わが国の災害 1. はじめに わが国の自然災害は地震,火山,気象など毎年

 わが国の災害
1. はじめに
わが国の自然災害は地震 ,火山,気象など毎年のように被害を被っている.特に
長野県は日本の屋根といわれるように ,日本アルプスを擁する高地であり ,火山
活動,地震活動 ,梅雨前線及び台風の気
象現象による災害が続出,今また北海道
では,有珠山の噴火で大災害の危険が迫
っている.長野県においても草津白根,
焼岳,浅間山 ,御獄山は現在活動を続け
ている.
これら自然災害に伴うがけ崩れや土石
流は,土砂害として最も被害が大きいも
のである.
筆者は長野県を中心に研究を展開して
いるので,内陸と高山の侵食現象のきわ
めて活発な地域のこと,土砂生産の発生
機構について述べる.
2. 日本の地形・地質の特徴
1)地 形
A:ネザーランド作成1/40,000,(スマトラ,942,5
゜15'N,95゜30'E)
B:アメリカ地質調査 1/63,300(ベンデレベン (C6),195065゜34'N,164゜09'W)アラスカ C:オーストリア,1/50,000(クレムス,1959,47゜
52'n,14゜12'E)
D:1/50,000,大河原(1969,35゜35'N,138゜03')
E:1・50,000,庄原(1971,34゜55'N,133゜08'E)
広島県
F:1/ 50,000,仁宇布(1973,44゜34'N,142゜40'E)
北海道
等高線間隔:A,C,D∼F: 200m ,B :152.4m (日本の自然 ,1980)
図−1 山ひだのパターン
わが国の地形は複雑であるが ,地形の原形は ,地殻変動や火山活動によってつく
られている.原地形は氷河 ,流水,風,波などのエネルギー源が太陽の活動による
外作用(主として気候変化)で破壊 ,侵食,削剥そして堆積が起こり ,その期間中
に地殻変動および火山活動の内作用も加わって地形が形成される.変化に富ん
でいる日本の地形は,複雑で狭い範囲で異なる地形の組み合わせがみられる.こ
れをモザイク構造と呼んでいる(中野,小林 1959).日本の地形の起源は,100 万
年∼1000 万年で第三紀以降に形成されている.
赤石山地にみられるように ,激しい侵食作用は主として ,山崩れ,地すべり等に関
係している.わが国の細分化した山ひだは,激しい侵食作用の結果を象徴してい
る.
わが国の地形の特徴は,このように内部営力の影響が大きく関与している.それ
図−2 東アルプスと日本アルプスの地形の比較
は大半が地質的営力である.日本は北西太平洋の弧状列島群で,千島−東北日本
−伊豆小笠原と西南日本−琉球に分けられる.
2)地 質
(1)古い時代の地層群と広域変成岩
シルル紀から古第三紀までの約 4 億年東北日本を除く,主として西南日本に分布.
堆積岩の一部が変成作用を受けて,広域変成岩地帯となりこれが日本の骨格を形
成した.
(2)花崗岩と流紋岩
日本は花崗岩が多く分布して,約 120∼60Ma を示すので,白亜紀から古第三紀に
かけて貫入または噴出し流紋岩を伴う.
(3)新生代後期の地層群
沿岸部や内陸の古い時代の地層の上に堆積する新第三紀∼第四紀の地層が分布.
沿岸部のものは厚く,内陸は薄い.
(4)平野と台地の第四紀層
平野は国土の 1/6 に満たない.ここに人口の 70%が集中している.平野とそ
れよりやや高い台地には ,第四紀の後期以後 ,現在に至るきわめて新しい堆積物
〔火山灰(ローム)〕で覆われている.
糸魚川ー静岡構造線
東北日本
酒田
中央構造線
棚倉構造線
内帯
那珂湊
西南日本
柏崎−銚子線
外帯
フォッサ・マグナ
図−3 日本列島の地質構造
(5)火山
200 余りの火山は火山地形を残し
ている.国立公園の 1/4 を占め
温泉を伴う.ここは自然災害の危
険性がきわめて高い.
第三紀
火山岩
6.0%
白亜系
6.9%
第四系
10.5%
第三系
21.1%
先第四紀
火山岩
6.9%
花崗岩
8.2%
第四紀
火山岩
7.7%
二畳系
13.7%
完新統
19.9%
図−4 日本の地質面積
3. 日本の災害の特徴
わが国は国土の形状 ,地形,位置関係などの特性から ,自然災害が発生しやすい条
件をもっている.6 月上旬から 7 月中旬にかけては大雨が降り(梅雨期),7∼10
月には赤道付近で発生した台風が数個来襲する.また冬期には,日本海側各地に
表−1 世界の多雨地
順位
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
観測点
年降水量 観測年
順位 観測点
年降水量 観測年
尾鷲
4001.9
1999
22 福江
2372
1999
八丈島
3073.2
1999
23 福井
2368.3
1999
高田
2880.3
1999
24 Kuala Lumpur 2343.8 1961-1990
名瀬
2870.7
1999
25 静岡
2326.9
1999
大島
2831.1
1999
26 富山
2295.9
1999
Libreville
2743.2 1961-1989
27 Manaus
2277.5 1961-1990
Guam
2652.7 1961-1990
28 輪島
2264.8
1999
Menado
2651.8 1962-1990
29 鹿児島
2236.8
1999
潮岬
2640.9
1999
30 香港
2223.2 1961-1990
金沢
2592.6
1999
31 Tacloban
2220.4 1961-1990
高知
2582.4
1999
32 Singapore
2171.5 1961-1984
Kota Bharu
2569.2 1961-1990
33 台北
2161.3 1961-1988
Dibrugarh
2536.8 1961-1990
34 厳原
2139.2
1999
Georgetown
2488.8 1967-1990
35 Turiacu
2091.6 1951-1960
清水
2487.7
1999
36 Brazzaville
2082.1 1961-1989
室戸岬
2435.5
1999
37 Salvador
2079.3 1961-1990
宮崎
2434.6
1999
38 Tarawa
2070.7 1961-1990
Recife
2430.6 1961-1990
39 Aparri
2070.4 1961-1990
Yangon
2426.1 1961-1990
40 恒春
2055.5 1981-1988
敦賀
2418.9
1999
41 那覇
2036.8
1999
Port Harcourt 2402.8 1961-1977
42 I l o i l o
2024.6 1961-1990
相当量の積雪をもたらし,時には豪雨となって大きな被害をもたらす.さらに環
大平洋地震帯,環太平洋火山帯上にあるため ,地震が頻発し,火山活動による被害
も多い.こうした自然条件に加えて ,狭い可住地域に多数の人口が集中し ,高度
な土地利用と経済・社会活動が行われることによって,災害による被害を大きく
する可能性を高くしている.防災対策の向上は急を要する問題である.1993 年
は大きな地震と風水害によって多数の犠牲者を出した年であった.とりわけ 7
月に発生した北海道南西沖地震による奥尻島の被害と 8 月に起きた集中豪雨と
台風による九州南部地方の被害 ,前述した阪神・淡路大震災の悲惨な状況は ,自
然災害の恐ろしさをあらためて認識させられた.
3)降水量及び積雪量
わが国は海に囲まれた島国なので,世界でも多雨地帯に入り表ー1に示すように,
理科年表に記載されている世界の 42 観測点のうち 2000 ㎜を超える観測点に 20
地点が入る.1 位の尾鷲から5位の大島まですべて日本である.更に豪雪地帯
を持つ国でも有る.図−5 には,世界の豪雪地を示してあるが,倶知安から富山ま
での間に世界ではジュノーとバッファローの2地点しか入らない.まさに日本
は世界一の豪雪地帯を持っているのである.
夏の終わりから秋にかけて襲来する台風は,図−6 に台風の経路を示したように,
図−5 世界の多雪地域
(㎝)
1500
倶知安
●
年
間
累
計
降
雪
深
1000
十日町
●
ジュノー
●
新庄
青森
●
● 岩見沢
●
500
● 上越
● 旭川
● バッファロー
● 富山
●
新潟
札幌
●
ハルピン ●
●
キエフ
モントリオール
ミネアポリス ヘルシンキ
●
●
● ウイーン
ストックホルム
●
トロンハイム
● ミュンヘン ブタペスト
● ●
● ● ● オスロ ●
●
ベルリン
インスブルック
0
0
50
100
150
200
250
300
チュ−リッヒ
サンクト・ペテルブルグ
●
350
400
450
500
人口(万人)
多雪地帯にある都市
大石・川島(1998)図を筆者一部改変
これまでのほとんどの台風が本
州を縦断している.
河川の状況を見てみよう.図ー
7にはわが国と代表的な大陸を
流れる河川の河床勾配曲線を描
いてある.わが国の大河川信濃
川や利根川も急流河川であるこ
とが明確である.
自然現象からみると山奥の源流
に発する川は,多くの支流を集め
大海に注ぐ.明治政府に招かれ
たオランダの河川技師は,日本の
河川をみてこれはまるで滝だと
言ったと伝えられている.オラ
ンダのようなライン川河口
図−6 台風の経路
常
m
1000
標
阿
願
寺
川 富 木
士 曾
川 川
800 部
川
400
利
200
根
川
0
0 100
200
みえないような川をみ
コロラド河
濃
川
川
300
の国では,流れる方向も
川
信
吉
野
600
高
デュランス川
ロアール河
最
上
ているから , 利根川 , 信
濃川及び淀川をみても
セーヌ河
まして木曽川や天竜川
ローヌ河
をみれば滝にしかみえ
メコン河
400
500
600
700
800
900
ないだろう. 日本列
1000 ㎞
河口からの距離
島では脊梁山脈が分水
嶺となって,日本海へあ
図−7 河川の勾配曲線の比較
るいは太平洋に注ぐから,大陸のような長大な河川にはならない.
だからこそ必然的に急流であり,土砂を流す河川となるのである.
【低地に展開するため常に水害にさらされている大都市】
(%)
100
80
60
【わが国の大都市
注:フランスはパリ(セーヌ川沿い)のデータ
ドイツはケルン市(ライン川沿い)のデータ
イタリアはポー川流域のデータ
のハンディキャップ
64
51
大都市はほとんど例
40
外なく,河川の氾濫区
20
0
はこれだけではない.
9
日本
アメリカ
17
7
イギリス
7
フランス
ドイツ
17
イタリア
域(洪水時の水位より
オランダ
図− 8 全人口に対
する洪水氾濫危険区
域内人口の割合
も低い区域)に立地している.これはわが国の都市の成り立ちを考えれぱやむを
得ないことでもある.縄文時代末期から弥生時代初期にかけて,わが国社会は狩
猟・採集の時代から水田耕作の時代へと歴史的転換を果たした.水田耕作の開
始と縄文海進後の海面の後退とともに人々は河川周辺の平地に定住し集落を形
成し,食料生産力を増大させ ,人口も飛躍的に増加したとされている.その過程
を経て国家が成立するとともに,文化や伝統も形作られていった.まさに氾濫原
はわが国の文化そのものを形成してきたのだが ,現在では,国土の 10%に当たる
東京
山
手
線
隅
田
川
大
横
川
(m)
横
十
関
川
旧
中 荒中
川 川川
▼
▼
旧
江
戸
川
新
中
川
(m)
10
10
▼
▼
0
大阪
淀
川
古
川
(m)
10
▼
▼
▼
0
十
寝 六 玉
屋 箇 串
川 用 川
片水
町
線
第
二
寝
近屋
鉄川
奈
良
線
近
畿
大
阪
線
関
西
線
大
和
川
平
野
川
10
0
0
ケ
ン
テ
ィ
ッ
シ
ュ
タ
ウ
ン
ロンドン
(m)
150
100
テ
国
ロ 会 ム
ン 議 ズ
ド 大事 川
ン 英堂
大博
学物
館
ブ
ラ
ク
ウ
エ
ル
パ
|
ク
(m)
150
100
50
50
0
0
-50
-50
5
0
10
15
エ
ッ
フ
ェ
ル
塔
パリ
(m)
150
100
20
25
セ
|
ヌ
川
セ
|
ヌ
凱
川
旋
門
セ
|
ヌ
川
50
(ⅿ)
150
100
50
0
0
-50
0
30(㎞)
-50
5
10
15
20
25(㎞)
図−9 東京、大阪,ロンドン,パリの断面と水位
氾濫区域に人口の五〇%,資産の七五%が集中するに至った.氾濫区域内人口を
諸外国と比較した図を図−8 に示すが,低平地で有名なオランダを除げば,欧米主
要国の氾濫区域内人口は日本よりもはるかに低い.これをわかりやすく示した
のが図−9 の四つの例である.図−9 の最上段は東京の江東地区の蕨面を示し
写真−1 ロンドン(テムズ川と国会議事堂)
自然災害のうち台風、大雨、強風、高潮、地震、津波災害について集計し
たものであり,合計に雪崩災害は含んでいない.1983 年()内:津波による死
者数 1991 年,1993 年()内:火砕流による死者数 雪崩については,保全
人家等がある雪崩危険箇所における被災集計であり,それ以外の場所で,たと
死
者
及
び
行
方
不
明
者
(人)
300
250
200
150
100
50
0
637
239
崖土洪雪
崩石水崩
204
376 194
れ流・
202
259
・そ
171
175
239
の
154
地
152
175
129
す他
126
114
べ
100 183
202 242
109
り
82 8189
89 93
82
70 71 72
69
70
81
60
53
54
44 40 49
32
34
2722
19
25
23
16 23
13 14
18
5
20
4
812
0
68
69
70
71
72
73
74
75
西暦年
76
250
79
80
81
425
251
284
177*
200 185
171 (100)
152
150
508
100
82
崖土洪雪
崩石水崩
れ流・
・そ
地の
す他
194
(43)
127
141
101
88
97
71
105
べ
55
59
(1)
38
46 (43)
54 4149 48 り 32 59
38
29 29
32
20 21
15 25 1730
6
33
2618
12
14 10
14 19
12
11
8
16 9 15
15
12 9
3
4
1
43
1
5
3
1 4
0
83
84
85
86
87
88
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98
西暦年
78
50
0
78
6,314
6,268
(人)
300
死
者
及
び
行
方
不
明
者
77
図−10 自然災害による原因別死者・行方不明者数(1968∼1998 年)
4322
(件)
3600
2,000
3872
2288(59)
火砕流(雲
仙・普賢岳)
土石流
地すべり
(1959(51))
発
生
件
1,000
数
500
1727(63)
171(4)
127
0
2368(19)
317(20)
942(50)
4035(94)
(3919(91))
(2755(77))
1135
152(9)
1063
1021
157(15)
180(14)
893
198(7)
1413(37) (4(0))
183(10)
168(17)
(124(3))
1160(71)
852(67)
128(5)
(305(34))
656
130(7)
122(3)
853(81)
131(13)
200(30)
273(27) 917(81)
136(12)
(780(74)) 413
111(17)
0
1629
2879(80)
災
害
1881
がけ崩れ
(329(8))
1,500
2741
91(22)
(116
(3)) (73(7)) 258(62)
345(53)
55(1)
599(17)
347(39)
68(6)
64(16)
232(5)
142(13)
89
90 91
92
93 94 95 96
西暦年
97
638(25)
627(33)
565(55)
98 89∼98
94∼98
89∼93
10年平均
5年平均
図−11 近年の土砂災害の傾向
(土砂害の実態(1998)より一部改変)
えば登山者の登山中の雪崩による被災等は含まれていない.1996 年 12・6 蒲原
沢土石流災害による死者は含んでいる.
たものである.見やすくするために ,高さと長さの比を変えているが ,東京下町
の断面を切るとこのようになる.荒川や隅田川など多くの河川では,地盤高より
も洪水時の水位 (国中,河川断面における▽)のほうが高くなっている.言い換え
ると,洪水のときには人々が立っている大地のはるか上を ,場合によっては二階
建ての屋根くらいの高さを水が流れていくことになる.このた b,堤防が決壊し
たときには,どっと水が押し寄せてくることになる.世界の主要都市では ,堤防
に守られて人々が暮らしているという状況は稀である.たとえば ,ロンドンや.
ハリの断面を見てみると,図−9 の下段に示すように,ロン−トンやバリの街はテ
ムズ川やセ−ヌ川の洪水時の水位よりも高い位置に立地している.また,川その
ものにも大きな特徴がある.日本の川は ,世界の主要な河川と比較すると ,比べ
ものにならないほどの急流となっている.図−7 は河川の勾配を示しており,グ
ラフが横軸に近いほど河川の勾配は緩く ,縦軸に近いほど勾配が急であることを
示している.たとえば,アマゾン川を延々4000 ㎞も湖上し,ブラジル国境を越え,
たどり着くペルーの都市イキトスは,ペル−国内にあるアマゾン川沿いで最大の
港町であるが,標高はわずか 100m_あまりである.また,ミシシッ.ヒ川について
は,源流は河口から約 3800 ㎞上流にあるが,標高は 450m_に過ぎない.一方,日
本の河川は,最も大きな利根川でさえ標高 100m_に達するのは約 200 ㎞とアマ
ゾン川の 20 倍の勾配,富山県の常願寺川に至っては 100 倍以上の勾配となって
いることがわかる. .この結果,日本の川では ,雨が降るとあっという間に大きな
流れとなり,一気に洪水となって上流から下流の都市に流れ下る.さらにその都
市では,洪水が市街地の地盤高よりもはるかに高いところを流れるのである.】
3 土砂災害
1)土砂害の概要
平成 8 年の土砂災害等の発生状況は,土石流等が 91 件,地すべりが 64 件,がけ崩
れが 258 件,雪崩が 28 件であり,全国 44 都道府県で合計 441 件が報告されてい
る.土砂災害の特徴としては,土石流,地すべり,がけ崩れ,雪崩いずれも発生件数,
死者・行方不明者数,負傷者数が最近 10 年間で最低もしくは最低に近い数字と
図−12 中部地域の地震,火山,活断層
◎
◆
◆
▲
◆ ▲
◎ ◆▲
▲ ▲▲
◆
※▲ ※
※ ◆
◆ ◎▲※
◎ ▲▲
◆
▲▲
◆◆
▲◆
▲▲
※
横ずれ断層
右ずれ断層
左ずれ断層
マグニチュ−ド
◎ 7.0 以上
◆ 6.0∼6.9
◆ ▲ ◆ ※
▲ ◎
◎
▲
▲ ※
▲
◆ ◆▲ ※◆
▲
▲ ◆
▲
※
▲
▲
▲ ◆
◎
◎◆
◆
◎
◆
※
◆
▲
◆◆
◆◆◆
◆
▲◎◎
▲
◎
◎◎
◎
◆
◆ ◆◆
▲▲◆◆
◆
▲▲▲
▲
▲
◆ ◆
◆
▲
◎
◆ ◆▲
◎
▲▲
▲▲
0
50Km
▲
5.9 以下
火 山
なっており,例年に比べて災害の少ない年であった.以下 ,主な災害の概要を示
す.平成 8 年の土石流災害等の発生件数は 91 件であり,昨年の発生件数である
30 件から大幅に減少した.過去 10 年間の年問平均発生件数の 184 件と比較し
ても半分以下の件数である.特記すべき災害としては,12 月 6 日に長野・新潟
県境の清原沢の土石流である.発生原因は今後の調査等で明らかにされるが ,前
年の災害復旧工事等に従事していた工事関係者に死者 14 名,負傷者 9 名を出す
事故となった.年間を通じた災害状況としては,蒲原沢以外で土石流等による地
域住民等の死者・行方不明者および負傷者の被害はなく,また家屋被害について
は全壊 13 戸(全て山林火災),半壊 1 戸,一部破損 2 戸となっている.6−7 月に
かけて主に梅雨前線による豪雨により発生した土石流は,丸州地方を中心に全国
で 31 県にのぼる.6 月 17 日から 18 日にかけて長崎県雲仙・普賢岳周辺で 214mm
の連続雨量があり,中尾川で土石流が発生し島原市の県道愛野島原線が埋没・損
壊した.6 月 25 日には,前年の豪雨災害に見舞われた長野県小谷村で,連続雨量
192mm を記録した.土石流の発生は 1 件と少なかったものの,姫川の氾 i 監等に
より,国道 148 号線が再び長期間通行不能となるなどの被害が発生した.梅雨前
線以外の集中豪雨における土石流は全国で 24 件発生した.7−8 月にかけ北海
道駒ケ岳山麓では鹿部町鹿部押出沢等にて,延べ 21 件の土石流が発生(台風の
豪両によるものも含む),別荘地や町道等へ土砂が流出した.8 月 28 日には兵
庫県丹南町にて連続雨量 368mm の豪雨があり,当野川,中谷川で土石流が発生,舞
鶴自動車道が埋没・損壊し 3 日間通行禁止となった.応急復旧後も上り線で一
車線通行の状態が 12 月 19 日まで続き,地城経済に大きな影響を与えた.また同
町の小田川でも土石流が集落内を流下,半壊 1 戸の被害を出している.台風(温
帯低気圧に変化したものを含む)に係る集中豪雨により発生した土石流は 20
件であった.7 月 21 日,台風 6 号から変わった熱帯性低気圧の集中豪雨により,
静岡県藁科川にて土石流が,集落の中を流下し 10 戸が床下浸水,市道が流出した.
このほかにも台風 12 号,21 号による豪雨により鹿児島県等で土石流が発生した.
土石流以外の災害としては,大規模な山林火災が 4 月から 8 月にかけ徳島県一宇
村をはじめ 10 件発生した.また火山活勒については 3 月 5 日に北海道駒ケ岳
が 54 年ぶりに噴火し,七飯町の 30 人が一時避難した.この噴火により山頂付近
に降灰等が見られ,総噴出量は 25,000 トンに達した.7 月以降,同山麓において
例年になく頻発した土石流との関連性は不明であるが,何らかの因果関係も考え
られる.大分県丸重山では 5 月中旬に火山活動が極大となり地震,噴煙量に活発
化の兆しが見られた.火山噴火予知連絡会の発表によれば,現在のところ両火山
の活動は比較的落ち着いたレベルで推移しているとの事である.雲仙・普賢岳
については,引き続き噴火活動が停止状態である事が併せて発表されている.11
月 21 日には北海道の雌阿寒岳が水蒸気爆発を起こし,少量ではあるが広範囲に
降灰が見られた.その後 ,噴火活動は鎮静化の方向へ向かった.なお ,土石流等
の発生渓流については,再度災害を末然に防ぐために災害関連緊急砂防事業(直
車害・補助)を 31 件,事業費 47 億円をもって実施している.平成 8 年の建設省
所管の地すべり災害の発生件数は 64 件であり,この件数は地すべり災害が多発
した咋年の 237 件と比較して約 1/4,過去 10 年間における発生件数の平均の 121
件と比較しても約半数となっている.平成 8 年の気象状況は,近年続いていた暖
冬頃向に歯止めがかかり ,降雪,気温とも平年並となっているが ,梅雨期から夏期
にかけ,各地で降雨が少なく ,渇水となっている.この気象状況は地すべり災害
にも反映され,融雪による発生件数は 21 件,降雨によるものとして,梅両期が 26
件,台風が 7 件,その他の降雨によるものが 6 件となっている.例年と比較して,
融雪によるものが多くなり,降雨による誘因のものは減少している.また平成 8
年は中規模の地震が,東北地方,伊豆地方,丸州地方南部で頻発し,その結果として
地震によって 2 件の地すべりが発生している.平成 8 年の主な地すべり災害と
して,新潟県東頸城郡安塚町本入場地区で 5 月 6 日に融雪による地すべりが発生
し,幅約 100m,長さ約 300m にわたって斜面移動した.この土塊移動によって町
道が約 150m にわたって破損し,不通となった.また,7 月上旬の梅雨前線豪雨で
は,JR 磐越西線に影響を及ぼす恐れのある新潟県東滞原郡鹿瀬町赤崎地区にお
いて災害が発生している.これらの地区をはじめ災害の再発防止を図るため ,平
成 8 年に地すべり災害の発生した地区において緊急に対処しなければならない
地区については,災害関連緊急地すべり対策事業(直車害・補助)を 23 件,事業
費約 77 億円をもって実施している.平成 8 年のがけ崩れの発生件数は 258 件
であり,平均発生件数(平成 3 年一平成 7 年)547 件の約半数となっている.被
害が発生した箇所としては,113 箇所,死者 4 名,負傷者 5 名,家屋全壊 7 戸,半壊 19
戸,一部破損 97 戸となっている.平成 8 年の主ながけ崩れ災害として,9 月 22 日
の台風 17 号により,全国で 65 箇所のがけ崩れが発生し,死者 4 名,負傷者 1 名,家
屋全壊 3 戸,半壊 6 戸,一部破損 97 戸という被害に見舞われた.融雪および梅両
前の豪雨によるがけ崩れの発生は,17 件と平年よりも少なく,被害は負傷者 l 名,
家屋全壊 1 戸,半壊 2 戸,一部破損 5 戸となっている.梅雨前線によるがけ崩れ
としては,長崎県南高来郡小浜町島屋鮒也区において,7 月 3 日に発生したものを
はじめとして全国で 105 件と平年の約半分と少ないものの,負傷者 1 名,家屋半
壊 1 戸,一部破損 32 戸であり,九州地方での災害は依然として多数発生しており,
多雨地帯における継続的な対策が必要である.梅雨後の豪雨についても ,21 件
発生し,負傷者 l 名,家屋全壊 3 戸,一部破損 7 戸の被害が発生している.以上の
がけ崩れ災害の再発防止を図るために,緊急に対応する必要がある箇所について
は,災害関連緊急急傾斜地崩壊対策事業で 8 箇所,事業費 4.3 億円をもって実施し
ている.また ,激甚な災害の指定を受けた地城においては ,災害関連地域防災が
け崩れ対策事業費で対応し,9 箇所,事業費 1.6 億円をもって実施している.平成
8 年の雪崩災害は,建設省河川局傾斜地保全課に報告があったもので 28 件あり,
その中でも集落を襲ったものは 6 件発生し,死者 l 名,家屋半壊 1 戸,一部破損 10
戸となっている.平成 8 年は,スキー場,山岳等で死者を伴う雪崩災害が発生し,
集落においても,家屋を破損する災害が相次いだ.集落を襲った雪崩について見
てみると,発生時期は l 月下旬から 2 月中旬の間で,雪崩の種類は表層雪崩という
特徴がある.富山県東砺波郡利賀村大勘場地区において 2 月 10 日雪崩が発生
し,緊急に再発防止を図る必要があったため ,災害関連緊急雪崩対策事業で事業
費約 1.5 億円をもって実施している.
2)近年の土砂災害の傾向
平成 8 年の土砂災害の発生状況は,土石流 91 件(22%),地すべり 64 件(16%),
がけ崩れ 258 件(62%)の合計 413 件であった.平成 8 年の土砂災害の特徴と
しては土石流,地すべり,がけ崩れ,いずれも発生件数,死者・行方不明者数,負傷者
数が最近 10 年間で最低もしくは最低に近い数字となっており,例年に比べて災
害の少ない年であった.本年発生した土砂災害の特記すべき災害としては ,12
月 6 日に長野・新潟県境の蒲原沢の土石流災害である.発生原因は今後の調査
委員会の調査等で明らかにされるが,前年の災害復旧工事等に従事していた工事
関係者に死者・行方不明者 14 名,負傷者 8 名の被害を出す事故となった.また,
大規模な山林火災が 4 月から 8 月にかけて徳島県一宇村をはじめ 10 件で発生
した.火山活動については,3 月 5 日に北海道駒ケ岳が 54 年ぶりに噴火し,七飯
町の 30 名が一時避難したほか,大分県丸重山でも 5 月中旬に火山活動が極大と
なり地震 ,噴煙量に活発化の兆しが見られたが ,両火山の活動は比較的落ち着い
たレベルで推移している.
図-9 に最近の 10 年間の土砂災害の発生状況を示した.これによると,前半 5 ケ
年に対して後半の 5 ケ年は火砕流,土石流,地すべりおよびがけ崩れとも増加し
ている.主な土砂災害発生状況を見てみると,平成 3 年では夏から秋にかけての
台風の上陸が相次ぎ,関東地域においても多くの災害が発生した.平成 5 年は「平
成 5 年(1993 年)8 月豪雨」をはじめとする記録的な豪雨,史上タイ記録となっ
た 6 個の台風上陸,さらには 1 月の釧路沖地震,2 月の能登半島沖地震,7 月には北
海道南西沖地震と続けざまに発生した大地震等が原因となり,近年になく土砂災
害の多発した年となった.一転して ,平成 6 年には土砂災害発生件数,被害とも
少ない年となった.平成 7 年は 1 月の兵庫県南部地震に伴う地すべり・がけ崩
れ災害,7 月の梅雨前線豪雨により北信越地方において多数の土石流・地すべり・
がけ崩れが発生した.平成 8 年は
% 態様別
6 月に前年の豪雨災害に見舞われ 100
た長野県小谷村で姫川の氾濫等に
90
より,国道 148 号線が再び長期問
通行不能になったほか,8 月には兵
庫県丹南町にて ,集中豪雨に伴う
土石流災害が発生し舞鶴自動車道
が埋没・損壊し地域経済に大きな
影響を与えた.
80
70
気象要因
崖崩れ
22%
地すべり
12%
60
50
梅雨
60%
40
土石流
66%
20
10
0
東北7%
北陸4%
関東8%
中部3%
東海6%
近畿6%
中国
29%
四国3%
30
図−13 自然災害の発生割合
降雪
2%
降雨
14%
地域別
台風
23%
その他
1%
九州
33%
4. 災害の構造
図−12 には中部地域の地震や活断層を示した.これをみると ,地震活動の活発
な地域は,岐阜県美濃地方と静岡県伊豆地方である.長野県では県北地域に集中
し,中部地域の断層群を見ると ,中部圏域の周辺を取り巻く円形の分布が見られ
る.すなわち,時計まわりに回転する動が見られる.これは中部圏域のブロック
が活動していることを意味している.
地震群の活動は,地殻の応力分布が異常になる所からエネルギーが蓄積を開始し
一定の量が蓄えられると,エネルギーを放出しその結果が地震となるといわれて
いる.
中部地域にはこのような条件が十分に整えられつつあることは,過去の事例でも
明らかである..
地震の発生地点には偏在性がみられ,どこにでも発生するものではない.まして
活断層(第四紀断層)が存在するから地震が今にも発生すると考えるのは誤り
である.地震は地質的に脆弱な部分に発生しているが,発生後地表に断層が現れ
ることがしばしばある.現在の断層はエネルギー放出の跡であると考えてよい.
問題は,地震の繰り返し機関がどのくらいかということである.そのことについ
ては,現在日本中調査中で結果はいまだ出ていない.
自然災害の態様は図ー11 に示したように,土石流 66%で多く,気象要因では梅雨
期に多くの発生を見る.地域別では,九州及び中国地域に大半が集中している.
したがって ,台風の影響の大きさを示し ,本県は中部地域の 3%になっているが,
災害の構造はともかくとして,毎年注目すべき災害が発生している.