電子恒温槽と電子温度計の製作 - i

電子恒温槽と電子温度計の製作
科学部新聞
第
4
号
アマチュア無線の勉強のなかで、「発振器は電源電圧・温度等によって発振周波数が変動しない」という一節があったのを覚えているでしょうか?
電子回路を構成する色々な部品は、温度の変化によって定数が変化します。例えば、温度の変化に対して安定な金属皮膜抵抗でも10KΩの抵抗は1℃の
変 化 で 約 1 Ω 増 加 し ま す 。 ( 割 合 で 表 わ せ ば0.01 % / ℃ と な る ) 、 変 化 の 割 合 を 通 常 P P M 単 位 で 表 わ す の で ( P P M と は 1 0 0 万 分 の 1 の 割 合 ) こ の 場 合
100PPMとなります。ところが半導体は温度の上昇によって電気抵抗が小さくなり、しかも、その割合はかなり大きいので(数千PPM)、電子回路は
温度によってかなり大きく変動しますので、変化を小さくおさえるように色々工夫をします。
発振回路も温度によって大なり小なり必ず周波数が変化します。発振回路のなかで周波数の安定度が高い回路に水晶発振回路がありますが、これは水晶の
温度による変化が通常1PPM程度に収まるので、この性質を巧みに使って高い安定度を実現したものです。
しかし、水晶発振回路が安定であると言っても、UHF帯の無線機の発振回路となると少し安定度に不安が出てきます。
最 近 か な り 一 般 的 に な っ た 1. 2 G H z 帯 に な る と 、 2 0 K H z お き に チ ャ ン ネ ル が 設 定 さ れ る の で 、 単 純 に 周 波 数 の 安 定 度 を 考 え る と 2 0 K H z ÷ 1. 2
G H z = 1 7 P P M と な り ま す が 、 完 全 に 同 調 す る た め に ± 1 K H z の 範 囲 に な く て は な ら な い と す る と 1. 7 P P M の 安 定 度 が 要 求 さ れ ま す 。 従 っ て 水 晶 発
振回路が大変安定であると言ってもこの周波数帯では少し物足りなくなってしまいます。
同じように大変高い精度が要求されるものに色々な測定器があります。先日周波数を測定するために8桁周波数カウンターを自作しました。周波数カウン
ターとは、一定時間の間に波の数を数えることで周波数を測定する装置です。例えば1KHzの周波数の信号は1秒間に1000この波を数えることになり
ます。
こ の 周 波 数 カ ウ ン タ ー で 一 番 肝 心 な 部 分 は 一 定 時 間 間 隔 を 刻 む 発 振 回 路 で す 。 勿 論 水 晶 発 振 回 路 を 使 っ て い ま す が 、 8 桁 の 精 度 を 得 る た め に は 0. 0
1PPMの安定度が必要になります。従って電源電圧が変動しない様に定電圧電源にするのは勿論のこと、温度が変動しないように特別な回路をつくって常
に一定の温度になるように発振回路全体を恒温槽の中に埋め込んでしまいます。このような工夫により発振回路の周波数の安定度を確保します。
そこで今回は、温度を一定にする回路を紹介しましょう。またあわせて簡単な電子温度計の作り方を説明します。
0.7
1KΩ
左の図を見てください。シリコンダイオードに順方向に電圧を加えたときの
0.5
電池
ダイオードの両端の電圧をしめしています。この場合オームの法則に関係なく
この傾きが
0.3
約0.7Vの電圧が発生します。この電圧を順方向電圧降下と呼び、1℃温度
ー2mV/℃
が上昇すると約2mV減少します。この変化はたいへん直線的なのでこの変化
0. 7 V
0
50
100
℃
を利用して温度計を作ることが出来ます。
1℃で2mVの電圧変化は100
1℃の変化で2mVの電圧変化を増幅してメー
+5V
℃ 温 度 が 変 化 し て も 0. 2 V の 変 化 で
R
ターを振らせることは比較的簡単ですが、通常順
2
すから、あまりにも小さいので、増
方 向 電 圧 降 下 が 0. 7 V あ る の で そ の ま ま で は 大 き
な電圧が生じてしまいます。そこで左の回路で変
R
化分のみを取り出します。この様な回路をブリッ
幅器で10倍ほど増幅して100℃
1
の変化で2Vの電圧になるようにし
ます。その回路が左の図で、OPア
ジと呼びます。具体的な調整方法は、まずダイオ
V
ンプを使います。増幅率は2つの抵
ードを0℃に冷やし、その時の電圧が0Vとなる
抗の比率で決まるので、100℃の
ように半固定抵抗を調整します。すると温度が1
お湯の中にダイオードをつけてこの
℃増加すると図の電圧計に2mVの電圧が現われ
R
ます。したがってかりに35mVの電圧が発生し
増幅率=
ていれば温度は35℃であることになります。
R
+5V
820K
プとしてTL071のどのタイプのものが利用できます。
10K
温度の測定につかうダイオードはスイッチング用の小型
10K
100K
れば完成です。
1
左に示した回路が実際の温度計測回路です。OPアン
78L05
250K
時に電圧が2Vになるように調整す
2
シリコンダイオードならどのようなものでも使えます。
+5v
+5v
ただしOPアンプは正負2電源で使うのですこし電源
006P
100K
8、CA3160などを使えばもっと簡単に乾電池で動
-9v
3. 3 K
回路が面倒になりますが、単一電源で動作するLM35
V
006P
作する回路となります。なお78L05は定電圧電源よ
うのICで、電池の電圧が変化しても常に5Vの電圧を
ー9v
右の回路が温度を一定にする回路です。温度計を利用
して、設定した温度以下の場合はトランジスターに電流
を流し発熱させ、上がり過ぎると電流を切って温度を常
に一定に保つ回路です。計算上は設定した温度に対して
ヒーター用のトラ
ンジスターを張り
つける。
発生させるために使います。
0. 3 m m 程 度 の 銅 の 板 で
箱を作り熱がまんべんなく
伝わるようにする
+5v
+10v
2.2K
± 0. 0 1 ℃ 以 内 の 範 囲 に 入 る は ず で す が 。 実 測 し た 所
2.2K
1.8K
約 ± 0. 0 7 ℃ 程 度 の 幅 に 収 ま っ て い る よ う で す 。
この回路を利用して、右の図のように熱伝導のよい銅
板で作った小さな箱の中に発振回路をいれ、回りを断熱
材で囲んで発振回路全体を一定の温度に保つようにしま
3.3K
し た 。 こ の 結 果 発 振 回 路 の 安 定 度 は 0. 1 P P M 程 度 は
6.8
1.5K
見込めるようです。
なお、発振回路、温度を一定に保つ回路に電圧を供給
する定電圧電源もこのなかにおさめています。このほこ
水晶式発振回路を
の中は約45℃に設定していますので、1年を通じてほ
内部にしまう。
Trに密着させる
とんど温度の変化はないはずです。
この発振回路を使った周波数カウンターで、無線機の
水晶式発振回路の周波数変動が大変よく測定できました。
このトランジスターをヒーターとし
て使う。ヒーターの温度はダイオー
ドを使って検出し、常に一定の温度
に保つ。