星野貴行 研究室

魚のプロバイオティクス開発
星野
貴行
プロバイオティクスとは
最近、ヨーグルトや乳酸菌飲料のコマーシャルなどで、プロバイオティクスと言う言
葉を見聞きすることが多いのではないでしょうか? プロバイオティクスとは、「宿主
の腸内細菌叢のバランスを改善したり宿主に直接作用することによって、宿主に有益な
作用をもたらす微生物」と定義されています。
淡水魚用プロバイオティクスの開発
私たちは、ハクレン以外の霞ヶ浦魚類の消化管内乳酸菌についても調べてみました。
その結果、他の魚でもハクレンと同じような乳酸菌が消化管内に生息していることがわ
かりました。そこで、霞ヶ浦の主要養殖魚であるコイを対象として、プロバイオティク
スの開発を目指した研究を行うことにしました。
コイの消化管から分離した種々の乳酸菌について、病原菌に対する抗菌活性などを指
標にして、プロバイオティクス候補株をいくつか選択しました。
それらの菌株を用いて、コイに対する投与実験を茨城県霞ヶ浦内水面水産試験場との
共同研究で実施しています。すでに、いくつかのプロバイオティクス候補株で、コイの
成長促進効果や、免疫能の増強効果があることが認められつつあります。
プロバイオティクス効果を示す微生物としては、乳酸菌が最もよく知られています。
20世紀初頭には、メチニコフと言う研究者によって、「ヨーグルト不老長寿説」なる
ものが提唱されたこともあります。
乳酸菌は、腸内細菌層を改善することにより、いわゆる「善玉菌」の腸内における割
合を増大させます。 また、宿主に対して免疫賦活効果や抗癌作用、血中コレステロー
ル低減作用などの効果を示すことも明らかになっています。
魚の消化管内にも乳酸菌が沢山いた!
プロバイオティクスを利用した健康管理は、ヒトのみならず、家畜や家禽に対しても
研究が行われ、実際に利用され始めてもいます。しかし、魚類については、プロバイオ
ティクスに関する研究はもとより、魚の消化管内の微生物に関する研究すら、それほど
盛んには行われていませんでした。
そこで、魚の消化管の中にどれくらいの乳酸菌がいるのかについて、私たちはまず、
霞ヶ浦のハクレンを材料として調べてみました。ハクレンは、浮遊性藻類のみを食べる
中国原産の魚で、その食性から消化管の長さが非常に長いのが特徴です。下の写真の魚
は体長が 45 cm でしたが、腸の長さは 456cm もありました。この消化管の中から、沢山
の乳酸菌を分離することができました。
安全な養殖漁業の確立を目指して
余談になりますが、私たちは、ハクレン消化管からアオコを分解する微生物も沢山分
離しています。アオコは富栄養化に伴って発生するラン藻類の総称で、湖沼環境汚染の
代名詞にもなっています。
プロバイオティクスを用いることにより、抗生物質の使用を極力減らした、より安全
性の高い養殖漁業が期待されます。 私たちは、ブリを主対象として、海水魚用のプロ
バイオティクスの開発研究も行っています。
ハクレン消化管から分離した
アオコ分解菌(緑色の部分が
アオコで、溶けたところが白く
ぬけている。)
海外からの輸入魚に抗生物質が残留していたと言う話題もよく耳にするのではないか
と思います。養殖現場では、高密度養殖に伴う魚病発生に対応するために、抗生物質が
使われることも多くなっています。