違法ダウンロードと現代人のモラル 法学部 法律学科 1年 1002029 杉元康治 1.はじめに 周囲が携帯電話を持ち始めたころ、無料で音楽が聴けるという話題がもちきりとなって 1 いた。それは音楽投稿型の掲示板サイトを利用したもので、そこに違法にアップロード(以 下、UL とする)された音楽ファイルをダウンロード2(以下、DL とする)すれば、誰で も無料で音楽が楽しめた。当時から、違法に UL をした者は刑事罰の対象とされていたの だが、DL をした者を取り締まる法はなかった。私も疑問を感じつつ DL をしていたが、 あれから数年が経った今日では、DL を行う者を制限する法が規定されている。 2.著作権法の改正とその後の状況 2010 年 1 月 1 日から改正された著作権法の施行によって3、違法に UL した音楽・動画 ファイルであると知りながら DL を行った者も違法になることになった。この改正により、 民事上では損害賠償の請求ができるようになったが、刑事罰は規定されなかったため、被 害があっても警察に捜査を期待することはできず、あくまでも権利者個人でそれを行わな ければならない。また、違法 UL 者については、刑事罰の対象となりえることから、情報 開示義務がプロバイダ4に課されているが、違法 DL 者についての情報開示義務はない。さ らに、違法 DL による被害額は全体で見ると多額になっても、個人単位では微々たるもの であるため、費用や労力をかけてまで裁判や調査を行うかという疑問がある。つまり、違 法 DL 者に対する規定によって保護される権利はそれほど強いとはいえないのである。 今回の改正により、違法に DL される数の減少が期待できるものの、違法 DL に関する 調査(資料1)によれば、経験者の 4 割近くがこれからも継続して違法に DL すると答え ている。これは、コンプライアンス(法令遵守)に対する意識の低さが浮き彫りとなる結 果であり、今後も私達のモラルが問われることになるのは変わりない。 1 2 3 4 インターネット上にデータを公開すること。 アップロードされたデータを複製して保存すること。 著作権法 30 条 1 項 3 号(平成 21 年法律第 53 号)。 インターネット接続業者のこと。OCN や Yahoo!BB など。 1 資料1 <違法ダウンロード経験別の今後の意向> (2010 年 2 月 15 日発表)オリコン調べ 3.合法的「無料」の存在 違法 DL を行うための機器は、パソコンや携帯電話に限らない。私が所有している SONY のプレイステーション35では、映画や音楽を「有料」で鑑賞する方法と、「無料」で鑑賞 する方法が併存している。有料で利用する場合、電子マネーで代金を支払い、DL して再 生することになる。無料で利用する場合、ブラウザ6を起動し、「見たい映画のタイトル」 と「無料」というキーワードで検索すれば、違法に UL された映画を無料で鑑賞できる。 1つの機器で、同質のものが「有料」でも「無料」でも鑑賞できる状況にあれば、わざわ ざ金を払って見ようとする人が減るのも仕方ないであろうし、このような状態にしている 現在の知的財産を取り扱うシステムにも、大きな問題があると言わざるを得ない。 さらには、改正によって違法 DL に対する制限が加えられたものの、近年主流となって いるストリーミング7による知的財産物を鑑賞する行為については、それが違法 UL された ものであっても規制の対象ではない。このように、著しく進歩する IT 技術に対応する法 の規制はいつも後手に回ってしまうが、それを回避することは難しいという現状にある。 5 6 7 ソニー・コンピュータエンタテインメントが、2006 年に発売した家庭用ゲームハード。Blu ray 読み取 り機能を標準装備している。 ウェブページをディスプレイやプリンタに出力したり、ハイパーリンクを辿ったりするソフトウェアの こと。Internet Explorer が一般的。 データを一時的に保存し、再生等すること。永久的な保存はされない。 2 4.権利者保護の重要性 私自身も無料サイト等から音楽ファイルを DL していたが、この行為はアーティストに 何の利益も生まない。むしろ間接的に損害を被らせていると知った時から、DL するのを やめた。音楽にしろ、映画にしろ、それらを生み出すには多大な労力が費やされているの であり、私たちがそれらを鑑賞したいと思うのであれば、相応の代価を支払わなければな らない。生み出される作品が知的財産として保護されることより、アーティストは新たな 著作物を安心して製作することができ、更なる芸術の発展が期待できるのである。 近年の知的財産保護に対する意識の高まりにおいて、それを守る最低限のモラルが求め られており、 「罰せられないのなら、何をしてもかまわない」という意識の改善が必要とさ れている。そして、進歩し続ける技術レベルに即応させて、著作権法を見直したり違法 DL の規制強化を行ったりすることによって、知的財産権者の保護が叶うのであろう。 5.おわりに 日本は芸術的著作物を数多く有しており、昨今においてはアニメや音楽なども諸外国で 高い評価を受けている。しかしながら、知的財産保護について意識の低い国では、日本の 著作物が数多く違法にやりとりされており、知的財産保護を巡る問題は一国のものに収ま らないため、国際的なルール作りも視野に入れた権利者保護の強化が求められる。 また、私達の権利を保護してくれる法は、その性質上いつも後手に回るため、日々進歩 し続ける技術に近づくことはできても、追いつくことのできない「差」が存在する。その 「差」を埋めるのは、私達が持つ現代人のモラルに他ならない。すなわち、違法 DL を筆 頭とした知的財産権侵害は、そのモラルに反する行為であり、権利者に損害を与えるだけ でなく、本来期待される経済活動の障害となる社会問題であることを認識し、私達現代人 は適切な法とモラルをもって、それらに対応していかなければならない。 3 参考文献 (1) 福井健策『著作権の世紀―変わる「情報の独占制度」―』(2009 年、集英社)。 (2) 野口祐子『デジタル時代の著作権』(2010 年、筑摩書房)。 (3) 津田大介『だれが「音楽」を殺すのか』(2004 年、翔泳社) (4) アイティメディア株式会社『ITmedia』(2010 年 2 月 15 日更新) <http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1002/15/news094.html>(2011 年 1 月 24 日)。 4
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