と平成2 0年度に 両校代表により 採択を受けた大学によるポスターセッションが行われま MOU の調印式が行 した。フォーラム参加にあたっては、専門分野以外の大 われました。この奨 学も参加することを踏まえ、専門性よりも誰が見ても理 学金はロンドン熱帯 解しやすいようなポスター作りを心がけました。出展さ 医学校教授である れているポスターの全体的な印象としては、白かブルー Greenwood 教 授 の が基調となっているものが多く見られた中で、本プログ 希望によって設立さ ラムのポスターは4つのコーナーに配色を分けて作りま れたものです。 フォーラムは会議センターの1階から3階までをフル に使って開催され、私たちが参加した2日目はグローバ した。おかげ様で、他の大学の方々からは“参考に”と 写真を撮っていただき好評だったようです。 Greenwood 教 授 は2 0 0 8年1 0月アフリ 今回のフォーラムは、今後これらのプログラムへの参 カで第1回野口アフ 加を目指している方々にとっては特に有用なフォーラム リカ賞を受賞。その ではなかったかという印象を受けました。同時に、私た 賞金をイギリスと日本が協力して、熱帯医学の研究を ちにとっては医学系以外にも数学、物理学、地球科学、 行っているアフリカの若手研究者の育成に役立てたいと 機械、土木、建築、社会科学など各大学の特色ある取り 考えました。奨学金の対象者は熱帯医学に携わる修士課 0 6 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases 程の学生としており、日本で唯一熱帯医学研究の修士課 に考える貴重なご講演をいただいた。ご専門のコン 程教育を行っている長崎大学熱帯医学研究所が、共に若 ピューターシュミレーションの詳細をさらにお聞きした 手の育成に携わっていくこととなりました。 かったが、時間の都合上、我々のこころの持ち様に話の 中心を置かれたようだ。 「手段の自己目的化」には要注 意というメッセージが新鮮であった。グローバルな感染 ●市民公開セミナー 症の問題と温暖化にともなう水資源の問題に関する学術 「地球温暖化と水資源問題の現在的課題」 西田 教行(医歯薬学総合研究科・感染分子解析学 教授) 的な検討については次の機会を待ちたい。第3演者であ る日経 BP の深尾氏はこの地球環境問題にメディアはど う向かい合うべきなのか、メディアの限界がどこにある のかというテーマの講演であった。我々を含め専門外の 人のほとんどは温暖化問題に関する情報はマスメディア 長崎大学の熱帯病・新興感染症 COE プログラムの を通して得ているのではないだろうか。情報発信側の本 ミッションは、世界規模で起こる感染症の制御に資する 音を聞く事ができたことは大きな意味があると思う。普 人材育成と基礎から臨床まで含めた医学研究である。地 段メディアとは遠いところで仕事をしている我々にとっ 道な風土病の調査、住民の健康状態の把握、研究室での て新鮮な視点での話を聞く事ができ、貴重な経験であっ 病原体の性状解明、ワクチン開発や治療薬開発などに取 た。 り組んでいる。現在進行中でありかつ今後さらに問題が これを出発点として片峰学長が提示している人間の安 顕在化すると思われる地球温暖化にともなう気候変動は、 全保障に、長崎大学が総合的に取り組む道筋が見え始め 病原体の生態に影響を及ぼすであろうし、途上国の生活 てきた講演会であったというのが主催者としての自己評 水の管理もさらに厳しいものになるかもしれない。 価である。 第1演者として、長崎大学の武藤教授に地球温暖化の 現状とそれが海岸線の変化に及ぼす影響に関する最新の 研究成果を紹介していただいた。これまで常識とされて きた海岸線の変化の有り様が実際には異なることが示さ れ、専門外の人間には多少その時間スケールが直感的に は理解しにくい面があったが、人間の活動の影響による 温暖化が短期的には起こるものの、歴史的サイクルから ●国立科学博物館 企画展 「熱帯感染症と『たたかう』長崎大学」 堀尾 政博(熱帯医学研究所・熱帯医学ミュージアム 教授) みるとやがて地球は冷却され氷河期を迎えることが説明 された。地球環境 3月7日から1 5 のダイナミックな 日まで、東京・上 面を理解すること 野公園の国立科学 ができたのではな 博物館において、 いだろうか。第2 企画展「熱帯感染 演者の東京大学の 症と『たたかう』 沖先生からは、水 長崎大学」を開催 問題だけでなくこ しました。 の温暖化という問 この企画展では、 題を我々はどう捉 熱帯医学研究所に えたらよいのかと おけるアフリカを いう根本的なこと はじめとした熱帯 に真摯に市民と共 地域での「熱帯感 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 0 7 染症」への取り組みを中心に、ノーベル化学賞を受賞し 地球規模統合制御戦略」と「放射線健康リスク制御国際 た下村脩名誉博士の功績や、西洋医学1 5 0年の歩み、本 戦略拠点」の紹介を通じて、一地方大学である長崎大学 学が所蔵する古写真コレクション、唯一の被爆大学とし が2 1世紀における世界の平和と人類の福祉(安全・安 て積み重ねてきた放射線医学に関する資料などを展示、 心)へ貢献しようとしているかをより多くの若手研究者、 紹介しました。 一般市民の方に知っていただき、今後の高等教育の在り 開催期間中、1 1, 0 8 6人の入場者があり、会場は大いに 方について提言することを目的としたものです。 賑わい、来場者からは「普段考えたこともないアフリカ の感染症を知り、たいへん勉強になった」などの感想が 寄せられました。 セミナーでは、片峰茂長崎大学長の挨拶に続いて、文 部科学省高等教育局大学振興課の義本博司課長に御挨拶 をいただき、引き続き「熱帯病・新興感染症の地球規模 統合制御戦略」と 「放射線健康リスク制御国際戦略拠点」 の拠点リーダーである平山謙二熱帯医学研究所所長、山 下俊一原爆後障害医療研究所所長から両拠点についての 紹介が行われました。 さらに特別講演として、前 WHO 西太平洋事務局長で、 自治医科大学教授である尾身茂先生が、 「健康と文明 −長崎大学に期待するもの−」と題して特別講演を行い ●長崎大学グローバル COE セミナー 「地球と人間の健康安全保障 世界トッ プレベル拠点を目指して」 平成2 1年4月1 8日!、東京都江東区の東京国際交流館 プラザ平成において、長崎大学グローバル COE セミ ナー「地球と人間の健康安全保障世界トップレベル拠点 を目指して」を開催しました。これは、長崎大学の2つ のグローバル COE 拠点である「熱帯病・新興感染症の 0 8 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University ました。最後に質疑応答となり、両拠点に対しての活発 な質疑応答が行われました。 Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases ●Environmental and Health Challenges −Academie Des Sciences−JSPS Workshop 平山 謙二 プログラム −2 8May2 0 0 9− ・Welcome address J-F. Bach-(Permanent secretary Académie des Sciences) J-L. Binet-(Permanent secretary of Nat. Acad. Medicine) G. Laval-(Foreign secretary Académie des Sciences) Y. Nakatani-(Head of JSPS Strasbourg office) K. Hirayama-(Dean, Institute of Tropical Medicine, Nagasaki University) ・Global Environmental Issue (Climatic changes-global impact on environment) M. Petit-(General Council of computers technologiesmember of the Committee on environment) ・Environmental Impacts on Infectious Diseases −Vector Ecology M. Schwartz-(Former director general of Pasteur Institute) 2 0 0 9年5月2 8日と2 9日の二日間フランス科学アカデ N. Minakawa-(Nagasaki Univ.) ミーにおいて日仏合同で先端学術交流のワークショップ M. Kobayashi-(Nat. Inst. of infectious Diseases) が開かれました。今回は感染症のみにとどまらず、環境 F. Rodhain-(Pasteur Institute) と健康について多方面から専門家を招いての開催でした。 長崎大学からは拠点リーダーの平山謙二が Co-Chair を つとめました。発表者としては皆川昇博士が感染症に対 する環境の影響について講演しました。また、中込治博 ・Environment and Neglected Disease A. Capron-(Former director of Pasteur Institute-Lille) ・Urbanization-Water Hygiene and Sanitation G. de Marsily-(P. and M. Curie Univ and Ecole des 士と、山本太郎博士が座長をつとめ、会を盛り上げまし た。ワークショップの最後に F. Gros 博士より、次回は 脳科学をテーマにしてはどうかとの提案などもあり、学 術的・文化的に親睦を深め盛会の内に幕を閉じました。 Mines Lab. of applied geology-(CNRS) D. Sano-(Hokkaido Univ) ・Air Pollution and Respiratory and Cardiovascular Diseases K. Ueda-(National Institute for Environmental Studies) M. Aubier-(Head of pneumology Dept. -Hôpital Bichat) F. Moisan-(Science director of ADEME) −2 9May2 0 0 9− ・Environment-Cancers-Chronic Diseases N.Yamaguchi-(Tokyo Women’s Medical College) G. Lenoir-(Research director, IGR, Institut G. Roussy) ・Epidemiology A-J.Valleron-(Pierre and Marie Curie Univ.) ・Genes and Environment 前パスツール研究所所長 Dr. Andre Capron とともに J-F. Bach (Secrét. Perpétuel Académie des Sciences) ・Concluding Remarks Y. Nakatani-K. Hirayama-M. Schwartz-J.L. BinetG. Laval-F. Gros 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 0 9 基礎研究班 分子疫学的手法に基づくウイルス性胃腸炎の 実態解明とその制御戦略への展開 医歯薬学総合研究科 中込 ●背 感染免疫学講座 分子疫学 治 景 感染症法に基づく感染症発生動向調査によれば、5類 ●われわれの研究グループの アプローチ 感染症である感染性胃腸炎は、全国約3 0 0 0ヶ所の小児科 ロタウイルスやノロウイルスによる感染症を克服する 定点からの報告数がもっとも多い感染症である。感染性 手段を追求するにあたり、長崎大学のグローバル COE 胃腸炎は、嘔気、嘔吐、下痢、発熱、腹痛などを主症状 プログラムの基本方針に準拠して、3つの歯車によるア とする症候群である。多くの病原体がその原因となりう プローチを取っている(図2) 。基礎研究とは、科学的 るが、大部分はウイルスによるものである。胃腸炎を起 な謎を解明することによるアプローチであり、研究グ こすことが確立しているウイルスには、ロタウイルス ループでは、 「ロタウイルスどうやって自然免疫を回避 rotavirus(図1) 、ノロウイルス norovirus、アデノウイ しているか」という点に光を当てて取り組んでいく。第 ルス adenovirus(4 0, 4 1型) 、サポウイルス sapovirus、 二の歯車、あるいは中心となる歯車は、医薬品であるワ アストロウイルス astrovirus の5種類のウイルスがある。 クチンの開発である。これは、理論的に理想の2価ワク これら5つのウイルスが起こす胃腸炎は、好発年齢(乳 チンを海外の拠点(ベトナム)との共同研究により開発 幼児か成人か) 、発生状況(散発性か集団発生か) 、重症 するものである。また、現在、世界の1 5 0カ国以上で承 度などの点に特徴がある。これらのウイルスの中で医学 認され、定期接種に導入されはじめているロタウイルス 的にもっとも重要性が高いのは、もっとも高頻度にみら ワクチンについて、さまざまあるロタウイルスの血清型 れるロタウイルスとノロウイルスである。 が起こす下痢症に効くのかどうかが問題であり、これを 海外のフィールド(ブラジル・ネパールなど)を活用し て行う学術調査によって明らかにする。 図1:美しい2重殻構造をもつロタウイルスの電子顕微鏡写真 図2:ロタウイルスやノロウイルスによる感染症を克服するための3つの歯車 によるアプローチ 細菌性の経口感染症のほとんどが、先進工業国では問 ウイルスの生物学的な性質が解明され、有効なワクチ 題にならない程度にまで減少したのに、なぜ、ロタウイ ンが開発されても、それだけで社会から病気が根絶され ルスやノロウイルスは現代社会の中に広く浸透していて るわけではない。医学的に有効な予防や治療の手段を実 衰えを見せないのだろうか。私たちの研究グループでは、 際の社会の中で実現していく社会技術の開発が必要であ 胃腸炎ウイルスがどのように社会や自然界を行き来して る。換言すれば、社会への応用に関する研究が必要にな いるのか、その実態を解明することこそ制御戦略上重要 る。このような方面からのアプローチの一つとして、ロ であると考えている。このような認識から、分子疫学的 タウイルスワクチンが日本の社会の中に導入された場合 手法を駆使して、ロタウイルスやノロウイルスによる感 にどのような効果が出現するかをコンピュータによりシ 染症を克服する手段を追求する。 ミュレーションする方法がある。 1 0 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases ●ロタウイルスワクチンの 実地での効果を確認! 世界の1 0 0カ国以上で承認され、1 2カ国、1 0 0 0万人以 上を対象として乳児全員への接種が開始されているロタ ウイルスワクチンであるが、わが国では承認申請もまだ なされていない状態である。そのため、ロタウイルスワ クチンが患者の減少につながるのかどうか、また、流行 図4:ロタウイルスワクチン使用直後の3ヶ月間とその1年後の3ヶ月間における ロタウイルス下痢症患者の減少 している野生株にどういう影響をあたえるかなどの研究 は海外に共同研究者を求めて、海外のフィールドで調査 を行わなければならない。 そこで、われわれは、ブラジル東北部のレシフェ(人 口1 5 0万人) にあるこの地域最大の小児病院を定点として、 5歳未満の下痢症患者から糞便検体を採取することによ り調査を開始した。中間調査はワクチンの定期接種が始 まった2 0 0 6年3月から2 0 0 7年5月までの1 5ヶ月間である。 ブラジルで得た臨床材料を解析することにより、この 地では、病院で点滴補液療法を受けなければならない5 歳未満の重症下痢症に占めるロタウイルスの割合がワク チン開始後1年で、2 7%から5%に激減したことがわ かった。 (図3、図4) 図5:ロタウイルスワクチンが未使用(赤)、任意接種として導入された場合(緑) および定期接種に導入された場合(青)、年間100 0人が生まれる日本の仮想的都市 に発生する5歳未満のロタウイルス下痢症による入院患者数の分布。ロタウイルス ワクチンが定期接種に導入されてはじめて明確な患者数現象が出現する。 ●ロタウイルスワクチンを 実施した場合の効果を予測! ●グローバル COE と人材育成 ロタウイルスワクチンが日本の社会の中に導入された 高い学術的な価値をもつ知的情報を生産し、論文の形 場合にどのような効果が出現するのだろうか。これをコ でこれを公表することによって科学の進歩に貢献するこ ンピュータによりシミュレーションしたのが図5である。 とが長崎大学のグローバル COE の目指すところである。 しかし、同時に、この過程を通して、将来この領域を支 える新しく有為な人材の育成も目指している。われわれ の研究グループでも3人の大学院生が活躍しているが、 長崎大学と学術交流協定を締結しているリバプール大学 やブラジルのフィゲイラ教授記念総合医学研究所の研究 者や大学院生も研究に関与している。 図3:ブラジルで使用されている単価ロタウイルスワクチン ●発表論文 1)Naghipour M, Nakagomi T, Nakagomi O: Issues with reducing the rotavirus-associated mortality by vaccination in developing countries. Vaccine 26: 3236-3241, 2008. 2)Nakagomi T, Cuevas LE, Gurgel RG, Elrokhsi SH, Belkhir YA, Abugalia M, Dove W, Montenegro FM, Correia JB, Nakagomi O, Cunliffe NA, Hart CA: Apparent extinction of non-G 2 rotavirus strains from circulation in Recife, Brazil, after the introduction of rotavirus vaccine. Arch Virol 153: 591-593, 2008 3)Kheyami AM, Nakagomi T, Nakagomi O, Dove W, Hart CA, Cunliffe NA: Molecular epidemiology of rotavirus diarrhea among children in Saudi Arabia: first detection of G 9 and G 12 Strains. J Clin Microbiol 46: 1185-1191, 2008 4)Nakagomi T, Correia JB, Nakagomi O, Montenegro FM, Cuevas LE, Cunliffe NA, Hart CA. Norovirus infection among children with acute gastroenteritis in Recife, Brazil: disease severity is comparable to rotavirus gastroenteritis. Arch Virol 153: 957-960, 2008 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 1 1 基礎研究班 プリオンの感染増殖機構および プリオン病の病態解明 医歯薬学総合研究科 感染免疫学講座 感染分子解析学 西田教行 ●背 景 プリオン病は人、羊、ウシ、鹿などに見られる致死性 の神経変性疾患であり、かつ伝達性の疾患である。その 病原体はプリオンと呼ばれるおそらくタンパク質のみで 構成される感染性粒子と考えられている。1 9 8 0年代に英 国で発生した BSE(ウシ海綿状脳症)のアウトブレイ ク、1 9 9 6年に認知され BSE 由来と思われる変異型クロ イツフェルト・ヤコブ病(vCJD)が世界各国で発生し、 社会問題とされてきた。またヒト由来の生物製剤のひと つであった保存硬膜を使用したことによる医原性 CJD は圧倒的に本国において多くの犠牲者を出した。 本研究ではプリオンの実体解明、その細胞への感染機 序、細胞内での増殖メカニズム、そして神経細胞死を引 き起こす病態の解明を目標としている。その本質的問題 の解明が新たな治療法開発、早期診断法開発につながっ ていくと考えている。 (西田) ●蛋白単独犯仮説は証明しうるか プリオン病では、正常型プリオン蛋白(PrPc)の構 造変換によって生じる異常型プリオン蛋白(PrPSc)の 脳内蓄積が、病態の主要因として考えられているが、そ のメカニズムは明らかとなっていない。プリオンの増幅 機構を解明するべく、これまで、試験管内でリコンビナ ント PrP(rPrP)を用いた異常型 PrP の作製が試みら れ、アミロイド線維形成に成功している。しかし、これ らアミロイド線維には感染性が認められず、人為的に作 製された異常型 PrP が、本来のプリオンとは異なる事 が示唆されている。 細胞内の PrP はエンドソームやリソソームなどの酸 性顆粒に局在しており、これらオルガネラの pH が PrP 図1:アミロイド線維形成における pH の影響。異なるプリオン株を異なる pH 条 件下でアミロイド繊維形成反応を行った。アミロイド線維形成の有無は、アミロイ ドプローブである thioflavin−T を用いてリアルタイムで検出した。 1 2 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University の立体構造や異常型 PrP への構造変化に強く影響を及 ぼしていると考えられる。そこで、異なる pH 条件下で アミロイド線維形成反応を行った。アミロイド線維の形 成は pH によって強く影響を受け、異常型 PrP への変 換効率が異なる事が示された(図1) 。さらに、これら アミロイド繊維の Proteinase K(PK)切断パターンや二 次構造を解析すると、pH によって異なるパターンを示 した。今後、これらの構造の異なるアミロイド繊維の感 染性を検証し、蛋白単独犯仮説の最終証明にチャレンジ していくと同時に蛋白以外の感染性に必須の因子の存在 を想定して、その検索を行う。 (佐野) ●プリオンの生物学的多様性と 細胞指向性 プリオンには、ウイルスや細菌等と他の病原微生物同 様に“株”が存在する。株は潜伏期、病理像、臨床症状 など特徴的な表現型として定義されているが、その分子 機構については不明である。 我々はこれまでに種々の神経細胞を用いて in vitro で の感染実験を行った結果、株によって神経細胞の選択性、 すなわち細胞指向性がある事を見出した。また持続感染 細胞では蓄積する PK 耐性 PrP(PrPres)の PK 切断パ ターンや PK 抵抗性がマウス脳内の PrPres とは大きく 異なっている事がわかった。さらに PrPres あたりの感 染価を比較すると、持続感染細胞は非常に少量の PrPres で脳内と同等の感染性を有することがわかった。これら 結果は、PrPres のみを単純に病原体本体とするプリオ ン仮説では説明できず、PK 感受性―感染性 PrP が存在 するのか、脳内の異常型 PrP はほとんどが非感染性凝 集体であると思われる。 図2:PrP、PrPres の分画。感染細胞の上清を密度勾配遠心法により分離した。各 分画の PrP、PrPres を WB で解析した。 Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases そこで持続感染細胞の培養上清を用いてプリオンの精 製を試みた。培養上清を分子密度の違いによって分離す ると、PrPres ならびに感染性は、いくつかの分画に別 れて検出された(図2) 。これらの結果は“プリオン” が異なる構造物として存在している事を示唆し、今後構 造解析を含め、詳細に解析する事でプリオンの真の姿に 迫りたいと考えている。 (布施) ●プリオン蛋白の機能と神経細胞死 正常型 PrP の機能や異常型 PrP による神経変性作用 がどのような分子機構によって制御されているかは不明 なままである。 我々は免疫沈降法および FRET assay を用いて、Ca2+ 動員性受容体である mGluR1と PrPC あるいは mGluR 1と PrP のホモログである Dpl が結合しうる事を見い だした。また、Dpl が Ca2+動員性受容体の脱感作を抑 制し、細胞内 Ca2+濃度の持続的な上昇を引き起こす事 を見出した。これらの事から PrP やそのホモログは、 mGluR1と協調し、細胞内 Ca2+濃度を調節している事 が考えられる。また、過度の細胞内 Ca2+濃度の上昇は 細胞死のメカニズムの一つであり、PrP ノックアウトマ ウスでは、この mGluR1が豊富に発現しているプルキ ンエ細胞が脱落していることから、mGluR1と PrP の 相互作用が破綻することで神経細胞の変性死が誘導され るのかもしれない。 今後、mGluR1と PrP の相互作用の有無が、細胞内 Ca2+濃度にどのような影響を与えているか、また持続 感染細胞において、この結合や細胞内 Ca2+濃度がどの ように変化するのかを詳細に解析する事で、プリオン病 における神経細胞死のメカニズムを明らかにして行く。 (松原) 図2:mGluR1と PrP、Dpl の結合。mGluR1と PrP 又は Dpl の結合を FRET によ り解析した。 ●異常プリオン蛋白の分解過程解明 PrPc および PrPSc の代謝経路については今日まで 様々な議論があるが解明にまでには至っていない。通常、 蛋白質の代謝メカニズムとしては proteasome を介した 選択的蛋白分解のユビキチン−プロテアソーム系と lysosome を介した非選択的 bulk 分解のオートファジー 系と大きく2つの様式に大別される。 我々は PrPSc の細胞内蓄積が蛋白代謝経路障害によ り引き起こされると考え、当研究室で樹立した異なるプ リオン株由来のプリオン持続感染細胞(2 2L、Ch、FK) を用いて、PrPSc 蓄積における proteasome inhibitor お よび autophagy inhibitor and stimulator の影響について 検討した。現在、株間によって PrPSc の代謝様式が異 なるという興味深い結果を得ており、更なる解析(signal cascade など)を行っている。これらの研究を遂行 することにより、プリオンの細胞内代謝機構が明らかと なればプリオン病の治療薬研究へとさらに発展できる新 たな視点を得るものと期待している。 (石橋) ●研究発表 ■論文 1)Takakura Y, Yamaguchi N, Nakagaki T, Satoh K, Kira J, Nishida N. Bone marrow stroma cells are susceptible to prion infection. Biochem Biophys Res Commun. 2008 Dec 19; 377(3): 957-61 2)Mouillet-Richard S, Nishida N, Pradines E, Laude H, Schneider B, Feraudet C, Grassi J, Launay JM, Lehmann S, Kellermann O. Pri´ ons impair bioaminergic functions through serotonin-or catecholamine-derived neurotoxins in neuronal cells. J Biol Chem. 2008 Aug 29; 283(35): 23782-90. 3)Yoshikawa D, Yamaguchi N, Ishibashi D, Yamanaka H, Okimura N, Yamaguchi Y, Mori T, Miyata H, Shigematsu K, Katamine S, Sakaguchi S. Dominant-negative effects of the N-terminal half of prion protein on neurotoxicity of prion protein-like protein/doppel in mice. J Biol Chem. 2008 Aug 29; 283(35): 24202-11 ■シンポジウム講演・学会発表 1.Noriyuki Nishida, The Japan-Korea Joint Seminar (AACL 2008), 2008, Huis Ten Bosch, Nagasaki, Japan 2.Noriyuki Nishida, The 3 rd Nagasaki Symposium-The 9 th Nagasaki-Singapore Medical Symposium, 2008. Ryojun Hall, Nagasaki University, Nagasaki, Japan 3.新竜一郎、布施隆行、第5 6回日本ウイルス学会、2 0 0 8年、岡山 4.中垣岳大、祖母井香織、プリオン研究会、2 0 0 8年、北海道 5.中垣岳大、ウイルス学会地方会、2 0 0 8年、熊本 6.松原岳大、第82回日本薬理学会、2 0 0 8年、横浜 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 1 3 基礎研究班 サルモネラ・エントロキシンの多型と 下痢原性発現機構 熱帯医学研究所 細菌学 平山壽哉 ●背 景 サルモネラ属菌は分類学的に2菌種、6亜種からなり、 2 5 0 0種以上の膨大な血清型に分類されている菌群である。 ● stn 遺伝子の分布及び Stn タンパク質の発現性 PCR 法を用い、様々な菌株における stn 遺伝子の分 この中でヒト及び家畜に対して病原性を示すものはごく 布を検討したところ、調査を行った全てのサルモネラ属 一部であるものの、サルモネラ感染症は血清型 serovar 菌株(5 8血清型5 4 2株:熱帯地方での臨床分離株を含む) Typhi 及び serovar Paratyphi A 感染により引き起され において stn 遺伝子の存在が確認された。しかしなが る重篤なチフス症(全身感染症)や serovar Enteritidis ら、他の腸内細菌科の菌種においては stn 遺伝子の存 や serovar Typhimurium に代表される食中毒原因菌の感 在は認められず、stn 遺伝子がサルモネラ属菌に特異的 染により引き起される非チフス性サルモネラ症(腸管感 な遺伝子である事を明らかにした。一方で、Stn タンパ 染症)まで多岐にわたっている。この中で、非チフス性 ク質の発現を検討するために、Stn のアミノ酸配列から サルモネラ症は世界的に最も多い食中毒であり、熱帯地 エピトープと思われる2カ所を選び、それらのペプチド 方を含む発展途上国のみならず、先進国においてもしば を合成した。これら2種類の合成ペプチドを抗原として しば大きな問題となる。 用いて2種類の抗 Stn ペプチド抗体を作製し、Stn に対 サルモネラ属菌感染の分子機構に関しては、本菌の標 する sandwich−ELISA 系を構築した。この系を用いて 的細胞に対する侵襲性について世界中で詳細な解析が行 サルモネラ属菌の Stn タンパク質の産生性を比較した われてきた。すなわち、サルモネラ属菌は腸管内で細菌 ところ、stn 遺伝子の分布とは異なり、Stn タンパク質 固有の分泌装置(III 型分泌装置)を介してエフェクター の産生性には菌株間での相違が見られた。後述の様に、 と呼ばれる病原因子群を標的細胞内に注入し、標的細胞 Stn タンパク質は細胞毒性を持つので、サルモネラ属菌 の機能撹乱により細胞骨格の構造変化を誘導して、能動 の病原性を考える上で Stn タンパク質の産生性が菌株 的に細胞内に侵入する。この標的細胞侵襲性は感染成立 間で異なる事実は非常に興味深い。我々の現在までの調 において重要なステップであるものの、サルモネラ属菌 査で、stn 遺伝子には多型性が存在し、更に Stn 高産生 により引き起される下痢症状との直接的な関連性は明ら 株と低産生株ではその遺伝子配列に違いがある事が分 か に さ れ て い な い。一 方 で、1 9 9 4年 に は serovar Ty- かっている。stn 遺伝子の多型性及び Stn 産生性と病原 phimurium の染色体 DNA 上にコレラ毒素や毒素原性大 性の相関は今後の解析課題として重要である。また、現 腸菌の易熱性エンテロトキシンの A サブユニットと ho- 在、stn 遺伝子欠失株を作成中であり、stn 遺伝子欠失 mology のある遺伝子(Salmonella enterotoxin; stn )が および同株に対する stn 遺伝子のコンプリメンテー 報告された。しかし、Stn のサルモネラ症、とくに本菌 ションによる病原性の変化の検討も今後の課題である。 が引き起こす下痢症における役割は全く解明されていな い。 我々はサルモネラ属菌の病原性を分子レベルで解き明 かす事を目的として、Stn の下痢原性の解明を行ってい る。 ●Stn タンパク質の細胞毒性 Stn の病原性を分子レベルで解明するためには、菌体 を用いた解析に加え、精製 Stn タンパク質を用いた解 析が必須である。我々はタイ王国の下痢患者より分離さ 1 4 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases れた serovar Enteritidis 株の菌体破砕上精より各種カラ ある serovar Enteritidis 株(タイ王国の下痢患者由来) ムクロマトグラフフィーを連続的に用いて Stn タンパ に導入した。この形質転換株の Stn タンパク質産生性 ク質の精製を試み、SDS−PAGE 後の銀染色において が親株に比べ上昇している事より、本形質転換株は Stn Stn を含む2本のバンドを示すまでの精製に成功した。 タンパク質の精製に対して有用な菌株であると考えている。 この精製 Stn および粗毒素画分の培養細胞に対する毒 性を評価したところ、Stn の添加により細胞質の消失と 本研究で扱う Stn は上述の様に1)サルモネラ属菌 核の萎縮を伴う形態学的変化の誘発を認め(図) 、この 特異的に存在する遺伝子であり、2)菌株間でその産生 活性が抗 Stn ペプチド抗体により中和されることを確 量に差が見られ、更には3)細胞毒性をもつ事から、サ 認した。 ルモネラ属菌の病原性において重要な役割を担う事が示 残念ながら上記の精製法により得られる Stn タンパ 唆される。本研究により Stn の構造及び活性と下痢原 ク質の回収率は非常に低く、今後予定している細胞毒性 性の相関が明らかとなれば、サルモネラ感染症の予防、 試験や結紮腸管を用いた下痢原性の証明に資するには不 治療およびワクチン開発の立案に役立つ事が期待される。 十分である。我々は現在、精製法を改良し精製 Stn 標 更に、これまでに明らかにされている侵襲性にかかわる 品を迅速かつ大量に獲得する方法を検討している。現在 因子群との関連を究明する事で、サルモネラ属菌の感染 までに、出発材料中の Stn タンパク質の増量を目的と から下痢症発症までの分子レベルでの理解がすすむもの して、stn 遺伝子を挿入したプラスミド DNA を親株で と考える。 図の説明 培養細胞に対する Stn タンパク質の毒性:粗製製 Stn 画分を作用させた CHO 細胞のギムザ染色像(B) 。細胞質の 消失と核の萎縮が観察される。コントロールとして PBS 処理細胞を用いた(A)。 ●この研究の発表 ■学会発表 Yamasaki E., Hoshi H., Seto Y., Chongsa-nguan M., Chicumpa W., Nair G. B., Makino S.-I., Hirayama T., Kurazono H.. Purification and 0 8. 1 1. 福岡)にて発表 characterization of Salmonella enterotoxin.日米コレラ会議(20 山崎栄樹、星英之、牧野壮一、平山壽哉、倉園久生。 Salmonella enterotoxin (Stn)精製法の確立及び細胞毒性解析。日本細菌学会 総会(2009.3.名古屋)にて発表 ●共同研究者 倉園久生教授、山崎栄樹助教(帯広畜産大学) Wanpen Chaicumpa 教授(マヒドール大学医学部、タイ) Manas Chongsa-nguan 准教授(マヒドール大学熱帯医学部、タイ) G. B. Nair 所長(国立コレラ及び関連下痢症研究所、インド) 中山真彰、久恒順三(長崎大学) 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 1 5 基礎研究班 マラリア原虫の宿主細胞への 侵入機構とその制御 熱帯医学研究所 金子 ●背 原虫学 修 景 マラリアは世界で年間3−5億人の感染者、1 0 0万人 以上の死者を出す重大な原虫感染症である。ヒト体内で は、メロゾイトと呼ばれる細胞侵入型原虫が赤血球へ侵 入し、2―3日毎に分裂して形成された8∼2 4のメロゾ イトが感染赤血球を破壊して血流中に出現し、新たな赤 血球に再侵入することにより増殖する。メロゾイトは赤 血球に侵入する際に、マイクロネームやロプトリーと いった細胞内小器官から赤血球認識リガンドなどを含む 内容物を放出する。感染成立には、原虫リガンドが赤血 球受容体を認識することが必要であるため、原虫リガン ドは増殖阻害ワクチンの標的と考えられ、また、原虫リ ガンドを活性化したり、侵入後に赤血球受容体と結合し た原虫リガンドを切断したりするための種々の原虫酵素 は創薬の標的となる。本研究課題では、マラリア原虫の 赤血球認識リガンドについて、個々の原虫における機能 分子としての役割を分子細胞生物学的に、また、マラリ ア流行地でヒト免疫にさらされながら進化してきた抗原 分子としての役割(多型による免疫回避など)を集団遺 伝学的に解析することで、マラリア感染成立のメカニズ ムの一端を明らかにすることを目的とする。 ●マラリア原虫リガンド EBL の 1アミノ酸置換により病原性が ドラマチックに変わる 西アフリカに住む多くの人たちの赤血球表面ではダ フィー血液型抗原と呼ばれる三日熱マラリア原虫メロゾ イトに対する受容体が欠損しており、その結果、三日熱 1 6 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University マラリアにはかからない。ダフィー血液型抗原を認識す る分子は PvDBP と呼ばれており、三日熱マラリアワク チン開発の標的分子として研究が進められている。三日 熱マラリア原虫は長期培養ができないため、実験室レベ ルでのモデルとして、ネズミマラリア原虫 Plasmodium yoelii に着目して PvDBP の相同体 PyEBL の解析を進 めていたところ、BALB/c マウスに対する非致死株と致 死株との間で、細胞内での局在を決定すると提唱されて いた部位でアミノ酸が一か所だけ異なっていることを見 出した。特異抗体により PyEBL の局在を両者で比較し たところ、非致死株では他のマラリア原虫の相同体で報 告されているように PyEBL はマイクロネームと言う細 胞内小器官に局在していたが、致死株ではデンス・グラ ニュールと言う異なる細胞内小器官に局在していた。そ こで、遺伝子改変の手法により致死株の PyEBL を非致 死株型にアミノ酸配列を変えると、PyEBL の局在はデ ンス・グラニュールからマイクロネームに変化し、病勢 も非致死株と同等レベルまで低下し、マウスは死ななく なった。一方、非致死株の PyEBL を致死株型に置換す ると PyEBL の局在はデンス・グラニュールに変化し、 病勢も増加したが、マウスは死ななかった。このことは、 PyEBL は両者の間での病勢の差を規定する主要な因子 であるが、致死株で見られる病勢には PyEBL に加えて、 別の因子も関与していることを示唆する。1 9 7 0年代に致 死性の原虫株が見出され以来、多くの研究がなされたに も関わらず、病原性決定因子は明らかにされなかったが、 本研究により、それをついに明らかにすることができた [2] 。一方、チームメンバーのカレトン助教は、増殖 速度と病原性の異なる2株のネズミマラリア原虫の遺伝 子交配株の作成し、遺伝学的に増殖速度決定因子(病原 Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases 性決定因子)の同定を試み、強く関連するゲノム領域を 同定していたが、上記の情報を共有した結果、PyEBL 遺伝子座が同定したゲノム領域に存在し、原虫の増殖速 度と1 0 0%相関することを見出し[3] 、二つの異なる研 究の結果がマッチした。三日熱マラリア原虫は幼若赤血 球にのみ侵入するため病原性が低いが、本研究で見出さ れたようなアミノ酸置換が起きた場合、ネズミマラリア 原虫と同様に病原性が増す可能性が否定できないため、 PvDBP を標的とするワクチン開発は注意を要する。 ●原虫感染赤血球表面と メロゾイト表面に局在する SURFIN は著しく多型である SURFIN は2 0 0 5年に報告された熱帯熱マラリア原虫の リガンド候補分子である[1] 。熱帯熱マラリア原虫の ゲノム上には1 0のメンバーが存在するが、ヒト免疫にさ らされ防御免疫の標的となる原虫分子は多型を示すため、 1 0の SURFIN メンバーの細胞外領域と考えられる部位 について、5つの実験室内株を用いて、どの程度の多型 を示すのかを検討した。その結果、程度の差はあるが、 全てのメンバーが多型であることを見出した。このこと は、全てのメンバーがタンパク質として発現し、ヒト免 疫にさらされている可能性を示唆する[4] 。メンバー の一つである SURFIN4.2の多型について、タイのマラリ ア流行地から短期間に採取した3 0株以上の熱帯熱マラリ ア原虫株を用いて、集団遺伝学的解析を行ったところ、 細胞外領域全体にわたって、多様性を増す正の選択圧が 検出された。しかし、N 末端側の Cys 残基に富み、メ ンバー間で良く保存されている領域(CRD)の多型は、 それに続く、メンバー間で多様化している領域(多様化 領域)に比べて少なく、CRD には機能的な制約がかかっ ている可能性が示唆された[5] 。 熱帯熱マラリア原虫の感染赤血球は PfEMP−1と呼 ばれる多重遺伝子族にコードされる原虫リガンドを用い て、脳の末梢血管内壁に接着したり、未感染の正常赤血 球に接着する(ロゼット形成)ことで昏睡などの重篤な 症状を引き起こす。一方、三日熱マラリア原虫感染赤血 球もロゼット形成を起こし生物学的に重要な機能を担っ ていると考えられているが、そのゲノム上には PfEMP −1相同体は存在しない。かわりに、SURFIN と似た 構造をもつ PvSTP や VIR と呼ばれる分子が3 0 0以上も 存在するのである。本チームでは、SURFIN 関連分子 の生物学的な役割を明らかにすべく、分子細胞生物学的 な解析を開始している。 ●参考文献 1)Winter G, Kawai S, Haeggstrom M, Kaneko O, von Euler A, Kawazu S, Palm D, Fernandez V, Wahlgren M. 2005. SURFIN is a polymorphic antigen expressed on Plasmodium falciparum merozoites and infected erythrocytes. J. Exp. Med. 201: 1853-63. ●この研究の発表 ■論文 2)Otsuki H, Kaneko O, Thongkukiatkul A, Tachibana M, Iriko H, Takeo S, Tsuboi T, Torii M. Single amino acid substitution in Plasmodium yoelii erythrocyte ligand determines its localization and controls parasite virulence. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. (in press) 3)Pattaradilokrat S, Culleton RL, Cheesman SJ, Carter R. Gene encoding Erythrocyte Binding Ligand linked to blood stage multiplication rate phenotype in Plasmodium yoelii yoelii. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. (in press) ■学会発表 4)Tang J, Yahata K, Torii M, Kaneko O. 2009. The diversity of the extracellular domains of Plasmodium falciparum SURFIN family proteins; evidence for positive diversifying selection. 第78回日本寄生虫学会大会、東京 5)Kaewthamasorn M, Yahata K, Alexandre JSF, Nakazawa S, Torii M, Sattabongkot J, Udomsangpetch R, Kaneko O. 2008. Positive diversifying selection on Plasmodium falciparum SURFIN4.2" XVIIth International Congress for Tropical Medicine and Malaria, Jeju, Korea. 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 1 7 基礎研究班 マラリア感染における 宿主T細胞免疫応答の解析 医歯薬学総合研究科 感染免疫学講座 免疫機能制御学 由井克之 ●背 景 が知られている。このような分子から標的となる防御抗 原が明らかになれば、ワクチン候補抗原の巾は大きく広 がると考えられる。しかしながら、赤血球内や原虫細胞 質内に発現される原虫蛋白が防御免疫の標的になりうる のか、また感染の各ステージに於いてどのような免疫応 答がエフェクターとして有効なのかについては、これま で明確な解析はなされていなかった。 マラリア感染において、免疫系は防御ばかりではなく、 組織傷害の原因となっている可能性も指摘されている。 マラリア重症化の主要な原因のひとつである脳マラリア では、CD8+T細胞が発症に深く関わっていることが示 されている。即ち、マラリア感染においてT細胞は「諸 刃の剣」の役割を演じており、その活性制御は極めて重 図1:ハマダラカ 要な課題である。 マラリアは、ハマダラカに媒介され、年間患者数2∼ 我々は、有効なマラリアワクチンの開発に最終目標を 3億人、死者1 0 0∼2 0 0万人といわれ、世界的に最も重要 見据えつつ、マウスマラリアの実験系を用いて基礎的な な感染症のひとつであるが、未だに有効なワクチンは開 研究を進めている。今回、マラリア感染におけるT細胞 発されていない。ワクチン候補抗原の探索は、従来から 機能を解析するための新たな実験モデルを開発し、赤内 患者血清(抗体)を用いて行われており、そのために主 型マラリア感染における CD8+T細胞の活性化と脳マ として原虫表面に発現される分子のみがワクチン候補抗 ラリア発症における役割について解析した。 原として採り上げられてきた。しかしながら、感染防御 の主役の一角を担うT細胞は、細胞内部の抗原でも検出 し、攻撃することができる。例えばマラリア感染におい ても肝細胞期の原虫排除はT細胞により行われるし、赤 血球期の防御でもT細胞は重要な役割を担っていること ●モデル抗原を発現する 組換えマラリア原虫の開発 モデルマラリア抗原として、免疫学でよく用いられる 卵白アルブミン(OVA)を用いた。OVA の遺伝子を含 むプラスミドをマウスマラリア P. berghei ANKA 株に 導入し、ラットに感染させて耐性遺伝子 DHFR−ts を 有する組換え原虫をピリメサミンで選択後、マウスを用 いて原虫のクローニングを行った(三重大学・油田教授 との共同研究) 。 抗原発現部位を原虫抗原が発現される様々な部位に ターゲットするため、!原虫細胞内発現、"メロゾイト 表面発現、#感染赤血球表面発現、$感染赤血球内発現 などの様々な遺伝子コンストラクトを作成し、組換え原 虫を作成して発現を調べた。しかしながら、最終的に発 現が確認されたのは原虫細胞内発現の組換え原虫のみで 図2:マラリア原虫赤内型 1 8 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University あった。 Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases ●モデル実験系を用いた マラリア赤内型感染病態の 解析:赤内型抗原特異的 CD8 T細胞の活性化 ●脳マラリア発症における マラリア特異的 CD8 T細胞の関与 + + 組換え遺伝子の発現を確認した後、赤内型マラリア感 + 熱帯熱マラリアでは、脳マラリア発症が重症化の主要 な原因である。P. berghei ANKA 株でもマウスに脳マ 染における宿主 CD8 T細胞の免疫応答に関して、以 ラリアが発症すること、そこには CD8+T細胞が関与 下の実験系を樹立して研究を進めた。 することが知られている。そこで、OVA 組換えマラリ 1.T細胞受容体トランスジェニックマウス OT−1の ア原虫モデルにおける脳マラリア発症機構についても検 + CD8 T細胞を精製し、CFSE ラベル後 C5 7BL/ 討した。 6マウスに移入した。 1.OT−I 細胞移入マウスでは、OVA 発現マラリア感 染により活性化し激しく増殖した OT−I 細胞が、 優先的に脳に集積していた。しかしながら脳マラリ アによる死亡時期は野性型マラリア原虫感染時と変 わりなかった。 2.適応免疫系として OT−I 細胞のみを有する OT−I/ Rag KO マウスを用いた感染実験を行った。野性型 原虫感染では脳マラリア等発症せず、高い原虫血症 にも関わらす長期間生存した。一方、OVA 発現マ 図3:OT−1受け身移入実験 ラリア感染時には、原虫血症が低い感染早期に死亡 2.組換え原虫或いはコントロール野性型原虫を感染 したが、明確な脳マラリア症状は観察されなかった。 させ、原虫血症上昇後脾T細胞の細胞表面分子のフ このことから、赤内型抗原特異的に活性化された ローサイトメーター解析、CFSE による細胞分裂の CD8+T細胞が宿主の病態悪化に働くことが明らか 評価、細胞内染色によるサイトカイン発現、細胞傷 となったが、脳マラリア発症に直接関与するか否か 害性T細胞活性等の機能解析を行った。赤内型マラ は今後の研究に待たれる。 + リア抗原特異的 CD8 T細胞が活性化され、細胞 傷害性T細胞に分化することが明らかになった。ま た、抗原非特異的 CD8+T細胞も弱いながら一部 活性化された。 ●結 語 モデル抗原を用いた赤内型マラリア原虫感染において 3.赤内型抗原の抗原提示機構については、TAP (trans- 特異的T細胞、非特異的T細胞の活性化とそれらの病態 porter of antigen presentation)遺伝子ノックアウ への関与が明らかになった。マラリアに対する免疫応答 トマウスを宿主として用いることにより評価した。 は、防御と共に病因としても機能し、 「諸刃の剣」であ + マラリア抗原特異的 CD8 T細胞活性化は、TAP る。マラリア制圧のためには感染時の免疫応答調節機構 分子依存的抗原のクロスプレゼンテーションによる の深い理解が重要である。 ことが明らかになった。 4.抗原非特異的 CD8+T細胞の活性化には、NK 細胞 が関与することが示唆された。 ●この研究の発表 ■論文 Miyakoda, M., Kimura, D., Yuda, M., Chinzei, Y. Shibata, Y., Honma, K., Yui, K. Malaria-specific and non-specific activation of CD 8+Tcells during infection with Plasmodium berghei . J. Immunol., 181(2): 1420-1428, 2008. 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 1 9 フィールド研究班 熱帯地域の新興ウイルスの調査と 迅速検出法の開発 熱帯医学研究所 ウイルス学 森田公一 ●背 おいて収集した種々のコウモリから血液を採取して一部 景 のコウモリの血清中にニパウイルス、SARS ウイルス 近年、これまでに存在が知られていなかったウイルス に対する抗体が存在することを明らかにした(表1) 。 が突発的に流行し、世界的なレベルで健康、経済活動に 今後はコウモリからウイルスを分離してその病原性を明 大きな影響を与えている。また、以前には限られた地域 らかにし、リスク評価を実施する予定である。 で流行していたウイルスが何らかの理由で他の地域に移 動して大きな健康被害を発生させている。熱帯地域の開 発が加速し、ヒトや物の大陸間移動がより増加している 今日、熱帯の動物に生息し病原体となりうる微生物を調 査し、ヒト社会への感染リスクを評価し、加えてその診 ●フィリピンやベトナムの蚊から ユンナンウイルス、バンナウイルス などを分離同定した。 断方法を開発することが重要である。この研究では、ア フィリピン、ベトナムにおける蚊の調査からは大変希 ジアやアフリカにおいて野生のコウモリや鳥、蚊などに 少なウイルスが分離された。たとえばバンナウイルスは 生息しているウイルスを調査し、あわせて網羅的な検出 1 9 9 0年、中国の雲南省で脳炎患者から分離され、1 9 9 3年 技術を開発する一方、危険があると判断されるウイルス にはインドネシアでも自然界の蚊から分離されている。 については高感度な特異的検出技術を開発することも目 しかし、いまだその生態や分布、ヒトの病原体としての 的としている。 重要性については不明のままである。またユンナンウイ ルスはさらに稀なウイルスで中国の雲南省で蚊から分離 されて以来、分離の報告はない。この研究ではフィリピ ●ベトナムのコウモリが ニパウイルスや、SARSウイルスの 抗体を保有している事を確認 ンやベトナムで採取した種々の蚊のなかに生息するウイ ルスを網羅的に解析しているが、この過程で5株のバン ナウイルスと3株のユンナンウイルスがそれぞれベトナ 従来からコウモリは多くのウイルスの保有動物として 知られており、我々も熱帯雨林に生息するコウモリの調 ム北部、フィリピンのルソン島において分離同定された。 このうち、バンナウイルスについては1 2分節のウイルス 査を実施している。2 0 0 8年には長崎大学ベトナム拠点に 図1:バンナウイルスの樹状解析(文献1)ベトナム株は中国の株と近縁な関係に ある。 表1)2008年にベトナムで捕獲されたコウモリのニパウイルスに対する抗体保有状況 Date Place No. of sample Nipah + (%) Megabats Rouseltus leschenaulti 22Feb Hoa Binh 20 5 (25. 0) 2 5Jul Dak Lak 2 0 0 6 ‐ 0 9Mar Dak Lak 29 3 (10. 3) + Cynopterus sphinx 2 5Jul Dak Lak 15 0 2 6 ‐ 2 7Jul Dak Nong 51 0 Microbats Free-tailed bat 0 6 ‐ 0 9Mar Dak Lak 71 0 Unidentified 26Jul Dak Nong 8 0 Free-tailed bat 2 9Aug Hoa Binh 10 0 *; Comprehensive serpositive rate for NIV infection 3/95 (3. 2%). 2 0 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases 遺伝子のうち、1 1分節の全遺伝子配列を解読し中国で分 な微生物については同定できないこともしばしば経験さ 離されたウイルスと比較した。その結果、バンナウイル れた。この問題を解決するため、本研究ではプロテオー スはアジアに広く生息する蚊媒介性のウイルスである可 ム解析手法を用いた網羅的な同定手法の確立をめざして 能性が示唆された。今後さらにアジアにおける詳細な分 いる。図2のように nLC/MS を用いて、ウイルス感染 布を調査する一方で、ヒトの病原体としての重要度を調 細胞培養液をそのまま解析する手法により、1日以内に 査する予定である。バンナウイルスについては迅速な血 ウイルスの同定が可能となった。また網羅的遺伝子解析 清診断法、遺伝子検出系も合わせて開発した。 法と比較してランニングコストが安価であるのも本手法 の特徴だ。 ●プロテオーム解析を応用した 網羅的・迅速病原体解析法の開発 熱帯の自然動物のなかには何千、何万という種類の病 ●LAMP 法を利用した特異的で 高感度な迅速病原体検出法の開発 原体となりうる微生物が生息している。本研究において LAMP 法は我が国で開発された迅速、簡便な遺伝子 もすでに自然界の動物から多数の未同定ウイルスが分離 増幅技術である。本研究では日本発の技術である LAMP されているが、これを従来の特異的検査法により1つ1 法により種々の新興感染症を迅速に検出する技術も合わ つ同定する作業は多くの時間と労力を必要とし、かつ稀 せて開発している。 (業績文献 3,4) 図2:nLC/MS 解析から得られるデータの二次元展開図:図中の点は検出されたペプチドの位置を示している。 ウイルス感染細胞特異的なペプチドを選択的に分析することにより効率の良いウイルス検出が可能となる。 (A) ウイルス未感染細胞上清 (B) ウイルス感染細胞上清 ●この研究の発表 ■論文 1.Takeshi Nabeshima, Phan Thi Nga, Posadas Guillermo, Maria del Carmen Parquet, Fuxun Yu, Nguyen Thanh Thuy, Bui Minh Trang, Nguyen Tran Hien, Vu Sinh Nam, Shingo Inoue, Futoshi Hasebe, and Kouichi Morita. Isolation and Molecular Characterization of Banna Virus from Mosquitoes, Vietnam. Emerging Infectious Diseases Vol.14 (8), 1276-1279; 2008 2.Yasui F, Kai C, Kitabatake M, Inoue S, Yoneda M, Yokochi S, Kase R, Sekiguchi S, Morita K, Hishima T, Suzuki H, Karamatsu K, Yasutomi Y, Shida H, Kidokoro M, Mizuno K, Matsushima K, Kohara M. Prior immunization with severe acute respiratory syndrome (SARS)-associated coronavirus (SARS-CoV) nucleocapsid protein causes severe pneumonia in mice infected with SARS-CoV. J Immunol. Vol.181 (9): 6337-48. 2008 3.Manmohan Parida, Santhosh Sannarangaiah, Paban Kumar Dash, P. V. L. Rao and Kouichi Morita: Loop mediated isothermal amplification(LAMP): a new generation of innovative gene amplification technique; perspectives in clinical diagnosis of infectious diseases. Reviews in Medical Virology Vol.18: 407-422: 2008 4.Le Roux CA, Kubo T, Grobbelaar AA, van Vuren PJ, Weyer J, Nel LH, Swanepoel R, Morita K, Paweska JT. Development and evaluation of a real-time reverse transcription-loop-mediated isothermal amplification assay for rapid detection of Rift Valley fever virus in clinical specimens. J Clin Microbiol. Mar; 47(3): 645-51. 2009 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 2 1 フィールド研究班 ヒト型抗体を用いた新出現ウイルスに対する 治療用製剤の開発に関する研究 熱帯医学研究所 山城 ●背 病原体解析部門 哲 景 れぞれのウイルスに効果的な中和活性を有する抗体の確 立のためにファージディスプレイ法を用いる。ファージ 近年ライフスタイルや環境の変化に伴い、新興・再興 ディスプレイ法はまず、H5N1感染生還者より供与さ 感染症の地球規模での流行が懸念されている。2 0 0 2年末 れた末梢血リンパ球を用いて H5N1ウイルス中和抗体 から2 0 0 3年前半にかけて起こった SARS の流行は記憶 発現遺伝子を豊富に含むヒト Fab ライブラリーを構築 に新しく、鳥インフルエンザまたはブタインフルエンザ する。そこから種々の H5N1ウイルス抗原を用いて同 からの新型インフルエンザ発生への警鐘も鳴らされてい ウイルス中和 Fab 抗体を選別しその後 IgG に変換する。 る。そのような新興・再興感染症の脅威を少しでも軽減 この場合 IgG 標品はヒト抗体となる。1 9 1 8年に発生し するためには、感染症の実態を科学的根拠に基づいて長 たインフルエンザウイルスによるパンデミックいわゆる 期的に調査する事と同時にその予防法および感染した際 スペイン風邪の際、重症患者に感染生還者の血清を投与 の適切な治療法を研究する事が重要である。現在鳥イン すると死亡率が低下したという報告があり、重症インフ フルエンザウイルス H5N1亜型感染症に関しては数種 ルエンザ感染症における抗体療法の有用性を示唆するも 類のワクチンが研究開発されている。また感染初期の治 のである。 療法としてはオセルタミビル(タミフル)やザナミビル (リレンザ)等のノイラミニダーゼ阻害剤が市販されて いるが耐性ウイルス株の報告も見られる。近年ヒトや動 物の免疫の仕組みを利用して病気を治療する抗体医薬の ●H5N1ウイルスに対し中和 活性を有するヒト抗体の分離 研究が盛んである。そのような抗体医薬研究の手法の一 北部ベトナムで0 5年以来約2年ぶりにヒト H5N1感 環としてコンビナトリアルバイオエンジニアリングがあ 染症患者が発生した。0 5年にヒト感染症を起こしたウイ る。それはコンビナトリアルライブラリー法で疾患特異 ルス(H5N1clade1)とは異なる H5N1clade2型ウ 的なヒトライブラリーを構築し、ファージディスプレイ イルスによる感染であった。我々の研究チームは倫理委 法で有用な抗体を選別していく技術を基本とする。ヒト 員会の承認を得、説明と同意のもとに感染生還者ボラン またはヒト化抗体を治療薬として使用した場合、疾患特 ティアから末梢血リンパ球の提供を受けヒト Fab ライ 異的に効果を発揮しかつ副作用が少ないという利点が期 ブラリー(H5N1ヒト Fab ライブラリー)を構築した。 待される。市販されている類似の製剤としてシナジスが ライブラリーには H5N1中和抗体発現遺伝子が豊富に あり、RS ウイルスの予防製剤として臨床に広く応用さ 含まれると推定された。 れている。我々の研究班は新興・再興感染症に有効な予 現在 clade2型が東南アジアを中心に家禽の間で流行 防または治療効果を示し将来的に臨床応用可能な抗体製 を繰り返しているが、0 5年に発症した H5N1感染患者 剤の開発を目指す。 血清はすでに新しい clade2型 H5N1ウイルスによる 血球凝集を阻止できないことがわかった。0 5年以前に感 ●研究の進め方 本研究の目的は新興・再興感染症、特にインフルエン 染した H5N1ウイルス患者の血清中の抗体は clade2 型 H5N1ウイルスを効果的に中和できない可能性を示 唆するものであると思われた。 ザウイルスA型 H5N1亜型、日本脳炎ウイルス、およ 次に我々は clade2型ウイルス粒子を精製しそこから びデングウイルスに効果的な中和活性を示すヒト抗体ま hemagglutinin(HA)を豊富に含む画分を抽出した。HA たはヒト型抗体を確立する事である。次にそれを大量培 は中和抗体の誘導に関与するとされるウイルスタンパク 養する体制を確立し、そこから精製した抗体標品に最適 である。ウイルス粒子および HA 画分を用い、それぞれ な保護剤または安定化剤などを選定することである。そ に効率的に結合するヒト Fab 抗体を発現するファージ 2 2 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases をファージディスプレイ法で H5N1ヒト Fab ライブラ リーから1 2種類分離した。そのうち大腸菌を用いて大量 ●今後の研究方針 培養後、カラム法を用いて精製できた1種類を米国 CDC これまで H5N1ウイルス精製ビリオンおよびそこか が推奨する ELISA 法を用いて H5N1clade2型ウイル ら抽出した HA 画分を用いて候補抗体の分離を行ってき スに対する中和活性能を測定したが、同ウイルスに対す た。それに加えリコンビナント HA(H5)タンパクお る十分な中和活性をもたない事が示された。残りの1 1種 よび市販のワクチン標品を用いて同様の取り組みを行い 類のヒト Fab も大量培養、精製を進めて中和試験に供 多くの候補ヒト抗体を分離する。リコンビナント HA タ する。またより感度の高い中和活性アッセイ系とされる ンパク発現については九州大学医学部および免疫生物研 免疫染色法を用いた試験も行う予定である。 究所との共同研究の体制で行う。中和抗体誘導と密接に 日本脳炎ウイルスおよびデング血清型3型ウイルスに 関連するピンポイント HA(H5)タンパク発現系の構 対するヒト中和 Fab は分離ができており完全型ヒト 築や、精製の利便性を考慮したフュージョン HA(H5) IgG に変換を試みている。 タンパクの作製に取り組んでいる。また H5N1clade 1および clade2ウイルス株抗原を大量に精製しハイブ リドーマ法でマウス単クローン性抗体を多数作成し H5 N1ウイルス中和活性を有するクローンを選出する。 図の説明 図:ファージディスプレイ法を用いたインフルエンザA型 H5N 亜型に中和活性を持つヒト単クローン性抗体の分離の概略 ●この研究の発表 ■論文(関連する論文) 1)Shibuya T., Yamashiro T., Masaike Y., Ohuchi M., Uechi G., Nishizono A. 2008. Identification of a human monoclonal Fab with neutralizing activity against H3N2 influenza A strain from a newly constructed human Fab library. Microbiol Immunol. 52: 162-170. 2)Arakawa M, Yamashiro T., Uechi G., Tadano M., Nishizono A. 2007. Construction of human Fab (gamma 1/kappa 1) library and identification of human monoclonal Fab possessing neutralizing potency against Japanese encephalitis virus. Microbiol Immunol. 51: 617625. ■学会発表 1)Construction of a human Fab library and molecular cloning of human monoclonal antibodies with neutralizing potency against influenza virus subtype H5N1. Asian-African Research Forum on Emerging and Reemerging Infections (Sapporo, December, 2008) 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 2 3 フィールド研究班 熱帯地域のアルボウイルスの疫学的調査と 病原性の解明 熱帯医学研究所 ウイルス学 森田公一 ●背 景 何らかのルートで日本本土に運ばれるとする説が飛来説、 冬の間ウイルスが自然界のどこかに越冬し初夏に再び出 熱帯地域では蚊などの昆虫で媒介されるウイルス(ア 現するとするのが土着説である。本研究グループではベ ルボウイルス)による感染症が猛威をふるっている。さ トナムや日本で日本脳炎ウイルスを分離し、中国で分離 らに近年は地球温暖化とともにウイルス媒介能力のある されたウイルスを加えて遺伝子の塩基配列を解析したと 蚊の北上が確認されており、たとえばデングウイルス感 ころ、最近アジアで分離された遺伝子型1型の日本脳炎 染によるデング熱の発生は北上している。また、従来は ウイルスは8つの系統に分類された。このうち&、'亜 限られた地域で生息していると考えられていた一部のア 型を除く6つの型は年代をおって西から東に移動し日本 ルボウイルスが自然界において長距離を移動している可 に飛来していることを突き止めた(図1) 。一方で、遺 能性も示されており、アルボウイルス感染症は熱帯地域 伝子型&、'亜型に属するウイルスは日本でしか分離さ のみならず他の温帯地域でも保健衛生上の問題として重 れず、土着しているのではないかと考えられた(図2) 。 要な課題となっている。この研究においては熱帯地域で これらの結果から東南アジアの日本脳炎ウイルスが極め 重要なアルボウイルスの分子疫学を主とした疫学調査を て高速に東アジアへ移動している事実が明らかになり、 実施するとともにウイルスの病原性に係る分子基盤を解 明することを目的としている。 図1:日本脳炎ウイルスの長距離移動:遺伝子型1型で!,",#,$,%亜型の 日本脳炎ウイルスは西から東へ移動し日本へ飛来していた。 ●日本脳炎ウイルスの移動の ダイナミズム 日本脳炎は日本脳炎ウイルスの感染による急性の発熱 をともなう中枢神経感染症である。東南アジアでは毎年 2万人をこえる患者発生があり、もっとも重要なウイル ス性の脳炎である。日本においては1 9 6 0年代まで毎年数 千名の患者が発生していたが、1 9 7 0年代以降にはワクチ ンの普及や媒介蚊の減少などの要因により減少し、現在 では年間1 0名以下の患者発生で注目をあつめることは無 くなった。しかし、毎年夏には関東以南の地域でコガタ アカイエカからウイルスが分離され、また増幅動物であ るブタにも感染していることが抗体調査で分かっており、 日本でも依然として感染リスクは存在する。日本で毎年 夏に出現する日本脳炎ウイルスは冬には完全に姿を消す ので、その起源については従来から飛来説、と土着説 (あ るいは越冬説)とが唱えられてきた。すなわち、毎年初 夏にウイルスの常在地である東南アジアからウイルスが 2 4 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 図2:日本脳炎ウイルス遺伝子1型&、'亜型は国内でのみ確認された。 Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases 日本においても今後もこのウイルスへの警戒が必要であ ルス表面のE蛋白質に1つのアミノ酸置換(6 2番のグル ることが示唆された。 タミン酸がリジンに変異)が認められた。この立体構造 上の位置は図3に示した様にE蛋白の2量体の構造に影 ●デングウイルスの変異株の分離 響を及ぼすと推測されデングウイルスはEタンパクの1 つのアミノ酸置換でも感染細胞の種類が容易に変異する デングウイルス感染では比較的軽症のデング熱と重症 性質を持つことが明らかになった。現在、B細胞系に感 で時には致死的な疾患であるデング出血熱が発症する。 染するデングウイルスが利用する細胞表面のウイルスレ デングウイルス感染により2つの病型がある理由、さら セプターを同定しているが、いずれにしても、デングウ にウイルス感染から出血熱発症に至る分子レベルでの機 イルスのヒトでの感染細胞の多様性と種類が明らかにさ 序は未だ不明のままであり、治療法の開発、予防薬の開 れることで、出血熱の発症機序を理解する一助となると 発が遅れている。現在、出血熱発症メカニズムについて 考え、研究を進めている。 は、1)免疫学的機序、2)ウイルス側の因子、3)ヒ トの遺伝的素因が関与していると考えられているが、 我々はデングウイルスが遺伝子レベルで多様性に富んで 図3:感染細胞の特異性を変化させたアミノ酸変異(白い矢印部分) いることに着目してウイルス側の病原因子を調査してい る。今年はベトナムの同一のデング出血熱患者から2つ の異なる性質を持つデングウイルスを分離した。1つは 蚊の培養細胞に高い結合性と増殖性を示し、もう1つは ヒトの単核球系の培養細胞に親和性と高い増殖性を示し た。この2つのウイルスの遺伝子塩基配列を比較したと ころアミノ酸差異が3つあるが極めて近似した株である ことが分かった。特に感染細胞の親和性を規定するウイ ●この研究の発表 ■論文(関連する論文) 1.Takeshi Nabeshima, Hyunh Thi Kim Loan, Shingo Inoue, Makoto Sumiyoshi, Yasuhiro Haruta, Phan Thi Nga, Vu Thi Que Huoung, Maria del Carmen Parquet, Futoshi Hasebe, and Kouichi Morita. Evidence of frequent introductions of Japanese encephalitis virus from south-east Asia and continental east Asia to Japan. J Gen Virol. Vol. 90: 827-832. 2009 2.Basu Dev Pandey, Kouichi Morita, Santa Raj Khanal, Tomohiko Takasaki, Isao Miyazaki, Tetsuro Ogawa, Shingo Inoue, Ichiro Kurane. Dengue virus, Nepal. Emerging Infectious Diseases Vol.14(3), 514-515; 2008 3.Kazuya Hidari, Naonori Takahashi, Masataka Arihara, Masato Nagaoka, Kouichi Morita, Takashi Suzuki.: Structure and anti-dengue virus activity of sulfated polysaccharide from a marine alga, Biochemical and Biophysical Research Communications Vol.376, 91-95: 2008 4.Nguyen Thi Phuong Lan, Mihoko Kikuchi, Vu Thi Que Huong, Do Quang Ha, Tran Thi Thuy, Vo Dinh Tham, Ha Manh Tuan, Vo Van Tuong, Cao Thi Phi Nga, Tran Van Dat, Toshifumi Oyama, Kouichi Morita, Michio Yasunami, Kenji Hirayama. Protective and Enhancing HLA Alleles, HLA-DRB 1*0901 and HLA-A*24, for Severe Forms of Dengue Virus Infection, Dengue Hemorrhagic Fever and Dengue Shock Syndrome. PLoS Neglected Tropical Diseases. Vol.2. e 304, 2008 5.Liu J, Liu B, Cao Z, Inoue S, Morita K, Tian K, Zhu Q, Gao GF. Characterization and application of monoclonal antibodies specific to West Nile virus envelope protein. J Virol Methods. Vol. 154(1-2): 20-6. 2008 6.森田公一:「日本脳炎ウイルス」、Drug Delivery System 23(2): 159-161, 2008. 7.森田公一:「西ナイル熱」、Medical Practice 25(5): 799-801, 2008 8.森田公一:「デング熱・出血熱」、臨床と研究 Vol.85(9), 1242-1246, 2008 9.森田公一:「デング出血熱ワクチン」。日本臨床、Vol.66(10), 1999-2003, 2008 10.森田公一;蚊媒介性の熱帯性ウイルス疾患―デング出血熱の発症機序をめぐって―;最新医学(The Medical Frontline) , Vol. 64 (4), 919-923, 2009. 11.森田公一、木下一美;デング熱研究の最前線;医学のあゆみ(J. Clin. Exp. Med.)Vol.229(4), 241-245, 2009 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 2 5 フィールド研究班 地域住民参加によるマラリアの実態把握と 予防に関する社会技術開発研究 熱帯医学研究所 金子 ●背 生態疫学 聰 景 の地域、集団における人口の変動・変遷を時間軸に沿っ て追うことが出来る。マラリア対策を例にとれば、マラ 疾病を集団もしくは地域として捉え、予防対策を実 リア対策の進捗と5歳未満人口の死亡率の減少により評 施・評価してゆくためには、その集団・地域の特性を正 価を行うことが可能となる。このような情報は、非常に 確に捉え、時間を追ってその変遷ならびに疾病罹患の変 基礎的なものではあるものの、アフリカにおいては、日 化を把握・監視する必要がある。現在、アフリカでは、 本のような戸籍・住民票登録制度がないため、整備が遅 5歳未満の死亡率削減のための防虫剤練り込み蚊帳の配 れている。従って、調査地域においては、特別に人口の 付等によるマラリア対策が進んでいる。その対策の評価 動態を把握する仕組みの構築が必要となる。これが、現 には、地域において、正確な情報を収集するシステムの 在、我々が構築を進めている西ケニア・スバ地区におけ 構築が必要となる。しかし、多くの場合、基盤となる情 るシステムである(図1) 。 5万5千人に対して、毎月追 報システムが機能していないことも多く、評価システム 跡調査を行い、出生・死亡・移動などを登録、地域の人 の構築を伴わないまま、対策が実施されている。そこで、 口動態をひと月遅れで把握している(図2、図3) 。 また、 本研究では、1)長崎大学熱帯医学研究所ケニア研究教 同地域では、住所登録の仕組みも無いため、位置情報と 育拠点のフィールドを活用した科学的根拠に基づいたマ 登録情報を連結させる事が難しい。したがって、全地球 ラリア対策の評価をなしうる実態把握と評価のシステム 測位システム(GPS)と連動させた登録システムによ 系を構築し、2)現在のマラリア対策の実態の把握と評 り家屋に緯度経度を割り振り、位置情報を管理している。 価、さらには、実態を把握した上での効果的なマラリア の予防方法を「地域」の視点で開発することを目的とし、 活動を展開する。 ●死因を探る マラリア対策の評価は、5歳未満死亡率の低下やマラ 低開発地域においては、多くの人々は、病院ではなく リア感染率の低下により行う必要がある。さらには、マ 自宅で死亡している。そのため、死亡診断が確定せず、 ラリア対策により集団としてマラリア感染機会が減ずる このことは、地域における疾病の状況の把握をさらに困 ことにより生ずる集団免疫の低下、対策効果出現の時間 難にしている。そのような現状を少しでも改善するため、 的・地域的な「ばらつき」の把握とその影響の評価など 死に至る過程を家族・親族に調査し、医師により間接的 が必要となる。これには、対象住民の観察を長期にわた に死亡診断を行う調査を展開している。この作業を 「Ver- り行える系、すなわち「Demographic Surveillance Sys- bal Autopsy」という。マラリアによる死亡を可能な限 tem (DSS) 」と呼ばれる調査地域の全人口とその動態を り把握することを目標としている。 把握する『住民参加型』のシステムの構築が必要となる。 ●マラリア対策の進展を測る仕組み ●地域の人口動態を把握するシステム 人口動態とは、ある地域における「人の動き」により 人口動態を把握するシステムの構築と共に、マラリア 対策の進捗度合いを測るシステムも同時に必要となる。 起こる人口の変動のことである。人の動きとは、出生、 現在、人口動態の情報収集システムの上に構築する形で、 死亡、移出入であり、それらを把握することにより、そ 蚊帳の使用状況を調査するシステムも運用している。個 2 6 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases 人毎の蚊帳の使用状況や地域別の蚊帳の使用率、また、 図1 使用している蚊帳の種類、さらには、妊婦に対して行わ れる「マラリアに対する間欠予防治療(intermittent preventive treatment for pregnant women: IPT)の普及状況 など、マラリア対策の進捗状況を把握する仕組みの構築 も同時に進めている。 ●遺伝子レベルで感染マラリア原虫を 捕らえる:マクロとミクロの連携 熱帯熱マラリアは、熱帯熱マラリア原虫により引き起 図2 こされる熱帯病であるが、同じ熱帯熱マラリア原虫で あっても、遺伝子レベルでは異なることがわかっている。 また、マラリアの高流行地に居住する子供は、遺伝子の 異なる多種類の熱帯熱マラリア原虫に感染していること が報告されており、また、そのような子供は、重篤なマ ラリアを発症しにくいことも報告されている。したがっ て、多重の熱帯熱マラリア原虫の感染は、住民や子供を 完全にマラリア原虫を排除するわけでもなく、症状を呈 するわけでもない「半感染・半免疫状態」に保ち、重篤 マラリアへの移行を防ぐとともに、マラリアの感染の鎖 が断ち切れないような仕組みを維持することに寄与して 図3 いる。そのような「鎖」が、マラリア対策により断ち切 れることにより何が起こるのか?マラリア診断に用いら れている塗沫標本や簡易診断テストでは、わからない体 内の感染マラリア原虫の遺伝子レベルの情報を捉え、そ の情報と人口動態や実地での調査、さらには、住民の行 動・生活習慣の変化等と連結・連動させる事により新し い「切り口」からのマラリア対策の評価、さらには新し いマラリア対策への提言に至る研究を目指している。 図の説明 図1:Demographic Surveillance System(DSS)展開地域の衛星写真(Google Earth より)。青い線に囲まれた地域が調査地域である(全長37!、面積163. 28":東京23区の約 1/4の広さ)。この地域に住む5万5千人の動態を23名の調査員で毎月の訪問調査し、把握している。また、公衆衛生に関連する追加調査も実施している。 図2:同地域の性別5歳階級別人口ピラミッド(2008年)。5‐9歳から10‐14歳階級にかけての人口の減少は、寄宿制の学校への入学による減少(ケニアでは、寄宿制が一般であ る)と考えられる。25‐29歳階級の女性の増加は、主に人口の外部からの流入である。その後、30‐34歳階級において人口の減少を見るが、多くは人口の流出である。 図3:性別年齢階級別の死亡率(2008年集計)。5歳未満死亡率が他の年齢階級に比べ高い。本 DSS のデータから計算された2 008年の生命表によれば、同地域の0歳児の平均余 命は、男57歳、女61歳であった。同生命表(2008年)によれば、5歳未満死亡率は、1, 000出生当たり女児79、男児109であった。 ●この研究の発表 ■発表 1)第17回 International Congress for Tropical Medicine and Malaria(Jeju, Korea)にて発表 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 2 7 フィールド研究班 スバコーホートを利用したマラリア媒介蚊と 感染の制御研究 熱帯医学研究所 皆川 ●背 病害動物学 昇 景 低下によって出現した湖岸沿いの土地に、波によりでき たラグーン状の繁殖地が西湖岸に集中しているため、そ アフリカの乳幼児を中心に年間1 0 0万人近くがマラリ の地域の家屋内の蚊の密度が非常に高くなっている。ち アの犠牲になっているといわれている。近年、殺虫剤付 なみに、水位低下は近年の気候変動に伴う干ばつやナイ きの蚊帳が普及し、その効果が報告され始めたが、媒介 ル川への流出口にあるダムの放水量増加によるといわれ 蚊による殺虫剤抵抗性も報告されており限界が指摘され ている。 ている。また、治療薬としてアーテスネートを含んだ合 主な媒介蚊は、アフリカでよく知られているガンビエ 剤の普及も進んでいるが、組織的にかつ広範囲に治療を ではなく、フネスタスであり、水位低下でできた繁殖地 行わなければその効果も一過性である。 にうまく適応していることが明らかになった。西湖岸の 媒介蚊の移動は繁殖地近辺に限られているため、移動 村々で採集された媒介蚊の感染率(7−8%)も他の地 の激しい人間の体内の原虫を制御の対象にするよりも蚊 域(3%前後)の2倍以上である。蚊帳の普及率や経済 を対象にする方が効率がよい。さらに、蚊は成虫になり 状況は他の地域と違いがないため、湖の水位低下がその 拡散するので、人間から感染させられる前の幼虫の段階 地域の高感染の原因であることは明らかである。 で対処した方が効率よいこともモデルにより示されてい る。よって、本研究では、幼虫を対象とした媒介蚊の制 御法を研究する。具体的には、バチルス菌が生成する蚊 ●蚊帳の使用法 に特異的な毒素をもとにした環境に優しい幼虫剤と繁殖 WHO の提言をもとに、政府と NGO により殺虫剤付 地の環境修正を考えており、それらの効果的な使用法を きの蚊帳の普及が近年急速に高まっている。調査地域で 探求する。この幼虫剤は、先進国では広く蚊の制御に使 も多くの家が蚊帳を1−2張り所有している。現地の家 われているが、アフリカのマラリア媒介蚊には使用され は小さく、蚊帳を2張り張るのが限界であり、これ以上 ていない。 蚊帳を手に入れても使用ができない。また、1軒に4− 対象地域は、西ケニア・スバ地区で、評価のために長 5人が住んでいるため、1つの蚊帳で2人以上が寝ると 崎大学 GCOE 推進担当者の一人である金子聡氏を中心 蚊帳から体の一部がでてしまう。さらに使用状況を調べ に人口動態システムを展開している。基礎データの収集 てみると、蚊帳をシーツとして使用、暑いためにあって のため蚊の繁殖地と家屋内の蚊の密度、蚊と幼児の感染 も使用しない、お客用にとっておくなどの例が多くみら 調査を定期的に開始し、また、蚊帳の普及・使用状況な れた。また、野外では漁網や小魚を干す道具として頻繁 どの背景も調査している。 に使用されていた。よって、これ以上蚊帳を配っても効 果が飛躍的に向上するかは疑問である。蚊帳の配布時に ●高感染地帯とその原因 対象地域は、ビクトリア湖に東西が挟まれるようにで きた半島になっており、西湖岸にある村々で幼児感染率 が8 0%にも達することを発見した。他の地域の幼児感染 率が4 0%前後であるため、それは極端に高い。湖の水位 2 8 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University は、使用法の説明を十分に行うとともに啓蒙教育も必要 である。 Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases ●今後の計画 高感染地帯にある繁殖地に幼虫剤を散布しつつ、住民 の同意のもとに繁殖地を物理的になくす手法を用いて蚊 た高感染地域においては、繁殖地が湖岸に限られている ので、その効果が十分に期待できる。うまくいけば、ス ポット的な流行の対処法としての好例となりうる。現在、 どのように実施するかを行政及び住民と協議中である。 と感染の制御を試みる。少なくとも、今回明らかになっ 図1:波により砂が岸際に堆積してできた蚊の繁殖地(Habitat)。以前の湖岸は点線 の部分にあった。 図2:青色の漁網は、NGO などから支給された蚊帳をつないでつくっている。小魚 を干すのにも使用。 ●この研究の発表 ■論文 1)Minakawa N, Dida O. G, Sonye G, Futami K and Kaneko S. 2008. Unforeseen misuses of bed nets in fishing villages along Lake Victoria. Malaria Journal. 7:165. 2)Minakawa N, Sonye G, Dida O. G, Futami K and Kaneko S. 2008. Recent reduction in the water level of Lake Victoria has created more habitats for Anopheles funestus . Malaria Journal. 7:119. ■口頭発表 1)Minakawa N, Sonye G, Dida GO, Futami K, and Kaneko S. 2008. Recent increase of water hyacinth in Lake Victoria and reduction of lake water level increased breeding habitats for Anopheles funestus . XXIII International Congress of Entomology. 2008. Durban, South Africa. ■ポスター発表 1)Minakawa N, Sonye G, Dida GO, Futami K, Kaneko S, Horio M, and Shimada M. 2008. Recent reduction in the water level of Lake Victoria has created more habitats for malaria vectors. XVIIth International Congress for Tropical Medicine and Malaria. Jeju, Korea. 2)Dida GO, Horio M, Sonye G, Futami K, Kaneko S, Horio M, and Shimada M. 2008. Bed nets for capturing and drying fish in villages on the shore of Lake Victoria. The XVIIth International Congress for Tropical Medicine and Malaria. Jeju, Korea. 3)Futami K, Omondi J, Syombua M, Akweywa P, Kaneko S, Horio M, Shimada M and Minakawa N. 2008. Non-larvicidal effects of Bacillus thuringiensis var. israelesis on Anopheles arabiensis. The XVIIth International Congress for Tropical Medicine and Malaria. Jeju, Korea. 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 2 9 フィールド研究班 デング出血熱、 シャーガス病、 マラリアの重症化 遺伝子解析 熱帯医学研究所 免疫遺伝学 平山謙二 ●要 約 ろん、媒介蚊が多数発生し、患者が密集する地域ではい つでも大流行する危険性がある。ベトナムの南部は熱帯 デングウイルス感染症は熱帯地域で流行する蚊媒介性 地域であり、近年の経済発展に伴い、ホーチミン市など 疾患の中でも重要な感染症である。特に再感染後約3分 都市部への人口集中は著しいものがあり、毎年患者の発 の1が重症化し出血熱あるいはショック症候群を呈する 生があり、また死亡例も報告されている。 が、特徴的な病態の形成にはウイルスの病原性とともに 宿主側の遺伝的な要因も重要な役割を果たしている。本 研究ではデング出血熱のうち、特に重篤なショック症候 ●デング出血熱の病態 群を呈した小児を多数集め、ショックに陥らなかった出 蚊に吸血されるとウイルスが体内に侵入し樹状細胞内 血熱患者集団との遺伝的な相違について調べた。ここで で増殖を開始5日間の潜伏期の後3 9度以上の高熱、頭痛、 は候補遺伝子として免疫応答遺伝子である HLA 遺伝子 骨痛、筋肉痛などが3−4日続き、その後解熱する。ウ に焦点を絞った。その結果、HLA のある種の型が重症 イルス血症も発熱後5日ほどで検出限界以下に下がって 化を促進あるいは抑制することを強く示唆する結果を得 しまう。同じ血清型のウイルスに再感染することはない ることができた。 が、血清型が変われば再感染することになる。おもに再 感染の場合、解熱時に突然出血やショック症状を呈する ●背 景 デング出血熱やショック症候群を多く発症する。消化管 の大出血やショックによる死亡例も多くみられる。重症 ヒトが同じ病原体に感染したあと重症化したりあるい 化を引き起こす原因として一般的には、再感染時にウイ は簡単に回復したりという個性があるのはなぜなのか。 ルス感染増殖を促進する抗体があげられる。過剰に増殖 この個性の大部分は遺伝子の多様性により出来上がって したウイルス粒子は免疫系を刺激し炎症性のサイトカイ る。この多様性がどんな外敵が来てもヒトが全滅するこ ンを過剰に産生させることになり、それによって免疫系 とを許さないのである。感染症に対するヒトの応答性を の制御が壊れ全身の血管の透過性が一気に亢進し血漿の 観察することにより、その防御能の個体差を規定してい 漏出が起こる。あるいは凝固系の異常から出血が引き起 る遺伝子の変異を見つけることでそのメカニズムの詳細 こされる。 を解明することができる。 ●ベトナムにおける デング出血熱の流行 ●デング出血熱感受性抵抗性 HLA の探索 ベトナムの限られた地域で限られた期間患者を観察し、 デング熱はネッタイシマカという熱帯地域に生息する 重症化する人たちの遺伝的な特徴を観察する研究を行っ 蚊によって媒介されるウイルス感染症である。1 9 8 0年代 た。患者はホーチミン市内の第2小児病院と近郊のビン より急激にその数を増加させている。熱帯地域での大都 ロン県予防医療センターの二つの病院を訪れ、入院治療 市への人口集中や医療保健衛生システムの整備による診 した小児のうち、研究の条件に合致した者を選び出し、 断技術の向上などが原因ではないかと考えられる。もち 本人あるいは保護者の承諾を得たうえで各種検査を行っ 3 0 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases た。倫理委員会はベトナムと日本の両方で独立して申請 抑制する働きがあった。今回のような多数の重症患者を し承認を受けた。対象としたのは、6か月から1 5歳まで 用いた研究は世界で初めてだが、すでに数年前に同じ のキン族(ベトナム人の大半)男女で病院近郊に居住す ホーチミン市の熱帯病病院で行われた研究においても、 る者とし、WHO の診断基準に従って、デング出血熱 HLA‐A*2 4との患者の相関が報告されている。今回の (DHF)およびデングショック症候群(DSS)の診断 結果は再現性を確かめたことになる。HLA はT細胞の を行った。対照としては、二つの病院の近郊の同年齢の 活性化に必須の抗原提示分子であるので、これらの遺伝 小児を採血した。2 0 0 2年から2 0 0 5年まで足かけ4年の歳 子を持つ個体では何らかの特徴的なT細胞応答が行われ 月をかけて1 2 0 0名ほどの小児のサンプリングを終了し、 ている可能性が高い。HLA‐A*2 4分子が提示できるデ ショック症候群4 2 0名、出血熱群2 1 1名、デング熱1 1 4名、 ングウイルスのタンパク配列はある程度予測できるが、 対照群4 5 0名の DNA 解析を行った。 できれば網羅的な抗原の探索を行い、刺激される CD8 T細胞の特徴を他の HLA と比較ながら観察する予定で ある。さらに興味深いのは HLA‐DRB1*0 9 0 1により刺 ●デング出血熱と HLA 対立遺伝子との相関 激されるT細胞の性質である。これは防御的に働くので、 HLA‐A 座の HLA‐A*2 4の7 0番アミノ酸がヒスチジン ある。 ワクチンのデザインに直接関係する現象を拾う可能性が グループの対立遺伝子の頻度がデング熱、デング出血熱 で上昇し、ショック症候群でさらに上昇するという重症 化促進因子として働いていることがわかった。また、HLA ‐DRB1*0 9 0 1が特にショック症候群で優位に減少する 今回の研究には、以下の方々が協力した。ベトナムのホーチミン市パ スツール研究所 VTQ Huong 博士、Tien 所長、第2小児病院の TT Thuy 部長、ビンロン県予防医学センターの VV Tuong 医師、長崎大学熱帯医 学研究所の森田教授、安波教授、菊池講師、大学院生 NP Lan、医学部 生小山君。 ことがわかった。すなわち、この対立遺伝子は重症化を ●この研究からの発表 ■論文 1)Lan NT, Kikuchi M, Vu TQH, Vu TTN, Hoang ND, Do QH, Tran TT, Vo T, Cao N, Tran D, Oyama T, Morita K, Yasunami M, Hirayama K. Protective and Enhancing HLA-alleles, HLA-DRB 1*0901 and HLA-A*24, for Severe Forms of Dengue Fever, Dengue Hemorrhagic Fever and Dengue Shock Syndrome. PLoS Negl Trop Dis. 2(10): e 304, 2008★ 2)Helegbe GK, Nguyen TH, Yanagi T, Shuaibu MN, Yamazaki A, Kikuchi M, Yasunami M, Hirayama K. Rate of red blood cell destruction varies in different strains of mice infected with Plasmodium berghei-ANKA after chronic exposure. Malaria Journal 2009, 8: 91 doi:10. 1186/1475-2875-8-91★ ★は GCOE の記述あり 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 3 1 フィールド研究班 メラネシア島嶼におけるマラリア排除: 疫学・生態学・進化学的アプローチ 熱帯医学研究所 金子 ●背 明 景 の全ゲノム解読が達成された。新たな知見がいかに流行 地住民の生活水準向上に貢献しうるかは2 1世紀における 2 0 0 8年9月1 5日、ニューヨークで開催された国連ミレ 科学の挑戦である。本研究においては地域特性に基づい ニアム開発計画マラリアサミットにおいて新たな世界マ たマラリア対策について、太平洋島嶼マラリア流行地域 ラリア行動計画(Global Malaria Action Plan)が採択さ のヴァヌアツ、パプアニューギニアよりアプローチする。 れた。そこでは今後段階的にマラリア患者数を減らして いき、根絶まで持っていく方針がはっきり打ち出されて いる。現在の国際社会の期待感(=楽観主義)は1 9 5 5年 WHO による最初のマラリア根絶計画が立ち上がった当 時と類似する。しかしこの最初の根絶計画は1 9 6 0年台に ●三日熱マラリア感染に対する 防御免疫は島嶼における マラリア排除後10年間維持され! 頓挫した。その理由として、1)マラリア伝播の地域特 ヴァヌアツのアネイチュウム島では、筆者が WHO マ 性が対策上に考慮されなかったこと、2)根絶にいたる ラリア専門官として1 9 9 1年に集団治療と媒介蚊対策によ 長期間の対策維持の課程において住民のみならず援助側 る集約的対策を実施した。その結果マラリア感染は排除 も疲弊したことが上げられている。ここ数年、多くの流 され、小島嶼ではマラリア根絶が可能であることを報告 行国において外部援助資金の著しい増大により、新たな した[2] 。アネイチュウム島の事例は西太平洋地域島 マラリア患者治療方針および新たな媒介蚊対策のスケー 嶼マラリア対策のモデルとして取り上げられ、ヴァヌア ルアップが進み、一部ではその成果が報告されてきてい ツおよびソロモン島嶼のマラリア感染排除を目指した新 る。ザンジバールにおいては、WHO の近年の戦略従い、 たな取り組みが主として AUSAID の主導により始まっ 2 0 0 2年に Artemisinin-based combination therapy(ACT) 、 ている。戦略は ACT、LLIN および indoor residual spray- 2 0 0 5年に long-lasting impregnated nets(LLIN)が導入 ing(IRS)を組み合わせた総合的対策である。 され、その結果マラリア流行抑止に著しい効果があった 地域からマラリア排除後の根絶に至るまでの状態維持 ことがカロリンスカの当研究グループにより報告されて を妨げる要因として、マラリア再導入・再燃は極めて重 いる[4] 。しかし根源的な問題は未解決である:短期 要な問題である。アネイチュウム島においては、1 9 9 1年 間の重点的な対策により一定地域からマラリアが除去さ のマラリア排除後、住民主導のサーベイランスおよび媒 れた後、いかにその状態を根絶にいたるまで長期間維持 介蚊対策が維持されていた。しかし同島へのマラリア再 しうるか? 導入・再燃の可能性は継続的に存在していた。マラリア マラリア死の8 0%はアフリカの5歳以下小児に集中す が排除された状態は、2 0 0 2年当初まで維持された後、マ るが、発症例の半数以上はアフリカ外でおきる。マラリ ラリア患者集団発生が住民側サーベイランスにより認知 ア流行の多様性が重要である。地域特性は人、原虫、媒 され、我々はマラリア再燃について検討を行うことに 介蚊集団の遺伝的構成を制御し、それが感染効率、疾病 なった。 重症度、治療薬・殺虫剤効果、ワクチン開発等の対策構 方法:アネイチュウム島の全住民を対象とした横断的マ 成要素に重要な影響を与えており、マラリア地域特異性 ラリア調査(malariometric survey)を2 0 0 2年 の6月 と を考慮した対策戦略の確立が必要であると考える。一方、 1 1月に実施した。特に年齢特異的マラリア罹患率を明ら 人、熱帯熱マラリア原虫、媒介蚊 ( Anopheles gambiae ) かにし、その免疫応答および原虫多様性における意義に 3 2 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases ついて検討した。 考察:アネイチュウムにおいてみられた制限された原虫 結果:2つの調査において計2 8例の三日熱マラリア (Pv) 多様性は再燃が単一の新たな移入によることを示唆する。 感染と1例の熱帯熱マラリア(Pf)感染が見出された(原 我々の結果は地域からのマラリア排除後、原虫に対する 虫陽性率 1. 8%) 。この Pf はタナ島から移入されたも 抗体レベルが以前繰り返し感染暴露した集団においては のであったが、すべての Pv は土着の伝播 (indigenous) 1 0年後も維持されることを示唆する。このことはまたア と考えられた。この2 8例 Pv 中、2 6例は1 9 9 1年以降に生 ネイチュウムにおける2 0 0 2年の再燃における成人の防御 まれたマラリア感染の経験がない子供であった。1 9 8 2年 を説明すると考えられる。限られた遺伝子プールにおけ 以前に生まれた集団では全く感染が見出されなかった。 る安定した Pv 抗原 SNP がこれらの背景として考えら 後者集団においては、マラリア排除後7年が経過した れる。 1 9 9 8年の時点において、Pv および Pf 赤内型原虫粗抗原 に対する IgG 抗体血清陽性率はそれぞれ8 1%および 3 4%、Pf および Pv 組み換えスポロゾイト蛋白に対する IgG 抗体血清陽性率はそれぞれ1 2%および3%であった。 Pvmsp 1シークエンスでは2002年アネイチウムにおい て2つのハプロタイプが見出された。一方マラリア伝播 が継続する比較6島においてはハプロタイプ数は4‐ 1 0 であった。アネイチュウムにおける主要ハプロタイプは その9 3%を占め、すべての比較島において見出された。 一方もうひとつのハプロタイプは6比較島中2島に見出 された。これらヴァヌアツ7島において、pvmsp1ブロッ ク5のシークエンスされた領域で見出された SNP は一 図:アネイチュウム島における coomunity microscopist つのみであった。 ●この研究の発表 ■論文 1)Chaves L F, Kaneko A, Pascual M. Random, top-down or bottom-up co-existence of parasites: malaria population dynamics in multiparasitic settings. Ecology 2009; in press. ! 2)Dahlström S, Ferreira PE, Veiga MI, Sedighi N, Wiklund L, Martensson A, Färnert A, Sisowath C, Osório L, Darban H, Andersson B, Kaneko A, Conseil G, Björkman A, Gil JP. Plasmodium falciparum Multidrug Resistance Protein 1 (pfMRP 1) and artemisinin-based combination therapy in Africa. J Infect Dis 2009; in press 3)Kaneko A, Chaves LF, Taleo G, Wickremasinghe R, Perlmann H, Tsuboi T, Björkman A, Tanabe K, Troye-Blomberg M. Protective immunity against Plasmodium vivax infections persists a decade after malaria elimination on islands: a cross-sectional observation. Manuscript-A. 4)Kaneko A, Taleo G, Chaves LF, Tanabe K, Troye-Blomberg M, Björkman, Rieckmann KH. Sustainable malaria freedom: a longitudinal study on Aneityum island 1991-2007. Manuscript-B. 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 3 3 創薬科学班 インフルエンザ肺炎における重症化因子の 迅速検出法の開発 医歯薬学総合研究科 河野 ●背 感染免疫学講座 先進感染制御学 茂 景 用することを試み、以前から解析を行っているインフル エンザウイルスと肺炎球菌の重複感染による重症肺炎マ 新型インフルエンザの流行が現実のものとなり、イン ウスモデルの肺組織ホモジネートにおいて、各々の単独 フルエンザウイルス(Flu)感染症はかつてないほど注 感染による比較的軽症の肺炎マウスの肺組織ホモジネー 目を集めている。我々は以前からインフルエンザウイル トと比較し、その肺炎重症度と発現量が相関する共通シ ス感染に伴う、特に呼吸器領域での感染免疫に関して研 グナルをサンプルから同定した(図1) 。 究を行っており、肺炎球菌(Sp)との重複感染による 致死的肺炎マウスモデル及び緑膿菌慢性気道感染マウス のインフルエンザウイルス感染による急性増悪モデルを 確立し、PAF(肺炎球菌の anchor)やケモカイン、Toll -like Receptor、好中球機能などを解析し、インフルエ ンザ肺炎の重症化に個体側の免疫学的要因が大きく関与 している可能性を突き止めていた。 ●2次元電気泳動にて分子を同定、確認! この後、同じくプロテオミクス的解析法として2次元 電気泳動による同様の比較検討を試みた。 特に重複感染による重症肺炎サンプルにおいて強く発 現しているバンドを確認したが(図2) 、これは PMF 本プログラムにおいて、長崎大学は地球規模での熱帯 解析から、好中球関連のプロテアーゼ:α‐アンチトリ 病・新興感染症統合制御を目標としているが、個々の患 プシン(A1AT)と判明した。これは特に好中球の活性 者においても、インフルエンザの発症のみならず、その 化を制御する酵素として知られており、他の重症肺障害 重症化を予測し、病態を制御することはきわめて重要な 発症との関与を示唆する多数の臨床報告とも一致する 研究テーマと考えられる。 データである。エラスターゼや関連する酵素活性の上昇 われわれは前述したマウスモデルの解析から、重症化 もこのマウスモデルにおいてその後確認した。さらに、 に関連する免疫分子を同定し、これを阻害することがで これらのインフルエンザ肺炎マウスにおいて、プロテ きれば、病態制御や重症化防止が大いに可能であろうと アーゼ阻害剤(gabexate mesilate)の投与により、重 考えた。 症化を一部抑制することができた。 今回はこの中から、ジェノミクス(遺伝子)的解析と プロテインチップシステムは装置の簡便化や臨床現場 併行して進めた、プロテオミクス(タンパク)的手法を への応用が進められており、今後これらの成果が実際に 用いた解析とその結果確認された好中球関連の酵素とそ インフルエンザ患者の肺炎への進展、致死化の予測に大 の活性化について特に解説する。 いに応用され、迅速な治療が可能となることが期待され る。 プロテインチップでのシグナルと実際の同定されるタ ●プロテインチップを用いて、病態に 相関する共通のシグナルを発見! ンパク質の詳細な比較や、血清をサンプルとして用いた プロテインチップシステムはイオン化したタンパク質 ターゲットとしての応用の可能性も示唆され、さらに多 をシグナルとして検出する新たな近年開発されたシステ ムであり、前立腺ガンにおける腫瘍マーカーの同定など に実績を上げている。我々はこのシステムを感染症に応 3 4 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 場合のデータやその処理、同定されたタンパク質の治療 くの症例やモデルにおける検討を進めていく予定である。 Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases 図1:プロテインチップによるマウス肺組織ホモジネートの解析。ウイルスまたは 細菌感染単独群が見られるシグナルが、重症の重複感染肺で特に強いピークを示す (赤丸)。 図2:2次元電気泳動によるマウス肺組織ホモジネートの解析。ウイルスまたは細 菌感染単独群と共通に見られるバンドが、重症の重複感染肺で特に強く見られる(黒 丸)。 ●この研究の発表 ■論文 1)Seki M, Kosai K, Hara A, Imamura Y, Nakamura S, Kurihara S, Izumikawa K, Kakeya H, Yamamoto Y, Yanagihara K, Miyazaki Y, Mukae H, Tashiro T, and Kohno S. 2009. Expression and analysis of Platelet activating factor (PAF) related molecule in severe pneumonia in mice due to influenza virus and bacterial co-infection using by DNA microarray Jpn J Infect Dis. 62: 6-10. 2)Seki M, Suyama N, Hashiguchi K, Hara A, Kosai K, Yanagihara K, Nakamura S, Kurihara S, Imamura Y, Izumikawa K, Kakeya H, Yamamoto Y, Mukae H, Tashiro T, and Kohno S. 2008. A patient with fulminant influenza-related bacterial pneumonia due to Streptococcus pneumoniae followed by Mycobacterium tuberculosis infection Intern Med. 47: 2043-2047. 3)Kosai K, Seki M, Yanagihara K, Nakamura S, Kurihara S, Imamura Y, Izumikawa K, Kakeya H, Yamamoto Y, Tashiro T, and Kohno S. 2008. Two-dimensional gel electrophoresis analysis in simultaneous influenza pneumonia and bacterial infection in mice. Clin Exp Immunol. 152: 364-371. 4)Kosai K, Seki M, Yanagihara K, Nakamura S, Kurihara S, Izumikawa K, Kakeya H, Yamamoto Y, Tashiro T, and Kohno S.2008.Elevated levels of high mobility group box chromosomal protein-1 (HMGB-1) in sera from patients with severe bacterial pneumonia coinfected with influenza virus. Scand J Infect Dis. 28: 338-342. 5)Kosai K, Seki M, Yanagihara K, Nakamura S, Kurihara S, Imamura Y, Izumikawa K, Kakeya H, Yamamoto Y, Tashiro T, and Kohno S. 2008. Gabexate mesilate suppresses influenza pneumonia in mice through inhibition of cytokines. J Int Med Res. 36: 322-328. ■学会発表 1)*Seki M, and Kohno S. 2008. Severity of community-acquired pneumonia due to influenza virus and bacteria co-infection. Gordon Research Conference 2008: Biology of Acute Respiratory Infections. March 10-14. Ventura, USA. 2)Seki M, Kosai K, Yanagihara K, Kurihara S, Izumikawa K, Kakeya H, Yamamoto Y, Tashiro T, and Kohno S. 2008. Two-dimensional gel electrophoresis analysis in simultaneous influenza pneumonia and bacterial infection in mice. America Thoracic Society: General Meeting 2008. May 18-22. Toronto, Canada. 3)関 雅文、河野 茂 2 0 0 8インフルエンザウイルス感染後の二次性細菌性肺炎に関する検討 第7回九州肺分子研究会 1月12日 福岡 4)関 雅文、柳原 克紀、小佐井康介、栗原慎太郎、中村茂樹、泉川公一、掛屋 弘、山本 善裕、田代 隆良、河野 茂 2008 インフルエンザウイルス感染を合併した細菌性肺炎の重症化に関する検討 第1 0 5回日本内科学会総会 4月1 1日 東京 5)関 雅文、河野 茂 2 0 08 2次元電気泳動を用いたインフルエンザウイルス感染後の重症細菌性肺炎における好中球由来プロテ アーゼの関与に関する検討 第8 2回日本感染症学会総会 ワークショップ 4月1 7日 島根 6)小佐井康介、関 雅文、柳原 克紀、栗原慎太郎、中村茂樹、泉川公一、掛屋 弘、山本 善裕、田代 隆良、河野 茂 2008 プロテアーゼ阻害剤による重症インフルエンザウイルス肺炎の制御に関する検討 第8 2回日本感染症学会総会4月1 7日 島根 7)関 雅文、小佐井康介、栗原慎太郎、中村茂樹、泉川公一、掛屋 弘、山本 善裕、柳原 克紀、田代 隆良、河野 茂 2008 インフルエンザウイルス感染を合併した市中肺炎症例の重症度と関連するサイトカインに関する検討 第4 8回日本呼吸器学会総会 6月16日 神戸 0 08 重症インフルエンザウイルス肺炎に関するマウスを用いた検討 第6 1回日本呼吸器学会・結核学会 8)**関 雅文、河野 茂 2 九州地方会 学術奨励賞受賞講演 1 1月6日 沖縄 (*日本化学療法学会海外派遣奨学費 受給 **日本呼吸器学会・結核学会九州支部学術奨励賞 受賞) 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 3 5 創薬研究班 抗ウイルス剤開発 医歯薬学総合研究科 感染免疫学講座 感染分子薬学 小林信之 ●背 景 ●これまでの成果 これまで細菌性感染症に対しては抗菌剤の開発が積極 我々はこれまで効果的な抗ウイルス剤スクリーニング 的に行われて来ているが、ウイルス性感染症に対する治 系として HIV プロテアーゼ阻害剤評価系を開発した。 療薬の開発は AIDS を除いて大きな進歩がないのが現状 この系では HIV プロテアーゼ蛋白質をテトラサイクリ である。その最大の理由は抗ウイルス剤の効果的なスク ン制御下に発現制御を行っている(図1 Fuse et al. Mi- リーニング系の開発が進んでいないためである。AIDS crobes and Infection8, . 2 0 0 6) 。 において今日効果的な治療薬の開発が進められてきた背 この系では HIV ウイルスそのものを利用しないため、 景には感染高感受性細胞の発見(Harada S, et al. Sci- 安全に抗ウイルス剤の探索が行われる。現在天然物資源 ence2 2 9. 1 9 8 5)とその細胞系を用いた抗ウイルス剤ス を利用して新規活性を探索中である。 クリーニング系の樹立があった(Nakashima H. et al. 1 9 9 7年の香港での H5N1型トリ高病原性インフルエ Med Microbiol Immunol. 1 7 5. 1 9 8 6)ためである。今日の ンザ出現以来今日までインフルエンザウイルスの世界流 抗 AIDS 薬の開発はこれらスクリーニング系の樹立なし 行が懸念されているが、これまでに開発され、上市され になしえなかったと言っても過言ではない。他方、今日 た抗ウイルス剤に関しては M2阻害剤であるアマンタ SARS やトリ高病原性インフルエンザウイルス等の新 ジンおよび NA 阻害剤であるタミフルおよびリレンザの たな脅威を迎え、新規抗ウイルス剤の開発がきわめて重 みである。インフルエンザウイルスはエイズウイルス同 要な課題となってきている。我々は新規抗ウイルス剤の 様極めて変異率が高いウイルスであるため容易に耐性ウ 開発に向けて、効果的な抗ウイルス剤のスクリーニング イルス株が出現すると予測される。事実既にアマンタジ 系の確立を基盤とした新規抗ウイルス剤の開発を進めて ン耐性株は広く世界に広まっており、タミフル耐性株の いく。 出現も確認されてきている。このような状況においては HIV プロテアーゼスクリーニング 3 6 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases インフルエンザウイルス vRNP 核外輸送阻害剤スクリーニングシステム AIDS 同様インフルエンザウイルスも異なる作用点に働 ルエンザウイルススクリーニング系の確立に加え、我々 く抗ウイルス剤の開発や耐性株の出現しにくい治療薬の は細胞因子を標的とした抗インフルエンザウイルスのス 開発が急務である。このような観点から我々はこれまで クリーニング系を確立した(Watanabe K et al. Drug Dis- 抗インフルエンザ薬の効率的なスクリーニング系の確立 cover Ther2. 2 0 0 8) 。 を進めてきた。これまでにハイスループットな抗インフ 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 3 7 創薬研究班 HIV 感染・再活性化を助長する細菌の 制御薬物開発のための基礎研究 医歯薬学総合研究科 感染免疫学講座 口腔病原微生物学 中山浩次 ●背 景 ATCC3 3 2 7 7株ゲノムには新規の conjugative transposon (CTn)が1つ、部分的 CTn が3つ見出された。また ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の口腔汚染から全身感 ATCC3 3 2 7 7株ゲノムと W8 3株ゲノム間には全領域にわ 染を引き起こすことが HIV 陽性の母親をもつ母乳栄養 たって1 7 7箇所の再構成が生じており、ゲノム構造に大 の子において報告されている。実験的にも口腔粘膜上皮 きな相違があることがわかった。再構成のうち3 9ケ所で への HIV‐1の感染によって口腔組織の初感染に引き続 は大規模なゲノムの inversion や組み換えにより遺伝子 いて全身への HIV の播種がみられている。口腔上皮細 の並びが大きく入れ代わっていた。再構成がみられた箇 胞には通常、HIV のコレセプターである CCR5は発現 所の7 6. 9%には IS または MITE の痕跡が認められた。 しておらず、初感染時に重要な R5‐tropic HIV の感染 このことから P. gingivalis におけるゲノムの再構成には がどのように生じるかについては不明であったが、歯周 transposable elements が関与していると考えられた。 病細菌 Porphyromonas gingivalis の感染により CCR5 さらに各株特異的な ORF の多くはゲノムの再構成に がケラチノサイトに発現することが実験的に証明された よって影響をうける ORF であったことから、ゲノムの (J. Immunol., 2 0 0 7, 1 7 9, 2 5 4 2 ‐ 2 5 5 0) 。また、P. gingivalis 再構成が P. gingivalis の株間の多様性をもたらしている の代謝産物である酪酸によって生体細胞内に潜伏してい と推測された。決定した ATCC3 3 2 7 7株のゲノム配列の る HIV‐1の再活性化が生じることが実験的に証明され さらなる解析を進めた。ATCC3 3 2 7 7株のゲノムに見い ている(J. Immunol. , 2 0 0 9, 1 8 2, 3 6 8 8 ‐ 3 6 9 5) 。このよう だされた intact な CTn(CTnPg1)が実際にゲノム配 に P. gingivalis の感染により HIV の口腔からの感染や 列から切り出され他の P. gingivalis 株に伝達するかを検 再活性化を引き起こす可能性がつぎつぎと報告されてい 討した。CTnPg1がゲノム配列から切り出されて circu- る。本 研 究 は HIV 感 染・再 活 性 化 を 助 長 す る P. gin- lar intermediate form を形成することを PCR にて確認 givalis の増殖をコントロールする薬物を開発するため、 した。さらに ATCC3 3 2 7 7株の CTnPg1領域にアンピシ 本菌の最重要病原因子である分泌性タンパク分解酵素 リン耐性遺伝子を挿入した株および W8 3株の porT にエ gingipain の分泌機構を解明することにある。 リスロマイシン耐性遺伝子を挿入した株を作製し、接合 実験に供した。ATCC3 3 2 7 7株から W8 3株への CTnPg1 は伝達され、伝達効率は1 0 ‐5∼1 0 ‐6であった。P. gin- ● P. gingivalis ATCC33277ゲノムの 全塩基配列決定! givalis 菌株間の活発な遺伝子転移が推測された。この P. gingivalis ATCC3 3 2 7 7株全ゲノム塩基配列を決定し posable elements がもたらしているという我々の推測 た。ATCC3 3 2 7 7株ゲノ ム は2, 3 5 4, 8 8 6塩 基 対 で W8 3株 ゲノムサイズとほぼ同じであり GC 比も差がなかった。 結果は P. gingivalis でみられるゲノムの再構成は trans- を強く支持するものであった。 さらに網羅的な遺伝子発現の解析をめざして、市販の ATCC3 3 2 7 7株 ゲ ノ ム か ら は2, 0 9 1個 の 推 定 遺 伝 子 DNA アレイでは得られない各遺伝子の転写単位の決定、 (ORF)を抽出した。NCBI に登録されている W8 3株 遺伝子発現の調節領域の同定等を目指す為にカスタム ゲノムについても ORF の再抽出を行い、ORF を2 0 2 3 tiling DNA アレイを作製した。DNA アレイのプローブ 個とした。W8 3株ゲノムの1 7 7個、ATCC3 3 2 7 7株ゲノム は ATCC3 3 2 7 7株の両鎖のゲノム配列をもとに8+/− の2 2 3個がそれぞれの株に特異的な ORF であっ た。 3bp 間隔に全ゲノム配列にわたってオーバーラップす 3 8 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases るように設計した。この tiling DNA アレイをもちいてま ずはアレイへの target の反応条件を検討し決定した。 現在までに野生株の対数増殖期の菌体から調製した RNA より作製したカスタム DNA アレイに反応さ せ データを得た。野生株の対数増殖期には機能が推定され る遺伝子だけではなく機能未知の hypothetical protein の一部も発現することを明らかにした。 ●gingipain の分泌機構 私たちはジンジパインの菌体外への輸送・分泌機構に 異常を示す変異株を分離し、その変異遺伝子 porT を同 定している。P. gingivalis の遺伝子のもっとも類似性の ある ortholog は近縁種である Bacteroides fragilis など 図1:P. gingivalis ATCC33277の全塩基配列決定 に見つかることが多いが、porT 遺伝子については Bacteroides には存在せず、Phylum Bacteroidetes 中の少し 離れた菌種である Cytophaga hutchinsonii や Flavobacterium johnsoniae に 見 つ か る。そ こ で P. gingivalis の 遺伝子で C. hutchinsonii には ortholog が存在するが、 Bacteroides 種のいずれかにはないもの、6 7遺伝子 (porT を含む)を同定し、その内の4 6遺伝子の変異株を作製し たところ、1 0遺伝子の変異株がジンジパインの輸送・分 泌機構に異常を示した。そのなかに C. hutchinsonii や F. johnsoniae の滑走運動に関わる遺伝子群の ortholog が 含 ま れ て い た。そ こ で F. johnsoniae の porT ortholog の変異株を作製したところ、その変異株は滑走運動に異 常を示した。今回、同定されたジンジパイン輸送・分泌 機構に関与するタンパクはいままでに報告のある輸送・ 図2:ATCC33277と W83のゲノム配列の比較(大規模なゲノム再編成がみられる) 分泌機構に含まれるタンパクとは類似性がないものであ り、新規のタンパク輸送・分泌機構を構成しているもの と考えられる。 ●この研究の発表 ■論文 1)Naito, M, Hirakawa, H, Yamashita, A, Ohara, N, Shoji, M, Yukitake, H, Nakayama, K, Toh, H, Yoshimura, F, Kuhara, S, Hattori, M, Hayashi, T, and Nakayama, K. Determination of the genome sequence of Porphyromonas gingivalis strain ATCC 33277 and genomic comparison with strain W 83 revealed extensive genome rearrangements in P. gingivalis . DNA Res. 15: 215-225, 2008 2)Sato K, Kido N, Murakami Y, Hoover CI, Nakayama K, and Yoshimura F. Lipopolysaccharide biosynthesis-related genes are required for colonial pigmentation of Porphyromonas gingivalis . Microbiology-SGM, in press. 3)Kikuchi Y, Ohara N, Ueda O, Hirai K, Shibata Y, Nakayama K, and Fujimura S. Porphyromonas gingivalis mutant defective in a putative ECF sigma factor shows a mutator phenotype. Oral Microbiol. Immunol., In press. 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 3 9 創薬科学班 エイズ及びプリオン病の検査法と治療薬の開発 医歯薬総合研究科 環境薬科学講座 機能性分子化学 甲斐雅亮 ●背 景 しかし、HIV のゲノム RNA が変異すると、HIV 酵素の 配列も変異するため、活性中心の構造に変化が起こる。 本研究では、国内での流行が危惧されている後天性免 そのため、エイズ治療薬がこれらの酵素と強く結合でき 疫不全症候群(AIDS)とプリオン病に焦点を当て、こ なくなり、抗 HIV 活性が低下する。これが、HIV の薬 れらの検査法および治療薬を新規に開発することを研究 剤耐性獲得の原理である。一方、この現象は、HIV の変 目標にしている。 異によって HIV 酵素の基質特異性が変化していると解 現在、日本国内でのヒト免疫不全ウィルス(HIV)感 釈できる。つまり、HIV プロテアーゼに変異が生じた場 染者は一万人を越えると言われており、特に首都圏を始 合、基質の切断活性が変化すると予想される。そこで、 めとする人口密集地域において HIV 感染が広がってい 様々な基質ペプチドに対する HIV プロテアーゼ変異体 る。抗 HIV 薬の開発により、AIDS の発症を遅延できる の切断パターンを解析し、簡便かつ迅速な HIV 変異株 ようになったが、HIV ゲノムは容易に変異するため、薬 の同定法としての可能性を探索した。 剤耐性をもつ変異株が直ちに出現する。そのため、HIV この切断パターン解析を可能にする手法として、当研 感染者の持つ HIV のサブタイプを同定する手法は、効 究室で開発した、遊離の N 末端アミノ基を持つペプチ 果的な AIDS 治療を行う上で非常に重要である。今回、 ドに対する高選択的蛍光誘導体化法を適用した。この反 HIV プロテアーゼの基質特異性を利用した、HIV サブタ 応は、N 末端が修飾されたペプチドやペプチド結合を有 イプの識別法に関する有用な知見が得られたので報告す しない他の生体物質に対しては蛍光を与えず、極めて選 る。また、抗 HIV 薬の開発研究の一環として、HIV プ 択性が高い。従って、N 末端が保護された HIV プロテ ロテアーゼを標的とした RNA 干渉法(RNAi)につい アーゼの基質ペプチドを用いて、酵素反応とそれに引き ても簡単に報告する。 続く蛍光誘導体化を行えば、切断されたペプチド断片の プリオン病は、正常なプリオンタンパク質(PrPC) みが蛍光を発する。基質ペプチドとして、N 末端がアセ の立体構造が変化した、異常型プリオンタンパク質 チル化された4種のペプチドを用い、天然型 HIV‐1プ (PrPSc)によって引き起こされる一連の神経疾患であ ロテアーゼおよび2種の変異型 HIV‐1プロテアーゼに る。また、PrPC は、PrPSc との接触によって異常型へ よる基質切断パターンを評価した(図1) 。その結果、 と変異すると考えられいる。つまり、PrPSc は、病原 変異体1では、各ペプチド断片のピーク強度比は同程度 体であり且つ感染源であると言える。しかし、正常型と であった(図1A、B) 。しかし変異体2では、各ピーク 異常型のアミノ酸配列が同じであることから、これらの の強度比が変化していた(図1C) 。これらの結果から、 識別は困難であり、現在のところプリオン病に対する効 HIV プロテアーゼに変異が起こると、各ペプチド基質の 果的な治療法は開発されていない。従って、正常型と異 認識能に変化が生じ、変異に特徴的な生成パターンを与 常型の物性の調査およびこれらを識別できる分子の発見 えることが明らかになった。この発見は、HIV サブタイ は、プリオン病治療薬の開発において重要な意味を持つ。 プ同定のための新しい技術開発につながると期待できる。 今回は、アプタマー探索に必要なマウスプリオンタンパ 一方、HIV 酵素には、変異が起こってもアミノ酸配列 ク質(mPrP)の発現と精製を試み、その物性に関して が高度に保持されている領域が存在する。従って、この 興味深い結果が得られたので報告する。 領域の mRNA を標的としてタンパク質発現を阻害でき れば、HIV の変異に影響を受けない理想的な抗 HIV 薬 ●基質特異性の変化を調べることによって HIV プロテアーゼの変異を判定する 現在臨床で用いられているほとんどのエイズ治療薬は、 プロテアーゼなどの HIV 由来の酵素を標的としている。 4 0 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University の開発につながると予想できる。そこで、短い2本鎖 RNA(siRNA)によって特定 mRNA の発現を阻害する AIDS 治療薬の開発研究に着手した。現在、人工修飾核 酸を持つ siRNA を合成している。 Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases ピーク 1:Ac−R K I L − FLDG ピーク 2:Ac−ARVL − FEAM ピーク 3:Ac−S G I F − L E T S ピーク 4:Ac−SQNY − L I V Q HIV-1プロテアーゼ による切断部位 図1 HIV‐1プロテアーゼを用いた4種のペプチド(図右の配列)の切断パターン。A)天然型 HIV‐1プロテアーゼを用いた場合。B)変異体1(Leu5Pro, Gly5 7Arg, Asn83Tyr)を用いた場合。C)変異体2(Leu5Pro, Gly5 7Arg, Gly6 8Arg)を用いた場合。 ●プリオンタンパク質の調製法によって 溶解性に差が生じる 特定の分子に対して親和性を有する核酸分子(DNA し、それぞれの破砕方法により調製した抽出液から mPrP を精製した。まず、MBP のアミロース親和性を 利用したアフィニティークロマトグラフィーを用いて MBP-mPrP を精製し、 その後、MBP-mPrP から MBP を または RNA)すなわちアプタマーは、試験管内で大量 切断することで、最終的に mg 単位の精製 mPrP を得た。 合成が容易であり、安定で、かつ化学修飾も比較的容易 次に超音波破砕によって得られた mPrP[mPrP (s) ] であるため、抗体に代わるものとして期待されている。 とホモジナイズによって得られた mPrP[mPrP (h) ]の 我々は、PrPC と PrPSc を識別できるアプタマーの開 溶解度を調べたところ、可溶化剤を含む水溶液に対して 発を行っているが、そのために、大量のプリオンタンパ は、mPrP (h) の溶解度は mPrP (s) の溶解度より高くなっ ク質が必要となる。そこで、mPrP の大量調製を目的と ていた(表1) 。また、両 mPrP を proteinase K で消化 して、大腸菌発現系を用いて mPrP の発現と精製を行 したところ、mPrP (s) の分解速度は、mPrP (h) に比べ い、さらに、mPrP の溶解性と酵素分解の抵抗性につい て遅くなっていた。以上の結果は、超音波刺激が mPrP て調べた。 の物理化学的性質に影響を与えることを示している。今 マウス脳 cDNA ライブラリーより、mPrP cDNA をク ローニングし、発現プラスミドを構築した。大腸菌中に 後、超音波刺激による mPrP の構造変化の有無をより 詳細に調べ、プリオンに特異的なアプタマー探索を行う。 おいて PrP のみを発現させた場合、封入体となること が報告されていたので、今回、比較的分子量の大きいタ 表1 mPrP の溶解度における超音波刺激の影響 飽和濃度 (mg/mL) グタンパク質であるマルトース結合タンパク質(MBP) mPrP (s) が融合しているタンパク質(MBP-mPrP)として発現 mPrP (h) n=1 n=2 n=1 n=2 0. 1%SDS 0. 2 8 0. 3 5 0. 6 5 0. 5 4 0. 0 5%SDS 0. 2 7 0. 2 6 0. 5 6 0. 4 9 ベーションと超音波刺激の繰り返しによって、PrPSc 1. 0M 塩酸グアニジン 0. 3 0 0. 4 8 0. 4 2 0. 5 8 が試験管内で増幅することが知られている。そこで、大 0. 5M 塩酸グアニジン 0. 2 1 0. 4 1 0. 3 5 0. 5 6 腸菌を超音波と低張ホモジナイズの2種類の方法で破砕 0. 1M 塩酸グアニジン 0. 1 6 0. 2 8 0. 3 2 0. 3 8 させた。大腸菌から発現タンパク質を抽出する場合、一 般的に、菌体破砕は超音波処理によって行われる。しか し、PrPC に極少量の PrPSc を共存させると、インキュ ●この研究の発表 ■学会発表 1)T. Krawczyk, H. Zhang, T. Shibata, T. Kabashima, M. Kai. Alginic acid-based macromolecular probe for chemiluminescent detection of protein. The Second Asian Symposium on Pharmaceutical Sciences in Nagasaki, Nagasaki, March 2009. 2)H. Md. Towhid, T. Kabashima, T. Shibata, M. Kai. Development of simple method for DNA aptamer against protein. The Second Asian Symposium on Pharmaceutical Sciences in Nagasaki, Nagasaki, March 2009. 3)Z. Yu, C. Tang, T. Kabashima, T. Shibata, M. Kai. Novel Fluorometric Assay for the Identification of Mutant HIV Proteases. The Second Asian Symposium on Pharmaceutical Sciences in Nagasaki, Nagasaki, March 2009. 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 4 1 創薬科学班 マラリア・住血吸虫ワクチン開発 熱帯医学研究所 免疫遺伝学 平山謙二 ●要 旨 より患者を一時的に無くしたとしても中間宿主である宮 入貝を一掃するか固有宿主である水牛や家豚への感染を 住血吸虫ワクチン開発のため、防御効果が明らかな放 防御しないかぎり、完全に制圧することは難しい。ヒト 射線照射セルカリア(RAC)によるワクチン効果を解 および家畜を対象としたワクチンが求められている 析した。まず RAC ワクチン接種ミニブタの血清と特異 (McManus DP. et al, Clin Microbiol Rev. 2 0 0 8) 。 的に反応する日本住血吸虫卵及び虫体由来の抗原の同定 ワクチン開発には二つの突破口がある。ひとつはマウ をプロテオームを用いて行った。虫卵及び虫体の可溶性 スモデルによる不活化生ワクチン(放射線照射セルカリ 粗抗原を二次元液体クロマトグラフィーシステム(2D ア)で、非常に高い再感染阻止能が付与されることが知 -PF, BECKMAN Courter 社)で分画し、ワクチン血清に られている(Zhang L. et al., Microbes and infection, 2 0 0 8) 。 特異的に反応した分画蛋白の N 末端アミノ酸配列を決 もう一つはヒトにおける感染抵抗性についての報告 定し、EST 遺伝子バンクから Blast 探索し、最終的に (Walter K et. al, J Immunol. 2 0 0 6)である。最近中国の AAW2 7 4 7 2. 1、AXX2 5 8 8 3. 1、AAW2 7 6 9 0. 1の3つ の 候 浸淫地で広範囲、かつ長期的に行われたフィールド調査 補分子の組み換え蛋白が血清と反応することを明らかに により高度感染抵抗性を持つ人が存在することが報告さ した。これらのタンパクをマウスに免疫し抗血清を作成 れた(Ellis MK et al. J Immunol, 2 0 0 7) 。このような人た し培養ソーミュラ幼虫での組織発現を調べたところ、 ちの特徴的な免疫応答性を再現できればワクチンとなり AAW2 7 4 7 2. 1、AXX2 5 8 8 3. 1はソーミュラ表面に発現し うる。 ていた。さらに、候補分子を pcDNA/V5/GW/D-TOPO (Invitologen)に挿入し DNA ワクチンを作成しワクチ ン効果を調べた。陰性対象群(Empty plasmid DNA)と 比較して、AXX2 5 8 8 3. 1に2 7%程度の感染虫体数の減少 効果が認められた。 ●ワクチン抗原の探索 放射線照射セルカリア感染によるワクチン効果が確か められたミニブタの血清中の特異抗体に反応する住血吸 虫抗原分画を同定し、新規ワクチン候補分子を虫卵及び ●背 景 住血吸虫症には主に中国揚子江流域、フィリピンミン 虫体の可溶性抗原分画を二次元液体クロマトグラフィー システムで分画し、抗体の反応性が認められる分画蛋白 から、4分画の主要なタンパクの N 末端アミノ酸配列 ダナオ島などに分布する日本住血吸虫症とアフリカ、中 をエドマン法により決定し、相同性検索の結果と分子量、 南米に分布するマンソン住血吸虫症、ビルハルツ住血吸 等電点(pI)の情報を元に4候補分子を決定した。この 虫症が存在する。住血吸虫症はいわゆる顧みられない熱 う ち AAW2 7 4 7 2. 1、AXX2 5 8 8 3. 1、AAW2 7 6 9 0. 1に つ い 帯感染症の範疇にいれられており WHO など国際的なコ て組み換え蛋白を作成した。これでマウスを免疫し抗血 ミュニティーにより克服すべき重要な寄生虫疾患である。 清を作成し培養ソーミュラ幼虫での発現部位について解 現在中国の日本住血吸虫症だけでも年間数十万人の新規 析を行った。さらに、これらの候補分子のワクチン効果 感染者が報告されている(Zhou XN. et. al. Emerg Infect を判定するための予備実験として、候補分子を pcDNA/ Dis. , 2 0 0 7) 。住血吸虫症の蔓延に伴う経済的な損失、健 V5/GW/D-TOPO(Invitrogen)に 挿 入 し DNA ワ ク チ 康への障害等の被害は一般的な DALY などの指標に ンを作成し、Balb/C マウス(1群1 3匹)に3回免疫後、 よっては過小評価することが指摘されている。特に日本 血中抗体価を確認し日本住血吸虫セルカリアを4 0隻感染 住血吸虫の場合、プラジカンテルによる集団治療などに させた。感染後6週目に灌流し、成虫虫体を回収しワク 4 2 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases 図.マウス抗血清を用いた AXX25883. 1の発現局在の解析48hours cultured Schistosomula (Live) チン効果を判定した。 アを4 0隻感染させた結果、陰性対象群(Empty plasmid 新たなワクチン候補蛋白のうち、AAW2 7 4 7 2. 1は2 3% DNA)と 比 較 し た 結 果、AAW2 7 6 9 0. 1と AAW2 7 4 7 2. 1 程度の日本住血吸虫のカテプシン B・エンドぺプチター には、感染防御効果が認められなかったが、AXX2 5 8 8 3. 1 ゼ、2 6%のマンソン住血吸虫のカテプシン B との相同 。 は2 7%程度の回収虫体数の減少が認められた(未発表) 性が認められた。AXX2 5 8 8 3. 1は syntaxin と8 3%、Glu- 放射線照射セルカリア感染によるワクチン効果が確か tathion S-transeferase(GST)と2 3%の相同性(図1) められたミニブタの血清中の特異抗体に反応する住血吸 を、AAW2 7 6 9 0. 1は Dehydrogenase subunit1と4 6%の 虫抗原分画を探索する方法では新規ワクチン候補を多数 相同性を示すことが確認された。 同定することはできなかった。今後日本住血吸虫ゲノム 組み換え蛋白免疫マウス抗血清による培養ソーミュラ プロジェクトが完全になれば改善するものと考えられる。 幼虫での発現部位について解析を行ったところ、AAW 今後、ワクチン候補蛋白 AXX2 5 8 8 3. 1の示した感染防 2 7 4 7 2. 1、AXX2 5 8 8 3. 1はソーミュラ表面に発現してい 御応答性と、放射線照射セルカリアによる防御免疫との ることが推察された(図) 。 異同を詳細に解析することがよりよいワクチンの開発に DNA ワクチンによる免疫後、日本住血吸虫セルカリ ●論 つながると考えられる。 文 1)Ekhlas Hamed A-H A, Kikuchi M, Watanabe K, Ito T, Yu C, Chen H, Nara T, Arakawa T, Aoki Y, Hirayama K. Proteome approach for identification of Schistosomiasis japonica vaccine candidate antigen. Parasitology International:. Parasitology International 58 (2009) 3644★ 2)Yu C, Yin X, Kikuchi M, Hirayama K, Zhu Y, Yu C. Isolation of the cDNAs encoding secreted and membrane binding proteins from egg of Schistosoma japonicum (Chinese strain), Acta Parasitol. 53 (1): 110-114, 2008. 3)Tippawangkosol P, Duangchanda T, Ubalee R, Ruengweerayut R, Hirayama K, Na-Bangchang K. Identification of HLA-A 24 restricted pre-erythrocytic stage specific T-cell epitopes using Plasmodium falciparum synthetic peptides: a preliminary study. Southeast Asian J Trop Med Public Health. 40 (1): 10-7. 2009. 4)Uyen DT, Huy NT, Trang DT, Nhien NT, Oida T, Hirayama K, Harada S, Kamei K. Effects of amino acids on malarial heme crystallization. Biol Pharm Bull. 31 (8): 1483-8, 2008 5)Shuaibu MN, Wuyep PT, Yanagi T, Hirayama K, Ichinose A, Tanaka T, Kouno I. Trypanocidal activity of extracts and compounds from the stem bark of Anogeissus leiocarpus and Terminalia avicennoides. Parasitol Res. 102 (4): 697-703, 2008 ★は GCOE の記述あり 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 4 3 創薬科学班 基盤技術の医薬品開発応用 医学部 創薬科学 池田正行 ●背 景 の開発を進めてきた。 中山らは、これまでに開発を進めてきたアルツハイ 従来、大学を含め、日本の学術機関では、ともすると マー病の病原物質であるアミロイドβ蛋白質 Aβ結合性 基礎研究の成果を論文にして発表することで事足れりと プローブ(図1)(2 0 0 8年9月、Bayer Schering Pharma して、臨床試験(治験)にまで繋げる臨床開発は製薬企 とライセンス契約締結)の中から、CJD 脳に沈着する 業任せだった。しかし、医薬品の開発では、莫大な開発 PrPSc 凝集体に結合性を示す化合物の探索を行うため、 費用を回収できるだけの利潤が見込めないと企業が判断 プリオン病の一種であるウシ海綿状脳症 Bovine spongi- することも多いため、大学を含めた公的機関が企業に代 form Encephalopathy (BSE)感染モデルマウス脳切片 わって開発を進める必要がある。特に熱帯病・新興感染 を用いた蛍光染色実験をおこなった。その結果、PrPSc 症分野では、その傾向が強い。一方、新薬の成功確率が 凝集体への結合性が認められる化合物を見出しているこ 1万数千分の1と言われる状況下で、企業のように潤沢 の化合物は、すでに、脳への高い移行性を確認しており、 な資金や豊富な人材に恵まれない大学でのトランスレー PrPSc の分子イメージングプローブの候補といえる。 ショナルリサーチは。今や多くの困難に直面している。 CJD に代表されるヒトのプリオン病そのものは稀な そのような状況下で、アジア・アフリカ地域に拠点を持 疾患だが、臨床的にプリオン病の除外が必要な認知障害 ち、フィールドワークにも豊富な経験を持つ長崎大学に や高次脳機能障害の頻度は非常に高く、プリオン病画像 は、熱帯病・新興感染症に対する医薬品開発で、大きな 診断に対する期待は非常に高い。今後、臨床応用に向け 期待が寄せられている。本年度は、医薬品開発に応用可 て本格的な開発を行う。 能で、汎用性に富み、且つ独創性の高い二つの基盤技術 が本学で見いだされた。 さらに、プリオン病以外の感染症の治療薬・予防薬の 開発を支援するために、特に熱帯病・新興感染症に注目 し、その病態の鍵を握る分子の局在を画像化についても ●感染症標的分子のイメージング 技術開発 感染症の発症と進展のメカニズムは、病原体の体内侵 入という観点からだけで解明されるものではない。病巣 検討する。 ●新規投与形態に基づく細胞内への 遺伝子送達技術開発 の主座となる臓器はどこか、その臓器の中で、どんな病 近年、優れた薬理活性を有するものの、強い副作用あ 変がどのように分布しているのか。その病変はどの分子 るいはその体内動態特性のため臨床応用が困難な医薬品 のどのような変化によって生じているのかといった情報 候補薬物や、難治性疾患に対して投与される遺伝子性医 は、診断ばかりではなく、治療薬・予防薬の開発にとっ 薬品に対する精密な体内動態制御法および製剤設計法の ても、極めて大切である。 開発の確立が強く望まれている。細胞への遺伝子導入に クロイツフェルト−ヤコブ病(CJD)では、異常型プ 際しては、ウイルスベクターに伴う様々な安全性の問題 リオン蛋白質(PrPSc)凝集体が脳内に沈着し、神経細 を回避できる非ウイルスベクターが特に注目を浴びてい 胞が破壊され、患者はやがて死に至る。これまでのとこ ろ有効な治療手段がなく、発症までの期間は極めて長い と考えられるものの、ほとんどの症例では発症後急速に 症状が悪化し、1年以内に死亡する。従って、現状の診 断法では、仮に治療法が開発されたとしても手遅れとな る可能性が強い。本学薬学部の中山らは、プリオン病の 早期診断をめざし、非侵襲的イメージング技術である PET や SPECT などによって、プリオン蛋白質の沈着 を体外から画像化するための分子イメージングプローブ 4 4 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 図1:アルツハイマー病モデルマウスの神経病理組織標本。 (A) アミロイドβ蛋白 質 Aβ結合性プローブにより蛍光標識されたアミロイド斑が (B)隣接切片で の免疫組織化学によるアミロイド斑と一致している。 Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases 図2:プラスミド DNA(pDAN)/ポリエチレンイミン(PEI)と多陰イオン polyanion による三つ組複合 体(Ternary complex)の形成 図3:赤血球と各複合体の相互作用。プラスミド DNA (pDAN)/ポリエチレンイミン(PEI)では強い凝集 が見られるが、polyanion でコーティングした三つ組複合体では凝集が見られない(A)。また、溶 血も見られない(B)。 る。その中でも、陽イオン性の水溶性ポリマーであるポ な導入効率を、in vitro ばかりではなく、in vivo でも示 リエチレンイミン(PEI)は、効率の高い遺伝子導入試 した。特に、in vivo では、脾臓に特異的に高い導入効 薬としてよく知られている(図2) 。PEI の最大の問題 率が示された。以上の結果は、γ‐PGA が、これまで in 点は、陰性荷電分子である細胞膜のプロテオグリカン等 vivo における PEI による遺伝子導入の最大の障害だっ に非特異的に結合し、赤血球凝集から血栓症や炎症を惹 た毒性の問題を解決し、臨床応用が可能な遺伝子治療の 起する点である。 有力な方法となることを示唆している。今後は in vivo 本 学 薬 学 部 の 佐 々 木 ら は、PEI/プ ラ ス ミ ド DNA で遺伝子導入される細胞の種類や、様々な疾患モデル動 (pDNA)複合体を親水性のポリマーとなる polyanion 物において本法の有効性、安全性を検討する必要がある。 でコーティングすれば、赤血球凝集を起こさないことを 特に免疫反応の主座である脾臓で遺伝子導入効率が高い 見出した(図3) 。さらに、多くの polyanion が遺伝子 ことから、対象疾患は、感染症や癌のワクチン開発、悪 導入効率を低下させるのに対し、γ‐ポリグルタミン酸 性リンパ腫や自己免疫疾患が有望と考え、今後の開発を (γ‐PGA)は、PEI/pDNA とほぼ同様の、極めて良好 進める。 ●論 文 1)Ono M, Maya Y, Haratake M, Ito K, Mori H, Nakayama M. Aurones serve as probes of b-amyloid plaques in Alzheimer's disease. Biochem Biophys Res Commun. 2007; 361: 116-21 2)Kurosaki T, Kitahara T, Fumoto S, Nishida K, Nakamura J, Niidome T, Kodama Y, Nakagawa H, To H, Sasaki H. Ternary complexes of pDNA, polyethylenimine, and gamma-polyglutamic acid for gene delivery systems. Biomaterials. 2009; 30: 2846-53 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 4 5 業績一覧 論文 ▲Ekhlas H A-H, Kikuchi M, Watanabe K, Ito T, Yu C, Chen H, Nara T, Arakawa T, Aoki Y, Hirayama K.“Proteome approach for identification of schistosomiasis japonica vaccine candidate antigen.” Parasitology Int. 2009 March; 58(1): 36-44. ▲Hashizume M, Terao T and Minakawa N.“The Indian Ocean Dipole and malaria risk in the highlands of western Kenya.” Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 February 10; 106(6): 1857-62. ▲Lan NT, Kikuchi M, Huong VT, Ha do Q, Thuy TT. Tham VD, Tuan HM, Tuong VV, Nga CT, Van Dat T, Oyama T, Morita K, Yasunami M, Hirayama K. Protective and Enhancing HLA Alleles, HLA-DRB 1*0901 and HLA-A*24, for Severe Forms of Dengue Virus Infection, Dengue Hemorrhagic Fever and Dengue Shock Syndrome. PLoS Negl Trop Dis. 2008 October 1; 2(10): e 304. 4 6 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University 長崎大学グローバルCOE プログラム 熱帯病・新興感染症の 地球規模統合制御戦略 平成20年度 研究成果報告書 2008 Research Report of The Global COE Program, Nagasaki University -Global Control Strategy of Tropical and Emerging Infectious Diseases- 長崎大学熱帯医学研究所 グローバル COE 推進室 〒8 5 2 ‐ 8 5 2 3 長崎市坂本1丁目1 2番4号 TEL.0 9 5 ‐ 8 1 9 ‐ 7 8 7 0/FAX.0 9 5 ‐ 8 1 9 ‐ 7 8 0 5 e-mail [email protected] http://www.tm.nagasaki-u.ac.jp 平成2 2年3月発行
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