第6章 バッサエのアポロ神殿の設計法 6-1. はじめに (1)バッサエのアポロの神殿の概要 ペロポネソス半島西部の山頂近くの神域であるバッサエに、紀元前 5 世紀頃に建設されたアポロ神 殿が在る。この神殿の設計者は、パルテノン神殿を設計した一人であるイクティノスと言われており、 彼はアポロ神殿の設計後にパルテノン神殿の設計に携わったと考えられている 1)。 アポロ神殿の正面には 6 本、側面には 15 本のドリス式円柱が配される。ケラ内部には、大理石の柱 頭を持ったイオニア式付柱が 8 本、石灰岩のアッティカ風柱頭をもったイオニア式付柱が斜めの壁に 2 本配され、独立した 1 本のコリント式の柱が立っており、コリント式の柱を持った最初の例として 知られている。イオニア式の円柱とコリント式の円柱はコの字型に並び、内部柱を慣例であったドリ ス式からイオニア式に置き換えることで単層を可能にしている。コリント式円柱とケラ内部の浮彫の フリーズがケラ内部の重要性を強調し、内陣の設計がペロポネソス半島の建築家に強い影響を与えた。 また、一般的な神殿建築は東を正面にして建設されるのに対し、この神殿の場合は北を正面として建 てられている。ただし、ケラの後部には東に向かって出入り口があり、神像は一般的な神殿と同様に 東向きに据えられていた。また、正面、側面ともに 2 組のトリグリフ・メトープのパターンが配され る 2 メトープ式であるが、円柱の心々間距離(以下、 「柱間寸法」と呼ぶ)は、正面と側面で 5.8cm の 差があり、明らかに異なった寸法となっている。 (2)実測値について 各部寸法の実測値は、クーパーの報告書2)から得た。実測値は、同じ部材でも位置によっては異な っている場合、下記のようにして分析に使用する実測寸法を決定した。尚、使用した実測値の一覧は 表 6-1 に示す。 スタイロベイト上における神殿の正面幅(W、以下「神殿幅」と言う)と側面長さ(L、以下「神 殿長」と言う)は 14.548 38.342m、14.547 38.328m とそれぞれ2つの値が記述してあり、スタイロ ベイトは中央にむくりあるが、隅で正確な矩形になっていると記される3)。また、38.328m は平面図に も記載してあるため 4)、神殿幅(W)については南北の平均値として 14.548m を使用し、神殿長(L) は 38.328m を用いることとした。 円柱の下部直径は、正面が 1.142m と側面が 1.041m と2つの寸法が記述してある 5)。正面と側面の 下部直径の差は約 10cm であることから、施工誤差や測定誤差ではなく、初めからの寸法として設計 されていたと考えられる。柱間寸法については平均値として算出し、正面柱間寸法(IW)は 2.736m、 側面柱間寸法(IL)は 2.676m とする。 周柱の高さについては、全ての柱における細部の寸法まで測定されている6)。柱高(H)は全ての柱 においてだいたい同じ値が見られるため、平均値として 5.959m を使用した。柱身の高さ、柱頭の高 - 61 - さ、アバクスの幅と高さ、エキヌスの高さは、正面と背面で全く違う値が見られた。また、側面につ いては北側から南側に向かってだんだんに高くなっている。よって、北側と南側のそれぞれの部材の 高さを平均し、使用することとした。したがって、正面柱身高(SfH)5.425m、背面柱身高(SfH-B) 5.460m、正面柱頭高さ(CapH)0.534m、背面柱頭高さ(CapH-B)0.499m、正面アバクス幅(AbW) 1.232m、背面アバクス幅(AbW-B)1.180m、正面アバクス高(AbH)0.199m、背面アバクス高(AbH-B) 0.178m、正面エキヌス高(EchH)0.172m、背面エキヌス高(EchH-B)0.153m となる。ネッキング高 (Nk)とアニュレット高(An)は全ての柱において同じ寸法となっていた。 アーキトレイヴの幅については正面で 1.069m、背面で 1.030m となっており、約 4cm の差がある。 よってア−キトレイヴの幅は正面と側面でそれぞれ違った寸法であったとし、実測値を使用した。また、 メトープの幅は通常 0.827m と隅 0.802m と異なった寸法となっている7)。 プテロン幅(PtW)とプテロン長(PtL)については記載してある寸法の平均値を求めると、プテロ ン幅(PtW)2.884m、プテロン長(PtL)5.121m となる。ケラ幅(CW)についての記述は無いので、 神殿幅(W)から両側のプテロン幅(PtW)を引いて算出し、8.781m となった。また、ケラ長(CL) はオルソスタットの石材を1つずつ測った値が記述してある8)。ケラ長は東側と西側で 2mm の差とな っており、精度の高いものである。また、東側と西側の平均値は 28.084m となった。プテロン長(PtL) は、正面、側面で々寸法と見なすことが出来る。また、神殿長(L)からケラ長(CL)を引いた値の 1/2 は、5.122m となり、これをプテロン長(PtL)の実測寸法とする。ナオス長(NL)はプテロン長 (PNL)とオピストドモス長(ONL)をケラ長(CL)から引いて算出した。ナオスの内部については、 付柱幅(g)は3つの実測値の平均値 5.074m とし、付柱柱間寸法(I-NL)も同じく8つの柱間寸法の 実測値の平均として 2.686mとした。イオニア式付柱の4つの柱間寸法の合計(b、以下「付柱柱間長 さ」と言う)は西と東の付柱の柱間寸法のそれぞれの合計の平均値 10.743m を使用した。 ケラの立面に関する実測値は、ほとんどクーパーの報告書の図に記載された寸法を用いたが、図か ら得られなかった部分については以下のように、計算によって求めた。 ナオス内部には、柱頭が大理石の付柱と石灰岩の付柱、そしてコリント式円柱の3種類があるが、 それぞれの柱のベースの高さは、柱高から柱身高、柱頭高を引いて算出し、大理石ベース高(B-Im) は 0.956m、石灰岩ベース高(B-Il)は 0.749m、コリント式ベース高(B-C)は 0.402m となった。次に、 プロナオス、オピストドモスにはドリス式の円柱が建っているが、ドリス式柱高(H-D)はドリス式 柱頭高(CapH-D)とドリス式柱身高(SfH-D)の合計によって、5.604m と算出された。また、ドリス 式コーニス高(C-D)はドリス式エンタブラチュア高(E-D)からドリス式フリーズ高(F-D)、アーキ トレイヴ高(AH-D)を引いて、0.345m とした。 6−2 基壇及びペリスタイルの設計 (1)各部寸法の比例関係について - 62 - 各部寸法相互の比例関係について分析し、以下の結果を得た。基本的な比例関係については、表 6-2 に示す。基壇は、2段のクレピスと最上段のスタイロベートから構成されているが、神殿幅(W)神 殿長(L)の間、及び、基壇幅(OW)と基壇長(OL)との間には、おおよそ次の関係が成立する。 W = 3/8 L (誤差 0.174m) OW = 2/5 OL (誤差 0.014m) 基壇幅(OW)と基壇長(OL)との比例関係は、神殿幅(W)と神殿長(L)の比と比べて誤差も小 さい上に、基壇幅(OW)と基壇長(OL)の比は、正面と側面の柱数の比(6 本:15 本 = 2:5)に等 しい。従って、スタイロベイトから設計が始まったのではなく、基壇から設計が始まった可能性が考 えられる。 一方、それぞれの正面・側面柱間寸法(IW、IL)と神殿幅(W)、神殿長(L)は、以下の比例関係 が成立している。 W = 5 1/3 IW (誤差 -0.039m) L = 14 1/3 IL (誤差 -0.028m) OW = 5 1/3 IW + 1/2 IW = 5 5/6 IW (誤差 -0.077m) OL = 14 1/3 IL + 1/2 IL = 14 5/6 IL (誤差 -0.036m) 前記したように、正面柱間寸法(IW)と側面柱間寸法(IL)の差が 0.059m と大きく、これは施工誤 差ではなく、元々違う寸法で設計されたと考えられる。正面と側面では柱間寸法が違うにも関わらず、 神殿幅(W)と神殿長(L)は、それぞれの柱間数に 1/3 を足し、その値にそれぞれの柱間寸法をかけ た値となっている。また、基壇幅(OW)・基壇長(OL)においても、それぞれの柱間数に 5/6(= 1/3 + 1/2)を足し、その値にそれぞれの柱間寸法をかけた値となっており、また、柱間寸法が正面と側面 で大きく異なっていることから、柱間寸法から基壇の寸法が求められたのではなく、基壇の寸法から 柱間寸法が求められるという設計過程が推定される。 正面柱間寸法(IW)と正面円柱下部直径(D)、柱位置寸法(SAW、SAL)9)と柱間寸法(IW、IL) との間には以下の単純な比例関係が見られた。 D = IW (2 1/3) D = IL SAW = 1/4 IW (誤差 -0.014m) SAL = 1/4 IL (誤差 0.001m) (2 1/3) = 3/7 IW (誤差 -0.030m) = 3/7 IL (誤差 -0.005m) 最初に基壇寸法(OW、OL)が決定されたとすると、次に決まるのは柱間寸法(IW、IL)となる。次 に、正面円柱下部直径(D)は柱間寸法(IW、IL)から求められた可能性が高いと考えられる。また、 柱位置寸法(SAW、SAL)は柱間寸法(IW、IL)の 1/4 となっており、正面と側面で同じ比例関係に なっていた。 DL = 9/10 D (誤差 0.013m) 側面円柱下部直径(DL)は正面円柱下部直径(D、即ち側面の端の円柱下部直径)の 9/10 倍と、1/10 - 63 - だけ小さな寸法とされたと考えられる。 以上の分析より、以下の設計手順が考えられた。 1)基壇の大きさを決定し、柱間寸法を求める 2)柱間寸法からスタイロベイト寸法、円柱下部直径、柱位置寸法が決定 3)円柱下部直径は正面の寸法を求めてから、側面の寸法が求められる (2)設計の始まりについて 古代尺はドリス尺、イオニア尺を含んで、1foot=0.295∼0.330mの間で使用されたと仮定する。この 神殿では、基壇の大きさを決定してから柱間寸法が決定したと考えられるので、基壇幅(OW)、基壇 長(OL)のどちらかからか設計が始められた可能性がある。それぞれの部分を古代尺へと換算し、単 純な値を導き出すと以下のようになった。 OW = 47 15/16∼53 5/8 ft. → 50 ft. OL = 119 7/8∼134 1/8 ft. → 120 ft.、130 ft. このことから、基壇幅(OW)50 ft.、基壇長(OL)120 ft.を基本構想として考えられていたと思われ る。設計手順を辿りながら各部寸法を復元した結果、基壇長(OL)を 120 ft.として、設計が始められ た可能性が最も高いことが判明した。 その理由として、まず誤差が小さいと言うことが挙げられる。設計の始まりが基壇長(OL)を 120 ft.とした場合(1 ft. = 0.3289m)は、各部材の誤差が、大きくても約 2cm となっており、全体的にも誤 差が小さい。しかし、設計の始まりが基壇幅(OW)を 50 ft.とした場合(1 ft. = 0.3193m)は大きいと ころで 45mm、実測値が 0.665m であるクレピス幅(KW)での誤差は、13mm となっており、設計の 始まりが基壇長(OL)を 120 ft.とした場合(1 ft. = 0.3289m)よりも誤差が大きい。設計の始まりが基 壇長(OL)を 130 ft.とした場合(1 ft. = 0.3056m)では、誤差の最大値は基壇長(OL)で 18mm とな っており、また全体としても設計の始まりが基壇長(OL)を 120 ft.とした場合(1 ft. = 0.3289m)より も誤差は小さくなっているが、その差はあまりない。 次に古代尺が単純であると言うことが挙げられる。設計の始まりが基壇長(OL)を 120 ft.とした場 合(1 ft. = 0.3289m)は、神殿幅(W)が 441/4 ft.、神殿長(L)が 116 1/2 ft.、円柱下部直径(D)が 3 1/2 ft.と単純である上に、クレピス幅(KW)、側面柱位置寸法(SAL)は 2 ft.と完尺になっている。設 計の始まりが基壇幅(OW)を 50 ft.とした場合(1 ft. = 0.3193m)では、神殿長(L)が 120ft.となって おり、完尺が見られるが、その他の寸法においては、設計の始まりが基壇長(OL)を 120 ft.とした場 合(1 ft. = 0.3289m)よりも単純な古代尺とはなっていない。設計の始まりが基壇長(OL)を 130 ft. とした場合(1 ft. = 0.3056m)も、側面柱間寸法(IL)= 8 3/4 ft.、円柱下部直径(D)= 3 3/4 ft.につい ては単純な古代尺が見られるが、他の部材では設計の始まりが基壇長(OL)を 120 ft.とした場合(1 ft. = 0.3289m)よりも単純な古代尺は見られなかった。 そして、1foot の長さについては、設計の始まりが基壇長(OL)を 120 ft.とした場合(1 ft. = 0.3289m) - 64 - はドリス尺(0.325 0.330m)と見なせる寸法となる。しかし、設計の始まりが基壇幅(OW)を 50 ft. とした場合(1 ft. = 0.3193m)はドリス尺ともイオニア尺とも言えない寸法となった。設計の始まりが 基壇長(OL)を 130 ft.とした場合(1 ft. = 0.3056m)はイオニア尺(0.295 0.300m)に近い寸法では あるが、イオニア尺にしては幾分大きすぎる観がある。 以上のことから、本章では、基壇長(OL)が 120 ft.(1 ft. = 0.3289m)として、設計が始められたと して、分析することにする。 (3)基壇長 120ft.から始まる設計過程 基壇長(OL)が 120ft.と想定され設計が始められるならば、次に、比例関係より側面柱間寸法(IL) が求められたと考えられる。その後、算出された側面柱間寸法(IL)より、基壇長(OL)が求めなお される。 尚、ここで示す計算過程、及び古代尺換算については、表 6-3 にも示す。また、表中及び以下の計 算式に出てくる「→」に関しては、計算過程の中で出てくる dactyl 以下の値を切り上げる、または切 り捨てるかして dactyl の値に丸めたことを意味する。また、古代尺に換算した理論値は、1 ft. = 0.32893 m として計算し、それぞれの式の最後に実測値との誤差を示している。古代尺、1 ft. = 0.32893 m その 算出法については後に記載する。 IL OL = OL (14 5/6) = 8 8/89 ft. = 8 ft. 1 39/89 dactyl → 8 1/8 ft. = 14 5/6 IL = 120 25/48 ft. = 120 ft.8 1/3 dactyl → 120 1/2 ft. (誤差 0.003m) (誤差 0.022m) また、神殿長(L)は、側面柱間寸法(IL)から、比例関係によって算出すると、116 1/2 ft. となる。 また、この時、2段のクレピス踏み面(KW、以下「クレピス幅」と言う)は、2 ft.となる。 L KW = 14 1/3IL = 116 11/24 ft. = 116 ft. 7 1/3 dactyl → 116 1/2 ft. (誤差 0.007 m) = (OL ̶ L) = 2 ft. (誤差 0.003m) 2 或いは、側面柱間寸法(IL)との比例関係より、クレピス幅(KW)が直接算出されたとも考えられ る 10)。 KW = 1/4 IL = 2 1/32 ft. = 2 1/32 ft. → 2 ft. 正面については、先ず、基壇長(OL = 120 1/2 ft.)との比例関係より基壇幅(OW)が求められたと考 えられる。 OW = 2/5 OL = 48 1/5 ft. = 48 ft. 3 1/5 dactyl → 48 1/4 ft. (誤差 0.006m) その後の各部寸法の算出過程は側面の場合と同じように、正面柱間寸法(IW)が算出される。また、 クレピス幅(KW)については、側面で算出された寸法がそのまま使用され、基壇幅(OW)クレピス - 65 - 幅(KW)の2倍を引いて、神殿幅(W)が算出されたと考えられる。 IW W = OW (5 5/6) = 8 19/70 ft. = 8 ft. 4 12/35 dactyl → 8 5/16 ft. (誤差 0.001m) = OW − 2 KW = 44 1/4 ft. (誤差-0.007m)11) なお、この時の1ft.の長さは下記の様にして算出した12)。 1 ft. = (W の実測値 + L の実測値) = (14.548m + 38.328m) (W の理論値 + L の理論値) (44 1/4 ft. + 116 1/2 ft.) = 0.32893 m 正面円柱下部直径(D)は、おおよそ柱間寸法との比例関係(IW、IL)が見られる。 D = IW D = IL (2 1/3) = 3 9/16 ft. (2 1/3) = 3 27/56 ft. = 3 ft. 7 5/7 dactyl → 3 1/2 ft. 正面円柱下部直径(D)は同時に側面の隅の円柱下部直径となる。従って、正面及び側面の柱間寸法 から算出される円柱下部直径の値の中間としたか、或いは、側面の隅の円柱下部直径として側面柱間 寸法はら算出される値を使用したと考えられる。何れにしろ、側面の隅円柱下部直径、即ち、」正面円 柱下部直径(D)の値は D = 3 1/2ft.(誤差 -0.009m)となる。また、側面の円柱下部直径(DL)は、 正面円柱下部直径(D)の 9/10 倍と、1/10 だけ小さな寸法とされたと考えられる。 DL = 9/10 D = 3 3/20 ft. = 3 ft. 2 2/5 dactyl → 3 3/16 ft. (誤差 -0.007 m) 柱位置寸法(SAW、SAL)はそれぞれの柱間寸法(IW、IL)との比例関係から求まる。 SAW SAL = IW ÷ 4 = 2 5/64 ft. = 2 ft. 1 1/4 dactyl → 2 1/16 ft. = IL ÷ 4 = 2 1/32 ft. = 2 ft. 1/2 dactyl → 2 ft. (誤差 -0.008m) (誤差-0.003m) (3)まとめ バッサエのアポロ神殿の基壇寸法やペリスタイルに関連した各部寸法は、クラシック期の他の神殿 同様、柱間寸法との比例関係が見られる。しかし、正面と側面の柱間寸法が異なっているため、正面 における各部寸法は正面の柱間寸法と、側面における各部寸法は側面の柱間寸法との比例関係となる。 その比例関係は同じ部所であれば同じ比例関係であり、結果、寸法そのものは異なったものとなる。 その原因は、神殿の基壇寸法の「正面:側面」が「2:5」という比例関係にこだわった結果である と考えられる。正面と側面の基壇の長さを単純な比例関係で決定する手法は、古い時代に行われてい たと、クールトンは述べている 13)。即ち、神殿の基壇幅:基壇長を正面柱数:側面柱数の比で設計す るという手法である。アポロ神殿は「2:5 = 6:15」となり「正面柱数:側面柱数」である。しかし、 - 66 - この様な比例関係を持つ建築では、正面と側面で柱間寸法がかなり大きく異なってくる。そこで、こ の神殿では、「正面柱数:側面柱数」という比例関係を、古い時代の神殿で行われたスタイロベイト 上ではなく、クレピスを含んだ基壇寸法での比例関係として設計したと考えられる。 6-3. 立面の設計過程 (1)立面各部寸法の比例関係 まず、各部寸法相互の比例関係について分析し、以下の結果を得た。得られた比例関係の一覧を表 6-2に示す。 柱高(H)は、柱身高(SfH)と柱頭高(CapH)から構成されているが、柱高(H)と基壇幅(OW) との間には、次の関係が成立する。 H = 3/8 OW (誤差 0.005m) ここで、基壇幅(OW)から柱高(H)を求めることは、立面の形態を考える上でイメージしにくい。 一方、柱身高(SfH)は柱間寸法(IW、IL)との間に同じ単純な比例関係が成立している。 SfH = 2 IW (誤差 -0.045m) SfH = 2 IL (誤差 0.073m) また、柱頭高(CapH)は柱高(H)、柱身高(SfH)との間に以下のような関係がある。 CapH = 1/10 SfH (誤差 -0.008m) 以上のことから柱身高(SfH)の1/10を柱頭高(CapH)として考え、柱身高(SfH)に柱頭高(CapH) を足して柱高(H)を求めたと考えられる。 アバクス高(AbH)については柱頭高(CapH)との間に比例関係があり、アバクス幅AbW)につい ては円柱上部直径(d)との間に比例関係がある。 AbH = 3/8 CapH (誤差 -0.001m) AbW = 1 1/3 d (誤差 -0.004m) 円柱上部直径(d)は正面円柱下部直径(D)との比例関係がある。 d = 4/5 D (誤差 0.013m) 背面に関しては、背面柱身高(SfH-B)は正面柱間寸法(IW)との比例関係が成立している。 SfH-B = 2 IW (誤差 0.010m) また、背面アバクス高(AbH-B)については背面柱頭高(CapH-B)との間に、背面アバクス幅(AbW-B) については背面円柱上部直径(d-B)との間に、正面と同じ比例関係がある。 AbH-B = 3/8 CapH-B (誤差 -0.009m) AbW-B = 1 1/3 d-B (誤差 -0.005m) また、エンタブラチュア高(E)は、アーキトレイヴ高(AH)、フリーズ高(F)、コーニス高(C) によって構成されている。エンタブラチュア高(E)は柱高(H)との間に比例関係が成立する。 - 67 - E = 1/3 H (誤差 -0.042m) エンタブラチュア高(E)は7等分され、その3つをアーキトレイヴ高(AH)に、同じく3つをフ リーズ高(F)に残りの1つをコーニス高(C)に振り分けられたことが分かった。 AH = 3/7 E (誤差 0.002m) F = 3/7 E (誤差 0.002m) C = 1/7 E (誤差 -0.004m) トリグリフ幅(T)に関しては柱間寸法(IW、IL)との間に同じ比例関係が見られた。 T = 1/5 IW (誤差 0.012m) = 1/5 IL (誤差 0.000m) この比例関係は建築十書の中でヴィトルヴィウスが示している比例関係であり、トリグリフとメト ープの幅を2:3とする比例関係である。 基壇高(KH)については、円柱下部直径(D)の2/3という比例関係が見られた。スタイロベイト高 (StyH)と上段及び下段クレピス高(KHU、KHL)は基壇高(KH)の1/3となっていた。 KH = 2/3D (誤差 0.014m) StyH = 1/3 KH (誤差 0.006m) KHU = 1/3 KH (誤差 0.016m) KHL = 1/3 KH (誤差 -0.021m) 以上の比例関係から、考えられる設計過程は以下のとおりである。平面が基壇長(OL)から設計が 始まったのに対し、立面では柱間寸法(IW、IL)から始まったと考えられる。 1) 柱間寸法(IW、IL)から柱身高(SfH)を算出する。 2) 柱頭高は柱身高の1/10とし、円柱高を求める。 3) 円柱高の1/3をエンタブラチュア高とする。 4) エンタブラチュア高を「3:3:1 = アーキトレイブ高:フリーズ高:コーニス高」に分割す る。 5) 基壇の高さは円柱下部直径の2/3とし、それを3等分してスタイロベイトやクレピスの高さを 決定する。 (2)立面の設計過程 比例関係より考えられた設計過程を辿りながら、古代尺へと換算する。古代尺への換算は表6-3にま とめて示す。 SfH = 2 IW = 16 5/8 ft. SfH = 2 IL = 16 1/4 ft. 正面・側面それぞれの柱間寸法との比例関係が見られるので、どちらの比例関係をも満たし、且つよ り単純な尺度の値、つまり間の値16 1/2 ft.(誤差 -0.002m)を柱身高(SfH)とした。 - 68 - 柱頭高(CapH)は柱身高(SfH)の1/10とし、柱身高(SfH)と柱頭高(CapH)との合計から柱高 (H)が求まる。或いは、柱間寸法(IL)の1/5倍として算出される。 CapH H = 1/10 SfH = 1 13/20 ft. = 1 ft.10 2/5 dactyl → 1 5/8 ft. (誤差-0.001m) = 1/5 IL = 1 5/8 ft. (誤差-0.001m) = SfH + CapH = 18 1/8 ft. (誤差-0.003m) エンタブラチュアの高(E)は、柱高の1/3で算出される。 E = 1/3 H = 6 1/24 ft. = 6 ft. 2/3 dactyl → 6 ft. 次に、エンタブラチュア高(E)を分割し、アーキトレイヴ高(AH)、フリーズの高(F)、コーニ ス高(C)としていることが分かる。 AH F C = 3/7 E = 2 4/7 ft. = 2 ft. 9 1/7 dactyl → 2 9/16 ft. = 3/7 E = 2 4/7 ft. = 2 ft. 9 1/7 dactyl → 2 9/16 ft. = 1/7 E = 6/7ft. = 13 5/7 dactyl → 13/16 ft. (誤差 -0.008m) (誤差 -0.008m) (誤差 0.007m) エンタブラチュア高(E)を再計算すると、E = AH + F + C = 5 5/16ft.(誤差 -0.009m)となる。 円柱上部直径(d)は、円柱下部直径(D)との比例関係によって算出される 柱頭に関しては、アバクスとエキヌス、ネッキング、アニュレットから構成され、アバクスの高(AbH) に関しては柱頭高(CapH)とアバクス幅(AbW)は円柱上部直径(d)との比例関係がそれぞれ見ら れた。 AbH AbW = 3/8 CapH = 39/64 ft. = 9 3/4 dactyl → 5/8 ft. (誤差 -0.007m) = 1 1/3 d = 3 3/4 ft. (誤差 -0.001m) 背面に関しては、正面の部材で柱高(H)が決定された後、背面柱身高(SfH-B)を正面柱間寸法(IW) との比例関係より求め、背面柱頭高(CapH-B)が柱高(H)から背面柱身高(SfH-B)を引いて決定 される。 SfH-B = 2 IW = 16 5/8 ft. (誤差 -0.009m) CapH-B =H − SfH-B = 1 1/2 ft. (誤差 0.006m) 背面アバクス高(AbH-B)は背面柱頭高(CapH-B)との比例関係、背面アバクス幅(AbW-B)は側面 円柱下部直径(DL)との比例関係から求められる。 AbH-B = 3/8 CapH-B = 9/16 ft. AbW-B = 1 1/3 d-B = 3 7/12ft. - 69 - (誤差 -0.007m) = 3 ft. 9 1/3 dactyl → 3 9/16 ft. (誤差 0.008m) エキヌスとネッキング、アニュレットに関しては、柱頭高(CapH)からアバクス高(AbH)を引いた 残りをエキヌス(EchH)、ネッキング(Nk)とアニュレット(An)に2等分した。背面エキヌス(EchH-B) も同じように、背面柱頭高(CapH-B)から背面アバクス高(AbH-B)を引いた残りを2等分した内の 一つとして求められる。 EchH =(CapH − AbH) EchH-B Nk + An = 1/2 ft. (誤差 0.008m) =(CapH-B − AbH-B)÷ 2 = 15/32 ft. (誤差 0.008m) = 7 1/2 dactyl →7/16 ft. (誤差 0.009 m) =(CapH − AbH) 2 2 = 1/2 ft. ネッキング(Nk)とアニュレット(An)はこれを更に8等分し、5つをネッキング(Nk)に、残りを アニュレット(An)へと配した。 NH =(CapH - AbH)÷ 2 ×(5/8) = 5/16 ft. (誤差 0.002m) An =(CapH - AbH)÷ 2 ×(3/8) = 3/16 ft. (誤差 -0.009m) アーキトレイヴ幅(AW)、背面アーキトレイヴ幅(AW-B)に関しては以下のように算出された。 また、トリグリフ幅(T)は正面・側面の柱間寸法で同じ比例関係が見られた。 AW = AbW − 1/2 ft. = 3 1/4 ft. (誤差 0.000m) AW-B = AbW-B − 1/2 ft. = 3 1/8 ft. (誤差 0.002m) T = 1/5 IW = 1 27/40 ft. = 1 ft. 10 4/5 dactyl → 1 5/8 ft. = 1/5 IL = 1 5/8 ft. (誤差 0.000m) また、基壇は、上からスタイロベイト、上段クレピス、下段クレピスで構成され、それぞれの高さ は、基本的には基壇高(KH)を3等分して求められたと考えられる。しかし、計算上は、基壇高(KH) からスタイロベイト高(StyH)、上段クレピス高(KHU)を比例関係で求め、基壇高(KH)からス タイロベイト高(StyH)と上段クレピス高(KHU)を引いた残りとして、下段クレピス高(KHL)が 求められた。 KH = 2/3D = 2 1/3 ft. StyH = 1/3 KH = 19/24 ft. = 12 2/3 dactyl → 13/16 ft. = 1/3 KH = 19/24 ft. = 12 2/3 dactyl → 13/16 ft. = KH — StyH — KUH = 17/24 ft. KUH KHL KH = StyH + KUH + KHL - 70 - (誤差 -0.003m) (誤差 0.007m) → 3/4 ft. (誤差 -0.010m) = 1 3/8 ft. (誤差 -0.006 m) (3)まとめ 正面では、柱間寸法から柱身高が、柱身高から柱頭高が、単純な比例関係で求められ、これの合計 が円柱高さとなった。背面では、柱間寸法が正面とは異なっており、これから正面と同じように柱身 高さを求めた。しかし、先に正面での設計で円柱高さは決定済みであるため、円柱高さと柱身の高さ の差が柱頭の高さでとされたと思われる。 次に、柱高(H)の1/3として、エンタブラチュア高(E)が求められ、これを分割して、エンタブ ラチュアの構成要素のそれぞれの高さが求められた。また、円柱下部直径から基壇の高さが求められ、 これを分割して基壇を構成する各部の高さが求められたと考えられる。 6-4. ケラの設計 (1)ケラ各部寸法の比例関係 ケラの各部寸法相互における比例関係の一覧を表 6-4 に示す。 まず、ケラ平面の比例関係については、ケラ正面幅(CW、以下「ケラ幅」と呼ぶ)とプテロン幅 (PtW)は神殿幅(W)との間に単純な比例関係が見られた。ケラ幅(CW)を神殿幅(W)の 3/5 と し、残りをプテロン幅(PtW)とした。また、ケラの長さ(CL)は、側面柱間寸法(IL)と比例関係 が見られた。 CW = 3/5 W (誤差 0.052m) PtW = 1/5 W (誤差 -0.026m) CL = 10 1/2 IL (誤差 -0.014m) ケラは正面からプロナオス長(PNL)、ナオス長(NL)、オピストドモス長(ONL)と呼ばれる3つ の部屋で構成されており、すべての部屋の長さは側面柱間寸法(IL)との比例関係が見られた。ケラ の幅と長さ、プロナオス長(PNL)、ナオス長(NL)、オピストドモス(ONL)はトイコベイトの外側 での寸法を採っている。 PNL = 2 IL (誤差 0.004m) NL = 7 IL (誤差 -0.004m) ONL = 1 1/2 IL (誤差 -0.014m) そして、ケラ長(CL)は、これらの合計として求められ、プテロン長さ(PtL)14)は、神殿長(L)か らケラ長(CL)を引き、これを2等分して求められたと考えられる。 ナオス長(NL)の内部に関しては、正面からc、b、a(図6-1中に示す)から構成されている。「c」 はナオス入口敷居の外端から内部に1地番目の側柱中心までの距離、その側柱中心から、最奥のコリ ント式円柱の中心までの距離が「b」、コリント式円柱中心からナオスの背壁、オピストドモス側のト イコベイト端までの距離が「a」であり、ナオス長(NL)= a+b+cとなる。 a = 2 1/4 IL (誤差 -0.032m) - 71 - b = 4 IL (誤差 0.039m) c = 3/4 IL (誤差 -0.041m) 上記の様に、ナオス長(NL)内部においても側面柱間寸法(IL)との比例関係が見られた。よって、 ケラの長さ方向に関しては、外部、内部とも側面柱間寸法(IL)との比例関係によって、寸法決定が なされたことになる。 ケラ幅(CW)は「柱間数+単純な分数」 プロナオス柱間寸法(I-D)という規則が見られた。ま た、この逆の比例も成立している。 CW = 3 1/3 I-D (誤差 0.007m) I-D = 3/10 CW (誤差 -0.002m) 内部柱の配置は、幅方向はケラ幅(CW)を分割することにより求められている。 g = 1/2 CW (誤差 0.030m) h = 1/4 CW (誤差 -0.015m) なお、「g」は、イオニア式付柱心々間距離(以下「付柱柱間幅」と言う)で、「h」は、トイコベイ ト端からイオニア式付柱中心までの距離(以下「付柱距離」)である。「b」は4本の付柱柱間寸法の 合計であり、これを4分割して、付柱柱間寸法(I-NL)は求められたと考えられる。 I-NL = 1/4 b (誤差 0.000m) プロナオスの円柱下部直径(D-D)は正面柱間寸法(IW)と側面柱間寸法(IL)との間に同じ比例関 係が見られた。誤差は大きいが、同じ比例関係がプロナオス柱間寸法(I-D)との間にも見られる。ま た、付柱下部直径(D-NL)とコリント式円柱下部直径(D-C)は側面柱間寸法(IL)との比例関係が あるようだ。 D-D = 1/3 IW (誤差 0.000m) = 1/3 IL (誤差 0.020m) = 1/3 I-D (誤差 0.035m) D-NL = 1/4 IL (誤差 -0.009m) D-C = 1/4 IL (誤差 0.006m) ケラ内部の立面、つまりプロナオス、オピストドモスの立面については、プロナオス、オピストド モスの床がスタイロベイトよりもわずかに上がっている。この高さのことをトイコベイト高(TH)と 呼ぶ。トイコベイト高(TH)は基壇高(KH)との比例関係があるようだ。 TH = 1/8 KH (誤差 0.008m) また、プロナオス、オピストドモスには2本のドリス式円柱が建っており、このドリス式円柱は周柱 のドリス式円柱よりも小さく設計されている。円柱は、柱身高(SfH-D)、柱頭高(CapH-D)の合計 が柱高(H-D)なるが、何れもケラ柱間寸法(I-D)との比例関係があるかもしれない。 H-D = 2 1/8 I-D (誤差 -0.011m) SfH-D = 2 I-D (誤差 0.080m) - 72 - CapH-D = 1/6 I-D (誤差-0.019m) アバクス高(AbH-D)は柱頭高(CapH-D)との間に以下のような関係が見られた。これはペリスタ イルのアバクス高(AbH)と柱頭高(CapH)の関係と同じになっている。 AbH-D = 3/8 CapH-D (誤差 0.018m) フリーズ高(F-D)は、ペリスタイルの場合と同じく、エンタブラチュア高(E-D)の3/7倍として 算出される。しかし、アーキトレイヴ高(AH-D)やコーニス高(C-D)は、別の比例関係となってい る。 AH-D = 2/5 E-D (誤差 0.004m) F-D = 3/7 E-D (誤差 0.018m) C-D = 2/11 E-D (誤差 -0.004m) ところが、この神殿では、ケラ上部においては、コーニスの上に天井が架けられる。ペリスタイル上 ではフリーズ上面が天井を受けている。即ちこのレベルで高さが一致するよう、設計されなければな らない。従って、比例関係だけから、プロナオスのエンタブラチュア寸法が決定されたとは考えにく い。 ナオス内部の立面は、ケラ内部よりも更に床が上がっている。このトイコベイト上面からの高さを ケラ高(CH)と呼ぶ。ケラ高(CH)もトイコベイト高(TH)と同じように、基壇高(KH)との比 例関係が見られた。 CH = 1/2 KH (誤差 0.008m) ナオス内部にはコリント式円柱と石灰岩のイオニア式付柱、大理石のイオニア式付柱がある。円柱 上部直径(d-C、d-Il、d-Im)はそれぞれの円柱下部直径(D-C、D-NL)との比例関係があり、柱高(H-NL) は全て同じである。ナオス柱高(H-NL)は付柱柱間寸法(I-NL)との比例関係が見られる。 d-Im = 5/6 D-NL (誤差 -0.006m) d-Il = 5/6 D-NL (誤差 -0.002m) d-C = 3/4 D-C (誤差 0.014m) H-NL = 2 1/6 I-NL (誤差 0.021m) ナオス・アーキトレイヴ高(AH-I)、ナオス・フリーズ高(F-I)、ナオス・コーニス高(C-I)は それぞれナオス・エンタブラチュア高(E-I)と以下のような比例関係があり、エンタブラチュアを分 割して、細部の寸法を決めていることが分かる。 AH-I = 3/8 E-I (誤差-0.001m) F-I = 1/2 E-I (誤差-0.005m) C-I = 1/8 E-I (誤差 0.006m) 以上の分析より、先ず平面について以下の設計手順が考えられた。 1)プテロン幅(PtW)とケラ幅(PtL)は、神殿幅(W)を単純に分割することから求められた。 - 73 - 2)側面柱間寸法(IL)との単純な比例関係からプロナオス長(PNL)、ナオス長(NL)、オピスト ドモス長(ONL)を求め、ケラ長(CL)、プテロン長さ(PtL)を決定した。 3)ナオス内部の長さ方向に関して側面柱間寸法(IL)との比例関係で算出された。 4)ケラ内部の幅方向の寸法は、ケラ幅(CW)を分割することによって決定された。 次に、立面については以下の設計過程が考えられた。 1)ケラ内部、ナオス内部とも柱間寸法から柱高が求められてるようだ。 2)エンタブラチュア高を分割して、アーキトレイヴ、フリーズ、コーニスの高さが決定される。 3)プロナオスやオピストドモスのドリス式柱の高さに関する寸法は、その柱間寸法によって決定さ れていると考えられる。 (2)ケラの設計過程 プテロン幅(PtL)とケラ幅(CW)は、神殿幅は1:3:1に分割することにより決定されたと考え られる。実施の寸法の割り出しは、先ずプテロン幅(PtW)が神殿幅の1/5として求められ、神殿幅(W) からプテロン幅(PtW)を引いて、ケラ幅(CW)が求められたと考えられる。よって以下のような算 出がなされた。 PtW CW = 1/5 W = 8 17/20 ft. = 8 ft. 13 3/5 dactyl → 8 13/16 ft. (誤差 -0.015m) = W − 2 PtW = 26 11/16 ft. (誤差 0.002m) 一方、ケラの長さ方向に関しては、先ず、プロナオス、ナオス、オピストドモスの長さ(PNL、NL、 ONL)が、側面柱間寸法との単純な比例関係で求められ、その合計としてケラ長か求められる。 PNL = 2 IL = 16 1/4 ft. (誤差 0.011m) NL = 7 IL = 56 7/8 ft. (誤差 0.020m) ONL = 1 1/2 IL = 12 3/16 ft. (誤差 -0.009m) CL = PNL + NL + ONL = 85 5/16 ft. (誤差 0.022m) 正面・側面のプテロンの幅は、神殿長からケラ長を引き、それを2等分して求められたと考えられる。 PtL = (L — CL)÷2 = 15 19/32 ft. =15 ft. 9 1/2 dactyl (誤差 -0.010m) ケラ長(CL)は、側面柱間寸法(IL)との比例関係で表すと、10 1/2 ILとなり、神殿長(L)Lは 14 1/3 ILであるから、正面・側面のプテロン長(PtL)は、下記の様になる。 PtL =(14 1/3 IL − 10 1/2 IL) 2 = 1 11/12 IL この比は、些か複雑すぎて、やはり、プテロン長が決められた後にケラ長が算出されたとするには無 理がある。 ナオス長(NL)の内部の設計手順としてはa、c、bの順で行われた。それぞれを算出すると以下の ようになる。 - 74 - a = 2 1/4 IL = 18 9/32 ft. = 18 ft. 4 1/2 dactyl → 18 1/4 ft. (誤差 -0.014m) b = 4 IL = 32 1/2 ft. (誤差 -0.054m) c = 3/4 IL = 6 3/32 ft. = 6 ft. 1 1/2 dactyl → 6 1/16 ft. (誤差 -0.028m) ここで、a、b、cの合計56 13/16 ft.は、ナオス長(NL)よりも1dactyl短くなるので、bに1dactyl加え た(b = 32 9/16 ft.)。そしてaは、a中にある壁厚 15)を側面柱間寸法(IL)との比例関係より、3 1/16 ft. (誤差 0.007m)とした。aは、最終的に何らかの理由16)で、1dactyl短い18 3/16 ft.(誤差 0.007m)とな った。そして、cも調整され、1dactyl引いて6 ft.(誤差 -0.007m)となる。bは、結局3dactyl加えられた ことで、32 11/16 ft.(誤差-0.008m)となった。 付柱柱間寸法(I-NL)は単純にbを柱間数で分割して、そのまま施工された。 INL = 1/4 b ケラ幅(CW)は3 1/3 間数+1/3) = 8 11/64 ft. (誤差 -0.002m) ケラ柱間寸法(I-D)という比例関係となっているが、これはつまり「(柱 柱間寸法」という関係でできており、この関係式から、ケラ柱間寸法(I-D)が求めら れたと考えられる。プロナオスの第2柱位置寸法(f)はケラ幅(CW)からケラ柱間寸法(I-D)を引 いた残りを2等分し、両側にそれぞれ分けられた。hとgについては、まず、gの両側にあるhを先にケ ラ幅(CW)を分割することによって決定し、gはケラ幅(CW)から両側のHを引いて求められた。 I-D = CW 3 1/3 = 7 79/80 ft. = 7 ft. 15 4/5 dactyl → 8 ft. (誤差 0.001m) f = (CW − I-D) ÷ 2 = 9 5/16 ft. (誤差 0.011m) h = 1/4 CW = 6 21/32 ft. = 6 ft. 10 1/2 dactyl → 6 5/8 ft. (誤差 0.001m) = CW − 2 h = 13 3/8 ft. (誤差 0.021m) g プロナオスのドリス式の円柱下部直径(D-D)、付柱の下部直径(D-NL)とコリント式の円柱下部 直径(D-C)は以下のように求められた。 D-D = 1/3 IW = 2 37/48 ft. = 2 ft. 12 1/3 dactyl = 1/3 IL = 2 17/24 ft. = 2 ft. 11 1/3 dactyl →2 3/4 ft. (誤差 0.007m) D-NL = 1/4 IL = 2 3/64 ft. → 2 ft. (誤差 0.002m) D-C = 1/4 IL = 2 3/64 ft. → 2 1/16 ft. (誤差-0.003m) ドリス式の円柱下部直径(D-D)は正面柱間寸法(IW)と側面柱間寸法(IL)から求められる。また、 付柱の下部直径(D-NL)とコリント式の円柱下部直径(D-C)も、側面柱間寸法(IL)から求められ る。この場合、基本的にはこれらの円柱と関連する柱間寸法との比例関係から算出されることが予測 されるが、本心神殿においては、これらの円柱に関連する柱間寸法との比例関係から求める設計手順 - 75 - を見いだすことが出来なかった。これが正しいとすれば、この神殿にある4種類の円柱下部直径は、 全て側面の柱間寸法との比例関係から算出されたことになる。 立面については、まずトイコベイト高(TH)が基壇高から求められる。プロナオスにおいて、その 天井下面はペリスタイルのフリーズの上面のレベルとほぼ一致している。従って、プロナオスの柱高 (H-D)とエンタブラチュア高(E-D)高さ(OH;オーダー高さ)は、ペリスタイルの柱高(H)に アーキトレイヴ高(AH)とフリーズ高(F)を加えた高さから、トイコベイト高(TH)引いて算出さ れる。ただし、オーダー高さは、計算値より1 dactyl小さくされる。 KH OH = 1/8 KH = 19/64 ft. = 4 3/4 dactyl → 5/16 ft. = H + AH + F − TH = 23 1/4 ft. − 5/16 ft. = 22 15/16 ft. ⇒ 22 7/8 ft. (誤差 0.002m) (誤差 -0.001m) この1dactylについての説明は困難であるが、天井の設置に関連している様に思われる。 プロナオスの柱高(H-D)は、プロナオスの柱間寸法(I-D)との比例関係から求められ、エンタブラ チュア高(E-D)は、全高(H'-D)から柱高(H-D)を引いた残りとして算出される。 H-D = 2 1/8 I-D = 17 ft. (誤差 0.012m) E-D = OH − H-D = 5 7/8 ft. (誤差 -0.012m) エンタブラチュア高(E-D)は5 1/2等分され、そのうち1つをコーニス高(C-D)、残りを更に2等分 して、アーキトレイヴ高(AH-D)、フリーズ高(F-D)として、算出された。 C-D AH-D F-D =E (5 1/2) = 1 7/88 ft. = 1 ft. 1 3/11 dactyl → 1 1/16 ft. = (E − C-D)÷2 = 2 13/32 ft. = 2 ft. 6 1/2 dactyl → 2 3/8 ft. = (E − C-D)÷2 = 2 13/32 ft. = 2 ft. 6 1/2 dactyl → 2 7 /16 ft. (誤差 -0.004m) (誤差 0.009m) (誤差 -0.001m) なお、プロナオスのアーキトレイブ幅(AW-D)は、アバクス幅(AbW)から 1/4 ft.引くことにより 求められ、トリグリフの幅(T-D)は、プロナオス柱間寸法(I-D)の 1/5 倍として求められる。 AW-D = AbW-D − 1/4 ft. = 2 3 /4 ft. T-D = 1/5 I-D = 1/3/5 ft. = 1 ft. 9 3/5 dactyl = 1 5/8 ft. (誤差 0.000m) (誤差 -0.010m) 先に述べたように、プロナオスにおいて柱身高(SfH-D)と柱頭高(CapH-D)の合計である柱高(H-D) は、柱間寸法(I-D)の2 1/8 倍となっている。しかし、実際は柱頭高(CapH-D)は柱間寸法(I-D) の1/6倍となり、柱身高(SfH-D)は柱間寸法(I-D)の2倍より小さな寸法となっている。よって、柱 身高(SfH-D)を柱間寸法(I-D)の2倍というのは基本設計であり、この場合の柱頭高(CapH-D)は 柱間寸法(I-D)の1/8倍として、柱高(H-D)が2 1/8 IDで算出されたと考えられる。その後、施工の - 76 - 段階で、柱頭高(CapH-D)は変更されて、柱間寸法(I-D)の1/6倍となった。柱頭の高さは、1 5/16 ft. と算出されるが、もっと単純な1 1/4 ft(1 ft. 1 palm)とされた。 CapH-D = 1/6 I-D = 1 1/3 ft. → 1 5/16 ft. ⇒ 1 1/4 ft. (誤差 0.009m) 従って、柱身高(SfH-D)は、柱高(H-D)から柱頭高(CapH-D)を引いて算出される。 SfH-D = H-D − CapH-D = 15 3/4 ft. (誤差 0.003m) アバクス高(AbH-D)は柱頭高(CapH-D)との比例関係から、以下のように求められる。 AbH-D = 3/8 CapH-D = 63/128 ft. = 7 7/8 dactyl → 1/2 ft. (誤差 0.011m) 円柱上部直径(d-D)は円柱下部直径(D-D)との比例関係から求められ、円柱上部直径(d-D)との 比例関係からアバクス幅(AbW-D)が算出される。アバクス幅(AbW-D)は最終的に1dactyl加えられ、 3ft.となった。 d-D AbW-D = 4/5 D-D = 2 1/5 ft. = 2 ft. 3 1/5 dactyl → 2 3/16 ft. = 1 1/3 d-D = 2 11/12 ft. = 2 ft. 14 2/3 dactyl → 2 15/16 ft. ⇒ 3 ft. (誤差 0.008m) (誤差 0.006m) ナオス内部は、ケラ高(CH)が先ず決定される。ケラ高(CH)が決定されると、ナオスの柱高(H-NL) とエンタブラチュア高(E-I)、つまり全高(OH-N)は周柱の柱高(H)とアーキトレイヴ高(AH) とフリーズ高(F)の合計からトイコベイト高(TH)とケラ高(CH)、さらに1 dactylを引いて算出さ れる。ここでもプロナオス・オピストドモスの全高(OH)と同じように1dactyl引くということから、 天井を架ける問題などから、1dactyl下げることを意図していた可能性が高い。 CH = 1/2 KH = 1 3/16 ft. OH-N = H + AH + F − CH − TH − 1 dactyl = 21 11/16 ft. H-NL = 2 1/6 I-NL =17 271/384 ft. = 17 ft. 11 7/24 dactyl → 17 3/4 ft. (誤差 -0.005m) (誤差 -0.003m) (誤差 0.002m) そして、エンタブラチュア高(E-I)は全高(OH-N)から柱高(H-NL)を引いた残りとされた。 E-I = H'-NL − H-NL = 3 15/16 ft. (誤差 -0.005m) 更に、エンタブラチュア高(E-I)を8等分して、3つ分をアーキトレイヴ(AH-I)、4つ分をフリーズ 高(F-I)、残り1つをコーニス高(C-I)に配分して、算出される。 AH-I F-I = 3/8 E-I = 1 61/128 ft. = 1 ft. 7 5/8 dactyl → 1 1/2 ft. ( = 1/2 E-I = 1 31/32 ft. - 77 - 誤差-0.010m) C-I = 1 ft. 15 1/2 dactyl → 1 15/16 ft. = 1/8 E-I = 63/128 ft. = 7 7/8 dactyl → 1/2 ft. (誤差 0.003m) (誤差 0.003m) イオニア式付柱の上部直径(d-Im、d-Il)はそれぞれイオニア式付柱の下部直径(D-NL)から、コリ ント式円柱の上部直径(d-C)はコリント式円柱の下部直径(D-C)から算出される。 d-Im d-Il d-C = 5/6D-NL = 1 2/3 ft. = 1ft. 10 2/3 dactyl → 1 5/8 ft. = 5/6 D-NL = 1 2/3 ft. = 1ft. 10 2/3 dactyl → 1 11/16 ft. = 3/4 D-C = 1 35/64 ft. = 1ft. 8 3/4 dactyl → 1 9/16 ft. (誤差 0.009m) (誤差-0.007m) (誤差 0.006m) (3)まとめ ケラの平面においては、長さ方向は側面柱間寸法との比例関係により決定されており、幅方向は、 ケラ幅を分割し、求めていたことが分かった。ケラの立面では、まず、柱高を柱間寸法との比例関係 により求め、全高から柱高を引いた残りをエンタブラチュア高としている。アーキトレイヴ高、フリ ーズ高、コーニス高は、外側と同じようにエンタブラチュア高を分割して求めている。この手順は、 ナオス内部でも同様である。 6-5. まとめ (1)ヴィトルヴィウスの示す比例関係との比較・検討 ヴィトルヴィウスの述べる設計手順としては、まず正面のスタイロベイトからモドゥルスを決め、 モドゥルスから円柱下部直径が決定される。採用した柱間の種類によるそれぞれの比例関係に従って、 円柱下部直径から柱間寸法、柱の高さ、柱頭高さが決定される。また、柱の高さによって異なる比例 から、円柱上部直径とアーキトレイヴの高さが決まる。また、トリグリフとメトープは幅が 2:3 の比 となる。 ヴィトルヴィウスは、正面のスタイロベイトから円柱下部直径、円柱下部直径から主要部材の寸法 を決定しているのに対し、アポロ神殿では、正面のスタイロベイトから柱間寸法を決定し、柱間寸法 から他の部材寸法を決定している。円柱下部直径と柱間寸法という違いはあるが、全体からある部材 の寸法を決め、その部材との比例関係により、他の寸法を決定しているという流れは同じものである。 また、アポロ神殿のケラ幅やアーキトレイヴについては、分割によってその寸法を決定しているが、 これはヴィトルヴィウスも柱礎や柱頭に関しては分割によって、細部を決定する手順を示している。 ヴィトルヴィウスは柱間の種類によって、円柱下部直径と柱間寸法、柱の高さの比例関係が異なる ことを述べている。アポロ神殿では、ペリスタイルでは「柱間寸法=2 1/3 - 78 - 円柱下部直径」となり、 ヴィトルヴィウスの述べている密柱式の比例関係、 「柱間寸法=2 1/2 円柱下部直径」と近いものであ る。 円柱下部直径と柱の高さの関係については、ヴィトルヴィウスが述べている様な比例関係は見られ なかった。ただ、柱身の高さが柱間寸法の2倍程度として、神殿の内外で構想されたようである。 円柱の上部直径と下部直径の比は、ペリスタイル正面及びプロナオスで 4:5、ケラ内部のイオニア 式では 5:6、コリント式では 3:4 となっている。アポロ神殿の円柱の高さは、ローマ時代の尺度で あるペースに換算すると約 20 ペース弱となる。ヴィトルヴィウスは柱高が 15 ペース以下で 5:6、15 から 20 ペースの時は 11:13(5 1/2:6 1/2)、20 から 30 ペースの時は 6:7 の比を示している。円柱 の上部直径と下部直径の関係は類似しているものの、アポロ神殿の円柱は、ヴィトルヴィウスの示す 円柱よりかなり太いといえる。 トリグリフとメトープの幅は、ヴィトルヴィウスの述べるトリグリフ幅:メトープ幅= 2:3 とアポロ 神殿のトリグリフとメトープの幅の比は同じであった。 ヴィトルヴィウスの述べる比例の法則とアポロ神殿の設計法は、比そのものが類似するものもあれ ば、違うものもあり、必ずしも一致はしなかった。しかし、ほとんど全ての各部寸法が、相互の比例 関係でできていることやおおよそ下から順に各部寸法が決定されていくなど、方法論についてはヴィ トルヴィウスの比例の法則とあてはまる部分もあった。 (2)設計法についてのまとめ アポロ神殿の設計過程の復元を行った結果、平面、立面において次のような設計法があることが 分かった。 平面の設計法 1)基壇長を 120 ft.、基壇幅と基壇長の比を 2:5 として設計が始められた 2)スタイロベイト上の寸法を決定する際に、「(柱間数+単純な分数) 柱間寸法」 17)と言う規 則が使用されたと考えられるが、正面と側面の柱間寸法を同一寸法にするためにではなく、 神殿の基壇の寸法から柱間寸法を求める為に、この関係式が使用された。そのために、ま ず全体が求められたので、正面と側面の柱間寸法が異なった値となった。また、上記と同 じ規則はケラ幅とケラ柱間との間についても見られた。 3)平面上の各部寸法は、柱間寸法との比例関係がある。 立面の設計法 1)柱間寸法から柱身高を求めることから設計が始められた。 2)エンタブラチュア高は、柱高の単純な比例関係で求められた。 3)基壇高とエンタブラチュア高では全体の寸法を決め、それを分割し細部寸法が決定された。 ケラの設計法 1)ケラ平面については、長さ方向は側面柱間寸法との比例関係により決定された。また、幅 - 79 - 方向については、ケラ幅を分割し、求めていた。 2)ケラ立面については、柱間寸法から柱高を求めることから設計が始められた。 3)エンタブラチュア高では全体の寸法を決め、それらを分割して細部寸法が決定された。 平面は、まず側面における寸法を決定していて、基壇から柱間寸法を決定し、スタイロベイトを求 める。次に、正面における寸法は、基壇からスタイロベイト、スタイロベイトから柱間寸法を決定し ている。円柱下部直径は正面、側面の柱間寸法との比例関係によって決められる。つまり、基壇の幅 や長さの寸法から、柱間寸法が求められ、その他の平面上の主要な寸法は、柱間寸法との比例関係に より寸法が求められた。スタイロベイト寸法は正面では 5 1/3 柱間寸法、側面では 14 1/3 法という関係が見られた。また、ケラの平面設計において、ケラの幅は 3 1/3 柱間寸 ケラの柱間寸法となっ ている。 立面においては、柱間寸法との比例関係より、柱身高さを求め、柱身高さより柱頭高さを算出し、 柱高とする。エンタブラチュア高を柱高より求め、エンタブラチュア高を分割し、アーキトレイヴ高、 フリーズ高、コーニス高とした。つまり、前に求められた寸法から次の寸法が決定していくという手 順と全体を分割し、細部寸法を決定していくという2つの手順が見られた。 また、ケラに関しては、平面は正面のスタイロベイトを分割して求め、ケラの長さについては、側 面柱間寸法との比例関係により決定している。立面は柱間寸法より柱高、柱頭高さを求め、柱身高さ を算出する。基壇高よりケラ高、トイコベイト高を求めた後、全高を算出し、エンタブラチュア高が 決まる。エンタブラチュア高を分割し、アーキトレイヴ高、フリーズ高、コーニス高が決定する。寸 法上の微調整も見られたが、平面、立面とも基本的には長い寸法を分割して、細部の寸法が求められ ている。柱については、柱間寸法との比例関係から求めることが基本構想としてあった。 注及び参考文献 1) W.B.Dinsmoor, The Architecture of ANCIENT GREECE, New York, 1975, pp.46 A.W.Lawrence、GREEK ARCHITECTURE、Harmondworth、1973、pp.140 199 2) F. A. Cooper, THE TEMPLE OF APOLLO BASSITAS, Princeton、1996、pp.283 3) 前掲(F. A. Cooper)、pp.169 4) 38.342m は表記ミスではないかと思われる 5) 前掲(F. A. Cooper)、p.185 6) 前掲(F. A. Cooper)、p.230 7) 前掲(F. A. Cooper)、p.239 8) 前掲(F. A. Cooper)、pp.188 9) スタイロベイト端から隅の円柱中心までの距離 170 - 80 - 303 10) クレピス幅(KW)が側面柱間寸法(IL)より求められる場合、基壇長(OL)を側面柱間寸法(IL)との比例関係から求 め直した後、神殿長(L)は基壇長(OL)からクレピス幅(KW)を引いて求めたとも考えられる。 L = OL − 2 KW = 116 1/2 ft. また、神殿長(L)を側面柱間寸法(IL)から求め、神殿長(L)にクレピス幅(KW)を足して、基壇長(OL)を決定 するという考えもある。 OL 11) = L + 2 KW = 120 1/2 ft. 神殿幅(W)は正面柱間寸法(IW)との比例関係から求められたとも考えられる。 W = 5 1/3 IW = 44 1/3 ft. = 44 ft. 5 1/3 dactyl → 44 5/16 ft. そして、1dactyl 引いて 4/16 dactyl = 1 palm に丸めたとも考えられる。 12) 正面の柱間寸法(IW)と側面の柱間寸法(IL)がほぼ等しい寸法となっているときは、同じ柱間寸法(基準寸法;I)と 基壇寸法が比例関係にあると仮定し、基準寸法(I)を下記の様にして算出する。 I =(「神殿長の実測寸法」−「神殿幅の実測寸法」) (「側面の柱間数+k」−「正面の柱間数+k」) この計算式から求められる基準寸法(I)を古代の尺度の理論値をもとめ、基準寸法(I)を理論値で除して 1 ft.の長さを 算出する。しかし、バッサエのアポロ神殿では、正面柱間寸法と側面柱間寸法は明らかに異なっているため、この式は適 用出来ない。 13) J.J.クールトン著、伊藤重剛訳、古代ギリシアの建築家たち、中央公論美術出版会、1991、pp.77-82 14) ここでは、正面や背面のプテロン幅を「プテロン長さ」と呼んでいる 15) トイコベイトでの寸法 16) 詳細は分からないが、開口部の設計時に調整のため 1 dactyl 短くしたのかもしれない 17) ドリス式オーダーのフリーズに、トリグリフとメトープを順番に配置し、トリグリフと円柱の中心線は一致するといった ことから柱間がフリーズの制限を受け、設計上問題となることが多い。その中でも隅の柱間について一番問題となる。 先ず、隅の柱間においてトリグリフは、隅にこなくてはならなかった。また、隅のトリグリフに合わせてアーキトレイヴ を収めると、アーキトレイヴはトリグリフより幅が広いため、アーキトレイヴの中心線がトリグリフの中心線よりも内側 にくる。しかし、構造的に円柱はアーキトレイヴと中心線を合わせなければならないので、柱も内側に移動する。すると 隅の柱間は短縮されることになる。柱間を均一にすることを優先し、隅のフリーズ部材を延長することもあったが、隅の 柱間を短縮する方が多かった。この短縮は、あらかじめトリグリフやアーキトレイヴの上部部材の寸法を把握し、厳密な 調整を行ってスタイロベイト幅を決定すれば達成される。即ち、円柱のティルティングを考慮しなければ、短縮量は、 「(ア ーキトレイブの幅 — トリグリフの幅) 2」として算出することができる。これからティルティングの量を差し引けば、 実現すべき短縮量が算出される。 しかし、クールトン氏は建設の過程を考慮し、上部の設計は下部の設計が行われてから、つまり下から順に設計されたと 考えた。従って、隅の柱の短縮量は、フリーズ部材の寸法について考慮せず、あらかじめ短縮量を含んだ規則によってス タイロベイト幅が決定したとして、「(柱間数+単純な分数) - 81 - 柱間寸法」という規則を述べた。 単純な分数とは、1/3 や 1/4 で、この数値についてはクールトン氏が古代ギリシア建築の研究によって得られたものとし て示している。単純な分数を 1/3 として、隅の柱間寸法と通常の柱間寸法との関係を見る。まず、隅の柱間寸法と柱位置 寸法(スタイロベイト端から隅の円柱の中心までの距離)の合計は、「1 1/6 となる。密柱式の場合、 「標準柱間寸法=2 1/2 位置寸法=円柱下部直径の半分=1/5 円柱下部直径」となり、 「円柱下部直径=2/5 標準柱間寸法」となる。 「柱 標準柱間寸法」とおおよそなる。正確には、柱位置寸法に円柱とスタイロベイト端 の間の隙間を加えることになる。隅短縮量は「29/30 標準柱間寸法(隅柱間以外の柱間寸法、)」 また、円柱の下部直径が「標準柱間寸法 = 2 1/3 標準柱間寸法」に近い寸法となる。 円柱下部直径」の場合は、同様に計算すると、隅短縮量は「20/21 標 準柱間寸法」に近い寸法となる。即ち、クールトンが示しているスタイロベイトの幅や長さと標準柱間寸法との関係式は、 隅柱間短縮量を考慮したものであり、隅柱間寸法は円柱の下部直径や円柱からスタイロベイト端までの隙間の量により、 結果的に決定されるという考え方である。 - 82 -
© Copyright 2024 Paperzz