〈第 27 回山﨑賞〉 4 身のまわりの電磁波を探る 1 テーマ選定に関して 今回選んだテーマは、 「身のまわりの電磁波を探る」 というものです。最近は地球温暖化の原因として二酸 化炭素の増加に対して世界中が注目しています。その 二酸化炭素の原因として考えられているのが化石燃料 です。しかし、化石燃料の消費は今の私たちにはなく てはならないものです。しかしこのまま二酸化炭素が 増加してしまうと今よりもさらに地球環境が悪化して しまうおそれがあります。そのための代替エネルギー として、太陽光発電、燃料電池、風力発電、バイオエ タノールなどがあげられます。最新の技術で開発が進 められているのはどれも電気に関係するものが多いことに気がつきます。実際私たちの身の回りで は様々な電化製品に囲まれ、毎日、毎時間活用しているものばかりです。さらにオール電化の家な ど電気エネルギーだけに頼っている家もあります。しかし、このように身のまわりに様々に活用さ れている電気ですが、電気を使っているところにはほとんどといってよいほどに電磁波が発生して います。この電磁波は、普段私たちの生活の中では決して感じることがありません。以前調べたと きには、台所で使用している電子レンジも電磁波を利用しているものだしレーダーと同じような電 波を利用していることもわかりました。また携帯電話も電波を利用していることはよく知られてい ます。このような電磁波にも様々な種類があることがわかりましたが、今回私たちは普段使ってい る家庭の電流に注目して、その電流がどれだけの電磁波を出しているのか測定してみようと思いま した。 また、私たちの中学校の近くには、家庭に送られる電流のもとになる高圧電線の送電線があるの でその送電線からも本当に電磁波が出ているのかについても調査をしていくことにしました。 2 研究対象と電磁波について (1)電磁波について 電磁波には何種類かの電磁波があります。 その波の周波数の違いにより、 区分されています。 電磁波は波長、周波数によって呼び名が変わり、用途も変わります。波長の長い方から、電波・ 光・X 線・ガンマ線などと呼ばれます。電波は周波数が3テラヘルツ以下のものを指します。 電波はさらに波長によって 極低周波・超長波・長波・中波・短波・超短波・マイクロ波と細 分化されます。周波数が低いものは私たちの家庭の電源に使用されている電流が相当します。 周波数が大きくなるにつれて、 ラジオの放送に使われる電波 (AM 放送の電波は中波という) 、 テレビに使われる電波(超短波・VHF ) 、 電子レンジやレーダーに使われるセンチ波やミ リ波 というように周波数によってその性質が違うので、使われる用途も大きく異なってきま す。 今回私たちが注目したのは、家庭で使われている電流です。この電流の場合、周波数6 0ヘルツの極低周波(ELF)と呼ばれる種類の電磁波になります。もちろん東京ではこの周 波数は 50 ヘルツですがどちらにしても同じ種類の電磁波に属することになります。 この極低周 波を測定することで、私たちの身の回りには普段使われている家庭の送電線からどの程度の電 - 82 - 磁波が飛んでいるのかがわかるのではないかと考え測定することにしました。 (2)測定器具について 今回私たちが使用したのは、極低周波をはかること ができるタイプの電磁波計です。佐藤商事という会社から 購入したもので、EMFー823というタイプの電磁波測 定器具です。電磁波では電場と磁場が交互に異なる方向に 現れます。これは周波数の大きいもののほうがその向きに よる違いが大きくなります。極低周波の場合には、電磁波 の波の波長が大きいため、あまりその電場と磁場の向きを 気にする必要はなさそうでした。気にするのは電磁波を発 生する方向に機器を向けることのようでした。ですから発 生源に向けて測定するよう心がけました。電磁波を構成する電場と磁場ですが、これを両方い っぺんにはかれるタイプのものは見つからなかったので、主に磁場を測定することで電磁波の 強度の測定とするこのタイプの測定器を使用することにしました。 電波も周波数によって用 途が違いますがこの測定器も周波数によって受信感度が全く異なるので今回の測定器では電子 レンジや携帯電話のような波長の短いものは調べることができません。私たちの今回の研究テ ーマとしては普段の身の回りの電流から発生する電磁波なのでこの測定器具ではかれる電磁波 で十分であると考えてこの測定器具で研究することにしました。 3 測定 (1)家庭で使われる電化製品から発生する極低周波の電磁波について 電化製品としては次にあげる電化製品についてスイッチオフとスイッチオンとで比較し、ス イッチを入れたときにどれだけの電磁波が発生するのか調べました。 冷蔵庫 電子レンジ 電気ポット 扇風機 テレビ IH ヒーター 電灯 (蛍光灯) 電灯 (白 熱灯) ドライヤー クーラー ラジオ トースター パソコン 電話 携帯電話 CDデッ キ iPOD 電気カミソリ 掃除機 (結果) 電気を使っていない状態での電磁波を調べました。一番はじめに測定したのは、蛍光灯の スイッチです。こんなどこにでもあるような所に本当に電磁波があるのか見当もつきません でした。携帯電話とか明らかに電磁波を使っ ているものならまだしも、こんな蛍光灯のスイッチに電磁波が出ていたら大変なことだ、と 思いながら測定したところ、明らかにデジタルの表示部分の数字が上がっていきました。上 の写真で分かるように、スイッチを切った状態では 0.01μTで、スイッチを入れたとたんに 3.27μTと跳ね上がりました。このことから、本当に家庭の電気でも電磁波が発生している - 83 - ことが分かりました。そこで先に上げた電気器具などで測定してきました。これらの電気器 具では、たいていのものはスイッチを切った状態やコードを差し込んでいない状態で直接測 定器具を当てて測定すると電磁波の数値は0.01μT ~0.02μT 程度でした。数値と しては百分の一μT の程度の大きさであることがわかりました。電気器具でも電流を流さな い状態であればそれほどの電磁波が発生するわけではなさそうでした。家庭で使われる電化 製品でもっとも大きな電磁波を測定したのは、電子レンジでした。電子レンジと言えば加熱 に使われる電磁波はマイクロ波です。今回測定する極低周波とは全く種類の異なる電磁波に なります。ですから測定する前には、ほとんど電磁波は測定できないか、あったとしてもと ても小さいものだろうと推測しました。しかし結果は大きく異なりました。加熱する庫内の 扉部分で測定すると、スイッチを切った状態でも 0.48μTとかなりの数値を示し、庫内から 電磁波が発生していることが分かります。それが、スイッチを作動させると正面の操作パネ ル付近の数値が次の写真で示すように 18.89μT くらいにまで数値が跳ね上がり、ほかの電 気器具とは電磁波の大きさがとても違いました。スイッチオフの状態と比べると数十倍程度 になっていることになります。電子レンジは使っている電磁波の種類が違うのになぜこんな に大きな数値が出てくるのか不思議でした。レンジで加熱する時には加熱に使われるマイク ロ波以外にも極低周波の電磁波も一緒に発生していることが今回はっきりしました。このほ かでは大きなモーターを使っている掃除機や扇風機、ドライヤーなどが電磁波が強かったで す。これらのものはスイッチオンで3~6μT 程度を示しました。また、ラジカセや蛍光灯 の照明器具などでも場所によっては6μT 程度を示しました。 これら以外では、携帯電話が注意を引きました。当然携帯電話は、電磁波を使っていてそれ によって通話をしているのだからかなり電磁波が出ていることが予想されます。携帯電話の 電磁波は、電磁波の種類が違うので今回の機器では測定できないはずです。しかし電子レン ジの測定では違う種類の電磁波のはずなのに大きな数値が測定できました。ですから携帯電 話でも電磁波が大きく出力されていると予想しました。そして実際に測定してみるとほとん ど電磁波は測定できませんでした。この電子 レンジと携帯電話の測定結果の違いについて はまだよく分かりませんが、もしかしたら同 じ種類の電磁波でも出力の大きさのちがいが 影響しているのかもしれないと考えました。 これは今後の課題です。 (2)中学校近くの高圧送電線沿いの電磁波の測定 中学校近くの高圧送電線は7万7千ボルト の交流電流が流れています。この送電線沿い の電磁波を測定しました。測定は、送電線沿 - 84 - いのあぜ道や直交する道を3mごとに測定しそれを全体として送電線沿いの電磁波強度マッ プを作ることにしました。 (結果) 送電線沿いの電磁波の大きさは、送電線に沿って電磁波の強い範囲が確認できました。予 想したとおり送電線沿いの真下部分がもっとも大きくなり、 0.50μT から1.20 μT 程度でした。そしてその強度の強い部分の両側に10mから30mの範囲でやや強度が 小さくなる範囲が広がっていることがわかりました。それ以上送電線から離れるとほとんど 送電線からの電磁波の影響は認められませんでした。しかしその電磁波の影響する範囲の分 布は、 ベルトのようにずっとつながっているのではなく所々で切れているところもあります。 それは鉄塔の高さに原因していることが推測されました。送電線は鉄塔によって支えられて おり、その鉄塔は場所によって高さが違っていました。高ければ高い方が電磁波の数値は小 さくなっていました。逆に鉄塔が低かったり、送電線が鉄塔と鉄塔の間でたるんでいるとこ ろは地面からの距離も近くなるので、その部分では電磁波は大きくなる傾向が認められまし た。また、高圧電線でなくてもふつうの電信柱の電線でも電磁波が確認でき、高圧送電線直 下と同じくらいの数値を示すところもありました。これは電信柱の種類や変電用のトランス のあるなしなどで電磁波の強さは違っていました。流れている電流の大きさは高圧送電線の 方が大きいと考えられますが、電信柱の電線は地面までの距離が近いので電磁波も強くなっ ているのだと考えました。 (中学校への影響) 私たちの中学校では格技場のすぐ横に 送電線の鉄塔が建っています。ですから 校地の北東の角は送電線とかなり接近し ていることになります。そこで、この付 近の電磁波を詳しく調べたところ、柔道 場、剣道場の奥の部分はかなり電磁波が 認められ、送電線の影響がはっきりとあ ることがわかりました。さらに柔道場よ りも剣道場の方が数値が大きくなってい たのは、剣道場は2階であり、1階の柔 道場よりも送電線に近くその位置関係か らも納得できる結果でした。格技場、体 育館の一部は送電線の影響の範囲に入っていることがわかりました。 4 課題 今回電磁波についてかなりのことが分かってきました。しかしいくつかの課題も残りました。そ れは、電子レンジのようなマイクロ波の電磁波がどうなっているのか、電子レンジと携帯電話の違 いはどうなっているのか。そして一般の電信柱の電線の電磁波がどうなっているのか、これらにつ いてが今後の課題です。 - 85 -
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