1 税が株価を動かす ―株式譲渡益課税が株価に与える影響― 関西学院

税が株価を動かす
―株式譲渡益課税が株価に与える影響―
関西学院大学 総合政策学部 総合政策学科
亀田啓悟ゼミナール
松本 昌史
播谷 賢志
松谷 翔平
1
目次
1 節 はじめに
2 節 日本の株式市場
2.1 日本のバブル期
2.2 リーマン・ショックによる日本経済の影響
3.3 日経平均株価から見る株式譲渡益課税
3 節 売買高と株価の関係性
4 節 売買高と株式譲渡益課税によるロックイン効果の実証分析
4.1 株式譲渡益課税の歴史
4.2 ロックイン効果
4.3 先行研究
4.4 分析手法
4.5 データ
4.6 グラフによる分析結果
4.7 差の検定
4.8 結果
5 節 おわりに
5.1 政策提言
5.2 まとめ
2
税が株価を動かす
―株式譲渡益課税が株価に与える影響―
【要旨】
本稿では、日本における株式市場の活性化対策として、2003 年に行われた株式譲渡益課
税の減税効果を実証する。減税によるロックイン効果の低下は、大野・林田(2006)で実
証済みであるが、データ数が少ないという問題点があるため、データ数を増やし差の検定
そして減税効果を視覚的に表現するためグラフを用いる。この点が本稿における新たな試
みである。この結果(1)減税以降、値上がり株の売買回転率が増加している(2)差の検
定の分析結果、減税が値上がり株の売買回転率低下に影響している、の 2 点からロックイ
ン効果の低下が明らかとなった。上記の検証結果から、株式市場の活性化そして日本経済
の活性化の面から判断して、株式譲渡益課税廃止を提言する。
キーワード:株式譲渡益課税(キャピタルゲイン課税)
、ロックイン効果、平均の差の検定
1. はじめに
1980 年代末のバブル期に、未曾有の株価上昇が起こった。1989 年 12 月 29 日(大納
会1)に日経平均株価は、最高値の 38,915.87 円を更新した。しかし、バブルの崩壊以
降から日本の株式市場は低迷の一途をたどっている。さらに、2008 年 9 月 15 日には、
米国の大手投資銀行のリーマン・ブラザーズがサブプライム問題により破綻すること
で、他の大手銀行が危機的状況に陥った。リーマン・ショックにより、米国だけでな
く日本の経済市場にも影響を与え、2008 年 10 月 28 日には、日経平均株価もバブル経
済崩壊後最安値となる 6,994.90 円にまで落ち込んだ。
1
年末の最終取引日
3
このように株式市場は、日本や米国の経済状況に大きく影響を与える。しかし株価
に影響を与えるのは、バブル崩壊やリーマン・ショックといった経済情勢だけでなく他
の要因も存在すると我々は考えた。バブル崩壊以降、日経平均株価の下落は、バブル
崩壊の要因が大きいと考えられるが、1989 年 4 月に、政府による株価抑制対策として、
株式譲渡益課税(26%)が導入され、その影響も考えられる。さらに 2003 年、政府が
株式市場の活性化を目的として行った株式譲渡益課税の減税(10%)2以降、日経平均株
価は上昇している(図1参照)
。以上の点から、我々は株式譲渡益課税が株価に影響を
与える要因であると考え、株式譲渡益課税によって生じるロックイン効果(値上がり
株の売り控え効果)が株価に負の影響を与える一因と考えた。
ロックイン効果の先行研究として大野・林田(2006)が挙げられ、重回帰分析を用
い、株式譲渡益課税によるロックイン効果が働き、株の売買高に影響を与えていると
いう結果を示している。しかし大野・林田(2006)の問題点として、データ数が少な
い事が挙げられる。このように、既存の先行研究では、ロックイン効果が発生してい
るとは言い切れない。したがって我々は、データ数を増やしたうえで、グラフと差の
検定の 2 つの手法で分析を行い、ロックイン効果の存在を実証する。
次に、株の売買高が株価に与える影響について、竹原(2009)の先行研究の論点を
整理する。最後に、減税が株価に影響を与えていることを実証する。つまり、①減税
によるロックイン効果の低下3と売買高の関係性、②売買高と株価の関係性を見ること
で税と株価のつながりを示し、税が売買高と株価の両方に影響を与えることを示す。
本稿の構成は以下の通りである。次節では日本経済と株価の関係性を述べ、日本経
済を活性化するために、株価を高める必要がある点を述べる。3 節では売買高と株価の
関係性についての先行研究の説明をする。4 節では株式譲渡益課税の歴史とロックイン
効果、減税によるロックイン効果と売買高の関係性についての分析を行う。5 節では
2003 年の減税効果から現在の政策に関して政策提言を行う。
6 節で本稿を締めくくる。
2. 日本の株式市場
2.1.
日本のバブル期と株式市場
1980 年代末のバブル期に、未曾有の株価上昇が起こった。その背景として 1985 年のプラ
ザ合意以降、経常収支の黒字是正を目的とした内需拡大策により、日本政府は 5 回にわた
って公定歩合が引き下げられるなど、積極的な金融緩和政策を行った。これによりマネー
2
3
2003 年以降、株式譲渡益課税の本則税率は 20%であるが、現在 2013 年まで減税税率 10%
となる(表8参照)
。
ロックイン効果の低下:値上がり株の売買高増加を意味する。
4
サプライが長期に渡って増大したために、株式の取引が過度のものとなりバブルが発生し
た。1989 年 12 月 29 日(大納会)に日経平均株価は、最高値の 38,915.87 円を更新した。
しかしバブル崩壊以降、日本の株式市場は低迷の一途をたどっている(図1参照)
。さらに、
2003 年 4 月 28 日の終値には 7,607.88 円にまで低下している。日本企業の株価の低下は、
逆資産効果4を引き起こし、消費と投資の下落を招く。これに伴い、企業倒産を増加させ、
1990 年代全般にわたる長期の景気の低迷をもたらすこととなった。伊藤(2001)において
も逆資産効果を実証している。
2.2 リーマン・ショックによる日本経済への影響
2008 年に起きたリーマン・ショックも日本経済に悪影響をもたらした。リーマン・ショ
ックの背景として、2008 年 5 月 30 日 JP モルガン・チェースによるベアー・スターンズ証
券買収により、金融機関の危機が大きく表面化した。米国で普及していたサブプライムロ
ーン5が原因であり、リーマン・ブラザーズに関しても、サブプライムローン問題により破
綻した。リーマン・ブラザーズが破綻した翌日の 2008 年 9 月 16 日の日経平均株価の終値
は 11,609.72 円である。そこから 1 ヶ月後の 2008 年 10 月 28 日には、バブル崩壊後の最安
値となる 6,994.90 円にまで落ち込んだ。リーマン・ショックといった米国の経済情勢が日
経平均株価に大きく影響を与えていることが理解できる。
このことから企業において、株式市場とは、資金調達の場としてだけでなく、企業価値
を示す場であることを示している。つまり、日本における株式市場の活性化は、企業価値
の上昇を示し、日本経済の活性化において非常に必要不可欠な問題であるといえる。
2.3 日経平均株価から見る株式譲渡益課税
1989 年以降の株式市場低迷の原因は、日本のバブル崩壊や 2008 年のリーマン・ショック
など影響力の大きい経済情勢が挙げられる。しかし株価に影響を与えるのは、バブル崩壊
やリーマン・ショックといった経済情勢だけでなく他の要因も存在すると我々は考えた。バ
ブル崩壊以降、日経平均株価の下落は、バブル崩壊の要因が大きいと考えられるが、1989
年 4 月に株価の抑制対策として、株式譲渡益課税(26%)が導入され、その影響も存在した
と考えられる。さらに 2003 年、政府が株式市場の活性化を目的として行った株式譲渡益課
税の減税(10%)6以降、日経平均株価は上昇している(図1参照)。以上の点から、我々は
株式譲渡益課税が株価に影響を与える要因であると考え、株式譲渡益課税の課税によって
4
5
6
逆資産効果:株式や土地の資産価格が急激に下落すると、消費や投資が減少し景気後退を
招く(図 2 参照)
サブプライムローン:信用力の低い低所得者向けの米国の住宅ローン
2003 年以降、株式譲渡益課税の本則税率は 20%であるが、現在 2013 年まで減税税率 10%
となる。
(表 8 参照)
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起こるロックイン効果が株価に負の影響を与えている一因と考えた。
3. 売買高と株価の関係性
本節では売買高と株価の関係性について先行研究を踏まえ説明する。売買高と株価の関
係性において、日本のデータを用いての実証研究はあまりされていないが、我々は日本市
場の日時データより分析を行っている 1 つの先行研究に着目した。竹原(2009)は売買高
と実現株式リターンについて Fama-Mcbeth 回帰分析を行っている。データは日次データを
ベースとして、月次データを作成しており、1996 年 3 月から 2008 年 12 月までをサンプル
期間としている。竹原(2009)の先行研究では、売買高の増加は株価の上昇に相関がある
ことが証明している。つまり 1 節で述べた②の関係は成り立っていることを示している。
4. 売買高と株式譲渡益課税によるロックイン効果の先行研究
4.1.株式譲渡益課税の歴史(表1参照)
株式譲渡益課税(キャピタルゲイン課税)とは、株の売却時に生じる利益(キャピタル・
ゲイン)に対する課税のことであり、他の給与所得などの所得とは一緒に税額計算されず、
独立した利益として計算される税を意味する。
1953 年以降から廃止であった株式譲渡益課税は、1989 年に申告分離課税方式(譲渡益
×26%)と源泉分離課税方式(売買代金×1.05%)との選択制として導入された。2003 年で
は、株式市場の活性化を目的として株式譲渡益課税の本則税率を減少(26%→20%)させ、
同時に 2013 年までに減税課税として 10%の税率となっている。また、申告分離課税方式の
一本化も行われた。つまり、株式譲渡益課税は、1989 年の導入時 26%の税率であり、2003
年以降 10%の税率である(表3参照)
。
その他、アメリカ・イギリス・フランス・ドイツにも同じような税制度があり、細かな
内容は異なるが存在する(表2参照)
。他国と比較してみると、日本の株式譲渡益課税の税
率は非常に低い。理由の一つとして、日本人の株への意識が低いため、意識を高めるため
他国と比べて低く税率を設定していると考えられる。
本稿では、この株式譲渡益課税に着目して、株式譲渡益課税の減税(取引コストの低下)
により、投資家を市場に呼び込むこと(株式市場の活性化)で株価を上昇させることを検
証していく。
6
4.2. ロックイン効果
株の売却時、売却益が発生した場合に株式譲渡益課税は課せられる。このような場合、
投資家7は資産を譲渡せずに保有し続けることで課税の繰り延べを行い、税金の支払いを一
時免れる。このように株式売却時に余分なコストがかかる為、投資家は値上がり株の売却
を控える。特に企業としては、企業価値の一つの方法として時価総額が挙げられるために、
株を売却することで資産が減る。このため資産の一つである株の時価総額を下げないため
に、株を保有しようとする。この投資家の行動をロックイン効果と呼ぶ。つまり、ロック
イン効果とは、
(売却益が生じる)値上がり株の取引を控えることを意味する。
ロックイン効果とは、1950 年初頭、ローザ(R.R.Roosa)によって指摘された効果で,当
初は、債券(国債)の価格が低下しても、債権者が一時的と捉え現金化することなく、債
券を保有し続ける効果を意味する。利子率の上昇が証券価格を下落させ,資本損失の発生
を嫌う金融機関の証券売却を断念させ,貸出を断念させる効果。第 2 次大戦後米国で起こ
った政府証券の急増と金融機関によるその保有増加という構造変化を背景に,ローザによ
って指摘された効果である。
このロックイン効果により株取引の売買高8に負の影響を与え、日本の株価を下げる要因
であると我々は考えた。したがって、本稿では、投資家に影響を与える株式譲渡益課税の
減税により、ロックイン効果の低下(株の取引増加)に結びつくのかを検証する。
4.3. 先行研究
先程でも触れたようにロックイン効果とは、値上がり株の取引回数を減少させる効果で
ある。税と売買高との関係に関する先行研究は既に実証されている。
Gregory & Stephen(1992)の論文では、キャピタル・ゲイン課税の減税により、株式の
売買高が増加することは実証されている。
またロックイン効果に関する大野・林田(2006)の先行研究によると、
(1) 株式譲渡益課税の 10%減税は取引を促進した
(2) 株式譲渡益課税減税による取引コストの減少が投資家の株式売買を活性化させた
(3) 個人投資家の売買回転率、売りのみの回転率ともに、譲渡益課税は取引に強い負
の影響を与えていることなどが示唆された
上記 3 点を述べている。このように 2003 年の減税対策は効果があったと考えられる。しか
し、大野・林田(2006)は全 東証一部上場銘柄(1700 銘柄9)のうち 600 銘柄しか用いて
7
8
9
投資家…個人投資家と法人を含む
売買高…取引高と出来高と同じ。
2003 年において東証一部上場銘柄数は、1700 銘柄であった。
2011 年において東証一部上場銘柄数は、1677 銘柄
7
いない。我々はデータ数が不十分であり、実際との整合性に欠けると判断し、株式譲渡益
課税が 26%から 10%へと減税された 2003 年を軸に東証一部上場銘柄の売買高を示す「売買
回転率10」を用いて分析を行う。この実証分析によって、税率から売買高の関係性を明らか
にする。
4.4 分析手法
我々は、減税効果に関して 2 つの手法を用いて検証を試みた。1 つ目は、売買回転率のグ
ラフを用いることで減税効果を視覚的に表現する。2 つ目は、売買回転率が統計的に有意で
あるかを検証するために差の検定を用いる。
1 つ目におけるグラフの検証方法として、減税以降から取引コストの低下により投資家が
値上がり株の売却を行う回数が多くなると考えられる。一方、値下がり株に関しては、税
の影響を受けないため、減税以前の売買高との変化は見られないと考える。
グラフの作成は以下の通りである。初めに、減税によるロックイン効果の低下を検出す
るために、減税の影響を受ける「値上がり株11」と減税の影響を受けない「値下がり株」と
に分ける。そのため株価のトレンドを示す 25 日移動平均線を基準に分類を行った(図3参
照)
。次に、各社ごとに存在する「値上がり株」と「値下がり株」を一つずつに統一させる
ことで株のトレンドを視覚的に表現する。そのため、売買回転率の平均をとり、
「値上がり
株の売買回転率(値上がり株平均線)
」と「値下がり株の売買回転率(値下がり株平均線)
」
を作成した。さらに、
「値上がり株の売買回転率」、
「値下がり株の売買回転率」に属する企
業ごとによって、売買高に変化が生じると判断した。そこから、
「値上がり株の売買回転率」
に関しても、
「高 値上がり株」
、
「中 値上がり株」
、
「低 値上がり株」と細分化することで、
より正確な減税効果をみていく。
「値下がり株の売買回転率」も同様に行った。このように
売買回転率を細分化することで、減税効果が顕著に示される株を見ていく。
つまり、
(A)1063 銘柄の値上がり株・値下がり株の売買回転率グラフ[図 A 参照]
(B)978 銘柄の値上がり株・値下がり株の売買回転率グラフ(金融等除く)[図 B 参照]
(C)978 銘柄の値上がり株・値下がり株の売買回転率グラフ(6 パターン)[図 C 参照]
とグラフに関しては、3 回に分けて細分化を行う。
10「売買回転率」=売買高÷発行済株式総数
11
株式譲渡益課税は、利益に課せられるため、株価が以前と比較して上昇している株にし
か発生しない。
8
2 つ目における平均の差の検定方法として、
(a)2002 年、2003 年ごとの売買回転率[表 a 参照]
(b)2002 年~2003 年の売買回転率(12 月含む全期間、12 月を除く全期間)[表 b 参照]
(c)売買回転率を高・中・低の 6 パターン[表 c 参照]
※¹売買回転率の差:値上がり株の売買回転率―値下がり株の売買回転率
※²金融業界ほか除く 978 銘柄
と差の検定に関しても、3 回に分けて統計処理を行う。差の検定による検証では、
金融業界を除く 978 銘柄で検討する。
4.5 データ
本稿では、売買高の指標として、大野・林田(2006)が使用している売買回転率を用い
る。期間は、減税開始(2003 年 1 月)以降の影響を見るために、減税開始の前後一年間(2002
年 1 月~2003 年 12 月)の 491 日間の日次データを用いた。銘柄は、東証一部上場銘柄 1700
銘柄のうち、欠損値を除く 1063 銘柄を用いた。データ収集には、日経メディアマーケティ
ング株式会社の NEEDS-FinancialQUEST2.0 を用いた。
次に売買回転率について説明する。売買回転率とは流動性の指標であり、本稿では 1063
銘柄の日時の売買高を日時の発行済み株式数で割った値である。期間は 2002 年 1 月~2003
年 12 月とした。
本稿では、より現実的な減税効果を実証するため、さらに大野・林田(2006)の問題点
を解消するために、データ数を増やし検証を行っている。そのため大野・林田(2006)と
我々のデータを比較させておく(表4参照)
。
4.6 グラフによる分析結果
我々が作成したグラフが図 A-1であり、値上がり株・値下がり株の売買回転率を示して
いる。縦軸に売買回転率を、横軸には時間軸を取る。減税開始時(2003 年 1 月)から値上
がり株の売買回転率が大きく増加しているのが見て取れる。その一方で、値下がり株が減
税以前と比べて変化していないことが見て取れる。このことから、投資家は減税を意識し
て、取引コストが低下した値上がり株の売買を増やしたと考えられる。さらに、図 A―2に
は、値上がり株と値下がり株の売買高の差を求めている。このことからも、減税以降、値
上がり株の売買回転率は大幅に増加していることが分かる。
しかし、図 A-1のグラフでは、2003 年における企業の情勢も含んでおり、減税による
全ての要因を取り除けてはいない。つまり、減税によって値上がり株の売買高が増加した
とは考えにくい。その為、我々は 2003 年に株に大きな変化が見られる要因を表5にまとめ
た。表5を見ると、3 月 3 日に大和銀行とあさひ銀行の合併でりそな銀行が発足や、りそな
9
グループや足利銀行の国有化など、金融業界に大きな変化が起こっている。また、ソニー
ショック12やヤフーの東証一部上場なども存在する。これらの企業が、株価の変動に大きな
影響を与えていると考えられる。したがって、我々は金融業界・ソニー・ヤフーライブド
アを除いた 978 銘柄を用いて再度グラフを作成した(図 B 参照)
。その結果、売買回転率の
値上がり株・値下がり株を図 A-1と図 B を比べても大きな変化は見られず、依然として、
減税以降、値上がり株の売買回転率は増加している。このことから、減税が値上がり株の
売買回転率の増加を促進させたといえる。
さらに、興味深いことに、12 月にかけて値上がり株の売買回転率が急落している。これ
は、株式譲渡益課税の課税期間が 1 月~12 月までとなっており、投資家が税(減税後 10%)
を意識して株の売買を控えられたことが考えられる。この 12 月の急落から、投資家は株式
譲渡益課税(=取引コスト)の存在を重要視していることが理解できる。
次に、我々は、値上がり株・値下がり株に関して、東証一部上場銘柄の中でも、トヨタ
といった人気銘柄と、一般的に知られていない不人気銘柄において売買高に差が生じると
考えた。そのため、我々は株価の上昇率を表す株価の対前日を基準に 3 等分に振り分け、
上位を人気株である「高 値上がり株」として、中位を「中 値上がり株」とし、下位を「低
値上がり株」と定めた。値下がり株に関しても同様の 3 つに分類を行った。図 C-1が値上
がり株、値下がり株を高・中・低と割り振った 6 つの売買回転率のグラフである。やはり
人気銘柄である「高 値上がり株」の売買回転率に対して大きく売買が行われていることが
理解できる。このことから、
「高 値上がり株」の売買増加に伴い、全体の値上がり株が増
加していたことが理解できた。しかし、これでは、「中 値上がり株」と「低 値上がり株」
の売買が変化せず、減税の効果が「高 値上がり株」のみに生じているようにも見える。そ
の為、
「中 値上がり株」と「低 値上がり株」に着目したグラフが図 C-2である。その結
果、
「中 値上がり株」と「低 値上がり株」に関しても、減税以降、増加していることが理
解できる。このことから、2003 年に行われた減税は、「高 値上がり株」に対しては、大き
く売買が行われ、
「中 値上がり株」と「低 値上がり株」の両方は、少しではあるが売買が
増加したことがみられた。
このように、これまで視覚的に理解するためにグラフを用いて減税の効果を実証した。
以下では、差の検定を用いて客観的な数値を示すことでより、強固に減税の効果を検証し
ていく。
4.7 差の検定
グラフによる実証は、視覚的に捉えたに過ぎない。したがって、本節では株式譲渡益課
税を減税する期間前後で、売買回転率が統計的に有意な差が見られるかを検証する。その
ために減税以降の売買回転率の増加幅と値上がり株と値下がり株の売買回転率について平
12
ソニーショック:ソニーの大幅減益を示す決済発表による株式市場の困惑。
10
均の差の検定を用いて検証する。
第一に、2002 年と 2003 年ごとに値上がり株と値下り株に差があるのかを検証した。表 a
―1が 2002 年での値上がり株と値下り株の売買回転率を示し、表 a―2が 2003 年での値上
がり株と値下り株の売買回転率を示している。2002 年と 2003 年ごとにおいても有意確率
0.000 であることから、値上がり株と値下がり株の売買回転率に有意な差があることが実証
された。つまり、この実証結果は、減税開始の 2003 年 1 月以前においても差がある事を示
されている。しかし、値上がり株から値下がり株を引いた平均の売買回転率を見てみると、
2002 年は 0.001575 で、2003 年は 0.004444 を示している。このことは、減税以降において
0.002869 差の幅が広がっていることがわかる。つまり、減税から値上がり株の売買回転率
が増加していることが実証されている。
第二に、2002 年から 2003 年における減税の値上がり株と値下がり株の差を検証した。そ
の結果が表 b-1である。その結果に関しても値上がり株と値下り株の有意確率が 0.000 で
あることから、
2002 年と比べて 2003 年の値上がり株の売買回転率が高いことを示している。
さらに平均値の差を見てみると、値上がり株は 0.00129502 で、値下がり株は 0.00029251
であり値上がり株の平均値の差が大きいことから、値上がり株の売買回転率が減税実施日
を境に増加していることが理解できる。
しかし、表 b―1の有意確率を見る限りでは、値下がり株に関しても有意を示しており、
本来ならば減税効果に影響しない値下がり株にも影響を与えていることが言える。そのた
め我々は、年末(12 月)の急落除くことで、より正確な減税以降の影響を測った。12 月の
期間を除き再度、平均の差の検定を行ったものが表 b-2になる。その結果に関しては、値
上がり株は有意確率 0.006 と有意であるが、値下がり株が有意確率 0.071 で有意水準 0.05
以上の為に棄却される。つまり、値上がり株の売買回転率にのみ差に影響があり、減税効
果は値上がり株のみに示されていることが表 b-2から検証された。
第三に、2002 年から 2003 年にわたる値上がり株と値下がり株の平均の差の検定を試みた
(表 c-1参照)
。値上がり株、値下がり株の高・中・低の 6 パターン全てが、有意確率 0.00
を示している。つまり、減税により売買回転率が増加することを実証した。さらに正確な
検証を行うために、我々は 12 月を除く値上がり株と値下がり株の売買回転率の差を見た。
その結果が表 c-2である。表 c-2も同様にすべてに有意確率 0.00 を示している。した
がって減税効果は、実際に値上がり株と値下がり株の売買回転率に差が生じていることを
示している。つまり、減税以降、値上がり株と値下がり株の両方とも増加していることが
表 c-2から見て取れる。しかし、本来減税が生じない値下がり株に関しても、減税効果が
生じている。我々の見解として、値上がり株の売買が増加するに伴い、ポートフォリオ等
により値上がり株だけでなく値下がり株の売買も同時に売買が行われたと考えられる。
以上のことより、減税効果は、値上がり株と値下がり株の売買回転率の両方に影響を与
えており、表 b-2から特に値上がり株に大きく影響していることが検証された。
11
4.8 結果
上記のように、我々は、減税(2003 年 1 月)以降の値上がり株の売買回転率の増加につ
いてのグラフと差の検定を試みた。
その結果、グラフに関しては、明らかに減税以降に値上がり株の売買回転率が増加して
いることが理解できた(図 B 参照)
。また、課税期間の年末(12 月)にかけて、値上がり株
の減少がみられたことから、投資家は減税後の税率 10%でも取引コストの意識をもち値上が
り株の売買が控えられたことも理解できる(こちらに関しては、値下がり株の売買回転率
は変動していない)
。
次に、差の検定に関しても値上がり株の売買回転率のみ有意を示している(表 b-2参照)
。
そのことからも、統計的に減税が値上がり株の増加に影響を与えていることが実証された。
上記の 2 点の検証結果から、グラフと差の検定両方においても減税が値上がり株の売買
回転率増加を促していることが実証された。つまり、この 2 点の手法から、1 節で述べた①
の関係が成り立っていることが言える。
5.おわりに
5.1 政策提言
4 節によるグラフと差の検定から、株式譲渡益課税の減税により値上がり株の取引回数増
加に繋がることが実証された(①の関係13)。また先行研究から、取引回数の増加が株価を
上昇に繋がることを示している(②の関係14)。したがって株式譲渡益課税の減税は、株価
の上昇に繋がると言える。税が株価に繋がることから、株式市場の活性化さらには株価上
昇の手段として、我々は株式譲渡益課税の廃止(0%)を提言する。株式譲渡益課税を廃止
にすると値上がり株の取引がさらに増加し、株式市場が活性化すると我々は考える。
このように減税によるメリットとして(表6参照)
、長期的な株式市場の活性化、売買高
の増加が挙げられる。
次に、減税によるデメリットは 3 つ挙げられる(表6参照)。
(1)税収の減少、
(2)取引
が過剰になるとバブルを引き起こす可能性、(3)適切な企業価値が反映されないが挙げられ
る。1 つ目の税収不足に関しては、株式譲渡益課税が廃止になることにより、株式市場が活
性化されれば企業は以前より多く利益を得ると考えられる。それに伴い株式の配当にかか
る税額も上昇する。つまり、株式譲渡益課税の廃止により、取引が活性化され、それに伴
い企業は多くの利益を獲得し、配当が増える。配当には配当課税がかかるため、株式譲渡
13
14
①の関係:減税→売買高増加
②の関係:売買高増加→株価上昇
12
益の廃止によって配当課税の税収が増える。実際に、図4を参照すると、2003 年減税が行
われた時期に株式譲渡益課税の税収は減少しているが、それに伴い配当課税の税収は増加
していることが見て取れる。2 つ目に関するデメリット対処として、株価上昇に伴うバブル
は現在の株式市場の低迷を打破する手段であるため、問題ではないと考える。3 つ目のデメ
リットも同様に適正な企業価値が反映されないことは、現在の株式市場の低迷時期に関し
て問題ではないと考える。したがって、株式市場を活性化さらには、日本企業を表す株価
を高めるための手段として株式譲渡益課税の廃止を提言する。
5.2 まとめ
本稿では、株式譲渡益課税と株価の関係を検証した。第一に、株式譲渡益課税の減
税(10%)により値上がり株の売買回転率増加がみられたのか(①の関係)。第二に、値上
がり株の売買回転率増加から株価の上昇に繋がったのかを検証した(②の関係)
。
第一に関しては、グラフでは 2003 年の株式譲渡益課税の減税から、値上がり株の売買
回転率は増加していることが見て取れた。また、金融業界等の銘柄を除いても同様の結果
を得られた。次に株式譲渡益課税の減税前後の違いを求めるため、株式譲渡益課税の有無
による変化をみるため、税が設定された前後一年の 2002 年と 2003 年の平均の差で検定を
行ったところ、減税が売買高に有意な影響を与えていることが証明された(表 b-2参照)
。
以上の分析により、株式譲渡益課税の減税により値上がり株全体の取引が増加することが
実証された。
第二に関しては、竹原(2009)の重回帰分析を用いた先行研究が存在するのでこれを
裏付けとして用いた。このような結果から株式市場を活性化するためには、取引コスト低
下が必要だといえる。そこから、我々は、株式譲渡益課税の廃止を提言する。
今後の課題としては、より正確な減税効果を実証するために外国人投資家の影響を取
り除く分析が必要である。
13
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16
表1 株式譲渡益課税の歴史
西暦
株式譲渡益課税
1950 年
・総合課税
1953 年
・原則廃止 (回数多、売買株式数大、事業類似は総合課税)
1989 年
・原則課税化(以下のいずれかの方式を選択)
・申告分離課税(26%)[所得税 20%、住民税 6%]
・源泉分離選択課税(みなし利益方式)(20%)
2001 年
・1 年超保有上場株式等の 100 万円特別控除の創設
・緊急投資優遇措置の創設
2002 年
・特定口座制度の創設
2003 年
・申告分離課税への一本化
(源泉分離選択課税の廃止)
・上場株式等に係る税率引下げ(26%⇒20%)[所得税 15%、住民税 5%]
・上場株式等に係る軽減税率(20%⇒10%)[所得税 7%、住民税 3%]
(平成 15 年 1 月から平成 19 年 12 月まで)
・上場株式等の譲渡損失の繰越控除制度の創設
2006 年
・非上場株式に係る税率引下げ(26%⇒20%)[所得税 15%、住民税 5%]
2007 年
・上場株式等に係る軽減税率(10%)[所得税 7%、住民税 3%]の 1 年延長
(平成 19 年 12 月まで⇒平成 20 年 12 月まで)
2008 年
・上場株式等に係る軽減税率(10%)[所得税 7%、住民税 3%]の廃止
(平成 20 年 12 月末まで)
・上場株式等の譲渡損失と配当等との間の損益通算の仕組みを導入
(平成 21 年分から。なお、特定口座を利用した損益通算は平成 22 年分から)
2009 年
・特定口座における源泉徴収に係る軽減税率(10%)[所得税 7%、住民税 3%]の
1年延長
・上場株式等の申告分離課税の税率の見直し(平成 21 年~23 年まで 10%[所得
税 7%、住民税 3%〕)
2010 年
・平成 24 年から上場株式等に係る税率の 20%本則税率化にあわせて、少額上場
株式等に係る譲渡所得の廃止措置を導入
2011 年
・特定口座における源泉徴収に係る 10%軽減税率(所得税 7%、住民税 3%)を平
成 25 年末まで2年延長
・上場株式等の譲渡所得等に係る 10%軽減税率(所得税 7%、住民税 3%)を平成
25 年末まで2年延長
・廃止口座内の少額上場株式等に係る譲渡所得等の廃止の施行日を2年延長し、
平成 26 年からの適用とする
[出所] 財務省
17
表2 各国の株式譲渡益課税
国
制度内容
10%(分離課税)
日本
※2011 年末までの時限的措置
(2012 年以降は 20%)
長期(12 ヶ月超保有):
2008 年から 0%,15%+地方税
米国
(税率 10,15,25,28,33,35%)
※2010 年末までの時限措置
短期:10%~35%+地方税
イギリス
18%(分離課税)
土地等の譲渡益と合わせて 10,100 ポンドが廃止
25%(分離課税)
ギリシャ
年間配当・利子・譲渡益を合わせて 801 ユーロ以下であれば廃止
一定の場合は総合課税(0-45%)を選択可能
長期(8 年超保有):廃止
フランス
短期 18%(分離課税)
年間譲渡額が 25,830 ユーロ以下であれば廃止
中国
課税免除
[出所] 財務所
表3 株式譲渡益課税の過去と未来
‘89年
(平成元年)
‘03年
(平成15年)
軽減税率 (10%)
※本則税率 (20%)
本則税率 (26%)
上場株式
の譲渡益
‘14年
(平成26年)
本則税率 (20%)
・申込分離課税の一本化
・特定口座
申告分離課税・・・ 1年間(1/1~12/31)の株式等の売却に対し、他の所得とは合算せずに
確定申告により10%(所得税7%、住民税3%)の税率で納税する仕組み
特定口座
・・・ 証券会社が売却損益or確定申告をも行ってくれる口座の導入
[出所]作者作成
18
表4 先行研究データとの比較
大野・林田(2006)のデータ
本稿の研究データ
・分析手法:回帰分析
・分析手法:グラフ・差の検定
・指標
・指標
:売買回転率
:売買回転率
・銘柄数 :600 /1700 銘柄
・銘柄数 :1063 /1700 銘柄
・期間
・期間
:月次 64 ヶ月
(1999/4 ~ 2003/1 ~ 2004/12)
※証券会社 5 社からデータ収集
:日次 491 日間
(2002/1 ~ 2003/1 ~ 2003/12)
※日経メディアマーケティング会社の
FinancialQUEST2.0 より収集
表5 2003 年の主な出来事
月
株式市場の出来事
3
[11 日]日経平均終値
[3 日]りそな銀行発足(大和・あさひ合併) [25 日 ] ソ ニ ー
786 円に(イラク戦争
[17 日]三井住友銀行発足
の懸念から)
4
[28 日]最安値、終値
金融業界
その他
ショック
(三井住友・わかしお合併)
[17 日]りそなグループ実質国有化
7,607.88 円
10
[28 日]ヤフー、
東証一部に上場
11
[3 日]ライブド
ア、株式 100 分
割
12
[1 日]足利銀行、一時国有化
[出所] 図説 日本の証券市場、証券市場読本[第 2 版]
19
表6 株式譲渡益課税のメリット・デメリット
株式譲渡益課税の廃止
メリット
デメリット
・長期的な株式市場の活性化
・税収減
・実現可能性あり
・取引が過剰により、バブル(ファンダメン
タルズのズレ)を引き起こす
・全銘柄(値上がり株・値下がり株)
の売買高増加
・企業にとって、株価の変動が生じる。
(=長期にわたって株を保有してくれる
・株式市場にとって、取引量が多い方が市場
の価格形成の合理性が高まるため個々の
取引が価格形成に及ぼす影響は小さくで
きる。
[出所] 作者作成
20
投資家が良い)
表 a―1 差の検定分析結果 (2002 年での値上がり株と値下がり株の売買回転率)
対応サンプルの差
平均値
値上り株
.001575
標準偏差
.003342
t値
自
有意
平均値
差の 95%
由
確率
の標準
信頼区間
度
(両側)
誤差
下限
上限
.000213
.001155
.001995
7.393
245
.000
-
値下り株
表 a―2 差の検定分析結果 (2003 年での値上がり株と値下がり株の売買回転率)
対応サンプルの差
平均値
値上り株
.00257
標準偏差
.004444
t値
自
有意
平均値
差の 95%
由
確率
の標準
信頼区間
度
(両側)
誤差
下限
上限
.000283
.002018
.003137
9.079
244
.000
-
値下り株
表 b-1 差の検定分析結果 (2002 年と 2003 年比較)
等分散性の為の
Levene の検定
F値
2つの母平均の差の検定
有意
t値
確率
自由
有意確率
度
(両側)
平均値の差
値上り株
等分散を仮定
11.753
.001
-2.959
489
.003
-.00129502
値下り株
等分散を仮定
1.286
.257
-2.222
489
.027
-.00029251
表 b-2 差の検定分析結果 (2002 年と 2003 年比較-12 月を除く)
等分散性の為の
Levene の検定
F値
2つの母平均の差の検定
有意
t値
確率
自由
有意確率
度
(両側)
平均値の差
値上り株
等分散を仮定
12.359
.000
-2.782
468
.006
-.00125607
値下り株
等分散を仮定
1.035
.310
-1.812
468
.071
-.00024505
21
表 c-1 差の検定分析結果 (2002 年と 2003 年比較)
等分散性のため
2つの母平均の差の検定
の
Levene の検定
F値
有意確
t値
率
自
有意確率
由
(両側)
平均値の差
度
高 値上り株
等分散を仮定
43.188
0.000
-14.27
489
0.000
-0.00268
中 値上り株
等分散を仮定
31.982
0.000
-8.34
489
0.000
-0.00051
低 値上り株
等分散を仮定
7.642
0.006
-7.94
489
0.000
-0.00032
高 値下り株
等分散を仮定
2.903
0.089
-10.43
489
0.000
-0.00041
中 値下り株
等分散を仮定
6.576
0.011
-11.74
489
0.000
-0.00063
低 値下り株
等分散を仮定
55.741
0.000
-10.14
489
0.000
-0.00194
表 c-2 差の検定分析結果 (2002 年と 2003 年比較-12 月を除く)
等分散性のため
2つの母平均の差の検定
の
Levene の検定
F値
有意確
t値
率
自
有意確率
由
(両側)
平均値の差
度
高 値上り株
等分散を仮定
34.600
0.000
-15.37
468
0.000
-0.00290
中 値上り株
等分散を仮定
30.796
0.000
-8.26
468
0.000
-0.00051
低 値上り株
等分散を仮定
8.534
0.004
-7.78
468
0.000
-0.00033
高 値下り株
等分散を仮定
2.996
0.084
-10.13
468
0.000
-0.00041
中 値下り株
等分散を仮定
9.192
0.003
-11.26
468
0.000
-0.00634
低 値下り株
等分散を仮定
56.532
0.000
-9.85
468
0.000
-0.00196
22
図1 月次の日経平均株価の推移
(円)
45000
40000
35000
30000
25000
20000
15000
10000
5000
1980/01
1981/02
1982/03
1983/04
1984/05
1985/06
1986/07
1987/08
1988/09
1989/10
1990/11
1991/12
1993/01
1994/02
1995/03
1996/04
1997/05
1998/06
1999/07
2000/08
2001/09
2002/10
2003/11
2004/12
2006/01
2007/02
2008/03
2009/04
2010/05
2011/06
0
[出所] FinancialQUEST2.0 より筆者作成
図2 逆資産効果15
資金調達
家計の資産
(億円)
日経平均株価
(円)
2500000
45000
40000
2000000
35000
1500000
30000
1000000
25000
500000
20000
15000
0
10000
-500000
5000
0
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
-1000000
[出所] 日本銀行 HP より筆者作成
15
1989 年のバブル崩壊・2008 年のリーマン・ショック時に関して日経平均株価低下
につられて、資金調達と家計の資産が低下している(逆資産効果)ことが見て取れる。
23
2002/01/04
2002/01/08
2002/01/10
2002/01/15
2002/01/17
2002/01/21
2002/01/23
2002/01/25
2002/01/29
2002/01/31
2002/02/04
2002/02/06
2002/02/08
2002/02/13
2002/02/15
2002/02/19
2002/02/21
2002/02/25
2002/02/27
2002/03/01
2002/03/05
2002/03/07
2002/03/11
2002/03/13
2002/03/15
2002/03/19
2002/03/22
2002/03/26
2002/03/28
2002/04/01
図3 25 日移動平均線グラフ(住友電設)
(円)
住友電設
(百万円)
2002年
2003年
2004年
住友電設(25日平均)
600
500
400
300
200
100
0
[出所] FinancialQUEST2.0 より筆者作成
図4 株式譲渡益課税・配当課税の税収
2,500,000
株式譲渡益課税
2005年
[出所] 財務省
24
2006年
配当課税
2,000,000
1,500,000
1,000,000
500,000
0
2007年
2008年
2009年
[出所] FinancialQUEST2.0 より筆者作成
25
2003/12/4
2003/11/4
2003/10/4
2003/9/4
2003/8/4
2003/7/4
2003/6/4
2003/12/4
2003/11/4
2003/10/4
2003/9/4
2003/8/4
2003/7/4
2003/6/4
2003/5/4
2003/4/4
2003/3/4
2003/2/4
2003/1/4
2002/12/4
2002/11/4
値上がり株
2003/5/4
2003/4/4
2003/3/4
2003/2/4
2003/1/4
2002/12/4
2002/11/4
2002/10/4
2002/9/4
2002/8/4
2002/7/4
2002/6/4
2002/5/4
2002/4/4
2002/3/4
2002/2/4
2002/1/4
(売買回転率:%)
2002/10/4
2002/9/4
(売買回転率:%)
2002/8/4
2002/7/4
2002/6/4
2002/5/4
2002/4/4
2002/3/4
2002/2/4
2002/1/4
図 A-1 売買回転率グラフ(1063 銘柄)
値下がり株
0.008
0.007
0.006
0.005
0.004
0.003
0.002
0.001
0
[出所] FinancialQUEST2.0 より筆者作成
図 A-2 売買回転率グラフ (値上がり株の売買回転率-値下がり株売買回転率)
値上り株の売買回転率―値下がり株の売買回転率
0.006
0.005
0.004
0.003
0.002
0.001
0
図 B 売買回転率グラフ (金融業界ほか除く 978 銘柄)
値上がり株
0.008
0.007
0.006
0.005
0.004
0.003
0.002
0.001
0
[出所] FinancialQUEST2.0 より筆者作成
26
値下がり株
図 C-1 売買回転率グラフ (6 パターンに分類
(売買回転率)
0.02
978 銘柄)
高 値上がり株
中 値上がり株
低 値上がり株
高 値下がり株
中 値下がり株
低 値下がり株
0.015
0.01
0.005
0
[出所] FinancialQUEST2.0 より筆者作成
図 C-2 売買回転率グラフ (中 値上がり株・低 値上がり株)
(売買回転率)
中 値上がり株
0.005
0.004
0.003
0.002
0.001
0
[出所] FinancialQUEST2.0 より筆者作成
27
低 値上がり株