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松山東雲女子大学 - 愛媛大学図書館

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幼児の音楽的な表現に対する保育者のまなざし-保育記録
を中心に-
小池, 美知子
松山東雲女子大学人文科学部紀要. vol.22, no., p.25-35
2014-03-20
http://iyokan.lib.ehime-u.ac.jp/dspace/handle/iyokan/4148
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IYOKAN - Institutional Repository : the EHIME area http://iyokan.lib.ehime-u.ac.jp/dspace/
松山東雲女子大学人文科学部紀要,2
2:2
5
‐
3
5,20
1
4
幼児の音楽的な表現に対する保育者のまなざし
― 保育記録を中心に ―
The Importance of Teacher Assistance in the Development of
Young Children’s Musical Expression
小 池 美知子
Michiko KOIKE
(心理子ども学科子ども専攻)
要 約
本研究では,保育の音楽表現技術に求められる保育者の力量について検討することを目的として,満3
歳クラス担当の幼稚園教諭を対象に,幼児の音楽的な表現や表現活動の展開等に関する個別研修とインタ
ビューを横断的に実施するとともに,教師が音楽的表現だと認める幼児の表現に関する事例記録を作成し
てもらった。これらに基づいて,現場に求められる保育者の音楽的な表現技術について検討した結果,目
の前の幼児の音楽的な表現に対する発達の特長を捉え,個や集団の活動にかかわらず,幼児一人ひとりの
表現にいち早く目を留め,つぶさに応答的に表し返せるようなかかわりを常にもとうとする保育者の意識,
これらを指すということが示された。
キーワード:保育の音楽表現技術,保育者,幼児の音楽的な表現,幼児の発達
[Abstract]
The purpose of this study was to determine the different kinds of skills a kindergarten teacher must have
in order to help very young students’ optimal development of their musical expression. In this study one teacher
of 3-year-old children was given personal individual training by the author. At the same time she was interviewed
regarding her impressions of her students’ musical expression and activity. She then documented instances of
student activity that mirrored musical expression. This study focused on one individual’s training, an interview,
and a documented case study. The results suggest that teacher awareness of student activity, whether individual
activity or group activity, is essential for the development of musical expression in very young children.
Keywords: musical expression, nursery education, kindergarten teacher, young children’s musical expression, young
children’s development
―2
5―
小
池
美知子
! 問題と目的
幼稚園教育要領では,幼稚園教育は環境を通して行うものであることを基本1)としており,場や
空間,物や人,身の回りに起こる事象,時間などを関連付けることや,幼児の気付きや発想を大切
にしたり,幼児のつくり出した場や物の見立て,工夫などを取り上げたりすること2)などの環境構
成の重要性を挙げるとともに,教師は幼児にとって人的環境として重要な役割を果たしている3)と
明記している。これは,幼児の発達を支えるには,時間・空間・物的・人的など幼児を取り巻く全
ての環境が影響を与えるとともに,そこでの幼児がつくったり,つもりになったり,みたてたりな
どする幼児なりの表現をどのように見取り,どのようにかかわるのかという教師の姿が何にもまし
て大きく作用するということである。
保育現場に目を向けると,ふりをしたり,つもりになったり,みたてたりなどの模倣遊びに一心
に没頭する幼児の姿を容易に目にすることができる。これらの虚構の世界を遊ぶ模倣遊びは,幼児
自身の過去の記憶からくる単なる再現ではなく,味わった心的体験の創造的な改造や複合化であり,
子ども自身の内的要求と興味に応える新しい現実を過去の心的体験からつくりあげる過程である(ヴィ
4)
ゴツキー,2
0
0
2)
という。つまり,幼児は,幼児自身の生活環境から得た体験に基づき,こうした
い,ああなりたいという欲求を自身の想像の中に取り込むことによって,新たな空想の世界をつく
り出していくということである。これらの幼児なりの遊びを見取り,さらに遊びが発展的に広がる
ようにするには,幼児の心持ちを推し量ったまるごとの表現に対する保育者のまなざしが大きく物
を言うであろうことは言うまでも無い。ここでいうまなざしとは,幼児の気持ちが解釈できたとい
うような保育者側の能動的な意識ではなく,幼児の気持ちが保育者側に通低してきたというような
5)
受動的な間主観性的な意識(鯨岡,1
9
9
7)
に支えられた見取りやかかわりを指し,あくまでも幼児
の主体性に視座を置こうとするものである。
では,保育の実際における環境や保育者の指導の有様はいかなるものであろうか。遊び指導を幼
児の発達に応じた支援の過程と位置づけて自由遊びの検討を行った研究(鹿嶋,2
0
1
3)によれば,
保育者は遊びを指導する際に,指導上のねらいを意識的あるいは無意識的に指導をすること.指導
を通した幼児と保育者の相互作用としての遊びの展開内容は,その場の状況によって変化しうるた
6)
め,保育者のねらい通りには展開しない自由で創発的過程であること.
これらを指摘している。こ
れは,保育者が幼児の遊びを流動的なものとして受け止めているため,遊びを企図するしないにか
かわらず,幼児主体となるような意識を払ってかかわっているということであろう。
一方,音楽的視点から保育現場の環境を捉え,物的・空間的環境,人的環境の側面から音楽的な
環境に関するアンケート調査を保育者対象として行った研究(岡林他,2
0
1
0)では,物的・空間的
環境では異年齢の子どもの交流の場の確保,静けさや自然音を感じとれる場の確保を重視し,人的
環境では言葉かけのタイミングや保育者自身の表現力,声の大きさや音色,友達や保育者の発する
―2
6―
幼児の音楽的な表現に対する保育者のまなざし
声を感じとれるような保育者の働きかけ,これらを重視している実態が明らかにされている7)。こ
こからは,保育者がとりわけ,幼児とかかわる際の言葉や声や音色,働きかけ(動作)など自身の
身体性に留意している様子がうかがえる。保育者の身体性に関して,榎沢(1
9
9
8)は,幼児が興味
関心をもって活動に専念できる空間を「行動空間」と称し,幼児の「行動空間」は保育者の身体の
動きによって拡張したり,現実感覚を伴った「顕在的な行動空間」に変容したりしうる8)と指摘し
ている。これは,言葉や声や働きかけなどの保育者の身体性が,幼児の興味関心を伴った主体的な
遊びの発展に関係するということを示唆しているといえよう。
さらに,保育現場における音環境の要因を,音環境に対する保育者の意識に注目して量的に検討
した研究(松嵜他,2
0
1
0)によれば,保育現場の音環境の要因に,音へのかかわり,音楽活動への
接触,音環境の構成,環境音への気づき,これら4つを挙げている9)。この4つの要因のうち,音
への関わりと音楽活動への接触,これは幼児が何々するという幼児が主体の音環境に対する意識で
あり,音環境の構成と環境音への気づき,これは保育者が何々するという保育者が主体の音環境に
対する意識という2つの構造を成していることから,保育者の音環境の意識とは,保育者が環境を
設けながらもあくまでも幼児主体を貫く位置づけにあるのではないかと想像できる。加えて,これ
ら4つの要因つまりカテゴリーを構成する内訳には,幼稚園教育要領領域「表現」10)の内容との関連
を見ることができ,友だち,保育者,音,声,音楽,自然,生活,即興的に歌う,身近な楽器,音
の出る素材,音作りや音楽作りなどは,幼児自らが園生活の中でヒトやモノや自然を介して音や音
楽に主体的に関わる創作体験を,まさに可能にさせるものといえる。
上述により,本研究では,保育者が目を留める幼児なりの音楽的な表現とそれに対する保育者の
見取りやかかわり,およびそれらについての保育者の内省を通して,保育の音楽表現技術に求めら
れる保育者の力量について検討することを目的とする。
! 研究の方法
1)調査手続き
愛媛県!市のM幼稚園のW先生(3
0歳代女性,保育歴7年)に,幼児の音楽的な表現の捉え方や
表現活動の展開等に関する個別研修とインタビューを横断的に実施し,幼児なりの音楽的な表現に
関する事例を記録していただいた。インタビューは録音し,事例記録はコピーさせてもらった。こ
れらは全て文字化を行い,原データとした。これらのデータに基づき,幼児の音楽的な表現に対す
る保育者のまなざし(見取りやかかわり)について,保育記録とインタビュー記録を通して検討す
る。
保育記録の分析では,W先生の記録内容を分析する規準が求められるため,上述の松嵜他(2
0
1
0)
の研究で示された幼児主体の4つの音意識カテゴリーを援用することとした。4つの音意識カテゴ
―2
7―
小
池
美知子
リーを構成する具体的内容は,1)音への関わり;子どもが,友だちや保育者の発する音,声,音
楽や自然の様々な音,生活の中の音に興味をもち関わろうとしたり,あそびの中で即興的に歌った
りする。2)音楽活動への接触;子どもが,様々な素材を用いて,一人あるいは友だちと音作り,
音楽作りを楽しんだり,身近な楽器や音の出る素材に自ら関わって親しんだりするような保育活動
がある。3)音環境の構成;保育者が,子どもが,生活の中の音,自然の中の様々な音,自分や友
だちや保育者の発する音,声,音楽,身近な楽器や音の出る素材の音色や音の違いに気づくような
環境を整えている。4)環境音への気づき;保育者が,園にあるモノや遊具が発する音の大きさや
質に気づいていたり,園の中の響く響かない場所を知っていたり,園生活の中にある様々な音,日
1
1)
常的にふれる自然の中の様々な音に気づいたりしている(松嵜他,2
0
1
0)
。というものであり,こ
れらは教育要領領域「表現」の内容に挙げられるキーワードにほぼ重複している。しかしながら,
上述の具体的内容には,領域「表現」に挙げられているものの含まれていないキーワードがある。
それは,即興的な言葉,動き,リズムである。このため,4つの音環境カテゴリーの具体的内容に
即興的な言葉,動き,リズムも含めることとした。
インタビュー記録の分析では,個別研修の2
0
0
9年の初期から2
0
1
2年現在に至る間のW先生の保育の
音楽表現に対する意識の変容に着目し検討を加えていきたい。
2)調査期間
2
0
1
0年8月3
0日∼2
0
1
2年8月2
3日の間に全5回の研修・インタビューを実施した。加えて,保育者
が音楽的活動だと感得する幼児の姿をその都度記録してもらった。調査は2
0
1
0年8月∼2
0
1
2年8月現
在まで横断的に実施している。今回は,2
0
1
0年度の満3歳クラスの保育記録に絞って検討を加える
こととする。なぜなら満3歳クラスの幼児の事例の検討を通して,当該年齢の幼児の表現に対する
保育者のまなざし(見取りやかかわり)の特長を明らかにできるのではないかと考えるためである。
! 結果と考察
1)保育記録より
2
0
1
0年9月∼2
0
1
1年2月の事例の総数は3
2事例であり,その中で音楽的な表現に関する事例は2
3事
例であった。この2
3事例すべてを先述の音環境のカテゴリーに沿って検討したところ,音への関わ
り(幼児の主体的かかわり)
,音環境の構成(保育者の環境構成)に分類することができた(表1)
。
―2
8―
幼児の音楽的な表現に対する保育者のまなざし
表1
音環境カテゴリーによる事例の分類
音への関わり
1
(生活の中の音)
2
音への関わり
(即興的な歌)
音への関わり
3 (CD音楽と即興的
な動き)
4
音への関わり
(生活の中の音)
音への関わり
5 (既成の子どもの歌
と即興的な歌)
個から集
団へ
ゆうしん。7月内耳手術を受け音がよく入ってきている様子。洗濯
ばさみを笛に見立てて,口にくわえ「ピッピッ」と行進をして遊ぶ。
それを見た他の子たちも洗濯ばさみを口にくわえ「ピッピッ」と行
進をはじめる。みんなで運動会ごっこを楽しむ。
集団の中
の個
さとちゃん。お帰りに読んでいる絵本「でんぐりでんぐり」を見て
絵を見ながら読み始めた。だんだんと自分でリズムをつけながら,
♪でんぐりでんぐり♪とうたいながら読み始めた。私と目が合うと
少し恥ずかしそうにニコッと笑い,またリズムに合わせて読み始め
た。
集団
牛乳を冷蔵庫からもってくる間,音楽をかける,いないいないバア
「リックリックラー」の曲。牛乳をとって帰ってくると曲に合わせ
て身体で表現していた。テンポのゆっくりなところは手を上にあげ,
ゆうらゆうらして,楽しい曲の時は,ジャンプをしたり手を大きく
振ったり,曲の歌詞に合わせてめがねを手で表現したり,とても上
手に踊っていた。
個から集
団へ
ちおちゃん。日吉公園で運動会の練習。待ち時間,子ども達は小枝
や葉っぱ,砂で遊んでいた。ちおちゃんが,ライトの柱に耳をあて
小さな方をコンコンと音を出していた。私も耳をあて「どんな音す
る?」ときくと「カンカン音する!」私が手をグーにしてドンドン
叩いてみると,ちおちゃん「ドーンドーン」それを見た他の子たち
も小枝や小石で柱を叩いて音を出して楽しむ。
個から集
団へ
お弁当の後。何人かの子がお絵かきをしていた。みれいちゃんが赤
色のクレヨンを上に上げ,
「どんな色がすき」と歌いだした。すると
近くにいた子が「あか!」と言い,みれいちゃんが「あかいいろが
すき∼♪」とうたい,私の真似をして紙を持って見せながら「おめ
め」とかいていった。次は,あおいろ,きいろと「どんないろがす
き?」の歌をうたい,いろんな子が「あお!」とこたえ,また紙を
もって見せながら「お口をかくよ」とかいて楽しんでいた。
ゆうしんくん(人工内耳)ブロックで電車,トラックみたいな物を
音への関わり
6
(即興的な歌)
1 2 1 2 1
個
2
3
1 2 1 2 1
2
3
作り,
「んーんーんんん・,んーんーんんん・」のリズムでブロック
を前に動かして遊ぶ。
音への関わり
7 (即興的な言葉・動き) 集団
音環境の構成
表現あそび。どんぐりはどこから落ちてくる?「木からあー」と発
言。じゃあ,みんなで木になってみてというと,背伸びをして手を
頭の上に伸びる大勢。足,手を大きく広げる子,頭の上で手で丸く
する子といろいろで面白かった。どんぐりはどうやって落ちる? よ
しくん「ころころ」まこ「ぽとん」まこ「とんとんとん」みれちゃ
ん「どんぐり! どんぐり!」まこ「ぽんぽんぽん」じゃあ,みんな
はどんぐりになって木から転がるよお。横向きでころころ転がる子,
でんぐり返しする子,手でくるくる回す子といろいろでした。最後
に「どんぐりのころころ」の歌をうたうと,みんなで寝転がってこ
ろころ転がって楽しんでいた。ピアノで木,風,どんぐりを表現し
てみたが分かりにくかったみたいで,今度は私も一緒に木やどんぐ
りになって表現あそびを取り入れたい。
音への関わり
(既成のあそびうた
8
と即興的なリズム
打ち)
さとみ。うたあそび「月夜のばんに」のうたを外あそびの時にうた
い出し,フープにスコップでトントンと叩き,リズムを取ってうたっ
ていた。トン・ウンのリズム,トントントンと歌にあわせて上手に
リズムをとっていた。
個
―2
9―
小
音への関わり
9
(即興的な歌)
個
音への関わり
1
0 (絵本と即興的な動き) 集団
音環境の構成
1
1
音への関わり
個
(絵本と即興的な歌)
音環境の構成
1
2 (保育者の声に子ど
もが注目)
1
3
音への関わり
(生活の中の音)
音環境の構成
(子どもが身近な音
1
4
の出る素材の音色
の違いに気づく)
音環境の構成
(子どもが歌の拍子
1
5
のリズム打ちに気
づく)
1
6
音への関わり
(生活の中の音)
池
美知子
まこちゃん。お弁当中に「お行儀がわるいとーーー,先生にーーー
おこられる,おぎょうぎがわるいと,と自分でリズム,歌詞を作っ
てうたっていた。まこちゃんは,お弁当中に何回かお行儀が悪いよ
と注意されたことがある。
絵本「じゃあじゃあびりびり」絵本を見ながらクラスみんなで身体
で表現をした。水「じゃあじゃあ」→手を交互に上下に動かす。掃
除機「ぶいーん」→掃除機の真似,にわとり「こけこっこー」にわ
とりの真似,ふみきり「かんかん」手を前に出したり上げたり。ね
こ「にゃんにゃん」ねこの真似で動く。かみ「びりびりびり」破る
真似。手をブラブラする子。
あかりちゃん。絵本「ノンタンおしっこしーしー」お帰りの時に何
回か読んだことがある。遊びの時に,あかりちゃんが本を見ていた。
「しーしーしーなんのおと?」とリズムを取りながら読んでいる。
なんのおと? の時は手を耳の横にもっていき頭を横に傾けている。
「しーしーしーなんのおと?」は何回も繰り返しでてくるのでその
たびにリズムを取って楽しそうに読んでいた。
集団
絵本「かくれんぼももちゃん」をお帰りの時に読んでいる。絵本の
中で繰り返しの言葉がある。
「とっとことっとこぽんぽんぽん」子ど
もたちもリズムを取りながら楽しそうに読んでいた。ぽんぽんぽん
の所だけを読む子。口ぱくでぽんぽんとしている子。絵本の中に入
る込んでいる感じだった。
個
たくやくん。粘土ベラのローラーの端っこが退いておりそれを「退
いた」と持ってきたので,はめ込んで渡すと,またひっぱって退い
た。退いた時の音がポン! ととてもいい音でそれを聞いたたくちゃ
んの顔がニコーッと笑い,嬉しそうだった。またつけて退けてポン!
と何度か繰り返し「先生!」と私の所に来てくれ,音を出してみせ
てくれた。
「うわ! すごい! いい音,ポン!」と真似て言うとケタ
ケタと笑い,何度も繰り返して音を出して喜んでいた。
集団
ペットボトルに豆を入れて音が出るようにした。子どもたちに見せ
ながら「ペットボトルに豆を入れたらどんな音がするのかな?」と
いう質問に「ガラガラ」
「ゴロゴロ」
「ガチャガチャ」と子どもたち
は発表した。豆は子どもたちが好きな数だけ入れるようにした。1
つ入れると「ポン」と音が鳴り,とても嬉しそうに「ポンポンポン」
と言いながら豆を入れていった。1つ入れてペットボトルを振って
音を聞いている子,たくさん入れて振って音を出してみる子ととて
も興味をもって豆を入れていた。できたペットボトルの回りにシー
ルを貼って楽器の出来上がり。
「まつぼっくり」の歌に合わせてトン
ウンのリズム打ち。
「コロコロ」のところはガラガラを振って豆の音
を出した。楽しく楽器作りができた。
集団
「まつぼっくり」の歌をうたい始めると机でトンウンのリズム打ち
をする子が何人かいた。歌の後,ペットボトルで作った楽器でリズ
ム打ちをした。トンウンといいながらする子,頭を縦に振りリズム
を取る子,私をジッと見てリズム打ちをする子といろいろでとても
上手にリズム打ちができた。
個
ゆうしん(難聴)お弁当中,
箸箱を見せてくれた。箸箱には救急車,
パ
トカー,
消防車の絵がかいてあった。救急車を指して「ピーポーピー
ポー」と言い,
パトカーを指して手をくるくるさせながら「ウーーー
ン」と言い,消防車は「ウーンカンカン」と上手に口に出して言っ
ていた。少しずつ言葉がはっきりと出るようになった。
―3
0―
幼児の音楽的な表現に対する保育者のまなざし
集団
「アドベントクランツに」の歌をうたっていると,まこちゃんが手
でろうそくを作ってうたっていた。それを見た隣の子が真似をして
蝋燭を手で作って一緒に楽しそうに歌っていた。私もまこちゃんに
「こう?」やってみせると「うんこうよ」と自分の作っているろう
そくを見せてくれた。それからみんなで手でろうそくを作り,みん
なで賛美歌をうたった。
音への関わり
1
8
(歌とリズム打ち)
集団の中
の個
あまり歌をうたわないたくちゃん。歌が嫌いなわけでもなく,頭を
少し縦に動かしてリズムを取ったりしていた。1
2月の賛美歌「アド
ベントクランツに」を子どもたちと一緒にうたっていると,たくちゃ
ん手をパンパンと叩きながら楽しそうにリズムを取っていた。
音への関わり
1
9 (年長児の歌に興味
をもつ)
集団の中
の個
ページェント練習でほし組さんを見ていた。その中で出てくる宿探
しの歌をとても気に入ったみたいで,まこちゃんが真似をしてうた
い出すと,他の子たちも「トントントン」とうたい出した。歌詞を
忘れている所はよしくんが「∼∼よ∼だ!」と教えてあげ,また最
初から2人でうたったりして楽しそうだった。
1
7
2
0
音への関わり
(歌と動き)
音への関わり
集団
(言葉のリズムと動き)
音への関わり
(言葉のリズムの強
2
1
集団
弱の違いに気づく)
音環境の構成
(子どもが保育者の
2
2
歌声に注意を向け
るように)
集団
音への関わり
2
3 (絵本の言葉と動き) 集団
音環境の構成
「たんたんのハンカチ」という絵本をお帰りの時に読んでいる。内
容はたんたんのもっているハンカチに「大きくなあれハンカチカチ
カチ」というおまじないをすると,ハンカチが少しずつ大きくなる。
そして,そのハンカチでスーパーマンになったり,海賊になったり
していく内容だ。子どもたちはとても興味をもってみていた。まこ
ちゃんがポケットからハンカチを出し,ゆらゆらして「大きくなっ
た」ととても嬉しそうだった。それを見た他の子たちも真似をして
ハンカチやお手拭を出して「見て見て,大きくなったあ!」ととて
も喜んで真似っこをしていた。
毎日読んでいた「タンタンのハンカチ」は内容もすっかり覚え,お
まじないの「大きくなあれハンカチカチカチ」の所はみんなで声を
出して言うようになった。次は「小さくなあれハンカチカチカチ」
になる。その小さくなあれの時は子どもたちは小さな声でやさしく
読んでいった。自然と声の大小も付けていてすごいなと感心した。
支度,お片づけ。朝,外あそびから帰ってくると排泄をし,手洗い
をする事が毎日している事だ。それがなかなか3回4回声かけ(大
きな声を出している)がなかなかで,何かいい方法はないかなあと
思っていました。毎日お片づけが上手にできた子をみんなの前に立っ
て拍手しています。→全員2∼3人ずつ前に出て拍手!それをして
欲しくみんなやる気マンマンでお片づけをしています。支度も同じ
ようにしていますが,時間がかかってしまうこともあり,今日はピ
アノ弾いてみた。簡単なリズムを弾き,それに合わせて「∼ちゃん
手を洗ったよ! すごおいね♪♪」
「∼ちゃんおしっこ行けたよ♪♪
シューズも履いて♪♪」などなどしていると自然と子どもたちもピ
アノのリズムに合わせて手を振ってリズムを取ったり,手拍子をし
たりしながら排泄,手洗いがスムーズにできた。暫く続けて言って
みる。
発表会にむけて ふしぎなナイフより。
「ふしぎなナイフがおれる」
おれるってどんな音? と質問すると「ポキン」
「ポキッ」
。
「まがる」
は「くにゅー」
「くねー」
。
「ねじれる」は「きゅるるるるる」
「しゅ
るるるるる」
。
「われる」は「バーン」
「バリンバリンバリン」
。
「とけ
る」は「ふにゃーーー」
「シュルーーーー」
。
「きれる」は「パッパッ
パッ」
「シャッシャッシャッ」
。
「ほどける」は「くるるるるる」
「しゅ
るるるるる」
「ぐるるるるる」
。
「ちぎれる」は「バリバリバリ」
「ビ
リビリ」
。
「ちらばる」は「パッパッパッ」
。
「のびて」は「ヒューーー
ン」
。
「ち ぢ ん で」は「く し ゅ く し ゅ く し ゅ」
。
「ふ く ら ん で」は
「ぷーーーーーー」
。字がなくて絵だけ割れている感じ→「バーーーーー
ン」
―3
1―
小
池
美知子
まず,表1を俯瞰すると,幼児主体の音への関わり事例が最も多く2
3事例中1
6事例であり,7事
例が保育者からクラス集団に仕掛ける音環境の構成であった。ここから,日常の園生活の中でW先
生は,先生自らが仕掛ける活動よりも幼児の自分なりの音楽的な表現に対して気持ちを傾けて見て
いるということが分かる。次に,音への関わりの1
6事例に注目すると,一人の幼児の自分なりの表
現をきっかけにそれがクラス集団に伝播していく集団での音への関わり(事例1,4,5)と,幼
児が集団の中に居ながらにして見せる個別な自分なりの表現(音への関わり)
(事例2,1
8,1
9)で
あることが分かる。さらに,保育者がクラス集団へ仕掛ける音環境の構成7事例を見ていくと,保
育者が仕掛けた集団の活動でありながらも,幼児の自分なりの表現にW先生が注目したもの(事例
7,1
0,2
3)と,保育者が,クラス集団から意図的に幼児の表現を引き出そうとしたもの(事例1
2,
1
4,1
5)であることが分かる。以上により,集団や個の活動にかかわらずW先生の視線は個の表現
に向けられていることが分かる。
しかしながら,表1のみでは,幼児の表現に対する保育者のまなざし(見取りやかかわり)につ
いてもう一歩踏み込んで論ずることは難しい。このため,W先生自身が目を留めた幼児の表現を今
一度整理する必要がある。そこで,表1からうかがえる活動内容に見られる共通性について検討し
たところ,幼児の表現を引き出した仲立ち要因を見出すことができた(表2)
。
表2
幼児の音楽的な表現を生起する仲立ち要因
カテゴリー
幼児の音への関わり
仲立ち要因
生活
容
事 例
生活の中の音
1,4,1
3,1
6
即興的な歌
6,9
即興的な言葉と動き
7
既成の歌と即興的なリズム
8
既成の歌と即興的な歌
5
CD音楽と即興的な動き
3
既成の歌と動き
1
7
既成の歌とリズム
1
8
年長児の歌への興味
1
9
絵本と即興的な歌
2,1
1
絵本の言葉のリズムと即興的な動き
1
0
絵本と動き
2
0
絵本と言葉のリズム
2
1,2
3
絵本
絵本と言葉のリズム
1
2,2
1,2
3
身近な素材
身近な素材の音の違い
1
4
身近な素材から即興的な言葉と動き
7
既成の歌や音楽
既成の歌とリズム
1
5
保育者の即興歌
保育者の歌声に注目させる
2
2
既成の歌や音楽
絵本
保育者の音環境の構成
内
―3
2―
幼児の音楽的な表現に対する保育者のまなざし
表2より,幼児の音へのかかわりでは,園生活を介して幼児から創り出される即興性のある音や
歌や動きの表現(事例1,4,6,7,9,1
3,1
6)
.既成の歌や音楽を介して幼児から創り出され
る即興性のある歌やリズムや動きの表現(事例3,5,8,1
7,1
8,1
9)
.絵本を介して幼児から創
り出されるリズミカルな言葉の表現や即興性のある歌や動きの表現(事例2,1
0,1
1,2
0,2
1,2
3)
.
これら3つの仲立ちのタイプが認められた。そこでは幼児一人ひとりの即興性に保育者の目が向け
られていた。次に,保育者の構成する音環境では,絵本を介して言葉のリズムが味わえる活動(事
例1
2,2
1,2
3)
,身近な素材を介して一人ひとりの楽しさが味わえる活動(事例7,1
4)
,保育者の音
楽的な働きかけを介した歌やリズムに幼児が楽しみながら応答できる活動(事例1
5,2
2)など,集
団の一斉活動ながらも自分なりの表現が行える幅をもたせた活動をW先生が仕掛けていることが分
かる。それは,一斉活動の際に想起する幼児の即興的な表現に先生自身が目を留めているからであ
る。つまり,W先生は,幼児主体の集団・個の活動や,保育者の意図した集団の活動にかかわらず,
幼児の生活,既成の歌,既成の音楽,絵本を仲立ちとして想起した一人ひとりの即興性のある声,
歌,動き,言葉,これらに着目しているということである。
2)インタビュー記録より
初回研修(2
0
1
0年8月3
0日)において,身の回りの素材を介した幼児の音楽的な表現に着目した
1
2)
研究(今川,2
0
0
3)
を紹介したところ,W先生は身の回りのモノに目を向ける必要性を感じた様子
であった。
W先生;私の教室は音の出るものはほとんど置いていません。音が出るもの,おもちゃにかかわ
らず,日常にあるものを与えてみたいな。で,子どもの様子をちょっとどんなのか見てみたいなっ
て。
1
3)
2回目研修(2
0
1
0年1
0月1
4日)では,保育者の音楽的な感受性アンケート紙(小池,2
0
0
9)
を実
際に回答してもらい,身近な周囲にあるモノで音楽を創作するリトミック研究会の活動動画14)を見
てもらったうえで研修を始めた。
W先生;(動画を)ずっと見ていたら,あ,子どもらもしてるという風な感じになってきて,楽
器ではないですけど身近なもの。たとえば,洗濯バサミを置いているんですよ。運動会時期やった
ので,その洗濯バサミを笛にしてピッピッってしたりして,子どもらが行進始めたりとか遊びの中
でやったりとかしてたので。実際,保育中でもしてる場面はあるなあとちょっと感じて。
W先生自身はこれまで気に留めていなかったが,日々の保育の中で幼児は身の回りのモノを使っ
て声を出したり動いたりしながら音楽的な遊びを展開しているということに改めて気づいた様子で
あった。
3回目研修(2
0
1
1年2月2
1日)では,生活の中で幼児がリズミカルな口調でリズムに乗って遊ん
―3
3―
小
池
美知子
だり,即興で歌をうたいながら遊んだりする様子に先生自身よく気づくようになったと自認してい
る。
W先生;去年は,そんなに思わなかったですよね。でも,一緒に勉強会をしてよく見てって言わ
れて見たときに,すごくリズムに乗っているなっていうのが,分かったから。私も一緒にいてそれ
に気づけたってことが面白いって思いながら。
5回目研修(2
0
1
2年8月2
3日)では,2
0
1
0年研修当初と比較して,幼児の姿から保育のヒントを得
るようになった点が歴然と異なると述べている。
W先生;明らかに違うのは,子どもの遊びをかなり見ることになった。見て,ヒントをもらって,
それから保育に生かして。私が教えているんじゃなくて教えてもらってるって思いがすごくある。
上述のインタビュー記録を通して,W先生の幼児の音楽的な表現を見取る視点に明らかな変容が
うかがえる。研修初回では,幼児の音楽的な表現の生成には周囲の音が鳴るモノとの関連があるよ
うだという単なる気づきの段階であったが,研修を重ねるうちに,幼児の普段の生活や遊びの中で
音楽的な表現が生成していることを体感的に実感していく段階となったといえる。さらには,音楽
表現を指導するのは保育者自身であるとしながらも,その方法や内容等の実際のアプローチは幼児
の言動によるところが大きいと認知している。
つまり,W先生の保育の音楽表現に対する意識は,幼児の音楽的表現に対する気づきの段階→幼
児の音楽的表現を体感的に実感する段階→幼児を音楽的表現者と認知し保育実践する段階,このよ
うに変容したといえる。
3)保育記録,インタビュー記録を通して
保育記録からうかがえる満3歳の音楽的表現の特長として,生活の中で即興的に歌を創る.遊び
の中で既成の歌を即興的に歌う,動く.絵本の言葉を即興的にリズミカルに唱える,動く.など,
即興的に表すことに関心を覚える,これらが示された。加えて,これらの表現は,幼児主体の個の
表現のみならず,保育者が仕掛ける一斉的活動においても個別な幼児の表現の姿として現れること
も示された。一斉活動はあらかじめ保育者によって企図された活動であるために,ともすれば,教
師から幼児への一方向の教師主導に陥りやすく,保育者が,幼児から現れる出る個別の表現を見取
りかかわるという意識が生まれにくいのではないかと考えられる。しかしながら,保育者は,集団
の中の個の表現に目を留め,幼児を音楽的表現の表現者として認めたうえで,その表現がさらに発
展するようにかかわろうとする意識をもっていた。つまり,保育者の音楽的な表現技術とは,目の
前の幼児の音楽的な表現に対する発達の特長を捉え,個や集団の活動にかかわらず,幼児一人ひと
りの表現にいち早く目を留め,つぶさに応答的に表し返せるようなかかわりを常にもとうとする保
育者の意識を指すと言っても過言ではないだろう。
―3
4―
幼児の音楽的な表現に対する保育者のまなざし
謝辞
研究に際して全面的にご協力くださった今治めぐみ幼稚園梅園若葉先生に,心からの感謝の意を表します。
引用・参考文献
1)文部科学省(2
0
0
8)『幼稚園教育要領解説』フレーベル館p.
2
3
2)文部科学省(2
0
0
8)前掲p.
2
0
0
3)文部科学省(2
0
0
8)前掲p.
1
8
9
4)エリ・エス・ヴィゴツキー
広瀬訳(2
0
0
2)『新約版
子どもの想像力と創造』新読社pp.
1
4−1
5
5)鯨岡峻(1
9
9
7)『原初的コミュニケーションの諸相』ミネルヴァ書房pp.
3
1−3
3
6)鹿嶋桃子(2
0
1
3)「自由遊びにみる子ども・保育者の相互作用と発達支援」名寄市立大学紀要(7)pp.
2
7−3
5
7)岡林典子他(2
0
1
0)「音楽的視点から捉える保育現場の環境構成−保育者への聞きとり調査をふまえて−」京都女子大
学発達教育学部紀要(1)pp.
1
3−2
6
8)榎沢良彦(1
9
9
8)「子どもの行動空間と身体性−生きられる空間の視座からの子どもの行動の解釈−」保育学研究3
6
(2)pp.
1
7
7−1
8
4
9)松嵜洋子他(2
0
1
0)「保育現場の音環境に関する意識の構成要素と関連要因」埼玉学園大学紀要(人間学部篇)1
0
pp.
1
99−2
0
9
1
0)文部科学省(2
0
0
8)前掲pp.
1
5
8−1
7
4
1
1)松嵜洋子他(2
0
1
0)前掲
1
2)今川恭子(2
0
0
3)保育における子どもと音のかかわり/表現の育ちを支えるもの
保育の実践と研究7(4)相川書
房pp.
4
7−5
5
1
3)小池美知子(2
0
0
9)保育者の音楽的感受性が幼児の音楽表現に及ぼす影響
保育学研究4
7(2)pp.
6
0−6
9
1
4)2
0
1
0年9月5日に行われた筆者主催のリトミック研究会研修模様の動画。内容は身近にある様々なモノを素材に音楽
を創作するグループワーク。
―3
5―
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