草津ホンモロコ養殖マニュアル

休耕田におけるホンモロコ養殖マニュアル
平成20年3月
草津ホンモロコ生産組合
目
次
ホンモロコとは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1 養殖適地・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
2 養殖施設と器具機材
(1)養魚水田・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
(2)養殖器具機材・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
3 養殖技術
(1)親魚育成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
(2)施肥・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
(3)採卵・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
(4)孵化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
(5)放養・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
(6)予備用水田を利用した稚魚の確保・・・・・・・・・・・・・6
(7)給餌・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
(8)取り上げ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
4 病気とその対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
5 収支試算・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
巻末資料・・・1反あたりの日別給餌量と生産スケジュール
ホンモロコとは
ホンモロコは、琵琶湖固有のコイ科の魚で、1年で成魚となり、全長は10
~13㎝である。日本産のコイ科魚類の中では最も美味といわれ、滋賀、京都
を中心に、素焼き、天ぷら、つくだ煮などとして古くから親しまれてきた。
しかし、琵琶湖での漁獲高は、10年位前までは、年間150トンから
350トンという漁獲量だったが、漁場環境の変化や外来魚による食害などの
影響で、平成8年には96トンと急激に落ち込み、平成17年にはわずか
7トンとなった。
1.養殖適地
休耕田におけるホンモロコ養殖では、草津用水を主な水源とするが、草津
用水は5月から9月までしか稼動せず、さらにその期間内であっても夜間は
稼動しない。しかし、ホンモロコ養殖においては、5月以前の飼料培養期お
よび9月以降の育成期、また養魚水田の酸素量が低下する夜間の給水が必要
であるため、山水、水路、湧き水、地下水など草津用水以外の水源を確保で
きることが必要不可欠である。さらに、ポンプアップによる水源確保はコス
トアップに繋がることから、湧き水や山水などの落差によって給水できる水
田がより良い。
また、自動給餌機、水中ポンプ、ブロアーポンプなど電気式の機材を使用
するので、電源の確保が必要である。
また、車の交通量や人通りが多いことは、ホンモロコにストレスを与える
要因となるので留意すること。
2.養殖施設と器具機材
(1)養魚水田
養魚水田は、水田の底部を
10~20cm掘削し、発生
した土砂を畦に盛土するこ
とにより40~60cmの
水深を確保し、漏水や崩壊を
防ために、畦をゴムシートや
ビニールシートで覆う(図1)。
排水口は、150mmの口径
のビニールパイプを使い、底部
のエルボとは接着せず、水位確
保と排水ができるようにする
図1
(図2)。
養魚水田の施工例
図2 排水部の構造
1
また、排水側水路の底が高く、図2の
ような形状では十分な水深が確保できな
い場合は、魚だまり(深み)や溝を掘り、
取り上げやすいように工夫する(図3)。
さらに、ホンモロコが逃げないように、
フィルターで排水口を覆い、給水口はブ
ラックバスやブルーギルなどの食害魚や
ザリガニ、オタマジャクシなどが侵入
図3 魚だまりと溝
しないようにフィルターで覆う。
鳥獣害については、養魚水田の上部を果樹用の防鳥網で覆うか、防鳥糸
を30~50cm間隔に張る。また、カエルの侵入を防ぐために、養魚水
田の周囲に畦シートを設置する。これらは、いずれもホームセンターで入
手できる。
(2)養殖器具機材
(ⅰ)曝気装置
曝気については、給排水を十分に行っていれば、必ずしも必要ではない
が、動物性プランクトンを餌とする養殖初期においては、給排水を行わず、
ブロアーポンプによって酸素の欠乏を防ぐ。
(ⅱ)自動給餌機
餌付け当初は、手撒きにより給餌するが、放養30日ほどで配合飼料に
餌付くようになれば、自動給餌機が使用でき、1日中一定量の給餌が可能
であるので、省力化が図れる。
また、自動給餌機には、ゼンマイ式と電気式があるが、前者は、低コス
トであるが、給餌できる範囲が狭く(給餌機の真下)、容量も小さい。後者
は、給餌できる範囲が広く容量も大きい(図13)が、コストが高く、養
殖規模が小さい場合、吐出量の調整が難しいこともあるので、状況に応じ
て適したものを選択する。
(ⅲ)親魚水槽
効率的な採卵を行うためには、親魚を水槽で
育成・管理するのが好ましい。容量については、
1トンあたり親魚1~1.5kgを収容するの
が適正であるので、養殖の規模に応じて選択す
る。なお、親魚水槽は、採卵を終えると、一時
蓄養水槽としても利用できる。
また、水田の一角を掘削し、そこへビニール
シートを敷いたり、ブロックを積み上げて水槽
を作るなどの方法もある。
図4
2
箱型網による取り上げ
(ⅳ)網類
水落しにより魚を取り上げるためには、目合いが1~2mmの箱型網が
あると便利であり、一時蓄養にも利用できる(図4)。
3.養殖技術
ホンモロコ養殖は、仔魚の初期飼料となる動物性プランクトンの培養をは
じめとして、きちんとした生産計画(表1)、スケジュール(図5)を立てて、
計画的に作業を進める。
(10aあたり)
数
採卵数
量
備
考
200,000粒 予備用は除く。
孵化仔魚数
120,000尾 孵化率60%
生産尾数
50,000尾 歩留まり40%
生産量
300㎏ 平均魚体重6g
表1 ホンモロコの生産計画例
3/30 石灰散布 5/7~ 給餌による養殖
1/1~ 親魚育成
1
2
4/6 施肥
3
4
10/15~ 取り上げ
5
6
7
8
4/20 採卵① 5/10 採卵②
9
10
11
~12/31 次年親魚育成
4/30 仔魚放養 5/20 予備用放流
図5
12
年間スケジュール
(1)親魚育成
親魚は、前年から十分給餌管理
した健康な魚を育成することから
始まり、水温が10℃くらいにな
ったら、給餌率(総魚体重あたり)
0.2~3.0%を目安として、
残餌のないよう気をつけながら給
餌を行う。
可能採卵数は、4月下旬と5月
中旬に2回採卵した場合、雌の体
重1gあたり100粒と考え、
3
図6 6t水槽での親魚育成
雄雌の割合が1:1であることを前提として計算する。そして、目標生産
量から逆算して、必要な親魚数を確保する。例えば、表1の生産計画では、
親魚数は4kg(雄雌込み)となるが、成長度合いの違う仔魚を放養する
ことを避けるために、親魚は2倍の8kg(雄雌込み)必要となる。
また、産卵期(3月~7月)になると、水槽の壁面にも卵を産み出すが、
親魚水槽(親魚池)の中に藻類などがあると、産卵してしまうため取り除
く。
(2)施 肥
養魚水田への施肥は、仔魚の餌となるワムシ、ミジンコ等の動物性プラ
ンクトンを発生させるために行う。
まず、仔魚を放養する1ヶ月前に石灰(粉末)を200g/㎡程度撒布
し、5cm水を張り、6~7日間放置する。その後、鶏糞を50~100
g/㎡、醤油粕(5cm角に砕く)を160g/㎡程度撒布して、水を満
水にする。
ただし、鶏糞は藻類の繁茂を招くため、使用する場合は十分留意するこ
と。
(3)採
卵
ホンモロコの産卵期は、3月~7月
であるが、養殖では4月下旬~5月中
旬に採卵する。
まず、あらかじめ用意した人工魚巣
(図7)の片面に遮光シート(寒冷紗)
を張り、切れ目を入れる。次に、遮光
シートを張った面を下にして、親魚水
槽に浮かべる。産み付けられた卵は、
親魚に食べられたり、卵が多く付き
図7 人工魚巣
過ぎると、水カビが発生するので、
卵が一様に付いたら速やかに取り
上げ、次の人工魚巣を入れる。取り上
げた人工魚巣は、孵化槽に移すが、人
工魚巣の中に親魚が潜り込んでいる
ので、取り除く。
また、養殖の規模がそれほど大きく
なければ、親魚水槽には一度に複数の
人工魚巣を入れずに、一個ずつ入れる
ほうが効率的な採卵ができる。
図8 人工魚巣の産卵
4
なお、産卵は一度治まっても、しばらく間隔を開けるとふたたび始まる。
したがって、4月下旬と5月中旬に2回採卵できるので、必要な採卵数を
確保する。採卵数は、人工魚巣に卵が一様に付いたら4~6万粒と数える。
(4)孵 化
卵が付着した人工魚巣は、遮光シートを
張った面を上にして、孵化槽に入れる。
孵化槽は、竹や鉄パイプなどを使って、
1.2m×2.4m程度の骨組みを作り、
その上にビニールシートを載せて、深さ
20~30cmのものを設置する(図9)
が、人工魚巣が完全に浸かる容器で代用す
ることもできる(図10)。ただし、この場
合は、日陰を作り水温の変化を抑える。
なお、新しいビニールシートおよび容器
は、溶出する溶媒により孵化仔魚が死亡す
るので、よく洗ってから使用する。古い
図9 人工魚巣を入れた孵化槽
ビニールシートを使用する場合は、小さい
穴がないか注意する。また、孵化槽には
清澄な水(水道水のカルキを抜いたものが
望ましい)を張り、エアレーション(ペッ
ト用のものでよい)を行う。
人工魚巣を孵化槽に入れて、1週間から
10日経過すると孵化するが、先述したと
おり、人工魚巣に一様に卵が付けば
4~6万粒、その約6割が孵化すると
図10 プラスチック容器での孵化
考え、計画した仔魚の数を確保する。
(5)放 養
孵化仔魚(全長約4mm)は、孵化後2~3日すると泳ぐようになるの
で、この時に養魚水田の水を容器(ビーカー)に入れ、その中に孵化仔魚
を数尾入れて1日様子を見る。それで孵化仔魚に異状が見られなければ、
孵化水槽から仔魚を放養する。
放養して2週間は、施肥により発生させたワムシやミジンコが流出しな
いよう、できるだけ給排水は控える。
また、この頃、夜間から日の出前は、藻類、プランクトンの呼吸作用に
より酸素量が極端に低下することがあるので、給水やエアレーションによ
り酸素の欠乏を防ぐ。
5
また、夏期に藻類が繁殖するのを抑制するためには、野球場の整備に使
われるようなT字型のトンボなどを使って、底泥を攪拌して透明度を低下
させる。しかし、施肥や糞、残餌で低酸素状態になっている可能性がある
泥を巻き上げることになるので、実施する場合は十分留意すること。
(6)予備用水田を利用した稚魚の確保
養魚水田に放養する種苗については、
自家生産か生産組合などの組織で採卵・
孵化させた仔魚を使用するが、孵化仔魚
の段階で失敗すると、養殖ができなくな
るため、予備用の稚魚を確保する。除草
剤撒布後5日以上経過した田植え後の水
田に、1反あたり5kgの醤油粕を撒き、
孵化仔魚を1反あたり4~5万尾の密度
で放流し、約1ヶ月後の中干し時に全長
2cm程度になった稚魚を採取する。
この方法で、放流した孵化仔魚の2
5%程度の稚魚が採取でき、養殖初期段
階における生産リスクを低減できるが、
図11 水田からの稚魚採取
予備用水田としては、勾配がつき、畦の
高い水田を選定し、採取直前に溝切りを
行い、より多くの稚魚を採取するために、
水の出し入れを2~3回繰り返すなどの
図12 水田から採取した稚魚
工夫が必要である。
なお、この方法は、琵琶湖の固有種であるホンモロコが、公有水面に散
逸する恐れがあるため、他府県で行なう場合は、当該府県の法令等に抵触
しないように留意する必要がある。
(7)給 餌
仔魚は、放養直後からワムシやミジン
コを摂餌するが、放養後2週目頃から人
工飼料(粉末)を手撒きで給餌する。さ
らに4週目から1週間程度かけてコイ用
配合飼料(クランブル)へ移行する。そ
の頃には、稚魚が池の縁を遊泳するの
が確認できるようになるので、餌場を
設定し、手撒きで給餌してもよいが、
図13 自動給餌機による給餌
自動給餌機を設置しておけば省力化が図れる(図13)。給餌回数は、
6
1日3~7回、1回15~30分程度にセットする(電気式の場合)。
月
日
体重/尾(g)
給餌率(%)
備
考
5月30日
0.1
6.0 クランブル1(粉末)
6月30日
1.0
5.0 クランブル1
7月30日
2.0
4.0 クランブル1
8月30日
3.7
3.0 クランブル2
9月30日
5.0
2.0 クランブル2
10月30日
6.0
1.0 クランブル2
表2
ホンモロコの成長と給餌率(4月30日放養)
4/30~5/14 ワムシ・ミジンコ
4
5
8/1~
6
7
クランブル 2
8
9
10
11
12
5/7~6/7 クランブル 1(粉末)
6/7~7/31 クランブル 1
図14
餌の切り替え時期(4月30日放養)
1日の給餌量は、表2を目安としてホンモロコの総重量と給餌率から算
出する。
総重量は、ホンモロコが給餌場に集まるようになれば、1ヶ月に1回サ
ンプル採取により算出し、給餌率は6%程度からはじめ、成長に伴い徐々
に下げていき、餌の粒子は大きいものへ変えていく(図14)。ただし、給
餌量を1ヶ月に1回補正しているだけでは、ホンモロコの成長に追いつけ
ず適正な給餌ができないので、秋までの成長期においては、生産計画に合
わせて少しずつ給餌量を増やしていき、1ヶ月ごとのサンプル測定により
再補正する。
なお、ホンモロコの動きが緩慢になったり、斃死数が増えた場合は、給
餌を中止して様子を見る。
(8)取り上げ
ホンモロコ養殖では、10月中旬以降
に水落しによりホンモロコを取り上げる
(図4)が、下流側(排水口側)で注水
しながら水を落とすと、上流に残るホン
モロコが少なくなり効率的に作業ができ
る(図15)。
7
図15 排水口側での注水
また、取り上げてから出荷までは、
消化管内の飼料や糞を完全に排泄させ
るために、3日~1週間程度清澄な水で
蓄養する(図16)。
なお、取り上げたホンモロコの一部は、
次の養殖の親魚として育成し、空になっ
た養魚水田は、次の養殖まで干しておく。
図16 1t水槽での一時蓄養
4.病気とその対策
ホンモロコ養殖における病気は、水カビ病や寄生虫によるものなどがあ
るが、ほとんどの薬剤は使用できず、病気対策には注意を要する。
養魚水田において斃死数が増加した場合は、給餌を中止し、給排水によ
り養魚水田内の水を薄める。
親魚育成水槽において、動きが緩慢になったり、斃死数が増加した場合
は、給餌・給水を停止し、並塩による塩水浴(濃度0.3~0.5%)を
1~3日間行う。
5.収支試算
10aの養魚水田の例(表3)では、600,000円の収入に対して、
支出の合計は、350,000円(餌代:182,000円、石灰・鶏糞:
8,000円、電気代:120,000円、水利組合費:5,000円、
その他消耗品:35,000円)で250,000円の利益となる。
なお、施設に要する経費は様々であるが、およそ70万円とすれば、2
~3年で初期投資を回収できる。
項
目
金 額(円)
備
考
収
入
600,000 @3,000 円×200 ㎏(次年度親魚、取
り上げ、選別、運搬時のロスを除く。)
支
出
350,000
餌代
石灰・鶏糞
電気代
水利組合費
その他消耗品
利
益
表3
182,000 @280 円×650kg
8,000
120,000 @10,000 円×12 ヶ月
5,000
35,000
250,000
養魚水田(10a)におけるホンモロコ養殖(自家採卵)の収支例
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