社会的企業の意義と基本視点

社会的企業の意義と基本視点
(2010.10.14 午後)
[Ⅰ]今なぜ「社会的企業」か
(1) 昨年秋から今年にかけて、重要な国の政策が「進行」している。
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2009 年 10 月 23 日の政府「緊急雇用対策」の中で、地域社会の雇用支
援分野での「社会的企業」の活用として、イギリスのグランドワーク
とともに、イタリアの「社会的協同組合」が例示された。
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2009 年 12 月 8 日の政府「緊急経済対策」の「『新しい公共』推進プロ
ジェクト(仮称)」の項で、
「『社会的企業』の法制面での検討」が課題
との記述。
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「障害者自立支援法廃止後、2013 年までに新制度制定」を確認。
(2) 社会的企業への関心の特徴の一つは、上記のような「雇用」問題でもある
が、
「コミュニティの再生」という面からの関心事もある。現実にそのよう
な事例が日本に紹介され始めたことが関心を高めている。
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「社会的企業」(C.ボルサガ/J.ドゥフルニ編、8,400 円+税)
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「社会的企業とコミュニティの再生」(中川雄一郎著、2,400 円+税)
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「社会的企業はなぜ世界を変えるか」(正岡謙司著、1,700 円+税)
(3) 社会的企業の立ち上げ動機のもう一つは、国家財政の逼迫ないし破綻が背
景にある。先のグランドワークは、行政の大幅なリストラの狭間をうめる
ため、住民、企業、行政の三者が協力する仕組みで、地域環境を改善しよ
うとするもの。
(4) ヨーロッパの社会的企業の主流となるのは、福祉・対人サービス分野である。
もちろんこれも国家財政問題が背景にある。
(5) この点に関して、一見消極的な見方になりがちな見方を積極的観点から見
直すべきとの論点が「連帯経済論者」から生まれているとの紹介がある。
「新しい経済活動の発掘は、雇用という観点からではなく、社会的な需
要にどのように応えていくのかという観点から見るべきである。あるいは
またその経済活動は「失業の福祉的対策」の場合に見られるように就労支
援の道具としてではなく、発展の可能性のある一つの産業分野として捉え
ていくべきであると連帯経済論者は議論した」(「連帯経済論の展開方法」
(北島健一、明石書店発行「連帯経済」の第二章から、p.78)
[Ⅱ]社会的企業のルーツ
(1) 「サードセクター」:民間営利セクター(分野)、公的セクター(分野)に
も属さない「第3の分野」として、
“利潤を主要目的にはせず、公的セクタ
ーを構成することもない企業や団体のほとんどを構成要素とする。”
1
(2) 二つのアプローチ(付録参照)
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「非営利セクター」アプローチ(簡明性、アメリカ)
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「社会的経済」アプローチ(ヨーロッパ、EU の制度に)
[Ⅲ]アメリカ型社会的企業概念
(1) 「非営利団体」
(利益の不分配規制)の事業(免税の対象)として記述され
る。
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「非営利目的(Not-For-Profit)」セクターの多くは、1960 年代早期に、
市内暴動、公共サービスの削減、あるいは伝統産業の長期低落の原因
に取り組むために事業を開始した。
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そのようなグループによって「社会的企業」の用語が生まれた。
(2) 非営利ビジネスベンチャー・収入生成活動に対する包括的な用語。社会的
使命と財務目的という二重ボトムライン(いまは、地球環境を加える三重
ボトムラインも)、という簡明な基準。
(3) 一方、NPO の活動の範囲として米内国歳入庁(IRS)から認知される点が
実践家には魅力。アメリカの法制度では、協同組合は一般に非営利ではな
いので、これには含まれない。
(4) イギリスと比較すると、実業界「本流」
(基金・財団など)からの寄付が多
大なことが特徴。
[Ⅳ]ヨーロッパ型社会的企業概念の形成
(1) アメリカの議論に比べれば、全体として哲学的である。
(2) 社会的経済とそれを担う「社会的経済企業」(CMAF)
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「どのような法人格、組織内のルールで行うのか」という問いかけへ
の回答アプローチ(北島)。
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担い手を既存組織に求める(協同組合、共済組織、アソシエーション、
財団)。
(3) 連帯経済とそれを担う「社会プロジェクト」
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「どのような名の下に、行うのか」という問いかけへの定義(北島)
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新しい価値を共有し、新しい組織(プロジェクト)に集う。必要なと
ころに活動(協同)を生み出す。
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この新しい組織を生み出す活動が、ヨーロッパ型社会的企業形成の基
盤となった。
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EMES ネットワークの設立と調査活動
(4)
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欧州委員会第 12 総局の支援で、当初は 1996 年―1999 年の期限付きプ
ロジェクトとして発足。”Emergence of Social Enterprise”の仏語略。しか
しプロジェクト終了後も存続し、2002 年 4 月にはベルギーで法人化さ
れる。
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研究発表後急速に”Social Enterprise”の用語が広まる。このプロジェク
トの最大の成果は、広範な調査とともに、それを定義するための一連
の基準作りにあった。かくして EU の認知を得て、”Social Enterprise”
は、各国の様々な用語(午前中紹介)の統合概念となった。
[Ⅴ]社会的企業 EMES 判断基準
【経済的判断基準】
1) 財・サービスの生産・供給の継続的活動
2) 高度の自治、行政や他団体・他企業からの自立
3) 高水準の経済的リスクの引き受け
4) 有償労働者の存在(有償労働の0でない下限値設定)
【社会的判断基準】
5) コミュニティに貢献する明確な目的
6) 市民グループによる設立
7) 資本所有(出資金)の多寡は意思決定のあり方に連動させない
8) 出資者のみの意思決定の回避、利用者・労働者・地域などの参加
9) 剰余(利益)分配の制限
EMES が定義する社会的企業概念は、この判断基準から見てもかなり厳格であ
り、所謂チャリティと一線を画し、利益分配を目的とする営利企業、その子会
社的メセナ組織(NPO含む)などとも一線を画している。
それは、協同組合、とりわけイタリアの社会的協同組合に近い。というよりそ
れが一つのモデルになっていたと言える。そしてその関係もあり、その活動二
大形態も、「社会サービスを行う社会的企業」、および労働市場で不利な立場の
人たちの「労働統合の社会的企業」と、イタリア社会的協同組合のA型・B型
の如く分類され、理解される。
前者は敢えて言えば、
「社会統合のためのサービス提供社会的企業」この後者が
略称「WISE」として、様々な「雇用創出」手段として着目されているのは、
周知の通りである。なお、障害者の就労創出に拘わって「ソーシャル・ファー
ム(社会的事業所)」があるが、その源流には、イタリアの社会的協同組合B型、
およびその前身である連帯協同組合運動が挙げられる(「社会的企業とコミュニ
ティの再生」中川雄一郎著、p.266)。
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[Ⅴ]「労働統合型」社会的企業への関心
この社会的企業については、社会的協同組合を含めて、障害者の当事者団体の関
心の高さに注目したい。とりわけ、福祉就労から一般就労(通常に言う労働のこと)
への脱皮をめざす運動を進めてきた人たちは、ワーカーズ協同組合法(協同労働の
協同組合法)の制定に高い関心を払い、その運動に参加もしてきている。
出資をして就労や仕事おこしの局面に参加し、その就労組織の意思決定に参加す
る、ワーカーズ・コープの制度・仕組みは、障害者の一般就労への自立的参加とし
て、社会的にもっともっと認知されて良い。
とりわけ、社会的事業所に括られる労働統合型は、障害者のみならず、これから
概念が整理されていくであろう「社会的に不利な立場の人々」の就労において、そ
の事業推進では行政との連携が必要であり、また、各種社会保険・労働保険の優遇
策、税制優遇策などの、社会的積極支援策を検討課題とする。その支援を受けるに
足る組織的諸基準、当事者基準の検討は今後必要ではあるが、協同組合陣営固有の
課題としては社会的協同組合、それも日本型社会的協同組合の組織的諸基準の検討
が迫っている。
冒頭で紹介した通り、今年(2009 年)秋に出された政府の「緊急雇用対策」(緊
急雇用対策本部)の中で、地域社会の雇用支援分野で「社会的企業」が活用できる
として「イタリアの社会的協同組合B型」が例示されている。このB型とは労働統
合型の社会的協同組合のことで、ここでいう労働統合の対象は所謂障害をもつ人た
ちだけではない。
イタリアのB型協同組合の当事者とは、長期失業者・失業者、薬物中毒者(麻薬
等摂取者、マスコミでタレントが話題になった)、アルコール中毒者、年少者(家族
や地域から疎外された若者)、高齢者、生き難さを持った人たち(日本でいえば、引
きこもり・所謂NEET等を含む)、受刑者・元受刑者(執行猶予中・仮釈放中を含
み、過激派元政治犯も含む)、等々を指す。詳しくは概要論文等を参照されたい(例
えばイタリア政府統計局編「イタリア社会的協同組合 2005」2007 年 11 月発行「協
同の發見」第 184 号収録)。
日本においても遅かれ早かれ労働統合事業体の当事者(「社会的に不利な立場の
人々」)の範疇について検討することになろうが、今までの制度に明示的になってい
る人たち以外を検討する場合、上記のイタリアのように、ディーセントな社会生活
が困難な人たちを、自己責任だけでは解決しないとの立場から、社会的解決を必要
とする人たちとして組み立てる社会政策が必要となるであろう。もちろん、ここで
留意すべき点は、
「(一方的に)やってあげる」という狭い支援施策のことではない。
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【付録】「非営利事業セクター」の指標
レスター・M・サラモン(米国ジョンズ・ホプキンス大学)による非営利セクターの
指標
1
フォーマルな組織であること
2
国家から独立していること
3
営利を目的にしていないこと
4
自立的に運営されていること
5
一定程度ボランタリーな貢献に支えられていること
アイゼン(Andreas Eisen:北ドイツ協同組合同盟)によるセクター区分
セクター
調整の機能原理
調整の基本価値
国家
ヒエラルキー
平等
市場
競争
自由
サード
協同作業
連帯(他利主義的<NPO>、自助的<CO-OP>)
ドゥフルニら(EMES)の「社会的企業」基準
経済的企業的要素
・財の生産、サービスの提供の継続的活動
・高度な自治
・高い水準での経済的リスクの引受
・有給労働のミニマム設定
社会的要素
・市民グループ主導
・資本所有を基にしない意思決定(一人一票)
・活動の影響を受ける人たちの参加
・制限された利益分配
・コミュニティのためになるというはっきりとした目的
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