Heart Animal Hospital 獣医臨床病理学 XI.水と電解質の異常/ 輸液と輸血 ハート動物病院 Heart Animal Hospital ●脱水の評価 程度 脱水% ヒストリー 身体検査所見 軽度 <5 短期の食欲不振、 嘔吐・下痢 異常なし 中等度 6∼8 やや長期の食欲不振、 嘔吐・下痢 口腔粘膜乾燥、軽度∼ 中等度の皮膚弾力(↓) 重度 10∼12 長期の食欲不振、 激しい嘔吐・下痢、 慢性腎不全 重度の皮膚弾力(↓)、 CRT延長、脈圧弱く頻脈、 沈うつ Heart Animal Hospital ●輸液療法 ①欠乏量の計算 体重(㎏)×脱水%×1000=欠乏量(ml) ②維持量の計算 維持量(ml)=40∼60ml/㎏/日 ③損失量の計算 損失量(ml)=嘔吐・下痢など1日に失われる量 ☆1日の輸液必要量=①+②+③ Heart Animal Hospital ●輸液の選択 <低血流量性・出血性ショック> • 軽度のショック・・・乳酸リンゲル(LR) • 激しいショック・・・7.5%NaCl • PCVの低下(<25%)・・・全血輸血 • TPの低下(<4.0g/dl)・・・血漿 • 乏尿性腎不全・・・Kを含まないもの Heart Animal Hospital ●輸液の選択 <激しい嘔吐> 0.9%NaCl 利尿が確認されたらKを追加 <激しい下痢> 乳酸リンゲル(LR) 利尿が確認されたらKを追加 低TPなら血漿 Heart Animal Hospital ●輸液の選択 <乏尿性腎不全> 0.9%NaClまたは0.9%NaCl+5%Glu (1:1) <慢性腎不全> 脱水の補正・・・LR 維持・・・0.9%NaCl+5%Glu(1:1)+Kの添加 <心疾患> 5%Glu(Na負荷の減少) <急性膵炎> LR 必要に応じてK添加 Heart Animal Hospital ●高K血症 <鑑別診断> • 排泄低下・・・無尿・乏尿 尿路系破裂 副腎皮質機能低下症 腎髄質障害 • 細胞外への移動・・・ミネラルアシドーシス(高Cl) 組織の広範囲な破裂 高血糖 Heart Animal Hospital ●高K血症 <診断アプローチ> 1. アーティファクト除外 2. 無尿、乏尿、尿排泄障害の確認 3. 尿路閉塞または膀胱・尿道破裂あり→高K 4. 尿路閉塞または膀胱・尿道破裂なし →摂取過剰、排泄低下、細胞内からの移動 Heart Animal Hospital ●高K血症 <治療> ○軽度∼中等度(6.5∼8.0mmol/l) LRで脱水改善、利尿 ○中等度(>8.0mmol/l、ECG変化+) 1. 代謝性アシドーシス NaHCO3 2∼3mEq/㎏を30分かけてi.v 2. インスリン−20%Glu混和 レギュラー:インスリン10U+100ml20%Glu混和 犬:インスリン5U/㎏/hrでi.v (レギュラー50ml/㎏/hr) 猫:インスリン0.5U/㎏ i.v →20%Glu i.v 注)ECGモニター、血糖値毎時測定、2∼3時間後にK測定 Kが下がったら軽度の治療へ Heart Animal Hospital ●高K血症 ○高度の高Kと不整脈 (>9.5mmol/l、ECG変化+) 10%グルコン酸Caを0.5ml/㎏ 10∼15分かけて i.v 注)ECGモニター 心拍数増加で中止! Heart Animal Hospital ●低K血症 <鑑別診断> • Kの喪失・・・嘔吐、下痢 腎からの喪失(猫の腎不全) 尿細管アシドーシス(まれ) ミネラルコルチコイド過剰 (アルドステロン過剰、クッシング) • Kの細胞内移動・・・急性アルカローシス (呼吸性、重炭酸塩投与) • インスリン投与 • 輸液による希釈 • 利尿薬投与 Heart Animal Hospital 低K血症 <診断アプローチ> 1. アーティファクト除外 2. 体内のKが減少・・・慢性食欲不振 下痢・嘔吐 腎からの喪失 (慢性腎不全、利尿薬など) 3.体内のKは正常(細胞内からの移動) インスリン療法中 代謝性アルカローシス:嘔吐、重炭酸過剰投与 呼吸性アルカローシス:過呼吸(肺炎、胸水など) Heart Animal Hospital ●低K血症 <治療> ○尿排泄があることを確認 ○嘔吐がなければp.oまたはs.c ○中等度以上(K<3.0) p.oはグルコン酸K(粉末・液体)、KCl(錠剤) s.cはLRまたはリンゲルにKCl30 40mEq/l加 ○i.vではまずLRかリンゲル、生食で脱水改善 次にKを添加(K 0.5mEq/㎏/hrを超えないように) Heart Animal Hospital ●低K血症 低Kの程度 血清中K (mmol/l) K用量 (mMeq/㎏/day) 軽度 3.0∼3.7 1∼3 輸液250mlに対 するKCl添加 (mEq) 7 中等度 2.5 ∼ 3.0 4∼6 10 重度 <2.5 7∼9 15 ∼ 20 Heart Animal Hospital ●高Na血症 <鑑別診断> • 水分喪失 ①飲水不足、高体温 ②腎からの喪失・・・尿崩症、浸透圧利尿、糖尿病 ③腸からの喪失・・・浸透圧性寫下薬 • Na蓄積・・・高アルドステロン • Na過剰摂取 • 医原性・・・ミネラルコルチコイド、Na含有輸液 Heart Animal Hospital ●高Na血症 <診断アプローチ> 1.脱水なし∼軽度脱水 ○水喪失なし・・・Na含有輸液など ○水喪失あり・・・中枢性、腎性尿崩症に0.9NaCl輸液 2.脱水あり ○水摂取不足・・・水供給不足、中枢神経性疾患 ○水分喪失(水補給なしに水だけ喪失) ①腎からの喪失(中枢性尿崩症、腎疾患、アジソン病、子宮蓄 膿症、脳疾患など) ②消化管からの喪失(下痢、嘔吐) ○水分喪失(水喪失がNa喪失を上回る) 高浸透圧、非ケトアシドーシス性糖尿病 Heart Animal Hospital ●高Na血症 <治療> 1.血清浸透圧の計算 mOsm/1=2(Na+K)+Glu/18+BUN/2.8 2.脱水の有無の評価 3.軽度の脱水と高Na血症 ①水を飲ませる ②食事に水を混ぜる Heart Animal Hospital ●高Na血症 <治療> 4.脱水と高Naが中等度∼高度 ①Na<170 浸透圧<375 5%Gluまたは0.45%NaCl 欠乏量、維持量の計算により6∼12時間かけてi.v輸液 ②Na<180 浸透圧<400 ゆっくり補正しすぎると脳細胞脱水! 早く補正しすぎると脳浮腫!! ○5%Gluまたは0.45%NaCl i.vでゆっくり始める ○Naが1.0mmol/l/hrで下がるように・・・ ○最初の6時間でNaが下がらなかったら・・・ Lasix 1 2mg/kg i.v 6時間毎 2.5%Glu(5 10ml/kg/hr) i.v Heart Animal Hospital ●低Na血症 <鑑別診断> • 水過剰 ○電解質を含まない輸液 ○循環血液量低下・・・ネフローゼ症候群、右心不全、 肝硬変(腹水) ○ADH分泌 • Naまたは水の移動 ○高K:細胞内へのNa移動 ○血漿浸透圧上昇:細胞から水が出て行く Heart Animal Hospital 低Na血症 • Na喪失過剰 多尿・嘔吐・下痢でNaを含まない輸液、 アジソン病(ミネラルコルチコイド不足) • Na摂取不足 Heart Animal Hospital ●低Na血症 <診断アプローチ> 1.脱水・・・食欲不振、嘔吐、下痢、アジソン病 2.過水和・・・電解質を含まない輸液(5%Glu) 循環血液量低下 高浸透圧(Glu、マンニトール) 高K ADH分泌 など Heart Animal Hospital ●低Na血症 <治療> 1.脱水か過水和かを評価 2.24∼48時間かけてゆっくり補正 3.脱水があり低Na 0.9%NaClまたはリンゲル i.v 4.高度の低Na(Na<110mmol/l) ①3%NaCl i.v 輸液 ②血清Na頻回測定 5.過水和で低Na ①水制限(尿量>飲水量) ②犬ではフィラリアを検討(ADH分泌異常) ③5%Glu輸液中なら中止する Heart Animal Hospital ●低Ca血症 <鑑別診断> 1.上皮小体機能低下症 2.慢性腎不全 3.低Alb血症 4.急性膵炎 5.Ca、V.D吸収不良 6.栄養性二次性上皮小体機能亢進症 7.高痙攣薬 など Heart Animal Hospital ●低Ca血症 <治療> 1.低Ca性テタニー、高体温、発作 ①10%グルコン酸Ca i.v 0.5∼1.5ml/kg(Ca量5∼15mg/kg) 10∼30分かけて効果が現れるまでi.v ②徐脈、QT間隔延長がみられたら一時中止 ③維持は10%グルコン酸Ca s.c 1 2ml/kgを生食と等量混合(1:1) 8時間毎にs.c または 輸液(40 60ml/kg/day)中にCa量にして60 90mg/kg加える ④高Pでは燐酸Caの軟部組織(腎)沈着に注意! Heart Animal Hospital ●低Ca血症 2.低Ca(Ca<6.5mg/dl)でp.o可能 ①炭酸Ca p.o 犬:Ca量で1日1 4gを2 3回に分けてp.o 猫:Ca量で1日0.5 1gを2∼3回に分けてp.o ②V.D2 p.o 効果が出るまで数日かかる! 初期用量:4000 6000U/kg/day 維持量:1000U/kg週1回 Ca8.0 8.5mg/dlを維持 Heart Animal Hospital ●高Ca血症 <鑑別診断> 1.腫瘍 2.腎不全 3.上皮小体機能亢進症 4.血液濃縮 5.V.D過剰症 6.骨吸収 7.アジソン病 8.先天性甲状腺機能低下症 Heart Animal Hospital ●高Ca血症 <Ca上昇を伴う腫瘍性疾患> 1.血液腫瘍・・・リンパ腫、多発性骨髄腫 2.骨転移を伴う腫瘍・・・乳腺癌、肺癌など 3.骨肉腫 4.骨転移を伴わない腫瘍・・・肛門嚢腺癌、 扁平上皮癌 など Heart Animal Hospital ●高Ca血症 <治療> 1.0.9%NaCl i.v 2.重度では維持量の2 3倍(40 60ml/kgの2 3倍) 3.フロセミド 5mg/kg i.v まず1回投与 次にフロセミド5mg/kg/hrを輸液中に加える 注)プレドニゾロンは診断がついていない症例では 投与しない! Heart Animal Hospital ●輸血 <輸血量の計算> ○22ml/kg/dayが最大許容量 ○簡易計算 通常のPCV(40 42%のドナー →BW1㎏当たり2mlの輸血でPCVは1%上昇 Heart Animal Hospital ●輸血 ○正確な計算法 犬: 輸血量ml=患者BW(㎏)×90×(望むPCV ‐現在のPCV)/ドナーPCV 猫: 輸血量ml=患者BW(㎏)×70×(望むPCV ‐現在のPCV)/ドナーPCV Heart Animal Hospital ●輸血の方法 <投与経路> 静脈内が最もよい! <ドナーの選択> 犬:DEA1(−)がベスト。 自然抗体を持たないため、初回輸血はクロスマッチテストだけでドナーを選択 することも。 猫:A型とB型間に自然抗体が存在。 アナフィラキシー予防には輸血30分前に ジフェンヒドラミンHCl 2mg/㎏ i.m Heart Animal Hospital ●輸血の方法 • 最初の30分は試験的投与(0.25ml/㎏をゆっくり) 副作用の観察・・・蕁麻疹、嘔吐、尿失禁など • 以降の輸血 心疾患のあるもの・・・4ml/kg/hr その他・・・10ml/kg/hr Heart Animal Hospital ●クロスマッチの方法 1.採血: 受血動物(R)と供血動物(D)からそれぞれ2mlずつ。 (抗凝固剤はEDTA-2Kを使用) 2.遠心分離し血漿を採取 3.RBC希釈液の作成 4.洗浄 5.RBC浮遊液の作成 Heart Animal Hospital ●クロスマッチの方法 6.試験管の用意 ①主試験と副試験がある ②確認のために自己凝集試験を行う ③RBC浮遊液2滴、血漿2滴を加え、混和し室温で30分 静置。 Tube1主試験(R)血漿×(D)RBC Tube2副試験(D)血漿×(R)RBC Tube3自己凝集試験1(R)血漿×(R)RBC Tube4自己凝集試験2(D)血漿×(D)RBC Heart Animal Hospital ●クロスマッチの方法 ④判定基準 • 上清の溶血の有無(赤いかどうか・・) • RBCの凝集の有無(肉眼的、顕微鏡下) Heart Animal Hospital <RBC凝集の有無をみる方法> 試験管を静かに傾け、RBCのペレットがどのように動くか をみる 全体がペレットの丸い形のまま試 験管の底から動かない 静かに振ってみる 全体がまとまって底からはがれ る、または崩れて小さな塊とな る 凝集(+) 傾けた方向にペレットが流れ落ち る 凝集(−) 顕微鏡下で凝集がないか確認 スライドグラスに混和した液を1滴 のせ、カバーガラスをかけて低倍 で鏡検
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