パソコン向け音楽配信ビジネスに関する研究

流通科学大学卒業論文
崔ゼミ
「パソコン向け音楽配信ビジネスに関する研究」
35011904
山田香織
12月18日提出
1
「パソコン向け音楽配信ビジネスに関する研究」
Ⅰ、はじめに
Ⅱ、日本の音楽業界全体の現状
1、日本の音楽シェア
2、日本の音楽市場の現状
3、音楽業界不振の外部的原因
3−(1)
、違法コピー
3−(2)
、ファイル交換ソフト
4、外部的要因による法的な動き
4−(1)、
(例)米国での「ナップスター」著作権侵害訴訟
4−(2)、
(例)日本での「ファイルローグ」
4−(3)、
「WinMX」と「Winny」
5、コピーコントロールCD(CCCD)
Ⅲ、音楽配信サービス開始の経緯と現状。
1、 日本
2、 アメリカ
Ⅳ、アメリカと日本の比較
1、カタログ数
2、価格
3、利便性
4、小額決済
Ⅴ、携帯電話向け音楽配信「着うた」との比較
1、カタログ数
2、価格
3、利便性
Ⅵ、結論
「参考文献」
Ⅰ、はじめに
2
街に買い物に行った時や、食事に行く時、ドライブ中など数え上げればきりがない程、
音楽を耳にする。また音楽鑑賞を趣味にする人もいれば、逆に音楽を演奏することを趣味
にする人もいる。このように、「音楽」は私達の生活の中で関わりの深い物の一つである。
「音楽」と言っても、その中からロック・ポップ・クラシック・ヒップホップ・R&B・
パンク・ジャズ等多くのジャンルに別けることができる。また、ジャンル一つ一つによっ
て、顧客の年齢層も違ってくるだろうし、時代の変化と共に、ある特定のジャンルだけが、
爆発的に人気がでることもある。すなわち顧客のニーズも同時に変化してくる。
ここ数年、日本の音楽業界の不況が目立ち始め、売り上げの低迷、ミリオンセラー作品
の減少が起こっている中で新たなビジネスとして音楽配信サービスが始まった。音楽配信
サービスと言っても、パソコンや、携帯への音楽配信や、レコード小売店の試聴用の音楽
配信などさまざまであるが、この中からパソコン向けの音楽配信に注目し、研究のテーマ
とした。
Ⅱ、日本の音楽業界全体の現状
1、日本の音楽シェア
世界の音楽シェア
その他
29%
フランス
6%
イギリス
6%
米国
34%
ドイツ
9%
日本
16%
「よくわかる音楽業界」より
日本は世界第二位の音楽大国である。
第一位は米国で、世界の市場規模の34%を占めている。日本のシェアは16∼17%で
あり、年間の生産高は数量でおよそ4億万枚(本)、金額で5000億円強である。アジア
3
各国では中国、インドなどが売上を伸ばしているが、現在の経済情勢からすれば、大きな
市場へ成長するのはもう少々時間がかかりそうだ。日本では1985年に登場したCDに
より、今やオーディオテープは衰退し、オーディオディスクが占める割合は97%、その
中でもCDは95%を占めている。
しかし、下表のように一人あたりのレコード購入金額では上位の日本だが、購入枚数で
見ると、12∼13位あたりに位置している。これは、海外では幅広い年齢層が購入する
のに対し、日本ではCDを購買する世代が若年層に集中していることと、何と言ってもC
Dの高価格が大きな要因となっている。年間2万点以上も発売されるCDも、その大半が
若年層をターゲットにした作品である。音楽の多様性や文化的成長期においては、まだ日
本は成長過程にあるといえるだろう。
個人購入金額(US$/年)
デンマーク
36.28
スイス
38.23
日本
41.39
イギリス
47.27
米国
47.35
ノルウェー
48.38
0
10
20
30
40
50
60
販売総数(百万US$/年)
カナダ
659.9
フランス
1828.3
ドイツ
2128.6
イギリス
2808.7
日本
5253.6
米国
13411.7
0
2000
4000
6000
8000
10000
12000
14000
16000
「日本レコード協会」より
4
2、日本の音楽市場の現状
音楽業界の心臓部ともいえるレコード市場が、かつてない危機に直面している。
宇多田ヒカル・浜崎あゆみ・サザンオールスターズ・モーニング娘・・・一般的には「ヒッ
ト続出」といったイメージがあるかもしれない。だが、主力商品のCD生産量は、3年連続
で前年を下回り、大手レコード会社20社が加盟する「日本レコード協会」の製造実績を見
ると、日本の音楽業界のCD総生産額は1998年の6075億円をピークに5年連続で
減少、2001年のCD生産量は、枚数では11%マイナスとなり、金額でも7%の減収
となった。具体的には、数量で5000万枚、金額で400億円強も減ったことになる。
そして2003年には、約4000億円まで落ち込んだ。この低迷傾向は3年も続いてお
り、この間におよそ1000億円も減少してしまった。
小売店ベースで見ると、約1500億円の大幅減収となった。レコード市場全体は明確
に縮小傾向にある。
その原因は、売れる作品(アーティスト)と売れにくい作品の二極化が明確になったこ
とにある。この影響は、全国津々浦々に点在してきたいわゆる
街のレコード屋
のみな
らず、90年代の降盛を誇ってきた大型レコード店へも浸透し始めている。
日本レコード協会によると、2001年発売された新譜シングルとアルバムのなかで、
ミリオン(100万枚以上を売った)作品はシングル・アルバムともに前年を大きく割り
込んでいる。具体的にいうと、その前年14作品あったシングルは、2001年ではその
わずか半分の5作品。アルバムも前年の26作品から3作品減らし、23作品となった。
5
ミリオンセラー作品数の推移
30
25
アルバム
シングル
20
枚
数
15
10
5
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
0
年度
「よくわかる音楽業界」より
華やかなヒット曲の舞台裏では、長引くCD不況に喘ぐ音楽業界の姿がある。上のデー
タからもわかるように、レコード全体の売上減少に歯止めがきかないのが現状だ。レコー
ド会社の多くが営業・販売網の縮小・見直しをはかり、大規模な人員削減に着手している。
史上最多のミリオンセラーに沸いた90年代前半は遠ざかり、新たな挑戦と改革の時代
を迎えている。
3、音楽業界不振の外部的原因
音楽ビジネスとは権利ビジネスである。音楽業界でいう商品とは、様々な著作権の集合
体であり、その権利を利益に換える事で、ビジネスが成立している。ひとくちに著作権と
いっても、その実態はきわめて複雑だ。音楽ビジネスに関わるものだけでも、
「録音権(複
製権)」
「演奏権」
「放送権」
「貸与権」
「著作隣接権」などが存在し、その利用に関しては仲
介業務法に基づき、現在は日本音楽著作権協会のみが管理している。
最近はインターネットの普及に伴うソフトのデジタル化、そしてパソコンやDVDなど
新たな媒体の登場によって、安易に音楽コンテンツをコピーする機会が増え、それにより
著作権を侵害するケースが問題になっている。それは著作権管理の規定が、急速に変化す
る現実の世界に対応できなくなりつつあることの現れであり、新たな施策を求める声が強
6
まっている。著作物とは、著作権法二条一項一号で、
「思想または感情を、創作的に表現し
たものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの」と定義されている。
つまり小説、脚本をはじめ、音楽、絵画、美術品、建設物、地図、映画、写真など、およ
そ人の手により様々な形で生み出されたあらゆる著作物や創作物には、すべて著作権が存
在すると考えられる。このように多岐にわたる著作物を、他者が何らかの形で利用したい
場合、つまり著作物の利用承諾や譲渡を受けたい場合は、著作権の保有者である著作権者、
またはその代理人と交渉する。もしくは、音楽著作権管理事業者を通じて交渉する必要が
ある。一般には「著作権」と一言で表現されているが、実際には使用状況に応じて、著作
権はいくつもの種類にわかれている。
たとえば音楽著作権のなかで音楽ビジネスに関連するものには、レコード会社や原盤制
作会社が音楽録画することで発生する「録音録画権(複製権)」、コンサートや放送局など
で音楽が使用される場合に発生する「演奏権」や「放送権」、またレンタル店がCDをレン
タルする場合に発生する「貸与権」などがある。たとえば、テレビ局が番組中にBGMと
してある音楽を使用した場合には、テレビ局は著作権者に対して、
「放送権」に対する使用
料を支払わなければならない仕組みになっている。
さらに実演家(歌手や演奏家)やレコード制作者の権利は、
「著作隣接権」によって守ら
れている。実演家は著作物の作者ではないが、著作権法第九一条で「録音及び録画する権
利を有する」とされているからである。実演家は、この権利を対価として、業界団体等か
ら印税を受け取ることができるのである。またレコード会社や放送局などにもいくつかの
権利が与えられている。このように、それぞれが有する権利の譲渡や使用承諾によって音
楽ビジネスは成立しているのである。
3−(1)
、違法コピー
1998年をピークに音楽CDの売上げが毎年下がっている主な原因として、音楽の「違
法コピー」が挙げられる。その被害を広げている要因として、CD−Rによるコピーとと
もに、インターネットのファイル交換ソフトを非難している。したがって音楽とインター
ネットの関係を語る上で、違法コピーとファイル交換ソフトの問題を避けて通るわけには
いかない。
だが、一口に「違法コピー」といっても、その種類はさまざまだ。個人がカジュアル感
覚で行うものから、海賊版業者が組織ぐるみで行うものまで含めると、非常に多岐にわた
る。音楽業界は、ユーザーがパソコンなどを使ってCD−Rにコピーしたり、MP3にリ
7
ッピングして友達にあげたりする「商売」を目的としていない行為も、
「カジュアルコピー」
として問題視している。
日本レコード協会が2002年9月19日に発表した「音楽コンテンツ個人録音及びそ
れに関わるCD−R等の利用実態」の結果が次のようになっている。
友人・知人にCD−Rに音楽を録音してあげた経験
45%
録音してあげた
していない
55%
※ベース:半年間に音楽をCD−R録音した人(n=318)
「日本レコード協会」より
個人が行うこうした非商用目的のカジュアルコピーは、パソコンやインターネットが発
達する以前、それこそ音楽CDが登場する前から行われていた。その後、レコード、CD
レンタルという新しいビジネスが登場し、CDをデジタルのまま録音できるDATやMD
といった新メディアが登場した。現在でもMDは現役で、レンタルで借りてきたアルバム
やシングルをMDにコピーして楽しんだり、友達にあげたりすることは日常的に行われて
いる。さらに最近は、パソコンを利用して短時間にCDの内容をCD−Rに焼いたり、イ
ンターネットのファイル交換ソフトを通して、簡単かつ無料で誰かがCDからコピーした
楽曲が手に入るようになってしまった。音楽業界的には、これらの行為を一番問題視して
いるのだ。
8
CD−R音楽録音利用後のCD購入量増減意識
5
7
減った
13
19
どちらかといえば減っ
た
特にかわらない
どちらかといえば増え
た
増えた
55
※ベース:半年内CD−R機器利用者(n=223)
「日本レコード協会」より
CD−Rの音楽用利用の理由
CDプレイヤーで再生できる
12%
オリジナルと同じ音質でコピーできる
クルマの中で使いやすい
CD−Rは他のメディアより安い
他のメディアより早くコピーできる
コピーしたものからさらにダビングできる
20%
22%
23%
30%
42%
43%
人にあげやすい・喜ばれる
48%
コピーしたものからさらに編集し
My
Bestを作れる
ジャケットなどをカラープリンターで
9
75%
出すとほとんどオリジナル感覚
「日本レコード協会」より
※ベース:半年内データ用CD−R機器利用者(n=172)
〔図の検証〕
・CDプレイヤーや車の中でCDと同じ音質で楽しめるクローンだからという理由が
上位を占める。
・以下、他のメディアより安く早くコピーできるからという理由が続いている。
・ コピーしたものからさらにダビングできる 、 コピーしたものからさらに編集コピ
ーができる
といったCD−Rだからこその理由は20%台。
・ ジャケットなどカラープリンターで出すとほとんどオリジナル感覚
の意識は1
2%
音楽業界が「違法コピー」とみなすカジュアルコピーだが、消費者の感覚的には「え?
これが違法行為?」というものもある。音楽好きであれば、友達とCDを貸し借りして、
それをテープやMDに落とした経験は誰しも一度はある。この行為を「犯罪である」と言
われても、知らない人が多い。著作権者の許可なしに著作物をコピーすることを禁止して
いる著作権法第30条に「私的使用のための複製」という項目がある。
(私的使用のための複製)
第30条 著作権の目的となっている著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた
範囲内において使用することを目的とする時は、その使用するものが複製することができる
ここでポイントになるのが「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲にお
いて使用」する場合、
「使用するものが複製できる」という部分だ。これらは、家庭内など
個人的な限られた範囲内で使用する目的で、使用する本人がコピーする場合は、著作者か
ら承諾を得なくても自由にコピーしてもいい、という規定である。ただし、使用する本人
がコピーする必要があり、他人にプレゼントする目的でコピーすることはできない。
その一方で、音楽業界の中心的存在であるレコード会社のメインの「商材」は、言うま
でもなく音楽CDだ。音楽CDを作るのはタダではないし、作ったCDを宣伝するのにも
多大なお金がかかる。ところが音楽CDというのは、パソコンを使えば驚くほど簡単に「中
身」のコピーを作ることができる。そのため、中国やベトナム、タイなどのアジア圏では、
10
日本のレコード会社が発売しているCDの中身をCD−Rにコピーし、ジャケットをカラ
ーコピーしたものが街の「CDショップ」に平気で売られている。当然これらのコピーが
たくさん売られたところで日本のレコード会社やアーティストには一銭も入らない。さす
がに著作権侵害者に対する監視がアジア一厳しい日本では、J−POPのCDをそのまま
CD−Rにコピーしてお店や路上で販売するというような組織ぐるみの海賊行為は少ない
が、個人間売買であるネットオークションに目を向けると、日常的にそうした行為が行わ
れている。違法コピーの中でもっとも違法性が高いのはこうした「商売」を目的とした違
法コピーである。
3−(2)
、ファイル交換ソフト
インターネットがない時代には友達同士で録音テープを交換しあう程度だったが、これ
をインターネットを利用してMP3ファイルでやりあえば、そのコピーは瞬く間に世界へ
拡散していく。
(MP3はパソコンで使える音声ファイルの形式に1つ。音声に圧縮をかけ
ることによって、1曲単位3∼5MB程度)
しかもデジタルのため、コピーに伴う劣化はほとんどないのだ。
もちろん、この行為は違法性を伴う。しかし、ユーザーたちはそれをわかっていてもな
お、MP3ファイルの収集をやめることは現在にいたっても無い。当初はホームページか
ら堂々とMP3ファイルをダウンロードできるようになっていたサイトも多かったが、レ
コード会社やJASRAC(日本音楽著作権協会)などの警告キャンペーンにより、表向
きは減少した。しかし、その後、ユーザー達はチャットやメッセージのやりとりをリアル
タイムで楽しめるコミュニケーション・ソフトの「ICQ」や「Hotline」などの
ファイル転送機能を利用して、ファイルの交換を始めてしまったのである。そして、
「ナッ
プスター」が登場した。このソフトではオンラインのユーザー同士が自分のパソコンのリ
ストを公開、ファイル検索の結果から目的のファイルを直接相手のパソコンからダウンロ
ードできるという一種の簡易サーバー機能を実現している。これによってユーザーは、検
索エンジンやアンダーグラウンドサイトのリンクに頼らずとも、簡単に目当てのMP3フ
ァイルをダウンロードできるようになったのだ。画期的なインターフェースを持っていた
ナップスターは、音楽好きの大学生を中心に瞬く間にブレイク。大学生から高校生、中学
生に広まり、その後は爆発的に全世代に広まっていった。このようにネットには、違法コ
ピーされた音楽ファイルが無尽蔵に流通している。
*ナップスターのファイル交換システム
11
ユーザーがナップスタ
ーのホームページで
ナップスターサーバー
登録してある音楽ファ
イルリストを閲覧し、希
望するフォルダをダウ
ンロードする。
ユーザー
ユーザー
ユーザー
ファイル転送
ファイル登録・閲覧
「よくわかる音楽業界」より
4、外部的要因による法的な動き
4−(1)
、
(例)米国での「ナップスター」著作権侵害訴訟
しかし、ナップスターの栄華も長くは続かなかった。
2001年、米サンフランシスコ連邦高等裁判所は、インターネット上で無料音楽交換
サービスを展開する「ナップスター」が、レコード会社の著作権を侵害しているとの判断
を下し、事業停止を勧告した。創業からわずか2年足らずで、6000万人以上の利用者
を獲得したナップスターだが、合法的な有料会員サービスへの移行を迫られることになっ
た。この高裁判決では、 フェアユース(公正な使用) という考え方が重要な判断基準と
なった。米国の著作権にまつわる判決では、ケースバイケースでフェアユースかどうかを
基準に違法性を判断しているが、ナップスター裁判においての違法根拠は3つの点に集約
された。①運営されている目的が事業目的であるか否か、②著作権者への配慮がされてい
るか否か、③既存の業界へデメリットを与えているか否か、である。
今回の判断では、事業目的で設立されていること、著作権者からの承諾を得ず、使用料
の支払いも検討されていないこと、そしてレコード業界におけるCD等売上の減少要因と
認定されたことが事業停止への裁定となった。すなわち、個人的複製の域を超えるものと
して、
「無断複製・送信行為の補助」を違法行為と判断されたのだ。ただしシステム自
体に違法性があるのではなく、著作権処理などが不十分であるとされた。その後音楽
12
業界に訴えられてからは、ナップスターは常に「合法サービス」への転換を模索して
きた。大きな転換点は、2002年の5月に欧米5大メジャーの1つBMGの親会社
であるドイツのベルテルスマンによって買収された。
4−(2)、(例)日本での「ファイルローグ」
基本的にファイル交換ソフトは米国で生まれ、米国を中心に広まったものだが、ナ
ップスターがサービス停止に追い込まれた2001年頃には、日本でもかなりのユー
ザーがいた。そんな中、日本で法人としてファイル交換ソフトのサービスを提供しよ
うとした業者があった。
「日本MMO」だ。
2001年11月にサービスを開始した日本MMOの「ファイルローグ」は、運営
開始前から音楽業界の猛反発を受けていた。そして日本MMOが音楽業界から再三の
警告に従わずにサービスを開始したため、2002年1月には日本音楽著作権協会(J
ASRAC)と日本レコード協会(RIAJ)に加盟する大手レコード会社19社が
共同で、サービス停止を求める仮処分申請と、日本MMOの社長個人に対する損害賠
償を求める提訴を行った。裁判では仮処分命令、判決(1審)ともにファイルローグ
が著作権侵害の主体と認定された。この判決でポイントとなるのは、ファイル交換ソ
フト(サービス)を提供した業者そのものが「著作権侵害の主体」と認定されたこと
だ。ファイルローグは違法なファイルだけでなく、著作権を侵害しない合法なファイ
ルを交換する目的でも利用できるサービスであり、そこで著作権侵害が行われていた
としても、悪いのは誰でもダウンロードできる状態にしたユーザーだ。
「ほう助」が成
立したとしても、著作権侵害の「主体」というのは明らかにおかしい。ところがこの
判決では、ファイルローグのサービス(ソフト)そのものが著作権を侵害していると
認定した。
4−(3)、「WinMX」と「Winny」
このような動きがある中でも、ナップスター以外のファイル交換ソフトはどんどん開発
され、世界中に広まっていってしまった。そしてファイル交換ソフトの広まりと同じよう
にインターネットユーザーの間に常時接続のブロードバンド回線もあっという間に広まっ
ていったのである。ナップスターが登場した当初は、1曲ダウンロードするのに5分から
10分程度かかっていた。しかし、ブロードバンド回線が普及したことで、高速回線同士
ならわずか数十秒で済むようになったのだ。こうした流れは2000年から2001年に
かけて急速にADSLが普及した日本でより顕著に見られた。日本ではナップスターがサ
13
ービスを停止した後、「WinMX」さらに、「Winny」というファイル交換ソフトが
主流になった。
「Winny」は凄まじい勢いで完成度を高めていき、2003年の後半に
は推定100万人のユーザーを集めるに至った。しかし2004年5月10日にソフトウ
ェアの開発者が著作権侵害のほう助で逮捕され、日本初の出来事となった。
5、コピーコントロールCD(CCCD)
CCCDとは、簡単に言うと「パソコンでコピーできないようにした音楽ディスク」の
ことである。日本で初めてCCCDが発売されたのは、2002年の3月。エイベックス
所属アーティストのBoAのシングル『Every
Heart−ミンナノキモチ』で導
入された。5月には東芝EMIがコンピレーションアルバムでCCCDを導入し、その後
ワーナーミュージック、ポニーキャニオン、ユニバーサルミュージック、キングレコード、
ビクターエンタテインメントなどの大手レコード会社が続々とCCCDタイトルを発売。
11月には、ソニーミュージックエンタテインメント(SME)が、独自形式となるCC
CD「レーベルゲートCD」を発表。
レーベルゲートCD(LGCD)
通常CCCDではセカンドセッションに圧縮音源が収録されており、PCのCD−R
OMドライブに挿入すると自動的に専用再生ソフトがインストールされて、音源を聴
くことができるようになっている。LGCDではこの圧縮音源へのアクセスにライセ
ンスが必要となっており、再生したりPCに複製したりするたびにネット接続して認
証および課金を行う仕組みになっている。2003年11月にはLGCD2にバー
ョンアップし、複製しないで再生するだけの場合にはライセンスを確認しなくなった
2004年7月現在、CCCDを発売したことがあるのは日本レコード協会正会員21
社のうち、約半数にあたる10社。SME、東芝EMI、エイベックスという大手3社が
CCCDを積極的にリリースしていることもあって、CCCD化は業界的な流れのように
思えるが、それでもメジャーレコード会社の約半分は静観している状況である。
2002年の導入当初は、どのレコード会社もCCCD化するタイトルは少なく、リス
ナーの反応を見つつ導入しているという状況だった。だが、2年以上が経過し、現在はC
CCDに積極的な会社と消極的な会社がはっきりと分かれるようになっている。現在もっ
ともCCCDに対して積極的なのは、エイベックスとSMEの2社だ。両社とも基本的に
はシングル、アルバムともほぼ全タイトルをCCCD化している。
14
Ⅲ、音楽配信サービス開始の経緯と現状。
1、日本
下の表にあるように、2000年から日本でのブロードバンド加入数は増加の一途をた
どっている。
違法コピーやファイル交換ソフトの土壌として、音楽業界から敵視されがちなパソコ
ン・インターネットだが、逆にこれらのツールを利用して幅広い層に楽曲を販売しようと
する方法も模索されてきた。それが、インターネット上でアーティストの楽曲をダウンロ
ードしてパソコンなどで音楽を聴くことができる「音楽配信」サービスである。
日本の音楽配信サービスの歴史は、米国よりも古い。20世紀末には既にインディーズ
系の音楽配信サービスが2つオープンしている。1999年9月にミュージック・シーオ
ー・ジェーピーがMP3形式による単曲ダウンロード型音楽配信を開始。このMP3ファ
イルには電子透かし技術が使われ、不正使用監視や権利処理、売上分配などに応用された。
同年10月には、ノエル(現在はイメージクエストインタラクティブに営業譲渡)によ
る「indiesmusic.com」が開始。こちらも単曲ダウンロード型配信で、配
信方式にはマクロソフトのWindows
Media
Audio(以下、WMA)が
使われた。インディーズ系の音楽配信から遅れること3ヶ月。12月に国内初となるメジ
ャーレーベルのSMEによる音楽配信「bitmusic」がスタートする。SMEはラ
ルク・アン・シエルやチューブなどの有名アーティストが多数所属する日本最大手のレコ
ード会社。家電、コンピューターから、金融や映画などの多彩な事業を展開するソニーグ
ループの有力企業として音楽ビジネスを行ってきた。ビットミュージックは邦楽44曲の
配信でスタート。その後、シングル局を中心にラインナップを充実させ、2000年8月
現在で配信楽曲は300曲以上、170人以上のアーティストが曲を提供している。価格
は1曲300∼350円(税込)。CDのシングル曲をほぼ同時にネット販売。決済はクレ
ジットカード、プリペイドカードのウェブマネー、プロバイダーのソネット決済システム
のスマッシュで行う。配信システムにはマイクロソフトのウィンドウズメディアテクノロ
ジーとIBMのEMMSの両方式を採用。音楽データの圧縮形式にはソニーが開発した『A
TRAC3』を使用している。著作権保護技術には『マジックゲート』と『オープンMG』
を採用し、音楽データが不正に二次利用されないようになっている。ビットミュージック
で購入した音楽は、ウィンドウズメディアプレーヤーやレーベルゲート・プレーヤーとい
った再生ソフトを使いパソコンで再生する。ソニーの携帯再生機器、MSウォークマンや
15
バイオミュージッククリップで聴くこともできる。
ビットミュージックは2000年5月からセリーヌ・ディオンなど洋楽アーティストの
楽曲や吉田拓郎などの旧譜の配信もスタート。SMEによるとスタートから2000年8
月までの8ヶ月で、5万曲以上がダウンロードされた。
現在、続々と音楽配信サービスを始めている大手レコード会社だが、当初は消極的で、
インターネットの活用も、プロモーション用に情報と試聴サービスが中心だった。しかし、
SMEが1999年12月に本格的な音楽配信ビジネスを始めたことをきっかけに、他の
レコード会社が追従。
2000年4月25日には、人気アーティストを武器に、エイベックスも音楽配信サイ
ト『@MUSIC』を立ち上げた。レコード会社による音楽配信サイトとしては、SME
のビットミュージックに続き2番目だ。@MUSICを展開する新会社のエイベックス・
ネットワークにはソニー・コンピューターエンタテインメント(SCE)やセブンイレブ
ン・ジャパン、角川書店などの異業種10社が出資した。
@MUSICには2004年11月現在、270組以上のアーティストが曲を提供して
いる。配信は新曲のシングルが中心で、CD発売と同時に配信を開始。音楽配信システム
はビットミュージックなども採用しているIBMが開発したEMMSと、リキッドオーデ
ィオ方式の両方式を使用。ユーザーはEMMSに対応したレーベルゲート・プレーヤーと、
リッキドオーディオ方式に対応したリキッドオーディオプレーヤーのいずれかを選択し、
ダウンロードした楽曲を再生する。圧縮技術はEMMSがソニーの開発したATRAC3、
リッキドオーディオ方式は米AT&Tなどが開発したAACを採用している。価格は1曲
350円で、支払いはクレジットカード、ウェブマネー、スマッシュが利用できる。エイ
ベックス・ネットワークにはSCEといったゲーム会社や三菱商事などの商社も出資。現
在は音楽配信事業だけだが、音楽配信で培ったノウハウを武器に音楽以外にさまざまなコ
ンテンツ配信事業を展開していく方針だ。
続いて、キングレコードが国内レコード会社では3番目となるネット音楽配信サイト『K
Music』を2000年7月28日に開設した。他の音楽配信サイトでは取り扱ってい
ない演歌を取り上げて自社の独自性をアピール。演歌とネットは一見遠い存在に見えるが、
大月みやこの曲が人気といい、音楽配信が既に一般化してきたことを証明しているようだ。
K
Musicは2004年11月現在、約50曲がラインナップ。演歌のほかJ−PO
P、アニメソング、民族音楽などを用意。月に10曲ずつ曲を増やす。新譜にこだわらず、
16
人気曲を追加していく考えだ。再生にはレーベルゲート・プレーヤーを使用。1曲350
円で、支払いはクレジットカード、ウェブマネー、スマッシュを使用する。
ビクターエンタテインメントも音楽配信サイト『なあ!(na@h!)』を2000年8
月23日に立ち上げた。実験サービスの位置付けで会員制だが、今後発売するシングル曲
をすべて配信していく予定。NTTコミュニケーションズのはいしんシステム『アークス
ター・ミュージック』を利用。1曲350円。再生はウィンドウズメディアプレーヤー。
楽曲のラインナップはJ−POPが中心になる。
そして東芝EMIは2000年3月には人気アーティスト、椎名林檎の新曲をCDの発
売前に無償ダウンロードで提供。なぜ東芝EMIは無償で、しかも新曲の発売前にダウン
ロード可能にするのか?それは、ネット配信を新曲のプロモーションの一環と位置付けて
いるからである。2週間で7万人がアクセスし、約2万5000人が実際にパソコンにダ
ウンロードした。その後も、ともさかりえの新曲や松任谷由実の曲の無償ダウンロードサ
ービスを行っている。それぞれネット配信後のCDの売れ行きは好調という。ネットでの
音楽配信が試聴用として効果的であることを実証したと言える。
2000年4月にはソニーの子会社でインターネット接続サービス『ソネット』を運営
するソニー・コミュニケーションネットワーク(SCN)は、SME、エイベックスなど
国内レコード会社10社との共同出資で新会社を設立し、ネット配信の総合ポータルサイ
ト『レーベルゲート』を設立した。ネット配信を行うレコード会社のコンテンツを一つに
まとめてユーザーに提供するのが狙いである。新会社には他にキングレコード、ジャニー
ズ・エンタテインメント、BMGファンハウス、なども出資。2000年5月には、トイ
ズ・ファクトリーも出資した。ワーナーミュージック・ジャパンとバップも出資はないで
までも楽曲を提供する。これだけの音楽業界各社が名を連ねたことで魅力ある楽曲が並び、
レーベルゲートの強力がうかがえる。
レーベルゲートは、SMEのビットミュージックやエイベックスの@MUSICなどの
ネット配信の各サイトから曲が検索できることが特徴だ。曲を選択すると各レコード会社
のサイトに移動し試聴などで曲を確認。実際に曲を購入する際にはレーベルゲートに戻り
決済する仕組み。文字通りレーベルへのゲートなのだ。ユーザーはレコード会社のサイト
を回って楽曲を探す必要がなく、レコード会社も決済システム用意せずにネット配信に参
入できる。プレーヤーは圧縮技術ATRAC3に対応した『レーベルゲートプレーヤー』
を使用。配信システムにはIBMが開発したEMMSを採用している。サイト運営や課金
17
業務はSCNが担当する。1曲の価格はレコード会社によって異なるが、決済はクレジッ
トカード、ウェブマネー、スマッシュで行う。2000年8月現在では東芝EMI、ビク
ターエンタテインメント、ユニバーサルミュージックの大手3社は未参加。
また、NTTコミュニケーションズは大手レコード会社15社と共同で音楽配信の実験
サービス『アークスター・ミュージック』を2000年4月開始した。アークスター・ミ
ュージックはNTTコミュニケーションズが配信システムやネットワークインフラ、サー
バーのホスティング、課金システムなど音楽配信のプラットフォームを提供。参加レコー
ド会社はこのプラットフォームを利用して自社のサイトで試聴や有料の配信などを行うこ
とが可能になる。実験は同年7月末まで行い、その後のサービスを商用化した。参加レコ
ード会社としてエイベックス、日本コロムビア、東芝EMIなどが名を連ねる。
そして2004年6月16日には「BIGLOBE」が、ミュージックポータル「BI
GLOBE
Music」を設立し、PCや各種デジタルオーディオプレーヤーを介して、
様々な楽曲を楽しめる本格的なダウンロード型音楽配信サービスの提供を開始。
CDの小売店であるTUTAYAがレコード会社と提携し配信サービスを開始したりと、
レコード会社以外でも音楽配信サイトの設立が相次いでいる。
主な音楽配信サイトの開設状況(実験を含む)
開設日時
レコード会社
サイト名
1999年12月20日
ソニー・ミュージックエンタテインメント
bitmusic
2000年4月25日
エイベックス
@music
2000年4月25日
日本コロムビア
J−TRAD
2000年4月27日
徳間ジャパンコミュニケーションズ
em−colle!
2000年4月28日
BMGファンハウス
MOTHER OF MUSIC
2000年7月12日
ポニーキャニオン
can−d.com
2000年7月28日
キングレコード
2000年8月23日
ビクターエンタテインメント
「図解でわかる
K
MUSIC
なあ!(Na@h!)
音楽配信ビジネス」より
ではなぜ、音楽配信サービスがここまで普及してきたのか?それはインターネットで音
楽を流しても著作権を侵害される恐れが、技術的に克服されつつあることが各社参入の要
18
因の一つだが、ノンパッケージでの音楽配信ビジネスが今後は音楽流通の一形態になると、
レコード会社が判断したことが最大の理由である。
レコード会社にとって音楽配信のメリットは、コスト面と在庫面である。インターネッ
トを利用しての音楽配信は、これまでのCDやアナログ盤などパッケージングされた商品
に対し、データのみを流通させることから『ノンパッケージ』商品に音楽が変質していく
ことを意味している。
音楽がノンパッケージで売られると、当然、これまでパッケージ商品として売るために
かかっていたコストが浮くことが予測できる。まず不要になるのが、CDやアナログ盤な
ど、メディアへのプレス代。このCDの表側に図版や文字を印刷するコスト(デザイン代、
版下作成代など)も不要だ。そして、ジャケット関連の印刷も不要になるため、デザイン
料から版下作製代、印刷代、紙代もカットされる。しかし、ジャケットは音楽ファンにと
って重要なシンボルであり、そのアートワークはアルバムのシンボルとなる。
「ジャケット
買い」という言葉があるように、未知のアーティストの作品をジャケットのアートワーク
に惹かれて買ってしまうマニアもいるほど、これはノンパッケージが主流になったとして
も、ジャケット写真を再生ソフトで表示するようになる(現状でもユーザーが登録可能な
ソフトはある)。そのため、このジャケット制作費は印刷代を抑えた形で今後も残ることが
予測される。しかし、ノンパッケージでもっとも大きなコストダウン可能な要素はパッケ
ージ商品でかかる保管・輸送コストである。つまり流通にかかるコストを大幅に節約でき
るわけなのだ。現在、レコード業界は数社共同で物流システムを築き上げているが、ノン
パッケージならそれも不要になってしまう。むしろ、音楽配信のためのシステム構築が問
題になるため、ノンパッケージの音楽配信は比率を伸ばしていけば、物流システムの大幅
改革も考えられる。
次に在庫の必要がないこと。コストをかけて売上げ予測が困難なCDの制作をしなくて
もよいうえ、確実にユーザーに楽曲を届けられる。さらに、インターネットを活用した音
楽配信では楽曲の販売と連動してさまざまなプロモーション活動を実施することも可能。
インターネットを利用することで効率的に楽曲をユーザーにアピールできるのである。自
宅のパソコンで気軽に利用できる音楽配信は、わざわざCDショップに足を運ばないユー
ザーにも新曲がアピールでき、CDそのものの売上げに貢献すると期待できる。
その他の動きとして
2000年7月12日
19
BMGファンハウスが、HMVなどのCD小売店サイトを通じた
音楽配信サービスを開始。
2003年12月
レーベルゲートがSMEの音源2万曲を追加し、単曲ダウンロー
ド150円からに値下げ。
2004年4月1日
レーベルゲート、東芝EMIなどが参加してリニューアル。新ブ
ランド「Mora(モーラ)」サービス開始。そうカタログ数は東
芝EMIから提供される8000曲を追加して、3万8000曲
に。
2004年6月16日
BIGLOBEが、NTTデータコンテンツプランニングのプラ
ットフォーム「LOVEMUSIC」を利用した音楽配信を開始。
サービス開始時は東芝EMIの約1万曲を用意。
2004年8月17日
有線ブロードネットワークス(USEN)が、楽曲ダウンロード
配信サービスを開始。シングル14000曲、アルバム1000
タイトルを用意。
2、アメリカ
まず始めに、アメリカのインターネット普及率を調べた。
「インターネット白書
2001」が予測したアメリカのインターネット普及状況ですが、
実際には2001年9月現在で1億4300万人を突破しており、すでに2003年末の
予測数に達しているということになる。このペースで増加していくとすると2001年末
で1億5000万人、その後少し伸び率が鈍化したとしても、2002年末には 1 億70
00万人がインターネットを利用しているということも予測される。
Cahners in−Stat Groupは2001年10月、アメリカにおけるD
SL加入者が2001年末に360万人に到達したと発表した。そして、2005年末ま
でに1350万人を越えると予測している。昨年末には「DSLマーケットが飽和したの
ではないか」と報じられましたが、今年に入りその伸びが回復し始めている。DSLの加
入者の伸び幅は日本や韓国にかないませんが、順調に伸びているといえる。しかし、依然
CATVインターネットがDSLをしのいでおり、この状況は2004年の後半まで続く
とされている。アメリカはまだまだCATV天国です。 Jupiter Media M
etrixは2001年10月、2006年までにアメリカの家庭の41%がブロードバ
ンド接続環境をもつと予想している。2000年時点では520万の家庭がブロードバン
20
ドを利用していましたが、これが2006年までには3510万世帯になると予測してい
る。
このようにインターネット先進国のアメリカでは、インターネット上で音楽をコンテン
ツとして販売する可能性が注目されたのは1997∼8年頃のこと。MP3が普及したこ
とが直接のきっかけになっている。1998年9月には、米ダイヤモンド・マルチメディ
ア・システムズ(現デジタルネットワークスノースアメリカ)が大手メーカーから初とな
る携帯型MP3再生ハードウェア「Rio」を発売する。当初MP3というフォーマット
自体を敵視していた米国レコード協会(以下、RIAA)は、Rioの販売停止を求めて
提訴したが、約2ヶ月後の同年11月、地裁はこの訴えを棄却し、無事Rioは出荷され
ることになった。
一方、Rioの販売差し止めに失敗したRIAAと欧米5大メジャー(ユニバーサル、
ソニー、EMI、ワーナー、BGM)は、1998年12月に共同で「Secure
igital
Music
D
Initiative(以下、SDMI)」というプロジェク
トを始動させる。これはインターネットで著作権を保護しながら安全に音楽を配布したり、
販売したりするためのフォーマットを確立するために結成された。
SDMIはその後、IBM、AT&T、マイクロソフトなどのハイテク企業や民生用エ
レクトロニクス業界、家電業界など110社を超える企業が参加する国際的な業界団体に
成長することとなり、事実上音楽配信「標準」フォーマットを決める団体となった。SD
MIを契機に、1999年には、音楽業界と家電業界、ハイテク業界が共同で音楽配信の
実験をスタートさせる。米IBMと欧米5大メジャーが共同で行った「マディソン・プロ
ジェクト」や、松下電器、米AT&T、米ユニバーサル、米BMGによる「ナイジェル」、
米SME、米マイクロソフトによる音楽配信事業提携など、さまざまなプロジェクトが始
動したが、最終的にこれらの実験が米国で具体的な音楽配信サービスとして結実すること
はなかった。理由はいくつか考えられる。1つめはSDMI自体がまだスタートしたばか
りで、フォーマットがきちんと固まっていなかったこと。2つめはブロードバンド環境が
まだ整備されていなかったこと。3つめはCDを購入するというパッケージビジネスが主
体の音楽業界にあって、ノンパッケージのコンテンツにお金を払うという習慣がネットユ
ーザーに定着していなかったこと。そして、恐らくもっとも大きな理由は、ファイル交換
ソフト(ナップスター)の登場である。
一度登場したファイル交換ソフトを完全に撲滅することは、実質的に不可能だと理解し
21
た音楽業界は、方針を転換させる事にする。ファイル交換ソフトを訴える一方で、
「音楽を
無償でダウンロードする」ことに慣れてしまった一般ユーザーに対しても訴求できる合法
音楽配信サービスを模索し始めたのだ。5大メジャーは、それぞれグループを形成し、2
001年12月に「pressplay」と「MusicNet」と呼ばれる独自の音楽
配信サービスを開始した。pressplayは、SMEとユニバーサルの合弁事業とし
てスタートした音楽配信サービスで、毎月利用できる楽曲数に応じて4つの料金プランを
用意し、プランや楽曲によってはCD−Rに書き込めるようにした。一方のMusicN
etは、ワーナー、BGM、EMIが始めた音楽配信サービス。ワーナーミュージックの
親会社(当時)だった米AOLと米リアルネットワークスが提携し、AOLの会員とリア
ルネットワークスの有料コンテンツ会員向けに、サービスを提供した。5大メジャーが運
営するこれらのサービスとは別に、古くからデジタル音楽配信サイトを提供してきた米リ
ッスンドットコムもpressplay、MusicNetと同じ2001年12月に「R
hapsody」という会員制音楽配信サービスをスタートさせる。こちらはレーベルの
垣根なく5大メジャーすべてと提携し、楽曲を配信した。この3つのサービスはどれもベ
ースは「聴き放題」型。ファイル交換ソフトのように、アーティスト検索すると登録され
ている楽曲のリストが表示され、クリックすることで再生できたりダウンロードできたり
する仕組みになっていた。しかしpressplayやMusicNetは、厳密な意味
では聴き放題ではなく、
「1ヶ月の間に何曲まで」というような制限や、転送できるプレー
ヤーに制限などがあった。これに対し、Rhapsodyは非常に分かりやすく明快なシ
ステムで、登録されている楽曲であれば一切制限なしに聴き放題という形を取り、CD−
Rに焼きたい場合は別途1曲につき99セント(現在は79セント)払えばよいシステム
になっている。
そして米国の大手レコード会社SMEは2000年5月にネット音楽配信サービスを開
始した。米SMEのネット配信の特徴は、日本のSMEのビットミュージックのようなネ
ット配信専用サイトを新たに立ち上げなかったことである。ネット配信はすでにサービス
を行っていたショッピングサイト「the
store」の中で行った。CDなどのパッ
ケージ製品を購入するのと同じ決済システムで音楽をネットからダウンロードし購入でき
るようにした。人気となっていたサイトの付加サービスとしたことで、ユーザーの気軽な
利用を促し、決済システムもそれまでと同じ仕組みを使ったことも合わせ、巧妙な戦略だ
と言えるだろう。ネット配信で購入できるものはシングルCDで発売された曲が中心だが、
22
2000年8月現在で40以上のアーティストの音楽データが販売されている。マライ
ヤ・キャリーやセリーヌ・ディオン、ローリン・ヒル、パールジャムなどの日本でも人気
のあるビッグアーティストの曲が含まれている。圧縮技術にはビットミュージックと同様、
ATRAC3を採用。配信システムはウィンドウズメディアテクノロジーを使っている。
価格は1曲2.49ドルが中心で、曲を購入したユーザーはパソコンにダウンロードして、
ウィンドウズメディアプレーヤーや、ATRAC3に対応した携帯音楽機器のMSウォー
クマンなどで聴く。著作権保護には、日本と同様にマジックゲートやオープンMGなどの
技術を搭載。米SMEと日本のSMEは、技術的には、同じシステムを使いながらも、そ
れぞれの国のユーザーに合わせた独自の戦略で音楽配信をスタートさせた。このあたりか
らもSMEの配信ビジネスにかける意気込みが感じられる。
そして最新の動きとしてアメリカのアップルコンピュータがスタートさせた音楽配信サ
ービス「iTunes Music Store」では、1 曲を99セントでダウンロード
販売。また、アップルは販売開始と同時に、音楽ジュークボックスソフト「iTunes 4」
とデジタル音楽プレーヤー「iPod」の新作も発表、前者は 1 週間で100万件以上が
ダウンロード、後者は受注件数が 11 万件に及んだという。ただし、楽曲の販売は請求書の
送付先が米国内の住所になっているユーザーのみを対象としており、事実上、米国内限定
の販売といえる。オーディオフォーマットはAACでエンコードされており、音源ファイ
ルにはアップルが独自に開発したFairplayというDRM(デジタル・ライツ・マ
ネージメント=デジタル著作権管理技術)を採用。このFairplayは、個人利用が目
的であれば無制限にCD−Rにコピーでき、iPodにも台数無制限で楽曲データを取り
込むことができるなど、日本の音楽配信で採用されているDRMより格段に緩やかなもの
である。
その他の動きとして
2003年4月
アップル「iTunes
Music
Store(iTMS)」をス
タート。20万曲以上の楽曲をAACフォーマットで用意。1曲99
セント。同時に、Macintosh用対応ソフト「iTunes4」
も公開。サービス開始後1週間で100万曲、16日間で200万曲、
年末までに2500万曲をダウンロード販売した。
2003年5月
第3世代「iPod」販売開始。1台でWindowsとMacin
toshの両方に対応し、MacintoshではAACにも対応。
23
薄く軽く大容量(10GB、15GB、30GBの3タイプ)になっ
た。発売前の注文だけで11万台に達した。
2004年3月
大手ディスカウントストアのWalMartが、1曲88セントの音
楽ダウンロード販売を開始。配信サービスは、リキッドデジタルメデ
ィアとの提携。
2004年5月
ソニーが有料音楽配信ストア「Connect」をオープン。50万
曲以上の楽曲を曲99セントで販売。新世代大容量MDプレーヤーと
の連携も予定。また7月にはヨーロッパでもサービス開始。
2004年7月
アップル、12時間の連続再生が可能な第4世代「ipod」を発表。
容量は20GBと40GB。またiTMSでは、ダウンロード販売楽
曲数が1億曲を超えたと発表。翌月には音楽カタログ数が100万曲
を突破。
*iPodについて
米Apple Computerはデジタル音楽プレーヤー「iPod」の好調な売れ行
きにより、7∼9月期の決算では前年比で37%の増収と2倍以上の増益を果たした。こ
れらの数値はアナリストの予測をはるかに上回るもので、Appleはさらに10∼12
月期の売上高と純利益についても、アナリストの予測を大幅に上回る見通しを示した。
Appleの決算は、同社が従来のコンピュータメーカーから、特にデジタル音楽に重
点を置いたデジタルエンターテインメント企業への変革を遂げつつあることを如実に示し
ている。
iPodの売上高は目覚ましい伸びを示し、7∼9月期の販売台数は200万台以上と
なっている。前年同期の販売台数はわずか33万6000台、今年4∼6月期には86万
台だった。
また、オンライン音楽ストア「iTunes Music Store」も含めた、Ap
pleの音楽製品の売上総額は7∼9月期にほぼ 5 倍に増加し、同社の総売上高の約2
7%を占めるに至っている。一方でAppleは同四半期、歴史的に同社のコア製品であ
るMACINTOSHを約83万6000台販売した。これは、前年同期の6.2%増だ。
9月25日締めの7∼9月期に、Appleは1億600万ドル(1 株当たり26セン
ト)の純利益を計上した。前年同期の純利益は4400万ドル(1 株当たり12セント)。
Appleによれば、同四半期は売上高も17億2000万ドルから23億5000万ド
24
ルに増え、予測を上回った。
Apple株は午後 4 時の時点で、Nasdaq株式市場で1ドル46セント(3.8%)
高の39ドル75セントで取引されていたが、決算発表を受け、時間外取引で株価は6.
7%値が上がり、42ドル41セントとなった。
同社CFO(最高財務責任者)のピーター・オッペンハイマー氏によれば、Apple
は今10∼12月期については、1株当たり39∼42セントの利益、28億∼29億ド
ルの売上高を予想している。これらの数値は、1株当たり利益が28セント、売上高が2
5億ドル。
7∼9月期には、幾つかの要因がiPodビジネスを牽引した。Appleはここ数カ
月、米国でキャンディのような配色のコンパクト版iPod「iPod mini」の供給
を増やすことに成功し、さらにこのiPod miniを米国外でもリリースした。iPo
d miniの注文は何週間も出荷待ちの状態が続いていた。iPodの売上のうちどの程
度をiPod miniが占めているかについては、Appleは公表を断っている。
デジタル音楽をめぐりAppleと提携したHewlett−Packard(HP)
もまた、世界の小売ネットワークを通じて、8 月後半からiPodの販売を開始している。
Appleによれば、HPの売上高はiPodの売上高全体の6%を占めている。
その一方で、Appleは激しさを増すオンライン音楽市場の競争に直面している。長
期的にはAppleをノックアウトするだけの十分な資力を備えたMicrosoftな
どの大手 IT ベンダーが最近、続々とこの分野に参入している。だがジョブズ氏は、App
leは市場シェアにおけるリードを保ち続けるだろうと語り、9月初頭にオープンしたM
icrosoftの音楽ストアは現時点では市場シェアがわずか1%だと指摘した。デジ
タル音楽プレーヤーの売上を調査しているNPD Groupによると、Appleはフラ
ッシュメモリおよびHDDベースのデジタル音楽プレーヤー市場で 8 月に61%のシェア
を確保していたという。
iPodの売上台数の堅調な伸びにもかかわらず、AppleのMACINTOSHは
依然として同社の最大の収益源になっている。iPodが同社の売上全体の22.9%に
当たる5億3700万ドルの売上を上げる一方で、Macは全体の50%以上に当たる1
2億3000万ドルの売上を上げている。
同社は8月には、iMac G5デスクトップコンピュータも発表している。ただし、Mac
の売上高の増加は前年比でわずか2.6%に留まっている。
25
「2004年10月14日付けITmediaニュース」より
Ⅳ、アメリカと日本の比較
米国にとって、2003年という年はiTMSの開始、pressplayの崩壊とい
う2つの大きな出来事が起こり、音楽配信のターニングポイントとなる年になった。メジ
ャーレーベルが自分達に都合の良いやり方を捨てて、アップルやリッスンドットコム、ロ
キシオといった消費者寄りのメーカーに配信サービス任せたことで、結果的に音楽配信ビ
ジネス自体が完全にブレイクしたのが2003年だったと言える。iTMSは2003年
4月の開始からわずか1年強で1億曲を販売。購入した楽曲を転送できるiPodの販売
も好調だ。
また、初期から聴き放題サービスを続けてきたRhapsodyもここにきて急速に会員
を増やし、2004年7月時点で55万人の有料会員を抱えている。ダウンロード型でも、
聴き放題型でも、米国ではこうした合法音楽配信サービスが着実にユーザーからの支持を
集めている。
一方、米国より商用音楽配信の歴史が古い日本では、ブロードバンドが普及しつくした
現在でもブレイクとはほど遠い状況にあるといわざるを得ない。では、なぜ日本と米国に
はここまで差がついてしまったのだろうか。米国と日本を比較してみると、その理由は米
国と日本の音楽配信サービスレベルが圧倒的に違うからである。1つ目に「カタログ数の
違い」、2 つ目に「価格の違い」、3 つ目に「ユーザーにとって使いやすいDRMを採用して
いるか」、4つ目に「小額決済システムの問題」である。以下、一つ一つを比較する。
1、カタログ数
米国でも人気の高いiTMSは現在メジャーからインディーズまで100万曲以上を揃
え、iTMSのみに提供されるオリジナル楽曲なども用意されている。欧米5大メジャー
の新しい音源はほぼ入手可能という状況だ。聴き放題のRhapsodyも2004年7
月現在で約73万曲。特に聴き放題型のサービスは、登録曲であれば、どんなアルバムで
もフルに楽しめることができるわけで、これは感覚的には超大型CDショップに置かれて
いるすべてのCDを自由に好きなだけ試聴できるようなものだ。音楽好きにとってこれほ
ど魅力的なサービスはない。
しかし、日本の音楽配信で提供されているカタログ数は、国内レーベルのほとんどが参
加した「Mora」で約4万曲弱といった状況である。登録されている楽曲も新譜が中心
26
で、ちょっと古いアルバムを探したり、あまり有名でないアーティストの楽曲を聴こうと
思っても見つからないことのほうが多い。欲しい曲が買えないのなら、店舗に行こう思う
のは当然だ。2004年には、Mora以外に、エキサイトやOCNなどのISPやポー
タルが音楽配信事業に乗り出したが、カタログ数に関してはどこもMoraと同じような
状況。現在発表されている計画でも「年内に10万曲程度」が目標とされており、このペ
ースでは米国との差は広がるばかりである。
米国
配信サイト
カタログ数
iTMS
約1億曲
ナプスター2.0
約50万曲
Connect
約50万曲
Realplayer Music
Store
約40万曲
日本
OCN
配信サイト
カタログ数
Mora
約4万曲
MUSIC
STORE
約2万曲
LOVEMUSIC
約1万曲
Ongen
約1500曲
2、価格
米国のダウンロード型配信の場合、iTMSの標準価格は単曲で99セント、アルバム
は9ドル99セント∼14ドル99セントになっている。日本円に換算すればシングルが
110∼120円。アルバムで1100∼1700円程度。アルバムは買わず、自分の好
きな曲だけチョイスして購入したいというユーザーにとっては、この価格設定は最適であ
り、全般的に見てCDよりも安い価格設定になっている。また最近では、iTMSに対抗
するため、リアルネットワークスが1曲49セント、アルバムを通常の半額まで下げて販
売するキャンペーンを行った。限界ギリギリと思われる価格でも、さらにディスカウント
が行われており、こうした価格競争が進むことでさらに価格が値下がりする可能性はある。
聴き放題型音楽配信の価格は、非常に明快。9ドル99セント(1100円)程度の月額
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料金を払うだけで、登録されている楽曲をすべて聴くことができる。9ドル99セントと
いえば、iTMSの1アルバム料金で70万曲を好きなように聴ける。ただし、聴き放題
サービスでは、iPodやCD−Rに入れて音楽を持ち歩きたい場合は、別途曲ごとに料
金がかかる。こちらの料金は1曲79∼99セント程度とダウンロード型サービスとほぼ
同じ。こちらも同様に値頃感がある。
それに比べて、日本の音楽配信の価格はどうだろうか。ダウンロード型サービスは、曲
にもよるが、安いもので1曲158円。新譜は210∼270円程度で統一されている。
サービスが始まった当初は一律368円だったことから比べるとずいぶん安くなったが、
米国と比べると約2倍以上の価格。シングルであればレンタルを利用すれば100円程度
で手に入れられるので、あまり値頃感ない。
アルバムの価格は、新譜、人気作で、2100∼2400円程度。旧譜で1470円程
度である。一部の旧譜タイトルにはそれなりに値頃感があるが、新譜の値段はまだまだ高
いのが現状である。音楽配信の場合、音が圧縮されているのでそもそもCDよりも音質が
悪くなり、CDのように自由にコピーして聴けないという意味でCDよりも「不自由」で
ある。価格設定は、一概に安くすればいいというものではないので難しい部分は多いが、
日本の音楽配信はまだまだ相対的に高く感じてしまう。この価格設定も日本の音楽配信が
普及しない原因の一つである。
3、利便性
米国の音楽配信は、元々ファイル交換ソフト対策として始まったこともあり、非常にユ
ーザーにとって使いやすいDRMを採用している。iTMSがその典型で、購入した楽曲
は最大5台までのMacにコピーすることができる。なおかつ無制限にiPodにコピー
することができ、CD−Rへのコピーも認めている。CD−Rにコピーすれば、カーオー
ディオ機器で聴くのも簡単である。聴き放題型のサービスも追加料金を支払えばCD−R
にコピーできるようになっているので、携帯プレーヤーやカーオーディオで音楽を楽しみ
たい場合は単に追加料金を支払えばよい。非常にわかりやすいシステムになっている。
一方、日本の音楽配信サービスで使われているDRMは非常に使いにくく、厳しいもの
である。まずCD−Rへのコピーは断固として認めていない。これには理由がある。CD
−Rにコピーした段階でCRMが無効になり、そこからいくらでも無性限にコピーできる
ようになってしまうからだ。
また、基本的に購入したパソコン以外にコピーして再生することを認めていない。例え
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ば、ある曲を買って、それを自宅のパソコンと持ち運び用のノートパソコン両方で聴くと
いうことができない。持ち運び用途で聴きたい場合はATRAC3やWindows
M
ediaのDRMに対応した携帯音楽プレーヤーに転送する必要がある。だが、これらの
プレーヤーはiPodと比べると圧倒的にシェアが低く、価格が高い割にデバイスとして
の魅力が少ないものが多い。
そして一番の問題は、買った楽曲のバックアップが非常に面倒だということだ。現在M
oraで購入した楽曲はバックアップ/リストアツールを使えば、ほかのパソコンに移す
ことができるが、WMA系の音楽配信サービスの場合、パソコンを買い換えた場合、楽曲
を再生する「権利」がなくなってしまう。パソコンの買い換えや再インストールで音楽が
聴けなくなるという仕様は、音楽ファンにとっては、とても不便である。日本の音楽配信
はCD−Rにコピーできないことによって不便さが生じているし、本来自由にコピーでき
たはずのCDにもDRMをかける(CCCDにする)ことで、ユーザーからさまざまな場
所で自由に音楽を楽しむ権利を奪っている。今売っているCDより不便なのに価格は割高。
このような状況では音楽配信が日本で普及しないのは明確である。
4、小額決済
楽曲を購入する際、通常はクレジットカードで決済を行う。このとき、クレジットカー
ド会社には、
「最低利用料」というものが発生する。聴き放題の音楽配信や、携帯電話のよ
うに毎月決まった利用料を支払い、それに上乗せする場合は月に1回決済を行えばいいの
で、手数料の負担は大してかからない。だが、iTMSやMoraのように1回1回決済
を行う場合は、その都度決済手数料が発生してしまう。クレジットカード会社や契約形態
にもよるが、この手数料には、最低料金が存在する。Moraは最低158円から決済で
きるようになっているが、ユーザーに1曲ずつ買われてしまう場合、158円のうち、か
なりの部分を決済手数料が占めてしまい、サービス運営側の取り分が少なくなるという問
題がある。カード手数料は、トランザクションごとではなく、そのサービスの売上全体に
対して何%もらうという計算で契約する場合もあるし、トラザクションごとでも全体の販
売数が増えることで最低2%くらいまで安くなる場合もあるが、いずれにせよ手数料が何
ならかの形で負担になるのは事実である。
Ⅴ、携帯電話向け音楽配信「着うた」との比較
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米国と比べカタログ、価格、利便性の3つのポイントで劣る日本の音楽配信だが、これは
パソコン向けの話しである。携帯電話向けの音楽配信「着うた」は大ヒットを記録してい
る。「着うた」はauが2002年12月にレーベルモバイルと共同で開始したサービス。
CD音源を元に作られる15∼30秒程度の「うた」を、携帯電話にダウンロードして再
生したり着信音などに設定できる。auのシェア拡大のきっかけとなった。
元々、携帯電話向けにはアーティストの楽曲のメロディーデータを配信する「着メロ」が
定番コンテンツとして定着していた。しかし、着メロは「原盤」を使っているわけではな
いので、いくらダウンロード購入されても、着メロ制作業者とアーティスト、JASRA
Cにしかお金が行かなかった。
こうした状況を改善するために投入されたのが「着うた」だ。これはレコード会社から
提供されているCD音源をそのまま音声ファイルとして直接携帯電話に配信するサービス。
原盤を利用しているため、売れればレコード会社の利益になる。「レーベルモバイル」(エ
イベックス、SME、ビクターの出資により2001年7月3日に設立された携帯電話向
け音楽ポータル。7月末には東芝EMIとユニバーサルの出資も決定し、10月1日から
iモードで国内レコード会社14社共同で着メロを配信する「レコちょく」を開始した。
2002年12月にはEZwebで着メロ・着うたサイト「レコちょくサウンド」をスタ
ート。現在の参加は20社である。)という会社経由で音源を一括提供し、ワンストップ型
のサービスを提供できた。着うたや着メロはコンテンツの検索から購入、ダウンロード、
リスニングまですべて1台の端末で完結するため、パソコン向け音楽配信より使い勝手が
良い。
音楽配信がブレイクするカタログ数、価格、利便性の3つのポイントで考えると、着う
たがヒットしたこともわかりやすい。
1、カタログ数
着うた全体の総配信曲数は、2004年7月現在で6万曲以上に及ぶ。これはMoraよ
りも多い。当初はレーベルモバイルのみのサービスだった着うたが、現在は原盤を所有し
ている音楽事務所が直接サービスを行ったり、インディーズアーティストや洋楽アーティ
ストの楽曲を着うたで配信する業者も増えてきており、Moraよりもバラエティは豊富
になっている。
2、価格
価格もMoraよりも安いもの多く、基本は1曲52∼210円程度。邦楽アーティス
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トは1曲105円というケースが多い。CD並みの音質で楽曲をフルに聴けるパソコン向
け音楽配信と比べると、着うたの楽曲はAMラジオ並みの音質でせいぜい30秒程度。じ
つは105円という価格に同額程度のパケット代も加算されるので、パソコン向け音楽配
信と比べると実質的にはあまり料金は変わらないのだが、
「1曲105円」というイメージ
で売っており、消費者には値頃感がある。
3、利便性
携帯電話で購入した有料コンテンツは基本的に外部に書き出せないようになっているた
め、著作権保護は非常に厳しい。バックアップも取れないので、その意味では使い勝手が
悪いのだが、よく考えてみれば、買った着うたは携帯電話で楽しむという形で完結してい
るため、あまり不便さは感じられない。逆に、決済からダウンロード、リスニングまでワ
ンストップで行える仕組みが、結果的にユーザビリティーを高くしている。
Ⅵ、結論
近年の音楽業界は、売上げの大幅な減少やミリオンセラー作品数の減少などが目立つ中
で、今までのパッケージビジネスからノンパッケージビジネスである音楽配信に多くのレ
コード会社も力を入れている。音楽配信で楽曲を購入するメリットは、店頭へわざわざ足
を運ばなくても良い事や、1曲単位での購入であるため、例えば10曲以上収録されてい
るアルバムでは気に入らない曲は省き、自分の好きな曲だけを購入することが出来る。こ
れだけ便利な音楽配信であるため、消費者に定着しやすいのではないか思われたが、日本
の音楽配信ビジネスには多くの問題がある事を、この研究を通してわかった。
アメリカは、音楽配信ビジネスに成功している。ではなぜ日本では定着しないのか。
アメリカと比較してみると、日本の音楽配信サービスが消費者に定着しないのは一目瞭然
である。
価格やカタログ数、利便性で見ても、アメリカでは新旧問わず小売店と同等のカタログ数
を取り揃えており、また価格も値頃である。
しかし、日本は、アメリカに全く及ばない価格とカタログ数であり、小売店との差別化
が全く図られていないため、音楽配信サービスの最大のメリットが全く生かされていない。
決済面でも小売販売やレンタルCDに比較してユーザーへの便益が劣っている。そのため
ユーザーへの定着が薄い。このままでは日本の音楽配信市場の縮小傾向は止まらないと考
えられる。しかし、以上で述べた価格やカタログ数を改善することだけが、課題ではない。
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まず、アクセスユーザーを増加させる必要がある。今現在では、ほとんどの音楽配信サ
ービスサイトが独自にサイトを展開しているため、ユーザーの数を増加させることが困難
である。そのためユーザー数の多いポータルサイトやショッピングサイトとの連携を図る
べきである。ユーザーが情報を探して音楽ファイルを購入するのではなく、目の前に常に
購入したい曲が提示されている状況を作る必要がある。
そして決済面ではクレジットカードなどのオンラインの決済手段を持たないユーザーに
対して決済の手段を提供すること。これも有力なショッピングサイトと提携し同じ決済手
段を共有するか、インターネットプロバイダーと提携することにより、ダウンロードする
権利をプロバイダー価格にふくめて請求するシステムを構築する必要がある。
このように音楽配信サイト単独で運営するのではなく、他の有力サイトと提携すること
によって、ユーザーの増加を期待することが可能であり、今後の市場拡大に繋がるのでは
ないかと考える。
「参考文献」
・総務省
統計局
http://www.stat.go.jp/
・MP3 と著作権に関するアメリカの動き
http://www.law.co.jp/okamura/copylaw/mp3_link.htm
・音楽配信入門・ネット配信から着メロまで
http://www.music-eclub.com/lesson/md/
・ネット配信・米国と日本の比較
http://www.itmedia.co.jp/lifestyle/special/mora04s/
・音楽配信の現状と問題点
http://www.cc.aoyama.ac.jp/user/t11938/reports/Internet%20music%20transact
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・音楽配信の課題・会社別シェア
http://www.nri.co.jp/opinion/r_report/itnavi2006/pdf/itnavi2006_11.pdf
・日本レコード協会
http://www.riaj.or.jp/
・日本音楽著作権協会
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http://www.jasrac.or.jp/
・全米音楽協会
http://www.riaa.com/default.asp
・「よくわかる音楽業界」三野
明洋
・「だれが音楽を殺すのか?」津田
大介
・図解でわかるデジタルコンテンツと知的財産権
・インターネット音楽著作権 Q&A
黒田特許事務所/編著
安藤和宏/著
・ 日本型インターネット・ビジネスの探求 8 つの成長分野のビジネス・モデル分析
水鳥川和夫/著
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