平成23年度 全国和装消費地市況調査報告書

平成23年度
全国和装消費地市況調査報告書
(財)丹後地域産業振興基金協会
はじめに
丹後地域の織物業界、とりわけ和装業界における末端消費動向を的確に把握し、産地内事
業者の消費者ニーズに則した“ものづくり”を推進することで需要の開拓、事業者の活性化
を図るため、(財)丹後地域産業振興基金協会では、呉服販売量販店及び地域に根ざした呉服
専門店などを対象とした「全国和装消費地市況調査」を実施いたしました。
かつて2兆円市場と云われた「呉服産業」ですが、日本国民の生活様式の欧米化による和
装離れの進行、さらには一部の小売店による不適正な販売手法(過量販売・過剰販売)は消費
者不信を招き、それを発端としたローン規制強化により漸次市場規模は縮小し、現在の市場
は 3000 億円を割り込んでいると云われています。
また、昨年3月11日に発生した東日本大震災により、直接の被災地はもとより関東・東
北地方の呉服販売の不振、またこの大震災を機とした消費動向の変化が伝えられるなか、丹
後地域にも少なからず影響を与えました。
こうした中にあっても製造メーカーの基本は“ものづくり”であり、製品価格のデフレ化
の長期化により製造現場では規模縮小、撤退が相次いでいますが、移り変わる消費者ニーズ
を的確に掴み、如何に迅速に市場に供給できるかに掛かっています。
今回の本報告書が、丹後地域内の和装製品製造に係わる事業者の皆さまの“ものづくり”
の参考となり、商品開発・販路開拓につながれば幸いに存じます。
最後になりましたが、年度末にも拘わらず本調査にご協力ご対応いただきました各担当者
の皆さまに心より感謝を申し上げます。
平成24年3月
財団法人 丹後地域産業振興基金協会
理事長
渡
邉
正
義
<実施日>
平成24年 3月22日(木)~23日(金)
<調査先>
【神奈川・東京】
株式会社 さが美
株式会社 東京ますいわ屋
株式会社 鈴乃屋
株式会社 三松
玉川屋呉服店
【大阪・奈良】
株式会社 藤井呉服店
株式会社 髙島屋 大阪店
株式会社 銀座もとじ
男のきもの 大阪店
おお又 株式会社
株式会社 西尾
株式会社 京ろまん
調査員
安達昇平・上田雅之
調査員
田茂井康博・藤堂博之
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市況調査報告書
1.株式会社
さが美
神奈川・東京
(神奈川県横浜市港南区)
〈現在の取り組み〉
○昨年は3カ年の再建計画の仕上げの年で、きものとホームファッ
ションに特化して計画を進めてきた。再建計画で目指したのは、
物販プラスお客様に対するサービスの強化。
○3年前に「さまざまなきものとの出会いを演出し創造するさが美」
というきものビジョンを作り、2つの方向性として、着る機会の
提供とタンス在庫の活性化を推進。
○着る機会の提供では、
・昼食会等を全国で30回程提案している。(有料)
・着付けのお手伝いを行っている。社内資格で着付けアドバイザーの資格を取らせている。
○タンス在庫の活性化では、
・京洗い(きものの丸洗い)が昨年で年間8万7千点ぐらいの需要があった。
・販売だけでなく、お客様から相談を受けての対応が出来る「さが美」を目指した。そのため
に、店長は社員教育を行い社内規定であるお手入れアドバイザーという資格を取って、お客
様からより相談に乗れる、店で対応出来るようにしている。
○3月度(2/21~3/20)は京洗い、お手入れキャンペーンということで、通常価格の2
0%オフで実施した。点数は15,000点ぐらいで、前年対比105%。
○ここ4年間の具体的な取り組みは、価格に挑戦すること、ビギナーを掘り起こすこと、サービ
ス部門を強化して休眠客や新規のお客様を開拓すること。
○ここ2年間、きものビギナーに対する物で、きものと帯の2点セット(合繊)を1万円で提案
している。
○一昨年から10万円の訪問着を出して年間3,300点ぐらい販売出来た。
○今年は総客数のアップを大きく掲げていきたい。
○丹後ちりめんの企画で、1月1日から1月20日の20日間、初絹と銘打ち、正月限定商品と
して白生地を販売。600反弱の需要があった。(初絹という名前では、過去から長襦袢や初
物の白生地等を販売している。)
○5月の展示販売会の一角で、丹後の色んな織りを集めて、丹後十選という展示を企画している。
〈現状について〉
○東日本大震災の影響を受け、業績は若干低迷した。
○一昨年は客数は維持したが、客単価はダウンした。
○今年は総客数のアップを大きく掲げていきたい。
〈販売について〉
○訪問着関係、白無地が強い。振袖は弱い。
○丹後物が多い。
○別誂えで、お客様に色を選んでもらって、白生地から売るのがさが美の伝統。
〈消費者の動向等〉
○きものを着る方は増えていると思う。減っているという意識はない。
○東京はきものを普通に着ている人は多い。
○東日本大震災でも汚れたきものを捨てなかった。きものを大切にするという文化の象徴みたい
なもので、見直されていると感じる。その一方で、まだ売り方に結構問題があると思う。消費
者のきものに対する不信感、分からない、着れない、言うところがないといったところは払拭
出来ていないと思う。
○素材、柄、織り、染めの4つがきちんと謳えないと、どんな値段でも売れない。
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〈製織地の表示に対して〉
○表示自体、殆ど付いている。
○丹後物は純国産織物も使用している。
〈産地に対する要望等〉
○当社としては、無地や紋意匠を中心に絶対必要な商品なので、白生地は作り続けてほしい。
○丹後の証紙の入った帯を取り上げた企画に取り組んでいるが、少ないのでもっと増えればと思
う。
〈その他〉
○今まで色んな産地の組合と協賛して販売会等の企画もしているが、丹後産地とも何か出来ない
か。丹後でも一部の機屋しか知らないので、組合からご紹介いただいてタイアップ出来ないか。
○社内教育の一環で、色々と協力してほしい。(教材の貸し出しや講師等)
2.株式会社
東京ますいわ屋
(神奈川県横浜市港南区)
〈現在の取り組み〉
○昨年辺りから白生地で販売するやり方を始めている。 5月から白生地
を全店に品揃えしてオーダーメイドで作っている。昨年、商品開
発して展開したという実績が出来たので、今年も同様に新たな商
品開発をやって、早期に新たな立ち上げを展開していこうと思っ
ている。
○今後、色無地は白生地に移行して、在庫リスクを軽減させること
を考えている。
〈現状について〉
○震災の影響
・3、4月はまともに当たり相当ダウンした。今年度としては、残りの10ヶ月で相当苦労し
たが前年並みに戻した。
・震災は言い訳になる。何処に行っても同情してもらえるが、会社としては頑張らないといけ
ない。
〈販売について〉
○洒落っ気のある商品、紬関係が強かったが、最近は紬が苦戦。
○販売品目としては、フォーマルが多い。現状では、紬の苦戦もあり、少しずつフォーマルに移
行している。
○ここ数年で出店先の比率は百貨店が若干上がってきており、フォーマルの比率が高くなってい
る。先染織物や紬は店頭が弱く催事型になる。店頭は染め物が中心。
○商品は国産物で、機屋を限定して作っている。
〈消費者の動向〉
○当社は、他社に比べるとヘビーユーザーの比率が高いと思う。こだわった洒落た物は需要があ
る。高齢化とともに多少行き詰まりになっている感じはする。
○一つの商品にあまりお金を掛けなくなった。
〈産地に対する要望等〉
○実際、どういう物が織れるのか、織られているのかが把握出来ていないので、もっと色んな情
報を発信してほしい。小売業なので、新しい商品をお客様に提案しなくてはならないが、ベー
スになる材料の情報がないと提案が出来ない。
○機屋からすれば、小売店側の要望、小売店側は織物等の内容の把握など、お互いに知らないこ
とが沢山あると思うので、お互いにもっと共有化を図る必要があるのではないか。
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3.株式会社
鈴乃屋
(東京都台東区)
〈現在の取り組み〉
○昭和40年早々からチェーン化を図っている中で、今のスタンス
はニーズ商品をきちんと販売することと、白生地素材ではなく加
工した物を一生懸命売ること。
○儀式用の商品をきちんと提供していくことで、他のきものへと繋
がるというスタンスでやっている。表品番として、振袖が一番核
になる商品。
○きものを買ってもらうだけでなく、店舗単位でパーティー等を企
画するなど着る場を提供している。4月には観桜会を企画している。(有料)
○創業時から、お買い上げいただいたお客様に無料で着付けをサービスしている。店に来られな
い方のために、自宅へ行って着付けするサービスも行っている。(有料)
○イメージキャラクターに川島海荷さんを起用。
○店舗は61店舗。百貨店が結構多い。
○レンタルの事業部もあるが、基本的なスタンスは物販。
〈現状について〉
○震災の影響
・震災後、大変だった。4月以降にも多少影響した。
・東北にはあまり店舗がないが、東北だけでなく、茨城県や千葉県にも結構余波があり、当分
休んだ店舗もあった。
・絹事業では、4、5店舗ぐらい実害があり、ゴールデンウィーク前まで苦労した。
・レンタル関係は、卒業シーズンだったが、自粛で卒業式自体(特に首都圏の大学)がなくな
り大打撃を受けたが、4月に入って式ではないが卒業証書授与されるときに着たいというこ
とで、何とか取り戻すことが出来た。
○近年の糸価の高騰が一番のネックになっている。
〈販売について〉
○振袖は前年対比で10%強増加。
○売上げの比率として、顧客3分の1、振袖3分の1、店頭3分の1が理想。現実的には顧客比
率がまだまだ高かい。
○催事は店内催事が多い。
〈消費者の動向〉
○接客していると、ご年配の方もめんどくさいという言葉が出てくる。そういう人達が引き気味
になってくると、その子や孫の年代の方達もレンタルで良いというようになりがちである。
〈表示について〉
○消費者は、きものは国産だという先入観がある。縫製は海外と国内を分けて表示していて、説
明しながら売っている。
〈産地に対する要望等〉
○昔は色無地がよく売れたが少なくなっている。また復活してもいいのではないかとはと思う。
○織機の耐用年数や高齢化の問題等、どの産地も大変だと思う。
4.株式会社
三松
(東京都新宿区)
〈現在の取り組み〉
○加工知識も含め、接客レベルを上げる。
○他のチェーン店に比べ着尺が強い。
○40代、50代のきものビギナーの方も沢山おられるので、敷居
を低くして新規のお客様を取り入れる。
○トップの方針でもあり、店頭販売に力を入れている。店頭販売を
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強くするのが最大のテーマ。
○今年は単衣と夏のきものを強化。
○春から単衣のきものキャンペーンを展開する準備をしている。今年は単衣で色んな提案をして
いく予定。
○今年は創業80周年ということで、色んなものを打ち出す。もっとオリジナル商品の発表の場
を広げていくような形にしたい。
〈現状について〉
○震災の影響
・震災で、仙台の店舗や社員の家も被災したが、震災が言い訳になるので今は震災の話はして
ない。
・震災後の計画停電の実施を考慮し、3月に催事の予定を組み直したが、催事をずらした分か
なり悪くなった。
○売上げは前年対比で95%ぐらい。全般的に落ち込んだ中、振袖は110%ぐらいの需要があ
った。
〈販売について〉
○店頭販売30%、催事販売70%ぐらいの売上げ。
○販売品目はフォーマル30%、カジュアル70%ぐらい。
○今年はセミフォーマルも含めたフォーマル提案がやりたい。
〈消費者の動向〉
○購入の決め手は色柄を重視している。次に価格。
〈製織地の表示に対して〉
○現実にはそれほどない。
〈産地に対する要望等〉
○きものにこだわらず、少し違った見方で発信するなど、色んな形で需要を喚起する在り方、色
んな提案をすることも本道とは別に考えるのも良いのではないか。入口を広げた方が絶対に良
い。
○産地と小売が一緒に会議して企画出来ればと思う。
○糸の太さや地紋等含めて新しい白生地の提案があっても良いと思う。
5.玉川屋呉服店
(東京都渋谷区)
〈現在の取り組み〉
○お客様にきものを着ていただくために、裾野を広げることと、 色
んな商品を提案していくことに取り組んでいる。
○今は紬等各種の専門的な店が増えてきている中、肌着から紬、 小
紋、振袖、訪問着等何でも対応するというスタンス。
〈現状について〉
○震災の影響
・昨年は思ったよりなかった。今年に入ってからの方が厳しい。
・震災後の3月20日から31日までの10日間はすごく売れた。
○50数年の間に中間業者が止められたりして、自然と機屋に近いところと商売する形が増えて
きた。
○インターネット(掲示板やHP)を見て、遠くからもお客様が来ることもある。
○着付け教室がきものを売るようになって、今の小売屋は苦戦している。
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〈販売について〉
○販売品目はフォーマル30%、カジュアル70%ぐらいの比率。
○売上げは10年間ほぼ変わらず維持している。
○主に店頭販売をしている。
○年中展示会を行っている。なるべく商品は借りないで、オール在庫(約90%)で行っている。
○夏物が好きで、5~8月の4ヶ月間はオール夏物で行こうと思っている。
○基本的には冬は冬のきもの、春は春のきもの、夏は夏のきもの、秋は秋のきものを売るという
スタンスで、季節毎に手前のタンスと奥のタンスの中身を入れ替える。
〈消費者の動向〉
○今のお客様を相手にする考え方ややり方が昔と変わっている。
・業界が数字先行になっている。
・今のお客様は、学生の頃から物を自分で買っているから、目が肥えている。自分の気に入っ
た物を買う。あまり質問をしない。
○最近、帯の証紙番号を見たり聞いたりして、自分の気に入った機屋の商品を買うお客様が出て
きた。
○以前、ブームになった時期に比べ、本当にきものを着たい方が着ている感じで、落ち着いてき
ている。
○東京では、お客様は色んな呉服店を見て回るので、何か特色がないと見ていただけない。
〈製織地の表示に対して〉
○お客様が産地とかブランド、機屋さんの番号の方に引っ張られてしまうので、あまり出さない
ようにしている。その代わり、説明は嘘偽りなくしている。
○商品的には間違いのない物が置いてありますと、後は色と柄をお好みの物を選んでくださいと
いうこと。ここの店に来て、中国物が入ってますかという失礼なことを聞かないでくれと言い
たい。
〈産地に対する要望等〉
○機屋は色んな技術や織物等を持っていると思うが、こちら側としては全然分からないので、何
か接点があればと思う。お客様に対するセールストークにもなるし、マッチングがないと勿体
ないことがあるような気がする。
調査員報告
平成24年3月22日と23日の2日間、首都圏の市況調査を行った。訪問先は株式会社さが
美、株式会社東京ますいわ屋、株式会社鈴乃屋、株式会社三松、玉川屋呉服店の5社で、代表者
・担当者にお話を聞くことができた。
売上については前年並みか、やや減というところが多く、大幅に売り上げを落とした業者はな
かった。東日本大震災の影響がどうなのかを尋ねたところ、震災直後の昨年3月、4月は最悪の
業績であったが、順調に回復をしてきており、その影響は限定的に留まっているとのこと。震災
が逆に発奮材料となり成績を伸ばしたことや、従来とは違う分野のアイテムに力を入れて震災で
減った売り上げをカバーしたりしたことが功を奏したようだ。
各社ともこれまで得意としてきた分野やアイテムに力を入れるのはもちろんだが、得意として
いない、また力を入れてこなかった分野やアイテムにも取り組んでいる姿勢が特徴としてあげら
れる。特に訪問着・付け下げ・留袖・色留袖などフォーマル系の着物を見直し、消費者に提案し
ている業者が目立つ。しゃれもの・紬系の着物の売り上げが伸び悩んでいることや、結婚式や入
学式、卒業式など正式な場所で着物を着るということが再評価されていることが理由としてあげ
られる。
また、流通が簡略化されていることも特筆すべき特徴である。丹後産地から直接白生地を仕入
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れて色無地を展開している業者もあるし、丹後産地と生地や商品開発を一緒に取り組みたいと考
える業者は多い。価格競争力や差別化を図ることが目的であり丹後織物工業組合としてもてこ入
れすることも可能であると思う。
催事販売から店頭販売へと軸足を移している傾向にある。買いやすい価格での提案、小物の販
売強化、安価でのクリーニングの引き受け、着付けサービス、きものを着る機会の提供、店員の
教育強化など、ヘビーユーザーへの重ね売りから、30~40代の女性を中心に新たな着物ファ
ンの開拓に力を入れている。着物を着る消費者の裾野を広げていかなければ、このままでは先細
りをしてしまうという強烈な危機感を持っているように感じる。商売としてはまっとうな手法で
あり、効果が出てくることを大いに期待したい。
市況調査で訪れた首都圏では何度も着物を着た人を見かけた。また訪問した業者の担当者も着
物を着る人は減っていない、と言い切っているし、アンケートを取ればほとんどの女性が着物を
着たいと答えると口をそろえる。どの年代にどのような商品をどのように提案していくのかで、
売り上げを伸ばしていくことは十分可能だと自信をのぞかせている。丹後産地としても、消費者
の動向をしっかりと捕えたうえでモノづくりに取り組んでいかなければならないと感じた。
安達
昇平
今回の調査で話を聞いていると、震災の影響を少なからず受けてはいるものの、震災を言い訳
には出来ないということもあり、かなり努力されて持ち直しているという印象を受けました。
震災云々よりも、年々少子化が進む中、どの小売店、NCとも如何にきものを着ていただくか
ということを考えておられ、きものを着る機会の提供やお客様へのサービスに重点を置いて、ゆ
くゆくは需要に繋がることも視野に入れた展開をしているようです。都会では、マンションやア
パート暮らしの方が多く、きものを置くスペースがないとか、親元を離れて暮らす若者が増え、
きものに関する知識があまりない、きものの着付けや後片付け等が面倒くさいなど、きものはレ
ンタルで良いと思っている方も多いようですが、取り敢えず、どのような形であってもきものを
着ていただかないと始まらないというように感じました。
産地への要望では、やはり丹後は遠いと感じるようで、なかなか丹後まで足を運べないという
ことを言われていました。そういうこともあり、今丹後産地で何が織られているのか、何が織れ
るのかということがとても知りたいようで、丹後からは先が分かりにくいということも併せて、
もっとコミュニケーションを取ることが大事だと改めて感じました。話の中で、他産地でも若い
方は積極的に先と手を組んで色々やっているような印象を受けましたので、丹後産地ももっと積
極的に前に出た方が良いような気がしました。
上田 雅之
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市況調査報告書
1.株式会社
藤井呉服店
大阪・奈良
(大阪府大阪市中央区)
〈会社概要〉
明治6年創業以来、別誂商品を中心に、いつでもお客様に満足頂
ける商品をとりそろえている。和装きもの(フォーマル品、おしゃ
れ紬他)、帯、和装小物など、お客様をトータルに飾る。
従業員は、13名。
〈現状について〉
○売上としては、5年間を通して少し減ってきている。
○震災等の影響はそこまで受けていない。
○呉服に特化・進化していく店にしたい。
○店のHPを立ち上げているので、HPを見て来店されるお客様が増えている。
〈販売について〉
○外商が中心であり、小紋(カジュアル)が増えてきている。
○小紋は、友禅(作家もの)かインクジェットものである。中間の価格の小紋がない。
○振袖は減っている。
○商品は、綺麗な柄ばかりを揃えている。昔よりリンズは減っている。
○昔からのお得意先への販売。
○商品は買取で仕入れている。
○国産生糸がないのが心配である。
〈消費者の動向等〉
○店の奥で文化教室(華・茶教室)があり、部屋を先生に貸しているので生徒さんが来店される
こともある。
〈表示について〉
○製織産地の表示は必要である。
〈産地に対する要望等〉
○新しい企画の商品(目新しいものがない)がないので、新商品開発に力を入れていって欲しい。
2.株式会社
髙島屋
大阪店
(大阪府大阪市中央区)
〈会社概要〉
大正8年に高島屋飯田合名会社が組織変更し、株式会社高島屋呉
服店として大阪・長堀橋に店を構える。昭和7年には、現在の大阪
店が入居する南海ビルディングが大阪・難波に竣工し、東洋一の規
模を誇る大規模百貨店を開店する。
呉服に関する豊富な知識をもとに、
「今」の時代にあった切り口で、
お客様に対して適切な提案を行っている。
〈現状について〉
○今年度の売上予想は、年間で23億円前後。
○震災等の影響は受けていないと考えている。
○来年度の売上げ見通しについては、プラスの予算組みにしている。
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〈販売について〉
○販売品目としては、フォーマルが主でありカジュアルは3割程度である。
○売上の状況については、5年間を通してフォーマル・カジュアル・その他と微減であり、ゆか
たのカジュアルと小物は微増である。
○フォーマルの購入の決め手となるのは、価格35~40%、色柄50~50%強
素材10
~15%位である。
○カジュアルの購入の決め手となるのは、価格がウエイトを占めている。
○小紋については、減ってきている。
○仕入れは買取している。
○新しいものを提案していかないと次の購買に結び付いていかない。
○店頭の商品を増やしてきている。
○京友禅きものは、千總さんをメインでしているが店頭に並んでいる商品としては減ってきてい
る。
○各メーカーに協力いただき店頭に並べる商品については増えている。
○店頭でコーディネイト提案している。
○フォーマル系に関しては、セレブレーションビジネスであり活性化していく様に考えている。
○低価格帯の正絹ビギナーズきもののコーナーを設けており、定期的にきものの講習も開催して
いる。
〈消費者の動向等〉
○40歳代のお客様が増えてきている様に感じている。
○カジュアル系は、若い方を中心に需要が増えてきている。
○きものを買おうとする方は極端に減ってきている。
○きものの着用シーンが減ってきている。
○お茶のお客様が多く来店されている。
〈表示について〉
○製織産地の表示については、絶対あった方がいいしお客様に産地をアピールできるので必要だ
と思う。
〈産地に対する要望等〉
○丹後ちりめん産地をもっと情報発信しPRして欲しい。
○社員に対し各産地の研修を行っているので、機会があれば丹後産地についても受け入れをお願
いしたい。
3.株式会社
銀座もとじ
男のきもの
大阪店
(大阪府大阪市北区)
初めての男きもの
「銀座もとじ男きもの」の考えるこれからの着物とは、現代の町
並みや生活様式になじみ、洋服を選ぶ時とさほど変わらずに自然と
手に取ってしまう衣服です。
特別な日だけでなく、おしゃれのひとつとして気軽に纏い、街に
出る。そうすることで様々な経験や自然な所作が身に付き着物姿に
自信がつく。
「着物の決まりごとは複雑で難しいのではないか」「メンテナンス
が大変そう・・」
まずはそう固くならず、職人が丹精を込めてつくり上げた美しい生地。
「銀座もとじ 男のきもの」が、あなたの着物人生をしっかりとサポート。
〈現状について〉
○売上は伸びる予定にしている。(前年比はクリアしている)
○震災等の影響は受けていない。
○銀座に大島紬の専門店を2月25日にオープンさせた。社長が奄美出身でもあり生まれ育った
地の産品をと以前から考えていた。好評である。
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○製造現場と繋がった商売をしている。
○従業員も産地へ行き、話しを聞いている。
〈販売について〉
○主に男ものきものの販売。催事により女ものきものも販売するが、基本はメンズ館であるので
男もののみ販売。(オリジナル商品販売を強化している)
○店頭での販売のみである。
○販売商品の割合は、フォーマル20%・カジュアル80%である。
○売上げの状況は、カジュアルが伸びている。(7割がオリジナル商品)
○オリジナル商品が多いので、作っている方の思いを消費者へ、いかにして伝えるか。
○提案する時は、オシャレの一つとして楽しんで下さいとお客様には言っている。
○店頭で、糸・組織などお客様に見ていただき興味を持っていただく様にしている。
〈消費者の動向等〉
○プラチナボーイの商品が評判良い。
○素材をこだわるお客様が多い。
○消費者の購入の決め手となる事項として、フォーマル・カジュアル共に、まずは素材、次に色
柄をみて購入されている。
○商品を買い求める消費者は、普段着ている方(オシャレ着として )・海外へ行かれる方などが
多い。
○夏の「ゆかた」が好きになり、きものも着てみたくなるお客様が来られる。
〈表示について〉
○製織産地の表示については大事である。
〈産地に対する要望等〉
○生地巾を広く織っていただきたい。(尺1寸あれは充分である)
○後継者が大事であるので頑張っていただきたい。
4.おお又
株式会社
(大阪府大阪市旭区)
〈会社概要〉
昭和17年創業で、昭和42年6月に設立。
女性一人一人の個性にあった美の追求。
「女性に美と上品さと健康と夢を提供する」
創業以来半世紀、おお又は常に、この想いで「きもの」、「宝石」、
「アパレル」を展開してきた。
さらに、美しさの源である「健康」を考え、健康食品も取り扱う
ようになった。
ただひたすらに、「お客様に喜んでいただけることをする」それが
自社の変わらぬ思いとの事。
〈現状について〉
○従業員は、若い女性がほとんどであった。
○2箇所の百貨店へ店舗を出している。
○今年度の売上予想は、前年比95%である。
○震災の影響は受けている。(震災だけではないが、大きなマインドの部分であると思う)
○5年間の売上げスパンでいうと店舗が減っているため減少している。
○来年の売上げ見通しは、創業70周年の節目の年であり大幅増にしてある。
〈販売について〉
○訪問着・袋帯・和装小物を取り扱っており、季節感を打ち出した商品展開をしている。
○売上割合は、店頭販売20%、催事販売80%である。
○販売商品は、フォーマル60%、カジュアル30%、和装小物10%である。
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○売上げの状況は、フォーマルは微増、カジュアルは微減、和装小物が横ばいである。
○自社は、フォーマルに力を入れている。
(フォーマル訪問着からシャレものフォーマル)
○喪服は売上げが悪い。理由として、最近の葬儀では服が多くなっている。
(きものを着ない傾向にある)
○催事にて、作り人の苦労をパネル展開してお客様に見ていただくほか、作家さんをお呼びする。
〈消費者の動向等〉
○消費者の購入の決め手となる事項で、フォーマルは色から入り、柄で価格という順番で選んで
いる。素材はそこまで見ていないように感じる。
○レンタルが多くなってきている。(七五三・振袖など)
○きもので楽しむ1日に300名弱の参加者であった。シャレ訪問着での参加者が増えだしてい
る。
○消費者は、色柄から入り後から価格という購入の決め方。
〈表示について〉
○製織産地の表示は、重要視されているので売るときにわかりやすく表示できれば。
商品管理の流として、連番で番号を付けてはどうか。
〈産地に対する要望等〉
○留袖・付下げが少ないので何とかして欲しい。
○有名人に記者会見や表彰式等で「丹後ちりめん」の着物を着てPRしてはどうか。
<俳優・スポーツ選手等が最近、着物で登場する場面が多くみられ、かなりの評判を受けてい
るらしく受注が殺到している>
5.株式会社
西尾
(大阪府大阪市福島区)
〈会社概要〉
明治44年創業以来、自社は伝統のあるきものの美を通し、常に
本物を追求し続けている。
「本物」とは長年の経験に裏打ちされた技術によって丁寧につく
りあげられた商品やサービスのこと。そこには、自ずとブランドや
職人の歴史、ロマンが織り込まれている。優れた作家が豊かな感性
で染めたもの、伝統の技を身につけた職人が丹精こめて織り上げた
もの。
良い呉服は、それ自体が芸術に値し、その背景には、ヨーロッパの高級ブランドに負けない「物
語」があるもの。
また古来より我々日本人が大切にしてきた礼儀正しい心や人間性、それらは「襟を正す」「折り
目正しく」「しつけ」といったきものから生まれた言葉にも数多く表れている。
〈現状について〉
○5年間を通して売上げは増えている。
○震災の影響は受けていない。
○きものパーティー催事を毎年開催しており、顧客データの約400名を無料で招待している。
パーティーに一流の有名人をお呼びしている。
○従業員に、しつけ(挨拶など)を叩き込んでいる。
○店長に責任を持たせ業務経験させることにより従業員が伸びてくると思っている。
〈販売について〉
○販売商品としては、カジュアルが多い。
○自社は、お客様に単にきものを買っていただくのではなく、その背景にある「物語」までも含
めて手にしていただき、きものに身を包んでいただくことで、お客様ご自身の和の心に出会い、
感動していただけるような本物のサービスを提供していきたいと考えている。
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○店にお客様をお呼びして販売するスタイルである。
○催事等の案内はハガキのみで対応している。
○営業車はなく、商品の配達・営業廻りなどは全くしていない。
○お客様の気に入った商品を店頭にて販売する。
○従業員の身内には売らせない。
〈消費者の動向等〉
○客層は、30~60歳代である。
6.株式会社
京ろまん
(奈良県奈良市)
〈会社概要〉
昭和61年11月
大阪市東区にて設立
(資本金500万円)
昭和62年 3月
京都市中京区に移転。
平成 元年10月
奈良県生駒市に移転。
奈良県内で専門店5店舗を開設。
奈良での営業基盤を固める。
平成15年7月
アニバーサリー事業店舗4店舗
プレタ和雑貨事業店舗4店舗を開設。
平成18~19年
呉服市況の激変に伴い店舗再編に着手。
平成23年11月現在 近畿圏で5業態15店舗で展開中。
〈現状について〉
○売上げは、上がっている。
○震災の影響は、特に受けていない。
〈販売について〉
○着物をお求めのお客様のニーズを三つのタイプに分類し、それぞれのニーズに合わせた店舗を
開発した。
○以前からの販売の業態(よくある地方の専門店)が5店舗。
○本物志向や高級志向、フォーマルニーズにお応えするため、常に最上の着物をお客様に提供で
きるように備えてある。
○アニバーサリータイプは、振袖・七五三の写真館(衣装の強い写真館)を伴った店として振袖
のレンタル・販売。七五三は、衣装をレンタルして写真を撮る店が6店舗。
○デイリータイプは、小町カレンという店で、日常的にきものが好きな方の店(カジュアルショ
ップ)で着付け教室を店の3分の1程度の畳敷で設けており着付けをされる方へ販売できる。
(高くてもセット10万円位を販売)
○若い女性を中心ターゲットに日々気軽に着物を着たいというニーズには「小町カレン」という
洗える着物やリサイクル着物、和雑貨を取り扱う店舗を展開。
○着物ファンの会員クラブを作り、一緒に着物を着てお出かけしていただけるようなイベントを
企画したり、着物教室を実施している。
○洋服を買うような感覚で気軽に着物に親しんでいただけるように全てがそろうビギナーセット
を一万円以下で販売するなど、特に若い女性の方々に着物を着ていただく機会が増えるように
なればと思っている。
〈産地に対する要望等〉
○奈良の大原和服専門学校は、きもの好きな人が勉強しているが、今の現状、就職先が小売店や
着付学院ぐらいしかないので、専門学校の学生に対して、ものづくりに興味を湧かせるために、
産地の現場へ研修(勉強)させる施設(受入れ口)がないものか?
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調査員報告
大阪、奈良の呉服小売店の市況調査に同行しました。
各社の訪問時間が1時間程度の中で、いろんな調査項目のここ4~5年の動き、流れを知ると
いうことにポイントを置いて話を伺いました。
各社忙しい中を丁寧に対応していただきました。
今回の市況調査で現状をしっかりと把握できたのか、役に立つ報告書になったのかという心配
の面もありますが、今現在、呉服販売の最前線で経営、販売に当たられている経営者、販売担当
者の人柄、お店の空気を感じる事ができたのが一番の収穫です。
余談になりますが、時間調整で喫茶店に入り時間を過ごしました。ふと気付くと、そこは安藤
忠雄設計のガレリア アッカではないですか。あちらこちらと見まわしながらおまけを貰ったよ
うな気分になりました。
田茂井 康博
大阪・奈良へ市況調査に行き感じたこととして、まず何処も売上げの落ち込みがあまりないこ
とや着物をいかに消費者へ伝え買っていただくか考えておられ大変勉強になりました。
また、各業者ともに従業員の若さに感心しました。
お客様に対しての、接客対応のしつけや挨拶の仕方などきびしく指導しておられ感心しました。
着物を次世代へ繋げていく為には、どういった形態で営業していけばよいのか方向性がしっか
りしており、もっと売上げを増やそうと努力している。
若年層は、レンタルが多く買おうとしないが気軽に着物を着る機会(催事)の提供をもっと増
やしていけば買おうと思う気持ちが出てくるのではないかと思いました。
着物を売るだけでなく、着付け教室や着物パーティーなどの催事を企画、お客様に催事案内を
出して参加いただき、着物の良さを知っていただいてから販売するシステムを取り入れたりして、
幅広い年齢層に販売している。
男きものに関しては、オシャレ着として活用する消費者が少しずつ増えてきており、今後の動
向が楽しみだと感じました。
若いカップルが夏祭りに「ゆかた」を着て花火大会を見に来る方が増えてきており、
「ゆかた」
の次に着物へとステップアップされる複数のお客様もいるとお聞きしました。
関西圏は、特に震災等の影響はないと言われており、影響があるとすれば催事の自粛ムードが
上げられると言われてました。
丹後での状況を見ると着物が売れていないのではないかと思うばかりでしたが、今回の市況調
査で聞き取り調査をして、売れているんだと感じました。
藤堂
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博之