明日を見据えた北海道農業の在り方について(提言)

「明日を見据えた北海道農業の在り方について(提言)
」
―TPPに潰されない北海道農業の確立のためにー
2015年3月16日
特定非営利活動(NPO)法人
北海道地域政策調査会
はじめに
近年、社会や経済のあらゆる分野で国際化が進展しています。
農業分野でも、WTO(世界貿易機関)農業交渉、
FTA(自由貿易協定)交渉、
EPA(経
済連携協定)交渉など、貿易の自由化に向けた動きが加速化し、すでに 13 の国・地域に加
えて、オーストラリア、韓国とのFTA(自由貿易協定)は妥結し、最も影響が大きいTP
P(環太平洋経済連携協定)も、今春、大詰めを迎えようとしています。
ますます、国際化の進展による新たな課題への対応、北海道農業と他府県・産地間との競
争は激化し、それらに打ち勝つための本道農業の政策の在り方が問われます。
一方では、我が国は、出生率の低下、14歳以下の年少人口が減少する少子化と65歳以
上の老齢人口が増加する高齢化の進展により、農業分野、地域・農村の今後に大きな影響と
不安が渦巻いています。農業従事者の減少や、高齢化の進展による担い手の育成・確保、担
い手への農地利用集積に向けた課題の対策なども急がなければなりません。
これらのことは、
北海道も例外ではなく、農業・農村地域の過疎化や高齢化、混住化の進展による集落機能の
低下は、農地や農業用排水路の保全、地域コミニティーの維持、伝統文化の継承など、様々
な「地域資源」の今後に大きな影響を与えかねません。広大な本道で、農業・農村の持つ多
面的な機能の健全な発展が阻害されれば、必然的に起こる地域資源の枯渇による農業、農村・
農家の衰退は、道民の日々の暮らし、命と生活を脅かす大問題となります。
今こそ、生きるための食を満たし、命を育む農業の意義、安心・安全な農作物の価値、地
域の豊かな自然や美しい景観である農業・農村に対する都市住民の期待や関心が高まってい
る折りでもあり、農業従事者の減少、農家の高齢化、他府県・産地間との競争、そして、迫
り来る国際化の波にも負けない北海道農業の今後について、農業基盤の整備、地域・農村の
生活環境の充実を含めて、地域の自主自立に基づく活力ある農業・農村の将来ビジョンの策
定、地域づくりを急がなければなりません。
正念場を迎える北海道は、守りから攻めへ、まさに、明日を見据えた北海道農業の在り方、
今後を考える必要があります。
もくじ
川村喜芳 北海道地域政策調査会理事長 あいさつ ……………………………… 6
Ⅰ 講演 「TPPに潰されない北海道農業確立のため ………… 7
北海道新聞社編集委員、北海道大学客員教授 久田徳二 氏
(道新「出前講座」講師、分野「食と1次産業」、編集委員、
「あぐり博士と
考える食と農」シリーズ連載中)
Ⅱ 質疑・自由討論 ……………………………………………………………… 24
資料編
北海道農業・農村の現状と課題
平成27年1月 北海道農政部
2015 年春 民主党農業関係公約文書
連合北海道の農業政策
2014(平成 26)年度道政への「要求と提言」より
2013 年「真の農政改革」政策提言
2013年8月 北海道農民連盟
北海道地域政策調査会 勉強会
「TPPに潰されない北海道農業確立のために」
2015年3月2日 KKRホテル札幌
川村喜芳北海道地域政策調査会理事長あいさつ
農協改革につきましては、農協中央会を一般社団法人に組織替えをすると同時に、農協に
対する監査権や指導権を廃止する。それによって地域農協の自由な活動を促すというもので
して、安倍政権が政調戦略の一環として進めているようでありますけれども、賛否さまざま
な立場からの意見があることはご承知の通りです。
また、TPPにつきましては、5年前の平成22年に、当時の菅直人首相が参加の検討を
表明いたしました。その後の野田首相が関係国との協議に入ろうということを表明いたして
おりますけれど、2年前の平成25年には、安倍総理が、正式に交渉に参加するということ
を表明いたしまして、その年の7月から、アメリカをはじめとする関係国との交渉に入って
おります。
交渉の重要なテーマの一つになっていますのが、米、麦、牛肉、豚肉、乳製品等の、いわ
ゆる農産物5品目でございまして、ご承知のように交渉は難航していまして、昨年中には合
意に達するのではないかと見られていましたが、交渉は越年いたしまして、いまだに続いて
いるということは、ご承知の通りです。TPP交渉がどういうかたちで決着するのか、関係
者は、まさに固唾を飲んで見守っているわけでございます。
きょうは、その交渉の展望につきましても講師の久田徳二さんからお話を伺えるものと存
じております。
講演「TPPに潰されない北海道農業確立のために」
北海道新聞編集員、北海道大学客員教授 久田徳二 氏
道新でしばらく記者をやっておりまして、一次産業に興味を持ち、そこを掘り続けている
一人でもあります。きょう与えられたテーマは「TPPに潰されない北海道農業の確立のた
めに」です。これに関するスライドを見ながら話を進めていきたいと思います。
きょうお話しするのは、道新の社論とは違い、私の私論だということをご理解ください。
と言いましても、道新は、TPP問題に極めて慎重な、あるいは反対の立場をとっています
ので、ほとんど同じかなと思っています。
きょうはさらに踏み込んで言いますが、TPPは突入するだろうと思います。オール北海
道で反対していますが、東京やその他の大都市では、もう行くしかないというムードに満ち
あふれています。世論調査でも、反対が過半数を占めるような数字が表れていないことをい
いことに、短時間にバタバタと決まっていくかのように突き進んでいくのではないかと危惧
しています。
でも、本当にそうなった場合、北海道はどうしたらいいのかということが見えていません。
本当に北海道農業を守れるのか、TPPから脱却や脱退ということがありうるのか、その辺
が北海道の命運を左右すると思っています。
私は、そこに踏み込んで、どうすればTPPに潰されずに北海道農業が生き残れるのか、
あるいは逆に、TPPを潰せるのかというところまで、展望してみたいと思っています。
私の私論の一部ですから、これだけで潰せるとはいかないかもしれませんが、皆さんと一
緒に考えていきたいと思います。
いまTPPは延長戦の終盤
TPP反対の旗を降ろしてしまったら歯止めはなくなり、後は、国会決議ぐらいしかくい
止めるすべはなくなりますので、たぶん、すぐ突破されてしまうと思います。農林水産団体
や北海道などの地域が、頑として反対と言っているから、いまだに安倍内閣も大手を振って
は突入できないという情勢にあるのだと思います。
でも、行ってしまった場合どうするのかというのが問題なのです。
私は、いまの状況を延長戦の終盤と見ています。去年の米国の中間選挙で共和党が勝った
ので、情勢が変化しました。ご存じだと思いますが、議会にある通商権限を、一時、大統領
に預けるという法案が通過する可能性が高まってきました。今月中にもTPP法案を米国議
会に提案するという情報もあります。もし仮に通ったとすると、急速な展開をするのではな
いかと思っています。そのとき、日本国内から、そうはいっても国会決議があるではないか、
やめろ、ストップしろ、という声を削ぐために、
「農協の改革問題」が持ち出されてきたと
見ています。
実は、TPPの本交渉のわきで、これまでも日米の並行交渉をやってきましたが、そこで、
かなりのものが既に煮詰まっていると見ています。3月に大筋合意とか、5月にテキストが
完成するとか、あるいは秋にもサインがなされるとか、いろいろな情報がアメリカの政治日
程の都合で、ぼんぼん出てきますけど、これまでの観測は、どんどん延期になってきました。
年内合意があるとか、年度内合意だとか、何回も浮上しては消えています。
しかし、ここにきて、先ほど私は終盤と言いましたけども、非常に危険な水準に近づいて
きたと思っています。カナダを除外して合意するとか、
GDP(国内総生産)などを見ても、
TPPは圧倒的に日米の問題であり、実質的には、日米のEPA(経済連携協定)ですから、
両国が、手を握れば実現してしまうという状況があるのではないかとも見ています。
なぜ、ここまで長期戦になったのかというと、去年も一昨年も年内合意と言われながらク
リアしてきたわけですが、背景には三つの要素があると見ています。一つは、交渉自体が非
常に難しく難航しているということ。二つ目は、米国内の情勢。三つ目は日本の国会決議と
世論です。
少し解説しますと、ウィキリークスが暴露した知的財産の章を見ると、カッコ書きがあり
まして、これは決着していない部分です。スライドを見ていただきますと、この問題につい
ては、ニュージーランドとカナダ、シンガポール、チリ、マレーシア、ベトナムが賛成し、
アメリカと日本が反対していると書いています。こういう部分にカッコがあるのですが、こ
うしたカッコが知的財産権の章だけで941カ所もあるというぐらい難航しているのです。
全体で21章ありますが、主に、知的財産とか、原産地規制、物品市場アクセス、政府調達、
競争政策、環境、などが難航分野と指摘されています。ようするに、関税だけの問題ではな
いということです。
知的財産問題がなぜ難航しているかというと、主に新薬メーカーの独占販売期間の延長の
問題です。途上国はジェネリック薬品を作るのが遅くなりますから反対している状況です。
それから、国有企業改革問題では、マレーシアやベトナムが反対しているかえらです。
溝が大きいのは投資のISDS条項で、豪州やマレーシアなどが強烈に反対しています。
ですから、全体状況から見ますと、まだまだ、全体がまとまったとは思えませんが、関税分
野で日本がどんどんアメリカに対して譲歩していますので、
危ない面もあるということです。
アメリカ国内の強い反対
二つ目の問題には、長期戦の背景にある米国内の反発というのがあります。実はアメリカ
の世論は反対論が多いのです。民主党がそれを受けて、大統領に強い通商交渉権限を与える
TPA(貿易促進権限)法案を通さないのです。上院も下院も民主党の場合、過半数がTP
A反対という状況がありますからそうやすやすと突入できないということです。与党民主党
の、下院の4分の3は反対となっていますので、今日現在、可決されていません。
絶対反対の国会決議
三つ目の問題は、皆さんご存じの日本の国会決議ですけども、絶対反対の旗を降ろしてい
ませんので、容易に突入できる状況ではありません。日本は、東京ではTPPって、
「そん
なもの終わっているじゃない」という感じですが、地方は慎重論、反対論が非常に強いわけ
です。
政府は「守るべきものは守る」と繰り返していますが、内容が示されていないわけで、何
を守るのか分からない状況がずうっと続いています。条約案も議事録も一切秘密にされたま
までして、一昨年、マレーシアの会合から交渉に参加していますが、その時点から秘密保持
契約というものにサインをして、この閣僚レベル交渉でも、事務レベル交渉でも、そこで得
た情報は一切漏らさないという約束をしたようです。
ニュージーランドの交渉官などの話から漏れ聞くところによりますと、その秘密保持契約
は、全交渉参加国に同じようなサインを求められていて、交渉のテーブルに着くには、その
サインをしなければ着けないということになっています。条約がもし締結された場合でも、
その後、4年間は秘密にされるという、異常な秘密交渉なのです。
このように、交渉が非常に難航してきたので、容易にはならないと思うのですが、まず、
大筋で合意しましたということを、大きな国が宣言をしてしまうという手があります。それ
で、TPPは、もう行くのだというムードを世界につくりあげていくということが、まずな
されるのではないか。
例えば、今度のゴールデンウイークの日米首脳会談なんかが危ないのではないかと見てい
ます。そのような決着の動きがこのところ、どんどん出てきていまして、日米の交渉官も、
全部が全部守れるわけではないよと、盛んに言っていますし、最近では、TPP枠というも
のを新たに設けて、米でも牛肉でも、いままでの関税の枠とは違うところで輸入する枠を設
けるという案も報道されています。
どういう選択肢があるのか
これから先、日本はどういう選択肢を目の前にするのかといいますと、まずは、条約に合
意するのかどうかということです。
たとえ、日米が首脳会談で合意したとしても、守るべきものは守りましたといっても、そ
のときには農業団体を中心に反発するはずです。しかし、
「国会決議違反ではないか」とか、
関税をなくしすぎではないかと言っても、
「交渉全体を総合的に見まして」などと言って、
強引に引っ張っていくのではないかと思います。
その後やってくるのが国会批准です。条約ですから必ず通ります。このときに、国会決議
はどうなったのかという話が必ずあります。また、どんな条約を批准するのかと必ず問われ
るわけです。そのときに、国会に、条約の中身がちゃんと出てくるのかどうなのか、A4版
の紙でこんなに分厚い内容がある条約ですが、全部出てくるのかどうか。また、出てきてか
ら何カ月間かけて議論するのか、国民にはどこまで知らされるのか、ということが非常に問
題なのです。
仮に、批准が通って、日本が締結することになった場合も、交渉撤退、条約破棄は、どん
な条約にもこういう条項はありますから、撤退や破棄は批准後でも可能なはずです。いろん
な選択肢がこの先、日本にはあるのだということだけは覚えておいてください。
つまり、私が強調したいのは、今年のゴールデンウイークで大筋合意したとしても、それ
は日本がTPPに行くということにはなりませんよ、ということを言いたいわけです。いつ
でも交渉から降りられるし、できるだけ早く降りた方がいいわけです。
また、
要注意なのは、本交渉だけではありません。
並行交渉や、
こないだ、
TPP交渉の陰で、
日豪EPAというのが締結されましたが、これだって国会決議違反です。こういうものが要
注意なのです。本交渉が破綻しても市場開放は進めるだけ進めるという仕掛けだと、私は見
ています。並行交渉とはそういうものです。これはアメリカの意図というか、
欲望というか、
ズタズタになったアメリカの経済を、
輸出で引っ張っていこうというのがアメリカの意図で、
それに日本が協力させられようとしているわけです。
もう一つは中国との関係です。太平洋地域でアメリカのきちっとしたプレゼンス
(影響力)
を維持したいというのが、米国の戦略の基本だと思います。そのために経済力をつけるしか
ないということでTPPがあるわけです。
日本の側も、多国籍企業が同じ夢を見ているわけです。国内の経済がどれだけ空洞化して
も、生産を外に持っていって稼げるだけ稼ぐという、安い労働力と地代を求めての行動だと
思います。
日本経済新聞に一昨年の正月に紹介された記事で、トヨタ自動車はこれからどんな会社に
なりますかと問われたとき、そのときの社長が、世界のどんな経済の事態にも対応できるよ
うな、機動的な会社になっていく、という趣旨のことをおっしゃいました。どういうことか
というと、どこにいても、トヨタは世界で稼ぐ、どこにいても、どこにもいないのと同じよ
うな会社になるという話なのです。分かりやすくいうと、A国でタイヤを作り、B国でハン
ドルを作って、C国でボディーを作って、D国で組み立てて、一番高く売れるE国で売ると
いうようなことです。これがいま、トヨタが進めている戦略でありまして、どの会社もこの
ようなことを目指す時代に入ってきました。
こういう仕組みを成り立たせるためには、A国とB国、B国とC国の間に関税があっては
困るわけです。一番安く作れるところで作って、一番高く売れるところで売らなくてはなら
ないという、この戦略が日米の、多国籍企業の頭の中を占めていると、私は見ていまして、
農業も例外ではありません。
これは、先月の日経新聞ですが、住商が世界で農家を支援するというのです。支援といい
ますが、要は買収するわけです。農薬、肥料から資材供給、資金の立て替えなど金融面も含
む農業生産者の支援事業を世界で展開するというのです。それで、
ブラジルの農業資材大手、
「アグロ・アマゾニア」を買収したというのです。こういうことが進んでいくと、先ほどの
トヨタと同じことです。こうした力が、いまのTPPを動かしていると思っています。TP
Pの前から続いてきた問題でもあります。
もし、このまま突入していった場合、一番大きいのは、重要農産物の関税を守りきれない
可能性があり、国内措置はまったく見えない状態だということです。これは自民党などがつ
くりあげた新農政というものなのですが、要は、6次産業化だとか輸出促進などと言ってい
ますが、私は、全体を見て、いままでの農政とそんなに変わるものではなく、これでTPP
から日本農業を守ることは難しいと見ています。
戦後一貫して続いてきた規模拡大一辺倒の農政から、はみ出ていないわけで、何より、T
PPのマイナス効果を軽視し、北海道をはじめ農業生産地域がどれだけの打撃を受けるのか、
それをどこまでカバーしうるかということが、まったく見えていないのです。このまま突入
したら大変です。
TPPから日本の農業を守る3つのヒント
TPPが成立したとき、どうしたら日本農業を守れるか、私が考えた3つのヒントをご説
明したいと思います。
①もくもくファーム
一つ目は、「モクモクファーム」です。
三重県伊賀市にあり、農業の6次産業化の全国最先進例として注目されています。名前の
「モクモク」とは忍者が用いた煙幕をイメージしたものだそうです。約30年前の1987
年、16戸の養豚農家が組合を設立して加工場などをつくりました。加工場だけでなく、加
工品の手作り体験館や、地ビール工房とレストラン、温泉や宿泊施設もある。学習牧場があ
り、パンも焼いていて、すごい食の教育ファームなのです。
近くの農場で作ったものを、ここで加工して、直売やネットで販売しています。工場長は、
ドイツで5年の修行をし、ウインナやハム作りに精通したと聞いています。ミニブタショー
というのをやっていまして、多くの観客が集まってきます。ショーといっても、小さい豚が
滑り台を降りたりするだけなのですが、それでも、多くの人がキャーキャー言って喜んでい
るのです。
私が面白かったのは学習牧場で、学校の教室のように机や椅子があり、そこに座って、ど
うやって牛乳ができるのか、黒板の板書を見ながら勉強するのですが、
「それでは、実際に
見てみましょう」と先生が言うと、黒板がズルズルと上がっていって、中から本物の牛が出
てくるという画期的な教室です。そこで、搾乳体験までできてしまうのです。
手作り体験館では、子どもたちがウインナ作りをしています。いろんな加工品をここで作っ
て勉強します。
宿泊施設は素敵なコテージで、私も泊まりましたが、翌日の朝、家畜の餌やりを体験でき
ます。
近くに直営の農場がありまして、そこには、市民農園と生産農場とがあって、そこで野菜
を採って来て、ここで、みんなで調理してパーティーをやります。私が訪ねたときには、大
阪のホテルのシェフが集まって野菜パーティーをやっていました。ゴルフ場のゲストハウス
のようなところで、とても素敵なところでした。
伊賀市内には「ハハトコ食堂」があり、名古屋JRセントラルタワーの上の方の階には、
そのフロアで一番売り上げが高いという「モクモク直営農場レストラン」があります。
モクモクファームには、休日には1日2000人、年間50万人が訪れます。大阪や名古
屋の直営飲食店や直売店を計11店持っていまして、売り上げは、ファーム、外食、通販の
3部門で50億円。正社員320人。これが大事なのですが、全国にモクモククラブ会員
4万世帯を持っています。モクモクのファンクラブで、会員になると、通販のお節料理や、
クリスマスオードブルとか、いろいろなものの案内が送られ、直売所の割引券などがもらえ
ます。全国で食育が一番進んでいるといわれるファームで、その食育体験などが優先的に受
講できる特典などがあります。
モクモクファームの木村修社長は「農家が自分で加工販売するということは、価格決定権
を持つということです」と語り、専務の吉田修さんは「大衆ではなく分衆に売るのです」と
言います。また、社長は「われわれが目指すのは、単なる安全安心の地域ブランドではなく、
愛着ブランドです」という言い方をしていました。 (11 頁へ続く)
■参考資料 北海道新聞日曜版2011年12月 18 日 掲載記事より
<旅 見る聞く探す> モクモクファーム(三重県伊賀市)
食と農の“テーマパーク”
「伊賀(いが)の里モクモク手づくりファーム」
。その謎めいた名の農園は紀伊半
島の山中、三重県の伊賀盆地にある。伊賀と言えば忍者の里。江戸期の「伊賀者(も
の)
」たちは普段、ここで田畑を耕し、有事に出動したらしい。
「モクモク」の名は、
忍者が用いた煙幕をイメージしている。
名古屋市から西へ車で90分。刈り取り後の棚田。だいだい色の柿の実。本州の
山里の典型的風景を眺めながら走ると、ファームが姿を現す。山に溶け込むログハ
ウス群の自然な木質感もまた「モクモク」の由来だ。
1987年。この地で「伊賀豚」を飼育していた16戸の養豚農家らが農事組合
法人を設立、ハム工場を建設した。薫製で立ち上る煙。それが「モクモク」の名の
三つ目の由来だった。
この法人が、食肉に続きパンや乳製品の加工販売、ソーセージ手作り体験、貸農
園、レストラン、宿泊、温泉なども順次手がけた。親子で遊びながら食と農を学べ
る“食と農の体験テーマパーク”は、日祝日に1日2千人、年間50万人が訪れる
一大観光地に成長した。
名古屋、大阪などに直営飲食店と直売店計11店。通販やイベント、援農に参加
できる会員は全国に4万世帯。年間売り上げは《1》ファーム事業《2》外食《3》
通販の3部門で計50億円に達する。正社員140人を含めスタッフ320人。毎
年数人の入社試験は約100倍の難関という。
農林水産物を生産する1次産業者が、
その生産物を用いて加工
(2次産業)
や販売・
観光(3次産業)まで担う新産業形態を、6(=1×2×3)次産業と言い、農水
省が提唱。全国最先進例の一つが「モクモク」だ。では、食と農の魅力いっぱいの
“煙”の中を探検してみよう。(文・写真 久田徳二)
【写真説明】公園の中央付近にある芝生広場と、
レストラン
「BuuBuu
(ブーブー)
ハウス」(左の3棟)、屋根上に「風見豚」が回る「ぶたのテーマ館」
(右奥)
、豚が
芸を演じるミニブタショー劇場(右手前)
。この丘から北東を向くと、紅葉に彩ら
れた周囲の山々と、遠くの鈴鹿山脈も眺められる
■消費者との絆 理念に
14ヘクタールの園内には入り口付近の無料ゾーンと、奥の広い有料ゾーン(3
歳以上入場料500円)がある。
無料ゾーンにはハムやビールなどを販売するショップ、野菜や豆腐を販売する市
場、レストランのほか、温泉やカフェなどが並ぶ。
有料ゾーンへ。山の斜面に広がる園内の樹間を細い坂道が縫う。豚舎が現れ
る。ミニブタ18頭のねぐらであり野外劇場の楽屋。豚たちが1日2~3回の無料
ショーで演じる。
階段を上がった所にレストラン。豚を見ながらのバーベキュー(有料)には抵抗
感も?と思いきや、客たちは大いに盛り上がっている。園内醸造の地ビールの泡も
飛び交う。
奥には園の顔のビアレストラン。農場産野菜の料理など約60種類を有料で食べ
られる。隣接のパン工房からは、パンやクッキーを焼く香り。
食とともに「モクモク」の事業の柱は食農教育。英国の教育ファームをモデルに、
羊毛紡ぎや乗馬など多様な体験項目に取り組んでいる。
学習牧場(無料)には驚いた。教室で授業を受けた直後、黒板がガラガラと上が
り、目の前の舞台に本物の牛が現れたのだ。受講生が舞台に上がり搾乳を体験する。
大阪から来た女子学生(21)が「乳が勢いよく出て驚いた」と目を丸くしていた。
また、園内に三つある「手づくり体験館」ではウインナーやプリンの作り方を講
10
師が教える。1日最大千人が受講できるが、週末は予約で満員。イチゴやシイタケ
の温室では栽培を学び収穫し食べられる。
園内各所にハンモック、イカダ乗り、ザリガニ釣りなどの遊びゾーン。子供たち
がリピーターになる。
宿泊施設は5~8人の家族で泊まれる円筒形のコテージ。36棟が坂に並ぶ。1
棟1泊2万~2万2千円。ファーム近くの生産牧場で早朝、ジャージー牛の搾乳を
体験するなど宿泊者用食農学習プランも。
ファームから車で25分の「農学舎」
(伊賀市予野矢原(よのやはら)
)は、66
平方メートル150区画の貸農園と5ヘクタールの生産農園。
11月末のある平日、
日帰り農業体験に参加した来園者たちが畑で野菜を収穫し、瀟洒(しょうしゃ)な
クラブハウス内で料理を楽しんでいた。この日のメニューは「秋野菜ロワイヤル」
「ロール白菜」など。京都から参加したホテル支配人の二村靖彦さん(34)は「イ
モ以外の収穫は初めて。楽しく、おいしかった。広々とした景色もいい」と充実の
表情だった。
これほど多様な施設、取り組みが集積している農業公園は国内に例がない。名古
屋と大阪から車で90分の日帰り可能な距離。親子で農業と食の楽しさを味わえる
場としてすっかり定着した。子供の遠足や修学旅行の目的地としても人気だ。視察
は年間400件に達する。
法人創設者の一人、木村修社長は語る。
「土台の農業と物作りの上に、縦糸の食
と横糸の食育を編んでいる。食はおいしさと安全の両立に徹底的にこだわっている。
目指すのは地域ブランドの一つ上の『愛着ブランド』
。直接支えてくれる消費者と
の結びつき。農産物市場のグローバル化に勝てる道はそれしかない」
「モクモク」の理念に共感し就職したスタッフたちの目は輝いている。やりたい
職種に就く「手上げ方式」、社員持ち株制度なども、組織運営のあり方として注目
されている。パワーあふれる「モクモク」の次の目標は「福祉・教育・ス ローフー
ド・医療」(木村社長)。全国各地の事業化支援も広げている。
(9頁から続く)
②京都の都市農業
二つ目のヒントは「京都の都市農業」の話です。
京野菜を中心にした話ですが、京野菜は京都の観光には不可欠なものになっています。い
まや和食が世界遺産になりましたが、その運動を支えたのは、京野菜を開発して売り出して
いったメンバーなのです。錦市場の様子を見ると、加茂茄子(かもなす)や、聖護院キュウ
リとか、万願寺トウガラシ、聖護院ダイコンなどが並んでいます。この市場だけではなく、
八百屋という八百屋にはこういうものが並んでいますし、
「京の伝統野菜」37品目、
「京の
11
ブランド産品」24品目が指定されていて、
「京のふるさと産品協会」が、京野菜とうたえ
るものはどういうものかと、厳しく設定しています。
「京野菜マイスター」という京野菜の達人たちがいます。生産者、
流通業者、
料理家たちで、
和食を世界遺産にした貢献者といわれる「菊乃井」の村田吉弘さんや「たん熊北店」の栗栖
正博さんらがいます。
ここに名前のある生産者の田鶴均さんや森田良彦さんにお会いしてきたのですが、田鶴農
場は1ヘクタールで、その内0. 3~0. 4ヘクタールは自家飯米を作り、残りで50種以上
の野菜を作っています。一畝一畝、野菜の種類が違う少量多品種栽培です。
ここに腐りかけた賀茂茄子があったのですが、種を取るために大事にとってあるものでし
た。京都は、農家一戸、一戸が独立していまして、絶対に隣の家には入らないということに
なっています。それは、一戸、一戸が、ずうっと違う種を自家採取しています。200年、
300年、あるいは1000年と自分のところの種で栽培しているので、隣の農家と違う種
を持っているわけです。
下賀茂の住宅街に、最近開店した日本料理店「萬川」を訪ねました。民家の居間のような
ところですが、万願寺トウガラシとか、鹿ヶ谷カボチャ、賀茂茄子などが、とてもおいしそ
うな料理になって出てきます。驚いたのは、品書きに農家の名前が入っているところです。
外食産業のレストランで農家の名前を見たのはこれが初めてでした。
京都は、フランス料理も中華も、どこに行っても京野菜づくしです。ホテルも京野菜を売
らなければ京都ではやっていけないという感じになっています。
加工品もあります。京野菜シュークリームというのもありました。
このように京野菜が安定して作られているのには理由があります。
京都は碁盤の目のようになっていて中心部に都市住民がいて、その周りに都市近郊農業が
あるわけです。その都市近郊農業のおじさん、おばさんたちが、自分の野菜は市場に出さず
自分で売りに行くというやり方をしています。
「振り売り」と言いますが、昔は頭の上にカ
ゴを載せ、あるいは、天秤棒や大八車でしたが、いまは軽トラックに野菜を載せて、自分の
顧客である、特定の都市住民の所へ戸別訪問で行くわけです。辻売りもやるのですけど、
めっ
たなことではほかの人には売りません。
「このキュウリは佐藤さんのおばあちゃんのところ
に持って行くキュウリだから」と言って、売ってくれないのです。一戸一戸の都市住民の家
族構成から食の好みまで知っているというのが驚きです。
この農家の人たちは、決まった都市住民にしか売らないといい、住民は、決まった農家か
らしか買わないという、ミニマムマーケットが出来上がっているのです。これがいっぱいあ
るわけで、この京都農業は、絶対にTPPには負けないだろうなと思います。 (15 頁へ続く)
12
■参考資料 2011年 10 月 9 日 北海道新聞朝刊(日曜版)掲載記事より
<旅 見る聞く探す> 京野菜(京都市、京都府内)
観光彩る郷土の食材
「京野菜」と聞いてどんな野菜の顔が浮かぶだろうか。真ん丸のかわいい「加
茂茄子(かもなす)」。ひょうたんの形をした「鹿ケ谷南瓜(ししがたにかぼちゃ)
」
。
市内の小さな地域や寺院の名がついた「九条葱(くじょうねぎ)
」
「聖護院大根(しょ
うごいんだいこん)」「壬生菜(みぶな)
」など?。
「京野菜」とは、ひと言で言うと「京都らしい野菜」
。今や京都ではすぐに出合え
る。中京(なかぎょう)区四条通(しじょうどおり)に近い京都市民の台所、錦市
場(にしきいちば)には八百屋さんや漬物屋さんがひしめき、京野菜は一番目立つ
棚で売られている。
最近では地下鉄の駅にもコーナーがあり、
勤め帰りにも気軽に買える。先斗町
(ぽ
んとちょう)など京都の繁華街で、メニューに京野菜を入れているのは、居酒屋を
含め飲食店の大部分と言っていい。
中心部にも郊外にも老舗の和食店や中華、洋食のレストランが数多いが、その多
くが京野菜をメニュー化している。
例えば洛北の上加茂(かみがも)地区。
「萬川(まんかわ)
」
(北区上加茂菖蒲園町)
は京都の家庭料理「おばんざい」を提供。
「万願寺唐辛子(まんがんじとうがらし)
の炙(あぶ)り焼き」はしょうゆとかつお節をかけた一品料理。
「丸ごと加茂茄子
のチーズフォンデュ風・伏見(ふしみ)唐辛子スティック添え」は和とイタリアン
がマッチしている。フレンチレストラン「エヴァンタイユ」
(左京区岩倉西五田町)
の「野菜コース」は約20種の野菜を盛った皿が人気だ。
加工品も多彩。「クレーム デ ラ クレーム」
(中央区烏丸(からすま)竹屋町
少将井町)は「京野菜シュー」を開発。
「加茂茄子」など春夏秋冬ごとに各3、4
種のシュークリームをそろえる。このほか
「京野菜カレー」
をはじめ、
ジュース、
スー
プ、あめ、煎餅など多くの食品の原料になっている。
「京野菜」はまさに、京都観
光の看板になった。
(文・写真 久田徳二)
【写真説明】
「萬川」のテーブルに並ぶ京野菜料理。
手前中央が
「丸ごと加茂茄子のチー
ズフォンデュ風・伏見唐辛子スティック添え」
。右が「加茂茄子の田楽」
。二つの間
が「万願寺唐辛子の炙り焼き」。奥に並ぶのが調理前の生野菜。左から鹿ケ谷南瓜、
万願寺唐辛子、紫ずきん(大豆)
、加茂茄子など
伝統ブランドの先駆者
「京野菜」という名は実は新しい。1988年に生まれたばかりだ。それ以前は
「京
都の当たり前の野菜」にすぎなかった。それが、機械生産と市場流通に合う主要品
13
種に押され、一時は衰退していく。
府やJAなどでつくる「京のふるさと産品協会」の松井実常務理事は京野菜の歩
みを振り返る。「コメの生産調整が始まった70年に転機が訪れた」という。中山
間地域が7割を占め、平均0・9ヘクタールと小規模の京都府農業。
「これからは
野菜しかない。限られた面積で、野菜でいかに稼ぐか」-。この一点で、関係者が
知恵を絞った。
一方、京都の老舗料理店などが「野菜の危機」を憂えた。
「昔の味がしない」と、
伝統野菜の復興を訴えた。生産者と利用者が同じ方向を向いて、普通の野菜を高級
野菜に変える戦略が練られていく。
88年。府や農協、料理人などがブランド推進戦略を策定。翌年から事業をスター
トさせた。その基本は、少量の高品質野菜を“えりすぐり選手”として首都圏中心
に売り込み、全国にその名と高級イメージを発信する、というものだった。えりす
ぐりとともに、その他の京都産野菜の単価も、上がっていった。
京野菜の定義は、実は少しややこしい。
「京の伝統野菜」
(37品目)と「京のブ
ランド産品」(24品目)の二つに大別される。伝統野菜とは、明治以前から府内
で栽培されている野菜で、絶滅した2品目も含まれる。ブランド産品の基準は《1》
京都らしく他産地に対し優位性がある《2》有機肥料主体で低農薬栽培《3》一定
以上の生産量があり農協扱い品目-など。
しかも品質で最高の
「秀」
に限られている。
この両方が重なる「伝統野菜かつブランド産品」に属するのが13品目で、先の
加茂茄子など5品目はいずれもここに属するいわば京野菜の代表格だ。他に「京た
けのこ」
「聖護院かぶ」
「京みず菜」
「京山科(やましな)茄子す」
「伏見唐辛子」
「海
老芋(えびいも)」「堀川ごぼう」「くわい」がある。
林水産物を含め、ブランド産品には認証基準と認証マークを作った。高品質し
か認めなかった。生産、流通、調理の各分野で「京野菜マイスター」
(現在27人)
がブランド化をリードした。4年前から「京野菜検定」を毎年実施、計856人が
受検した。「旬の京野菜提供店」に208店を認定。料理教室も繰り返した。府民
にブランドが浸透した。
こうした運動の結果、初年度7品目だったブランド産品の販売品目は現在24品
目。販売額は29倍の11億1243万円に達した。名実ともに全国の「伝統ブラ
ンド野菜」の成功先駆例となった。都道府県別農業生産額は、2008年度までの
20年間で軒並み減額しているが、減額幅は京都府が全国で4番目に小さい。同期
間に同府の野菜生産額は13・6%増えており、
府は「野菜が農業を支えている」
(農
林水産部)とみる。
「京野菜」は「北海道野菜」の対極にある野菜だ。北海道野菜は、大量生産され
大型小売店で大量販売される場合が多い。一方、京野菜は少量多品目生産で、消費
者や飲食店への直売が多く、単価が高い。背景には、自ら品種改良し、先祖代々自
14
ら種子を保存してきた農家の努力と、その野菜を代々食べ支え、肥料も提供してき
た京都という都市の存在があるのだった。北海道農業が学ぶべき点もまた多いと感
じた。
(12 頁から続く)
③地域が支える農業…CSA(Community Supported Agriculture)」
三つ目のヒントは「CSA(Community Supported Agriculture)
」
(地域が支える農業)です。
長沼の「メノ・ビレッジ」をご存じでしょうか。ぜひ、視察をしていただきたいと思うの
ですが、農産物を市場に売るのではなく、会員で分け合う仕組みと言えば理解が早いかと思
います。私が最初にCSAという仕組みを知ったのは、20年前のアメリカでした。フルベ
リーファームというところで3週間ぐらい働きながら調査をしました。完全な有機農業で、
農薬は一切使わず、鍬を使って除草をします。
「ホースダウンフェスティバル(Hoes Down Festival)
」
(収穫祭)では都会の子どもたち
が遊びに来て歌を歌ったり、菓子を作ったり、楽しい祭りをやっています。私が入った農家
は、昼食はみんなが交代で作っていて、自分のところで採ったオーガニック食材を料理しま
す。ここは3戸の農家の共同経営だったのですが、彼らはバークレーやサンフランシスコの
方まで行き、ファーマーズマーケットという所で自分たちの野菜を売っていましたが、もう
一つは、CSAという仕組みで、自分たちの会員に野菜を届けています。休日は、たっぷり
音楽を楽しむという、非常に余裕のある農業だなと実感しました。
こうしたCSAは北米に1万3000カ所もあり、非常に広がっています。全米で一番大
きいのが、「Farm Fresh To You in Capay Vally」で、都会の1300家族を会員にして、そ
の家族のためだけ売るという仕組みを確立しています。
農家は市場価格で泣いたり笑ったりするのですが、それに左右されない、つまり、常にかか
る労賃や燃料費などの経費を確実に回収する仕組みを、このCSAの中では実現をしていま
す。
長沼のメノ・ビレッジの場合は、会員数80人で、これが減りも増えもしません。これが
一番適正だということで変えていません。80人で総経費を割って当分に負担するのです。
その結果が、1人年間3万7800円(2013年)です。これを種まき前、生産を開始す
る前に納入して年間所得を保障するわけです。今年は何と何をどれだけ植えます。どれだけ
経費がかかりますというのを農場側が発表して、みんなでよろしいとなったら、それを払い
ます。生産を開始する前に生産費を回収できるのです。不作でも払い戻しせず、豊作でも追
加徴収なしというシステムです。野菜の提供は各週ですが、
軽トラで札幌の会員に届けます。
アメリカと同じシステムです。
メノ・ビレッジでは、会員らがみんなで田植えをして、その後に餅をついてみんなでご飯
を食べたりして楽しんでいます。
15
CSAは日本の国内では7つほどと、まだ多くありませんが、道内には3つあり、最近、
札幌で1つ増えて4つになりました。
■参考資料 2013年7月27日 北海道新聞夕刊(札幌)掲載記事より
<編集委員報告> 久田徳二 市場グローバル化に飲まれない
16
効率や品質で勝つ農業か地域に根ざした農業か
これまでに挙げた3つのヒントが何を意味しているか。
モクモクの社長は「地域ブランドを超えた愛着ブランド」と言っています。京都では、都
市消費者と近郊農家の強い結びつきが京都農業の底力でした。
CSAは会員制で小さな経済、
自給的経済です。共通するのは消費者との絆が強い経営で、これこそが、グローバルに飲み
込まれない自立的な経済ではないだろうかということです。
それから「囲い込み」ということに成功しています。
モクモクファームは「分衆」に売る愛着ブランド、京都は「自分の知り合い」にしか売り
ません。CSAも「会員」にしか売りません。この会員たちは価値を正当に評価して地物を
支持するという仕組みを支持しているわけで、
そういう消費者の囲い込みに成功しています。
それが価格の維持を支えています。ものづくりを徹底し、自給的自立的経営を確立し、こ
れが適正な価格ですということを支持してくれる消費者の囲い込みに成功している。
ここに、ヒントがあると思っていまして、これからTPPに行くにしても行かないにして
も、グローバリズムは進んでいくでしょう。それに対抗はしていきますが、どう対処したら
いいのかが、これからの戦略です。
日本の農家が生き残る道は、外国のアグリ企業に効率や品質で勝つ農業なのか、外国のア
グリ企業に翻弄されない地域に根ざした農業なのか、私は、どちらかしかないと思っていま
す。皆さんはどちらを選ばれるでしょうか。
これを考えるとき、いろんなことを考えておかなければなりません。①北海道はどういう
力を持っているのか②消費者は何を考えているのか③どのような市場を想定するのか④持続
可能な農業の要件は何か─ということが非常に大事だと思っています。
適正な価格でちゃんと買ってくれる人がいれば、農家の再生産は可能になって農家は維持
される。北海道農業のレベルは維持されると思います。これが、持続可能な農業の、最低限
の要件だと思います。
北海道の自給率は200%で、550万人道民の2倍、1100万人を支えるだけの力を
持っています。これは全国の1割に当たります。ということは、北海道が全国の1割の人を
味方に付ければ北海道農業のレベルは維持できるということになります。
例えば、
大豆は5%
の自給率しかありません。でも全部、北海道で生産しています。5%の大豆を売り切れば北
海道の大豆は維持できるということです。日本の4割を救うレベルまで日本の農業を維持で
きれば、いまの日本の農業は維持できるということになります。もっと自給率を高めなけれ
ばなりませんが。最低限、これだけのものを売ればいいわけです。
食の安全と食料自給への不安
では、消費者はいま何を考えているのか。量的に不安になっています。つまり、食糧危機
17
がくるのではないか、私の食べるものはあるのかしらと。また、遺伝子組み換えなど、食の
安全の問題について、関心が非常に高まっています。きょうは、
「TPPと食の安全」とい
う本をお持ちしましたが、詳しくはこれを読んでいただきたいのですが、消費者は食の安全
について、非常に危機感を持っています。
一昨年の10月、フランスのカーン大学が発表した研究結果がショッキングです。遺伝子
組み換えトウモロコシだけを与えたラットと、
同じトウモロコシに除草剤「ラウンドアップ」
を与えたもの、除草剤「ラウンドアップ」だけを与えたものを比べました。いずれも大きな
腫瘍ができています。詳しくは、ぜひ、この本、
「TPPと食の安全」
(北海道農業ジャーナ
リストの会編集・発行、頒価400円)を見てください。
このように、消費者は食の安全について非常に不安を抱いており、6割の人が輸入食品の
安全性に不安を持っています。ですから、消費者は、結構追い込まれていまして、気づいた
人はネットでいいものを探して買っている。あるいは、信頼する農家と友だちになって信頼
できる農産物を手に入れています。
究極は自分で作るというもので、最近は市民農園が非常に流行っています。
「サッポロさ
とらんど」の市民農園は8倍の競争率だといいます。食の安全の究極のかたちが自給である
ことに、消費者が気づき始めているのではないでしょうか。
内閣府の調査ですが、食糧の自給と輸入に関する意識の推移を見ると、
「外国産より
高くても生産コストを引き下げながら、できるかぎり国内で作る方がよい」がトップの
53. 8%。
「外国産より高くても、少なくとも米などの主食となる食料については、生産コ
ストを引き下げながら国内で作る方がよい」が2番目の37. 8%。
「外国産の方が安い食料
については、輸入する方がよい」は、わずか5. 1%にすぎません。
ようするに、食料は国内で作った方がよいと考えている人の方が圧倒的に多いわけです。
ところが、消費者に聞いているのですが、自分が食べるかどうかを聞くと、少し事情が変わっ
てくるのです。
2011年11月の道新の調査ですが、
「価格だけを重視して安ければ輸入品を買う」は
1%ですが、「価格が安く、品質や安全性が確認できれば、輸入品を買う」が52%にもな
ります。
つまり、消費者は、食糧は国内で作った方がよいと考えていますが、自分が買うかどうか
についてはいろいろなことを考え始めるわけです。結局、どうなるかというと、きょうは道
産のジャガイモを食べるが明日はマクドナルドを食べ、明後日は吉野家の牛丼でいいという
感じになってしまっているのです。
つまり、安ければ買う、「安ければいいじゃん」
、という消費者が非常に多いのです。
東京都民の食生活はひどいものです。自分で作る人は本当に少なくなっています。全国の
朝食欠食率は1割ですが、東京の20歳代になると5割の人が朝食を食べていません。地下
鉄車内で子どもが「お母さん、おなかが減った」と言うと、
「これ夕食だから」と菓子を渡
18
しているのです。食生活がガタガタになっています。こうした食への意識が、TPPを許し
ているのだと、私には思えてなりません。
「食い改めよ」作戦
私も3年ばかり東京に勤務しましたが、家を出てから職場の霞ヶ関まで、土を一度も見る
ことがありませんでした。街路樹はときどき見るのですが、
根元に土があるのかと思ったら、
コンクリートで固めてあります。土を見ることも触ることもできません。だから、虫もいな
ければカエルもいない。命から完全に遠ざかっているのです。魚が泳いでいる姿を見たこと
のある子どもがどれくらいいるのでしょうか。
つまり、命の連鎖といいますか、塩などを除けば、食べ物はすべて動物か植物です。小麦、
卵、イモ、パセリ、すべては命なのですが、その命に支えられている自分の命という自覚を
喪失してしまいます。
東京に全国の1割、札幌に全道の3割が集中して住んでいますが、地方に根を持たないそ
ういう人たちが増えてしまっています。その人たちの命に対する意識を、どう変えていくの
か、これこそがTPPから潰されない農業を確立する道なのです。
「食い改めよ」作戦と称
しましたが、少し具体的にご説明します。
①広い網をかける
「食い改めよ」作戦の一つ目は、広い網をかけようというものです。
食農教育と心の教育です。東神楽町志比内小学校では、子どもたちが命というものに感謝
する食農教育を行っています。一年かけてオムライスを作るのですが、米はモミ撒きから、
卵は卵を産むニワトリを卵からかえすところから始めます。
一つ一つの命をゆっくり時間をかけて、失敗しながら育てていくという取り組みで、その
すべての食材が一つも欠けることなく集まって初めて、このオムライスができたのだと思っ
たときに、子どもたちは泣き出すわけです。そして完食をする。手を合わせて命に感謝する
という子どもになっていくわけです。そういうことが増えていけば、中学生が亡くなった川
崎市のような痛ましい殺人事件は減るのではないかと思っています。
自分が生物の一員であるということを体で理解できる人々を増やそうということです。い
ま小学校6年生の子どもも8年後には20歳です。本当に、小学校、中学校までに、しっか
りした食農教育、つまり、自分たちが食べているもの一つ一つがどこから来ているのか。誰
が作っているのか。農家はどれくらい苦労をしているのか。一つ一つの命をつないでいくに
はどうしたらいいのか。自分は何ができるのか。トリがいなくなってしまうことに泣くとい
う子どもは、その経験を絶対に覚えていて、一生忘れないで、20歳から自分で命に感謝し
ながらものを食べるという大人になっていくと思います。 (21 頁へ続く)
先ほど、東神楽町の志比内小学校の話をしましたが、福島県喜多方市の全小学校17校で
は、農業科という科目の名前を付けた教育を展開して、東神楽町志比内小と同じような取り
19
組みをしています。一年をかけて命を一から育てていくということを体で覚えさせるように
やっています。道内では芽室町の「めむろ農業小学校」の取り組みがあり、美唄市、士別市、
札幌市でも同様の取り組みが広がる動きがあります。もっと広げて、
「食は命である」とい
うことを本当の意味で、体で理解できる子どもを増やしていきたいものです。
■参考資料 2013年11月19日 北海道新聞夕刊(札幌)掲載記事より
<編集委員報告> 久田徳二 心の教育 実る秋
20
②強い網を作る
「食い改めよ」作戦の二つ目は、強い網です。
農業を本当に理解して、応援して支持してくれる人たちをターゲットにし、この人たちを
囲い込むということです。「安くていいじゃん」
という消費者は、
直らなければしょうがない。
どうしてもマクドナルドが食べたいというのだから、
どうぞ食べてください。
その代わり、
「あ
なたの健康、人生、命は知りませんよ」ということになるのではないでしょうか。
でも、本当によいものを食べたいと思っている人は、北海道に、
「私によいものを分けて
ください」と言ってくれるはずです。そういう人たちをしっかり囲い込んで、援軍にして、
このパワーを世論形成と政策決定につなげることです。
これは、難しい作戦になりますが。北海道と日本を守ってくれる人を確実に確保すること
が大切です。
北海道は200%の自給率があるといいましたが、もしTPPに参加するようなことにな
れば、自給率は半分以下の89%に減ります。こうなったら、どうなるのでしょうか。北海
道にいても北海道のものが食べられない人が11%出てきます。JA北海道中央会の飛田稔
章会長は「道民は守る」と言ってくださっていますので、道民は守ってくれると思っていま
すが、でも、もし89%になったら、守り切れません。ましてや、道外に移出などしている
場合ではない。海外に輸出をしている場合でもありません。どうやって北海道民が食べてい
くのかという数字です。つまり、売りたくても、ものがないから売れないという時代になっ
てしまいます。ですから、現在の北海道産の食品の恩恵はたいしたものなのです。
札幌農学校開校以来140年、営々と続けられてきた農家や試験機関の努力で、すごくク
オリティーの高いものがあるので、みんなが北海道に、寿司を食べに来たり、景色を見に来
たりするわけです。でも、自給率が下がれば、この食品の恩恵を受けられる人は、限定的に
ならざるを得ません。つまり、生産者が売る自由を発揮する時代に入っていくことになりま
す。誰にどれだけ売るのか、相手を選ぶ時代になります。
輸入牛肉を買うのも自由、マクドナルドを食べるのも自由で、吉野屋の牛丼を食べるのも
自由ですが、この牛丼の肉は完全なアメリカ産牛ですから成長ホルモンを大量に使っていま
す。私が調べたところによると、オーストラリアのオージービーフも成長ホルモンは使って
います。これは政府の資料で確認しました。それでも「安くていいじゃん」消費者がそれを
求めるなら、どうぞとしか言えません。でもあなたの面倒は見ませんと言いましょう。
北海道の農家は、本当に北海道農業を愛し、お金も払うという人にだけ売ればいいのです。
それくらいしか売る物がないかもしれません。ようするに「分衆」に売るのです。道産品の
ようにいいものは、安い輸入品と同じ棚の上で安さを競ってはいけないのです。北海道を安
売りしてはいけません。
そこで、考えたのが「グリーンカード」というものです。このカードを持てば、良質な道
産品を購入できる。あるいは、国内でたった4割しか作っていない国産品を購入できる。ど
こに行っても満員になる北海道物産展に入場できて購入できる。これを持っていなければ物
21
産展に入れないですから大変貴重なカードになります。
それから、北海道旅行が無制限にできますが、これを持っていないと北海道旅行ができな
いことにするのです。北海道においしいものを食べに、
美しい風景を見に訪れるのですから、
食を生み出す農業や水産業、美しい景観を作り出す農業や林業を守るのは当然の義務です。
それを理解しない人はこれを持てません。そういう人は、北海道旅行はできませんから、新
千歳空港に降りても帰っていただくことになる。
(笑い)
カードには、道内各地で購入する食品、飲食代などに割引がある。それから、食料危機の
場合、北海道に住むことができるというのはどうでしょう。これは強いと思います。こうい
うことが特典になるカードを作るのです。
どうやったら、このカードを保持できるのか条件を付けます。
①正当な価格で道産品を買い続けてくれること。
スーパーで買い物をするときに使う、
例えば市民生協のレインボーカードのようなものは、
どこの何を購入したのかデータが残りますから、資格があるかどうか、生産者側のペースで
線引きができます。
②ときどき、北海道に旅行や援農に来ること。
③道産農産物の加工品や飲食店の利用ポイントが高い人。
それから、次が大事ですが、
④TPPに反対する人。
反対しなければ北海道の農業は守れませんからこれを条件に入れます。これをどうやって
知ることができるのか。例えば、その人が住んでいる小選挙区の衆議院議員が、どういう態
度を取っているかで決めてもいいです。批准のときに青票を入れるのか白票を入れるのか、
賛成に投じた衆議院議員のいる小選挙区の住民はこのカードを持てない(笑い)
。そうすれ
ば住民は頑張ります。「うちの先生、絶対に反対票を入れてくださいよ」と。公開質問状を
出してもいい。こうした運動が起こるはずです。
事実上の北海道独立になってしまうのですが、政治的独立の前に、経済的基盤をつくらな
ければ弱いですから、農業を守ることは、その第一歩になるのではないかとも思います。
「グ
リーカード」にそういった政治的パワーを与えていってはどうでしょうか。
農業生産県は北海道だけではありません。九州にも東北にもありますから、こういうとこ
ろと連合を組む。「全国グリーンカード連合」というものをつくって、連合内は農産物移出
入を活発に行う。北海道と九州がこれに入ったら強いです。農業団体だけでなく、地方自治
体や市民団体も入れたらいいでしょう。
このカードを保持できない人は、安定して安心できる食べ物を食べられないわけですから、
そこで、「安くていいじゃん」消費者も、やっと気づくはずです。
「グリーンカードに入って
おくべきだった」と悔いるショック療法です。
そして、水も、空気も、国土も守ってくれているのが一次産業で、その従事者なのだとい
うことを分かってくれる人たちが増え、
「グリーンカード」
保持者が全国に広がっていきます。
22
悔いた方は食べ方を改めるわけですから、これが「悔い(食い)改める」作戦でした。
(文責・編集部)
以 上
23
「TPPに潰されない北海道農業確立のために」
質疑・自由討論
澤岡専務理事
ありがとうございました。ウエットと示唆に富んだお話だったと思います。いま出たお話
を含めて、この後、自由な意見交換をしてまいりたいと思っていますので、よろしくお願い
いたします。
発言者①
久田さんのお話を久しぶりにお聞きしまして感動いたしました。守るか、次のステップに
進むかについてですが、TPPに入ってしまったら、北海道の農業は崩壊だと思う。そこま
で行くにはものすごい日数、年月がかかって、一部でやれても、国は農業を放棄したような
ものだから、これをどうするかというところが根本的にあるのではないかと思います。
もしTPP、あるいは自由貿易というものが、いまの仕組みのまま下支えも、補填もない
まま進むと、特に米が心配だ。北海道米の「ゆめぴりか」などの品種は、確かに本州米に肩
を並べるまでになったが、他府県の農業は、1町か1町5反で、地域密着型の兼業だ。退職
後に農業を継いで、代々続いているが、地産地消という、何百年もかけてできた共存共栄、
共生の社会があるので、多少のことでは潰れないのではないか。市場価格が下がったとして
も、例えば、「久田さんの作った米だから俺は食べてやるよ」という共生社会ができている。
北海道の米は、コストは安いというが、価格で勝負をかけたら、ごく一部は残るだろうが、
完全に、府県の1町、1町5反の農家に負けて、潰されてしまうだろう。北海道の米が、一
番、競争に弱いということになるのではかいかと心配している。
発言者②
いま、TPPに入ったら終わりだというお話がありましたが、
私もそんな気がします。きょ
うのお話でも、TPPに入ったら、北海道の自給率は200%から89%に減るという。恐
らく、その段階で、大きく農業生産額が減りますから、農業者が減るだろう。ひょっとした
ら、家族農業という基本が壊れて企業が入って来る。生産額が減る中で、いくら頑張っても
TPPの前に戻れるのかというと、これはゆるくない気がする。
発言者③
いま、食農教育とか、食を大事にするとか、環境を大事に、というのは、現在、その意識
が非常に薄れたからで、その責任は私たちにあると思っている。私たちの親の代は、戦争で
飢餓の経験もあり、それほど豊ではなかった。私のところは炭鉱町で、三井や住友の山があ
り、炭鉱マンの家庭は収入も良かったが、弁当の中身は、私らマチの者とさほど変わらなかっ
24
た。生活は、みんな節約して、がまんする習慣が身に付いていた。だから収入がいいといっ
ても、パーッとはいかない時代だった。それが、私らが親になったころから「成長だ! 競
争だ!」という風潮になって、生活を振り返ることがないまま、食べ物の大切さを、厳しく
教えることもなくなってしまったのだと思う。いま自分らの子どもに、そのことを教えられ
なかったことを、私は非常に反省している。
発言者④
僕らは団塊の世代で、昼に、自分の家に食べに帰っても、あるのはせいぜい冷めたジャガ
イモかカボチャだった。その後、スキムミルクなどが入ってきたが、食料に関して日本は、
米国の長期的戦略に組み込まれてきたのではないか。
第二次世界大戦後、アメリカは、日本が小さな国なのに活力も経済力もあったのはなぜか
と分析した。その結果、日本の食の構造を恐れ、壊さなければいけないということになった
のではないか。
マクドナルド・ハンバーガーなど、安い物を手軽に食べられるようにして、人が大事に手
間暇をかけて育てた命を見えなくしようとするのがアメリカの戦略で、日本は、ずうっと、
それに飲み込まれてきたのではないのかと私は感じている。
日本人はアングロサクソンと違って、一年を通じ、春に植え、手間をかけて秋に収穫する
という営みを大事にしてきた。いま、米国の多国籍企業を中心とした食の改悪によって、日
本人の生活そのものが、おかしくされてしまい、気がつかないうちに、命に必用な食べ物を、
粗末にしてきたのではないかと思う。
久田徳二氏
米国で戦後に余っていた小麦を、政府補償の代わりに日本に輸入させ、日本は小麦の消費
に真剣に取り組まざるを得なくなった。
「ご飯を食べたらバカになるよ」
という宣伝もあって、
パンが給食に入れられていくなどということが着々とやられてきたのだなと思う。戦後70
年間、そういう意味では本当に長期的な戦略だったのかもしれません。その間に日本の食料
自給率は着々と減っていきました。ヨーロッパの先進国が70%から100%を超えるよう
になっていく中で、日本は逆の道をたどって、気づいてみたら、食料輸出大国アメリカの思
惑通りになっているという状態です。もう、これ以上進んでは、命まるごと取られてしまう
という、ギリギリのところにきているのではないかというのが実感です。
皆さんご心配のように、TPPに突入したら、本当に壊滅してしまう。北海道の農業生産
が200%から89%に下がるというのは、半分ちょっと減るのではないかというインパク
トでは済まないと思っています。農業がなくなるということは、例えば、その町から高校が
消えるということ以上に大変なことになります。今では、ポツポツと耕作放棄地が生まれて
きているようでありますが、それがもっと広がるということになれば、農業生産力というの
は、土地・水と、担い手と、その上にのっかる技術が支えているわけですが、その一番基本
25
になる土地が、もう耕作する人がいなくなりダメになっていきます。そうしてはいけないの
で、どうしたら止められるのかと、いろいろな知恵を絞っている最中です。
私は、本心から言いますけど、まだ止められると思っています。仮に、大筋合意とか、何
かが決まったかのように言われたとしても、それは潰せるのではないかなと思っています。
要は国民世論なのです。新聞の主なところはTPP賛成に回ってしまっていますから、これ
は非常に遺憾なのですが、そこがまともな考えに戻ってくれて、どの新聞が世論調査をして
も、例えば、国民の8割が反対というレベルになっていたとしたら、これは、さすがの安倍
政権もTPPに行けないです。そこまで世論を広げなくてはいけない。そこにかかっている
のです。どんなものもそうです、TPPに行くか行かないかだけでない、これから始まるで
あろういろいろな価格政策とか農地の政策とか、すべてそうです。
国民が、農業を支えようとするのかどうか、この日本という国をどういうかたちに保って
いきたいと思うのかにかかっているのです。先ほど「私の責任」という発言がありましたが、
ここまで「どうでもいいじゃん」としてしまったのは、
日本国民みんなの責任だと思います。
それを、元のように戻すにはどうしたらいいのかということを、ぜひ皆さんに考えていただ
きたいし、リードしていただきたいと思っています。
それには、もう一度、国にとっての大事なものに、国民みんなに気づいてもらうことが必
用です。「食が大事」「みんなの命が大事」ということに気づいてもらう。自給率とか自給力
が向上していくというのは、その結果だと思います。国民が、そういう気持ちになってくれ
て、「グリーンカード」にも入るとか、いろいろな行動を起こしてくれることでしか、この
国を守れないのです。ISDS(investor State Dispute Settlement「投資家対国家間の紛争
解決条項」)というような、装置がTPPに入っていますから、TPPに行ってしまった場
合は大変なことになります。
北海道だけでなく、どの地域でも進めてきた学校給食の地産地消のように、地場産品を優
先するという風なものに対して、ついこの間、木材を地場産品にすることに対してWTO筋
でクレームが起きているという新聞記事がありましたが、それと同じようなことが起きてく
る。それに抵抗しようと思っても、ISDS条項でやられるから、それができなくなる。こ
れは大変なことです。
そうさせないためにはどうするのか。最後の歯止めは、先ほど、
「同じ棚に並べない方が
いい」と述べましたが、そこら辺にかかっているのだと思います。つまり、どんな法的な規
制が縦横に敷かれても、ISDSで外国の産品と同じ条件にしなさいと言われても、
「道産
品が食べたい、国産品を食べたい」という消費者がちゃんといれば、その意思までも国や条
約が規制することはできないわけです。最後はそこにかかっているのです。
いろんな規制がかかっても、「外国の農産物の方が安いですよ、同じ競争ルールの上にの
せなさいよ」と強制されたとしても、「私は道産品を食べたいから、道産品を食べますよ」
と言ってくれる消費者がちゃんといれば、それを作っている北海道農業は支えられ、守られ、
維持できる、ということです。その仕組みをどうつくるのかということを、北海道で、ぜひ
26
考えていきたいし、皆さんにもリードしていただきたいわけです。
私がきょうお話ししたのは、ほんの一例ですが、こんなふうにしたら、何か筋道ができる
のではないか、という話です。これは、単なる思いつきではなく、私も大学の中で研究者
と一緒に議論しているところです。これは、一種のナショナル・トラスト(National Trust)
的な運動です。
完全に消費者の消費行動を規制するようなクローズ(閉鎖的)なものがどこまで許される
のか、日本の国内法やTPPとの兼ね合いで難しい問題があります。でも、オープンで、し
かも「私は国産品を選ぶよ」という消費者の意思決定は、誰にも邪魔できない。そこをしっ
かりつかむということに、これからの北海道農業、あるいは日本全体を救う鍵が存在してい
るのではないかと私は思っています。
発言者⑤
道議会の総合政策の委員会で、実質的にTPPの議論をしているのですが、道はTPP交
渉に、毎回、道の職員を派遣し、北海道のJA(農協)の役員の皆さんも一緒に行っています。
道は都道府県の一つですが、外国から見ると、国の一部の機構ですから、オーストラリアの
農業団体が来ると、道が入っていることから、対等な話し合いが生まれます。JAの方々は、
TPPの交渉内容は全部秘密だ、と言いますが、韓国は除いて、ほかの国は、ある程度、責
任を持って話している。極秘なのは日本ぐらいです。日本がTPP交渉に参加した当時、自
民党の道議会議員20何人が、TPP問題を取り下げてから、一切、内容は分かりませんと
いう形に変わっている。
もう一つは、私は木材関係ですが、昭和 26 年度に関税が撤廃されたのです。当時、敗戦
国に売れる物は木材しかなかった。あまり有利になると外貨を稼ぐのが大変なことになるか
らと関税を撤廃した経過があります。その後、北海道はミズナラの木をカナダ、アメリカに
相当輸出しています。
TPPで一番感じているのは、北海道はいつも実験台ではないかという思いです。夕張の
炭鉱も、夕張市の破算も、拓銀の破綻も。農業経営を、いま企業がするとなれば、北海道が
一番やりやすい。その中でも一番危ないのが、私は牛飼いの息子ですが、牛1000頭ぐら
いの酪農で、もう経営が持たないです。
「安心、安全な草を食べています」というが、配合
飼料はみんなアメリカからの輸入で、遺伝子組み換えのものを牛が食べています。いま円安
で輸入飼料が値上がりし、北海道の農業は持たなくなってきています。
北海道は食糧基地だといいながらも、
TPPの矢面に立っている農協を潰そうとするのは、
農業経営を企業ができるようにシフトしているのからではないのか。私たちの情報では、T
PPに反対しているのは北海道の農協だけですよね。
そんな部分まで囲い込みをされた中で、
北海道のJAは頑張っているなと思います。
北海道の行政は、TPP交渉に職員を派遣して、
政府にとっては余計なことをしたのでしょ
うけど、結果として、TPPの本当の問題点をJAの北海道の方々に分からせることになり
27
ました。私たちに無知の問題など、いろいろありますが、もうそろそろ、政府の実験台にな
りたくないと開き直ることが必要ではないかと考えています。
また、北海道の農業だけが、酪農だけが、北海道のJAだけが潰されるのではないか。皆
さんご存じのように、農協の何十兆円も持っている金融も、郵政と同じくバラバラにされ、
保険であれ銀行であれ、アメリカが入ってこられるようになる──そんな見方をしなくてい
いのかなと思っています。
発言者⑥
カジノなど誘致せずに、北海道全体がモクモクファームみたいになったらいいなと思って
いたことはあります。顧客の囲い込み運動というのに共感するのですが、たとえ良いことで
あっても、知事とか行政の側がやってしまうとどうなのでしょうか。進め方について、誰が
どういうふうに進めていくのか、音頭取りも含めて、うまくやれば知事とかがどんどん提唱
するのもいいのかもしれませんが、行政がそれをするということに、私には違和感があるの
で、久田さんの考えをお聞きしたい。
それと、
京都の農業は素敵だなと思うのですが、
どうしても北海道の農業のイメージがあっ
て、自家採種という京都の伝統にどう追いつけるのか、技術的なところも含めて、だいぶ変
えていかないと難しいのかなと思うので、その辺についてのお考えと、もし、北海道大学で
研究などがあるのであれば教えてほしい。
久田徳二氏
まず、TPP交渉の秘密という問題ですが、いま一番気になっているところです。秘密主
義をどうやって突破できるのか。いろいろな文書を入手できないかと探してみたのですが、
民主党政権の農水大臣だった山田正彦さんのお書きになった本の中にかなり詳しく書いてあ
りました。
アメリカでは、国会議員がTPPの条約案文を入手できるようになったというのがありま
す。そうなれば、日本の議員も入手できるはずです。アメリカで入手したものを、どんどん
こっちに回してもらってもいいわけです。
「アメリカでオープンになっているのだから、こ
ちらでもオープンにすべきだ」とやるべきです。
条約案の中身だけでなく、交渉参加のルールとか、脱退のルールとか、加盟するからには
あるわけですから、交渉をやる国としては、当然、知っていなくてはいけないわけです。そ
ういうものをちゃんとオープンにさせるということです。
アメリカで、なぜ78%もの反対世論があるかというと、そういう中身が国民に出ていっ
たからです。ISDS投資条項も、NPOが中身を暴露して世界中にばらまいたから、潰れ
たわけです。TPPは、実はその焼き直しと言われているのです。だから、表に出せない。
秘密交渉の壁を突破する力がアメリカにあるのなら、日本にもあるのではないかと思った矢
先、特定機密保護法案が通ってしまったのです。それを扱うのだったら逮捕しますよ、とい
28
う状況になってしまい、どうやったら、
そこを突破できるのかを、
いま考えているところです。
秘密の暴露、あるいは解きほぐしていく明確な戦略というものを、私自身、まだ持ててお
りません。日本の情報公開法と似たようなものに、
アメリカの「フォイア(FOIA)
」
(Freedom
of Information Act )がありますが、それを使ったら何かできるのではないかとか、これか
ら考えていこうと、農業ジャーナリストの会では話しています。
もう一つのご質問の「囲い込み」についてですが、
私のイメージする「グリーンカード連合」
の話では、たまたま地方自治体を先に書きましたが、私のイメージは、あくまで生産者が売
る権利を発揮し、安売りをしないで、囲い込んだ人たちに安定的に届けるという話であって。
主体はあくまで作る人々です。作る人々、一次産業の人たちが、十分な量がありませんから、
売る人を選びましょうね、という議論が全体の土台にあって、
それをほかの業界や、
行政機関、
自治体などが、その関係を支える構図が一番いいのかなと思っています。そのときに、日本
銀行券かどうか、まだ考えに及んでいませんが、ローカル貨幣というものがあるかもしれま
せん。
それから自家採種の件は、非常に大事なのですが、TPPで一番ホットになっているのは、
知的財産権の問題です。
遺伝子組み換えで開発した作物を世界中で売り、隣のGM(遺伝子組み換え作物)を作っ
てない畑でGM大豆が伸びてきたところをつかまえて、
「俺のところの特許を侵したな」と
訴訟を起こして農地を取り上げ、その農地にも、新しくGM大豆をまいてしまうということ
が、インドでもアルゼンチンでも、あちこちで、起こっているのです。そういうことをモン
サントなどの種子企業がやるために、この知的財産権というのは非常に大事なわけです。そ
れに対抗するには、自分で種を持つということがとっても大事なのです。
先ほど紹介した京都府は、どうしてここまで京野菜を振興できたかというと、府がちゃん
とバックアップしていたからです。北海道の道立中央農試のようなところが、ジーンバンク
(遺伝子銀行)のようなものを持っていて、遺伝子のストックを持っています。毎年、契約
農家に種を提供して育ててもらい、種を採って、京都府にとって大事な種をストックしてい
ます。そういうことは府レベルでできます。北海道の中央農試から始まったような措置で、
やろうと思えばできるでしょう。ジャガイモでもトウモロコシでも同じことだと思います。
発言者⑧
北海道の農産物は、もとはアメリカからきた遺伝子ですよね。それを変えるということで
すか。
久田徳二氏
確かに元は米国から来た種子ですが、北海道で、だんだんに変えていくわけです。
京都農業は究極の都市近郊農業を確立していると思っていますが、そういう都市は、北海
道にもいくらでもあるのです。こんなに農業が豊かな都市がいっぱいある地域はないという
29
ぐらい北海道にはあるのです。
例えば札幌農業には、札幌黄(サッポロキイ)がありますし、まさかり南瓜(マサカリカ
ボチャ)があります。みやこ南瓜(ミヤコカボチャ)もある。ハチレツトウキビだってある。
こうした大事なものを残していくという取り組みがすでに始まっています。そして札幌農業
を、札幌の都市住民が直接支えていくシステムができないか、私はいま、
「札幌農業と歩む会」
というのを仲間と一緒にやっています。
札幌農業の魅力、例えば南区には棚田で稲まで作っている人がいますし、果実を作ってい
るフルーツロードもある。清田区に行くとホウレンソウがあり、花があり、たくさんの農産
物があります。東区に行けばタマネギがありますし、手稲もすごく、カボチャとかスイカと
か、作った料理とかを振る舞まっています。そういった魅力に、もっとアクセスして、札幌
市民が札幌農業を直接支えていく仕組みにつなげていったらいいのではないでしょうか。
それは札幌だけでなくて、帯広でも北見でもどこでもできます。そういった都市近郊農業
がしっかりしていると、札幌南区でCSAが生まれたり、余市で新規就農者が増えていたり
と、そういうことが進んでいます。そういう良い芽が出てきているのです。
ただ、大生産地域は話が別で、土地利用型の大きな畑作農業をやっているところは別の手
だてが必要です。直接、都市住民と結びつくCSAなどとは違う仕組みが必要なので、
グリー
ンカードを考えたのです。
北海道がこれまで代物として原料でどんどん外に出してきたものを、
「出すものがないの
ですから」といって出さない。「そんなに安いコストでできているものではありません。私
たちの手間と時間がかかっていますから」と。
「これを正当な価格で買ってくれる人には、
毎年、差し上げますけど、そうでない人は、ごめんなさい」と言うシステムをつくっておけ
ば、自分を守ることにつながるのではないか、というアイデアです。
発言者⑨
いま安倍政権が農協改革を行っていますが、その一つの目的が、地域農協と農家一戸一戸
の活性化で力を付けていくためといいます。TPPに潰されないために、安倍さんの言うよ
うに、農協を解体して一戸一戸の農家の自主・自立性を高めていったらTPPに対抗できる
のかといったら、それはまた別だと思います。本来の意味で農業を強くするには農協をどの
ように生かしていけば、北海道の農業がより強くなるのか、もしくは、農協に頼ったりしな
いで、どうやったら農家一戸一戸が強くしていけるのか、もう少し、具体的にお聞きしたい。
発言者⑩
道新でもリポートがございました多国籍企業というのは、記事を読んでいるとよく分かる
のですが、アメリカでやっているように日本をはじめ、どこででもやろうとしていると私た
ちは見ているのです。金持ちが農地の買収を重ねて、養鶏場などの農場長も一雇用者になっ
ているというアメリカのリポートがありました。日本もそういう方向になると見ておくべき
30
なのか、どうでしょうか。
澤岡専務理事
時間の関係で、質問はいまのお二人までにさせていただきます。久田さんよろしくお願い
いたします。
久田徳二氏
お二人の質問は、大変関連性があると思っています。農業を強くするとか、攻めの農業と
か言われますが、どういうことか考えてみました。結論からいうと、農業というのは、大変
弱いものであって、守る作業なのです。攻める農業というのをよくよく考えてみたら、輸出
しかないのかなと見ています。
では、輸出をすれば強くなれるのでしょうか。他産業と競争するのは現象としてあり得ま
せんから、農業は何と戦って強くなるのか。他国の農業と戦って強くなるのか。アメリカの
農業は、既に大輸出国になって強いわけで、オーストラリアも同じ。一方、日本は食料輸入
大国の農業であり、非常に弱小な農業です。それは経営面積を見ても同じことです。
では、日本の農業が外と競争して勝てるのか。比較優位な産業は、そうでないものを潰し
ていくわけですが、日本の農業は規模的に潰される側にあるのです。ですから、守るべきも
のになっていくと思います。
では、強くできるのか。例えば、日本の農産物を安い外国産と同じ棚に並べると、1
万2000円と 3 000円では、値段では負けます。これを中国に持って行ったらどうな
りますか。この関係が逆転するかといったら、やはり、逆転しないでしょう。中国に持って
行っても、ハワイに持って行っても、どこに持って行っても、負けるものは負けるのです。
質がいいから中国の富裕層が買ってくれるのではないか、という意見があるかもしれませ
ん。そういう人がいるかもしれませんが、でも、よくよく調べると、富裕層が贈答用に少し
買っているだけというリポートを見たことがあります。
一方、中国の富裕層がどんどん買ってくれたとしても、では、日本人は何を食べるのでしょ
うか。残ったものを食べることになるのでしょうか。日本で生産すると自給率のカウントに
はなるのですが、決して、国内で食べるものにはならないので、消極的な自給率にしかなり
ません。
いずれにしても政府の「強い農業」とか「攻めの農業」とかいうことは、輸出型産業にす
るという構想のように聞こえるのですが、無理なことだと私は思っています。ベトナムなど
に野菜を持って行っている人が散見されますが、そういう人を止めるわけではありません。
やりたい人はどんどんやったらいいと思います。その人たちは儲かるかもしれないけれど、
農業は一人でやるものではないし、地域でやるものだし、北海道みんなでやるものだから、
みんながどうなるかを考えなければいけないと思うのです。
北海道の農業はいろいろな変遷を経てこの地位を確立したのですが、昔、酪農家が牛乳を
31
売ろうとしたとき、大メーカーが競って値をたたいたのです。買いたたきです。そして、酪
農家は非常に困り、そこで、自分たちで集乳して、自分たちで値段を付けようじゃないかと、
協同組合が生まれたわけです。自分たちの農業を守っていくという仕組みが協同組合だった
のです。その仕組みが、グローバリズムを進める新自由主義と対決する構図にあると思うの
です。ですから、グローバリズムに勝てるのは協同組合主義、お互いに共生していこうじゃ
ないかという考え方が、最後に対抗することになると私は考えています。
そのための農業分野の重要な組織であり、これまで農業を育ててきた農協というものは、
絶対になくしてはいけないものです。
いま農協が攻撃されていますが、TPPでグローバリズムがもっと進むと、次は生魚でや
られるかもしれない。あるいは森林組合でやられるかもしれない。
漁協も揺さぶられるでしょ
う。
「お前たちの利益を守っていたら外国のものが入れられないではないか」と、
あるいは「I
SDS条項で訴えられるから」と、揺さぶりがかけられるでしょう。農協はもちろんですが、
いろいろな協同組合というものを大事にしていかなければいけないと思っています。
農協改革というのは、その始まりであって、ここで、しっかり押し返しておかないといけ
ないと思っています。
多国籍企業の問題も似た問題があって、農場が株式会社化するのかという話かと思います
が、恐らく、そういうものを狙っていると思います。先ほど、
「住友商事が世界で農家を支援」
という記事をご紹介しましたが、小さな農家ががっちり握っている農地を手放させ、それを
多国籍企業が買い取っていくというものです。
「耕作放棄地だからいいじゃん」と安く買い
取っていくということが、これから進むのではないかと思われます。それこそ新自由主義で
す。農業分野だけでなく、これが医療の分野でも、あるいは教育の分野でも、一斉にやろう
というのがTPPだと思っています。これも、入り口でちゃんと押しとどめないと、ガサガ
サにやられてしまうと危惧しているところです。
澤岡専務理事
ありがとうございました。時期的にもタイムリーなお話をいただきました。久田さんにお
礼を申し上げまして、本日の勉強会を終わらせていただきたいと思います。
(文責・編集部)
以 上
32
資料編
北海道農業・農村の現状と課題
平成27年1月 北海道農政部
2015 年春 民主党農業関係公約文書
連合北海道の農業政策
2014(平成 26)年度道政への「要求と提言」より
2013 年「真の農政改革」政策提言
2013年8月 北海道農民連盟
北海道農業・農村の現状と課題
平成27年1月
北海道農政部
目 次
Ⅰ 北海道農業・農村の概要・・・・・・・・・・・・・・P1
Ⅱ 北海道農業・農村を取り巻く情勢と対応・・P9
Ⅲ 第4期北海道農業・農村振興推進計画
の主な内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P18
Ⅰ 北海道農業・農村の概要
1 北 海 道 農 業 の 特 徴
○ 本道では全国の1/4の耕地面積を生かし、土地利用型農業を中心とした生産性の高い農業を展開
しており、農業産出額は全国の12.5%を占める
○ 本道農家の1戸当たりの経営耕地面積は都府県の約15倍、主業農家の割合は都府県の20%に対し
71%と、大規模で専業的な農業経営を展開
■本道と都府県の農家の比較
■北海道農業の全国シェア
区 分
耕地面積
単位
千ha
北海道
全国
シェア
年次
1,148
4,518
40
1,412
2.8%
26
406
6.4%
兼業農家(1種)
10
196
5.1%
兼業農家(2種)
4
810
0.5%
主業農家率
102
2,266
4.5% 26年
一戸あたり
10,705
85,742
5,090
57,249
5,616
27,948
販売農家
専業農家
農業就業人口
千戸
千人
農業産出額
耕 種
畜 産
億円
25.4% 26年
区 分
26年
12.5%
8.9% 25年
20.1%
資料:農水省「耕地面積調査」、「農業構造動態調査」「世界農林業センサス」、「生産農業
所得統計」、「畜産統計」、「農業経営統計調査」、経産省「工業統計調査」(産業編)等
注1:主業農家とは、農業所得が主で、1年間に60日以上農業に従事している65歳未満
の者がいる農家
2:農業依存度とは、総所得(農業所得+農業生産関連事業所得+農外所得)に占め
る農業所得の割合
○全製造業に占め
区 分
る食料品製造業
シェア(25年)
の出荷額シェア
全 国
8.5%
北海道
30.1%
販売農家一戸あたり
経営耕地面積
単位
北海道
(a)
都府県
(b)
a/b
年次
ha
23.4
1.6
14.6
26年
担い手への農地集積率
%
86.2
36.0
2.4
24年
65歳未満比率
(基幹的農業従事者)
%
35.5
1.8
26年
乳用牛飼養頭数
64.9
%
70.5
20.1
3.5
26年
頭
115.3
51.2
2.3
26年
190.2
37.5
5.1
24,132
4,449
5.4
5,934
1,214
4.9
682
1,581
0.4
89.5
43.3
2.1
肉用牛飼養頭数
1経営体あたり
農業粗収益
農業所得
千円
農外所得
農業依存度
%
24年
注:「担い手への農地集積率」における都府県の数値は、平成22年度の全国集計値
を基に、道農政部にて試算した推定値。
「担い手」には、認定農業者(特定農業法人含む)のほか、基本構想水準到達者、
特定農業団体、集落内の営農を一括管理・運営する集落営農を含む。
1
2 北海道は我が国最大の食料生産地域
○ 北海道の農林水産業は、国産供給熱量の約2割を供給するなど、我が国における食料
の安定供給に大きく貢献
■北海道のカロリーベース食料自給率への寄与率
供給熱量
2,431 kcal
生産熱量
A. 全国
942 kcal
資料:農林水産省
B. 北海道
大豆 30.7%
6.1万トン(2.7万ha)
てん菜 100%
そば 45.2%
343.5万トン(5.8万ha)
スイートコーン
46.5%
11.0万トン(0.9万ha)
1.5万トン(2.2万ha)
注:生産熱量(北海道)は、
22.1%
道農政部による推計値
(平成25年)
いんげん 95.4%
小豆
53.2万トン(12.2万ha)
C.寄与率 (B/A)
208 kcal
■生産量で北海道が全国一の主な農水産物
小麦 65.5%
(国民1人1日当たり)(平成24年)
馬鈴しょ 79.5%
(春植え)
サケ 83.1%
93.7%
6.4万トン(2.6万ha)
たまねぎ 54.3%
58.0万トン(1.3万ha)
1.5万トン(0.8万ha)
かぼちゃ 49.9%
10.6万トン(0.8万ha)
アスパラガス
14.6%
生乳 51.7%
牛肉 17.4%
0.4万トン(0.2万ha)
388.3万トン(79.5万頭)
8.8万トン(51.0万頭)
資料:農林水産省「作物統計」「牛乳乳製品統計」、「畜産統計」、 「漁業・養殖業生産統計」等
187.6万トン(5.2万ha)
14.3万トン
にんじん 28.7%
ホタテガイ
88.4%
17.3万トン(0.5万ha)
軽種馬 97.3%
0.7万頭
45.8万トン
コンブ 85.6%
7.9万トン
注:カッコ内は作付面積又は飼養頭数
2
3 都道府県別の食料自給率
○ 平成24年度のカロリーベースの食料自給率は、北海道が全国一の200%
また、北海道とともに100%を超えているのは、秋田県、山形県、青森県、岩手県、新潟県の
5県
○ 生産額ベースの食料自給率は、畑作物などの生産が多い北海道は202%であるが、収益性
の高い果実や野菜、肉用牛の生産が多い青森県や宮崎県、鹿児島県はともに200%を超え、
北海道よりも高い状況
■ 北海道と主な都道府県の食料自給率
(単位:%)
全
国
北海道
青
森
岩
手
秋
田
山
形
新
潟
宮
崎
鹿児島
食料自給率
カロリー
生産額
39
68
200
202
118
226
106
178
177
147
133
173
103
115
63
248
82
231
平成24年度
都道府県別食料自給率
(カロリーベース)
151% 以上
101~150%
61~100%
31~60%
11~30%
0~10%
数値は、平成24年度(概算値)
資料:農林水産省
3
4 農業産出額の推移及び構成
○ 本道の農業産出額は、全国の農業産出額が減少傾向にある中、昭和59年以降、
約1兆円で推移
また、全道の産出額の構成比では乳用牛、野菜、畑作物が高い
本道の農業産出額と全国シェア
(億円)
注)平成19年の水田・畑作経営所得安定対策
の導入により、これまで麦類、大豆、てんさい、
でん粉原料用ばれいしょの産出額に含まれて
いた交付金の一部が、過去の生産実績に対
する交付金として経営体に一括して交付され
ることとなったため、当該作物の産出額として
計上していない。
また 、これまでの市町村を単位とした推計
を取り止め、都道府県を単位とした推計に改
めたため、都道府県内の市町村間で取引さ
れた中間生産物については産出額に計上し
ていない。
(%)
10,705 15
(12.5)
12,000
10,000
8,000
10
6,000
4,000
5
2,000
0
0
S45年
50年
55年
60年
H2年
7年
12年
17年
20年
21年
農業産出額
22年
23年
24年
25年
資料:農林水産省「生産農業所得統計」
全国シェア
農業産出額の構成比
道S35
40
50
32
31
H2
19
18
17
11
25
12
23
15
11
14
25
15
19
6 2
2
19
22
2
27
2
32
2
米
15
畑作物
15
野菜
その他耕種
15
35
乳用牛
17
その他畜産
全国25
21
6
26
14
9
24
加工農産物
0%
20%
40%
60%
80%
100%
資料:農林水産省「生産農業所得統計」
4
5 北海道農業の地域別特色
○ 北海道は土地面積が大きく、気象や立地条件などが地域によって異なることから、それぞれの地域において特色
ある農業が展開
道東(畑作)地帯
[オホーツク・十勝]
道央地帯
[空知・石狩・胆振・日高・上川・留萌]
この地帯では、稲作を
中心に、野菜や軽種馬、
肉用牛など地域の特色
を生かした農業が行わ
れています。
この地帯では、麦類、豆類、てん
菜、馬鈴しょ、畜産を中心とした大
規模な機械化畑作経営が行われ
ています。
農業産出額 4,113億円(H18)
畑作物 41.8%
農業産出額 3,995億円(H18)
米
26.0%
野菜
23.6%
乳用牛 野菜 その他畜
32.2% 11.5% 産 12.4%
その他耕
種 1.0%
その他畜 畑作物 乳用牛 その他耕
産 21.5% 14.2% 11.0% 種 3.6%
道東 (酪農)・道北地帯
[宗谷・釧路・根室]
この地帯は、 EU諸国に匹
敵する草地型の大規模な
酪農経営が展開されてい
ます。
道南地帯
[後志・渡島・檜山]
この地帯は、稲作
のほか、施設園芸
や畑作、果樹など
の集約的な農業が
行われています。
農業産出額 896億円(H18)
野菜
30.4%
畑作物
18.9%
その他畜 乳用牛 米 その他耕
産 17.0% 12.2% 12.7% 種 8.9%
農業産出額 1,524億円(H18)
乳用牛
90.9%
その他畜産
6.5%
野菜
1.3%
畑作物 その他耕
0.8%
種 0.3%
資料:農林水産省「生産農業所得統計」
※ 地図の地帯区分はH22.4現在。
H22年4月に留萌管内から宗谷管内へ編入された
幌延町のデータは、「道央地帯」 に含まれている。
5
6 日本の産業構造と北海道の農林水産・食品工業
○ 平成22(2010)年度における我が国の第1次産業(農林漁業)の国内生産額は、
11兆9千億円であるが、第2次産業(関連製造業)と第3次産業(流通業・飲食店)
を含めた農業・食料関連産業の国内生産額は94兆3千億円となり、国内生産額
全体(905兆6千億円)の1割を占める
■農業・食料関連産業の国内生産額の構成(H22)
鉱業
0.8(0.1%)
電気・ガス・水道業
24.0(2.7%)
金融・保険業
35.7(3.9%)
■北海道の農林水産業等
区 分
産業名
運輸業
40.1(4.4%)
北海道
全 国
1,148千ha
割合(%)
(単位:兆円)
農林水産業
11.9(1.3%)
製造業
289.8(32.0%)
建設業
53.8(5.9%)
卸売・小売業
99.8(11.0%)
不動産業
68.8(7.6%)
情報通信業
46.3(5.1%)
サービス業
154.3(17.0%)
その他
80.3(8.9%)
林 業
平成22(2010)年 我が国の国内生産額 905.6兆円
(単位:兆円)
農林漁業
11.1(11.8%)
関連製造業
36.6(38.8%)
関連投資
1.9(2.1%)
農 業
関連流通業
23.9(25.4%)
平成22(2010)年度 農業・食料関連産業の国内生産額 94.3兆円
資料:農林水産省「農業・食料関連産業の国内生産額」
飲食店
20.7(21.9%)
耕地面積
H26
4,518千ha
25.4
農業産出額(A)
H25 10,705億円 85,742億円
12.5
森林面積
H24
22.1
林業産出額(B)
H24
5,543千ha 25,081千ha
3,887億円
11.3
水産業 海面漁業・養殖業生産額(C) H24
2,578億円 13,285億円
19.4
(A)+(B)+(C)
13,722億円 102,914億円
13.3
H25 19,091億円 246,933億円
7.7
食品工業 食料品・飲料等出荷額
439億円
資料:農林水産省「耕地面積調査」、「生産農業所得統計」、「森林資源現況調査」、
「生産林業所得統計」、「漁業・養殖業生産統計」、
経済産業省「工業統計調査」(従業員4人以上の事業所)
6
7 農業構造の変化
○ 本道の農家戸数は減少が続く中、 65歳以上比率は増加傾向にあり、近年、3割を超え
て推移
○ 経営組織別農家戸数の単一経営では、稲作農家が一番多かったが、減少も大きい状況
○ 荒廃農地は減少傾向で推移しており、都府県との比較においても少ない状況
(千戸)
農家戸数と65歳以上比率(農業就業人口)
120
34
100
100
80
12
18
31
40
20
46
41
36
30
25 63
21
10
28
24
52
6
18
20
44
43
42
5
12
5
11
4
11
40
40
5
10
4
10
10
5
33
29
27
27
27
26
25
26
H7
H12
H17
H22
H23
H24
H25
H26
15
0
H2
専業
2種兼業
65歳以上比率
資料:農林水産省
「世界農林業センサス」
「農林業センサス」
「農業構造動態調査」
(千ha)
100
15
23
60
40
8
複合
83
17
26
その他(単一)
14
59
23
16
12
6
11
9
9
14
5
3
17
19
0
S60 H2
1種兼業
販売農家
準単一
74
12
8
20
農業経営組織別農業経営体数の推移
98
80
25
0
S60
(経営体:千戸)
40
35
74
15
35
60
35
34
37
31
87
19
34
(%)
酪農(単一)
49
12
44
40
39
38
5
8
11
4
7
20
3
6
18
3
6
17
3
6
17
3
6
12
8
7
7
6
6
野菜(単一)
畑作(単一)
稲作(単一)
H7 H12 H17 H22 H24 H25 H26
資料:農林水産省「世界農林業センサス」、「農林業センサス」、「農業構造動態調査」
注1:単一、準単一、複合は農産物販売金額1位の販売金額の農産物販売金額に
占める割合がそれぞれ、80%以上、60~80%、60%未満
(H22以降の準単一は複合に含まれる。)
注2:畑作は麦類作、雑穀・いも類・豆類、工芸農作物の合計
耕地面積の推移
1,400
1,200
1,000
1,076
276
1,140
267
800
600
413
406
1,185
1,209
258
1,201
243
240
439
418
荒廃農地の推移(実測値)
1,185
236
1,169
228
1,156
225
1,153
224
1,151
1,148
224
223
7,887
255,000
426
414
412
414
414
414
414
250,000
8,521
256,370
380
462
496
523
S50
S55
S60
H2
540
534
525
514
512
510
508
H17
H22
H24
H25
H26
牧草地
畑
田
0
資料:農林水産省
「世界農林業センサス」
「農林業センサス」
「耕地面積調査」
H7
H12
合計
245,538
240,000
235,000
H21
H22
9,000
8,000
7,000
6,000
5,000
4,000
3,842 3,000
2,000
1,000
0
258,536
5,779
247,024
245,000
400
200
260,000
H23
H24
(ha)
都府県
北海道
資料:農林水産省
7
8 農業の担い手の動向
○ 農業経営体数は年々減少し、25年2月現在では4万2,400経営体。効率的で安定的な農業経営
を目指す認定農業者は、25年3月現在で3万1,410戸
○ 農業生産法人数は年々増加し、26年1月現在では2,928法人
○ 新規就農者数は、近年は概ね600~700人で推移。25年は603人で、前年の626人に比べ23人
の減少
○ 農作業を請け負うコントラクター数は、25年度末現在で325組織
■農業経営体数と認定農業者数の推移
(法人)
農業経営体数
64731
70000
60000
50000
40000
30000
20000
10000
0
認定農業者数
54616
46549
45500
44200
42400
32808
32823
32304
31763
25551
31410
671
17
728
71
80
253
338
15
653
55
266
391
16
2834
22
23
24
25
26年
2182
1318
1559
1794
1000
21
22
23
24
0
25年
2
267
331
17
新規参入者
資料:北海道農政部調べ
695
69
303
323
18
7
12
17
資料:北海道「農地調整年報」、農林水産省「農地法の施行状況に関する調査」
■新規就農者数の推移
800
0
1500
2649
2770
2928
2642
500
13511
(人)
200
2500
2000
資料:北海道農政部調べ
400
3500
3000
47000
12
600
■農業生産法人数の推移
700
650
88
264
■コントラクター数の推移
599
66
611
61
67
337
257
299
298
276
245
19
20
21
Uターン就農者
(組織)
678
79
626
91
603
88
290
312
302
309
22
23
223
24
新規学卒就農者
285
230
25年
350
300
250
200
150
100
50
0
284
311
316
325
325
22
23
24
25
229
94
20
3
48
8
資料:北海道農政部調べ
12
17
21
8
Ⅱ 北海道農業・農村を取り巻く情勢と対応
1 農産物の貿易ルールを巡る動き
(1)WTO農業交渉
○ WTO(国際貿易協定)には、160の国と地域が加盟し、市場アクセスなど3分野を主要な論点として、国内補助金や関税の
具体的な削減率などのルールを決めるモダリティ交渉が行われている。 輸出国・輸入国間、先進国・開発途上国間の主張
の違いから交渉分野全体の合意には至っていないが、2013年12月の第9回閣僚会議において、関税割当の運用改善や輸出
補助金の抑制など、農業分野の一部について合意されている。
関税削減などによる貿易機会の拡大を議論
(例)関税引下げ、重要品目の数、関税割当の拡大
国内支持
貿易を歪める国内補助金等の削減を議論
(例)黄色の政策の削減、青の政策の規律
輸出競争
貿易を歪める輸出補助金等の撤廃を議論
(例)輸出補助金の撤廃、輸出信用、輸出国家貿易、
食料援助の規律
市場アクセス
<現時点>
WTO農業交渉の流れ
農
業
交
渉
開
始
日
本
提
案
00年
3月
12月
ド
ー
ハ
閣
僚
会
議
01年
11月
(
ラ
ウ
ン
ド
立
上
げ
)
カ
ン
ク
ン
閣
僚
会
議
03年
9月
(
が先
対進
立国
しと
、途
決上
裂国
)
枠
組
み
合
意
香
港
閣
僚
宣
言
04年
7月
05年
12月
市場アクセス分野における論点
L(
D輸
C出
対補
策助
等金
を撤
決廃
定・
)
交
渉
中
断
議
長
案
提
示
06年
7月 7月
閣
僚
会
合
08年
7月
(
先
が進
対国
立と
し途
、上
決国
裂
)
議
長
「
プ
ロ
レグ
ポレ
ース
ト・
」
再
改
訂
議
長
案
提
示
8月
11年 13年
12月 12月 12月
第
8
回
閣
僚
会
議
第
9
回
閣
僚
会
議
モ
ダ
リ
テ
ィ
確
立
譲
許
表
案
の
提
出
譲
許
表
交
渉
モダリティ交渉
上限関税
上限関税を完全に拒絶する国と75~100%の設定を提案する国に分かれる
重要品目数
重要品目数はタリフライン(関税分類品目)の1%から15%まで国によって異なる
関税削減方式
最
終
合
意
関税削減方式や階層の境界は、収れんしつつあったが、関税削減率は国によって異なる
9
(2)EPA/FTA交渉
○ 全加盟国の合意を必要とするWTOの多角的貿易体制を補完するものとして、特定の国や地域
間のみで関税撤廃等を行うFTA※1(自由貿易協定)やEPA※2(経済連携協定)の交渉が進展。
※1:FTAは二国間等で関税を相互に原則撤廃することを取り決める協定
※2:EPAは関税の原則撤廃に加えて、投資や人の移動、技術協力などの幅広い分野を含む協定
○ 特に、農産物では、関税撤廃の除外品目や経過期間の設定など、柔軟性をもった取扱いが行わ
れる場合が多い。
○ 我が国は、アジアを中心に14の国や地域とEPAを締結・発効しており、2014年7月にモンゴルと
大筋合意し、現在、カナダ、コロンビア、EU、トルコとの各EPA、日中韓FTAが交渉中。
○ また、2013年5月には、日本、ASEAN諸国、中国、韓国、豪州、ニュージーランド及びインドの16
か国による東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉が開始され、7月から、環太平洋パート
ナーシップ(TPP)協定交渉に日本が参加。
EPA/FTA交渉の状況
相手
国等
シンガ
メキシコ
ポール
マレー
シア
チリ
タイ
ブルネイ
インド
ネシア
フィリ
ピン
ASEAN
全体
スイス
ベトナム
インド
ペルー
豪州
発効
時期
2002年
12月
2006年
7月
2007年
9月
2007年
11月
2008年
7月
2008年
7月
2008年
12月
2008年
12月
2009年
9月
2009年
10月
2011年
8月
2012年
3月
2015年
1月
2005年
4月
相手
国等
韓国
GCC ※
モンゴル
カナダ
コロン
ビア
中国
・韓国
EU
トルコ
RCEP
TPP
交渉開
始時期
2003年12月~
※交渉中断中
2006年9月~
※交渉延期中
2014年7月
大筋合意
2012年
11月~
2012年
12月~
2013年
3月~
2013年
4月~
2014年
12月~
2013年
5月~
2013年
7月参加
※GCC(湾岸協力理事会)加盟国:バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦
資料:農林水産省「EPA/FTA交渉の現状」(平成26年6月)等を基に作成
10
(3)日豪EPA
【協定の主な内容】
○ 2014年4月7日、日豪首脳会談で、輸入牛肉の
関税を段階的に引下げることなどで大筋合意。
○ 2014年7月8日、両首脳が協定に署名。
○ 2015年1月15日、協定締結・発効。
○ 豪州産の輸入牛肉は、品質が類似する乳用種
牛肉と競合するため、道産牛肉の価格の低下など、
本道の肉牛生産や酪農などに大きな影響を及ぼす
ことが懸念。
【参 考】
冷凍
現行38.5%を18年目に19.5%まで段階的に削減(約5割削減)
関税削減
冷蔵
現行38.5%を15年目に23.5%まで段階的に削減(約4割削減)
豪州からの輸入数量が発動基準数量
(※)を超えた場合
数量セーフガード
に、関税率を38.5%に戻す
※ 発動基準 冷凍(初年度)19.5万トン → (10年目)21.0万トン
牛肉の品種別枝肉生産量の割合(2013年)
区分
牛 肉
肉専用種
冷蔵(初年度)13.0万トン → (10年目)14.5万トン
乳用種
(参 考) 豪州からの輸入量(2012年度)
冷凍:18.1万トン 冷蔵:12.7万トン
交雑種
北海道
7%
82%
11%
都府県
56%
20%
24%
乳 製 品
※資料:農林水産省「食肉流通統計」
プロセスチーズ
原料用
国産牛肉(和牛を除く)と豪州産牛肉の部分肉卸売価格(2013年度)
(単位:円/kg)
区分
も も
乳用肥育おす(B-3・B-2平均)
対豪州産
1,208
※資料:農畜産業振興機構調べ
155%
豪州産
(冷蔵)
779
ナチュラルチーズ
関税割当
シュレッドチーズ
原料用
・枠数量:4,000トン→20,000トン(20年間かけて拡大)
・枠内税率:一定比率での国産品の使用を条件に無税
(国産:輸入 1:2.5→1:3.5(拡大))
・枠数量:1,000トン→5,000トン(10年間)かけて拡大
・枠内税率:一定比率での国産品の使用を条件に無税
(国産:輸入 1:3.5(新設))
(参考) 豪州からの輸入量(2012年度)
プロセスチーズ原料用:3万トン、シュレッドチーズ原料用:2.5万トン
11
(4)TPP(環太平洋パートナーシップ)協定
○ 2006年3月にP4協定(環太平洋戦略的経済連携協定)参加の4カ国(シンガポール、ニュージーランド、チリ
及びブルネイ)に加えて、米国、豪州、ペルー、ベトナムの8カ国でTPP交渉を開始。その後、マレーシア、メキ
シコ及びカナダが参加。さらに、2013年7月に我が国が参加し、現在、
12か国により交渉中。TPPの基本的な考え方は次のとおり。
①アジア太平洋地域における高い水準の自由化を目標とする
②非関税分野や新しい分野を含む包括的な協定
○ 政府は、TPPによる経済効果を実質GDPが0.66%(3.2兆円)
増加する一方、農林水産物生産額が3.0兆円減少するとした
政府統一試算を公表。
○ 道では、本協定に参加し関税が撤廃された場合、米、小麦、砂
糖、でん粉、牛肉、豚肉、乳製品等の12品目について、関連産業
などを含めた影響額が約1兆6千億円となり、道内経済に深刻
な影響を及ぼすものと試算。
関税撤廃による北海道農業への影響試算
TPP交渉21分野
※下線は新分野
物品市場アクセス、原産地規則、貿易円滑化、衛生植物検疫
(SPS)、貿易の技術的障害(TBT)、貿易救済、政府調達、
知的財産、競争政策、越境サービス貿易、商用関係者の移
動、金融サービス、電気通信サービス、電子商取引、投資、環
境、 労働、制度的事項、紛争解決、協力、分野横断的事項
TPP加入による経済効果(政府統一試算)
(平成25年3月15日公表)
日本経済全体:実質GDP 0.66%増加、3.2兆円増加
輸出+0.55%(+2.6兆円)、輸入▲0.60%(▲2.9兆円)
消費+0.61%(+3.0兆円)、投資+0.09%(+0.5兆円)
農林水産物(33品目)生産額
うち農産物(19品目) ▲2.7兆円
食料自給率(供給熱量ベース)
農業の多面的機能
3.0兆円減少
40% → 27%程度
1.6兆円程度喪失
(平成25年3月19日公表)
米、小麦、てん菜、でん粉原料用馬鈴しょ、小豆、いんげん、
乳製品、牛肉、豚肉、鶏肉、鶏卵、軽種馬
(計12品目)
生 産 減 少 額
▲ 4,762億円
食料自給率への影響
(カロリーベース)
210% → 89%
(H20)
一次産品又は
一次加工品(小麦粉等)
影 響 額 合 計
▲15,846億円
農業産出額
▲ 4,931億円
農家庭先販売収入、
補助金等
関 連 産 業
▲ 3,532億円
製粉・精糖、乳製品工場、
と畜場等
地 域 経 済
▲ 7,383億円
建設、商業、運輸、
サービス業等
雇用への影響
▲
11.2万人
関連産業従業員等
農家戸数への影響
▲
2.3万戸
販売農家
注:試算対象12品目の関税が撤廃され、必要な国内対策が行われない
前提での影響を、政府統一試算を参考に北海道農政部が試算
12
2 国の農政の主な動き
(1)食料・農業・農村基本計画
○ 食料・農業・農村基本計画は、食料・農業・農村基本法に基づき、食料・農業・農村に関し、
国が中長期的に取り組むべき方針を定めたものであり、情勢変化等を踏まえ、概ね5年ごと
に変更
○ 21年1月から、食料・農業・農村政策審議会及びその下に設けられた企画部会において
基本計画の見直しの検討を行い、22年3月の食料・農業・農村政策審議会で新たな食料・
農業・農村基本計画が答申され、22年3月30日に閣議決定
食料・農業・農村基本計画のポイント
[食料自給率]
 国家の最も基本的な責務として食料の安定供給を確保
 食料・農業・農村政策を日本の国家戦略として位置付け
 「国民全体で農業・農村を支える社会の創造」を明記
過去の農政の検証を行い、新たな政策の対応方針を整理
 収益性が著しく悪化し、農業の再生産の確保が困難になっている状況
を踏まえ、再生産可能な経営を確保する政策への転換
 需要が減少する用途の生産を抑制するなど、需要の変動への対応が
十分でなかった政策から、多様な用途・需要に対して生産拡大と付
加価値を高める取組を後押しする政策への転換
 対象を一部の農業者に重点化して集中的に実施する政策から、意欲
ある多様な農業者を育成・確保する政策への転換
 農地確保等に関する政策が十分な効果を得られなかったことなどを踏
まえ、優良農地の確保と有効利用を実現し得る政策の確立
 地域の活力が一層低下している状況を踏まえ、関係負傷連携の下、活
力ある農山漁村の再生に向けた施策の総合化
 自給率向上に向けた取組や、フードチェーン管理の取組の徹底等が
求められている状況を踏まえ、「品質」や「安全・安心」といった消
費者ニーズに適った生産体制に転換し、安心を実感できる食生活の実
現に向けた政策の確立
 平成32年度の目標として供給熱量ベースで50%、生
産額ベースで70%まで引き上げることを明記。
[食の安全と消費者の信頼の確保]
 「後始末より未然防止」の考え方を基本とした食品の安
全性向上やフードチェーンにおける取組(トレーサビリテ
ィ、GAP、HACCP)を拡大。「食品安全庁」について検討。
[農業経営の育成・確保]
 「戸別所得補償制度」の創設により、意欲あるすべての
農業者が将来にわたって農業を継続し、経営発展に取り
組むことができる環境を整備するとともに、6次産業化
の取組を後押しすること等により、競争力ある経営体を
育成・確保。
[農業・農村の6次産業化]
 農林水産物、バイオマスなどの資源と産業を結びつけ、
地域ビジネスの展開等を図る「農業・農村の6次産業化」
を推進。
 集落機能の維持と地域資源・環境の保全を推進し、農山
漁村の将来像を明確化するため、関係府省が一体となっ
て農山漁村活性化ビジョンを策定。
12
13
(2)「農林水産業・地域の活力創造プラン」
○ 25年5月、政府は、農林水産業・地域が将来にわたって国の活力の源となり、持続的に発展す
るための方策を幅広く検討するために、「農林水産業・地域の活力創造本部」を設置
○ 25年12月、政府(農林水産業・地域の活力創造本部)は、①需要フロンティアの拡大、②需要と
供給をつなぐバリューチェーンの構築、③多面的機能の維持・発揮、④生産現場の強化を4つの柱
として、「農林水産業・地域の活力創造プラン」を策定
○ 26年6月、関係府省、産業競争力会議、規制改革会議の議論を踏まえ、「農林水産業・地域の
活力創造プラン」を改定
「農林水産業・地域の活力創造プラン」
に基づく主な政策 (平成26年6月24日改定)
「農林水産業・地域の活力創造プラン」の概要
攻めの農林水産業
推進本部
(農林水産省)
産業競争力会議
農林水産業・地域の活力創造本部
規制改革会議
「強い農林水産業」・「美しく活力ある農山漁村」に向けた4本柱
農山漁村の有する
ポテンシャル
(潜在力)の発揮
経営マインド
(経営感覚)を
持つ農林漁業者
の育成
新たなチャレンジ
を後押しする
環境整備
需要フロンティアの拡大
(国内外の需要拡大)
-輸出促進、地産地消、食育等の
推進
多面的機能の維持・発揮
-日本型直接支払制度の創設
-農山漁村の活性化
-東日本大震災か
-東日本大震災から
の復旧・復興
らの復旧・復興
需要と供給をつなぐ
バリューチェーンの構築
(農林水産物の付加価値向上)
-6次産業化等の推進
-農業の成長産業化に向けた農協の役割
生産現場の強化
-農地中間管理機構の活用による
農業の生産コスト削減等
-経営所得安定対策、米の生産調整
の見直し
-林業の成長産業化
農
活林
力水
創産
造業
プ・
ラ地
ン域
の
-水産日本の復活
農業・農村全体の所得を今後10年間
で倍増させることを目指す。
1.輸出促進・地産地消・食育等の推進
・オールジャパンの輸出体制、輸出環境の整備
2.6次産業化等の推進
・A-FIVEの積極的活用、畜産・酪農の強化
3.農業の構造改革と生産コストの削減
4.経営所得安定対策の見直し及び日本型直接支払
制度の創設
5.農業の成長産業化に向けた農協・農業委員会等
に関する改革の推進
6.人口減少社会における農山漁村の活性化
7.林業の成長産業化
8.水産日本の復活
9.東日本大震災からの復旧・復興
プランの方向性を踏まえた
食料・農業・農村基本計画の見直し
14
3 北海道農業・農村の振興
(1)北海道農業・農村振興条例と北海道農業・農村ビジョン21
○ 道では、平成9年4月に「北海道農業・農村振興条例」を制定
○ 条例の基本理念に即して、農業・農村の将来像を明らかにする「北海道農業・農村ビジョン
21」を平成16年3月に策定
■ 「北海道農業・農村振興条例」の概要
● 北海道農業の健全な発展と豊かで住み良い農村の確立を
目指して、9年4月、全国初の「北海道農業・農村条例」を制
定。
北海道の農業・農村を貴重な財産として育み、次世代に引き
継いでいくことを基本理念としている。
● 条例では「道としての取組姿勢」や「道農政の基本的な枠
組」などを定めており、地域重視の考え方に立って、国の施策
と合わせて道独自の施策を総合的かつ計画的に推進。
● この条例に基づき「北海道農業・農村ふれあい促進基金」を
設け、この財源を活用して、道民の皆さんが農業や農村を身
近に感じ、広く理解してもらうための取組を促進している。
■ 「北海道農業・農村ビジョン21」の概要
● 消費者と生産者との信頼関係を基本とした「食」や「環境」、こ
れを支える「人」や「地域」を重視するという考え方に立ち、おおむ
ね10年後を見通した北海道農業・農村の将来像とその実現に向
けた取組の基本方向を、この4つの視点から取りまとめている。
● 道内農業関係者の共通の指針であるとともに、農業・農村の
役割について、消費者など道民の十分な理解を得て、地産地消
やグリーン・ツーリズムなど、農業・農村の発展に向けた身近な
取組への参加を求めるメッセージとしての性格を有する。
■ 「ビジョン」の将来像とその実現に向けた取組の基本方向
■ 条例の施策の基本方針
食
●農業の健全な
発展
●豊かで住みよい
農村の確立
環境
農業・農村を支える基盤の形成
消費者と生産者が「食」を通じ
て強い絆で結ばれた農業・農村
「環境」と調和しながら持続的
に発展していく農業・農村
収益性の高い地域農業の確立
■消費者の信頼に支えられた安全・安
心な「食」のシステムづくり
■豊かな食生活を育む食料の生産・提
供
■地産地消や食育などを通じた消費者
と生産者の結びつきの強化
■「環境」と調和した生産活動の推進
■「環境」を保全し、心やすらぐ田園空
間の創造
多様でゆとりある農業経営の促進
農業の担い手の育成及び確保
環境と調和した農業の促進
豊かさと活力のある農村の構築
人
地域
多様な「担い手」が活き活きと
活躍する農業・農村
個性を活かして「地域」が輝く
農業・農村
■次世代を担う多様で元気な「人」づく
り
■地域農業を支える経営体や組織の
育成
■個性を活かしたオンリーワンの「地
域」づくり
■農とふれあい、楽しむ場の提供
■快適で住みよい生活の場づくり
15
(2)第4期北海道農業・農村振興推進計画
○ 道では、北海道農業・農村振興条例に基づき、将来に向けて持続的に発展する本道農業・
農村づくりを目指して、農業・農村の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、
第4期北海道農業・農村振興推進計画(23~27年度:5か年間)を23年3月に策定
○ 第4期計画は、第3期計画を点検・検証し、北海道農業・農村振興審議会への諮問・答申
及び意見聴取、道民からの意見聴取を経て策定
第4期北海道農業・農村振興推進計画の概要
【策定趣旨】
本道の農業・農村を取り巻く情勢の変化や課題に的確に対応し、将来に向けて持続的に発展する本道農業・農村づくりをめざして、農業・
農村の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、「北海道農業・農村振興条例」に基づき策定
【計画期間】
平成23年度~27年度
【施策の推進方針】
平成16年3月に策定した「北海道農業・農村ビジョン21」で示した北海道農業・農村の将来像の実現と、道独自の生産努力目標の達成に
向けて、関係者が一体となって、農業・農村の振興に関する施策を総合的・計画的に推進
農業・農村の振興に関する施策の推進方針
推進方針1
需要に応じた安全・安心な食料の
安定供給とこれを支える持続可能
な農業の推進
推進方針2
北海道農業・農村を支える意欲あ
る人づくり
本道の優れた潜在力を最大限に活用
安全で良質な農産物をクリーンな北の大地で安定的に生産
個性が活きる活力ある農村づくり
推進方針3
農業生産の基本となる優良農地の
確保・整備と効率的な利用
ビジョン21で展望する
北海道農業・農村の将来像
推進方針4
農業を核とした産業展開と快適で
豊かな農村づくり
我が国の食料自給率向上に
最大限寄与する本道農業
本道の生産努力目標と食料自給率
○ 本道農業が、我が国の食料自給率の向上に最大限寄
与していく姿勢を示すとともに、農業生産に関する道内関
係者の共通の目標として、平成32年度を目標年とする生
産努力目標を設定
○ この目標の達成により、本道のカロリーベース食料自
給率は252%となると試算
[参考]生産努力目標(生産量)~抜粋~
現況(H20)
米
647,500t
(うち飼料用・米粉用)
(
-
)
小麦
541,500t
(うちパン・中華めん用) ( 34,000t)
生乳
3,909千t
牛肉
79,952t
目標(H32)
663,800t
( 22,000t)
650,300t
(123,000t)
4,334千t
89,810t
16
4 食の安全・安心の確保
○ 道は、平成17年3月に「北海道食の安全・安心条例」及び「北海道遺伝子組換え作物の栽
培等による交雑等の防止に関する条例」を制定
「北海道食の安全・安心条例」の概要
目 的
食の安全・安心に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって
道民の健康を保護し、消費者に信頼される安全で安心な食品の生産
及び供給に資する。
基本理念
① 道民の安全で安心な食品の選択の機会の確保
② 道民の健康の保護が最も重要であるという認識の下での取組
③ 道民の要望及び意見の反映、生産者等その他道民との
協働による取組
④ 食品の生産から消費に至る各段階における取組
「北海道遺伝子組換え作物の栽培等による交雑等の
防止に関する条例」の概要
目 的
○ 交雑及び混入の防止、生産上及び流通上の混乱の防止
○ 遺伝子組換え作物の開発等に係る産業活動と一般作物に係る
農業生産活動との調整
○ 道民の健康の保護並びに本道の産業の振興
目 的
区 分
施策等の体系
基本的施策等
食
の
安
全
・
安
心
の
た
め
の
施
策
安全で安心な
食品の生産及
び供給
道民から信頼
される表示及
び認証の推進
情報及び意見
の交換、相互
理解の促進等
情報の提供、食品等の検査及び監
視、人材の育成、研究開発の推進、
緊急事態への対処等に関する体制
の整備等
食品の衛生管理の推進、農産物等の
安全及び安心の確保、水産物の安全
及び安心の確保、生産資材の適正な
使用等、生産に係る環境の保全
適正な食品表示の促進等、道産食品
の認証制度の推進
情報及び意見の交換等、食育の推
進、道民からの申出、財政上の措置
開放系一般栽培
許可制
開放系試験栽培
試験研究機関に
よる研究ほ場に
おける試験研究
目的の栽培
届出制
北海道食の安全・安心委員会
一般的な附属機関の設置規定
概 要
① 栽培者は、地域説明会を開催した後、
知事に許可を申請
② 知事は、食の安全・安心委員会の意見を
聴取し、許可・不許可を決定
上記の委員会の中に研究者からなる専門
部会を設置し、ここで科学的見地に立って
調査審議
③ 知事は、栽培許可者に対し、必要に応じ
て勧告、栽培中止命令、必要な措置命令、
許可の取消しを行う。
① 試験研究機関は、地域説明会を開催した
後、知事に届出
② 知事は、食の安全・安心委員会の意見を
聴取
上記の委員会の中に研究者からなる専門部
会を設置し、ここで科学的見地に立って調査
審議
③ 知事は、届出のあった試験研究機関に対し、
必要に応じて勧告、栽培中止命令、
必要な措置を命令
17
Ⅲ 第4期北海道農業・農村振興推進計画の主な内容
1 需要に応じた安全・安心な食料の安定供給と
これを支える持続可能な農業の推進
(1) 愛食運動の推進
○ 道では、官民一体となって「地産地消」、「食育」などを総合的に推進する「愛食運動」を展開し、
様々な取組を実施
○ 道民の道産品の購買に直接結びつく仕組みづくりとして、「愛食の日」を制定するとともに、
生産者等が実施する「愛食フェア」の開催に対し支援
○ 道産食材のこだわりの料理を提供する外食店や宿泊施設を「北のめぐみ愛食レストラン」
として認定するとともに、地域の風土や食文化を生かした北海道らしい食づくりに必要な知識や
技術を有している方々を「北海道らしい食づくり名人」として登録
③北のめぐみ愛食レストラン
①「愛食の日」の制定
道内の宿泊施設・外食店のうち、北海道産食
材を使用したこだわり料理の提供を通じて、
道産食材の積極的な利用や素晴らしさをお客
様に伝える地産地消に取り組むお店を認定す
る制度
地産地消が道民の購買活動に直接結
びつくように、毎月第3土曜日・日曜日を
「愛食の日」とし、普及啓発活動を実施
26年11月末現在で342店舗
②北のめぐみ愛食フェア等の開催 (25年)
生産者団体等が開催する産地直売市「北のめぐみ愛食フェア」や
若手農業者による「ビッセ・マルシェ」開催への支援協力
■北のめぐみ愛食フェアの開催状況
(単位:回、千人)
H20
H21
H22
H23
H24
H25
回数 入場者 回数 入場者 回数 入場者 回数 入場者 回数 入場者 回数 入場者
46
338 48
327 47
324 50
905 43 1308 38
711
④北海道らしい食づくり名人
地域の風土や食文化などを生かし
た北海道らしい食づくりを行うために
必要な知識を有する方々を「食づくり
名人」として登録し、これらの方々の
情報をホームページで公開する制度
26年12月末現在で171名
18
(2) 道産食品の表示に係る取組
①道産食品独自認証制度(きらりっぷ)
【制度の特徴】
・道内で生産される農畜水産品を使用し、道内で
製造・加工された食品
・産地名や製造方法などの情報提供
・高度な衛生管理
・特別な原材料、生産方法など優れた商品特性
・官能(食味)検査を実施
・第三者機関が厳格にチェック
【認証状況】
・26年7月末現在、21基準延べ42社62商品を認証
(認証品目:ハム・ベーコン・ソーセージ類、醤油いくら、
しょうゆ、みそ、豆腐、日本酒、ナチュラルチーズ、
そば、いくら、アイスクリーム、 熟成塩蔵さけ、納豆、
生中華麺(生ラーメン)、熟成塩蔵からふとます、
魚醤油)
②道産食品登録制度
D
官能検査
官能検査
・消費者
・消費者
・専門家
・専門家
認
認
証
証
商品特性
特別の生産方法や地域性など
食品の個性を評価する基準
C
安心に関する基準
消費者の食に対する安心をさらに確保する基準
(品目に応じて設定)
B
生産情報の提供に関する基準
・詳細な原産地(市町村等)
・生産方法(生産資材名等)など
A
原材料に関する基準
・主たる原材料に道産品を使用した加工食品
・道産の生鮮食品
【登録基準等】
・道内で製造・加工
・主原材料に道産品を使用
・道産原材料は北海道産等と表示
・最終出荷形態と消費者の入手形態が同一
【登録状況】
・26年7月末現在、109社317品目
19
(3) 米チェン、麦チェンの取組
○ 北海道米については、「米の主産地」に相応しい道内食率85%以上の確保を目指し、府県産
米からの「米チェン!」の取組を展開、平成25米穀年度(24年11月~25年10月)には91%となり、
過去最高を記録
○ 一方、小麦についても、輸入から道産への利用転換を図るため、生産から流通・加工、消費
に至る関係者が連携し、需要に応じた小麦の生産や消費・流通対策に取り組む
「麦チェン」運動を開始
□ 麦チェンシンボルロゴ
北海道米の道内食率の推移
(%)
100
80
60
47
70 75
62 67
6
0
6
0
5
9
5
8
56
78 78 82
90 91
※ 麦チェンのPRシンボルとして
地域や団体等において広く使用
(PR資料、イベント等に活用)
40
20
0
H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25
資料:北海道農政部調べ
根室さんま祭りでの北海道米PR
□ 麦チェンサポーター制度
【制度の概要】
○ 対象店
・ 消費者に直接小麦製品を
提供する店舗 (ベーカリー、
飲食店(ラーメン)等)
○ 認定要件
・ 店舗総体で道産小麦使用率
30%以上
又は
・ 道産小麦100%商品が
※ 麦チェンサポーター
1アイテム以上 かつ
店の証として配布・掲示
・ 将来的に道産小麦50%
以上使用をめざす
(認定数 26年7月現在 290店)
20
(4) 「環境」と調和した農業・農村の持続的発展
○ 環境との調和を図りながら、消費者ニーズに即した安全・安心な農産物を
提供するため、クリーン農業や有機農業を推進
① クリーン農業
○ 有機物の施用などにより健全な土づくりを基本に化学肥 ■YES!clean登録集団、作付面積の推移
料や化学合成農薬の使用を必要最小限にとどめる農業
区
分 H20
H21
H22
作
物
数
53
53
53
市 町 村 数
112
113
115
延べ集 団数
357
366
376
延 べ 生 産 者 数 11,207 11,375 11,455
作 付 面 積 (ha) 15,063 14,806 14,395
H25の作付面積は、現在、集計中のため未発表
資料:北海道クリーン農業推進協議会調べ
(YES!clean表示制度)
クリーン農業技術を使い、化学肥料や化学合成農薬の
使用量を減らすなど、一定の基準をクリアした道産農産物
<対象農産物の要件>
・道内で生産、登録基準に適合
・栽培基準に基づき生産
・他の農産物と分別収集、保管、出荷等
② 有機農業
○ 化学肥料や農薬を使用しないことを基本として、環境
への負荷をできる限り低減した生産方法による農業
(有機農産物の検査・認証制度)
<有機JAS規格>
・たい肥等による土づくり
・播種・植付け前2年以上及び栽培期間中に
化学肥料、農薬を不使用
・遺伝子組換え技術を不使用
・慣行農法の農産物と仕分け
・化学肥料・農薬の飛来、流入防止
(戸)
360
400
H24
54
116
390
11,811
15,625
0.7
0.8
0.6 戸
350
320
0.4
0.6
341
311
289
0.6
0.4
0.3
250
0.8
0.7
%
300
355
331
300
295
280
200
260
有機JASマーク
(国の規格)
H25
55
117
397
11,863
-
有機農業に取り組んでいる農家戸数と販売農家に
占める割合
有機JAS認定農家戸数と全道農家に占める割合
0.8
0.8
0.8 (%)0.9
340
300
H23
54
115
382
11,659
14,960
199
150
H20
H14
H15
H21
H16
H22
H17
H20
H23
H21
H22
有機JAS認定農家戸数
販売農家に占める割合
資料:農林水産省「県別有機認定事業者一覧」
0.9 0.8
0.7
0.6
0.5
0.5
0.4
0.3 0.3
0.2
0.1 0.1
0
0.7
H24 -0.1
H23
年度
21
(5)新技術の開発・普及
○ 北海道の開拓、農業の発展において技術開発が大きな寄与。
○ 競争力の強化、高付加価値化・ブランド化を進めるため、新品種・ 新技術の開発、薬用作物など
新規作物の導入、さらには、農業機械のICT化、植物工場など高度先進技術にもチャレンジ。
新たな需要を創造する新品種開発
■水 稲
ゆめぴりか(H20)~極良食味(特A獲得)
きたくりん(H24)~いもち病抵抗性(やや強~強)
そらゆき(H26)~多収、業務用米 等
彗星(H18)、きたしずく(H26)~酒造好適米
■小 麦
きたほなみ(H18)~多収(2割増) つるきち(H24)~ラーメン用
ゆめちから(H20)~超強力でブレンドによりパン、パスタ特性
■大 豆
とよみづき(H24)~豆腐加工特性が高い
■たまねぎ
ゆめせんか(H25)~加工適性(焦げない)
カロエワン(H26)~加工適性(長玉)
薬用作物の生産拡大
生産技術の向上等による薬用作物の生産拡大を推進
■現状:道内の薬用作物作付け面積は291ha(平成23年)
■課題:①適用できる登録農薬が少ない
②低コスト生産に向けた機械化体系の確立
③栽培技術体系が確立していない
植物工場
施設園芸の一環として、生育環境(光、温度、湿度、二酸化炭素、養分
など)を高度に制御し、養液で栽培する植物工場の取組を推進
作物の周年・計画生産、土壌障害や連作障害の回避、耕起、
うね立てなどの重労働の省略化
■現状:58箇所に点在(平成25年)
■課題:①イニシャルコストの低減、②暖房コストの低減 など
農業におけるICT化の推進
GPS・GISの活用、ICTやロボット技術による農作業
の自動化、精密化などの研究開発・実用化が進展
■実用化された農業機械
○ GPSガイダンスシステムなどの走行支援装置
○ 高精度に散布量や散布範囲を制御する農作業機
○ 生育センサやデータによる可変施肥システム
■開発中の農業機械
○ トラクタ、コンバイン、田植機などのロボット農作業
機(自動化・無人化)
■ICT農業機械の導入効果
○ 作業時間・資材等の効率
化・省力、軽労化
○ 生育ムラの解消 など
■農業用ガイダンスシステム等の出荷台数
1000
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
910
830
630
510
380
10
10
H21
780
480
20
20
H22
自動操舵装置(道)
GPSガイダンス(道)
580
自動操舵装置(全国)
350
110
0 100
0
H20
890
90
80
H23
140
130
H24
190
GPSガイダンス(全国)
170
H25
■北海道農政部調べ
22
2 北海道農業・農村を支える意欲ある人づくり
[新規就農者の育成・確保]
○ 本道農業が持続的に発展するためには、新規就農者の育成・確保が重要であることから、道では、北海道農業担い手育成センター
(北海道農業公社)による就農相談会の開催や農業改良普及センターによる技術・経営指導など、幅広い取組を推進。
○ また、青年就農給付金事業や農の雇用事業など、国の制度についても積極的に活用するとともに、日本政策金融公庫等による経
営開始に必要な資金の貸付けなど、関係機関・団体等と連携し、総合的な取組を推進することにより、新規就農者の育成・確保を図っ
ている。
新規就農者支援の仕組み
農業高校・農業大学校
研修教育
の実施
農家
子弟
・
非農家
出身者
先進農家・農業法人
技術・
経営指導
実践研修
の実施
研修教育
・
実践研修
研修斡旋
就農相談
青年就農
給付金
(準備型)
新規
就農
・
農業
法人
就業
就農
準備
各種助成
事業
各種助成
事業
日本公庫・JA等
全国農業会議所
農業改良普及センター
技術・
経営指導
農の雇用
事業
青年等
就農資金
各種制度
資金
経営開始
・
法人就業
農地売買
支援事業
農地中間
管理事業
農場
リース
事業
青年就農
給付金
(経営開始型)
北海道農業公社
北海道農業担い手育成センター
市町村
(北海道農業公社)
農業後継者等を対象に養成及び研究課程の教育を実施するとともに、Uターン
就農者や新規参入者に対する基礎研修等を実施。
○教育内容
・養成課程(畜産経営学科、畑作園芸経営学科)
・研修課程(稲作経営専攻コース)
・研究課程(農業経営研究科)
●青年就農給付金(準備型)
研修期間(2年間以内)所得を確保する給付金(150万円/年)
●青年就農給付金(経営開始型)
就農直後(5年以内)の所得を確保する給付金(150万円/年)
●農の雇用事業
法人が行う実践的研修の経費支援(年間最大120万円)
●青年等就農資金
本道農業を担う青年農業者を育成・確保するため、道をはじめ、道内の関係機
関・団体が会員となり、新規就農者に対し、総合的な支援を実施。
○主な事業内容
・就農相談活動など就農促進支援活動
・認定就農者に対する就農支援資金の貸付け
・無料職業紹介所の開設
[26年度~]
農業経営を開始するために必要な資金を長期、無利子で貸し付
ける資金
●担い手育成センター各種助成事業
就農研修者家賃助成事業、大型特殊免許取得支援事業、傷害保
険掛金助成 等
●農地中間管理事業
[26年度~]
公社が農地を借り入れて、担い手に集約化して貸し付ける事業
●農地売買支援事業
[26年度~]
公社が離農地等を買い入れて、貸付後に売り渡す事業
●農場リース事業
公社が離農農家の施設を整備し、貸付後に譲渡する事業
23
3 農業生産の基本となる優良農地の確保・整備と効率的な利用
(1) 農業生産基盤整備の計画的な推進
○ 農家戸数の減少に伴い、一戸当たり経営規模が拡大しており、農業機械の作業効率や労働
生産性の向上が必要であり、ほ場の大区画化を行う区画整理の整備を促進していくことが重
要。
○ 近年の異常気象などに伴う農作物被害の多発により、地域では排水対策を中心に整備要望
が高まっており、安定的な生産ができるように暗きょ排水などの基盤整備を促進していくことが
重要。
○ 今まで整備してきた農業水利施設は耐用年数を超過した施設が増加し、老朽化にともない機
能低下の懸念があることから、ストックマネジメント手法を用いて、施設の長寿命化を図るなど効
果的・効率的な整備が重要。
○ これらの整備を計画的に推進するため、農地や農業水利施設等の過去の整備履歴などを地
図情報と一体的に蓄積。その情報を地域の将来構想の作成のため、関係者に積極的に提供す
るとともに、農地や農業水利施設等の補修・更新時期の判断や工法の選定などに活用。
▼大区画化の整備前(奥)と
整備後(手前)
▼農作物被害の多発
▼農業水利施設の老朽化
▼農地や農業水利施設の
情報管理と共有化
24
(2) 優良農地の適切な利用の推進
① 優良農地の確保
○
農地法や農業振興地域の整備に関する法律などに基づき、農業生産に不可欠な資源である優
良農地 を確保し、その有効利用を推進するとともに計画的な土地利用の推進などの農地政策に
ついて、市町村農業委員会、北海道農業会議等の関係機関・団体と連携しながら、効率的かつ効
果的に進める。
・ 農用地区域への編入促進・除外の抑制
・ 耕作放棄地の発生抑制及び解消・再生
・ 中核的な担い手への農地の集積
☆本道における確保すべき農用地等の面積の目標等
[H21] 110万ha
目標
[H32] 110.4万ha
内訳 [農地面積のすう勢(耕作放棄等)]
[各種施策効果]
○耕作放棄地の発生抑制等
○編入促進及び除外抑制等
「北海道農業振興地域整備基本方針」
(平成22年12月改正)より
△ 71千ha
差し引き +4千ha
+ 75千ha
(+ 61千ha)
(+ 14千ha)
農用地確保のための各種施策を市町村農業振興地域整備計画へ反映
② 中核的な担い手への農地の利用集積の推進
○ 農業委員会等の各種活動を通じた
・ 農地の利用調整
・ 農地中間管理機構との連携による農地の利用集積の推進
・ 農地の利用集積を図る取組の総合的な支援
・ 農業生産基盤整備事業等の実施を契機とした指導・調整等による担い手による農地の有効利
用の推進
○ 農地の集団化など効率的な農地利用の推進
・ 交換分合や換地による農地の集団化等の推進
25
(3) 農業生産基盤整備の効果
○ 暗きょ排水:ほ場の透排水性が改善されることにより、水田における中干し作業の適切な実施や畑地における
適期作業が可能となり、収量や品質が向上し、農作物の安定的な生産量確保に寄与
○ 区画整理 :ほ場の大区画化や傾斜緩和により、大型機械の効率的な利用が図られ、農業の省力化・大規模化
の促進に寄与
① 農業生産基盤整備(暗きょ排水)による収量確保の効果
(kg/10a)
■ 暗きょ排水に対する農家からの評価
17% UP
8% UP
5% UP
21% UP
12% UP
28%UP
資料:北海道農政部「基盤整備の有効性調査に関する調査」(H24年度)
資料:北海道農政部「経済効果検討調査」(H14~24年度)
■ 暗きょ排水の機能
図-2 生育のステージ
② 農業生産基盤整備(暗きょ排水)による品質確保の効果
未整備ほ場
品質低下が見られなかったほ場の比率
(%)
機械がぬかり作業がで
きない
根腐れ等
生育不良発生
降雨後に作業が可能
余剰水排除により
順調に生育
18ポイント UP
19ポイント UP
降雨による滞水
35ポイント UP
12ポイント UP
整備済みほ場
14ポイント UP
余剰水を排除
適期の作業(防除・収穫)
【整備前】
生育促進
【整備後】
資料:北海道農政部「基盤整備の有効性に関する調査」(H21年度)
③ 農業生産基盤整備(区画整理)による作業性向上の効果
(時間/ha)
33%削減
27%削減
22%削減
資料:北海道農政部「経済効果検討調査」(H14~24年度)
・ どちらも秋まき小麦の収穫前の状況。整備前は、排水不良により
融雪水や雨水が適切に排除されず、生育被害が発生していたが、
整備後は、排水不良が解消され被害の発生は見られなくなった。
(渡島総合振興局管内)
26
4 農業を核とした産業展開と快適で豊かな農村づくり
(1) 6次産業化等の推進
○ 本道の一次産業、食品製造業は付加価値が低く、「原料生産-研究開発-製造加工-販売輸出」といったバリューチェーン(価値連鎖)の強化
により、地域に所得と雇用を創出することが本道経済振興の最重要課題であり、その中で6次産業化は重要な取組
○ 北海道において六次産業化法・地産地消法に基づく「6次産業化事業計画」の総合化事業計画の認定を受けた農業者等は、26年10月末で
112件(総合化事業計画111件、研究開発成果利用事業計画1件)であり、そのうち新商品の開発目的が106件、販売方式の導入目的が10件、生産
方式の改善目的が11件となっている
6次産業化
食クラスター活動
産学官金のオール北海道体制で、食の付加価値向上や関連
産業の振興に取り組み、「食の総合産業化」を目指す。
○食クラスター連携協議体(H22年設立)
・約2100の機関団体が参画
・事務局~道経連、道、JA中央会等5機関
・11機関のタスクフォースで提案プロジェクトを
集中的に支援。
《主なプロジェクト》
サケ節、魚醤油、北方系ベリー類、ワイン&チーズ
【道内における農業生産関連事業体数】
区
連携
1,170
農産物直売所
1,050
1,130
1,240
観光農園
430
440
450
農家民宿
260
270
300
農家レストラン
140
150
170
2,910
3,090
3,330
計
(全国シェア 7.1%)
【農林水産省:6次産業化総合調査】
23年度
50
49
1
0
1
24年度
31
27
1
3
0
25年度
19
17
2
0
0
26年度
(10月末現在)
11
11
0
0
0
111
104
4
3
1
合計
1,100
道:1,229億円、全国:17,394億円
研究開発
成果利用
事業計画
水産物
※ 認定件数は、ファンドによる2件を加え、取消5件を差し引いたもの
1,030
【農業生産関連事業を行っている経営体の割合】
総合化事業計画
林産物
24年度
【農業生産関連事業販売額(平成24年度)】
○ 六次産業化法に基づく認定事業計画件数
農畜産物
23年度
【農林水産省:6次産業化総合調査】
■食品製造業の付加価値率(H24)
北海道 27.8%(都道府県別で下から4位)
計
22年度
農産物の加工
合
付加価値の向上
区分
分
北海道
うち加工
取
組
13.9% (全国20.9%)
2.3% ( 同 2.0%)
事
【農林水産省:2010農林業センサス】
例
● 仲野農園(空知管内長沼町)
果樹農家。ファームレストランの経営やリンゴジュースなどを製造
● 北海道夢民村(旭川市)
農業生産法人。米や野菜の産直などに取組
● 10RWINERY ~トアールワイナリー~(岩見沢市)
ぶどう生産からワイン製造まで取組。ワインの受託製造も実施
● JA中札内村(十勝)
枝豆の生産、加工、販売や輸出
● JA士幌町(十勝)
馬鈴しょの加工(ポテトチップ、コロッケ等)
27
(2) 農産物の輸出の現状と取組
◆「北海道農畜産物海外市場開拓推進協議会」の取組
年 度
プロモーション対象国(地域)
○ 少子高齢化社会の到来などにより、国内
マーケットの縮小が見込まれる中、成長著しい
アジア諸国など有望なマーケットに対し、安全・
安心で高品質な農産物を生産している北海道
の優位性を活かし、新たな販路拡大や生産者
の所得の向上など様々な効果を持つ輸出の
取組を進めることが重要
○ 平成3年に、道とJA北海道中央会、ホクレン、
JETRO北海道貿易情報センターの4者が「北
海道農畜産物海外市場開拓推進協議会」
(事務局:ホクレン)を設立し、東アジア地域等
を対象に道産農畜産物の海外市場開拓のため
の輸出プロモーション活動を開始
3~4年度
5~8
9~11
12~14
15~20
21~23
24
25
26
香港、シンガポール(市場調査など)
香港(北海道収穫祭、実験輸送など)
シンガポール(北海道収穫祭、輸出促進セミナーなど)
マレーシア(北海道食品フェア、特定商品プロモーションなど)
台湾(北海道食品フェア、バイヤー招聘など)
タイ(北海道食品フェア、特定商品プロモーションなど)
シンガポール(市場調査、海外向け道産農畜産物PR媒体の作成など)
香港(市場調査)、外国人来道者に対する道産特定商品のPRなど
シンガポール(市場調査)、外国人来道者に対する道産特定商品のPRなど
◆北海道からの主な輸出品
H22
品 名
数量 金額
長いも
ミルク等
にんじん、かぶ
かぼちゃ
メロン
2,305
2,136
0
0
1
H23
数量 金額
854 3,294
440 1,442
0
0
0
0
1
5
○ 国内では主力ではない3Lサイズ以上の十勝
産長いもが薬膳料理の材料として、台湾向け
に定着しているほか、 LL牛乳が香港へ安定的
に輸出されており、この2品目で、輸出量の9
割(金額ベース)を占める
○ 近年では、シンガポール・タイ向けの牛肉、イン
ドネシア向けの米などの輸出の動きもあり、長い
も、LL牛乳に続く輸出品目として、定着していく
ことが期待されている
H24
数量
916
290
2
0
2
金額
2,991 1,199
1,896 372
110
8
192
14
18
10
(単位:トン、百万円)
H25
主な
数量 金額 輸出国
4,677
2,325
332
272
34
1,498 台湾
463 香港
23 台湾
21 ベトナム
17 香港
(出典:財務省貿易統計)
JA ふらの(メ ロン)
JA びえい(スイートコーン、ブ ロッコリー)
ホクレン(牛肉)
など
取組段階
求められる支援
スタートアップ
情報提供
商品づくり
海外市場の調査、
商品開発等への支援
マッチング
バイヤーとの
マッチング支援
JA 帯広かわにし(な がいも)
ホクレン、ホクレン通商(LL牛乳)
JA 中札内村(冷凍枝豆)
など
物流
販路拡大
小口での輸出
などへの支援
販売促進活動
などへの支援
28
(3)快適で魅力ある農村づくり
<現状>
○担い手の減少(総農家戸数の減少)
・80,797戸(H7)→51,231戸(H22) ▲37%
○高齢化の進展(65歳以上農家人口増)
・24.1%(H7)→31.9%(H22) +7.8ポイント
○農村活力の減退による多面的機能
が低下する懸念
・農業・農村の多面的機能の評価額
(洪水防止、水資源かん養、景観保全等)
○農村コミュニティ機能の低下の懸念
12,581億円
○価値観やライフスタイルが多様化
・食の安全安心、環境保全、スローライ
フなどへの関心の高まり
・都市地域と農山漁村地域の交流に
関する世論調査(H26)
必要があるーー90%
多様な担い手が活き活きと活躍し、地域の個性が輝く農業・農村の実現に向けて
地域資源の保全・活用、コミュニティの活性化
○
農業・農村の有する多面的機能の維持・発揮を
図るため、地域共同で行う、多面的機能を支える
活動や地域資源(水路、農道等)の質的向上を図る
活動に対して支援
○
快適で魅力ある暮らしの環境づくり
○
飲雑用水施設や農道、生活雑排水の処理施設など、
快適な暮らしをささえる生活環境基盤の整備を支援
○
農村環境を良好に保全していくため、生態系保全
や景観などに配慮して整備を実施
生産条件が不利な中山間地域等の生産活動を支援
○
○
農業・農村の理解や消費者との結びつきを深め
るため、グリーン・ツーリズムなど地域が取り組
む交流活動等を支援
ハザードマップなど減災対策の検討や災害を未然
に防止する施設整備を支援
農道
浄水場
排水路
○
地域資源の活用を図る計画づくりや実践など、
コミュニティを活性化する地域住民活動等を支援
29
■平成26年度 農政部重点取組事項
国の農政の大転換
農業・農村を取り巻く環境
農業従事者の減少・高齢化、TPPなど農業国際交渉
安全・安心な食へのニーズの高まり、農村の活力低下等
農林水産業・地域の活力創造プランの策定
農地中間管理機構の創設、経営所得安定対策の見直し
水田フル活用と米政策の見直し、日本型直接支払制度の創設
第4期北海道農業・農村振興推進計画 ~ずっと愛され、輝きを増す北海道農業・農村をめざして~
-北海道農業の持つ「3つの価値(力)」を最大限に引き出す施策の展開-
【担い手と優良農地の確保】
基本価値
(生産力)
の 強 化
日本の食を支える
持続的な農業の実現
付加価値
(競争力)
の 創 出
農業の付加価値向上と
関連産業の発展に
よる所得と雇用の創出
多面的価値
(地域力)
の 発 揮
農業・農村の
多面的機能の発揮や
農村集落の活性化
● 新規就農者の受入広域指導体制の強化
新
● 地域農業を担う農業生産法人の育成・確保
新
● 女性農業者が活躍できる環境づくり
新
● 担い手への農地集積集約化を加速する
新
「農地中間管理機構」の整備
● 農業生産基盤整備の推進
【6次産業化と輸出の促進】
●
新 関連産業等とのネットワークによる
6次産業化の取組に必要な施設
等の整備支援
●
新 農業者等を対象とした輸出に
関するサポート体制の構築
【農業・農村の多面的機能の維持・強化】
【食料の安定供給と持続可能な農業の推進】
● 米の高品質化と省力・低コスト生産の推進
● 道産小麦の付加価値向上と地産地消の推進
●
新 経営全般をサポートする「酪農経営ヘルパー」の育成
● クリーン農業・有機農業の普及拡大
●
新 地産地消・食育の推進
● 流通・加工施設等の整備促進
【新技術の開発・普及】
●
新 ロボット農作業機などICT技術の実用化・普及の推進
●
新 植物工場など次世代施設園芸の普及推進
【付加価値の高い農産物の導入促進】
● 薬用作物の生産拡大
新
【都市と農村の共生・対流の促進】
● 農業・農村の多面的機能を支える地域活動、 ● 農村の豊かな資源を観光や教育、健康等に活用する
新
地域の手づくり活動の促進
農業生産活動の継続、環境保全の効果の
高い営農を支援(日本型直接支払制度)
【再生可能エネルギーの導入促進】
● 農業水利施設を活用した小水力発電施設の導入等
に向けた取組の促進
北
食海
道
料農
自業
農
給・
力村
の
の持
向つ
潜
上在
と力
の
食フ
のル
総発
揮
合に
産よ
る
業
の
形
成
参考資料
2015年春 民主党農業関係公約文書
1、「食」&一次産業の総合産業化
農林水産業の六次産業化、食品のブランド化、輸出、健康産業化など道産の
食の総合産業化を推進し、地域における雇用やビジネスの創出など活力ある地
域経済、農山漁村をつくります。
●フードコンプレックス国際戦略特区などを活用し、安全で高品質な道産農畜
水産物のブランド化・高付加価値化を進め、内外に積極的に移輸出していきま
す。道内各地に戦略的な食の総合産業を育成し、新たな雇用をつくります。
●農業基盤整備を計画的に進めるとともに、農業戸別所得補償の復活・法制化
をはじめ、畜産・酪農所得補償制度の拡充強化などにより、農家所得の安定・
向上と新規就農者の増加を図ります。
●漁業経営の安定に向け、資源確保や資源管理、省エネ・省コストの漁船導入、
増養殖業の拡大などを進めます。
●森林の持つ多様な機能を保持しつつ、林業・木材業の振興を図ります。公共
建築物をはじめとした施設などに道産材の利用を促進します。
●農林漁業に被害をもたらすエゾシカ、トド、アザラシなどの対策を進めます。
連合北海道の農業政策
2014(平成26)年度道政に関する「要求と提言」より抜粋
(提出日 2013年8月20日、交渉日 同10月24日)
Ⅱ 地域資源を活かした地場産業の振興と地域の活性化
3、地域経済を支える道内農林水産業の振興
(1)地域を支える農業・農村の活性化
① 農業者戸別所得補償制度を法制化するとともに、環境保全型農業を推進
し、農業・農村の持つ多面的機能を維持するため直接支払制度を創設する
よう国に求めること。
②
6次化ファンド(農林漁業成長産業化ファンド)の活用に向け、経営指
導や事業者間のマッチング機会の設定など、きめ細かい相談・支援体制を
つくること。
③
食関連産業を振興し雇用を創出するため、北海道フード・コンプレック
ス国際戦略総合特区による事業の積極展開を多面的に支援すること。
④
急速な円安による燃料・飼料等の高騰に対応するため、経営安定緊急対
策を拡充すること。
⑤
農業の担い手確保、農山漁村の再生に向けて、農・林・漁業を就職先と
して希望する新規学卒者向けに就職情報を充実すること。
⑥
農林水産業を若者に魅力的な産業とするため、農林水産関係の企業や法
人で雇用されている労働者に関わる法整備(労働基準法第41条等)を行
うこと。
2013 年「真の農政改革」政策提言
∼食料・農業・農村の持続的発展に向けて∼
2 0 1 3 年 8 月
北海道農民連盟
Hokkaido
Farmers’
Union
は じ め に
平成 20[2008]年 12 月に、北海道農民連盟が「真の農政改革」政策提言を公表
してから、およそ 5 年の歳月が経過いたしました。
この間、世界経済は激しく揺れ動き、米国発リーマンショックによる大不況
や
欧州ソブリン危機による世界的金融不安に襲われるなか、急激な勢いでグローバル
化が進み、世界的規模での経済格差や環境破壊が顕在化しています。
わが国でも、平成 23[2011]年 3 月に発生した東日本大震災や福島原発事故によ
り東北の農林水産業が壊滅的な被害をこうむり、今なお復旧復興の途上にあります。
また、
「戦後農政の大転換」や「戦後レジュームからの脱却」も曖昧なまま、2 度に
わたる政権交代[首相 5 人、農相 6 人]とその都度の農政見直しにより、農村現場
は翻弄され続け、疲弊と深刻の度を一層増してきました。これに追い打ちをかけた
のが、平成 25 年[2013]年 7 月のTPP交渉参加にあり、農民の将来不安と農政不
信は頂点に達してまいりました。
世界の食料事情が大きく変化するなか、わが国の食料海外依存度を適正化し、独
立国として国内農業の食料自給力強化こそ焦眉で不可避な課題であることは論を
まちません。現政権は、「農業・農村所得倍増目標 10 カ年戦略」や「日本型直接支
払制度」に加え、農地集積、新規就農者倍増、農業・農村の価値倍増、農林水産品
輸出倍増などで、「強い農業」「攻めの農業」を目指しています。
道農連は、このような最近の動きや、わが国が財政赤字と少子高齢化や国際的地
位の低下に直面していることに加え、先の農業白書が今は「構造改革の大きな節目」
と指摘していることなどを踏まえ、食料・農業・農村基本法に基づき「食料の安定
供給」や「多面的機能の発揮」と「農業・農村の持続的発展」を図る「本来あるべ
き農政の姿」を、当事者である農民自らの手による、わが国農政の中長期的政策提
言として、バージョンアップ版(2013 年「真の農政改革」政策提言)を策定し、近
未来図を再提案するものであります。
盟友はじめ農業関係者はもとより、幅広く国民各界各層の理解と共感が得られ、
今後の農民運動や新農政に反映させることができれば幸いでございます。
目
次
2013 年「真の農政改革」政策提言(本文)
第 1 章 いま、なぜ 2013 年「真の農政改革」を策定するのか
・・・・・・・・・・・1
Ⅰ.2008 年「真の農政改革」策定の背景と目的
Ⅱ.2013 年「真の農政改革」策定の意義
第 2 章 食料・農業等をめぐる動き、農民運動の基本目標 ・・・・・・・・・・・・・・4
Ⅰ.世界の経済、食料・農業、環境などをめぐる動き
Ⅱ.わが国における食料・農業・農村の現状と課題
Ⅲ.わが国における農政改革、直接支払制度などの変遷
Ⅳ.道農連が目指す農民運動の基本目標など
第 3 章 2013 年「真の農政改革」政策提言の考え方
・・・・・・・・・・・・・・・・・10
Ⅰ.2013 年「真の農政改革」政策提言の基本目標
Ⅱ.基本政策及び個別制度
第 4 章 2013 年「真の農政改革」における各施策の具体的な仕組み ・・・13
Ⅰ.「基礎的な直接支払」の仕組み
Ⅱ.「生産・経営安定政策」の仕組み
Ⅲ.「農村環境・資源保全政策」の仕組み
2013 年「真の農政改革」政策提言イメージ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
用語解説 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
2013 年 「真 の農 政 改 革 」政 策 提 言
∼食料・農業・農村の持続的発展を目指して∼
第1章 いま、なぜ2013年「真の農政改革」を策定するのか
Ⅰ.2008 年「真の農政改革」策定の背景と目的
北海道農民連盟は平成 20(2008)年 12 月、食料・農業・農村政策に関する中長期的な基本目
標を具体化した 2008 年「真の農政改革」政策提言を策定しました。策定の背景には、国際的な農
政の潮流を定めたガット・ウルグアイ・ラウンド(UR)農業交渉の合意がありました。
わが国においても、価格支持政策注 1 を中心とした「戦後農政の大転換」が迫られ、直接支払に
よる所得政策注 2 への転換など新たな農政の確立に向けて、専業的な農業者の視点を反映させるこ
とが強く求められていたからです。
1.ガット・ウルグアイ・ラウンド合意とWTO体制のスタート
ガット(関税及び貿易に関する一般協定)は、保護貿易主義注 3 の台頭が第 2 次世界大戦の一因
となったことの反省を踏まえ、
円滑な国際貿易を実現するために、
多国間協定締結という形で 1948
(昭和 23)年に発足しました。ガットは、WTO(世界貿易機関)が発足するまでの間、貿易を
扱う事実上の国際機関の役目を果たし、多角的貿易交渉(ラウンド)のもとで、関税や輸出入に
係る貿易障壁注 4 の撤廃などが行われてきました。日本は 1955(昭和 30)年に加盟し、ラウンド
ごとに工業製品や農産物などの市場開放が段階的に実施されてきました。
そして、1986(昭和 61)年に開始されたUR交渉では、サービス貿易注 5 等の新たな分野を含む、
包括的な交渉として進められ、7 年間の交渉を経て 1993(平成 5)年 12 月に合意しました。農業
交渉では、市場アクセス(関税、輸入制限)に加え、国内支持注 6(農業補助金等)や輸出競争(輸
出補助金)にまで対象が拡大され、3分野の保護水準を 1995 年から 2000 年までの 6 年間で一定
水準を削減することになりました。加盟各国は、関税引下げや国内支持削減などが迫れることに
なり、必然的に国際的な農政の潮流が形づくられ、各国の農政の枠組が形成されてきました。
一方、1995(平成 7)年にガットを拡大発展させる形で、物品をはじめ金融、知的財産権注 7 や
サービス貿易も含めた包括的な国際通商ルールを協議する国際機関としてWTOが設立されまし
た。2001(平成 13)年にはドーハ・ラウンド交渉が開始され、農業分野ではUR合意をベースに、
さらなる関税引下げ、国内支持や輸出補助金の削減などを目指して交渉が進められました。しか
し、交渉は難航を極め、先進国と新興国(中国、インド、ブラジル等)との対立等により交渉は
決裂し、こう着状態のまま交渉は長期化しています。
UR農業合意やWTO農業交渉を見据えた先進国における「農政改革」
EUなどの先進国では、UR農業交渉から今日まで、WTO農業交渉における関税引下げや国
内支持削減などを見据えて、一層の「農政改革」を加速化させてきました。
EUでは、1975 年に条件不利地域に対する直接支払の導入を皮切りに、UR交渉がほぼ固まっ
てきた 85 年には環境支払を創設しました。92 年には、価格支持の水準を大幅に引き下げる一方、
農家の所得減少を直接支払で補てんする所得政策へと大きく舵を切りました。さらに、2003 年に
は、過去の直接支払額を基礎に、生産要素と切り離した単一支払制度、すなわち「デカップリン
グ」注 8 政策を導入しました。あわせて、直接支払の要件として、環境規則の遵守を求める「クロ
ス・コンプライアンス」注 9 が取り入れられました。
また、米国も、1996 年農業法から過去実績に基づく固定支払を導入し、2008 年からは品目によ
り一定収入を保証する「収入基準補助助成」に転換しています。
このように先進国では、消費者負担による「価格支持」を改め、財政負担による「直接支払」
によって農家所得の確保や農村社会の維持などを図る「農政改革」を進めてきたのです。
2.新農基法の制定、国内農政は「価格支持政策」から「所得政策」へ移行
わが国では、UR農業合意やWTO農業交渉を踏まえて、価格支持の象徴的な政策であった「食
糧管理制度」
(政府による米価決定)を平成 7 年に廃止し、米の価格形成を市場にゆだねる「食糧
法」を制定しました。この法改正を契機として、政府及び各政党は「価格は市場で、所得は政策
で」を合言葉に、本格的な「農政改革」へと動き出しました。
平成 11 年には、これまでの「農産物の価格の安定及び農業所得の確保を図る」ことを明記した
「農
農業基本法を 38 年ぶりに見直し、新たに「食料の安定供給の確保」、
「多面的機能注 10 の発揮」、
業の持続的な発展」、「農村の振興」を基本理念とした「食料・農業・農村基本法」が制定されま
した。基本法で掲げる基本理念の達成に向けて、食料、農業及び農村に関する基本的な方針を示
した「基本計画」(5年毎に見直し)を策定し、具体的施策を展開してきました。
その第一歩として、翌 12 年には、中山間地域等における農業生産条件の不利を補正する「中山
間地域等直接支払制度」を導入し、直接支払政策の本格実施へと踏み出したのです。
米や畑作4品、原料乳などの価格支持政策の廃止、直接支払制度への移行
一方、政府は、米価支持政策の「食糧管理制度」の廃止に続き、平成 12 年には政府管掌作物注
11
と言われた麦、大豆、てん菜、でん粉原料用馬鈴しょの畑作 4 品、そして加工原料乳の生産者
価格を市場取引にゆだねる制度へと改廃しました。
こうして価格支持政策を改廃した後に政府は、平成 19 年に「戦後農政の大転換」と称し、内外
価格差の不利補正対策として「品目横断的経営安定対策」を導入しました。しかし、
「品目横断的
経営安定対策」は、加入に面積要件を設けるなど構造改革路線を踏襲し、さらに、支払対象を過
去実績とするなど食料自給率向上等とは矛盾する制度でした。
翌 20 年度には、名称を「水田・畑作経営所得安定対策」と変え、制度の一部を見直ししたもの
の、制度の根幹に係る基本的な課題や問題は残されたままでした。
3.2008 年「真の農政改革」策定目的は、中長期的な農政目標の明確化
道農連は、
「水田・畑作経営所得安定対策」に移行した後も、制度の改善を求めましたが、政
府は「制度導入から日が浅く、検証作業も不十分」とし、課題解決を先送りしました。
一方、組織内からは、価格闘争中心の「農民春闘」注 12 から「所得政策」への運動を加速させ
るために組織の考え方を「農政提言」としてまとめ、実現を目指すべきとの声が高まりました。
こうした動きや声を受けて道農連は、組織内論議を積み重ねながら、平成 20 年に農民運動の基
本目標とともに、中長期的な農政目標(政策提言)を示した 2008 年「真の農政改革」を策定しま
した。
「真の農政改革」では、市場原理注 13 優先、効率性重視の構造改革路線を推し進める農政を
改革し、農民運動の基本目標として「食料自給率向上など食料安全保障の確立、国土・環境の保
全など多面的機能の発揮、持続できる農業経営、安心して暮らせる農村社会の実現」を目指すこ
ととしました。また、「真の農政改革」では、EUなど「農政改革」の先進例を参考に、「食料と
環境の両全が図れる農政の確立」を目標に掲げたのです。
具体的な政策提言では、
「食料・農業・農村基本法」を法的よりどころに、食料供給と多面的機
能の両全を目指す基本施策として「直接固定支払制度」を位置付けました。
「直接固定支払制度」
では、①多面的機能に対する直接支払として適切に耕作されている全ての農地を対象とした「農
地面積支払」
、②食料の安定供給を図るための直接支払として生産コストと販売価格の差を補てん
する「作物別数量支払」の2本立てとし、政府・与党などに施策実現を強く求めてきました。
2008 年「真の農政改革」における「作物別数量支払」の考え方は、民主党の生産コストと販売
価格の差額を直接補てんする「農業者戸別所得補償制度」に、
「農地面積支払」は自民党の全ての
農地を対象とする「多面的機能直接支払法案」などに反映されてきました。
Ⅱ.2013 年「真の農政改革」策定の意義
道農連が 2008 年「真の農政改革」政策提言を策定してから5年が経過し、この間、わが国では
2度にわたる政権交代と農政見直しが行われました。具体的には、平成 19 年度導入の「品目横断
的経営安定対策」(水田・畑作経営所得安定対策)から、22 年度には民主党の「農業者戸別所得
補償制度」へ移行することになりました。
さらに、24 年 12 月の総選挙で再度、自公政権が誕生することになりました。自公政権は、営
農の安定的な継続を図るため、25 年度は「戸別所得補償制度」を実質的に継承するものの、26 年
度からは農政の抜本的な見直しを行うことにしています。
自公政権の農政見直しでは、日本型直接支払と言われる「多面的機能直接支払法案」と、担い
手の育成・確保の促進を図る「担い手総合支援新法」を中心に、具体的な内容などが検討される
ことになります。持続的な農業生産と安定的な経営を維持するための政策確立が強く求められて
おり、2 法案の制定も視野に入れた政策提言の具体化が必要とされています。
新たな農政確立に向けた農民自らによる政策提言を
一方、この 5 年間で、道・地区・市町村組織の役員も交代し、盟友の世代交代も進んでいます。
「真の農政改革」に掲げる中長期的な農政目標も、5 年程の中期的スパンで再検証し、時代認識
に沿った形で盟友に再提案することも必要です。また、TPP注 14 交渉参加問題をはじめ、農業・
農村の衰退の加速化など食料・農業・農村等をめぐる国内外の情勢は大きく変化し、時代認識に
そった細部の補強が必要です。さらに、国民の理解が得られる分かりやすい政策、一つの政策目
標に対して一つの施策とする簡潔な仕組みなどを追求する必要があります。
農政がめまぐるしく変わる今日、2013 年「真の農政改革」を策定するのは、農業・農村の持続
性を確保する「本来あるべき農政の姿」を農民自らが提言し、新たな政策に反映させるためです。
第2章
食料・農業等をめぐる動き、農民運動の基本目標
Ⅰ. 世界の経済、食料・農業、環境などをめぐる動き
多国籍企業がリードする経済グローバル化、経済格差の拡大や食料危機・環境破壊
近年、貿易自由化や経済連携の進展などで、モノ、カネ、ヒトが国境を越えて自由に行きかう
経済のグローバル化が急激な勢いで進んでいます。しかし、経済グローバル化の裏では、多国籍
企業の無秩序な経済活動が際立ち、経済格差の拡大、資源収奪、環境破壊、食料の不足と偏在、
雇用不安などの問題も世界各地で顕在化しています。
21 世紀は「環境と食の世紀」と言われるなかで、食料・農業・農村の持続的発展を考える場合、
グローバル化によって引き起こされる環境破壊や食料不足などの問題は避けて通ることはできま
せん。
世界の穀物需給はひっ迫し、途上国等では価格高騰や飢餓などで社会不安が深刻化しています。
また、温室効果ガスのまん延、森林伐採などの環境破壊、水不足、そして異常気象の多発も深刻
で、人類の生存に不可欠な環境保全と食料確保が急務とされています。
一方、世界の穀物貿易で有利性を保っているのは、広大な面積でモノカルチャー(単作栽培)
を展開する米国や豪州などの「新大陸型農業」で、長い歴史・風土の中で育まれてきた日本など
「旧大陸型農業」や途上国等との格差は歴然としています。とくに、米や小麦、大豆など土地利
用型農業については、規模拡大やコスト低減の努力だけで「新大陸型農業」に太刀打ちすること
は困難です。自由貿易、経済優先の論理だけでは、それぞれの国の食文化に根ざした持続的で多
様な農業生産、そして環境を守り続けることはできません。
こうした観点から、自由貿易を進めるWTO農業交渉の前文においては、
「食料安全保障、環境
保護の必要、その他の非貿易的関心事項注 15 に配慮」することが明記されています。人類の生存権
に係る食料と環境の問題、多国籍企業が押し進める利益確保を最優先する経済グローバル化につ
いて、もう一度見つめ直すことが必要です。
世界的な穀物の需給ひっ迫、中長期的な食料不足の深化と飢餓人口の増大
世界人口の爆発的な増加、途上国における畜産物の消費拡大などで穀物の消費量は増え続ける
一方、食料生産は停滞か減少傾向にあり、飢餓や栄養不足の人口は減るどころか増える傾向にあ
ります。世界各地で、干ばつ、洪水といった異常気象による自然災害が多発し、とうもろこしの
バイオエタノール化なども加わり穀物需給はひっ迫しています。
さらに、国際穀物市場への大量の資金投機等で価格高騰を招き、途上国など多くの国々で混乱
が生じています。今後も地球温暖化の影響で農地の砂漠化や水不足が進み、農業の生産性も低下
することが予測されるなど、慢性的な食料不足は深刻化すると見られています。
現在、世界の飢餓人口は 9 億 5,000 万人にものぼり、死者数は年間 1,500 万人に達しています。
とりわけ途上国を中心とした貧しい国々では、安定的な食料供給が最大の課題となっています。
世界の人口は 70 億人を突破し、2050 年には 90 億人を超えると言われ、この人口を養うためには
世界全体の食料生産を 70%増加させる必要があると国連は試算しています。
わが国政府は、WTOドーハ・ラウンド農業交渉に臨むに当たり、「各国の多様な農業の共存」
を強く訴え、世界的な農政課題として「多面的機能への配慮」、「食料安全保障の確立」の追求が
不可欠であることを声高に主張してきました。
わが国において、国内農業の生産拡大と食料自給率の向上を期することは、国家としての「食
料安全保障」を確保するとともに、地球環境の保全や飢餓人口の撲滅など、先進国が国際貢献と
して果たさなければならない当然の責務であると言えます。
Ⅱ. わが国における食料・農業・農村の現状と課題
EPA/FTAなどの加速化、TPPは国民の命と暮らしにも多大な影響
WTO交渉が長期化する中で、わが国も自由貿易・経済連携交渉へと動き出し、2002 年 11 月
のシンガポールとのFTAを皮切りに、現在 13 の国と地域との間でEPA/FTA注 16 を締結し
ています。これまでの協定では、わが国の重要な農畜産物については、関税撤廃の例外扱いなど
一定の国境措置を確保してきました。今後、交渉中及び共同研究などを含めると、日豪、日加、
日中韓、日EUなど 10 の協定が控えています。
すでに、わが国の食料市場は、先進国の中で最も開かれており、現在残されている重要品目は
食料安全保障や国内農業・地域経済の維持の上から不可欠な品目ばかりです。引き続き、重要農
畜産物の関税撤廃の例外扱いや適正な国境措置の確保等を求めて行かなければなりません。
一方、突如浮上したTPP参加問題(平成 22 年 10 月に参加検討を表明、23 年 11 月に関係国
との協議開始を表明、25 年 3 月 15 日に交渉参加を表明)では、十分な国民的議論や正確な情報
開示がなされないまま、交渉参加に向けた動きを強めています。
TPPは、あらゆる産業保護政策を撤廃させ、弱肉強食の新自由主義注 17 を隅々まで貫徹させる
「自由貿易協定の最終的形態」と言うべき協定で、重要品目等の例外措置が認められるEPA/
FTAとは異なります。諸外国との徹底した市場競争により、農林水産業や地域経済等に壊滅的
打撃を与えるとともに、国内における富の一極集中、貧富の拡大などを招きかねません。
また、TPPは、農業分野の問題だけに止まらず、金融・医療・保険・雇用や食品の安全基準
などあらゆる規制の緩和、ルール改正を推し進め、国民の命や暮らしよりも大企業の利益を最優
先するものです。TPPは、徹底した市場競争と全ての規制を排除する無秩序な協定であり、わ
が国の「国のあり方」を根本から変える恐れを内在しているのです。
TPPの影響試算、農林水産業や地域経済などに壊滅的な打撃
政府の影響試算によると、TPP参加で「関税撤廃した場合」、わが国の農林水産業の生産額は
3 兆円(うち農産物 19 品目で 2 兆 7 千億円)減少し、食料自給率も 27%(カロリーベース注 18)まで低下
すると報告しています。わが国の農業産出額は約8兆円ですから、その打撃は図り知れません。
一方、参加した場合の経済効果として、安い輸入品が増加して消費が拡大するほか、工業製品
の輸出が増えることなどで、全体では実質GDP(国内総生産)を年間で 3 兆 2 千億円、率にし
て 0.66%程の効果が見込めるとしています。一部の輸出産業の利益やわずかな経済成長を得るた
めに、食料安全保障を放棄し、地方や農林水産業を切り捨てることは「国益」に反する行為です。
しかも、政府の試算では、関税撤廃以外の非関税障壁についての影響試算が行われていないこ
とから、これらの影響を勘案すれば極めて甚大な打撃が予測されます。
生産額の減少で一番大きな影響を受けるのは、重要農畜産物を多く抱える北海道です。道庁が
試算した影響額では、農業産出額で△4,931 億円、農業関連産業で△3,532 億円、さらに地域経済
では△7,383 億円などと本道への影響額は△1 兆 5,846 億円に達するとしています。また、農家戸
数(約 4 万 4 千戸)は 2 万 3 千戸が減少するとともに、関連産業などを含め 11 万 2 千人の雇用が
失われるとし、北海道農業と多くの関連産業の存続は困難となることが懸念されます。
わが国の農業生産基盤のぜい弱化、進む農家戸数の減少や高齢化など
わが国の農業は、外国農産物の輸入増大や国内農産物の価格低迷などで、農家戸数は減少を続
け、高齢化も深刻化するなど、危機的状況が深まっています。
最高時 11 兆 7,171 億円(昭和 59 年)を有したわが国の農業産出額は、平成 17 年に 8 兆 4,887
億円に、22 年には 8 兆 1,214 億円へと減少し、とくに農家の農業所得に直結する生産農業所得は
17 年の 3 兆 3,066 億円から 22 年には 2 兆 8,395 億円へと大幅に減少しています。
また、平成 22 年の「農業センサス」注 19 によると、農業就業人口はこの 5 年間で 75 万人減少し、
国民の3%に満たない 260 万人まで落ち込んでいます。新規就農者は、年間 6∼8 万人で推移して
いるものの、戦後の日本農業を支え続けてきた昭和一桁世代の離農者数の増加に追い付かず、次
世代への円滑な引継ぎが進んでいません。
さらに、販売農家戸数は、この 5 年間で 33 万戸減少して 163 万 1 千戸と急速に減り続け、とり
わけ農業収入で経営と生活を支える主業・準主業農家の減少が際立っています。さらに、耕地面
積も 469 万 2 千 ha から 22 年には 459 万 3 千 ha へと大幅に減少する一方、耕作放棄地面積は増加
し続け、22 年には埼玉県の総面積に相当する約 40 万 ha となっています。
農地や担い手の減少など農業生産基盤のぜい弱化が進み、国土・環境保全など多面的機能の低
下が懸念されています。とりわけ「食料の安定供給」と「多面的機能」の源泉である農地を国民
の共有財産とし次世代に引き継いで行くことが重要です。
他方、わが国の食料自給率は、低下傾向に歯止めがかからず、平成 2 年の 48%(カロリーベース)から
24 年には 39%にまで低下しています。多くの先進国では、食料自給率をおおむね確保しているに
もかかわらず、わが国はオランダの 62%(2005 年)、スイスの 57%、そして韓国の 45%を下回り、
先進国の中で最低の水準に止まっています。
世界の穀物需給がひっ迫する中で、わが国の食料安全保障は極めて危うい状態にあります。安
全・安心な国産農産物の安定供給、関連産業や地域経済の活性化のためにも、産業として農業の
持続性を回復させ、地域経済の再生を図ることが急務となっています。
「限界集落」の多発、農村集落機能(地域社会)の喪失と空洞化の進展
少子高齢化社会の中で、農山村、特に中山間地域では 急速に地域社会の崩壊が進んでいます。
農林水産業の衰退、農村の過疎化と高齢化により、病院や福祉施設、公共交通などの生活基盤が
急速に失われています。農山村地域では、買物・医療難民と言われる人達が多発し、地域住民が
そこに住み続けたくても住めない状態にまで陥っています。
全国には 13 万 9 千の農業集落(平成 17 年)が存在し、そのうち農業生産活動に不可欠な地域
資源の利用や維持管理を共同で行うなどの集落機能があると確認されたのは、11 万 900 集落とな
っています。過疎地域等においては、世帯数が 9 戸以下の集落では 5 割、高齢者割合が 5 割以上
の集落では4割で集落機能の低下あるいは機能維持が困難とされています。まさに、
「限界集落」
(人口の半数以上が 65 歳以上の高齢者で、社会的共同生活の維持が困難な集落)が多発しており、
地域社会のあり方が問われています。農村は、様々な多面的機能を担っており、農村の崩壊が国
民の経済・社会に深刻な影響を与える段階にまできています。
地域では、農林水産業の 6 次産業化注 20 など地域再生の取組みが行なわれていますが、
「現場力」
だけでは再生が難しいのも事実です。農村再生の議論が、規制緩和や経済優先に先導され、安易
な「自立」論へ流れやすい中で、地域の自立基盤を支える「国土の均衡ある発展、都市と農村の
格差是正」など骨太の国民議論が必要です。
農業・農村が果たす多面的機能の後退、水資源確保など都市部への影響も大
農業・農村の衰退に伴い、多面的機能の低下が懸念されています。多面的機能には、洪水防止
や水資源かん養注 21 など国土・環境を保全する役割や、緑の景観や安らぎの空間、保健休養の役割
などが有ります。これらの役割を計量計算した場合、代替法による評価の一例として年間約 6 兆
9,000 億円に相当する価値があるとの試算もあります。
こうした機能以外にも、多様な動植物の保全、歴史や地域文化の継承といった有償化できない
様々な機能や役割を果たしています。さらに、農業生産活動を通じて形成される美しい農村景観、
農業体験や観光農園など観光資源としても注目を浴びています。
しかし一方では、農業・農村は危機的状況にあり、豊かな地域資源の喪失は、川下の都市部に
も大きな影響を及ぼしつつあります。
国民経済・社会の安定、都市と農村の共存を図るためにも、農業・農村が果たしている多面的
機能を国民全体で支える政策の確立が急務となっています。
Ⅲ.わが国における農政改革、直接支払制度などの変遷
新農基法の制定、本格的な直接支払政策「品目横断的経営安定対策」の導入
わが国における直接支払等の法的な根拠となっているのが、平成 11 年に「食料の安定供給の確
保」と「多面的機能の発揮」を政策目標とし制定された「食料・農業・農村基本法」です。そし
て翌 12 年には、中山間地域等における農業生産の不利を補正する「中山間地域等直接支払制度」
が導入され、本格的な直接支払がスタートしました。
中でも特徴的なのが、
「WTOにおける国際規律の強化にも対応し得るよう、品目別に講じられ
ている経営安定対策を見直し、施策の対象となる担い手を明確にした上で、その経営の安定を図
る対策に転換する」とし、平成 19 年に導入された「品目横断的経営安定対策」でした。内外価格
差を有する麦など畑作4品の生産条件不利を補正するための直接支払です。
しかし、
「品目横断的経営安定対策」は、対象要件に面積規模を設け、中小規模農家を切捨てる
構造改革路線を踏襲するなど、農村現場に大きな混乱を招きました。また、交付金支払いを過去
実績に基づく固定払(生産不利補正対策の約 7 割)と当年産の生産量に対する成績払(同 3 割)
としたことによって、国内農業生産の拡大を求める農業者の意思とはかけ離れていました。さら
に、固定払は対象作物の作付けに関係なく支払われたことから、野菜等の作付け増加をもたらす
玉突き現象を引き起こすなど多くの課題や問題を抱えていました。
このため「品目横断的経営安定対策」は、制度発足から 9 カ月で「水田・畑作経営所得安定対
策」に名称変更されたものの、所得減少をもたらす交付金単価の設定や過去実績支払などの問題
は残されたままで、EUなど「農政改革」先進国には遠く及ばない内容でした。
「農業者戸別所得補償制度」のスタート
平成 21 年秋に民主党政権が誕生し、翌 22 年に基本計画を見直して、米を対象とした「戸別所
得補償制度モデル事業」が導入され、23 年から本格実施されました。
「戸別所得補償制度」は、
麦や大豆など畑作4品にソバ、ナタネを対象に加え、生産コストと販売価格との恒常的な赤字分
を販売農家に直接支払いました。さらに、水田転作の自給率向上作物を支援する「水田活用交付
金」、地域振興作物等を支援する「産地資金」なども創設されました。
政財界の一部からは、
「戸別所得補償制度」をバラマキと批判しましたが、農家からは、米過剰
作付け縮小と米価回復、畑作物の所得確保等から一定の評価を得ています。
しかし、課題も残されていました。道農連が求めてきた多面的機能の有償化については、戸別
所得補償制度の中に織り込み済みとの理由から、直接支払は見送られ実現しませんでした。
さらに、全国平均の一律単価は、簡素でわかりやすい反面、地域の生産実態との間にかい離を
生じやすく、作物毎の労働の強弱や栽培技術の難易度などから、作付体系に大きな変化をもとら
しました。省力化作物である麦、ソバ等の過作を招いた反面、てん菜やでん粉原料用馬鈴しょの
作付け減少、備蓄米や加工用米の不足など様々な問題が生じました。
「産地資金」によって、地域
振興作物の維持・拡大や適正な輪作体系の確保に向けた対策が講じられましたが、これらの問題
が完全に是正されたとは言い難い状況です。
しかし、平成 24 年の総選挙で民主党政権から自公政権へ移行することになり、25 年は「戸別
所得補償制度」から「経営所得安定対策」と名称を変更し、基本的枠組みは維持したものの、26
年度に抜本的な見直しを行うとしています。
経営所得安定対策の見直しと多面的機能に着目した「日本型直接支払」などの検討
平成 26 年度から新たな農政の確立を目指す自公政権は、多面的機能に着目した「日本型直接支
払」と人・経営体に着目した「担い手総合支援」を農政の「車の両輪」と位置づけ、過去に提出した
法案をたたき台に具体化を検討しています。
「日本型直接支払」では、多面的機能の適切かつ十分
な発揮を図ることを、また「担い手総合支援」では担い手の育成及び確保に関する施策を総合的
かつ計画的に推進することを目的としています。
一方、農水省は、林農相を本部長とする「攻めの農林水産業推進本部」を設置し、
「農林水産業・
地域の活用創造プラン」の策定に着手しています。推進本部は、
「日本型直接支払」や「担い手総
合支援」の具体化を検討する「制度見直し検討委員会」と、
「攻めの農林水産業の具体化」を検討
する「戦略的対応推進委員会」の2つで構成され、検討を進めています。
しかし、いずれの検討においても、販売価格と生産コストの差を償う「経営所得安定対策」が、
「日本型直接支払」や「担い手総合支援」とどのように整合化されて体系化されるのか、全く示
されていません。「経営所得安定対策」が、「担い手総合支援」のなかに組み込まれるのか、それ
とも「経営所得安定対策」独自で施策化されるのか全く不透明なままです。
「経営所得安定対策」
が農政の中で、どのような位置付けとされるのか注視しなければなりません。
このため、今後本格化する「経営所得安定対策」の見直しと「日本型直接支払」及び「担い手
総合支援」の具体化に向けて、情報の収集を図り、2013 年「真の農政改革」の内容が十分反映さ
れるよう運動を進めていくことが必要です。
Ⅳ.道農連が目指す農民運動の基本目標など
以上の情勢と基本的な認識を踏まえ、道農連が目指す中長期的な「農民運動の基本目標」につ
いては原則的で普遍的な原点であることから、基本目標は変えずに継続することにしました。た
だし、運動の「具体的な目標」については、これまでの運動経過や情勢変化などを踏まえて、内
容の一部を補強することにしました。
1. 道農連が目指す中長期的な農民運動の基本目標
道農連は、農民運動の原点である「生産現場からの提案と行動」を基本に、中長期的な農民運
動の基本目標を次のとおり定めることにします。
≪食料・農業・農村を担う家族経営等を基本に、農村社会の存続と環境の保全、農民の社会的・
経済的地位の向上を期する≫
2. 農民運動の具体的な目標
持続可能な農業生産と農村社会の維持を担っているのが、生産現場の第一線に立つ家族経営、
農業生産法人である。この、「家族経営等を守り育てる」
「生産現場の声を政策に反映させる」視
点から具体的な運動目標の柱を次の 3 点とします。
◎食糧主権と多様な農業の共存を目指す新たな貿易・経済連携ルールの確立に向けた闘い
◎国民の食料、国内の農業・農村を守る「真の農政改革」を目指す闘い
◎消費者や労働者などとの連携した国民のいのちと暮らし、平和を守る闘い
農民運動の基本目標及び具体的な目標の新旧対比表
2008 年「真の農政改革」
基 本 目 標
2013 年「真の農政改革」
食料・農業・農村を担う家族経営等を基本に、
農村社会の存続と環境の保全、農民の社会的・経済的地位の向上を期する
1.各国の多様な農業の共存を目指す
1.食糧主権と多様な農業の共存を目
指す新たな貿易・経済連携ルールの
新しい貿易ルール確立に向けた闘い
2.国内の食料・農業・農村を守る「真
具体的な目標
の農政改革」を目指す闘い
3.国民のいのちと暮らし、平和を守
確立に向けた闘い
2.国民の食料、国内の農業・農村を
守る「真の農政改革」を目指す闘い
3.消費者や労働者などとの連携した
国民のいのちと暮らし、平和を守る
る闘い
※下線は見直した部分
闘い
第3章 2013 年「真の農政改革」政策提言の考え方
Ⅰ.2013 年「真の農政改革」政策提言の基本目標
2013 年「真の農政改革」の基本目標については、中長期的でかつ普遍的であるため、2008 年「真
の農政改革」と同様とします。具体的には、
『わが国農業の力を最大限に発揮することを通じて、
「食料・農業・農村基本法」の基本理念で掲げている「食料の安定供給の確保」及び「多面的機
能の発揮」の両全を図ること』とします。
この基本目標を達成するため、
「食料・農業・農村基本法」をよりどころに、農業・農村の担い
手である家族経営などを守り育て、農業者の所得確保が図られるよう次の基本政策及び個別制度
の実現を求めます。
Ⅱ.基本政策及び個別制度
2013 年「真の農政改革」の基本政策及び個別制度は、
「一つの政策目標に対して一つの施策」と
するなど簡素で分かりやすい仕組みを前提に、名称の変更などを含めて再構築することとします。
なお、2013 年「真の農政改革」は、生産現場の視点から中長期的な目標として本来あるべき農
政の姿を示したものです。その時々の課題に対する提言については、
「真の農政改革」の考え方を
基本に、諸情勢を踏まえて組織論議を通じ別途作成します。
1.基本政策及び個別制度の基本設計
「真の農政改革」の基本政策として、農業の多面的機能の発揮を図る「多面的機能固定支払」
と食料の安定供給を確保する「作物別支払」の二つの「基礎的な直接支払」を求めます。
「多面的
機能固定支払」は地域政策の基礎的施策として、
「作物別支払」は産業政策の基礎的施策として位
置付けます。
この「基礎的な直接支払」をベースに、
「生産・経営安定政策」と「農村環境・資源保全政策」
の二つの政策を組み合わせます。
「生産・経営安定政策」は、持続可能な農業生産と経営安定を図
ることを目的とし、
「農村環境・資源保全政策」は、安心して暮らせる農村基盤の実現を目指すこ
とを目的として、それぞれ具体的施策を求めていきます。
なお、各政策の名称に用いている、
「支払」は生産者個人等に対する政策、それ以外の「支援」
は共同した取組などに対する政策を指します。
2013 年「真の農政改革」の基本政策及び個別制度のイメージ
産業政策
個
別
制
度
基
本
政
策
地域政策
生産・経営安定政策
「地域農業確立支援」
農村環境・資源保全政策
「自然循環型農業支払」
「経営セーフティネット対策」
「条件不利補正支払」
「農村環境整備支援」
「農業資源保全支援」
基礎的な直接支払
「作物別支払」
(数量・面積支払と変動支払)
「多面的機能固定支払」
2.基本政策及び個別制度の政策目標
(1)「基礎的な直接支払」の政策目標
国民の共有財産で、かつ多面的機能の源泉である農地に対する直接支払、並びに国民生活に
欠かすことのできない重要農畜産物の再生産を図るための直接支払を講ずることにより、将来
にわたり農業の持続的な発展を図り、
「食料の安定供給の確保」と「多面的機能の発揮」の両全
を期すことを目標とします。
【具体的施策の政策目標】
「多面的機能固定支払」:「農村環境・資源保全政策」における共同した取組を行うことを条件(ク
ロス・コンプライアンス)に、当該地域において適切に耕作されている全ての
農地面積に応じて交付金を交付することにより、農業の多面的機能の一層の発
揮を図ります。
「作物別支払」:販売価格が生産コストを恒常的に下回っている作物を対象に、その差額を直
接支払(補てん)することで、重要農畜産物の安定供給と再生産の確保を図ります。
(2)「生産・経営安定政策」の政策目標
地域農業の確立などに不可欠な作物に対する多様な取組への支援、並びに環境を保全する自
然循環型農業の推進、農畜産物の収入減少、生産資材の価格高騰に対する影響を緩和する経営
セーフティネット対策を講ずることにより、地域農業の持続的な発展と農業経営の安定を図る
ことを目標とします。
【具体的施策の政策目標】
「地域農業確立支援」:地域農業の確立や関連産業などに不可欠な作物に対し、多様な取組を
支援する事業を講ずることにより、特色ある地域農業の確立と持続的な
発展を図ります。
「自然循環型農業支払」:減肥・減農薬、有機農業など自然循環型農業を支援することにより、
環境と調和のとれた農業生産の推進を図ります。
「経営セーフティネット対策」:農畜産物の価格や収量の低下による収入減少及び肥料・燃油・飼料の
価格高騰に対する影響を緩和するためのセーフティネット対策を講ず
ることにより、農業経営の安定を図ります。
(3)「農村環境・資源保全政策」の政策目標
コミュニティや農村環境の整備を図るための地域住民による共同した取組み、農業者の共同
した取組による農業資源の適正な維持・管理、さらに、条件不利地域農業に対する不利補正な
どを講ずることにより、農村環境の整備や農業資源の保全、条件不利地域における農業生産の
維持などを図ることを目標とします。
【具体的施策の政策目標】
「農村環境整備支援」
:地域住民による共同した取組を通じて、里山や生物多様性の保全、美し
い景観形成などの農村環境の向上などを図ります。
「農業資源保全支援」:農業者の共同した取組による農業用水利施設などの適切な維持・管理、
耕作放棄地や不耕作地の再生に努めることにより、農業生産活動に不可欠
な農業資源の保全を図ります。
「条件不利補正支払」:中山間地域など条件不利地域の農業生産活動に対して、平場との条件
不利を補正する対策を講ずることにより、持続的な生産を確保します。
各 政 策 の 新 旧 対 比 表
2008 年「真の農政改革」
2013 年「真の農政改革」
○直接固定支払制度
・農地面積支払
・作物別数量支払
名称変更
○食料・経営政策
・食料自給率向上対策
・自然循環型農業対策
・価格下落補てん対策
名称変更
名称変更
補
統
強
合
名称変更
全面見直し
○農村振興政策
・農村・資源保全交付金
名称変更
・条件不利補正対策
名称変更
分
離
○基礎的な直接支払
・多面的機能固定支払
・作物別支払
(数量・面積支払、変動支払)
○生産・経営安定政策
(新規)・地域農業確立支援
・自然循環型農業支払
・経営セーフティネット対策
○農村環境・資源保全政策
・農村環境整備支援
・地域資源保全支援
・条件不利補正支払
3.基本政策及び個別制度の法的根拠
基本政策及び個別制度の安定的な制度運用を図るためには、法的根拠が必要になります。基本
政策及び個別制度の法的根拠については、平成 11 年に理念法として制定された「食料・農業・農
村基本法」をよりどころとします。また、具体的施策については、個別に実施法の法制化を目指
すことにします。
○「基 礎 的 な 直 接 支 払」☞
第 2 条:食料の安定供給の確保、第 3 条:多面的機能の発揮
○「生産・経営安定政策」☞
第 4 条:農業の持続的な発展、第 30 条:農産物の価格形成
と経営の安定、第 32 条:自然循環機能の維持増進
○「農村環境・資源保全政策」☞ 第 5 条:農村の振興、第 24 条:農業生産基盤の整備、第 35
条:中山間地域等の振興
具体的な施策の名称と食料・農業・農村基本法における根拠
具体的な施策
基
礎
的
な
直
接
支
払
生
産
・
経
営
安
定
政
策
農
村
環
境
・
資
源
保
全
政
策
食料・農業・農村基本法における根拠
多面的機能固定支払
第3条:多面的機能の発揮
多面的機能については、国民生活及び国民経済の安定に果たす役割にかんがみ、将来にわた
って、適切かつ十分に発揮されなければならない
作物別支払
第2条:食料の安定供給の確保
将来にわたって、良質な食料が合理的な価格で安定的に供給されなければならない
2 国民に対する食料の安定的な供給について、国内の農業生産の増大を図ることを基本とし
地域農業確立支援
自然循環型農業支払
経営セーフティネッ
ト対策
農村環境整備支援
農業資源保全支援
条件不利補正支払
第4条:農業の持続的な発展
農業については、その有する食料その他の農産物の供給の機能及び多面的機能の重要性にか
んがみ(中略)持続的な発展を図らなければならない
第32条:自然循環機能の維持増進
自然循環機能の維持増進を図るため、農薬及び肥料の適切な使用確保、家畜排せつ物等の有
効活用による地力の増進その他必要な施策を講ずる
第30条:農産物の価格形成と経営の安定
農産物の価格の著しい変動が育成すべき農業経営に及ぼす影響を緩和するために必要な施策
を講ずる
第5条:農村の振興
農村については、農業の有する食料その他の農産物の供給の機能及び多面的機能が適切かつ
十分に発揮されるよう、その振興が図られなければならない
第24条:農業生産基盤の整備
良好な営農条件を備えた農地及び農業用水を確保し、これらの有効利用を図ることにより、
―中略― 農業用用排水施設の機能の維持増進その他の農業生産の基盤の整備に必要な施策を
講ずるものとする
第35条:中山間地域等の振興
中山間地域等においては、適正な農業生産活動が継続的に行われるよう農業の生産条件に関
する不利を補正するための支援を行う
第4章 2013 年「真の農政改革」における各施策の具体的な仕組み
Ⅰ.
「基礎的な直接支払」の仕組み
2013 年「真の農政改革」の根幹をなす「基礎的な直接支払」については、以下の仕組みとします。
1.多面的機能固定支払
概 要:地域政策の基礎的な直接支払制度として、農村環境の向上や農業資源の保全に向けた共
同した取組を行うことを条件(クロス・コンプライアンス)に、「多面的機能固定支払」
を講じます。「多面的機能固定支払」は、共同した取組を行う当該地域において、適切に
耕作されている全ての農地面積に応じて交付金を交付します。
【具体的な仕組み】
○ 受給要件は、「農村環境・資源保全政策」における「農村環境整備支援」又は「地域資源
保全支援」のいずれかの共同した取組を行うことを条件(クロス・コンプライアンス)とします。
○ 交付対象は、多面的機能の源泉が農地であることから、共同した取組を行う当該地域にお
いて、適正に耕作されている全ての農地とします。
○ 支払単価は、多面的機能評価額調査に基づき、地目ごとに全国一律で設定します。
(なお、評価額の直近のデータでは、平成 13 年に公表した日本学術会議の調査結果がありま
すが、調査から 10 年以上が経緯し、また、機能評価の手法も統一されたものが確立されてい
ない実態などを踏まえ、最新の評価額調査を求めます。
)
○ 交付金は、受給要件を満たす農業者等に対して農地面積に応じて交付します。
(農業者等と
は、農業者、第 3 セクター、特定農業法人、農業協同組合、生産組織などを指します。)
2.作物別支払
概 要:産業政策の基礎的な直接支払制度として、国民生活に欠かすことのできない重要農畜産
物について、
「作物別支払」を講じます。
「作物別支払」は、国が定める生産数量目標等に
そった安定供給と再生産の確保を図るため、生産コストと販売価格との恒常的な赤字分を
「数量・面積支払」を基本に補填します。ただし、当該年の価格が標準的な販売価格を下
回った場合、「変動支払」によってその差額を全額補填します。
【具体的な仕組み】
<数量・面積支払>
○ 交付対象者は、国が定める生産数量目標等にそって生産する販売農家等とします。
○ 対象作物は、国民生活に欠かすことのできない重要農畜産物で、かつ恒常的なコスト割れ
に陥っている作物(米、麦、大豆、てん菜、でん粉原料用馬鈴しょ、そばなど)とします。
○ 支払単価は、全国の「標準的な生産コスト」と全国の「標準的な販売価格」との差額とし
ます。
(全国一律単価で補填)なお、単価は、原則として、一定期間(5年程度)固定します。
(算定の考え方:標準的な生産コストは全算入生産費を基本とし、適正な家族労働費に評価替
えを行います。また、標準的な販売価格は農家手取り価格を基本とします。
)
○ 支払は、当該年の出荷・販売数量とします。ただし、需給調整を実施している米について
は、面積支払とします。
<変動支払>
○ 数量・面積支払の対象作物の「当該年産の販売価格」が「標準的な販売価格」を下回った
場合、当該年の数量・面積支払の対象数量又は対象面積に応じてその差額を全額補填します。
Ⅱ.
「生産・経営安定政策」の仕組み
「生産・経営安定政策」については、将来にわたり安定的な農業生産と経営が図られるよう、
地域農業の確立などに不可欠な作物に対する多様な取組への支援を図る「地域農業確立支援」、環
境保全型農業を推進する「自然循環型農業支援」、農畜産物の価格や収量の低下による収入減少と
資材価格高騰の影響を緩和する「経営セーフティネット対策」など、3 つの施策で構成します。
なお、水田転作における食料自給率向上の戦略作物を支援する「水田活用直接支払交付金」(除く
産地資金)については、基本的な考え方である主食用並みの所得確保を前提に、継続的に発展させ
ることにします。とくに、米については、その仕向け用途を問わず、全ての米について主食用並
みの所得が確保できるよう制度を改善します。
1.地域農業確立支援
概 要:国が策定した基本計画の生産数量目標の達成に向けて、安定供給への期待に応え、かつ、
地域農業の確立などに不可欠な作物について、生産の維持・拡大や生産性向上、コスト低
減などの多様な取組に対して支援します。
【具体的な仕組み】
○ 支援対象は、生産数量目標達成に努力が必要な作物、かつ、地域農業の確立や関連産業の
維持などに不可欠な作物とします。
(作物別支払の対象作物のほか、野菜や地力増進作物など)
○ 地域(市町村)は、地域農業の確立のための計画(地域における目指すべき農産物等の作
付体系や生産の維持・拡大や生産性向上などに向けた取組など)を策定します。
○ 支払は地域計画で設定したメニューに基づき支払います。
○ 現行の産地資金は地域農業確立支援に移行します。
2.自然循環型農業支払
概 要:環境負荷の軽減又は環境便益を優先させる持続可能な自然循環型農業を支援するため、
対象となる当該作物の作付面積に対して直接支払を行います。
【具体的な仕組み】
○ 支援対象は、自然循環型農業に取組む農業者、稲作、畑作、酪農、野菜など作物毎の環境
負荷を軽減する取組レベルに応じて、当該作物の作付面積に対して又は家畜頭数に応じて支
払います。
○ クリーン農業(減肥・減農薬栽培)
、有機農業など「エコ農法」の環境負荷軽減の取組を推
進します。
(耕種―減肥・減農薬栽培の取組に応じて段階的の導入、酪農―自給飼料の増産と
畜産環境の保全等増進)
○ 耕種作物の取組レベルは、①肥料・農薬の 30%以上減、②肥料・農薬の 50%以上減、③有
機栽培の 3 段階とします。
○ 支援単価は、現行の「環境保全型農業直接支援対策」の支援単価が低いため、抜本的に見
直し、取組レベルに応じて設定します。
旧事業「農地・水・環境保全向上対策」の先進的営農支援(作物別に 3,000∼4 万円/10a)
現事業「環境保全型農業直接支援対策」
(作物共通で、8,000 円/10a、特認 5,000 円/10a)
○「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律」の改善を図り、法律に直接支払の
項目を盛り込みます。
3.経営セーフティネット対策
概 要:農業の経営安定を図るため、国と生産者で造成した積立金を活用し、対象作物の販売価
格や収量の低下による収入減少、肥料・燃油・飼料の価格高騰に対する影響を緩和します。
【具体的な仕組み】
① 国 3 対生産者 1 の拠出割合で積立金を造成し、農業者ごとに管理します。
○ 加入は任意とします。
○ 現行の水田・畑作経営所得安定対策(収入減少影響緩和対策)で拠出している生産者は、
その積立金を充当します。
ア)収入減少補てん対策
○ 対象作物ごとの価格や収量の低下による収入減少の9割を補てんします。
○ 対象作物は、当面、米及び畑作 4 品(麦・大豆・てん菜・澱原馬鈴しょ)などとします。
○ 支払は、対象作物ごとに行います。
○ 農業災害補償制度(共済制度)は併行して実施し、補てん額から共済金相当額を控除します。
○ 「作物別支払」の「変動支払」との調整措置は検討を要します。
イ)肥料・燃油・飼料の価格高騰に対する補てん対策
○ 肥料・燃油・飼料の価格高騰分の 9 割を補てんします。
○ 補てん財源は、①の国の積立金などによって、全額国費で負担します。
○ 支払は、対象資材ごとに行います。
考え方のイメージ
ア)収入減少補てん対策
積 立 金
生 産 者
拠 出 分
国
の
拠 出 分
①
補償基準となる 10a当たり標準的収入額は、各年産の収入額(販売価格×平
均単収)の過去 5 年中庸 3 年平均
・販売価格は、各年産の産地銘柄別の入札価格
・平均単収は、市町村の実単収の過去 7 年中庸 5 年平均で算出
② 当該年の 10a当たり収入額は産地銘柄別の販売価格(入札価格)と市町村の
実単収で算定
イ)肥料・燃油・飼料の価格高騰に対する補てん対策
① 前年より一定基準以上に上昇した場合に発動
② 補てん額=当該年の使用量×
[当該年の肥料(燃油・飼料)価格−前年度の肥料(燃油・飼料)価格]×0.9]
Ⅲ.
「農村環境・資源保全政策」の仕組み
「農村環境・資源保全政策」については、地域住民の共同取組による「農村環境整備支援」
、農
業者の共同取組で農業資源の維持・管理を図る「農業資源保全支援」
、生産条件不利地域の農業生
産の不利を補う「条件不利補正支払」の 3 つで構成します。
1.農村環境整備支援
概 要:里山や生物多様性の保全、景観形成の美化、伝統文化の継承、都市と農村の交流など地
域住民による共同した取組を支援することにより、農村環境の向上を図ります。
【具体的な仕組み】
○ 地域住民が共同して取組む事業メニューに応じて支払います。
○ 交付金は実費相当額とします。
○ 現行の「農地・水保全管理支払交付金」の農村環境保全活動や「中山間地域等直接支払制
度」における集落協定に基づく共同取組活動に対する支援は「農村環境整備支援」に統合し
ます。
2.農業資源保全支援
概 要:農業者の共同した取組による農道・農業用用排水路など農業生産に欠かせない農業生産
資源の適切な維持・管理や耕作放棄地や不耕作地の再生を図ります。
【具体的な仕組み】
○ 継続的な営農を図るための農業用用排水路、農道などの施設の補修・更新等の活動や荒廃
した耕作放棄地、不耕作地を作物生産する再生活動を支援します。
○ 交付額は支援単価に交付対象農地の面積を乗じて算出します。
○ 支援単価は、現行の「耕作放棄地再生利用緊急対策交付金」や「農地・水保全管理支払交
付金」の単価を参考に設定します。
3.条件不利補正支払
概 要:地勢・気候的な要因など生産条件の不利な地域で農業を営む農業者に対し、平場との生
産格差分を対象農地の面積当りで補てんします。
【具体的な仕組み】
○ 対象地域は、現行の「中山間地域等直接支払制度」の対象要件地域を参考に、新たに設定
します。特に、畑地の傾斜要件などは緩和します。
○ 交付単価は、「中山間地域等直接支払交付金」の単価を参考に設定します。
○ 支払は、地目毎(田、畑、草地、採草牧草地)の傾斜度(急傾斜、緩傾斜)などに基づい
て、面積当たりに対象者個人に全額支払います。
以 上.