vol.5 - 大和証券グループ本社

グローバル経済における
労働問題とCSR
河口
真理子
経済のグローバル化の進展にともない、労働問題も複雑化してきた。企業内の従業員に対して
公正な労働条件を整備するだけでなく、国内外の取引先とその先の取引先や下請工場などサプラ
イチェーンの各段階において、不公正な労働実態を改善させる必要性が認識されるようになって
きた。本稿では、その重要な2手段である主に先進国の大企業中心におこなう企業のサプライ
チェーンにおける労働マネジメント、および、途上国の生産者と先進国の消費者が広げるフェア
トレード活動について報告する。
1.労働とCSRの関連
2.サプライチェーンの労働マネジメント
3.フェアトレード
4.結語
18
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
グローバル経済における労働問題とCSR
は、労働に関する活動がCSRのテーマとして最も
重要視されているのである。
図表1:「グローバルコンパクト」の10原則
企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility,
CSR)に対する関心が高まっている。これは、ステー
クホルダーや社会の要請を認識した企業が、自主
的に取り組んでいる社会的・環境的な企業活動と、
一般的に理解されている。日本では、最近経営倫
理の確立やコンプライアンスの取組みが、
「企業の
社会的責任」として重要視される傾向があるが、
これは企業の不祥事が相次いでいることを反映し
ている。また、90年代後半以降の環境問題への関
心の高まりもあり、多くの日本企業は環境保全を
経営プロセスに組み込むようになっている。その
ため企業の担当者の意識では、CSRの中では環境
対策の優先順位が高い。
しかし、国際的なCSRの動向をみると、労働問
題が最も重視されている傾向にある。例えば、E
UではEU全体の経済戦略の一環としてCSRに取
り組んでいるが、ここでは労働問題が最重要の
CSR課題として捉えられている。この背景には、
EU諸国における高い失業率の問題や、EU統合
によって生産拠点の労働力の安い地域への移動が
激しくなり地域振興や失業問題の悪化を招くこと
が大きな社会問題となっていることがあげられる。
また、企業に
「良き企業市民として活動すること」
を求める国連のグローバルコンパクト1では、企業
に対して人権、労働基準、環境、腐敗防止の4分
野10原則を尊重するように求めている。この10原
則のうち、労働に関する原則は4つありウエイト
が一番高い。このように、国際社会、特に欧米で
人
権
原則1
企業はその影響の及ぶ範囲内で国際的に宣言され
ている人権の擁護を支持し、尊重する。
原則2
労
人権侵害に加担しない。
働
原則3
組合結成の自由と団体交渉の権利を実効あるもの
にする。
原則4
あらゆる形態の強制労働を排除する。
原則5
児童労働を実効的に廃止する。
原則6
雇用と職業に関する差別を撤廃する。
環
境
原則7
環境問題の予防的なアプローチを支持する。
原則8
環境に関して一層の責任を担うためのイニシアチブ
をとる。
原則9
環境にやさしい技術の開発と普及を促進する。
腐敗防止
原則10 強要と賄賂を含むあらゆる形態の腐敗を防止するた
めに取り組む。
出所)国連広報センター www.unic.or.jp/globalcomp/index.htm
労働に関するCSR活動は多岐にわたるが、性格
上二つに大別される。一つは、先進国における自
分たちの労働環境、失業問題や、ワークライフバ
ランスなど働きやすい職場作りに関する取り組み
である。もう一つは、グローバルに張り巡らされ
たサプライチェーンの上流にあたる、途上国の下
請け工場や零細農民などの人権を確保し労働実態
を改善する取り組みである。前者は、企業内の職
場環境を含めた身近な問題なので、比較的問題点
も見えやすい。これに対して後者は物理的に離れ
2000年にアナン事務総長が提唱。詳細は国連広報センターHP
www.unic.or.jp/globalcomp/index.htm を参照
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
19
論
文
た地域の問題でもあり、全体を把握することも難
しい。本稿では、このわかりづらい、後者の取り
組みに焦点をあてる。
国連開発計画(UNDP)の「人間開発報告書2003」
では、54の開発途上国が90年代の10年間で所得を
減少させたことが明らかになっている。147カ国
の国家元首が参加し2000年9月に開催された国連
ミレニアムサミットでは、国連ミレニアム宣言が
採択された。ここで、各国が貧富の区別なく貧困
を撲滅し、人間の尊厳と平等を促進し、平和と民
主主義、持続可能な環境を達成する為に全力を尽
くすことが公約された。この宣言から生まれミレ
ニアム開発目標では、①極度の貧困と飢餓の撲滅、
②普遍的初等教育の達成、③ジェンダーの平等の
推進と女性の地位向上、④幼児死亡率の削減、⑤妊
産婦の健康の改善、⑥HIV/AIDS、マラリア、その
他の疾病の蔓延防止、⑦環境の持続可能性の確保、
⑧開発の為のグローバル・パートナーシップの推
進、の8つの目標を2015年に達成することを国際
社会共通の目標に定めている2。
このような目標を達成するためには、途上国に
おける労働条件の改善と、その労働に対して正当
な対価が支払われる社会経済システムを整備する
ことが不可欠となる。今日のグローバル経済のも
とでは、カカオやコーヒー豆、綿花など一次産品の
生産者や、また衣料の縫製や機械・電子部品・玩具
などの加工組み立てなどの労働は、サプライチェー
ンの最上流に位置づけられる。
一次産品の場合は、国際商品市場において投機
出所)国連開発計画(UNDP)
「ミレニアム開発目標」
20
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
的に価格が大きく変動し、生産者の得る収入が生
産コストに満たないこともたびたび生じる。さら
に、労働者の知識不足から、人体に有害な農薬を
素手で撒くなど、彼ら自身の健康安全への配慮が
されないことも多い。またアパレル縫製や機械組み
立てなどの工場では、換気がなく、工場の扉には
施錠され自由にトイレにもいけないような、劣悪な
条件で長時間働かされていたり、児童就労が行わ
れていることが、問題視されるようになってきた。
企業、特に多国籍企業には、このような途上国
の労働者についても配慮することが求められるよ
うになってきた。なお、従来の企業の労務対策と
は、
「労働者に対して組合の結成を認め、その組合
を通じて出される労働者の権利に関する要求に対し
て団体交渉の場を通じて合意をはかり、それを遵守
すること」であり、あくまで企業の従業員への対策
であった。しかし、1970年代以降、グローバル化
の進展で多国籍企業が途上国で活動するようになる
と、労働の問題も国境を越えるようになった。途
上国の下請け工場などにおける労務対策、具体的
には強制労働や児童労働の問題、劣悪な職場環境
や低賃金の問題が浮上してきた。こうした状況を
うけて、OECDは76年に多国籍企業ガイドラインを
採択した3。これは、情報開示、雇用と労使関係、
環境、収賄防止、消費者利益、科学と技術、競争
などに関する企業の行動ルールを定めたもので、
各国政府が多国籍企業に対し発した共同勧告となっ
ている。この制度の下では各国の労働組合は、企
業にガイドライン違反が発覚した場合は、自国の
ガイドラインはその後2000年に改定されている。
グローバル経済における労働問題とCSR
窓口(ナショナルコンタクトポイント)を通じて問
題提起できるしくみとなった。
一方、ILO(国際労働機関)理事会は「多国籍企業
および社会政策に関する原則の3者宣言」を1977年
に採択した。これは、多国籍企業が自主的に守る
べき雇用、訓練、労働条件、生活条件、労使関係に
関する行動原則である。しかし、その後途上国に
おける労働者の境遇に改善が見られなかったため、
ほぼ20年後の1998年に「労働における基本的原則及
び権利に関する宣言」
(ILO新宣言)を採択している。
ここで定めた、①結社の自由および団体権・団体
交渉権、②強制労働の禁止、③児童労働の廃止、
④差別の禁止、の4原則はILOの中核的労働基準と
呼ばれ、労働問題を考える上で、国際的な大原則
と認識されている。これらの原則を実行に移す為
に、ILOではさらに中核的8条約を定めている(図
表2)
。また、この宣言では全ての加盟国に中核的
図表2:4つの中核的労働基準及び8つの基本条約
1. 結社の自由及び、団結権・団体交渉権
第87号
結社の自由及び団体権保護条約(142)
第98号
団結権及び団体交渉権条約(154)
2. 強制労働の禁止
第29号
強制労働条約(164)
第105号 強制労働廃止条約(162)
3. 児童労働の廃止
第138号 最低年齢条約(135)
第182号 最悪の形態の児童労働条約(151)
4. 差別の排除
第100号 同一報酬条約
第111号 差別待遇(雇用及び職業)条約(160)
出所)ILO駐日事務所 パンフレット。カッコ内は批准国数
労働基準の尊重が義務付けられ、ILOはその実現の
ために技術協力を行う義務を負うことが明記され
ている。
このILOの中核的労働基準を実現することが公正
な労働環境を作るための第一ステップである。その
ための有力な手段に、フェアトレードと、サプラ
イチェーンにおける労働マネジメントがある。
フェアトレードとは、先進国の企業が国際商品
市場で一義的に決まった価格で一次産品を仕入れ
ずに、生産者の自立と環境に配慮した生産を行う
小規模農家や、労働者の労働条件と環境に配慮する
プランテーションや工場などから、彼らの自立を
保証する価格で原材料を仕入れて、先進国の市場で
販売する貿易の仕組みである。これは40年ほど前
に開発援助の新たな形態としてスタートしている。
一方、サプライチェーンマネジメントは、先進
国のメーカーや流通業など最終消費側の企業が、
部品材料のサプライヤーとその取引先のつながり
(チェーン)に対してきちんとした労働条件の確保
を求めていく仕組みを整備することである。この
仕組みがすべてのサプライチェーンに広がれば、
理論上は世界中の労働者が公正な労働条件のもと働
くことができることになる。ただし、本稿で紹介す
るように、そのためには先進国の多国籍企業、消
費者、途上国の下請け工場、労働者などをまきこ
んだ膨大なエネルギーとコストと時間が必要な作業
が必須となる。実際のところ、企業の取り組みは、
まだ緒についた段階である。しかし、こうした取
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
21
論
文
り組みの重要性はグローバル化の弊害が言われる
中で、ますます強く認識されるようになっていくと
考えられる。次章以下では、今後、重要性が増す
と思われるサプライチェーンマネジメントとフェア
トレードの取り組みについて考察する。
図表3は、2003年に行われた新興国の労働市場
でのコンプライアンスの評価一覧である。この報
告書を作成したのは、1995年に米国で設立された
途上国の労働問題を専門に扱う非営利団体のVerite
である。同団体は、設立以来多国籍企業の依頼に
応じて65カ国にわたる途上国にある1250以上の工
場で現地監査を行い、現地工場での管理職研修や
労働者教育などのサービスを提供している。この
ランキング評価の内訳は、
①ILOの中核的労働条約(8条約)それぞれの批
准状況で、配点は4点。
②批准に応じた国内法の整備状況で配点は10点
③当局による労働状況のモニタリングや違反の摘
発など、労働行政の体制整備と、NPOを労働問
題に参画させる仕組みの有無。配点は6点
④I L Oの中核的労働基準に反する労働実態の状
況とそれに対する行政の対応状況について。
配点は20点。輸出特区における、労働者の権
22
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
利の制限は、減点対象。
⑤契約労働者に対して国内労働法を適用してい
るか。
(していなければ1点減点)
この評価で1位のハンガリーは、ILOの中核的労
働条約すべてが批准され、関連の国内法も9割整
備し、労働問題解決に関してNPOの参画が保証され、
国内の労働実態もILOの中核的労働基準をおおむね
満たしている。しかし、最低ランクのパキスタン
では、最低賃金条約(138号)以外は批准されている
ものの、国内法の整備状況は半分程度、輸出特区
では労働法の適用が除外され、労働行政の体制整
備は殆ど行われていない。またNPOの参画は認め
られているが、労働実態もILOの中核的労働基準に
照らし合わせて3割程度しか満たされていない。
その次に低い評価の中国の場合は、8つの中核
的労働条約のうち批准されているのは、最低賃金
(138号)、児童労働(182号)、差別の撤廃(100号)
の3条約にすぎない。国内法も、団結権に関する
ものは半分程度、強制労働に関するものは全体の
1/6程度しか整備されていない。労働行政の体制の
整備状況は1/3程度で、NPOの参画は全く認められ
ていない。実態面でも、中核的労働基準に照らし
て団結権は殆ど認められておらず、強制労働、児
童労働、差別の撤廃も、半分程度しか満たしてい
ない。
いずれの国の場合も、法的整備状況以上に、労
働の実態が中核的労働基準に照らしてかけ離れて
いることがランキングを低くする要因となってい
る。また、得点が5割に満たない国は、この2カ
国以外に、エジプト、インド、インドネシア、マ
レーシア、ロシアの5カ国あるが、いずれも、制
グローバル経済における労働問題とCSR
図表3:新興国労働市場のコンプライアンス評価(2003)
ILO条約の
批准状況
国内法の
整備
国内の体制
整備状況
モニタリングなど
実態の状況
契約労働
4点
10点
6点
20点
マイナス1点
配点
総
合
40点
アルゼンチン
4.0
9.3
2.8
13.5
0.0
29.6
ブラジル
3.5
9.1
2.8
9.8
0.0
25.2
チリ
4.0
6.4
2.8
16.2
0.0
29.4
中国
1.5
7.1
1.6
5.7
0.0
15.8
コロンビア
3.5
7.6
0.4
11.9
0.0
23.3
チェコ
3.5
8.5
4.4
17.6
0.0
34.0
エジプト
4.0
6.6
0.4
8.2
0.0
19.2
ハンガリー
4.0
9.2
4.4
18.7
0.0
36.3
インド
2.0
7.8
1.2
5.0
0.0
15.9
インドネシア
4.0
8.4
0.4
4.9
0.0
17.7
イスラエル
3.5
8.8
2.4
16.5
-1.0
30.1
ヨルダン
3.5
7.9
2.0
12.4
-1.0
24.8
韓国
2.0
8.8
2.8
16.7
-1.0
29.3
マレーシア
2.5
4.8
0.4
11.2
-1.0
17.9
メキシコ
3.0
8.7
2.4
8.2
-1.0
21.3
モロッコ
3.5
5.9
2.4
9.3
0.0
21.0
パキスタン
3.5
4.6
0.8
6.0
0.0
14.8
ペルー
4.0
7.3
2.8
12.4
0.0
26.4
フィリピン
3.5
8.2
2.8
9.7
0.0
24.2
ポーランド
4.0
8.2
2.8
17.7
0.0
32.7
ロシア
4.0
8.4
0.4
7.1
0.0
19.9
南アフリカ
4.0
9.1
2.8
14.6
-1.0
29.4
スリランカ
4.0
6.0
2.4
10.2
0.0
22.6
8.6
2.8
15.4
-1.0
25.8
タイ
2.0
8.1
2.4
9.6
-1.0
21.1
トルコ
4.0
7.4
2.0
10.6
0.0
24.0
ベネズエラ
3.5
8.6
2.4
10.9
0.0
25.4
台湾*
NA
*台湾は国連に加盟していないので、ILO条約の批准は対象外、総合得点は36点満点
出所)Verite Emerging Markets Research Project Year-end Report 2003' www.verite.org
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
23
論
文
度面が整備状況にかかわらず実態の評価が低い。
これを解釈すると、途上国の場合は法的整備が
すすんでいるとしても、その国の労働実態との間
には相関性が認められないことを示している。
当然、多国籍企業が新たに途上国に工場進出す
る場合、工場の選定は、物流の利便性、原材料の
入手可能性、電気や水道などのインフラ、人材な
どの要素が複雑に絡んでおり、労働のコンプライ
アンス状況だけで選ぶことは出来ない。労働コン
プライアンスの評価が低い国に進出する場合は、
公正な労働条件を確保するうえで、現地の法令や
行政に任せるだけでは不十分で、プラスアルファ
となる自社独自の労働マネジメントを整える配慮
が求められよう。では、どのような対応策が求め
られているのだろうか。次節で代表的な国際的イニ
シアチブをいくつか紹介する。
グローバルコンパクト(図表1)は現在最も国際
的に広がっているCSR原則であるが、この中の労
働原則はILOの中核的労働基準そのまま踏襲して
おり、最も国際的に普遍的・基本的な労働原則と
されている。この概要と企業のとるべき対策につ
いて国連広報センターの解説をもとに説明する4。
労働者の問題を考える上で、労働者の代表である
4原則の解説は、国連広報センター、グローバルコンパクトに関する
HPを参考にしている。
24
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
労働組合の動向は無視できない。通常、経済学の
教科書では、労働と資本を、対等な2大生産要素
と捉えている。しかし現実には、両者の立場は決
して対等ではない。労働者が権利を守るためには、
自主的に団結し、その代表者が資本家・雇用者と
対話する必要がある。労働組合を結社する自由と、
労働組合を通じた団体交渉権は、労働者にとって
最も重要な権利である。この権利を守ることは、
企業のCSR活動の第一歩である。具体的には;
a)企業が、労働者の職場において、労働者の
組合結成の自由・組合加盟の自由を阻害妨
害しないこと、組合活動をサポートする。
b)企業が、交渉の場において、労働組合を団
体交渉の相手と認め、団体交渉を建設的な
手段として活用する。団体交渉相手に必要
な情報を提供し、労使の関心と利害の範囲
内で問題解決をはかったり、予防的な措置
をとる。
c)グローバルコンパクトでは、企業が事業を
営む地域社会においては、まず関係国にお
ける労使関係の状況を考慮する必要がある、
としている。例えば、日本では考えにくい
ことだが、法定な保護が十分でない国にお
いては、労働組合とその指導者の身の安全と
秘密性を守る措置が求められている。地域
や国内の経営者団体や労働組合の設立と活
動を支援することも、必要な対応とされる。
強制労働とは、
「ある人が処罰の脅威の下に強要
グローバル経済における労働問題とCSR
され、かつその人が自ら任意に申し出たものでな
いすべての作業もしくは役務」を指す。仮に賃金
その他の補償を労働者に与えていたとしても、強
制労働に該当する場合があるので注意を要する。
労働者の権利として、自らの意思で労働を提供し、
自由にその職を離れることが認められており、そ
の自由がなければ賃金が支払われたとしても強制
労働にあたるからである。
先進国で合法的に活動している企業であれば、
通常自社における強制労働の慣行はないと思われ
る。しかし、図表3の国別コンプライアンス評価に
示したように、途上国の下請け工場において強制
労働が行われる可能性はある。こうした実態を放
置すれば間接的に企業が強制労働に加担すること
になる。強制労働を排除するために、グローバル
コンパクトが推奨する対策は以下のとおりである。
a)職場において、労働者の権利を守る雇用契
約を全ての労働者に提供する。債務によっ
て拘束される労働者やその他の強制労働に
よる労働者を見つけた場合、その労働者を
職場から離し、かつ将来性のある代替の仕
事を提供する。
b)事業を営む地域社会において、債務による
拘束などの慣行がある地域では、中小企業
の労働ガイドライン作成を支援する。強制
労働の状況から脱出した子どもや成人に対
しては、教育や技能訓練職業訓練、小口融
資などを支援し、職業病や栄養失調になっ
た人々に医療サービスを提供する。
児童労働は、経済発展のある段階においてほとん
どすべての国で発生し、現在開発途上国において
深刻な問題となっている。ILOによると現在2億
5千万人の子ども(5歳から14歳)が経済活動に従
事し、そのうち約半分の1億2千万人がフルタイム
で労働していると推計されている。児童労働がも
たらす弊害は、児童の教育の機会を奪い、多くの
場合において有害な労働条件下で働かされるので
健康を損ない、将来未熟練で無資格の労働者を
輩出してしまうことである。児童労働を排除する
為にグローバルコンパクトが推奨する対策は以下
のとおりである。
a)職場において、まず国内労働法や規則の最
低就業年齢に関する規定を遵守し、国内法が
十分でない場合は、国際基準を参考にする。
児童労働をなくすためにサプライヤーや下
請け工場などを指導する、成人労働者を雇
用して、彼らがその子どもたちを働かせる
必要をなくする、などが求められる。
b)地域社会において、中小企業のガイドライン
作りを支援し、働く子どもの為の教育や職業
訓練、カウンセリング、働く子どもの親に
対する技能訓練の支援をする、などが求め
られる。
「雇用と職業に関する差別」とは「雇用または職業
における機会または待遇の平等を欠き、無効にす
る区別、排除または特恵」であって、「人種、皮膚
の色、宗教、政治的意見、出身国または社会的出
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
25
論
文
身に基づくものである」と定義されている。「差別
がない」ということは、労働者がその仕事に対する
能力だけに基づいて雇用されることを意味する。
職場における差別を排除するためには、あらゆ
るレベルで資格・技能・経験のみに基づいて、社
員の採用・配置・訓練・昇進を行うような企業の
体制を整備し、差別が発見された場合は、労働者
に救済手段を提供しなくてはならない。一方で、
労働者が懸念や苦情を提起できないようにしてい
る制度的な問題があるかどうか、を認識すること
も求められる。また途上国の場合は、特に性別、
移民、少数民族などへの差別や宗教的な差別が行
われないよう管理する必要がある。
グローバルコンパクトの4原則が精神的な行動
指針とすると、SA8000は実際に労働条件・労働実
態を管理する際に活用するマネジメントシステムで
ある。SA8000を作成し、運用しているのは、米国
で1996年に設立された人権問題を専門にする非営利
団体のSocial Accountability International(SAI)で
ある。SAIは、労働者、労働組合、企業、行政、
NPO、SRI投資家、消費者からなるマルチステーク
ホルダーの組織で、人権に配慮した労働のマネジ
メント基準(SA8000)を策定し、工場の労働者むけ
教育やコンサルティングサービスを提供している。
また、工場を監査しSA8000の認証を与える独立
した認証機関の認定も行う。2005年3月末現在、
世界44カ国655箇所の工場(対象となる労働者の
合計は43万人)がSA8000の認証を取得している。
認証の対象業種はアパレル繊維、物流、化学など
50業種におよぶ。なお認証取得工場のリストは、
SAIのHP 5で公開されている。
取得工場の所在国は、イタリアが圧倒的に多く
全体の29.3%(192工場)を占める。ついで中国の94工
場、インド93工場、ブラジル74工場、パキスタン45
工場、ベトナム(32)、スペイン(12)、タイ(10)、
トルコ(10)
、インドネシア(9)と続く。米国企業
の取得はないが、日本では
(株)
トキワの化粧品部門、
イオン(株)の自社ブランド「トップバリュ部門」の
2社が認証を取得している。ちなみにSAIの本拠米
国での取得はない。
なおSA8000の認証には生産拠点を持つ企業向け
と、主として販売を行う企業向けの仕組みの2種
類がある。前者の場合は、対象が工場単位となり、
工場ごとに監査をうけてそれぞれ認証を取得する。
後者の仕組みは、主として小売業などを対象とした
ものでSA8000Corporate Involvement Program
(CIP)とよばれる。CIPは進捗度合いによって2段階
に分けられる。SA8000Explorerと呼ばれる第一段
階では、試験的に小売企業の一部の取引先に対して
SA8000の監査を実施し、一部の取引先だけを対象
にパイロット的にSA8000の調達規準が適用される。
第2段階(SA8000署名企業)になると、自社の一部
あるいはすべてのサプライチェーンの調達規準に
SA8000の認証を用いるもので、毎年調達内容の進
捗状況を公開することが義務付けられる。CIP企業
には、ギャップ、ドールフード、テインバーラン
ド、トイザらスなどが含まれている。
SA8000の基本原則を図表4に示したが、これも
ILOの中核的労働基準がベースになっている。
www.sai-intl.org
26
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
グローバル経済における労働問題とCSR
図表4:SA8000規準の基本原則
原
則
1. 児童労働
規
準
の
内
容
15才未満の労働者は認めない。ILO条約138号の例外規定適用途上国の場合は14歳。就労して
いた児童が発見された場合は、救済措置が必要。
2. 強制労働
囚人労働や、債務者の強制労働を含め、あらゆる強制労働の禁止。経営者やリクルーターが労
働者の身分証明書やデポジットを預かることを禁止。
3. 安全衛生
安全で健康的な職場の提供。負傷を防ぐ対策を講じる。定期的な労働安全研修の実施、労働安
全を脅かす問題を検知する仕組み、トイレと飲み水への自由なアクセスが保障される。
4. 結社の自由と団体交渉権
労働者の団結権と団体交渉権を尊重する。国内法で、これらが認められていない場合、同様の
手段を講じる。
5. 差別
人種、カースト、出自、宗教、障害、ジェンダー、組合活動、政治活動、年齢による差別の禁止。
セクシャルハラスメントの禁止。
6. 規律
企業独自の処罰(口頭、身体的、精神的なものを含む)の禁止。
7. 労働時間
該当する法令に従うが、週48時間以内で、週1日の公休が認められなければならない。自主的な
残業に対しては割り増しの残業代が支払われる。残業時間は、週12時間を越えない。ただし、
労使合意があれば、残業が強制されることも可能。
8. 賃金
賃金は国および業界の標準を満たし、労働者と家族の生計が賄えるレベルでなければならない。
懲罰による減俸は認められない。
9. マネジメントシステム
認証を取得する機関では、単なる法令順守するだけでなく、この規準をマネジメントシステムに
組み入れ、日々の業務に生かす努力をする。
出所)Social Accountability International のHP(www.sa-intl.org) より 大和総研仮訳
Ethical Trading Initiative(ETI)はサプライチェ
ーンにおける公正な労働と人権の確保を目的に、
英国で1998年に設立された、企業、NPO、労働組
合などマルチステークホルダーからなる非営利団
体6である。英国でも、米国同様90年代以降、企業
に対してNGOや消費者、労働組合などから途上国
の労働者の労働実態改善を要求する声が強まり、
これが同団体設立のきっかけとなった。同団体は
英国政府の支援を得ており、同団体の活動資金の
企業会員は、英国市場むけに製造販売している企業33社で、マークス
アンドスペンサー、テスコ、センズベリーなど、英国大手小売、ギャ
ップや ボディショップなどの世界的ブランド企業を含む。NGOの
会員は、人権団体のオックスファムや、開発援助団体のセーブザチル
ドレンなど含む16団体。労働組合はアパレルや繊維業労働者の国際的
労働組合などの4団体。
4割は政府からの補助金である。組織の構成がマ
ルチステークホルダーという点では、SAIと似てい
るが、SAIと異なりETIでは、規格の策定や認証を
行わない。その代わり、現実的でかつ信頼性の高
い、労働に関する行動規範を策定し、企業にベス
トプラクテイスを提示し、多くの企業において
「倫理的な調達 7」を推進することを活動目的として
いる。図表5に、ETIの基本的な行動規範を示した
が、これも基本的にはSA8000の原則と考え方は同
じである。
サプライチェーンにおける労働マネジメントを
調達先を選ぶ場合に、環境や人権に配慮しているか否か、といった
倫理的側面もチェックする調達。
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
27
論
文
図表5:ETIの基本的行動規範
1.労働は自由に選択できる。
2.結社の自由と団体交渉権は尊重される。
3.職場は安全で衛生的でなければならない。
4.児童労働は行われない。
5.生活できる賃金が支払われる。
6.労働時間は過剰でない。
7.差別が行われない。
8.正規労働の権利が提供される。
9.非人道的な行動は禁止される。
出所)Ethical Trading Initiative HP(www.ethicaltrade.org)より 大和総研仮訳
導入する場合、こうした行動規範作りが活動の
第一歩となる。しかし、行動規範だけ整備しても
実態は伴わない。行動規範の理念考え方を企業の
日常業務に組み込んでいく為には、経営者の強い
認識とコストをかける覚悟がまず求められる。それ
に加えて実効性のあるマネジメントシステムを作り
上げるためには、多くの経験から積み上げられた
ノウハウが不可欠となる。こうした観点から興味
深いのは、図表6に示したETIの行動規範実施のた
めの原則である。
これは、行動規範を単なる精神論から実際に企業
図表6:行動規範を実施する為の原則
1. コミットメント
1.1 ETIの会員企業は、明確にこの行動規範を遵守し、実行に移すことを明言し、
1.2 会員企業は、自社の従業員、サプライヤー、下請け会社に対して会社がこの行動規範にコミットしていることを周知させる。
1.3 経営陣が、
この行動規範の実施責任を負う。
1.4 行動規範と実施原則は供に企業活動の中核に組み込まれなければならない。
1.5 このコミットメントを果たすための予算と人員を確保しなければならない。
2. 第三者によるモニタリングと評価、および報告・情報開示
2.1 会員企業は、行動規範の実施条項について、第三者のモニタリングと評価をうけその内容は毎年報告される。
2.2 会員企業は、ベストプラクティスを洗い出すパイロットプロジェクトに協力し、時には進捗状況を報告しなければならない。
2.3 会員企業は、自社の経験を他の会員企業への参考として提供する。
2.4 対象となる労働者に対しては、告発者が保護される内部告発制度が用意されなければならない。
3. 啓蒙と教育
3.1 業務上必要のある職員には適切な研修を実施する。
3.2 サプライヤーに対して行動規範と会社のコミットメントを認識させる。
3.3 対象となる労働者に対しては行動規範・実施のための原則について教育する。
4. 是正措置
4.1 行動規範を遵守していないサプライヤーに対しては、決められたスケジュールで是正措置と、違反行為の即刻停止を求める。
改善されなければ、生産契約を解除する。
5. マネジメントの手順、価格交渉、インセンティブ
5.1 サプライヤーとの値段交渉の際には、行動規範を遵守する為のコストを勘案しなければならない。
5.2 一部のポジションの人の人事評価する際に、労働に関する行動基準の理解度と実行レベルを評価することは有益である。
出所)Ethical Trading Initiative HPより 大和総研仮訳
28
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
グローバル経済における労働問題とCSR
活動に生かすようにするための実質的なノウハウの
原則といえよう。特に例えば、図表にある1.5の
予算と人材の確保や5.1の、「価格交渉に際して、
サプライヤーが行動規範を遵守する為のコストを
勘案する」などは、企業が本気で自社の調達プロセ
スに、倫理的な基準を設けようとしていることを
示しているといえよう。逆にいえば、ETIメンバー
企業は、サプライチェーンの労働条件を改善する
ためのコストアップも受け入れる覚悟が求められ
ているといえよう。
さらにETIでは、2003年から2年がかかりで、
インパクトアセスメント調査を実施中である。これ
は、多国籍企業が行動規範を作った結果、途上国
の労働者にどのようなインパクトを与えることが
できるか調査するものであり、今年中に報告書が
出来る予定である。
サプライチェーンにおける労働マネジメントを
目的として行動規範を定めているのは国際的にこ
こで紹介した2団体以外にもある。特にアパレ
ル・スポーツ用品業界は、業界の特性として途上
国の下請け工場に依存しているので、途上国の下
請け工場における労働条件については関心が高い。
アパレル衣料品関係の労働問題を手がける団体は
オランダに本拠をおくFair Wear Foudation、米国に
拠点のあるFair Labor Association、欧州を中心に
活動するClean Clothes Campaignの3団体がある。
またWorkers Rights Consortiumは米国の大学8・学
生・労働問題の専門家が運営するNPOである。
これらのうち、Fair Labor Association(FLA)は、
現在100大学が会員として参加している。
リーボック、ナイキ、アディダスなど米国のアパ
レル事業者が主要な会員となっている。同団体で
は、行動基準に基づいて、会員企業の契約工場の
監査を行い、工場ごとの監査結果をネットで公開
し、メンバー企業の活動評価報告書を出している。
また、FLA会員企業の契約工場において行動規
範違反がある場合、第三者がFLAに申し立てがで
きる仕組みが整備されている。ちなみに同団体の
ホームページには、一例としてスリランカの輸出
特区におけるナイキの契約工場、グアテマラにお
けるリズクレイボーンの契約工場における組合活
動の妨害についての第三者の申し立てと、FLA9が
仲裁し労使の紛争解決をサポートしたことが掲載
されている。
以上を要約すると、先進国の多国籍企業の間で
は、途上国の下請工場における公正な労働の実現
のために、ILO条約など国際的なスタンダードに則
った行動基準、行動規範を策定しそれを実行に移
すための活動を、一部の企業が手探りで開始した
ところといえる。これらの企業のCSR担当など本
社レベルの活動としては、行動規範の策定と現場
の監査やモニタリングの実施が目下の活動目標と
なろう。しかし、このような取組みが、途上国の
工場にはどのような影響を与えているのだろうか。
また、多国籍企業の現場では、本社の行動規範を
実現するためにどのような努力がされているのだ
ろうか。次節でいくつかの現場の事例を見てみよう。
www.fairlabor.org
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
29
論
文
合が多い。例えば、同報告書では、多国籍企業む
け生産を行っている工場では8割が、賃金記録に
ついて、外部監査むけと内部コントロール用の二重
帳簿を持っている、と指摘している。
途上国の労働者の現状は国や地域、その工場の
職種によって大きく異なり、一概に言うことはで
きないが、参考事例として中国南部におけるアパ
レル・靴などの下請け工場の労働実態を調査した
米国の報告書の内容を紹介する。この報告書10は、
途上国の労働問題に関するコンサルティングや調査
を行う非営利団体Verite11が作成したもので、工場
の労働者・管理職に対して行った聞き取り調査12と
Veriteが2002−2003年にかけて中国の142工場でおこ
なった監査結果をもとにしている。
中国の労働法では、1日8時間、週40時間を標準
としており、残業の上限は一日3時間、ひと月で
36時間が限度、週に1日の休日が認められている。
残業については割り増し賃金を支払う、と規定され
ており、これらのルールを見る限り先進国のもの
と大差はないようだ。また中国工場に発注してい
る多くの多国籍企業では行動基準の中で週の最大
労働時間を60時間に制限している。実態がこれに
従っていれば、中国の労働状況はそれほど過酷な
ものではない。
しかし、これらの法令や行動規準は、実際のと
ころほとんど守られていない。多国籍企業の監査
は行われていても、誤った情報に基づいている場
出所 Excessive Overtime in Chinese Supplier Factories , Verite
Research Paper September 2004. www.verite.org同報告書作成にあ
たり、シアーズローバック、ティンバーランド、アイリーンフィッ
シャーを含めた7つの多国籍アパレルブランドがスポンサーとなって
いる。
1995年に設立されたVeriteは、米国に拠点をおく途上国の労働問題
を専門に扱う非営利団体。多国籍企業の依頼を受けて65カ国にわた
る1250以上の途上国の工場を評価し、工場での管理職研修や労働者
教育を行い、またSRI投資家むけに情報を提供している。
30
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
同報告書によると、中国の労働者は恒常的に残業
させられているが、調査対象工場の93%では、月
36時間を越える残業をさせている。そのうち半数
以上の56%は残業時間が月80時間を越えている。
また、1割の工場では、法定の休日(週に1日)が
とれず、週に7日間つづけて働かされている。
繁忙期には、平均して通常の8時間労働に加えて
3時間の残業が行われている。繁忙期は業種によっ
て異なるが、7割の工場では繁忙期は年に4ヶ月
程度続き、8ヶ月以上続く工場も6%ある。繁忙期
が3ヶ月以下の工場は14%、繁閑の差がなく一定
の生産を行っているのは全体の11%にすぎない。
労働者が残業をする最大の理由は、経済的な理
由によるもので、53%の労働者が収入増をあげてい
る。また35%は「要請された、残業することを期待
されている」ためとしている。なお、労働者の73%
が「残業代は生活上不可欠な収入」、すなわち残業
しなければ生活していけない、としており、これは
基本の賃金が低すぎるという問題を示唆している。
賃金の支払い状況をみると、残業代では、法定
の残業代が支払われることは少ない。Veriteは2002
年から2003年にかけて142の工場で監査を行った
が、72%の工場では、法定基準13以下の残業代しか
支払われていなかったことが判明している。その
2003年の年後半にかけて、中国南部の41の輸出工場における768人
の労働者と44人の管理職に対して極秘に面談調査を行った。業種は
は、衣料品(11)、靴(11)、ニット(10)、ハンドバッグ(2)、手工芸
品(2)、木材製品(1)、プラスチック製品(1)スポーツ用品(1)。
法定では、平日の残業代は、通常賃金の50%増、公休日の残業は
100%増、国民の休日は、200%増となっている。
グローバル経済における労働問題とCSR
主な要因は、残業時間も通常の賃金レートしか適
用されていないことがある。また工場の管理職への
聞き取り調査でも、2割の管理職が法定残業代を
支払っていないことを認めている。この問題が放
置されている背景には、労働者自身が自分たちの
賃金に関するルールに無知なことがある。例えば、
聞き取り調査をした労働者の4割が法定残業代に
ついて知らず、法定残業代が支払われていないと
認識している労働者は12%にすぎなかった。さらに、
通常の賃金についても、45%の工場では一部の労
働者に法定レート以下の賃金しか支払っていない。
なお中国の法定最低賃金は生活費を賄えないくらい
低すぎる傾向14があるが、工場の賃金レートはこの
最低賃金を元に算出されているので、長時間残業
せざるを得ない状況があることを同報告書は指摘
している。
労働者が望んでいる残業時間を調べると、経済
的な観点からは週に15−20時間という回答が最も
多く、全体の4割を占めている。しかし、家庭生
活や社会生活維持の観点から労働者が望ましいと
する残業時間は、週に5時間以下が55%、健康の観
点では、同じく5時間以下が3割と最も多い。
「経
済的な理由でなければ残業はほとんどしたくな
い」
、というのが労働者の本音ということが伺える。
工場経営者への聞き取り調査によると、残業が
発生する要因のなかで、生産者側に起因するケー
スは少ない。経営者があげた残業の発生要因では、
発注者からの突然の生産依頼や生産の変更要求な
どが最も多く、38%を占めている。続いて原材料
入手の遅延をあげる経営者が21%、コミュニケー
ションの問題が15%となっている。生産者側に起
因するものでは、生産設備が原因のものは10%、
品質不良によるものは5%にすぎない。
生産が納期に間に合わなかった場合、工場が受
ける損害として工場経営者は、経済的な損失
(20%)
、
航空便での輸送費負担(30%)
、信頼を失う(22%)
、
発注取り消し(20%)などをあげている。こうした
損害を避けるために、納期に間に合わせる最も
一般的な方法が残業となる。増産にあわせて未経
験者の雇用を新たに増やすことは品質管理面で
問題があり、新たな設備投資は経済的に難しい。
しかし経営者のうち6割は、過剰な残業は生産性を
下げることを認識している。ちなみに経営者が望
ましいとしている残業時間は、平均週19時間だが、
これは多くの企業行動基準で、月間の残業時間を
80時間としていることを反映していると思われる。
経営者が、生産時における上記のような緊急事
態を避ける方法としてあげているのは、発注者と
のコミュニケーションの改善(46%)、発注時期を
早め駆け込みの仕様変更の中止(41%)である。いず
れの方法も、生産者だけでは対処できる問題では
なく発注者側ないしは発注者を含めた対応が必要
とされる。
以上から明らかになるのは、先進国市場におけ
る短い商品ライフサイクルにあわせた発注のあり
かた(衣料品や靴など、流行に左右されるものの場
合は特に需要の変動が激しい)が、途上国の生産者
に無理な生産体制を余儀なくさせ、労働者の長時
間労働を恒常化しているという図式である。一方、
労働者は経済的な理由から、体力的につらく家庭
生活が犠牲になることがわかっていても、長時間
残業をせざるを得ない状況に追い込まれている。
たとえば広東省の最低賃金は省の平均賃金の24%という報告もある。
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
31
論
文
そして、経済的な問題を作り出しているのは、低す
ぎる法定の最低賃金(=行政の問題)および法定基
準に満たない賃金や残業代(=経営者の問題、行政
の問題)に加えて、労働者の労働法規に関する知識
不足である。
サプライチェーンマネジメントでは、企業が、
調達ガイドライン、調達先選定基準、労働に関す
る行動規範を整備し、調達先の状況をチェックし
て悪質な業者とは取引せず、既存の調達先には自
社と同等の行動規範や法定の労働基準を遵守させ
るように働きかけることが要求される。しかし、
同報告書ではそうした企業の取り組みだけでは、
途上国の劣悪な労働問題は解決できない実態が報
告されている。調達先の労働実態を改善させるた
めには、調達先のモニタリング、きめ細かな教育
研修などが必要だが、同時に忘れてはならないのが、
発注企業側自身が出来ることとして、発注のタイ
ミングや製品のライフサイクルについて、生産者に
過大な負担を与えないような配慮をすることである。
次の節では先進的な企業の取り組み事例を報告する。
世界的なスポーツ用品メーカーのナイキは、90年
代の後半に米国において、途上国の下請工場での
児童労働問題が消費者NGOから厳しく批判された
結果、サプライチェーンにおける労働マネジメント
に精力的に取り組みはじめた。現在では労働マネ
ジメントにおけるパイオニア企業としても有名で
ある。2005年4月からナイキに最終製品を納入し
ている契約事業者の703工場の一覧15をウェブ上で
こうした下請け工場は、常に一定のところに決まっているわけでは
なく、流行や製品特性などで変動している。例えば2004年度は、ナ
イキは新たに122の工場に発注したが、既存の取引先のうち34工場
への発注をおこなっていない。
32
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
公開しはじめるなど、先進的な取り組みを行って
いる。同社のCSR報告書16から、サプライチェーン
マネジメントの取り組みを紹介する。
ナイキでは契約工場を新たに認可する場合は、
会社概要と品質の検査に加えて、ナイキ独自の環
境安全衛生監査(社内でSHAPE17と呼ばれる書面審
査)
、第三者による労働監査、新規工場の経済的な
必要性の確認、コンプライアンス部門の承認、が
必要条件となる。2004年度では新規工場として応募
した工場の57%がこれらの審査を経て契約工場とし
て認可された。しかし、一方で新規に応募した工
場の4割超が認可されず、また最終的に認可され
た場合もそこに至るまでに大幅な改善が必要とされ
た。ナイキでは、このことは途上国の工場の労働
基準のレベルの低さを示唆している、と指摘して
いる。
契約工場として認可され生産を行っている工場
には、3段階の監査が義務付けられている。まず
SHAPE監査は全ての工場に対しておこなわれる。
次に全体の1/4程度の工場を対象に詳細な内部監査
(M-Auditと呼ばれる)が行われる。このM-Auditは
2003年から新たに導入された。初年度の2003年には
コンプライアンスリスクが高いと思われる278工
場、2004年には中程度のリスクの291工場が監査さ
れた。M-Auditでは、現地調査、書類審査、個々の
労働者への内密のインタビューが行われる。ナイキ
ではこの監査に力をいれており、コンプライアン
ス部90名中半分の46名がM-Auditに従事している。
FY04 Corporate Responsibility Report
http://www.nike.com/nikebiz/nikebiz.jhtml?page=29&item=fy04
2004年度は1016工場が対象。
グローバル経済における労働問題とCSR
M-Auditの監査には、基本的に現地の国籍を持ち、
現地の文化・情勢に精通している人間が選ばれる。
平均的に1工場のM-Audit監査にかける時間は34.5
時間。このうち労働者のインタビューに8時間
(23%)
、賃金給料の支払い状況審査に6.5時間(19%)
と最も多く時間が割かれている。2003年度と2004年
度は合計で労働者9200人が、一人当たり平均30分
のインタビューを受けている。
さらに、3番目の監査がある。これは前節で紹
介したFair Labor Association(FLA)による外部監
査で、FLAの会員企業の契約工場の5%程度が毎
年監査されている。2003年度はナイキの契約工場
のうち40工場が審査されたが、その内容がFLAの
HPを通じて公表されている。40工場の監査の結
果、指摘された違反事項の54%が安全衛生にかか
わるもので、次に多かったのが賃金・給料・労働
時間にかかわる事項で全体の24%を占めた。児童
労働・強制労働の実態はなかった、と報告されて
いる。
これらの監査の結果、問題点が指摘され、解決
の為の改善計画が作られ、実行に映される。そし
てこれら監査結果から改善計画の実施状況までの
一連のプロセスを総合的に評価して工場毎にコン
プライアンス格付け(A−D)が行われる。ちなみに
2004年6月時点ではAは15%、Bは44%、Cが17%、
Dが8%、また情報不足で格付けできない工場が
16%、という分布になっている。
なおC、D評価以下となった工場に対しては3−
6ヶ月以内にレーティングの改善を求めるが、工場
側に改善の意思がなく、改善が見られない場合は
契約を見直すことになる。ただし、コンプライアン
スの問題単独で、工場契約が打ち切られることは
少なく、多くの場合は納期の遅れや品質管理など
複合的な要因による場合が多い。
労働者の内部告発や苦情申し立てシステムは、
監査では現れない、多くの問題を明らかにするこ
とができる。例えば、工場労働者から監査担当者
に直接電話があり、中国のある工場で賃金や労働時
間の二重帳簿があることが発覚している。
ナイキでは、残業が様々な規範違反の大元にある
としている。なぜなら、残業が発生すると代休の
問題、違法な残業代金の問題、無理な業務シフト、
残業を拒否した労働者へのハラスメント、疲労に
よる健康被害などの、違反が派生しやすいからで
ある。
ナイキの規準では、週間の労働時間残業を含めて
繁忙期でも60時間としているが、M-Auditの結果を
みると、監査結果の5割以上でこの規準に違反する
事例がみられる。違反する原因をみると、発注企業
側に起因するもの、工場側にあるもの様々である。
例えば、ナイキの仕様・デザインの決定が遅れる、
需要予測がはずれて駆け込み発注が行われる、工
場の現場監督の生産計画が実態に合っていない、
工場の経営者が複数のバイヤーから生産能力を超え
る受注をしてしまう、工場の離職率が高まり生産
性が低下した、季節性が強く一時期に生産が集中
しやすい業界特性、原料の搬入遅れ、などである。
また場合によっては現地の行政当局が、法定時間を
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
33
論
文
上回る残業を追認していることも違反の原因とな
ることがある。
なお、賃金と労働時間は密接に関連している。
最低賃金以下の賃金しか支払われていないケース
は監査の25−50%で指摘されている。その主な原
因は、不十分な経理と賃金計算の仕組み、単純な
ごまかし、及び単純な人的ミスによるものである。
監査の結果、不十分な賃金支払いが明らかになっ
た場合、ナイキの規則では過去にさかのぼって不
足分の賃金を支払っている。
以上の取り組みから示唆されることは、一言で
労働マネジメントといっても、それを実行するた
めには膨大な作業と、膨大な人数の協力が不可欠
ということである。また、労働監査は悪質工場を
摘発するだけが目的ではない。監査の結果、取引
先の労働実態を改善させることができなければ、
その意義は半減する。さらに監査結果から明らか
になったことは、コンプライアンス違反の要因が
工場側だけに起因しているわけではないということ
である。国の事情、発注側の事情も絡む。例えば
中国のように結社の自由が法律で禁じられている
国もあるし、ナイキ側の発注の仕方や、デザイン
変更、需要予測の見込み違いなどが、規準を超える
過剰残業を招く原因となったりする。このような
問題を解決するには工場に対する個別の監査だけ
では不十分である。工場を中心に様々なステーク
ホルダーの理解や支持を得る必要がある。
ステークホルダーを巻き込む手段として、ナイ
キではFLA以外のマルチステークホルダー組織で
あるGlobal Alliance for Workers and Communities
(GA)にも参加している。これは、世銀グループ、
企業(ナイキ、ギャップ、スペインのアパレルメー
カーのInditexの3社)
、世界的NGOのInternational
Youth Foundation、大学(St John's University,
Penn State University)からなる非営利組織で、途
上国の労働者との直接対話などを通じて、途上国
の労働条件の改善を図ることを目的としている。
同団体は1999年の設立以来、中国・インド・インド
ネシア・タイ・ベトナムの5カ国で61工場の労働者
25000人にインタビューを実施し、労働者の現状分
析や、ニーズ把握、労働条件の改善提案、教育研修
などを行っている。GAはナイキの契約工場の現状
調査18を行い、その結果はナイキの労働マネジメン
トに反映するような仕組みを整備している。この
ように途上国における公正な労働を確保するため
には、発注側、そしてその先にいる先進国の消費者、
途上国の労働者、工場経営者など幅広いステーク
ホルダーの理解と参加と時間が求められる。一朝
一夕には解決しない長期的プロジェクトという認
識と覚悟で臨むことが不可欠といえる。
なお企業のこうした取り組みは、投資家からど
のように捉えられているのだろうか。すでに一部
の投資家の間では、サプライチェーンにおける労
働条件を投資判断の材料とする動きがでている。
例えば、この章の第1節「途上国の労働市場評価」
で紹介した、Veriteの途上国労働市場のコンプライ
アンス評価は、米国の大手年金基金のCalPERS
(カルフォルニア州公務員退職年金基金)の要請で
作成されたものである。また代表的なSRIインデッ
例えばWorkers Survey India (Nike 2003), Workers Survey Indonesia
(Nike 2003)など。出所はwww.theglobalalliance.org/workerssurveys.htm
34
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
グローバル経済における労働問題とCSR
クスの一つ、FTSE4goodでは、サプライチェーン
における労働の規準を設け公表している19。ここで
その概要を紹介する。
FTSE4Goodの規準は、ILOの中核的労働基準を
ベ ー ス に し 、 本 稿 で も 触 れ た Ethical Trading
Initiative(ETI)、Fair Labor Association(FLA)、
Social Accountability International(SAI)の取り
組みを参考にして策定されている。
ここでサプライチェーンは、「原材料から流通・販
売という、生産から最終需要(消費)にいたる商品供
給の流れ」と定義されている。しかし、FTSE4Good
では、今のところ、同規準を適用する範囲を第一
次サプライヤー(評価対象となる企業が直接的な営
業関係を持つサプライヤー)に限定している。これ
は、第一次サプライヤーとの関係が企業にとって
最も重要であるということと、第一次サプライヤ
ーから第2次、第3次とさかのぼると、必要な情
報が膨大になりすぎるためである。またナイキの
事例からも明らかなように、今は先進企業が第一
次サプライヤーの労働マネジメントに関する取り
組みを評価し始めた段階なので、第2次第3次サ
プライヤーまでを調査対象に含めても、現実的に
は評価できないこともあると考えられる。
なお、この規準は全ての企業に適用されるので
はない。製品の特性から不公正な労働が行われる
リスクの高い業種がまず対象となる。さらに、法
制度などから労働コンプアイアンスが低レベルと
される国20との取引があり、さらに、高リスクの国
から調達した高リスク業種の製品からの収益が「顕
著なレベル」21に達している企業にのみ適用される。
ちなみに、高リスク業種とされるのは、衣料・
履物、レジャー用品、その他の繊維・レザー、食
品加工、ディスカウント・スーパー・卸売店、小
売業者である。
こうした条件に該当する企業に対して、図表7
で示した規準が適用される。この規準を見ると明
らかなように、この規準はいまだ発展途上である。
企業を評価するにも、現実的にはサプライチェー
ンの労働マネジメントに取り組んでいる企業自体
がまだ少数で、さらに取り組んでいる企業でも取
り組みはじめてから日が浅く、実態面でどのくら
い労働条件が改善されているか、というパフォー
マンスを評価することは非現実的と思われる。企
業の評価という観点からは、ここにあるように、
企業が方針/行動規範を策定するという、第一段
階から評価するのが現実であろう。ただし、この
規準に示されているように、来年夏2006年7月に
は、方針整備だけでなく体制面での取り組みも求
められるようになる。対象企業にとっては、結構
厳しいタイムスケジュールといえよう。
本章では、ILOの中核的労働基準に代表される、
サプライチェーンにおける労働マネジメントの基
本的な考え方、国際的な労働マネジメントのイニ
シアチブ、途上国の現状、企業の取り組みなどを
概観した。途上国の実態や企業の取り組み事例は
ほんの一例ずつであるが、このわずかな例からも
この問題の煩雑さ複雑さが充分に理解できよう。
ただし複雑だからといってサプライチェーンにお
ける労働マネジメントの問題を避け続けることは
出所)「FTSE4Good指数の選定基準―サプライチェーンの労働基準」
www.ftse4good.com/ftse4good/supplychain.jsp
世界銀行が定義する高所得国、その他の高所得国/中所得国は高リス
ク国から除外される。
高リスク製品の高リスクからの収益が、企業収益の1/3以上、あるいは
1億ポンド以上。
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
35
論
文
図表7:FTSE4Goodの労働基準
方針
システム・体制
情報開示
ILOの中核的労働基準(団結権・団体交渉
権の尊重、差別の排除、児童労働の排除、強
2005年
7.1時点で
満たすべき規準
制労働の禁止)へのコミットメントを謳った方
複数の地域のサプライヤーに対して労働基準
針/行動規範があること。この方針/行動規範
に関する方針/規約、
あるいは企業の立場・懸
は要求に応じて開示されなければならない。な
または
お、ETI, FLAの会員企業、SA8000の認定を
念などを表明している。 ・サプライチェーンに
なし
対して何らかのモニタリングを行っている。
受けている企業はILO中核的労働基準へのコ
ミットメントがある模範的企業とみなされる。
いくつかのサプライヤーの訪問・現地監査を
2006年
7.1時点で
満たすべき規準
労働に関する方針/行動規範には、ILOの中
行う。方針/行動規範は、全ての第1次サプラ
核的労働基準に加えて、安全衛生に言及しな
イヤーに周知されなければならない。役員が、
ければならない。さらに労働時間・賃金・懲戒
および
方針/行動規範の実行の責任を負う。関連す
手続きのいずれかおいてILO条約に従わなけ
る業務(コンプライアンス、バイヤー、管理職、
ればならない。また方針・行動規範は公開され
契約工場の労働者あんど)にかかわる社員の
なければならない。
適切な教育・研修を行う。方針/行動規範には、
なし
違反が生じた際の是正措置が含まれる。
2007年
方針と体制両
7.1時点での
方を含む報告
情報開示
書を公開する。
出所) 'FTSE4Good Index Criteria',「 FTSE4Good指数の選定基準」いずれもFTSE4Good HP(www.ftse4good.com/./ftse4good/index.jsp)より 大和総研要訳
できない。今は欧米系のアパレルなど一部の業種
の企業が取り組んでいるだけだが、SRI〔社会的責
任投資〕の評価基準にも採用されたり、大手の年金
基金が関心を持つなど、今後、ステークホルダー
の関心は高まると予想される。そういう状況下で
企業に求められるのことは、
36
この二つは本社レベルの意思決定でできること
だろう。さらにこれを全社・取引先に浸透させる
ための膨大な作業には、
c)取引先に行動規範・調達規準を周知徹底し
a)この問題の複雑さ解決の困難さを理解しつつ、
途上国における公正な労働の実現のための
コミットメントを表明すること。
d)自社の業務において行動規範・調達規準を
組み込み実現し、取引先に働きかける仕組
(取引先のモニタリングや教育など)みを構
築すること
b)本社レベルで実行できることとして、行動
規範・調達基準の策定。
e)モニタリングの結果として改善案を策定し
実施すること
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
グローバル経済における労働問題とCSR
f)規範に違反する取引業者に対しては、
「悪徳
業者を排除する」
=契約を打ち切る、という
姿勢だけでなく、取引業者とそこの労働者
が受ける経済的なダメージを小さくするよ
うな対策を整える努力を行う、
以上の手順が必要となるが、いずれも膨大な人
員を巻き込んだ膨大な作業となり、全体では壮大
なプロジェクトとなる。この問題にコミットする
企業にはそれなりの覚悟が必要となろう。
なお、ここで紹介したイニシアチブではそれぞれ
別個の行動規範を策定している。また複数のバイ
ヤーからの受注をうけている生産工場をそれぞれ
のバイヤーが独自に監査しているが、こうしたこ
との無駄や弊害が指摘されるようになってきた。
様々なイニシアチブの行動規範を統合したり、複数
バイヤーの監査を一本化する動きもでてきている。
こうしたサプライチェーンマネジメントを手が
ける企業が増えれば、行動規範、調達規準策定、
モニタリング、改善案策定、教育など全てを1社
で手がけるのではなく、共通化・標準化する動きは
強まり、新たに取り組む企業にとって取り組みや
すくなり、さらに取り組む企業が増える、という
好循環も期待できる。ただしその好循環を生み出す
のは企業の担当者の力だけでなく、外部のステー
クホルダー、SRI投資家や、こうした企業努力を評
価して消費行動に移す消費者の力が欠かせない。
そこで次章では、企業の取り組みと同様に消費者の
協力も求められる、もう一つの公正な労働を達成
する仕組み、フェアトレードについて論じる。
フェアトレード(公正な貿易)の概念とは、途上
国の立場の弱い人々の自立と生活環境改善をはかる
ために、生産にかかわる社会的なコスト、つまり
生産者や労働者の生活、人権を守ることができる
コストと、環境的コストを織り込んだ価格を前提
とした南北間の公正な貿易と定義される。フェア
トレードの考え方は1960年代に開発援助から派生
した。従来型の途上国への援助でなく、経済的社
会的自立を促すあらたな援助の仕組みを構築しよ
うというものでる。最初は教会などの途上国援助
団体が、衣料や雑貨など途上国の手工芸品や農産
物を、教会のバザーなどを通じて販売し、収益を
援助に充てるという草の根運動であった。それが
広がるにつれ、最近では「援助」でなく経済行為で
あると認識されるようになり、通常の小売ルート
でも製品が購入できるようになってきた。
現在、フェアトレードを推進する活動は、商品
にフェアトレード商品の認証ラベルを添付し先進
国のスーパーなどの店頭で消費者にフェアトレー
ド商品と認識させて購入させる方法と、先進国の
フェアトレード商品小売業者がそれぞれ生産者の
状況を評価・判断してフェアトレード商品を輸入し
独自に販売していく方法の二つに大別される。
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
37
論
文
前者のフェアトレード認証ラベル活動は、国際
フェアトレード機構(International Fair Trade
Organization、FLO)によって統括されている。
同組織は17の国別フェアトレード組織を統括する
国際組織として1997年に設立された。FLOでは、
製品ごとに詳細な国際フェアトレード規準を策定
し、生産者がこの規準を満たしているかどうかを
審査・認証している。現在では、アフリカ、アジア、
ラテンアメリカ45カ国以上の国で80万世帯を擁す
る400を超える生産者団体を審査・認証している。
認証された製品にはフェアトレードラベル(図表8)
が添付される。フェアトレード規準は現在、コー
ヒー、紅茶、チョコレートや一部の果物や野菜、
サッカーボールなどの品目で策定されている。
後者の方式をとるのは国際フェアトレード組織
連合(International Federation for Alternative
Trade、IFAT)で、先進国と途上国60カ国の200に
およぶフェアトレード組織と生産者団体22が加盟し
ている。IFATでは、フェアトレード規約を定めて
おり、これを遵守している加盟団体はフェアトレー
ド団体として認証される。日本では、フェアトレー
ドカンパニー(株)、ぐらするーつなど3団体が、
IFATに加盟しており、加盟生産者団体と組み、商
品開発から現場の生産条件(労働と環境)を相互に
モニタリングしつつ、衣料雑貨や食品などの商品
を日本市場むけに提供している。
なお、こうしたフェアトレード組織に加盟せず
に、独自のルートで「フェアトレード」を行ってい
る援助団体や生協の組織などもある。
図表9に両団体の認定規準の概要を示した。
FLOは、商品にフェアトレードラベルをつけて
一般の大手流通ルートで広く販売することを目標
としている。一方、IFATはフェアトレードを、開発
図表9:フェアトレード規準
図表8:フェアトレード認証ラベル
IF A Tファトレード規 準
FLOラベル
FLOのフェアトレード規 準
1. 生産者に仕事の機会を提供する
1. 生産者の社会的発展をはかる
2. 事業の透明性を保つ
2. 生産者の経済的な発展をはかる
3. 生産者の資質の向上を目指す
3. 生産地の環境保全をはかる
4. フェアトレードを推進する
4. 生産者の労働環境と労働条件の保全
5. 生産者に公正な対価を支払う
4.1 児童労働と強制労働の排除
6. 性別に関わりなく平等な機会を提供する
4.2 結社と団体交渉の自由の保障
7. 安全で健康的な労働条件を守る
4.3 公正な雇用の条件
8. 子どもの権利を守る
4.4 労働者の安全衛生の保障
9. 環境に配慮する
出所)
フェアトレードカンパニー資料、
フェアトレードラベルジャパンHPより 大和総研作成
IFAT認証マーク
2004年時点実績。
38
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
グローバル経済における労働問題とCSR
援助から派生したシステムととらえ、規模の拡大
よりもフェアトレード生産者と先進国のフェアト
レード事業者の長期に基づく安定したパートナー
シップの維持に力点を置いている。このように両
者の考え方には若干異なるが、フェアトレードの
基本理念として以下の共通点がみられる23。
①途上国の生産者は協同組合や自立した労働組
合など民主的な組織であること。
②生産者の自立した生活が可能となる労働条件、
および生産コスト保証する取引価格による取
引を行うこと。
難である。市場メカニズムが完全に機能し、生産
にともなう環境コストや社会的なコストを反映し
ていると仮定すれば、国際市況価格はフェアな価
格となり、
「生産者の生存コストから算出するフェ
アトレード価格こそ恣意的でアンフェアである」、
という議論になりかねない。しかし、経済学でも、
市場価格に反映されない外部経済・外部不経済は確
実に存在すること、つまり市場の失敗があること
は常識である。また、図表10、11に示したように、
図表10:ココア豆価格変動(月次・終値)
COCOA - NYBOT
© CRB
(monthly close) July 1959 - February 2005
USD / mt.
③途上国の生産者は子どもを尊重し、児童労
働・強制労働を排除する。
5,000
④学校や井戸など生産者のコミュニティを改善
させるための社会的インフラ整備への支援を
行うこと。
3,500
4,500
4,000
3,000
2,500
2,000
1,500
⑤生産者側と輸入業者など購入者側の相互理解に
基づく安定的で持続的な関係の構築すること。
この考え方は、南の生産者側、北の購入事業者
双方に厳しい規律とコミットメントと、それを反映
した価格を受容することがなければ実現できない。
1,000
500
1956 1960 1964 1968 1972 1976 1980 1984 1988 1992 1996 2000 2004
0
出所)Commondity Research Bureau HP
図表11:コーヒー豆の価格変動(月次・終値)
Added to Index in 1973
COFFEE - NYBOT
© CRB
(monthly close) August 1972 - February 2005
Cents / lb.
320
300
280
260
240
220
200
フェアトレードの最大のポイントは、フェア(公
正な価格)である。しかし、なにをもって公正な価
格とするのか、それを客観的に判断することは困
180
160
140
120
100
80
60
40
1956 1960 1964 1968 1972 1976 1980 1984 1988 1992 1996 2000 2004
ディヴィッド・ランサム著市橋秀夫訳「フェア・トレードとは何か」
青土社、を参考にした。
20
出所)Commondity Research Bureau HP
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
39
論
文
代表的なフェアトレード商品のコーヒーやカカオ
豆の価格はピークとボトムの差が4倍から5倍程
度と大きく変動しており、生産者・生産国の収入の
将来予測を極めて困難とする。またさらに70年代
後半からこうした商品価格は長期低下傾向にあり
生産者の生活を圧迫している。
こうした問題に対して、それぞれのフェアトレー
ド組織では、生産者・取引業者が、外部不経済を
取引価格に組み込む仕組みを工夫している。ただ
し、この外部不経済を内部化するには、マーケッ
トメカニズムのような単独の仕組みを導入するだ
けでは十分ではない。多岐に渡るコストを内部化
するためには、多方面にわたる細かいしくみの確
立が求められる。先述した2つのフェアトレード
団体の実施状況をみてみよう。
FLOでは、コーヒー豆、カカオ豆、紅茶、砂糖、
はちみつ、果物、ドライフルーツ、ジュース、米、
ナッツ、香辛料、ワイン、綿製品、野菜、花卉、
サッカーボール・バレーボールに、それぞれ認定
基準を設けている。フェアトレード商品の認定生
産者となるためには、この認証を取得しなけれ
ばならない。また認証商品を取り扱う認証取り扱
い業者は、FLOに登録し、登録料を支払う。更に、
生産者には商品の扱い量ごとに定められたフェアト
レード価格およびプレミアムを支払わなければな
らない。
この規準によると生産者団体には以下のことが
義務付けられている。これによりその地域に民主
的な経済活動を導入する効果が期待される。
40
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
①フェアトレードからの収入を、生産者組合の
構成員である小規模零細農家の民主的な判断
に基づいてコミュニティの改善目的に使い、
実施状況をモニターして報告すること。
②生産者組合組織は、マイノリティなどを差別
することなく加盟することが出来、民主的に
運営され、透明性を確保すること。
③フェアトレードプレミアムの使用の決定は、
FLOの理念に沿い透明性が確保される方法で
行う。
特に労働分野での規準としては、
④児童労働と強制労働の排除、生産者の団結権、
団体交渉権が認められること。
⑤労働条件では、地域の平均賃金/法定最低賃金
以上の賃金が、定期的に支払われること、社
会保険や産休などの福利厚生の充実、経営者
によるきちんとした安全衛生管理と従業員に
よるモニタリングを実施すること。
が認定の要件とされる。
また生産者団体は経済主体として自立すること
も求められる。国際市場に耐えうる品質の確保と、
輸出のための輸送手段と通信手段を持つことは不
可欠な要件である。さらに環境コストを反映させ
る仕組みとしては、
①水資源、自然林など高い環境的価値のあるエ
コシステムの保護、土壌流出と廃棄物処理に
ついて、自国および国際基準を満たすこと。
グローバル経済における労働問題とCSR
図表12:コーヒー豆フェアトレード価格(FOB,1ポンド当たり米$‐セント)
(2004.6)
フェアトレード最低価格
通常の生産方式
フェアトレード
有機生産
中米、
メキシコ、
南米、
中米、
メキシコ、
南米、
プレミアム
アフリカ、
アジア
カリブ海
アフリカ、
アジア
カリブ海
アラビカ
(洗浄タイプ)
121
119
136
134
5
アラビカ
(非洗浄タイプ)
115
115
130
130
5
ロバスタ
(洗浄タイプ)
105
105
120
120
5
ロバスタ
(非洗浄タイプ)
101
101
116
116
5
出所)Fairtrade Labelling Organizations International 'Fairtrade Standards for Coffee'
図表13:葡萄価格(1キロ当り価格)
②農薬使用に関する厳密な制限に従うこと(生産
品目ごとに禁止農薬のリスト有り)
。
がある。
(2004.8)
生産国
農場出荷価格
プレミアム 有機プレミアム
南アフリカ共和国
0.15ユーロ
0.05ユーロ
0.026ユーロ
チリ
0.25ユーロ
0.05ユーロ
0.026ユーロ
出所)Fairtrade Labelling Organizations International 'Fairtrade Standards for Wine Grapes'
以上の規準どおりの生産活動が行われていけば、
かなりの程度の社会的・環境的コストが内部化され
ると考えられる。このような仕組みを維持するた
めの体制は商品ごとに微妙に異なるが、共通ルー
ルとして、最低固定取引価格を定める、取引価
格にフェアトレードプレミアムを上乗せする、い
ずれかの方式がとられている。以下、コーヒー豆
とワイン用葡萄の価格例を示す。
i)コーヒー豆
最初のフェアトレードラベル商品となったコー
ヒー豆の場合は、豆の種類ごとに最低取引価格が
定められている。これに1ポンドあたり5セント
のプレミアムを加えた価格で取引される。なお
有機のフェアトレードコーヒー豆の場合は、この
価格に1ポンドあたり15セントが上乗せされる。
ii)ワイン用葡萄
ワイン用葡萄もコーヒー豆同様、最低フェアト
レード価格(農場出荷価格)にプレミアムを上乗せ
した価格となっている。
ただし、これらの価格が正確に生産の社会的コ
スト・環境コストを反映しているとは限らない。
特に生産者の生活コストは国、地域によって異な
っていて当然である。ただし、これらの価格は、
生産者側と消費国側の議論を経て合意された価格
であり、現状では一定の社会的コストを反映した
価格と認識されている。たとえば、これらのコー
ヒー豆のフェアトレード価格は市場価格を4割以
上上回っており、農民が得る収入は一般取引の場
合の2〜3倍になるという24。一方コーヒーの場
出所)New Consumer 誌 2005年3/4月号「世界に広がるフェアトレー
ド」フェアトレード・ラベル・ジャパン仮訳
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
41
論
文
合、コーヒー豆のコストは製品価格の1割程度に
すぎない25ため、生産者の受けるメリットに対し
て消費者へのコスト転嫁は小さい。
なお、これらの最低基準価格は社会的な状況を
みながら適宜改定される。
IFATでは加盟している生産者とバイヤー団体が
協力して製品開発・生産・販売を行う、相対取引
の要素が強い。そのため、厳密に対象品目が決ま
っているFLOとは異なり、手織りなどの衣料品や、
日用雑貨など含めて取り扱い商品の幅が広い。
フェアトレードカンパニー
(株)
の場合、扱い品目は、
1200品目
(2001年秋冬もの)
で、商品生産国はインド、
バングラデッシュなどアジア、アフリカ、中南米
の28カ国77団体におよぶ26。同社では、商品開発の
段階から生産者と協力して活動しており、場合に
よっては前払いなど経済的なサポートも行ってい
る。ある意味では、ベンチャーキャピタルがハン
ズオンで投資先ベンチャー企業をサポートするの
に似ている。
さらに各商品の取引価格はFLOのように一律で
定められておらず、
「生産者に仕事の公正な対価を
払う」という規準に基づき、相互の合意によって決
定される。例えばフェアトレードカンパニー(株)
の場合は、まず、生産者から価格とその根拠・内訳
を提示してもらい、その妥当性を項目ごとに評価
し、場合によっては代替策を協同して開発しなが
ら価格を決定している。
同社では、2年に1度、それぞれのステークホ
ルダーに活動を評価してもらうソーシャルレビュー
デヴィッド・ランサム著「フェア・トレードとは何か」青土社
出所)フェアトレードカンパニー(株)「ソーシャル・レビュー2002
報告書」
42
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
を行っている。2002年度におこなったソーシャル
レビュー27では、生産者の価格設定についての評価
は「とても満足している」が、55%、
「満足している」
が29%と、生産者から高く評価されていることを
示している。一方「フェアトレードカンパニー(株)
からの発注は生産者が生活に十分な収入を得るの
に貢献しているか」という問に対しては、「非常に
貢献している」が26%、「貢献している」が42%で
あった。おおむね満足度は高いものの、価格の満
足度より若干低い。これは、生産者が単価は満足
しているが、生産者・製品によっては季節性が強く、
通年での仕事とならないケースがあることを示唆
している。こうした問題に対して同社では、通年
で発注できるようなきめ細かな商品提案28を行うな
ど発注を通年で継続できるようなしくみをつくる
努力をしている。
このようなきめ細かなプロセスで商品化された
フェアトレード商品の最終販売価格は、どうして
も高くならざるを得ない。FLOのフェアトレード
ラベル商品の場合、大体は通常商品と比較して大
体1−2割高くなる傾向がある。またIFATでは製
品が多岐にわたるので一概に比較はできないが、
例えばオーガニックコットンの大人用Tシャツは
1枚3900円と、Tシャツの価格としては安くない。
ただし衣料品の価格はデザインなどによってかな
り幅があるので、同社ではオーガニックコットン
製や草木染め、手織り、手縫い、流行にあったデ
ザイン化などの付加価値をつける努力をしている。
例えば女性用のデザイン性の高いシャツやタンク
出所)フェアトレードカンパニー(株)「ソーシャル・レビュー2002
報告書」
例えば、ウールの手編み業者に対しては、春夏ようにコットンニッ
トの手編み製品を提案するなど。
グローバル経済における労働問題とCSR
図表14:フェアトレードラベル商品市場規模
各国のフェアトレード商品販売量
2002−2003
24000
22000
20000
18000
16000
14000
日本は、依然として世界の
12000
フェアトレード国の中でも最下位!
10000
8000
2002年
17トン
2003年
38トンのみ
2002
2003
6000
4000
2000
0
日
本
ア
イ
ル
ラ
ン
ド
ル
ク
セ
ン
ブ
ル
ク
カ
ナ
ダ
ノ
ル
ウ
ェ
ー
ス
ウ
ェ
ー
デ
ン
デ
ン
マ
ー
ク
イ
タ
リ
ア
オ
ー
ス
ト
リ
ア
トップなどは概ね3000円台〜7000円台の価格帯で
一般の製品と遜色はなく、フェアトレードという
付加価値がなくても十分に競争力はある。なお、
同社のオーガニックコットンで草木染め手織りの
バスタオルが3600円である29。一般のオーガニック
コットンのバスタオルの場合、通常3000円以上す
るので「オーガニックコットン」の商品としての競
争力は充分と考えられる。
ベ
ル
ギ
ー
フ
ィ
ン
ラ
ン
ド
フ
ラ
ン
ス
ア
メ
リ
カ
ド
イ
ツ
オ
ラ
ン
ダ
イ
ギ
リ
ス
ス
イ
ス
出所)
フェアトレード・ラベル・ジャパン ホームページ www.fairtrade-jp.org
冒頭にも若干記したが、フェアトレード市場は、
欧米では急速に伸びている(図表14)。最も市場の
大きいスイスでは、蜂蜜や砂糖などが人気で、す
でにバナナの四分の一がフェアトレードになって
いる。イタリアでは、2003年1月で、16万5千個の
フェアトレードサッカーボールが販売された。
イギリスでは、国民の4割がフェアトレードマー
クを認知しており、お茶、コーヒー、ココアでは
出所)フェアトレード&エコロジー通販カタログ「ピープルツリー」
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
43
論
文
フェアトレード商品が一般に広がっている。ちな
みにコーヒーの2割はフェアトレード商品と推定
される。また、2005年1月にはイエローページ(職
業別電話帳)に「フェアトレード」が個別の職業分野
として掲載された。2005年2月末時点で100の市町
村がフェアトレード都市宣言30をしている。これら
の市町村では、公共機関でフェアトレード商品を提
供し、フェアトレード商品の販売を促進するなど、
地方自治体が率先してフェアトレード商品の販
売をバックアップしている31。
現在日本で購入できるフェアトレードラベル商
品はコーヒー、紅茶、サッカーボールで、販売高
も極めて小さい(図表14)。コーヒーはイオンやス
ターバックスなどの大手を含めて17の小売・食品
事業者が国内で販売し、紅茶は3事業者、サッカー
ボールは1事業者が扱うのみである。なお、今後
扱い品目もバナナや砂糖などに広がる予定だが、
消費者の認識不足、コストの問題がネックとなり
事業者の反応は速いとはいえない。ただし、コーヒ
ーに関してはイオンやスターバックスなどの大手が
参入したことから、ある程度フェアトレードコー
ヒーが認知されてきたので、ここへきて外食産業
やコンビニなどからの問い合わせは増えている。
IFAT加盟の3団体は、衣料品、雑貨、食料品
など幅広い品目を扱うが、売上は最大のフェアト
レードカンパニー(株)で6億5千万円(2004年度
推定)にすぎない。
なお、フェアトレードは生産者と取引業者のパー
トナーシップに基づくものなので、一方の取り組
みだけでは成立しない。市場は伸びているとはい
え、生産サイドの伸びにくらべて需要サイドは圧
倒的に少ない。例えば、メキシコのフェアトレー
フェアトレード都市宣言第一号は2000年のランカシャー。
出所)英国フェアトレード財団HP
44
www.fairtrade.org.uk/
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
ドコーヒー認定生産組合の場合、出荷量の2割程
度しかフェアトレードコーヒーとして取り扱われ
ていない。これは、先進国側の買い手が供給に対し
て圧倒的に少ないためである。残りの8割は一般
のコーヒーとして販売されているという。
また日本でも昨年からフェアトアレードのサッ
カーボールが販売されるようになった。これは、
パキスタンのサッカーボール製造会社が、フェア
トレード生産者の認証を取得し、それを日本の
NPOが、FLOに登録しフェアトレードプレミアムを
支払って国内で発売したからである。なお、この
パキスタンの製造会社は、日本の大手のサッカー
ボールメーカーにも供給しているが、この大手サッ
カーボールメーカーはFLOに登録していないので、
同じ労働条件で生産されたボールでも一方はフェ
アトレードサッカーボールとして販売されず、ユー
ザーにも認知されていないという状況もある。
イオンでは2003年9月よりイオンのプライベー
トブランド「トップバリュ」にフェアトレードコー
ヒーを導入し、ジャスコ店舗で販売を開始した。
フェアトレードは日本ではなじみが薄く、かつコス
トもかかる取り組みであるが、大手流通としてあ
えて取り組んだ背景には経営トップの姿勢がある。
2001年に社名をジャスコからイオンに社名変更し
た際、イオンのあるべき姿を模索し、毎年従業員
や消費者からイオンのあるべき姿の提案を募集す
る「イオン21キャンペーン」を始めた。その2回目
グローバル経済における労働問題とCSR
のキャンペーンでフェアトレードの提案が「夢のあ
る未来賞」を受賞している。またイオンでは、世界
の小売業トップ10をめざす「グローバル10」を企業
目標に掲げており、世界の潮流を考えれば、小売
業の責任としてフェアトレード・サプライチェーン
マネジメントに取り組むことはトップ10企業とし
ては当然、というトップの考え方が社内に浸透し
ている。ちなみにイオンではサプライチェーンに
おける労働マネジメントにも着手している。既に
取引先に対してサプライヤーの行動基準を定め、
取引先に遵守を求めている。前章で紹介した
SA8000の認証も取得済みである。
なお同社のフェアトレードコーヒーの販売につ
いては、全国から問い合わせが来たので、現在で
はオンラインショップでも扱うようになっている。
オンラインショップの価格は、200gあたりのフェ
アトレードコーヒー豆の値段が398円、有機コーヒー
豆の場合は498円、通常のコーヒー豆は248円である。
コーヒー豆の値段は、豆の種類によって大きく変
動するので一概に言えないが、一番高くも安くも
ない、割高感のない値段に設定されているといえ
よう。
一方、ジャスコ店舗で展開している直営のアパレ
ルショップ「SELF+SERVICE」はエコロジーショッ
プで、店頭での衣料製品リサイクルなどを行ってい
るが、そこで2004年からIFAT加盟のフェアトレー
ドカンパニー(株)の商品(アクセサリーや衣料品な
ど)を扱い始めた。
こうしたフェアトレード商品は、海外生活経験
者など「フェアトレード」を知っている消費者を中
心に反響があり、売上は拡大傾向にあるが、
「フェ
アトレード」を知らない多くの一般の消費者への認
知度は極めて低い。
イオンでは「オーガニック」「有機」など環境を認
知する消費者は5%程度と推定し、「環境」は既に
消費者に認知される付加価値であると判断してい
るが、「フェアトレード」は日本では始まったばか
りで認知度は極めて低く、それを付加価値として
評価する消費者がほとんどいない。そのため認知
してもらうことがフェアトレード製品の売上拡大の
大前提で、そのために積極的なフェアトレードに
関する情報発信は同社の社会的責任の一つと捉え、
またイオングループ内の販売チャネルと商品特性を
考慮しつつ、ほかのフェアトレード商品の扱いを
広げていく計画である。
ザ・ボディショップは、1976年に英国の女性
アニータ・ロディックが、動物実験反対、人権や
環境配慮などをコンセプトに設立した化粧品会社
である。
「動物実験反対」
「環境に配慮」を実現する
ために、同社では合成化学物質ではなく、世界各
地で昔から伝承されているハーブなどの天然原料
を積極的に使用している。こうしたコンセプトが
消費者に受け入れられ現在では日本を含む51カ国
で約2000店を展開し、日本国内では105店舗32が営
業している。
創業時より同社は動物実験反対、人権尊重など
などのバリューズ(価値感)を企業の行動指針とし
て掲げていたが、88年にはそれに同社独自のフェ
アトレードのしくみ、コミュニティトレードが加
わり、現在では以下の5つのバリューズを掲げて
いる33。
2004年10月時点
ザ・ボディショップジャパン資料より
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
45
論
文
図表15:ザ・ボディショップのコミュニティトレードクライテリア
1. コミュニティ
地域の人々の利害を代表する非政府、非営利のコミュニティ団体と取引する。
2. 支援を必要とするコミュニティ
機会が制限され、何らかの支援を必要としている団体が対象。
3. 成果
取引より生産者団体および地域コミュニティが、社会的・経済的な便益を得る。
4. 商業的な価値
価格・品質・生産能力・入手可能性などの要件を満たす。
5. 環境的持続可能性
ザ・ボディショップの環境基準と動物保護規準を満たす。
出所)The Body Shop 'Values Reporting Individual Stakeholder Accounts for Suppliers 2004' より 大和総研仮訳
i )化粧品の動物実験に反対
ii )公正な取引により地域社会を支える(コミュ
ニティトレード)
iii )ありのままの自分を尊重する
iv )ひとりひとりの人権を尊重する
v )私たちをとりまく環境を守る
ザ・ボディショップのコミュニティトレードは
「Trade not Aid(援助でなく取引を!)
」をスローガ
ンに88年に始まった。同社では「支援を必要として
いるコミュニティを、公正で継続的な原材料の取
引を通じて支えるザ・ボディショップのフェアト
レードプログラム」と定義している。具体的なフェ
アトレードのクライテリアは図表15に示した。
2004年度は、ボディショップは23カ国の36団体
と取引し、取引金額は、530万ポンドにのぼった。
同社のニュースレターから、取引される品目の
一例をあげると、保湿剤やボディクリームに使わ
れるガーナのシアバター(生産者はトゥンテイヤ・
シアバター組合)やココアバター(クアパ・ココリ
ミテッド)
、ヘアケア製品に使われる、ザンビアの
有機蜂蜜(ノースウエスタン・ビー・プロダクツ)
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経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
やイタリアのオリーブオイル(ヌオボ・チレント協
同組合)
、ファンデーションなどメークアップ化粧
品に使われるナムビアのマルーラナッツオイル
(ユーダファノ女性協同組合)
、石鹸などに使われる
オーストラリアのティーツリーオイル(フンジョ
ン・アボリジニ協同組合)
、フットローラーなど木
製のマッサージ用品を生産するインド(テディ・エ
クスポート)などがある。
ニュースレターでは、これらの原材料の効能と、
フェアトレードによって生産団体にどのような経
済的社会的なメリットがあったかについても記載
している。なお同社のコミュニティトレードの特
徴として、対象を途上国に限っていない点があげ
られる。実際にイタリアやオーストラリアの先進
国でも過疎地の組合や先住民族との取引などが
コミュニティトレードとして紹介されている。
現在、同社が扱う商品の約8割には、何らかの
形でこのようなコミュニティトレード商品が原料
として使用されている。なお同社の方針として、
コミュニティトレード原料の有無を売価には反映
させていない。例えば同じハンドクリームのシリー
ズで、1種類だけにコミュニティトレード原料が使
グローバル経済における労働問題とCSR
われていても価格はシリーズのほかの製品と同一
に設定している。このような商品の場合、顧客は
コミュニティトレードの意義を知るとコミュニテ
ィトレード商品を選択するケースが多いという。
同社は、企業理念・経営戦略として、商品提供
と同時に同社のバリューズ(企業理念)を情報発信
し、社会を変革するきっかけを作ることを目指し
ている。同社のバリューズのうち「動物実験反対」
と「環境配慮」は消費者の間で比較的広く知られて
いるが、コミュニティトレードに関しては知名度
が低い。そこで、2004年4月よりコミュニティト
レードのキャンペーンを始めた。
「ハッピーなつな
がり」いうキャッチフレーズとシンボルマーク(図
表16)で、生産者(コミュニティ)、販売者(ザ・ボ
ディショップ)
、消費者(あなた)の3者を環でつな
げ、消費者が商品を購入すれば販売者を通じて次
図表16:コミュニティトレードのシンボルマーク
良質な原料と
製品を仕入れる
THE
BODY
SHOP
正しいビジネス
モデルになる
良質な商品で
お肌ツルツル
良質な原料を
世界に提供
COMMUNITY
長期的な収入で
生活向上
YOU
知らないうちに
国際協力
出所)ザ・ボディショップジャパン
の発注につながり生産者への支援となる、という
メッセージを発している。
なお、一般のフェアトレードの考え方では「生産
者と販売者のパートナーシップ」がフェアトレード
の要としているが、この仕組みは、そこに、消費
者が商品を購入することで継続できるとしている。
ザ・ボディショップの、生産者と販売者だけでな
く、
「消費者(あなた)もこの仕組みを成り立たせる
重要なステークホルダー。だから、消費者にもこ
の仕組みに参加してもらうという」という視点は、
フェアトレードを広く社会に浸透させるためには
極めて重要な発想である。
以上見てきたように、フェアトレードが本格的
に事業活動として大手の企業が取り上げるように
なってから日は浅い。多くの人はこの言葉さえ知
らないのが実情である。しかし、CSRの課題とし
て「公正な労働」を目標にすると、自分たちの働く
状況だけでなく、自分たちが消費している商品の
生産にかかわる、世界各地の人々の労働条件を整
備することに行き着く。
しかし、消費者からみると、「環境」という付加
価値が有機食品や省エネ商品など製品の品質(つま
り消費者のメリット)にかかわる場合が多いのに対
して、「途上国の人の公正な労働」という価値は、
製造プロセスの問題なので製品の品質とは直接関
係がなく、消費者への直接的なメリットを生み出
さない。消費者に直接メリットがないものを付加
価値として消費者に認知させる為には、「環境」を
認知させた時以上の工夫と努力が生産者・販売
経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
47
論
文
者・消費者それぞれに求められる。生産者には一
般の市場で競争力を持つ品質の確保が求められる
し、販売者には、フェアトレードの価値を認知さ
せるための情報発信と、「フェアトレード」をブラ
ンド価値とする商品開発やマーケテイング努力が
求められる。
そして、消費者には、「値段が安いほうが善」と
いう価値感から脱却する努力、自分の消費行動が
社会にどのような波及効果を持つのか認識し、責
任のある消費行動をとるための勉強が求められる。
最近の「スロー」への関心の高まりはこうした消費
者の意識を高める上で期待できる。ここ半年程度で、
スロー、エコ、などをテーマにした雑誌もいくつ
か創刊され、大手の通販雑誌でもフェアトレード
商品が取り扱われるようになった。フェアトレー
ドや環境を付加価値として評価する消費者は少数
ながら増えてきていることはフェアトレード市場
を潜在的に押し上げる力となろう。
一方企業の場合、流通業であれば、イオンのよ
うに直接フェアトレードに参加しフェアトレード
商品市場を広げていく努力が求められるし、流通
業以外の企業の場合は消費者としてフェアトレー
ド商品を購入するところから始めることができる。
例えば英国のBBC放送、メリルリンチやドイツの
フォルクスワーゲンなどはCSR活動として自社消
費するコーヒー、紅茶をフェアトレード商品に切
り替えている。これは直接生産者をサポートする
だけでなく、自社は「フェアトレードをサポートし
ている」という対外的な情報発信になる。フェアト
レードを知っている人には企業イメージ向上につ
ながるし、知らない人には、「フェアトレード」の
意義を知らせることになる。
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経営戦略研究 2005.7 夏季号 Vol. 5
フェアトレードとは、企業のCSRだけでなく、
消費者(Consumer)のCSRも求める仕組みであり、
巨大な国際経済の仕組みの中ではまだ極めて小さ
な動きに過ぎないが、グローバル化の経済の流れが
今後も続くとすれば、その弊害を修正する試み、
として、その重要度は高まっていこう。
本稿では、グローバル経済における労働問題の
解決策として、企業側がイニシアチブをとるサプ
ライチェーンマネジメントと、生産者側の自発的
な取り組みが原動力となるフェアトレードを紹介
した。この二つは、複雑に絡み合うグローバルな
サプライチェーンにおいて、それぞれ下流(消費国
側・先進国側)からと上流(生産国側・途上国側)
から、公正な労働を実現していく為の取り組みと
いえる。生産国と消費国の間には地理的な距離、
文化的社会的なギャップがあり、例えば、途上国
では最低法定賃金の存在すら知らない労働者が多
数いるなど、途上国の実態は先進国企業の本社で
考えるほど単純でない。一方先進国の消費者は、
季節ごとに流行を取り入れデザインがめまぐるしく
変わる服や靴、安い日用雑貨、天候不順で不作に
もかかわらず一定の値段のコーヒーやチョコレー
トやファーストフードなどを、何の疑問もなく消
費している。こうした両者が相互依存しながら今
日のグローバル経済は動いている。先進国の消費
市場があるから途上国では生産物を(値段はともあ
れ)供給し、また途上国の生産者やコミュニテイや
環境にしわ寄せしているから、先進国の消費市場
グローバル経済における労働問題とCSR
では安価で安定した値段で、衣料や食品、日用雑
貨などを入手できるのである。しかし、お互いに
お互いの現場を想像することは殆どない。
特に先進国では、安定した消費生活を享受でき
るのは、途上国の人々が社会的・環境的・身体的リ
スクを吸収しているから、ということはまず認識
されることはなかった。デパートやスーパーの店
頭あるいはネットで販売されている商品には、そ
れぞれ生い立ちの歴史があり、その生産にかかわ
る様々な人たちが存在し、また商品の生産・流通段
階で多くの社会的な影響を与えている、こうした
ことを認識しながら、日々商品を購入する人はど
のくらいいるだろうか。
フェアトレードの取り組みは、個別のコーヒー
やチョコレート、化粧品あるいは衣料品など個々
の商品に着目し、それぞれが出来上がるまでに歴
史があることを消費者に認識させるための重要な
ツールになりうる。そして、成熟した消費市場で
は、「安いほうが良い」という考え方の消費者だけ
でなく、
「多少値段が高くても、その商品の歴史背
景や作っている人の顔が見える商品を選ぶ」
、とい
う消費者が少数ながらも増えている。
一方、SRI投資家が、企業にCSRの取り組みとし
てサプライチェーンの労働マネジメントを要求す
れば、企業はCSRの一環として、サプライチェー
ンマネジメントに取り組まざるを得なくなってく
る。消費者が、欧米で見られるように、企業に対
してサプライチェーンマネジメントを要求する動
きも出てこよう。こうしたステークホルダーから
の働きかけをうけて、公正な労働の実現にむけた
取り組みが、一部の企業(日本の場合、現状では大
手でサプライチェーンに取り組んでいるのはイオ
ン一社)からでも広がっていけば、加速度的に途上
国における労働実態を改善することにつながって
いこう。
従来のCSRの取り組みにおいて、消費者などのス
テークホルダーは、どちらかというと傍観者で、
直接CSR活動に関与する余地は小さかった。しか
し、サプライチェーンの労働マネジメント、フェ
アトレードでは、消費者は、こうした企業の取り
組みを後押しする強力なプレーヤーとなりうる。
図表16で示したように、こうした企業の取り組み
を持続させるためには消費者が不可欠なのである。
企業がフェアトレード、サプライチェーンの労
働マネジメントに取り組むのであれば、本稿で紹
介した企業内の取り組みに加えて、消費者を巻き
込み支持を得られやすくする、巧みなマーケテイン
グや情報発信能力が求められよう。また消費者に
は、こうした企業を応援する主体的な消費哲学を
持つことを期待したい。
■ 執筆者
河口
真理子(かわぐち
まりこ)
株式会社大和総研 経営戦略研究所
経営戦略研究部 主任研究員
専門:CSR、SRI
E-mail : [email protected]
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