21世紀の知っておきたい旅行医学てんかんをかかえる人と家族の旅行医学年間航空機を利用する旅行者がの P 時差と抗痙攣薬の内服時間患者さんが海外旅行を経験する機会も ROLOGUE 増えています。てんかんは、日本でも海外旅行健康保険海外旅行には時差がつきものです。時差に伴う睡眠不足、過労はてんかん 2002年1月某日夜半、東京近郊の救急病院ただ一回だけ欠かした時に、このアクシデントが 100 万人を超える患者さんがいるといに心肺停止で救急搬送されてきた患者が1時間起こりました。浴槽内でのてんかん発作→水死われています。抗痙攣薬の進歩によ海外旅行に際して、多くの旅行者が発作の誘因となることが知られていまにわたる心臓マッサージ、人工呼吸を受けましたという経過でした。り、一部の難治性てんかんを除き、ほ保険会社と旅行期間中の医療保険のす。ハワイのStraub Clinicの救急医のが、9時過ぎに死亡宣告が下されました。担当し数人の医師が、救急蘇生に関りながら、てっとんどの患者さんが規則的な抗痙攣薬契約を結んでいることと思います。て報告によると、ハワイを訪れる日本人た救急医の1人が死亡診断書の記入をしながきり男性だと思い込んでいたKさんが社会からの内服で、日常生活には支障がなく海んかんの既往は、契約前の疾病とみなにおいて、初発痙攣発作が多くみられら、「この患者さんは女性だったのだ！」と驚きの引きこもって生きてきた27年の人生とは何だっ外旅行も十分に可能です。まず海外旅され契約料や契約の範囲に制限があるるとの報告があります2）。睡眠をとら声を上げました。たのか？都内の病院に欠かさず付き添い、入行を計画する際ぜひ知っておきたい留ことがありますので注意が必要です。ないことが大きな誘因となっているよ意点について列記します。旅行代理店や保険会社に問い合わせうです。原則的には時差にかかわらず、ることが必要です。内服を継続することで対処できますこのKさんの基礎疾患はてんかんです。さ浴時の警戒をたった一度怠ったために、Kさんをまざまな病型がありますが、通常はまったく正失った両親の27年の人生は何だったのか、数日常です。一般的には、数秒から数分の間の痙攣の間考えさせられました。発作が意識消失を伴って起こる病気です。一部現在、人工透析の患者さんは約20万人ですの外科手術で軽快するケースを除き、一生薬でが、その5倍−100万人−ものてんかん患者さコントロールする必要のある病気です。その意んが日本にいます。識を突然失うという性質上、通学、通勤、スポこの原稿を書きながら、海外旅行を夢見るどーツ、仕事すべてにわたり、本人の心理的制約、ころか、成人しても1人で電車に乗って通院する社会的制約、つまり車の運転やある種の職業にこともできなかったKさんに思いをめぐらせると、つけないなどの制約が加わります。この病気を背負った患者さんやその家族の想像夜間の救急外来で検死を待つ間、魂の抜け以上の深い影の部分が浮かび上がってきます。たようにぼう然としている父親から担当医が聞いたストーリーは次のようなものです。弘に親が付き添い都内の病院に通院し、抗てん 2002年4月号です。べ10億人を超える時代に、てんかんの苗代︵防衛医科大学校脳神経外科学助教授︶ 116 （航空機時代へ向けての対応） Kさんは幼少時よりてんかんがあり、定期的かん薬を処方され、この5〜6年はまったく発作もなく、だからといって勝手に休薬していたわけではなかったとのこと。成人してからも職につか JRの車掌、駅職員がこの記事の内容に相当する研修を必ず受ける社会になれば！さらに、タクシー会社、バス会社、そして旅行会社の社員にもその教育の輪が広がれば！歩道や駅構内の舗装、そして電車や公共物の床が衝撃吸収材になれば！が、日付け変更線を超えた時には、1 予防接種回多めに内服して、それ以降またもと診断書の携行海外旅行に際しての予防接種につい差に伴う睡眠障害を軽減する薬剤としては、2000 年6 月8 日号のThe New 抗痙攣薬を内服している患者さん England Journal of MedicineにRyan は、必ず海外旅行に際して診断書を携 ETとKain KCの秀逸な総説がありま行することをお勧めします。医師が診す 1）。ぜひ参考にして下さい。日本か断書に明記する項目としては、病名だら予防接種が必要な地域に海外旅行けでなく発作のタイプ、発作頻度、最する際には、一般的に数年以上発作の近のコントロール状況、内服しているない場合は、接種に問題ないといえる薬品名、内服量を明記することが必要でしょう。1 年以内に発作がある場合です。医師の連絡先を明記（ファックは、原則的に予防接種を控えるべきでス、e-mail）し、必要時にコンタクトがすが、旅行先の感染症の発生状況を勘とれるようにすると親切です。大量の案し、risk benefitから判断しなけれ内服薬を携行するに際しては、入国審ず、引きこもって生活し、外見にも気を配らなかそんな時代になれば100万人の方たちがもっばなりません。アメリカ合衆国、ヨー査や通関時にあらぬ誤解を受けぬようったとのことです。10代後半からは、Kさんの入と社会参加し、旅行へも出かけられるようになりロッパ、オセアニアへの旅行で問題にに診断書を携行し、内服薬は薬剤名ます。なることはありませんが、熱帯、亜熱が記されているタグのついた形で所持帯地域への旅行に際しては、十分事前しましょう（写真参照）。浴時には、必ず父親が風呂場の外に待機して、やや長い時間物音がしないと声をかけるという習慣を一度も欠かしたことはありませんでした。私のこの記事が深い影に射す一条の光として役立つことを願います。に主治医と患者が相談することが必要の間隔で内服しても良いでしょう。時内服薬は薬剤名が記されているタグのついた形で所持しましょう Mebio Vol.19 No.4 117 21世紀の知っておきたい旅行医学（航空機時代へ向けての対応）てメラトニンが海外では処方箋なしに対処が教育されています4）。50 ％以上ては、発熱が痙攣発作を誘発すること入手できますが、てんかんの患者さんの航空機でジアゼパンが用意されていがよく知られており、旅行中のもっとは避けたほうがよいでしょう。メラトます。しかしながら航空会社によっても頻度の高い病態として知られていまニンが発作を誘発することがあると報態勢に差があるようですから、頻繁にす。フロリダのディズニーランドを訪日本では、てんかんの診断が確定発作を起こす患者さんは、事前に航空れた子供の神経疾患で、痙攣発作が第している場合は、運転免許の欠格亊 Neurocysticercosisは、発展途上国る人が増えるなかで、てんかん発作を 1位であったと報告されています。睡由となっています。しかし現実にはではてんかん発作の主因である寄生虫有する人もその機会が増えることが予眠と関連のあるbenign epilepsy of 自己申告がなされない場合は、判断感染症です。海外旅行する人の増加想されます。旅行は、人生において意 childhood; Rolandic seizureは治療のが困難で、てんかん発作を有する人に伴って、先進国でもNeurocysticer- 義深いもので、人間形成に欠かせない必要のないものですが、子供と両親がも運転免許を有している方が多いの cosis による痙攣発作、髄膜炎、水頭経験といえるでしょう。てんかん患者 3）告されています。会社に確認したほうがよいでしょう。同伴者てんかん発作の誘因 5）海外旅行中の車の運転海外旅行中の感染症と痙攣発作まとめこれからますます海外旅行を経験す一つの部屋で眠ることがある旅行中ではないでしょうか。海外でこのよ症の報告が散見されるようになりましを含め、色々な障害をもつ人も、事前ず、たびたび起こる人が海外旅行する睡眠不足、過労はてんかん発作の誘に、はじめて両親がそのことに気付くうな方が車を運転する可能性があるた7）。短期間のバリ島への旅行後に痙に十分余裕を持って計画をたてれば、際には、事情が分かっている人の同伴因となることが知られていますが、かことがあるようです。成人女性の場合、場合には、各国の法規制が異なりま攣発作を起こしたNeurocysticercosis 安全な旅行が楽しめると思います。こが望ましいでしょう。ツアー旅行であくたる科学的なデータはないといっててんかん発作と月経との関連が知られすので、必ず十分事前に各国大使館の症例報告もあります。海外旅行後のような人々を積極的にサポートするれば、添乗員に事情を話し理解を得てよいでしょう。過度の飲酒も避けるほています。プロゲステロンには抗痙攣に問い合わせることが望ましいと思に、痙攣発作を初発した患者さんの診ために、医師の関与がますます重要に断に際しては念頭に置くべきでしょう。なるでしょう。発作が抗痙攣薬の内服にもかかわらおく必要があります。全般発作の場うが望ましいといわれていますが、逆作用があり、プロゲステロンの分泌が合、患者さんは意識を失うわけですかに適度の飲酒では、発作に影響がない減少する月経開始の時期に発作が起ら、医療上の問題だけでなく、身の危ことが報告されています。小児においこりやすくなるようです。 6）います。険が増えることが考えられます。発作が起こった場合は、通常特別な処置は必要ありませんが、安全な場所で側臥位（coma position）をとらせればよいでしょう（図1）。通常発作は、2〜3分以内に自然に治まります。5 分以上発作が続く場合や、意識が回復する前に再び発作が起こる重責状態では、静脈ラインを確保し、ジアゼパンを投与、酸素吸入するなどの初期治療が必要で文す。航空機の高度飛行中のキャビンの 1） Ryan ET, Kain KC: Health advice and immunizations for travelers. N Engl J Med 342: 1716-1725, 2000 酸素分圧は、高度2500m の高地に相 2） Mullins ME, Elias MF: Seizures in east-bound visitors to Hawaii. Hawaii 当するといわれています1）。低酸素状態はてんかん発作を助長しますから注意が必要です。民間航空会社の8 0 ％以上で乗り組み員にてんかん発作への 118 2002年4月号献 Med J 57: 408-411, 1998. 3） Herxheimer A, Petrie KJ: Melatonin for preventing jet lag（Cochrane 図1 側臥位；coma position（全般発作を起こした患者にとらせる体位）意識のない患者に対して、体をやさしく回転させ、自発呼吸がとれるような側臥位の体勢にできるだけ早くしてください。 Review）. Cochrane Database Syst Rev 1: CD001520, 2001. 4） Mumford CJ, Warlow CP: Airline policy relating to passengers with epilep- 5） Farrell MM, Pollack MA: Mickey mouse neurology. Neurological disorders in children visiting central Florida. J Fla Med Assoc 77: 600-601, 1990. 6） Ooi WW, Gutrecht JA: International regulations for automobile driving and epilepsy. J Travel Medicine 7: 1-4, 2000. 7） Wadley JP, Shakir RA, Rice Edwards JM: Experience with neurocysticercosis in the UK: correct diagnosis and neurosurgical management of the small enhancing brain lesion. Br J Neurosurg 14: 211-218, 2000. sy. Arch Neurol 52: 1215-1218, 1995 Mebio Vol.19 No.4 119