銀行の劣後証券およびハイブリッド証券の評価と格付

Banks
グローバル
銀行の劣後証券およびハイブリッド証券の評価と格付
セクター別格付基準
適用範囲
本格付基準レポートは、i) 2011 年
12 月 15 日付「Rating Bank Regulatory
Capital And Similar Securities」および
ii)2012 年 7 月 9 日付「Treatment Of
Hybrids In Bank Capital Analysis」の差
し替えとなるものである(これらのレ
ポートは取り下げられている)。
本格付基準は(i)フィッチ・レーティングス(フィッチ)が銀行、銀行持株会社、一部の証
券会社の劣後証券およびハイブリッド証券をどのように格付するか、(ii)フィッチが資本の
分析に際してこれらの証券をどのように取り扱うか(またはどのように「資本性」を評価する
か)について説明するものである。
主要な点-資本性評価
普通株式が最も有効な資本:フィッチの銀行の資本評価における主要な指標はフィッチ・コア
資本(FCC、Fitch core capital)である。FCC は普通株式を主な構成要素とし、いかなる種類
のハイブリッド証券も算入されない。「ファースト・ロス」キャピタルとしての高い損失吸収
能力や配当の柔軟性を有していること、また、発行体の自信を(少なくとも悪化させることな
く)維持させることにつながる点を踏まえれば、普通株式は発行体の存続性を維持する上で最
も有効な資本形態であると考えられる。
補助的な指標への組み入れ:しかし、補助的な指標として良質なハイブリッド資本を定量的に
測定することにはメリットがある。したがって、発行体のハイブリッド証券に「資本性」が認
められる場合には、FCC に調整を加えてフィッチ適格資本(FEC、Fitch eligible capital)が算
出される。
100%の資本性: 100%の資本性が認められるのは(i)利払いに関する十分な柔軟性を有し、
転換までの期間が短い劣後強制転換証券、(ii)利払いに関する十分な柔軟性を有し、「実質
破綻(non-viable)」に陥るよりかなり前に元本削減または普通株式への転換が可能である、
期限の定めのない劣後証券である。
50%の資本性:50%の資本性が認められるのは(i)利払いに関する十分な柔軟性を有した、
期限の定めのない劣後証券、(ii)満期までの残存期間が少なくとも 5 年あり、銀行が実質破
綻に陥るよりかなり前に元本削減または普通株式への転換が可能である劣後証券、および
(iii)その他一部の強制転換証券である。
主要な点-格付の付与
関連リサーチ
Treatment and Notching of Hybrids in
Nonfinancial Corporate and REIT Credit
Analysis(2011 年 12 月)
アナリスト
James Longsdon (EMEA)
+44 20 3530 1076
[email protected]
Joo-Yung Lee (North America)
+1 212 908 0560
[email protected]
Franklin Santarelli (Latin America)
+1 212 908 0739
[email protected]
Mark Young (Asia-Pacific)
+65 6796 7229
[email protected]
債務不履行の定義:利払いの停止または繰延べ、強制的または偶発的な元本減額もしくはより
劣後する証券への転換や、ディストレスト債務交換(DDE、distressed debt exchanges)とみ
なし得る行為は、契約上の取り扱いに関わりなく、格付の観点からはすべて「債務不履行」と
みなす。フィッチの格付は、いわゆる「ファースト・ダラー・オブ・ロス」原則に基づいて付
与される。
ノッチング基準:劣後証券およびハイブリッド証券は一般に起点格付からノッチダウンされる。
ほとんどの場合において政府支援が銀行の劣後債務に及ぶことはないと考えられるため、通常、
発行体の存続性格付(VR、Viability Ratings)が起点格付となる。ノッチング幅には、相対的
な損失度の評価(最大 2 ノッチ)と、起点格付が捕捉する債務不履行リスクからの当該リスク
の増分にかかる評価(通常、最大 3 ノッチ)が織り込まれる。ノッチングはこれら二つの要素
を合算したものとなる。
ゴーン・コンサーン時のみの損失吸収:発行体の破綻または「実質破綻」時点ではじめて損失
吸収機能が発動される証券の場合、一般には起点格付より 1 ノッチ低い格付となるが、特定の
状況のもとでは 2 ノッチ低い格付となることもあり得る。
ゴーイング・コンサーン時の損失吸収:発行体が「実質破綻」に陥る前に損失吸収機能が発動
される証券の場合、たいていは発行体の VR より 2 ノッチから 5 ノッチ低い格付となる。劣後
性の高い証券であり、その債務不履行リスクが銀行の VR に織り込まれた当該リスクを大きく
上回る場合、ノッチング幅は最大となる。
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2012 年 12 月 5 日
Banks
背景および制約
資本性とは、発行体の資本構成および財務レバレッジに関するリスク調整後の評価において、
個々の証券がどの程度の負債性または資本性を有しているかについて、フィッチの見解を示す
分析上の概念である。かかるリスク調整後の資本性評価は、フィッチが発行体に付与する VR
の裏付けとして利用される。資本証券については、財務面でのストレス発生時に発行体の存続
性に与え得る影響が評価される。
新型の銀行資本証券に対する規制の枠組みが明確になりつつある。しかし、発行が極めて少な
く、また、それ以上に重要な点として、現実に強制的な機能の検証例がないため、こうした証
券が実際にどのように機能するかについては依然として不確実な点が残る。少なくとも契約上
の観点からは、旧型のバーゼル II 基準証券の多くは、金融危機時に有効な損失吸収機能を発揮
しなかった(2011 年 2 月 10 日付「Bank Hybrid Securities: Debt Genes To the Fore During
Financial Crisis」を参照)。そのため、本格付基準ではほとんどの証券に資本性が認められな
いこととなっている。
もっとも、規制当局は明らかに、バーゼル III 基準の資本証券が、バーゼル II 基準に基づき発
行された証券よりも高い損失吸収力を有することを想定しており、フィッチもそうなることを
見込んでいる。バーゼル III 基準の資本証券はバーゼル II 基準の証券ほど複雑ではなく、「ゴ
ーイング・コンサーン」資本または「ゴーン・コンサーン」資本としての位置づけがより明確
に定められており、銀行破綻時の損失はより自己負担されるべきである(すなわち、株主に続
き、(下位債権者から順に)債権者が損失を負担すべきである)という幅広いコンセンサスが
多くの国で形成されている。これは、今後発行される新型資本証券の中には資本性を認められ
るものもあるが、その格付は危機前より低いものになるということを意味する。
留意すべき点として、規模の大きな銀行の負債サイドには、債務不履行リスクと債務不履行時
の損失度についての組み合わせが多数存在する可能性がある。あらゆる損失度と債務不履行リ
スクの程度を、フィッチの 19 段階の尺度のみをもって証券格付で表示することは現実的では
ない。
新型証券の格付や資本性評価に際してバーゼル II 適用時に収集されたデータは有用でないため、
本格付基準は、平均を超える想定や判断に基づいている。したがって、本格付基準は他の格付
基準よりも頻繁な修正を要する可能性がある。
適用範囲
1
本格付基準レポートは、フィッチが銀行、銀行持株会社、一部の証券会社 によって発行され
た劣後証券、ハイブリッド証券およびこれに類似する証券の資本性を評価し、格付を付与する
方法を示している。これらの証券は、発行体に対する請求権が後順位であり、ゴーイング・コ
ンサーン時またはゴーン・コンサーン時に損失を吸収する証券として機能するよう設計されて
いる。
「ゴーン・コンサーン」時に損失を吸収する証券と「ゴーイング・コンサーン」時に損失を吸
2
収する証券の区別は、とりわけ「低トリガー」の偶発転換資本 に関してはややあいまいにな
ることがある。しかし原則として、ゴーイング・コンサーン時の損失吸収とは、銀行または企
業が実質破綻に陥る以前において、損失吸収機能が発動されることをいう。かかる損失吸収の
手段としては、利払いの繰延べまたは停止が最も一般的であるが、元本減額や(他証券への)
1
健全性規制の対象となっている証券会社が、規制資本に算入される劣後・ハイブリッド債務を発行
する場合には、本格付基準が適用される可能 性が高いが、より適切と考えられる場合には、
「Treatment and Notching of Hybrids in Nonfinancial Corporate and REIT Credit Analysis」が適用
される可能性もある。
2
本格付基準において偶発転換資本とは、一定のトリガーに抵触した場合、元本の減額、削減または
より劣後する証券(通常は普通株式)への転換が行われる証券をいう。偶発転換資本は「CoCo」
と呼ばれることもある。フィッチは、抵触する蓋然性を合理的に(数値などにより)分析/評価で
きるトリガーが付された証券に対してのみ、格付を付与することができる。疑義を避けるために付
言すると、「実質破綻の時点」ではじめて損失吸収機能が発動される証券は、本格付基準において
は「偶発転換資本」に該当しない。
銀行の劣後証券およびハイブリッド証券の評価と格付
2012 年 12 月
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転換が含まれる場合もある。ゴーイング・コンサーン時の損失吸収特性を有する商品の例とし
ては、Tier 1 証券、Upper Tier 2 証券、「高トリガー」の偶発転換証券、一部の繰延可能な期
限付 Tier 2 証券(例えば、中南米およびアジア太平洋地域の一部で見受けられる) などが挙
げられる。
ゴーン・コンサーン時の損失吸収は、銀行が実質破綻に陥り、その後、例えば何らかの形態の
倒産または破綻処理手続きに入るか、デフォルトを防ぐ特別な支援を受ける時点で、はじめて
損失を吸収するよう設計されている商品について生じるものである。Lower Tier 2 証券やバー
ゼル III 基準の Tier 2 証券が、ゴーン・コンサーン型のハイブリッド証券の例である。「低ト
リガー」の偶発転換資本はあいまいな領域であり、これは、トリガーの中に銀行が実質破綻に
陥り、介入や何らかの形態の破綻処理に直面する時点とほとんど区別できないほど低い水準に
設定されているものがあり、その場合、実際には「ゴーン・コンサーン」時の損失吸収と変わ
らないことになるからである。
その他の銀行以外の金融機関
その他の銀行以外の金融機関(ファイナンス会社、リース会社、資産運用会社、一部の他の証
券会社など)が発行するゴーイング・コンサーン時の損失吸収力を有するハイブリッド証券に
ついては、金融機関とはいうものの、2011 年 12 月 15 日付の格付基準レポート「Treatment
and Notching of Hybrids in Nonfinancial Corporate and REIT Credit Analysis」に概説する原則
に従って、格付と資本性評価がなされる可能性が高い。しかし、それは個々の状況に応じて決
定される。ゴーン・コンサーン時のみの損失吸収力を有する証券には、本レポートに示す格付
基準の原則に従って格付が付与される。
投資家が関係者か第三者か
事業会社や REIT の場合と同様、本格付基準における資本性評価は、可能なかぎりの治癒措置
を講じると考えられる第三者が投資する証券のみを対象としている。金融機関に関しては、政
府機関がハイブリッド証券の引受けを行う場合、常に治癒措置をとるとは限らない。また、子
会社への資本注入を行う企業が、投資の税効果を高めるためにハイブリッド・ストラクチャー
を利用するケースがよくみられる。こうした場合、フィッチは異なる基準を適用し、第三者が
投資家であるケースよりも多くの資本性を付与する可能性がある。
資本性評価:基本原則
普通株式は最も有効な資本形態
銀行の存続性の維持により大きく寄与
するのは、ハイブリッド証券ではなく
普通株式と準備金である。
フィッチの銀行の資本基盤評価におい
て、FCC が第一義的な評価手段となっ
ている。
金融危機の経験から確認されたのは、ハイブリッド証券が、組織の継続的な存続性に寄与する
限りにおいてのみ、その有効性が認められるということである。このことは、フィッチが個々
のハイブリッド証券にどの程度の資本性が認められるかを判断する際の包括的な原則となって
いる。基本的に、ハイブリッド証券は、銀行が実質破綻に陥る前に利払い停止、元本削減また
は普通株式(またはそれと同等の「ファースト・ロス」キャピタル)転換が可能である場合、
発行体の存続性を下支えする可能性がある。もっとも、かかる特性を備えた証券のすべてが資
本性を認められるわけではない。
銀行、銀行持株会社および一部の証券会社に関しては、長期にわたる金融危機のもと、これら
の組織が存続するためには信頼度の維持と迅速な損失吸収が重要であることが示された。「フ
ァースト・ロス」キャピタルとしての高い損失吸収能力や配当の柔軟性を有していること、ま
た、発行体の自信を(少なくとも悪化させることなく)維持させることにつながる点を踏まえ
れば、銀行、銀行持株会社および一部の証券会社といった発行体の存続性を維持するためには
普通株式が最も有効な資本形態とみられる。ハイブリッド証券は普通株式の主要な特性の一部
を含むよう設計されているが、フィッチは、ハイブリッド証券は普通株式よりも柔軟性が劣る
と考えている。
普通株式の優位性を踏まえ、フィッチが銀行の VR の検討において資本基盤を評価する際には
ほとんどのケースにおいて、主に普通株式と準備金から構成される FCC が第一義的な評価手
段となっている(「フィッチ・コア資本:銀行資本の第一義的な評価基準」(2012 年 1 月 19
日付)を参照されたい)。
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ハイブリッド証券が存続性の維持に寄与すると見込まれ、そのために資本性が認められる場合、
引き続きフィッチ適格資本(FEC、Fitch eligible capital)比率に織り込まれる。こうした証券
は、一般に、財務面でストレスが生じるよりかなり以前に「ファースト・ロス」キャピタルを
強化するものでなければならない。フィッチの分析において、FEC 比率は今後も引き続き銀
行の資本基盤を評価する重要な指標となるだろう。これは、FEC 比率が補助的な性質の資本
を定量的に測定する指標であり、ゴーイング・コンサーンの観点から「保険」を備えた銀行と、
備えていない銀行を差別化(またはこの備えが多い銀行と少ない銀行を差別化)することがで
きるためである。
資本性の上限はない
フィッチが銀行の資本基盤を評価する際には FCC が主要な評価手段であるため、FEC の算出
において、資本性が認められるハイブリッド証券の金額に上限を設けていない。
3 段階の資本性評価区分
フィッチの金融機関格付部門が資本性を評価する際に用いる評価区分は、他の部門と同様、
100%、50%、0%という 3 段階のみである。これは、不確実な精緻さを排除することを意図
したものである。ハイブリッド証券の設計上細かな差異があったとしても、発行体の存続性の
維持に重大な影響を及ぼさないことが多く、場合によっては、これらの特性に伴い複雑さが増
したことで、ハイブリッド証券の機能にマイナスの影響が及んだ例もある。
100%の資本性
利払い停止の特性を備えた永久証券
100%の資本性を認められるためには、次の特性を備えている必要がある。
劣後性:すべての一般債権者に劣後しなければならない。ほとんどの場合、当該証券に劣後す
るのは、普通株式または株式会社以外の会社の場合は普通株式に最も類似している「ファース
ト・ロス」キャピタルのみである。
恒久性:期限の定めがなく、金利のステップアップ条項や発行体にとって償還のインセンティ
ブとなるような条項が付されていないものでなければならない。発行時点で初回コール日まで
の期間が少なくとも 5 年置かれている必要があり、元本の償還には監督当局の承認が必要とな
る。
利払い停止に関する完全な裁量:ルックバック条項や強制配当支払条項、パリティ証券の文言
などの特性がある場合には、当該証券には資本性が認められない可能性が高い。
銀行が実質破綻に陥るよりかなり以前に元本の全額を恒久的に減額または「ファースト・ロ
ス」キャピタル(ほとんどの場合は普通株式)に転換することが可能:銀行が実質破綻とみな
される状態は、銀行の種類や法域によって異なる可能性が高い。例えば、安定した市場の小規
模なリテール銀行は、公共性が高く最低所要自己資本水準の高い大規模なユニバーサル・バン
クと比較すると、普通株等 Tier 1 比率が大幅に低い場合でも十分余裕のある経営を行うことが
できる可能性がある。
転換価格または転換比率:発行体は通常、転換を完了するために必要な数の株式を発行する権
限または能力を有している必要がある。転換条件の内容により、過度な希薄化を回避する行動
(証券の買戻し、資産売却など)をとるインセンティブが生じる懸念がある場合には、認めら
れる資本性は 50%または 0%となる可能性がある。
強制転換証券
トリガー・イベントによって強制転換が起きるのではなく、比較的近い将来の所定の日付で強
制的に「ファースト・ロス」キャピタルに転換されるという特性を備えた証券に対しては、以
下のような手法が用いられる。このような証券は銀行セクターではあまり見られない。100%
の資本性を認められるためには、次の特性をすべて備えている必要がある。
銀行の劣後証券およびハイブリッド証券の評価と格付
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劣後性:すべての一般債務債権者に劣後しなければならない。
利払い停止に関する完全な裁量:上記を参照。
転換までの期間が短い:3 年以内に普通株式または同等の「ファースト・ロス」キャピタルに
転換されなければならない。その場合でも、転換するまでの期間に銀行の存続性に関し重大な
懸念がある場合には、格付委員会の判断により、資本性が認められない可能性がある。そのよ
うな場合、当該証券が強制転換の特性を備えていなかった場合に想定される水準が、当該証券
に認められる資本性の上限となる。
転換価格または転換比率:発行体は通常、転換を完了するために必要な数の株式を発行する権
限または能力を有している必要がある。転換条件の内容により、過度な希薄化を回避する行動
(証券の買戻し、資産売却など)をとるインセンティブが生じる懸念がある場合には、認めら
れる資本性は 50%または 0%となる可能性がある。
50%の資本性
利払い停止の特性を備えた永久証券
50%の資本性を認められるためには、次の特性を備えている必要がある。
劣後性:すべての一般債務債権者に劣後しなければならない。ほとんどの場合、当該証券に劣
後するのは、普通株式または株式会社以外の会社の場合は普通株式に最も類似している「ファ
ースト・ロス」キャピタルのみである。
恒久性:期限の定めがなく、金利のステップアップ条項や発行体にとって償還のインセンティ
ブとなるようなその他の条項が付されていないものでなければならない。発行時点で初回コー
ル日までの期間が少なくとも 5 年置かれている必要があり、元本の償還には監督当局の承認が
必要となる。
利払い停止に関する完全な裁量:ルックバック条項や強制配当支払条項、パリティ証券の文言
などの特性がある場合には、当該証券には資本性が認められない可能性が高い。
期限の定めのある証券で利払い停止の特性を備えていない証券
50%の資本性を認められるためには、次の特性を備えている必要がある。
劣後性:すべての一般債務債権者に劣後しなければならない。
満期:満期までの残存期間が少なくとも 5 年なければならない。
銀行が実質破綻に陥るよりかなり以前に元本の全額を恒久的に減額または「ファースト・ロ
ス」キャピタル(ほとんどの場合は普通株式)に転換することが可能:ここでもやはり、銀行
が実質破綻とみなされる状態は、銀行の種類や法域によって異なる可能性が高い。
転換価格または転換比率:発行体は通常、転換を完了するために必要な数の株式を発行する権
限または能力を有している必要がある。転換条件の内容により、過度な希薄化を回避する行動
(証券の買戻し、資産売却など)をとるインセンティブが生じる懸念がある場合には、資本性
が認められない可能性がある。
強制転換証券
50%の資本性を認められるためには、次の特性を備えている必要がある。
(a) ホスト証券(転換前の証券)が一般債務であるか、または劣後証券で、利払いの繰延べや
停止の特性を備えていない場合
転換までの期間が短い:1 年以内に普通株式または同等の「ファースト・ロス」キャピタルに
転換されなければならない。その場合でも、転換するまでの期間に銀行の存続性に関し重大な
銀行の劣後証券およびハイブリッド証券の評価と格付
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懸念がある場合には、フィッチは資本性を認めない可能性がある。そうした場合、認められる
資本性は 0%となる。
転換価格または転換比率:発行体は通常、転換を完了するために必要な数の株式を発行する権
限または能力を有している必要がある。転換条件の内容により、過度な希薄化を回避する行動
(証券の買戻し、資産売却など)をとるインセンティブが生じる懸念がある場合には、資本性
が認められない可能性がある。
b)
ホスト証券が劣後証券で、利払いの繰延べや停止の特性を備えている場合
劣後性:すべての一般債務債権者に劣後しなければならない。
利払い停止または繰延べに関する完全な裁量
転換までの期間が短い:5 年以内に普通株式または同等の「ファースト・ロス」キャピタルに
転換されなければならないが、100%の資本性を認められる強制転換証券の要件は満たしてい
ない。もっとも、転換までの期間に銀行の存続性に関し重大な懸念がある場合には、フィッチ
は資本性を認めない可能性がある。
転換価格または転換比率:発行体は通常、転換を完了するために必要な数の株式を発行する権
限または能力を有している必要がある。転換条件の内容により、過度な希薄化を回避する行動
(証券の買戻し、資産売却など)をとるインセンティブが生じる懸念がある場合には、資本性
が認められない可能性がある。
図表 1
FECa におけるハイブリッド証券の取り扱い-例示的な概要
ハイブリッド証券の種類
FEC 比率における扱い
利払い停止の特性を備えた永久証券
50%を資本に算入
強制転換証券(現物)
-劣後証券、3 年以内に転換、利払い停止に関する完全な裁量
-劣後証券、5 年以内に転換、繰延可能または利払い停止に関する
完全な裁量、ただし 100%の資本性が認められる要件は満たしていない
-一般債務または利払いの繰延条項のない劣後証券、1 年以内に転換
任意転換ハイブリッド証券
偶発転換証券(CoCo)
-高トリガーb、利払い停止に関する制約なし(例えば、バーゼル III の
Tier 1 ホスト証券、高トリガー)
-高トリガーb、繰延不可(例えば、バーゼル III の Tier 2 ホスト証券、
高トリガー)
-低トリガーb
100%を資本に算入
50%を資本に算入
50%を資本に算入
ホスト証券として
100%を資本に算入
50%を資本に算入
ホスト証券として
注:上記は、典型的な、または予想されるハイブリッド証券の特性に基づく例示的な概要である。詳細は、格付基準を参照された
い。上記以外のハイブリッド証券または資本証券は通常、FEC 比率においては資本に算入されることはない。
a
FEC は、補助的な資本指標である。フィッチが資本基盤を評価する際の主要な評価手段は FCC であり、FCC ではハイブリッド
証券はすべて除外される。
b
偶発的な株式への転換(または元本の減額)に関する「高トリガー」とは、銀行が実質破綻に陥る時点より十分に前もって転換や
元本の減額が行われることを示す。「低トリガー」とは、実質破綻に近づいた段階で元本の減額または株式への転換が行われるこ
とを示す。
出所:フィッチ
資本証券の格付:ノッチングと起点格付
フィッチは、銀行の劣後証券およびハイブリッド証券を起点となる格付からノッチダウンする
ことで、同一の発行体であっても債務や証券の種類によって投資リスクの水準が異なることを
表示している。証券の格付は、相対的な債務不履行の蓋然性および損失度の評価を、起点格付
に加味したうえで決定される。
銀行の劣後証券およびハイブリッド証券の評価と格付
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フィッチの格付において、「債務不履行」は下記のケースを示す。

利払いまたはそれに類する分配の停止(中断または繰延べ)。

投資家に不利になるような、より劣後性が高い証券への偶発的な転換(投資家が転換オプ
ションを有するものを除く)。

元本の減額または不払い。

ディストレスト債務交換(DDE、Distressed Debt Exchange)-フィッチのウェブサイト
(www.fitchratings.co.jp)に掲載されている独立したクロスセクター格付基準を参照され
たい。
銀行ハイブリッド証券の大半は政府支援の対象となる可能性が低く、
通常 VR がノッチングの起点格付として最もふさわしいと考えられる
特別な政府支援が提供される 可能性が銀行または銀行持株会社の発行体デフォルト格付
(IDR)/一般債務格付を「押し上げている」(すなわち、IDR がサポート格付フロアーによ
り支えられ、VR を上回っている)場合があるものの、フィッチは、ゴーイング・コンサーン
時の損失吸収力を有するハイブリッド証券の格付に政府による特別な支援を織り込まない。し
たがって、発行体の VR がノッチングの起点格付となる。
フィッチはほとんどの国について、政府支援がゴーン・コンサーン型の証券(すなわち劣後債
務)まで及ぶことを(可能性はあるものの)十分に見込むことはできないと考えている。バー
ゼル III(すなわち、実質破綻トリガー)や銀行の破綻処理が議論されていることに加え、規制
資本証券に関する「損失の分担」の概念が次第に確立されてきたことも、この考え方を裏付け
ている。したがって、フィッチは、ゴーン・コンサーン時のみの損失吸収力を有する銀行ハイ
ブリッド証券についても、ノッチングの起点を VR とすることを前提とする(銀行以外の金融
機関に関しては IDR を使用する可能性が高い)。
ただし、フィッチは、一部の法域において政府支援の蓋然性が依然として高い発行体も存在す
ることを認識しており、このような場合、ゴーン・コンサーン時の損失吸収力を有する証券の
格付においても、引き続き支援の影響を織り込むこととする。中国、インド、台湾、ロシアお
よび中東諸国などでは、国有企業で政策目的を担う発行体があり、上記のケースに該当するも
のと考えられる。この場合、当該証券は発行体の IDR を起点とし、損失度に関するノッチン
グのみを実施することになる。
フィッチが格付を付与している銀行の中には、様々な理由で VR を付与されていない銀行が一
部にある。当該ケースにおいては(例えば、子会社が発行した証券の場合)、親会社の VR ま
たは IDR が最も適切な起点格付であると考えられる。または(例えば、営業していない、縮小
段階にある銀行の場合)、個々の状況を踏まえ、債務不履行リスクと損失度のリスクの分析を
個別に行うこととなる。
銀行子会社が発行するハイブリッド証券の起点格付
銀行または金融機関傘下にある子会社銀行が発行する劣後証券またはハイブリッド証券の場合、
債務不履行リスクは大きく異なる可能性がある。親会社が、子会社の証券が損失吸収トリガー
を引く事態を避けるべく、子会社支援を積極的に考えるケースも多い。こうした場合、フィッ
チが適用する手法は下記のとおりである。

子会社の劣後証券またはハイブリッド証券を支援するという親銀行の意思に懸念がある場
合、または債務不履行リスクを抑止するうえで親銀行の支援能力に制約がある場合(例え
ば証券に年間収益テストが付されている場合など)、当該証券は子会社の VR を起点にノ
ッチングされる。

(親会社よりも VR が低い)銀行子会社の劣後証券またはハイブリッド証券の債務不履行
リスクを抑止するため、親会社が実効的な支援を提供すると考えられる場合、当該証券は
子会社の IDR を起点とし、相対的な損失度のみを反映するノッチングがなされる可能性が
銀行の劣後証券およびハイブリッド証券の評価と格付
2012 年 12 月
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高い 。しかし、親会社と子会社が同一国内で事業を行っているケースなどについては通
常、親会社が同様の証券を発行した場合に付与されると想定される格付水準が、銀行子会
社の証券の格付の上限とされる。

子会社の VR が親会社の VR より高く、かつ親会社が子会社の VR に著しく悪影響を及ぼ
す行為をとらない(とることができない)可能性が高いとみられる場合、子会社のハイブ
リッド証券の格付は子会社の VR を起点としてノッチングすることが適切と考えられる。
損失度に基づくノッチング
上述のように、債券格付には、当該債務のデフォルト時における回収見込みの評価も織り込ま
れる。損失度に基づくノッチングは、破綻に近い状態にある支援の見込まれない発行体につい
て、回収の見込みが一般無担保債務を下回ることから生じる。回収率が「平均を下回る」場合、
格付は起点格付から 1 ノッチ、回収率が「低い」場合には、2 ノッチ引き下げられる。
発行時点で債務不履行のリスクが低い場合でも、損失度に基づくノッチングは常に、何らかの
形態の破綻処理または清算という「ゲーム終了」シナリオが想定されている点に留意が必要で
ある。そのような状況に至る前の段階(例えば利払いの繰延べや実質破綻に陥る前になされる
偶発的な株式転換など)の損失度が(破綻処理や清算時に比べて)大幅に低い水準になると見
込まれるとしても、損失度に基づくノッチング幅は縮小されない。かかる点は、実際に債務不
履行が発生した場合や債務不履行のリスクがかなり高くなった段階においてのみ、証券の格付
に影響を及ぼす(「ハイブリッド証券の格付『ライフサイクル』と格付の『圧縮』」の項を参
照) 。
極めて高いストレス(例えば清算)のもとでは、銀行の劣後証券およびハイブリッド証券とも
にほぼ間違いなく全額毀損することが見込まれる。一方、実際のところ、破綻処理の過程にお
いて劣後証券が証券レベルでデフォルトした場合、その回収率が 1 ノッチという損失度に基づ
くノッチング幅を正当化する場合もある。すなわち最終的に回収率は、問題の大きさ、法域に
よる銀行破綻処理方法の違い(請求権のヒエラルキーといった概念の適用の有無など)、損失
吸収が契約または法に基づくものであるか、元本削減または転換であるかなど、様々な要因に
よって異なるものとなる。
潜在的な損失度は様々であることから、フィッチは、図表 2 に示すように、相対的に劣後性の
低い証券の損失度に基づくノッチングには、ある程度の柔軟性を持たせることが合理的かつ適
切であると考える。一方、劣後性の最も高い種類の証券については、その劣後性の相対的な高
さが破綻処理シナリオのもとでの低い回収率につながるリスクの大きさを踏まえ、損失度によ
るノッチング幅を常に 2 ノッチとする。
劣後性が相対的に低い証券に関しては、フィッチは損失度に基づくノッチングのベースケース
を 1 ノッチとするが、状況によっては 2 ノッチが適切な場合もある。ノッチング幅が拡大する
要因としては(ただし、必ずしも拡大するわけではない)、倒産法制や破綻処理制度の内容・
洗練度、元本削減に関する契約条項、より大きな清算リスクの存在、株主資本以外の劣後性の
より高い資本が少ないことなどが挙げられ、特にこれらのうち複数の要因が発行体に関連する
場合にはノッチング幅の拡大につながりやすい。偶発転換資本証券に関しては、フィッチは損
失度に基づくノッチングのベースケースを 2 ノッチとする。
債務不履行リスクに対するノッチング
ゴーイング・コンサーン時の損失吸収
ゴーイング・コンサーン時の損失吸収力を有する証券に関しては、格付において最も重要な変
数となるのは損失度ではなく、むしろ実質破綻トリガーによる債務不履行の蓋然性である。ゴ
ーイング・コンサーン時の損失吸収機能の発動は、銀行が破綻したことを意味するものではな
いが、債券格付においては「債務不履行」として取り扱われる。
3
債務不履行リスクの増分が最小限であるゴーン・コンサーン型の証券または T2 偶発転換資本に対して
は、元本削減に関する定めとは関係なく 1 ノッチ、その他の証券に対しては 2 ノッチのノッチング。
銀行の劣後証券およびハイブリッド証券の評価と格付
2012 年 12 月
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Banks
利払いに関する発行体の完全な裁量
フィッチは、発行体の完全な裁量による利払いの調整が最も容易な損失吸収形態であると考え
る。規制当局が銀行にいかなる時点で利払い停止を「求める」かは明らかでないが、銀行の資
本水準が、資本保全バッファーや、当該銀行に規制上適用される恒久的または一時的な資本バ
ッファー水準を割り込んだ時点で利払い停止を求められる可能性が高い。
銀行の資本水準が資本バッファーに割り込むリスクは、銀行が実質破綻に陥るリスクより高い
ため、利払いに関して完全な裁量が認められている銀行ハイブリッド証券については、他の特
性に関わりなく、銀行の債務の中で最も大幅なノッチングが加えられる可能性が高い。
事前に設定された偶発的な転換または元本減額のトリガー
利払いに関する完全な裁量が認められている場合、利払いの調整が、発生する(少なくとも他
のイベント以前に発生する)可能性の最も高い「債務不履行」イベントであると考えられる。
この場合、契約上の他の債務不履行イベント(例えば、元本減額または転換トリガー)は、証
券格付に織り込む債務不履行リスクの評価のうえで重要な要素とならない。
しかし、単に既定のトリガーに抵触した時点で偶発的な転換や元本減額を通じて損失吸収が行
われる証券(Tier 2 偶発転換資本など)の場合、かかるトリガーによって当該証券の債務不履
行リスクが発行銀行の VR より高いものとなる。フィッチは、債務不履行リスクの増分が「最
小限」(すなわち、トリガーが極めて低い水準に設定されているため、実質的に「ゴーン・コ
ンサーン」資本である)であるか、「中程度」であるか、「高い」かによって、債務不履行リ
スクの増分に対するノッチングとして 0~2 ノッチを加える。
リスクの増分を「最小限」、「中程度」、「高い」のいずれとするかのフィッチの評価は、多
くの変数に左右される。例えば、銀行の収益の変動性、リスクアセットの調整にかかる柔軟性
や、資本の余裕が既定のトリガー水準をどれほど上回っているかといった試算などが考慮され
る。一方、ノッチングが小幅にとどまるケースとして、より早い段階で抵触するトリガーが設
定された他の証券が十分にあり、債務不履行リスクが緩和される場合が挙げられる。
設定されるトリガー水準とかかるトリガーが銀行の経営上必要な資本と比較してどの程度の水
準なのかが明らかになるまでは、フィッチは多くの法域において債務不履行リスクのノッチン
グを保守的に行う可能性が高い。
従来基準のハイブリッド証券
従来基準のハイブリッド証券については、金融危機が発生するまでの間に多様な契約条項が生
み出された。このような複雑な商品設計こそがハイブリッド証券の損失吸収機能を阻害し、ま
た、ハイブリッド証券の格付作業をより難しくする要因でもあった。
従来基準の Tier 1 証券については、理論上、利払いに対する柔軟性が認められているはずであ
ったが、実際には大半の証券が「強制支払」条項によって利払いの柔軟性を厳しく制約されて
いた。かかる制約は、ルックバック条項やパリティ証券の文言などによるものだけでなく、利
払いの繰延トリガーが所要規制資本の最低水準か、それにごく近い水準に設定されており、ト
リガーに抵触しない限り利払いを強制されていた事例もあった。DDE のリスクによってかか
る複雑性は大幅に緩和されたとはいえ、完全に払拭されたとはいえないため、このような証券
については格付の柔軟性が制約される。
利払いの繰延リスクが残ること、および DDE の対象となる可能性があることから、フィッチ
は、従来基準のハイブリッド証券の多くは相対的な債務不履行リスクが高いとみなしている。
このためフィッチは、債務不履行リスクの増分に対して 2 ノッチのノッチングを行うことが基
本になると考えている。ただし、例えば債務不履行に関する制約が非常に大きいと判断される
場合で、特にその点がすでに検証されている場合などは、債務不履行リスクに関するノッチン
グ幅を 1 ノッチにとどめる場合もある。
期限の定めのある Tier 2 証券および期限の定めのない Tier 2 証券で繰延可能なものは、従来基
準の Tier 1 証券と概ね同様に考え、フィッチは債務不履行リスクに関するノッチングについて
も同様の手法を採用する。
銀行の劣後証券およびハイブリッド証券の評価と格付
2012 年 12 月
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Banks
ゴーン・コンサーン時の損失吸収
実質破綻トリガー
フィッチは、純粋な実質破綻トリガーが設定されている場合の債務不履行リスクは、フィッチ
の VR に織り込まれた債務不履行リスクと同水準であると考える。そのため、実質破綻トリガ
ーが設定されていることを理由に、債務不履行リスクに関して追加的なノッチングを行うこと
はない。契約上の元本減額トリガーが定められていない他のゴーン・コンサーン型の証券につ
いても同じ手法をとるが、これらの証券は、実質破綻時には法に基づき元本減額/削減もしく
はより劣後性の高い資本への転換がなされるか、または単に破綻処理の過程で損失を被る可能
性がある。これらの証券については、損失度に基づくノッチダウンのみを行う。
ハイブリッド証券の格付のライフサイクルと圧縮
VR が「bbb-」以上の場合のハイブリッド証券の格付
図表 2 は、VR が「bbb-」以上の銀行が発行する銀行ハイブリッド証券に対して、フィッチが
格付を付与する際の基本となるアプローチを示している。フィッチは、規制資本上の取扱いで
はなく、証券の特性に着目して格付を行うことに留意が必要である。例えば、利払いに関する
完全な裁量を備えた従来基準の Tier 1 証券は、銀行の VR より 5 ノッチ低い格付となる。
銀行がハイブリッド証券を発行するのは、発行時における絶対的な債務不履行の蓋然性が比較
的低い場合に限られるとフィッチはみている。発行時から債務不履行の蓋然性が比較的高い場
合のゴーイング・コンサーン時の損失吸収力を有するハイブリッド証券については、ノッチン
グ幅が図表 2 に示されているものよりも大幅に拡大することとなるだろう。また、新規発行証
券が短中期的に債務不履行に陥ることが実質的に不可避であるとフィッチが考える極端なケー
スでは、当該証券は発行時にすでに株式に類似した性質を有していることから、フィッチは当
該証券の格付を行わないことがある。
VR が「bb+」以下の場合
フィッチの格付尺度には 19 段階という制約があり、債務が履行されている証券と履行されて
いない証券の双方を同一の尺度で格付するため、図表 2 に概要を示したノッチング手法を厳格
に適用すると、銀行の VR が「bb+」以下である場合、格付の「圧縮」を引き起こす可能性が
ある。したがって、フィッチは、発行体の VR が「bb+」以下である場合、図表 3 に示すガイ
ドラインを用いて格付を決定することとしている。
発行体の VR の推移、事業内容および発行体の資本構成の複雑性や特性などの要因、フィッチ
が図表 3 に示した上限の格付または上限より低い格付を適用するかを決定する際に影響を及ぼ
す。例えば、比較的安定した信用力と低いレバレッジを長期にわたり維持している新興市場の
発行体が、カントリーリスクや規模、分散にかかる制約などを反映して「bb」レンジの VR を
付与されているとする。こうした発行体のハイブリッド証券は、VR が同水準であるものの低
下傾向にある発行体が発行し、規制当局の潜在的な意向に沿うような資本の留保措置等によっ
て債務不履行リスクが高まっているハイブリッド証券に比べ、債務不履行リスクが低いと考え
られる場合がある。このようなケースで、とりわけ規制当局が銀行に損失吸収機能の発動を強
要するリスクが低いと考えられる場合、同様のハイブリッド証券であれば、前者のが発行した
証券が後者の発行したものよりも高い格付を付与される可能性がある。
破綻または実質破綻に陥った場合のみ損失を吸収することになっているゴーン・コンサーン型
の証券に関しては、「bb+」以下の発行体を含むすべての格付水準において、発行体の VR よ
りも 1 ノッチ低い格付とすることをベースケースとする。状況によっては 2 ノッチ低い格付と
なる可能性もあるが、それは例えば、元本の全額削減または高水準の損失の蓋然性が極めて高
い場合や、一般債務が IDR を起点としてノッチダウンされている場合である。疑義を避けるた
め 付 言 す る と 、 フ ィ ッ チ が 銀 行 証 券 に 回 収 率 格 付 ( 「 Recovery Ratings for Financial
Institutions」(www.fitchratings.co.jp にて閲覧可能)を参照されたい)を付与している場合で
も、本格付基準レポートに示す手法が適用される。
銀行の劣後証券およびハイブリッド証券の評価と格付
2012 年 12 月
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Banks
図表 2
VR が起点格付である場合において VR が「 bbb−」以上のときの格付ガイドライン
平均回収率と比較し
た損失度に基づく
ノッチング幅
VR と比較した
債務不履行リスク
格付を決定する主要な特徴
証券の例
損失度
高い劣後性。利払い停止に関する
完全な裁量。
高い劣後性。非累積型の利払い
繰延べは制約されることが多い。
高い劣後性。容易に発動される
トリガー(例えば収益テスト)。
劣後性。(契約上または法定の)
実質破綻時の損失吸収。
劣後性。利払いの柔軟性なし。
元本減額または転換トリガー。
劣後性。利払いの柔軟性なし。
バーゼル III 基準 Tier 1
回収率が低い
−2
極めて高い
一部の従来基準 Tier 1
回収率が低い
−2
一部の従来基準 Tier 1
回収率が低い
−2
バーゼル III 基準 Tier 2
劣後性。累積型の利払い繰延べ
は制約されることが多い。
劣後性。容易に発動されるトリガー
(例えば収益テスト)。
一部の従来基準 UT2/
繰延可能な LT2
一部の従来基準 Tier 2
回収率が平均
を下回る/低い
回収率が平均
を下回る/低い
回収率が平均
を下回る/低い
回収率が平均
を下回る/低い
回収率が平均
を下回る/低い
Tier 2 偶発転換資本
従来基準 Tier 2
−1a/−2
債務不履行に対 VR からのノッチング
するノッチング幅
幅の合計
−3
−5
中程度/高い
−1 または−2
−3 または−4
極めて高い
少なくとも−3
少なくとも−5
0
−1a/−2
0~−2
−1~−4
0
−1a /−2
最小限
−1/−2a 最小限/中程度
/高い
−1a/−2 最小限
−1a/−2
中程度/高い
−1 または−2
−2~−4
−1a/−2
極めて高い
少なくとも−3
少なくとも−4
a
= 「ベースケース」
出所:フィッチ
銀行の劣後証券およびハイブリッド証券の評価と格付
2012 年 12 月
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Banks
「b」以下の格付を付与された発行体のハイブリッド証券に関しては、フィッチは債務不履行
と損失度のリスクを個別に分析する。分析に際しては、当該証券と法規制の主な特徴および
VR の推移に加え、債務不履行の蓋然性が高い場合は、見込まれる債務不履行のタイプと債務
不履行時の格付水準が考慮される。
図表 3
VR が起点格付であり、かつ VR が「bb+」以下のケースにおける格付ガイドライン
bb+
BB
b
劣後性。利払いの柔軟性なし。
実質破綻時の損失吸収。
BB
b
劣後性。累積型の利払い繰延
べ。制約されることが多い。
劣後性。利払いの柔軟性なし。
ゴーイング・コンサーン時の元本
減額または転換トリガー。
劣後性。利払いの柔軟性なし。
bb
bb−
b
BB−
b
b
B+
b
b+
B
b
b
b
b−
b
B−
ccc, cc, c
b
CCa
b
CCC
b
B−
CCC
CCa
BB−
B+
B
BB− a
B+a
Ba
B−a
CCCa
CCa
C
BB− a
B+a
Ba
B−a
CCCa
CCa
C
Bb
B−a
CCCa
CCCa
CCa
C
B−a
B−a
CCCa
CCCa
CCa
C
a
高い劣後性。非累積型の利払い B+
繰延べ。制約されることが多い。
Ba
高い劣後性。利払い停止に関
する完全な裁量。
a
格付の上限
= 「ベースケース」
出所:フィッチ
b
相対的な債務不履行リスクが高まった場合
通常、銀行の VR の格下げが、VR を起点する証券のノッチング自体に影響することはない。
しかし、銀行のハイブリッド証券が実質破綻トリガーによって債務不履行となる蓋然性が高ま
っている場合には、ノッチングが変更される可能性がある。例えば、資本管理方針の変更や、
規制上の資本バッファーが予期しない形で変更された場合などが考えられる。また、他の例と
しては、資本水準の低下が緩やかながら着実に進み、Tier 1 証券の利払いが債務不履行となる
懸念が高まっているものの、Tier 2 CoCo の高水準の転換トリガーに抵触するリスクが著しく
増大しているわけではないという場合が挙げられる。
このような場合には、銀行の劣後証券およびハイブリッド証券の格付の決定に際して個別の対
応が取られるが、i)当該銀行が置かれている状況の進展を踏まえるとともに、ii)当該証券が
債務不履行となった場合に格付水準(次項参照)がどうなるかということを考慮したうえで、
証券の債務不履行リスクを検討することになる。
発行証券が債務不履行になった場合
発行証券がいかなる形態であれ債務不履行となった場合、当該証券の格付に、損失吸収の形態
およびそれが継続すると予想される期間を織り込むことになる。考慮される要因には、銀行の
VR の水準や、損失吸収の形態(累積型の利払い繰延べか利払いの停止か、影響を軽減する要
因はあるか、元本の減額は一時的または恒久的なものか、など)が含まれる。債務不履行とな
った証券には、図表 4 に従って格付が付与される。格付は、予想キャッシュ・フローの正味現
在価値と発行体の VR に基づいて決定される。
銀行の劣後証券およびハイブリッド証券の評価と格付
2012 年 12 月
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Banks
図表 4
債務不履行となったハイブリッド証券の格付
債務格付
債務不履行となった債務
B カテゴリー
損失吸収機能が発動されるも、当該債務は正常な元利払いを再開すると予想され、経済的損
失は回収率格付 RR1 に相当する極めて低い水準に留まると予想される場合。
CCC
損失吸収機能が発動されるも、当該債務は正常な元利払いを再開すると予想され、経済的損
失は回収率格付 RR2 に相当する中程度に留まると予想される場合。
CC
損失吸収機能が発動される。当該債務は正常な元利払いを再開すると予想されるものの、経
済的損失は回収率格付 RR3 に相当する高い水準になると予想される場合。
C
損失吸収機能が発動される。当該債務は正常な元利払いを再開すると予想されるものの、経
済的損失は回収率格付 RR4~RR6 に相当する極めて深刻なものになると予想される場合。
損失吸収が短期間(例えば、6 カ月、または年 1 回の利払いの場合は 1 回分)の累積型の利払い繰延べの形で行われる場合、
または代替利息弁済メカニズム(ACSM、alternative coupon satisfaction mechanism)などにより影響が軽減される場合には、
通常フィッチでは格付を「BB」以下(例外的に「BBB」)に引き下げる。
出所 : フィッチ
発行証券の債務履行が再開された場合
発行証券の正常な支払いが再開された場合は、図表 2 および 3 で示した手法に則り、実質的に
再び格付が付与されることになる。
入れ替えおよび変更条項
劣後証券やハイブリッド証券に、証券の契約条件の変更や、新規証券との入れ替えを認める条
項が付されていることがある。かかる条項の挿入は、受託者等の承認を前提に、発行体の裁量
で行われる場合がある。
フィッチは当該条項が債券格付に影響を及ぼすか否かについて個別ケースごとに評価する。最
悪のケースでは、条件変更または損失度もしくは債務不履行リスクのより高い証券への入れ替
えが行われる蓋然性が高いと考えられ、かつ入れ替え/変更後の証券の形態が明確である場合、
フィッチは、入れ替えまたは変更後の証券の条件に着目して格付を行う。
銀行の劣後証券およびハイブリッド証券の評価と格付
2012 年 12 月
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Banks
( 本 レ ポ ー ト の 英 語 版 は 、 「 Assessing and Rating Bank Subordinated and Hybrid
Securities」として公表されています。分析内容に関するご質問・ご不明の点は、上記の担当
アナリストにお問い合わせください。)
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銀行の劣後証券およびハイブリッド証券の評価と格付
2012 年 12 月
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