祖国とのつながり エルコ・ケイ ブランカ・ヴァン・ハッセルト あなたが国内、国外に住んでいるかどうかに関わらず、民主的な政府の下で、海外に住んでいる自国民を、どのように政 治的に処遇したら良いか考えたことがありますか?コロンビア(1991)、ドミニカ共和国(2010)、そしてチュニジア(2011)は、 国外居住者の参政権を尊重するために、それぞれ1、7、そして18の国会議席を設けています。同様のシステムが、世界の広範 囲に住んでいる自国民に対して、フランス、イタリア、クロアチア、ポルトガルそしてスイスでも設けられています。では、 これらのシステムは実際どのように機能しているのでしょうか。いつ、そしてなぜ創られたのでしょうか?どのような人が関 わっているのでしょうか?国外居住者の議席について何か規制はあるのでしょうか?国外居住者の議席は本国にとってどの ようなメリットがあるのでしょうか?これらのことについて、エルコ・ケイ が『祖国とのつながり-外国に居住するオランダ 国民の新しい参政の在り方』を著しました。 フランス国民の推定4%が国外に住んでいます。フランスは植民地を持っていたので、18世紀の終わり頃にはすでに、国外 居住者の公民権について議論されていました。1948年に、選挙で選ばれた議員と外務省に指名された議員によって構成され るCSFE (在外フランス人審議会)が設立されました。設立の目的は二つありました。領事館への登録を義務づけることによ り、国外居住者を把握するためと、投票権を認めることを条件にして、フランス側の何らかの組織に所属させることでした。 こうして、外国のどこに何人のフランス国民が住んでいるかを把握する一方で、フランス国外での国益を確保しようとした のです。1950年に初めてCSFEの選挙が70か国で行われました。今日、フランス上院は国外居住者のために12の議席を設けて います。2004年に改革が行われ、CSFEはAFE (在外フランス人評議会)になりましたが、世界中にあるAFEの155名のメンバー が、年に2回、国会議員と外務省の代表者と会います。この会合において、AFEは事実上、社会経済面の相談役として機能 し、提案したり質問したりするのです。例えば、教育、海外に住んでいるフランス国民の政治的な立場、税金、社会問題、 輸出入、その他、国外居住者に関係する問題について話し合います。2012年には国会下院に、国外居住者のために11議席が 設けられました。この11人はフランスの国会議員であると同時にAFEの代表でもあります。CSFEが助言するだけの機関だっ たのに対して、AFEは影響力のみならず実権も持っています。 イタリア国民の7.5%が国外居住者です。彼らには以前から選挙権が与えられていましたが、2001年までは、投票するため にイタリアに帰らなければなりませんでした。それが2001年以降は、郵便で投票することができるようになりました。それ と同時に、国外居住者のために上院に6議席、下院に12議席が設けられました。その理由は3つあります。イタリア全国民に 対する民主平等化、つまり、より多くの国外居住者を本国の民主システムに組みこむため、イタリア国民が長年本国にして きた財政的貢献を評価するため、そして最後に当時の政府の党利党略でした。(ベルルスコーニはもっとこうした議席を設 けたかったのですが、皮肉にも反対勢力に取られてしまいました。)ジャン・ミッシェル・ラフルールは調査の結果、多く のイタリアの政治家が国外居住者議席を設けることによる経済効果を認めていると報告しています。国会議員のフランコ・ナ ルドゥッチはインタビューにこう答えています。(2007年2月19日): 「外国に居住しているイタリア国民は、イタリアの発展に貢献できる戦力的リソースです。彼らとの連携ネットワークは 国家にとって大きな財産です。世界中の商品や人材の発掘、またイタリアの経済発展と国際関係の改善に役立っていると思い ます。」 クロアチアではまた状況が違います。1991年クロアチアはユーゴスラヴィアからの独立を宣言しました。その後すぐに内 戦が起こり、1995年に独立国クロアチア政府が勝利しました。度重なる民族紛争のために、クロアチア人はバルカン半島、 ヨーロッパ各地やその他の地域に散らばってしまいましたが、クロアチア政府が最近出した政策文書には、「すべてのクロ アチア人は、どこで何をしていようと、一つの分割できないクロアチア国に属している」としています。また、憲法10条には 「クロアチア共和国は、外国に居住もしくは生活しているクロアチア国民の権利と利益を守り、本国との関係を促進し、特 別な配慮と保護を保障する」と謳っています。 ポルトガルの人口の約30%が国外住者です。そのほとんどがフランス、スイス、イギリス、アメリカ、ブラジル、ベネズ エラに住んでいます。この数十年間の間に、ポルトガル国憲法は、外国に住むポルトガル国民の利益を擁護するために数回改 正されました。 スイスは、その高度な代議民主制と地方分権で有名な連邦共和国ですが、おそらく世界で一番広範囲にわたる国民投票に よる代議制民主政治を行っています。スイス人の20%近くが外国に住んでいます。ASO(在外スイス人組織)は評議会、スイ ス国代表、政治、科学、文化の分野の代表者で構成されていますが、彼らの多くは国外居住経験者です。ASOのメンバーは4 年の任期で選挙されます。評議会は「5番目のスイス国会」と呼ばれますが、それはスイス国内で4つの言語が話されている ことを示唆しています。財政の3分の2は個人から、3分の1は政府の補助により運営されています。 約5%の国民が外国で暮らしているオランダでは、上記の国々とは異なって、国外に居住するオランダ国民ための独立した 参政システムがありません。エルコ・ケイは著作の中で、インターネットが出現してからというもの、移住や世界貿易が、良 くも悪くも急速に促進され、オランダは大きな国際化の影響下にあり、新しい国際的な政治経済ネットワークが設けられる だろうと予測しています。現在は法改正が必要なので不可能ですが、エルコ・ケイは彼の著作全体を通して、国外に居住する オランダ国民のための特別議席を設定することを強く提案しています。 この本を読み終えて、私は日本について考えました。海外に住む日本人が日本の国政に参加するようになるかどうか、ま たするとしたら、どのような方法で参政するか興味のあるところです。 訳: 神村伸子 (Nobuko Kamimura) I-News 107 December 2015/ January 2016 The New Year Issue 18
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