あもんノート http://amonphys.web.fc2.com/ ユークリッド幾何学、ニュートン力学から、相対論、宇宙論、量子力学、場の量子論、 素粒子論、そしてくりこみ理論まで、理論物理学を簡潔にかつ幅広く網羅したノート です。TOP へは上の URL をクリックして行けます。 目次 1 2 連続体力学 1.1 応力テンソル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 1.2 弾性体と弾性率 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 1.3 一様等方弾性体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 1.4 弾性体における波動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 1.5 ヤング率とポアソン比 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 1.6 天井からはがれ落ちる弾性体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 1.7 流体とナビエ・ストークス方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 1.8 完全流体とベルヌーイの定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 1.9 レイノルズ数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 1.10 水面波 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 1 1 連続体力学 物質の中でも弾性体と流体はそのニュートン力学的な取り扱いが比較的容易で す。これらは連続体と総称されます。連続体の力学をここに簡単にまとめておき ます。ただし、ユークリッド幾何学、応用数学、およびニュートン力学を既知と 仮定します。 1.1 応力テンソル 物体の内部のある領域 V が、その境界面 ∂V 上の微小断面積 d2 xi を通じて受 ける力を考えましょう。それは微小断面積 d2 xi に比例するはずなので、一般に、 dFj = d2 xi Tij と書けます。このとき Tij を応力テンソルといいます。 図 1: 応力テンソル 例えば、棒状の物体を左右に引張ったとき、引張った方向を x1 方向として、T11 が正になることに注意。すなわちここでは引張応力が正になるよう定義している わけです。符号を逆にし、圧縮応力を正とする定義もよく見かけるので注意して ください。 そうすると、物体のある領域 V がその境界面 ∂V から受ける力は、ガウスの定 理を用いて、 Z Z 2 Fj = d xi Tij = d3 x ∂i Tij ∂V V と書けるので、∂i Tij は応力による力の密度と考えることができます。 2 また、物体の領域 V が受けるトルクを考えると、3 次元レビ・チビタを ²ijk と して、 Z Z Ni = ²ijk xj dFk = ²ijk xj d2 xl Tlk ∂V Z Z∂V = d3 x ∂l (²ijk xj Tlk ) = d3 x (²ilk Tlk + ²ijk xj ∂l Tlk ). V V 一方トルクは、力の密度が ∂i Tij であることから、 Z Ni = d3 x ²ijk xj ∂l Tlk V と書くこともできます。これらを比較し、V が任意の領域であることに注意する と、²ilk Tlk = 0. よって、 Tij = Tji を得ます。すなわち応力テンソルは 2 つの添字について対称です。 1.2 弾性体と弾性率 物体の各部が本来の位置 xi から x0i = xi + ui (x) に移動した時、ui (x) を変位といいます。変位の勾配 ∂j ui は十分小さいとし、そ の高次を無視すると、物体の各部の距離変化は、 dx0i dx0i − dxi dxi = (dxi + ∂j ui dxj )(dxi + ∂k ui dxk ) − dxi dxi = ∂j ui dxj dxi + ∂k ui dxi dxk = (∂i uj + ∂j ui )dxi dxj . そこで、 1 (∂i uj + ∂j ui ) 2 で物体のひずみ (の場) を定義します。ひずみが物体の各部で 0 ならば、物体は変 形していないことになります。すなわち変位 ui が存在しても、ひずみ ²ij が 0 な らば、物体は並進や回転をしているだけということです。 ²ij = 応力がひずみに比例するいう仮定 : Tij = Eijkl ²kl はフックの法則と呼ばれ、フックの法則を満たす物体を弾性体といいます。比例 係数 Eijkl は弾性率と呼ばれます。剛体は変形しない物体だったので、剛体は弾性 3 率が無限大の弾性体として特徴づけられます。応力テンソルとひずみが 2 つの添 字について対称であることに注意すると、一般性を失うことなく、 Eijkl = Ejikl = Eijlk を仮定できます。 ちなみに大気中にある弾性体を考える場合、通常、大気圧下の定常状態の 1 つを 変位場の基準 (本来の位置) にとります。そうするとフックの法則は線形であるた め、物体の表面における大気圧の効果は無視してよいことになります。大気圧の 効果を変位場にくりこんでしまうわけです。 (余談) もし弾性体の内部に散逸がなく、すなわちひずみに対するポテンシャルエネルギーが存 在すると仮定すると、弾性率に関してさらに、 Eijkl = Eklij という対称性が得られるため、3 次対称行列の独立な成分は 6 個、6 次対称行列の独立な成分が 21 個であることに注意して、弾性率 Eijkl の 34 = 81 個の成分のうち、独立なものは 21 個というこ とになります。上式の証明は以下の通りです。 [証明] 弾性体の仮想的な微小変形 δui に対し、領域 V が外部からされる仕事は、 Z Z Z 2 δW = δuj dFj = δuj d xi Tij = d3 x ∂i (δuj Tij ). ∂V ∂V V いま、系が定常的で、かつ応力以外の力 (外力) がないとすると、釣り合いの条件から ∂i Tij = 0 で あることに注意して、 Z Z d3 x δ²ij Tij = δW = V d3 x δ²ij Eijkl ²kl V となります。よって弾性体のポテンシャルエネルギー密度を A とすると、 δA = δ²ij Eijkl ²kl ∴ 1.3 δ2A = Eijkl ∴ Eijkl = Eklij . [証明終] δ²ij δ²kl 一様等方弾性体 弾性体が一様で等方な場合、弾性率は定数のテンソルのはずなので、λ, µ, µ0 を 実数として、 Eijkl = λδij δkl + µδik δjl + µ0 δil δjk と書けますが、弾性率の対称性から µ0 = µ がわかり、 Eijkl = λδij δkl + µ(δik δjl + δil δjk ) です。このとき λ, µ をラメの定数といいます。一様等方弾性体の弾性率の独立な 成分は 2 個というわけです。 4 このとき弾性体の応力は、Tij = Eijkl ²kl および ²ij = (1/2)(∂i uj + ∂j ui ) から、 Tij = λδij ∂ ·u + µ(∂i uj + ∂j ui ) となることがわかります。ここで ∂ ·u = ∂i ui は内積です。 弾性体の運動方程式は、その質量密度を ρ, 応力以外の力 (外力) の密度を fj と して、 ρ¨ uj = ∂i Tij + fj . あるいは上の応力の式を代入して、 ρ¨ uj = (λ + µ)∂j ∂ ·u + µ4uj + fj と書かれます。4 = ∂ ·∂ はラプラシアンです。 1.4 弾性体における波動 ここで一様等方弾性体の波動解を求めてみましょう。 外力の密度を 0 とすると、弾性体の運動方程式は、 ρ¨ uj = (λ + µ)∂j ∂ ·u + µ4uj ですが、これに波動解 : uj = aj sin(k·x−ωt) を代入すれば、 ρω 2 aj = (λ + µ)kj k·a + µk 2 aj を得るでしょう。波数ベクトルの大きさ |k| と角振動数 ω の関係式を、一般に分 散関係といいます。 もしこの波動解が横波で、k·a = 0 なら、上の分散関係の式から ρω 2 = µk 2 を得 るので、横波の速さは、 r ω µ vt = = |k| ρ と求まります。一方、k·a 6= 0 のときは、分散関係の式に kj をかけ、k·a で割る ことにより、ρω 2 = (λ + 2µ)k 2 を得ます。このとき aj ∝ kj がわかるので、この 波動解は縦波です。その速さは、 s λ + 2µ ω = vl = |k| ρ となります。一様等方弾性体には横波と縦波しか存在しないことがわかり、また、 それぞれの伝播速度 (位相速度) がラメの定数で表されました。 5 1.5 ヤング率とポアソン比 形状が直方体の弾性体があり、この弾性体のある辺に沿った方向にだけ外圧 p をかけたとします。この辺の方向を x1 方向とし、また p は引張りを正とします。 このとき弾性体の各方向の伸縮率を ai として、 E= p a1 , ν=− a2 a1 を、順に、ヤング率、ポアソン比といいます。これらは実験で容易に測ることが できる弾性体の性質です。一様等方弾性体のヤング率とポアソン比を求めてみま しょう。 まず、 u1 = a1 x1 + b1 , u2 = a2 x2 + b2 , u3 = a3 x3 + b3 という変位場を考えます。ai , bi は定数です。特に ai は xi 方向の伸縮率を意味し ています。応力の式 : Tij = λδij ∂ ·u + µ(∂i uj + ∂j ui ) に代入すると、 T11 = (λ + 2µ)a1 + λa2 + λa3 , T22 = λa1 + (λ + 2µ)a2 + λa3 , T33 = λa1 + λa2 + (λ + 2µ)a3 , Tij = 0 (i 6= j) を得ます。これらは全て定数なので、考えている変位場は弾性体の運動方程式 (た だし fj = 0) の定常解になっています。 x1 方向にだけ外圧 p がかかっているとすると、境界条件は、 T11 = p, T22 = T33 = 0 なので、 λ + 2µ λ λ p a1 λ λ + 2µ λ a2 = 0 λ λ λ + 2µ a3 0 a1 4µ(λ+µ) ∗ ∗ 2(λ+µ) p 1 p −2λµ ∗ ∗ 0 = −λ . ∴ a2 = 2 4µ (3λ+2µ) 2µ(3λ+2µ) a3 −2λµ ∗ ∗ −λ 0 よってヤング率とポアソン比は、それぞれ、 E= µ(3λ + 2µ) λ + µ, ν= と、ラメの定数を用いて表されます。 6 λ 2(λ + µ) 多くの場合、ヤング率とポアソン比は共に正であり、また、横波と縦波が存在 します。このことからラメの定数は共に正とわかります。また、縦波 (P 波) が横 波 (S 波) より速いことがわかるでしょう。地震においても、最初に到達するのは P 波で、その後 S 波が来るわけです。 ちなみに、ポアソン比が特に大きい物質はゴムで、押しつぶすと横に大きく膨 らみます。そのポアソン比は 0.4 ∼ 0.5 程度です。 1.6 天井からはがれ落ちる弾性体 教育的で面白い例として、図 2 のように天井に張り付いた直方体状の一様等方弾 性体を考えてみましょう。ただし簡単のため、λ = 0 (ポアソン比 0) とします。 図 2: 天井に張り付いた弾性体 下方を x1 = x 方向とし、重力加速度を g とします。また、x 方向の弾性体の 自然長を L とします。運動方程式は、ρ¨ uj = µ∂j ∂·u + µ4uj + fj ですが、これは u1 = u = u(t, x), u2 = u3 = 0 において、 ρ¨ u = 2µu00 + ρg ∴ u¨ = c2 u00 + g. p を与えます。ダッシュは x 微分を意味し、c = 2µ/ρ は弾性体内部における縦波 の速さ (音速) です。特に定常状態では、 g u =− 2 c 00 gx2 ∴ u = − 2 + Ax + B 2c (A, B は定数) ですが、x = 0 で u = 0 (固定端条件)。また、x = L では応力が存在しないはず なので u0 = 0 です (自由端条件)。これらから定数 A, B が定まり、 u= gx (2L − x) 2c2 7 が解です。定常状態では重力により弾性体の長さが gL2 /2c2 だけ伸びることがわ かります。 次に、時刻 t = 0 に弾性体の上端が天井から瞬時にはがれた場合を考えます。こ のとき、0 ≤ x ≤ L では { cos(nπx/L) | n = 0, 1, 2, · · · } が完全系を成すことに注 意して、 ∞ X nπx u(t, x) = a(t) + an (t) cos L n=1 とおくことができます。これを運動方程式 u ¨ = c2 u00 + g に代入すると、 ³ nπc ´2 an (t) a ¨(t) = g, a ¨n (t) = − L nπct nπct gt2 ∴ a(t) = + αt + β, an (t) = αn cos + βn sin 2 L L ですが、u(0, ˙ x) = 0 から α = 0, βn = 0 がわかるので、 ∞ X gt2 nπct nπx u(t, x) = +β+ αn cos cos 2 L L. n=1 さらに u(0, x) = (gx/2c2 )(2L − x) から β, αn をフーリエ変換の手法で定めるこ とができ、結果、 ∞ gt2 gL2 2gL2 X 1 nπct nπx u(t, x) = + 2 − 2 2 cos cos 2 2 3c π c n=1 n L L となります。この式は自由端条件 : u0 (t, 0) = u0 (t, L) = 0 を自動的に満たしてい て、よってこれがはがれ落ちる弾性体の解です。 弾性体の下端の加速度を計算してみましょう : ¶ µ ∞ X nπct ct + L cos(nπ) = g + 2g cos nπ u¨(t, L) = g + 2g cos L L n=1 n=1 Ã ! ¶ ¶ X µ ct + L X µ ct + L 1 = g + 2g π δ π − 2nπ − =g δ −n . L 2 2L ∞ X n∈Z n∈Z 途中で公式、 ∞ X n=1 cos(nx) = π X δ(x − 2nπ) − n∈Z 8 1 2 および δ(ax) = 1 δ(x) |a| を用いました。δ(x) はデルタ関数です (関数論と応用数学の章参照)。そうすると、 下端の速度は、 ¶ Z t Z t X µ ct0 + L u(t, ˙ L) = dt0 u¨(t0 , L) = g dt0 δ −n 2L 0 0 n∈Z · ¸ Z (ct+L)/2L X 2gL ct + L 2gL ds δ(s − n) = = c 1/2 c 2L n∈Z と見積もられます。ここで [x] は x の最大整数 (ガウス記号) です。 下端は 0 < t < L/c では静止したままで、t = L/c で急激に 2gL/c の速度を持 ち、その後、階段状に加速されることがわかります。上端が天井からはがれたこ とが弾性体中の縦波を通じ下端に伝わるまで、下端は静止しているわけです。ま た、この階段的加速を粗く見ると (ct À L)、下端を含め弾性体全体が加速度 g で 落ちているように見えることになります。 1.7 流体とナビエ・ストークス方程式 次に流体について考えます。 水槽に入った水などの流体の状態は、流体の各部における質量密度 ρ(t, x), およ び速度場 vi (t, x) によって表されます。いま、d2 xi ρvi という量を考えると、これ は断面積 d2 xi を単位時間当たりに通過する流体の質量なので、質量の保存から、 Z Z d 3 d xρ = − d2 xi ρvi ∴ ρ˙ + ∂i (ρvi ) = 0 dt V ∂V を得ます。これを連続の式といいます。 また、流体の運動方程式を導くため、流体の運動量変化について考えてみましょ う。pi = ρvi が流体の運動量密度であることに注意すると、 Z Pi (t) = d3 x pi (t, x) V は、領域 V が時刻 t に持つ運動量です。微小時間 δt 後、流体の各部 xi は x0i = xi + vi δt に移動しますが、そうしてできる新しい領域を V 0 とします。そうする と、微小時間 δt 後の運動量は、 Z Pi (t + δt) = d3 x0 pi (t + δt, x0 ) V0 と表されます。この式の積分変数を x に置換する際、 ∂x0i = δij + ∂j vi δt より、 ∂xj ∂x0 det = ²ijk (δi1 + ∂1 vi δt)(δj2 + ∂2 vj δt)(δk3 + ∂3 vk δt) = 1 + ∂ ·vδt ∂x 9 であることに注意して、 Z d3 x(1 + ∂ ·vδt)(pi + p˙i δt + ∂j pi vj δt) Pi (t + δt) = Z V Z 3 = Pi (t) + d x(p˙i + ∂j pi vj + pi ∂ ·v)δt = Pi (t) + d3 x(ρv˙ i + ρv·∂vi )δt. V V よって、ρv˙ i + ρv ·∂vi が力の密度に等しいはずで、流体の応力を Tij , 外力の密度 を fj として、 ρv˙ j + ρv·∂vj = ∂i Tij + fj が成り立ちます。これをナビエ・ストークス方程式といいます。 ただし流体の応力は、 Tij = −pδij + λδij ∂ ·v + µ(∂i vj + ∂j vi ) で与えられ、p は流体の圧力、µ, λ は粘性率で、多くの場合、 2µ + 3λ = 0 という関係式が成り立ちます (ストークスの関係式)。 ナビエ・ストークス方程式は非線形であるため、解析的に解くのは非常に困難 であり、多くの場合、数値計算に頼ることになります。ナビエ・ストークス方程 式の解の存在証明はミレニアム懸賞問題の 1 つになっています。 1.8 完全流体とベルヌーイの定理 ρ が一定の流体を非圧縮性流体といいます。さらに粘性が無視できる流体を完全 流体といいます (∗) 。このときナビエ・ストークス方程式は、 ρv˙ i + ρv·∂vi = −∂i p + fi となり、これをオイラー方程式といいます。 特に定常的な完全流体を考えると、オイラー方程式は、 ρv·∂vi = −∂i p + fi ですが、外力の密度が、 fi = −∂i φ と、外部ポテンシャルの密度 φ を用いて表される場合、 ρv·∂vi + ∂i p + ∂i φ = 0 10 となります。この式に vi をかけ、v·∂v 2 = 2vi v·∂vi に注意すると、 µ ¶ 1 2 ρv + p + φ = 0 v·∂ 2 を得ます。この式は流体の流線にそって括弧内の量が不変であることを意味し、ベ ルヌーイの定理と呼ばれます。ベルヌーイの定理は完全流体におけるエネルギー 保存則を意味しています。 (*注) 実際の流体には必ず粘性があるため、粘性率 µ を 0 とおいてしまうのは実は乱暴です。完 全流体の理論にはこのことに伴ったパラドックスがいくつか存在します。 1.9 レイノルズ数 流速が十分に遅い場合、流体は規則正しい流れを作りますが、流速が速い場合、 境界層がはがれて渦などを生じ、流体の流れは複雑化します。前者を層流、後者 を乱流といいます。 いま、流体中に大きさのスケールが l の物体があるとしましょう。その物体が 流体から受ける力は、層流においては粘性によるため µlv に比例しますが、乱流 においては、流体の運動量を変化させる反作用として考えられるため、ρl2 v 2 に比 例します。前者を粘性抵抗、後者を慣性抵抗といいます。 粘性抵抗と慣性抵抗の比、 ρlv µ をレイノルズ数と呼びます。レイノルズ数が同じである 2 つの流体の流れは相似に なると考えられ、これを力学的相似則と呼びます。相似則は流体模型の作成の際 に重要になります。層流と乱流の境は、物体や壁の滑らかさにも依りますが、十 分滑らかな場合で Re∼103 付近になります。滑らかでない場合はもっと小さなレ イノルズ数で乱流を生じます。 Re = (余談) もし小さな人間がいたら、その人にとって水は我々よりねっとりしたものに感じられま す。このことはレイノルズ数の式からも読み取れるはずです。このことを無視していた映画が、例 えば「ミクロの決死圏」や「ミクロキッズ」。ちゃんと考慮していた映画が「借りぐらしのアリエッ ティ」です。 1.10 水面波 章の最後に、オイラー方程式の近似解の例として、水面波を取り上げておきます。 完全流体の速度場 vi が十分小さいと考え、その 2 次の項を無視すると (線形近 似)、連続の式とオイラー方程式は、それぞれ、 ∂ ·v = 0, ρv˙ i = −∂i p − ρg∂i x3 11 となります。ただし外力は重力だけとし、重力の方向を −x3 方向としました。g は重力加速度です。さらに、速度場 vi (t, x) の回転 (²ijk ∂j vk ) が 0 で、速度ポテン シャル Φ(t, x) が存在すると仮定すれば、 vi = ∂i Φ であり、連続の式とオイラー方程式は、それぞれ、 µ ¶ p 4Φ = 0, ∂i Φ˙ + + gx3 = 0 ρ となります。前式は一般にラプラス方程式と呼ばれる式です。 ここで図 3 のように座標を設定し、振幅が極めて小さな水面波 (さざ波) を考え てみることにしましょう。水面の式を x3 = η(t, x1 ) とし、η ¿ h を仮定します。 h は水深です。 図 3: 水面波 底においては v3 = 0 なので、 ¯ ¯ ∂3 Φ ¯ x3 =−h =0 (1) ˙ + (p/ρ) + gx3 という量は空間座標に依存しませんが、特に遠方で です。また、Φ 定常的になっているとすれば、遠方の水面においてこれは p0 /ρ となります。ここ ˙ + (p/ρ) + gx3 = p0 /ρ が成り立 で p0 は大気圧です。よって流体の各部において Φ ち、この式を水面に適用すると、 ¯ ¯ + gη = 0 (2) Φ˙ ¯ x3 =η です。一方、水面にある水の粒子は微小時間 δt 後にも水面にあるはずですが、そ の微小変位を図 4 のように考えると、v3 |x3 =η = η˙ + (∂1 η)v1 という関係式がわか り、後ろの項を高次の微小量として無視すると、 ¯ ¯ ∂3 Φ ¯ = η˙ (3) x3 =η 12 が成り立ちます。(1)∼(3) が流体の境界条件で、この境界条件のもとでラプラス方 程式 4Φ = 0 を解こうというわけです。 図 4: 水面における粒子の移動 いま、x1 方向の波動解を考え、速度ポテンシャルを、 Φ = F (x3 ) sin(kx1 −ωt) とおいてみましょう。k は波数、ω は角振動数を意味します。そうすると、ラプ ラス方程式 4Φ = 0 は F 00 (x3 ) = k 2 F (x3 ) を与え、また (1) は F 0 (−h) = 0 を与え ます。よって解は、積分定数を A として、 F (x3 ) = A cosh (k(x3 +h)) であり、これを Φ の式に戻して、 Φ = A cosh (k(x3 + h)) sin(kx1 −ωt) となります。これと (2)(3) から、η ¿ h に注意して、 η = C cos(kx1 −ωt), C= Aω cosh(kh), g ω 2 = gk tanh(kh) が得られるでしょう。速度場の回転が 0 という仮定はかなり強い仮定ですが、そ れでも幸運にも全ての境界条件を満たす近似解が見つかったというわけです。 最後の式は分散関係であり、ここから水面波の位相速度は、 r g tanh(kh) ω vp = = k k で与えられることがわかります。特に水深が十分にあり、kh À 1 のときは、vp ∼ p g/k であり、このとき波長の長い波ほど速く進むことがわかります。また、一 定の波長の波を考え、水深を変化させた場合は、浅い場合ほど位相速度が遅くな ることも確かめられるでしょう。 13 索引 あ 一様等方弾性体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 オイラー方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .10 応力テンソル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 か ガウス記号 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 慣性抵抗 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 完全流体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 さ 水面波 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 ストークスの関係式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 線形近似 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 層流 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 た 弾性体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 弾性率 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 な ナビエ・ストークス方程式 . . . . . . . . . . . . . . . 10 粘性抵抗 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 粘性率 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 は 非圧縮性流体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 ひずみ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 フックの法則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 分散関係 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 ベルヌーイの定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 変位 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 ポアソン比 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 や ヤング率 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 ら ラプラス方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .12 ラメの定数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 乱流 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 力学的相似則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 流体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 レイノルズ数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 連続体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 連続の式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 14
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