---------- 1974 年海外 ----------へいばよう 4月中国の始皇帝陵跡から兵馬俑が発見される。せんせいｼｰｱﾝとうちょうあん陜西省西安市は西暦 620 年ごろの王朝「唐」の都長安がちんたおあったところで、経度は海南島・緯度は青島とほぼ同じの西安内陸の都市だ。現在は砂漠化に苦しんでいる。「兵馬俑」しんは紀元前 220 年ごろの「秦」の時代のもので、総面積は 2 万平方メートル超だ。多様な 7000 体以上の武士俑、馬俑や馬車、武器などが実戦の軍陣で配置され、造型が当時の技術水準の高さを示している。1987 年に「秦の始皇陵」の名称で世界遺産に登録された。 5月インドが核実験に成功し、第 6 番目の核保有国になる。 7 月国連総会で PLO パレスチナ解放機構がパレスチナの正当な代表者として認められる。第 4 次中東戦争で、アラブ諸国と非アラブ・イスラム諸国が結束し、パキスタンで行われた「イスラム諸国首脳会議」でアラファトは全会一致の支持を受け、PLO は「パレスチナ唯一の代表」になった。さらに PLO は「国際連合総会オブザーバー資格」を手に入れて、国連に入ることができ、一応の政治的成果を上げた。ただイスラエルとの争いが終了したわけでもないし、内部抗争はむしろ激しくなる。 8 月「ウオーターゲート盗聴事件」の疑惑で、ニクソン大統領は辞任する 1972 年、ワシントンのウォーターゲート・ビルにある民主党全国委員会本部に、共和党関係者が盗聴装置設置のために侵入して、逮捕されたことから始まった「大統領の犯罪」はアメリカ史上最大の政治スキャンダルと言われる。事件の結果から判断すると、ウォーターゲートはただの口実で、ホワイトハウス内の権力内部の抗争から、ニクソンが辞めさえすれば、その過程はどうでもよかったようだ。裁判で、ホワイトハウスのもみ消し工作、さらには、以前から盗聴など、不法な情報活動が明るみに出された。ニクソン大統領は自ら潔白を証明するため、執務室の会話と電話のやり取りを記録したテープを提出したりしたが、かえって疑惑を深め、閣僚からも「辞めるべきだ」と批判され、ついに 74 年 8 月、アメリカ大統領が任期途中で辞任する史上初の例になった。アメリカ国民が自分たちの指導者である大統領に不信感を常に持つようになった事件で、傷は大きかった。副大統領だったフォードが大統領職を継ぎ、彼は日米関係修復や、ヨーロッパとの関係修復に動いた結果を見ると、「ドルショック」や「米中接近」で危機感を持った、当時のアメリカでの主流政界や財界の仕業であったかもしれない。ただしキッシンジャーを留任させたのは、仕方がなかっただろう。その後「陰謀」を扱った小説がたくさん出た。 1 中学生のための現代史…これを読めばわかるかもしれない ---------- 1974 年日本 ----------1月いわゆる「軍艦島」が閉山になる。はしま長崎県長崎半島の西にある端島で、1800 年代初めに石炭が見つかった。この島は 1890 年に島の所有者から三菱に売却、それから炭鉱として経営された。1916 年には日本で最初の鉄筋コンクリートの集合住宅が建設され、新聞に「形が軍艦みたいだ」と紹介されたことで端島は「軍艦島」と呼ばれるようになる。それからも、石炭を産出し続けたが、1960 年代から「エネルギー革命」つまりエネルギーが石油へ移り、1970 年代にはその影響を大きく受けて、この年 1974 年 1 月に閉山して、「軍艦島」 = 端島は炭鉱としての役目を終えた。妙なもので「廃墟ブーム」が平成時代に起きて、特にこの軍艦島は人気スポットになり、今はツアーも組まれ、世界遺産への登録運動も進められている。ただし韓国などが「強制労働の場所だ」を理由に、登録しないよう逆の運動も起きている。2012 年には、イギリスの秘密諜報部員ジェームズ・ボンドが活躍する映画史上最長シリーズ『007---スカイフォール』の撮影現場の 1 つになった。 3月ひろお小野田寛郎陸軍少尉がフィリピンのルバング島から帰国する。終戦直後の東南アジアでは、投降日本兵の証言から、ジャングルに散らばっていた残留兵捜索を続け、50 年代にはちらほら見つかったが、それ以後は発見できず、ほとんど死亡したと見られていた。小野田氏は日本陸軍の少尉で、1922 年に和歌山県現海南市に生まれ、42 年に陸軍に入隊、ゲリラ戦や情報戦を学ぶ陸軍中野学校に入り、44 年 12 月にフィリピンに派遣された。つまりプロの軍人だ。 1945 年 8 月の終戦後も、任務解除命令が届かなかったために、仲間とともに 29 年間、フィリピン・ルバング島に潜伏して、アメリカ軍基地などに物資を仕入れる現地人部隊などを襲撃する「後方攪乱活動」を行い続けた。1974 年 2 月、「潜伏している日本兵がいる」との情報があったルバング島に日本人冒険家が渡り、小野田氏との接触に成功、3 月の帰国に結び付いた。実は 1972 年 1 月にグアム島で横井庄一軍曹が保護され、同年 2 月に帰国していた。横井軍曹の帰国の際の言葉「恥ずかしながら帰って参りました」は流行語になった。横井氏は一般徴兵された人で、特に技術もなく、服は擦り切れ、身体も衰弱していて「大丈夫かな」と思われたぐらいだった。対して小野田氏は、訓練された軍人らしく、キリリと健康で、手入れされた軍刀を持ち、「命令解除がない限り帰国できない」と主張するので、元上官の人を日本から呼び、命令を解除してもらったぐらいだ。その後、降伏の印に軍刀をフィリピンの代表に差し出したが、「あなたが持つべきだ」と小野田氏に返還されている。終戦の情報や投降を呼びかけるビラを、アメリカ軍の謀略と考え、今東京にある政府はアメリカの傀儡政権だと、彼は判断していた。「傀儡」の部分は確かに当たっている。また、正確には「戦争が終わったのは知っていたが、日本人が戦闘を止める」ことを彼は信じていなかったのである。戦争は終了しても、抵抗のゲリラ活動が、日 2 中学生のための現代史…これを読めばわかるかもしれない ---------- 1974 年日本 ----------本の本土で続いていると確信していたようだ。今のイラクを見ると、わかるような気がする。帰国の翌年、実兄のいるブラジルに渡り、事業でも成功を収め、日本人女性と結婚して幸せになった。しかし日本で起きた凶悪な少年事件に心を痛め、「神」的サバイバル・テクニックと自身のルバング島の体験を生かして、1984 年から日本で「小野田自然塾」を始めた。1989 年からはキャンプを通じた青少年の育成に力を注ぐ財団法人を設立して理事長となり、2014 年 1 月 16 日に 91 歳で死去した。 1970 年代に出版された「手記」は、代筆者と出版社の意向で内容が改められているようで、少し怪しい。1980 年代～1990 年代はいわゆる「日本自虐史観」全盛期で、戦争の事を肯定するだけで「右翼」扱いされ、まじめな研究者でも沈黙していたぐらいだ。そのような時だから、「反戦」を基調にしないと売れない。氏はそれが嫌で、ブラジルに移住したようだ。今冷静に彼の言動を振り返ると、現代日本に欠けているものが「発見」できるかもしれない。その意味ではまさに、神が日本に残してくれた「人的遺産」であろう。役目がある人は、どんな困難に陥っても死なない良い例だ。戦前・戦中・戦後の日本の、良いところ、悪いところを、冷静に区別し、議論できるようになりたい。 8月東京都丸の内で三菱重工爆破事件が起きて、財閥系の会社が狙われる。東アジア反日武装戦線「狼」による無差別爆弾テロ事件。企業は国民から不当に利益を得ている、との理由で事件を起こした。このグループは日本赤軍とは違う一派で、自分たちでキチンと働いてお金を貯め、爆弾を作るという、変なところがまじめだった。トリクルダウンをせず、内部留保をため込んでいる企業が多い現在では、このような過激派がいないのは幸運かもしれない。死者 8 人、負傷者 350 人以上は、1995 年に「地下鉄サリン事件」が起きるまでは、最大のテロだった。ちなみに割れて飛び散った窓ガラスでけがをした人が多いことから、ガラスが割れても人を傷つけないようにする研究がかなり進んだ。 11 月田中首相の「金脈問題」が発生する彼はお金をうまく使って人を動かすことが上手だった。「借りた金は必ず返せ、貸した金は忘れろ」がモットーで、ある国会議員が 100 万円を借りた時に 300 万を渡し「うち 100 万は借金返済に、100 万はその時世話になった人に御馳走し、100 万はいざと言うときに取っておきなさい。私には全く返さなくて良い」とメモが入っていたのは有名な話だ。自民党総裁の座もこのようなオカネで買った、と言われている。雑誌に載った「田中角栄研究」の記事から政治資金の出所に疑惑が持たれた。しかしまだこの時は大問題になっていない。 3 中学生のための現代史…これを読めばわかるかもしれない ---------- 1974 年日本 ----------11 月現職のアメリカ大統領として初めてフォード大統領が日本を公式訪問。 1960 年のアイゼンハワー大統領は沖縄まで来たが「安保闘争」で取りやめになっていたので、アメリカの現職大統領が本土来日するのは歴史上初だった。フォード大統領は昭和天皇と会見し「生涯であれほど緊張したことはなかった」と後に述べた。これが普通の感覚で、マッカーサーが少し政治音痴だったことがわかる。調整の後、翌年天皇は訪米、フォードと再会する。天皇がアメリカ本土を公式訪問するのも初だった。ただし「天皇とアメリカ大統領が会う」なら「公式で初」ではなかった。1971 年 9 月に欧州訪問から帰国途中、飛行機の給油でアラスカ州アンカレッジに立ち寄った昭和天皇を、ニクソン大統領夫妻が表敬訪問して、空軍基地で出会っているからだ。ニクソンの電撃的な中国訪問と金・ドル交換停止の「二つのニクソン・ショック」で日米関係は緊張していたから、米側に関係改善を急ぐ思惑があったらしい。これには当時外務大臣だった福田赳夫が「天皇の政治利用だ」と言った。福田は 1976 年 12 月に首相になり、息子の福田康夫も 2007 年に首相になる。 12 月田中首相辞任。後任は三木武夫(右端の写真右のメガネの人物) 金脈問題で辞任し、後、ロッキード事件で被告人になる田中角栄だが、日本に大きな影響力のある中国、アメリカ、ソ連の 3 国との外交関係を回復・樹立した功績は大きい。彼の政治的な動機はともかく、結果的に昭和天皇とっては「大忠臣」になった。勉強する時に欠かせない「蛍光ペン」が初めて発売され、読売巨人軍の長嶋茂が「巨人軍は永遠に不滅です」と言って引退し、少女漫画で「ベルサイユの薔薇」が大人気になった年だった。 4 中学生のための現代史…これを読めばわかるかもしれない