「日本無線株式会社」<PDF - 公益財団法人防衛基盤整備協会

航空気象装置 JMMQ-M7 における省力化・効率化・機動性向上
日本無線株式会社
高原
智明
星野
睦
1.はじめに
航空気象装置 JMMQ-M7(以下本装置)は航空機の離着陸等に必要な気象情報を収集し、陸上自衛隊航
空科部隊等へ提供する装置である。
本装置は1分1秒でも早い気象情報の提供を求められており、本装置の前身である航空気象装置
JMMQ-M3、JMMQ-M4(以下従来装置)の実運用で挙がった改善要望を聴取・分析し、平成 20 年度から省
力化、効率化、機動性向上をテーマに開発を開始した。
2.航空気象装置 JMMQ-M7 の概要
本装置は図1に示した各種の気象現況を把握する気象観測機器と、集約した気象情報を解析する「気
象情報処理装置」
、航空科部隊等に情報提供する「気象端末装置」で構成されている。
気象観測機器にはリアルタイムで雨雲の強さや移動方向を捉える「移動気象レーダ装置」
、気象衛星
ひまわり 8 号の解析データを通信衛星から受信・表示する「気象衛星受画装置」
、風向風速・気温・気
圧・視程・雲底高度などの航空機の離着陸に必要な気象情報を取得する「展開地気象観測装置」やポ
ータブルタイプの「移動気象観測装置」がある。
図1 航空気象装置 JMMQ-M7 構成図
1
3.省力化・効率化・機動性向上に向けた取り組み
(1) 自動補正機能による省力化・効率化
従来の移動気象レーダ装置は図2のようなシェルタを油圧アウトリガで一旦持ち上げ、トラッ
クを移動した後に今度は油圧アウトリガでシェルタを降ろして水平水準を取り、その後に油圧テ
ーブルリフターで空中線をリフトアップして導波管を接続する等の多くの手順が必要であった。
このため、展開・撤収には数時間もの時間を要していた。
本装置は図3のような展開手順となっており、下記のような自動補正機能を搭載することで、
展開・撤収にかかる人員・時間を大幅に短縮し、省力化・効率化を成し遂げることができている。

傾斜角(ロール・ピッチ)センサーを用いた自動水平補正機構を取入れ、傾斜のある展開
地であってもトラックに積載したままの状態で運用が可能

磁気方位センサーと GPS 位置情報による真北方位の自動設定

GPS 位置情報による現在位置周辺の地形図やランドマークを自動で画面に表示

GPS 時刻情報による各構成品の時刻同期
①シェルタを
ト ラ ッ クか
ら降ろす
③油圧リフター
による空中線を
リフトアップ
⑤方位磁針による
方位合わせ
②アウトリガ(4本)
により水平水準を
合わせる
④導波管を
接続
図2 従来装置のレーダ空中線の構造と展開方法
②展 開ボタン押 下
でパラボラアン
テナ部分を起こ
す
③傾斜角・方位情
報により自動水
平補正して空中
線を回転させる
①車体のサスペン
ションを固定する
図3 本装置のレーダ空中線の構造と展開方法
2
(2) 構成品の小型化、最適化による機動性の向上
気象情報処理装置は最新技術の適応による搭載機器の小型化、シェルタ内配置の工夫により、
搭載機器のスペースを大幅に削減した。さらに搭載機器を省電力化することで発動発電機の小型
化を実現し、牽引していた電源車(1t トレーラ)の機能も一体車両に搭載した上で、従来機で用
いていた 3.5t トラックを 1.5t トラックにまで小型化した。トラックの小型化は機動性の向上に
貢献する(図4)
。
また図5のように、発動発電機をトラック荷台前方に搭載したまま横方向にスライドすれば運用
できる配置にしたことで、電源始動までの展開時間を短縮、すなわち省力化を実現している。発動
発電機の保守でトラックから降ろすときは、屋根にとりつけたアームとチェーンブロックによって、
クレーン無しで降ろせるよう保守性を向上した。
従来装置
本装置
図4 気象情報処理装置の車両構成
車両移動時
運用時
発動発電機保守時
図5 発動発電機運用の省力化・保守性の向上
移動気象レーダ装置の車両(図6)はレーダ空中線の構造を見直しスペースを最適化することで、
本車両も発動発電機を同一トラックに積載できる構造に変更した。電源車(1t トレーラ)の牽引が
不要となり、機動性向上に貢献する。
従来装置
本装置
図6 移動気象レーダ装置の車両構成
3
移動気象レーダ装置のレーダ空中線は、走行中に道路交通法上の高さ制限 3.8m 以下に収納する
必要があり、従来装置では図7のような油圧テーブルリフターを昇降・下降することで空中線を
展開・収納していた。
本装置ではレーダ空中線のパラボラアンテナを折りたためる構造とし、簡単に展開・収納でき
るようにした。これにより、従来装置の油圧テーブルリフター部分に発動発電機を積載するスペ
ースを確保でき、軽量化だけでなくメンテナンス性の向上を図った。
シェルタ
シェルタ
従来装置
小型化により
発動発電機設置
スペースを確保
本装置
図7 レーダ空中線展開・収納構造
4.おわりに
この度、航空気象装置 JMMQ-M7 の省力化、効率化・機動性向上の取り組みに対して、防衛基盤整備
協会賞を授与して頂き大変光栄に存じます。本開発にあたり、ご指導、ご協力を頂きました関係者の
皆様には深く感謝いたしますと共に、今後も一層のご指導、ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げま
す。
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