現在、多様な形で企業が文化芸術に参与している韓国だが、文化芸術を

2005.4.17
メセナ活動の概況
現在、多様な形で企業が文化芸術に参与している韓国だが、文化芸術を含めた公益
部門に対する企業の支援が始まったのは、「漢江の奇跡」と呼ばれた高度経済成長
を達成した1970年代以降である。これは、高度経済成長により企業が文化芸術に関
心を持てる財政的な力が備わったからだ。加えて、政府主導により大企業中心の経
済成長戦略がとられたために、大企業が蓄えた富を社会に還元しなければならない
という認識がこの時期に社会に広がっていたことも大きく影響している。企業とし
ても、高度成長の過程で発生した否定的なイメージを払拭するのにメセナ活動が役
立ったという側面がある。また、西欧諸国の場合と同じく、企業の公益活動に対す
る支援に対して税制上の優遇措置がとられていたことも、活動を促進させた。
韓国内にメセナの概念が入ってきたのは70年代だが、より積極的に文化芸術との連
帯を図る契機となったのが、1986年の「アシアンゲーム」と88年の「ソウルオリ
ンピック」だ。こうした大規模な国際行事によって、企業の文化に対する関心は一
気に高まった。実際、これらの催しの前後に開催された文化行事の相当部分は企業
のスポンサーシップで賄われている。
しかし、その後、企業のメセナ活動は、韓国経済が下降線を辿る中で、公益性より
実益に直接的につながる方向へと転換されていく。社会還元的な側面が完全に排除
されたとは言えないが、企業の利益につながるような、文化芸術をマーケティング
戦略に活用する活動が支配的となる。このような変化は、文化芸術支援が余裕資金
から発生する副産物ではなく、企業の利潤追求に役立つパートナーとなり得るとい
う考え方の変化を反映したものだ。文化芸術を活かせるマーケティング分野として
は、企業イメージを形成するための広報、宣伝、販促活動があげられる。韓国の場
合、90年代以降の消費社会への移行とともに、高級ブランドを志向する企業が、中
産階級以上の顧客に訴求する高級品のイメージを発信するための効果的なマーケ
ティングとして活用し始めている。
このような中、94年に企業と文化をつなぐ窓口として<韓国メセナ協議会>が発足
した。当時、文化部(現在の文化観光部)と文化芸術振興院が、成長企業を対象に
積極的に加入を促し、167社の企業が会員となってスタートした(2005年3月現在
の企業会員数は119社)。韓国メセナ協議会は会員を中心に、企業と文化芸術との
スポンサーシップを拡大するための、情報の提供と窓口の役割を果たしている。し
かし、設立から10年が過ぎたとはいえ、未だにその存在すら知らない文化芸術団体
も多いのが現状だ。また、韓国経済が政府の主導の下で形成されたのと同じく、メ
セナ協議会も国家の文化政策の主導により設立されたことを問題点として指摘する
人も少なくない。それは、2004年の予算をみても明らかである。総予算61億ウォ
ン(約6億1千万円)の内、会員の会費が11億ウォン(約1億1千万円)、国家から
の助成が50億ウォン(約5億円)となっており、企業からの出資は約6分の1にすぎ
ない。今後、企業の積極的な参加を促す取り組みが期待されている。
韓国のメセナ活動の中心を担っているのは大企業であり、その多くは自社独自の文
化芸術財団を設立し、また文化芸術施設を開設して運営している。これはメセナ活
動が始まった初期に、政府が税制優遇措置を設け、企業のみならず個人も含め所有
財産を出捐した場合、5∼50%になる重い相続税・贈与税を免税したからだ。その
ため、韓国の経済成長期の主役だった第一世代の財産を後継者が相続し始めた1970
年代初めから、メセナ活動として企業の文化芸術財団が設立されるようになり、相
続のピーク時となった80年代には現在ある多くの文化芸術財団が出揃った。90年代
初めには、財団のみならず文化施設を運営するところもではじめる。
しかし、現在、韓国は1997年のIMF(国際通貨基金)からの緊急支援により奇跡的
に立ち直ったものの、不況と社会転換期の只中にある。企業と文化芸術の華やかな
蜜月は終わり、本当の意味でのパートナーシップを構築する前に立ち往生している
といった状況だ。また、企業のメセナ活動に対し、成熟した対応をしきれなかった
文化芸術団体側の問題も残されたままである。今後、両者の成熟したパートナー
シップを模索していくことが、韓国の企業メセナ活動の大きな課題と言える。
韓国メセナ協議会
韓国メセナ協議会は、唯一のメセナ組織として1994年に社団法人としてスタートし
た。2005年3月現在、119社が会員として、次のような目標を持って活動してい
る。(1)文化を通じた社会貢献に対する認識の普及、(2)大衆の中でのメセナ運
動の活性化、(3)国際的に連携したメセナ運動のグローバルイメージの普及。そ
の具体的な活動として、(1)企業と芸術文化団体との窓口、(2)メセナ大賞
(1991年より施行)、(3)個人や老人ホームなどを訪問してのメセナ主催の行
事、(4)公演チケットをはじめとする物品寄贈のメセナ・ドネーション、(5)メ
セナ優秀企業賞の授与などを行なっている。
2000年のデータ−を基にすると、文化芸術に対する支援としては、会員の自社財団
所有の施設物に対する支援がそのほとんどであり、総支援金額の70%以上となって
いる。民間の文化芸術団体に対する支援は、美術がもっとも多く約13%、音楽、舞
踊、演劇などの舞台芸術に対する支援は全体の8%余りとかなり少なくなってい
る。この数値で留意しなければならないのは、これが韓国メセナ協議会の独自の支
援数値というより、各会員企業の文化芸術に対する支援金額をすべて合わせた数値
であるという点だ。つまり、韓国の企業メセナ活動はメセナ協議会の次元で行われ
ているというよりは、各企業別あるいは企業家別に行われているとみなければいけ
ない。
つまり、劇場や舞台芸術団体が、実際に企業から財政的な支援を受けようとする場
合、韓国メセナ協議会はそれほど有用な窓口にはなっていないということだ。韓国
のメセナ活動について議論を行い、メセナ活動に対する理解を普及するのが、ここ
の大きな役割と言える。
企業独自の文化財団
韓国の数多い公益財団の中でも、特に公演芸術分野に支援をしているのは、錦湖ア
シアナグループの錦湖文化財団、教保生命保険(株)の大山文化財団、LGグループ
のヨンアム文化財団、三星グループの三星文化財団の4つの財団である。
錦湖文化財団は、クラッシック音楽と美術を集中的に支援する文化財団である。音
楽部門では、室内楽専用ホールである錦湖ホールと財団直属の管弦四重奏団を運営
し、特に若い音楽家たちを支援している。美術部門では錦湖美術館を運営し、韓国
の現代美術を主に展示・収集している。
大山文化財団は、1992年より資金をはじめとする設立準備が行われ、97年に正式
に発足した。主な支援対象は文学だが、この財団のキーワードが“農村”“青少
年”“文学”ということで、舞台芸術団体は青少年演劇祭や地域演劇祭などのプロ
グラム、および韓国の戯曲の翻訳と海外紹介について支援を受けてきた。
ヨンナム文化財団は、LGアートセンターを2000年に開館し、その運営とともに舞
台芸術界を支援してきている。この劇場は事業収入よりもかなり多い金額が財団か
ら支給されており、招聘公演であれ、貸館公演であれ、公演自体が間接的に財団の
支援を受けて行われている。また、海外の優れた公演を時差なく韓国に招聘し、舞
台芸術の新たな観客層の拡大と国際交流に貢献している。
三星文化財団は、三星文学賞を通じて舞台芸術を支援している。三星文学賞には戯
曲部門があり、受賞した作品を公演する場合に公演団体に製作支援をしている。こ
こから多くの新人劇作家が巣立ち、現在の韓国演劇界を担っている。また、メンピ
ストという韓国最初の民間海外研修プログラムをつくり、演劇人の育成と言う長期
的な展望を持った支援も行っている。
公企業のメセナ活動
政府が出資したり、実際上の経営権を持つ公企業は民間企業より公共性が高く、そ
れとともに社会公益事業に対する関心も高い。その中で、積極的に舞台芸術に対し
支援をしているのは、韓国馬事会(非営利特殊法人)、ポハン製鉄、韓国電力公
社、韓国煙草人参公社であり、それ以外にも韓国ガス公社、韓国土地公社なども比
較的関心を持っている。これらの公企業の場合、一般企業のメセナ活動が興行性の
ある商業演劇に偏りがちになるのに比べ、公演の内容や意図に力点を置き、地味で
はあっても公益性の高い、社会的意味がある舞台芸術公演に支援をしている。
その他のメセナ活動
直接的な支援の他に、後援会の会員として、劇場や文化芸術団体の年間スポンサー
という形で製作費支援に比べれば小額ではあるが一定の支援を続ける企業もある。
企業の広報活動の一環である広告費として一部製作費を提供する支援、また最近で
は実際の金銭ではなく、自社の製品を提供し、公演時に観客に配布するイベント型
の支援など、多様な形がある。