生活支援ロボット及びロボットシステムの安全性確保に関する ガイドライン

生活支援ロボット及びロボットシステムの安全性確保に関する
ガイドライン(第一版)
1. 目的
本 ガ イ ド ラ イ ン 1は 、 生 活 支 援 ロ ボ ッ ト 2の う ち 、 移 動 作 業 型 、
搭乗型、及び装着型身体アシストロボット(以下「ロボット」と
いう)の設計、実証実験、販売及び運用等の各段階において遵守
すべき事項を定め、もってロボット及びロボットシステムの安全
性を確保することを目的とする。
2. 定義
本ガイドラインで用いる用語の定義は、次のとおりとする。
2.1 「 移 動 作 業 型 ロ ボ ッ ト 」 と は 、 人 と 物 又 は 情 報 の 授 受 を 行 い 、 移
動 す る 生 活 支 援 ロ ボ ッ ト を い う 3。
2.2 「 搭 乗 型 ロ ボ ッ ト 」と は 、人 を 輸 送 す る 生 活 支 援 ロ ボ ッ ト を い う 4 。
2.3 「 装 着 型 身 体 ア シ ス ト ロ ボ ッ ト 」 と は 、 人 の 身 体 に 装 着 さ れ て 、
身 体 能 力 の 補 助 又 は 増 強 を 行 う 生 活 支 援 ロ ボ ッ ト を い う 5。
2.4 「 危 険 源 」 と は 、 人 の 生 命 、 身 体 、 財 産 、 又 は 自 然 環 境 に 対 し 危
害 を 引 き 起 こ す 潜 在 的 根 源 を い う 6。
2.5 「 リ ス ク 」 と は 、 危 害 の ひ ど さ 及 び 危 害 の 発 生 確 率 の 組 合 せ を い
う。
2.6 「 リ ス ク 見 積 り 」と は 、起 こ り う る リ ス ク を 推 定 す る こ と を い う 。
2.7 「 リ ス ク 分 析 」 と は 、 ロ ボ ッ ト が 使 用 等 さ れ る 状 況 、 危 険 源 及 び
危険状態の同定、並びにリスク見積りの組合せをいう。
2.8 「 リ ス ク 評 価 」 と は 、 リ ス ク 低 減 の 必 要 性 の 有 無 を 判 断 す る こ と
をいう。
2.9 「 リ ス ク ア セ ス メ ン ト 」 と は 、 リ ス ク 分 析 及 び リ ス ク 評 価 を 含 む
総合的プロセスをいう。
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2.10 「 実 証 実 験 」 と は 、 ロ ボ ッ ト を 実 際 の 場 面 で 使 用 し 、 実 用 化 に 向
けての問題点を検証することをいう。
2.11 「 製 造 者 等 」 と は 、 ロ ボ ッ ト の 設 計 、 製 造 又 は 輸 入 を 行 う 者 を い
う。
2.12 「 販 売 者 等 」と は 、業 と し て 7 ロ ボ ッ ト を 販 売 又 は 賃 貸 す る 者 を い
う。
2.13 「 ロ ボ ッ ト シ ス テ ム 」と は 、施 設 8 の 利 用 者 に 対 し 継 続 し て 役 務 9 を
提供するロボット、その操縦、管制機器及びこれらの周辺機器等
が一体となったものをいう。
2.14 「 管 理 者 等 」 と は 、 業 と し て ロ ボ ッ ト を 運 用 又 は 管 理 す る 者 、 及
び ロ ボ ッ ト シ ス テ ム を 企 画 し 、 構 築 10し 、 運 用 又 は 管 理 す る 者 を
いう。
3. 製造者等の責務
製造者等は、次の事項を実施又は遵守するよう努めなければな
らない。
3.1 設 計 段 階 に お い て 、 合 理 的 に 想 定 さ れ る 運 用 状 況 1 1 の も と で 、 リ
スクアセスメントを実施し、リスク低減方策を立案して安全要求
事項を策定し、これを設計に反映させるとともに、残留するリス
ク(以下「残留リスク」という)が社会的に許容可能な程度にま
で 低 減 さ れ た と 判 断 さ れ る ま で 、 こ の 過 程 を 繰 り 返 す こ と 12。
3.2 設 計 段 階 に お い て 、 安 全 性 を 確 保 す る た め の 基 本 的 な 設 計 内 容 に
つ い て 、 専 門 的 な 知 見 を 有 す る 第 三 者 13の 意 見 を 聴 取 す る こ と 。
3.3 設 計 段 階 に お い て 、 リ ス ク ア セ ス メ ン ト 及 び リ ス ク 低 減 方 策 立 案
の全作業を記録し、ロボットの安全上の仕様及び残留リスクが記
載された書面を作成すること。
3.4 一 定 の 年 齢 、 身 長 、 体 重 又 は 技 能 1 4 等 を 備 え た 者 に 利 用 を 制 限 す
る場合には、その旨をロボット本体やマニュアル等に明記するこ
と。
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3.5 実 証 実 験 以 後 新 た に 危 険 源 が 判 明 し た 場 合 に は 、 リ ス ク 分 析 及 び
リスク評価を行い、必要に応じて、設計に反映させること。
3.6 実 証 実 験 又 は 販 売 等 に 際 し 、 製 造 物 責 任 保 険 に 加 入 す る こ と 。
4. 実証実験実施者の責務
実 証 実 験 の 実 施 者 15は 、 次 の 事 項 を 実 施 又 は 遵 守 す る よ う 努 め
な け れ ば な ら な い 16。
4.1 実 証 実 験 に 先 立 ち 、 製 造 者 等 よ り 、 ロ ボ ッ ト の 安 全 上 の 仕 様 及 び
残留リスクが記載された書面を取得すること。
4.2 被 験 者 及 び 被 験 者 以 外 の 第 三 者 の 生 命 、 身 体 、 財 産 、 プ ラ イ バ シ
ー権その他の権利が侵害されないよう、細心の注意を払うこと。
特に実証実験を実施する施設や場所の状況に即したリスクアセス
メ ン ト を 行 い 、安 全 性 の 確 保 を 目 的 と し た 基 本 的 な 計 画 を 立 案 し 、
必 要 に 応 じ て 倫 理 委 員 会 等 17 の 意 見 を 聴 取 し た う え 、 同 計 画 を 実
施 す る こ と 18。
4.3 安 全 確 保 上 の 必 要 が あ る と き は 、 一 定 の 年 齢 、 身 長 、 体 重 又 は 技
能等を備えた者を被験者とすること。
4.4 実 証 実 験 中 に 事 故 の 発 生 す る 可 能 性 が あ る 場 合 に は 、あ ら か じ め 、
事故発生時の対応手順を策定すること。
4.5 事 故 を 避 け る た め 必 要 か つ 十 分 な 安 全 上 の 情 報 を 広 報 す る こ と 。
4.6 実 証 実 験 を 実 施 し た 結 果 、 新 た に 判 明 し た 危 険 源 や 、 リ ス ク の 内
容について得た知見を記録し、これを製造者等に通知すること。
4.7 実 証 実 験 実 施 上 の 事 故 に 基 づ く 賠 償 責 任 を 補 償 す る 保 険 1 9 に 加 入
すること。
5. 販売者等の責務
販売者等は、次の事項を実施又は遵守するよう努めなければな
らない。
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5.1 必 要 に 応 じ て 、 わ が 国 の 安 全 認 証 機 関 に よ る 安 全 認 証 を 受 け る こ
と。
5.2 ロ ボ ッ ト の 安 全 上 の 仕 様 及 び 残 留 リ ス ク が 記 載 さ れ た 書 面 を 、 販
売等の相手方に手交すること。
5.3 ロ ボ ッ ト 又 は ロ ボ ッ ト シ ス テ ム に 関 す る 事 故 や 、 重 大 な 故 障 等 が
あ っ た 場 合 に 、 製 造 者 等 に 通 知 す る こ と 20。
6. ロボット又はロボットシステムの管理者等の責務
ロボット又はロボットシステムの管理者等は、次の事項を実施
又は遵守するよう努めなければならない。
6.1 ロ ボ ッ ト シ ス テ ム の 企 画 に 先 立 ち 、 ロ ボ ッ ト の 安 全 上 の 仕 様 及 び
残留リスクが記載された書面を入手すること。
6.2 施 設 や 場 所 の 状 況 に 即 し た リ ス ク ア セ ス メ ン ト を 行 い 、 安 全 性 の
確保を目的とした基本計画を立案し、同計画を実施する。最終的
に、ロボットシステムの残留リスクが社会的に許容可能な程度に
まで低減されたと判断されるまで、この過程を繰り返すこと。ま
た 、 必 要 に 応 じ て 専 門 的 な 知 見 を 有 す る 第 三 者 21の 意 見 を 聴 取 す
ること。
6.3 事 故 の 発 生 す る 可 能 性 が あ る 場 合 に は 、 あ ら か じ め 、 事 故 発 生 時
の対応手順を策定すること。
6.4 事 故 の 発 生 す る 可 能 性 が あ る 場 合 に は 、 事 故 に 基 づ く 賠 償 責 任 を
補償する保険に加入すること。
6.5 安 全 確 保 上 の 必 要 が あ る 場 合 に は 、 利 用 す る 者 の 年 齢 、 身 長 、 体
重又は技能等を制限すること。
6.6 事 故 を 避 け る た め 必 要 か つ 十 分 な 安 全 上 の 情 報 を 広 報 す る こ と 。
6.7 ロ ボ ッ ト 又 は ロ ボ ッ ト シ ス テ ム の 運 用 中 、 事 故 若 し く は 重 大 な 故
障が発生し、又は新たな危険源が判明した場合には、これらに関
する情報を製造者等に通知すること。
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1
本 ガ イ ド ラ イ ン に 先 立 つ も の と し て 2007 年 7 月 に 制 定 さ れ た 経 済 産 業 省「 次
世 代 ロ ボ ッ ト 安 全 性 確 保 ガ イ ド ラ イ ン 」( 以 下 2007 年 ガ イ ド ラ イ ン と い う ) が
ある。本ガイドラインは、ロボットシステムが設計段階から社会実装されるま
での各段階における安全性確保に関する留意点を検討の上まとめたものであり、
2007 年 ガ イ ド ラ イ ン を あ わ せ て 参 照 さ れ た い 。
2
ISO13482 は 「 生 活 支 援 ロ ボ ッ ト 」 を 「 医 療 用 を 除 く 、 人 の 生 活 の 質 の 改 善 に
直 接 寄 与 す る 行 為 を 実 施 す る サ ー ビ ス ロ ボ ッ ト 」と 定 義 し 、
「サービスロボット」
を「産業オートメーションの用途を除き、人又は機器のために有用なタスクを
実行するロボット」と定義している。本ガイドラインは、対象とする3種のロ
ボ ッ ト が 、管 理 者( 定 義 は 後 述 )以 外 の 第 三 者 が 接 触 す る こ と を 予 定 し 、又 は 、
接触する可能性がある場合に適用される。管理者以外の第三者とは、当該ロボ
ット又はロボットシステムによるサービスを受ける利用者や、当該ロボットの
周辺にいる管理者等以外の人を意味し、管理者及び管理者の指揮命令を受ける
従業員等を含まない。たとえば、空港ターミナルビルで一般客を乗せる搭乗型
ロボットは本ガイドラインの対象になり、管理者の従業員が搭乗する場合であ
っても、公共の場所で運用する場合には本ガイドラインの対象になる。
3
ISO13482 に は 「 物 体 の 取 扱 い 又 は 情 報 交 換 の よ う な 、 人 と 相 互 作 用 し な が ら
支援タスクを実行する、移動能力をもつ生活支援ロボット」と定義されている
が、これと同趣旨である。
4
ISO13482 に は「 意 図 し た 目 的 地 ま で 人 を 輸 送 す る 目 的 を 持 っ た 生 活 支 援 ロ ボ
ット」と定義されており、注記に「輸送には、人に加えて、例えば、ペット及
び家財などの他の物体が含まれることがある」と記載されているが、本ガイド
ライン上は、人を輸送するものに限定した。もとより、輸送される人がペット
や 家 財 等 を 保 持 し て い る 場 合 も 含 ま れ る 。ま た ISO13482 に は「 意 図 し た 目 的 地
まで」とあるが、目的地がない場合を除外する理由はないと考える。
5
ISO13482 の 定 義 と 同 趣 旨 で あ る 。 但 し ISO13482 で は 「 人 間 が 装 着 す る タ イ
プの身体アシストロボット」と「人間の身体を拘束しないタイプの装着型身体
アシストロボット」には別の定義が与えられているので、これを統合した。
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「 危 険 源 」 か ら 「 リ ス ク ア セ ス メ ン ト 」 ま で は 、 2007 年 ガ イ ド ラ イ ン と 同 旨
で あ る 。 但 し 、「 危 険 源 」 に つ い て は 、「 人 の 生 命 、 身 体 、 財 産 又 は 自 然 環 境 に
対し」を付加した。
7
「 業 と し て 」と は 、社 会 生 活 上 の 地 位 に 基 づ き 反 復 継 続 し て 行 う こ と を い う 。
8
「施設」とは、ある目的又は用途のため人工的に作られた建造物をいう。具
体的には空港ターミナルビル、駅ビル、ショッピングモール、百貨店、ホテル
等の宿泊施設等が想定される。屋内外は問わない。
9
「役務」とはサービスのこと。
10
いわゆる「システムインテグレーター」がこれにあたる。
11
「 合 理 的 に 想 定 さ れ る 運 用 状 況 」に は 、① 管 理 、販 売 又 は 使 用 が 行 わ れ る 状
況、②故障、異常等が発生している状況、③合理的に予見可能な誤使用が行わ
れている状況、④人又は物が接近若しくは接触している状況、⑤予見可能な気
象、路面等施設との接触面若しくは周辺電磁波の異常、塵芥との接触、又は、
人 若 し く は 動 物 に よ る 攻 撃 が 含 ま れ る 。な お 、① か ら ④ ま で は 2007 年 ガ イ ド ラ
イ ン 2.2.3 に 対 応 す る も の で あ る 。
12
全 体 と し て「 安 全 要 求 事 項 の 策 定 」と 呼 ば れ る 段 階 で あ る 。 そ の 中 で 安 全 確
保の方針を定める安全コンセプトの策定には、チェックシートの利用が推奨さ
5
れ る 場 合 が あ る 。た と え ば 、介 護 機 器 の 設 計 段 階 で は 、
「コンセプト検証自己チ
ェ ッ ク シ ー ト http://www.rtnet-biz.jp/rtsic/resources/pjout2.html 」 や 、
「開発コンセプトチェックシート
http://robotcare.jp/wp -content/uploads/2014/01/SG -1-2_development_help
.pdf、http://robotcare.jp/wp-content/uploads/2015/05/SG -1-1-v2.pdf 」が
ある。
13
「専門的な知見を有する第三者」とは、たとえば安全認証機関や、厚生労働
省が通達「設計技術者、生産技術管理者に対する機械安全に係わる教育につい
て」
( 平 成 2 6 年 4 月 1 5 日 付 基 安 発 0 4 1 5 第 3 号 )に 示 す 、機 械 安 全 に 関 す
る知識を有すると見なされる者(システム安全エンジニア、セーフィティアセ
ッ サ( 部 分 )、労 働 安 全 衛 生 コ ン サ ル タ ン ト( 部 分 ))
(平成26年4月15日付
基安安発0415第1号)が考えられる。
14
いわゆる資格制度もこれに含まれる。
15
実 証 実 験 の 実 施 者 と は 、当 該 実 証 実 験 の 実 施 主 体 、及 び 、当 該 実 証 実 験 に 参
加する者をいう。具体的には、国、地方公共団体、大学等の研究機関、民間企
業、当該ロボットの製造者等、ロボットシステムの企画者、構築者(システム
イ ン テ グ レ ー タ ー )、 管 理 者 等 が 想 定 さ れ る 。
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安全関連システムを中心としたロボット又はロボットシステムを開発し、
実 証 実 験 に 必 須 な 安 全 性 確 保 方 策( 機 械 安 全・電 気 安 全・EMC( Electromagnetic
Compatibility)) を 搭 載 す る 段 階 で あ る 。 加 え て 、 実 証 実 験 の た め の 実 験 デ ザ
イ ン を 作 成 し 、実 証 現 場 に お け る 倫 理 的 問 題 を 段 階 的 に 解 消 し つ つ 、PDCA サ イ
クルにしたがって安全に実証実験を繰り返しながらロボット又はロボットシス
テムの実用性を検証する段階でもある。また、周辺機器の安全技術を開発する
必要が発生することもある。
17
大 学 や 企 業 内 の 第 三 者 委 員 会 、倫 理 委 員 会 等 を 想 定 し て い る 。第 三 者 委 員 会
や倫理委員会等は、実証実験の適法性のみならず、安全面も考慮して審査を行
うべきである
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欧 州 機 械 指 令 で は 、『 機 械 』 に 適 用 さ れ る と 明 記 し て お り 、 実 証 実 験 に 供 す
る機械を除外していない。
19
一 般 の 賠 償 責 任 保 険 は 、実 証 実 験 実 施 上 の 事 故 に よ る 賠 償 責 任 を 補 償 し な い
ことがあるので注意する必要がある。なお、賠償責任保険は施設賠償責任保険
を 含 む ( 以 下 同 じ )。
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2007 年 ガ イ ド ラ イ ン と 同 旨 。
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「 専 門 的 な 知 見 を 有 す る 第 三 者 」 に つ い て は 、 脚 注 13 参 照 。
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