同一企業グループに属する複数会社の 倒産手続が並行して開始された

Annual Report No.29 2015
同一企業グループに属する複数会社の
倒産手続が並行して開始された場合における
統一的倒産手続創設の要否に関する一考察
-現在の相対するEU/独・米国倒産法改正案から
我国倒産法改正への示唆-
A Study of the Need for Legislation of Unified Bankruptcy Proceeding About Group Enterprises
―Compare with Different Lawmaking Operations of EU, German and USA―
H26海自12
派遣先 カルフォルニア大学 サンディエゴ校(アメリカ・サンディエゴ)
期 間 平成27年1月31日~平成27年2月25日(26日間)
平成27年3月1日~平成27年3月22日(22日間)
申請者 摂南大学 法学部 専任講師 萩 原 佐 織
会社更生法第5条3項~5項、会社法第879条1
海外における研究活動状況
項・2項・3項に基づき同一の倒産裁判所の管
研究目的
轄が認められるという立法的解決が図られてい
本研究の目的は、国際的な企業グループに
る。これら共通の管財人の選任や同一の倒産
属し、かつその所在地国を異にする複数の会
裁判所の管轄によるグループ企業の倒産財団
社に関して倒産手続が開始された場合に、グ
の管理は、手続的併合の問題とされるのに対
ループ企業全体の利益のため、各会社の所在
し、同一の企業グループを構成する複数倒産
地国の国内倒産法の枠組みを超えて、統一的
企業の債権債務処理を一つの会社のもののよ
な倒産手続として扱う法制度の創設が必要か
うに実体上一体的に取り扱う実体的併合に関
否かにつき、EU、UNCITRAL、アメリカやド
する規定は、我国の現行倒産法制には設けら
イツにおける議論や立法作業を参考にしつつ、
れていない。ただし、実務上、実体的併合と
検討するものである。
して、会社更生計画案に、全債権者への平等
弁済(パレート条項)、内部債権の消滅、重複
海外における研究活動報告
債権の消滅基準に関する条項が盛り込まれた
同一企業グループ(結合企業)に属する複数
例は少なからず存在しているようである。
の倒産会社がともに日本国内を所在地とする
このように我国では、企業グループ倒産に
場合(国内並行倒産)については、既に、我国
際し、
「手続的併合」とアメリカ連邦倒産法を模
おいては、実務上共通の管財人の選任や、ま
範とする「実体的併合」という区別で検討され
た平成8年以降の倒産法改正によって、破産法
ることが多い。しかし、目下、結合企業倒産
第5条3項~5項、民事再生法第5条3項~5項、
に関する倒産法改正作業中のドイツでは、結
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The Murata Science Foundation
合企業の全債権者を実体上一つの会社のもの
否が検討されてしかるべきである。
のように取り扱う実体的結合に対し、経営が
その点、まず国際的な視野でみると、その出
良好な結合企業の債権者の配当率も均等化さ
発点として、国際連合国際商取引法委員会(以
れることによりその債権者の当該企業に対する
下、UNCITRAL)の第5部会(倒産法)が、その
配当率についての期待を裏切ること等を理由
立法ガイドの第三部として、第31大会(2006年
に、各結合企業の責任の分離を図るべきとの
12月)から第38大会(2010年4月)での審議成果
観点から批判が多く、実体的併合というモデ
を踏まえ、2010年7月1日に採択された「グルー
ルを採用しなかった。ドイツは、その「企業結
プ企業の倒産処理(T r eat me nt o f e nt e r pr i se
合の倒産処理の簡易化に関する法律」草案にお
groups in Insolvency)
」における立法提案が存
いて、各結合企業の法主体を重視し、手続的
在する。今回の研究では、主に第46回大会(12
併合の結果としての単一の倒産手続を導入せ
月15~19日)における審議成果をもとに、渡航
ず、グループ裁判籍、複数の倒産手続を統括
時点(2015年2月・3月)で公表された第47回大
する単一の倒産管財人の選任、そして独自の
会(2015年5月26日~29日)における審議内容、
「調整手続」を導入している(ドイツの「企業結
すなわち①“多国籍結合企業の国際倒産の容易
合の倒産処理の簡易化に関する法律」協議草
化(Facilitating the cross-border insolvency of
案・政府草案については、拙稿、摂南法学 multinational enterprise groups)
”に関する立法
第48号1-74頁、第50号1-62頁(2015)参照)
。
案、②“倒産関連判決の国際的な承認並びに執
ただし、本研究の主たる射程範囲は、企業
行(Cross-border recognition and enforcement
グループの国内並行倒産ではなく、グローバ
of insolvency-related judgements)
”に関する立
ルに展開される同一国際企業グループに属し、
法案、そして③“結合企業の倒産における取締
かつその所在地国を異にする複数の会社に関
役等の責任(Directors’ obligations in the period
して各所在地の国内法に基づく複数の倒産手
approaching insolvency: enterprise groups)
”に
続が開始される場合(国際並行倒産)に、国境
つき、その仮訳とともに、各解説を試みる。ま
を越えて開始された複数の倒産手続を統一的
た、当該研究においては、EUでも、2000年5月
に取り扱うための制度を創設する必要がある
29日EU倒産手続規則(2002年5月31日発行)の
か否かという、国際企業グループの国際並行
改正案(2014年11月22日)§§56-77が公表され
倒産である。既に我国の倒産法並びに民事再
ているため、超国家的法規として、UNCITRAL
生法には改正等により国際並行倒産自体に関
の立法案と比較検討するものである。
する規定は設けられているが、国際企業グルー
また、結合企業の国際倒産に関する国内倒
プのそれに特化したものではない。国際企業グ
産法改正作業としては、ドイツの他、アメリカ
ループの結合の仕方やその倒産にも様々な形
国内における連邦倒産法改正に着目している。
態があるが、現在の我国の法体制をして、企
ただし、2014年12月に連邦倒産法改正案を公
業グループの破綻が複数国の拠点に跨る場合
表したThe American Bankruptcy Institute(ABI)
に十分に対応できるか否かについては、未だ不
は、当初は結合企業倒産に関する改正案を盛
明な点が多い。国際倒産事件の多くは国際企
り込む予定であったにも関わらず、それを達
業グループの倒産であるという現状からすれば、
成することができず、中小企業の倒産手続等
やはりそれを視野に入れた更なる法改正の要
の改正案にその内容を大きく変更した。その
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Annual Report No.29 2015
経緯等につき、メンバーであるカルフォルニア
とのできない資料や情報をもたらしてくれた。
大学ロサンゼルス校のKenneth N. Klee教授か
このような貴重な機会を与えてくださった村田
ら伺った。その後、彼の助言に基づき、結合
学術財団に心から感謝申し上げたい。
企業倒産に関する連邦倒産法改正の検討につ
この派遣の研究成果等を発表した
き成果を挙げているというNational Bankruptcy
Conference(NBC)のメンバーで、元倒産事件
裁判官Allan Gropper教授に、その検討内容に
著書、論文、報告書の書名・講演題目
[論文単著]
1) 「企業グループ倒産に関する一考察-ドイツ倒産
法改正作業における協議草案から政府草案への
つき伺った。未だその検討内容を書面にした
改正点より見える諸問題-」摂南法学 第50号1-
ものは公表されていないが、彼が2014年夏に
ドイツで発表した内容も含め、2015年夏を予
定する論文公表後、こちらにも送付して頂ける
62頁(2015年3月)
。
2) 2015年9月末を目途とし、グループ企業倒産に関
とのことであった。
する、①2014年11月22日のEU倒産手続規則改正
案(Nr. 1346/2000)§§56-77、そして本派遣により
現在は、上述のUNCITRALにおける2つの
立法案、EU倒産手続規則改正案、そして連邦
倒産法改正案を柱に、我国の倒産法制で国際
得られた資料や議論等に基づき、②UNCITRAL
第5倒産作業部会による“多国籍結合企業の国
際倒産の容易化(Facilitating the cross-border
insolvency of multinational enterprise groups)
”
、並
的な結合企業倒産に対応できるのか、それとも
びに③“倒産関連判決の国際的な承認並びに執
何らかの改正が必要なのかを主題とした論文を
行(Cross-border recognition and enforcement of
2015年9月末を目途として執筆中である。今回
の派遣は、多くの研究者との出会いとともに、
当該研究テーマを進めるうえで日本では得るこ
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insolvency-related judgements)
”に関する立法案、
我国の倒産法制改正の要否を中心とする単著論
文を投稿する予定である。