離島における くも膜下出血の一例 与論徳洲会病院 岡本紘子、高杉香志也、久志安範 症例 【症 例】85歳女性 【主 訴】突然の激しい頭痛 嘔気 【既往歴】昭和45年頃 appendectomy 平成15年頃 脳梗塞 【常用薬】バイアスピリン(100)1T1× ケタス3C3× 現病歴 平成20年2月28日、昼食後(14時頃)に突然 の激しい頭痛あり、嘔気生じたため救急要請。 救急隊現着時意識レベルJCS0で、血圧160台 と上昇あり。14時15分病院到着。 来院時には頭痛は改善していたが、ERにて1 回嘔吐した。 来院時現症 意識レベル:JCSⅠ-1 GCS E4V5M6 バイタルサイン:BP122/80 KT36.9℃ HR68 SpO2 93%(room) 瞳孔2.5mm/3mm 対光反射+/+ 脳神経Ⅱ~ⅩⅡ 異常なし 四肢 明らかな麻痺なし 頭部CT(2/28) 経過 安静のためNPO、輸液キープし、尿道カテー テル留置した。 同日夕方、収縮期血圧が150台にまで上昇し、 嘔吐したため、塩酸ニカルジピン持続投与を開 始。収縮期血圧120以下目標に降圧療法を 行った。JCSⅡ-1、GCS E3V5M6、疼痛訴えな く、sedationは行わなかった。 動脈瘤の有無精査のため、翌29日朝MR施 行。 MRAにて動脈瘤認めず、FLAIRにて高信 号域広がっており、CT撮影。 頭部CT(2/29) 経過② 意識レベル変化なく、29日13時、ヘリコプ ターにて琉球大附属病院へ転院となった。 転院後の経過 転院後、DSA施行。前大脳動脈遠位部に径 2.6mmの動脈瘤同定。 動脈瘤の形状、大きさより血管内治療は難し いと判断され、3月1日開頭による脳動脈瘤ク リッピング術施行された。 3月14日現在、脳血管攣縮を起こすことなく 経過。13日頃より水頭症の症状が現れている ため、今後V-P shuntが検討されている。 くも膜下出血 発症率:人口10万対約20人/年 脳動脈瘤の破裂が約70% ほか、脳動静脈奇形(AVM)約10%など 男女比1:2 危険因子:喫煙習慣、高血圧など 予後:約40~60%不良(死亡) 予後悪化因子:再出血と脳血管攣縮 症状と診断 典型的症状 経験したことのない「突然の激しい頭痛」 頭部CT検査:クモ膜下腔の高吸収域の検出 発症24時間以内の診断率は92% 以降時間の経過とともに低下する 腰椎穿刺 CTでクモ膜下出血が診断された場合は腰椎穿刺 は行わない 初期治療 再出血の予防 再出血は、発症24時間以内に多く発生し、特に発 症早期の6時間以内に多いとされる 発症直後は出来るだけ安静を保ち、侵襲的な検査 や処置は避けたほうが良い 十分な鎮痛、鎮静が必要であり、積極的な降圧剤 投与が必要である 離島での治療 搬送された医療機関で初期治療を行う 積極的治療の適応がある場合 移動による再出血のリスクを考え、発症後最低6時 間経過後、搬送 積極的治療の適応がない場合 一旦搬送を見送り、搬送の適応が認められた時点 で搬送とする Hunt and Hessの重症度分類(1968) 重症度 基準徴候 無症状か、最小限の頭痛および軽度の項部硬 GradeⅠ 直をみる GradeⅡ 中等度から重篤な頭痛、項部硬直をみるが、脳 神経麻痺以外の神経学的失調はみられない 傾眠状態、錯乱状態、または軽度の巣症状を示 GradeⅢ すもの 昏迷状態で、中等度から重篤な片麻痺があり、 GradeⅣ 早期除脳硬直および自律神経障害を伴うことも ある 深昏睡状態で除脳硬直を示し、瀕死の様相を示 GradeⅤ すもの 積極的治療の適応 1. 重症でない例(Hunt and Hess GradeⅠ~Ⅲ) • 年齢、全身合併症などの制約がない限り、早期(発 症72時間以内)に再出血予防処置を行う 2. 比較的重症例(Hunt and Hess GradeⅣ) • 患者の年齢、動脈瘤の部位などを考え、再出血予防 処置の適応の有無を判断する 3. 最重症例(Hunt and Hess GradeⅤ) • 原則として再出血予防処置の適応はない ヘリコプター搬送によるリスク 積極的治療の適応にならない重症例を除き、 ヘリコプター搬送中の再出血は少なく、転帰 も良好 1.8%(55例中1例)*1 ヘリコプター搬送中にGCSで2点以上の神経 学的悪化をきたした症例は少ない 6%(87例中5例)*1 *1)Surgery for Cerebral Stroke 2004 まとめ くも膜下出血と診断されたら、すぐに初期治 療を開始し、専門医療機関に相談をする 発症後6時間は安静を保ち、その後積極的治 療の適応を検討して搬送を行う 一旦搬送の適応がないと判断されても、その 後意識レベルの回復があり積極的治療の適 応が認められた場合には、すみやかに専門 医療機関に搬送する 参考文献 脳卒中治療ガイドライン2004 離島で発症し急性期にヘリコプター搬送を受けたくも膜下出 血患者の転帰:案田岳夫(国立病院機構長崎医療センター 脳神経外科), 米倉正大, 馬場啓至, 馬場史郎, 吉田光一, 小 野智憲, 鎌田健作, 戸田啓介, 陶山一彦:脳卒中の外科 (0914-5508)32巻6号 Page426-430(2004.11) Outcome of patients after air medical transport for management of nontraumatic acute intracranial bleeding. : Silbergleit R, Burney RE, Draper J, Nelson K.. Department of Surgery, University of Michigan, Ann Arbor, USA. Prehosp Disaster Med. 1994 OctDec;9(4):252-6.
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