復習ノ ー トによる算数・数学の個別指導*

復習ノートによる算数・数学の個別指導‡
杉 村
健榊
吉 田
(心理学教室)
毅‡榊
(生 駒 市)
Cronback(1967)によって命名された適性処遇交互作用(Aptitude Treatment Interacti㎝,
A T I)という現象は、学習内容が同じであっても、児童生徒の能力、性格、興味などの適性に
よって、授業の方法、指導方法はどの処遇の効果が異なることを意味するもので、学業成績=適
性×処遇として表すことができる。言いかえれば、子どもの適性に合った教え方をすれば学業成
績が向上し、合わない教え方をすれば向上しないということである。
ところで、現行の指導要領はその改訂のねらいとして、“国民として必要とされる基礎的・基
本的な内容を重視するとともに、児童生徒の個性や能力に応じた教育が行われるようにすること”
をあげている。ここで個性や能力というのはCr㎝backの適性に相当するものであるので、この
ねらいには適性処遇交互作用の理念が取り入れられているものと考えられる。個性や能力に応じ
た教育を行うのには、まず、それぞれの子どもの実態を科学的に、的確に把握しなくてはならな
いが、現実にはこの実態把握がどの程度行われているであろうか。
次に、基礎的・基本的内容に関してであるが、これは基礎学力として論じられている問題に相
半する。基礎学力とは何かということについてはさまざまな意見があるが、その1つとして“後
続する学習に必要な学力”(杉村,1974)をあげることができる。例えば、小学校で習った漢
字が読めなかったり、言十算ができないようでは、中学の国語や数学の勉強がうまくいかない。中
学で数学を勉強するのには、その基礎として小学校における算数を十分に身につけておかなくて
はならない。このような基礎学力を定着させるのには、学習内容を十分に理解させるとともに反
復練習させることが必要である。ところが、学校における一斉指導では、いわゆるできる子ども
は別として、普通または普通以下の子どもの場合には、理解も反復練習も十分に行われない。そ
の分が家庭学習(塾の学習も含む)に持ちこされることになる。
家庭学習で=は、学校の勉強の予習と復習が行われる。予習は主として学校の授業を理解しやす
くし、復習は主として学校で=習ったことを定着させるという働きを持っており、ともに学習意欲
を高めるのに役立っ(杉村,1983)。 どちらも大切であることはいうまでもないが、辰野(1981)
によれば、成績のよい人は予習に力を入れ、成績のあまりよくない人は復習にカを入れる方がよ
ま Individua1 instructions in arithmetic and ma七hematics by the use of no怜
books for review exercises
舳 Takesh1 Sug1mura (Department of Psycbo1ogy,Nara Un1verslty of Educat1on,
Nara City)
‡榊Takeshi Yoshida (Ikoma City)
81
いという。そして、復習はもう1回余分に学習したことになり、記憶を確実にする働きを持って
おり、その方法としては、① 教科書と授業ノートで大切なところを確かめる、② 授業で;わか
らなかったところを勉強する、③ 授業ノートを整理する、④ 問題の練習をするなどがあげら
れている。松原(1978)は、算数・数学は復習によって学力が着実に向上する教科であるとし、
その方法として次の3つをあげている。① 授業での要点をまとめる、② 問題の練習を多くす
る、③簡単にできた問題には◎、少し難しかったができたものには○、難しかったがなんとか
できたものには△、どうしてもできなかったものにはXをつけ、○、△、×の問題は◎がつくま
で何回も反復す孔
ここで報告するのは、復習ノートによって教科書の内容を徹底的に理解させるという基本方針
の下に、子どもの実態を的確に把握した上で個々の指導方針を立て、算数・数学の個別指導を行
なっている学習塾の指導事例である。入塾時の成績は普通または普通以下の子どもばかりであり、
辰野(1981)が指摘しているように、復習にカを入れる方が望ましい場合に相当する。以下で
は、実態把握の方法と基本的な指導方針について述べ、そのあとで4つの指導事例を示す。その
うち最初の2つは復習ノートによる指導で学力が向上したもので;あり、あとの2つは現在のとこ
ろ向上していない事例で=ある。これらを比較することによって、学力が向上する要因は何かまた
は向上しない要因は何かを見い出すことができるで=ある㌔
実態把握と指導方針
実態把握
実態を的確に把握して指導に役立てるために、子どもについては入塾の動機を聞き、知能検査
と学習適応性検査を実施する。親には入塾の動機と子どもの様子を聞き、親からみた子どもにつ
いての性格診断検査を行う。
知能検査
京大N X9−15知能検査(苧阪・梅本,ユ973)が用いられた。この検査は全部
でユ2の下位検査からなり、次の3つの因子にまとめられている。
① 言語因子一日常生活に必要な記憶力や注意力、ことばの豊富さや流暢さ、単語の理解力、
文章の構成力や表現力、語い関係の判断力からなり、文科的知能とみなされている。
② 空間因子一直観的な想像力、表象空間の論理的判断や直観力、視覚的な弁別能力や注意
力などからなり、理数的知能とみなされている。
⑧ 数的因子一計算能力や計算速度といった理数科の基礎学習能力、数関係の理解カや推理
力などが含まれ、理数的知能とみなされている。
学習連応性検査
辰野(ユ977)が作成したもので、全部で15の下位検査からなり、次の4
領域にまとめられてい乱
①学習態度一自分からやる気を出し、進んで勉強する学習の意欲、計画的に勉強する勉強
の計画、積極的に授業を受け、それを生かすようにする授業の受け方からなっている。
②学習技術一能率的に本を読み、ノートを活用する本の読み方・ノートのとり方、じょう
一82一
ずな覚え方、考え方をする覚え方・考え方、テストをじょうずにうけ、それを学力増進に役立て
るテストのうけ方からなってい乱
③学習環境一一家庭の物理的環境を活用する家庭の物的環境、家庭の雰囲気を勉強に役立て
る家庭の心理的環境、学校の環境を積極的に活用しようとする学校の環境、勉強に望ましい友人
関係からなっている。
④ 精神・身体の健康一自分のことは自分で積極的にする自主的態度、ねばり強く最後まで
やりとおす根気強さ、不安傾向、神経質の徴候、身体的健康からなっている。
性格診断検査
松原(1978)が作成したもので、社交型、活動型、慎重型、依頼型、劣等
感型、きまじめ型のそれぞれについて10箇ずつの質問文が用意してあり、子どもの特徴が当ては
まるものに○印をつけさせる。それぞれの型について勉強法のアドバイスが示されているので便
利である。
指導方針
復習ノートの作成と活用一復習ノートを作成し、次の要領で復習を行う。① 学校で習った
ことの要点や大切なところを、その日のうちにノートに整理する。② その日に習った例題や板
書の問題をノートに写し、もう1度自分で;解いてみる。③ 塾で;行うテストの問題をノートに写
し、もう1度自分で=解いてみる。わからない問題は次回に塾でたずねる。④ 問題は自分が理解
できるやり方で解き、その過程をできるだけ詳しく書く。
家庭学習の仕方一家庭学習の仕方について、次のように指導する。① 1週間の勉強の時間
割を作成し、それを実行する。② 毎日さまった時刻に勉強を始め、きめた時間だけ行う。③学
校で習ったことはその日のうちに復習し、理解する。④ 読む、書く、見るを基本とし、必ず筆
記しながら勉強する。⑤ まちがった場合は消しゴムを使わずもう五度やりなおす。これはまち
がった原因を探求させるためである。
塾におけるテストと指導一塾では復習してきたことについてテストを行い、学習内容の理解
と定着の程度を判定して次の指導を行う。① まちがった問題はもうユ度やらせ、正しくできた
場合には、どこでまちがったかを言わせる。② 正しくできない場合には、その問題を解くのに
必要な基礎的内容から始めて間答法によって徐々に高め、自分目身の力で解けるようにする。
指 導 裏 例
一書例N.F.(男子)
実態把握
111入塾の動機一小学校5年から学習塾に通っていたが成績は変化せず、さら
に中学に入ってからは家庭教師についたが、2年生の1学期に成績がひどく下がった。このまま
では勉強に対する自信をなくしてしまうので、何とかしてほしい。(中学2年9月入塾)
12〕学習適応性検査一適応性全体の偏差値は54であり、学習態度4(よい状態にある)、学習
技術3(普通)・学習環境3・精神・身体の健康3であっれ下位検査をみると、友人関係と神
一83一
復習ノ 一 トの例
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一84一
経質の徴候が2で“問題あり’に位置づけられている。
制 性格診断検査
特に目立つ型はないが、個々の回答を調べてみると次の特徴が認められ
る。まじめ、神経質であり、考えの視野が狭い。計画性はあるが、それを実行する根気強さ、粘
りが乏しい。自分をよく見せようとする意識が強い。
14〕数学の成績一期末試験の成績は中学1年では82点、8I点、82点とかなりよかったが、2
年の1学期は60点でかなり下がった。なお、知能検査は実施できなかったが普通程度の知能と推
定される。
指導方針
① 将来の目標について相談し、機械に興味を持っているので、理系に進むこと
を示唆する。②家庭学習について1週間の計画表を作る。③最初のうちは30分勉強して1O分
休憩するというように、比較的短かい時間で勉強する習慣をつけ、徐々に勉強時間を長くしてい
く。④ 書いて覚えることを徹底させる。
指導経過
復習ノートによる勉強に非常な関心を示し、最初から計画通りに勉強することが
でき、それがずっと続いている。本児は復習ノートについて次のような感想を述べている。 “こ
のような勉強の仕方ははじめてである。その日のうちに復習するので楽である。最初は、このよ
うな勉強の仕方で本当に成績が上がるかなと思った。”
2学期の中間テストで84点を取った。そのため、 “この勉強法でやれば成績がよくなる”とい
う確信を持っと同時に、学習意欲が高まったといえる。その証拠に、12月末に実施した学習適応
性検査の結果をみると、全体の偏差値は59、学習態度4、学習技術4、学習環境3、精神・身体
の健康4であって、学習技術と精神・身体の健康が1段階ずつ上昇している。数学の成績は2年
生の3学期82点、3年生になってからは1学期から順に95点、97点、92点であって、かなり高い
点を維持している。
考察
本児は数学の成績が下がって悩んでいたが、入塾後の中間テストでよい点を取り、そ
れが中学卒業まで続いている。また、成績の向上とともに学習適応性もよくなった。成績が向上
し維持された要因として次のものをあげることができる。
ω 復習ノートによる勉強に強い関心を示し、全体的な指導方針を受け入れ、信じたこと。
12〕入塾後の中間テストでよい成績をあげ、達成感、満足感を得ることができたとともに、学
習意欲が高められたこと
13〕親が塾の指導方針に対して完全に協力的であったこと。
事例0.I.(男子)
実態把握
11〕入塾の動機一学校でも家でも落着いて勉強できない、学校では宿題がなく
家庭学習を自主的に行わない。4年生頃から算数の成績が下がりだし、母親が教えているが、感
情的になって怒ってばかりで、なかなかうまくいかない。 (小学5年2月入塾)
12〕京大N X知能検査一知能偏差値は47(I Qコ95)、言語因子47、空聞因子50、数因子46
である。下位検査の成績をみると、最高57(文章完成)から最低30(日常記憶)にまで分布して
おり、かばりアンバランスであ乱日常記憶が特に低いことは、注意力の乏しさや落着きのなさ
一85一
を反映している。
13〕学習適応性検査一適応性偏差値は56で普通。学習態度2、学習技術4、学習環境4、精
神・身体の健康4であって、特に学習態度に問題がある。下位検査をみると、授業のうけ方は3
であるが、勉強の意欲は2、勉強の計画は1であって非常に低い。
14〕性格診断検査一社交型、外向性である。明かるく朗らかであり、叱られてもくよくよし
ない。細かいことは気にしない。落着きがなく早のみこみで、人の話を横取りする。
151算数の成績一5段階相対評価で、3学期の成績は2年と3年では3,4年と5年では2
である。
指導方針
① 復習ノートを作り、学校で習ったことはその日に復習する。② 家庭学習の
時間表はしばらく様子をみてから作る。③ 母親は勉強について何も言わないこと。
指導経過
11〕4月一復習ノートに大変興味を持ち、すぐに実行しはじめたが、やり残し
たり、わからないところで止めてしまったりしていた。
12〕5月一学校のテストで100点を取ったのをきっかけとして、復習ノートを完全に実施す
るようになった。また、他の教科についても家で勉強するようになった。月末に母親と面接した
とき、“相変らず計画牲はないが、毎日こつこつとやるようになり、時間も長続きする。この頃
は何も言わず、ほったらかしです”とのことであった。勉強の意欲が出てきたので、他の教科に
ついても絶対に口出ししないように、母親に頼む。この時点で家庭学習の時間表を作る。
13〕6月一落着きが出てきて、早とちりがなくなってきた。問題文の読みが深くなり、時間
をかけて問題に取り組めるようになってきた。学校のテストはいつも90点以上であっ一だが、ある
日、88点の答案を持ってきて、恥じそうにしながら“悪かった”と言う。5年生までは、せいぜ
い70点が最高であったのに88点でも悪いというような自己評価をするようになったのである。こ
のことは、“自分は90点以上は取れる”という自己可能感が形成されていることを示し、それが
学習意欲を高める原動力になっているのである。そこで、復習ノートをきっちりとやっていれば、
絶対に90点以上は取れると励ましてやった。
14〕7月一ユ学期の成績は4であった。2学期は5に向かって頑張ることを約束する。
15〕8月一学習適応性検査を実施した。全体の偏差値は69で前回の56よりも著しく向上して
いる。領域別では学習態度が2から5に、学習技術が4から5に増加し、下位検査で特に目立っ
た変化を示したものは、勉強の意欲2→5、勉強の計画ユ→5、覚え方・考え方3→5で
あった。
考察
この事例では、1学期の間に学校の成績が2から4へと著しく向上し、それにIとも
なって学習適応性検査でもかなりの向上がみられた。現在では算数だけでなく他の教科にも勉強
の仕方を広げ、意欲的に取り組んでいる。このような向上要因として次の乙とがあげられる。
ω 復習ノートによる勉強方法が本児に適合したものであり、この方法を続けることができた。
(2〕落着いて勉強するようになり、早とちりがなくなっれ
13〕今まで70点しか取れなかったのにユ00点を取ったことにより、達成感が得られ、“やれば
できる’という自己可能感が高められた。
一86
D.I.の学習適応性検査
領
域
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記
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14〕母親が指導方針を守り、子どもの勉強に対してあまり口出ししなかった。
夢例㎜.Y.(男子)
実態把握
は〕入塾の動機一中学に入ると勉強の内容が複雑になるので心配である。勉強
の仕方がわからないので教えてほしい。(小学6年3月入塾)
12〕京大N X知能検査
知能偏差値は45(I Q=9ユ)で普通ではあるがやや低い。因子別に
偏差値をまとめてみると、言語因子44、空間因子48、数的因子47であり、言語因子がやや低い。
下位検査の成績は最高60(符号交換)から最低35(文章完成)に分布し、かなりアンバランスで
ある。文章完成が特に低いことは文章表現力の乏しさや聴覚や語感による勘のにぶさを示唆して
いる。
13〕学習適応性検査
全体の偏差値は54で普通。領域別では学習態度4、学習技術2、学習
環境3、精神・身体の健康4であり、特に学習技術が低く、3つの下位検査はすべて“問題あり’
のところに位置づけられている。
ω 性格診断検査
内向的で劣等感が強いが、その反面、人に負けたくないという気持をも
っている。自主性が乏しく親への依頼心が強い。
151算数の成績一6年生の2学末は5段階相対評価で3であった。
指導方針 ①家庭学習は始める時刻をきっちりときめ、30分勉強して10分休憩する。②学
習技術の向上をはかるために問題を解くときには次の点に気をつける。a.問題文をゆっくりと
考えながら読む。b.どこが大切なところかをチェックしながらもう1度読む。c.要点を抜き
出してノートに列記する。③ 母親への依頼心を弱めるために次の点に気をつける。a.身の回
りのことは自分でする習慣をつける。b.復習ノートでわからないときは、初めは母親といっし
ょに調べてもよいが、だんだんとユ人で調べるようにする。C.できるだけ母親に聞かないよう
にし、わからないときは塾の先生に聞く。
指導経過
ω 4−5月一復習ノートに慣れてきて、家庭学習も順調に行われている。
12)6月一“学校からの帰りが遅くなった”とか“学校の宿題が多い”というような理由で、
復習ノートをとびとびにしてくるようになった。母親に聞いてもわからないので、自分で考えよ
うとせず、そのままにしているようである。
13〕7月一塾での勉強は熱心であるが、家庭での復習ノートは相変らずとびとびで、きっち
りとやってこない。しかし、点数そのものには執着心があり、答合わせのときに誤答にO印をつ
け、あとでこっそり訂正していた。1学期末の成績は相変らず3であり変化がなかった。
自分で勉強する習慣をつけ、自信を持たせるために、夏休み中に問題集で1学期の復習をする
ように計画した。そのために、2回にわたって相談し、いっ、どこを、どれだけ勉強するかを立
案させた。その答合わせは母親に依頼した。
14〕8月一母親が来て’家庭での勉強をのろのろし、困っている’と話す。これに対し、現
時点では速さよりも毎日さまった時間にきめた分量をこなすことに重点をおくように指導する。
塾の勉強では、正負の数の四則計算を徹底的に理解させ、文字式で文字を使う理由を日常生活に
一88一
あてはめて理解させれ
考察
本児には“このままではいけない。復習ノートを毎日やらなければ、だんだんわか
らなくなっていく’という気持はあるが、なかなか実行できずに伸び悩んでいる。その原因とし
て次のことが考えられる。
ω 6月頃から復習ノートがきっちりとできなくなったこと。
12〕学校のテストでよい点が取れず、自信がもてないこと。
13〕塾では言われたことはちゃんとするが、自主性が乏しくて母親への依頼心が抜け切らない
ために、家庭学習が計画的に行われないこと。
事例K.H.(男子)
実態把握
11〕入塾の動機一小学校5年生のとき学習塾へ1年間通ったが成績が上がらな
かった。現在は公文式のテストを気が向いたときにしているが、最近は計算まちがいが多くなっ
てきた。このままでは困るので、勉強の仕方を教えてほしい。 (中学ユ年12月入塾)
12〕京大N X知能検査
知能偏差値は47(I Q二95)で普通。言語因子43、空間因子49、数
的因子54であって、言語因子が特に低い。中でも文章完成の偏差値は37であ一り、文章表現力の乏
しさや聴覚や語感による勘のにぶさがうかがえる。
13〕学習適応性検査一全体の偏差値は34でかなり低い。学習態度ユ、学習技術1、学習環境
環2、精神・身体の健康3であり、特に学習態度と学習技術の下位検査はすべて1か2であって、
“問題あり”と判定される。
ω 性格診断検査一活動型、外向的であって、熱しやすくさめやすい。落着きがない。根気
がなく長い時間勉強できない。叱られてもくよくよしない。自主性がない。
15〕数学の成績一中学1年の1学期、2学期ともに5段階相対評価で3。
指導方針
① 家庭学習は30分勉強し10分休憩の型で計画する。② 細かいことは指示しな
い。長所を見つけてほめてやる。③ 母親が非常に口やかましいので、勉強についてやかましく
言わないように、目にあまるときは本人に言わずに塾に電話をするように頼む。
指導経過
11〕3月一入塾以来3か月だって、復習ノートによる勉強に少し慣れてきたが、
① 数字、文字が乱雑である、② かな書きが多い、③ 誤字、脱字が多い、④ 暗算による計
算まちがいが多いなどの問題点があげられる。塾での学習態度は受身的で、返事はよいが真剣さ
がない。注意されると言いわけをするか、口先であやまるだけであ乱
12〕5月一復習ノートがとびとびになってきた。これは、家庭学習の時間表に従って勉強し
ていないからである。そこで、復習ノートの利点を説明し、勉強の意義について話し合う。最近
の家庭学習の様子は次のようであった。① 時間がきて机に向かっても、なかなか取りかかれな
い。何となく落着かない。時には何も手につかないことがある。② やり出しても10∼20分もす
ると、友達との約束のことや昨日のテストのこ≒などが頭に浮かんできて、勉強が中断する。③
予定の時間が来てしまい、“明日まとめてすればよい’と思って止めてしまう。
13〕6月一中間テストの前日に塾へ来て、社会科の勉強の仕方について質問したので、本人
89一
に可能と思われる方法を具体的に教えてやった。しかし、その方法によって勉強せず、“先生はめ
んどくさいやり方を言うので、やる気がしなかった’と母親に言ったという。
ω 7月一1学期の成績は3であった。母親は相変らず勉強のことを口うるさく言うようだ。
特に、夏休みになって子どもが家でぷらぷらしていると、黙っていられないらしい。夏休み中は
勉強や宿題のことについて世話をやかないように頼む。(結果的には全く実行されず、毎日やか
ましく言っていたようである)
15〕8月一塾のテストの復習ノートを全くやってこない。学校の宿題を今日中にすましたら
20日からキャンプに連れていくという母親との約束があったので、学校の宿題をしていて復習ノ
ートができなかったという。しかし、母親に聞いてみると、学校の宿題は早くに済ませて遊んで
いたという。いずれにしても、本児と母親の言うことにしばしば食いちがいがみられた。学習適
応性検査を実施したところ、全体の偏差値は34で同じであったが、下位検査には次のような変化
がみられた。勉強の意欲1→2、授業のうけ方2→ユ、テストのうけ方2→1、家庭の環境3→
1、学校の環境2→4、根気強さ1→3。この結果からみて、学習態度と学習技術は相変らず
^問題あり’の状態であるが、根気強さが向上しているといえる。しかし、母親の口やかましさ
のために家庭環境は低下している。
考察
入塾以来半年以上もたっているのに、すべての面で全く向上しない。復習ノートによ
る勉強も2,3か月続いただけで、計画的な学習態度も身につかず、“計画や目標をきめても守
れるわけがない。その日その日で事情が変わるから’というような言いわけに終始している。こ
のような状況にある原因として次のことが考えられる。
は〕まず、何といっても塾の方針や助言に対して母親が全く非協力的である。口うるさく言え
ば、そして報酬を与えてやれば、子どもが勉強するようになると思っているのである。
12〕本児は“ひらめき’や“勘’はあるが、幼児期から母親の過保護、過干渉の下に育てられ
たために、精神的に幼稚であり、無気力で忍耐力に欠ける。
制 復習ノートをきっちりやらないために、学校の成績がよくならない。
要
約
復習ノートによって教科書の内容を徹底的に理解させるという基本方針の下に、子どもの実態
を的確に把握した上で個々に指導方針を立て;算数・数学の個別指導を行なっている学習塾の事
例を報告した。事例N.F.は学校の成績が60点から84点に上がり、それにともない学習技術も向上
した。その後、中学卒業まで90点代を維持しており、高校入学後も復習ノートによる勉強を続け
ている。事例D.I.は成績が2から4に上昇し、学習態度と学習技術も著しく向上した。事例M.
Y.とK.H.は現在のところ向上していないが、M.Y、は母親の態度が徐々に変わってきている
ので、今後よくなる可能性がある。指導経過の考察から、学力向上の要因としては次のことがら
をあげることができる。
ω 基本方針および復習ノートによる勉強法を完全に受入れ、実行したこと。
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12)復習ノートによる勉強法に慣れたころに、学校のテストでよい点が取れ、達成感、満足感
が得られたこと。
13〕母親が指導方針および助言を守ったこと。(向上しなかった事例からみて、母親のあり方
がかなり影響していると考えられる)
引 用 文 献
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松原達哉 1978 成績自由自在の教育心理
講談社
苧阪良二・梅本葵夫 1973 京大N X g一一15知能検査
杉村 健 1974 rわかる授業」と基礎学力の問題
杉村 健 1983 学習意欲をひきだす方法
大成出版牧野書房
現代教育科学4月号
北尾倫彦編著 勉強のできる子・できない子
創元社
辰野千寿 1977 新学習適応性検査
日本図書文化協会
辰野千寿 1981 中学生の最新・トップ勉強法
新学社
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