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リサーチちゅうごく調査研究報告 07-04-007
広島県東部地域(福山・府中)における地域資源調査
江
(社団法人
種
浩
文
中国地方総合研究センター)
当研究センターは、平成 18 年度、財団法人備後地域地場産業振興センターより「福山・
府中を中心とする広島県東部地域の地域資源調査」を受託し、調査研究を実施しました。
この調査は、備後地域で事業を展開する中小企業の現状と課題を把握すると同時に、経済
産業省が平成 19 年度に創設する「中小企業地域資源活用プログラム」を見据え、地域資源
を用いた事業展開を発掘・再確認することで、地域産業の活性化に向けた取り組みの方向
性を検討したものです。とりわけ、地域に蓄積する高度技術や産学・企業間連携、および
今後設立が予定されている地域ファンドの活用を視野に入れることで、地域内部の関係機
関が連携して産業活性化を実現する方策を検討することを目的としています。
調査は、財団法人備後地域地場産業振興センター、独立行政法人中小企業基盤整備機構と
共同で実施しました。ここでは、調査結果の概要についてご紹介します。(江種浩文)
Ⅰ.地域の産業構造の特性と地域資源の現状・課題
1.地域の産業構造とその特性
(1)地域の産業構造
地域の産業特性の全体像を把握するため、まず業種別の事業所および従業者数ウェイト
を算出すると(図Ⅰ.1、図Ⅰ.2)、事業所、従業者とも、全国と比べて製造業の割合が
高いことが顕著にみてとれる。特に従業者数については、製造業が卸・小売業とサービス
業とほぼ同じ割合であり、地域の雇用の受け皿として高く位置付けられている。
付加価値でみても(図Ⅰ.3)、製造業が3分の1以上を占めており、全国平均と比べて
地域における製造業の存在感の大きさが示されている。
−1−
図Ⅰ.1 業種別事業所ウェイト(平成 13 年)
電気・ガス
0.2%
建設業
9.6%
全国
運輸・通信業
3.0%
製造業
10.3%
金融・保険業
1.6%
公務
0.7%
不動産業
4.6%
卸売・小売業
41.0%
サービス業
28.8%
第一次産業 鉱業
0.1%
0.3%
0.1%
広島県
東部地域
15.3%
8.1%
1.6%
40.5%
2.8%
27.4%
0.5%
3.6%
第一次産業 鉱業
0.1%
0.0%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
(注)広島県東部地域とは、2007 年 2 月末時点での福山市と府中市を指す(以下同)
資料:総務省「事業所・企業統計調査」
図Ⅰ.2 業種別従業者ウェイト(平成 13 年)
電気・ガス
0.5%
製造業
18.5%
建設業
8.2%
全国
運輸・通信業
6.2%
金融・保険業
2.8%
公務
3.1%
不動産業
1.5%
卸売・小売業
29.3%
サービス業
29.3%
第一次産業 鉱業
0.1%
0.4%
0.4%
広島県
東部地域
26.0%
8.1%
2.3%
28.6%
6.5%
25.1%
1.7%
1.1%
第一次産業 鉱業
0.0%
0.1%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
資料:総務省「事業所・企業統計調査」
図Ⅰ.3 業種別付加価値ウェイト(平成 15 年度)
第一次産業
1.4%
電気・ガス
3.0%
製造業
22.3%
建設業
7.3%
全国
運輸・通信業
6.9%
卸売・小売業
金融・保険業
14.2%
7.5%
サービス業
22.4%
不動産業
14.9%
鉱業
0.1%
広島県
東部地域
1.3%
34.3%
4.9%
8.0%
15.4%
7.9%
13.4%
12.3%
第一次産業 鉱業
0.5%
0.1%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
資料:内閣府「国民経済計算年報」、広島県「市町村民所得推計結果報告」
−2−
90%
100%
(2)製造業の現状・動向
以下では、地域での主要産業である製造業に焦点を当て、その現状と動向を分析する。
製造品出荷額等の推移をみると(図Ⅰ.4)、地域の出荷額は全国と比べて振り幅が大きく、
特に景気低迷期の下がり幅が大きいことが分かる。これを詳しく調べるため、業種別に出
荷額成長率の要因分析を行うと(図Ⅰ.5)、1999 年から 2004 年の期間に、半導体関連を
主体とする電気機械が大きく伸びている一方で、地域での構成比が高い鉄鋼、繊維・衣服、
木材・家具の落ち込みが激しく、全体の低下に大きく響いていることが分かる。この結果、
2004 年時点での出荷額と付加価値ウェイトでは(図Ⅰ.6)、電気機械が鉄鋼に続く割合を
占め、これまで地域を牽引してきた繊維・衣服や木材・家具、一般機械などのウェイトは
縮小している。
図Ⅰ.4 製造品出荷額等の推移
140
広島県東部地域
(1985年=100)
全国
(1985年=100)
広島県東部地域
(1991年=100)
全国
(1991年=100)
130
120
110
100
90
80
70
1985 86
87
88
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99 2000 01
02
03
04 (年)
資料:経済産業省「工業統計」
80
60
図Ⅰ.5 製造品出荷額成長率の業種別要因分析(1991∼2004 年)
【広島県東部地域】
電気 機械
縦 軸:1991∼2004年 の出荷 額成 長率(%)
プラ スチ ック
横 軸:1991年 の出荷 額構 成比
40
ゴム
化学
20
鉄鋼
食料 品
一般 機械
0
−20
−40
非鉄金 属
そ の他
金属 製品
輸送用 機械
−60
繊維 ・衣服
−80
基 礎素 材型 産業
加工 組立 型産 業
−3−
木材 ・家具
生活 関連 型産 業
【全国】
80
縦 軸 :1991∼2004 年 の 出 荷 額 成 長 率 (% )
60
横 軸 :1991年 の 出 荷額 構 成 比
40
プ ラ スチ ッ ク
20
鉄鋼
輸送用機械
化学
ゴム
0
食料品
−20
−40
電気機械
一般機械
非鉄金属
その 他
金属製品
−60
木材・家具
繊維・衣服
−80
加工組立型産業
基礎素材型産業
生活関連型産業
資料:経済産業省「工業統計」
図Ⅰ.6 製造業の出荷額と付加価値ウェイト(2004 年)
非鉄金属
4.3
鉄鋼
35.6
出荷額
輸送用機械
3.1
金属製品
2.6
一般機械
10.5
31.3
0%
10%
20%
6.1
30%
2.9
40%
10.0
50%
化学
1.9
ゴム
1.6
電気機械
20.6
その他
4.9
食料品
4.9
粗付加
価値額
繊維・衣服
4.5
25.8
60%
木材・家具
3.4
3.4 4.0 4.2
70%
80%
プラスチック
2.0
2.8 1.6
90%
1.7 2.0
4.3
100%
資料:経済産業省「工業統計」
(3)製造業の特徴
広島県東部地域の製造業の特徴を把握するため、出荷額の全国に対する特化係数を算出
すると(図Ⅰ.7)、過去 10 年間で出荷額が相対的に大きく減少しているにも関わらず、
鉄鋼や繊維・衣服、木材・家具、非鉄金属、ゴムなどが現在でもなお突出していることが
分かる。
付加価値については(図Ⅰ.8)
、付加価値率では化学やプラスチックなど一部を除いて
ほぼ全ての業種で全国を上回っており、一人あたり付加価値額でも、構成比の大きい鉄鋼
や近年の成長率の高い電気機械、特化の高い非鉄金属などの業種で全国を大きく凌ぐ数値
を示している。従業者数の減少率をみても(図Ⅰ.9)、全国と同様に全般的な低下傾向に
ある中で、地域の減少率は相対的に小さく、プラスチックと化学では増加がみられる。
−4−
以上より、地域を支える製造業は、全国的な縮小傾向の中にありながらも、今なお付加
価値や雇用の受け皿として大きな存在感を誇っており、競争力の高い製造業を育成するこ
とが地域の産業・経済活性化に不可欠であると考えることができる。
図Ⅰ.7 製造業の特化係数(2004 年)
鉄鋼
1.97
非鉄金属
7.16
0.56
金属製品
1.03
一般機械
1.17
電気機械
0.18
輸送用機械
0.61
食料品
2.77
繊維・衣服
2.05
木材・家具
0.23
化学
0.53
プラスチック
1.56
ゴム
0.27
その他
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
(注)特化係数=広島県東部地域の製造業全体に占める業種Aの出荷額割合/全国の製造業全体に占める
業種Aの出荷額割合。例えば、繊維・衣服の製造業全体に占めるシェアが広島県東部地域で 10%、全国
で 5%とすると、広島県東部地域の繊維・衣服の特化係数は 10÷5=2.0 となる
資料:経済産業省「工業統計」
図Ⅰ.8 製造業の付加価値比較(2004 年)
50
︻
(%) 【付加価値率】
化学
全
国
︼
ゴム
45
繊維・衣服
金属製品
プラスチック
木材・家具
40
一般機械
食料品
広島県東部地域の付加価値率が
全国と比べて高い業種
鉄鋼
35
電気機械
その他
【広島県東部地域】
30
35
40
45
50
−5−
55
60
(%) 65
︻
【一人あたり付加価値額】
4000
(万円)
全
国
3500
︼
化学
3000
鉄鋼
2500
その他
2000
プラスチック
輸送用機械
非鉄金属
一般機械
1500
金属製品
ゴム
1000
木材・家具
広島県東部地域の
一人あたり付加価値額が
全国と比べて高い業種
食料品
電気機械
500
【広島県東部地域】
繊維・衣服
0
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
(万円)4000
資料:経済産業省「工業統計」
図Ⅰ.9 製造業の従業者数変化率の比較(1991∼2004 年)
10
0
食料品
︻
(%)
プラスチック
全
国
︼
輸送用機械
-10
一般機械
-20
製造業計
-30
化学
金属製品
非鉄金属
ゴム
電気機械
その他
-40
鉄鋼
木材・家具
-50
広島県東部地域の従業者減少率が
全国と比べて低い業種
-60
繊維・衣服
-70
-70
-60
-50
【広島県東部地域】
-40
-30
資料:経済産業省「工業統計」
−6−
-20
-10
0
10
(%)
20
2.地域資源の現状・課題
(1)地場産業の集積による多様な産地形成
広島県東部地域は、江戸期藩主の奨励により発展した備後絣・備後織物や備後表、大阪
からの製造技術導入を契機として大正時代に全国から職人が集結し一大産地となった家具
などの伝統工芸・産業、農機具から派生・発展した金属・機械産業といった基盤的技術、
鞆の浦に水揚げされる魚介類を利用した水産加工業、備後の地酒「吉備の旨酒」に薬草を
漬け込んだことに端を発する保命酒、交通の要衝として農産物等が集散する府中で加工・
製造されるようになった府中味噌、全国的な販路を持つ農産品に代表される農水産物加工
業・飲食品製造業など、全国でも稀にみる多様な地場産業の集積を有している(図Ⅰ.1
0、表Ⅰ.1、表Ⅰ.2)
。これらは、豊かな自然・立地条件と先取・新進性に富んだ職人・
経営感覚が融合し、域内の多くの地場産業が相互に関連し高度化させたことで、多様な産
地として発展を遂げてきたとされている。
図Ⅰ.10 広島県東部地域における主要な産地形成(製造業)
(旧上下町)
桐箱
府中市
(旧新市町)
工作機械
ユニフォーム・
デニム
府中味噌
(旧神辺町)
デニム・
縫製品
府中家具、
天然木化粧合板
半導体
備後絣
家具、鉄工機械
工作機械
琴
畳表
福山市
下駄
(旧沼隈町) 鍛工品
造船
(旧内海町)
−7−
備後織物、織物染色
保命酒
家具
表Ⅰ.1 広島県東部地域の地場産業・産品と産地形成の経緯・特徴
地場産業・産品
産地形成の経緯・特徴
備後絣
・江戸時代末期、福山市芦田町に住む富田久三郎氏が、麦藁屋根の押し鉾竹がすすで
汚れて白と黒とに染っていることにヒントを得て作った絣織物が発祥とされ、約 130
年前に「文久絣」の名称で販売された
・明治初期に品質改良が進み、
「備後絣」は美しさと珍しさから大阪をはじめとして全
国に販路を広げた。現在でも、絣の単純素朴な色彩、新しい息吹きを感じさせるデザ
インが幅広い支持を集め、綿・ウール・和紙等を素材として和洋服に利用されている
備後織物
・福山市・府中市で「備後機業地」を形成。古くから織物が盛んで、江戸時代の藩主
水野公の奨励により綿栽培と縞木綿の製織が本格化し、明治中期以降に産地として発
展、業界の組織化も進む
・明治 23 年に組織された備後織物同業組合は、今日の「広島県織物構造改善工業組合」
に至るまで 100 年以上の歴史を持つ。現在では、藍染め技術を活かした綿デニムを中
心に、綿白生地や合繊織物を生産し、特に綿デニムは全国シェア 50%を占めている
備後表
・約 450 年前、沼隈町山南地方に野生する藺草を水田栽培し製織したものが始まりと
言われ、慶長年間に藩の奨励を受けて備後表産地としての基盤を形成する。藩政時代
を通じて実施された公用表の検収制度は、明治以降も検査制度として引き継がれ、組
合を設立して畳表に証糸を織り込むなどの品質保証の意識が高い
・表皮が厚く、光沢に優れ、青味を帯びた銀白色の美しい藺草を厳選して使用した畳
表は、「備後表」の名称で全国的に愛用されている
家具
・1700 年頃に内山円三が大阪から箪笥の製法技術を学び帰ったことが始まりと記され
ており、大正時代には鵜飼町界隈に百数十軒もの箪笥職人が軒を連ねるなど、全国有
数の高級家具産地としての地位を確立
・戦後すぐに協同組合を結成し、デザイン・塗装・加工技術の研究開発を進め、全国
に先駆けた婚礼家具セットの開発・販売により飛躍的に発展した。現在では、婚礼家
具のほか、リビング・ダイニング向け家具や住宅内装分野への進出により、「総合イ
ンテリア産地」の形成を目指す
履物
・明治初期から雑木下駄の製造を開始し、明治終期には機械化により大量生産の基礎
も作られた履物産業は、大正・昭和初期を経て、松永を中心として全国一の木履産地
となった
・昭和 30 年代からは履物全体へ展開し、現在でも、多様化する消費者ニーズへの対応
により「はきものの里」としての地位を維持している
金属・機械
・江戸中期の鋳造業の発展により、繊維機械、農機具、木工製材機械、工作機械、食
品加工機械等の製造へと波及。昭和初期には、製縄機、木工機械の生産額が全国の 70%
を占めていたと言われる
・現在、輸送用機械、一般機械、電気機械、鉄鋼、など機械金属関連のあらゆる業種
が産地を形成し、大企業の協力会社や独自技術を持つ中小企業など幅広い集積をなす
保命酒
・江戸時代初期、大阪の中村吉兵衛が長崎出島に薬草の買い付けに向かう行程で立ち
寄った鞆の津で見つけた地酒「吉備の旨酒」に、中国産生薬を漬け込んだのが始まり
とされ、以降、現太田家住宅で「十六味地黄保命酒」として醸造が開始され、福山藩
の庇護を受けたことで備後の特産品として全国に広がる
・現在では鞆の浦地域で4社が製造し、カステラやケーキなど食品への応用による商
品開発も進められている
(次頁へつづく)
−8−
(前頁よりつづき)
地場産業・産品
産地形成の経緯・特徴
府中味噌
・1600 年代初期から、芦田川流域の良質米と県北の白芽大豆を原料とした白味噌の自
家製造が盛んで、備後絣や畳表等の取引に付随した贈答用に使用されて全国に広がる
・戦後も、温暖な気候風土や良質の原料、醸造用水などの恵まれた立地条件と優秀な
技術者により、独特な風味を持つ味噌として発展し、最近では健康食品として脚光を
浴び、特に長期間の発酵熟成による甘口な「府中みそ」が国内外で好評を得ている
水産・水産加工品
・鞆近郊、走島、横田港や千年港などで水揚げされる鰯、シラス、さより、カレイ、
えび、あさり、イカなどの魚介類を加工し、食用・土産用として販売される
・鞆の浦の歴史・文化や阿伏兎の瀬戸、観光鯛網漁といった自然とのふれあいの場を
核とした自然豊かな観光拠点としての可能性も持つ
農産品
・くわい(新涯など)、ぶどう(沼隈など)
、杏子(田尻など)、桃(神辺など)などが
全国的な販路を持ち、加工用としても利用される
・福山市内産の野菜・果物などの中から認定基準によって審査される「ふくやまブラ
ンド農産物」では、野菜 14 品目、果物 4 品目、きのこ 1 品目が認定されている
資料:㈶備後地域地場産業振興センター、㈱中島商店ウェブサイト
表Ⅰ.2 ㈶備後地域地場産業振興センターへの加盟協同組合
製品
衣服・繊維
家具・木製品
履物
機械・金属
工芸品・食品
加盟協同組合
事務局所在地
加盟企業数
備後織物
広島県織物構造改善工業組合
福山市緑町
23
備後絣
備後絣協同組合
福山市新市町
5
被服
広島県アパレル工業組合
福山市新市町
134
婦人子供服
福山婦人子供服工業協同組合
福山市卸町
20
縫製品
広島県輸出縫製品工業協同組合
福山市蔵王町
16
織物染色
家具
広島県織染工業協同組合
福山市一文字町
1
府中家具工業協同組合
府中市中須町
30
家具
福山家具工業協同組合
福山市奈良津町
8
家具
福山地方木工協同組合
福山市箕島町
8
家具
松永家具工業協同組合
福山市松永町
6
化粧合板
広島県天然木化粧合板工業協同組合
府中市高木町
11
履物
広島県はきもの協同組合
福山市南松永町
22
木ヒール
松永木ヒール工業協同組合
福山市柳津町
13
描・ボルト等
鞆鉄鋼協同組合連合会
福山市鞆町
76
機械金属
広島県東部機械金属工業協同組合
福山市西町
166
鋳物製品
福山地方鋳造工業協同組合
福山市明神町
18
工作機械
府中機械工業協同組合
福山市高木町
18
機械・製缶等
協同組合福山鉄工センター
福山市千田町
13
琴
福山邦楽器製造業協同組合
福山市西町
8
桐箱
府中桐箱協同組合
府中市元町
19
い草製品
広島県藺業組合
福山市今津町
58
菓子
広島県東部菓子商工業協同組合
福山市柳津町
122
府中味噌
府中味噌組合
府中市府中町
6
資料:㈶備後地域地場産業振興センター
−9−
(2)特徴あるオンリーワン・ナンバーワン企業の集積
広島県東部地域における地場産業の集積には、特殊技術や独自商品を持つ企業が多く含
まれ、国内外でのトップシェアを誇る企業、オンリーワンの技術や商品を持つ企業も、企
業規模の大小に関わらず数多く立地している(図Ⅰ.11、表Ⅰ.3)。こうした企業は、
一時的な業績に左右されず、高い技術探究心と消費者ニーズを先取りした商品開発、積極
的な新分野での事業展開などに継続的に取り組み、地域の産業集積を牽引するとともに、
優れた人材やノウハウを地域に輩出している。
図Ⅰ.11 広島県東部地域における主要なオンリーワン・ナンバーワン企業の立地状況
⑭常・金丸地区
⑫駅家地区
⑨御幸地区
⑩神辺中心部
・加茂地区
⑮新市・
神辺中心部
府中市
⑪神辺旭丘地区
⑯父石地区
⑧蔵王・千田地区
⑬芦田地区
②東福山駅周辺地区
①福山駅周辺地区
福山市
③松浜・曙地区
⑦松永近郊地区
④草戸・道三
・多治米地区
⑥田尻・鞆地区
(注)本社所在地によるプロット
資料:中国新聞記事、㈶備後地域地場産業振興センター資料より作成
⑤箕島・箕沖地区
表Ⅰ.3 広島県東部地域における主要なオンリーワン・ナンバーワン企業・製品
企業名
製品・商品
企業名
製品・商品
① 福山駅周辺地区
マナック
小川楽器製造
太洋電機産業
難燃剤
琴
はんだごて
中村機械製作所
日本ホイスト
徳永製菓
畳表自動織機
ホイスト・クレーン製品
竹炭豆粉
カキ醤油
プラズマ用高周波電源
天然だし
光陽機械製作所
広和エムテック
小川長春館
洗浄可能製菓機
浮上油回収分離装置
体育製品
エコトレー
携帯トイレ
日東製網福山工場
備南工業
無結節網
充填機械製造
② 東福山駅周辺地区
アサムラサキ
アドテックプラズマテクノロジー
カネソ22
③ 松浜・曙地区
エフピコ
ケンユー
(次頁につづく)
−10−
(前頁よりつづき)
企業名
福山ゴム工業
深江特殊鋼
製品・商品
振動軽減タイヤ
特殊鋼材
企業名
伸洋産業
製品・商品
生ごみ水中処理
切削システム工作機
屏風
天野実業
光陽産業
フリーズドライ食品
小型鋼材
製材機械
研削盤
省エネ攪拌機
銅フリーめっき技術
関西工業
三誠産業
早川ゴム
福山熱煉工業
シャックル
半導体回路
弾性ゴム排菅
熱処理
伸鉄製品
光陽産業
小型鋼材
ニュージーランド松製材
大型昇降機
特殊歯車
三和製作
心石工芸
東亜林業
自動平盤打抜機
ぬめ革ソファ
天然乾燥材
卵印字機
電気不要加圧消火装置
循環排水再利用処理装置
福徳産業
明和工作所
塩ビ付着手袋
ペットボトル減容機
新配合樹脂
精密鋳造
遊具
テラルキョクトウ
日本デリバリーサービス
流体対応ポンプ
ヒップアップインナー付きジーンズ
非接触電気検査装置
塩ビ印刷加工
ウェハー搬送クリーンロボット装置
廃棄物再生プラント
中村金襴工場
追坂電子機器
東洋額装
表装用裂地
筋電計測機
額装
LED案内板・看板
石井表記
プリント基板研磨
粉末野菜飲料
精密板金加工
刺繍加工
細川センイ
柏コルク王冠製作所
モンペイ
安全性王冠
和紙備後絣
備後撚糸
和紙水撚
デニム
精興園
菊
桐材・桐製品
ごみ固形燃料技術
カキ加工品
ラジコンヘリコプタ
テルペン樹脂
印刷機
耐久性船舶ドア
松創
川瀬工具店
北川精機
北川鉄工所
萬成工業
自重堂
高級家具
ダイヤモンドコーティング
配線板用真空プレス機
旋盤用パワーチャック
船舶用救命装置
ワーキングウェア
ゴムタイル
電光掲示板
中居木工
木製折り畳みベッド
④ 草戸・道三・多治米地区
ホーコス
山路内装表具
⑤ 箕島・箕沖地区
シーケイエス・チューキ
シギヤ精機製作所
フジ機械
柿原工業
⑥ 田尻・鞆地区
八興伸鉄
⑦ 松永近郊地区
オービス
コスミック工業
岡本工機
⑧ 蔵王・千田地区
プラスアルファー福山
ポエック
永和国土環境
⑨ 御幸地区
キャステム
キングパーツ
タカオ
⑩ 神辺中心部・加茂地区
オー・エイチ・ティー
モンデン化成
ローツェ
御池鐵工所
⑪ 神辺旭丘地区
エクセル
⑫ 駅家地区
こだま食品
五敬工業
美希刺繍工芸
⑬ 芦田地区
渋谷産業
⑭ 常・金丸地区
カイハラ
⑮ 新市・府中中心部
アイピーシー
オガワエコノス
タカノブ食品
ヒロボー
ヤスハラケミカル
リョービ
旭・スチール工業
⑯ 父石地区
ニチマンラバーテック
タテイシ広美社
資料:中国新聞記事、㈶備後地域地場産業振興センター資料より作成
−11−
(3)ものづくりを活用した新たな地域資源
ものづくりを活用した新たな地域資源としての可能性を持つのが、産業観光の取り組み
である。域内に集積する地場産業や工場を観光資源として位置付け、ものづくり体験や工
場・施設見学を通じて、地域の産業構造や生活様式を理解し、地場産業の将来の担い手に
対する意識・動機付けや、域外に対する地場産品のPRを進める「産業観光」が開始され
ている(表Ⅰ.4、表Ⅰ.5)。こうした取り組みは、地域の農林水産品や伝統産業を活用
した事業展開に対する側面からの補完とも考えられ、地域資源による地域経済活性化を展
開するうえで、大きな役割を担うと期待される。
表Ⅰ.4 福山商工会議所による産業観光に関する取り組み
内容
訪問場所
開催時期
参加者数
赴任者に優しいまち福山
モデルコース体験会
常石造船、みろくの里、うをの里(阿藻珍味)、鞆
の浦見学
2004 年 2 月
10 名
第1回観光体験ツアー
常石造船㈱、日本はきもの博物館、みろくの里、
うをの里(阿藻珍味)
2004 年 8 月
19 名
第1・2回産業観光ツア
ー(工場見学編・ものづ
くり体験編)
ホーコス、エフピコ福山リサイクルセンター、J
FEスチール西日本製鉄所、カイハラ、中国新聞
福山制作センター、太陽電気産業
2004 年 12 月
①29 名
②24 名
第3回産業観光ツアー∼
親子で楽しめるコース∼
寺岡有機醸造、宏栄産業、常石造船
2005 年 7 月
37 名
第4回産業観光ツアー∼
食品∼
こだま食品、なかやま牧場、備後漬物
2006 年 3 月
19 名
第5回産業観光ツアー∼
市場巡り∼
福山地方卸売市場、広島県東部花き地方卸売市場
2006 年 11 月
17 名
資料:福山商工会議所
表Ⅰ.5 府中商工会議所による産業観光に関する取り組み
内容
地場産業見学コース
親子連れ・ものづくり
体験コース
訪問場所
ジーベック、ニチマン、ヒロボー、リョービ、佐々木木工、
北川鉄工所、産業メッセ、府中産業の歴史と文化展、家具
2004 年
展示会、府中家具木工資料館、土井木工など
5 月∼8 月
ヒロボー(模型飛行機の作成)、木工会社(ミニイーゼルの
作成)
工場見学コース
ヒロボー、佐々木木工、北川鉄工所、クロダルマ、リョー
ビ、ニチマン
親子ものづくり
体験コース
ヒロボー(模型飛行機の作成)、木工会社(マルチBOXな
どの作成)
工場見学コース
親子ものづくり
体験コース
開催時期
2005 年
7 月∼9 月
若葉家具、クロダルマ、北川鉄工所、ヒロボー、ニチマン、
オガワエコノス、佐々木木工、リョービ
2006 年
7∼9 月
ヒロボー(模型飛行機の作成)、カイハラ(藍染体験)、木
工会社(キーボックスなどの作成)
資料:府中商工会議所
−12−
参加者数
140 名
125 名
246 名
238 名
Ⅱ.地域企業の事業展開の現状および新規事業に対する意識と取り組み
広島県東部地域において、地域資源を活用した産業・経済の活性化を図るには、地域に
集積するものづくり基盤や豊富なオンリーワン・ナンバーワン企業の技術力、地域企業の
多様な特殊技術を用いた事業展開を整理したうえで、地域資源を用いた事業展開の意向・
構想や取り組みの現状を把握し、地域の関係機関の支援のあり方や活用促進に向けた問題
解決を図る必要がある。
今回の調査では、広島県東部地域の企業・事業所におけるこれらの現状・課題を探るた
め、約 1,250 社を対象とするアンケート調査、および 20 社を対象としたヒアリング調査を
実施し、以下では、その集計・分析結果を取りまとめた。両調査の質問内容・項目は、大
きく分けて、①事業展開の現状、②地域資源を活用した事業展開、③資金供給を行う地域
ファンドへの創設と各種の支援ニーズである(①と②の結果を本章で、③の結果を次章で
記述する)。なお、ここでの地域資源とは、各地域の「強み」である産地の技術、地域の農
林水産品、伝統文化等(中小企業庁『「地域資源活用企業化プログラム」の創設』平成 18
年 11 月における定義)としている。
アンケート調査の対象としたのは、広島県東部地域に立地する企業・事業所等であり、
域内に本社がある場合は本社、域外に本社がある場合には域内の中心拠点となる事業所で
ある。廃業や閉鎖、転居による返送分を除外した有効発送数は 1,163 通、回答欄のほとん
どが空白であった無効回答を除いた有効回答数は 258 通、有効回答率は 22.2%であった(表
Ⅱ.1)。ヒアリング調査の対象は、アンケート調査の回答企業から、㈶備後地域地場産業
振興センターを中心とする選定会議により選ばれた 20 社である(表Ⅱ.2)。
アンケート調査の集計結果で回答の構成比を示しているが、四捨五入の関係上、合計が
100%にならないことがある。また、ヒアリング調査の結果については、各社の事業展開の
機密性を考慮し、本報告書における記述を最小限にとどめている。
表Ⅱ.1
項
アンケート調査の実施概要
目
内
容
調査対象
広島県東部地域に立地する企業の本社、および域外企業の事業所等
合計 1,244 企業・事業所
調査時期
平成 18 年 12 月中旬∼平成 19 年1月上旬
(平成 18 年 12 月下旬に未回答企業・事業所へ督促状を郵送)
調査方法
郵便送付・郵便回収
調査対象の抽出
㈶備後地域地場産業振興センターの構成員名簿、福山・府中両商工会議所の
会員名簿など各種資料より抽出
回収状況
●有効発送数
●有効回答数
1,163 通(廃業や転居による返送分を除外したもの)
258 通(有効回答率 22.2%)
−13−
表Ⅱ.2 ヒアリング調査の実施概要
項
目
内
容
アンケート調査の回答企業から、㈶備後地域地場産業振興センターを中心
とする選定会議によって選ばれた 20 社
企 業
調査対象
業
種
所在地
A社
食品・飲料製造業
府中市
B社
食品・飲料製造業
福山市
C社
食品・飲料製造業
福山市
D社
食品・飲料製造業
福山市
E社
食品・飲料製造業
福山市
F社
食品・飲料製造業
福山市
G社
繊維工業
福山市
H社
繊維工業
福山市
I社
繊維工業
福山市
J社
木材加工・家具製造業
府中市
K社
木材加工・家具製造業
福山市
L社
一般機械製造業
府中市
M社
鉄鋼業
福山市
N社
鉄鋼業
福山市
O社
ゴム製品製造業
福山市
P社
ゴム製品製造業
福山市
Q社
プラスチック製品製造業
福山市
R社
楽器製造業
福山市
S社
薬品製造業
福山市
T社
生活関連製品製造業
福山市
調査時期
平成 18 年 12 月下旬∼平成 19 年1月下旬
調査方法
訪問による聴き取り調査(一社あたり約2時間)
1.地域企業の競争力と地域資源を活用した事業展開
本節では、まず地域企業の自己評価を通じて、競争力や経営資源に関する認識を把握す
る。次に、地域資源を用いた事業の取り組みや構想について確認し、取り組みや構想が「あ
る」と回答した企業について、その事業段階や事業化に向けた課題、内容について分析す
る。
(1)競争力・経営資源に対する自己評価
はじめに、自社の様々な競争力・経営資源について自己評価してもらったところ、もっ
とも高い評価となっているのが「技術力・ノウハウ・アイデア」(「非常に優れている」+
−14−
「優れている」=50%)であり、次いで「社内の雰囲気・企業風土」(同 40%)、
「経営者
の能力」(同 40%)となっている。
反対に、自己評価が低いのは、
「外部とのネットワーク」
(
「非常に劣っている」+「劣っ
ている」=29%)や「市場動向の把握力や情報収集力」(同 23%)であり、一般的に中小
企業にとって自社単独での強化が難しいとされるネットワーク形成や市場との関係を「弱
み」と認識している企業が多いことが分かる(図Ⅱ.1)
。ヒアリング調査の結果から、こ
れらの具体的内容は外部機関との連携による市場ニーズの吸い上げや販路開拓などと推測
できるが、特に新規の事業展開を図るときに必要な内容であり、地域の支援機関の役割と
して、共同開発や異業種との連携など、連携先・協力先の紹介・確保などを重点支援する
必要があると考えられる。
図Ⅱ.1 競争力・経営資源の自己評価
経営者の能力
(リーダーシップ・統率力等)
6.6
32.9
7.8
2.7
0.4
中間管理者の能力
1.6
(マネジメント力等)
28.7
担当者レベルの能力
(理解力・行動力等)
4.3
企業ビジョンの明確化と
会社全体への浸透
5.0
技術力・ノウハウ・アイデア
47.3
27.9
市場動向の把握力
2.7
や情報収集力
社内の雰囲気・企業風土
15.1
47.3
24.0
16.7
40.3
32.2
26.0
5.4
0%
40%
どちらともいえない
5.8
80%
非常に劣っている
3.9
1.2
9.7
60%
劣っている
4.7
4.3
1.9
22.1
45.3
20%
優れている
0.4
27.1
38.8
34.5
1.2
6.2
13.6
36.8
31.8
1.2
14.7
48.1
10.1
外部とのネットワーク 3.9
非常に優れている
49.6
0.4
3.5
4.7
100%
不明
(2)地域資源を活用した事業の取り組み状況
地域資源を活用した事業の有無を確認すると(図Ⅱ.2)、
「ある」が 258 社中 64 社(25%)
であり、それらの取り組み段階は、初期段階(構想、基礎研究)31%、中期段階(開発・
設計、試作)13%、事業化準備段階(量産化準備、市場投入準備)14%で、事業化段階(既
に販売されている)が 40%となっている。各種の支援が必要なアーリーステージなど、デ
スバレー以前の案件が半数近くを占めると考えられる(図Ⅱ.3)。
−15−
図Ⅱ.2 地域資源を活用した事業の有無
不明
0.8%
ある
24.8%
ない
74.4%
図Ⅱ.3 地域資源を活用した事業の取り組み段階
その他
1.6%
構想段階
22.2%
既に販売さ
れている
39.7%
市場投入
準備段階
6.3%
基礎研究
段階
9.5%
開発・設計
段階
4.8%
量産化準
備段階
7.9%
試作段階
7.9%
(3)地域資源を活用した事業の課題
地域資源を活用した事業の事業化に向けた課題(既に事業化している内容であれば、発
展・飛躍させるための課題)については(図Ⅱ.4)、「課題はない」とする事業はわずか
3%に過ぎず、選択肢に挙げた課題の複数を回答した事業が7割を占めている(図表略)。
課題の中では、
「販路の拡大・開拓」を課題とする回答が半数にのぼり、マーケティング
面の難しさが顕著に表れている。
「人材の確保・育成」についても、従来の技術の応用では
限界があり、新たな技術の獲得に向けた人材の確保・育成が不可欠であると認識されてい
るものと考えられる。
課題を事業段階別にみると(図Ⅱ.5)、初期段階では人材(45%)がもっとも多く、中
期段階に移行すると販路や技術高度化、設備(各 38%)が多くなり、事業化準備の段階で
は販路(66.7%)が突出している。市場に投入した後でも、販路(56%)や人材(52%)
は課題として残っている。全体的に、販路は地域資源を活用した事業においては段階を問
わず課題として認識されていることが分かる。
−16−
図Ⅱ.4 地域資源を活用した事業の課題
販路の拡大・開拓
50.0
人材の確保・育成
45.3
資金の確保
32.8
技術の高度化
26.6
連携先・協力先の確保
26.6
原材料の調達
23.4
設備の更新・拡充
20.3
その他
3.1
課題はない
3.1
(%)
0
10
20
30
40
50
60
(注)複数回答
図Ⅱ.5 地域資源を活用した事業の課題(事業段階別)
【初期段階】
【中期段階】
販路の拡大・開拓
40.0
人材の確保・育成
販路の拡大・開拓
45.0
資金の確保
人材の確保・育成
25.0
資金の確保
25.0
40.0
技術の高度化
20.0
連携先・協力先の確保
技術の高度化
25.0
原材料の調達
12.5
原材料の調達
12.5
(%)
20.0
0
10
20
30
40
50
37.5
連携先・協力先の確保
15.0
設備の更新・拡充
37.5
設備の更新・拡充
60
0
【事業化準備段階】
(%)
37.5
10
20
30
40
50
【事業化段階】
販路の拡大・開拓
販路の拡大・開拓
人材の確保・育成
44.4
資金の確保
44.4
技術の高度化
66.7
原材料の調達
資金の確保
24.0
技術の高度化
24.0
設備の更新・拡充
(%)
22.2
20
30
36.0
原材料の調達
33.3
10
52.0
連携先・協力先の確保
11.1
0
56.0
人材の確保・育成
33.3
連携先・協力先の確保
60
40
50
32.0
設備の更新・拡充
60
(%)
12.0
0
10
20
30
40
50
60
(注)複数回答
(4)地域資源を活用した事業の内容
地域資源を活用した事業の内容については、味噌、魚介類、保命酒をはじめとする飲食
料品に関するものが多く(23%)、備後絣など繊維関連(9.4%)が続いている。そして、
それらを生産するための機械開発・技術も挙げられている(図Ⅱ.4、表Ⅱ.3)。
−17−
図Ⅱ.6 地域資源を活用した事業の内容(分類)
飲食料品
23.4%
無回答・
地域資源
以外
59.4%
繊維
9.4%
機械
3.1%
その他
4.7%
表Ⅱ.3 地域資源を活用した事業の内容
分
類
内
容
飲食料品
府中地域限定の古代米を使用した長期熟成味噌の製造
飲食料品
市場で取引できないサイズの魚を利用したガス天の製造
飲食料品
地域で漁獲される魚貝類を消化吸収しやすく加工した遠方用の土産製造・販売
飲食料品
有機肥料を使用した土壌から収穫された餅米による和菓子の製造直売
飲食料品
地域の花を利用したふりかけや香水、飲料の製造、またその花の栽培に必要な防虫剤の開発
飲食料品
自然薯を用いた麺とたれの製造
飲食料品
田尻産の杏子を使用した保命酒の製造
飲食料品
保命酒と味噌のコラボレート商品の製造・販売
飲食料品
世羅産の大豆・小麦を使用した醤油の製造
飲食料品
備後絣のパッケージを用いた保命酒の販売
飲食料品
県内産小麦を使用した二次加工製品の開発
飲食料品
薬草を使用した菓子の製造
飲食料品
地元の漁港で水揚げされる魚介類を用いた竹輪や煎餅の体験工場設置および商品販売
飲食料品
杏子を使用した菓子の開発
飲食料品
くわいを用いたおにぎりの開発
繊
維
和紙糸デニムの開発
繊
維
備後絣を使用した手造りの洋服(自社ブランド)の全国展開
繊
維
備後絣以外の素材を用いたモンペの製造
繊
維
備後絣を利用したカジュアルウェアー製造
繊
維
高齢者・障害者用衣服の製造
−18−
(次頁につづく)
(前頁よりつづき)
分
類
内
容
繊
維
インディゴ染糸を使用したデニムを含む高級ファンシー織物
機
械
地域の伝統産業である家具に使用される合板製造機械の生産販売
機
械
カキガラを利用した排水再利用装置の製造販売
その他
地元企業から供給される樹脂を用いたCO2 排出量を低減できる溶着材料の開発
その他
額縁製造技術を応用したソファーフレームのデザイン
その他
家具調洗面化粧台の製造
(注)事業の秘匿性確保のため、記述の一部を修正している
地域資源を活用した事業展開 <A社(食品・飲料製造業)へのヒアリング調査より>
・ 現在も仕込みに木樽を使用し、水分・酸素の適切な調整を行うと同時に、気温・湿度などの
環境条件で微妙に変化する麹菌の生育を適正に維持管理するため麹管理を徹底することで、
高品質商品を安定的に供給することを可能にしている
・ NOF(Natural Organic Program)、OCIA(有機認定機関)の認定を受けたことで、商
品の安全性に関する保証を、国内外の商品販売で表示することができている
地域資源を活用した事業展開 <C社(食品・飲料製造業)へのヒアリング調査より>
・ 市内の卸会社と連携して醸造品の食品への応用を開発し、カステラやアメなどの商品化を行
った。これらの食品は、地元だけでなく、日持ちの長い食品であるため、首都圏など遠方へ
の土産品としても購入されている
・ 杏子やくわいといった地元の特産品を用いた醸造を行うことで、地元の人や市内出身者にふ
るさとの特産品を再認識してもらうよう企画した。昨年から販売した数量限定品であった
が、ほぼ完売であった
地域資源を活用した事業展開 <D社(食品・飲料製造業)へのヒアリング調査より>
・ 地元漁港は鯛の漁場として古くから有名であり、近接する工場で練り製品の製造ラインを新
設し、効率的な生産体制を整え、フル創業の状態にある。また、立地場所が観光地であるこ
とを利用し、本社工場にて「手作り鯛ちくわ(自分で作って自分で焼く)」コーナーを設け、
貴重な観光資源となっている
・ 瀬戸内海の小魚を用いてスープを作るラーメンを開発し、現在ではスーパーやインターネッ
トを通じて販売する主力商品となっている。この商品は値引きを行わないが、購買者のリピ
ート率は極めて高い
地域資源を活用した事業展開 <G社(繊維工業)へのヒアリング調査より>
・ 製紙会社から和紙スリットテープの撚糸に関する依頼を受けたが、従来通りの撚糸工法では
和紙の特徴を活かした綺麗な撚りができなかったため、水撚製法の開発により、紡績工程を
経た麻糸よりも糸ムラや毛羽が少なく、軽量で肌触りや風通しのよい生地を製造することが
できるようになった
−19−
地域資源を活用した事業展開 <I社(繊維工業)へのヒアリング調査より>
・ オンリーワンの刺繍技術(国内外で特許取得 10 件超)と、社長が研究したミシン技術に関
する知識との融合により、独自のミシン・針技術を開発し、海外の低価格商品との差別化に
成功し、販売先との価格交渉も優位に展開している
・ 縦糸を切った後に生地を洗い加工して刺繍模様を浮き上がらせる「ワラカット加工」が契機
となって、有名デザイナーのデザインに継続的に採用されており、パリコレクションに出品
した刺繍生地は、現地ファッション関係者からも高く評価されている
・ 箪笥の突板に刺繍しプレス加工する「箪笥刺繍」技術は、高級箪笥や仏壇などに応用され、
新しい市場を切り開いている
地域資源を活用した事業展開 <J社(木材加工・家具製造業)へのヒアリング調査より>
・ 大手との差別化を図るために、木が持っている性質を最大限に活かしたオーダー対応を中心
とする商品企画・製造や、古い箪笥の木材を再利用した再生箪笥(パッチワーク箪笥)によ
り、環境配慮にも努めている。また、組み立て式の茶室セットを開発し、大手広告代理店と
の連携によって、海外の富裕層向けの販路を拡大している
・ 東京青山に店舗を設置し、専門知識を持つ自社社員を常駐させることでブランドイメージの
確立と品質の高いサービス提供を進めている。オープンして一年が経過したが、売上は順調
に推移している
地域資源を活用した事業展開 <R社(楽器製造業)へのヒアリング調査より>
・ 木材の粗加工の工程ではNC機械を利用し、その後の工程では熟練職人による手作業で仕上
げることで、伝統技術と新技術を融合させたものづくりを進めている
・ 通常の琴と比べて調弦と糸の張替えが容易であり、優れた音色と音量を持つ琴を組合で共同
開発し、独自開発製品としても、洋楽器とのアンサンブルを意識した 14 弦の西洋音階を持
つ琴を販売している
2.特殊技術・独自商品
ここでは、地域資源を活用した事業によって地域経済の活性化を進めるための基礎資料
として、各社の特殊技術や独自商品について整理する。地域に現存する基盤技術や先端技
術、オリジナル商品を把握することで、今後の地域内部での新たな企業連携、産学連携な
どのマッチングを検討する検討材料とする。
(1)特殊技術・独自商品の有無
他社との競争を優位に進める特殊技術・独自商品の有無を確認すると、「ある」は 44%
にとどまり、地域企業の競争力が特殊技術・独自商品などの具体的な内容で顕在化してい
る企業は半数に満たないことが分かる(図Ⅱ.7)。
−20−
図Ⅱ.7 特殊技術・独自商品の有無
不明
5.4%
ある
44.2%
ない
50.4%
(2)特殊技術・独自商品の内容
特殊技術・独自商品の内容については(図Ⅱ.8、表Ⅱ.4)、機械・金属加工が 37%
でもっとも多く、繊維 10.5%、飲食料品 9.6%、木材加工・家具 7.0%と続き、ものづく
りの基盤技術や伝統産業が多くを占めていることが確認された。また、短納期・低コスト
の受注生産など生産システムを挙げる回答が 11%、大学・試験研究機関などとのコラボレ
ーション、大手企業など顧客とのネットワークを挙げる回答も 5.3%となっており、ビジ
ネスモデルに強みがあると認識している企業・事業所も少なくないことが分かる。
図Ⅱ.8 特殊技術・独自商品の内容(分類)
その他
3.5%
不明
7.0%
連携・
ネットワーク
5.3%
機械・
金属加工
36.8%
生産
システム
11.4%
その他製品・
商品
6.1%
IT・半導体
2.6%
飲食料品 繊維
10.5%
9.6%
−21−
木材加工・
家具
7.0%
表Ⅱ.4 特殊技術・独自商品の主な内容
分
類
内
容
機械・金属加工
研磨、スライス、エッチング、印刷、酸化膜などの表面加工技術
機械・金属加工
塩ビ・軟質・硬質・特殊紙などのUV特殊印刷技術
機械・金属加工
欧州環境基準に対応した亜鉛めっき・三価クロメート加工、樹脂複合材料のマテリアルリ
サイクル技術
機械・金属加工
電子海図へのトラッキング機能を持たせた航海機器の開発製造
機械・金属加工
天然不突板の染色UV仕上げおよび浮造り加工のウレタン仕上扉
機械・金属加工
プラスチックヒールプリント加工におけるカラー調色・塗装技術
機械・金属加工
サーボモーター用減速機の設計製作、歯車を用いたペットボトル減容機
機械・金属加工
LED(発光ダイオード)を活用したランプ・表示看板の製造
機械・金属加工
アルミダイカスト鋳造品のリーク不良処理技術
機械・金属加工
技術特許と低コストのノウハウによる板紙・ダンボール打板機の製造
機械・金属加工
熱間圧延による特殊成形技術
機械・金属加工
船舶用大型軸系部品の機械加工技術
機械・金属加工
リサイクル原料とタンカル等の改質材調合技術による農業設備の更新
機械・金属加工
金属加工刃物の刃先に付ける超硬チップの製造技術
機械・金属加工
防錆・高強度・軽量コンクリート構造物を建造とする炭素繊維を用いたCFRP主筋と横
筋の開発製造、およびその自動製造)装置の開発
機械・金属加工
五面加工機による半導体・液晶向AL加工技術、真空排気製造の製造技術
機械・金属加工
特殊形状ロールへのめっき加工、耐食性・耐摩耗に優れた製鉄用モールドめっき加工
機械・金属加工
山頂など処理水を放流できない場所での水洗化可能な無放流型の排水処理装置
機械・金属加工
自動車用薄鋼板の熱処理・めっき技術
繊
維
縦糸に利用できる強度を持ち、染色堅牢度も高い和紙スリットテープの水撚技術
繊
維
均一性の高い和紙テープの水撚製法(特許申請中)
繊
維
自社オリジナルの素材・デザインによるデニム、藍染めの製造
繊
維
モンペの量産・多品種生産技術
繊
維
女性ジーンズ用ヒップアップ機能付インナーの製造技術
繊
維
デニム生地用インディゴ縦糸の染色技術
繊
維
独自織布のパッチワーク、製品加工技術
繊
維
繊
維
高齢者・障害者用衣服の製造、バラの香りの衣服、消臭・抗菌衣服など繊維への機能付与
技術
旧式織機を使用したビンテージ織物、ドビー二重ビームを駆使したインディゴ高級ファン
シー織物の製造
飲食料品
酒もろみのフリーズドライ商品の展開(特許出願中)
飲食料品
乾燥野菜製造および業務用乾燥野菜原料加工技術
(次頁につづく)
−22−
(前頁よりつづき)
分
類
内
容
飲食料品
最新技術による品質・コスト・醸造期間に優位性を持つ酒造り
飲食料品
有機JASと海外でのオーガニック認定を受けた味噌製法技術
飲食料品
バラ酒、くわい焼酎の製造
飲食料品
野菜・果実の選別・洗浄・磨きなど調理機械の開発・製造
飲食料品
儀式用細工かまぼこの製造
木材加工・家具
壁面収納バスケット台の製造・施工、とび箱の製造
木材加工・家具
天然木の真空貼加工技術
木材加工・家具
受注生産家具製造のための図面化技術
木材加工・家具
松・杉・檜など国産材を使用した手造り木材加工製品
木材加工・家具
短納期でデザイン性、企画力に優れた家具製品の受注生産技術
木材加工・家具
国産木材の合板用機械開発
木材加工・家具
LEDや丁双金製類を使用した家具調仏壇の開発
IT・半導体
独自の電子回路を採用した高耐久性の半導体・液晶製造装置向けプラズマ用高周波電源等
の開発・製造技術
IT・半導体
液晶パネルの薄型・軽量化の技術
その他製品・商品
その他製品・商品
イオン化カルシウム医薬品の製造技術、胎盤(プラセンタ)エキスを原料とした医薬品の
製造
リサイクル材料であるブチル再生ゴムの製造技術及びその特性を利用した止水材、防水
材、遮音材、制振材等の開発・製造技術
その他製品・商品
環境負荷を低減させるゴム製品
その他製品・商品
ゲルマニウムを使用した腰巻バンド、マット等、軟質合成樹脂による短小パイプ材及びク
ッション等の開発・製造
その他製品・商品
幼児・低学年層向け保護マット類の製造技術
その他製品・商品
畳表の抗菌加工技術
生産システム
本社のネットワークカメラを用いた国内外の工場一括管理手法
生産システム
短期納品と在庫の適正化
生産システム
小ロット製品の製造自動化、短縮化された型替え時間
連携・ネットワーク
大手メーカーとの共同研究開発
連携・ネットワーク
自社独自のネットワークによる原材料の調達迅速化・容易化
その他
国土交通大臣認定工場(Hグレード)
(注)事業の秘匿性確保のため、記述の一部を修正している
特殊技術・独自商品 <B社(食品・飲料製造業)へのヒアリング調査より>
・ 主要製品である乾燥野菜の粉末は、食品メーカー(パン生地への練り込みなど)や医薬品メ
ーカー(青汁原料や錠剤に加工したサプリメントなど)を主たる販売先としているが、大き
な粒からマイクロパウダーまで数多くの品種を揃えおり、野菜本来の色と風味を残して還元
できるよう、独自ノウハウによる乾燥技術が強みである
・ 根菜類などは雑菌が付着しやすいが、雑菌制御にも独自技術があり、メーカーからの菌数指
定を上回る制御により、適切な管理を行っている
−23−
特殊技術・独自商品 <L社(一般機械製造業)へのヒアリング調査より>
・ 合板プレスが主力製品であるが、合板プレスの前段階である接着剤塗布やベニアのセットに
関する自動装置を開発したことで、プラントの自動ライン化に対応した機械・システムによ
るトータルでの提案能力に優位性を持つ
・ 海外の木材加工工場建設に参加し、現地のプレス機械販売での委託契約や工場建設アドバイ
ザーとして招聘される例が相次いでいる。また、山林環境対策として国内間伐材加工工場や
機械設備投資により、針葉樹用に改良したプレス機に対する需要が見込める
特殊技術・独自商品 <P社(ゴム製品製造業)へのヒアリング調査より>
・ ゴムが本来持つ粘弾性を活用した気体を通さないブチル再生ゴム等を使用した製品を開発
している
・ コンクリートの硬化に伴い接着することで止水するシールや、ドイツからの技術導入後独自
改良を重ねた塩化ビニール樹脂系の防水シートは、30 年以上の耐久性を持つ高品質商品と
して高い競争力を維持している
・ 阪神淡路大震災を受けても水漏れすることがなく、関係省庁から出された耐震性の強い製品
に関する推奨も相まって、高い支持につながっている
Ⅲ.地域における産業支援体制の現状と課題
本章では、地域内部における大学や公的・民間の支援機関などの産業支援体制の現状と
課題を明らかにし、産学連携や企業間連携など、地域内部の連携ポテンシャルを探るとと
もに、地域資源を活用した事業展開や、製造業の高付加価値化に向けた課題抽出の検討材
料とする。
1.産業支援機能の整備状況と連携による産業支援の胎動
(1)地域プラットフォームと自治体による支援事業
地域での新事業の創出を図るため、都道府県等が主導して、創業から事業化までの各段
階において、必要な人材育成、技術開発、資金供給、マーケティング支援など各種の支援
策を、ワンストップで提供する新事業支援体制(地域プラットフォーム)の整備が進めら
れている(図Ⅲ.1)。
広島県でも、㈶ひろしま産業振興機構を中核的支援機関として、「広島県産業支援機関
等連携推進会議(ひろしま産業支援ネット)」が設置され、県東部地域の㈶備後地域地場
産業振興センターや県立東部工業技術センターと連携することで、研究開発からその成果
を活用した事業展開に至るまでの一貫した総合支援体制が構築されている(図Ⅲ.2)。
−24−
図Ⅲ.2 広島県産業支援機関等連携推進会議
(ひろしま産業支援ネット)の概念図
図Ⅲ.1 地域プラットフォームの概念図
資料:㈶ひろしま産業振興機構
資料:㈳中国地方総合研究センター
『中国地域の経済と地域開発(2006)』
ひろしま産業支援ネットの他にも、福山市や府中市が、市内の中小企業による新規事業
に向けた企画、開発、人材育成、販路開拓などに対して、補助金を中心とした各種支援メ
ニューを用意している(表Ⅲ.1)
。また、福山市では、平成 17 年度予算において備後絣
の新商品開発補助金を計上し、備後絣協同組合(新市町)が絣の落ち着いた「和」の風合
いを活かした新デザイン開発を進めるなど、地域資源を活用した産業振興を展開している。
同様の支援は広島県や経済産業省などでも用意され、地域企業の新規事業展開でも活用
されている。
表Ⅲ.1 福山市の主な中小企業支援事業
内
容
補助対象事業・費用
採択数
新事業創出支援
企画事業:新製品・新技術・新サービス提供の開発に
必要な情報の交換・研修、開発の企画、市場調査
開発事業:新製品・新技術・新サービス提供の開発に
必要な設計、試作、改良
5テーマ
程度
産学共同研究支援
大学との共同研究または委託研究における共同研究
費、原材料費、機械装置工具器具費、外注加工費など
3テーマ
程度
販路開拓支援
首都圏等での全国規模の展示会における小間料、小間
装飾料、展示物搬送料など
10 件程度
人材育成研修支援
県立東部工業技術センター、県立福山高等技術専門校、
−
ポリテクカレッジ福山等が行う人材育成・技術研修
資料:福山市『制度等活用ガイドブック(2006 年度)
』
−25−
補助金額
補助対象事業費×
2/3 以内(50∼100
万円限度)
補助対象事業費×
2/3 以内(50∼200
万円限度)
補助対象事業費×
1/2 以内(30 万円
限度)
受講料の 1/2 以内
(一人 10 万円限度)
(2)産学連携・企業連携の萌芽
① 大学・公的機関における連携窓口の整備
広島県東部地域の技術支援・学術研究機関では、福山大学、福山平成大学、県立東部工
業技術センターの2大学と1機関があり、人材育成機関として福山職業能力開発短期大学
校(ポリテクカレッジ福山)、県立福山高等技術専門校の2機関が立地している。
福山大学では、
「産学官連携推進窓口」が設置され、地元の建築会社と連携して構造物の
耐震性向上の研究に取り組む「福山大学ハイテクリサーチセンター」や、大学教員の研究
により蓄積された知的資源・学術情報を、地域の産業や研究・行政機関との相互の交流チ
ャネルを通じて活用する「知的財産センター」などにおいて、産学連携が展開されている。
また、広島大学は、県東部地域における社会連携総合窓口として「広島大学福山サテラ
イトオフィス」を設置し、地元企業との共同研究や、企業経営スキルの向上や高度技能者
養成に向けた講義を行っており、平成 18 年 4 月からは大学教員・学生と地域企業が気軽に
交流できる「コラボサロン」を実施している(図Ⅲ.3)
。コラボサロンは、地元企業にと
って敷居が高いとされる大学を身近に感じてもらうため、少人数の市民グループが自由に
テーマを設定して、大学教員と気軽に語り合う場となることで、将来的に地元企業・団体
との共同研究や、地場産業でのものづくり高度化に向けたトリガーとなることも期待され
ている。
このほか、ひろしま産業支援ネットの構成機関でもある東部工業技術センターでは、技
術相談・指導、研究開発、依頼試験、設備利用などを行っており、ポリテクカレッジ福山
や福山高等技術専門校でも、職業能力の向上や再就職に向けた体系的な教育を実施してい
る。
図Ⅲ.3 広島大学福山サテライトオフィスによる「コラボサロン」
資料:福山商工会議所
② 行政による連携促進に向けた環境整備
行政も、地域産業の活性化に向けた方策の一貫として、大学や工業技術センターとの連
携を進める施策を展開している。福山市では、先述した産学協同研究に対する補助事業の
−26−
ほか、平成 18 年度から、市内のものづくりの集積をインターネットによって全国にアピー
ルし、市内外の企業との取引拡大や企業間連携を促進させるため、
「福山市産業技術マップ」
の作成に着手している。このマップは、市内各社の「得意な技術」や「今売り出したい製
品・部品」を紹介するデータベースであり、3カ年で 300 社の掲載を目指して、NPO法
人ビジネスサポート Bingo によるヒアリング調査が実施されている。
③ 内発的な産学・企業間連携
広島県東部地域では、産学官が内発的に連携した交流会・研究会が複数開催されている
(表Ⅲ.2)
。平成 14 年に設立された「福山バイオビジネス交流会」では、バイオサイエ
ンスに関する意見交換や情報交換を活発化し、地域での新産業創出や新製品開発を促す総
合的な支援体制の構築を目的として、市内を中心とする企業、大学、行政、経済団体が参
加している。平成 12 年に設立された「ひろしま福祉産業ネットワーク(平成 18 年に広島
県福祉関連産業創出プロジェクト推進協議会から改称)」では、福祉用具等に関する情報の
流通を促進し、福祉用具利用者等の利便性向上と県内福祉関連産業の活性化を図るため、
福祉用具の事業化に関する調査検討やPR事業などを行っている。同じく福祉関連で、地
元企業の福祉分野への参入を図り、各種の交流会や研究会を開催している「広島県福祉用
具開発研究会」では、
「移動移乗」と「福祉衣料」の2つの分科会を立ち上げ、実際の製品
開発も行っている。府中市でも、商工会議所と市が広島大学と連携し、広島大学による定
例相談や、ものづくり技術の伝承に関するセミナー、コーディネーターによる企業訪
問を 2006 年度から開始した。
また、大手企業の地域への進出にともない、その先端技術を地域産業に移転し、地域の
技術基盤の高度化を図るための連携組織も立ち上がっている。「LIFT21(Leading
Initiative for Frontier Technology in the 21st Century)」は、旧NKK総合材料技術
研究所の福山移転整備を契機に、研究所が保有する先端技術を活用し、地域企業の基盤技
術の強化、新製品の研究開発力および新規事業形成を促進させることを目的として、平成
9年3月に設立された。現在、45 社4組合が参加し、JFEスチール㈱スチール研究所、
広島県立東部工業技術センター、広島大学、近畿大学、福山大学、備後地域地場産業振興
センターなどが支援する産学官連携の共同研究組織であり、情報技術利用、先端加工技術、
環境技術の各研究会と、超強力金属接着、ポリエチレン熔射、環境低負荷潤滑などのワー
キンググループを組織した研究活動によって、新製品・新技術の開発に取り組んでいる。
昭和 59 年に設立された「電子産業関連企業交流グループ」は、シャープ半導体工場の福
山立地を契機として、半導体製造企業の持つ先端的技術を地域企業に移転し、地域の技術
高度化と半導体製品を活用した高付加価値製品の開発や協力企業群の形成促進を目的とし
て結成された。IT関連企業が多く集積する県東部地区の 31 社が加盟し、活動内容は、半
導体の市場予測などセミナーの開催、会員企業相互の交流や情報交換による新製品開発の
機会提供の場となっている。
−27−
表Ⅲ.2 広島県東部地域の主な産学・企業間連携
名
称
福山バイオビジネ
ス交流会
ひろしま福祉産業
ネットワーク
広島県福祉用具
開発研究会
活動内容
・バイオビジネス関連の研究会・シンポジウム等の開催
・福山大学による公開授業・バイオ技術講習会等の開催
・福山大学の研究施設・機器類の利用・活用の制度化
・経済産業省実施の産学官連携による事業化に直結する実用
化技術開発の実施など、産学の共同研究の実施
・福山市創造活動推進協議会への参加
・学生のインターンシップの実施受入れ など
・福祉関連産業創生プロジェクトの総合的推進
・福祉関連産業情報システム(コクーン Hiroshima21)の
整備及び活用の検討
・福祉用具の研究開発推進のための組織の検討
・福祉関連産業創生プロジェクト推進のためのPR活動 等
・福祉用具に関する研修会・見学会の開催
・福祉用具開発に関する共同研究・開発
・福祉用具開発に関する情報交換・技術交流
設立年
平成
14 年
平成
12 年
平成
7年
・広島大学による定例相談
・広島大学「府中キャンパス」の開催
平成
・コーディネーターによる企業訪問
府中産学官連携
18 年
・広島大学主催事業(リエゾンフェア)などの情報提供
研究会
・研究会の開催
・広島大学への視察 など
・技術交流会の開催(環境技術利用研究会、先端加工技術研
究会、情報技術研究会、接合ワーキンググループ、溶射ワ
平成
ーキンググループなど)
LIFT21
9年
・新製品の共同研究開発
・先端企業および先進地の視察 等
・半導体産業の市場予測、シャープの経営方針などに関する
昭和
セミナーの開催
電子産業関連企業
59 年
・半導体製品を活用した高付加価値製品の開発
交流グループ
・協力企業群の形成
資料:福山市資料、府中市資料、広島県立東部工業技術センターウェブサイト、
各会・グループウェブサイトより作成
メンバー
企業 68 社、
福山市、府中市、
福山大学、
東部工業技術
センター、
福山商工会議所、
など
企業 69 社、
県立広島大学、
広島県社会
福祉協議会、
中国経産局 など
企業 14 社、
福山市、三原市、
東部工業技術
センター など
企業 47 社、
府中商工会議所、
府中市、
広島大学 など
企業 45 社、
広島大学、
備後地域地場
産センター、
福山市 など
企業 31 社、
広島県福山地域
事務所(事務局)
など
④ 新たな企業間連携の動き
先述した産学・企業間連携に加えて、企業経営者の有志が立ち上げた民間組織が、企業
間連携の新たな姿として全国的な注目を浴びている。一つは、平成5年に設立された「備
後半導体技術推進連合会(BISTEC)」であり、地元の若手技術者を対象とした液晶・
半導体に関する勉強会等を通じて若手の人材育成を進めると同時に、子どもの理科離れや
ものづくりへの興味が減退していることを憂慮し、ものづくり企業が集積する地域を担う
次世代の人材育成として、地元の小・中学生に電子工作教室を通じたものづくり教室を実
施している。こうした活動は、会の中核を担う企業経営者がポケットマネーを持ち寄って
発展させてきたものである。
もう一つは、平成 18 年に設立された「びんごIPO倶楽部(BIC)」であり、備後地
域を中心として株式公開を目指すベンチャー企業に資金や情報を提供している(表Ⅲ.3)。
−28−
設立以前から、企業経営者が私的に新株や社債引き受けなどベンチャー企業を資金援助し
ていたが、地方銀行や子会社のベンチャーキャピタルと連携することで資金面での支援を
充実させ、会員の情報網を活用した取引先の開拓や経営指導、ビジネスマッチングなどを
行っている。特徴的なのは、ベンチャー企業に対する資金援助は、BICとしてではなく、
会員個々が独自の判断で出資することである。
表Ⅲ.3 びんごIPO倶楽部(BIC)による資金援助の概要・実績
項
対
目
内
容
主として備後地域内から株式公開を目指し、新規性を有する技術・製品・サービス
等による事業展開を行おうとする個人または法人
象
投資までの流れ
会員の推薦を受けたうえで投資説明会に申し込みを行い、BIC内部での書類審査
(一次審査)、投資説明会でのプレゼンテーション(二次審査)を受ける。出資は、
BICの会員個々の判断に基づき、会員個々の名義により行われる
投資後の支援
会員のネットワークを活用した販路開拓や経営指導、ビジネスマッチング、人材育
成支援、地方銀行や地銀系ベンチャーキャピタルからの出資など
参加経営者の所属
アシード㈱、ローツェ㈱、㈱自重堂、㈱河原、㈱アドテックプラズマテクノロジー、
㈱広島銀行、㈱中国銀行、ひろぎんキャピタル㈱、中銀リース㈱ など
出資先企業
永和国土環境㈱、㈱ドリームネッツ、ポエック㈱
など
資料:中国新聞、山陽新聞、日本経済新聞より作成
2.地域企業の事業支援ニーズ
ここまで、地域内部における産業支援機能の整備状況と産学・企業間連携の実態につい
て整理したが、以下では、アンケート調査とヒアリング調査の結果から、地域企業の事業
支援ニーズを把握し、現在の産業支援機能の問題点や今後の支援強化の方向性について検
討する。特に、政府を中心として地域資源を活用した産学連携、企業連携による新商品の
開発・新サービスの提供、国内外への販路開拓などが奨励され、事業化段階における設備
投資など、資金面での支援を行うためのファンド創設が進められていることを受け、資金
をはじめとする各種の支援ニーズや、ファンド活用に際する課題について分析する。
(1)地域の支援機関に期待する内容
地域企業に対する事業支援では、ファンドによる資金供給だけでなく、地域の支援機関
や教育・研究機関を有効に活用したハンズオン支援を進めることが有効である。各種の支
援ニーズの中では、
(図Ⅲ.4)
「有能な人材の紹介・確保」
(42%)と「人材の育成」
(38%)
といった人材に関する支援が上位を占めた。人材育成・確保が困難を極めている 2007 年問
題がクローズアップされているが、広島県東部地域でも人材問題が大きな課題であること
が浮き彫りとなった。
−29−
図Ⅲ.4 地域の支援機関に期待する内容
有能な人材の紹介・確保
41.5
人材の育成
38.0
販路拡大・開拓支援
29.5
技術相談・指導・支援
26.7
営業力の強化・指導
20.9
連携先・協力先の紹介・マッチング
18.2
共同研究・開発
15.5
資金調達の支援・仲介
13.6
設備・施設の提供
8.5
海外展開に向けた支援
8.5
ビジネスモデルの構築
6.6
資金提供(エンジェル支援)
6.2
ビジネスプランの作成
4.7
顧客管理・サービスのノウハウ提供
3.9
事業の外部委託・アウトソース
3.5
0
5
(%)
10
15
20
25
30
35
40
45
(注)複数回答
次に期待度の多かった支援は「販路拡大・開拓」
(30%)であり、
「営業力の強化・指導」
も 21%であることから、マーケティング面での支援が急務となっていることも明確である。
一般的に、販路は中小企業にとって弱点であることが多く、技術相談・指導・支援につい
ても、企業単独での取り組みには限界があるため、大学や研究機関からの支援を期待して
いる企業が多い。公的試験研究機関の設備拡充や、安価での設備使用を求める意見も挙が
っている。
地域の支援機関に期待する内容 <A社(食品・飲料製造業)へのヒアリング調査より>
・ 海外に向けての営業支援、特にヨーロッパ向けの市場開拓での支援を期待している
・ 商品・技術開発においては、健康に与える影響や機能開発について、福山大学生命工学部や
県立食品工業技術センターとの連携を視野に入れ、二次加工品についても、産業支援機関の
コーディネーターとの連携により商品数を充実させたい
地域の支援機関に期待する内容 <B社(食品・飲料製造業)へのヒアリング調査より>
・ 福山大学や県立広島大学など、大学教授を技術的な顧問としているが、経営資源が全般的に
不足していると考えており、経営戦略の立案など多方面での支援をお願いしたい
地域の支援機関に期待する内容 <C社(食品・飲料製造業)へのヒアリング調査より>
・ 酒類総合研究所や県立食品工業技術センター、大学などに、アミノ酸値の計測など成分分析
を依頼したい
−30−
地域の支援機関に期待する内容 <G社(繊維工業)へのヒアリング調査より>
・ 撚糸の乾燥設備、新たな浸水技術や加工などの生産性・品質改善に向けて、福山大学や東部
工業技術センターなど専門機関からの助言を希望している
地域の支援機関に期待する内容 <H社(繊維工業)へのヒアリング調査より>
・ 繊維業以外の異業種(建築業、運送業、葬祭業、食品関係など)とのタイアップにより販路
を開拓したいと考えており、集客力のある企業との連携に向けた支援を期待している
地域の支援機関に期待する内容 <J社(木材加工・家具製造業)へのヒアリング調査より>
・ CAD技術を習得した設計人材の確保、あるいは育成に向けた支援を希望する
・ 直営店における店舗開発や店作りのノウハウ、海外営業の人材育成や海外展開でのビジネス
モデル構築についての支援が必要
・ 海外での事業展開をスムーズに行えるよう、組合機能を充実させ、販売から集金までの窓口
を一本化した支援の仕組みが出来れば有難いと考えている
地域の支援機関に期待する内容 <K社(家具製造業)へのヒアリング調査より>
・ 海外展開に向けて、中国や東南アジアに精通している企業等との連携を希望している
地域の支援機関に期待する内容 <L社(一般機械製造業)へのヒアリング調査より>
・ 木板の乾燥技術習得のため、東部技術工業センターや大学との連携を希望している
地域の支援機関に期待する内容 <M社(金属加工業)へのヒアリング調査より>
・ 行政の監督官庁や民間企業に自社技術を提案するための水先案内が必要と考えている
地域の支援機関に期待する内容 <N社(鉄鋼業)へのヒアリング調査より>
・ 現在の鉄工業界だけでなく、異業種の情報を持っている企業・団体との連携を考えている
・ 今後は人材に投資したいと考えており、大学生のリクルートや人材育成に関する支援を期待
している
地域の支援機関に期待する内容 <O社(ゴム製品製造業)へのヒアリング調査より>
・ 販路開拓のため、販路開拓コーディネート事業を活用したい
・ 水素含有水の効果に関する大学や工業技術センターとの共同研究の実施を期待する
地域の支援機関に期待する内容 <Q社(プラスチック製品製造業)へのヒアリング調査より>
・ 展示会への出展や技術開発に興味があるため、各種の情報提供や異業種のマッチング事業の
企画を期待している
−31−
地域の支援機関に期待する内容 <R社(楽器製造業)へのヒアリング調査より>
・ 教育現場で和楽器の演奏を聴いたり、自ら演奏する機会を増やし、和楽器が文化として定着
するような行政レベルの指導を期待する
・ 新感覚の和楽器向け楽曲の作曲、琴の本来の姿である歌の伴奏として使う音楽家とのコラボ
レーションを希望
地域の支援機関に期待する内容 <T社(生活関連製品製造業)へのヒアリング調査より>
・ 販路開拓のサポートや共同商品開発の連携先機関・企業の探索・確保を希望する
(2)資金調達の現状および多様化への意向
資金ニーズあるいはファンドへの支援ニーズを調べる前に、資金調達方法の現状と多様
化に関する意向を確認する。一般的に、中小企業では金融機関からの借り入れが多いため、
その時々の金融機関の貸出政策から大きな影響を受ける。また、有望な事業でありながら、
信用力や担保が不足していることで必要な資金を調達できず、事業を開始・継続できない
状況も少なくない。
こうした視点から、各社の資金調達方法の現状と多様化について確認すると(図Ⅲ.5)、
「金融機関からの借入がほとんどであるため、資金調達の多様化を図りたい」は 22%で、
「金融機関からの借入がほとんどであるが、資金調達の多様化は考えていない」が 39%に
達している。金融政策が緩和されている現状からすれば、資金調達の多様化は念頭にない
企業が多いことは事実であるが、
「既に多様な資金調達を行っている」がわずか 8%にとど
まっていることで、金利上昇や金融引き締めに対する地元企業の頑健性は決して強くない
ことが窺え、金融機関への依存を減らし資金調達を多様化させる検討が必要であると考え
られる。
図Ⅲ.5 資金調達の現状および多様化への意向
判断できない
・分からない
8.1%
不明
3.5%
金融機関からの借入がほ
とんどであるため、資金調
達の多様化を図りたい
21.7%
金融機関からの借
入は必要ない
20.2%
既に多様な資金調
達を行っている
7.8%
金融機関からの借入がほ
とんどであるが、資金調達
の多様化は考えていない
38.8%
−32−
(3)ファンドの活用について
① ファンドの活用可能性
今後の資金調達方法の一環としての、ファンド(アンケート票では「地域活性化ファン
ド(仮)としている」)の活用に対する意見については、「資金調達手段として非常に有効
であり活用を検討したい」が 5%、
「資金調達手段の一つとして興味がある」も 26%で、3
割以上で関心があることが示されている。一方で、
「活用するにあたって懸念や不安がある
ため条件整備が必要である」は 4%、
「判断できない」も 29%となっていることから、ファ
ンドの内容だけでなく、意義やポリシーも含めた周知活動によって、ファンド活用に向け
た阻害要因を取り除き、設立後も課題や問題点の解決に向けた活動を継続させることが必
要と考えられる(図Ⅲ.6)。
なお、(2)資金調達の現状および多様化への意向について、「金融機関からの借入がほ
とんどであるため、資金調達の多様化を図りたい」と回答した企業の 85.7%(56 社中 48
社)が、
「資金調達手段として非常に有効であり活用を検討したい」または「資金調達手段
の一つとして興味がある」と回答し(図表略)、ファンドからの資金調達ニーズの高さが示
されている。
図Ⅲ.6 ファンドの活用可能性
不明
3.5%
判断できない
28.7%
資金調達手段として非常に有
効であり活用を検討したい
5.4%
資金調達手段の一
つとして興味がある
26.0%
資金調達には問題
がないためファンド
活用の必要はない
32.6%
活用するにあ
たって懸念や不
安があるため条
件整備が必要で
ある
3.9%
ファンドの活用可能性 <N社(鉄鋼業)へのヒアリング調査より>
・ 当社では現段階でファンドからの資金を必要としていないが、多様な資金調達方法があるこ
とは中小企業にとって有り難いことである。ただし、中小企業が使いやすい条件設定が必要
と考える
② ファンドに期待する支援内容
ファンドの活用可能性で、
「資金調達手段として非常に有効であり活用を検討したい」ま
たは「資金調達手段の一つとして興味がある」と回答した 81 社に対して、ファンドに期待
する支援内容について質問すると(図Ⅲ.7)、「担保や信用力ではなく、技術力や事業性
−33−
を評価する出資スタンス」と回答する企業・事業所が6割近くに及び、事業性を評価する
資金供給への期待が顕著に表れている。また、「金融機関以外からの資金供給」も 44%で
あり、資金調達方法の多様化を実現することで、経営安定化を図ろうとする意識も窺える。
そして、
「経営面や販路面など資金調達以外の支援」や「ファンドへの出資者が有する支
援ネットワーク」もそれぞれ 27%、20%に達していることから、ファンドのハンズオン支
援機能を強化することで、企業への経営ノウハウやネットワークの提供を積極的に進める
ことが求められている。
図Ⅲ.7 ファンドに期待する支援内容
担保や信用力ではなく、技術力や
事業性を評価する出資スタンス
59.3
金融機関以外からの資金供給
44.4
経営面や販路面など
資金調達以外の支援
27.2
ファンドへの出資者が有する
支援ネットワーク
19.8
対外的な信用力の向上
8.6
0
(%)
10
20
30
40
50
60
70
(注)複数回答
③ ファンドからの資金調達希望額
ファンドからの資金調達希望額については、「必要ない」が 20%で、資金を目当てにフ
ァンドを活用する企業が全てではないことが分かる。一方で、1,000 万円から2億円超ま
で資金ニーズがあることも事実であり、ヒアリング調査からは、設備の導入や開発に関す
る資金のニーズが多いことが確かめられている(図Ⅲ.8)。
図Ⅲ.8 ファンドに希望する資金調達希望額
不明
28.4%
2億円以上
9.9%
1億円以上
2億円未満
13.6%
必要ない
19.8%
3,000万円
未満
4.9%
5,000万円
以上1億円
未満
9.9%
−34−
3,000万円
以上5,000
万円未満
13.6%
資金ニーズ <ヒアリング調査より>
・ 加熱殺菌処理が可能な設備の開発と購入資金
<食品・飲料製造業>
・ サンプル等テスト用商品製造用の設備購入資金
<食品・飲料製造業>
・ 新規出店費用や設備の更新費用
<食品・飲料製造業>
・ 乾燥用設備の開発と購入資金
<繊維工業>
・ 乾燥技術および乾燥機の開発費用
<一般機械製造業>
・ 新店舗出店やマーケティング、ブランド開発、商品開発等への投資
<木材加工・家具製造業>
資金面の支援に対する期待 <E社(食品・飲料製造業)へのヒアリング調査より>
・ 研究開発資金が必要だが、どこからどのような支援を受けられるのか分からない
資金面の支援に対する期待 <I社(繊維工業)へのヒアリング調査より>
・ 設備費用や出展費用への助成金を期待する。特に、設備投資は実行後に減額出来ないため、
助成金を減額されると非常に困惑する
資金面の支援に対する期待 <K社(木材加工・家具製造業)へのヒアリング調査より>
・ 助成金の手続きが煩雑すぎて、申請から実際の融資に至るまでに半年近くかかったため、ス
ピード感のある対応を希望するとともに、手続きを簡易にしてほしい
資金面の支援に対する期待 <Q社(プラスチック製品製造業)へのヒアリング調査より>
・ 現状の補助金申請制度は書類準備が極めて煩雑であり、内容が分りづらいことも多いため、
見直しを検討してほしい。また、進行状態のチェックは長いスパンでお願いしたい
④ ファンドの創設・活用における課題
ファンドの創設・活用に関する課題や問題点についての自由回答からは(表Ⅲ.5)、出
資基準や経営チェックなどの評価基準に対する意見が多く、ファンドマネジャーの人物像
や出資者などの運営・運営方針、ファンドの存在意義を問う金融機関との差別化への意見
も挙げられている。また、人材の紹介や販路開拓など、支援内容に対する要望も少なくな
い。
ただし、アンケート調査の実施段階では、ファンドの内容・意義を十分に説明すること
ができなかった点に注意が必要であり、助成を融資と捉えている企業・事業所もあった。
−35−
表Ⅲ.5 ファンドの創設・活用における問題点
分
類
内
容
評価基準
財務内容にとらわれず、企業コンセプトや将来性、戦略を重要視して資金提供してほしい
評価基準
ファンドからの出資が大手企業に集中する可能性が高い
評価基準
経営状態のチェックは長いスパンでお願いしたい
評価基準
審査の条件等の明確化
評価基準
出資条件となる資本金規模や売上規模などの基準を撤廃してほしい
評価基準
貸出時の審査を厳格化し、返済条件を緩やかに設定すること
評価基準
外部連携の少ない企業や地域の特産品を扱ってない企業が活用することは難しいのでは
ないか
評価基準
ファンドからの出資条件が厳しく、中小・零細企業が相手にされないのではないか
運営・運営方針
有能なファンドマネジャーが見当たらないのではないか
運営・運営方針
不良債権発生を防ぎ、不正防止が的確に出来るような運営者の確保
運営・運営方針
成果を前提にした資金提供にならざるを得ないのは解るが、成果はやってみなくては分か
らないという案件に応じられる出資を希望する
運営・運営方針
税金の無駄使いにならないよう、最終責任を明確化にしてほしい
運営・運営方針
出資判断に関する分析力(地域ファンドであるが故に公平性と独立性をどう保つのか)
運営・運営方針
最終的に誰がファンドに資金を提供することになるか不明
金融機関との差別化
金融機関と違う存在理由が必要
金融機関との差別化
使用できる条件や金融機関との違い、メリット・デメリットなどを理解しやすく説明して
ほしい
金融機関との差別化
銀行より低い金利の設定が出来るかがファンド利用の課題である
支援内容
支援内容
資金提供だけでなく、支援できる人材を組み合わせることが大切である(技術のある人に
経営のできる人をペアで組ませるなど)
資金面以外の商品力・技術力の評価が重要であるが、同時に販売力を強化しなければ地方
の企業は成功しない。当社もローカルで知名度がないため苦労しており、販路支援を期待
している
支援内容
東京とのあらゆる分野における情報格差解消や専門性を進めることができる人材の紹介
支援内容
業種変換を検討しているため、そうした支援メニューの充実
資金使途
事業立ち上げ時の資金を提供してほしい
資金使途
製品開発資金として低金利、補助資金として利用できるものを望む
資金使途
低利での設備資金助成を期待したい
−36−
Ⅳ.地域資源を活用した事業展開に対する支援の方向性
以下では、ここまでの調査分析を踏まえ、広島県東部地域における地域資源や特殊技術・
独自商品を活用した事業展開と支援体制の現状と課題を整理したうえで、地域内部の関連
機関が連携し、地域資源を活用した事業発展を支援する方向性について検討する。
1.地域企業の事業展開と支援体制の現状および課題
(1)地域企業の事業展開の現状と課題
① 自社の経営資源に対する認識
技術力やアイデアに対する自信、社内の雰囲気や企業風土に誇りを持つ企業が多いが、
その一方で、外部とのネットワークや市場動向の把握・情報収集など、社外・市場との関
係を十分に構築できていないと認識している。
② 地域資源を活用した事業展開
繊維や木材加工・家具、味噌・魚介類・保命酒といった飲食料品、そしてそれらを生産
する機械・金属加工技術など、地域の付加価値の多くを生み出し、全国的にも競争力が高
い「地域資源」と見なせる業種・製品群において、構想段階や基礎研究段階など事業化初
期の段階にあるものを含め、数多くの事業展開が確認された。
ただし、資金面や人材面、販路面などに多くの課題を抱えていることから、事業を軌道
に乗せるための各種支援が必要となっている。
③ 特殊技術・独自商品の状況
他社との競争を優位に進めるための具体的な製品・サービスについては、ものづくりの
基盤技術である機械・金属加工をはじめとして、繊維、飲食料品、木材加工など地域資源
に関連する技術・商品も多く挙げられた。
そして、少数ではあるが、大学・試験研究機関などとのコラボレーションや、大手企業
など顧客とのネットワークを挙げる企業もみられ、地域の中にも連携の萌芽があることが
確認できる。
(2)地域での支援体制の現状と課題
① 地域の産業支援体制
地域プラットフォームである「ひろしま産業支援ネット」をはじめとした各種の公的支
−37−
援に加え、大学や企業同士の連携が広がり、行政も連携を支援する事業を開始している。
しかし、現段階で本格的な事業展開を念頭に置いた計画的・戦略的連携が組めているの
は大手企業や上場企業など一部の企業に限られており、これら以外の企業は、高いポテン
シャルを持っていても連携が組めていない、あるいは連携による事業のレベルアップが実
現できていない現状となっている。
② 内発的連携の実績と新形態の連携
福山大学を核としたバイオ分野の高付加価値化や、大手企業の進出に伴う地域の技術基
盤の高度化(LIFT21、電子産業関連企業交流グループ)を目的とした地域企業の連
携など、地域での連携体制の実績があることが確認できる。さらには、地元の企業経営者
が立ち上げた民間組織(BISTEC、BIC)が新たな支援を展開しており、会員個々
が独自の判断による出資も行っている。
③ 地域企業が期待する支援
支援ニーズが強いのは、有能な人材の紹介・確保や人材育成といった人材に関する内容
であり、販路や資金面での支援、技術開発への支援も期待されている。
支援を希望する企業の多くが中小・零細規模であることから、こうした「弱み」を自社
単独の取り組みで解決することには限界があると考えられ、地域の関係機関の仲介によっ
て企業間連携や産学連携を進めることが不可欠である。その際には、支援ニーズを踏まえ
た共同研究・開発など事業化初期の支援だけでなく、販路開拓や市場ニーズのフィードバ
ックなど、川上・川下両面からの支援が重要となっている。
−38−
2.地域資源を活用した事業展開に対する支援の可能性
前節で、地域資源を活用した事業展開に対しては、
(A)販路面、
(B)技術面、
(C)人
材面、(D)資金面、の4つの側面からの支援が必要であることが明らかになった。
以下では、それぞれの側面からの支援の方向性として、
(A)販路面 →(1)伝統・地場産業技術に対する学術研究からの「お墨付き」の付与
(B)技術面 →(2)地域内部の工程間・異業種連携の促進による地域技術基盤の底上げ
(C)人材面 →(3)地域内外からの人材集結に向けたものづくり産地としての情報発信
(D)資金面 →(4)地域内外の目利きを活用した資金供給とファンドによる助成のあり方
の一例を提案する。
(1)伝統・地場産業技術に対する学術研究からの「お墨付き」の付与
販路
地域資源を活用した事業展開を調査すると、特に味噌や保命酒などの飲食品分野で、健
康面や安全性に対して、一部の消費者から絶大な支持を受けている例がある。木材加工や
機械分野でも、大手企業など特定ユーザーの高い評価を得て、継続的な取引関係に発展し
ている企業・技術が多い。しかしこれらは、現段階ではあくまで「口コミ」による限定的
な顧客の購買しか誘発できていない。
この状況を打開するためには、大学や工業技術センターなど、学術研究機関の実証結果
によって、効果や技術に「お墨付き」を与えることが有効と考えられる。企業の多くが中
小・零細規模であるため、広告コストには限界があり、自社で研究者を雇用することにも
制約がある。そのため、福山大学のバイオ分野研究者や、東部工業技術センターの機械・
金属系研究者によって、伝統・地場産業の技術に対する客観的な証明を行い、パブリシテ
ィに載せることで飛躍的に販路を拡大できる可能性がある。
実際に、ヒアリング調査でそうした支援を希望しているという意見が多く、特に古くか
ら創業している地場産業の経営者ほど、期待感が大きい。学術的な効果が確認できれば、
特許出願や大手企業との連携方策にも関わってくるため、地域内外の消費者やユーザーの
声を把握し生産者にフィードバックする機能と、域内を中心とした学術機関からのサポー
トを促進する体制整備が必要と考えられる。
地域内外の
消費者・
「口コミ」の把握と
フィードバック
技術・効果の
実証
地域企業
ユーザー
福山大学
県立東部工業技術センター
など学術研究機関
支援機関
−39−
(2)地域内部の工程間・異業種連携の促進による地域技術基盤の底上げ
技術
広島県東部地域のものづくり産業の現状として、特殊技術や独自商品を持つ個性的な企
業が多いことと、地域としてのまとまり・連携が薄いことが表裏の関係として実在し、繊
維や木材加工産業などで地域内部の工程間の流れや企業間関係が深化・促進されていない
面がある。
本来であれば、互いの前後工程を理解することは、技術融合による新技術開発やコスト
削減など新たな競争力の源泉となる可能性があり、負担を分かち合うことで一体感を醸成
することもできる。これまでにない新しい技術や製品を生み出す可能性を高めるためにも、
こうした各種の連携を生み出す素地を整え、マッチングの機会を増やすことで選択の幅を
広げることが必要と考えられる。
加えて、中小企業にとって、
「弱み」を自社単独の取り組みで解消することには限界があ
るため、得意な能力を持ち寄り相互を最大限に活用する連携体制を構築できるような支援
機関のコーディネート能力が求められる。
A社
繊維産業
B社
C社
工程間連携
木材加工・家具産業
D社
E社
F社
機械・金属(加工)産業
H社
I社
J社
異業種連携
支援機関
コーディネート
地域プラットフォーム
各種交流会・ネットワーク
公的補助制度・助成金
既存の産学・企業間連携
(参考)工程間・異業種連携の事例
岩手県では、半導体や弱電部品が海外に生産拠点をシフトし、地域産業の空洞化が進んで
いることを受けて、県を挙げて地場企業の自動車産業分野への進出を支援している。その一
環として、岩手県工業技術集積支援センター(北上市)において、技術アドバイザーによる
地元企業に対する自動車関連分野への参入支援、企業連携のコーディネート、人材育成支援
などが行われている。これまで半導体や弱電部品を製造していた企業が自動車分野に参入す
るには、大型設備への莫大な投資資金や新規の製造ノウハウなど障壁が高く、制度融資や公
−40−
的助成では十分とは言えない。そのため、アドバイザーが地元企業各社の現有する技術や製
造技術、機械設備を丹念に調べ上げ、各社の能力を連携させ、大きな負担をかけない方法で
可能な分野から徐々に自動車関連事業をスタートさせる地道な支援を展開している。こうし
た支援により、プラスチック部品や金型製作の工程分担といった企業連携が地域内部で実現
し、新規受注につながっている。
岩手の精密部品会社で自動車部品向けの共同受注が相次いでいる。プラスチック部品三社がトヨタ
自動車系の関東自動車工業岩手工場(金ケ崎町)向けのシート部品加工を受注。千田精密工業(奥州
市、千田伏二夫社長)も鋳物大手など二社と組んで、アイシン精機向けの金型製作に乗り出す。関東
自工の大幅増産を機に、地場企業の自動車分野への参入機運が高まりそうだ。
関東自工向けの部品加工はプラスチック部品の共同受注グループ「プラ21」が受けた。手がける
シートまわりなどの部品は三十五点以上あり、三社が分担して生産する。
既存の精密向けの小型生産設備では対応できない部品もあるため、リーダー格の北上精工(北上市、
菅原清美社長)は新工場を建設。350 トンクラスの大型の射出成型機を導入し、早ければ今夏にも量産
体制に入る計画だ。新工場と設備の投資額は一億円以上となる。同社は将来、金型製作も手がけたい
という。
液晶や半導体関連装置などの部品加工の千田精密工業は、大型鋳物を得意とする岩手製鉄(北上市、
小原康司社長)、めっき加工の大森クローム工業東北工場(北上市)と共同で金型製作を手がけるた
め、仲介役となる県の担当者も交え具体的な作業の流れなどの検討に入る。岩手製鉄の鋳物に千田精
密などが加工を施し金型として納入する。
千田精密はアイシン精機からアルミダイカスト向け金型の土台などの製作を受注しており、今後、
心臓部品向けなど大型の金型製作にも地元でこたえられるよう、今回の取り組みを進める。
岩手の部品産業は電子部品など小型部品加工が中心。プラ21に参加する企業も今回の受注を機に
自動車分野に本格的に参入する。
昨秋生産能力を引き上げた関東自工岩手工場は今年、米国向けなどの輸出車も量産に入った。
資料:日本経済新聞
地方経済面(東北B)
2006 年 3 月 9 日
(3)地域内外からの人材集結に向けたものづくり産地としての情報発信
人材
今回の調査で明らかになったことは、多くの企業が人材面で課題を抱えているにも関わ
らず、情報発信が積極的でない企業が少なくないことである。地域の支援機関も、域外か
ら有能な人材を獲得しようとする情報発信が十分とは言えず、ものづくりの産地を支える
次世代の人材確保・育成が進んでいない現状に至っていると考えられる。
広島県東部地域は、全国でも稀に見る多様な産業集積地であり、今回の調査で確認され
たように、現在でも伝統産業や地場産業から発展した事業展開、特殊技術や独自商品の開
発と販売が進められている。
こうした地域の実情を、小中学生のものづくり体験教室や産業観光、各種のミュージア
ムなど多様な方法を通じて情報発信することは、地域内部の人材育成だけではなく、地域
外からの人材獲得につながると考えられる。情報は発信するところに集積し、高い技術蓄
−41−
積は高い能力を持つ人材を惹き付けると考えられるため、地域資源を活用した「ものづく
り産地」としての情報発信の積極化は不可欠の要素である。
同時に、ポリテクカレッジ福山や県立福山高等技術専門校で進められている人材育成を
積極的に活用し、在職者や求職者のレベルアップを図ることが求められる。
(4)地域内外の目利きを活用した資金供給とファンドによる助成に向けて
資金
地域企業の資金調達は、担保を前提とする金融機関への借入依存が強いことから、調達
方法の多様化を図ることが望ましいと考えられるが、その一環として、地域企業にとって
ファンドからの助成に対するニーズがあることが確認された。実際に、政府では平成 19
年度に地域中小企業応援ファンドを創設し、地域資源を活用した支援策が動き出すため、
当地域においても、こうした制度の活用を検討することが、資金調達の選択肢の巾を広げ
る点から望ましい。
したがって、ファンドの運営方針や貸出基準など整備を進め、認知度を上げてさらにニ
ーズを引き出すことが必要であるが、ファンドの存在意義や金融機関との差別化からも、
技術力や事業性を評価した出資スタンスが求められており、ファンド運営者の目利き能力
が不可欠となっている。
そのため、びんごIPOクラブの中核メンバーや外部の目利き機関との連携により、地
域企業の技術力をはじめとする有望性を査定し、資金供給につなげるスキームの確立が急
がれる。既存の地銀系ファンドがびんごIPOクラブの目利き能力を活用している事例も
あり、
「地域内部の支援体制」を拡大すると同時に、地域内部での経営者同士の直接のコン
タクトによって、ファンドを介したシナジーを実現する可能性を高めることができる。
また、人材の紹介や販路開拓、ビジネスプランの作成など、これまで行き届かなかった
支援メニューを拡充させることも必要であり、ファンド運営者と地域の支援機関が連携し
たハンズオン支援を構築することで、ファンドの地域への浸透を促進し、ハンズオンの受
入れを容易にする努力も必要である。同時に、自治体や公的機関が実施している現行の補
助制度や支援の枠組みを、利用しやすい形に修正することも検討に値すると考えられる。
地域ファンド
資金供給
ハンズオン支援
地域企業
技術力・
有望性評価
地域内外の
目利き機関
−42−