研究・教育活動 Ⅰ. 教育プログラムと教育支援活動 【教育活動実績】 若手研究者の育成は、本拠点における最重要課題の一つである。そのため、若手研究者育 成のための運営組織として、拠点に関係するすべての専攻の教務担当教員と若手教員から なる教育運営委員会を設けて、以下に述べるような様々な大学院生、PD、若手教員への支 援プログラムを実施した。 先端地球惑星科学拠点大学院コース 地学・地球物理学の融合と理学・工学連携の目的を実現するカリキュラムの構築をめざして 設置した、地学・地球物理学専攻の大学院博士課程(前期・後期)コースを併せた「先端地球 惑星科学拠点大学院コース」では、地学・地球物理学・環境科学の3専攻の専門科目をそれ ぞれの学生便覧に関連科目として記載することで、相互の単位取得を可能にしている。また、 国内外の研究機関・大学での活躍ならびにフィールドワークを奨励するため、授業科目として インターンシップ研修を導入し単位認定を行った(平成16年度院学生便覧を改訂)。自分の 所属とは異なる研究科の講義も関連科目指定制度を用いて履修可能としている。こうした、 講義に関しての専攻間、研究科間の乗り入れや、理工連携のシステムは、東北大学におい ても本COEに特有のものである。 また、博士課程後期3年の大学院生の指導に当たっては、各大学院生全員に対して、原則と して分野横断型の複数の構成メンバーからなるアドバイザリーボードの設置を今年度も引き 続き行った。また国内の優秀な研究者を招いたり、外国人フェローによるCOE用の新しい講 義も引き続き開講した。 国際化を目指した先端理学国際コース 理学研究科には、外国人留学生の積極的な受け入れを目指した先端理学国際コース(IGPA S)が2004年10月より設置されており、本拠点の地学・地物2専攻は、平成16年度秋学期 より入学者の受け入れを開始している。これは理学研究科関係のCOEが主体になって、外 国人学生を受け入れ、講義、研究指導をすべて英語で行うプログラムであるが、これにより理 学研究科の国際化を計ると同時に、本COEの国際交流、ならびに日本人学生の国際化にも 大いに寄与している。先端理学国際コースには、文部科学省が滞在費を保証する国費留学 生制度と、理学研究科が奨学金を授与する複数のサポート体制が敷かれている。これに関 連し、 (A) Origin of the Earth and Life 1(2単位) (B) Origin of the Earth and Life 2(2単位) (C) Mineral and Rock Science 1(2単位) (D) Origin of the Earth and Life3(2単位) (E) Advanced Lecture on Solid Earth Physics(2単位) (F) Atmospheric Science(2単位) (G) Seminar(2単位) (H)先端地球惑星科学特別講義1(1単位) といった英語による授業が開講された。講義は、日本人教員と外国人招聘研究者等によって 行われている。先端地球惑星科学拠点大学院コースの一貫としても、これらの講義を開講し ており、日本人受講者にも単位を出している。その他にも、短期招聘外国人研究者によるセミ ナー(先端地球惑星科学セミナー、2006年度延べ55回)や長期招聘外国人教員(4名)によ る講義、招聘外国人研究者によるサマースクール(9名の外国人研究者によって4日間開催、 延べ120人の大学院生が受講)等を実施している。もちろん、これらの招聘外国人研究者と 大学院生・若手研究者との講義以外での個人的な議論、付き合いは日常的になされている。 若手研究者による国際会議企画プログラム 2006年11月開催の国際シンポジウム「気候変動:過去から未来」、2006年11月開催の 国際ワークショップ「Water Dynamics 4」については、若手研究者が中心になって企画した。 また、2007年度開催予定のCOE最終年度国際シンポジウムについても、招聘研究者の決 定や、来日依頼の折衝などを、若手研究者よりなる実行委員会のもとで、実施している。 博士課程後期学生支援プログラム 博士課程後期3年の課程の院生をRAとして雇用し(5万円/月)、研究の実践をサポートす るとともに、教育実践の経験を充分に踏めるよう、配慮している(2003年度58名、2004年 度69名、2005年度65名、2006年度57名を雇用)。その中から特に卓越した院生(スーパ ードクター(SDC)を選抜(2003年度6名、2004年度9名、2005年度15名、2006年度1 5名)し、通常の2倍額のRA雇用(10万円/月)を行い、優れた若手研究者の研究の進展を、 さらに重点的に支援している(平成15年度より実施)。SDCの選定にあたっては、英文論文 (査読付き)の質と数、国際会議での発表実績、COE研究への貢献度、将来研究リーダーと して活躍できるか等、を選考基準としている。 若手研究者海外派遣プログラム 7名のPD及び若手教員を海外の研究拠点(コロラド州立大学、ウィスコンシン大学、アルゴン ヌ国立研究所、米国地質調査所、スクリップス海洋研究所等)に派遣して、これらの研究拠点 との共同研究を推進している。また、博士課程後期大学院生、COE研究員(PD)に対して、 国際学会での発表のための旅費支援を行っている。PD全員に、外国出張旅費の支給、博 士課程後期学生には、2003年度9名、2004年度25名、2005年度32名、2006年度3 1名に対して、国際学会での発表のための旅費支援を行っている。 若手教員による研究者招聘プログラム 本COE拠点の運営組織である教育運営委員会と研究運営委員会の委員には、若手教員を 積極的に登用し、招聘研究者の決定等に参加させている。それによって、若手研究者の研究 方向に沿った海外研究者の招聘を可能にするとともに、それを契機とした若手研究者による 海外拠点との国際共同研究の推進を後押ししている(カリフォルニア大学、ワシントン大学・オ ークランド大学等)。 若手研究者連携・交流プログラム 理学研究科内の3つのCOEと大学院GPと共同で、「ヤングブレインズによる先端科学シンポ ジウム」を開催した。本COEに所属するSDCを中心に他分野研究者との交流を行った。 COE研究員(PD)、若手研究者への連携・融合研究支援プログラム 若手の助手やCOE研究員(PD)への研究費の補助(研究費50万円/年、国際会議出席旅 費25万円/年を支給)、ならびに、公募による若手研究者への連携融合研究費の支援を行 ない(2003年度300万円×11件、2005年度13件総額840万、2006年度13件500万)、 多くの成果を挙げている。 その他 以上のようなプログラムの推進によって、大学院生を含む若手研究者の研究のポテンシャ ルが次第に増加している。例えば、若手研究者による研究奨励賞・論文賞授与や、国際会 議でのポスター賞授与等が認められ、また、SDCやPDからの助手採用、海外の拠点研究 機関への博士研究員としての転出などが認められ、若手研究者の流動性が増している。ま た、学術振興会特別研究員もコンスタントに採用されている(2003年度13名、2004年度 14名、2005年度17名、2006年度24名)。これらに関する具体的な事例は、本報告書に 掲載されている通りである。 【教育支援活動】 平成 18年度 特待大学院生 平成 18年度の特待大学院生(SDC)を以下の通り決定しました. 選考過程と結果 本COE拠点を構成する部局に所属する,大学院博士課程後期の大学院生を対象として公募し ました.48名の応募者のなかから (1)研究の意義と重要性, (2)英文論文の発表実績, (3)国際学会における発表の実績, (4)研究の目的が本COEの方向性と合致するか, (5)将来的に研究リーダーとして活躍が期待できるか, の5つの基準に則り厳正に審査した結果,以下の 15 名の方々を特待大学院生(SDC)として選 考するに至り,6 月 1 日付で発令しました. (順不同,敬称略.カッコ内は,専攻・学年,所属研究グループ,指導教員名) 山本 揚二朗 (地球物理学専攻 博士後期2年,固体地球/地震火山,藤本 博己) 阿部 淳 (環境科学専攻 博士後期2年,固体地球/地震火山, 土屋 範芳) 株田 知到 (環境科学専攻 博士後期2年,固体地球/地震火山, 土屋 範芳) 渡邉 則昭 (環境科学専攻 博士後期3年,固体地球/地震火山,土屋 範芳) 植原 稔 (地学専攻 博士後期2年,固体地球/地震火山,中村 教博) 境 毅 (地学専攻 博士後期3年,固体地球/核マントル,大谷 栄治) 津野 究成 (地学専攻 博士後期3年,固体地球/核マントル,大谷 栄治) 野澤 純 (地学専攻 博士後期2年,固体地球/核マントル,塚本 勝男) 千代延 俊 (地学専攻 博士後期3年,流体地球,尾田 太良) 山本 和幸 (地学専攻 博士後期3年,流体地球,井龍 康文) 杉本 周作 (地球物理学専攻 博士後期2年,流体地球・惑星圏/気候変動,花輪 公雄) 覃 慧玲 (地球物理学専攻 博士後期2年,流体地球・惑星圏/気候変動,川村 宏) 平木 康隆 (地球物理学専攻 博士後期3年,流体地球・惑星圏/太陽地球系,福西 浩) 垰 千尋 (地球物理学専攻 博士後期1年,流体地球・惑星圏/太陽地球系,福西 浩) 若林 誠 (地球物理学専攻 博士後期3年,流体地球・惑星圏/太陽地球系,小野 高幸) 平成 18年度 リサーチアシスタント 平成 18年度のリサーチアシスタント(RA)を以下の通り決定しました. 選考過程と結果 本COE拠点を構成する部局に所属する,大学院博士課程後期の大学院生を対象として公募し ました.選考の結果,本COEのプロジェクトメンバーの研究を支援していただくリサーチアシスタ ント(RA)として,今年度は次の方々(順不同,学年・敬称略)の採用を決定し、6 月 1 日付けで発 令しました.その後,7 月 1 日付けで、発令の追加を行いました. <地学専攻> 石川仁子, 石川弘真, 内田良始, 臼井洋一, 大金 薫, 神谷敏詩, 工藤賢太郎, Khobaer T.M, 紺谷和生, 酒井孝幸, 鄭 錫鎬, 中村一輝, 中村隆志, 畠田健太 朗, 古川善博, 森下信人, 門馬綱一, 山本 健太, 吉田明弘 <地球物理学専攻> 今井浩太, 梅澤拓, 小淵保幸, Kalaee Mohammad Javad, 越田友則,Kombiyil Raj Mohan, 小玉知央, 齊藤寛子, 沢田雅洋, 高村近子, 張霞, 坪内崇真, 萩原 雄一朗, 服部友則, 八木晃司, 八代尚 <環境科学専攻> 五十嵐哲, 入部紘一, 杉原誠, 高山卓也, 村上節明 <航空宇宙工学専攻> 菊池崇将, 沼田大樹 大学院生 国際学会参加旅費支援プログラム 大学院博士後期課程の学生を対象として、海外で開催される国際学会への参加を促進す る旅費支援プログラムを実施しました。 (支援一覧は次ページ) 大学院生 海外長期滞在旅費支援プログラム 博士課程後期の大学院生が海外で長期にわたり研究を行うことを奨励するため、旅費支援 プログラムを実施しました。 (支援一覧は33ページ) 平成18年度 大学院生国際学会参加旅費支援一覧 No 1 2 3 氏名 臼井 洋一 Yoichi Usui 指導教官 中村 教博 開催地 ウイーン (オーストリア) 地球物理 沢田 雅洋 Masahiro Sawada 岩崎 俊樹 モントレー (アメリカ) 地球物理 岩崎 俊樹 モントレー (アメリカ) 福西 浩 トリエステ ロスビンタルティ・カルティカ・レスタリ 専攻 地学 Rosbintarti Kartika Lestari 4 ラジモハン・コンビイル 地球物理 (イタリア) Rajmohan Kombiyil 5 小玉 知央 地球物理 岩崎 俊樹 Chihiro Kodama 6 高山 卓也 環境科学 佐藤 源之 7 千代延 俊 8 内田 良始 地学 尾田 太良 小淵 保幸 地学 大槻 憲四郎 坪内 崇真 地球物理 岡野 章一 若林 誠 地球物理 須賀 利雄 八木 晃司 地球物理 小野 高幸 杉本 周作 地球物理 木津 昭一 服部 友則 地球物理 花輪 公雄 森下 信人 地球物理 花輪 公雄 越田 友則 地学 今泉 俊文 阿部 淳 地球物理 小野 高幸 渡邉 則昭 Noriaki Watanabe 北京 (中国) 環境科学 土屋 範芳 Jun Abe 18 北京 (中国) Tomonori Koshida 17 北京 (中国) Nobuto Morishita 16 北京 (中国) Tomonori Hattori 15 北京 (中国) Shusaku Sugimoto 14 北京 (中国) Koji Yagi 13 北京 (中国) Makoto Wakabayashi 12 シンガポール (シンガポール) Takamasa Tsubouchi 11 メルボルン (オーストラリア) Yasuyuki Obuchi 10 ブレーメン (ドイツ) Yoshiharu Uchida 9 オハイオ (アメリカ) Shun Chiyonobu サンディエゴ (アメリカ) 環境科学 土屋 範芳 発表演題 High-pressure memory in magnetite found uder low temperature: implication for the impacted rocks at Vredefort crater 27th Conference on Hurricanes and Tropical Meteorology (第27回米国気象学会台風・熱帯 気象会議) Roles of cloud physics in development of tropical cyclone 「台風の発達における雲の役割」 28th Conference on Hurricanes and Tropical Meteorology(第27回 米国気象学会台風・熱帯気象会 議) Interaction between the Indian monsoon and the South China Sea monsoon 「南シナ海モンスーンとインドモンスーンの相互作用」 International Advanced School on Space Weather Storm-time equivalent current calculation using the 210 degree MM chain 「210度地磁気子午線チェーンデータによる磁気嵐時の等価電流計算」 40th CMOS CONGRESS (第40回カナダ気象学会) Changes in the Brewer-Dobson circulation due to the increased CO2 Radiation and SST induced effects 「CO2増加に伴うブリューワー・ドブソン循環の変化~放射とSSTによる効果」 International Conference on Ground Penetrating Radar 2006 (地中レーダ国際学会) A new DOA estimation algorithm for directional borehole radar 「指向性ボアホールレーダにおける新たな到来方向推定アルゴリズム」 Sampling of marine sediment cores and science meeting for IODP Expedition 303 Neogene calcareous nannofossil biostratigraphy of site 1308, North Atlantic 「北大西洋サイト1308における新第三紀石灰質ナンノ化石」 16th Annual V.M. Goldschmidt Conference (第16回ゴールドシュミット 会議) New experimental technique for P-V-T measurements of crustal fluids around critical point 「臨界点近傍における地殻流体のP-V-T測定装置の開発」 Asia-Oceania Geosciences Society 3rd Annual Meeting (アジア-太洋州地球物理 学会) Simultaneous imaging and particle observations of fine-scale aurora obtained by the REIMEI satellite 「れいめい衛星によるオーロラ微細構造の光学・粒子同時観測」 Western Pacific Geophysics Meeting (西太平洋地球物理学会 合) What sets the volume of subtropical mode water in each basin of the world ocean? 「全球の各海盆に存在する亜熱帯モード水の体積は何が決めているのか?」 Committee on Space Research 36th COSPAR Scientific Assembly (第36回宇宙空間研究委 員会) Development of new type impedance probe with continuous detection of the UHR frequency 「UHR周波数自動検出型インピーダンス・プローブの開発」 Western Pacific Geophysics Meeting (西太平洋地球物理学会 合) Dominant modes of surface air temperature variations in summer over Japan and their relation to the Okhotsk High 「日本の夏季地上気温場の卓越成分とオホーツク海高気圧との関係」 Western Pacific Geophysics Meeting (西太平洋地球物理学会 合) Long-term variation of remote reemergence of winter sea surface temperature anomalies in the North Pacific subtropical mode water 「北太平洋亜熱帯モード水水温偏差の遠隔再出現の長期変動」 Western Pacific Geophysics Meeting (西太平洋地球物理学会 合) Long-term Variation of Winter SST Field in the Northern Hemisphere in the 20th Century 「20世紀の北半球冬季海面水温場における長期変動」 Western Pacific Geophysics Meeting (西太平洋地球物理学会 合) Tectonic Processes of Teshio Fault Zone, Frontal Part of the Fold-andThrust Belts in Northern Hokkaido 「北海道北部、天塩断層帯の変動過程」 Committee on Space Research 36th COSPAR Scientific Assembly (第36回宇宙空間研究委 員会) Development of Wideband Digital Radio Wave Receiver onboard Spacecraft to Jupiter 「木星探査機搭載用広帯域電波デジタル受信機の基礎開発研究」 Geothermal Resources Council (GRC) 2006 Annual Meeting (GRC2006年年次会議) Natural and Experimental Evidences of low pressure and high temperature fracturing under sub and supercritical hydrothermal conditions 「高温低圧条件下の亜臨界‐超臨界熱水環境下で生じる岩石の破壊現象」 Geothermal Resources Council (GRC) 2006 Annual Meeting (GRC2006年年次会議) Experimental evaluation of fluid flow through artificial shear fracture in granite 「花崗岩せん断き裂内における流体流動の評価」 トロント (カナダ) Takuya Takayama 学会名 European Geosciences Union General Assembly 2006 (ヨーロッパ地球科学連合合同大 会2006) サンディエゴ (アメリカ) 平成18年度 大学院生国際学会参加旅費支援一覧 No 氏名 専攻 指導教官 開催地 学会名 発表演題 19 神谷 敏詩 地学 島本 昌憲 シアトル 72nd ANNUAL AMERICAN MALACOLOGICAL SOCIETY MEETING (第72回アメリカ貝類学会 例会) Phylogenetic relationships of Japanese species of the genus Semisulcospira (Caenogastropoda: Pleuroceridae) 「日本産Semisulcospira属 (Caenogastropoda: Pleuroceridae)の系統関係につ いて」 69th Annual meeting of the meteoritical society (隕石学会第69回年会) Micrscopic magneticfield distributions of unequilibrated ordinary chondrites 「非平衡普通コンドライト隕石における微視的な表面磁場分布」 Satoshi Kamiya 20 植原 稔 (アメリカ) 地学 中村 教博 Minoru Uehara 21 石川 仁子 スイス 地学 尾田 太良 Satoko Ishikawa 22 チン ホイリン 山本 和幸 地球物理 川村 宏 境 毅 地学 井龍 康文 八代 尚 地学 大谷 栄治 梅澤 拓 地球物理 青木 周司 地球物理 青木 周司 ハンブレ マーク アンドレ 地学 井龍 康文 28 杉原 誠 石川 弘真 環境科学 土屋 範芳 垰 千尋 地学 藤巻 宏和 入部 紘一 フィラデルフィア サンフランシスコ (アメリカ) 地球物理 福西 浩 Chihiro Tao 31 ジアン(フランス) (アメリカ) Hiromasa Ishikawa 30 Characterizing equatorial hot events using advanced satellite SST, solar radiation and wind speed 「最近の衛星海面水温、日射、海上風を用いた赤道域ホットイベントの特性」 Seal Aix'06 sea-level symposium (海水準変動に関する国際 シンポジウム) Responses of Quaternary coral reefs in the Ryukyus (SW Japan)to combined effects of subsidence and glacioeustasy 「琉球列島における第四紀氷河性海水準変動およびテクトニクスに対するサ ンゴ礁の応答」 16th Annual VM Goldschmidt Conference 2006(第16 回ゴールドシュミット学 会) Fe-Mg partitioning between perovskite, post-perovskite and magnesiowustite 「ペロブスカイトおよびポストペロブスカイトとマグネシオウスタイト間のFe-Mg 分配」 The 9th International IGAC Conference (第9回IGAC国際会議) Temporal and Spatial Variations of Tropospheric Carbon Monoxide over Japan 「日本上空における対流圏CO濃度の時間・空間的変動」 The 9th International IGAC Conference (第9回IGAC国際会議) Analysis of d13C and dD of stratospheric methane using online analytical system 「オンライン分析システムを用いた成層圏メタンのd13CとdDの解析」 シンポジウム) Variations of Pleistocene coral community structure in response to sea level change in the Ryukyu Islands 「琉球列島における更新世海水準変動に対する造礁サンゴ群集の変化」 Geological Society of America (アメリカ地質学会) 2-D Precise Autoradiography of Sedimentary Core Using Imaging Plate 「イメージングプレートを用いた堆積物コアの2次元精密オートラジオグラフィ」 AGU Fall Meeting (アメリカ地球物理学 連合) Hydrothermal system beneath Mt. Bandai (Japan): constrains from selfpotential, chemical and strontium isotopic data on hot spring waters 「磐梯山地下の熱水系ー自然電位及び熱水化学・Sr同位体組成からの制 約ー」 AGU Fall Meeting (アメリカ地球物理学 連合) Numerical Simulations of Dawn-Dusk Asymmetry in Latitudinal Width of the Jupiter’s Main Auroral Oval 「木星メインオーバルの緯度幅朝夕非対称性の数値計算」 The 3rd International Workshop on Science and Applications of SAR Polarimetry and Polarimetric Interferometry (第3回ポーラリメトリックインター フェロメトリックSAR学会) Comparison of L- and X-band POLSAR Data for Characterization of Polarization Orientation Angle Shift induced by Man-made Structure 「ポーラリメトリックSARデータを用いた人工構造物により生じる偏波オリエン テーション角シフトの周波数特性の検討」 Seal Aix'06 sea-level symposium リエージュ大学(ベルギー) (海水準変動に関する国際 Makoto Sugihara 29 Western Pacific Geophysics Meeting (西太平洋地球物理学会 合) ケープタウン (南アフリカ共和国) Humblet Marc Andre PLANKTIC FORAMINIFERAL ASSEMBLAGES AND OXGEN ISOTOPE RECORDS OF THE FORAMS 2006 Intrnational NORTHWEST ARABIAN SEA OVER THE PAST 215,000 YEARS Symposium on Foraminifera 「北西アラビア海における浮遊性有孔虫群集および酸素同位体記録からみた過去215,000年間の古海 (国際有孔虫学会) 洋変遷」 ケープタウン (南アフリカ共和国) Taku Umezawa 27 メルボルン (オーストラリア) Hisashi Yashiro 26 ジアン (フランス) Takeshi Sakai 25 北京 (中国) Kazuyuki Yamamoto 24 ナタール (ブラジル) Qin Huiling 23 チューリヒ サンフランシスコ (アメリカ) 環境科学 佐藤 源之 Koichi Iribe フラスカティ (イタリア) 平成18年度 大学院生海外長期滞在旅費支援一覧 No 氏名 専攻 指導教官 訪問機関 滞在期間 1 平木康隆 地球物理 福西 浩 ブレーメン大学 2006/7/10-8/2 スプライト放電の化学過程の数値計算及びEnvisat/Sciamachyのデータ解析 Yasutaka Hiraki 2 畠田健太朗 地学 海保 邦夫 Kentaro Hatakeda 3 山本健太 Kenta Yamamoto 派遣目的 ブレーメン大学 2006/9/10-10/16 オスロ大学 地学 日野 正輝 同濟大学 ブレーメンコアレポジトリにおいてIODP Exp. 306のサンプリングを行い,その 後オスロ大学にて北大西洋の放散虫群集を用いた古海洋環境解析について の共同研究を行う. 2006/10/25-11/12 「中国アニメーション産業の集積メカニズム」の研究 平成 18年度 研究者活動支援 研究者の短期海外派遣を経済支援しました。 -成果報告- 【派遣者氏名】井龍 康文(地学専攻・助教授) 【派遣学会】国際シンポジウム Seal’AIX06(フランス) 【派遣時期と期間】 平成 18 年 9 月 25 日から 9 月 29 日(5 日間) 【派遣先における研究活動】 今回,東北大学 21 世紀 COE プログラム(先端地球科学技術による地球の未来像創出)の研究者海外派遣 プログラムに採択され,南フランスのツーロン東方に位置するジアンという街で 9 月 25~29 日の 5 日間に渡っ て開催された国際シンポジウム Seal’AIX06 に参加しました.本学会は,さまざまな地質時代と時間スケールの 海水準変動に関する最新の研究成果の発表と議論を目的とするもので.世界各国から約 130 人の研究者なら びに院生が参加しました.日本からの参加者は,約 15 名でした. シンポジウムの初日(25 日)には,後氷期海水準変動に関する研究成果の発表と議論が行われ,特に,昨年 実施された IODP Expedition 310 <Tahiti Sea Level>を始めとする多くの研究で解明が進められている融氷パル スの年代および規模について,活発な議論がなされました.この問題に決着がつかない理由として,適当な堆 積物試料が入手し難いことが挙げられますが,その他の重要な要因として,堆積物の年代測定の高精度化と 簡便化にも関わらず,堆積物の古水深の決定に関する手法および精度が改善されていないという問題点を議 論の際に指摘しました. 学会 2 日目の 26 日は,第四紀,特に後期更新世の海水準変動に関する研究成果と議論が行われました.し かし,示された海水準変動は精度が悪く,研究者間で見解が大きく異なっていました. 特に,コロンビア大学ラ モント・ドハーティ地球研究所の研究グループが示した,酸素同位体比ステージ 3(MIS 3)の海水準の位置は, 従来の見解よりも著しく高く,多くの研究者が疑問を呈しました. 3 日目以降(27〜29 日)には,先第四紀の海水準変動に関する研究成果と議論が行われました.大陸の縁 辺部に形成された大規模な堆積体を対象として,震探データや検層データを詳細に検討し,2〜3 次オーダーの 海水準変動およびそれに呼応した堆積体の形成過程に関する研究のいくつかは,石油業界との共同研究とし て行われており,日本の大学でも,同様の研究戦略が必要と再認識しました.最終日の午後には,本シンポジ ウムの総括のための意見交換が行われました. 【派遣者氏名】鈴木 紀毅(地学専攻・地圏進化学講座・助手) 【派遣先機関と受入研究者】 派遣先機関:フンボルト大学自然史博物館 受入研究者:David Lazarus 博士 【派遣時期と期間】 平成 18 年 11 月7日から 11 月 20 日(14 日間) 【派遣先における研究活動】 このたび,研究者短期派遣プログラムの一つとして,「高精度生層序・古環境解析の為の放散虫の種基準確 定計画」を進展させるため,ドイツ国ベルリンのフンボルト大学自然史博物館に行って来ました.新生代の地 球史解明にあたり,大洋のあらゆる水深に生息するプランクトン原生動物,放散虫は,年代決定や古環境解 析で重要な役割を果たしてきました.この大学には,現在の古環境解析の基準となっている放散虫の基準標 本が多数保管されます.エーレンベルグコレクションと呼ばれ,約 170 年前に研究された1150 個体・530 種の 放散虫からなり,世界最初の放散虫化石記録に使われた顕微鏡用スライドです.当時のスライドは,脆弱な雲 母をスライドガラス代わりに使って作られており壊れやすく,貸与ないし館外持ち出しは不可能であるため,平 成 18 年 11 月7日に日本を離れ,この基準標本を調べに行きました. 写真にあるように,スライドは黄色くなったカナダバルサムを載せた円形のものかなり,1セット5つとなってい ます.この台座となっているのはウンモという透明で平たい鉱物で,ちょっとたわむとすぐバラバラになります. このスライドを「雲母ストリップ」と呼んでいます.雲母ストリップをトレイから取り出すとき,こわさないようにと緊 張する瞬間です.顕微鏡スライドといっても,カバーガラスで覆っていないので,対物レンズもぶつけないように 細心の注意を払って観察します.観察を始めれば,あとは,エーレンベルグご自身が遺した自筆スケッチと標 本を比較しながら,基準標本を探し出します.彼の末娘,クララ・エーレンベルグさんが,雲母ストリップのどの 場所にどの標本があるのか,緻密な記録を残しているので,それをたよりにします.記録は正確で,ほとんど の個体はすぐに発見できます.場所を示す印として,雲母ストリップの上に色を塗った紙の輪っかが貼り付け られていますが,白色が黒色に変色していたり,剥がれていることもあるので,標本特定が難航することもあり ます. このような作業を毎日,朝から晩まで顕微鏡の前に座って繰り返していました.持参した顕微鏡用デジタルカ メラで効率を上げ,今回の調査でエーレンベルグが記録を残した 1150 個体のうち,約 450 個体の発見・撮影に 成功しました.過去2年に断続的に調査できたのはわずか 110 個体だったので,著しく効率があがりました.お およそ半分の 550 個体の調査が終了し,新生代のうち,新第三紀以降の基準標本はほとんど網羅できました. この成果は直ちに論文化が始まり,一編の論文を国際誌に投稿したところです.この研究は,古典的コレクシ ョンと最先端の地球科学研究を結びつける成果が期待されるところです. この調査期間中に,幸運なことが2つありました.一つは,1860 年代頃から行方不明だった,エルンスト・ヘッ ケル博士の放散虫基準標本の一部が見つかり,この博物館に私のために一時貸与されていたこと,また,普 段は秘蔵されている始祖鳥化石の本物が特別招待者に公開されていて,そのグループに混ぜてもらえたこと です. 【派遣者氏名】木戸 元之(地震・噴火予知研究観測センター,産学官連携研究員) 【派遣先機関と受入研究者】 派遣先機関:米国 カリフォルニア大学 サンディエゴ校 スクリップス海洋研究所 受入研究者:C. D. Chadwell 【派遣時期と期間】 平成 19 年 1 月 29 日から 2 月 3 日(6 日間) 【派遣先における研究活動】 派遣先に発注していた音響装置と,東北大学が所有する GPS 受信機との電気的な接続の整合性を確認で きた.また,その音響装置と東北大学所有の観測ブイとの結合における,電源,信号線のコネクタ形状,および 物理的な取り付け位置,サイズの最終確認を行い,納入後速やかに東北大学のブイへ搭載できる目処がたっ た. 音響基盤と GPS 受信機 音響用ガラス球 音響送受波器 既存の海底局,海上局を含む音響装置について,既知の問題点の原因の究明および対処法について議論 し,帰国後にチェックする項目などを明らかにした. 海底地殻変動観測の観測誤差を低減させる観測形態,データ処理の方法について,双方のノウハウを提示 し,それぞれの長所,短所について話し合い,今後の観測に役立てることとした. 空き時間に同研究所近くの港に案内され, Robert Gordon Sproul 号や,海上で鉛直に 立ち上がって観測を行う Flip と呼ばれる珍し い海洋観測船の見学を行った.船内は,水 平・垂直状態の双方で生活できるよう工夫さ れている. 【派遣者氏名】矢部 康男 (地震・噴火予知研究観測センター・助手) 【派遣先機関と受入研究者】 派遣先機関:AngloGold 社 Mponeng 鉱山 受入研究者:Riaan Carstens 氏 (Rock Engineering 部門責任者) 【派遣時期と期間】 平成 19 年 1 月 31 日から 2 月 21 日(22 日間) 【派遣先における研究活動】 今回の派遣では,自然地震と室内実験の中間規模の破壊現象である鉱山地震の観測を通じて,自然地震 の相似則と室内実験で観測される微小破壊(AE)の相似則の関係を明らかにするために,南アフリカ金鉱山(以 下,南ア金鉱山) のひとつである Mponeng 鉱山において, AE 観測網の展開をおこなった. 鉱山地震は,その載荷過程こそ自然地震と異なるものの,発生過程自体は自然地震と極めて類似している と考えられている.南ア金鉱山では,深度 3000m をこえる大深度で採掘活動がおこなわれている.この深度は, 米国でおこなわれているサンアンドレアス断層掘削計画(SAFOD)の到達目標深度に比肩する.これほどの大 深度で,地震の発生過程を震源直近における多項目・多点観測でとらえることができるサイトは世界的にも稀 であり,地震発生の実験場としての南ア金鉱山の価値は,IASPEI で公認されるなど,世界的に高く評価されて いる. 南ア金鉱山における地震観測を有機的に推進するた めに,日本の地震学・地質学・岩盤力学の研究者有志 からなる南アフリカ金鉱山半制御地震発生実験グルー プ(南アG) が組織されている.派遣者(矢部)もこのグル ープに参加しており,今回の派遣でおこなったAE観測 網の展開も南アGの活動の一環である.現地での作業 は,同じく南アGのメンバーである東大地震研の中谷助 手や環境科学科の根本研究員と共同でおこなった. Mponeng 鉱山の Rock Engineering 部門は,採掘計画の 作成や坑内作業の安全確保を担当する部署であり,安 全性向上の観点から,南アGと共同で鉱山地震の観測 をおこなっている. 鉱山が休業となる週末には,隕石の落下により生じた 厚さ 2-3m のシュードタキライト層や,砂岩や泥岩の上に 噴出した厚さ 1km 程度の溶岩が侵食されてできた地形 である Drakensberg,カルデラ地形を利用して作られた 動物保護区である Pilanesberg の巡検を行い,南アフリ カの多様な自然環境や生態系を垣間見ることができた. 坑内での作業風景.坑道脇に奥行き 9m程度の小部 屋(cubby)があり,そこに観測機器を設置している.こ の cubby 内は換気があまりよくないので,気温は約 37 度と非常に暑い.坑道内の暗い場所での視認性 を確保するため,反射材付の作業服の着用が義務 付けられている. Ⅱ. 研究活動成果 【平成18年度の研究活動概要】 研究活動の新たな学術的知見 昨年度に引き続き、それぞれのサブグループにおいて、優れた成果が得られた。そのうちの幾つ かの例を以下に示す。 (1) マントル遷移層の鉱物中の水素拡散速度を測定し、IFREE との共同研究として、電気伝 導度の測定結果にもとづいて、スラブ直下のマントル遷移層に水が局在することを明らか にした。 (Hae et al., EPSL, 2006; Koyama et al., 2006)。また、含水鉱物δAlOOH 相 が下部マントル最下部の 135GPa, 2000K 程度まで安定であることを明らかにした。この 結果から、スラブの水は核マントル境界までは輸送されることが明らかになった。 (2) ポストペロブスカイト相と溶融鉄との反応関係を調べ,溶融鉄中に数%の酸素と珪素が溶 けこむことを明らかにした。また、ポストペロブスカイト相からなる核マントル境界領域では の1vol%程度の溶融鉄は分離せずに共存することが明らかになった。この結果は、核の 鉄が最下部マントルに混入しやすいことを意味し、マントルプルームの化学組成の特徴か ら、核マントル境界域起源の可能性を検証することができることを意味している。 (3) 近い将来発生が懸念されている宮城県沖で起こった 2005 年宮城県沖地震をアスペ リティモデルに基き解釈し,次の宮城県沖地震の地震像を明らかにする上で重要な 貢献をするとともに,壊れ残ったアスペリティの周囲で進行しているプレート間のはが れ(ゆっくり滑り)をモニターすることに成功した. (4) 太平洋スラブ内の二重深発地震面の上面に,火山フロント前弧側でそれとほぼ平行 な帯状の震源の集中域(上面地震帯)が形成され,関東下では直上のフィリピン海ス ラブの遮蔽によりそれが局所的に深部にシフトするなど,スラブ内地震の脱水不安定 説を強く支持する観測事実を見出した. (5) 3 次元のランダム弾性媒質におけるエンベロープの直接導出方法を確立し,ランダム 不均質構造のスペ クトルと短周期地震波形エンベロープの関連を明らかにした. (6) 冬季海面水温偏差の再出現現象の研究が進展し,北太平洋で亜熱帯モード水の遠 隔再出現現象が時間依存性を示すこと,アリューシャン低気圧の活動と一定の位相 関係を持つことが明らかとなった. (7) 複数の衛星搭載センサーによる新世代海面水温ディジタルデータがリアルタイムで作 成されるようになり,一般に公開された.この資料をもとに,熱帯域では,ホットイベン トと呼ばれる,数十日の時間スケールを持つ高海面水温現象が発見された. (8) 温室効果気体や関連期待の濃度などが,各種観測によりモニターされた.とりわけ大 気球による成層圏での観測により,大気成分に重力分離が起こっていること,酸素濃 度が減少していることなどが世界で初めて発見された。 (9) 国際的な大気輸送モデルの相互比較プロジェクトに参加し,温室効果気体の海洋に おける観測の重要性の指摘や,中国での二酸化炭素統計値の過小評価などの知見 を得た. (10) あけぼの衛星により磁気嵐時の異常電場分布が見出されたほか,FORMOSAT-2 に よるスプライト観測やオーロラストリーミングの解明,REIMEI 衛星観測によるパルセー ティングオーロラやブラックオーロラの発生メカニズムについての研究が進展した. (11) 水星,金星,木星並びに衛星イオについて,地上光学観測研究,木星電磁圏ダイナミ クスのシミュレーション研究が行われた.また,水星ナトリウムテールの全容を初めて 観測し,さらに,イオ起源プラズマが木星内部磁気圏にマスローディングされる過程を 明らかにした. (12) 地球進化史研究グループは、初期地球システムの構築(生命の起源含む)、大規模 氷河—温暖化と生物進化、小天体衝突と大量絶滅を重点課題とし研究教育を行って きている。特に 2006 年度は理工連携のもと衝撃波シミュレーション実験を行い二畳 紀・三畳紀境界での隕石落下に伴う環境変動を示した。 (13) 23億年前のスノーボールアース現象に伴う炭素循環を明らかにした。レーザーを用 いた安定同位体分析を主に先カンブリア時代の微生物活動に対して格段の理解を進 めた。同時に、大陸掘削をベースに古気候変動・海洋化学変動と生物進化の関連の 研究を格段に進めた。 複数部局の有機的共同および理学・工学の連携 今年度も第 4 回の Water Dynamics 国際シンポジウムを本拠点内の複数専攻の共同作 業として(核マントル研究、材料科学との融合を目指す試み)実施し、環境科学研究科で行 われている材料科学分野とも連携が進んでいる。また、引き続きフィールド地質学研究と地 震観測網を連携させた地学専攻・地球物理学専攻の共同研究として島弧の地震・火山研究 が進展している。また、地学専攻と流体科学研究所との連携によって、衝撃波実験にもとづ く小天体衝突のシミュレーションに関してその成果を論文として報告し、また、隕鉄の衝撃組 織の再現実験など、この拠点独自の有機的連携による研究を実施している。 理学系と工学系の複数の部局にまたがる連携研究が進展している。以下に例を挙げる。 1. 衝撃波シミュレーション実験を行い二畳紀・三畳紀境界での隕石落下に伴う環境変動を 示した(地学専攻、流体科学研究所) 2. 高温における金属鉄の衝突実験を行い、隕石組織との対比が行われている。 3. 地震発生と水および災害(地球物理学専攻、地震・噴火予知研究観測センター、地学専 攻、環境科学研究科、東北アジア研究センター) 4. 東北日本弧の上部マントル構造と火山の活動の起源(地球物理学専攻、地震・噴火予 知研究観測センター、地学専攻) 5. 気候変動と海面変動が,サンゴ礁の発達に与えた影響の解明や最終氷期最寒期以降 の短周期海洋環境変動(ENSO 等)を復元(地学専攻、地球物理学専攻) 6. 小天体衝突の影響評価(地学専攻、流体研、災害制御研究センター) 7. 新たに COE フェローを雇用し、過去の火山噴火に伴う津波現象の解明(地学専攻、東 北アジア、工学研究科災害制御研究センター)の研究を推進した。 国際競争力 事業推進担当者及び協力者が、国際的評価の高い論文誌に発表すること、国際的に評価の 高い国際学会でコンビーナや司会者として企画に積極的に参画することを奨励している。そ の結果、事業推進担当者 24 名が年間100 編以上の論文を国際的に評価の高い雑誌に発表 した。また、本拠点で活動した日本人及び外国人の若手研究者が世界の先端的研究機関で ポストが得られるように努力している。ロシア科学アカデミー・シベリア支部、コペンハーゲン 大学、COMPRES 等と研究交流協定を結び共同研究を推進し、大学院学生、教員の交流を 推進している。 情報発信 平成18年度には年間に100編を超える論文を国際誌に発表した。4th International Workshop on Water Dynamics 等の国際シンポジウムを開催した。国際鉱物学連合 (IMA)の神戸開催においては企画立案の中心となり、これを成功させた。この国際会議の 前後には、著名な鉱物科学研究者による特別授業(ショートコース)を開催した。著名研究者 の招聘と若手研究者の海外研究機関への派遣を行った。拠点パンフレット、年次報告書、外 部評価書を作成し、関係機関に配布した。国際会議でのコンビーナや事務局長(IMA、AGU、 EGU、ゴールドシュミットコンファレンス等)、国際会議タスクグループ(IASPEI など)のホー ムページ運営など、各分野の研究推進に国際的イニシアチブを発揮した。 固体地球研究グループの研究成果概要 【事業推進担当者】 大谷 栄治 長谷川 昭 近藤 忠 佐藤 春夫 藤本 博己 長濱 裕幸 土屋 範芳 吉田 武義 西村 太志 谷口 宏充 理学研究科 地学専攻・教授 理学研究科 附属地震・噴火予知研究観測センター・教授 理学研究科 地学専攻・助教授 理学研究科 地球物理学専攻・教授 理学研究科 附属地震・噴火予知研究観測センター・教授 理学研究科 地学専攻・助教授 環境科学研究科 環境科学専攻・教授 理学研究科 地学専攻・教授 理学研究科 地球物理学専攻・助教授 東北アジア研究センター地域環境研究部門・教授 【研究・教育活動】 固体地球研究グループは,地球内部の大規模な物質とエネルギーの移動,及びその主要 な表れである地震・火山現象の理解を深めることを目的として,広範な研究と教育を行ってき た.本年度は,教育・研究両面において以下のような様々な取り組みを行った. 2006年11月7-8日に,過去3回にわたる開催に引き続いて,国際シンポジウム「4th International Workshop on Water Dynamics」を開催した. 7月23-28日に神戸国際セ ンターで開催された「The 19th General Meeting of the International Mineralogical Association」では,5つのセッションで本COEメンバーがコンビーナを務めた.また,招へい する外国人研究者は11人を越え,そのうち長期にわたって滞在したS. R. Mcnutt アラスカ 大教授には,大学院生への講義・研究指導を行っていただいた.外部から研究者を迎えて開 催されたCOEセミナーは41回を数え,研究科・専攻の枠を越えて多数の参加者があり,特に 大学院生を始め若手研究者に大きな刺激を与えた.本COEが始まって以降,多数の大学院 生が国際シンポジウム等に参加し発表するようになった.本年度もそのうち7件に本COEか ら旅費の支援をした. 【研究成果概要】 固体地球研究グループは,大規模な地球内部の物質とエネルギーの移動と,その主要な 表れである地震および火山現象の理解を深めることを目的として,地球の表層から地球の中 心部までの広い領域を対象として研究を進めてきた.本グループは,「核マントルダイナミクス 研究サブグループ」と「地震火山ダイナミクス研究サブグループ」の二つのサブグループから なり,それぞれ意欲的に研究を進めている. 核マントル研究グループの大谷、近藤らは、マントルで生じる重要な相転移である橄欖石 からウオズレアイト転移及びリングウッダイトの分解の相境界に対する水の影響を X 線その 場観察実験によって明らかにした。その結果、水の存在によって、410km と 660km の地震 波不連続面の凹凸を説明できることを明らかにした。また、マントル遷移層に存在する主要鉱 物であるリングウッダイト中の水素の拡散速度を決定した。水素の拡散は、他の陽イオンの 拡散係数に比べて格段に速いことを明らかにした。水素の拡散は、電気伝導度を決定するこ とが明らかになっている。観測されたマントル遷移層の電気伝導度と今回決定した拡散係数 値から沈み込み帯付近のマントル遷移層に水が局在することを明らかにした。上記の実験結 果を総合して、沈み込むスラブによる水の移動 過程を明らかにし、水がマントル遷移層に濃集し、 さらに少量の水は含水相に取り込まれて、マント ル最下部に運ばれることを明らかにした。 また、昨年度に引き続き、核マントル分野の研 究の一環としてこの装置を用いた高温高圧反応 実験、放射光を用いたその場観察実験、回収試 料の組織観察・各種分光分析・組成分析を進め た。そして、核-マントル境界条件での実験を進 めた結果、外核中の軽元素候補として珪素と酸 素が併せて 10wt%溶け得ることを明らかにし、 現在も地球核とマントルが反応関係にある可能 性を示した。 地震火山研究グループでは,長谷川らが,近 い将来発生が懸念されていた宮城県沖で起こっ た2005年宮城県沖地震をアスペリティモデルに 基き解釈し,次の宮城県沖地震の地震像を明ら かにする上で重要な貢献をするとともに,壊れ残 ったアスペリティの周囲で進行しているプレート 間のはがれ(ゆっくり滑り)をモニターすることに 核マントル境界での反応 成功した.さらに,太平洋スラブ内の二重深発地 震面の上面に,火山フロント前弧側でそれとほぼ 平行な帯状の震源の集中域(上面地震帯)が形成され,関東下では直上のフィリピン海スラ ブの遮蔽によりそれが局所的に深部にシフトするなど,スラブ内地震の脱水不安定説を強く 支持する観測事実を見出した. 藤本らは,福島県沖の2年間 の海底地殻変動観測から,プ レート間のカップリングが強い 場所が宮城県沖から福島県沖 まで伸びていることを示唆する 結果を得た.また,プレート境 界地震のアスペリティの分布 が上部マントルの地震波速度 不均質構造に規定されている 可能性を示した.さらに,ケー ブル式津波計のデータを活用 した沿岸での津波波高予測の 技術開発を行った. 佐藤らは,東北から北海道 にかけて観測された微小地震 のS波エンベロープを解析し, スラブ地殻内の上面地震帯とスラブ接触域 波線が第四紀火山の下を通る 場合には散乱が強く,火山群の間を通る場合には散乱の効果が小さいことを発見した.これ は,第四紀火山の下では低速度かつ高減衰というだけでなく,速度構造の短波長不均質も 強いことを表している. IRISによって捉えられた遠地P波のTransverse成分へのエネルギー 分配を解析してリソスフェアの不均質の分布を調べ,島弧や衝突帯では不均質が強く大陸で は小さいことを明らかにした.理論面では,3次元のランダム弾性媒質におけるエンベロープ の直接導出方法を確立し,ランダム不均質構造のスペ クトルと短周期地震波形エンベロー プの関連を明らかにした. 長濱らは,前震Benioff歪緩和則と地殻粘弾性遷移挙動の時間に関するスケーリング則に ついて不可逆過程の熱力学に基づいて論じた.また地殻岩石の破壊・摩擦すべりに伴う電磁 気現象の発生メカニズムを解明するために,Pin-on-disk摩擦すべり実験により摩擦プラズ マ放電(発光現象)について調べ,断層活動に伴う断層アスペリティー周辺での摩擦プラズマ 放電現象(電磁波放射)を論じた.さらに,兵庫県南部地震前に観測された大気ラドン濃度連 続観測からBenioff歪緩和型の新しい大気ラドン濃度変化則を提示し,地震発生予測の可能 性について言及した. 土屋らは,岩石試料を用いた封圧100MPaまでの透水実験を行い,引張き裂,せん断き裂 いずれにおいても,岩石き裂内の流体流動は優先流路が形成される"チャネリングフロー"が 生じることを明らかにした.また,このチャネリングフローは,せん断方向に依存する異方性を 有することを明らかにしている.間隙に水を含むき裂の異常間隙圧とすべり挙動の解析から, 動的すべりと静的すべりが識別でき,また固着域ではすべりにともない,岩石の局所的融解 が生じることを実験的に明らかにした. 吉田らは,東北本州弧の地殻・マントル構造を地質学的,岩石学的に検討すると共に,長 谷川グループらと協力しながら,それらを地球物理学的観測データと統合し,地殻・マントル の3D構造を構築することを目的として研究を進めている.岩石学的に推定された現在のウェ ッジマントルの温度構造は地震波速度構造とよく対応していること,後期中新世〜鮮新世に かけて大量に形成された大規模陥没カルデラの地下で起こったであろうマグマの貫入は地殻 内に大規模なマグマ溜りを形成し,地殻内温度構造に多大な影響を与えたと考えられること, この温度構造撹乱の名残は現在も地震学的に検出できること,東北本州弧の地殻・マントル 温度構造は火成島弧の発展と密接に関連して発達してきたと考えられることを示した. 西村らは,マグマ上昇過程をモデル化し,火山体変形との関係を調べた.気泡を含むマグ マが上昇する場合について計算し,浅部における急激な体積増と上昇速度の増大のため, 火山体は時間とともに加速度的に変形が進むことを明らかとした.また,上昇途中で気泡内 のガスが周辺へ散逸し,脱ガスが起きる場合,マグマの体積が減少し上昇速度も小さくなる ため,火山体の変形は緩やかに進行することを示した.さらに,これらの特徴が,脱ガスが無 い爆発的噴火と溶岩ドーム形成のような非爆発的噴火に前駆する地殻変動データの特徴に 一致することから,火山の爆発性を予知できる可能性が高いことを指摘した. 谷口らは,爆発的噴火活動のダイナミックス理解を目的にして,無人火山探査機 MOVE の開発を進めている.昨年度までに,本体と内部に搭載する観測システ ムの完成をみてい るので,今期は,実際の噴火の際の使用を念頭において,1986年の大島三原山における 噴火推移に従った観測演習を行った.地形による電 波障害などにより多少の困難はあっ たが,遠隔操作により最大約 2.3km 離れた地点から三原山山頂火口に到達し,模擬観測を 行い,帰還させることに成功した.一方,中朝国境の白頭山に関しては,北朝鮮によるミサイ ル・核実験後,大きく変わった政治状勢のもとで,日中韓3ヶ国による国際共同研究体制構築 のための会議を開催し,共同研究の合意に至った.同時に,国内における共同研究グループ の組織化を行い共同研究に入った. 大谷 栄治 部局:理学研究科 地学専攻・教授 専門分野:鉱物物理学・高圧地球科学 主な研究課題:核・マントルダイナミクスの研究,地球内部の物質科学、 地球惑星の形成進化、地球内部構造の研究 連絡先:E-mail:[email protected] [研究報告] 1) 研究タイトル:地球内部における揮発性物質の大規模移動の研究 2) 研究目的と成果概要: 本研究は、核・マントルダイナミクス研究の一環として、地球内部への揮発性物質特に水の移動 と循環の過程を解明することを目的としている。本年度は、昨年度に引き続き沈み込むスラブによ る水の移動と深部マントルにおける水の存在様式と存在度を解明することを目指した。本年度の成 果は以下のようにまとめられる。 1. マントルで生じる重要な相転移である橄欖石からウオズレアイト転移及びリングウッダイトの分 解の相境界に対する水の影響をX線その場観察実験によって明らかにした。その結果、水の 存在によって、410kmと660kmの地震波不連続面の凹凸を説明できることを明らかにした。 2. マントル遷移層に存在する主要鉱物であるリングウッダイト中の水素の拡散速度を決定した。 水素の拡散は、他の陽イオンの拡散係数に比べて格段に速いことを明らかにした。水素の拡 散は、電気伝導度を決定することが明らかになっている。観測されたマントル遷移層の電気伝 導度と今回決定した拡散係数値からから沈み込み帯付近のマントル遷移層に水が局在するこ とを明らかにした。 3. 含水および無水マグマの密度を放射光の強力X線を用いた高温高圧X線吸収法によって 6GPaまで決定した。その結果を高圧に外挿すると、無水マグマの密度が、従来の浮沈法によ って8GPaで決定された密度よりもやや小さい値を与える。この結果は、6~8GPa付近におい てマグマが構造変化をしている可能性を示唆する。また、マグマ中の水の部分モル体積の圧 力変化を決定した。 4. 含水δAlOOH相の安定領域を高温高圧X線その場観察によって明らかにした。その結果、こ の相は、CMBの条件では2000K以上の温度でも安定に存在することが明らかになった。 5. 上記の実験結果を総合して、沈み込むスラブによる水の移動過程を明らかにし、水がマントル 遷移層に濃集し、さらに少量の水は含水相に取り込まれて、マントル最下部に運ばれることを 明らかにした。 長谷川 昭 部局:理学研究科 地震・噴火予知研究観測センター・教授 専門分野:地震学 主な研究課題:1)地殻・マントル構造,2)沈み込み帯の地震テクトニクス, 3)地震発生予測 連絡先:E-mail:[email protected] [研究報告] 1) 研究タイトル:沈み込み帯における地殻・上部マントル構造と地震発生機構の研究 2) 研究目的と成果概要: 地震発生や火山噴火の予測精度を向上させるためには,地震発生・マグマ生成の場である地 殻・上部マントル構造,その中で起きる地震の発生機構と火山の噴火機構を理解する必要がある. 本研究の目的は(1)プレート沈み込み帯の地殻・上部マントル構造,(2)その中で発生する地震で あるプレート境界地震,内陸地殻内地震,スラブ内地震それぞれについて,その発生機構,すなわ ち地震発生に至る応力集中機構の理解を深めることである. 地殻・上部マントル構造の研究では,西南日本沈み込み帯のトモグラフィ解析を開始し,西南日 本下に沈み込んだフィリピン海スラブのマントル部分に相当する地震波高速度域をイメージングす ることができた.その結果,中部地方北部下に沈み込むフィリピン海スラブを約200㎞の深さまで捉 えるなど,震源分布だけでは推定不可能なフィリピン海スラブの形状を広域にわたって推定するこ とができた.さらに,中国地方日本海側に分布する火山群の原因であろうと推定される,フィリピン 海スラブより下側の深さ400㎞から火山群直下まで分布する顕著な低速度域の存在を見出した. プレート境界地震については,2005年宮城県沖地震(M7.2)の発生を受け,それが想定宮城県 沖地震とどう関わるかを,アスペリティモデルに基き解釈し,2005年宮城県沖地震は,前回(1978 年)の宮城県沖地震(M7.4)を起こした複数のアスペリティのうち,南東部のアスペリティだけが破 壊したものであることを明らかにした.さらに2回前の宮城県沖地震の発生様式を明らかにするな ど,近い将来起こるであろう宮城県沖地震の地震像を知る上で,重要な貢献をしてきた.今年度は さらに研究を進め,地震後壊れ残ったアスペリティの周囲でどのようにゆっくり滑りが進行している かを,GPS データの解析から検討し,残されたアスペリティの南側だけでなく東側でもゆっくり滑り が生じたことを明らかにした. スラブ内地震の発生機構の研究でも大きな進展がみられた.すなわち,太平洋スラブでは,沈 み込みに伴う地殻内の脱水反応によって,二重深発地震面の上面が火山フロント前弧側に,それ とほぼ平行な帯状の震源集中域(上面地震帯)を形成すること,上面地震帯は,関東下ではフィリ ピン海スラブとの接触によりマントルウェッジからの加熱が妨げられ,局所的に深部にシフトするこ とを明らかにした.これはスラブ内地震が脱水不安定によって発生するという仮説を強く支持する 観測事実である. 内陸地震については,東北日本沈み込み帯を対象として内陸の活断層にどのように応力が集 中するかを説明する内陸地震発生モデルを提案してきたが,西南日本に見出されている歪集中帯 でも東北日本と類似して,その直下の下部地殻や最上部マントルが低速度帯を形成していることを 見出した. 近藤 忠 部局:理学研究科 地学専攻・助教授 専門分野:核マントル・地球内部物理学・超高圧物理化学 主な研究課題:核マントル境界における安定相と化学反応、 超高圧下の溶融実験、地球核の構造 連絡先:E-mail:[email protected] [研究報告] 1) 研究タイトル: 核-マントル境界における安定相と反応関係及び核の性質 2) 研究目的と成果概要: 本研究では地球物理学的観測から得られている深部マントルから核に至る様々な不均質構造 や制約条件に対する物質科学的な解明のアプローチとして、地球の核条件を実験室に再現できる レーザー加熱ダイヤモンドアンビルセルを用いた実験を行っている。昨年度に引き続き、核マントル 分野の研究の一環としてこの装置を用いた高温高圧反応実験、放射光を用いたその場観察実験、 回収試料の組織観察・各種分光分析・組成分析を進めた結果、以下の研究成果が得られている。 1. 昨年に引き続き珪酸塩と溶融鉄の反応に関して、核-マントル境界条件での実験を進めた結果、 外核中の軽元素候補として珪素と酸素が併せて 10wt%溶け得ることを明らかにし、現在も地 球核とマントルが反応関係にある可能性を示した。 2. Fe-H2O 系の反応関係に関して、約 100GPa 領域でのX線その場観察を行い、これまで鉄水素 化物と鉄酸化物が得られている低圧側の反応境界との整合性について調べた。約 2000K まで の温度条件で、反応は遅く、回折線で検出できる有意な鉄水素化物と鉄酸化物が得られない ことが分かった。 3. 100 万気圧を超える条件で安定な含水鉱物であるδ—AlOOH に関して、放射光を用いたX線 その場観察実験を続けた結果、少なくとも 100GPa-2000K の条件まで分解やその他の相転移 を起こさずに安定に存在しうることが分かった。 4. ガス惑星系の対流圏・内部構造に重要な水素—ヘリウム系の実験に関して、昨年取得した室温 30 万気圧までのラマン散乱データを基に、外熱式ダイヤモンドアンビルセルを用いた高温高圧 下の振動分光特性を調べた。 5. 高エネルギー加速器研究機構の放射光実験施設にある、レーザー加熱ダイヤモンドアンビル セルを用いたX線回折実験装置(BL-13A)に対して大幅なレーザー加熱光学系の改良を行い、 温度の安定性・測定精度の高い実験が可能となった。 佐藤 春夫 部局:理学研究科 地球物理学専攻・教授 専門分野:固体地球物理学・地震学 主な研究課題:固体地球の不均質構造の解明 連絡先:E-mail:[email protected] [研究報告] 1) 研究タイトル:固体地球の不均質構造の解明 2) 研究目的: 固体地球のリソスフェアは 3 次元的に複雑でランダムな短波長成分に富む.震源ではパルス的な 地震波も,伝播距離の増加とともに不均質構造による散乱の効果によって大きく崩れ,主要動の継 続時間が大きくなる.本研究では,ランダム不均質構造におけるパルス波の伝播の数理的モデルを 構築するとともに,島弧・火山における高周波数地震波のエンベロープ形状から不均質構造を推定 し,強振動の定量的予測の基礎を確立することを目的とする.固体地球深部のマントルにおいても, その不均質構造の知見は地球の構造と進化の過程を考える上でも重要である.本研究では,コア・ マントル境界における反射 S 波を含む長い経過時間にわたるコーダ波の解析に取り組む. 成果概要:今年度の主要な成果を以下に記す. 1. ランダム不均質な弾性媒質を伝播する短周期地震波のエンベロープの数理モデル(Markov 近 似)に取り組み,3 次元の平面波,球面波それぞれの理論エンベロープの導出方法を確立した. また,2 次元円筒波の差分シミュレーションを行い,Markov 近似の妥当性を示した. 2. 東北から北海道にかけての地震S波エンベロープを解析し,波線が第四紀火山の下を通る場合 には散乱が強く,火山群の間を通る場合には散乱の効果が小さいことを発見した.これは,第四 紀火山の下では低速度かつ高減衰というだけでなく,速度構造の短波長不均質も大きいことが 明らかになった. 3. IRIS によって捉えられた遠地P波の Transverse 成分へのエネルギー分配を解析して Lithosphere の不均質の分布を調べたところ,島弧や衝突帯では不均質が強く,大陸では小さいことを明らか にした. 4. 世界各地で観測された地震のコーダ波エンベロープの時間変化を解析し,平均振幅が時間の 冪乗に従って減少することを初めて明らかにした.これは,固体地球のランダム不均質構造にフ ラクタル的特徴を持つことを示唆する. 5. 波動の伝達関数を導出する新しい方法として微動の相互相関関数の統計的平均操作が提唱さ れており,これに関する解説論文を共同で執筆した. 3) 国際交流: IASPEI の Commission on Seismological Observation and Interpretation のメンバーとして次期 IUGG(イタリア・ペルージャ開催)の準備に取りくむ.これに関連して,IASPEI の Task group on scattering and heterogeneity の 代 表 を 務 め る と 共 に , ホ ー ム ペ ー ジ (http://www.scat.geophys.tohoku.ac.jp/index.html) を運営してきた. 4) 受賞・他 ・EPS掲載論文 “Tanaka, S., M. Ohtake, and H. Sato, Tidal triggering of earthquakes in Japan related to the regional tectonic stress, Earth Planets Space, 56, 511-515, 2004” に対して,「2005 年 日本地震学会論文賞」を受賞.同論文については,筆頭著者の田中佐千子博士(地球物理学専 攻院博士後期課程修了,現・防災科研)が「2005 年度EPS賞」を受賞. ・GRL 掲載論文 Sawazaki et al. (2006)が Editor’s highlights に記載される. 藤本 博己 部局:理学研究科 地震・噴火予知研究観測センター・教授 専門分野:海底測地学 主な研究課題:海底地殻変動観測による沈みこみ活動の研究 連絡先:E-mail:[email protected] [研究報告] 1) 研究タイトル: 海底における地震・津波・地殻変動観測による沈みこみ活動の研究 2) 研究目的: 沈み込み帯の海底地震計網による自然地震の長期観測と,海底圧力計による海洋・海底の変 動および津波の観測,GPS 音響結合方式の繰り返し海底測位による海底地殻変動の観測などに より,日本周辺海溝域における海洋プレートの沈み込み過程と地震発生機構を解明する. 成果概要: 宮城県沖の地震観測により得られた自然地震の震源位置を精密に再決定し,地震波トモグラフ ィによる地震波速度構造を求め,沈み込み帯の深部構造を明らかにした.その結果,沈み込む海 洋地殻と,その上面付近に地震活動が集中するプレート境界の分布が明らかになった.プレート境 界面頂上のマントルウェッジの高速度の分布と宮城県沖の大地震の破壊域との間に相関があるこ とが明らかとなった.その破壊域の北側ではマントルウェッジの速度はしだいに低くなっており,陸 上の GPS 観測や繰り返し地震の観測から,そこではプレート間の固着の程度が比較的弱いと推定 されていることと対応している. 平成 16 年度より,GPS 音響結合方式の繰り返し測位観測による地殻変動観測を宮城県沖と岩 手県沖で開始しており,17 年度は福島県沖でも観測を開始した.その結果,陸上の GPS 観測から す推定されているように,宮城県および福島県沖で熊野灘においても,プレート間の固着が強い状 態であることがあきらかになった. 2004 年 9 月の紀伊半島南東沖地震の前から GPS 音響結合方 式の測位観測を行っており,地震に伴う約 30cmの海底地殻変動を確認した.これを報告した論文 は,地震に伴う大きな海底地殻変動を海底測地観測で捉えた初めての論文となった.陸上のGPS 観測および熊野灘における名古屋大学および海洋情報部の海底地殻変動の暫定的な結果を合 わせて解析して得られた震源断層モデルは,余震分布とよい一致を示している. 三陸沖における海底長期圧力観測データを解析し,5つの海洋潮汐モデルは観測結果と 1.3cm よりよい精度で合うことを示した.観測された非潮汐成分を説明するためには圧力駆動のモデルが 重要であるが,風駆動モデルと結合したモデルの開発が必要である. 長濱 裕幸 部局:理学研究科 地学専攻・助教授 専門分野:岩石破壊力学・地球連続体力学 主な研究課題:活断層系の不均質構造と余震分布の解明,地殻の粘弾性遷 移挙動の解明,断層岩石英中の hydrogen 分布と地殻強度軟化に関する研究, 地殻岩石の流動・破壊・摩擦すべりに伴う電磁気現象に関する研究,地震前 兆大気ラドン濃度変動に関する研究,非対称連続体力学・多結晶塑性力学理 論・地震波線理論・力武ダイナモ理論・非線形力学系に関する KCC 理論に関 する微分位相幾何学の開拓 連絡先:E-mail:[email protected] [研究報告] 1) 研究タイトル:「地殻岩石の流動・破壊に伴う電磁気現象とそのスケール不変性に関する研究」 「地震前兆大気ラドン濃度変動に関する研究」 2) 研究目的と成果概要: 本研究は,地震火山ダイナミクス研究の一環として,地殻岩石の流動・破壊に伴う電磁気現象とそ のスケール不変性の解明や大気ラドン濃度変動の連続計測による地震発生予測を目的としてい る。 今年度は不可逆過程の熱力学的アプローチにより,余震の大森則や前震 Benioff 歪緩和則と地 殻粘弾性遷移挙動の時間に関するスケーリング則について論じた。また,地震や破壊の乱雑さや 対称性を定量化するための指標として Symmetropy の概念を提唱した。 地殻岩石の破壊・摩擦すべりに伴う各種電磁気現象の発生メカニズムを解明するため に,Pin-on-disk 摩擦すべり実験による石英円盤と黄鉄鉱・石英ピン間に発生する摩擦プラズマ放電 (発光現象)についての研究を行ない,断層活動初期における断層アスペリティー周辺での摩擦プ ラズマ放電現象や電磁波放射について論じた。さらにこの Pin-on-disk 実験との関連で、粉砕石英 試料の熱ルミネッセンス解析から断層活動に伴う断層内石英粒子の熱ルミネッセンス強度につい て解析し,石英内の発光中心の形成メカニズムと断層活動年代推定法について論じた。また,地震 電磁気現象発生メカニズムの解明に関連して,地震前兆の大気ラドン濃度変化についての研究を すすめた。兵庫県南部地震の前兆に観測された大気ラドン濃度変化連続観測から認められた Benioff 歪緩和型のラドン濃度変化則を用いての地震発生予測の可能性についての講演発表を行 なった(その成果の一部を現在 Nonlinear Geophysics に投稿中)。 上記の成果以外に, 非対称連続体力学・多結晶塑性力学理論・地震波線理論・力武ダイナモ理 論・非線形力学系に関する KCC 理論に関する微分位相幾何学を開拓した。 本 COE 拠点枠日本学術振興会特別研究員(DC1)・日本学術振興会特別研究員(DC2)・日本 学術振興会海外特別研究員や大学院生(MC1)と Institute of Geophysics, ETH Hoenggerberg 楠城 博士ら共に国際学術雑誌(ISI 登録論文)・学会講演・新聞などにおいてこれらの研究成果を報告 した。 土屋 範芳 部局:環境科学研究科 環境科学専攻・教授 専門分野:地震火山、地殻内流体 主な研究課題:岩石-水相互作用,及び地震発生における水の役割 連絡先:E-mail:[email protected] [研究報告] 1) 研究タイトル: 地震発生と水の役割 2) 研究目的と成果概要: 地殻内の流体の特性(組成,流動特性)および流体流路,さらに断層などの岩盤不連続面にお けるアスペリティ分布についての実験的および野外地質学的研究手法から検討した. 超臨界地殻流体の特性を明らかにするため,高温高圧セルを開発し,超臨界状態にある水の赤 外吸収スペクトルを計測し,熱水誘起割れのメカニズム解明をすすめた.その結果,以下のことが 明らかとなった. 三波川変成帯,日高変成帯および四万十帯において鉱物充填脈の分布と,鉱物組成,組織に ついて検討を行った.日高変成帯では,グラニュライト帯において変成作用と同時期の鉱物充填脈 を観察し,延性温度条件下においても,母岩を脆性破壊して,地殻流体が進入することを見いだし た.これは,水が関与する鉱物充填脈の場合には,600℃以上の高温環境下でも脆性破壊が生じ る証拠と考えられる.また,三波川変成帯においては泥質変成岩と玄武岩質(塩基性)変成岩では, 鉱物充填脈の分布様式や組成が大きく異なることを明らかにした.泥質変成岩中では,石英質と 炭酸塩の鉱物充填脈が分布するのに対し,玄武岩質(塩基性)変成岩中では,CO2 に富む流体に より脈が形成されていること,また母岩から Ca が溶出し,CaCO3 として固定化される傾向が著しい ことを見いだした.四万十帯では,砂岩,泥岩,玄武岩質母岩の性質によく対応して鉱物充填脈が 分布する.これらの研究結果から,付加帯での鉱物充填脈,すなわち流体流路の特徴には,ある 共通の特徴(珪酸塩と炭酸塩鉱物の共沈,CO2 の関与)があることが明らかとなった. 地震発生帯における流体を含む断層面の模擬実験として,封圧下にある岩石き裂の接触状態 を可視化に成功し,き裂内(断層内)には優先流路(チャネリングフロー)が生じることを実験的に明 確に示した.また,流体を含むせん断すべり面の接触部(アスペリティ)では,急速なせん断すべり の結果,岩石の摩擦溶解が局所的に生じている可能性がある. 研究室ホームページ:http://geo.kankyo.tohoku.ac.jp/ 吉田 武義 部局:理学研究科 地学専攻・教授 専門分野:火成岩岩石学および火山学 主な研究課題:島弧マグマ成因論、島弧の形成発達史、カルデラ学 連絡先:E-mail:[email protected] [研究報告] 1) 研究タイトル:東北本州弧における火成活動史と地殻・マントル構造 2) 研究目的と成果概要: 本研究の目的は、東北本州弧の地殻〜マントル構造を地質学的、岩石学的に検討すると共に、 それらを地球物理学的観測データと統合し、地殻〜マントルの3D構造を構築することである。 近年の地震波トモグラフィーの発展によって、東北本州弧の地殻・マントル構造を、詳しく可視化 することが可能になった。地質学的データや岩石学的データをあわせ検討することにより、地震波 トモグラフィーは、地殻やマントルの温度構造を明らかにするための有効な道具となる。岩石学的 に推定される現在のウェッジマントルの温度構造は、地震波速度構造とよく対応している。後期中 新世〜鮮新世にかけて大量に形成された大規模陥没カルデラの地下で起こったであろうマグマの 貫入は、地殻内に大規模なマグマ溜りを形成し、地殻内温度構造に、多大な影響を与えたと考えら れる。この温度構造撹乱の名残りは、現在も地震学的に検出できる。東北本州弧の地殻・マントル 温度構造は、火成島弧の発展と密接に関連して発達してきたと考えられる。 さらに、地殻やマントルを構成する岩石についての、高温高圧下での地震波速度測定データと Vp、Vs 速度構造を対応させることにより、地殻〜マントル内部での岩石学的な不均質構造が見え るに至っている。これらが火山岩の示す地球化学的データと統合されると、これまでに無い精度で、 地殻〜マントル内構造とその形成史を論ずることが可能となろう。 東北本州弧における第四紀 火山とカルデラの分布 西村 太志 部局:理学研究科 地球物理学専攻・助教授 専門分野:火山物理学 主な研究課題:火山噴火のダイナミクスの研究 連絡先:E-mail:[email protected] [研究報告] 1) 火山噴火の爆発性に関する研究 2) 研究目的と成果概要: 火山の爆発性は,マグマに内包される水などの揮発性物質により引き起こされる.マグマ上昇 中に揮発性物質が発泡を開始し,そのまま地表にまで達すれば爆発的噴火が引き起こされ,途中 で脱ガスすれば溶岩ドーム形成などの非爆発的噴火が起こる.本研究では,このような噴火の爆 発性を,地殻変動などの地球物理学的な観測データと比較が可能な基礎モデルを構築した.さら に,モデルから期待される地殻変動と実際の火山のデータと比較を行い,火山の爆発性の予測の 可能性を調べた. メルト中の気泡成長を,気泡とメルトの運動方程式,メルト中水分子の拡散方程式,気泡の状態 方程式およびメルトと弾性体との力学的釣り合いの方程式で表し,また,鉛直方向に伸びる火道を 上昇するマグマを,ナビエス・ストークスの式で表現し,気泡を含むマグマの弾性体中の上昇をモ デル化した.さらに,マグマ上昇中の脱ガス過程をマグマの密度変化で表現することにより,脱ガ スが全くない場合と,ある深さから一定の割合で脱ガス(マグマの密度増加)が起きる場合につい て,マグマの上昇や気泡の成長,地殻変動量を数値的に計算した. その結果,次のことが明らかとなった.脱ガスが無く爆発的噴火が発生するときには,気泡の成 長によりマグマの密度が低下するため,マグマは浮力を獲得し上昇速度が次第に速くなる.また, マグマ全体の体積も増加する.これらの効果により,マグマは地表面に近づくにつれて,急速に上 昇速度と体積を増大させる.その結果,火山体は急速に膨脹し,変形する.一方,ある深さでマグ マから十分脱ガスが起きる場合,その深さからマグマの密度が大きくなるため,上昇速度は低下す る.地表面にマグマが近づくことは地表変形は大きくする効果を生むものの,マグマから気泡が外 部へ分離することによるマグマの体積の現象は地形変形を弱める.そのため,脱ガスが起きない 場合に比べると,火山体の変形速度は緩やかとなる. これまでに報告されている論文から,粘性の高い溶岩を有する火山の噴火前の地殻変動データ を調べた.溶岩ドーム形成の前の地殻変動データは,時間的にほぼ一定の割合で山体が変形し ているのに対し,爆発的噴火の直前は,急速な変形が記録されている.このような特徴は5火山中 4火山で認められ,上記のモデルから予見される特徴と良く一致している. モデルからの予見と観測データの一致は,火山の火口近傍において精密な地殻変動観測を行 うことにより,短時間の内に甚大な災害を引き起こす,激しい爆発的噴火が発生するのか, あるい は,溶岩ドーム形成のような非爆発的噴火が起きるのかを事前に予測できる可能性が高いことを 示唆している. 谷口 宏充 部局:東北アジア研究センター 地域環境研究部門・教授 専門分野:火山科学 主な研究課題:爆発的噴火のダイナミックス 連絡先:E-mail:[email protected] [研究報告] 1) 研究タイトル:火山探査移動観測ステーション MOVE の開発 2) 研究目的と成果概要: 爆発的な噴火活動のダイナミックス理解を目的にして、危険を避け、遠方より噴火推移の調査や 観測を行えるよう、無人火山探査機の開発を進めている。今期は、すでに開発が一応終了してい る MOVE を、実際の火山において運用可能かどうか、問題があるとするならそれはどのような点で ありその解決方法とは何か、を伊豆大島三原山において探ろうとした。2006 年5月25日から6月8 日にかけて、走行試験と爆発実験による搭載観測機器の性能試験を行った。その結果、約2km離 れた地点からスコリアの散在する山道を無線操縦により登坂させることに成功し、爆発実験に伴う 映像や圧力波の受信にも成功している。一方、中朝国境地帯に位置する白頭山火山について、干 渉 SAR などの衛星観測を行い、現在、同山では火山危機が発生していることを明らかにした。その ため、2007 年1月には北京において、日中韓朝関係4ヶ国による協議を行い、今後、4ヶ国で共同 研究を進めてゆくことを決めた。 大島三原山における MOVE の走行試験 流体地球・惑星圏研究グループの研究成果概要 【事業推進担当者】 花輪 中澤 川村 岡本 井龍 福西 小野 中村 公雄 高清 宏 創 康文 浩 高幸 教博 理学研究科 理学研究科 理学研究科 理学研究科 理学研究科 理学研究科 理学研究科 理学研究科 地球物理学専攻・教授 地球物理学専攻・教授 地球物理学専攻・教授 地球物理学専攻・助教授 地学専攻・助教授 地球物理学専攻・教授 地球物理学専攻・教授 地学専攻(総合学術博物館)・助手 その他,理学研究科地球物理学専攻,地学専攻,環境科学研究科環境科学専攻に所属 する教員が協力教員として教育と研究に従事している. 【研究・教育活動】 (1) COE フェロー・特大大学院生等 2006 年度,本グループには,4 名の COE フェローが所属し,研究に従事している.また, 2006 年度,本グループから特待大学院生(SDC)として 7 名が採用された.また,大学院生国 際学会参加支援プログラムにより,本グループから 16 名の院生が海外で開催された学会や シンポジウム等に参加し,研究発表を行った. (2) 海外からの招聘研究者等 2006 年度,本グループは,2 名の長期招聘研究者と 1 名の短期招聘研究者を迎え,本グ ループ研究者との共同研究を進め,さらにセミナーを多数開催した.また,長期招聘研究者 は,英語による大学院講義を行い,多数の院生が受講した. (3) シンポジウム等 2006 年度,本グループ所属研究者が中心となって,以下のシンポジウム等が開催された. 「第 3 回微化石サマースクール」(2006 年 8 月 17 日~19 日,本学・理学研究科),「Inter- national Symposium on "Climate Change: Past and Future"(流体地球研究領域 国際シンポ ジウム)」(2006 年 11 月 6 日~9 日,仙台市 国際センター).後者のシンポジウムは,「気候 ダイナミクス」は主催したシンポジウムで,国外から 13 名,国内からも 13 名の第一線の研究 者を招待し,本学の学生・院生,教員,学外者を含め,合計 126 名の参加者があった.4 日間 にわたる講演・ポスター論文発表が行われ,活発な研究交流が行なわれた. また,本グループが共催して,「The 4th International Workshop on Water Dynamics」(2006 年 11 月 7 日~8 日,本学・青葉記念会館),「日本サンゴ礁学会第9回大会」(2006 年 11 月 24 日~26 日,仙台市 斎藤報恩会博物館)を開催した. (4) COE セミナー等 2006 年度,本グループは,外部からの研究者を迎え,13 回の COE セミナーを開催した.こ のうち,国内からの講師によるセミナーは 5 回,海外からの講師によるセミナーは 8 回であっ た.各セミナーには,研究科,専攻の枠を超えて,また外部研究機関からの参加者もあり,院 生に対して大きな刺激を与えた. 【研究成果概要】 「流体地球・惑星圏研究グループ」の目的は,地球の表層から超高層,太陽・惑星圏を対 象として様々な視点から研究を行うことで,気候形成の理解,気候変動の理解,地球温暖化 の理解を深め,地球気候の未来像の構築することである.本グループは,「気候変動ダイナミ クス」領域,および「太陽地球系ダイナミクス」領域の 2 つのサブグループからなる. 「気候変動ダイナミクス」領域は,地球の気候形成の仕組みを理解し,過去から現代に至る 様々時間スケールでの変動を復元・解明し,さらに数値シミュレーションにより,未来の気候 像を提出することを目的とし,「太陽地球系ダイナミクス」領域は太陽活動変動にともなう,地 球周辺の電磁環境変動(宇宙天気)や地球の気候変動の解明を目指し,また他の惑星にお ける環境変動とを比較研究することで,広義の地球気候システムを理解することを目的として いる.本流体地球・惑星圏研究グループの 2006 年度の主な研究成果は以下のようにまとめ られる. 「気候変動ダイナミクス」グループ 本領域の研究は,気候変動の実態と,変動のメカニズムを解明するため,多方面からアプ ローチによる研究が進展した.事業担当者による研究成果は以下のようにまとめられる. 冬季海面水温偏差の再出現現象の研究がさらに進展し,北太平洋で亜熱帯モード水の再 出現が時間依存性を示すこと,アリューシャン低気圧の活動と一定の位相関係を持つことが 明らかとなった.また,エルニーニョに伴い,赤道域の貯熱量がエルニーニョ時に解消するも のと,しないものの 2 タイプに分けられることがわかった.また,複数の衛星搭載センサーによ る新世代海面水温ディジタルデータがリアルタイムで作成されるようになり,一般に公開され た.この資料をもとに,熱帯域では,ホットイベントと呼ばれる,数十日の時間スケールを持つ 高海面水温現象が発見された(図1).また,海色センサーデータを利用して,東南アジア地 区における赤潮発生状況を捉えることができた. 図1.衛星データから作成された海面水温データによる赤道域のホットイベントの抽出例.ホ ットイベントとは,長期平均値から,最大 2℃に達する高温域が,西太平洋やインド洋の暖水 プール域に数十日間形成される現象. 温室効果気体や関連期待の濃度などが,各種観測によりモニターされた.とりわけ大気球 による成層圏での観測により,大気成分に重力分離が起こっていること,酸素濃度が減少し ていることなどが世界で初めて発見された(図2).また,国際的な大気輸送モデルの相互比 較プロジェクトに参加し,海洋観測点のデータの重要性の指摘や,中国での二酸化炭素統計 値の過小評価などの知見を得た.一方,受動型,能動型センサーを用いたリモートセンシン グ手法による雲・エアロゾルの研究が進展した. 国際統合深海掘削計画第 310 次航海の共同主席研究者として参加し,良好な掘削コアを 得ることができた.解析は進行中であるが,過去の気候変動の実態解明に期待がかかる.ま た,琉球列島での陸上掘削と海洋掘削を行い,第 4 紀気候変動の解明を目指す COREF Project に立ち上げを現在行っている.国際ワークショップを開催し,科学面・運営面の議論を 行った. 図2.日本上空の対流圏上部(*)と成層圏(●)における CO2 濃度(下)と,O2 濃度(上)の経 年変化.昭和基地上空の結果も○で示してある.成層圏の結果を解析することにより,この 期間の平均的な陸上生物圏と海洋による CO2 吸収は,それぞれ 0.9±1.5 と 2.0±1.4 GtCyr-1 と推定された.これらの値は地上観測の結果とも良く一致している. 「太陽地球系ダイナミクス」グループ 本領域の惑星圏研究惑星圏研究に関する研究・教育の成果として,太陽活動変動に伴う 地球磁気圏・プラズマ圏・電離圏の応答に関する研究の他,太陽活動変動が木星や水星等 の惑星や月を含む衛星の大気・プラズマ環境にもたらす影響を詳細に評価する研究とこの研 究課題にかかわる学生の教育活動が積極的に実施された. 太陽活動変動に伴う地球磁気圏・プラズマ圏・電離圏の応答に関する研究では,あけぼの 衛星,FORMOSAT-2 衛星,REIMEI 衛星など当研究グループのメンバーが機器開発から衛星 運用までを担当してきた諸衛星よる観測研究が進められた.また惑星プラズマ・大気研究セ ンターが保有する惑星圏観測所設備による太陽電波や地磁気脈動観測,昭和基地,スピッ ツベルゲンやアイスランドにおける ELF 電波,太陽電波並びにオーロラの発光と電波放射観 測などをもとにした多岐にわたる電磁圏変動に関する地上観測研究,データ解析研究並びに シミュレーション研究が行われた.特に打ち上げ後17年の連続観測を実施しているあけぼの 衛星により磁気嵐時の異常電場分布が見出されたほか,広視野におけるオーロラや大気放 電に伴う発光現象を高速で行うことのできる FORMOSAT-2 によるスプライト観測やオーロラ ストリーミングの解明,宇宙からこれまでにない高速・高精度でのオーロラ観測を行う REIMEI 衛星観測によるパルセーティングオーロラやブラックオーロラの発生メカニズムの研究成果等 は世界からの注目を集めている. 太陽活動変動が木星や水星等の惑星や月を含む衛星の大気・プラズマ環境にもたらす影 響を詳細に評価する研究では,水星,金星,木星並びに衛星イオについて,地上光学観測研 究,木星電磁圏ダイナミクスのシミュレーション研究が行われた.水星ナトリウムテールの全 容を初めて観測した(図3).イオ起源プラズマが木星内部磁気圏にマスローディングされる過程 が明らかにされた. 2006 年度惑星圏研究成果の中での特記事項として,以下の事項が揚げられる.ハワイ大 学天文学研究所との合意に基づき,マウイ島ハレアカラ山頂(海抜 3000m)の惑星光学観測施設 が稼働を開始して,従来にない鮮明な惑星光学観測データが得られるようになった(図4).月の 起源の解明に関わる SELENE 衛星搭載の地下探査 HF レーダ装置の打ち上げ前総合試験を 実施した.また水星探査機 Bepi-Colombo,金星探査機 Planet-C の観測装置開発などの準 備が進められた.さらに将来の惑星望遠鏡,大学衛星,ジオスペース探査衛星などの計画検 討が進められた. その他,惑星圏研究に関する研究・教育の成果としては,学術誌掲載論文 29 編,紀要掲 載論文 14 編,国際学会における研究成果の発表 68 編,国内学会・研究会における発表 170 件にのぼった.また,惑星圏研究に関わる科学研究費補助金については 14 件取得し,学術 振興会特別研究生在籍者数は 7 名となった. 図3.彗星ナトリウムテールの全貌 観測(2006 年 6 月 14 日) 図4.新設ハワイ・ハレアカラ観測所. (40cm シュミットカセグレン望遠鏡) 花輪 公雄 部 局: 専門分野: 研究課題: 連 絡 先: 理学研究科 地球物理学専攻・教授 海洋物理学 大規模大気海洋相互作用,数十年スケール変動 E-mail:[email protected] [研究報告] 1) 研究タイトル:大規模大気海洋相互作用による気候変動のダイナミクス 2) 研究目的と成果概要: 気候システムの主要構成要素である大気と海洋とが,相互に作用して起こる季節から数十年ス ケールの気候変動のメカニズムを,既存資料の解析と海洋監視手法を駆使して解明することを課 題としている.2006 年度に得られた主な研究成果は以下のようにまとめられる. 1. 冬季海面水温(SST)偏差再出現機構の研究(Sugimoto and Hanawa, 2007) 冬季 SST 場において,翌年の冬季に前年の冬季と同じ偏差を再び出現させることがある.これ を再出現機構と呼ぶ.我々の研究により,これらの海域はモード水形成域であること,北太平洋 亜熱帯モード水のような強流帯に位置するモード水は,移流により SST 偏差形成域から離れた海 域で, 偏差 を 再出 現させるこ とが わか ってい る.この よ う な再 出現を 「遠隔再 出 現( remote reemergence)」と呼ぶ. この遠隔再出現の長期変動を調べたところ,約 20 年周期で再出現と,非再出現を繰り返してい ることがわかった.また,この変動は,冬季アリューシャン低気圧の変動と密接に結びついている こともわかった.さらに,北太平洋中央部の冬季 SST は,その年の大気の強制力と遠隔再出現機 構,双方の効果が効いていることもわかった. 2. 赤道域の貯熱量変化と ENSO 変調に関する研究(Hasegawa and Hanawa, 2006a,b) ENSO に伴う貯熱量変動を調べた結果,エルニーニョにはその発生から終息まで,赤道域全体 の貯熱量を,大きく変えるものとそうでないものの 2 つのタイプに分けられることがわかった.一 般に,大きなエルニーニョほど,貯熱量変動が大きい.また,赤道域の貯熱量変動には 10 年周 期の変動も存在しており,これが ENSO の発現を変調させていることもわかった. 3. 日本の夏季の天候と大規模大気循環場の関係(Yasunaka and Hanawa, 2006) 日本の夏季の気温場の回転 EOF 解析から,2 つの代表的変動モードが存在することを明らか にした.1つは北日本を除く日本全体を表すモード,もう 1 つは北日本を表すモードである.両者の モードで,気温の変動エネルギーの 90%以上を説明できる.さらに,これらの変動は,それぞれ, チベット高気圧と,オホーツク高気圧の変動に支配されていることを示した. 4. その他の研究成果(Sato et al., 2006; Sato et al., 2006; Inazu et al., 2006) 世界中の海洋におけるバリアーレイヤー(一定水温層と混合層が異なる状態)の存在を,Argo フロートデータを解析して示した(Sato et al., 2006).また,プリッツ湾において形成される水塊が, 南極底層水を形成しうる一つの水塊であることを,JARPA 観測資料の解析から指摘した (Yaubuki et al., 2006).さらに,気象擾乱による日本海の海面高度の変動のメカニズムを解明す るため,数値モデルを用いて考察した.その結果,対馬海峡など,海峡部における摩擦の効果 が重要であることがわかった(Inazu et al., 2006). 中澤 高清 部局:理学研究科 附属大気海洋変動観測研究センター・教授 専門分野:大気物理学・気象学 主な研究課題:大気組成の変動と気候影響 連絡先:E-mail:[email protected] [研究報告] 1) 研究タイトル:温室効果気体の変動と循環 2) 研究目的と成果概要: 人間活動に伴う気候変動に対応するためには,CO2 や CH4,N2O などの温室効果気体の変動 と循環を把握し,それらの増加原因を定量的に理解する必要がある.本研究においては,大気中 の温室効果気体と関連気体の濃度および同位体比の変動を広域にわたって観測し,その結果を 循環モデルで解析する事により,全球規模の循環の解明と収支の評価を行う.また,極域で掘削さ れた氷床コアを分析することによって過去における大気組成の変動を復元し,気候・環境への関わ りを明らかにする.これらの目的を達成するために本年度に実施した研究とその成果の概要は以 下の通りである. 仙台,中国,南極昭和基地,北極ニーオルスン基地での地上観測,太平洋上や日本近海での 船舶観測,日本上空やシベリア上空,アラスカ上空での航空機観測,日本上空での大気球観測な どを実施し,温室効果気体や関連気体の濃度およびそれらの各種同位体比の時間空間変動を明 らかにした.特に大気球を用いて採取した試料空気の O2/N2,N2 のδ15N,O2 のδ18O を高精度で分 析し,それらの高度分布を解析することにより,成層圏において大気成分の重力分離が起こってい ることや,人間活動による O2 濃度の減少が明瞭に検出されることを世界で初めて発見した.また, CH4 濃度の増加傾向が世界各地で急速に鈍化しており,極めて詳細な濃度変動の測定が可能で ある昭和基地の結果を詳細に検討したところ,一昨年頃から濃度が減少に転じ始めている可能性 を示していることを見いだした. 南極やグリーンランドの大陸氷床上部のフィルンから採取した空気を分析し,過去 50 年間にわ たる N2O 濃度およびそのδ15N とδ18O の変動を明らかにした.また,これらの変動を解析し,この間 に生じた濃度と同位体比の変動を矛盾なく説明するためには,海洋起源 N2O ではなく,土壌起源 N2O の放出が重要であることを見いだした.また,南極ドームふじコアを分析し,氷期にメチルクロ ロホルムの濃度が著しく高かったことを初めて明らかにした.氷期や間氷期に見られる温室効果気 体の変動を高時間分解能で復元するために,微少空気試料を極めて高い精度で分析する技術を 開発した. 国際的な大気輸送モデルの相互比較プロジェクトである TransCom-3 に参加している 16 のモデ ルを用いて,世界を 22 領域に分割した逆解法による 1999-2001 年の CO2 フラックスの評価を行 い,現状においては,全球にわたる濃度データを使うよりも海洋域にある観測点のデータを用いた 方が推定誤差を小さくするという重要な結果を得た.また,前進計算法を用いて中国における CO2 と CH4 濃度の変動を解析したところ,中国での化石燃料起源 CO2 の統計値が過少評価になって いる可能性がある,広く使われている CH4 の放出源シナリオは不適切である,といったことが明ら かとなった. 川村 宏 部局:理学研究科 付属大気海洋変動観測研究センター・教授 専門分野:海洋物理学 主な研究課題:気候変動、衛星海洋 連絡先:E-mail:[email protected] [研究報告] 1) 研究タイトル:衛星地球観測技術による地球の未来像創出 2) 研究目的: 衛星地球観測技術がもたらす、高解像度広域海洋情報を活用することにより、海洋環境の実態 を明らかにし、その未来像を創出する。 成果概要: 1. 衛星地球観測技術による新世代海面水温の創出: 現在、世界中で開発が進む新しい高解像度海面水温開発は、本研究者らが中心となった日本 の成果が世界をリードする。複数の赤外衛星観測にマイクロ波センサーによる海面水温を融合す ることにより、新世代海面水温が実現できることを実証し、さらにその技術を用いて毎日の高解像 度海面水温ディジタル情報をリアルタイムで作成し、一般に公開した。衛星地球観測技術を活用 し、新しい情報創出に関する科学研究と技術開発を完成させ、大学による毎日の情報発信を実 現し、海面水温観測に関する新しい未来像を創出した。 2. 衛星地球観測技術による新しい赤潮観測技法創出: 赤潮現象は、世界中で顕在化する海洋環境悪化の指標である。本研究者のグループでは、複 数の衛星観測を合わせて用いることで、赤潮現象の検出、メカニズム解明ができることを示し、そ の学際的な研究に道を開いた。衛星海色観測データを用いて、東南アジア海域(南シナ海、南沙 諸島)の顕著な植物プランクトン・ブルーム現象を記述し、そのメカニズムを明らかにした。 3. 衛星超高解像度観測による沿岸海洋域大気・海洋・陸相互作用の科学創出: 沿岸域で複雑に変動する海上風と波浪場は、その複雑さゆえいまだ観測が難しく、未知の学問 領域として残されている。合成開口レーダーを本格的に活用し、他の衛星搭載マイクロ波センサ ーを有効に組み合わせることで、高解像度海上風・波浪場の実態が的確に把握できることを示し、 新しい学問領域創出の切っ掛けをつかんだ。さらに数値海洋モデルを組み合わせることでヒュー マン・ディメンジョン現象のメカニズム解明が可能であることを示し、新しい科学分野の創出に貢 献。 岡本 創 部局:理学研究科 付属大気海洋変動観測研究センター・助教授 専門分野:気候変動、大気物理 主な研究課題:アクティブセンサーを用いた雲・エアロゾルの研究 連絡先:E-mail:[email protected] [研究報告] 1) 研究タイトル:雲とエアロゾルの変動と気候システムへの影響 2) 研究目的と成果概要: 1. 日本近海太平洋上の雲レーダとライダの同時観測データ解析による雲鉛直構造の解析 (Okamoto et al., 2006, 2007( in press))。 雲と霧雨の出現頻度分布を調べ、雲出現頻度は 7km と10.5kmの2つの高度で極大であった。 霧雨の出現頻度は海洋上で雲の出現頻度のおよそ半分程度であることがわかった。平均的な雲 の層数に関しては単層、2 層、3 層、4 層以上は、それぞれ 48%, 23%, 7%、 2%であった。また大気 大循環モデルとエアロゾル輸送モデルとの比較をこのデータを用いて行った。特に、レーダとライダ の信号をモデルから同時にシミュレートし、観測値と比較したものは本研究が初めてである。おお むね、雲出現頻度は観測を再現していたが、定量的にはまだ再現性に問題のあることがわかった。 雲出現頻度は 8km 以上(以下)の上層(下層)で気候モデルが過大(過小)評価であった(図1)。ま たレーダ反射因子とライダ後方散乱係数の比較を実施し、モデルが高度10km以上の巻雲の有 効半径 30 ミクロンを過大評価していること、またモデルによって再現された下層雲の有効半径は1 0ミクロン程度であったが、実際より過小評価であることがわかった 。これはモデルの中で上層雲、 下層雲ともに、生成メカニズムにまだ改良点があることを示している。 2. 2 波長偏光ライダのエアロゾルの微物理量抽出アルゴリズムの開発した (Nishizawa, Okamoto 他., 2006, 2007(in press))。 このアルゴリズムの特徴は 532nm, 1064nm の可視と近赤外の2つの後方散乱係数と 532nm で の偏光解消度の情報を用いることで、エアロゾルのタイプ識別とそれぞれのタイプの微物理量の鉛 直分布を導出することにある。従来広くライダ信号の解析に使用されているフェルナルドの手法で は消散係数と後方散乱係数の比を一定であると仮定するが、我々のアルゴリズムでは鉛直方向に それらを変化させることが可能である。そのためエアロゾルタイプ(硫酸、ダスト、海塩)の混合比を 各層で求めることができる。感度実験の結果、消散係数を晴天域で 20%程度, 雲の下では50%程 度の誤差で求めることができることがわかった。またスカイラジオメーターとの校正実験を行って、 光学的厚さを、晴天域で2%、雲底下で10%程度の精度で求めることができた。 3. 95GHz の雲レーダの非球形形状の氷粒子によるレーダ反射因子と偏光解消度の特徴と微物理 導出法への応用 (Sato and Okamoto, 2006a,b) Discrete Dipole Approximation(DDA)法を用いた散乱計算によって、氷粒子の密度、形状、配向 の 95GHz レーダ信号における影響について解析した。まず、氷粒子の密度を散乱計算に考慮する ために広く使用されている Maxwell-Garnett mixing rule という平均誘電率理論を Mie 理論と組み合 わせて使用する MG-Mie 法の妥当性を、充分に正確な計算である DDA 法による解と比較した。そ の結果、氷粒子のサイズが 40 ミクロンを越えると、MG-Mie 法はレーダ反射因子を著しく過小評価 してしまうことがわかった。またこの過小評価のため、これまで粒子密度が非常に重要であると信じ られてきたが、そうではなく、サイズと配向が最も重要な要素であることが判明した。ドップラー速度 と偏光解消度を組み合わせて使用することで、サイズの情報をレーダだけから精度よく求めること が可能であることを示唆した。 (a) (b) 図1 (a) 日本近海太平洋上におけるレーダ観測から求められた雲からのレーダ反射因子の時間高 度断面と、(b) (a)と同様だが、大気大循環モデル NIES-CCSR-FRCGC AGCM によって再現されたも の。 井龍 康文 部局:理学研究科 地学専攻・助教授 専門分野:炭酸塩堆積学・地球化学,古生物学 主な研究課題:炭酸塩堆積物および炭酸塩生物殻を用いた古環境復元 連絡先:E-mail:[email protected] [研究報告] 1) 研究タイトル: 1. タヒチ島における海水準変動(国際統合深海掘削計画第 310 次航海) 2. 琉球弧におけるサンゴ礁前線の移動:北西太平洋域での第四紀気候変動に対する高緯度域サ ンゴ礁の呼応の解明(COREF Project) 3. 礁の誕生,発達,崩壊のダイナミクス ━北大東島を例にして━ 2) 研究目的と成果概要: 1. タヒチ島における海水準変動(国際統合深海掘削計画第 310 次航海) 国際統合深海掘削計画第 310 次航海(タヒチ島の海水準変動)の共同主席研究者として,研究 を推進中である.本年度は,7 月にテキサス農工大学にて,第 1 回ポストクルーズ会議を開催し, Expedition Report を作成した.これは,2007 年の初頭に出版(DVD)予定である.また,8 月 2〜3 日には,ワシントンの IODP MI にて,本航海に関する IODP Operations Review Task Force Meeting が開かれ,高い評価を得ることができた. 2. 琉球弧におけるサンゴ礁前線の移動:北西太平洋域での第四紀気候変動に対する高緯度域サ ンゴ礁の呼応の解明(COREF Project) COREF Project は,北西太平洋におけるサンゴ礁の分布の北限に位置する琉球列島において陸 上掘削(ICDP)および海洋掘削(IODP)を行い,第四紀サンゴ礁複合体堆積物ならびにその沖合堆 積物を採取し,第四紀気候変動に対するサンゴ礁生態系の応答を明確にすることを目的とする. 2006 年 2 月に ICDP 事務局に提出したワークショッププロポーザルが本年度の 5 月に採択され,そ の経費を用いて,1 月に沖縄県名護市の国際海洋環境情報センター(GODAC)で,国際ワークショ ップを開催した(www.dges.tohoku.ac.jp/igps/iryu/COREF/).国内外から 24 名の参加者があり,プロジェ クトの科学面や運営面に関して議論した.また,私がゲストエディターとなり,日本地質学会発行の 学会誌(欧文)である Island Arc 誌に,COREF Project の特集号を編集し,出版した. 3. 礁の誕生,発達,崩壊のダイナミクス ━北大東島を例にして━ 我々の研究グループでは,10 万年~100 万年スケールでの炭酸塩岩の堆積過程および続成過 程を知るために,北大東島試錐試料および同島の表層試料の堆積学的・同位体地質学的・古生 物学的研究を行っている.本年度は,ドロマイト研究の第一人者であるコロラド大学の David Budd 博士を招聘し,北大東島で共同調査を行った.さらに,11 月には,日本サンゴ礁学会と本 COE の 共 催 で , 「 A symposium on carbonate sedimentation and diagenesis on reefs and submerged seamounts」を開催し,環礁や沈水海山の礁/炭酸塩プラットフォーム堆積物の堆積過程および続 成過程に関する最新の知見の発表と議論を行った. 福西 浩 部局:理学研究科 地球物理学専攻・教授 専門分野:超高層物理学 主な研究課題:雷放電発光現象の研究、磁気圏・電離圏結合とオーロラ現象の 研究、惑星電磁圏・大気圏の研究 連絡先:E-mail:[email protected] [研究報告] 1) 研究タイトル:太陽活動変動と気候変動のリンクにおける雷活動の役割の研究 2) 研究目的と成果概要: 謎として残されている「太陽活動変動と気候変動のリンクのメカニズム」において、雷活動が果た す役割を明らかにすることを研究目的とする。具体的には、雷雲・電離圏間の放電発光現象(スプ ライト、エルブス、ブルージェット、巨大ジェット等)を地上および衛星から観測し、「太陽活動―雷活 動―気候変動」のリンクの存在の証拠を見つけることを目指す。そのために地上観測では、ELF 帯(1~100 Hz)の磁場水平2成分(南北と東西)の波形を連続でモニターするサーチコイル磁力計 をグローバルに配置された 3 ヶ所、すなわち南極昭和基地(69.0S, 39.6E)、スウェーデン・ ESRANGE(67.9N, 21.1E)、東北大学女川観測所(38.4N, 141.5E)に設置し、地球全域の雷活 動をリアルタイムでとらえるシステムを完成させた。昭和基地のデータはインテルサット衛星経由で 国立極地研究所に送られ、その後インターネットで東北大学まで送られる。一方キルナのデータは インターネットで直接東北大学に送られる。東北大学の ELF ネットワークは全世界をカバーする唯 一の常時稼動システムとして貴重なデータを提供している。 衛星観測に関しては、台湾の国立成功大学と国家宇宙計画室(NSPO)、カリフォルニア大学宇 宙 科 学 研 究 所 、 東 北 大 学 が 共 同 で 開 発 し た ISUAL 観 測 器 を 搭 載 し た 台 湾 の 人 工 衛 星 FORMOSAT-2 が 2004 年 5 月 20 日に打ち上げられ、雷雲・電離圏間の雷放電発光現象の宇宙 からのグローバル観測が世界で初めて実現した。東北大学は、ISUAL を構成する 3 つの観測器 の 1 つ、アレイフォトメーターを開発したことから、このデータ解析を中心に研究を進めている。これ までの観測データから、年間のエルブスの発生数および発生率について全球分布を求め、その地域依 存性や季節依存性を調べたところ、カリブ海・太平洋・大西洋・東南アジア・地中海などの海上や海岸沿 いに多数発生することが明らかになった(図1)。また、2004/07-09(北半球の夏)には、ISULA で観測さ れた Elves の 82%が北半球で発生し、エルブスの全球発生率は北半球の冬時期に高くなることが明ら かとなった。さらに、ELF 観測と衛星観測との比較から、エルブスの多発地域であるカリブ海、東南ア ジアでは負極性落雷の割合が高いことも判明した。 本研究ではまた、スプライト放電の物理過程及び化学過程に関する数値シミュレーションを実施 し、ヘイローとストリーマの発生条件の違いやストリーマブランチの生成メカニズムを明らかにした。成 層圏中間圏におけるスプライトストリーマの化学的なインパクトについて調べたところ、夜間において一 酸化窒素が約7倍に増大し、その増大した状態が1時間以上持続することが予測された。 小野 高幸 部局:理学研究科 地球物理学専攻・教授 専門分野:惑星プラズマ物理学 主な研究課題:太陽活動変動に伴う内部磁気圏電磁プラズマ現象の研究 並びに電磁波を用いた月惑星の科学研究 連絡先:E-mail:[email protected] [研究報告] 1) 研究タイトル: 1. 太陽活動変動に伴う内部磁気圏電磁プラズマ現象の研究 2. 電磁波を用いた月惑星の科学研究 2) 研究目的と成果概要: 1. 太陽活動変動に伴う内部磁気圏電磁プラズマ現象の研究 本研究は,磁気嵐時に内部磁気圏に生じる大きな電磁場変動とそれに伴う高エネルギー粒 子の運動,及びこれらの高エネルギー粒子と磁気赤道域プラズマ波動の関連性について究明 を行うものである。 2006 年度における研究の成果として,まず Akebono/EFD 観測器のデータを用いて磁気嵐時 の強い電場の統計解析を行った。その結果,磁気嵐主相時には朝側と夕方側の 2<L<8 の局在 した領域に 1.5 から 4.0 mV/m の強い電場が誘起されることが示された。この電場従来広く 受け入れられてきた Volland-Stern 形対流電場に基づく電場の配位とは大きく逸脱している ことが注目される。 この統計解析結果は GRL 誌より論文として公表された (Nishimura et al., 2006) 。この特異な電場形成に伴って発生する内部磁気圏プラズマダイナミクスの解析研究 を進めた結果、この電場発生域には強い沿磁力線電流が発生しており、磁気圏-電離圏の強 い相互作用と関係する現象であることが確かめられている。この現象は太陽・地球電磁圏相 互作用の中でも最も解明の送れている磁気嵐の本質を解明するための重要な手がかりをも たらすと考えられる。この現象に関する研究については同じく CRRES 衛星を用いた研究の代 表者であるミネソタ大学 Wygant 博士のグループからも注目されて、この現象の解明に向け た共同研究が始められることとなった。 図1: 静穏時(a)、磁気嵐主相(b)、及び磁気嵐回復相(c)における内部磁気圏電場の統計的分 布。主相時に於いては特に強く局在した電場が内部磁気圏に分布することが示される。 2. 電磁波を用いた月惑星の科学研究 比較惑星科学の一環として、月の形成過程と熱史解明を目指す観測研究が進められている。地 上観測では、飯舘惑星電波望遠鏡を用いた月の熱放射観測が行われた。飯舘惑星電波望遠鏡で は 325MHz における高感度電波受信により月の熱放射が観測されるが、この観測から導き出され る放射温度値並びに温度の月齢依存性は月表面の物性と温度分布により決定される。観測結果 は 325MHz において月面は289K±49Kであること並びに輝度温度には明瞭な月齢依存性は無 いことが観測により示された。アポロミッションによる月表層付近の誘電率並びに表層温度分布観 測データを用いて検討した結果、地上観測で得られた温度は地下約80mの輝度温度に一致する 事が示された。このことにより複数の周波数における輝度温度計測を実施することで月の表層部 性並びに温度分布に有効な制約条件を得ることとなり、地上からの VHF 帯電波観測の可能性を 実証することとなった。 月地下の構造を探るため、2007 年打ち上げ予定の月周回衛星 SELENE に搭載する月レーダサウ ンダ(LRS)観測装置は 2006 年次においては装置単体の最終動作確認試験並びに衛星に組み込ん での総合環境試験及び総合電器試験を実施した。LRS観測では、比較的伝搬減衰の少ない HF 帯レーダ電波を用いて、高度 100km の月周回軌道より月表層の地形や物性、また地下数 km に至 る地層構造の探査を行う。また、地球周辺での惑星電波観測では、電離層や磁気圏の影響や人 工電波の影響を受けるが、月周回軌道ではこれらの影響を受けず、広帯域で高感度の観測が可 能となる。このメリットを活かしてLRSでは 10Hz より 30MHz に至る周波数帯で自然プラズマ波動並 びに自然電波観測を行うことにより、月周辺プラズマ環境や太陽・惑星電波放射の詳しい観測が 計画されている。2006 年度の開発研究の成果として、LRS 観測装置の所期性能の確認が行われ て、打ち上げ後の観測により予定通り月地下の構造に関しての重要な情報が入手できることを確 認することができた。 図2: LRS 単体 環境試験の様子 中村 教博 部局:理学研究科 地学専攻・助手 専門分野:地球惑星磁気学 主な研究課題:隕石やシュードタキライトを用いた古磁場環境の研究 連絡先:E-mail:[email protected] [研究報告] 1) 研究タイトル:地震断層の磁性、原始太陽系磁場の復元と走査型磁化ベクトル顕微鏡の開発 2) 研究目的と成果概要: 地震時や原始太陽系星雲形成時の磁場環境を、隕石やシュードタキライトといった岩石から復 元することを目的として研究をおこなっている。本年度は台湾・チェールンプ断層を貫くボーリングコ ア試料の古地磁気測定をおこない、地震断層すべり時に数百アンペアの地震性電流が発生するこ とで、断層沿いの粉砕焼結物質が磁化されたとする仮説を導出した。今後、詳細な物性研究と磁 化研究を統合し、この作業仮説を検証してゆく。また、隕石中のコンドリュールや衝撃脈といった幅 数ミリメートルの磁化分布をその場測定するための走査 型MI磁気顕微鏡を開発(国際誌に投稿中)し、さらにグリ ーンレーザーと反射顕微鏡を利用したレーザーその場ス ポット加熱装置と組み合わせて(写真)、クレーター近傍の 衝撃脈中に不均質に分布する磁化を担う鉱物の局所段 階加熱消磁に成功し、将来の岩石・隕石微小領域からの 磁場推定実験技術を培った。この技術をもちいて、始原的 な隕石から原始太陽系形成期初期を推定したり、衝撃を 受けたクレーター近傍の岩石から衝突プラズマ磁場生成 の検証をすることに利用してゆく。また地震や衝撃といっ た瞬間の現象ばかりでなく、ゆっくりとした地殻のマグマ活 動に関する研究も同時に進めている。これまで花崗岩マ グマの併入機構を推定するための有力な手法であった帯 磁率異方性が、本来のマグマ流動方向とはまったく矛盾 する結果を与えることを示し、さらにその矛盾を新しい磁 気異方性の測定方法を開発することで解決した(国際誌 にて公表済)。最後に、熱変成を受けたテンハム隕石中に発達する衝撃溶融脈の磁性を測定し、 衝撃溶融脈が原始太陽系初期の磁場をリセットし、衝撃時(微惑星形成時)の磁場を獲得している ことを解明した。これによって、原始太陽系ダスト円盤で生成される磁場強度の進化過程を研究す る道筋をしめした。 地球進化史研究グループの研究成果概要 【事業推進担当者】 掛川 箕浦 海保 佐藤 孫 武 幸治 邦夫 源之 明宇 今村 文彦 理学研究科 地学専攻・助教授 理学研究科 地学専攻・教授 理学研究科 地学専攻・教授 東北アジア研究センター 地域環境研究部門・教授 学際科学国際高等研究センター、(兼)流体科学研究所・ 学際衝撃波研究分野・助教授 工学研究科 災害制御研究センター・教授 【研究成果概要】 (1) 概要 地球進化史研究グループは、初期地球システムの構築(生命の起源含む)、大規模氷河— 温暖化と生物進化、小天体衝突と大量絶滅を重点課題とし研究教育を行ってきている。特に 2006 年度は理工連携のもと衝撃波シミュレーション実験を行い二畳紀・三畳紀境界での隕 石落下に伴う環境変動を示した。23億年前のスノーボールアース現象に伴う炭素循環を明 らかにした。レーザーを用いた安定同位体分析を主に先カンブリア時代の微生物活動に対し て格段の理解を進めた。同時に、大陸掘削をベースに古気候変動・海洋化学変動と生物進 化の関連の研究を格段に進めた。2006 年度の目標は、おおむね達成してきている。理工連 携も東北大学大学院理学研究科—流体科学研究所—物質材料研究機構—環境科学研究 科の間で進行している。科研費も基盤研究 S, 基盤研究 A,B、萌芽など潤沢である。教育に おいても先端理学国際コースと連携した英語授業など開講し、研究内容を教育に還元してき ている。 (2) 大学院学生の活動 博士学生2名が日本学術振興会特別研究員に選出された。学生1名が大学院 GP+3COE 合同シンポジウムで Best Speaker 賞を受賞した。。 (3) ポストドクトラル・フェローの活動 日本人2名(新妻(継続)・大庭(新規))を COE 経費で雇用した。特にバイオマーカーを武 器にする大庭の雇用は、COE 研究促進に大きな意味を持つ。JSPS のポスドクも積極的に受 け入れた。 (4) シンポジウムと国際共同研究 2006 年 7 月に開催された IMA では地球進化史研究グループが主導になりシンポジウム を行った。2 名の外国人(Russell, Cody)を招聘した。グリーンランドイスア地域、カナダサン ダーベイ地域・ニュージーランドなで国際共同研究を実施した。 掛川 武 部局:理学研究科 地学専攻・助教授 専門分野:地球進化 主な研究課題:初期地球環境の復元、生命起源に関する化学進化 連絡先:E-mail:[email protected].jp [研究報告] 1) 研究目的と成果概要 1. 2006 年の研究は掛川が代表である科学研究費課題に基づいて行われた。新規採択課題である 基盤研究 A「微惑星・隕石の初期海洋衝突による生体有機分子生成の可能性」において、日本 の地球 科学 研究機 関としては じ めて LC-MS/MS を導入 した。機器 分析の 面で世界的 な advantage を得た。これら機器を用いて高温高圧条件で 11 量体までアミノ酸の重合その分析に成 功した。その成果の一部は Origin of Life and evolution of biosphere 誌に投稿・受理された。 2. 基盤研究 B「世界最古の生物起源グラファイトの探査に関する国際共同研究」では、掛川がグリ ーンランドのイスア地域から見いだした、新しい地層を詳細に調査する課題である。コペンハーゲ ン大学との共同研究として大学院学生を派遣し、調査研究を行った。また比較研究のためカナ ダ・スティープロック地域・サンダーベイ地域の調査も行った。ここでの成果は日本進化学会の招 待講演で公表した。 3. 萌芽研究「海底熱水系における分子レベルでの微生物・鉱物相互作用」では、JAMSTEC 公募航 海(KR06-10)で新たに南部マリアナ海域から得られた試料を詳細に分析した。マグマ活動に伴う 揮発性成分の挙動と微生物活動がより具体化された。 2) 国際活動: 1. 国際鉱物学連合(IMA)においてセッション・コンビナーを受け持った。 2. JSPS 日独先端科学シンポジウム(ドイツハイデルベルク)の日本側主査兼プログラムディレクター を担当した。その成果は JSPS からプレスリリースされた。 3. ヨハネスブルク大学と共同研究を行い23億年前のスノーボールアースに関する成果を論文公表 した。 4. ペンシルバニア州立大学と共同研究を行い縞状鉄鉱層の成因論の論文を公表した。 箕浦 幸治 部局:理学研究科 地学専攻・教授 専門分野:地球科学 主な研究課題:地質学、古生物学 連絡先:E-mail:[email protected] [研究報告] 1) 研究タイトル: 1. 講義(招待のみ) ・「Continental climate fructuation and cause of glacial-interglacial rhythms」 In “ESF-JSPS Frontier Science Conference Series for Young Researchers on Climate Change.” June 24 – June 29, 2006, Nynäshamn, Sweden. 2. 講演(招待のみ) ・「Can sedimentologists contribute anything to the escape from the fatality of tsunami hazards?」 In “International Sedimenoltogical Congress 2006.” August 28 – September 1, 2006, Fukuoka, Japan. ・「Freezing after thawing: Continent ending up in balan」 In “International Symposium on Dynamics of the Ice Age Climate.” November 13 – November 15, 2006, Nagoya, Japan. ・「Late Quaternary Siberian atmospheric Changes as a cause for glacial- interglacial rithms」 In “The 5th International Symposium on Terrestrial Environmental Changes in East Eurasia and Adjacent Areas.” December 5 - December 9, 2006, Nagoya, Japan. 3.著書 ・「Tsunamiites - their features and implication」 Eds. by Shiki, T., Minoura, K., Yamasaki, T., and suji, Y., 2006. (in press) In “Development in Sedimentology,” Series editor Prof. Tom van Loon, Elsevier Scince, Amsterdam. 4.解説 ・「2004 年インド洋大津波によって運搬されたタイ・パカラン岬の津波石」 後藤和久,今村文彦,松井孝典,箕浦幸治,地質学雑誌,2006,第 112 巻,第 8 号, 口絵 XV-XVI. 2) 研究目的と成果概要: Title: Cause of Late Cenozoic freezing in East Asia Summary: In recent years much attention has been forcused on making clear the trigger mechanism of climate fluctuations, especially on the finding of reliable proxy indicators for climatic cooling or warming. On a geological scale the uplift of the Himalaya-Tibetan Plateau greatly influenced on the Late Cenozoic global cooling, and in Asia the continuation of this uplifting process promoted the monsoonal variability and the inland aridification (Rea et al., 1998). Precise correlation of terrestrial dust fluxes with marine isotope records shows a potential linkage between Asian interior aridity and Northern Hemisphere glaciation, and paleowind intesification has been synchronous with climatic cooling during the Late Cenozoic (e.g. Sun and An, 2005). Northern Hemisphere cooling is likely to have a close relationship with the development of the Siberian High, which controls almost whole of the lower troposphere. The present Siberian High is a dominant atmospheric circulation system, thereby possibly having affected Quaternary climate in East Asia, especially concerning precipitation and temprerature. Central Siberia is in the cool temperate zone, and the annual mean temperature in Irkutsk is -2.2 °C (17.7 °C in July and -19.7 °C in January). The prevailing Westerlies bring a round precipitation in summer (118 mm in July) to the area, whereas relatively little precipitation in winter (14.4 mm in January). In the mountain ranges, the precipitation at elevations falls as much as 1000 mm/yr as snow in winter. Atomospheric moisture loading probably reached to Siberia, and the fallout of snow onto surface seems to have affetcted the influx of solar radiation. Increased snowfall, together with wihtdrowal of forests, might have contributed the cooling of Siberia, causing glaciation. The atomospheric circulation sysymetms in Asia are controled by the Monsoon and the Westerlies (Herzschuh, 2006), and to the north of the present-day monsoon limit (Gao, 1962) atmospheric moisture is provided by the Westerlies. According to the meteoric data by the International Atomic Energy Agency (IAEA), the oxygen isotope values of precipitation in Siberia are approximately –10 ‰ in summer, and –25 ‰ in winter. The large isotopic amplitude of ~15 ‰ is also suggested by the delta18O range (~5 ‰) of modern equid teeth (Fowell, 1997). The theoretical explanation of O-isotopic variation in meteoric waters is based on the Rayleight process, and the isotope value depletion in surface waters corresponds to the removal of 18O into raindrops during air-mass movement. The eastward increase in 16O and the very low delta18O values of winter precipitation in East Asia, therefore, suggest that meteoric waters in winter season are supplied to Siberia from the Atlantic by the Westerlies. The atmospheric movement caused by the interaction between Hadley-type cells in Arctic and low-latitudes influence the trend of the Westerlies, therefore it is estimated that the moisture transport to East Asia has been synclonous with the oscillation of the Siberian High. Considering the large influence of air mass movement on Siberia, I interprete that the atomospheric moisture evoution is a key to understand the causal mechanism of the onset of climatic cooling or warming. The late-Quaternary paleo-moisture history of Siberia was studied from the sediment records of the Baikal dranage basin, which provided pleoclimatic information indispensable for interpreting the responsibility of Lake Baikal for solar insolation. The Earth’s orbit as a trigger of long-term ice ages No great effect on the long-term causation, but dictation of multiple freezing & thawing pattern 海保 邦夫 部局:理学研究科 地学専攻・教授 専門分野:微古生物学、古海洋学 主な研究課題:生物の大量絶滅の原因とプロセスの解明 連絡先:E-mail:[email protected] [研究報告] 1) 研究タイトル:大量絶滅の原因とプロセスの解明 2) 研究目的と成果概要 堆積物の化学分析の結果から、大量絶滅の原因と環境激変の実態を明らかにする。数値計算・ 実験から、小天体衝突により形成される成層圏エアロゾルが、生物と地球環境に及ぼした影響を 明らかにする。 1. 暁新世/始新世境界(5500 万年前)の極端温暖化の時期に、古地中海域で、底生有孔虫の絶 滅事変と炭酸塩の溶解が同時に起きたことを明らかにした。同時期の底生有孔虫の殻サイズ の減少と浮遊性有孔虫の殻サイズの増加は、Kaiho et al. (2006, Palaeogeogr., Palaeoclimatol., Palaeoecol..) に報告した。 2. ペルム紀末の史上最大の大量絶滅と硫酸塩硫黄同位体比の減少が同時であることを、中国の ペルム紀/三畳紀境界の模式地とヨーロッパの2地点で明らかにした。硫酸塩硫黄同位体比 の減少は、海洋深層で形成された硫化水素が大量に海洋表層と大気に放出されたことを意味 する (Kaiho et al., 2006, 2007 inpress)。 3. テチス海東縁におけるペルム紀末から初期三畳紀にかけての硫酸塩硫黄同位体比変動を明 らかにした。 4. ペルム紀グアダルピアン期/ローピンジアン期境界における大量絶滅と同時の硫酸塩硫黄同 位体比、ストロンチウム同位体比などの変動を初めて明らかにした。 5. バイオマーカーにより、ペルム紀末の大量絶滅前後の、溶存酸素環境変動を明らかにした。 6. バイオマーカーにより、白亜紀中期最温暖期の、大西洋北東部浅海域(スペイン)の溶存酸素 環境変動を明らかにした。 7. 改善した 2D モデリングによるより精度のよい衝突シミュレーションを行ない、直径 10 km と 20 km の小惑星と 10 km の彗星の地球への衝突により成層圏に上がる海水、地殻、マントルの量 をそれぞれ求めた。昨年度の成果は、Saito et al. (2006)に報告した。 8. 小天体衝突により形成される成層圏硫酸エアロゾルによる太陽光反射後の晴れ上がり時の紫 外線量増加現象を論文原稿化した。 佐藤 源之 部局:東北アジア研究センター、資源環境学研究分野 専門分野:電波応用計測 主な研究課題:地中レーダ、合成開口レーダ 連絡先:E-mail:[email protected] [研究報告] 1) 研究タイトル: 1. ボアホールレーダによる地下環境計測 2. 地中レーダによる地下水計測 3. 地中レーダによる地雷検知・除去 2) 研究目的と成果概要: 1. ボアホールレーダによる地下環境計測 地下10m以上の深度では精密な地下計測を地表から行うことは難しい。ボアホールを利用した地中 レーダ計測であるボアホールレーダの利用により、詳細な地下き裂分布と水みち推定か可能となる。 我々が開発している光電界センサを利用した新しいレーダシステムの評価実験を岩手県釜石鉱山内東 北大学実験フィールドにおいて実施したデータを利用し、反射波の到来方向を推定するアルゴリズムを 開発し、データに適用した結果、基本的な特性は確認できた。また地下き裂からの反射波の偏波特性 を詳細に検討するレーダポーラリメトリ手法を利用し、き裂表面の形状粗さを推定するアルゴリズムを開 発し、実データに適用したところ、水理計測データと良い一致をみた。 一方、ボアホールを利用して対象物を挟み込むように計測ができる場合、電波の到達範囲が長くな るためイメージングに有利と考えられる。一般にはトモグラフィなどの再構成手法で画像化を行うが実際 には土壌の減衰によって、強い制約を受けることがわかった。対象物がパイプやトンネルなど形状の既 知な場合について、対象物の位置だけを正確に推定する逆散乱問題アルゴリズムを開発した。この結 果、20m間隔のボアホール計測で 50cm 程度の精度でトンネル位置推定が可能となった。 2. 地中レーダによる地下水計測 地中レーダを利用して土壌汚染を推定するアルゴリズムを考案した。土壌汚染からのレーダ反射波 は微弱で、また形状も不定である。データの空間相関性を利用したアルゴリズムによって、土壌サンプ ルの化学分析とレーダ観測によい相関がみられた。 3. 地中レーダによる地雷検知・除去 世界の紛争地に残る対人地雷の除去を支援するため開発した新型探知機 ALIS は作業効率を上げ るため、従来の金属探知機に地中レーダを搭載している。2006 年度は外務省 ODA の一環としてカンボ ジアにおいて、2ヶ月に及ぶ ALIS の長期評価試験を実施した。本実験では、現地地雷除去作業員に ALIS の原理と操作方法を指導し、十分な訓練を積んだ上で、現地作業員だけで検知作業を行うことに より、非常に現実的な状況でセンサの性能評価を行った。評価結果はカンボジア地雷除去センター (CMAC)からの報告を待っている段階であるが ALIS は故障などの問題は全く発生せず、現地作業員 がセンサの走査から信号処理、地雷位置の判断まで実行できることを確認できた。 孫 明宇 部局:学際科学国際高等研究センター、 (兼)流体科学研究所・学際衝撃波研究分野・助教授 専門分野:衝撃波工学、流体工学、数値流体力学 主な研究課題:衝撃波を含む高速衝突に関する数値的ならびに実験的研究 連絡先:E-mail:sun@ cir.tohoku.ac.jp [研究報告] 1) 研究タイトル:極低温環境下における高速衝突現象に関する実験的研究 2) 研究目的と成果概要: 小天体衝突による惑星表層環境激変過程を数値模擬アプローチによる研究は,生命起源と初 期進化様式,その後の生物絶滅の解明に不可欠の手段になっている。過去の数値模擬の検証は 主に常温環境下で行われていた。しかし、実際の惑星は日照面では極端な高温となり、また日陰面 では極低温環境下に曝される。これらの極限環境下では、 材料物性値は常温のそれとは異なる ため、衝突による破壊挙動も異なることが予想される。そのため、より精確な数値模擬のために、こ のような環境下における衝突実験は緊急にデータベース化されることが要請される。しかし、これら の検証を試みた研究は、現在限られた数しか存在しない。 本研究では、極低温環境下における高 速衝突現象を解明するため、液体窒素回流型クライオスタットを用いてアルミニウム板を 120K まで に冷却し、二段式軽ガス銃を用いて高速衝突実験を行い、デブリクラウドの形成過程の可視化を行 った。常温環境下でも同様の実験を行い、結果を比較した。結論は以下の通りである。 広い速度 域においてデブリ雲の時系列的な可視化に成功し、温度の違いにより、デブリ雲内の破片分布及 び飛散分布が異なることを明らかにした。 常 温 低 温 デブリ雲の可視化写真: 破片の数は常温の場合に比べて低温のほうが少ない 今村 文彦 部局:工学研究科 災害制御研究センター・教授 専門分野:津波工学 主な研究課題:津波現象の解明と災害軽減技術の開発 連絡先:E-mail:[email protected] [研究報告] 1) 研究タイトル:スマトラ地震津波の被害の実態と予測技術の解明 2) 研究目的と成果概要: 背景: スマトラ島沖地震津波による被害はインド洋全域にひろがり,現時点で死者が 30 万人を超える 史上最悪の津波災害となった.この地域には,過去 M8 クラスの地震およびそれによる津波の発 生はあったが,これほどの規模と被害は初めてである.なぜ,このように広域で大規模の被害が起 こったのか解明しなければならない.さらに,我が国の津波災害でも経験のない様々な新しい被害 形態(大量の漂流物や土砂移動)も生じており,現在の対策では十分対応できないため,早急にこ れらの知られざる被害発生メカニズム及び評価方法を確立しなければならない. 目的: 被災主要3カ国において被害実態・状況を明らかにするため,津波来襲状況と被害の関係を整 理(影響表の作成)し,沿岸での家屋被害を中心とした被害 fragility 関数の提案をすることを目的 とした.また,バンダアチェ市をターゲットにし,漂流物による人的・家屋被害など新しい来襲状況を 考慮した津波浸水モデルの改良をしなければならない 成果: (%) まず,JICA による GIS データ(ARRIS)に基づき,GIS 画像解析装置(設備費)を使用して,地形 データや土地利用状況データを作成した.さらに,データ入力・画像解析装置を使って,衛星画像 による津波空間水位分布(浸水域)・流速ベクトル図を作成これにより遡上シミュレーションに必要 な入力・検証データを整備することが出来た.次に,相当粗度モデルと地形抵抗モデルを比較検討 し,バンダアチェでの浸水状況再現に妥当なモデルと条件を検討した.得られた水理データと人的 被害との関係を求め,水深深 2m 程度に急激に人的被害が増加していることが示された.最後に, データ・映像入力装置(設備費)に蓄積される建物破壊状況と津波挙動との関係を示す fragility 関 数を求めることが出来た. 5 100 以上の成果により,土木学会海岸工学 浸 4 80 水 論文賞(平成 18 年 11 月 17 日)を受賞した. 深 60 毎 3 また,本テーマに関係して,インド洋での研 の 死 究者を東北大学に招聘し,数値プログラム 40 亡 2 率 の移転や共同研究を行い,地元での津波 1 20 防災技術向上への支援をおこなった.東北 0 0 大学工学研究科長教育賞(平成 18 年 3 月 Saved Dead+Missing 津波浸水深 (m) 23 日)により,この成果も評価されている. Ⅲ. COE研究員 ― COE研究員一覧 ― 固体地球研究グループ 鈴木 由希,博士(理学) (地震火山ダイナミクス, 受入: 吉田武義) 内田 直希,博士(理学) (地震火山ダイナミクス, 受入: 長谷川昭) 平成 19 年 1 月 31 日まで 根本 克己,博士(学術) (地震火山ダイナミクス, 受入: 土屋範芳) 宮原 正明,博士(理学) (核マントルダイナミクス, 受入: 大谷栄治) Konstantin Litasov, Ph. D (核マントルダイナミクス, 受入: 大谷栄治) 長嶋 剣,博士(理学) (核マントルダイナミクス(理工連携), 受入: 塚本勝男) * 流体地球・惑星研究グループ 上原 裕樹,博士(理学) (気候変動ダイナミクス, 受入: 花輪公雄) 石戸谷 重之,博士(理学)(気候変動ダイナミクス, 受入: 中澤高清) 山﨑 敦,博士(理学) (太陽地球系ダイナミクス,受入: 岡野章一) 平成 18 年 11 月 30 日まで 堂満 華子,博士(理学) (気候変動ダイナミクス, 山田 学,博士(理学) (太陽地球系ダイナミクス,受入: 岡野章一) 平成 19 年 3 月 1 日から 受入: 尾田太良) * 地球進化史研究グループ 新妻 祥子,博士(理学) (地球進化史,受入: 掛川武) 大庭 雅寛,博士(理学) (地球進化史,受入: 海保邦夫) 菅原 大助,博士(理学) (地球進化史(理工連携),受入: 箕浦幸治) * 平成 18 年 6 月 1 日から 日本学術振興会 COE 枠 博士研究員 谷島 尚宏 (地震火山ダイナミクス, 指導: 長濱 裕幸) *平成 18 年 5 月 15 日から 平成 18 年 4 月 1 日から 平成 18 年度 COE フェロー活動報告 す ず き ゆ き 鈴木 由希 受入教員名:吉田 武義 研究グループ名:固体地球研究グループ(地震火山ダイナミクス) 在任期間:平成 18 年 4 月 1 日~平成 19 年 3 月 31 日 【研究内容】 (1) 研究課題または研究目的 噴火現象・機構の理解を目的とし,火山下でのマグマプロセスの物質科学的研究を課題とした.研究 対象は,A)マグマ溜りでのプロセス,マグマ溜りの深度・構造・時間発展と,B)溜りよりも浅所での,噴 火に際したマグマ挙動(上昇速度,停滞深度・時間)とマグマでの現象(減圧による結晶作用,発泡),に 大きく二分される.B)の噴火に際したマグマ挙動について,これまでは主に,1 噴火の研究を行ってきた. 今年度は特別研究奨励費の支援も受け,1 火山の複数噴火を対象とした研究にも取り組んだ.すなわ ち複数噴火を系統的に検討することで,a)噴火の様式・爆発度が,どの深度でどんな要因で決定されて いるのか,b)マグマ上昇履歴の火山毎,噴火位置毎の特徴,c)噴火位置(山頂・山腹)と山頂下でのマ グマ上昇の関連,などが明らかにされ,火山噴火予知・防災に資することも可能となる. (2) 平成 18 年度研究活動の概要・進捗状況 B)のc),すなわち噴火位置(山頂・山腹噴火)と山頂下でのマグマ上昇の関連を,有珠山を例にして調 べた.2000年(山腹噴火)と1977年(山頂噴火)の比較を,院生の中村氏との共同研究によって進めてい る(鈴木・中村,2007;連合大会発表予定).一般に山頂下で上昇するマグマの密度が小さい程,山頂噴 火となり易い.マグマ密度は発泡や気相のマグマからの分離によって時間と共に変化するが,噴火に際し たマグマ上昇の速度が小さく,停滞があるほど大きくなり易い.そこで山頂下でのマグマ上昇を,山頂・山 腹噴火の間で比較することで,ある火山での噴火位置決定要因を明らかにすることができる.2000年と 1977年の噴出物の石基結晶の組織・組成を比較した結果,山頂下でのマグマ上昇は,いずれも,2km深 まで急速に上昇の後,停滞する様式であり,明らかな相違はないことが分かった.ただし2km深前後で停 滞している際,マグマからの気相の分離効率が異なり,マグマの密度差が生まれた可能性がある.効率 を変えた要因として,噴火に先立ち貫入したマグマの規模の違いが提案された.その規模は,各噴火の 総噴出量が1977年で2桁程度大きいことから1977年で大きく,その結果気相の分離効率が悪かった可能 性がある.中村氏の博論テーマである77年噴火の推移の研究に対しても,2000年噴火の成果(Suzuki et al. 2006;published in Bull. vol.)や,そこで得られた結晶作用についての知見を元に,助言を行っている. この他に,下記論文の公表作業を進めた. 【研究成果】 (1) 平成 18 年度の研究活動成果 B)の噴火に際したマグマ挙動の研究と関連し,減圧によって起きる結晶作用についてのレビュー論 文を投稿し,印刷に至った(鈴木,2006).そこでは結晶組織からマグマ挙動をより良く読み取るための 改善点と課題を提案した.これによって今後,物質科学データと地球物理学データの融合がさらに進み, 火山噴火の理解が促進されるはずである.同じく B)と関連し,有珠 2000 年噴火に際したマグマ挙動に ついての実験的研究を公表した(Suzuki et al., 2006).さらに A)と関連し,榛名火山のマグマ供給系や噴 火準備過程についての論文を投稿した(Suzuki and Nakada, in review for J. Pet.). (2) 業績リスト 【学術論文等】 ISI 登録誌 1. Suzuki, Y., Gardner, J. E. and Larsen, J.F. Experimental constraints on syneruptive magma ascent related to the phreatomagmatic phase of the 2000 A.D. eruption of Usu volcano, Japan. Bull Volcanol., DOI 10.1007/s00445-006-0084-3, 2006. 2. Suzuki, Y. and Nakada, S. Remobilization of Felsic High-Crystallinity Magma by the Injection of Mafic Magma: Constraints from the Middle 6th Century Eruption at Haruna Volcano, Japan. J. Pet., in revise. ISI 以外の査読付き論文 1. 鈴木由希,結晶作用から見た噴火時のマグマ上昇-最近の減圧実験による発展-. 火山,51, 373-391, 2006. 【学会講演】 国内 1. 鈴木由希, 中村一輝,有珠山 1977,2000 年噴火に際したマグマ上昇と噴火位置の関係. 日本地球惑星科学連合 2006 年大会, V201-006,東京,5 月 14-18 日, 2006. 2. 中村一輝, 鈴木由希, 谷口宏充,マイクロライトの組織・組成から推定する有珠火山 1977 年 プ リ ニ アン 噴 火 に お け る マ グ マ 上 昇 過 程 . 日 本 地 球 惑 星 科 学 連 合 2006 年 大 会 , V102-005,東京,5 月 14-18 日, 2006. 3. 吉木佳奈, 中村美千彦, 鈴木由希, 吉田武義, 長橋良隆,伊豆諸島新島火山のマグマ供 給系の進化.日本地球惑星科学連合 2006 年大会, V102-010,東京,5 月 14-18 日, 2006. 平成 18 年度 COE フェロー活動報告 う ち だ な お き 内田 直希 受入教員名:長谷川 昭 研究グループ名:固体地球研究グループ(地震火山ダイナミクス) 在任期間:平成 18 年 4 月 1 日~平成 19 年 1 月 31 日 【研究内容】 (1) 研究課題または研究目的 相似地震解析に基づくプレート間すべりの時間発展の追跡と非地震性すべり領域の検出 (2) 平成 18 年度研究活動の概要・進捗状況 相似地震に基づくプレート間すべりの推定の基礎となる,相似地震の繰り返し特性の解明のため, 相似地震の精密震源決定およびすべり領域の推定を行った. 【研究成果】 (1) 平成 18 年度の研究活動成果 相似地震(小繰り返し地震)はプレート境界に存在する小さなアスペリティの繰り返し破壊であると考 え ら れて い る . そ の 繰り 返 し の 特 徴を 調 べ る ため , 相 似地震 の 震 源を ダ ブ ル ・ デ ィフ ァ レン ス 法 (Waldhauser and Ellsworth, 2000)を用いて高精度で決定し,さらに Multi Window Spectrum Ratio 法 (Imanishi and Ellsworth, 2006)を用いてコーナー周波数を求め,円形断層を仮定してそのサイズを推定 した.その結果,いくつかの相似地震を含む地震クラスタでの震源位置と断層サイズについての検討に より,これまで我々が用いてきた波形の相関による相似地震の抽出基準が妥当であることを確認した. 次に,ほぼ同じ時間間隔で同じ場所で繰り返し発生している岩手県釜石沖の M4.8±0.1 の周囲の相 似地震について上記の解析を行い,その発生の時空間的特徴を調べた.その結果,(1) 相似地震は, M4.8 の地震のすべり域の周囲に多く分布するが,一部はすべり域の内部にも存在すること,(2) M4.8 の地震のサイクルの後半でこれらの相似地震の活動が高いことを明らかにした.これらのことは,M4.8 の地震の地震時すべり域の外側で準静的すべりは卓越しているが,地震時すべり域の内部でも,特に M4.8 の地震の地震サイクルの後半で,準静的すべりが発生している可能性があることを示す. さらに,相似地震のすべり量の特徴を調べるため,地震のモーメントと応力降下量の関係を調査した. その結果,M4.8 の地震の周囲の相似地震は,通常の地震と同程度の応力降下量をもち,Nadeau and Johnson(1998)が相似地震について推定した関係式から期待される応力降下量よりかなり小さいことが 分かった.このことは,Nadeau and Johnson の式で求められるすべり量は,一回の地震あたりの地震性 すべりのみならず余効すべりも足しあわされた量に相当している可能性を示している. 成果の公表については,上記研究について論文を執筆中のほか,2005 年 8 月 16 日に発生した宮城 県沖の地震(M7.2)の周辺についてその地震以降,および過去 22 年間にわたる準静的すべりの推定を 行い,「Earth Planets Space」と「地震」に論文が受理された.また,月刊「地球」に相似地震に基づくプレ ート間すべりの推定について 2 編の論文を執筆した.国内・国外の学会等でも計 6 回の発表を行った. (2) 業績リスト 【学術論文等】 ISI 登録誌 1. Uchida, N., Matsuzawa, T., Hirahara, S., and Hasegawa, A., Small repeating earthquakes and interplate creep around the 2005 Miyagi-oki earthquake (M7.2), Earth Planets Space, in press 2007. 2. Rubinstein, J., Uchida, N., and Beroza, G., Seismic velocity reductions caused by the 2003 Tokachi-oki earthquake, J. Geophys. Res., in press 2007. 3. Miura, S., Iinuma, T., Yui, S., Uchida, N., Sato, T., Tachibana, K., and Hasegawa, A., Co- and post-seismic slip associated with the 2005 Miyagi-oki earthquake (M7.2) as inferred from GPS data, Earth Planets Space, in press 2007. 4. Umino, N., Kono, T., Okada, T., Nakajima, J., Matsuzawa, T.,Uchida, N., Hasegawa, A., Tamura, Y., and Aoki, G., Revisiting the three M~7 Miyagi-oki earthquakes in the 1930s : Possible seismogenic slipon asperities that were re-ruptured during the 1978 M7.4 Miyagi-oki earthquake, Earth Planets Space, in press 2007. 5. Iio, Y., Katao, H., Ueno, T., Enescu, B., Hirano, N., Okada, T, Uchida, N., Matsumoto, S., Matsushima, Uehira, K., and Shimizu, H., Spatial distribution of static stress drops for aftershocks of the 2005 West off Fukuoka Prefecture earthquake, Earth Planets Space, in press 2006. ISI 以外の査読付き論文 1. 内田直希,松澤暢,三浦哲,平原聡,長谷川昭, 小繰り返し地震解析による宮城・福島県沖プレ ート境界の準静的すべり, 地震 2, 59, in press 2007. 2. 海野徳仁,河野俊夫,岡田知己,中島淳一,松澤暢,内田直希,長谷川昭,田村良明,青木元, 2006, 1930 年代に発生したM7クラスの宮城県沖地震の震源再決定-1978 年宮城県沖地震の アスペリティでのすべりだったのか?-, 地震 2, in press 2007. 査読なし論文 1. 内田直希,松澤暢,平原聡,長谷川昭,笠原稔, 小繰り返し地震による東北日本沈み込みプレ ート境界での準静的すべりの推定, 月刊地球, 印刷中 2007. 2. 内田直希,松澤暢,平原聡,長谷川昭,笠原稔, 小繰り返し地震による千島・日本海溝沿いプレ ート境界の準静的すべりモニタリング, 月刊地球, 28, 463-469, 2006. 【学会講演】 国内 1. 内田直希,松澤暢,岡田知己,長谷川昭,今西和俊,W.L.Ellsworth, 小繰り返し地震の活動の 揺らぎと微細構造, 研究集会「地震発生サイクルとその複雑性」, 宇治, 京都大学生存圏研究 所木質ホール, 11 月, 2006. 2. 内田直希,松澤暢,岡田知己,長谷川昭,今西和俊,W.L.Ellsworth, 小繰り返し地震の発生の 特徴とアスペリティ, 日本地震学会 2006 年秋季大会, 名古屋, 名古屋国際会議場 2 号館, 10 月, 2006. 3. 内田直希, 小繰り返し地震とプレート間の準静的すべり, EARSシンポジウム, 東京, 東京大学 地震研究所, 10 月, 2006. 4. 岡田知己,柳沼直,本堂周作,内田直希,長谷川昭,Haijiang Zhang,Clifford Thurber, DDトモ グラフィー法による 2004 年新潟県中越地震の震源断層とアスペリティのイメージング(2), 日本 地震学会 2006 年秋季大会, 名古屋, 名古屋国際会議場 2 号館, 10 月, 2006. 5. 本堂周作,岡田知己,内田直希,中島淳一,長谷川昭,伊藤喜宏, DD法により推定される 2004 年新潟県中越地震の断層面の詳細分布, 日本地震学会 2006 年秋季大会, 名古屋, 名古屋国 際会議場 2 号館, 10 月, 2006. 6. 内田直希, 小繰り返し地震によるプレート間すべりモニタリング, 京都大学防災研究所研究集会 18K-06「使える地震予測を目指して-最近 10 年間の地震予知研究における成果と展望-」 , 宇 治, 京都大学防災研究所, 6 月, 2006. 7. 内田直希,William L. Ellsworth,松澤暢,岡田知己,長谷川昭, 釜石沖「固有地震」周辺の微小 地震活動, 日本地球惑星科学連合 2006 年大会, 千葉, 幕張メッセ, 5 月, 2006. 8. Shantha S.N. Gamage,内田直希,海野徳仁,長谷川昭, Aftershock distributions of three large off-Miyagi Prefecture earthquakes in 2005 revealed by sP phase, 日本地球惑星科学連合 2006 年 大会, 千葉, 幕張メッセ, 5 月, 2006. 国際 1. Uchida, N., Ellsworth, W. L., Matsuzawa, T., Imanishi, K., Okada, T., Hasegawa, A., Seismic activities around an M4.8 'characteristic earthquake' sequence off Kamaishi, NE Japan, AGU 2006 Fall Meeting, San Francisco, California, December 2006. 2. Hondo, S., Okada, T., Uchida, N. Nakajima, J., Hasegawa, A., Ito, Y., Detailed structure of fault planes and stress field of the 2004 mid-Niigata Earthquake (central Japan) from DD hypocenter relocation and focal mechanisms, AGU 2006 Fall Meeting, San Francisco, California, December 2006. 3. Iinuma, T., Miura, S., Yui, S., Uchida, N., Sato, T., Tachibana, K., and Hasegawa, A., Spatio-temporal evolution of post-seismic slip associated with the 2005 Miyagi-oki earthquake (M7.2) as inferred from GPS data, AGU 2006 Fall Meeting, San Francisco, Moscone Center, December, 2006. 4. Matsuzawa, T., Uchida, N., Okada, T., Ariyoshi, K., Umino, N., and Hasegawa, A., Asperities and aseismic regions on the plate boundary in the northeastern Japan subduction zone, International Workshop on Tectonics of Plate Convergence Zones: Toward the Seamless Understanding from Earthquake Cycles to Geomorphic Evolution, Tokyo, Koshiba Hall, University of Tokyo, September, 2006. 平成 18 年度 COE フェロー活動報告 ね も と かつみ 根本 克己 受入教員名:土屋 範芳 研究グループ名:固体地球研究グループ(地震火山ダイナミクス) 在任期間:平成 18 年 4 月 1 日~平成 19 年 3 月 31 日 【研究内容】 (1) 研究課題または研究目的:地震発生メカニズムにおける岩石-水相互作用 (2) 平成 18 年度研究活動の概要・進捗状況 ・岩石き裂接触分布測定実験にもとづくき裂内流動の異方性の評価 100MPa までの垂直応力条件下における岩石き裂の透水異方性を、き裂面の接触分布評価実験と 数値シミュレーションとを組み合わせることにより評価した。その結果、1)本垂直応力条件においても、 既往の研究の 10MPa 以下の垂直応力条件において示されている透水異方性が存在すること、2)垂 直応力の増加にともない透水異方性の程度が増加すること、3)これらの透水異方性の変化は、垂直 応力やせん断かみ合わせ変位の増加によって変化する間隙構造に起因した、き裂内の主要な流動経 路の変化によることを明らかにした。 ・模擬断層すべり実験における岩石試料せん断破損域の観察 封圧下において流体流動をともなう模擬断層の摩擦すべり模擬実験装置を構築し、本実験装置を使 用して、封圧 5 MPa、すべり速度 0.001 mm/s の条件において定常的な流体供給を受ける模擬断層の摩 擦すべり挙動、ならびに透水性を評価する岩石実験を実施した。本実験から、摩擦すべりと透水性とに おける密接な相関を示唆する結果を得た。また、実験後の試料すべり面に対する顕微鏡観察を行った 結果、断層すべりにともなう模擬断層面の破損域は限定された領域であり、かつその領域の非常に限 定された部分において、断層すべりにともなう摩擦熔融の発生を示唆する鉱物の変質部位が存在する ことを見いだした。 ・南アフリカ金鉱山における地震観測研究への参加 現在南アフリカ国におけるいくつかの鉱山において、南アフリカ金鉱山における半制御地震発生実験 国際共同グループによる微小地震・温度・ひずみ観測が実施されている。そのうちの一つの鉱山では、 坑道側面に掘削された坑井からの多量の湧水の流出が確認されている。このような流体存在下では、 地震の発生にともなう流体流動(湧水量)の変化が予想される。本実験サイトは、実験室規模の現象と 大地震における現象との中間の規模を有することから、本サイトで得られる情報は、実験室規模におい て観測される現象をより大きな規模に外挿する場合、重要な意味合いを有する。そこで、南アに渡航し、 金鉱山(TauTona, Mponeng)における現状の掘削状況や湧水量等に関する調査、議論を行い、今後の観 測に資する情報を得た。 ・その他の研究活動 国際ワークショップ(4th International Workshop on WATER DYNAMICS)における実行委員として運営に 参加するとともに、研究成果の発表・討論を行った。本ワークショップにおける地震と水との相互作用に 関する特別セッションにおいて、最新の研究成果を発表し話題を提供した。 【研究成果】 (1) 業績リスト 【学術論文等】 ISI 登録誌 1. Nemoto, K., Moriya, H., Niitsuma, H. and Tsuchiya, N. Mechanical and hydrological behaviors of a pre-existing single fracture in fluid injection revealed by model experiments of injection-induced slip. Geothermics, 2007. submitted. 2. Nemoto, K., Watanabe, N., Oka, H., Hirano, N. and Tsuchiya, N. Experimental and numerical evaluation of anisotropy of fluid flow affected by aperture distribution of sheared rock fracture under normal stress. Water Resour. Res., 2006. submitted. ISI 以外の査読付き学術雑誌 1. Nemoto, K., Watanabe, N., Oka, H., Hirano, N. and Tsuchiya, N. Numerical estimation of anisotropic fluid flow in sheared rock fractures. in WATER DYANMICS: 4th International Workshop on Water Dynamics, AIP Conf. Proc., edited by K. Tohji et al., AIP, New York, 2007. in press. 2. Nemoto, K., Oka, H., Watanabe, N., Hirano, N. and Tsuchiya, N. Evaluation of fluid flow path in a single fracture undergoing normal stress and shear offset. in WATER DYANMICS: 3rd International Workshop on Water Dynamics, AIP Conf. Proc., 833, edited by K. Tohji et al., 156-161, AIP, New York, 2006. 3. Nemoto, K., Oka, H., Watanabe, N., Hirano, N., and Tsuchiya, N. Fault slip induced by injection of water and pore fluid flow. in WATER DYANMICS: 3rd International Workshop on Water Dynamics, AIP Conf. Proc., 833, edited by K. Tohji et al., 182-184, AIP, New York, 2006. その他 1. 根本克己・土屋範芳・渡邉則昭・平野伸夫・岡本敦,模擬断層のせん断すべりにともなう流体流 動とアスペリティ分布,地震発生の素過程研究集会,東京,3 月 7 日,2006. 【学会講演】 国内 1. 根本克己,渡邉則昭,岡秀明,平野伸夫,土屋範芳 き裂内流体流動の異方性における垂直応 力ならびにせん断変位の影響.2006 年度日本地熱学会学術講演会予稿集, B20, 2006. 国際 1. Nemoto, K., Moriya, H. and Niitsuma, H., Laboratory experiments of injection-induced faulting in pre-fractured rock, Eos Trans. AGU, 87(52), Fall Meet. Suppl., Abstract T13A-0487, 2006. 2. Nemoto, K., Watanabe, N., Oka, H., Hirano, N. and Tsuchiya, N. Numerical estimation of anisotropic fluid flow in sheared rock fractures, 4th International Workshop on Water Dynamics, Sendai, Japan, 2006. 3. Nemoto, K. Faulting due to fluid pressurization and fluid flow in faults. 4th International Workshop on Water Dynamics, Sendai, Japan, 2006. 4. Nemoto, K., Oka, H., Watanabe, N., Hirano, N. and Tsuchiya, N. Evaluation of spatial relationship between asperities and fluid flow in a fault on the basis of lab-scale experiments. 日本地球惑星科学連合 2006 年大会, J162-P009, 東京,5 月 27-31 日,2006. (Joint session with AOGS) 5. Nemoto, K. and Tsuchiya, N. Spatial relationship between asperities and fluid flow during sliding of a simulated fault. 日本地球惑星科学連合 2006 年大会, J162-014, 東京, 5 月 27-31 日,2006. (Joint session with AOGS) 平成 18 年度 COE フェロー活動報告 みやはら まさあき 宮原 正明 受入教員名:大谷 栄治 研究グループ名:固体地球研究グループ(核マントルダイナミクス) 在任期間:平成 18 年 4 月 1 日~平成 19 年 3 月 31 日 【研究内容】 (1) 研究課題または研究目的 研究課題Ⅰ:収束イオンビーム(FIB)法による DAC 試料の TEM 薄膜・SEM 試料作製技術の確立 研究課題Ⅱ:エネルギー損失分光(EELS)法による鉄の酸化・還元状態評価 研究課題Ⅲ:L6 コンドライト隕石中のショックベインに生成する高圧鉱物の解析 研究課題Ⅳ:CM2 コンドライト隕石中のコンドリュールとそれを取り巻く変質物質の解析 (2) 平成 18 年度研究活動の概要・進捗状況 研究課題Ⅰ:ダイアモンドアンビルセル(DAC)で高温・高圧合成された試料を FIB と極低エネルギーア ルゴンイオンミリング法を併用し TEM 薄膜・SEM 試料に加工する技術の確立を試みた。 研究課題Ⅱ:TEM/STEM に取り付けられた EELS を利用し,高圧鉱物(ペロブスカイト・マグネシオウス タイト等)中の鉄の酸化・還元状態評価を試みた。当課題は東北大学金属研究所及び日本電子㈱応用 研究センターとの共同研究である。 研究課題Ⅲ:Peace River L6 コンドライトのショックベイン中の高圧鉱物(リングウーダイト・ヒスイ輝石 等)を FIB で TEM 薄膜に加工し,これを TEM/STEM を用いて調べた。当課題は Prof. Ahmed El Goresy(ド イツ・バイロイト大学)及び Prof. Ming Chen(中国科学アカデミー)との共同研究である。 研究課題Ⅳ:Cold Bokkeveld CM2 炭素質コンドライト中のコンドリュールとそれを取り巻く変質物質を FIB で TEM 薄膜に加工し,これを TEM/STEM を用いて調べた。FIB-TEM/STEM を用いて隕石中の場所 を特定しての詳細な解析は,世界でも殆ど前例のない試みである。当課題は九州大学超高圧電子顕微 鏡室との共同研究である。 【研究成果】 (1) 平成 18 年度の研究活動成果 研究課題Ⅰ:DAC 試料から TEM 薄膜を作製する技術が確立され,これを国内・国際学会で発表し,さ らに国際誌への投稿を行った。また,DAC 試料から SEM 試料に加工する技術も確立し,DAC 試料断面を SEM で解析する新たな手法が可能となった。 研究課題Ⅱ:EELS による鉄の酸化・還元状態評価は鉄の L3 エッジを用いて行った。その結果,定性 的評価は可能であることがまず確認された。今後より EELS の分解能を向上させ,定量的評価を目指す。 研究課題Ⅲ:ショックベイン中で,リングウーダイトとワーズレイアイトが粒状に共生していることが見出 された。また。ヒスイ輝石部分に多量のクリスタライトが生成していることが確認された。 研究課題Ⅳ:コンドリュール内部の変質物質とコンドリュールを取り巻く変質物質に鉱物学的類似点が なく,それぞれが別々の環境・場所で生成したことが明らかとなった。この結果は国内学会で報告した。 (2) 業績リスト 【学術論文等】 ISI 登録誌 1. Miyahara M., Sakai T., Ohtani E., Kobayashi Y., Kamada S., Kondo T., Nagase T, Yoo J.-H., Nishijima M. and Vashaei Z., TEM foil preparation using an FIB technique of a film sample subjected to ultrahigh pressure treatment. submitted. 2. Miyahara M., Takahashi Y., Uehara S. and Kitagawa R., The vermiculitization of Mg-chlorite and Fe-redox state. submitted. 3. Ohkawa M., Miyahara M., Ohta E. and Hoshino K., Silicon-substituted magnetite and accompanying iron oxides and hydroxides from the Kumano mine, Yamaguchi Prefecture, Japan: Reexamination of so-called maghemite (γ-Fe2O3). Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, in press, 2007. 4. Zheng G., Lang Y., Miyahara M., Nozaki T. and Haruaki T., Iron oxide precipitate in seepage of groundwater from a landslide slip zone. Environmental Geology, on line first, 2007. ISI以外の査読付き論文 1. 宮原正明,松井章弘,北川隆司,西戸裕嗣,地下まゆみ,マサ化花崗岩に発達する粘土細脈につ いて-六甲花崗岩での調査事例-.地すべり,43,70-76,2007. 査読なし論文 1. 宮原正明,上原誠一郎,原始太陽系形成時の水-岩石変質作用のナノ解明.ナノテクノロジー総 合支援プロジェクト平成19年度実績報告書,投稿中. 2. 大谷栄治,宮原正明,境毅,鎌田誠司,近藤忠,西嶋雅彦,Zahra Vashaeic,核・マントル境界条 件における金属鉄・酸化物反応の研究.ナノテクノロジー総合支援プロジェクト平成19年度実績報 告書,投稿中. 3. 宮原正明,上原誠一郎,北川隆司,TEM/STEM-EDSによる難観察性試料の観察・分析-カオリン・ モンモリロナイト連晶鉱物での事例. 九州大学超高圧電子顕微鏡室研究報告書, 30, 97-98, 2006. 4. 大谷栄治,宮原正明,境毅,小林雄介,近藤忠,柳正昊,核・マントル境界条件における金属鉄・ 酸化物反応の研究.ナノテクノロジー総合支援プロジェクト平成18年度実績報告書,94-95,2006. 【学会講演】 国内 1. 宮原正明,上原誠一郎,大谷栄治,炭素質コンドライトから見た原始太陽系星雲内での変質作用. 第50回粘土科学討論会,A5,千葉科学大学,9月7-9日,2006. 2. 宮原正明,境毅,近藤忠,大谷栄治,TEM foil preparation technique by FIB system.日本 地球惑星科学連合2006年大会,I143-021,幕張メッセ国際会議場,5月14-18日,2006. 3. 鎌田誠司,近藤忠,大谷栄治,境毅,宮原正明,西嶋雅彦,高温高圧下における珪酸塩とFe-S系 間のカリウム分配.第47回高圧討論会,3B06,熊本市産業文化会館,11月9-11日,2006. 4. 境毅,近藤忠,大谷栄治,寺崎英紀,宮原正明,柳正昊,西嶋雅彦,亀卦川卓美,平尾直久,佐 多永吉,大石泰生,マントル最下部条件における溶融鉄とperovskiteおよびpost-perovskite相 の化学反応と濡れ関係.第47回高圧討論会,3B03,熊本市産業文化会館,11月9-11日,2006. 5. 白石令,大谷栄治,金川久一,下宿彰,宮原正明,The lattice preferred orientation of Akimotoite MgSiO3.日本地球惑星科学連合2006年大会,I122-P031,幕張メッセ国際会議場,5 月14-18日,2006. 国際 1. Miyahara M., Sakai T., Ohtani E., Kobayashi Y., Kondo T, Nagase T. and Yoo J.-H., The application of focused ion beam (FIB) system to the earth science. 4th International Workshop on WATER DYNAMICS, B-12, Aoba Memorial Hall, Tohoku University, November 7-8, 2006. 2. Miyahara M. and Uehara S., Two-dimensional high-resolution elemental mapping of th phyllosilicates-Application of ADF-STEM with EDS analysis-. The 16 International Microscopy Congress, IMC16-00001124, Sapporo Convention Center, September 3-8, 2006. 3. Miyahara M., Sakai T., Kobayashi Y., Yoo J.-H., Kondo T. and Ohtani E., TEM foil preparation technique by Focused Ion Beam (FIB) system. 19th General Meeting of the international mineralogical Association, P05-10, Kobe Convention Center, July 23-28, 2006. 4. Ohtani E., Sakai T., Kondo T, Miyahara M. and Terasaki, H., Iron-silicate reaction at CMB and formation of core signature in plume source region: An experimental approach. 2006 AGU fall meeting, San. Francisco, USA, U34A-05, December 11-15, 2006. 5. Sakai T., Kondo T., Ohtani E., Terasaki H., Miyahara M., Yoo J.-H., Endo N., Kuba T., Suzuki T. and Kikegawa T., Wetting property at the core-mantle boundary and core signature in plume source region. 19th General Meeting of the international mineralogical Association, P05-03, Kobe Convention Center, July 23-28, 2006. 6. Shiraishi R., Ohtani E., Kanagawa K., Shimojyuku A. and Miyahara M., Seismic anisotropy of Akimotoite MgSiO3 and implications for the structure of the subducting slab. 19th General Meeting of the international mineralogical Association, P05-09, Kobe Convention Center, July 23-28, 2006. 7. Sakai T., Kondo T., Kobayashi Y., Ohtani E., Miyahara M., Yoo J.-H., Nagase T., Fe-Mg partitioning between post-perovskite and magnesiowustite. 16th Annual V.M. Goldschmidt Conference, Melbourne Exhibition and Convention Centre, Melbourne, Australia, A552, August 27- September 1, 2006. 8. Zheng G.D., Fu B., Takahashi Y., Miyahara M., Kuno A., Matsuo M., Chemical speciation of certain redox sensitive elements in hydrocarbons bleached rocks around a muddy volcano in the Junggar Basin, Northwest China. 6th Workshop on Mössbauer Spectroscopy, Seeheim, Germany, June 7-11, 2006. 平成 18 年度 COE フェロー活動報告 リ タ ソ フ コンスタンチン Litasov Konstantin Advisor:Prof. Eiji Ohtani Research group:Solid Earth Research Group(Core-mantle Dynamics Research Subgroup) Term of Assignment:April 1, 2006~March 31, 2007 【Research Activity】 (1) Research title/topic or purpose of your research Title: Influence of water and other volatiles on phase relation in the Earth’s mantle and deep water cycle. (a) Hydrogen solubility and water partitioning between olivine and wadsleyite. (b) Hydrogen solubility and hydrogen incorporation mechanism in Al-stishovite. (c) P-T-V equation of state of superhydrous phase B and phase D. (d) Influence of H2O and Al2O3 on post-stishovite phase transformation in eclogite. (e) Equation of state of Mg-perovskite, ferropericlase, hydrous olivine, and phase E. (f) Generation of high pressure using large-volume cell assembly. (2) Outline/summary of your research activity in 2006 (a) I started work on water solubility in olivine and wadsleyite and novel implication of the hydrogen incorporation mechanism for petrological purposes, such as distinguishing the style of mantle metasomatism recorded in kimberlitic xenoliths. The hydrogen solubility and hydrogen incorporation mechanism into (Mg,Fe)2SiO4 olivine have been studied at pressures of 9-15 GPa and temperatures of 1100-2000oC. The hydrogen solubility increases with pressure, but the temperature dependence is complex. The hydrogen solubility increases from 1100-1400oC and then decreases at 1400-2000oC. Maximum hydrogen solubility, equivalent to 6000 ppm H2O, was determined in olivine at 13.5 GPa and 1200-1400oC. At temperatures of 1800-2000oC the H2O contents of olivine is very low (150-400 ppm). Although structural calculations are consistent with hydrogen incorporation into octahedral vacancies in olivine, we strongly suggest that majority of observed peaks in FTIR spectra are due to hydrogen associated with Si-vacancies. H2O content of wadsleyite decreases from about 2.1 wt.% at 1373 K to 0.7 wt.% at 1773 K. We determined the partition coefficient of H2O between two phases. Dwd/ol is 11.8 at 1473 K, 7.2 at 1673 K and 4.5 at 1773 K. However if we apply recent calibration of H2O content in olivine by Bell et al. these Dwd/ol values are three times lower. (b) I studied hydrogen solubility in Al- free and Al-bearing stishovite synthesized at 20-25 GPa and 1400-1800oC. H2O contents of Al-free stishovite were 16-30 ppm. The maximum H2O content of Al-bearing stishovite (4.4 wt.% Al2O3) synthesized at 20 GPa and 1400oC is 3010 ± 300 ppm. Most hydrogen in stishovite is associated with Al3+ substitutional defects on octahedral (Si4+) site. We report the highest H2O concentrations in Al-stishovite and argue that it is most important water carrier in lower mantle post-garnet eclogitic assemblage. (c) I obtained thermoelastic parameters for equation of states of hydrous phases: phase D and superhydrous phase B and applied the results to density of subduction slabs in the deep mantle. It was shown that density of a subducted slab containing >1 wt.% H2O is lower than that of surrounding mantle below 660 km depths. Therefore highly hydrated slabs cannot penetrate to the lower mantle and must be stagnant in transition zone. (d) We studied equation of state and stability of Al- and H-bearing stishovite using diamond anvil cell and Brillouin spectroscopy. We show that the Landau-type rutile-CaCl2 phase transition in this stishovite occurs at 24.0(0.5) GPa (at 298 K), far lower than for pure stishovite at 50-60 GPa. Our results suggest that the rutile-CaCl2 transition in natural stishovite (with ~5 wt.% Al2O3) will occur at ~30 GPa, or ~1000 km depth at mantle temperatures. The phase transition is accompanied by drastic changes in elastic properties, which should make it visible in seismic profiles. Stishovite with Al2O3 contents below 5 wt.% may be responsible for seismic reflectors at 1000-1400 km depths. (e) I synthesized large single crystal phases of Al-and Fe-bearing Mg-perovskite, ferropericlase, hydrous olivine, and phase E. We are planning to perform high-pressure and high temperature Brillouin spectroscopic studies on equation of state of these phases. We studied Al- and Fe-bearing Mg-perovskite using inelastic X-ray diffraction scattering in ESRF synchrotron facility in Grenoble. The results indicate that Al- and Fe- have minor influence on sound velocities of Mg-perovskite. (f) I developed a technique to generate pressure up to 28 GPa using large volume cell with 3.5 mm truncation edge length of WC anvils and capsule size of 2x2 mm. We used ultrahard TF-05 32 mm WC anvils for these experiments. I synthesized Al- and Fe-bearing Mg-perovskite crystals using this technique. 【Result of your research activity in 2005】 (1) Summary of the results (a) We completed a study of the phase relations (at a pressure range of 18-26 GPa) in the hydrous (with 2 wt.% H2O) and anhydrous Mid Ocean Ridge Basalt (MORB), which can represent average oceanic crust descending to the deep mantle in subduction zones. It was found that in the hydrous MORB the stability field of Al-bearing perovskite, Al-rich NAL-phase and garnet shifts toward lower pressures by about 1-2 GPa compared to the dry MORB. This shift erases the density crossover between hydrated peridotite and basalt near 660 km, suggesting that delamination of former basaltic crust near 660 km depth can be controlled by water in the subducting slab. This work was confirmed by our in situ X-ray diffraction experiments using Synchrotron radiation. (b) I completed several studies on influence of water on major phase transitions in the Earth mantle: olivine-wadsleyite, responsible for 410 km discontinuity; wadsleyite-ringwoodite (520-km), and post-spinel transformation (ringwoodite to Mg-perovskite and ferropericlase, 660-km). We have found clear shift of olivine-wadsleyite phase boundary to lower pressure and post-spinel transition to higher pressure, which have important implication for interpretation of topography of mantle transition zone seismic discontinuities. We prepared two review papers based on these results. (c) We completed one major review paper “Effect of water on the phase relations in the Earth’s mantle and deep water cycle” (for Geological Society of America Special Paper volume), which summarize our several year’s effort on study of influence of water on mantle dynamics. In this paper we emphasize (1) role of the transition zone as a water reservoir in the Earth’s interior, due to high water solubility in wadsleyite and ringwoodite, and as a water absorber for the water circulation system of the mantle; and (2) several potential dehydration sites in the mantle, which may control water circulation through plate tectonics; the mantle wedge above subduction slabs, a region above the 410-km discontinuity, the top of the lower mantle, and the deep lower mantle. (2) Publications 【Scientific papers】 ISI registered books 1. Litasov, K.D., Litasov, Yu.D., Ivanov, A.V., Rasskazov, S.V., Yurimoto, H., Demonterova, E.I., Sharygin, V.V., Mal’kovets, V.G., Upper mantle beneath Udokan volcanic field: Study of peridotite xenoliths in Late Cenozoic basaltoids, Russian Geology and Geophysics, 47, 132-152. 2006. 2. Vanpeteghem, C.B., Angel, R.J., Ross, N.L., Jacobsen, S.D., Litasov, K.D., Ohtani, E., Al, Fe substitution in MgSiO3 perovskite structure: A single-crystal X-ray diffraction study, Physics of the Earth and Planetary Interior, 155, 96-103, 2006. 3. Sano, A., Ohtani, E., Litasov, K.D., Kubo, T., Hosoya, T., Funakoshi, K., Kikegawa, T., In situ X-ray diffraction study of effect of water on garnet-perovskite transformation in MORB and implication for penetrating oceanic crust into the lower mantle, Physics of the Earth and Planetary Interior, 159, 118-126. 2006. Papers without referee review(including bulletins/proceedings) 1. Litasov, K.D., Ohtani, E., Kagi, H., and Ghosh, S., Influence of water on olivine-wadsleyite phase transformation and water partitioning near 410-km seismic discontinuity, Proceedings of 3th International Workshop on Water Dynamics, Amer. Inst. Phys. Conf. Proceedings, v.833, pp.150-155, 2006. Books 1. Ohtani, E., Litasov, K.D., Effect of water on mantle phase transitions, in “Water in Nominally Anhydrous Minerals”, H. Keppler and J.R. Smyth eds., Reviews in Mineralogy and Geochemistry, v.62, pp.397-420, 2006. 2. Litasov, K.D., Ohtani, E., Sano, A., Influence of water on major phase transitions in the Earth's mantle, in “Earth Deep Water Cycle”, S.D. Jacobsen and S. van der Lee eds., American Geophysical Union, Geophys. Monogr., v.168, Washington DC, pp.95-111. 2006. 【meetings】 Domestic meetings 1. Litasov K.D., Ohtani, E., Kagi, H, Water partitioning between olivine and wadsleyite: Implication to 410-km discontinuity, Japan Geoscience Union Meeting, Makuhari-Messe, Chiba, CD-edition, I143-P018, 2006. International meetings 1. Malkovets, V.G.; Litasov, K.D.; Griffin, W.L.; O'Reilly, S.Y., Armalcolite and rutile-bearing mantle peridotites, Vitim volcanic field, South Russia: petrography and mineralogy, European Geoscience Union, General Assembly, Vienna, Austria, 2006. 2. Litasov K.D., Ohtani, E., Kagi, H., Ghosh, S., Water partitioning between olivine and wadsleyite near 410-km sesmic discontinuity, 19th General Meeting of International Mineralogical Association, Kobe, Japan, 2006. 3. Ghosh, S., Ohtani, E., Litasov, K.D., Suzuki, A., Terasaki, T., Solidus of carbonated peridotite to 20 GPa, 19th General Meeting of International Mineralogical Association, Kobe, Japan, 2006. 4. Kawazoe, T., Ohtani, E., Terasaki, H., Litasov, K., Sano, A., Suzuki, A., Tange, Y, Funakoshi, K., In situ X-ray observation of eutectic temperatures and subsolidus phases in Fe-FeS-FeO system at 23-34 GPa, 19th General Meeting of International Mineralogical Association, Kobe, Japan, 2006. 5. Litasov, K.D., Ohtani, E., Kagi, H., Lakshtanov, D.L., Bass, J.D., Hydrogen solubility in Al-rich stishovite and water transport to the lower mantle, 16th annual V.M. Goldschmidt conference, Melbourne, Australia, Geochimica Cosmochimica Acta Suppl., 2006. 6. Ghosh, S., Ohtani, E., Litasov, K.D., Suzuki, A., Density of carbonated basaltic melt at the conditions of Earth’s upper mantle, Hydrogen solubility in Al-rich stishovite and water transport to the lower mantle, 16th Annual V.M. Goldschmidt conference, Melbourne, Australia, Geochimica Cosmochimica Acta Suppl., 2006. 7. Ohtani, E. Litasov, K., 2006, The effect of water on mantle phase transitions, Water in nominally anhydrous minerals, Mineralogical Society of America Short Course, Verbania, Italy, 2006. 8. Litasov K.D., Ohtani E., Suzuki A., Funakoshi K., Thermal equation of state of a dense hydrous magnesium silicate phase D, 4th International Workshop on Water Dynamics, Sendai, Japan, 2006. 9. Ghosh, S., Litasov, K.D., Ohtani, E., Suzuki, A., Stability of carbonated basaltic melt at the base of the Earth's upper mantle, AGU Fall Meeting, San Francisco, Eos Trans. AGU, 87 (52), Fall Meet. Suppl., Abstract, MR11A-0091, 2006. 10. Bass, J.D., Lakshtanov, D.L., Fiquet, G., Bossak, A., Krisch, M., Litasov, K., Hirao, N., Fukui, H., Li, L., Weidner, D.J., Ohtani, E., Sound velocities and elastic moduli of Feand Al-bearing Mg-silicate perovskite by inelastic X-ray scattering, AGU Fall Meeting, San Francisco, Eos Trans. AGU, 87 (52), Fall Meet. Suppl., Abstract, MR14A-05, 2006. 11. Litasov, K., Ohtani, E., Kagi, H., Shatskiy, A., Ghosh, S., Lakshtanov, D., Bass, J., Matveev, S., Hydrogen incorporation into olivine at 9-15 GPa: implication for water dynamics near the 410-km seismic discontinuity, AGU Fall Meeting, San Francisco, Eos Trans. AGU, 87 (52), Fall Meet. Suppl., Abstract, MR14A-07, 2006. 12. Sanchez-Valle, C., Litasov, K.D., Sinogeikin, S.V., Smyth, J.R., Ohtani, E., Bass, J.D., High-pressure sound velocities and single-crystal elastic properties of DHMS phases in subducted slabs, AGU Fall Meeting, San Francisco, Eos Trans. AGU, 87 (52), Fall Meet. Suppl., Abstract, MR11B-0116, 2006. 13. Lakshtanov, D.L., Sinogeikin, S.V., Litasov, K.D., Prakapenka, V.B., Hellwig, H.,.Wang, J., Sanches-Valle, C., Perrillat, J., Chen, B., Somayazulu, M., Ohtani, E., Bass, J., Anomalously low pressure of rutile-CaCl2 phase transition in aluminous hydrogenbearing stishovite, AGU Fall Meeting, San Francisco, Eos Trans. AGU, 87 (52), Fall Meet. Suppl., Abstract MR24A-06, 2 平成 18 年度 COE フェロー活動報告 ながしま けん 長嶋 剣 受入教員名:塚本 勝男 研究グループ名:固体地球研究グループ(核マントルダイナミクス) 在任期間:平成 18 年 5 月 15 日~平成 19 年 3 月 31 日 【研究内容】 (1) 研究課題または研究目的 工学連携研究として「浮遊実験によるコンドリュール形成メカニズムの解明」というテーマにより宇宙 工学,宇宙実験分野に対して貢献すること. (2) 平成 18 年度研究活動の概要・進捗状況 今年度はガスジェット浮遊炉を用いた結晶化実験によりコンドリュール形成環境の考察を行った.加 えて,通常のガラス作製法では得ることができないような組成の珪酸塩ガラスをガスジェット浮遊炉によ って作製した.なお,そのガラスを用いた応用研究も開始した. 【研究成果】 (1) 平成 18 年度の研究活動成果 1. ガスジェット浮遊炉によるコンドリュール形成実験 隕石中に含まれる mm サイズの珪酸塩結晶球であるコンドリュールの再現実験を行い,その 形成環境を推定した.コンドリュール形成環境である宇宙空間を模擬した浮遊状態で実験を行う ことが私の研究の特徴であり,浮遊した珪酸塩メルトは著しく結晶化が抑制されるために冷却に 伴いほぼガラス化してしまうこと (Nagashima et al., 2006a; 2006b),結晶化するには周辺に あったダスト微粒子との衝突が不可欠であることがわかった. 後者の成果に関しては非常にインパクトが大きいと予測しているため,今年度は研究成果を他 大学の研究者と慎重に打ち合わせてきたが,その成果も近々投稿できる見込みである.特に,北 大低温研にて4回もの研究打ち合わせを行い,7つもの学会・研究会へ参加することができたの は本 COE プログラムの資金援助あってのことである.なお,これらの議論からいくつかの研究テ ーマが生まれたので,それらは 2. 以降に記す. 2. 結晶化温度の冷却速度依存性から求める珪酸塩メルトと結晶との界面張力 浮遊環境における結晶化現象では,下地からの不均質核形成が抑制されるために,均質核 形成に非常に近い現象が起こると予測される.どのような温度・タイムスケールで核形成が起こ るのかは界面張力に強く依存するが,界面張力を求める手法は少なく,高融点である珪酸塩物 質のメルトと結晶との界面張力はほとんど求められていない. そこで,浮遊実験結果を元に北大低温研・田中今日子氏らが珪酸塩メルト結晶化シミュレーシ ョンを行ったところ,forsterite (Mg2SiO4)メルトと forsterite 結晶との界面張力が~500 mJ/m2 であるという値を得た.この手法や結果はただちに惑星科学や岩石学等へ応用可能であり,現 在投稿準備中である. 3. ガスジェット浮遊炉による珪酸塩ガラスの作製 浮遊環境における結晶化が非常に困難であることを逆手にとり,通常の方法では作製が困難 な組成の珪酸塩ガラスを浮遊メルト急冷法により作成した.その結果,造岩鉱物の中で最も SiO2%が少なく,ガラス化が難しいオリビン(forsterite)のガラスを得ることに成功した.このこと は,ほとんど全ての珪酸塩造岩鉱物のガラスが作成可能であることを意味する.なお,この研究 は COE 若手研究費からの援助を受けて浮遊装置の改良等を行うことで遂行できたものであり, 修士学生である森内善伸氏らと共に行っている. 残念ながら forsterite ガラスの作成自体は既に1例のみ報告されているが (Kohara et al., Science, 2004),安価なガスジェット浮遊炉によって forsterite ガラスの作製に成功したことは, 珪酸塩ガラス研究における試料の容易な入手という点において極めて重要であると考えている. 我々も実際に珪酸塩ガラス研究の一例として,4. の研究を開始した.本 COE は地球科学を中心 としたグループであるため,珪酸塩ガラスについて詳しい方も多いと思われる.興味を持たれた方 はご連絡頂けると幸いである. 4. 古代コンクリートと惑星科学 3. で作製した珪酸塩ガラスを用いた研究アイディアについて,東北大学理学研究科・流体研・ 多元研の若手研究者で研究グループを組織し議論を重ね,平成 18 年度東北大学若手研究者 萌芽研究育成プログラムに採択された (「古代コンクリートと惑星科学」, 代表: 長嶋剣, 2006/10~2008/3).このテーマは,(1) コンクリート製造,(2) 惑星科学における物質進化の両 面において珪酸塩ガラスの溶液反応や結晶化がキーポイントとなることに着目したものである. 以下に(1), (2)の研究について詳細を述べる. (1) 近年,火力発電所等から大量に排出されるフライアッシュ(mm 以下の珪酸塩ガラス球)の廃 棄問題が議論されており,その有効活用が求められている.その一案として,フライアッシュ を混和材とした高耐久コンクリート製造研究が行われている.そのフライアッシュ模擬物質を ガスジェット浮遊炉によって人工的に作製することに成功した.来年度以降は高耐久コンクリ ート形成の鍵となるポゾラン反応(珪酸塩ガラスと溶液との反応)を干渉計により観察する予 定である. (2) 惑星の材料物質はガスから凝縮した珪酸塩ガラスであり,これらが原始太陽系の進化に伴 い結晶化していくことが近年の観測によりわかってきている.ただし,珪酸塩ガラスが加熱さ れることで結晶化するにはおよそ 1000 K といった高温が必要であるとされているため,例え ば原始太陽近傍で加熱されるような特別なモデルが考えなくてはならない.ただし,ガラス結 晶化温度は組成や表面の状態に左右されるので実験的検証が必要である.そのためにガス ジェット浮遊炉を用いて珪酸塩ガラスを作製し,実験を行いはじめている. (2) 業績リスト 【学術論文等】 ISI 登録誌 1. K. Nagashima, K. Tsukamoto, H. Satoh, H. Kobatake, P. Dold, Reproduction of chondrules from levitated, hypercooled melts. Journal of Crystal Growth, 293 (2006) 193-197. 査読なし論文(紀要、プロシーディング含む) 1. K. Nagashima, K. Tsukamoto, H. Satoh, J. Nozawa, H. Kobatake, New Reproduction Experiment on Chondrule Formation by a Levitation Method. Proceedings of the 39th ISAS Lunar and Planetary Symposium, 39 (2006) 4pages, in press. 【学会講演】 国内 1. 長嶋剣, 塚本勝男, 佐藤久夫, 小畠秀和, 浮遊法によるコンドリュール形成メカニズム. 第 39 回 月・惑星シンポジウム, 神奈川, 8 月 7-9 日, 2006. 2. 長嶋剣, 塚本勝男, 超高過冷却浮遊メルトからのコンドリュール形成メカニズム. 日本惑星科学 会 2006 年秋季講演会, P43, 兵庫, 10 月 18-20 日, 2006 (poster). 3. 野澤純, 塚本勝男, 佐藤久夫, 長嶋剣, 46億年前のコロイド結晶. 第 36 回結晶成長国内会議, 02aB09, 大阪, 11 月 1-3 日, 2006. 4. 長嶋剣, 塚本勝男, 佐藤久夫, 横山悦郎, 浮遊珪酸塩メルトへの微粒子付着による核形成挙動. 第 36 回結晶成長国内会議, 03aC08, 大阪, 11 月 1-3 日, 2006. 5. 塚本勝男, 小野えりか, 小泉正子, 長嶋剣, Don Pettit の実験に学んだ“しゃぼん膜”からの急速 結晶化. 第 36 回結晶成長国内会議, 03aC06, 大阪, 11 月 1-3 日, 2006. 6. 野澤純, 塚本勝男, 佐藤久夫, 長嶋剣, 46億年前のコロイド結晶. 第 31 回結晶成長討論会, A-3, 滋賀, 11 月 3-5 日, 2006 (poster). 7. 長嶋剣, 塚本勝男, 佐藤久夫, 横山悦郎, 浮遊珪酸塩メルトへの微粒子付着による核形成挙動. 第 31 回結晶成長討論会, B-5, 滋賀, 11 月 3-5 日, 2006 (poster). 8. 田中今日子, 山本哲生, 長嶋剣, 塚本勝男, 液滴からの結晶化の理論:浮遊法実験との比較. 第 22 回日本マイクログラビティ応用学会学術講演会, B110, 東京, 11 月 30-12 月 1 日, 2006. 9. 長嶋剣, 塚本勝男, 田中今日子, 浮遊珪酸塩メルトへの微粒子付着による核形成挙動. 第 22 回日本マイクログラビティ応用学会学術講演会, B111, 東京, 11 月 30-12 月 1 日, 2006. 10. 長嶋剣, 森内善伸, 塚本勝男, コスミックダストのコンドリュール形成に関する役割. 科研費特定 「系外惑星」ダスト班第三回研究会, 北海道, 3 月 1-3 日, 2007. 国際 1. K. Nagashima, H. Satoh, K. Tsukamoto, Chondrule Formation from a Hypercooled Melt by Levitation Method. 19th General meeting of the International Mineralogical Association, Hyogo, Japan, July 23-28, 2006. 2. K. Tsukamoto, K. Nagashima, H. Kobatake, J. Nozawa, H. Satoh, Crystallization of cosmic materials in space. 19th General meeting of the International Mineralogical Association, Hyogo, Japan, July 23-28, 2006. 3. K. Nagashima, Y. Moriuchi, H. Satoh, K. Tsukamoto, Reproduction of Meteoritic Silicate Spherules from Levitated Melts. Frontier of Crystal Growth Science, Miyagi, Japan, February 20-22, 2007 (poster). 4. J. Nozawa, K. Tsukamoto, H. Satoh, K. Nagashima, K. Yamada, Magnetite Colloidal Crystals in the Meteorite. Frontier of Crystal Growth Science, Miyagi, Japan, February 20-22, 2007 (poster). 5. Y. Moriuchi, K. Nagashima, K. Tsukamoto, Amorphous Fosterite Particles Formed from Levitated Melts. Frontier of Crystal Growth Science, Miyagi, Japan, February 20-22, 2007 (poster). 平成 18 年度 COE フェロー活動報告 うえはら ひ ろ き 上原 裕樹 受入教員名:花輪 公雄 研究グループ名:流体地球・惑星圏研究グループ(気候変動ダイナミクス) 在任期間:平成 18 年 4 月 1 日~平成 19 年 3 月 31 日 【研究内容】 (1) 研究課題または研究目的 観測資料を用いた北太平洋亜熱帯循環系を横切る熱・淡水輸送量評価, および数値モデルの出力デ ータ解析による輸送量評価方法の検証 (2) 平成 18 年度研究活動の概要・進捗状況 昨年度に続き, 北太平洋における高密度投下式水深水温計資料を用い, 北太平洋の測線で囲まれる 海域に対する熱・淡水輸送量収束の評価を行ない, 論文にまとめ国際誌に投稿した. また, 昨年度に気 象研究所から提供された, 新たな数値モデルの解析し, 熱輸送量評価手法の検証実験を行った. これ により, 手法の妥当性をより現実的に評価することができた. この研究をまとめた成果を国際学会等で 発表した. 【研究成果】 (1) 業績リスト 【学術論文等】 ISI 登録誌 1. Uehara, H., S. Kizu, Y. Yoshikawa, K. Hanawa, and D. Roemmich, Estimation of heat and freshwater transports in the North Pacific using high resolution XBT data. Submitted to Journal of Geophysical Research. 査読なし論文 1. Uehara, H., T. Yasuda, and K. Hanawa, Feasibility of heat transport estimation with the high resolution XBT data. Eos Trans. AGU, 87, West. Pac. Geophys. Meet. Suppl., Abstract OS41A-0135, 2006. 2. Uehara, H., S. Kizu, Y. Yoshikawa, and K. Hanawa, Velocity and position variations of the Kuroshio axis south of Japan influenced by mesoscale eddies in the Kuroshio recirculation region. Eos Trans. AGU, 87, Ocean Sci. Meet. Suppl., Abstract OS45G-04, 2006. 【学会講演】 国内 1. 上原裕樹, 安田珠幾, 石川一郎・花輪公雄, 数値モデルを用いた高密度XBT観測による熱輸送 量評価スキームの検証 (III). 2007 年春季海洋学会, 118, 東京, 2007 年 3 月. 国際 1. Uehara, H., T. Yasuda, and K. Hanawa, Feasibility of heat transport estimation with the high resolution XBT data. 2006 Western Pacific Geophysics Meeting, OS41A-0135, Beijing, July 24-27, 2006. 2. Uehara, H., T. Yasuda, and K. Hanawa, Simulation of heat transport estimation with the high resolution XBT using the OGCM, the 21th COE International Symposium on “Climate Change: Past and Future”, p-42m, Sendai, November 6-9, 2006. 平成 18 年度 COE フェロー活動報告 い し ど や しげゆき 石戸谷 重之 受入教員名:中澤 高清 研究グループ名:流体地球・惑星圏研究グループ(気候変動ダイナミクス) 在任期間:平成 18 年 4 月 1 日~平成 19 年 3 月 31 日 【研究内容】 (1) 研究課題または研究目的 大気中酸素濃度の高精度計測に基づく全球炭素循環の解明 (2) 平成 18 年度研究活動の概要・進捗状況 人為起源の温室効果気体の中で気候変動への影響が最も大きい二酸化炭素(CO2)は、そのリザーバ ーである大気、海洋、陸上植物圏間の分配量が未だ十分な精度で求められたとは言えない状態にあり、 将来の濃度予測の上で大きな問題を残している。この問題の解決に貢献するため、近年注目を集めてい る大気中酸素(O2)濃度(δ(O2/N2))の高精度観測を基にした CO2 循環の研究を平成 17 年度に引き続いて 以下のように推進した。 • δ(O2/N2)と CO2 濃度の経年変化を用いた人為起源 CO2 収支の解析を行うため、仙台市郊外、岐阜県高 山森林内サイト、北極スバルバール諸島ニーオールソン基地、および南極昭和基地における地上観測 と、日本上空の航空機観測とを継続した。 • 三陸大気球観測所で 2006 年 6 月に行われた実験に参加し、高度 35km までの成層圏大気試料の採取 に成功した。また三陸上空、南極昭和基地上空、および北極キルナ上空の成層圏において過去に採 取した大気試料の分析を進め、Ishidoya et al. (2006)で世界に先駆けて報告された成層圏における大 気成分の重力分離に基づいて、大気微量成分の濃度や同位体に重畳した重力分離の評価、重力分 離の緯度による違いを利用した成層圏物質輸送の推定などの新たな解析を行った。 • δ(O2/N2)を用いた人為起源 CO2 収支の解析のためには陸上植物圏活動に伴う O2 と CO2 の交換比が必 要であり、現在まで Severinghaus (1995)による 1.1 の値が用いられている。この値の妥当性を検討する ため、高山森林内サイトにおいて土壌呼吸や光合成に伴う O2 と CO2 の交換比をチャンバー法によって 測定し、さらにδ(O2/N2)の高精度連続観測装置を夏期の観測に適用して、森林キャノピー内外の大気 の O2 と CO2 の交換比を観測した。 • 国立極地研究所との共同研究による南極昭和基地でのδ(O2/N2)の高精度連続観測の実施に向けて、 南極観測用のδ(O2/N2)標準ガスの製造を行った。 • δ(O2/N2)測定の標準ガスの国際統一基準を確立し全球的なデータベースの構築を目指すためのスケ ールの相互比較実験を継続した。実験はフラスコに充填した試料と高圧シリンダーに充填した試料とを 用いて行われており、今年度はフラスコ試料についての比較実験が行われた。参加機関は Scripps 海 洋研究所、Max Plank 研究所、Princeton 大学他、計 10 機関である。 【研究成果】 (1) 平成 18 年度の研究活動成果 地上観測と日本上空の航空機観測から得られた対流圏のδ(O2/N2)は、陸上植物活動と大気−海洋間 のO2(N2)交換とを反映した明瞭な季節変化を示しながら、いずれの観測基地においても経年的に減少し ていた。仙台市郊外、北極ニーオールソン基地、および日本上空の観測結果から推定された1999年10月 から2007年1月の期間の陸上生物圏と海洋によるCO2吸収量は、それぞれ0.7±0.7GtC/yr、および1.8± 0.6GtC/yrであった。 成層圏での重力分離の程度を表す指標として導入したδ値(0.5 x (δ15N of N2 + 0.5 x δ18O of O2))は高度 の上昇に伴って減少し、同一高度でのδ値は極渦内で観測が行われたキルナ上空で最も低く、極渦崩壊 後に観測された昭和基地上空の値は三陸上空と同等かやや低い値を示した。これらの違いは季節や緯 度による等温位面の変化や温度による分子拡散係数の違いによっては説明できず、δ値の変化を引き起 こす化学反応過程も存在しない。このことから、δ値の緯度による変化は成層圏内の子午面循環 (Brewer-Dobson循環)による熱帯域での空気塊の上昇、中高緯度での下降によって引き起こされている と考えられ、δ 値が成層圏大気の上下方向の輸送の履歴に関する情報を持つことが示唆された。 岐阜県高山森林内サイトにおけるδ(O2/N2)の季節変化は主に陸上植物活動に支配され、大気−海洋間 のO2(N2)交換の寄与は仙台市郊外などの沿岸の観測基地に比べて小さかった。チャンバー法によって測 定された土壌呼吸によるO2とCO2の交換比はほぼ1.1であり、光合成による交換比は1.1より大きい値を示 した。また、δ(O2/N2)に加えその同位体δ18Oも測定し、土壌呼吸に伴う大気−土壌間のO2交換によるδ18O の同位体効果を11‰と推定した。連続観測によって得られた高山森林キャノピー内大気のO2とCO2の交 換比は1.1より大きく、今後、生態系全体としてのO2とCO2の交換比を推定するためにさらなる研究が必要 である。 得られた結果の一部はGeophysical Research Lettersにおいてpublishされ、Editor’s Highlightで採上げ られた。また、Earth and Planetary Science Lettersにおいてpublishされた論文に共著者として貢献した。 国内学会では第12回大気化学討論会、大気球シンポジウム、第9回高山セミナーで発表を行い、その他 論文リストで示す国際学会・国内学会の各発表に共著者として貢献した。 (2) 業績リスト 【学術論文等】 ISI 登録誌 1. Ishidoya, S., S. Sugawara, G. Hashida, S. Morimoto, S. Aoki, T. Nakazawa and T. Yamanouchi, Vertical profiles of the O2/N2 ratio in the stratosphere over Japan and Antarctica, Geophys. Res. Lett., 33, L13701, doi:10.1029/2006GL025886, 2006. 2. Kawamura, K., Severinghaus, J., Ishidoya, S., Sugawara, S., Hashida, G., Motoyama, H., Fujii, Y., Aoki, S., and Nakazawa, T., Convective mixing of air in firn at four polar sites, Earth and Planetary Science Letters, Vol. 244 No. 3-4, 2006 DOi 10.1016, 2006. その他 1. Editor’s Highlight (Geophys. Res. Lett., 33, L13701, doi:10.1029/2006GL025886, 2006.) 【学会講演】 国内 1. 石戸谷重之,高村近子,村山昌平,後藤大輔,森本真司,青木周司,三枝信子,中澤高清,高山 サイトにおける大気中酸素濃度の高精度観測,第 9 回高山セミナー,岐阜,2 月 9−10 日,2007. 2. 石戸谷重之,菅原敏,森本真司,青木周司,中澤高清,本田秀之,豊田栄,橋田元,町田敏暢, 川村賢二,井筒直樹,並木道義,飯島一征,山内恭,山上隆正,成層圏で初めて見出された大気 成分の重力分離,大気球シンポジウム,相模原,1 月 15−16 日,2007. 3. 豊田栄,吉田尚弘,青木周司,中澤高清,石戸谷重之,菅原敏,本田秀之,飯島一征,井筒直樹, 山上隆正,三陸上空成層圏大気中のN2Oアイソトポマー比高度分布とその変動,大気球シンポジ ウム,相模原,1 月 15−16 日,2007. 4. 森本真司,山内恭,和田誠,橋田元,中澤高清,青木周司,石戸谷重之,菅原敏,本田秀之, JARE49 での昭和基地における温室効果気体観測計画,第 29 回極域気水圏・生物合同シンポジ ウム,東京,11 月 20−22 日,2006. 5. 石戸谷重之,高村近子,村山昌平,青木周司,中澤高清,冷温帯落葉広葉樹林における土壌中 酸素の濃度と同位体比の変動と推定される大気−土壌間酸素Fluxによる同位体効果,第 12 回大 気化学討論会,蔵王,6 月 14−17 日,2006. 6. 菅原敏,弦間康二,石戸谷重之,青木周司,中澤高清,本田秀之,成層圏大気中の二酸化炭素 の炭素同位体比の長期変動,第 12 回大気化学討論会,蔵王,6 月 14−17 日,2006. 国際 1. Sugawara, S., S. Aoki, T. Nakazawa, S. Ishidoya, T. Umezawa, K. Genma, S. Morimoto, H. Honda, Carbon isotopic fractionation factor of stratospheric CH4 estimated from 13 CH4 and 13 CO2 measurements, 9th International Global Atmospheric Chemistry Conference, Cape Town, South Africa, September 17-23, 2006. 平成 18 年度 COE フェロー活動報告 やま ざ き あつし 山﨑 敦 受入教員名:岡野 章一 研究グループ名:流体地球・惑星圏研究グループ(太陽地球系ダイナミクス) 在任期間:平成 18 年 4 月 1 日~平成 18 年 11 月 30 日 【研究内容】 (1) 研究課題または研究目的:宇宙プラズマ可視化の研究 具体的には、「太陽地球系物理学においてダイナミックに変化する中性粒子や荷電粒子(プラズマ)の 大局的な空間構造を把握するための、共鳴散乱光を用いたリモートセンシング観測機器の開発」。 (2) 平成 18 年度研究活動の概要・進捗状況 昨年度に引き続き、来年夏期に打上予定である月周回衛星 SELENE ミッションのテーマのひとつに掲 げる「月からの科学」を遂行する超高層大気・プラズマイメージャー(UPI)の電気性能試験および較正試 験、振動・衝撃試験および熱環境試験を行うと同時に、オンボードプログラム・地上系ソフトウェアの作成 を行い、フライト品を完成するに至った。衛星組込完了後、衛星全体での電気性能試験、振動・衝撃試験 を行い、不具合がないことを確認した。UPI は、南北共役オーロラおよび大気光を観測する可視光望遠鏡 とヘリウムイオンおよび酸素イオン共鳴散乱光を検出する極端紫外光望遠鏡から成立し、地球を追尾す るジンバルを有している。観測に成功すれば、世界初となる地球全体での大気光の瞬時撮像や電離圏か ら散逸する酸素イオンの散乱光画像を取得できる。大気圏と電離圏の相互作用、酸素イオン流出量の磁 気活動度依存性、プラズマ圏の境界域と散逸経路の関係が明らかになると考えられる。 同様の技術は他惑星の電離圏・磁気圏撮像においても有効である。金星・火星電離圏観測が可能とな る観測機器の設計を行い、国内外の惑星探査計画に有意義な観測提案を行った。しかし、希薄な酸素イ オンの撮像には克服すべき困難な課題が残っている。酸素イオン共鳴散乱光に隣接する波長域に存在し、 非常に強度の強くノイズ源となる水素のライマンα、β線を如何に除去するかという課題である。解決案と して光学系の反射鏡コーティングの改良が挙げられる。平成18年度はこの改良をテーマとして科学研究 費補助金若手研究(B)の交付を受け、コーティング材料の自作テストピースの反射率測定から光学定数 を実測し、コーティングの膜厚設計、製作を試みている。 また、私のグループで開発した多波長単色オーロラカメラを搭載したれいめい衛星で過去に例をみない 時間分解能のオーロラ観測を昨年に引き続き行い、衛星運用を日夜行うとともに、観測データ評価・解析 を行っている。 さらに、「のぞみ」衛星で観測した惑星間空間のヘリウム散乱光データを用いて、ヘリウムの 3 次元分 布を求め、緯度・経度方向に非対称性があることがわかった。太陽光の緯度依存性がこの分布非対称性 をもたらすとの結論を得た。米国学術誌 Journal of Geophysical Research への投稿論文を投稿し、受 理・出版された。さらに、本研究を発展させ、「のぞみ」衛星に搭載された紫外光分光観測による水素原子 散乱光データとの比較研究を共同で行い欧州学術誌に投稿した。 また、金星電離圏界面の太陽風磁場依存性と水星ナトリウム大気観測に関する共同研究および地球 磁気圏界面のリモートセンシング観測に関する共同研究を行いそれぞれ米国学術誌に投稿し、受理・出 版された。 【研究成果】 (1) 成果概要 SELENE 衛星搭載プラズマイメージャーの開発行い、可視光望遠鏡と極端紫外光望遠鏡のフライト品 を完成し、衛星全体での機会環境試験をクリアした。 極端紫外光観測のための基礎技術の取得を目的とした水素ライマンα、β線を同時に除去するコーテ ィング開発をテーマとして科学研究費補助金若手研究(B)の交付を受けた。 共著も含め米国学術誌 Journal of Geophysical Research 誌に2編、Geophysical Research Letters 誌に1編の論文が出版された。また、欧州学術誌 Astronomy and Astrophysics 誌に共著者と して論文投稿中である。 (2) 業績リスト 【学術論文等】 査読付論文 1. 彦坂 健太郎, 亀田 真吾, 野澤 宏大, 吉岡 和夫, 山崎 敦, 吉川 一朗, 笠羽 康正, 水星大気 の生成メカニズムに関する研究~MMO搭載機器MSASIでの観測に向けて~, 宇宙航空研究開 発機構研究開発報告, JAXA-RR-05-021, ISSN 1349-1113, 2006. 2. 吉 岡 和 夫 , 彦 坂 健 太 郎 , 村 上 豪 , 野 澤 宏 大 , 山 崎 敦 , 吉 川 一 朗 , 笠 羽 康 正 , BepiColombo水星探査計画にむけた極端紫外光検出器(MCP)の量子効率向上に関する研究, 宇宙航空研究開発機構研究開発報告, JAXA-RR-05-022, ISSN 1349-1113, 2006. 3. S. Taguchi, K. Hosokawa, A. Nakao, M. R. Collier, T. E. Moore, A. Yamazaki, N. Sato, and A. S. Yukimatu, Neutral atom emission in the direction of the high-latitude magnetopause for northward IMF: Simultaneous observations from IMAGE spacecraft and SuperDARN radar, Geophysical Research Letters, doi:10.1029/2005GL025020, 33(3), L03101, 2006. 4. M. Kanao, N. Terada, A. Yamazaki, I. Yoshikawa, T. Abe, and M. Nakamura, The effect of the motional electric field on the Venus nightside ionopause, Journal of Geophysical Research, doi:10.1029/2005JA011293, 111(A3), A03306, 2006. 5. Yamazaki, A., I. Yoshikawa, K. Shiomi, Y. Takizawa, W. Miyake, and M. Nakamura, Latitudinal variation of the solar He I 58.4 nm irradiance from the optical observation of the interplanetary He I emission, Journal of Geophysical Research, doi:10.1029/2005JA011225, 111(A6), A06106, 2006. 投稿中論文 1. Nakagawa, H., M. Bzowski, A. Yamazaki, H. Fukunishi, S. Watanabe, Y. Takahashi, and M. Taguchi, Secondary Population of Interstellar Neutrals seems deflected to the Side, Astronomy and Astrophysics. 紀要 1. 平原 聖文, 藤川 暢子, 坂野井 健, 小淵 保幸, 井野 友裕, 山崎 敦, 浅村 和史, 笠羽康正, 岡田 雅樹, れいめい衛星による理学観測の初期結果, 第6回 宇宙科学シンポジウムプロシー ディング, 2006. 2. 山崎 敦, 吉岡 和夫, 村上 豪, 吉川 一朗, 三宅 亙, 中村 正人, SELENE/UPI team, セレーネ 衛星による 地球周辺プラズマ撮像観測計画, 惑星電磁圏・大気圏研究会プロシーディング, 2006. 【学会講演】 国内 1. 山崎 敦, 寺田 直樹, 吉川 一朗, 火星大気の撮像観測計画, 地球惑星科学関連学会 2006 年合 同大会, 幕張メッセ, 2006/05/18. 2. 山崎 敦, 極域電離圏からの酸素イオン散逸のリモートセンシング観測, 2006年 STEL合同研 究集会「リモートセンシングによる極域電離圏・磁気圏プラズマの動態の解明」, 豊川市民プラザ, 2006/09/26. 3. 山崎 敦, 吉川 一朗 , 菊池 雅行, 田口 真, 吉岡 和夫, 村上 豪, 坂野井 健, 塩川 和夫, 三 宅 亙, 中村 正人, 岡野 章一, SELENE/UPI team, セレーネ衛星による超高層大気とプラズマ圏 の撮像観測計画, 第 120 回地球電磁気・地球惑星圏学会総会・講演会, 相模原市産業会館, 2006/11/5. 国際 1. Yamazaki, A., I. Yoshikawa, M. Kikuchi, M. Taguchi, T. Sakanoi, W. Miyake, M. Nakamura, S. Okano, and SELENE/UPI team, Imaging of the terrestrial plasmasphere and upper atmosphere from a lunar orbiter, Asia Oceania Geosciences Society 2006, Singapore Suntec International Convention & Exhibition Centre, 2006/07/11. 2. Yamazaki, A., N. Terada, I. Yoshikawa, and The Japan martian aeronomy group, Feasibility study on imagery of Martian atmospheric escape, Future Perspectives of Space Plasma and Particle Instrumentation and International Collaborations, Rikkyo University, 2006/11/1. 平成 18 年度 COE フェロー活動報告 どうみつ はなこ 堂満 華子 受入教員名:尾田 太良 研究グループ名:流体地球・惑星圏研究グループ(気候変動ダイナミクス) 在任期間:平成 18 年 5 月 15 日~平成 19 年 3 月 31 日 【研究内容】 (1) 研究課題または研究目的 1)東シナ海と日本海における最終融氷期以降の対馬海流形成過程に関する研究 2)北西太平洋三陸沖における最終氷期最盛期以降の親潮変動に関する研究 (2) 平成 18 年度研究活動の概要・進捗状況 日本海南部の 2 本の海底コアに含まれる浮遊性有孔虫群集とその殻の安定同位体比の解析にもとづ く日本海の過去 27000 年間の古環境変遷史を論文としてまとめるとともに,その成果の一部を国際会議 や国内学会・研究集会等で講演した.また過去 1 万年間については,現在の日本海の海洋環境ならびに 日本列島の陸域環境の成立に不可欠な存在である対馬海流の変遷を高解像度に復元することを目的と して,日本海南部の完新世コアの浮遊性有孔虫殻の加速器質量分析法にもとづく放射性炭素年代 (AMS14C)測定と浮遊性有孔虫群集解析を行い,東シナ海と日本海における融氷期以降の対馬海流の 形成と変遷に焦点を当てた結果を投稿準備中である. 北西太平洋における最終氷期以降の親潮変動に関する研究としては,まず古海洋復元のための基礎 研究として,北海道南東部ならびに南西部から採集された表層堆積物試料に含まれる浮遊性有孔虫群 集と親潮水・津軽暖流水との関係について検討を行った.また詳細な AMS14C 年代値が得られている三 陸沖コアに暦年代の年代軸を設定し,浮遊性有孔虫群集データの時系列解析を行っている最中である. その他,中新世以降の有孔虫標本データベース化に関する研究として,石油資源開発株式会社技術 研究所が所有している「米谷収集スライドおよび米谷収集タイプスライド計 156 枚」の有孔虫標本の電子 顕微鏡写真撮影を行った. 【研究成果】 (1) 平成 18 年度の研究活動成果 日本海南部の 2 本の海底コアに火山灰層序学編年と AMS14C 年代測定を組み合わせた高精度な年代 軸を確立したうえで浮遊性有孔虫群集解析およびその殻の安定同位体比分析を行った結果,日本海南 部の過去 27000 年間の海洋環境変遷史に関して,融氷期の日本海への東シナ海沿岸水ならびに親潮水 の流入時期とその過程,後氷期における日本海への対馬海流の流入時期,そして日本海独自の深層循 環システムの維持には対馬海流の存在が不可欠であることなどを詳細に明らかにし,その成果を国際学 術誌(Domitsu and Oda, 2006; Marine Micropaleontology)に公表した. 日本海南部の完新世コアの浮遊性有孔虫殻の AMS14C 年代測定と浮遊性有孔虫群集解析を行った結 果,7400 年前から 5900 年前に関しては約 100 年間隔,5900 年前以降は約 300 年間隔という高解像度デ ータを得ることができ,後氷期の日本海に対馬海流が初めて流入してから現在の日本海の海洋環境と日 本列島の陸域環境を支配するような本格的流入になるまでに千年オーダーの移行期が存在することを明 らかにし,その成果の一部を国内研究集会にて報告した. 北海道南西部から採集された表層堆積物試料に含まれる浮遊性有孔虫群集の地理的分布について 調べた結果,津軽暖流の影響を受ける日高沖海域では,親潮指標種の Neogloboquadrina pachyderma の 頻度が減少し,かわって Neogloboquadrina incompta が 30~40%程度の頻度で産出することを明らかにし, その結果を報告書(堂満ほか,印刷中;地質調査総合センター速報)にまとめた. (2) 業績リスト 【学術論文等】 ISI 登録誌 1. Domitsu, H. and Oda, M., Linkages between surface and deep circulations in the southern Japan Sea during the last 27,000 years: Evidence from planktic foraminiferal assemblages and stable isotope records. Mar. Micropaleontol., 61, 155-170, 2006. 査読なし論文 1. 堂満華子,村上沙綾,曽野明洋,鹿納晴尚,鈴木紀毅,尾田太良,片山 肇,野田 篤,北海道日 高沖海域における表層堆積物中の浮遊性有孔虫群集(予察).地質調査総合センター速報,(印 刷中). 【学会講演】 国内 1. 堂満華子,尾田太良,塚脇真二,完新世の日本海南部における現在型の表層水環境の成立−対 馬海盆KT98-17 P-1 コアの浮遊性有孔虫群集解析−.白鳳丸・淡青丸研究成果発表会「海学問」, UP-13,日本科学未来館,9 月 8-9 日,2006. 2. 堂満華子,尾田太良,阿波根直一,塚脇真二,池原 研,片山 肇,最終氷期以降の日本海南部 古海洋復元.2006 年度古海洋学シンポジウム,O20,東京大学海洋研究所,1 月 12-13 日,2007. 3. 堂満華子,尾田太良,阿波根直一,塚脇真二,池原 研,片山 肇,浮遊性有孔虫からみた最終 氷期以降の日本海南部海洋変動.古生物学会第 156 回例会,C13,徳島県立博物館,2 月 2-4 日, 2007. 4. 堂満華子,尾田太良,塚脇真二,加藤道雄,日本海南部完新世コアの浮遊性有孔虫群集.MRC 成果報告発表会,北海道大学,3 月 1-3 日,2007 年 3 月. 国際 1. Domitsu, H., Oda, M., Ahagon, N., Tsukawaki, S., Ikehara, K. and Katayama, H., Planktic foraminiferal assemblages and stable isotope records of the southern Japan Sea during the last 27,000 years. FORAMS 2006-International Symposium on Foraminifera, Natal, Brazil, September 10-September 15, 2006. 2. Domitsu, H., Oda, M., Ahagon, N., Tsukawaki, S., Ikehara, K. and Katayama, H., Evolution of deep circulation link to surface-water changes of the southern Japan Sea since the last glacial period. The 21st Century COE International Symposium 2006 "Climate Change: Past and Future", p-02p, Sendai, Japan, November 6-November 9, 2006. 平成 18 年度 COE フェロー活動報告 にいつま さ ち こ 新妻 祥子 受入教員名:掛川 武 研究グループ名:地球進化史研究グループ 在任期間:平成 18 年 4 月 1 日~平成 19 年 3 月 31 日 【研究内容】 (1) 研究課題または研究目的 「初期地球における地球磁場と生命の進化」 (2) 平成 18 年度研究活動の概要・進捗状況 地球磁場が生命に及ぼした影響をとらえるため,地球磁場発生初期に相当する約 35〜27 億年前に形 成された堆積岩と火山岩について古地磁気・岩石磁気・鉱物学的・地球化学的な研究を行った.この研 究は,西オーストラリア・ピルバラ地塊で掘削されたコア試料を用いて,平成 16 年度から Archean Biosphere Drilling Project(ABDP)として鹿児島大学・根建心具教授と共同して研究を行ってきた.今年 度は,(A) 34.6 億年前のマーブルバーチャートの古地磁気,(B)27.7 億年前のマウントロー玄武岩とそ れに狭在する堆積岩について,古地磁気・岩石磁気実験,TEM,SEM 観察,EPMA,XGT 分析などを行 い,学会発表と論文執筆に従事した. 【研究成果】 (1) 平成 18 年度の研究活動成果 (A) 34.6 億年前のマーブルバーチャートの古地磁気 西オーストラリア・ピルバラ地塊には,変成度の低い太古代の地層が分布している.これらのボーリ ング掘削試料を用いることにより,地表の風化を受けていない試料での古地磁気結果が新たに得ら れた.34.6 億年前のマーブルバーチャートでは,500~570℃で消磁される磁鉄鉱の残留磁化成分が 検出され,深さ 24 m の連続したチャート層から信頼できる古地磁気を連続して検出することに成功し た.マーブルバーチャートを7つの層準に分けて古地磁気方位から古地磁気極を復元したところ,層 準の下位から上位に向かって連続的にドリフトする見かけの極移動曲線(APWP)がえられた.ドリフト 量は,古緯度で換算して 21°である.この変動は,真の地磁気極移動によるとも考えられるが,マー ブルバーチャートの上位層であるエイペックス玄武岩での古地磁気極(Yoshiwara, 2001)も含めて連 続的に変化していることから,この古地磁気極の変動はプレート運動を記録している可能性が高い. チャートの堆積速度を 20~40 cm/yr としてプレートの移動速度を見積もると 12~112 cm/yr となり,顕 生代と比較して太古代はプレート運動が活発であったと考えられる(Suganuma et al., 2006). (B) 27.7 億年前のマウントロー玄武岩とそれに狭在する堆積岩の古地磁気 ABDP で掘削された 27.7 億年前のマウントロー玄武岩の全長 299.6 m のコアのうち,深さ 20~248 m の間の変質を受けていない試料からは, 500~600℃で消磁される磁鉄鉱が担う古地磁気成分が 検出された.この高温成分の全平均磁化方位から求めた古地磁気極(南緯 45.7°,東経 150.5°誤差 楕円の長径 5.0°,短径 4.3°)は,これまで報告されているマウントロー玄武岩の古地磁気極(Strik et al., 2003; Strik, 2004)とほぼ一致する.1m以内の連続した玄武岩層の磁化方位は、誤差約5度以内 に集中するが,数mごとの平均磁化方位は古緯度にして最大 11°変動する.この変動は上位層との 連続性がなく,マーブルバーチャートのような見かけの極移動曲線は得られない.Arndt et al. (1991) は,マウントロー玄武岩の堆積速度を 40~250 m/Ma と見積もった.この見積もりによると古地磁気が 復元された 228 m の堆積には 1~6 Ma 程度の短い時間しか要していないことから,この地磁気極変動 は,プレート運動によるものではなく,真の地磁気変動を意味している.つまり,洪水玄武岩であるマ ウントロー玄武岩は,各溶岩流が冷却するごとに熱残留磁化を獲得し,数 Ma 間の地球磁場変動を連 続的に記録している.今後,これらの古地球磁場変動並びに強度変化の復元をさらに進め、これらと 堆積岩からの炭素・硫黄・遷移金属元素の同位対比測定などの結果を合わせることで,地球磁場が 生命に及ぼした影響を具体的に示すことができる. (2) 業績リスト 【学術論文等】 ISI 登録誌 1. Suganuma, Y, Hamano, Y, Niitsuma, S., Hoashi, M., Hisamitsu, T., Niitsuma, N., Kodama, K., Nedachi, M., Paleomagnetism of the Marble Bar Chert Member, Western Australia: Implications for Apparent Polar Wander Path for Pilbara craton during Archean Time, Earth and Planetary Science Letter 252, 360-371, 2006. ISI 以外の査読付き学術雑誌 1. Niitsuma, S., Ford K. H., Iwai, M., Chiyonobu S. and Sato, T. Magneto-biostratigraphy correlation in pelagic sediments, ODP Site 1225, eastern equatorial Pacific, In Jørgensen, B.B., D'Hondt, S.L., Miller, D.J. (Eds.), Proceedings of the Ocean Drilling Program, Scientific Results, vol. 201, 2006. Available from World Wide Web: <http://www-odp.tamu.edu/publications/201_SR/110/110.htm>. 2. Ford, K.H., King, J.W. and Niitsuma, S., Preservation of bacterial magnetosomes at Site 1225 and 1227, In Jørgensen, B.B., D'Hondt, S.L., Miller, D.J. (Eds.), Proceedings of the Ocean Drilling Program, Scientific Results, vol. 201, 2006. Available from World Wide Web: <http://www-odp.tamu.edu/publications/201_SR/115/115.htm>. 【学会講演】 国内 1. Niitsuma, S., Kakegawa, T., Nagase, T., Nedachi, M., Significance of meta-stable sulfide minerals in organic carbon-rich sedimentary rocks of the 2.77 Ga Mt. Roe Basalt in Western Australia.日本地球惑星科学連合2006年大会,B131-004,千葉幕張,5月14-18日, 2006. 2. 配川正隆・掛川武・新妻祥子,カナダ・スティープロックにおける30億年前の海洋堆積物を用いた 海洋化学変動の推定と微生物活動の関連.日本地球惑星科学連合2006年大会,B131-P004, 千葉幕張,5月14-18日,2006. 国際 1. Niitsuma, S., Sakaki, H., Nedachi, M., and Kodama, K., Paleomagnetism of the 2.77 Ga Mt. Roe basalt and sediment, Pilbara Craton, Western Australia. Kochi International Workshop on Paleo-, Rock and Environmental Magnetism, P-05, December 19-20, 2006. Kochi University, Kochi, Japan. 2. Niitsuma, S., Kakegawa, T., Nagase, T., Nedachi, M., 2006. Occurrence of meta-stable sulfide minerals in black shale of the 2.77 Ga Mt. Roe Basalt in Western Australia. 19th General Meeting of the International Mineralogical Association, P37-03, International Conference Center Kobe, Kobe, Japan, July 23- 28, 2006. 3. Haikawa, M., Kakegawa, T., Niitsuma, S., Geochemical study of 3.0 Ga Steep Rock Group in Canada: microbial diversity corresponding to the redox change in 3.0 Ga Steep Rock ocean. 19th General Meeting of the International Mineralogical Association, P36-06, International Conference Center Kobe, Kobe, Japan, July 23- 28, 2006 平成 18 年度 COE フェロー活動報告 おおば まさひろ 大庭 雅寛 受入教員名:海保 邦夫 研究グループ名:地球進化史研究グループ 在任期間:平成 18 年 5 月 15 日~平成 19 年 3 月 31 日 【研究内容】 (1) 研究課題または研究目的 課題 1:絶滅事変期堆積物中のバイオマーカーの有機地球化学的分析による古環境変動解析 課題2:メタンハイドレート賦存域堆積物中のメタン古細菌由来の脂質バイオマーカーに関する有機地 球化学的研究 (2) 平成 18 年度研究活動の概要・進捗状況 課題 1:これまで地球上では生物の大量絶滅事変や多様化事変が幾度も起きたことが判明しているが、 未だに事変の原因や、事変の詳しい様子について未解明のものが多い。そこで、いくつかの事変期の堆積 物試料について有機地球化学的分析を行い、その原因や、生物や環境に与えた影響などについて新たな 知見を得ることを目指した。また近年新たに判明した有機地球化学的知見をもとに、これまでの卒業生が 分析したデータを改めて見直し、さらなる解析を行った。 課題2:これまで著者は、南海トラフに位置する第二天竜海丘で採取されたメタン冷湧水堆積物から、嫌 気的メタン酸化を行っているメタン古細菌由来の各種脂質バイオマーカーを検出し、それらの存在と活動実 態について解析を行ったが、いくつかの脂質バイオマーカーについては、未同定のままであった。そこで、 培養されたメタン古細菌の脂質成分の抽出・分析を行うことで得られた解析結果との比較から、未同定の 脂質バイオマーカーの同定を行い、さらに定量を行った。 【研究成果】 (1) 平成 18 年度の研究活動成果 課題 1.:中国浙江省煤山のペルム紀末の堆積物試料から、ジベンゾフラン類やジベンゾチオフェン類な どのバイオマーカーを検出・同定した。得られた知見は、本年度卒論生の研究におけるこれらのバイオマー カーの同定、さらには鉛直分布解析などにも貢献することができた。 また、同試料から、バクテリアに特有な脂質である bacteriohopanepolyol の続成変化生成物を検出・同 定した。過去の卒論生によって得られた分析データの再解析を行い、他のペルム紀末の堆積物試料中に もこれらのバイオマーカーが含まれていたことを見出した。本年度新たに導入した水素炎イオン化検出器 (FID)でそれらの一部について定量を行うことができ、組成比や鉛直分布の特徴から、これらのバイオマー カーが堆積環境に関する有益な知見を与える可能性が示唆された。以上の結果は現在論文として纏め、 本年度中に投稿予定である。 さらに、他の絶滅事変期堆積物についても、有機地球化学的分析の実施、並びに過去の分析データの 再検討などにより、いくつかの興味深いバイオマーカーを検出しており、今後論文化する予定である。 課題2:培養したメタン古細菌 Methanosaeta concilii 及び Methanosphaera stadtmanae から、これらの主 要な膜脂質成分の一つである sn-3-hydroxyarchaeol の抽出・GC/MS 分析を行い、マススペクトル及び保 持時間のデータを取得した。この結果をもとにして、第二天竜海丘で採取されたメタン冷湧水堆積物中か ら sn-3-hydroxyarchaeol を同定することに成功し、さらに定量した結果、海底面下 82 cm の堆積物におい て、132ng g-1 dry sediment 含まれていることが判明した。さらに以前取得した炭素同位体比の測定結果を 検めた結果、-113‰もの著しく軽い炭素同位体比を持つことから、この sn-3-hydroxyarchaeol は嫌気的に メタン酸化を行っているメタン古細菌に由来していることが判明した。さらに、Methanosarcinales 目などに 特徴的な脂質バイオマーカーである sn-2-hydroxyarchaeol と同程度存在することから、メタン冷湧水堆積 物中では、複数種類のメタン古細菌がメタンを消費している可能性を示唆することができた。以上の結果 は、Oba et al. (2006)に書き加えて発表した。 (2) 業績リスト 【学術論文等】 ISI 登録誌 1. Oba, M., Sakata, S. and Tsunogai, U. Polar and neutral isopranyl glycerol ether lipids as biomarkers of archaea in near-surface sediments from the Nankai Trough. Organic Geochemistry, 37, 1643-1654, 2006. 2. Oba, M., Nakamura, M., Katabuchi, M. and Kaiho, K. Sedimentary derivatives of bacteriohopanepolyols in a late Permian sequence.(平成 18 年度中に投稿) 【学会講演】 国内 1. 大庭雅寛,坂田将,南海トラフ深部堆積物中の古細菌由来の脂質バイオマーカー.第 24 回有機 地球化学シンポジウム,P-17,信州大学理学部,8 月 3・4 日,2006. 2. 大庭雅寛,坂田将,脂質バイオマーカー分析による南海トラフ深部堆積物中における古細菌の活 動実態の解析.2006 年度日本地球化学会第 53 回年会,2P-08,日本大学文理学部,9 月 13-15 日,2006. 平成 18 年度 COE フェロー活動報告 すがわら だいすけ 菅原 大助 受入教員名:箕浦 幸治 研究グループ名:地球進化史研究グループ 在任期間:平成 18 年 6 月 1 日~平成 19 年 3 月 31 日 【研究内容】 (1) 研究課題または研究目的 地球科学的・津波工学的手法に基づく津波堆積現象の解明と津波の防災・予知 (2) 平成 18 年度研究活動の概要・進捗状況 これまでに行ってきた調査により,宮城県沿岸南部から福島県沿岸北部にかけて,海溝型巨大地震に 由来すると推定される歴史・先史津波堆積物が分布することが明らかになっている.本年度は,工学研究 科地盤工学研究室の協力を得て,仙台市宮城野区日ノ出町周辺地区において採取された複数のボーリン グコア中に,湿地堆積物中にイベント性の砂層が挟在することを見出した.現在,この砂層と歴史・先史津 波についての関連を明らかにするため,粒度分析と微化石の分析を行っている.仙台市若林区荒浜地域 では,地層抜き取り装置(ジオスライサー)による掘削調査と津波堆積物試料の採取を行い,津波堆積物 の分布域と津波の溯上範囲の分析を進めている.これらの調査結果を基に,海岸平野に溯上する津波の 水理特性について,堆積物を基準にした推定方法を検討している.また,2 月下旬には,石垣島に分布す る津波石について 1771 年明和津波との関連を調査する.工学研究科の実験水路で行われた津波石移動 実験のデータと現地調査の結果を基にして,明和津波の水理特性の推定を行う予定である. 【研究成果】 (1) 平成 18 年度の研究活動成果 2006 年 11 月 27・28 日に工学研究科附属災害制御研究センターで開催された研究集会で,堆積物を 利用した津波特性の推定に関して発表を行った.1854 年安政東海地震津波による伊豆半島南部入間の 津波堆積物についての論文が ISET Journal of Earthquake Technology に掲載された.また,津波と 津波堆積物研究に関するレビュー論文が,Development in Sedimentology: ”Tsunamiites – their features and implication”(Elsevier 発行)に掲載予定である. (2) 業績リスト 【学術論文等】 ISI 以外の査読付き学術雑誌 1. Sugawara, D., Minoura, K., Imamura, F., Takahashi, T. and Shuto, N., A Huge Sand Dome Formed by the 1854 Earthquake Tsunami in Suruga Bay, Central Japan. ISET Journal of Earthquake Technology, 42, 4, 147-158, 2005. 分担執筆 1. Sugawara, D., Minoura, K. and Imamura, F., Tsunamis and tsunami sedimentology. Development in Sedimentology: "Tsunamiites - their features and implication", Elsevier (in press). 平成 18 年度 COE フェロー活動報告 や じ ま たか ひろ 谷島 尚宏 受入教員名:長濱 裕幸 研究グループ名:固体地球研究グループ(地震火山ダイナミクス) 在任期間:平成 18 年 4 月 1 日~平成 20 年 3 月 31 日 【研究内容】 (1) 研究課題または研究目的 研究課題:地球物理現象におけるソリトン系の微分幾何学的研究 研究目的:本研究は,地球物理現象を幾何学的に表現することを目的とする.個々の複雑な地球上の 非線形現象を幾何学の立場から統一的に見直す.特に,ソリトンのような非線形的な性質を 持つ様々な地球物理現象を微分幾何学的手法によって理解していくことを目標とする. (2) 平成 18 年度研究活動の概要・進捗状況 地球物理現象に見られるソリトン系を幾何学的に表現するために,平成 18 年度では地震波線理論及び 地球ダイナモモデル(力武ダイナモ系)の幾何学的研究を行った. 異方性媒体中を伝わる地震波線の幾何学的研究を行った.異方性媒質中の地震波線理論は,フィンス ラー幾何学を用いて研究されている.しかし波線のラグランジュ関数を導くとき,明らかではない点があった. そこで本研究において,波線のラグランジュ関数は結晶のラグランジュ関数を岩石へ拡張することで得られ ることを示した.さらに,ラグランジュ関数中の幾何学的パラメーターをかんらん岩中の素源波面から求め た.このとき,素源波面はフラクタル的な数理構造を持つことを明らかにした. 地球の外核中の電磁流体運動を簡単化した力武ダイナモ系の幾何学的研究を行った.力武ダイナモ系 の磁場の変化は相空間内の軌道として表されることに注目し、Kosambi-Cartan-Chern による道の幾何学を 用いた.その結果,力武ダイナモ系の幾何学量を得ることに成功した.幾何学的対象である捩率テンソル により,磁場の非周期的な振る舞いを表現できることを示した.相空間内の軌道が擾乱を受けたとき,軌道 の安定性が曲率テンソルによって表されることを述べた.力武ダイナモ系の位相不変量(Chern-Simon 数) を求め,電磁流体の乱流運動と力武ダイナモ系のカオス挙動との関係を議論した.さらに,力武ダイナモ系 だけでなく,地震波線理論や気象分野のローレンツ力学系・生態学のロトカ・ヴォルテラ方程式・散逸系の ベロウソフ・ジャボチンスキー方程式などの非線形力学系も同様な微分幾何学的表現で捉えられることを 論じた. 【研究成果】 (1) 成果概要 地震波線理論の研究成果の一部は国際学術雑誌(Nonlinear Anal.: Real World Appl.)及び論文集 (Earthquake Source Asymmetry, Structural Media and Rotation Effects)で発表されている.力武ダイナモ 系の幾何学的研究の成果の一部は国際学術雑誌(J. Phys. A: Math. and Theor.; Tensor, N. S.)で発表され ている.また,これらの成果を 3 度の国際学会及び 4 度の国内学会・シンポジウムで発表し,さまざまな議 論を行った.さらに未発表の成果があるため,現在論文として国際学術雑誌に投稿する準備を行っている. (2) 業績リスト 【学術論文等】 ISI 登録誌 1. Yajima, T. and Nagahama, H., Kawaguchi space, Zermelo's condition and seismic ray path. Nonlinear Anal.: Real World Appl., 8, 130-135, 2007. 2. Yajima, T. and Nagahama, H., KCC-theory and geometry of the Rikitake system. J. Phys. A: Math. and Theor., 40, 2007 (accepted and in press). ISI 以外の査読付き学術雑誌及び論文集 1. Yajima, T. and Nagahama, H., Seismic ray theory for structural medium based on Kawaguchi and Finsler geometry. In Earthquake Source Asymmetry, Structural Media and Rotation Effects, eds., Teisseyre, R. Takeo, M. and Majewski, E., Springer-Verlag, Ch.25, pp. 329-336, 2006. 2. Yajima, T. and Nagahama, H., Geometrical invariants of Rikitake system in KCC-theory. (Submitted and under review for publication in Tensor, N. S., 69, 2007). 査読なし論文(紀要・プロシーディングを含む) 1. Yajima, T. and Nagahama, H., Differential geometry of nonlinear dynamical system: Rikitake dynamo system and Lorentz model. Abstract of EGU General Assembly, 2006. 2. Yajima, T. and Nagahama, H., Seismic ray path in an anisotropic medium from a view point of Finsler geometry. Proceedings of the 41-th Symposium on Finsler Geometry, eds., Shimada, H. and Sabaŭ, S. V., Ishitani Printing Office, pp. 41-47, 2006. 3. Yajima, T. and Nagahama, H., Seismic ray paths in anisotropic medium based on higher-order geometry. Abstract of AGU Fall Meeting, 2006. 4. Yajima, T. and Nagahama, H., Differential geometry of nonlinear dynamical systems with KCC-theory. ヤングブレインズによる先端科学シンポジウム (理学研究科大学院GPおよ び3COEによる合同発表会,東北大学)プログラムおよびアブストラクト集,pp. 23,2007. 5. 谷島 尚宏,長濱 裕幸, フィンスラー幾何学に基づく異方性媒質中の地震波線理論. 研究集 会(地震研究所,東京大学) リソスフェアにおける短波長不均質構造の解明-地震発生場の構造 特性の解明に向けて- 講演要旨,2006. 6. 谷島 尚宏 ,長濱 裕幸, フィンスラー幾何学に基づいた異方性媒質中の地震波線理論 (Seismic ray theory in anisotropic medium based on Finsler geometry).形の科学会誌,21, 196-197,2006. 7. 谷島 尚宏 ,長濱 裕幸,地震波線理論の幾何学 ―フィンスラー幾何学によるアプローチ― (Finsler geometry and seismic ray paths in anisotropic medium).月刊地球 特集号 リソ スフェアにおける短波長不均質構造の解明-地震発生場の構造特性の解明に向けて- 投稿 中. 【学会講演】 国内 1. 谷島 尚宏,長濱 裕幸,フィンスラー幾何学に基づく異方性媒質中の地震波線理論. 研究集会 “リソスフェアにおける短波長不均質構造の解明-地震発生場の構造特性の解明に向けて-”, 地震研究所,東京大学,東京, 10 月 3 日-4 日,2006. 2. 谷島 尚宏,長濱 裕幸,フィンスラー幾何学に基づいた異方性媒質中の地震波線理論. 第 62 回形の科学シンポジウム 地球惑星物質の形と組織「泡のかたちから惑星のかたちまで」,大阪 大学,大阪, 11 月 3 日-5 日,2006. 3. Yajima, T. and Nagahama, H., Seismic ray path in an anisotropic medium from a view point of Finsler geometry. The 41-th Symposium on Finsler Geometry, Kagoshima, 9-12 November, 2006. 4. 谷島 尚宏,長濱 裕幸, Differential geometry of nonlinear dynamical systems with KCC-theory. ヤングブレインズによる先端科学シンポジウム (大学院GPおよび理学研究科3 COEによる合同シンポジウム),東北大学,仙台,2 月 17 日,2007. 国際 1. Yajima, T. and Nagahama, H., Differential geometry of nonlinear dynamical systems: Rikitake dynamo system and Lorentz model. EGU General Assembly, Vienna, Austria, April 2-7, 2006. 2. Yajima, T. and Nagahama, H., Differential geometric structures of disk dynamo system. The 9-th International Conference of Tensor Society on Differential Geometry, Informatics and their Applications, Sapporo, Japan, September 4 - 8, 2006. 3. Yajima, T. and Nagahama, H., Seismic ray paths in anisotropic medium based on higher-order geometry. AGU Fall Meeting, San Francisco, America, December 11-15, 2006. Ⅳ. ウェブサイト運営報告 本COEで開設した以下の公式ウェブサイトの運営状況について,報告する. URL : http://www.21coe.geophys.tohoku.ac.jp/ 【運営方法】 平成 18 年度も,前年度までに引き続き,本 COE のウェブサイトを運営した. サイトの管理と記事の更新作業は,広報室の教員 1 名(木津)と COE 事務室職員 1 名(目黒)の合計 2 名が分 担して行った.本 COE 関係者から随時提供される COE セミナーや研究集会の予告/報告記事,博士課程後 期大学院生に対する海外渡航支援事業の報告記事,研究者招聘や若手研究者派遣の記事,COE 研究員の 紹介や活動報告,COE 関係者のニュースなどを編集し,概ね数日以内に掲載して,関係者間の情報交換や外 部への情報発信に供した.また,COE の運営組織やメンバー表,関係機関へのリンクなども必要に応じて随時 更新し,情報の鮮度を保った. 平成 18 年 4 月から平成 19 年 1 月までの 10 ヶ月間に掲載した情報の件数は合計 205 件(ひと月あたり約 21 件)である. 本 COE 広報室室長 木津昭一(理学研究科 地球物理学専攻) Ⅴ. 新聞等で報道された研究成果 長谷川 昭 朝日新聞 2006 年 5 月 7 日 朝刊 「内陸地震多発の新潟~神戸「軟らかい岩盤確認」東北大教授ら ひずみ集中帯調査」 日本経済新聞 2006 年 5 月 15 日 「宮城県沖の 1 回目か、東北大 分割型の可能性指摘」 岩手日報 2006 年 8 月 31 日 「宮城県沖地震 迫る「その時」」 長濱 裕幸 兵庫県南部地震前兆の大気ラドン濃度上昇についての研究(神戸薬科大学安岡由美博士,放射線 医学総合研究所・石川徹夫主任研究員,東北大学地震・火山予知研究観測センター・五十嵐丈二 教授(故人),東北大学理学研究科地学専攻地圏進化学講座・長濱裕幸助教授との共同・継続研 究) <以下関連記事> 独立行政法人 放射線医学総合研究所 2006 年 1 月 16 日 プレス発表 http://www.nirs.go.jp/news/press/2006/01_16.shtml 共同通信 (東京新聞・熊本日日新聞・山陽新聞・京都新聞・四国新聞・西日本新聞等) 2006 年 1 月 16 日 18 時 24 分,西日本新聞, 2006 年 1 月 16 日 18 時 26 分 神戸新聞 2006 年 1 月 17 日,日刊,読売新聞 2006 年 1 月 17 日 10 時 35 分, On line 化学工業日報 2006 年 1 月 19 日 朝刊 (11面) 週刊大衆 2006 年 1 月 29 日 37—39 ページ. 福西 浩 日本経済新聞 2006 年 8 月 20 日 かがく Cafe 「地球の謎、オーロラで探る」 河北新報 2006 年 8 月 20 日 赤祖父俊一氏著書「北極圏へ」の紹介記事 AERA 2006 年 8 月 28 日号 サイエンスカフェ関連記事 佐藤 源之 日本経済新聞 2006 年 10 月 8 日 かがく Cafe 「地雷探知で人道支援を」 河北新報 2006 年 11 月 17 日 「地雷探知の性能向上 カンボジアで開発機試験順調 解析速度 6 倍、軽量化」 河北新報 2007 年 1 月 8 日 「学び究めて 先進的な地雷検知機開発」 仙台放送 「地雷除去技術」 2006 年 10 月 今村 文彦 朝日新聞 2006 年 5 月 10 日 「インド洋大津波 浸水2メートル以上死亡率急増」 十勝新聞 2006 年 11 月 20 日 「境界波起きやすい十勝沿岸」 NHK 教育 視点・論点 2006 年 9 月 1 日 「巨大災害を生き抜く」 テレビ朝日 報道ステーション 2006 年 11 月 15 日 「千島沖地震による津波について」 東日本放送 特別報道番組 2006 年 12 月 30 日 「今年の地震津波災害について」 NHK 総合 ニュースセブン 2007 年 1 月 14 日 「千島沖地震津波の伝幡特性」 朝日新聞 2006 年 5 月 7 日 伊達民報 2006 年 11 月 18 日 神戸新聞 2006 年 1 月 17 日 日本経済新聞 2006 年 8 月 20 日 河北新報 朝日新聞 2006 年 5 月 10 日 2007 年 1 月 8 日
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