The Role of Astrocytes in Neuroprotection 神経細胞研究の最前線 グリア細胞と中枢神経保護機構 The Role of Astrocytes in Neuroprotection 岐阜大学大学院医学系研究科麻酔・疼痛制御学分野 田辺久美子 Ⅰ) 飯田 宏樹 Ⅱ) アストロサイトは哺乳類の脳の中に最も多く存在する細胞で,健常時の中枢神経系の機能維持 において,血流調節,神経細胞へのエネルギー供給,シナプス機能への関与,電解質バランス・ 神経伝達物質の調整など重要な役割を担っている.近年,脳虚血を含む中枢神経系の病的状態に おいて,アストロサイトは重要な治療ターゲットとみなされてきた.ここでは,アストロサイト から遊離され,脳虚血時の神経細胞の転帰に関与している可能性がある因子について,サイトカ インを中心にとりあげた. はじめに アストロサイト 脳虚血が起こると,その中心部分(ischemic core)の細 アストロサイトとマイクログリアは当初ともに神経細 胞は数分で細胞死を起こすが,梗塞巣の周囲(penumbra 胞の補助をすると考えられていたが,より重要な役割を region)の細胞はその後,数時間から数日かけて細胞死 果たしていることが明らかになってきた 2, 3).両者とも, を起こし,これが梗塞巣を大きくし,予後を不良とする 健常状態において様々な役割を果たしているが,病的状 ことが知られている .これまで,脳虚血から神経保護 態においては,活性化されることにより,増殖,壊死細 を目的とする様々な試みの多くは,この境界領域の神経 胞の貪食,サイトカインや成長因子の遊離などを行う 3). 細胞に直接働きかけることを目的としてきた.しかし, 脳虚血を含むいくつかの病態において,マイクログリア 虚血は,神経細胞だけでなく,グリア細胞,血管を含む全 はアストロサイトよりも早期に活性化されることが明ら ての中枢神経系の細胞に影響を及ぼし,これらは互いに かになっている.両者は活性化されると,さらに互いを 影響しあっているため(図 1 ),近年,神経血管単位での 活性化するが,アストロサイトはマイクログリアの活性 機能維持による中枢神経系保護戦略が提唱されている . 化抑制作用も示す 3). 1) 1) 岐阜大学大学院医学系研究科麻酔・疼痛制御学分野 Ⅰ)Kumiko Tanebe 講師 Ⅱ)Hiroki Iida 教授 Anesthesia 21 Century Vol.15 No.1-45 2013 (2943) 39 脳虚血後は浮腫,梗塞巣周囲の脱分極,炎症性変化, なしでは生存できず,アストロサイトは中枢神経保護の 副側血行路の血流量変化,神経保護因子と障害因子の遊 重要なターゲットとみなされている.アストロサイトは 離,など様々な因子により境界領域の細胞の運命が決定 脳虚血を含む様々な病的状態に反応し(反応性アストロ される.アストロサイトは哺乳類の脳の中に最も多く存 グリオーシス),様々な分子を発現し,障害部位の再生 在する細胞で,健常時の中枢神経系の機能維持におい を促すが,再生不可能であった場合には瘢痕形成を起こ て,血流調節,神経細胞へのエネルギ供給,シナプス機 す(図 2 ,3 )2 〜 5).障害時におけるアストログリオーシ 能への関与,電解質バランス・神経伝達物質の調整など スの役割は複雑である.反応性アストロサイトは電解質 重要な役割を担っている .神経細胞はアストロサイト や神経伝達物質の濃度調節,電気的伝達の調節を介して 2) 神経細胞を維持する一方で,強力な神経障害作用を持つ 炎症性サイトカイン(pro-inflammatory cytokine)やフ リーラジカルを産生する 2 〜 5).図 2 ,3 のように,神経 血管内皮細胞 細胞に直接あるいは間接的に作用する,様々な神経保護 アストロサイト 因子と障害因子が報告され,神経細胞死が促進される か,細胞が生き残るかは,両因子のバランス,神経細胞 周囲の環境,神経細胞自体の状態などにより変わると推 測される 1, 3, 6, 7).同じ物質であっても神経保護,障害の両 相互作用 方の作用が報告されている 1, 4, 6 〜 10).この作用の違いの要 因の 1 つに,作用時期による違いがあると考えられてい 神経細胞 る(図 2 ,3 )1, 9, 10).これまでに,実験的に神経保護作用 オリゴデンドロサイト が証明された神経栄養因子や,神経障害因子の阻害薬の マイクログリア 投与が,臨床では効果を示さない場合がしばしばみられ ているが,その原因の 1 つとして,投与時期が適切では なかったことが考えられる. 図 1 神経細胞,グリア細胞,血管内皮細胞は互いに影 響しあっている アストロサイト 水 NO ROS MMP VEGF HIF- 1 AQP4 VRAC EAAT グルタメート グルタメート S100 -β アストロサイトの膨張 神経細胞死 40 (2944) Feature Articles IL- 1 TNF IL- 6 TGF 図 2 虚血早期のアストロサイトによ る神経細胞障害:神経障害因子 の産生・遊離.興奮性アミノ酸 の遊離促進.水の細胞内取り込 みによる細胞浮腫. AQP:aquaporin, EAAT:excitatory amino acid transporter, IL:interleukin, HIF-1: hypoxia-inducible factor-1, MMP: matrix metalloproteinase, NO:nitric oxide, ROS:reactive oxygen species, TGF:transforming growth factor, TNF:tumor necrosis factor, VEGF:vascular endothelial growth factor, VRAC:volumeregulated anion channel The Role of Astrocytes in Neuroprotection 与している 1).脳虚血後 2 〜 3 時間で,マイクログリア 脳虚血と炎症 脳虚血と炎症 が活性化される.アストロサイトは有害刺激により直接 活性化されるが,主に活性化マイクログリアからの様々 脳虚血により引き起こされる炎症反応は,虚血数時間 な刺激により, 4 〜 6 時間後に活性化される(図 4 )1, 8). 後から始まり数週間続く 1).アストロサイトは脳虚血時 活性化マイクログリア,アストロサイトはともに様々な にも血流調節,水分調節,炎症反応,電解質バランスの サイトカイン,ケモカインを産生・遊離し,アストログ 調節,神経保護・障害のいずれにも働く因子の遊離など リオーシスを促進する 1, 8).遊離された炎症性サイトカイ に関わっている 1, 2).中枢神経系においてはマイクログリ ンと抗炎症性サイトカインのバランスがその後の細胞障 アが炎症反応を担っていることはよく知られているが, 害,神経学的予後に影響すると考えられている 1, 11).な アストロサイトもマイクログリアと同様に炎症反応に関 かでも,インターロイキン〔interleukin(IL)-1〕,IL- 6, アストロサイト ATP 虚血直後 図 3 虚血後のアストロサイトによる 神経細胞保護:神経栄養因子, 保護作用を有する物質の産生・ 遊離.興奮性アミノ酸の細胞内 取り込み促進.血管新生による 神経再生. グルタメート EPO アデノシン 神経保護 虚血数時間以降 IL- 1 TNF IL- 6 MMP VEGF GDNF BDNF bFGF NGF EPO 血管新生 ニューロン形成 シナプス可塑性増強 トロンボスポンジン アストロサイト 障害(図 2),保護いずれの働きも報 告されているものもある. BDNF:brain-derived neurotrophic factor, EPO:erythropoietin, FGF: fibroblast growth factor, GDNF: glial cell line-derived neurotrophic factor, IL:interleukin, MMP:matrix metalloproteinase, NGF:nerve growth factor, TNF:tumor necrosis factor, VEGF : vascular endothelial growth factor 虚血 神経細胞 活性化 マイクログリア IL- 1β IL- 6 TNF-α IL- 6 GDNF IL- 6 GDNF アストロサイト 活性化 2 ∼ 3 時間 数週間,数ヵ月 障害作用 保護作用 図 4 脳虚血後のマイクログリアとア ストロサイトの活性化 有害刺激によりまずマイクログリア が活性化される.遅れてアストロサ イトが活性化される.両者はさらに 互いを活性化しあい,神経細胞に影 響を与える. GDNF:glial cell line-derived neurotrophic factor, IL:interleukin, TNF:tumor necrosis factor Anesthesia 21 Century Vol.15 No.1-45 2013 (2945) 41 腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor-α:TNF-α)の関 MMP)など 1,400 もの遺伝子発現に変化が生じた 11).これ 与が大きいとされ,その細胞内情報伝達経路を標的とし らの多くは神経障害作用を有するが,グリア細胞由来神 た治療の研究も進んでいるが,いまだ十分に解明されて 経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor: いるとはいい難い.サイトカインの代表として,これら GDNF)などいくつかの分子は神経細胞生存を促進し, が脳虚血時に主にアストロサイトに及ぼす影響,治療応 障害後の神経修復・回復過程に寄与する 11, 13). IL- 1 には,IL- 1β,IL- 1α,IL- 1 レセプターアゴニス 用への期待に関して最近の知見を簡単に紹介する. ト(IL- 1Ra)の 3 つがあり,これらは全て IL- 1 receptor type 1(IL- 1R1),type 2(IL- 1R2)に結合する 11, 12).しか IL-1 IL-1 し,IL- 1Ra はいずれの受容体を介しても細胞内情報伝達 を起こさない 11, 12).IL- 1R2 は IL- 1βに強い親和性を有す IL- 1 は健常脳内にもわずかに存在し重要な役割を担っ るが情報伝達は行わない 11, 12).IL- 1Ra,IL- 1R2 の存在は ているが,中枢神経系の障害により増加することが知ら 内因性の IL- 1βの働きを強く阻害するものではなく,神 .ヒトでは脳虚血発症 2 日後に脳脊髄液内 経障害時の IL- 1βによる過剰反応を抑制すると考えられ .一般に,脳虚血を る 11, 12).IL- 1R1 はインターロイキン 1 受容体アクセサリ れている 1, 11, 12) で増加しているとの報告がある 11, 12) 含む神経障害時における IL-1 の増加は他の炎症細胞の浸 タンパク質(IL-1 receptor accessory protein:IL-1RAcP) 潤促進,IL- 6,TNF-αを始めとする他のサイトカインの と複合体を形成し,分裂促進因子活性化タンパク質キ 産生・遊離促進,反応性アストログリオーシスを惹起し, ナーゼ(mitogen-activated protein kinase :MAPK)経 神経学的予後を悪化させるとされている 1, 11, 12).IL- 1 受容 路,核内因子κB(nuclear factor kappa B:NFκB)経 体は神経細胞,マイクログリア,アストロサイト,血管 路を活性化し,IL- 6,TNF-αなどの炎症性物質を産生 .DNAマイクロ する 11, 12).一方で同時に神経成長因子(nerve growth アレイを用いた研究によると,初代培養アストロサイト factor:NGF), 脳 由 来 神 経 栄 養 因 子(brain-derived に IL-1 を作用させたところ,IL- 6 をはじめとしたサイト neurotrophic factor:BDNF),GDNF な ど の 神 経 保 護 カイン,ケモカイン,神経成長因子,接着因子,マトリッ 作用を有する物質の産生・遊離も促進する(図 5 )11, 13). クスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase: 神経細胞の生存には神経障害因子と神経保護因子のバラ 内皮細胞,浸潤炎症細胞に存在する 11,12) IL-1α IL-1β IL-1α IL-1β IL-1Ra IL-1Ra (細胞外) IL-1R2 IL-1RAcP MAPK superfamily p38 MAPK p44/p42 MAPK IκB NFκB SAPK/JNK 情報伝達は 起こらない P 核 細胞膜 IL-1R1 (細胞内) IκB P NFκB 遺伝子発現 42 (2946) Feature Articles IL-10 IL- 1 TNF IL- 6 図 5 IL-1 による細胞内情報伝達 情報伝達は 起こらない IL1Ra NGF GDNF BDNF TGF BDNF:brain-derived neurotrophic factor, GDNF:glial cell line-derived neurotrophic factor, IL-1R:IL-1 receptor, IL-1Ra:IL-1 receptor antagonist, IL-1AcP:IL-1 receptor accessory protein, IκB:inhibitor kappa B, NFκB:nuclear factor kappa B, MAPK:mitogen-activated protein kinase, NGF:nerve growth factor, SAPK/JNK:stress-activated protein kinase/c-Jun N-terminal kinase, TGF:transforming growth factor, TNF : tumor necrosis factor The Role of Astrocytes in Neuroprotection ンスが重要である.われわれは培養グリア細胞において, い可能性がある.そのため投与法の検討も課題である. IL- 1βが NFκB 経路,p44/p42 MAPK,stress-activated protein kinase/c-Jun N-terminal kinase(SAPK/JNK)の -α TNFα TNF- 活性化を介して IL- 6 の産生・遊離を促進し,NFκB 経路, p44/p42 MAPK,p38 MAPK の活性化を介して神経栄養 脳虚血により IL- 1βに加えて,TNF-αも速やかに増 因子の 1 つである GDNF の産生・遊離を促進することを 明らかにした(図 6 A )14, 15).脳虚血を発症して比較的早 加する 7, 8, 10).TNF-αは最初の数時間で神経細胞内に増 期に鎮静薬を使用する場合には,それらがサイトカイン 加し,引き続きマイクログリア,アストロサイト内でも に与える影響を考慮することが必要である.われわれは, 増加する 7, 8, 10).ヒトにおいても虚血後に脳脊髄液内で ミダゾラム,デクスメデトミジンはこの IL- 1βによる その濃度が増加しているという報告がある 7).TNF-αの IL- 6 遊離を抑制するが,プロポフォール,ケタミンは影響 脳虚血後の神経細胞に対する役割に関しては,保護,障 (一部未発表) . を及ぼさないことを発見した(図 6 B )15) 害,両作用を併せ持つと推測されている 7, 8, 10).すなわち, 虚血急性期に TNF-αの活性を阻害すると神経障害は減 IL- 1βの情報伝達経路の遮断は,脳虚血後の神経障害 を減らすうえで有用であると考えられ,様々な薬物が 少するという報告がある一方で,TNF-α活性の阻害に 開発されてきた.欧米では,IL- 1Ra であるアナキンラ より,虚血部位の神経再生が抑制されるとの報告もあ (anakinra/Kineret ,本邦未承認),IL- 1R1/IL- 1RAcP る 7, 8, 10).麻酔関連薬の影響では,中大脳動脈閉塞モデル とイムノグロブリンの融合タンパク質で IL- 1 を阻害す において,NMDA 受容体拮抗薬(MK801)およびデク ® るリロナセプト(rilonasept/Arcalyst ®,本邦未承認), スメデトミジンが TNF-α産生を抑制し,梗塞巣のサイ IL- 1β 特 異 的 阻 害 薬 の カ ナ キ ヌ マ ブ(canakinumab/ ズを縮小,神経学的予後を改善すると報告されている 7). Ilaris®)などが,関節リウマチ他,自己免疫疾患の治療 TNF-αの受容体には TNFR1と,より親和性の高い 薬として承認されているが,これらは脳虚血後の神経障 TNFR2 の 2 つ の サ ブ タ イ プ が あ る 10, 16, 17).TNFR1 と 害に対しても有効な可能性がある.なかでも,IL- 1Ra の TNFR2 は異なる作用を示す.ともに健常時には,主に 効果が期待されており,虚血性脳疾患,くも膜下出血に 神経細胞に発現しているが,傷害を受けると,アストロ .ただし,中枢神経 サイト,マイクログリアでの発現が増加する.どちら 系において IL- 1βが恒常状態で果たしている役割への影 の受容体が多く発現するか,または,脳内のどの部位 対する臨床試験が行われている 11, 12) に TNF-αが作用するかなどによっても,その作用が異 響を考慮する必要がある.また,IL- 1Ra は分子量が大き なる 10, 16, 17).TNFR1 は TNF-αが結合すると,TNF受容 いため血液脳関門が保たれている場合はこれを通過しな (A) (B) IL-1β SAPK/JNK p44/p42 p38 MAPK MAPK IκB/NFκB IL- 6 遊離 GDNF遊離 IL- 6(×103 pg/mL) 8 6 * * 4 2 0 対照 0 0.01 ミダゾラム プロポフォール 0.1 1 鎮静薬濃度(μM) 10 図 6(A) グリア細胞におけるIL-1βに よるIL- 6,グリア細胞由来神経 栄 養 因 子(GDNF)の 遊 離 メ カ ニズム(文献 14,15より引用・ 改変) (B) グリア細胞においてミダゾラ ム( ),プロポフォール( )が IL-1βによる IL- 6 遊離に及ぼす 影響(文献 15 より引用・改変) *p<0.05 IL:interleukin, GDNF:glial cell linederived neurotrophic factor, MAPK: mitogen-activated protein kinase, IκB:inhibitor kappa B, NFκB: nuclear factor kappa B, SAPK/JNK: stress-activated protein kinase/c-Jun N-terminal kinase Anesthesia 21 Century Vol.15 No.1-45 2013 (2947) 43 体関連デスドメインタンパク質(NF receptor-associated にピークとなり,数カ月後まで続く 9).血中の IL- 6 濃度 death domain:TRADD)と結合し,TNF 受容体関連因 が低い時期でも,脳脊髄液内の濃度が高いことから,脳 子 2(TNF-α-receptor-associated factor-2:TRAF-2) 内の IL- 6 は,破壊された血液脳関門を介して流入する あるいは RAIDD(receptor interacting protein-associated ものと,脳内で産生されるもの両方が含まれると推測さ ICH-1 homologous protein with a death domain)に情 れる 9).IL- 6 は障害によりまず神経細胞,次いでアスト 報伝達される.TRAF-2 を介して NFκB 経路,MAPK 経 ロサイト,マイクログリアから産生される.IL- 6 はアス 路が活性化され,細胞保護を行う.RAIDD を介すると トログリオーシスを起こし,他の炎症性サイトカインを カスパーゼが活性化され,アポトーシスを起こす.一方, 産生・遊離する他に,神経栄養因子,神経成長因子産生・ TNFR2 は 直 接 TRAF- 2と結 合 し,NFκB 経 路,MAPK 遊離の強力な作用を持つため,TNF-αと同様,神経障 経路を活性化する(図 7 )10, 16, 17).一般に,TNFR1 を介す 害と保護の両面を併せ持つと考えられている 8).虚血直 る情報伝達は速やかに起こるが一過性で,TNFR2 を介 後には神経細胞障害作用が強いが,24 時間後以降には する情報伝達はゆっくり始まり,長く続くとされている. 細胞修復作用を示し,神経細胞保護において重要な役 現在,TNFR2 を介する働きが,神経保護方向に作用する 割を果たしていると推測されている 9).IL- 6 の受容体は IL- 6Rαと gp130 の 2 つのサブユニットからなり,IL- 6 と考えられている 10, 16, 17).しかし,どのような状況下で が IL- 6Rαに結合すると,gp130 を介して細胞内情報伝 保護,障害のいずれの作用が優位になるのかはいまだ明 らかではない.本邦でも TNF-αの情報伝達系を治療標 達が行われる 6, 9).主な細胞内情報伝達経路は JAK(Janus 的とした薬物は,慢性関節リウマチ・乾癬に対して臨床 kinase)/ STAT3(signal transducers and activators of 使用されているが,今後,中枢神経系の治療に応用する transcription 3)経路である 6, 9).それ以外にも,NFκB ためには,受容体のサブタイプを考慮する必要があるか 経路,MAPK経路なども活性化される6, 9).IL- 6 の受容体 もしれない. は通常神経細胞に存在するが,有害刺激により減少す る.障害から生き残った神経細胞では IL- 6 受容体減少が 少ないこと,STAT3 がより活性化していることなどか IL- 6 IL-6 ら,IL- 6 は JAK/STAT3 経路を介して神経細胞保護効果 を示すと考えられている(図 7 )6, 9).IL- 6 や STAT3 を標 脳虚血により IL- 6 が血中に増加するという報告は多く 的とした治療は虚血早期だけではなく,その後も効果を あり,脳脊髄液内で増加しているとの報告もある 9).血 示す可能性があるが,そのためには,発症からの時間と 中の IL- 6 増加は発症 24 時間以内に始まり, 2 〜 3 日後 IL- 6 の作用の関係をより明確にする必要がある. TNF-α TNF-α TNFR1 TNFR2 TRADD RAIDD TRAF- 2 TRAF- 2 カスパーゼ アポトーシス IL- 6 TNF-α 細胞膜 (細胞外) IL- 6Rα (細胞内) gp130 gp130 JAK IκB/NFκB 神経保護 44 (2948) Feature Articles STAT3 図 7 腫瘍壊死因子(TNF-α) ,IL- 6 に よる細胞内情報伝達 IκB:inhibitor kappa B, IL:interleukin, IL-6R:IL-6 receptor, JAK:Janus kinase, NFκB:nuclear factor kappa B, RAIDD:receptor interacting protein-associated ICH-1 homologous protein with a death domain, STAT: signal transducers and activators of transcription, TNF:tumor necrosis factor, TNFR:TNF-α-receptor, TRADD:TNFR-associated death domain, TRAF:TNF-α-receptorassociated factor The Role of Astrocytes in Neuroprotection 現の誘導,GDNF の細胞内情報伝達の増強,などにより GDNF GDNF GDNF を含む神経保護因子が臨床応用される可能性が ある. 最後にアストロサイトから産生・遊離される代表的な 神経栄養因子の 1 つである GDNF を紹介する.GDNF は 中枢神経系の発達に関与しており,胎児期の中枢神経系 まとめ まとめ 発達において重要な役割を果たしているが,健常成人の 脳にはほとんど存在しない 13).健常時には神経細胞にわ ずかに存在するのみであるが,脳虚血,外傷などの障害 時には IL- 1β,TNF-αなどによる NFκB 経路の活性化 アストロサイトは脳内に最も多く存在する細胞であり, 中枢神経系の病的状態においてマイクログリアと同様に 働く.しかし,マイクログリアの活性化より遅れて活性 により,アストロサイト,マイクログリアから産生され 化され,その働きは長く続く.そのため,アストロサイ (図 4 ) .GDNF は当初,ドパミン作動性神経細胞に る 13) トを標的とした治療法は,障害直後だけではなく数日 特異的に働く保護因子であると考えられていたが,その たってからも治療効果が期待される.ここでは,脳虚血 後,それ以外の神経細胞に対しても保護効果が示されて 時の神経細胞の転帰に関与している可能性がある因子に きた 13).動物実験においては,虚血障害からの神経細胞 ついて,アストロサイトから遊離されるサイトカインを .虚血による障 中心にとりあげた.これらの因子を応用し細胞保護をす 害に対する保護効果の機序として,①障害時に増加する るためには,障害作用を示す因子の遊離・その活性化経 興奮性アミノ酸による毒性を減弱,②障害時に活性化さ 路の抑制,または,保護作用を示す因子の遊離・その活 れる一酸化窒素合成酵素(nitric oxide synthase:NOS) 性化経路の促進,のいずれかであり,これらの因子が脳 の活性抑制,③アポトーシスの抑制などによると考えら 虚血時に果たす役割,その情報伝達経路のさらなる解明 れている 13). が必要である.現在,神経変性疾患に有効な薬物が臨床 保護と,予後の改善が報告されている 13) 神経変性疾患への治療応用の報告では,GDNF は健常 使用認可され,これらは脳虚血後の神経細胞保護に対し 時には血液脳関門を通過しにくいため,神経系に直接投 ても効果が期待される.しかし,ほとんどの因子におい 与する方法がとられた.パーキンソン病のヒトへの脳室 て,保護・障害両方の作用が報告されている.この作用 内投与は,効果がなく,副作用(体重減少,麻痺,低ナ の相違の原因の一部は,疾患の時期によると考えられて トリウム血症)がみられた.一方,被殻内投与では副作 いるため,治療効果を得るには,薬物投与時期の検討が .脳虚 重要である.また,全身投与では副作用が強く,治療効 血に対して GDNF を臨床使用した報告はいまだにない 果を得るに至らない場合でも,投与経路の検討,遺伝子 が,治療効果が期待できる.今後,中枢神経系に到達さ 治療などを用いた投与方法の検討により,治療効果を得 せるための GDNF の投与方法の検討,内因性 GDNF 発 られる可能性がある. 用の発現はなく,臨床スコアの改善を認めた 13) Anesthesia 21 Century Vol.15 No.1-45 2013 (2949) 45 The Role of Astrocytes in Neuroprotection ■ 参考文献 1)Zhao Y, Rempe DA:Targeting astrocytes for stroke therapy. Neurotherapeutics 7:439 - 451, 2010 2)Hamby ME, Sofroniew MV:Reactive astrocytes as therapeutic targets for CNS disorders. Neurotherapeutics 7 :494 506, 2010 10)Watters O, O'Connor JJ:A role for tumor necrosis factor-αin ischemia and ischemic preconditioning. J Neuroinflammation 8:87, 2011 11)Allan SM, Tyrrell PJ, Rothwell NJ:Interleukin-1 and neuronal injury. Nat Rev Immunol 5:629 - 640, 2005 3)Liu W, Tang Y, Feng J:Cross talk between activation of 12)Denes A, Pinteaux E, Rothwell NJ, et al.:Interleukin-1 and microglia and astrocytes in pathological conditions in the stroke : biomarker, harbinger of damage, and therapeutic central nervous system. Life Sci 89:141 - 146, 2011 target. Cardiovasc Dis 32:517- 527, 2011 4)Barreto G, White RE, Ouyang Y, et al.:Astrocytes:targets 13)Saavedra A, Baltazar G, Duarte EP:Driving GDNF expres- for neuroprotection in stroke. Cent Nerv Syst Agents Med sion:the green and the red traffic lights. Prog Neurobiol Chem 11:164 - 173, 2011 86:186 - 215, 2008 5)Sidoryk-Wegrzynowicz M, Wegrzynowicz M, Lee E, et al.: 14)Tanabe K, Nishimura K, Dohi S, et al.:Mechanism of inter- Role of astrocytes in brain function and disease. Toxicol leukin-1β-induced GDNF release from rat glioma cells. Brain Pathol 39:115 - 123, 2011 6)Spooren A, Kolmus K, Laureys G, et al.:Interleukin-6, a mental cytokine. Brain Res Rev 67:157- 183, 2011 7)Sriram K, O'Callaghan JP:Divergent roles for tumor necrosis factor-αin the brain. J Neuroimmune Pharmacol 2:140 - 153, 2007 8)Amantea D, Nappi G, Bernardi G, et al.:Post-ischemic brain damage:pathophysiology and role of inflammatory mediators. FEBS J 276:13 - 26, 2009 9)Suzuki S, Tanaka K, Suzuki N:Ambivalent aspects of interleukin-6 in cerebral ischemia : inflammatory versus neurotrophic aspects. J Cereb Blood Flow Metab 29:464 - 479, 2009 46 (2950) Feature Articles Res 1274:11- 20, 2009 15)Tanabe K, Kozawa O, Iida H:Midazolam suppresses interleukin-1β-induced interleukin-6 release from rat glial cells. J Neuroinflammation 8:68, 2011 16)Gosselin D, Rivest S:Role of IL-1 and TNF in the brain: twenty years of progress on a Dr. Jekyll/Mr. Hyde duality of the innate immune system. Brain Behav Immun 21:281289, 2007 17)Park KM, Bowers WJ:Tumor necrosis factor-alpha mediated signaling in neuronal homeostasis and dysfunction. Cell Signal 22:977- 983, 2010
© Copyright 2024 Paperzz