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僧帽弁閉鎖不全症とは
どのような疾患か?
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ど僧
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よ弁
う閉
な鎖
疾不
患全
か症
?と
は
定義と分類
僧帽弁閉鎖不全症とは,僧帽弁(前尖およ
的異常,細菌性心内膜炎に伴う僧帽弁複合体
び後尖),僧帽弁弁輪部,左心房,腱索,乳
の異常でも僧帽弁閉鎖不全に陥るが,これら
頭筋,そして左心室自由壁からなる僧帽弁複
も続発性または二次性に分類される.このよ
合体のいずれかの構造の異常により,僧帽弁
うに一言で僧帽弁閉鎖不全症と言っても,
の閉鎖が障害される疾患である.このうち,
様々なタイプが存在するわけだが,本書では
イヌでは僧帽弁(特に前尖)の線維層の断裂
特に断らない限り,僧帽弁の粘液腫様変性を
および崩壊,そして酸性粘液多糖類の異常蓄
原因とする僧帽弁逆流症を僧帽弁閉鎖不全症
積を特徴とする粘液腫様変性が最も高頻度に
として解説を進める.
発生する.このため,この病変により発生す
なお,僧帽弁閉鎖不全症の臨床像は左心不
る僧帽弁閉鎖不全症を特に心内膜症または原
全だが,粘液腫様変性は僧帽弁だけでなく三
発性僧帽弁閉鎖不全症とも呼ぶ.しかし,通
尖弁にも認められることがある.両房室弁に
常は僧帽弁閉鎖不全症と言ったら,粘液腫様
この病変が発生する頻度は報告により若干の
変性により生じた疾患を指す.
相違が見られるが,概ね全症例の 30%前後と
大型犬に好発する拡張型心筋症,そしてイ
する記載が多い.両房室弁閉鎖不全症の臨床
ヌで最も発生頻度の高い先天性心疾患である
像は両心不全である.左右いずれの房室弁逆
動脈管開存症では,僧帽弁弁輪部の高度な拡
流がより重度なのかにより,主な心不全症状
張および変形が見られる.これも僧帽弁逆流
は異なり,また同じ症例であってもある時期
の原因となるが,僧帽弁自体の形態は正常で
には右心不全が強く認められ,その後は左心
あることから,続発性または二次性僧帽弁閉
不全症状が主に見られることもある(後述)
.
鎖不全症と呼ぶ.腱索の断裂,僧帽弁の先天
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シグナルメント
(1)発生率
僧帽弁閉鎖不全症の発生率は調査が実施さ
∼ 8.1%とされているのに対し,剖検例を対
象とした調査では 11 ∼ 61%と高い.
れた年代,対象母集団,疾患の確認方法およ
び基準などにより異なる.一般に,生存して
いるイヌを対象とした調査では発生率は 1.7
(2)多発品種
一般的には小型の純血種に多発傾向がある
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