安全な化学療法を目的とした処方提案のためのPBPM

安全な化学療法を目的とした
処方提案のためのPBPM構築に向けて
〇米澤 圭祐、髙瀬 尚武、樋本 繭子、田中 智也、遠藤 幹子
村井 良平、中田 日早枝、室井 延之
赤穂市民病院 薬剤部
目的
エビデンスに基づいた処方提案のための
プロトコールに基づく薬物治療管理(PBPM)
を構築するために病棟薬剤師による化学療法
の薬学的介入事例を解析した。
プロトコールに基づく薬物治療管理
(protocol-based pharmacotheerapy management:PBPM)
院内で協議のもと多職種間で作成したガイドライン
あるいはプロトコールに従って薬物治療に関する業務を行うこと
がん医療における薬剤師に求められる役割の拡大
平成22年度医政局通知
『医療スタッフの協働・連携による
チーム医療の推進について』の通知
平成24年度診療報酬改定
『病棟薬剤業務実施加算』の新設
平成26年度診療報酬改定
『がん患者指導管理料3 』の新設
調査方法
調査期間:平成25年6月~平成27年3月
調査項目:病棟薬剤師が入院患者に対し、
薬学的ケアを実践した事例
調査項目の分類:
①処方提案 ②用法・用量の変更
③重複投与の回避 ④薬物相互作用の回避
⑤その他(処方依頼・一包化提案)
薬学的ケアに占める化学療法の割合及び分類
入院患者における薬学的ケア 化学療法における薬学的ケアの
分類
1,855件
n=205
化学療法に対する薬学的ケア
205件 (11%)
処方提案が50%を占めた。
重複
2件
相互作用
3件
用法・用量
17件
その他
75件
処方提案
108件
化学療法における薬学的ケアの内容
分類
薬学的ケアの内容
悪心・嘔吐対策
末梢神経障害対策
皮膚障害対策
高血圧対策
口内炎対策
吃逆対策
低カルシウム血症対策
投与時間変更
処方提案 副作用対策 腎機能低下に伴う減量
下痢対策
倦怠感対策
食欲低下対策
骨髄抑制対策
発熱対策
コリン作動性症候群対策
希釈液変更
浮腫対策
レジメン検討
その他
化学療法の中止
(件)
22
21
11
8
7
7
5
4
3
3
2
2
1
1
2
1
1
6
1
用法・用量
相互作用
重複
その他
投与間隔間違い
投与量提案
投与量間違い
併用注意薬剤の確認
同じ種類の制吐薬の重複投与
処方忘れ依頼(前投薬等)
患者の訴えによる処方依頼
一包化提案
11
5
1
3
2
47
26
2
処方提案として、悪心・嘔吐
末梢神経障害、
皮膚障害等の副作用対策
の提案が多かった。
悪心・嘔吐に対する薬学的ケア
年齢・性別:80歳代 男性
がん種・病期: S状結腸がん stageⅢ
レジメン:ベバシズマブ+FOLFIRI
ベバシズマブ+FOLFIRI 開始に際し、制吐薬適正使用ガイドライン
に従いイリノテカンが中等度催吐リスクであり、 主治医と協議し
アプレピタントカプセルの内服を開始した。
ベバシズマブ+FOLFIRI 30クール終了後、ベバシズマブによる
タンパク尿(2+)が発現し、 パニツズマブ+FOLFIRIにレジメン
変更した。
3クール目の点滴後、嘔吐および倦怠感ありデキサメタゾン錠の
内服を主治医と協議した。アプレピタントカプセル内服しているため、
相互作用により点滴後 4mg に減量して2日間内服開始とした。
4クール目 デキサメタゾン錠の効果あり、嘔吐・倦怠感改善傾向し
継続処方となった。
副作用回避のためのPBPMの構築
副作用対策の処方提案では、
化学療法において高い割合を占めた
悪心・嘔吐の対策が重要である。
院内で協議するため、ガイドライン等を
もとにアルゴリズムを作成した。
悪心・嘔吐治療アルゴリズム
症状:1日1-2回の嘔吐
アプレピタントCP
遅発性嘔吐がある場合
・パロノセトロン注0.75mg
(day 1の5HT3遮断薬から変更)
・オンダンセトロン錠4mg 1T 5day 朝食後
・インジセトロン錠8mg 1T 5day 朝食後
改善しない時
・デキサメタゾン錠 0.5mg 16T
朝昼食後 day2~4
(アプレピタント併用時は減量)
制吐薬適正使用ガイドライン(2010年版)参照
(高度・中等度催吐リスク薬剤)
なし
アプレピタントCP
追加
あり
突出性嘔吐ある場合
内服のドパミンD2遮断薬を追加
・メトクロプラミド錠5mg 3T 毎食前
・ドンペリドン 錠10mg 3T 毎食前
悪心・胸焼けがある場合
PPIを追加
・ラベプラゾール錠10mg 1T 朝食後
・エソメプラゾールCP20mg 1cp 朝食後
予期性嘔吐ある場合
抗不安薬を追加
・アルプラゾラム錠0.4mg 3T 毎食後
退院後のセルフケアに向けた
プロトコールに基づく薬物治療管理
分子標的薬使用患者において、皮膚障害対策として医師と
あらかじめ協議したプロトコールを用いて以下の流れで
チーム介入を行っている。
医師
・診察
・保湿剤処方
薬剤師
看護師
・皮膚障害の種類
・爪ケア
・発現時期
・スキンケア
・セルフケアの必要性
・日常生活において
・適正な保湿剤の使用法
の注意事項
第23回 日本医療薬学会年会(2013年9月21日-22日 仙台)にて発表
副作用マネジメントツール
(患者指導パンフレット)
指導内容
≪薬剤師≫
・化学療法による皮膚障害の
種類と発現時期、好発部位
・セルフケアの必要性
・保湿剤、ステロイド剤の使用方法
(適量、使用順序等)
・症状日記の記入
≪看護師≫
・スキンケア(清潔、保湿、刺激の回避)
の重要性
・日常生活の注意事項
保湿剤の使用方法
爪のケア
入浴時のお湯の温度
弱酸性の石鹸の使用等
チーム介入後の皮膚障害発現状況
 対象:パニツズマブが投与開始された7症例
(男性6例、女性1例、平均年齢 68.7±4.5歳)
 6症例において皮膚障害の重篤化が回避できた
 1症例ではGrade3の副作用が認められた
(屋外での職業のため、保湿が不十分であったことが原因として考えられた)
症例
介入後の
総クール数
ざ瘡様皮膚炎
皮膚乾燥
爪囲炎
60歳代 女性
6 クール
Grade 2
⇒改善
Grade 1
Grade 1
⇒改善
70歳代 男性
4 クール
発現なし
発現なし
発現なし
60歳代 男性
5 クール
Grade 3
Grade 1
Grade 3
70歳代 男性
4 クール
発現なし
Grade 1
発現なし
70歳代 男性
6 クール
Grade 2
Grade 1
発現なし
60歳代 男性
4 クール
Grade 1
Grade 1
発現なし
70歳代 男性
15 クール
Grade 2
⇒改善
Grade 2
Grade 2
⇒改善
結果・考察
 病棟薬剤師による処方提案の内容は、悪心・嘔吐や
末梢神経障害、皮膚障害の対策薬の提案、腎機能
に応じた投与量の設定や減量、副作用発現に伴う
休薬が多くを占めていた。
 副作用の回避および重篤化を防止するため、
提案頻度の高かった副作用対策に対してアルゴリズム
が有用である。今後院内で協議し、患者のQOL向上を
目的としたPBPMに貢献していきたい。