スタジオジブリはなぜ人気なのか - 水越康介 私的市場戦略研究室

スタジオジブリはなぜ人気なのか
指導教員:水越 康介
学修番号:08159911
氏名:中屋敷 都
枚数:22 枚
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《目次》
第一章 はじめに
第二章 先行研究
2-1 大塚英志:構造論について
2-2 東浩紀:キャラクター論について
2-3 借りぐらしのアリエッティから考える仮説
第三章 インタビューから読み解く、面白さを生む要素
3-1 インタビューの方法とその対象
3-2 インタビュー内容
3-3 インタビュー結果
3-4 結果から分かる共通点、相違点、結論
第四章 まとめ
第 一 章 は じ め に
本論文においてなぜこのテーマを選んだのかというと、ふと日本公開映画の歴代興行収
入を見た時に、第一位に挙がっているのがアニメであることに衝撃を受けたからである。
それも、世界的に大ヒットした宮崎駿監督作品の「千と千尋の神隠し」である。ここで以
下の表を見てほしい。
●日本国内 歴代映画興行収入ランキング
順位
作品名
興業収入(億円) 公開年
1
千と千尋の神隠し
304.0
2001
2
タイタニック
272.0
1997
3
ハリー・ポッターと賢者の石
203.0
2001
4
ハウルの動く城
200.0
2004
5
もののけ姫
192.1
1997
6
踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリ
173.5
2003
ッジを封鎖せよ!
7
ハリー・ポッターと秘密の部屋
173.0
2002
8
E.T.
163.5
1982
9
アバター
156.0
2009
10
崖の上のポニョ
155.0
2008
11
アルマゲドン
142.0
1998
12
ジュラシック・パーク
141.1
1993
2
13
ラストサムライ
137.0
2003
14
ハリー・ポッターとアズカバンの囚人
135.0
2004
15
スターウォーズエピソード1ファントム・メナス
132.6
1999
16
アリス・イン・ワンダーランド
118.0
2010
【一般社団法人日本映画製作者連盟参照】
http://www.eiren.org/toukei/index.html
※1999 年までは配給収入表示であるため×1.7 をして興行収入を推計
この表を見てまず注目したいのが、上位 5 位以内にスタジオジブリ作品が 3 つも入って
いるということである。中でも第一位の「千と千尋の神隠し」は、世界でも肩を並べる「タ
イタニック」と「アバター」にひけをとるどころか、
「アバター」の約 2 倍もの興業収入を
誇っており、2001 年の公開以来ずっと 1 位を独占している。第 5 位の「もののけ姫」にお
いても、今までジブリの国内入場者数は三百万人台であったのに対し一気に一千万人を超
える結果となり、国を代表する国民映画となった。
(大塚、2009、p.151)また、上位 16 位
以内に入っているアニメはスタジオジブリ作品のみであることからも、その人気ぶりが覗
えるであろう。スタジオジブリはアニメでありながら、大人子供関係なく多くの人々に求
められているのである。世界的にも有名なスタジオジブリが日本の作品であることに誇り
を持ちつつ、その人気の秘密について、アニメ論的な観点から考察を進めたい。
本論文の構成は、まず第二章で大塚英志の構造論の話をし、その後東浩紀のキャラクタ
ー論についても紹介することで、二極化する二つの理論について、借りぐらしのアリエッ
ティを例にその有効性について考察する。第三章では、構造論とキャラクター論両者の理
論を踏まえた上で、ジブリ好きな対象者 4 人に 1 対 1 のインタビューを行い、その結果に
ついて論じる。このインタビューを行うことで、ジブリのアニメをどのように理解できる
のかを考えていきたい。最後に、第四章で全体のまとめを行い、論文を締めくくる。
第 二 章 先 行 研 究
2 - 1 構 造 論 に つ い て
まずは、大塚英志の「構造論」という理論を見ていこう。彼は「物語論で読む村上春樹
と宮崎駿」という本の中で、ただひたすらに「物語には構造しかない」ということを言い
きっている。(大塚、2009、p.230)このある意味偏った考えに興味を持った。大塚がこの
ように考えるに至った背景には、よしもとばななや村上春樹に代表される 80 年代のサブカ
ルチャー文学の世界化に併せて、日本のまんがやアニメーション、いわゆる「ジャパニメ
ーション」の世界化が関係している。(大塚、2009、p.5)大塚はこの「世界化」という世
の中の流れに疑問を持った。多くの人々は、日本のサブカルチャーが世界に届いたという
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事実イコール日本という国家そのものが世界レベルに届いた、グローバルスタンダードに
なったのだと何の疑いもなく信じ込んでいる。これは作家も含めて言えることであり、そ
の例として大塚は大江健三郎の主張を紹介している。大塚いわく、大江は世界でも有名な
作家、川端康成や村上春樹の作品を、前者が「日本の伝統や美意識に根ざしたもの」、後者
が「高度資本主義という世界の均一化に結びついたもの」として分類している。そして自
分自身は両者とも異なる、「西欧において成立した普遍的な価値に根ざしたものである」と
述べている。(大塚、2009、p.6)大塚はこれに対して、彼ら 3 人の文学が世界化した理由
は、それほど異質なものなのだろうかという疑問を持つ。(大塚、2009、p.7)実際、毎年
のようにノーベル賞の候補に上り西欧から様々な評価を得ているのは村上春樹であるし、
彼の翻訳版のカバーにはゲイシャガールといった日本的な要素が多く使われていることか
らも、この分類に普遍性があるとはいえないのではないかと大塚は主張している。(大塚、
2009、p.8)
一方、日本そのものが世界化したと人々が喜んでいる中で、大塚が唯一納得した理論が、
柄谷行人の「構造論」であるという。ここからは大塚の理論として構造論の話をするが、
それはもともと柄谷の考えの上に成り立っているということを理解して読み進めていくと
する。大塚が柄谷の意見に賛同した理由には、日本の素晴らしさが世界に届いたとはいっ
ても、実際には「日本文化や国力を少しも見出していない」という事実があるからだ。言
い換えると、確かに日本のまんがやアニメが世界でも親しまれるようになったが、実際に
外国人は日本の何を求めて受け入れているのか、外国に何が伝わっているのかということ
が、不問のままになっているというのだ。大塚曰く、構造以外のものが全く伝わらないわ
けではないが、言葉の通じない外国にすんなりと受け入れられるためには「届きやすさ」
が重要であり、その意味で「構造」は容易に伝わり得る世界共通の要素だという。(大塚、
2009、pp13、14)
ではいったい構造とはどういうものを指すのか、その流れを以下にまとめる。
第一幕 出立
Step1
冒険への召命
Step2 召命の辞退
Step3 超自然的なるものの援助
Step4 最初の境界の越境
Step5 鯨の胎内
第二幕 イニシエーション
Step1
試練への道
Step2 女神との遭遇
Step3 誘惑者としての女性
Step4 父親との一体化
Step5 神格化
4
Step6 終局の恩恵
第三幕 帰還
Step1
帰還の拒絶
Step2 呪的逃走
Step3 外界からの救出
Step4 帰路境界の越境
Step5 二つの世界の導師
Step6 生きる自由
(大塚、2009、pp60、61)
この連続から成る構造は、ジョセフ・キャンベルが『千の顔をもつ英雄』という本の中
で示した単一神話論と呼ばれているものであるという。大塚はこの構造にのっとって、「も
ののけ姫」を紹介している。まず一番始めのシーンで主人公のアシタカは腕にタタリ神の
呪いを受け、その呪いを解くために旅に出る。これがキャンベルの構造上第一幕の Step1
「冒険への召命」にあたる。またこの時受けた呪いは Step3 の「超自然的なるものの援助」
を意味する。その後アシタカは Step5「鯨の胎内」であるタタラ場に辿り着き、そこで第二
幕 Step2「女神(サン)との遭遇」を果たす。その後シシ神の首を取り戻すという難局を見
事切り抜け(第三幕 Step4「帰路境界の越境」)、最終的には森とタタラ場双方が生きる自由
を手にし、サンとも別々に生きる道を選択する。
(第三幕 Step6「生きる自由」)
(大塚、2009、
pp150、151)上記の通り、一連の流れはキャベルの単一神話論とかなり類似していること
が分かる。
他にも、「千と千尋の神隠し」などは、私なりに単一神話論にあてはめて検証してみると
一致する部分が多くあった。千尋が迷い込んだ油屋はまさに第一幕 Step5「鯨の胎内」を表
わしているし、第二幕 Step3「誘惑者としての女性」というのは恐らくカオナシを意味して
いるのではないか。カオナシはふとしたタイミングで登場し、千尋に向かって金を差し出
す。皆は我こそは金を手に入れようと必死になるが、千尋は絶対にその誘惑に動じないの
だ。千尋は自分のやるべきことだけを信じ、ボーイフレンドのハクを救出する。(第三幕
Step3「外界からの救出」)最後は湯婆場の前で見事に父母を判別し(第三幕 Step4「帰路
境界の越境」)、ハクとお別れして自分の本来の世界へと戻っていく。(第三幕 Step6「生き
る自由」)
このように、もののけ姫にしても千と千尋の神隠しにしても、キャンベルの単一神話論
に準拠している部分が多くあることが分かった。全ての Step が反映されているわけではな
いが、全体としての流れや結末はほぼ同じである。それぞれの映画の印象は全く違うにせ
よ、見終わった後の感動や充実感は、もしかしたら同じ要因から生まれているのだろうか。
この他、大塚と同じように構造の重要性を指摘している作家として、沼田やすひろを紹
介しようと思う。沼田は、自身が書いた本の監修者で、東京工科大学教授でもある金子満
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先生が見つけ出した理論「13 フェイズ構造」を引用し、
「対立、葛藤、変化」という三幕構
造の重要性を主張している。(沼田、2011、p.96)この三幕構造を以下にまとめる。
第一幕 対立
(0)背景
(1)日常
(2)事件
(3)決意
第二幕 葛藤
(4)苦境
(5)助け
(6)成長、工夫
(7)転換
(8)試練
(9)破滅
(10)契機
第三幕 変化
(11)対決
(12)排除
(13)満足
(沼田、2011、pp96,97)
沼田が紹介したこの理論においても、物語の構造は 3 幕構成になっている。しかしここ
で注目したいのは、第二幕「葛藤」の部分である。第二幕では、主人公が(4)苦境を乗り
越えた末に(6)成長を手にし、その後さらに(9)破滅にも及ぶ(8)試練を経験するとい
う。沼田いわく、この 1 回目の「成長葛藤」と二回目の「破滅葛藤」があるからこそ、ま
たその度に主人公が大きな決断をするからこそ((3)決意(10)契機)物語は面白くなる
という。この「主人公が二度も壁にぶつかる」という物語構造は、単一神話論の第一幕 Step4
「最初の境界の越境」と、第三幕 Step3「外界からの救出」Step4「帰路境界の越境」と重
なっているといえる。その他に、第二幕(5)助けという項目も、単一神話論でいうところ
の第一幕 Step3「超自然的なるものの援助」や第二幕 Step2「女神との遭遇」と通じている。
このように、ジョセフの単一神話論も沼田が紹介する 13 フェイズ構造も、各段階の言い回
しは違うにせよ、全体的な構成は同じであると判断できる。
ここまでで、物語がある一定の構造を持って成り立っているのだということは十分納得
出来た。始めは偏っていると感じた大塚の理論だが、物語における「構造」の重要性を少
しでも理解してもらえただろうか。
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2 - 2 キ ャ ラ ク タ ー 論 に つ い て
ここで、大塚英志とは対照的な理論として東浩紀の考えを紹介したい。彼は、現代社会
に生きる「オタク」達に焦点を当てることによって、日本におけるサブカルチャー(本書
では「オタク系文化」と呼ぶ:
『動物化するポストモダン』、p.8 )がいかに私達の時代(ポ
ストモダン)と深く結びついているのかを解き明かしている。
まずここで筆者の考えに沿って、「オタク」の定義を述べておくと、「オタクとは、コミ
ック、アニメ、ゲーム、パーソナル・コンピュータ、SF、特撮、フィギュアそのほか、た
がいに深く結びついた一群のサブカルチャーに耽溺する人々の総称」ということになる。
(東、2001、p.8 )私達が実際に「オタク」という言葉から連想するものよりも、もっと
広い意味でこの言葉が使われていることを頭に入れておくとしよう。本書では、オタクが
どのような変遷を経て今に至っているのか、またオタク文化の源流は実はアメリカであっ
たことなど、オタクそのものの特徴についても数多くの例を用いて説明されている。しか
し私が取り上げたいのは、オタクの行動様式をもとに考察した、キャラクターという一要
素が人々に与える影響についてである。そこで重要になるキーワードが「二次創作」と「シ
ミュラークル」という言葉である。二次創作とは、「原作のマンガ、アニメ、ゲームをおも
に性的に読み替えて制作され、売買される同人誌や同人ゲーム、同人フィギュアなどの総
称」である。またシミュラークルとは、ポストモダンの社会において、作品や商品のオリ
ジナルとコピーの区別が弱くなり、どちらにも属さない中間形態のことを指す。
(東、2001、
pp40、41)これを噛み砕いて表現すると、二次創作とはつまり物語とは関係のない要素の
ことで、シミュラークルとはオリジナルにもコピーにもなりきれない属性が不明確な産物
と言える。この二つの言葉を理解するためにも、本書で例として紹介されているアニメ、
「エ
ヴァンゲリオン」について詳しく取り挙げようと思う。
当アニメは、近未来の戦闘に巻き込まれる少年を主人公とした SF アニメであり、90 年
代以降に主人公と近い世代から支持を受けて社会的な話題作となった。(東、2001、p.59)
現代においても、エヴァンゲリオンと聞いて全く馴染みのない人はほぼいないであろう。
それにしても、エヴァンゲリオンがここまで有名になった理由はどこにあるのだろうか。
それについて東は、90 年代に起こったメディアミックスの流れが関係していると考察して
いる。
(東、2001、p.71)メディアミックスとはその名の通り、一つに限定せず多くのメデ
ィア(CM、チラシ、関連商品販売 etc)を利用して作品を売り出す広告手法のことを指す。
90 年代はこの流れが顕著であった。この時代背景を前提にしてエヴァンゲリオンについて
考えてみると、確かに当作品ではアニメに限らず数々の場面で綾波レイというキャラクタ
ーを発見できることが分かる。それはゲームセンターで見かけるポスターであったり、お
菓子のパッケージであったり、店頭に並ぶフィギュアであったりと様々である。これらす
べてが先ほど述べた「二次創作」にあたる。また同じ SF アニメの「機動戦士ガンダム」が
次々と続編が作られている一方で、エヴァンゲリオンにおいては作られる予定すらないと
7
いうことからも、物語に関してはあまり重要視されていないことが分かる。
(東、2001、p.60)
このようにエヴァンゲリオンでは二次創作ばかりが先行し、そこには「次回アニメの展開」
や「今までと違ったストーリー」など物語に対する期待はそっちのけである。むしろ、「視
聴者のだれもが勝手に感情移入し、それぞれ都合のよい物語を読み込むことのできる、物
語なしの情報の集合体」であると東は述べている。(東、2001、pp61、62)物語<二次創
作(キャラクター)の関係が成り立つのである。メディアミックスにおいては、様々なメ
ディアが入り組んでいるため原作の地位が不明確なままで、様々なタイプの企画が同時に
進行する。したがって、そのような沢山の企画をまとめることが出来るのは原作者の作家
性でもメッセージでもなく、そこに共通して現れる作品世界とキャラクター、極端に言え
ばキャラクターだけである。(東、2001、p.71)
果たしてそれだけで、消費者であるオタク達は満足するのであろうかと疑問に思う。し
かしそれが逆に、彼らの心をつかむ一般的戦略となっているのには驚きだ。というのも、
キャラクターにはそれぞれ「萌え要素」というものがあり、それをうまく取り入れること
によってオタク達の好感度をより一層高めることができる。例えば、最近の流行りで言う
とメイド服や猫耳、大きな手足などがそれにあたる。
(東、2001、p.66)エヴァンゲリオン
の人気キャラクター綾波レイにおいても、この萌え要素が沢山使われているからこそ、二
次創作的な売り出しが可能なのである。またキャラクターはその時々に人気の萌え要素に
よって変化するため、オタク達にとってはキャラクターがオリジナルだろうがコピーだろ
うが関係ない。いかに彼らの心を刺激できる要素があるかが重要なのである。このように、
オリジナルでもコピーでもない、いわゆるシミュラークルが出回り、それに人々が魅了さ
れる時代が現在なのである。もはや一つ一つの作品の裏に、物語など存在しない。
「90 年代
のメディアミックス環境においては、それら多様な作品や商品をまとめあげるものはキャ
ラクターしかない」、そう言い切った東の考えを、国民的アニメへと成長したエヴァンゲリ
オンを通じて少しでも理解して貰えたら幸いである。(東、2001、pp76、77)
2 - 3 ア リ エ ッ テ ィ か ら 考 え る 仮 説
ここまでで、大塚と東双方の理論を紹介してきた。両者正反対の理論ではあるが、それ
ぞれに納得するポイントがあるためどちらが有力かは現時点では判断し兼ねる。そこで、
スタジオジブリ作品の中でも割と新しい「借りぐらしのアリエッティ」を例に、主観的な
判断ではあるが自分なりの仮説を立てておきたいと思う。当作品を選んだ理由は二つある。
一つには、上述したように公開が 2010 年と比較的新しい作品であること。公平性を持って
判断するためには、あらかじめ先入観を持っていないまっさらの作品が良いと考えた。二
つ目には、アリエッティという独特のキャラクターが使われていることにある。作品の中
でアリエッティはどんな役割を担っているのか、またスタジオジブリのキャラクターに共
通する「萌え要素」はいったい何なのかといった視点からも考察を進めたい。勿論物語構
8
造についても、まったく馴染みのない作品だからこそ、一から大塚の理論にあてはめて読
み解いていけるのではないかと考えた。
ではここからは実際に、アリエッティを見てみて感じたことを論じようと思う。見終わ
った後の感想を一言で述べるならば、「物足りない」である。とはいえ、まずは良かった点
から話をしようと思う。第一に、映像の美しさに魅了された。この映画はほとんど全ての
シーンが森の中という設定であるが、葉っぱにしたたる雫のみずみずしさや雨上がりの晴
れた空、暗闇を照らす温かみあるランプの灯りなど、一つ一つの細かい描写が実に美しか
った。それは今までのジブリ作品にも共通していえることだが、当作品では特に「自然」
の美しさが色濃く表現されていたように思う。またその中で暮らすバッタや団子虫などの
虫たちの動きが非常にリアルで、虫嫌いの私は見ているだけで鳥肌が立ってしまうほどで
あった。第二に、人の動きや家の中の様子など、かなり細かい部分までこだわって描かれ
ていることである。小人であるアリエッティは、家を探検する際に柱に打たれている釘を
階段がわりにしていたり、高い所に登る時は足の裏に粘着性のあるシートを貼って這い上
がったりと、体が小さいながらに工夫して暮らす様子はとても興味深かった。つい最近「天
空の城ラピュタ」を見たばかりであるが、この「細部までのこだわり」というのは、年月
を経たということもあって当作品の方が上回っていると感じた。以上良かった点二つをひ
っくるめて言うと、「現実との対比から生まれる面白み」と言い換えることが出来る。映像
にしても生き物たちの動きにしても、自分達の暮らしと似ている部分が多くあって、見て
いてとても親近感がわいた。それは、小人という視点を軸に人間達の暮らしを客観的に描
いているからだと思う。このまさに「リアル」な世界観が、当作品の面白さだと言えるの
ではないだろうか。
一方で、これ程までにリアルな世界観に惹かれたにも関わらず、なぜ最終的には「物足
りない」と感じてしまったのか。その理由を、先行研究で取り上げた大塚と東二人の理論
に則して考えようと思う。
まずは大塚の物語構造についてである。第一幕の Step1「冒険への召命」、Step2「召命
の辞退」という部分は、アリエッティが初めての借りに行くが、人間に見つかってしまい
断念するという流れと一致している。Step5「鯨の胎内」も、恐らくアリエッティの家にあ
たるのであろう。またアリエッティと少年翔の出会いを通じて、第二幕の Step2「女神との
遭遇」という要素もちゃんと表現している。映画のクライマックスでは、アリエッティと
少年それぞれが別々の道を歩むというまさしく第三幕 step6「生きる自由」的な終わり方を
するので、一見構造上は何の問題もないように感じる。ではこの物足りなさはいったいど
こから来るのか。それは、第一幕の Step4「最初の境界の越境」、第三幕の Step3「外界か
らの救出」、Step4「帰路境界の越境」が依然として感動に欠けるからだと考えた。感動以
前に、アリエッティは初めての借りに失敗したのだから「最初の境界の越境」はしていな
い。その後アリエッティは人間によって暮らしを破壊されかけ、我が母を助けるために人
間界に飛び込むという試練を迎えるが、それも少年の援助があってこそ解決する。母の居
9
場所も少年が教えてくれたから分かったわけで、むしろ少年の手柄5割といったところで
はないだろうか。例えば、国内興業収入トップの「千と千尋の神隠し」と比べると、アリ
エッティの試練の軽さはより一層浮き彫りになる。千尋は「最初の境界の越境」というこ
とで、河の神に最高の御もてなしをすることであらためて油屋の住民から信頼を得る。こ
の時は周りの助けがあった。しかし、クライマックスでは自分一人の意志と決断によって
ハクを助け出し、父と母もちゃんと探し当てることが出来ている。千尋は油屋での経験を
通じて、ぐっと強い女性になれたと思う。これと比較してアリエッティはどうであろうか。
確かに試練がなかったわけではないが、どうしてもアリエッティの試練への関わり度合が
低かったように感じてしまう。実際、アリエッティの大きな決断といえば、母を助けるた
めに人間である少年の力を借りようと決めたことくらいではないか。この試練を通じてア
リエッティが大きく変化したかというとそうでもなく、むしろ最初と最後で何も変わって
いないと感じてしまった。たとえ単一神話論の構造と重なる部分があっても、「主人公自身
の成長」という要素が希薄であれば、物語には物足りなさが残るということが分かった。
続いて東のキャラクター論の視点から話を進めたい。東が述べていたキャラクターの「萌
え要素」のように、スタジオジブリの主人公においてはどんな共通点があるのか考えてみ
たところ、4 つ挙がった。
①女性
②素直で前向き
③勇敢
④人とは違う感性がある
まず①の「女性」についてだが、ジブリ作品は基本的にほとんどの作品が 10~20 代の若
い女性を主人公にしている。中には「もののけ姫」や「火垂るの墓」のように男の子が主
人公の作品もあるが、その中でも必ず女性がキーパーソンとなっており、物語の展開に大
きな影響を及ぼす。また②と③の「素直で前向き」、「勇敢」とはまさにその通りで、皆一
度はくじけそうになっても絶対に自分の力で立ち上がり、もとの明るくて強い本来の自分
に戻っていく。例えば「魔女の宅急便」で、主人公キキが魔法の力が弱まり箒で飛べなく
なっても、大切なものを守るためなら危険を冒してまで自力で力を取り戻すあたりは実に
ジブリらしい。また④の「人とは違う感性」とは、「となりのトトロ」に出てくるメイちゃ
ん、「耳をすませば」のしずくを思い浮かべてほしい。メイちゃんは非常に好奇心旺盛で、
小トトロを見つけるやいなや恐れること無く後を追い、トトロと出会った。しかしトトロ
は決して普遍的な存在ではなく、選ばれし人しか出会うことが出来ない。メイちゃんはそ
の権利を得た特別な存在なのである。またしずくは一見普通の少女だが、彼女にはものを
見極める特別な才能があると思う。それは後に彼女が物語を書くためにもとても重要な才
能であるが、アンティークショップ「地球屋」で猫の人形、フンベルト男爵に惹かれるあ
たりはまさしくその才能が開花したといえる。このようにジブリに出てくる主人公達には、
キャラクターは違うにせよ何かしら共通点がある。
10
ではこれら 4 つの特徴が、はたしてアリエッティにもあてはまるのか検証してみる。ま
ず①の「女性」はその通りである。続いて②の「素直で前向き」だが、両親に従順で家族
思い、また人間にばれてしまったという過ちを悔みつつも、自分の力でそれを解決しよう
とするあたりは前向きであり、③の「勇敢」にもあてはまる。最後に④「人とは違う感性」
については、アリエッティが初めて借りに行った際に、ありとあらゆるものに興味を抱い
ていたことや、人間を怖がるのではなくむしろ彼らに惹かれてしまった点からも、他の借
りぐらしの民族とは性質が異なることが覗える。以上 4 つの特徴が、全てアリエッティに
も共通していることが分かった。つまり、東のキャラクター論における萌え要素の観点か
ら考察すると、当作品が一概に他のジブリ作品より劣っているとは言えないことになる。
そうなると、焦点があたるのは大塚の構造論である。前述したように、アリエッティにお
いては主人公本人が解決すべき課題や試練が少なく、その内容もそれほど重くない。ここ
で初めて、映画「借りぐらしのアリエッティ」に関して、物足りなさを生みだしている要
因は構造であると言うことが出来そうだ。
さて、ここからは少し視点を変えて、キャラクター論の中でも先に説明した二次創作に
ついて話をしようと思う。キャラクターの魅力を考察するには、一つの作品を吟味したと
ころで十分とは言えないからである。そこで参考になったのが、三鷹の森ジブリ美術館で
ある。ここにはジブリの世界観が全て詰め込まれていると言っても過言ではなく、開館か
ら 10 年がたった今でも土日は予約でいっぱいである。私は、ここならきっと新たな発見が
得られるのではないかと思い、実際に美術館に行ってみた。
美術館にはジブリのありとあらゆるキャラクターが随所に使われているが、グッズショ
ップに行った時には驚いた。売られている商品のほとんどがトトロ、ネコバス、ジジに関
するもので、店のおよそ 5 割を占めていたと思われる。その中でもストラップやキーホル
ダー、ハンカチやお菓子が人気であった。確かに、その他のキャラクターグッズが全くな
かったわけではない。カオナシの置物もあれば、各作品のポストカードもあったし、アリ
エッティのマスコットも売られていた。しかし、皆がレジまで持っていくのはほぼ上記の 3
つのキャラクター、その中でもトトロがモチーフのものばかりなのである。アリエッティ
のマスコットに限っては、友達二人組で来ていた 10~20 代の若い女性が、かわいくないと
まで言い放った。なぜこのように偏りがあるのか店員さんに伺ってみたところ、やはり小
さい子供から大人まで親しみやすく、お土産品として気楽に手に取れるキャラクターが増
やしやすいと言っていた。顧客はここなら何でもあると思って来るらしいが、当館のコン
セプト的には美術館のためのグッズ、つまりはここにしかないオリジナリティ溢れるグッ
ズ(お菓子や絵画などの手のこんだ国産品)を揃えたいとのことであった。しかし、世界
各国からお客様が来るからこそ、誰が見ても分かり易いキャラクターが多くなるのだそう
だ。またアリエッティに関しては商品化が難しく、現在はまだ露出はあまりしたくない状
態だという。なるほど、やはり販売しやすく商品化も簡単なグッズとそうでないグッズに
はっきり分かれるということであった。
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他にも興味深かったのが、もののけ姫や千と千尋の神隠し、ハウルの動く城のような作
品に関しては、ショップではなくギャラリー展示で用いられていたことである。特別展示
ということでヤックルが森の中に佇んでいたり、千尋の父母がブタになるシーンで使われ
た屋台がリアルに表現されていた。またソフィの家にある裁縫机もとてもかわいらしくて、
まるで映画の世界に入り込んだような気持ちになった。要するに、ジブリにおいて二次創
作が多く作られているのはトトロやジジのようなかわいらしいキャラクターに限定されて
おり、国内興業収入でトップ 10 に入るような作品については、世界観そのものに浸れるよ
うなアプローチがなされているのである。そこにはキャラクター押しなど存在しない。ジ
ブリにおける人気映画は、必ずしも二次創作的な手法はとっていないのである。つまり、
キャラクターの魅力で人気を集めているわけではないのだと言える。
以上のことを踏まえると、「スタジオジブリにおいて、面白さを生み出すためにより重要
なのは構造である。」、これを本論文の仮説とする。次章からは、この仮説が正しいのか否
か、インタビューをもとに考察していく。
第 三 章 イ ン タ ビ ュ ー か ら 読 み 解 く 、 面 白 さ を 生 む 要 素
3 - 1 イ ン タ ビ ュ ー の 方 法 と そ の 対 象
前章までで、スタジオジブリの面白さを生み出す要素について「構造」と「キャラクタ
ーの魅力」の二点に分類して話を進めてきた。そして本章では、両者の有効性について調
査するためにデプスインタビューを実施した。
デプスインタビューとは、「調査対象者を 1~2 名に絞り、グループでは聞きにくいよう
なより詳細な内容について質問・回答してもらうインタビューである。」
(山本、2012、p.4)
これは対象者の行動や動機の要因となっている潜在意識を、時間をかけて解き明かそうと
するもので、別名「深層面接法」とも呼ばれている。深層心理を聞き出すのだから、対象
者との信頼関係が何よりも重要になるのだ。
(近藤、小田、2004、p.53)またデプスインタ
ビューには次のような利点がある。一つには、対象者の「本音」が聞き出しやすいこと。
そして二つ目には、適宜質問内容を変えられるため、回答の裏にある因果関係がとらえや
すいことである。反対に欠点としては、一人一人に時間がかかるため量的データが得にく
いことなどが挙げられる。(江尻、斉藤、1978、pp78、79)ただし、今回のインタビュー
では、被験者がジブリに何を求めているのかを深く知ることが目的であるため、あえて一
般的調査法であるグループインタビューは避け、個人インタビューを行った。
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3 - 2 イ ン タ ビ ュ ー 内 容
インタビューに際して、どの対象者にも共通して質問した項目は以下の 8 つである。デ
プスインタビューはフォーマットが確定していないというのが特徴なので、その他の質問
は回答者の返答によって臨機応変に決めていった。
1、今まで見たジブリ作品
2、なぜそれらの作品を見たのか、見ようと思ったのか。(見るに至った経緯)
3、その中でも面白いと評価している作品は何か。またそれはなぜか。
4、反対につまらないと感じた作品はあるか。またそれはなぜか。
5、見ていない作品に関して、なぜ見ようと思わなかったのか。
6、ジブリグッズと映画の DVD だったらどちらが欲しいか。またそれはなぜか。
7、今後もジブリ作品の公開が決定したら見に行きたいと思うか。
8、スタジオジブリの魅力を一言でいうならば何か。
今回は、被験者にはあえて「構造」や「キャラクター」といったキーワードを使わずに
インタビューを行った。そうすることで、被験者が本当に面白いと感じている部分や求め
ているものについて、彼らの言葉の一つ一つから汲み取ることができると考えたからであ
る。その他なるべく「なぜ」を文頭に置いた質問を繰り返すことで、答え易い雰囲気作り、
また被験者の深層心理を読み解くことに努めた。
3 - 3 イ ン タ ビ ュ ー 結 果
①23 歳男性
今まで見たジブリ作品
風の谷のナウシカ
天空の城ラピュタ
となりのトトロ
火垂るの墓
魔女の宅急便
紅の豚
平成狸合戦ぽんぽこ
耳をすませば
もののけ姫
千と千尋の神隠し
ハウルの動く城
コクリコ坂から
まず各作品を見るに至った経緯を聞いてみた。「風の谷のナウシカ」、「となりのトトロ」、
「天空の城ラピュタ」の 3 つは、物心がつく前に家族と一緒に見たという。この時に、
「ジ
ブリって面白いのだ!!凄いのだ!」というざっくりとしたイメージがついたそうである。
これ以降の作品は、「絶対面白い」というイメージのもと、ジブリの「ブランド」や「世界
観」に惹かれて見に行ったとのこと。その世界観とは、空に浮かぶ城や箒で空を飛ぶ少女、
千と千尋に出てくる油屋や雄大な自然、街並みなど、大人も子供楽しめるテーマや、背景
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そのものだという。
また彼が最も面白いと評価する作品は、「天空の城ラピュタ」である。あくまでもシンプ
ルな冒険のストーリーで、幼少時代に見ても分かりやすかったそうだ。世界観の観点から
いうと、前述したとおり、出てくる景色や天空の城の壮大感、またロボット兵というオリ
ジナリティ溢れるキャラクターが、作品のカラーになっているとのこと。その他にお気に
入りのシーンもいくつか教えて貰った。一つ目には、始めは敵だった海賊たちが最終的に
は味方になり、力を合わせてボスを倒すシーン。二つ目には、初めて天空の城が出てきた
際に、今まで忙しなかった空気が一気にゆったりと静かになるシーンである。二つ目のシ
ーンによって、ラピュタの神秘性や貴重性がかなり伝わってきたという。
反対につまらないと思う作品は「ハウルの動く城」で、一言でいえば、映画の結末に拍
子抜けしたという。ずっと敵対していたはずのサリマンが急に気持ちを改め、最終的には
皆がハッピーで終わるという結末のせいで、緊迫していたシリアスな空気が一気にどこか
へ行ってしまったとのこと。それと比較して、従来の作品はもっと現実味があったという。
例えば、もののけ姫でいうと烏帽子様は片腕をなくし、町もボロボロになる。同じく天空
の城ラピュタも、城の約半分は崩壊した。ジブリにおいては確かにハッピーエンドで終わ
ることが多いが、それでいて何か失うものがあるからこそ、手に入れた幸せがリアルに伝
わってくるのだという。当作品ではそのような犠牲やシリアス感が欠けていると言ってい
た。
その他見ていない作品に関して、なぜ見に行かなかったのか伺ったところ、「ホーホケキ
ョとなりの山田くん」や「おもひでぽろぽろ」、「猫の恩返し」などは、現実的な世界観や
日常風景がテーマだと思ったのであまり魅力を感じなかったという。見たことのない怪獣
や海原など、ジブリワールドでしか知り得ない景色にこそ惹かれる、このジブリワールド
こそ、皆が求める共通の感情ではないかと言っていた。とは言っても、コクリコ坂も日常
的な風景だと思うが、なぜ見に行ったのか聞いてみた。すると、この作品においては完全
にポスターとテーマ曲という広告宣伝に魅了されて見に行ったとのこと。懐かしさ漂うテ
ーマ曲や、ポスターのどこかジブリっぽくないあたりに惹かれたように、一度心にぐっと
きた作品に関しては見に行きたくなるそうだ。見た後の感想としては、賛否両論はありそ
うな作品だが、個人的には好きだという。それも、純粋な恋愛ものという意味では確かに
ジブリっぽくないので、従来の作品とは別枠として考えたとのこと。見ていてほんわかし
た気分になったが、別にジブリにわくわくだけを求めているわけではないのでそれはそれ
で良かったという。
続いて DVD とジブリグッズ、同じだけお金をかけるとしたらどちらを選ぶか尋ねると、
いつでもジブリワールドに浸ることが出来る DVD だと言っていた。もしもキャラクターグ
ッズを買うとしたら中トトロ、バロン、こだまに関するもので、特に中トトロは大好きで
あのまん丸いフォルムに惹かれるらしい。
また今後も公開作品があれば見に行くかという質問に対しては、「正直作品による」とい
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う回答であった。CM やポスター、雑誌のインタビューなどで印象に残れば見に行くが、そ
もそも描いてほしい作品はもののけ姫や千と千尋の神隠しのように、誰も知らない世界だ
という。ちょっと SF チックな作品にこそ期待してしまうと言っていた。
最後に、ジブリの魅力を自由に語って貰った。前述したとおり、彼にとっての魅力とは、
誰も知らなかった世界、いわゆるジブリワールドそのものである。それを作り出している
のは、何も映像だけではないという。一つには、久石譲の音楽がある。どの作品にもそれ
ぞれぴったりのテーマ曲があり、その音楽を聴くだけで映画の名シーンを思い出す事がで
きるらしい。二つ目には、キャラクターそのものだという。キャラクターは必ずしも強か
ったり、超人的能力を持っている訳ではなく、むしろいつだって等身大でリアリティを残
している。そのように自分達と近い部分があるからこそ共感することができ、感動も生ま
れる。これら二つの魅力は、スタジオジブリ全作品に共通していえることだと言っていた。
②27 歳女性
今まで見たジブリ作品に関して、彼女はかなりのジブリファンなので「ホーホケキョと
なりの山田くん」、「猫の恩返し」、「崖の上のポニョ」、「コクリコ坂から」以外はすべて見
ことがあるとのこと。幼少時代から両親共にジブリ好きであったため、気づいたら見たこ
とがあったという作品ばかりらしい。また親の影響もあってか昔からジブリがこよなく好
きで、テレビで放送されたら必ず見るため「借りぐらしのアリエッティ」もこないだの放
映でチェックしたそうだ。
そんなジブリオタクの彼女が面白いと思う作品ということで、「魔女の宅急便」と「千と
千尋の神隠し」を挙げてくれた。まず魔女の宅急便の面白さを尋ねたところ、出てくる街
並みや生活感が大好きだと言っていた。ジブリに出てくる食べ物はどれも美味しそうに見
えるが、特に魔女の宅急便では黒猫ジジがスープをすする様子やパンの焼きたてな感じが
たまらないらしい。その他クライマックスのシーンでは緊迫感を出すために一度音が途切
れるなど、結末が分かっていても毎回息を飲んでしまうと言っていた。また千と千尋の神
隠しも好きすぎて、映画館に 3 度も足を運んだという。特殊な舞台設定や両親がブタにな
る等の意外性に惹きこまれる一方で、千が一人でひたむきに頑張る様子を見る度に共に涙
したという。その他千尋が湯婆婆の姉銭婆と別れる時の絵が実に感動的で、印象に残って
いる様子であった。話が分かっているのになぜ同じ作品を見たくなるのか尋ねると、幼い
時と今とで違う見方が出来るからだと言った。昔は気がつかなかった主人公の紳士さにと
きめいたり、実際だったら明らかに事故だろう!とつっこみたくなるようなシーンで笑え
るなど、新たな発見がいっぱいあるからこそ面白いのだという。
反対に彼女が考えるつまらない作品とは、今まで見たことがない作品、つまり魅力を感
じず見ないで終わった作品である。まずゲド戦記はテレビで少し見たが、見ていても内容
が難しくてよく分からず、面白くないので見るのをやめたそうだ。もののけ姫的な世界を
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表現したいのか疑問に思ったらしい。その他にも崖の上のポニョはあまりにも子供っぽく
てわくわくしなかったし、かわいい系には全く興味がないとのこと。コクリコ坂も予告を
見ても暗そうな感じがした上に、現実的な雰囲気でファンタジー要素がなさすぎるので惹
かれなかったそうだ。現実的なものだったら何もジブリでなくても良いと言っていた。
また今まで見た作品で意外な展開、結末だと感じたものはあるかどうか聞いたところ、
借りぐらしのアリエッティ、魔女の宅急便、千と千尋の神隠し、もののけ姫について語っ
てくれた。まずアリエッティに関してだが、最終的に人間と共存していくのかと期待して
いたのに結局和解出来ずに終わるのにはがっかりしたそうで、小人の話とはいえど規模が
小さく感じたとのこと。また魔女の宅急便では、途中でキキの魔法が弱まりジジの話す言
葉が分からなくなってしまう。しかし、たとえ魔法の力が戻ってもジジは喋らず、おまけ
にキキも箒ではなくデッキブラシに乗ったまま映画は終わる。一見ハッピーエンドに思え
るが、その割に寂しさが残ったという。続いて千と千尋の神隠しについて。当作品は彼女
が大好きな映画ではあるが、これも同じく見ていてもやもや感が残ったとのこと。それは、
千が行きと帰りの二度に渡ってトンネルをくぐる際に、どちらも母親の手にがっちりとし
がみついていたことが要因である。あれだけの冒険をしたのだから帰りはもっと力強く自
分で歩けばいいのに、行きと同じように不安そうな顔を浮かべて母親にすがる姿はなんだ
か頼りなかった。そのせいで、まるで本当にすべて夢だったように思えてしまい、壮絶な
冒険の意義がよく分からなくなったと言っていた。最後にもののけ姫についてだが、これ
はキャラクターの行動に対する不満である。主人公アシタカは故郷の村を発つ際に、妹分
のカヤから石のお守りを授かるが、その大切な石をあっさりとサンに渡してしまう。また
クライマックスで全てが解決した後も、皆が待つ村に帰ればいいのにタタラ場で生きる道
を選んだのには納得いかなかったらしい。その他「ハウルの動く城」についても、なぜ主
人公のソフィーが時々少女の姿に戻るのか、そもそもなぜ物語が解決したのかさえよく理
解出来ずに終わったと言っていた。
続いて DVD or ジブリグッズという質問に関しては、DVD やサウンドトラックは持っ
ておきたいと思うが、ジブリグッズは特に持っていないとの回答だった。持っていても特
に使わないと思うらしい。反対にサウンドトラックは、普段聞くわけではないが全部持っ
ていると聞き驚いた。ジブリ美術館にも行ったことがあると言っていたのでグッズが欲し
くならなかったのか聞いてみると、ジブリ美術館に行っても結構高いし他でも買えると思
うと特に買う気にならなかったとのこと。物を買うことよりも背景画を見る方が好きなの
で、絵を眺めに美術館に行くこともあるそうだ。
続く質問は今後どんな作品が公開されれば見に行くかということで、前述したようにも
っとファンタジー要素が強い作品を作ってほしいとのことだった。現実的な世界も良いけ
れど、求めるのはアニメーションだからこそ出来る世界だという。
最後にジブリの魅力とは何かを尋ねると、「同心に帰れること」だと言った。何回見ても
そのたびに同じわくわくや感動を得られたり、子供の時から見てきたからこそ一緒に成長
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してきた感覚があるという。また何度見ても飽きないのは、前述したように違う見方が出
来るようになったからという理由の他に、ジブリでは毎回考えさせる要素を残したまま終
わるからではないかと言っていた。どこかふわっとした曖昧な部分があるからこそ、気に
なってもう一度見てみたいと思うのかもしれないということであった。
③54 歳女性
今まで見たジブリ作品
天空の城ラピュタ
となりのトトロ
火垂るの墓
魔女の宅急便
平成狸合戦ぽんぽこ
耳をすませば
もののけ姫
千と千尋の神隠し
まずは見るに至った経緯ということで、一番始めにテレビで見たジブリ作品が「となり
のトトロ」だという。この作品を見た時に、ジブリの映像、物語の内容に惹かれ、「ジブリ
=面白い」というイメージが出来上がったそうだ。それ以来、この作品が彼女にとってジ
ブリの原点であるという。となりのトトロは比較的ストーリーも単純だがそのように感じ
なかったのか尋ねたところ、そうは思わず、ネコバスが迎えに来て一緒にメイちゃんを探
しに行くシーンは純粋に感動したと言っていた。その後の作品に関しても、宮崎駿が描く
画像をぜひまた見たいという思いのもと、テレビでやる度に子供と一緒に見ていたそうだ。
続いて、彼女が今までで一番面白いと思った作品は、「もののけ姫」だという。この作品
を映画館で見た時の衝撃は、今までにないものがあったそうだ。その面白さはまさに、森
や川など自然のリアルな描写だと言っていた。内容は決して現実的ではないが、千と千尋
の神隠しに比べると、登場人物にしても物語の舞台にしてもどこかリアル感が漂っている
という。見たことはない世界だけれど、自然とタタラ場はもしかしたら実在したのかもし
れないと想像を膨らませることができ、昔話的な気分で楽しめたとのこと。
反対につまらないと思う作品は「平成狸合戦ぽんぽこ」で、映画館で見たものの記憶に
もあまり残っていないという。まるでおとぎ話のような感じだったので、特にわくわくし
たり感情が高ぶることもなかったらしい。同じように団地の話で「耳をすませば」につい
て聞いてみたところ、非常に現実的な話でストーリーも普通だが、アニメなのに絵(団地
や背景全て)がよく出来ているなぁと感心し、それだけで見ていて面白かったという。
また彼女は最近の作品はほぼ見ていなかったのでなぜか伺ったところ、「崖の上のポニョ」
にしても「借りぐらしのアリエッティ」にしても、まさにお子様向けのアニメという印象
があり、主人公自体もアニメちっくなため全く惹かれなかったそうだ。ただし「コクリコ
坂から」は、世代的にも近く懐かしい映像に期待して見たいと思ったが、予定が合わず見
に行けなかったとのこと。
グッズか DVD かという質問に対しては、トトロは大好きだがグッズまでは欲しいと思わ
ないという回答であった。唯一欲しいとしたらサントラで、家や車の中で聞いてジブリの
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雰囲気に浸りたいと言っていた。
続いて今後どんな作品を作ってほしいか聞いたところ、あまりに架空の世界よりも現実
の何気ない世界に夢や感動がある作品を描いてほしいそうで、THE ファンタジーというよ
うな作品はもういいかなと言っていた。もののけ姫は確かにその時最高に面白かったが、
今は少し趣向が変わって、昭和の始めの頃のような古き良き時代の映像、言ってみれば映
画「ALWAYS 三丁目の夕日」的な作品のアニメ版が見てみたいとのこと。
「コクリコ坂から」
に惹かれたように今はわくわくよりもほのぼのとした気持ちになりたいので、自分の生ま
れ育った時代をジブリの絵で描いてほしいということであった。
最後にジブリの魅力とは何か尋ねると、やはり彼女にとっては映像であった。それも、
人は皆同じに見えるので自然の映像が見ていて何より楽しいとのこと。アニメというより
も実写を見ている感覚で、それに音楽の相乗効果が合わさって彼女にとってのジブリワー
ルドが出来上がっているのだそうだ。
④22 歳女性
彼女もかなりのジブリ好きで、「おもひでぽろぽろ」、「猫の恩返し」以外は全て見たこと
があるとのこと。となりのトトロは家にビデオがあり、母がジブリ好きであったためテレ
ビでもよく見ていたそうだ。ジブリの存在、面白さに気づいたのは映画でもののけ姫を見
てからだそうで、それまではジブリとディズニーの区別さえ出来なかったらしい。また借
りぐらしのアリエッティに関しては、CM を見て気になっていたところ期間限定でアリエッ
ティ展がやっていることを知り、ますます興味が湧いて両方見に行ったとのこと。
そんな彼女が群を抜いて面白いと思ったのは「もののけ姫」らしく、小学生ながらに衝
撃を受けたそうだ。この作品の面白さは、アニメだけれどただのヒーローものではないと
ころにあるという。森に生きるサン達とタタラ場で生きる人間、どちらも自分達が正しい
と思っているが実は双方に間違っている部分があって、ただお互い生きるために必死であ
る。主人公のアシタカはどちらかの味方につくわけでもなければ、良い方が悪い方をやっ
つけるという単純な話でもない。そんな奥深さに、今までのアニメとの違いを感じたとい
う。
反対につまらなかった作品が「ゲド戦記」と「紅の豚」ということで、まずはゲド戦記
から述べる。この作品に関しては、CM を見る限り壮大っぽい雰囲気にかなり期待して見に
行ったらしいが、テーマが深い割に(主人公の自分の弱い部分との葛藤)最後までよく分
からないことが多かったという。例えば龍が何の意味をさしているのかや、なぜ父親を殺
そうとしたのかなど、いくら視聴者に考えさせるにしてもヒントが少なすぎるそうだ。物
語というのは始めに生じた謎が後半に向かうにつれ解決して終わるからこそ面白いはずな
のに、当作品では反対にぼやかしていることが強調されて終わる。それにも関わらず主人
公達は感動しており、一見すっきりしたようにまとめられているということで、冒険もの
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が好きな彼女でも見終わった後にもやもやが残ったという。その他紅の豚については、マ
ルコが豚から人間に戻るところが見たかったのに戻ったのかどうかさえよく分からなかっ
たということで、腑に落ちずに終わったそうだ。
またほとんどの作品を見た彼女でも見なかった作品「猫の恩返し」について尋ねると、
絵が少女漫画っぽくて宮崎さんらしくなかったし、CM で大体ストーリーが想像できてしま
ったと言っていた。(女子高生のドタバタもの、猫と結婚させられそうになって…etc)
続いてグッズと DVD どちらを選ぶか聞いてみると、迷いつつも DVD と答えた。グッズ
よりも作品を見ることの方が好きで、小さい頃からずっと見てきたため幼少時代の思い出
が蘇るという。また同じ作品でも新たに気づくことがあるかもしれないと言っていた。
最後に、彼女が今後期待する作品は、もののけ姫みたいにちょっとテーマは重いけれど
戦いやアクションが多いものだという。借りぐらしのアリエッティやコクリコ坂からのよ
うに、生死が関わらない穏やかな作品も嫌いではないが、風の谷のナウシカや天空の城ラ
ピュタ、もののけ姫のように命をかけて戦うものが最近少ないのでまた見たいとのこと。
そんな彼女にとって、ジブリの魅力とは知らない世界での「冒険」そのものだという。
3 - 4 結 果 か ら 分 か る 共 通 点 、 相 違 点 、 結 論
ここまでで計 4 名の方を対象に個人インタビューを行ってきたが、まずは全員に共通し
ていえることからまとめていきたいと思う。
一つには、皆ジブリの「世界観」が好きだということである。それは背景の映像や久石
譲の音楽、キャラクターの性格や動きなど様々だが、言葉では表現できないジブリならで
はの魅力をそれぞれが感じており、それが「ジブリ=面白い、期待できる」というイメー
ジに結びついているのだ。皆がこのイメージに惹かれて、次回の作品も見てみようと思う。
つまり、そこには完全にジブリブランドができあがっているわけである。ジブリがブラン
ド力だけで人気を維持しているとは言わないが、最初に受けた衝撃や印象はその後もかな
りの効果を発揮することが分かった。
二つ目には、皆ジブリに「懐かしさ」を求めているということである。20 代の若い男女
は幼少時代からジブリを見ており、一度見た作品でも何度も見たくなるという。それは昔
とは違った視点で見ることが出来たり、その時の自分を思い出せるからであったりと理由
はそれぞれだが、「一番面白いと思った作品」という質問に関して皆昔見た馴染みある作品
を挙げていることからも、ジブリが彼らの過去において大きな存在であることが分かる。
50 代女性についても、今後期待する作品という質問では「自分の生まれ育った時代を描い
てほしい」ということだったので、この見解は妥当だといえる。
そして三つ目が、皆最近の作品にはあまり興味がないということだ。ジブリブランドと
いう大きな強みがあるにも関わらず、なぜ皆見たがらないのか。これに関しては、また後
ほど取り上げるとする。
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ここからは反対に、相違点についてである。これに関しては、正直ほとんど見つけられ
なかった。確かに皆面白いと思う作品はそれぞれだし、ジブリの魅力を一言で表現した時
の言い回しは異なる。しかし、それは個人の好みだから当たり前である。唯一相違点があ
るとすれば、20 代の人は皆わくわくするようなファンタジー要素溢れる作品を求めている
のに対し、50 代の人は心が穏やかになれるようなゆったりした作品を求めていることだ。
しかし、それに関して 50 代女性は、昔と今とで環境が変わったのであり、純粋に感動した
のはもののけ姫だと言いきっている。ちなみに、穏やかだからといって決して夢がないわ
けではない。現実的なテーマでありつつも、やはりジブリでしか知りえない世界、ジブリ
でしか描けない世界を求めているのである。その他 DVD かグッズかという質問に対しても、
4 人ともグッズを選ばなかったことから、これといって大きな違いは発見できなかった。
ここでまた共通点の話に戻るが、その中でも最も興味深かったのが、腑に落ちなかった
シーンについてである。これはつまらないと思う作品、意外だと感じた展開は何かという
質問で得られた情報であり、少し詳しく取り上げようと思う。彼らが挙げたシーンはすべ
て、「主人公にはもっとこうして欲しかった」や「終わり方があっけなかった」など、物足
りなさから生じるものばかりであった。見終わった後に物足りなさが残ったというのは、
まさに私が借りぐらしのアリエッティを見た時と同じ感覚である。対象者である 27 歳女性
が大好きな作品、千と千尋の神隠しや魔女の宅急便においても、最後にちょっとでも納得
いかない要素(ジジが喋らない等)があると、それはしこりとしてずっとその人の記憶に
残るものなのだと分かった。ストーリーに対する「物足りない」という感情は、作品の評
価を大きく左右するのである。その他、「最後まで内容がよく理解出来なかった」という意
見もあった。多くの人がつまらないと感じた作品「ゲド戦記」に関しては、皆その理由に
ついて「分かりづらかった」と答えている。反対に、内容が比較的簡潔なとなりのトトロ
や魔女の宅急便を微妙だと答えた人はいない。
以上のことを踏まえると、視聴者が面白いと感じるためにはある程度ストーリーが分か
り易く、かつクライマックスがちゃんと納得できるものである必要があると分かる。ここ
でいう納得できるものとは、ジブリの作品だと主人公の変化がしっかり描かれているとい
うことだ。主人公が何かを犠牲にしてまで頑張りぬき成長を遂げることで、人々は初めて
そのリアルな姿に共感、感動を覚えるのだということが、23 歳男性、27 歳女性の意見を通
して分かった。視聴者はジブリの世界観が好きといいつつもそれだけでは飽き足らず、ど
こかで見終わった後のすっきり感を求めてしまっているのである。むしろ、独特の世界観
は全ジブリ作品に共通してある要素なので、作品の良し悪しの判断材料にはならない。ま
た忘れてはいけないのが、ジブリでしか知り得ない世界が描かれているということだ。そ
れはアニメでいうところの舞台設定である。もののけ姫であればタタラ場、ハウルであれ
ば動く城といったように、未知の世界を知れるのが楽しいのであって、そうでなければ何
もジブリである必要はないというのが対象者の意見であった。分かり易いストーリー、納
得いくクライマックス、未知の舞台設定、この 3 つの重要性を強調しておく。
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さて、ここでやっと先ほど述べた三つ目の共通点の話に戻ることができる。なぜ最近の
作品は人気がないのか。それは、上記 3 つの要素のどれかが欠けているからである。崖の
上のポニョについては皆「子供っぽそう」との意見だったが、舞台設定もそこまで新鮮な
ものではないしクライマックスも確かにうまくいきすぎている気もする。またアリエッテ
ィは第三章でも述べたとおり、小人から見た世界という舞台設定は素晴らしいものの、「ク
ライマックスにはがっかりした」と 27 歳女性も低評価であった。その他コクリコ坂は現実
的すぎて、ジブリらしさがあまり表現されていないのであろう。このように、いずれかの
要素が欠けるごとに作品の面白みは薄れてしまう。
ではここでようやく仮説に対する結論を述べることが出来る。ストーリー、クライマッ
クス、舞台設定、この 3 つをまとめて言い換えた言葉は、まさしく「構造」である。とい
うことは、構造こそしっかりしていなければ、より多くの人を惹きつけ満足させられるよ
うな作品はできない、ということが言える。
第 四 章 ま と め
今回当テーマで論文を書いてみて何より難しいと感じたことは、大人気のジブリだから
こそ魅力となる要素が無限にあるということだ。本論文では構造とキャラクターという二
つに絞って仮説立てを行い、構造こそが大切という結論に至ったが、正しく言えば「どち
らかというとキャラクターより構造が大切」である。当然キャラクターにだって魅力があ
り、視聴者もそれを感じている。男性キャラクターの紳士さにときめいた、主人公の懸命
な姿に共感して涙が出たなんて声もあった。また 23 歳男性も好きなキャラクターは中トト
ロやこだまということで、ジブリ美術館の店員さんが言っていたとおり、確かに親しみや
すく分かり易いキャラクターに人は惹かれるのだということも分かった。しかし、構造と
キャラクターどちらかの要素が欠けた場合に、より振れ幅が大きい方はどちらかと考える
とそれは構造なのだ。そのことは、先程も述べたとおり皆が不満に感じていることをもと
に結論付けできた。インタビューを進めていくうちに、ジブリの魅力はあらゆる要素が絡
み合って生まれていることを実感したので、正直「これが最も重要なのだ!」と一言では
断言できない。だからこそ、「納得できなかったマイナスの要素」という逆からの視点で考
察してみると、新たに浮かび上がってくるものがあった。
一方で、
「結論をはっきり限定できない」ということが、本テーマにおける限界でもある。
テーマがざっくりしているからこそ様々な情報を頼りに分析できたが、それと同時に結論
にも他個人の意見を反映できる余地を残しておかねばならないということに、難しさがあ
った。その他、今回行ったインタビューにおいても限界はある。それは、対象者に偏りが
あったということだ。4 人とも今まで数多くのジブリ作品を見てきており、ジブリが大好き
であることは間違いない。しかし、より多くの人の意見を聞き、公平性を持って判断する
ためには、ジブリがあまり好きでない人や、オタクと呼ぶに相応しいジブリファンにもイ
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ンタビューを行う必要があるだろう。今回得られた結果だけを信じるのは正直不十分であ
り、対象者以外の人々がどんな考えを持っているのかは未だ未知のままである。それでも、
ジブリを好む一般的な人々は、どうやら構造に興味を持っていそうだということは一つの
発見だろう。
【参考文献】
東 浩紀(2001)『動物化するポストモダン
オタクから見た日本社会』講談社現代新書.
江尻 弘、斉藤 忠志(1978)『現代のマーケティング・リサーチ』実教出版株式会社.
大塚 英志(2009)
『物語論で読む村上春樹と宮崎駿―構造しかない日本』角川 one テーマ
21.
木村 達也(1999)『マーケティング活動の進め方』日本経済新聞社.
近藤 光雄、小田 宜夫(2004)『マーケティング・リサーチの実際』日本経済新聞社.
沼田 やすひろ(2011)『「おもしろい」映画と「つまらない」映画の見分け方』キネ旬総
研エンタメ叢書.
山本 奈央(2012)
「インタビュー法」、西川英彦・廣田章光編(2012)
『一からの商品企画』
碩学舎.
一般社団法人日本映画製作者連盟ホームページ(http://www.eiren.org/toukei/index.html)
2011 年 10 月参照.
スタジオジブリ‐STUDIO GHIBLI ホームページ (http://www.ghibli.jp/)2011 年 10 月
参照.
三鷹の森ジブリ美術館ホームページ(http://www.ghibli-museum.jp/)2012 年 1 月 16 日参
照.
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