骨シンチグラフィにおける 拇指CM関節症と推定される症例 東京医科大学八王子医療センター 放射線科 小泉 潔、橋本剛史、井上真吾 放射線部 山崎 章、布施修一郎、藤原邦夫 武石和弥、常岡 礼 背 景 手関節の関節症? or 注射漏れ? いずれにしても あまり気に止めず 報告書に記載しない? 拇指CM関節症 CM関節=手根中手関節 (carpometacarpal joint) DIP (整形外科領域ではよく知られた疾患) PIP 1)拇指CM関節の変形性関節症 2)典型的には閉経後の女性に発症 3)拇指基部の疼痛と腫脹 4)初期は滑膜炎による腫脹 → 関節軟骨の破壊 → 関節包の弛緩 → CM関節の亜脱臼・不安定性 5)進行すれば拇指内転拘縮 → MP関節の過伸展 → ピンチ動作・握力の障害 MP CM 目 的 骨シンチグラフィにて拇指CM関節症と 推定される症例をレビューし、その出現頻度、 患者の自覚症状などを検討し、その臨床的 意義を検討する。 対象と方法 1)2008年2月~2009年1月の1年間に行われた 50歳以上の骨シンチグラム全画像(1274件)を レビューし、拇指CM関節への集積を検討した。 装置:E-COMないしPRISM IRIX、薬剤:99mTc-HMDP 2)集積の強さは2段階に分けた。 Grade 2: 明瞭な限局性の強い集積 Grade 1: 限局性だが手根骨よりわずかに高い集積 3)撮像時、技師の判断で集積のあった例に対し、 痛みの有無、職業・趣味・スポーツなどを尋ねた。 集積を示した全ての例で、当院ではX線撮影などの精査は 行われておらず、拇指CM関節症としての診断は付いていない 集積判定時の注意例 左右CM関節 左Grade2 右Grade1 右MP関節 左右CM関節 左右手関節 左右MP関節 左右CM関節 左右MP関節 Heberden結節 Bouchard結節 左右手関節 左右MP関節 (CM関節 - ) 右手関節 注射漏れ 結果 : 年代別拇指CM関節への集積出現率 集積出現率 1 拇指CM関節 集積出現数 検討全症例 248 / 1274 集積出現率 = 0.195 0.8 0.6 0.4 0.2 1/1 1.0 48/141 0.3401 34/235 0.1447 74/435 0.1701 91/462 0.197 50歳代 60歳代 70歳代 0 80歳代 90歳代 結果 : 集積の左右と強さ 「RおよびL」の内訳 R1 = L1 18例 Lのみ104例 RおよびL Grade 1 : 55 94例 Grade 2 : 49 R2 = L2 52例 R1 < L2 18例 Rのみ50例 Grade1 : 27 Grade2 : 23 両側集積 右拇指のみ集積 左拇指のみ集積 R2 > L1 6例 結果 : 症状と患者背景 痛みの有無、職業・趣味・スポーツの有無など 尋ねることのできた患者 : 25名(37集積部位) 1)集積grade別の疼痛出現率 Grade 1 10部位中2部位 (20.0%) Grade 2 27部位中12部位 (44.4%) (全37部位中14部位 37.8%) 2)職歴: 植木職人・パソコン仕事・清掃業・農業・大工 給食センター 各1名、そば屋 2名 3)趣味・スポーツ歴: キルト(刺繍)・指体操 各1名、ゴルフ4名 両側Grade2集積 60歳代 男性 肺癌術後 症状なし 職歴特記なし、ゴルフ歴あり 両側Grade2集積 70歳代 男性 前立腺癌 20年前より両側痛みあり 職歴特記なし、ゴルフ歴あり 左側Grade2集積 右Grade1/左Grade2集積 70歳代 男性 前立腺癌 症状なし 職歴:大工 60歳代 女性 肺癌術後 両側痛みあり(右>左) 職歴:清掃業 文献的考察 「骨シンチグラフィにて評価 した手の骨関節症の頻度」 J Rheumatol 1992;26:1550 ← 最多! 痛みに関する考察(教科書的な記載) 「拇指CM関節症は必ずしも有痛性ではなく、 骨X線写真で、偶然、硬化像が発見される例がある」 「疼痛は一過性で、湿布などで消退する」 「痛みがあっても、患者自身が痛みを誘発 させない動作を身につけていることがある」 ↓ 集積があっても痛みを自覚していない? まとめ 1)50歳以上の患者の約20%に拇指CM関節への 集積がみられた。 2)左側のみの集積や左側集積が強い例が多かった。 3)強い集積であるにもかかわらず痛みを自覚して いる例は半数以下であった。 結 語 骨シンチグラフィにて高頻度に拇指CM関節 の集積がみられた。 ただし、必ずしも拇指CM関節症として治療の 対象になるとは言えないと推定された。
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