インターネット時代のレファレンス ――書誌・索引とインターネットの活用―― 2007年11月 大串夏身(昭和女子大学) はじめに――変わるレファレンスサービスを取り巻く環境 (1)Google などの総合的な検索エンジンの新しいサービス 各種の検索、表示、カテゴリの作成など追加 (2)進む各種データベースの公開 (3)横断検索エンジンの広がり (4)特定テーマのポータルサイト (5)新しいレファレンスサービス 1.図書館と図書館員の役割と時代の変化 (1)そもそも図書館と図書館員とは 図書館は、人間が生み出してきた知的な生産物を収集保存して、活用する場である。 → 活用して新しい知識・知恵を生み出す。 長年、そうした役割を果たしてきた。 図書館員はその中で、知的な生産物から図書館の設置目的にあったものを収集して、整 理し、保存管理して、利用者とそれらを結びつける役割を果たしてきた。 (2)学問の水先案内人 18世紀のヨーロッパ(イタリア、フランスなど)では、多くの資料のなかから、利用 者が求めるものを、的確、かつ迅速に探し出して提供するために、図書館には必要不可欠 な職として認められるようになった。それは単に資料と利用者をむつびつけるだけなく、 そのために学問の水先案内人としても役割も期待された。 (3)近代・現代社会では 近代・現代社会では、社会構造が複雑化して、それぞれの社会集団の求める各種の図書 館が作られるようになり、それそれの館種の図書館職員は、利用者の求める要求にあわせ て、資料を収集し、整理、管理して、提供することになった。 設置目的にあった資料等の提供とそれに付随するサービスを提供することによって社会 的な役割をはたして来た。 (4)新しいサービスの仕組みを作る 現代は、さらに情報通信ネットワークが社会の基盤になり、図書館が従来の形態での資 料とサービスを提供するだけでは不十分となり、新しいサービスの仕組みを作り出すこと を求められることになった(あるいは生き残りをかけて積極的に対応することが必要なっ 1 た)。 2.新しい技術は諸刃の刃でもある (1)仕事の効率は高まった 図書館員にとって、コンピュータとデータベース、インターネットの登場は、仕事の効 率を高めると共に、仕事の内容を大幅に変えることになった。書誌ユーティリティの登場 は資料整理の仕事を簡略化した。 (2)検索は容易になった コンピュータを使うことで検索方法も容易になり、単純になる傾向にある。インターネ ットの登場はそれに拍車をかけた。 それはまた図書館を必要としない利用者を生み、図書館での相談件数が減る傾向にある。 (補)かって、コンピュータとネットワークが普及すれば、図書館員はいらなくなるという予言をした情 報学者がいたが、彼の予言が当たりつつあるかのように思われる。 他方、当時それに対して、情報量が増えれば増えるほど、それらから的確、かつ効率的に情報を探し出 すことが難しくなり、図書館員はますます社会的な期待をあつめるようになるという対論が出されたが、 これもまた現実のものとなりつつあるようにも思われる。 3.新しい枠組みの社会が来ている (1)情報を活用すること――光と陰 社会的に見れば、インターネット上の情報を検索・活用することを誰でもが試みるよう になりつつある。そうした意味で、誰でもが自分で探すということができる時代が来た、 と言える。 他方、情報が満ちあふれ、その中から的確に求めるものを探し出すことが難しくなりつ つあるのも事実である。 (2)新しい枠組みへの対応の必要 そのなかで、社会的な仕組みとして、こうした状況に図書館が介入して、一定の役割を 果たすことができるようになるか、それとも手をこまねいて見ているに終わるか、それは 図書館側の姿勢・試みにゆだねられているといえる。 前の時代には重要な役割を果たしていたものが、次の時代には消え去っていったという ものは枚挙にいとまがない。 今、図書館も、というより、かなりの会社や施設がそうした状態におかれていると言え る。新しい枠組みの時代が来ていると同時に、生き残るために既存の組織は新しい枠組み への対応が必要となっている。 4.単純になる検索・探索方法 (1)知識や資料、情報の保存の場は複雑になった 図書館が知識・資料を保存・活用する場としては変わらないにしても、知識を保存する 場が図書館だけではなくなった。その場がネットワーク上に作られ、それらがネットワー クによって結びつけられ、誰でもがアクセスすれば知識や資料を入手できるようになった。 図書や雑誌という形態は依然として一定の役割を果たし続けるので、それはそれで、刊 2 行されるだろうが、知識を入手できるのはそれだけでなくなった。 知識や資料、情報を探す側からみると、複雑になったということができる。 (2)検索方法は単純化したが 他方、コンピュータ通信ネットワークを活用した検索方法が普及するにつれて、検索方 法は、単純になったように思われる。事実、単純になった。 しかし、それが正しいあり方かというと、怪しい。コンピュータ通信が活用され始めた 時期のレファレンスの質問・回答を記録した大串の『ある図書館員の相談日記』 (日外アソ シエーツ刊)を読んだベテラン先輩司書が、大串に、君の調べ方は単純だと指摘したが、 それはコンピュータによるキーワード検索に頼りすぎていることを指摘したものであった。 資料の探索は分類番号や件名なども駆使して行われるものである。それが行われていない ことを指摘したものである。 (3)すべては Google からはじまるでいいのか? こうした傾向は、一層促進されているように思われる。図書館の現場では、まず、Google や Yahoo!などの総合的な検索エンジンのキーワード検索からはじめるという検索・探索方 法が広がっている。 しかし、これは「情報量が増えれば増えるほど、それらから的確、かつ効率的に情報を 探し出すことが難しくなる」という状況からみると単純すぎるように思われる。知識や資 料、情報の存在は、広がり、重層化して、複雑になっているとすると、総合的な検索エン ジンのキーワード検索から始めるということにはならない。 5.図書館は可能性を求める場でもある 利用者の役に立つ → 資料や情報を使って役に立つ可能性がある、ということになる。 課題解決型サービス → ビジネスに役立つ可能性がある。 読書を通して読書の習慣を身につける → 習慣を身につける可能性がある 等々。 → ひとりひとりの利用者を活性化して、可能性をより大きなものとしたい。 (ひとりひとりの行動はささいなものだが、それが地域などで多く行われることで) → → 公共図書館;地域社会をよりよいものとしたい。 大学図書館;よりよい社会人として送り出したい → よりよい社会にしたい。 6.知識や資料、情報を探すことも可能性を求めることである (1)資料を世界の果てまで探しに行く 特定の資料を探す 特定のテーマの資料や情報源をさがす。 → 自分の館のOPACの検索からはじめる。 → なければ、いろいろと探して、世界のどこかにないか、世界の果てまで探しに 行く、というところまで探す。 → 探し出せればよかった!!、探し出すことができなければ、残念!! 「残念」ということで……。 (2)書誌、索引の役割 やはり可能性を…… 知識の存在 …… 圧倒的多くは印刷物の中 3 中国から朝鮮、日本へ。 8世紀には大量の印刷可能だった。 → 知的な蓄積は中国がリード 15世紀、活版印刷でヨーロッパが中国を追い抜く。 → 印刷物の存在を記録した書誌類が作られる。(中国、日本ではもっと早い) さらに、雑誌記事索引類も作られる。 さらに、個々の資料を対象にした索引も作られる。 複数の資料を対象にした索引も作られる。 また、表現物(小説など)はあらすじ集も作られる。 抄録、解題も作られる。 → これらを使って調べることは、可能性を求めてである。 あるかもしれない、あれば……。 (3)デジタル化したら (あ)書誌索引類のデジタル化 (い)OPACのデジタル化 (う)表現物全体をデジタル化 (え)各種資料、論文、報告書等の全文のデジタル化 → これらは、すべての文字列を検索できる。 すべてを横断的に検索できるようにすれば、一発で検索できる。 階層構造を持つものも、一覧から詳細へと進むことで、検索は可能だ。 しかし、「(あ)、(い)」は資料のありか、や、知識・情報が入っているだろう資料のあ りか、を探すことができるもので、「(う)、(え)」は、検索に使った「キーワード」と同 じ「文字列」そのものの存在を確認できるものである。 (4)インターネット上のページなど 上記の「(う)、(え)」と同じ性格のもの 検索に使った「キーワード」と同じ「文字列」そのものの存在を確認できる。 問題 検索エンジンによって、並び順が違っている。 個々のサイト、ページの評価の方法。 7.冷静に考えてみると (1)書誌情報・メタ情報はそれぞれどの位の範囲のものが作られているのか? → 自分の図書館が持っている範囲は? → 持っていないとするとどのようにすると現物を閲覧できるか? (2)索引が作られている範囲は? → 索引が作られている資料をどの程度自分の図書館は持っているか? → 持っていないとすると現物はどこが持っているか? → ある特定の事柄で記述がありそうな項目が分かるが、それを問い合わせる図 書館はどこがいいか? (3)雑誌記事索引や新聞記事索引が作られている範囲は? 4 (4)書誌情報等から本文、事実の入手経路は? → 利用者にどのように案内するか? → インターネットを通して入手できるか? 8.図書館員はどのような準備が必要か? (1)専門家である図書館員は、これらのことをいつも念頭において仕事をしている必要 がある。 (2)さらに、それらを専門領域の知識、資料、情報に即して調査、解説できるようにな っていることが必要である。 (3)さらにまた、それらのなかでコアになるものは何か? をそれぞれの書誌、索引、 記事索引、また、論文等について知っている必要がある。 (4)特定テーマに関して、効率的に、知識、資料、情報を探し出す方法を開発する必要 がある。 参考;大串夏身『チャート式情報アクセスガイド』(青弓社、2006 年) 『あうる』 (NPO図書館の学校機関誌)連載 チャートで考えるレファレンスツール Step15 教育(2) 9.調べ方の案内の作成と提供 (1)図書館は内部で調べ方の方法を定式化する(開発する)必要がある。 (2)それらをマニュアルとしてまとめておく。 (3)利用者にもそれを提供する (4)さらに特定のテーマで、それぞれに知識、資料、情報の調べ方の方法をまとめる。 → 上記「(1)(2)(3)」を行う。 10.職員のトレーニングが必要 今まで述べた「7」からあとの部分は、実務演習の形でトレーニングする必要がある。 さらに、応用として、レファレンスの事例を使って、演習する。 ますます情報源が多くなり、知識や資料、情報の存在する場は広がっている。 (補)デジタル化が進むと図書は少なくなる、という予測にも拘わらず、今のところ、出版点数が増えて、 今手に入る図書の数は70万点を越えている。 5
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