Ⅰ.特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律(住宅瑕疵担保

Ⅰ.特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律(住宅瑕疵担保履行法)
1.履行確保法の対象となる者と瑕疵担保責任の範囲
《全体の概要》
平成 21 年 10 月 1 日以降引き渡しをする新築住宅
*構造耐力上主要な部分及び雨水の侵入を防止する部分
買 主 ((((
消 費 者)
売 主 宅 建 業 者
10 年間の瑕疵担保責任(基本構造部分) *
瑕疵担保責任の履行確保措置義務
「保証金の供託」または「責任保険への
加入」
《対象となる者(法 1 条、2 条 2 項・3 項)》
① 新築住宅の請負人である建設業者*
*建設業の許可を受けた建設業者であり、一定の軽微な建設工事のみを請負う許可不要業者は対象と
ならない。
② 新築住宅の売主である宅建業者
(適用除外)
① 建設工事の発注者が宅建業者である場合 (2 条 5 項二号ロ)
② 新築住宅の買主が宅建業者である場合 (2 条 6 項二号ロ)
Q.資力確保が必要となる「新築住宅」とはどのようなものですか。
①建設工事完了の日から起算して 1 年以内のもので、かつ、
②人の居住の用に供したことのないもの
国土交通省ホームページ「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律コーナー」
→更新情報 2009.
2009.
2009.
2009.
2009.
2009.
8.28
8.28
8.28
8.28
7. 1
7. 1
7. 1
省令を
省令を改正しました
改正しました(
しました(届出時の
届出時の添付書類に
添付書類に関する改正
する改正)
改正)
保証金の
保証金の還付手続きに
還付手続きに関
きに関する省令
する省令を
省令を公布しました
公布しました
「まんがでわかる『
」を
んがでわかる『住宅かし
住宅かし担保履行法
かし担保履行法』
担保履行法』
」を公開しました
公開しました
保険法人の
保険法人の業務の
業務の改善を
改善を図りました
設計施工基準を
設計施工基準を統一しました
統一しました
住宅瑕疵担保履行法に
住宅瑕疵担保履行法に関する Q&A を更新しました
更新しました
*国土交通省 住宅局住宅生産課 住宅瑕疵担保対策室
03-5253-8111(代)
住宅瑕疵担保責任保険法人:財団法人住宅保証機構、株式会社住宅あんしん保証、
ハウスプラス住宅保証株式会社、株式会社日本住宅保証検査機構、株式会社ハウスジーメン
たてもの株式会社 の6社が指定されている。(平成21年10月1日現在)
2.住宅瑕疵担保履行法上の売主宅建業者の義務
(1) 供託等の届出義務
法:瑕疵担保履行法 規則:瑕疵担保履行法施行規則
基準日ごとに、保証金の供託又は保険契約の締結状
況について、免許を受けた国土交通大臣又は都道府 法 12 条
県知事に届出なければならない。
(2) 届出の時期・方法
基準日から 3 週間以内に、所定様式による届出書に 規則 16 条
より行う。
1項
(3) 届出の添付書類
① 基準日前 6 月間に引渡した新築住宅に関する事
項を記載した所定様式による一覧表
規則 16 条
2 項、3 項
② 新たに供託した「供託書の写し」
③ 新たに契約した「保険契約を証する書面」
(4) 新たな契約締結の制限
届出義務に反し、基準日の翌日から 50 日を経過し
た日以後においては、自ら売主となる新築住宅の売
買契約を締結することはできない。
法 13 条
ただし、不足する額の供託をし、かつ、免許権者(知
事等)の確認を受けたときは、その確認を受けた日
以後においてはこの限りでない。
① 供託所の所在地
② 供託所の名称
③ 販売瑕疵負担割合
(5) 供託に関する書面交付と説
法 15 条
*令 6 条 1 項の販売新築住宅については、同項
明
規則 21 条
に記載された 2 以上の宅建業者それぞれの販
売瑕疵負担割合の合計に対する当該宅建業者
の販売瑕疵負担割合の割合
(6) 保険証券等の交付
保険証券又はこれに代わる書面の交付
法 11 条
3.宅建業法上の宅建業者の義務
(1) 重要事項説明書
瑕疵担保責任の履行に関する措置の概要
宅建業法 35 条 1
項 13 号
(2) 宅建業法 37 条書面
(売買契約書等)
瑕疵担保責任の履行に関する措置の内容
宅建業法 37 条
1 項 11 号
*資力確保措置、届出等の義務に違反した場合には、瑕疵担保履行法に基づく罰則が科されるほか、
宅建業法に基づく行政処分も科されることになります。
Q すでに
すでに着工済
着工済みで
着工済みで基礎配筋工事
みで基礎配筋工事が
基礎配筋工事が完了してしまった
完了してしまった場合
してしまった場合、
場合、保険加入は
保険加入は可能ですか
可能ですか。
ですか。
A 保険加入においては、原則として、保険法人の現場検査を工事中に受けなければなりません。
ただし、平成 22 年 3 月 31 日までの申込住宅については、着工後・完成後であっても、非
破壊検査等を受けることにより保険加入が可能となっています(検査手数料が通常より割高
になります)。
また、建設住宅性能評価書が発行された住宅については、着工後・完成後であっても防水部
分の確認を受ければ、保険加入が可能となっています。
⇒国土交通省HP「法律に関するQ&Aについて」より 2009.8.4 時点
2
Ⅱ.「重要な事項」の告知義務
宅建業法が、取引に関与する宅建業者に対して「重要事項」の説明義務を課す趣旨は、不動産
取引に関する知識が不足する購入予定者に対して、取引対象物件に関する事項や取引条件に関す
る事項等の取引に必要な情報を事前に提供して、購入するかどうかの判断が適切に行えるようす
るためである。
したがって、重要事項の内容は、業法 35 条に列挙された事項だけでは足りず、購入の判断に
重要な影響を及ぼすその他の事項も「重要な事項」として説明することが必要になる。これにつ
き宅建業法は、35 条は「少なくとも次に掲げる事項について、・・・」と規定して、列挙事項は最
低限必要な事項であり限定列挙したものではないことを示している。さらに、47 条 1 号では、よ
り明確に規定している。
宅建業法 35 条
宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若
しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若
しくは貸借の各当事者に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅
地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、取
引主任者をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載し
た書面を交付して説明をさせなければならない。
2、3 略
4 取引主任者は、前 3 項の説明をするときは、説明の相手方に対し、取引主任
者証を提示しなければならない。
5 第 1 項から第 3 項までの書面の交付に当たっては、取引主任者は、当該書面
に記名押印しなければならない。
宅建業法 47 条
宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、
次に掲げる行為をしてはならない。
一 宅地若しくは建物の売買、交換若しくは賃借の契約について勧誘をするに際
し、又はその契約の申込みの撤回若しくは宅地建物取引業に関する取引により
生じた債権の行使を妨げるため、次のいずれかに該当する事項について、故意
に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為
イ 第 35 条第 1 項各号又は第二号各号に掲げる事項
ロ 第 35 条の 2 各号に掲げる事項
ハ 第 37 条第 1 項各号又は第 2 項各号(第 1 号を除く。)に掲げる事項
ニ イからハまでに掲げるもののほか、宅地若しくは建物の所在、規模、形質、
現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等対価
の額若しくは支払方法、その他の取引条件又は宅地建物取引業者若しくは
取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であって、宅地建物取引業
者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの
3
重要事項説明項目の
重要事項説明項目の 分類
売買・交換
重要説明項目
規定条項
代理、媒介
売買・交換
貸借
宅地
建物
宅地
建物
宅地
建物
登記された権利の種類、内容、登記名義人等
○
○
○
○
○
○
都市計画法、建築基準法その他の法令に基づく制限の概要
○
○
○
○
○
△
③
私道に関する負担
○
○
○
○
○
④
飲用水・電気・ガスの供給・排水施設の整備状況又はその見通
し及び整備についての特別の負担
○
○
○
○
○
○
未完成物件の完成時の形状、構造等
○
○
○
○
○
○
35
条
①
1項
②
令§3
⑤
規則§16
⑥
規則§16の
区分所有建物の敷地に関する権利の種類及び内容
2一
○
○
規則§16の
区分所有建物の共用部分に関する規約等の定め
2二
○
○
規則§16の 区分所有建物の専有部分の用途その他の利用の制限に関す
2三
る規約等の定め
○
○
規則§16の
区分所有建物の専用使用権に関する規約等の定め
2四
○
○
規則§16の 区分所有建物の所有者が負担すべき費用を特定の者にのみ
2五
減免する旨の規約等の定め
○
○
規則§16の
区分所有建物の修繕積立金等に関する規約等の定め
2六
○
○
規則§16の
区分所有建物の通常の管理費用の額
2七
○
○
規則§16の
区分所有建物の管理の委託先
2八
○
○
規則§16の
区分所有建物の建物の維持修繕の実施状況の記録
2九
○
○
○
○
⑦
代金、交換差金以外に授受される金額及びその目的
○
○
○
○
○
○
⑧
契約の解除に関する事項
○
○
○
○
○
○
⑨
損害賠償額の予定又は違約金に関する事項
○
○
○
○
○
○
手付金等の保全措置の概要
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
⑩
⑪
規則§16の
支払金又は預り金の保全措置の概要
3,4
⑫
⑬
金銭の貸借のあっせんの内容及びそれが成立しないときの措
置
規則§16の 瑕疵を担保すべき責任の履行に関する措置を講ずるかどう
4の2
か、講じるときはその措置の内容
⑭
規則§16の
造成宅地防災区域内にあるときはその旨
4の3 一
○
○
○
○
○
○
規則§16の
土砂災害警戒区域内にあるときはその旨
4の3 二
○
○
○
○
○
○
規則§16の
石綿使用調査結果が記録されているときはその内容
4の3 三
○
○
○
規則§16の
耐震診断を受けたものであるときはその内容
4の3 四
○
○
○
規則§16の
住宅性能評価を受けた新築住宅であるときはその旨
4の3 五
○
○
規則§16の
台所、浴室、便所その他の当該建物の設備の整備の状況
4の3 六
○
規則§16の
契約期間及び契約の更新に関する事項
4の3 七
○
○
規則§16の 定期借地、定期借家または高齢者居住法の終身建物賃貸借
4の3 八
の適用を受ける場合はその旨
○
○
規則§16の
用途その他の利用に係る制限に関する事項
4の3 九
○
○
規則§16の 敷金等契約終了時において精算することとされている金銭の
4の3 十
精算に関する事項
○
○
規則§16の
4の3 十一 管理の委託先
○
○
規則§16の
4の3 十二 契約終了時における建物の取壊しに関する事項
○
・取引の態様:法34条
・供託所等に関すること:法35条の2
4
「取引の
取引の判断に
判断に重要な
重要な影響を
影響を及ぼす事項
ぼす事項」
事項」等の記載例
(1) 隣地建物の一部が越境している場合
本物件の東側隣接地(所有者:甲山 乙男)の建物の庇の一部が約○cm本物件敷地内に越境し
ています。ついては、売主と隣地所有者 甲山 乙男氏との間で、当該建物を増改築・再建築等す
る場合には当該越境部分を撤去する旨の協定が締結されていますので、買主は、その内容を承継
しなければなりません。
(2) 隣接地等に建築計画がある場合
本物件の南側隣接地に 10 階建共同住宅(マンション)の建築計画があります。当該建物が建
築された場合は、日照・通風・眺望等の影響を受ける場合があります。
予定建築物の概要:
(本件例のように、影響が大きいと思われる場合は特に注意を要する)
(3) 近くにゴミ廃棄処分場がある場合 (工場、養鶏(豚)場、その他煤煙・臭気等を発する施設の場合)
本物件の西側約○mのところに、○○ゴミ廃棄処分場があります。天候・風向等によっては臭
気が生じることがあります。
(4) 敷地に擁壁がある場合
本件建物を増改築・再建築する場合、南側擁壁について、所管行政庁より補修その他の行政指
導を受ける場合があります。なお、この場合、生じる費用は買主負担となります。
(行政指導の内容が明らかな場合は、その内容を具体的に記載する。
)
(5) 敷地の前がゴミ集積所になっている場合
本件敷地の前(東側道路と接する電柱の横)に、本物件の属するブロックの居住者(○世帯)のため
のゴミ集積所があります。なお、ゴミ出しのルール・収集日等は別紙の通りです。
(6) 過去に火災があった場合
本件建物は、平成○年○月頃、隣家の火災の類焼により一部が焼失し、○○部分は修復工事が
施されています。
(7) 近くに暴力団事務所がある場合
本物件の東側約○m(住宅地図参照)に関係団体の事務所があります。
(抗争等の事件の事実がある場合、報道記事等があればそれを示してそのことを告げる)
(8) 過去に自殺事故があった場合
本物件建物内(1階北側和室)において、平成○年○月に自殺事故(売主の親族)がありまし
た。なお、同年○月に、各居室のリフォーム工事を行っています。
(9) 近隣に迷惑行為を行う人がいる場合
近隣に、地域住民や通りがかりの人に暴言を吐いたり、騒音を出すなどの迷惑行為を行う人が
居住し、現在、自治会において管轄警察署と相談しながら対策を協議中です。
(10) 地耐力調査をしていない土地の場合
建物を建築する場合、建築物の構造、形態、地盤の状況に応じた基礎の構造にする必要があり
ます(建築基準法施行令 38 条 3 項)。また、依頼する建築会社等の地耐力調査の結果により、地盤
補強工事等が必要となる場合があります。
地盤の状況により、依頼する建築会社の標準基礎工法の採用できないことにより生じる増加費
用、地耐力調査費用及び必要となった場合の地盤補強工事等の費用は、買主様の負担となります。
なお、本件土地について、過去に地盤(地耐力)調査を実施したことはありません。
5
Ⅲ. 業務に
業務に関する禁止行為等
する禁止行為等
不動産取引のトラブルの原因のうち、宅建業者の媒介行為等に起因するものでは、調査不足・
調査ミス・不適切な説明等の重要事項説明に関するものが一番多いが、契約解除等のトラブルで
は、売主業者や媒介業者が宅建業法で規制している禁止行為に違反した行為を行っている事例が
多く見られる。
宅建業法上の禁止行為は次の通りであるが、東京都都市整備局では「宅地建物取引業者及び宅
地建物取引主任者の指導及び監督処分基準」を公表している(平成 21 年 4 月 1 日から施行)
。禁
止行為違反には重い処分が課されることを確認し、禁止行為を行わないように十分注意する。
【 】内は、東京都監督処分基準…数字は業務停止日数標準処分例
禁止事項 1 (宅建業法 47 条)
① 故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為【90 日】
② 不当に高額の報酬を要求する行為【30 日】
③ 手付けについて貸付けその他信用の供与をすることにより契約の締結を誘引する行為
【15 日(損害発生:30 日)】
禁止事項 2 (宅建業法 47 条の 2、施行規則 16 条の 12)
① 断定的判断の提供の禁止(利益に関するもの)
【15 日(損害発生 30 日)】
② 威迫行為の禁止【15 日(損害発生 30 日)】
③ 相手方等の保護に欠ける行為の禁止
ⅰ)断定的判断の提供(将来の環境・利便等に関するもの)
【15 日(損害発生 30 日)】
ⅱ)判断する時間を与えることを拒む行為【15 日(損害発生 30 日)】
ⅲ)長時間の勧誘等の困惑させる行為【15 日(損害発生 30 日)】
ⅳ)預り金の返還を拒む行為【15 日】
ⅴ)手付放棄による解除を拒み又は妨げる行為【30 日】
禁止事項 3 (宅建業法 65 条 1 項 1 号~3 号、2項5号)
① 取引の関係者に損害を与えたとき、又は損害を与えるおそれが大である行為【指示】
② 取引の公正を害する行為、又は公正を害するおそれが大である行為【指示】
③ 他法令に違反し、業者として不適当と認められる行為【指示】
④ 不正又は著しく不当な行為【65 条 2 項 2 号類似違反 7 日他(損害の程度・社会的影響大 60 日)】
6
Ⅳ. 土地付建物売買
土地付建物売買 重要事項説明書 (参考例)
参考例)
乙 野 次 男
買主
様
○○不動産株式会社
売主
様
下記の不動産について、宅地建物取引業法第 35 条、第 35 条の 2 の規定に基づき、次のとおり
ご説明いたします。この内容は重要ですから、十分理解されるようお願いたします。
免 許 番 号
免 許 番 号
国土交通大臣・○○知事
( ○ )第 ○○○○ 号
国土交通大臣・○○知事
( ○ )第 ○○○○ 号
免許年月日
平成○年○月○日
免許年月日
平成○年○月○日
主たる事務所
○○市○○ ○丁目5-6
主たる事務所
○○市○○ ○丁目7-8
の所在地
商号又は名称
の所在地
○○不動産株式会社
商号又は名称
代表取締役
代表取締役
代表者の氏名
住 宅 太 郎
代表者の氏名
印
説明をする宅地建物取引主任者
氏
登録番号
業務に従事
する事務所
業務に従事
電話番号 ○○○( ○○ )○○○○
する事務所
売買 ・ 交換
丙 川 一 郎
名
登録番号
○ ○ 営業所
(法第 34 条第 2 項)
注 :
氏
印
( ○○ )第 ○○○○ 号
取引の態様
丙 川 一 郎
印
説明をする宅地建物取引主任者
甲 山 三 夫
名
○○土地建物株式会社
( ○○ )第 ○○○○ 号
○○土地建物株式会社本店
電話番号 ○○○( ○○ )○○○○
取引の態様
当事者 ・ 代理 ・ 媒介
印
(法第 34 条第 2 項)
売買 ・ 交換
当事者 ・ 代理 ・ 媒介
複数の業者が関与する取引の説明義務と実務の取扱い
宅建業法は、「宅建業者は・・・説明させなければならない。」と定めていることから、売主業者を含め複数
業者が取引に関与する場合、全ての業者各々に重要事項説明の義務があり、各業者は、取引主任者をして
書面を交付して説明させ、取引主任者は当該書面に記名押印しなければならない。
(実務の取扱い)
実務上は、取引主任者の一名が代表して説明している。
この場合、代表して説明する業者、取引主任者が所定欄に記名押印し、残りの各業者及び立ち会う取引
主任者は、重要事項説明書の欄外又は添付書類として相手方に交付する別紙に、各々記名押印することが
必要である。
7
不動産の表示
(1)土 地
所
在
地 番
地 目
① ○○市○○ ○丁目
12 番 34
宅地
123.11 ㎡
/
②
12 番 35
宅地
45.22 ㎡
/
同上
地 積
登記簿面積合計
実測面積
(持分)
168.33 ㎡
㎡ ( 現況測量図 ・ 確定測量図 …別添測量図をご参照ください)
権利の種類
1.所有権
2.地上権
3.賃借権
借地面積
(備考)引渡し時までに隣地所有者等の立会を得て、資格あるものにより実測図を作成します。
実測図と登記簿面積に差異が生じた場合は、1 ㎡あたり○○○円で精算します。
注 : 実測売買と公簿売買
土地・戸建の取引において、分譲地等で境界が明確であり、境界について紛争の可能性が低い場合は公
簿売買でも可能であるが、取引の基本となるのは実測売買である。
(実測売買)
① 売買契約時すでに実測が完了し実測面積が確定している場合
② 売買契約締結後実測を行う場合
a. 「確定測量図」(隣接するすべての土地の境界について、関係者の立会確認に基づき作成)に基づき行
う場合
b. 「現況測量図」(隣地が公道である場合にその境界立会(いわゆる「官民査定」)を省略して作成)に基づ
き行う場合
* 民民の立会なしに作成する測量図に基づく取引は紛争の原因となるので避ける。
②の場合、上記a、bいずれの測量図による取引なのか明確にしておく。
また、契約後に実測を行い精算する場合は、精算方法を明確にしておく。
「……、1㎡当たり○○○円で精算するものとします。」等
*注意 地積更正登記について
隣地所有者の協力が得られないなどにより、実質的に更正登記が困難となることがある。契約において更正登
記を売主の義務とする場合には、更正登記ができない事態が生じた場合、売主の債務不履行となることから、更
正登記が出来ない場合の措置について明確に約定しておく必要がある。
(公簿(登記簿)売買とする場合)
登記簿売買とする場合は、「実測による面積と登記簿記載の面積に差異が生じたとしても、それに基づく代
金の増減精算はしない」旨を売買契約書に定め、重説においても記載・説明しておく。
なお、単に「土地の面積は公簿による」としただけでは、実測面積と差異が生じた場合に精算をしないことを
定めたものではなく、数量指示売買とされる恐れがあることに注意する。また、登記簿売買であっても、「地積
○○㎡×㎡単価○○円=売買代金○○○円」等のような記載をすると数量指示売買ととらえられることにも注
意する。
8
㎡
(2)建 物
所
在
○○市○○丁目 12 番地 34
住居表示
家屋番号
種
類
○○市○○丁目 2 番 3 号
12 番 34
居宅
構
造
床 面 積
木 造 瓦 葺き 2 階建
地階
㎡ ・ 1 階 65.67 ㎡ ・
2 階 35.56 ㎡ ・
3階
㎡
延床面積 101.23 ㎡
建築年月
昭和・平成 ○ 年 ○ 月 新築 (昭和・平成 ○ 年 ○ 月頃 増築・改築)
備考 増築部分の 1 階南側の 6 帖和室については登記されていません。
(固定資産税課税台帳によると増築面積は 10.32 ㎡です。)
(登記簿・現況)
注 : 増築等により、登記簿面積と実際の面積に差異がある場合には、その旨を備考欄に記載する
未完成物件の場合は、建築確認申請書に基づき記載し、その旨も記載しておく。
(3) 売主の表示
住
氏
備考
所
1.登記名義人と同じ
○○市○○ ○丁目 5‐6
2.登記名義人と異なる
名
○○不動産株式会社
別紙の登記名義人との平成○年○月○日付不動産売買契約により、本件売主が購入しています。
平成○年○月○日頃までに、売主への所有権移転登記を完了予定です。
注 : 不動産登記法の改正により、中間省略登記は原則としてできないので、転売等の場合は残金決済時までに
売主名義に所有権移転登記を完了する必要がある。売主と登記名義人が異なる場合、買主消費者は不安で
あるので、売主が真の所有者であることの理由を示して説明し理解を得ておく必要がある。
【相続登記手続中の場合の記載例】
備考
現在、登記名義人から売主への相続登記手続中です。平成○年○月○日頃までに登記手続完了の予定です。
注 : 相続物件の取引を行う場合、相続登記が完了してから行うのが原則。
現に相続登記手続中(登記申請済み)の場合は、上記のように記載し説明する。
(相続登記未了の場合の留意点)
遺産分割協議書等による相続人の確認が必須であり、協議書等がないときには相続人間で協議が整って
なく、争いがある場合もあることに注意する。
媒介契約締結の際には、相続人全員の署名・捺印をもらうこと(各相続人の自筆)。相続人のうち他の相
続人に媒介契約について他の相続人に委任する者があるときは、受任する相続人に対して印鑑証明書付の
委任状を提出してもらい、媒介業者は当該書類等を確認することを怠らない。売買契約の締結の際も同様。
9
Ⅰ 対象となる宅地又は建物に直接関係する事項
1. 登記記録に記録された事項
( 平成 ○ 年 ○ 月 ○ 日 現在 )
住 所
○○県○○市 3-3-3
甲
名 義 人
氏 名
山 田 一 郎
区
土
所有権にかかる権利に関する事項
( 有 ・ 無 )
所有権以外の権利に関する事項
抵当権設定 : 平成○年○月○日受付 第○○○○号
乙
地
( 有 ・無 )
債権額
金 ○○○○万円
債務者
○○不動産株式会社
区
抵当権者 株式会社○○銀行 ○○支店
共同担保目録 (○)第○○○○号
建
甲
区
名 義 人
住 所
氏 名
土地に同じ
所有権にかかる権利に関する事項
( 有 ・ 無 )
物
乙
区
所有権以外の権利に関する事項
土地に同じ
( 有 ・無 )
注 : ・ 直近の登記簿に基づいて記載する。
・ 売主は、買主に物の移転だけではなく、負担のない完全な所有権を移転しなければならない担保責任
を負っている。売主は、自己の負担と責任で抵当権等の抹消をしなければならない。
・ 媒介(宅建)業者は、抵当権等が設定された物件の媒介を行うとき、その負担がいかなる内容のもので
あるか、決済時までに除去抹消できるのかを抵当権者等に確認し、その旨を買主に説明する必要があ
る。特に、売買代金を上回る残債のある抵当権等が設定されたいわゆる債務超過物件の場合、より慎
重な調査・確認が必要である。
【民法の規定】
566 条 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主
がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の
解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の
請求のみをすることができる。
567 条 売買の目的物である不動産について存した先取特権又は抵当権の行使により買主がその所有
権を失ったときは、買主は、契約の解除をすることができる。
【売買契約書 約定例】
第○条 売主は、本物件引渡し時までに、その責任と負担において抵当権等の担保権、地上権、賃借権等の用
益権その他名目形式の如何を問わず、買主の完全な所有権等の行使を阻害する一切の負担を除去抹消し
なければなりません。
10
2. 法令に基づく制限の概要
(1) 都市計画法に基づく制限
区域の別
制 限 の 概 要
都 市 計 画 法
1.市街化区域
既に市街化を形成している区域及び今後10 年以内に優先的かつ計画的に市街化
2.市街化調整区域
を図るべき区域とされ、用途地域が定められます。
3.非線引区域
4.準都市計画区域
5.その他
有(1.計画決定 2.事業決定 名称 ○○○線
都 市 計 画 道 路
幅員 ○○m) 無
本都市計画道路は、物件の東側約 100m に位置します(別添住宅地図参照)。
注 : ① 市街化調整区域内の土地では、農業従事者の居住用建物等を除き、原則として住宅を建築することは
できない。住宅の建築を目的として当該土地を取引する場合、例外的に建築が可能となる場合の法令
の内容(手続、資格要件、許可条件・・・等)を詳細に説明することが必要である。
② 計画道路は当該物件にかかっていない場合でも、当該物件の近くに計画されているときには、説明して
おく。
(2)建築基準法に基づく制限
イ.用途地域名
制 限 の 内 容
主として、低層住宅にかかる良好な住居の環境を保護するため定められた地域です。
第二種低層住居専用地域
ロ.地域・地区・街区名等
制 限 の 内 容
市街地における火災の危険を防除するために定める地域です。
準防火地域
木造建築物の外壁及び軒裏で延焼のおそれのある部分は、防火構造としなければならないなど
の制限があります。
高度地区は、建物の高さの最高限度または最低限度を定め、用途地域の高さの制限を強化する
第一種高度地区
ものです。用途地域内において、市街地の環境を維持し、または土地利用の増進を図ることを目
的としています。
本物件には、○○丁目 12 番地1他を対象区域とする「○○住宅地建築協定」により、建築物の用
建築協定
途等に関する制限が定められています。
(別添「○○住宅地建築協定書」(写)を参照してください)。
建築面積の限度
(建ぺい率制限)
延床面積の限度
(容積率の制限)
60 %
100 %
99.79 ㎡
(敷地面積 168.33 ㎡ ― 5.00 ㎡)× 100% = 163.33 ㎡
接面道路幅員により上記容積率がさらに制限されます。
(道路幅員 m × /10 ×100% = %)
1.道路斜線制限 2.隣地斜線制限 3.北側斜線制限 4.絶対高さ 10m・12m
建物の高さの制限
5.日影による中高層の建築物の制限(4-2.5)
私道の変更又は廃止の制限
その他の制限
(敷地面積 168.33 ㎡ ― 5.00 ㎡)× 60% =
有 ・ 無
建築物の敷地面積の最低限度が ○○ ㎡と定められています。
注 : ① 建築協定や最低敷地面積の制限等の調査漏れがないように注意する。
② 道路幅員により法定容積率がさらに制限される場合には、道路幅員による容積率制限を記載する。法
定容積率のほうが厳しい場合は上記のように線を引いて消しておく。
11
③ 「私道の変更又は廃止の制限」とは何かについて質問を受けたときには、次のように説明する。
特定行政庁は、私道(既存道路・位置指定道路・2 項道路など)の変更や廃止により、その私道に接する敷
地が法 43 条の接道基準に適合しなくなるような場合には、その変更や廃止を禁止し又は制限することができ
ます(建築基準法 45 条)
(3)その他の法令に基づく制限
3
古 都 保 存法
4
都市緑地保全法
5
生 産 緑 地法
*数字は、宅地建物取引業法施行令第 3 条 1 項各号に掲げる法令それぞれの各号の番号です。
9 首都圏の近郊整備地帯及び
都市開発区域の整備に関す
る法律
5 の 3 景観法
6
近畿圏の近郊整備区域及
び都市開発区域の整備及
土地区画整理法
住宅地区改良法
15
公有地拡大推進法
16
5 の 2 特定空港周辺特別措置法
10
14
17
農
地
法
宅地造成等規制法
推進法
24
森
林
法
25
道
路
法
26
全国新幹線鉄道整
備法
17 の 2 都 市 公 園 法
27
土 地 収 用 法
自 然 公 園 法
28
文 化 財 保 護 法
び開発に関する法律
6 の 2 大都市地域における住宅
23 の 2 土砂災害防止対策
18
及び住宅地の供給の促進
に関する特別措置法
6の3地方拠点都市地域の整備
11
流通業務市街地整備法
12
都 市 再 開 発 法
18 の 2 首都圏近郊緑地保全法
18 の3近畿圏の保全区域の整備
12 の 2 沿 道 整 備 法
6 の 4 被災市街地復興特別措置
法
7
航
30
国土利用計画法
31
12 の 3 集落地域整備法
19
12 の 4 密集市街地における防災
街区の整備の促進に関す
新住宅市街地開発法
る法律
7 の 2 新都市基盤整備法
空
法
に関する法律
及び産業業務施設の再配
置の促進に関する法律
29
河
川
法
19 の2特定都市河川浸水被害対
廃棄物の処理及び
清掃に関する法律
32
土壌汚染対策法
33
都市再生特別措置
策法
20
海
岸
法
21
砂
防
法
22
地すべり等防止法
法
12 の 5 地域における歴史的風
8
旧市街地改造法(旧防災建
致の維持及び向上に関
築街区造成法において準用する
場合に限る)
する法律
13
港
湾
34
高齢者、障害者等の
移動等の促進に関
法
23
急 傾 斜 地 法
する法律
(制限の概要)
本件建物は「歴史的風致形成建造物」に指定されています。本件建物を増築、改築又は除去をしようとする者は、その
30 日前までに、行為の種類、場所等を市町村長に届け出なければなりません。また、その届出に係る事項のうち主務省
令で定める事項を変更しようとするときは、当該事項の変更に係る行為に着手する日の 30 日前までに、主務省令で定
めるところにより、その旨を市町村長に届け出なければなりません。
注 : 説明に当たって
法令上の制限について、買主消費者に対し十分な理解が得られるように説明することは容易でない。説明に
当たっては、各種法令の制限の概要をまとめた「重要事項説明書補足資料」や図表・写真・その他資料等を活用
して買主が理解できるよう分かりやすく説明する必要がある。
また、取引主任者は、質問を受けた際に答えることができるように、事前準備を怠らないようにしておく。
12
3. 敷地と道路との関係
接道方向
公・私道の別
道路の種類
幅員
接道長さ
公道 ・ 私道
南 側
下記種類
1 番
4.0 m
約 16.8 m
接面道路
公道 ・ 私道
東 側
下記種類
6 番
3.0 m
約 10.0 m
昭和 ・平成 年 月 日 第
号
位置指定道路(下記 5 番)
1 1 項 1 号道路
5 1 項 5 号道路
2
道路の種類
1 項 2 号道路
6 2 項道路
(建築基準法 42 条) 3 1 項 3 号道路
7 3 項道路
4 1 項 4 号道路
□ 本件敷地は、上記いずれの道路にも接していないため、建物を建築することはできません。
敷地と道路との関係(概略図)
N
道路後退線
10m
備考
3m
(セットバックライン)
2m
法 42 条 2 項道路
16.8m
4 m
公(市)道
注 接する道路が建築基準法 42 条の道路に該当しない場合は、建築基準法 43 条の接道基準を満たさず建築で
きない土地であるので、重要事項説明においては「建築不可」の土地であることを記載する必要がある。43 条
ただし書きの適用により建築が可能な場合も、重要事項説明においては、接道基準を満たさず「建築不可」で
あることを明記し、その上で、43 条ただし書きの適用ができることを記載する(一定の要件を満たし、所定の手
続により可能であること及び建築の制限についても説明する)。
【43 条但し書適用の場合の記載例】
接道方向
側
接面道路
側
公・私道の別
道路の種類
幅員
接道長さ
公道 ・ 私道
下記種類
番
m
m
公道 ・ 私道
下記種類
番
m
m
位置指定道路(下記 5 番)
昭和 ・平成 年 月 日 第
号
1 1 項 1 号道路
5 1 項 5 号道路
2 1 項 2 号道路
道路の種類
6 2 項道路
(法 42 条)
3 1 項 3 号道路
7 3 項道路
4 1 項 4 号道路
□ 本件敷地は、上記いずれの道路にも接していないため、建物を建築することはできません。
敷地と道路との関係(概略図)
備考
本件土地は接道義務を満たしていませんが、建築基準法
43 条但し書の規定に基づき、特定行政庁が建築審査会の同
意を得て許可した場合は建物の建築をすることができます。
本件土地においては、木造2階建以下の建築物に限り、所定
10m
4m
の手続により前記の許可が得られるとの見解を得ています。
通路
(平成○年○月○日、○○市役所建築指導課に確認)
13
【道路の定義】
「道路」とは、幅員 4m(指定区域内においては 6m)以上のものをいう(法 42 条 1 項本文)。
【建築基準法で定義する 7 つの道路(42 条)】
道路の種類
内
1号道路
法 42 条 1 項
容
国道、都道府県道、市町村道など
(自動車専用道路を除く)
2号道路
開発許可などにより築造された道路
3号道路
法の適用及び都市計画区域に指定される以前から存在し
(既存道路)
た4m 以上の道
4号道路
事業執行が予定され特定行政庁が指定した道路
5号道路
・道路位置指定による道路
(位置指定道路)
法 42 条 2 項道路
法 42 条 3 項道路
・告示建築線*
法の適用及び都市計画区域に指定される以前から存在し
た4m 未満の道
土地の状況により 4m 未満で指定された道
【*告示建築線】 ・・・ 建築基準法以前に指定された建築線
建築基準法(昭和 25 年 11 月 23 日施行)以前は、「旧市街地建築物法(大正 8 年 4 月法律第 37 号)」
が施行されていた。「告示建築線」とは、「旧市街地建築物法第 7 条但書」に基づき、行政官庁が告示
により指定した指定建築線のことで、建築物を建築線より突出して建築できないこととされ、道路のな
いところに指定されることも少なくなかった。
<建築基準法附則第 5 項>
旧市街地建築物法第 7 条但書の規定によって指定された建築線で、その間の距離が 4m 以上のもの
は、その建築線の位置に、この法律第 42 条第 1 項第 5 号の規定による道路の位置の指定があったも
のとみなす。
14
4. 私道負担等に関する事項
私道負担等の有無
有 ・ 無
対象不動産に含まれる私道に関する負担等の内容
㎡ (持分
負担面積
負担金
/
)
円
建築基準法第 42 条 2 項等により後退(セットバック)する部分の面積
約 5.0 ㎡
備考 道路とみなされるセットバック部分は、建物の敷地として算入することができません。
また、セットバック部分には建築物を建築することはもちろん門・塀等も築造することはできません
記載例 ① 私道が共有で負担金がある場合
負担の有無
有
・
無
負担面積
100.00 ㎡(持分 1/8)
負 担 金
月額 1,000 円
当該私道は共有者(別紙参照)全員に管理責任があり、その費用として上記負担金があります。
記載例 ② 隣接地のために敷地の一部を通行させている場合
負担の有無
有
負担面積
10.00 ㎡
負 担 金
―
・
無
本件敷地の一部に北側隣接地所有者のための通路があり、無償にて通行させることになっています(別紙図
面参照)。
記載例 ③ 前面道路(私道)の所有権(持分)等がない場合
前面道路の
所有者
負 担 金
住 所
○○市○○町 1 丁目 1 番 1 号
氏 名
○○ ○○
上下水道・ガス管等の掘削承諾料として、金○○円
当該私道の通行及び上下水道・ガス管の敷設をする場合は、上記所有者の承諾及び上記承諾料が必要です。
すでに通行及び道路掘削に関する所有者の承諾を得ています(別添承諾書参照)。なお、通行(自動車の通行を含
む)に関する承諾料の負担はありません。
注 特に、当該前面道路私道の持分を持たない場合は注意が必要である。
これまでは無償で通行できていたが、売買により所有者が移転することを契機に通行料が請求されるといっ
たことがある。また、私道の所有者から、「売主には車の通行を認めていたが、買主に対しては人の通行は認
めるが、車の通行は認めない」といわれ、トラブルになることもある。
従前にとらわれず、取引の都度、必ず調査・確認を行うことが必要である。
15
5. 飲用水・ガス・電気の供給施設および排水施設の整備状況
直ちに利用可能な施設
飲用水
配管等の状況
前 面 道 路
50
m/m
公営・私営・井戸
敷地内配管
13
m/m
都市ガス・プロパン(集中・個別)
前 面 道 路
整備予定・負担予定金
有 ・ 無
円
m/m
ガ ス
有 ・ 無
未 定
円
プロパンガスの宅地内配管設備等の所有権はプロパンガス販売業者に(有・無)
電 気
汚 水
雑排水
雨 水
○ ○ 電力㈱
公共下水・浄化槽・汲取式
私設管利用有(備考2参照)
有 ・ 無
円
有 ・ 無
円
有 ・ 無
円
浄化槽施設の必要(有・無・既設)
公共下水・浄 化 槽・側溝等・浸透式
公共下水・側溝等・浸透式
有 ・ 無
備考
配管等の状況等の概略図
円
N
1.水道管は現状 13 ㎜で引込みを行なっており、建替え・増改築等を
行う場合には、容量不足により引込管の取替えが必要となります。こ
の場合の取替え費用は買主負担となります。
私設管
2.ガスについては、平成○年○月頃、南側接面道路に都市ガス管が
埋設される予定です。なお、負担金等については未定です。
3.汚水は敷地内汚水桝から私設管を経由して公共下水道に流入して
います(私設管の管理者:○○町会、管理料金○○円/年)
上水道管
下水道管
注 「直ちに利用可能な施設」とは何かがことさら問題とされることがあるが、何が「直ちに利用可能な施設」であ
るかが重要なのではなく、業法は、「施設の整備の状況」の説明を求めている。
宅建業者に求めているのは、利用できる施設管(上下水道管・ガス管等)の敷設の状況であり、その施設管
が直ちに利用できる状況にあるのか、利用に当たり特別な負担金が必要なのか、将来整備される予定がある
のか、その負担金の有無はどうなのか等を調査・説明することである。
本管が前面道路に敷設されてなく、本管に接続するには長い距離を引いてくる必要があり、工事に多額の費
用が見込まれる場合はそのことも説明しておく必要がある。
更には、隣の配管が敷地内を通過していないか、逆に隣の敷地を通過して引き込まれていないか等につい
ても調査が必要である。私道の場合は、その承諾の有無や負担金の有無に特に留意する。
金銭的な負担が生じる事項は、その多寡にかかわらずトラブルになりやすいので要注意である。
記載例 前面道路(公道)に公設水道管が敷設されているが、敷地内には引込んでない場合
前面道路に埋設された公設管より敷地内に新規に水道管を引込む場合の引込工事代金は買主の負担となり
ます。なお、引込工事代金とは別に局納金(口径○㎜の場合○○円)の負担が発生します。
16
6. 宅地造成または建物建築の工事完了時における形状、構造等 (未完成物件のとき)
宅
形状及び構造
地
宅地に接する道路の
幅員及び構造
形状及び構造
建
主要構造部、内装及び
外装の構造・仕上
物
設置する設備
構
造
設備の設置及び構造
7. 当該宅地建物が造成宅地防災区域内か否か
造成宅地防災区域内
造成宅地防災区域外
8. 当該宅地建物が土砂災害警戒区域内か否か
土砂災害警戒区域内
土砂災害警戒区域外
9. 石綿(アスベスト)使用調査の内容
調査方法(照会先)
売主(所有者) 管理組合(管理会社)
石綿使用調査結果の記録の有無 ( 有 ・
無 )
石綿使用調査の内容
①
②
③
④
⑤
調査の実施機関
調査の範囲
調査年月日
石綿使用の有無
石綿使用の箇所
( 有 ・
無
:
:
:
:
:
施工会社
○○調査株式会社
添付「調査報告書」参照
平成○年○月○日
有(添付「調査報告書」参照)
添付「調査報告書」参照
・ 不明 )
* 別添調査報告書の通り、屋根材、外壁材等にアスベストを含有した建材(アス
ベスト成型板)が使用されていますが、吹付けアスベストは使用されていませ
ん。
石綿使用の有無
アスベスト成型板は、通常の状態で使用されているのであれば、そのこと自
体で健康等の被害の心配はないとされています。しかし、物理的に破壊される
とアスベストが飛散する恐れがあります。したがって、増改築や解体にあたっ
ては、飛散防止の措置が必要となりますので、通常の解体工事費用が割高に
なる恐れがあります。
注 : 「この建物にはアスベストは使用されていませんか?」と質問を受けた場合、「調査記録は無」だけでは質
問に答えたことにならず、「石綿使用の有無」について答える必要があるので、「石綿使用の有無」の記載欄
を追加している。記録がなく売主等に確認してもわからない場合は、「不明」に○をつけ、中古戸建であれば、
『アスベストを含有した建築建材(アスベスト成型板) は、2004 年 10 月にその使用が禁止されるまでは、広く
使用されていましたので、平成○年に建築されていた本件建物の一部にも使用されている可能性がありま
す。なお、アスベスト成型板は、通常の・・・(以下上記記載例と同じ)』などと記載・説明しておくことがトラブル
の未然防止になると思われる。
17
10. 耐震診断の内容
調査方法(照会先)
耐震診断の有無
耐震診断の内容
売主(所有者) 管理組合(管理会社)
( 有 ・ 無 )
施工会社
① 耐震診断の実施機関 : ○○一級建築士事務所(㈱)
② 実施年月日
: 平成○年○月○日
③ 診断の結果
: 添付「耐震診断報告書」参照
注 : 昭和 56 年 6 月 1 日以降に建築確認を取得した物件は、本説明義務の適用対象外となっているが、適用対
象外の建物の取引において、買主より本件建物の耐震性・安全性について質問を受けた場合は、そのこと
について説明する義務が生じるので、その場合には、適用物件と同様の対応をする。
つまり、耐震診断の有無の確認をして、耐震診断を実施していなければ、「無」に○をつけ、『本件建物の
耐震診断は実施していません。本件建物の耐震強度・地震に対する安全性等については、耐震診断を実施
しないと判断することができません。耐震診断については、行政の窓口や専門家等にご相談下さい。』などと
説明する。なお、自治体等の簡易耐震診断を実施している場合がある。調査によりそのことが判明したとき
は、業法が規定した耐震診断ではない場合においても、その旨及びその結果内容を記載・説明する。
11. 住宅性能評価を受けた新築住宅である場合
登録住宅性能評価機関による住宅性能評価書の交付の有無
登録住宅性能評価機関による住宅性能評価書の交付
( 有 ・ 無 )
設計住宅性能評価書
建設住宅性能評価書
Ⅱ 取引条件に関する事項
1. 代金及び交換差金以外に授受される金額
授 受 の 目 的
① 解約手付金(決済時には売買代金の一部に充当します)
金
② 固定資産税・都市計画税精算金(平成 ○ 年度分)
③ 下水道私設管管理料
額
金 3,000,000 円
金 65,000 円
金 2,000 円
備考 精算金額については、引渡し予定日(平成○年○月○日)におけるものです。
注 (授受される代金以外の金銭)
① 売主等との間 ……手付金・固定資産税等精算金、管理費等精算金、敷金の引継金等
② 第三者との間 ……登録免許税、不動産取得税等
③ 媒介業者との間 …媒介報酬、ローン事務手数料等
(説明すべき代金以外の金銭)
業法が求める代金以外の金銭とは、原則として、①の売主との間で授受される金銭に限定される。しかしな
がら、登記費用やローン手続費用、媒介手数料等については、すぐに必要となる費用であり、資金計画に影響
する金銭であるので、併せて説明しておく。
不動産取得税や譲渡所得税等の税金について、「概算金額でよいから算出してほしい。」などの依頼を受ける
ことがあるが、安易に算出して提出すると、実際の税額と大きな差異が生じトラブルになることがある。税金に関
する質問には、税のしくみを説明にするにとどめ、実際の税額の計算は、税務署や税理士等に確認してもらうよ
うに案内する。
18
2. 契約の解除に関する事項
手 付 解 除
手付解除期日
平成 -年-月-日
売主及び買主は、相手方が契約の履行に着手するまでは、売主は、買主に受領済
の手付金の倍額を支払い、買主は、売主に支払済の手付金を放棄して、この売買
契約を解除することができます。
1.本物件の引渡し前に、天災地変、その他売主または買主いずれかの責に帰すこ
とができない事由により本物件が滅失したときは、買主は、この契約を解除する
ことができます。
引渡し前の滅失又は毀損
等の場合の解除
2.売主は、前項の事由によって本物件が毀損したときは、被害の修復が可能な場
合でも、修復が著しく困難なとき、または過大な費用を要するときは、この契約を
解除することができるものとし、買主は、本物件の毀損により契約の目的が達せ
られないときは、この契約を解除することができます。
3.第 1 項または前項により本契約が解除された場合、売主は、受領済みの金員全額
を無利息にて遅滞なく返還しなければなりません。
1.売主または買主が、この契約に定める債務を履行しないとき、その相手方は、自
己の債務の履行を提供し、かつ相当の期間を定めて催告をしたうえで、この契
契約違反による解除
約を解除することができます。
2.前項により契約を解除された者は、相手方に対し、契約書に定める違約金を遅滞
なく支払わなければなりません。
1.後記「金銭の貸借に関する事項」欄に記載された融資の全部又は一部につい
融資利用特約による解除
契約解除期日
平成 ○年 ○月 ○日
て、契約書に定める融資承認取得期日までに承認を得られないときは、左記の
期日までであれば、買主は契約を解除することができます。
2.前項により契約が解除されたときは、売主は受領済の金員全額を無利息にてす
みやかに買主に返還しなければなりません。
【買換え特約による解除】
1. 買主は、手持物件(○○市○○町 16 番 11 所在 ○○マンション 301 号室)の売
却代金をもって本物件の購入代金を弁済するため、平成○年○月○日までに
買換え特約による解除
当該手持物件が、金○○○○円以上で売却できないとき又はその売却代金を
受領できなかったときは、契約を解除することができます。
2. 前項により契約が解除されたときは、売主は受領済の金員全額を無利息にてす
みやかに買主に返還しなければなりません。
注 建築条件付土地売買の場合も「契約の解除に関する事項」に該当するので、その内容を記載する。
【建築条件付土地売買の場合の記載例】
1. 買主と売主又は売主の指定する建設業者との間で本件契約締結後3か月
以内に建築工事請負契約が成立しない場合又は建築工事請負契約を締
建築条件特約による解除
結しないことが確定した場合、本契約は解除されます。
2. 前項により本契約が解除となった場合、売主は受領済みの金員全額を無
利息にてすみやかに返還しなければなりません。
19
* 契約の解除に関する留意点
① クーリング・オフによる契約の解除(業法 37 条の 2)
事務所等以外の場所で申込み等を受けた場合、相手方は、この申込みの撤回等を行うことがで
きることを告げられた日から 8 日以内であれば、書面により撤回できる。
宅建業者の行う「申込みの撤回等の告知」は所定の事項を記載した書面を交付して行わなけれ
ばならない(施行規則 16 条の 6)。
「申込みの撤回等の告知」を受けていない相手方は、8 日間に限定されることなくクーリング
オフによる申込等の撤回ができることになるので注意しなければならない。
また、
申込みの撤回等に伴う損害賠償又は違約金の請求は出来ないことにも注意する(施行規則
16 条の 6 第 4 号)。
* なお、
顧客が自ら希望して自己の居宅又は勤務先を契約締結等の場所として申し出た場合は、
クーリング・オフでの申込みの撤回・契約の解除をすることはできない。
しかしながら、相手方が申し出たか否かについて立証が困難な場合があるので、契約書や申
込書等に顧客が自宅や勤務先を契約締結の場所として特に希望した旨を記載しておく。
【記載例】
買主は本売買契約を自らの希望により自宅で締結しましたので、宅地建物取引業法 37 条の 2 の適
用がなく、「クーリング・オフ」により本売買契約を解除できないことを確認しました。
<買受の申込みの撤回等に関する告知書(参考例)>
買受申込者
氏
名
買
主
住
所
(以下甲という)
売
主
(宅地建物取引業者)
(以下乙という)
告 知 日
商号又は名称
住
所
免許証番号
平成
年
月
日
1. 甲は、上記告知日から起算して8日を経過する日(平成 年 月
日)までの間は、書面により買受の申込みの撤回又は売買契約の解
除(以下「申込みの撤回等」という。
)ができます。
ただし、物件の引渡を受け、かつ、代金全部の支払いが完了した
場合は除かれます。
2. 申込みの撤回等が行われた場合、乙は損害賠償又は違約金を請求
しません。
3. 上記1の申込みの撤回等は、その旨を記載した書面を発信したと
きにその効力が生じます。
4. 乙は、申込みの撤回等があったときは、遅滞なく、すでに甲から
受領している金銭の全部を返還します。
20
② 手付放棄による解除
宅建業者が売主の場合、手付金を受領すると、その手付金がいかなる性質のものであっても、
相手方が「履行の着手」をするまでは、手付放棄(買主)又は手付倍返し(売主)により、契約
を解除することができる(解約手付性)
。
これに反して、買主に不利な特約を定めても、その特約は無効となる(業法 39 条 2、3 項)
。
*注 意
買主が、内金・中間金等の支払いを行い「履行に着手」しても、買主は手付解除することができる。
履行の着手をした買主の手付解除権がなくなるわけではなく、「履行の着手」をした者の相手方の手
付解除権が消滅する。つまり、売主業者が「履行の着手」をしない限り、買主は手付金を放棄すること
で契約を解除できる(無理由解除権・・・理由不要)。
③ ローン特約・買換え特約等の解除条項に基づく解除
宅建業者には、買主が、購入代金の一部又は全部の支払を何らかの融資を受ける資金計画であ
る場合、融資が否認された場合の措置を説明する義務がある。
宅建業法 35 条 1 項 12 号は、
「あっせんの内容及び当該あっせんに係る金銭の貸借が成立しな
いときの措置」について説明義務を課しているが、宅建業者があっせんしない融資の場合であっ
ても、融資が否認された場合の買主のリスクを説明し、リスク回避のために「ローン特約」をつ
けるなどについて助言義務がある。
買主は不動産購入に際し、分からないことが多く不安があることから、手数料を支払ってまで
も不動産取引のプロである宅建業者に媒介を依頼するのである。
買主が、購入代金の一部又は全部の支払を何らかの融資を受ける資金計画である場合、買主及
び売主にローン特約について何等の説明もせず、ローン特約をつけずに買主に損害が発生し、紛
争が生じた場合、業法違反(65 条 1 項)の対象になる可能性が高い。買換えにおいて購入が先行
する場合も同様のことがいえる。
【媒介業者の責任が認められた裁判例】
宅建業者が売主である物件を購入した買主が、金融機関から融資を否認され、融資を受けら
れなかったことを理由に契約の解除を通知したが、
「融資利用特約」が約定されていなかった
ことから裁判上で争われた事案において、
① 売主業者に対する「黙示の融資利用特約の存在」の主張は否認された。
② 媒介業者に対する裁判においては、裁判所は「媒介業者には、ローンを受けられない場合
に買主が不測の損害を被らないように、買主のためにローン特約条項をつけることを売主に申
入れるなど、あらかじめ措置すべき注意義務がある。よって、媒介業者には注意義務を怠った
ことの媒介契約に基づく債務不履行がある。」と判示した。
(大阪高判 H12・5・19)
。
21
3. 損害賠償額の予定または違約金に関する事項
1.売主の債務不履行により、買主が契約を解除したときは、売主は、受領済みの金員に売買代金の(○)%相当額の違約金を
付加して支払わなければなりません。
2.買主の債務不履行により、売主が契約を解除したときは、売主は、受領済みの金員から違約金を控除した残額を無利息で返
還する。この場合において、違約金の額が支払済の金員を上回るときは、買主は、売主にその差額を支払うものとします。
4. 手付金等保全措置の概要(業者が自ら売主の場合)
(1)未完成物件の場合
保証委託契約(法第 41 条第 1 項第 1 号)・保証保険契約(法第 41 条第 1
保全の方式
項第 2 号)
保全措置を行う機関
(2)完成物件の場合
・保証委託契約(法第 41 条第 1 項第 1 号)・保証保険契約(法第 41 条第 1 項第 2
・手付金等寄託契約及び質権設定契約(法第 41 条の 2 第 1 項)
号)
保全の方式
保全措置を行う機関
(3)保全措置を講じない
本取引では、手付金等の額が、未完成物件で売買代金の 100 分の 5・完成物件で同 10 分の 1 以下、かつ、1,000 万
円以下であるため保全措置は講じません。
注 : 「手付金等」とは、契約の締結日以降引渡し前までに支払われる手付金、内金(中間金)等の金銭で代金に
充当されるものをいう。したがって、手付金(代金に充当)は保全措置不要の額の授受であっても、内金との
合計額が保全措置の必要となる金額となる場合は、当該内金は、保全措置を講じた後でなければ受領でき
ないことに注意する。
5. 支払金または預り金の保全措置の概要
保全措置を講じるかどうか
講じる ・ 講じない
保全措置を行う機関
6. 金銭の貸借に関する事項
金融機関等
(金融機関名)
金
額
金 利
借入期間
○○銀行○○支店
1,500 万円
○○%
30 年
社内融資
1,500 万円
○○%
万円
%
金銭の貸借が成立し
ないときの措置
あっせん
の有無
保証料
ローン
融資利用特約の
事務手数料
融資承認取得期限
○○○円
○○○円
平成○年○月○日まで
30 年
有・無
○
無
有・○
○○○円
○○○円
平成○年○月○日まで
年
有・無
円
円
平成 年 月
日まで
* 前記 2 の「契約の解除に関する事項」における「融資利用特約による解除」による。
なお、ローン金利等については、金融情勢により変わることがあります。
注 : 上記のように金融機関名等を具体的に記載する。「都市銀行他」等の抽象的な記載はトラブルの原因とな
る。売買契約書にも具体的に約定しておく必要がある。
22
7.瑕疵担保責任の履行に関する措置の概要
講ずる
措置を講ずるかどうか
・
講じない
本契約の対象となる住宅は、(財)住宅保証機構の「既存住宅保証制
措置の内容
度」の登録を受けるものとします。
保証内容については、別添の「既存住宅保証制度の保証内容につい
て」を参照下さい。
注 : (財)住宅保証機構(以下「保証機構」)の「既存住宅保証制度」を利用する場合の例。
* 新築住宅 - 住宅瑕疵担保履行法に基づく措置
● 責任保険による措置を講ずる場合の記載例
講ずる
措置を講ずるかどうか
・
講じない
○○(指定法人名)の住宅瑕疵担保責任保険を利用します。
措置の内容
別添、○○保険重要事項説明書をご覧下さい。
注 : 平成 21 年 10 月 1 日以降に引き渡される新築住宅は、履行確保措置が義務付けられるので、すべて「講
ずる」になる。保険措置の場合、その内容は、保険法人所定の重要事項説明書を添付のうえ、説明する。工
事完了前である等により、保険契約が締結されていない場合は、措置を「講ずる予定」と記入し、「措置の内
容」には予定である旨をあわせて記載する。
(宅建業法の解釈・運用の考え方-ガイドライン)
宅地又は建物が宅地の造成又は建物の建築に関する工事の完了前のものである等の事情により、重要事項
の説明の時点で瑕疵担保責任の履行に関する措置に係る契約の締結が完了していない場合にあっては、当該
措置に係る契約を締結する予定であること及びその見込みの内容の概要について説明するものとする。
● 供託による措置を講ずる場合の記載例
講ずる
措置を講ずるかどうか
・
講じない
住宅瑕疵担保履行法に基づく保証金を下記供託所に供託しま
す。
措置の内容
・名 称 : ○○○○
・所在地 : ○○○○
(宅建業法の解釈・運用の考え方-ガイドライン)
・供託をする場合の説明事項
① 住宅販売瑕疵担保保証金の供託をする供託所の名称及び所在地
② 特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律施行令第 6 条第 1 項の販売新築住宅については、同
項の書面に記載された 2 以上の宅地建物取引業者それぞれの販売瑕疵負担割合の合計に対する当該宅地
建物取引業者の販売瑕疵担保負担割合の割合
23
8. 割賦販売に係る事項 (該当なし)
現金販売価格
円
割賦販売価格
円
支払時期
支払い方法
うち引渡しまでに支払う金銭
賦払金の額
注 : 「割賦販売」とは、代金の全部又は一部について、目的物の引渡し後 1 年以上の期間にわたり、かつ、2 回
以上に分割して受領することを条件として販売することをいう(宅建業法 35 条 2 項)。
9.供託所等に関する説明(法 35 条の 2)
(1)宅地建物取引業保証協会の社員でない場合
営業保証金を供託した供託所及び
その所在地
(2)宅地建物取引業保証協会の社員の場合
名 称
○○
住 所
○○
事務所の所在地
○○
宅地建物取引業保証協会
弁済業務保証金を供託した供託所
及びその所在地
○○
(添付書類の例)
1.土地登記簿謄本(抄本)
6.建築確認通知書(昭和○年新築時申請書副本)
2.建物登記簿謄本(抄本)
7.既存住宅保証制度の保証内容について
3.公 図(写)
8.隣地所有者との覚書
4.付近見取り図(住宅地図写し)
9.
5.建物平面図(参考図面:現況と異なる場合は現況優先としま
10.
す。)
24
備 考 (その他の重要な事項)
① 本物件の東側隣接地(所有者:甲山 乙男)の建物の庇の一部が約○cm本物件敷地内に越境してい
ます。ついては、売主と隣地所有者 甲山 乙男氏との間で、当該建物を増改築・再建築等する場合に
は当該越境部分を撤去する旨の覚書が締結されていますので、買主は、その内容を承継しなければ
なりません。
② 本物件は、現在、平成○年○月○日付賃貸借契約書(別添)に基づき賃貸されています。
占有している借家人は、平成○年○月○日限り明け渡すことを承諾しています。
売主は、買主に対し、空室の状態で引渡します。
③ 本物件の北西方向約 100mにある○○ビル(添付の地図参照)の 1 階には、関係団体の事務所があ
ります。
以上
宅地建物取引主任者から宅地建物取引主任者証の提示があり、重要事項説明書の交付を受け、
以上の重要事項について説明を受けました。
平成 ○ 年 ○ 月 ○ 日
買
主
住 所
氏 名
売
主
○○市○○ 2-7-3
乙 野 次 男
印
住 所
氏 名
印
注 : 宅建業法上、説明を受けたことの買主の署名・押印が義務付けられているわけではないが、説明を受け
たことを証するために買主(借主)の署名・押印を求めている。
重要事項の説明の相手方について、行政解釈は買主(借主)に対して行えばよいとされているが、重要事
項説明書の内容は、契約の解除に関する事項等、売主にとっても確認しておくべき重要な事項があることか
ら、売主に対しても説明を行うことが望ましいと思われる(実務では売主・買主同席のうえで行っていることも
多い)。本物件は、売主が宅建業者であるので本欄への記名・押印は必要ない。
なお、買主が宅建業者の場合、当該買主宅建業者は売主に対して重要事項の説明義務はないが、売主
が個人の場合、売買契約の内容(契約の解除条項、損害賠償の定め、その他取引条件等)については、売
主が理解できるように十分な説明が必要である。契約の内容について説明がなく紛争が生じた場合、47 条1
号違反となる場合があることに注意が必要である。
25
売主の瑕疵担保責任と媒介責任
買主は、取引物件に瑕疵があることについて、売主からも媒介業者からも説明がなく、買主が
その瑕疵について通常の注意をしても知りえず、知らなかった場合には、売主に対して瑕疵担保
責任を追及できる(民法 570 条・・・566 条準用)
。
この瑕疵担保責任は、売主と買主間の売買契約関係の中で、売主が負わなければならない無過
失責任であり、
「隠れた瑕疵」についてその責任を負う。
媒介業者が瑕疵担保責任を負うことはなく、買主は媒介業者に対して瑕疵担保責任を追及する
ことはできない。
しかし、買主は、媒介業者が媒介責任を果たしていない(瑕疵に関する一定の調査義務を果たし
ていない)場合には、媒介契約に基づく債務不履行責任又は不法行為責任を追及することができる
ことになる。つまり、媒介業者には当該瑕疵に関してどこまでの調査義務があったのか、その調
査義務は果たされていたかが問題となる。
隠れた瑕疵
売 主
買 主
瑕疵担保責任
損害賠償請求権・契約解除権
* 売主は無過失責任
売主
*買主の善意無過失
売買契約
買主
瑕疵
媒介責任
媒介責任
注意義務違反等
媒介
宅建業者
26
損害賠償請求
債務不履行責任の追及
(不法行為責任)
(1) 「瑕疵」と「隠れた瑕疵」
瑕 疵
「瑕疵」とは、対象物件が通常有すべき品質・性能、又は当事者が表示した品質・性能に欠け
るところ(欠陥・不具合)があること。
中古物件において、経年による品質や性能の低下や自然損耗、耐用年数が経過したものについ
ては、ここでいう「瑕疵」にあたらない。
隠れた瑕疵
「隠れた瑕疵」とは、買主が取引上一般に要求される程度の注意をしても発見できないような
瑕疵、あるいは瑕疵を知らず、かつ、知らないことに過失のない場合の瑕疵(買主の善意無過失)。
つまり、買主が、売主より告げられた瑕疵、すでに知っている瑕疵、普通の注意をすれば知り
えた瑕疵は、
「隠れた瑕疵」にはあたらず、瑕疵担保責任の問題にならないことになる。
買主の請求権
① 契約解除権(契約の目的を達することができない場合に限る)+損害賠償請求権
② ①以外の場合、損害賠償請求権のみ
(民法 566 条 1 項)
売買契約
品質・性能
経年変化・自然損耗等
による品質・性能の低下
⇒ 瑕疵には当たらない
瑕 疵
契約時に存する瑕疵
隠れた瑕疵
後発的瑕疵
⇒ 瑕疵担保責任
の適用対象外
時間
27
(2) 法律が規定する売主の瑕疵担保責任
・ 契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が「隠れた瑕疵」の事実を知
ってから1年以内に請求する必要がある。
・ 売主は瑕疵担保責任を負わない旨の特約をすることもできるが、知っ
ていて告げなかった事実についてはその責任を免れることはできない。
民
法
570 条(566 条準
用)
・572 条
⇒ 瑕疵担保免責特約は、売主が知っていて告げなかったことは免責されない
(572 条)が、知らなかったと主張しても、客観的に見て当然知っていたと思われる場合
にも免責されないことに注意が必要である。
⇒ 平成 13 年 11 月 27 日、最高裁は、「買主の売主に対する瑕疵担保による損害賠償
請求権は、売買契約に基づき法律上生ずる金銭支払請求権であり、167 条 1 項にい
う債権に当たる。その債権は 10 年の消滅時効にかかる。」また、「この消滅時効は、
物件の引渡しの時から進行すると解される。」と判示した。よって、売主の瑕疵担保
責任は、引渡しの時から 10 年で消滅すると考えることができる。
宅建業法
40 条
・ 宅建業者が
宅建業者が売主の
売主の場合、その期間について、引渡の日から2年以上と
場合
なる特約をする場合を除き、民法に規定するものより買主に不利になる
特約をすることができない。
⇒ 例えば、瑕疵担保責任の期間を引渡の日から1年とする特約をつけた場合、こ
の特約は無効となり、民法の規定が適用されることになる。
住宅品質確保法
94 条・95 条
・ 新築住宅の場合、売主は、引渡の日から 10 年間、住宅の「基本構造
部分」について、瑕疵担保責任を負う。
・ 基本構造部分とは「住宅の構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防
止する部分として政令で定めるもの」と規定されている。
・ 新築住宅とは、完成後1年未満のもので、かつ、人が住んだことがな
いものをいう。
⇒ 新築住宅の場合の瑕疵担保責任は、強行法規であり約定の有無にかかわら
ず、その責任を負う。しかし、その責任は「基本構造部分」に限られるので、それ以
外の部分について何らの特約も定められていない場合は、民法の規定が適用され
る。ゆえに、売主業者は、基本構造部分以外の部分について、2 年の瑕疵担保期間
を定めているのが一般的である。
消費者契約法
8条
・ 「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいう。
よって消費者対消費者、事業者対事業者の契約には、消費者契約法の適
用はない。
・ 消費者契約の目的物に「隠れた瑕疵」があるときに、当該瑕疵により
消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項は
無効となる。
* 他に商人間の売買では商法526条の規定がある。
【商法 526 条】
・・・目的物検査及び通知の義務
商人間の売買において、買主がその目的物を受け取りたるときは、遅滞なくこれを検査し、も
しこれに瑕疵ある・・・ときは、直ちに売主に対してその通知を発するにあらざれば、
・・・契約
の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をなすことを得ず。
・・・直ちに発見することあたわ
ざる瑕疵ありたる場合において買主が 6 か月内にこれを発見したるときまた同じ。
28
《最近の
最近の裁判例》
裁判例》
リフォーム済
リフォーム済みで購入
みで購入した
被害が発見された
発見された
購入した中古住宅
した中古住宅から
中古住宅からシロアリ
からシロアリの
シロアリの被害が
東京地裁 平成 18 年1月 20 日判決 判例タイムズ
タイムズ 12401240-284
●事案の概要●
Xは、不動産業者Y3、売主代理人である不動産業者Y2を介して、不動産会社Y1の所有す
る築21年の土地付戸建住宅)を 3,500 万円で購入した。その際、Y1から建物の築年数が古い
ので現況有姿売買としてほしい旨の依頼を受け了解したが、引渡し後、1階和室の巾木に虫喰い
があることに気付き床下を確認したところ、
土台がシロアリの被害にあっていることが判明した。
Xは、専門業者による駆除を行ったうえでY1・Y2・Y3に対して、シロアリ被害を知りなが
ら告げなかった不法行為による損害賠償として 4,375 万円を、またY1に対し瑕疵担保責任によ
る損害賠償として 1,860 万円を請求した。
●売主側の言い分●
競売物件を購入しリフォームして売却したが、裁判所の調査資料にもシロアリ被害をうかがわ
せる記載がなかったため、建物の土台は見ておらず、シロアリには気付かなかった。Xには現況
有姿売買の了解を得ている。築21年の中古住宅だからそれなりの経年変化や劣化があり、同年
数の建物と比較すれば通常の品質で、隠れたる瑕疵にはあたらないと考える。
●トラブルの結末●
裁判所は以下のとおり、Xの請求のうち、Y1・Y2・Y3の不告知による不法行為に基づく
損害賠償については理由がないとして認めず、Y1への瑕疵担保責任による損害賠償について、
718 万円余(補修費 500 万円+引越費用・家賃等 218 万円余)の請求を容認した。
(1) 契約時すでに本件建物の土台はシロアリに侵食され、居住用建物としては欠陥を有して
いたと認められる。
(2) Y1及びY2は、競売の調査書に本件欠陥をうかがわせる記載がなく、土台を見ていな
いこと、またシロアリによる建物被害について特別な知識を持っているとはいえないこ
とから、リフォームがシロアリ被害を隠すためと推認することはできず、本件欠陥を把
握していたとはいえない。また、過失により認識しなかったともいえず、Y1及びY2
の不法行為は成立しない。
(3) Y3が本件建物に立ち入ったのはリフォームの後であり土台を見ることはなく、シロア
リにつき特別の知識があるとはいえないことから、本件欠陥を認識し、または過失によ
り認識しなかったということはできない。
(4) Xが契約時に本件欠陥を知らなかったことに過失はない。取引通念上、目的物たる建物
は安全に居住することが可能であることが要求され、本件建物が21年を経過した中古
建物であり、現況有姿売買とされていたことを考慮しても、本件欠陥に関しては隠れた
る瑕疵といわざるをえず、Y1には瑕疵担保責任が認められる。
●トラブルから学ぶこと●
中古住宅の売買においては、売主も十分に建物の状態を把握していないことがある。現況有姿
売買としても隠れたる瑕疵が免責とならない点に注意が必要である。また媒介業者には隠れた瑕
疵の積極的な調査義務はないが、業務上の一般的注意義務はあるので、専門業者による建物診断
を勧めるなどトラブルを防ぐ工夫が求められる。
29
過去の
過去の出火について
出火について買主
告知しなかった売主及
媒介業者の責任
について買主に
買主に告知しなかった
しなかった売主及び
売主及び媒介業者の
東京地裁 平成 16 年 4 月 23 日判決 判例時報 18661866-65
●事案の概要●
買主Xは、業者Zの媒介で、売主Yから、中古の戸建て住宅を 2,980 万円で購入した。ところ
が、入居後、8 年半程前に、台所のガス台のてんぷら鍋から出火し、その上方のプラスチック容
器、蛍光灯カバー、換気扇、窓ガラスを焼損し、換気扇下部の横木の一部を炭化する程度まで焼
損する火災に遭っていたことが判明した。なお、消防車は出動したが、その消火活動の前に火は
消し止められ、消防車による冠水はなかった。
焦げ跡が換気扇とフードによって隠れていたことなどから、Xが物件を見たときには気付かな
ったったが、売買契約前に、Y及びZからは何も説明がなかった。
Xは、Yに対しては、これは隠れた瑕疵であり、この損傷により、本件建物の価格は少なくと
も 400 万円減価したなどとして、損害賠償請求を、また、Zに対しては、火災による傷損の調査
をせず、これを重要事項として説明しなかったことは債務不履行に当たるなどとして、媒介手数
料相当の 100 万円の損害賠償請求を求めて提訴した。
●売主、媒介業者の言い分●
火災は極めて軽微なものであり、焼損部分は交換済みで、建物自体の性能や耐久性には影響し
ないから、本件火災は隠れた瑕疵には当たらない。媒介業者は、出火の件や焼損の跡も売主から
説明がなく、それを知ることができなかったし、一般に、隠れた瑕疵についてまで調査説明すべ
き義務を負うものではないと考える。
●トラブルの結末●
裁判所は、以下のとおり、Y及びZに対して連帯して 60 万円を支払うよう命じた。
(1)火災による焼損の程度が無視し得ないものである場合には、通常の経年変化を超える特別
の損傷等があるものとして、建物の瑕疵に当たる。そして、この火災や焼損の事実を買主が知ら
されていなかった場合には、隠れた瑕疵に当たる。本件の焼損によって、建物の耐久性や安全性
に影響を及ぼしたものとはいえないが、その具体的痕跡が残存しており、消火活動が行われない
までも消防車が出動したという事情は、買い手の側の購買意欲を減退させ、その結果、本件建物
の客観的交換価値を低下させるというのが相当である。
(2)売主は、本件火災のことを思い出さなかったなどと主張するが、不自然である。売主には
容易に思い出すことができ、当然に思い出して告知すべきであったというべきであるから、売主
が瑕疵担保責任を負わない旨の特約の適用を認めることは、信義則に反して許されない。
(3)本件焼損は下からのぞき込めば発見し得るものであり、対価を得て仲介をする業者として
は、自ら発見に努めるべきである。Zが本件焼損を確認した上で、買主に告げるべきであったの
にこれをしなかったのは、仲介契約上の債務不履行に当たる。買主は、本件焼損を知らずに本件
建物を購入し、60 万円の損害を被ったものである。
●トラブルから学ぶこと●
本件では、売主・買主の双方から依頼された媒介業者は、売主の提供する情報に頼ることなく、
自らの通常の注意を尽くせば、物件の外観から確認できる範囲で、瑕疵の有無を調査して、その
情報を買主に提供すべき契約上の義務を負うとして、媒介業者の債務不履行責任が認められてい
る。媒介業者の物理瑕疵についての調査義務等について参考とすべき事案である。
30
建物内での
建物内での賃借人
での賃借人の
賃借人の自殺と
自殺と相続人及び
相続人及び連帯保証人の
連帯保証人の責任
判例検索システム
東京地裁 平成 19 年 8 月 10 日判決 判例検索
システム ウエストローシ
ウエストロージ
ージャパ
ャパン
●事案の概要●
Xは、平成 15 年 10 月、Aに対して、所有する建物(2階建て 10 室のワンルーム物件)の 203 号
室をY2を連帯保証人として期間2年の約定で賃貸した。XとAとは、平成 17 年 10 月に契約を更新
したところ、平成 18 年 10 月、Aが 203 号室内で自殺した。
Xは、建物内での自殺に係る裁判例等を総合考慮すると、①203 号室は当初2年間は賃貸すること
ができず、その後4年間は賃料半額を強いられる、②203 号室の両隣と階下の3室については当初2
年間は賃料半額、その後4年間は8割程度の賃料での賃貸を強いられるなどとして、Aを相続したY
1に対しては賃貸借契約の債務不履行に基づき、Y2に対しては連帯保証契約書に基づき、連帯して
676 万円余の支払を求めて提訴した。
●Y1・Y2の言い分●
賃借人は、賃貸目的物の物理的な損傷については責任を負う余地があるとしても、心理的な影
響を与えるような事由についてまで、
これが生じないようにすべき義務を負ってはいない。
また、
Y2にはAが自殺しないように配慮すべき義務はないし、賃料不払などについて連帯保証をする
意思はあっても、Aが室内で自殺することによる損害についてまで連帯保証する意思はなかった
のだから、本件の損害は、連帯保証契約による責任範囲には含まれない。
●トラブルの結末●
裁判所は次のような判断を示し、Y1及びY2に対して 132 万円Xの支払を命じた。
(1)賃貸借契約における賃借人は、賃貸目的物の引渡しを受けてからこれを返還するまでの間、
賃貸目的物を善良な管理者と同様の注意義務をもって使用収益する義務がある(民法 400 条)。
そして、賃貸目的物内で自殺しないようにすることも賃借人の善管注意義務の対象に含まれる
というべきである。
(2)したがって、Aが賃借中に 203 号室内で自殺したことは、賃貸借契約における賃借人の善
管注意義務に違反したものでありAを相続したY1には、Xの損害を賠償する責任がある。ま
た、Y2には、本件連帯保証契約に基づき、Y1と連帯して賠償する責任がある。
(3)賃貸人が、自殺があったような物件を賃貸しようとするときは、原則として賃借希望者に
対して、当該物件において自殺事故があった旨を告知すべき義務があることは否定できない。
(4)しかし、本件建物の所在地が都市部であることなどからすれば、自殺事故の後の最初の賃
借人には自殺事故があったことを告知すべき義務があるというべきであるが、当該賃借人が極
短期間で退去したといった特段の事情が生じない限り、以降の賃借希望者に対して自殺事故が
あったことを告知する義務はないというべきである。また、Xには、Aが 203 号室内で自殺し
た後に他の部屋を新たに賃貸するに当たり、賃借希望者に対して 203 号室内で自殺事故があっ
たことを告知する義務はないというべきである。
(5)Xは、Aの自殺から約 3 か月後に 203 号室を、期間 2 年、賃料月額 3 万 5 千円、敷金なし
で賃貸した事実が認められる。当裁判所としては、賃貸不能期間(1 年間)と一契約期間(2 年間)
の経過後、すなわち自殺事故から 3 年後には、従前賃料の月額 6 万円での賃貸が可能になって
いると推認するのが相当であると考える。
●トラブルから学ぶこと●
本判決は、自殺事故の心理的瑕疵の払拭に関して、一つの事例を示しているが、自殺事故に関
する心理的瑕疵が減失したとする判断は、事故に関する周辺住民の記憶、事故の状況、当時の報
道内容、事故後の貸室の使用状況等及び貸室のタイプ等、事例ごとに様々であると考えるべきで
ある。
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