申請書 - 西南学院大学博物館

2016 年度
「先進研究奨励」費 申請書
学籍番号:14DK001
氏
名:平川
知佳
学
年:博士後期課程3年
研究課題名:近代期における軍隊と遊廓の関係〜福岡県久留米市の事例から〜
研究概要
本研究では、久留米市に存在していた桜町遊廓と軍隊の設置の関連を中心に
取り上げる。久留米市の桜町遊廓は、明治期から昭和期まで原古賀町に存在し
ていた。
久留米市において、桜町遊廓はどのような存在であったのか。どのような人
物によって経営され、どのような人々に利用され、どのような位置づけがなさ
れていたのか。遊廓は、外部と隔離されるようにして存在してはいたが、当時
の社会を構成する要素のひとつであったことは言うまでもない。
そこで注目したいのが、軍隊と遊廓の関係性である。桜町遊廓は、その成立
背景も、日本の近代化に伴う軍施設の設置や立地と連動しており、また『福岡
日日新聞』における桜町遊廓の娼妓と軍人の心中事件や、久留米市所蔵『軍人
所得金日記帳』の存在からも、軍隊との明らかな関係を読み取ることができる。
桜町遊廓は軍隊とともに誕生し、そして発展していったひとつの事例として取
り上げることができる。
近代期の日本の世相とあわせながら、軍都として発展した久留米の都市形成
と遊廓の関係を分析することで、久留米市における遊廓の特性を明らかにする
とともに近代におけるセクシュアリティをめぐる課題についても考察を行いた
い。
研究目的と意義
本研究では、久留米市における軍隊と遊廓の関係を中心に、遊廓社会研究を
行うことを研究目的とする。近年では、都市史の研究分野において、19〜20 世
紀を対象に日本各地における遊廓とその周辺に形成された社会の構造について
「遊廓社会」論の視点からの研究がなされている1。そこでは遊廓が立地する地
域・都市の形成・開発の問題をはじめ、遊廓と遊廓を取りまく社会の構成要素
が取り結ぶ相互関係のありようについて論じられている。
その中で日本全国における遊廓の多様な事例を発掘、具体的に分析を行い、
その特質を考察すること、そしてそれぞれのケースと比較検討し、類型化をす
すめることが課題となっている。そのような流れを踏まえた上で、本研究では、
福岡県久留米市に存在していた遊廓の事例を取り上げたい。
久留米市の遊廓は、明治 31(1897)年、原古賀町につくられた。ここで注目
したいのは、その遊廓の誕生時期が、久留米市に軍隊が設置される時期とほぼ
重なっている点である2。遊廓が設置される地域の特徴としては、観光地や商業
都市などの繁華街のほか、近代期以降は、新たな国家づくりのもと男性人口が
集中する場所に付随して設置されるケースが挙げられる。そのうちの一つとし
て、軍隊(軍事関連施設)付近への設置がある。
軍都につくられた遊廓については、全国的にみて研究がまだ十分に進められ
ているとは言えない。また、こういった軍隊と遊廓の関係についての考察は、
軍都研究の進展からも事例分析の蓄積が必要とされている。
本研究では、軍隊の成立背景および軍都としての歩みについての軍都史から
のアプローチと久留米市における遊廓成立過程および発展の歴史とをあわせて
みることで、軍隊と遊廓の関係について浮き彫りにしたい。
また、そういった軍隊と遊廓といういわばマクロレベルの観点からの考察に
加え、遊廓で働いていた娼妓の生活実態についてミクロの分析を行いながら、
そこでも外部とのつながりについて考察を深めたい。そうすることで、久留米
市における遊廓の特質を明らかにするとともに近代化の過程で囲い込まれて行
く女性のセクシュアリティをめぐる課題に迫ることができると考える。
また、久留米市における遊廓研究および遊廓と軍隊の関係についての研究は、
十分になされているとは言えない状況である。現状において、遊廓の存在につ
いては、自治体が編纂した研究史に概説的に触れられている程度に過ぎない。
そういった地方史に貢献できるという観点からも、この研究は意義のあるもの
1佐賀朝「問題提起−近世〜近代「遊廓社会」研究の課題−」
(都市史研究会編『年報都市史研究
17 遊廓社会』山川出版社、2010 年)
2 遊廓設置と軍隊設置が決定したのが、ともに明治 29(1896)年。実際に軍隊(歩兵第 48 連
隊)が駐屯したのが明治 30(1897)年。遊廓が原古賀町に開業したのも明治 30(1897)年。
であると考える。
研究計画
本研究における調査および考察は、以下の3つの研究方法を軸に進めていき
たい。
(研究方法)
Ⅰ.資料調査、Ⅱ.フィールドワーク、Ⅲ.資料のデジタル化作業
Ⅰ.資料調査
久留米市に歩兵第48連隊および軍関連施設が設置された背景および久留米
市が軍都として発展して行く過程(軍関連施設の建設過程など)を、防衛省防衛研
究所所蔵『陸軍省大日記』より読み取る。その一方で、久留米市において遊廓
が設置されるまでの背景(市民による賛成運動および反対運動)、遊廓の成立過
程、繁栄の様子、また遊廓内での事件などを『福岡日日新聞』より読み取る。
『陸
軍省大日記』と『福岡日日新聞』からそれぞれ読み取った内容を照らし合わせ、
横断的に見ることで、軍隊関連施設の成立・発展の中で起こった出来事と遊廓
で起こった出来事を確認し、軍隊と遊廓の関係を浮き彫りにすることができる。
Ⅱ.フィールドワーク
Ⅱ−(1)聞き取り調査
戦後 70 年が過ぎ、久留米市に存在していた軍隊および遊廓の、その当時の様
子を知る人物はきわめて少なくなっている。当時の生の声を記録することは今
後のためにも極めて意義のあることだと思われる。そこで、久留米市における
軍隊の様子、桜町遊廓の様子を知る人物それぞれに聞き取り調査を行う。
Ⅱ−(2)フィールドワーク
書籍や資料を読むだけでなく、聞き取り調査同様、軍隊や遊廓が存在してい
た当時の様子をリアルに考察するためにも、積極的なフィールドワークを行い
たい。歩兵第 48 連隊跡地(現・陸上自衛隊久留米駐屯地)および久留米の軍隊
についての歴史資料館である「広報館」を見学することで軍人の生活の痕跡を
たどる。同じように、久留米市原古賀町付近を歩き、遊廓の痕跡および遊廓跡
の現在の様子について調査を行う。
Ⅲ.資料のデジタル化作業
資料調査やフィールドワーク調査で得られた成果をデジタル化し、視覚的な
理解を深める。一例としては、近代期以降のまちの中における軍関連施設(兵
舎だけでなく練兵場、演習場、将校住宅など)の立地と遊廓の立地、主要な駅
や観光地などをデジタル地図にマッピングすることで、遊廓と軍隊の位置関係、
また当時の人の流れの様子などを読み取るなど、当時の久留米市の地域性評価
を行う。
調査方法
調査内容
目的
資料の所蔵先など
Ⅰ.資料調査
久留米市に軍隊
資料調査1
『陸軍省大日記』の調
査
が設置された背
景、軍都として発 防衛省防衛研究所
展して行く過程
を考察
桜町遊廓の誕生、
資料調査2
『福岡日日新聞』の調 遊廓内での事件、
査
繁栄の様子など
西南学院大学図書館
を考察
資料調査3
『娼妓所得金日記帳』 娼妓の生活実態
の調査
を知る
久留米市文化財収蔵館
Ⅱ.フィールドワー
ク
Ⅱ-(1).聞き取
り調査
戦前の国分町の
聞き取り調査1
聞き取り調査
様子や軍隊での
生活について知
久留米市国分町
る
聞き取り調査2
Ⅱ-(2).フィール
聞き取り調査
戦前の桜町遊廓
の様子を知る
久留米市諏訪野町
ドワーク
フィールドワーク
1
歩兵第 48 連隊跡地、
「広報館」見学及び資
料収集
フィールドワーク
久留米市原古賀町近
2
辺において資料収集
軍人の生活の痕
跡を探す
遊廓の痕跡、遊廓
跡の現在の様子
を知る
Ⅲ.資料のデジタル
化作業
資料のデジタル化
『娼妓所得金日記帳』 資料の調査結果
作業1
のデータ入力
資料のデジタル化
作業2
遊廓の場所や軍関連
施設の場所をデジタ
ル地図にマッピング
久留米市国分町
を見やすくする
資料の調査結果
を見やすくする
久留米市原古賀町