SeqCap EZ Library: Technical Note SeqCap EZ を用いた ヒトエクソーム 解析の実際 August 2012 ゲノムDNA ターゲット領域 A A B B C C 非ターゲット領域 断片化・アダプター付加 網羅的ヒトエクソームを効率よく解析する ためのヒント 次世代シークエンサーに 対応したアダプター 増幅(Pre-Capture LM-PCR) 安藤 祥子、天野 直己、渡辺 亮 京都大学 iPS 細胞研究所 ゲノム・エピゲノム解析コアファシリティ ハイブリダイゼーション SeqCap EZ (ビオチン付加ロングオリゴDNA) 近年盛んに行われているディープシークエンシングは、ヒトゲノム解 析を 2 週間で行うことを可能にしています。特に、 タンパク質をコー ドする領域のみをシークエンシングするエクソーム解析は、その高 いスループットと読みの深さから疾患原因遺伝子の探索などに活 用されています。本稿では、エクソーム解析の特徴を概説し、エ ビーズキャプチャー ストレプトアビジン マグネットビーズ クソーム濃縮キットの一つである SeqCap EZ を使用した実感を紹 介します。 洗浄 増幅(Post-Capture LM-PCR) エンリッチメントQC シークエンシング 図1 SeqCap EZ 実験ワークフロー 本製品はライフサイエンス分野の研究のみを目的としています。 1 SeqCap EZの特徴 SeqCap EZの実験の流れ 各社より販売されているエクソーム濃縮キット(TruSeq, イル ミ ナ社 ; SureSelect, アジレント社 ; SeqCap EZ, ロシュ社) の実験の流れはおおよそ同じです。まず、超音波などでゲ ノム DNA を断片化し、末端修復/ dA 付加を行った上 でアダプター配列を付加させます。それを PCR によって一 度増幅し、濃度をそろえてプローブにハイブリダイズさせて ターゲット領域を回収します。2 回目の PCR(post-capture PCR)を行うことでターゲット領域を濃縮し、ライブラリが完 成します(図 1)。 SeqCap EZ のゲノム DNA の断片化からアダプター付加ま でのプロトコールは、イルミナ社の TruSeqと全く同じです。 ゲノム DNA のスタート量は 1µg/ サンプルで、我々は1回 の実験で 16 〜 24 サンプルを処理しています。ゲノム DNA の断片化には、超音波破砕装置(Covaris E210)を用い てピークトップが 300 bp になるように行っています。一回目 の PCR(pre-capture PCR)及び精製の結果、約 50-80 ng/µL(50µL)の DNA が得られます。そこから 1µg をキャ プチャーハイブリダイゼーションに用い、残りの一部はエンリッ チメントを確認するための定量 PCR に使用します。47˚C で 72 時間インキュベーションすることでハイブリダイゼーションを 行い、洗浄及び PCR 増幅を行うとライブラリが完成します。 引き続きディープシーケンシングを行うまでの一連の工程のス ケジューリング例を図 2 に示しました。 図1 SeqCap EZによるエクソーム濃縮のタイムスケジュールの例。 週末にハイブリダイゼーションすることで時間の節約が可能である。 DNA断片化 ライブラリ作製 ハイブリダイゼーション (続き) 精製 LM-PCR (1回目) ハイブリダイゼーション LM-PCR qPCR (2回目) HiSeq解析 洗浄バッファー 加温 図2 SeqCap EZによるエクソーム濃縮のタイムスケジュールの例。週末 にハイブリダイゼーションすることで時間の節約が可能です。 完成されたライブラリはアジレント社のバイオアナライザー (DNA1000 chip) 、または TapeStation を用いてサイズ の確認を行います。通常は 300 bp 程度にピークトップがみ られますが、アダプターダイマーとみられる 100 bp 強のサイ A サイズ(bp) プローブの種類(DNA、RNA)や設計部位は各社のキッ トで異なっています 1。SeqCap EZ は他社と比較してより高 密度にプローブが設計されており、大半のエクソン領域が 複数のプローブでカバーされていることは、それらのエクソン (ターゲット領域)上に変異がある場合でも解析が可能で あることを示唆しています。また、SeqCap EZ は長いハイブ リダイゼーション時間を要しますが、その分、他と比べて高 い回収率が得られています(後述)。SeqCap EZ が精度 の高いデータを意識して試薬やプロトコールをデザインしてい る一方で、他社のキットが優れている点もあります。例えば、 SureSelect(アジレント社)や TruSeq(イルミナ社)の試 薬はエクソーム濃縮及びライブラリ作製に必要な試薬のほ ぼ全てが含まれています。この点、SeqCap EZ はライブラ リ作製に必要なアダプターなどのオリゴ DNA を自前で外注 する必要があり、そのいくつかは修飾が必要なロングオリゴ DNA であるため、高価であるだけでなく、合成に時間が かかります(1 〜 2 週間)。その他に SeqCap EZ Human Exome Library v3.0 では、 非翻訳領域(UTR)にはプロー ブが設計されておらず、ハイブリダイゼーションの時間が他 社のエクソーム濃縮キットより長いためディープシークエンシン グまでの準備時間が長い(SureSelect, 3 〜 4 日 ; SeqCap EZ, 7 日)などの特色があります。このように各社のキットに は一長一短の特徴がありますが、我々は用途によって濃縮 キットを使い分けており、後述する精度の高いエクソーム解 析が求められる実験では均一な濃縮が可能な SeqCap EZ Human Exome Library v3.0 を選択しています。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 NC 1500 1000 700 500 300 100 25 精製後 精製前 ピーク高さ B 25 100 300 500 サイズ 25 100 300 500 サイズ 図2 アダプターダイマーが精製される例。(A)1∼7のサンプルでは100bp近傍にアダプターダーマート見られるピーク(赤枠)が検出される。 (B)サンプル7について、Ampureによる低分子核酸の除去。精製後は100bp近傍のピーク (矢印)が消失している。 図3 アダプターダイマーが精製される例。 (A)1〜7のサンプルでは100bp 近傍にアダプターダイマーと見られるピーク (赤枠) が検出されています。(B) サンプル7について、Ampureによる低分子核酸の精製後は100 bp近傍の ピーク (矢印) が消失しています。 2 シークエンシングの前にはライブラリのサイズを確認するだけ でなく、 KAPA Library Quantification Kits (日本ジェネティ クス社より入手可能)を用いた定量 PCR によって、ターゲッ ト領域の濃縮率(エンリッチメントフォールド)を決定してい ます。濃縮率計算用のコントロール領域とそれに対応するプ ライマーが予めデザインされているということは SeqCap EZ の特徴の一つです。エンリッチメントフォールド値、すなわ ち、4 か所のコントロール領域におけるハイブリ前のサンプル と作製されたライブラリの DNA 量の比は、おおよそ 100 倍 以上になると言われています。しかし実際の実験では、エン リッチメントフォールドの値が低い、あるいは最終産物の収 量が少ないことがありました。この問題は、洗浄のステップ で Wash buffer Ⅲを加えてからその上清を廃棄し、ライブラ リDNA を水で溶出するという一連の工程を遅延なく行うこ とで改善しています。Wash buffer Ⅲを加えて時間が経ち 過ぎると、プローブからライブラリDNA が剥離してしまうた めと考えられます。特に多サンプルを処理する場合には、こ の操作を一度に行うサンプル数を減らすことが効果的なよう です。多サンプル処理ではこの他に、クロスコンタミネーショ ンにも気を付ける必要があります。我々はこのリスクを最小に するために PCR 以外の操作を 1.5mL チューブで行ってい ますが、今後は自動化ライブラリ作製装置(NGS ワークス テーション , パーキンエルマー社)を用いることで、リスクなく 大量に処理することを検討しているところです。 シークエンシングには HiSeq2000(イルミナ社 , 100bp×PE, 11 日間)を使用しています。インデックスを利用することで、 1 フローセル当たり21 サンプルの解析を行っている計算です が、実際にはシークンサーのエラーというリスク回避のための 工夫として、42 サンプルの解析に 2 枚のフルローセルを用い ます。つまり、フローセルの 1 レーンをコントロール phiX に 用い、残りの7レーンには各 6 サンプル/レーンを、もう1 枚 のフローセルにも全く同じセットを調製しています。この方法 を用いることで、片側のフローセルにトラブルが生じても、他 方のフローセルの結果を先行して解析することができます。 SeqCap EZによる解析結果 エクソーム濃縮キットの性能は複数の方法で評価されます。 例えば、読まれたシークンスタグのうちプローブが設計され た領域(オンターゲット)の割合が分かれば、目的領域が いかに効率よく濃縮されているかを評価することができます。 また、シークエンスの読みの深さ(read depth)のばらつ きは変異解析を困難にすることから、読みの深さは均一で あることが理想です。このため、読みの深さの均一性も重 要な評価項目となります。例えば、読みが浅いリードは変異 解析に回すことができず、 (リピート配列やライブラリ増幅の 際のバイアスによる)読みが深すぎるリードが多いことはその 分、他の配列の読みが浅くなることを意味しています。すな わち、読みの深さの頻度分布を取ったときに、読みの深さ のピークトップは右側(大きい側)に、ピークの形はシャープ に図示されるデータが理想的です。図 4 に実際の SeqCap EZ の読みの深さの分布図を示しました。他社のキットに比 べて狭い分布を示しており、ピークトップも他社キットが 46 で あるのに対し、SeqCap EZ は 64 であるなど、より理想的 な濃縮が行われていることが分かります。 図3 読みの深さの均一性。 同一DNAをエクソーム濃縮してシーケンスした結果 500000 500 400000 400 千カウント ズにピークが検出された場合は、Agencourt Ampure XP beads(0.9×)を用いて低分子核酸を取り除いた後にシーケ ンシングを行っています(図 3)。ちなみに、平均 300 bp の ゲノム DNA 断片にアダプター配列を付加したライブラリのサ イズは 400 bp 強になると予想されますが、アダプター配列 の特殊性などの理由で、計算上のサイズより小さい位置に 検出されます。 300000 300 SeqCap EZ 他社キット 200 200000 100 100000 0 0 50 100 150 200 読みの深さ 図4 読みの深さの均一性。同一DNAをエクソーム濃縮してシーケンスした 結果。 なお、我々はシーケンスタグのマッピングから変異解析まで の一連のパイプラインを Galaxy (http://www.openhelix. com/galaxy) によって管理しています。これにより、種々の 作業の自動化が可能になっただけでなく、頻繁に行われる 各プログラムのアップデートによって解析の再現性がなくなる ことを防ぐことができます。 3 おわりに 参考文献 エクソーム解析は主に変異探索に用いられますが、目的に 応じたエクソーム濃縮キットを選択することは非常に重要で あると考えています。例えば、 新規変異の探索などのスクリー ニング的な目的の場合には、より広い領域をターゲットにして いるキットを用いるべきです。限られた予算で多くのサンプル をこなす場合には、安価なキットを選択する他、インデック スを付加した後にエクソーム濃縮をかけるプレプールキャプ チャー法も選択肢の一つとなります。ただし、プレプールキャ プチャー法では変異をもつサンプルのシークエンスタグが変 異をもたないサンプルのシークエンスタグに比べて相対的に 減少するかもしれない点を考慮する必要があるかもしれませ ん。 1. Clark MJ et al. Performance comparison of exome DNA 多サンプル間の変異解析を行う場合、サンプル数が増える に従い、全てのサンプルで共通に有効な読みの深さ(例: read depth >=×30)をもつ解析可能な領域は徐々に小さ くなっていきます。我々は、均一性という面で SeqCap EZ は最も優れた試薬であると考えています。今後、非翻訳領 域を含めたエクソン以外の領域も濃縮可能な SeqCap EZ 新製品が提供されることを期待しています。 sequencing technologies. Nature Biotechnology 29, 908-914 (2011) オーダー情報 製品名 製品番号 SeqCap EZ Human Exome Library v3.0 6 465 684 4 反応 6 465 692 48 反応 5 634 261 24 反応 5 634 253 96 反応 5 480 647 1 ml (06 465 684 001) (06 465 692 001) NimbleGen SeqCap EZ Hybridization and Wash Kit (05 634 261 001) (05 634 253 001) COT Human DNA, Fluorometric Grade (05 480 647 001) 注)各梱包単位はハイブリダイゼーションの実施できる回数で表示されています。 マルチプレックスキャプチャー法の利用状況により、サンプル処理数は変動します のでご注意ください。 ヒトエクソーム解析関連製品 製品名 製品番号 SeqCap EZ Human Exome + UTR Library SeqCap EZ Human Exome Library v2.0 4 反応 6 740 308 48 反応 5 860 482 4 反応 5 860 504 48 反応 6 740 189 12 反応 6 740 235 48 反応 6 740 243 96 反応 (06 740 294 001) (05 860 482 001) (05 860 504 001) (06 740 189 001) SeqCap EZ Human Exome Plus Library (06 740 235 001) (06 740 243 001) 本製品はライフサイエンス分野の研究のみを目的としています。 For life science research only. Not for use in diagnostic procedures. NIMBLEGEN and SEQCAP are trademarks of Roche. All other product names and trademarks are the property of their respective owners. 包装単位 6 740 294 (06 740 308 001) 本資料に記載の情報・説明・仕様等は予告なく変更されることがございます。 包装単位 ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社 AS 事業部(研究用試薬・機器) 〒 105-0014 東京都港区芝 2 丁目 6 番 1 号 TEL. 03-5443-5287 FAX. 03-5443-7098 www.nimblegen.com © 2011 Roche NimbleGen, Inc. All rights reserved. 1210C10-1
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