アルバックMEMSファンドリーサービス

ULVAC TECHNICAL JOURNAL No.63 2005
アルバックMEMS ファンドリーサービス
不破 耕*,堀内 俊*,前平 謙*,湯山純平*
する研究開発レベルでの受託加工を基本としているが,
1.はじめに
内容に応じてある程度の多数枚処理も受けている。
アルバックの MEMS ファンドリーサービスの特徴は
MEMS という言葉を見聞きする機会が増えている。
次の2点である。
MEMS とは,Micro Electro Mechanical System の略で,
半導体デバイスの微細加工技術を用いて作製される微小
(1)蒸着重合・誘電体成膜・ NLD ドライエッチン
機械システムを総称する。マイクロマシンという言葉に
グなどアルバックの独自技術を生かした
馴染み深いが,最近ではバイオ MEMS,光MEMS,RF-
MEMS デバイスの加工と装置の製作・供給を
MEMS など,超小型モーターといった動力機械システ
行う。また材料についても,超微粒子をはじめ
ムを超えたより広範な製品群を含める意味でもっぱら
とする Si プロセス以外の幅広い材料を提供し
MEMS という言葉が使われるようになった。ユビキタ
ていく。
(2)装置メーカーとして,装置とプロセスを開発し
ス社会への移行が着実に進みつつあるなか,その推進力
てきた技術とノウハウを生かし,新しいプロセ
ともいえる MEMS 市場の拡大に注目が集まっている。
スや装置を必要とする加工に対しても迅速なサ
アルバックに限らず装置メーカーはハードとしての装
ービスを提供する。
置を開発するにとどまらず,そこで運用するプロセスも
平行して開発している。装置あってのプロセス,あるい
先にあげた技術以外にも,パターニング可能なカーボ
はプロセスあっての装置ということで,製品として両者
ンナノチューブ成膜技術や強力な表面分析ツールを持っ
は不可分のものである。アルバックでは,高誘電体膜や
ている。成膜・エッチング・リソグラフィーなどの
磁性膜など従来の装置では困難であった機能性材料の成
MEMS ラインを中核としながら,得意とする技術を結
膜技術,さらに石英・ Si の深堀や蒸気圧が低く難エッ
んだファンドリーサービスを行っていくというのが,ア
チング材料へのドライエッチング技術などを開発してき
ルバックの目指す MEMS ファンドリーの基本コンセプ
た。これらがここ数年来 MEMS の加工技術として評価
トである。そのイメージを図1に示した。
されている。またアルバックの蒸着重合法は,重合膜自
2.MEMS ファンドリーでの製作事例
体に撥水性,親水性,生体適合性,抗菌性といった機能
性を付与することができることに加え,微細な構造の深
ファンドリー開始発表以来,予想を越える反響があっ
部にまで,つき回りよく均一な重合膜を形成できるため,
MEMS にはうってつけな成膜技術として注目を集めて
た。依頼される内容は,MEMS デバイスの製作以外に,
いる。
単膜の成膜やエッチングだけといった単一プロセスの依
アルバックは以前から,上記技術を含めたウェハーレ
頼が思いのほか多い。他で二の足を踏まれた難しい内容
ベルでの成膜・加工の依頼を受けてきたが,最近では
が多く,必ずしもすべてに対応できてはいないが,装置
MEMS デバイスの製作までをも打診されるケースが増
えてきた。その声に応える形で,社内にリソグラフィー
NLD エッチャー
蒸着重合
をはじめとする MEMS 加工ラインを整備し,2003 年 11
月よりファンドリーサービスを開始するに至った。ライ
バイオセンサー
超微粒子
カーボンナノチューブ
固相接合
ンの陣容としては,成膜・エッチングはもとよりダイシ
ング・ボンディングまでの一貫ラインとして立ち上げ,
現在も設備を増強している。現時点では小量生産に対応
強誘電体プロセス
質量,表面分析技術
図1 アルバックのMEMS ファンドリーの特徴的技術
* (株)アルバック 技術開発部
36
改良やチャレンジを含め全力で取り組んでおり,装置メ
ーカーとしてのメリットを出せていると考えている。
MEMS デバイスについても光 MEMS,バイオ MEMS
を中心に受注を頂いている。受注したデバイスを紹介す
ることはできないので,ここでは社内で製作した青色
LED を一例として紹介する。MEMS の範疇に入る事例
ではないが,アルバックの MEMS ラインでの製作例と
して,このような加工の積み重ねとして,ご要望をお受
けしているとご理解願いたい。GaN 用 MOCVD 装置を
開発した際,その性能評価の一つとして図2に示す構造
の LED を試作した。ガスは,トリメチルガリウム
図3 試作 LED の発光 λ= 440.9nm
(TMG),トリメチルインジウム(TMI),トリメチルア
ルミニウム(TMA),アンモニア,メチルシランを用い
であり1),2),1984 年にアルバックが独自に開発したも
た。
のである。蒸着重合法の概念図を図4に示し,ポリイミ
サファイア基板上にノンドープ GaN を成長させた後,
ドを例に特徴を説明する。まず基板および真空槽をモノ
n 型GaN とp 型AlGaN 層との間に InGaN 層からなる発光
マーの蒸発温度近傍(200 ℃)に加熱しておく。モノマ
層を形成した。発光層の成膜温度は 750 ℃,GaN 層は
ーは PDMA(無水ピロメリト酸)と ODA(オキシジア
1000 ℃で成長させている。バリア層4 nm,量子井戸層
ニリン)で,それぞれを 203 ℃,188 ℃に加熱すると両
は2 nm 厚さとしている。図に示す形状にエッチングし
者の飽和蒸気圧が等しくなる。チャンバー中に導入され
て,p,n それぞれの層にオーミック電極を形成した。
たモノマーは単体であれば,真空槽および基板上から蒸
作成後,DC 電圧を印加し,面発光させた様子を図3に
発し排気されてしまうが,2つのモノマーを同時に導入
示す。発光波長λ= 440.9nm,FWHM = 20nm であった。
すると両者が基板上で反応して高重合体へと成長する。
バイオ MEMS では,ファンドリーとしてのチップ製
未反応モノマー分子が,基板を囲む真空槽壁面全体から
作とアルバック独自のデバイス製作の両面で進めている
再蒸発するため,基板(被成膜物)のあらゆる面に対し
が,別の機会に紹介させて頂くこととしたい。
て,均一な重合膜を形成させることができる。図5は1
μ m のLine &Space 基板にポリイミドを成膜した後の断
以下では図1に示した特徴的な技術の中から,ファン
ドリーとして成果をあげている蒸着重合法を紹介する。
面写真である。コントラストの区別がやや分りずらいが,
白っぽい部分が L / S を刻んだ Si 基板で,その上に濃く
3.蒸着重合法
見えるのがポリイミドの重合膜である。0.4 μ m のポリ
イミドが均一に被覆している様子が分る。
基板に対してあらゆる方向からポリマーが飛来する結
蒸着重合法は,高分子材料のモノマーを蒸発源材料と
果として,
複雑な3次元構造を有する部材の細部にまで,
して試料上で重合させることで高分子膜を合成する方法
誘電膜を形成させることが可能であり,蒸着重合法は
MEMS に好適な方法といえるであろう。
蒸着重合膜のなかでも,芳香族ポリ尿素は紫外線と反
応する。この性質を利用したドライ現像技術も提案され
真空槽
モノマー A
真空排気
基板
バッファ層
モノマー B
図2 試作した青色 LED
図4 蒸着重合の模式図
37
ポリ尿素膜
ポリイミド膜
シリコン
図7 トレンチへのポリ尿素膜の成膜
図5 蒸着重合法の膜厚均一性
成膜されている様子がわかる。ここに紫外線を照射した
後,温度を 300 ℃に上げると紫外線照射部は残り,未照
射部は分解して蒸発する。開発途上の技術ではあるが,
3次元構造体へのドライ現像という面でも MEMS への
貢献が期待されるものである。
4.おわりに
以上,簡単ではあるがアルバックの MEMS ファンド
リーのコンセプトと特徴的な技術として,蒸着重合につ
いて概述した。紹介したい技術は多々あるものの,紙数
の都合もあり機会を改めることにしたい。改めていうま
でもないことであるが,錚々たる陣容により MEMS フ
図6 ポリ尿素膜の解重合反応と UV 照射の影響
3)
ァンドリーはビジネスとして立ち上がっている。一昨年
ている 。ポリ尿素膜の特徴として,温度を上げると重
の秋から開始したとはいえ,その時点においてアルバッ
合の逆反応(解重合反応)により膜が分解する。ところ
クはすでに後発であった。どうすればお客様のお役に立
が紫外線を照射すると,この解重合反応が抑制される,
てるか,現在も修正を続けているところである。幸いな
すなわち n 型レジストとしての機能を有していることに
ことに装置技術とプロセス技術を持っていることが推進
なる。図6にこの関係を示した。蒸着重合法で得たポリ
力を生んでいて,先輩諸兄から加工の一部を委託される
3)
尿素膜に対し,UV 照射をしない場合(As deposition)
ケースも出てきた。複数企業にまたがるファンドリーあ
は 300 ℃に加熱すると完全に分解(解重合反応)してし
るいは企業・大学・研究機関を結ぶファンドリーのネッ
ま う の に 対 し , UV 照 射 し た 膜 ( UV treatment) は
トワークの端緒が現れつつあるのかもしれない。アルバ
300 ℃で加熱しても約 80 %残っていて,解重合反応が抑
ックの目指すファンドリーの姿は,自社内での一貫生産
制されていることがわかる。この性質を使うことで,ウ
以外に,得意とする部分の加工を「下請け」としてお引
ェットプロセスを用いないドライ現像が可能となる。し
き受けすることをも含んでいる。ありとあらゆることに
かも蒸着重合の特徴である膜の回り込みと均一性に優れ
果敢に取り組んでいく所存であり,ご指導・ご鞭撻賜れ
ていることから,3次元構造体へのリソグラフィーが可
ば幸いである。
能となる可能性をも示している。例えば微細な溝を切っ
参考文献
た後,その底部に配線を形成しようとした時,従来技術
のスピンコーティング法ではレジストを均一に溝底部に
塗布するのは困難である。立体的な試料へのレジスト塗
1)高橋善和,飯島正行,稲川幸之助,伊藤昭夫:真空,
28,440(1985)
布としてスプレーコート法が用いられているが,表面が
2)Y. Takahashi, M. Iijima and E. Fukada: Jpn. J. Appl.
荒れる,あるいはエッジ部での均一性に問題があるとさ
れている。図7にポリ尿素膜をトレンチ(幅 13 μ m,
Phys., 28, L2245(1989)
高さ8μ m)に成膜した断面観察写真を示す。「レジス
3)M. Sato, M. Iijima and T. Takahashi: J. Photopolymer
Science and Technology, 8, 137(1995)
ト」としてのポリ尿素が,トレンチ内面に沿って均一に
38