生命保険会社のハイブリッド資本の特徴と投資妙味

生命保険会社のハイブリッド資本の特徴と投資妙味
2016年7月
日本銀行によるマイナス金利政策導入によって金利全般が低下するなか、ハイブリッド資本が脚光を浴び
ています。デットとエクイティの中間に位置付けられるハイブリッド資本の特徴とその評価、投資機会につい
て、今回は近年発行が増加している生命保険会社(以下生保)によるハイブリッド資本に焦点を当てて解説し
ます。
ハイブリッド資本とは
ハイブリッド資本は、金融規制当局あるいは格付会
社が認めた資本性要件を具備した証券あるいは借入
金の総称です。銀行が資本規制に対応するために
1990年代から発行が始まり、2000年代には「銀行劣
後債」として市場で一般化、その後事業会社にも裾野
が広がりました。ハイブリッド資本の「資本性」は、負
債に対する劣後性、永続(の可能)性、利払い・配当
の柔軟性の3つの条件を、証券又は借入契約に謳うこ
とで裏付けられます。ハイブリッド資本は、契約次第で
資本性を調整でき、一般には劣後債、優先出資証券、
優先株などに種類分けされ、順に資本性が高まります
もっとも、資本性は規制当局や格付会社の算定基準
によりますので、会計上の取り扱い(貸借対照表上の
区分)とは異なることがあります。
ハイブリッド資本の資本性と負債性は相反関係にあ
ります。即ち、例えば当該証券(借入金)の資本性が
高まれば、逆に当該証券の信用格付は低くなります。
契約によって株式の性格に近づけるほど、債務として
の性格から遠ざかると認識されるからです。この結果、
ハイブリッド資本の資本性が高いほど、金利(あるい
は配当率)は高くなります。ある企業が資金調達ととも
に資本拡充を望む場合、普通株の発行のみならず、
金利感応度が高い特性を持つがゆえに低金利の恩
恵を受けられるハイブリッド資本による調達も検討さ
れるべきでしょう。債券投資家にとっても、リスクに見
合う限りにおいて、一般債券に比べて高い利回りを得
られるハイブリッド資本への投資にインセンティブが働
きます。
⽣保のハイブリッド資本の特徴
ブ
日本の生保のハイブリッド資本(円貨建て劣後債)
は、2012年以降、年1回、1社ずつが発行する程度で
したが、今年はすでに2社が発行、現在計画中の会社
もあります。生保が劣後債発行を急ぐのは、新しい金
融規制に対応した資本増強が目的です。金融庁は、
欧州で採用されているソルベンシーⅡに準じた新しい
採
準
新
規制の導入を検討しており、現行とは異なる経済価
値ベースで自己資本比率が計算されるようになる見
通しです。規制導入の時期等、詳細は未定ですが、
現在の低金利を前提にすれば、現行の自己資本比
率よりも厳しくなることが予想されます。
劣後債という名のとおり、弁済順位はシニア債務よ
り後になりますが、多くの日本の生保にはシニア債務
が存在しないため、事実上、保険債務(責任準備金)
の次に位置付けられます。生保の劣後債に共通して
いるのは、規制資本への算入あるいは格付会社によ
る資本性の認定を企図した設計となっている点です。
資
定
設
す
典型的な生保劣後債は、「超長期あるいは永久」、「ノ
ンコール(任意繰り上げ償還しない)期間5年~15年」、
「金利ステップアップ有り」、「任意の利払繰延」、「繰
延利息の累積」といった条件を揃えていますが、実際
には、細かな違いがあり、投資に当たっては注意する
必要があります(次ページ図表1参照)。例えば、基金
劣後債は、新規制下でも資本に算入される可能性 との優先劣後関係、金利のステップアップのタイミン
が高いとみられています。低金利環境を考慮すれば、 グなどです。商品性がほぼ同一の邦銀劣後債に比べ
上場生保は要求利回りの高い普通株より劣後債を選 て複雑だと言えます。
択する方が低コストのメリットを得られます。株式市場
にアクセスできない相互会社生保は、従来、基金を募
集して自己資本を拡充してきましたが、基金募集は事
実上年1回に限られることや、発行額に規制上の制約
が大きいこと、さらに多くの格付会社が基金を資本と
認めないこともあって、劣後債に対するニーズが高ま
る方向にあります。もちろん、上場生保同様、低金利
のメリットもあります。結果として、外貨建て発行も含
もあ
結
貨建
も含
めれば、生保の劣後債残高は基金債(基金を証券化
したもの)を超過しています。
1
生命保険会社のハイブリッド資本の特徴と投資妙味
図表1
国内生命保険会社による円貨建劣後債の発行実績
クーポン
(%)
発行時
スプレッ
ド対ス
ワップ
(bps)
ノンコール期
間終了後の
クーポン
返済順位
利払
停止
金利
累積
R&I
格
付
発行
年月
発行体名
満期
(年)
ノン
コール
期間
(年)
2012/
11
富国
生命保険
(相)
永久
5
300
2.66
L+230
変動金利に移
行、さらに
5年後+100bp
基金と
同順位
任意・
強制
累積
A
2013/
9
太陽
生命保険
(株)
10
5
200
0 99
0.99
L+52
変動金利に移
行し+150bp
株式より
シニア
無し
非累
積
A+
2014/
11
住友
生命保険
(相)
60
5
500
2.06
L+170
変動金利に移
行、さらに
5年後+100bp
基金と
同順位
任意・
強制
累積
A-
2015/
4
日本
生命保険
(相)
30
10
750
1.52
L+95
+100bp
(5年毎に固定
金利見直し)
基金より
シニア
任意・
強制
累積
A+
2016/
4
日本
生命保険
(相)
30
10
700
0.94
L+80
+100bp
(5年毎に固定
金利見直し)
基金より
シニア
任意・
強制
累積
A+
2016/
4
日本
生命保険
(相)
35
15
300
1.12
L+80
+100bp
(5年毎に固定
金利見直し)
基金より
シニア
任意・
強制
累積
A+
2016/
6
住友
生命保険
(相)
60
5
700
0.84
L+90
変動金利に移
行、さらに
5年後+100bp
基金と
同順位
任意・
強制
累積
A-
2016/
6
住友
生命保険
(相)
60
10
300
1.04
L+95
変動金利に移
行し+100bp
基金と
同順位
任意・
強制
累積
A-
2016/
7予
三井
生命保険
(株)
永久
5
-
-
-
変動金利に移
行しステップ
アップあり*
株式より
シニア
任意・
強制
累積
A*
2016/
7予
三井
生命保険
(株)
30
10
-
-
-
変動金利に移
行しステップ
アップあり*
株式より
シニア
任意・
強制
累積
A*
発行額
(億円)
2010年度以降の発行でR&Iより格付を取得している債券
出所:証券会社作成の資料を基にプルデンシャル・インベストメント・マネジメント・ジャパン株式会社が作成。
格付けデータの出所:R&I。格付は2016年6月末現在。*プルデンシャル・インベストメント・マネジメント・ジャパン株式会社による推定。
マイナス⾦利下での投資妙味
国内で劣後債を発行している大手生保は、2016年6
月末現在、日本の格付会社からいずれもA~AA格を
付与されており、極めて高い信用力を維持しています
生保の劣後債あるいは基金債は、発行体格付から概
ね1~2ノッチ下とされていますが、それでもA格前後
と比較的高い水準にあります。
場合、生保劣後債のスプレッドはB3T2に比べ30~
40bpsワイドです。図表2(次ページ)のとおり、両債券
はその設計や規制資本としての位置付けが異なるた
め、比較は容易ではないのですが、格付が同程度に
もかかわらず、スプレッドには大きな差が生じていま
す。
一方 債券のクレジットスプレッドをみると 生保劣
一方、債券のクレジットスプレッドをみると、生保劣
後債でスワップ対比80-95bps(残存10年弱)と、同程
度の格付の事業債に比べてスプレッドが厚く、基金債
と比べても魅力的です。また、日本のメガバンク等が
発行するバーゼル3対応の劣後債(B3T2)と比較した
2
生命保険会社のハイブリッド資本の特徴と投資妙味
この理由として、国内の生保劣後債が私募形式の
発行に限られ、投資家の認知度や債券の流動性の
点で一般の事業債に劣ること、大手生保による国内
起債が始まったのが数年前で、投資家層の広がりに
未だ欠けていること、商品性や金融規制の複雑さが
ネックとなっている可能性があること等を挙げられま
す。もっとも、マイナス金利下では、信用力対比で利
回りの高い劣後債に資金が集まり易いと考えられ、こ
れらの課題は発行実績の積み上げによって解決する
面もあるでしょう。
注意したいのは、マイナス金利は生保各社の信用
力にネガティブに働く点です。日本の生保は資産も負
債も長期のデュレーションで構成されているため、直
ちに資産利回りが低下することはないと考えられます
が、低金利環境が長く続いた場合、利ざや減少を通じ
て信用力に悪影響が及ぶ可能性もあるでしょう。生保
劣後債に投資する際には、単純に利回りを求めるだ
けでなく、こうしたリスクを伴うことを承知し、発行体の
信用力分析はもちろん、金利環境や日本ソブリンの
将来をも勘案して臨みたいところです。
図表2
生保劣後債
邦銀B3T2
利払い
繰延あり
繰延なし
実質破綻時
損失吸収条項
損失吸収条項*
なし
あり
資本比率を基準
としてトリガー
あり
(利払強制停止)
なし
ステップアップ金利
あり
なし
*実質破綻(PONV: Point of non-viability)認定時に元本削減又は普通株式へ転換する条項
出所:プルデンシャル・インベストメント・マネジメント・ジャパン株式会社
所
株
社
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ん。また、本資料に記載された内容等については今後変更されることもあります。
記載されている市場動向等は現時点での見解であり、これらは今後変更することもあります。また、その結果
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国プルーデンシャル社とはなんら関係はありません。
プルデンシャル・インベストメント・マネジメント・ジャパン株式会社
プルデンシャル
インベストメント マネジメント ジャパン株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第392号
PIMJ201607050512
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