マニピュレータを搭載したAUVの開発

マニピュレータを搭載した AUV の開発
− 第一報:水中用マニピュレータの開発と制御 −
学生員
石 塚 誠
∗
正 員
石 井 和 男 ∗
Development of an AUV equipped with a manipulator
1st report : Development and control of an underwater manipulator
by
Makoto Ishitsuka, Student Member
Kazuo Ishii, Member
Key Words:AUV, Underwater Manipulator, Magnet coupling
1. はじめに
海洋は人間にとって最も身近でありながら未知のフロンティ
アであり、海洋の動態や生物活動、海底変動など様々な現象
に関して調査・研究が進められている。しかし、海洋、とく
に海中では人間が直接作業を行うことが難しく、安全や効率
の観点から海中ロボットの開発および運用が盛んになってき
ている 1),2) 。
海洋諸現象の研究が進めば、海洋保全や資源利用などの海
洋開発へと移行し、将来、大規模な海洋開発が進められるこ
とが考えられる。そのためにより複雑な作業を行うことので
きる水中ロボットの開発は急務であると言える。
本研究ではマニピュレータを搭載した自律型ロボットの開
発を目指し、その第一段階として水中用マニピュレータの設
計・開発に関して報告する。
2. 水中用マニピュレータの開発
水中用マニピュレータは水平面内で駆動する 2 リンクのマ
ニピュレータとした。AUV 自体の自由度が高いため、マニ
ピュレータがある程度の自由度を有すれば広範囲の手先到達
範囲が期待できる。
マニピュレータの設計に際し、必要となる開発条件を以下
にあげる。
2. 1 水密構造
水中ロボットにおいてはマニピュレータに限らず、アクチュ
エータや電子回路などを保護するため水密構造が必要である。
開発したマニピュレータの構造を Fig.1 に示す。
本研究では力の伝達機構としてマグネットカップリング
1 を使用した水密構造を採用した。マグネットカッ
(Fig.1−°)
プリングは磁力を利用し隔壁を通して力を伝達する機構であ
り、通常は大きなトルクを必要としないウォーターポンプや
スラスタの駆動軸に用いられている。マグネットカップリン
2 を含む耐圧容
グを使用することにより、モータ (Fig.1−°)
3 が完全に水を遮断できる構造となる。マグネッ
器 (Fig.1−°)
トカップリングの課題として、以下のような点が上げられる。
1) 伝達トルクが小さい
2) 大きいトルクに対してバックラッシュが生じる
大きいトルクを伝達するには強力な磁力が必要となり、マグ
ネットカップリング自体が大きなものとなる。そこで、マグネッ
4
トカップリングを介して伝達された動力をギア機構 (Fig.1−°)
によって減速し、必要なトルクを得る構造とした。
2. 2 関節の動作範囲
マニピュレータの手先到達範囲は各関節の動作範囲によっ
て決定されるため、できるだけ動作範囲が広い関節の構造を
採用する必要がある。
そこで、各関節は方持ち構造とし、360 度回転可能な構造
とした。
∗
九州工業大学大学院生命体工学研究科
2. 3 リンク構造のモジュール化
本研究ではリンク構造を単純化して拡張性をもたせるため、
アクチュエータ(モータ)と関節機構を一つずつ組み合わせ
たモジュール構造を採用した。このモジュールを多数連結す
ることで、多リンクのマニピュレータや複数腕を実現するこ
とが可能である。また連結部分はハンドなどのエンドエフェ
クタやセンサ、リンクなどのモジュールが簡単に取り付けら
れる構造としている。
2. 4 水中用マニピュレータの製作
前項までの条件とシミュレーション 3)−6) から得られたパ
ラメータを用い、3D-CAD システムを使用してマニピュレー
タの設計を行った。製作したマニピュレータを Fig.2 に示す。
リンク内部にはモータドライバを内蔵しており、外部からの
シリアル通信による指令値に基づいて関節角度制御すること
が可能である。設計したマニピュレータの関節軸における設
計性能を Table1 に示す。
3. AUV への搭載
本研究で使用する AUV“ Twin-Burger ”7) の 2 つの耐圧
容器にはそれぞれコンピュータが搭載され、前部の耐圧容
器(Hull2)においてスラスタの制御を行い、後部の耐圧容器
(Hull1)においてセンサの情報処理を行い、Ethernet を介し
て互いに通信して行動を決定するシステムとなっている。
④ Gears
③ Pressure Hull
② Motor
① Magnet Coupling
Mechanical Seal
Motor Driver
Main Shaft
Fig. 1
Drive mechanism of joint
Table 1
Specification of a link
サイズ
重量
水中重量
関節軸出力トルク
関節軸出力回転数
90×90×360 [mm]
3.7 [kg]
250 [g]
1.7 [Nm]
8.9 [rpm]
開発したマニピュレータは前章で述べたようにシリアル通
信によって指令値を送信する。センサ情報の取得、マニピュ
レータの制御および画像処理は Hull1 において実行し、スラ
スタの制御は Hull2 において行う構造とした。Twin-Burger
のシステム図を Fig.3 に示す。
Hull1 の計算機はラップトップコンピュータとし、超音波
測距センサ及び圧力センサはマイクロコンピュータ PIC を介
して取得し、角速度および姿勢角は直接 PC で計測している。
センサ情報の取得には USB-Serial Converter を用いてシリ
アル通信で行う。USB ポートさえあれば通信ポートの増設を
容易に行うことができ、多数のセンサやアクチュエータを容
易に接続することができる。
Hull1 のシステム構成図を Fig.4 に、マニピュレータを搭
載した様子を Fig.5 に示す。
4. 動作実験
Fig. 3
AUV へ搭載したマニピュレータの水中における動作実験
を行った。外部からシリアル通信を用いて指令値を送信し、そ
の動作を確認した。リンク 2 を動作させた実験の様子を Fig.6
に示す。
5. まとめ
水中用マニピュレータの設計・製作と AUV への搭載を行
い、水中において動作実験を行った。
今後ハンドモジュールの開発やビジョンシステムの搭載な
どを行い、物体把持などの自律的な水中作業の実現を目指す。
System of AUV ”Twin-Burger”
Fig. 2
Developped manipulator
USB - Serial
Converter
Link2 of Manipulator
Motor Driver
Motor
Motor Driver
Motor
Computor
USB - HUB
LAN - HUB
USB - Serial
Converter
Attitude Sensor
USB - Serial
Converter
6-axis Gyro Sensor
USB - Serial
Converter
To Hull2
Analog - Digital
Converter
Depth Sensor
Paralell - Serial
Converter
Ultrasonic
Ranging Sensor
PIC Circuit
Fig. 4
参考文献
1) 浦, 高川,“ 海中ロボット総覧 ”, 成山堂書店, (1994)
2) (社) 日本造船学会 海中技術専門委員会編,“ 海中技術一
般 ”, 成山堂書店, (1992)
3) 石塚, 石井, “ 水中用アクチュエータの開発及び制御設
計 ”, RoboMec05、2A1-S-010, (2005)
4) Ishitsuka, Ishii, “ Development of an Underwater
Manipulator mounted for ana AUV ”, MTS/IEEE
Oceans2005, 050305-02, (2005)
5) Ishitsuka, Ishii, Sagara,“ Dynamics Analysis and Resolved Acceleration Control of an Autonomous Underwater Vehicle Equipped with a Manipulator ”,
UT04, C3-2, pp.277-281 (2004)
6) 石塚, 石井, 相良“水中用マニピュレータの開発及び
,
AUV
への搭載と制御 ”, SI2004,2K4-3, pp.789-790, (2004)
7) 藤井, 浦“
, 自律海中ロボット「ツインバーガー」の開発”,
Proc.Techno-Ocean’94, pp.421-426, (1994)
Link1 of Manipulator
USB - HUB
謝 辞
本研究の一部は九州工業大学 21 世紀 COE プロジェクト
「生物とロボットの織りなす脳情報工学の世界」の支援により
実施した。
USB - Serial
Converter
Fig. 5
Fig. 6
System of hull1
AUV equipped with a manipulator
Experiment of manipulator with AUV