第8回学術大会 抄録集(PDF版)

ITヘルスケア
第八回学術大会
2014年5月24日、25日
於 東京医療保健大学
五反田キャンパス
抄録集
第9巻
第1号
発行 IT ヘルスケア学会
ISSN 1881-4808
IT ヘルスケア学会
第 8 回年次学術大会
実行委員長
山下
和彦
東 京 医 療 保 健 大 学
医療保健学部医療情報学科教授
会
期:2014 年 5 月 24 日(土)
・25 日(日)
会
場:東京医療保健大学 五反田キャンパス
事務局:東京医療保健大学医療保健学部医療情報学科山下研究室内
E-mail:[email protected]
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
協力企業等一覧
ランチョンセミナー
3社
ソフトバンクテレコム株式会社
株式会社日本エンブレース
綿半銅機株式会社
協賛企業
1社
日本ヘルスケアプランニング株式会社
展示企業
11 社
株式会社医用工学研究所
株式会社インサイト
(株)エー・アンド・デイ
コニカミノルタヘルスケア株式会社
株式会社ジー・エム・エス
ソフトバンクテレコム株式会社
株式会社デジタルメディック
株式会社東新製作所
一般財団法人
日本医薬情報センター
菱洋エレクトロ株式会社
株式会社ファソテック
広告企業
1社
株式会社ヤクルト
1
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
学術大会実行委員会・プログラム委員会
実行委員長
山下和彦(東京医療保健大学医療保健学部)
プログラム委員長
磯部
陽(国立病院機構東京医療センター)
実行委員(50 音順)
阿久津靖子(株式会社MTヘルスケアデザイン研究所)
石井留雄
(中央コリドー情報通信研究所)
今泉一哉
(東京医療保健大学医療保健学部)
岩上優美
(東京医療保健大学医療保健学部)
大塚時雄
(秀明大学英語情報マネジメント学部)
大西由華
(公益財団法人日米医学医療交流財団)
大野ゆう子(大阪大学大学院医学系研究科)
川崎良雄
(株式会社コミュニティメディカル)
菊野隆明
(国立病院機構東京医療センター)
木村憲洋
(高崎健康福祉大学健康福祉学部)
木暮祐一
(青森公立大学経営経済学部)
酒井三奈子(明治安田生命保険相互会社)
陶山昭彦
(医療法人寿会富永病院)
瀬戸僚馬
(東京医療保健大学医療保健学部)
高嶌恒男
(みよの台薬局グループ本部)
高瀬義昌
(医療法人社団至高会たかせクリニック)
高橋
郷
(国立病院機構東京医療センター)
中村
肇
(大阪市立大学大学院医学研究科)
晋介
(大阪市立大学大学院工学研究科)
原
水島
洋
(国立保健医療科学院研究情報支援研究センター)
三友仁志
(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科)
八幡勝也
(医療法人住田病院)
山下浩史
(ルーデンス技研株式会社)
山田康夫
(英国国立ウェールズ大学経営大学院)
2
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
ご挨拶
IT ヘルスケア学会 第8回年次学術大会に寄せて
IT ヘルスケア学会 第3、4期会長
中村
(大阪市立大学
肇
大学院医学研究科)
ITヘルスケア学会第8回年次学術大会が、山下和彦実行委員長のもとで、東京医
療保健大学五反田キャンパスで開催されます。多くの興味深いセッションが企画され、
会員の皆様の知的好奇心を刺激することと思っています。2日間の年次学術大会をお
楽しみください。さて、今年は役員改選の年で、新役員の方々が今回の年次学術大会
の総会で承認された後、任務についていただきます。私は前前会長の早稲田大学三友
仁志先生の後を継ぎ、平成22年の春から2期4年会長を務めさせていただきました。
その間に、大阪の地で2回年次学術大会を開催させていただき、実行委員長も務めさ
せていただきました。思い出しますと、ITヘルスケア学会の前身のコンピュータサ
イエンス学会に参加させていただくようになってから、ずいぶん時が過ぎました。そ
れで、第4期をもって会長を退任させていただくとともに、理事職も退任させていた
だき、次の世代の新進気鋭の方々にITヘルスケア学会の運営をお任せすることにい
たしました。会員の皆様も新役員のもとで、学会運営に多大なるご協力をお願いし、
前会長の挨拶とさせていただきます。
平成 26 年 5 月 9 日
3
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
ご挨拶
第8回
IT ヘルスケア学会
年次学術大会
実行委員長
山下 和彦
(東京医療保健大学 医療保健学部
医療情報学科
教授)
スマートフォンやモバイル端末に代表される情報端末やセンサ技術の革新的進歩により,医療・
在宅・健康分野は大きく変化しつつあります.一方で,日本の少子高齢化はますます進み健康格差
の改善,慢性疾患などの適切な管理,健康分野との協働に向けた情報技術の活用が期待されます.
さらに,子どもの健康支援や一生を支える元気な身体作りにもスポットが当たりつつあります.
平均寿命に注目が集まる中,日本の“平均年齢”は 45 歳を超え,幅広い世代を視野にいれた健
康支援,終末期を含む医療技術の発展と体制の構築,健康分野の大規模データ解析に注目が集まり
ます.医療や健康分野は成長産業と展望される中,医療機器や医療用ソフトウェアの法整備が進め
られ,知的創造性が高く,より戦略的な取り組みが求められます.
IT ヘルスケア学会第 8 回年次学術大会では,医療や健康の現場,企業などの産業界,大学など
の研究機関の連携に着目し,新しい取り組みを議論するために,4 つのシンポジウムと 2 つのラン
チョンセミナーを設けました.これらは,“健康支援と技術開発”,“認知症予防・効果的なアプロ
ーチ”,
“ビッグデータの活用とこれから”
,
“医療現場における ICT を含めた技術開発”をキーワー
ドに構成し,最先端の講師で構成しております. 今回は特に横の連携も視野に入れるために,認
知症ケア学会や日本生体医工学会(BME on Dementia 専門別研究会)との共催セッションを設け,
より幅広い職種の方にお集まりいただき意見交換ができるよう構成しました.
特に認知症は軽度認知症(MCI)まで含めると近い将来 1000 万人に到達することが予測されてい
ます.人生の最期までよい生き方でいられるためには,多くの知見と力を結集する必要があります.
これができるのは,在宅医療を含む医療者,最先端の医療機関の医療者や技術者,大学等の研究者,
ケアを担当するワーカ,企業で働く方で構成される本学会が中心となって意見を集約すべきだと考
えております.
このように本学術大会は様々なバックグラウンドを持つ方が参加されるのが特長です.ICT がい
くら進歩しても人的ネットワークが構築されなければ効果も半減します.本学術大会が会員やご参
加される皆さんにとって将来に向かうアイデアの創出と未来のヘルスケアに貢献する実りある大
会となるよう努めてまいります.ご参加される皆様にとり有意義な成果となりますよう心よりお祈
り申し上げます.
平成 26 年 5 月 9 日
4
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
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IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
目次
協力企業一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
学術大会実行委員会・プログラム委員会一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
ご挨拶
学会会長・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
ご挨拶
第 8 回学術大会実行委員長・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
目次・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
参加者へのご案内・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
学会行事日程(タイムテーブル)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
プログラム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10
抄録
シンポジウム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16
ランチョンミーティング・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46
ランチシンポジウム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48
BME on Dementia(日本生体医工学会共催セッション)・・・・・・・・・・・・・ 50
一般演題
A. 医療画像システム・医療機器・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 61
B. 生体計測・モニタリング・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 77
C. 二次利用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 105
D. 地域医療連携・認知症・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 114
E. 薬剤管理・アプリケーション開発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 140
次期学術大会のご案内・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
165
IT ヘルスケア学会入会案内・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 167
開催行事一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 168
学会役員一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
169
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
参加者へのご案内
1. 学会参加受付
場所 東京医療保健大学
五反田キャンパス
本館 2 階
G211 室
日程 5 月 24 日(土)
、5 月 25 日(日)
2. 受付方法
(1) 事前参加登録をされた方
事前登録受付のメールを印刷してお持ちください
学生の方は学生証を合わせてご提示ください.
(2) 当日参加登録をされる方
当日,大会受付にて参加登録手続きをお願いいたします
IT ヘルスケア学会
会員
当日参加費
6,000 円
認知症ケア学会
会員
当日参加費
6,000 円
日本生体医工学会
会員
当日参加費
6,000 円
学生
当日参加費
1,000 円(学生証をご提示ください)
非会員
当日参加費
8,000 円
(3) 学会参加用名札
所属・氏名をご記入の上,入場の際には必ずご着用ください
3. 懇親会
場所:NTT 関東病院 タニタ食堂
日時:5 月 24 日(土)
18 時開始
4. クローク
本館 2 階にクロークを設置します.ご利用方法等は会場にてお尋ねください
5. 喫煙・飲食
会場内は全館禁煙です.喫煙は会場外喫煙場所をご利用ください
会場内では飲食可能ですが,ゴミは指定の場所に捨ててください
7
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
学会行事日程(タイムテーブル)
5 月 24 日(土)
G211
第1会場
第2会場
7:30
8:00
8:30
9:00
9:20~9:30 開会式
9:30
10:00
9:30~11:30
シンポジウム1
10:30
健康支援の展望
~ICTを用いたこれからの支援技術~
11:00
11:30
12:00
12:00~12:10 総会
12:10~13:00
ランチョンミーティング
12:30
地域包括ケアを 支える 基盤としてのICT
~医療・介護を 繋ぐ ハブ としてのSNSとコールセン ターの役割は?~
13:00
12:10~13:00
理事会・編集委員会
受付
企業展示
13:30
14:00
14:30
13:00~15:20
一般演題
セッションA
15:00
15:30
16:00
16:30
15:20~17:20
シンポジウム2
現場から学ぶモバイルヘルスケアの
Tips and Pitfalls
17:00
17:30
18:00
懇親会(NTT関東病院 タニタ食堂)
8
13:00~15:40
一般演題
セッションB
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
5 月 25 日(日)
8:00
8:30
9:00
9:30
9:00~11:00
シンポジウム3
10:00
認知症を取り巻く現状とICTへの期待
~ケアの視点を中心に~
10:30
11:00
11:00~11:40
日本生体医工学会 共催セッション
BME on Dementia
11:30
受付
11:00~12:00
一般演題
セッションC
12:00
12:30
企業展示
12:00~13:00
ランチシンポジウム
ユマニチュードをより深く理解するために
13:00
13:30
14:00
14:30
13:00~15:20
一般演題
セッションD
15:00
15:30
16:00
16:30
15:30~17:30
シンポジウム4
日本における医療・ヘルスケアビッグデータ
の未来を考える—現状と展望—
17:00
17:30
17:30~17:40
閉会式
9
13:00~15:00
一般演題
セッションE
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
プログラム
シンポジウム
シンポジウム1 「健康支援の展望~ICT を用いたこれからの支援技術~」
5/24(土)9:30~11:30 第 1 会場
座長: 山下 和彦(東京医療保健大学)
「医療・健康分野における計測技術の活用とココロにまで踏み込んだ健康支援の展望」
演者:山下 和彦(東京医療保健大学,実行委員長講演)
「メリハリをつけて歩く「インターバル速歩」:
生活習慣病・介護予防のための遠隔型個別運動処方システム」
演者:能勢 博(信州大学大学院)
シンポジウム 2 「現場から学ぶモバイルヘルスケアの Tips and Pitfalls」
5/24(土) 15:20~17:20 第 1 会場
座長:杉本真樹(神戸大学大学院)
,磯部 陽(国立病院機構 東京医療センター)
「佐賀の救急 iPad の成果と課題からみえるヘルスケアの未来」
演者:円城寺 雄介(佐賀県庁統括本部情報・業務改革課主査)
「産業保健分野における iPad、iPhone の活用」
演者:三宅 琢(東京大学先端科学技術研究センター)
「創発的な医療、医療セキュリティ」
演者:山寺 純(Eyes, Japan)
「OsiriX による中小規模病院におけるモバイル PACS 連携」
演者:菅野 忠博(ニュートン・グラフィックス)
「医療を可視化・可触化する ICT と 3D プリンティング」
演者:杉本 真樹(神戸大学大学院)
10
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
シンポジウム 3 「認知症を取り巻く現状と ICT への期待~ケアの視点を中心に~」
5/25(日) 9:00~11:00 第 1 会場
座長:町永 俊雄(元 NHK)
,高瀬義昌(医療法人社団至髙会たかせクリニック理事長)
「知覚・感情・言語による包括的ケア技術・ユマニチュード」
演者:本田美和子(国立病院機構 東京医療センター)
「人間中心の認知症情報学の発展に向けて」
演者:竹林洋一(静岡大学大学院)
「新たな都市型ネットワークモデル 『みま~も』が生み出した地域に暮らす安心とは!」
演者:澤登久雄(大田区地域包括支援センター入新井)
「地域見守りネットワークにICTの有効活用、
多職種間連携で実動するクラウドサービスの事例報告」
演者:山本奨(株式会社カナミックネットワーク)
「2025 年を見据えた東京都の認知症対策~地域包括システムの構築に向けて~」
演者:中山政昭(東京都高齢社会対策部長)
シンポジウム 4 日本における医療・ヘルスケアビッグデータの未来を考える—現状と展望—
5/25(日) 15:30~17:30 第 1 会場
座長:原 晋介(大阪市立大学大学院)
,阿久津 靖子(株式会社 MT ヘルスケアデザイン研究所)
「ビッグデータを活用したデジタルヘルスケアに向けた開発・標準化」
演者:和辻 徹(シャープ株式会社)
「PHR の今後の展望」
演者:田上 信介(元ヘルスコンティニュアアライアンス日本代表)
「ボディエリアネットワーク国際標準化とリバースイノベーション指向の
ヘルスケアへの適用」
演者:黒田 正博 (独立行政法人情報通信研究機構)
11
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
ランチョンミーティング
地域包括ケアを支える基盤としての ICT
~医療・介護を繋ぐハブとしての SNS とコールセンターの役割は?~
5/24(土) 12:10~13:00
第 1 会場
座長:高瀬義昌(医療法人社団至髙会たかせクリニック理事長)
ゲストパネリスト:土屋 淳郎(土屋医院)
協賛企業: 株式会社日本エンブレース,ソフトバンクテレコム株式会社,綿半綱機株式会社
ランチシンポジウム
ユマニチュードをより深く理解するために
5/25(日) 12:00~13:00
第 1 会場
座長:高瀬義昌(医療法人社団至髙会たかせクリニック理事長)
「知覚・感情・言語による包括的ケア技術・ユマニチュード」
演者:本田 美和子(国立病院機構 東京医療センター)
「ユマニチュードのスキルの伝達・普及・評価のための知能情報学」
演者:竹林 洋一(静岡大学大学院)
「精神症状のある高齢者に対するユマニチュードの意義」
演者:上野 秀樹(海上寮診療所)
日本生体医工学会共催セッション
5 月 25 日(日)11:00~11:40
BME on Dementia
第 1 会場
認知症予防を目的としたパソコン教育手法の効果と有用性
演者:向川誉(株式会社ウォンツ・ジャパン)
漢字色別テスト物語編を要介護者に適用した結果-認知症の有無についての比較-
演者:志村孚城(創生生体工学研究所)
12
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
一般演題
5 月 24 日(土)13:00~15:20 第 1 会場
セッション A:医療画像システム・医療機器
座長 大矢 哲也(日本医療科学大学)
A-1
救急外来待合室画像のインターネット配信
演者:菊野 隆明(国立病院機構東京医療センター)
コメンテータ:岩上 優美(東京医療保健大学)
A-2
変形性膝関節症の運動器具について
演者:石原 幸一(株式会社東新製作所)
コメンテータ:阿久津 靖子(株式会社 MT ヘルスケアデザイン研究所)
A-3
モバイル画像閲覧システムを利用した救急遠隔読影と画像診断教育の実際
演者:妹尾 聡美(国立病院機構災害医療センター)
コメンテータ:菊野 隆明(国立病院機構東京医療センター)
A-4
腹腔鏡手術トレーニングへの 3 次元骨盤モデル導入の試み
演者:磯部 陽(国立病院機東京医療センター)
コメンテータ:中村 肇(大阪市立大学大学院)
A-5
内視鏡手術における医用映像の保存と管理について
演者:関川 智重(四谷メディカルキューブ)
コメンテータ:遠藤 直哉(フェアネス法律事務所)
A-6
web 型電子カルテを用いた画像参照と利用状況
演者:田村 正樹(国立病院機構東京医療センター)
コメンテータ:山下 和彦(東京医療保健大学)
5 月 24 日(土)13:00~15:40 第 2 会場
セッション B:生体計測・モニタリング
座長 原 晋介(大阪市立大学大学院)
B-1
サッカー競技におけるリアルタイムバイタルデータ収集~フィールド実験によるパットロス率と遅延時間の計測~
演者:手塚 耕平(大阪市立大学大学院)
コメンテータ:木暮 祐一 (青森公立大学 )
B-2
加速度情報を用いた運動選手のエネルギー消費量推算
演者:有賀 雅人(大阪市立大学大学院)
コメンテータ:山下 浩史(ルーデンス技研株式会社)
B-3
光電脈波計と体動センサによる脈拍数測定
演者:島崎 拓則(大阪市立大学大学院)
コメンテータ:大野 ゆう子(大阪大学大学院)
13
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
B-4
心電図 R-R 間隔を指標にしたラベンダー精油、青森ヒバ精油のリラックス効果と緊張緩和効果の検証
演者:木暮 睦美(熊本大学大学院)
コメンテータ:石井 留雄(中央コリドー情報通信研究所)
B-5
スマートフォンを用いた脱水予防支援アプリケーションの開発
演者:廣島 孝香(東京医療保健大学)
コメンテータ:高瀬 義昌(医療法人社団至髙会たかせクリニック理事長)
B-6
スマートフォンによる口腔機能評価アプリケーションの開発
演者:向井 歩美(東京医療保健大学)
コメンテータ:木暮 祐一 (青森公立大学 )
B-7
服薬履歴管理のためのクラウド型「おくすり日記」システム
演者:丁井 雅美(広島国際大学)
コメンテータ:高橋 郷(国立病院機構東京医療センター)
5 月 25 日(日)11:00~12:00 第 2 会場
セッション C:二次利用
座長:水島 洋(国立保健医療科学院)
C-1
日本の医療における ICT イノベーションの必要性
演者:河崎 泰子(早稲田大学大学院)
コメンテータ:山田 康夫(英国国立ウェールズ大学経営大学院)
C-2
病院情報システム内のデータ活用に関する取組について
演者:大沢 昌二(国立病院機仙台医療センター)
コメンテータ:今泉 一哉(東京医療保健大学)
C-3
地域で予想される疾患の推移の検証
演者:遠山 義彦(国立病院機構東京医療センター)
コメンテータ:酒井 三奈子(明治安田生命保険相互会社)
5 月 25 日(日)13:00~15:00 第 1 会場
セッション D:地域医療連携・認知症
座長:木村 憲洋(高崎健康福祉大学)
D-1
がん治療における薬薬連携に必要な情報の検討
演者:矢田部 恵(国立病院機構東京医療センター)
コメンテータ:山下 和彦(東京医療保健大学)
D-2
練馬地域医療ネットワーク構築から 2 年間の実績
演者:栗原 直人(練馬総合病院)
コメンテータ:高嶌 恒男(みよの台薬局グループ本部)
D-3
名古屋医療センターにおける地域医療連携システム---2 回のバージョンアップの結果は--演者:佐藤 智太郎(国立病院機構名古屋医療センター)
コメンテータ:磯部 陽(国立病院機構東京医療センター)
14
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
D-4
認知症ケア高度化のための顔が見える知識映像コンテンツの構築
演者:石川 翔吾(静岡大学大学院)
コメンテータ:高瀬 義昌(医療法人社団至髙会たかせクリニック理事長)
D-5
高次脳機能障害者向け日常生活支援機器「あらた」
演者:九鬼 隆章(株式会社インサイト)
コメンテータ:八幡 勝也(住田病院)
D-6
Study on Remote Monitoring for Dementia Care at Home: Fighting Dementia in the Digital Age
演者:王 暄堯(早稲田大学)
コメンテータ:今泉 一哉(東京医療保健大学)
D-7
活動量計を利用した健康支援
演者:水島 洋(国立保健医療科学院)
コメンテータ:原 晋介(大阪市立大学大学院)
5 月 25 日(日)13:00~15:00 第 2 会場
セッション E:薬剤管理・アプリケーション開発
座長:川崎良雄(株式会社コミュニティメディカル)
E-1
携帯情報通信端末利用教育の必要性と教育プログラムの開発
演者:神崎 秀嗣(京都大学)
コメンテータ:大矢 哲也(日本医療科学大学)
E-2
情報技術(ICT)による救急初期医療体制促進化および周辺機器関連事業
演者:山口 正人(弘前大学)
コメンテータ:菊野 隆明(国立病院機構東京医療センター)
E-3
レセコン横断型電子版おくすり手帳『クスクス』の開発について
演者:汲田 宏司(株式会社エッグワークス)
コメンテータ:岩上 優美(東京医療保健大学)
E-4
がん治療における薬薬連携における課題の検討
演者:髙橋 郷(国立病院機構東京医療センター)
コメンテータ:島崎 肇(株式会社メディカルフロント)
E-5
がん患者に対する薬剤師外来の開設
演者:小川 千晶(国立病院機構東京医療センター)
コメンテータ:汲田 宏司(株式会社エッグワークス)
E-6
外来・在宅がん疼痛患者をサポートするアプリ Painting の有用性の検討
演者:皆川 暁生(東京理科大学)
コメンテータ:陶山 昭彦(富永病院)
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IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
シンポジウム 1
1 日目(5/24(土))9:30~11:30
第 1 会場
健康支援の展望
~ICT を用いたこれからの支援技術~
座長: 山下
和彦(東京医療保健大学)
講演 1 山下 和彦(東京医療保健大学,実行委員長講演)
講演 2 能勢 博(信州大学大学院)
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IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
健康支援の展望~ICT を用いたこれからの支援技術~
5/24(土) 9:30~11:30 第 1 会場
座長:山下 和彦(東京医療保健大学)
Healthcare は医療、保健(健康)、介護(認知症を含む)にまたがる領域です。 センサ、ネットワ
ーク技術などの ICT の発達により生体信号や身体機能が簡単にモニタリング・活動評価できるようにな
りました。 さらに個人の時系列的データやグループでのデータが集められるようになり、様々なエビ
デンスが構築されつつあります。一方で、 その活用方法が課題となる事例が多くあります。
本シンポジウムでは、健康支援、介護予防をキーワードに構成し、これからの健康支援の展望につい
て議論します。
講演 1 医療・健康分野における計測技術の活用とココロにまで踏み込んだ健康支援の展望
山下 和彦(東京医療保健大学)
講演 2 メリハリをつけて歩く「インターバル速歩」
:生活習慣病・介護予防のための遠隔型個別運動処
方システム
能勢 博(信州大学大学院)
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IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
演者
略歴
山下 和彦 (やました かずひこ)
2003 年
東京電機大学大学院 工学研究科 博士課程 修了 工学博士
2003~2005 年
財団法人 豊田理化学研究所 奨励研究員
2004~2011 年
東京大学 先端科学技術研究センター 客員研究員
2005 年
東京医療保健大学 医療保健学部 医療情報学科 講師
2007 年
東京医療保健大学 医療保健学部 医療情報学科 准教授
2013 年~
東京医療保健大学 医療保健学部 医療情報学科 教授
2013 年~
大阪大学大学院医学系研究科
ロボティクス&デザイン看工融合共同研究講座 招聘教授
2002 年
ライフサポート学会 バリアフリーシステム開発財団 奨励賞
2006 年
計測自動制御学会 SI 部門 優秀講演賞
2007 年
計測自動制御学会 システム・情報部門 研究奨励賞
2010 年
日本医療機器学会 優秀演題賞 受賞
2012 年
ライフサポート学会 論文賞
能勢 博(のせ ひろし)
1979 年
京都府立医科大学医学部医学科・卒業
1979 年
京都府立医科大学・助手・第一生理学教室・勤務
1985 年
米国・Yale 大学医学部・John B. Pierce 研究所へ博士研究員として留学.
1988 年
帰国
1993 年
京都府立医科大学・助教授昇任・第一生理学教室・勤務
1995 年
信州大学医学部附属加齢適応研究センター・スポーツ医学分野・教授
2003 年
信州大学大学院医学研究科・加齢適応医科学系(独立専攻)
個体機能学部門・スポーツ医科学分野・教授に配置換え
NPO法人熟年体育大学リサーチセンター・理事長就任
2004 年
2006 年
2012 年
厚生労働省「運動所要量・運動指針の策定検討会」委員就任
信州大学大学院医学系研究科・疾患予防医科学系専攻・スポーツ医科学講座・教授
18
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
医療・健康分野における計測技術の活用とココロにまで踏み込んだ
健康支援の展望
山下 和彦
東京医療保健大学 医療保健学部 医療情報学科
Kazuhiko YAMASHITA
Faculty of Healthcare, Division of Healthcare Informatics, Tokyo, Japan.
1.はじめに
2012 年の日本の高齢化率は 24%を超え,2025
年には団塊の世代が 75 歳以上の後期高齢者とな
る.超高齢社会の大きな課題の 1 つに健康支援が
あり,いつまでも元気に活動するための方策を展
開することが求められる.
要介護要因の上位であり,QOL や ADL を一瞬
図 2 膝間力計測器
にして極端に低下させる要因に転倒骨折が挙げ
られる.転倒骨折で最も重篤なものの 1 つに大腿
骨頸部骨折が挙げられ,年間約 16 万人に発生し
ていると考えられている.
高齢者の転倒骨折の要因として,年齢,女性,
移動障害,パーキンソン病などの疾病,薬,a.歩
行機能,b.バランス機能,c.下肢筋力が挙げられ
る[i,ii].年齢や性別などの危険因子を除去するこ
とは難しいが,a~c などの身体機能は高齢者でも
改善が可能であり,転倒予防を推進するため手が
かりに利用できると考えられる.
図 3 靴型歩行・バランス機能計測装置
2.転倒リスク評価のための身体機能計測システ
ムの開発
高いことなどが挙げられる.図 1,2 の装置は椅
2.1 下肢筋力計測システムの開発
子に座って計測が可能であることから,スタティ
図 1,2 は下肢筋力を計測するための足指力計
ックな筋力計測が可能であり,高齢者同士でも計
測器と膝間力計測器である.地域在住の高齢者を
測が可能である.
対象とする計測器に求められる要件は,①持ち運
下肢筋力から見た転倒リスク指標の構築とし
びができて簡便であること,②計測値がわかりや
て,足指力は左足が 2.4kgf,膝間力が 18kgf のど
すくすぐに理解できること,③専門家がいなくて
ちらか一方,あるいは両方を下回ることにより,
も利用できること,④計測誤差が少なく再現性が
転倒リスクが高まる(オッズ比 9.1)ことがわか
っている.さらに,この両方の値を下回る対象者
を抽出することで 82%の確率で転倒リスクの高い
虚弱高齢者をスクリーニングできることから,地
域の転倒予防を進める上で,一つの指標に活用で
きると考えられる.
図 1 足指力計測器
19
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
2.2
歩行・バランス機能計測システムの開発
いると報告されている.図 5 左は足爪の変形・変
図 3 は歩行機能とバランス機能を計測するため
色,外反母趾が観察される.図 5 右は巻き爪と足
の靴型歩行・バランス機能計測装置である.足部
指の変形が観察される.これらの例以外にも様々
の解剖学的見地,および歩行と姿勢制御のメカニ
な問題を抱えており,転倒リスクを高める要因と
ズムの観点から片足 7 点の圧力センサを配置して
なっている.
いる.据置型の重心動揺計との同時計測による足
そこで本研究では,10 か月間の足部のケアを実
圧中心(COP)の相関は 0.95 であり,Bluetooth に
施し,身体機能の変化と外観の観察等を行った.
よる無線通信にてサンプリング周波数 100Hz の計
図 6 には足部のケアの実施前と終了時の外観を示
測が可能であることから,人間の歩行や姿勢制御
した.図 6 より足爪の状態の改善が観察され,図
能を評価することが可能である.
7 のように足指力も有意に改善することがわかっ
た.
2.3
身体機能を計測する意義
図 1~3 で得られる計測結果の活用は,支援者
の立場からは,A.対象者の身体機能データを解析
することで対象者の身体機能に整合した指導を
行える,B.指導の効果を定量的に理解し,次の対
図 5 高齢者の足爪・足部の問題の一例
策を検討できる点が挙げられる.対象者の立場か
らは,C.自分の身体機能の状態を理解し,何をす
べきかが理解できる,D.指導された内容を自宅で
も実施し,その効果を見える化できることが挙げ
られる.さらに図 4 左のように氏名は ID 化し計
測データの成績を示したり,右のようにコミュニ
ケーションツールとしても利用される.匿名化さ
れているが,一緒に活動する仲間のデータに触れ
ることで様々な想いが生まれる.
このように身体機能計測は,現状の把握と効果
の評価だけではなく,運動やケアのモチベーショ
図 6 10 か月間の足部ケアによる足爪の改善
ン向上や本人の自信の維持・向上にも有効に利用
できる.
*
*
6
足指力[kgf]
5
足指力右
足指力左
*
*
4
3
2
1
0
図 4 高齢者における計測結果の活用
介入時
介入終了時
非転倒リスク群
3. 高齢者の転倒予防のための足部ケアの効果
介入時
介入終了時
転倒リスク群
図 7 足部ケアによる足指力の変化
高齢者の 6 割以上に足部や足爪の問題を抱えて
20
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
6
足指力右
足指力[kgf]
5
*
*
4
これまで足部や足爪を見せることに抵抗感があ
足指力左
*
*
った対象者の足部や足爪の外観が変化したこと
は,本人の満足度を高めることにつながった.実
際に,糖尿病で自宅に閉じこもりがちであった対
3
象者が運動教室などの健康イベントなどに参加
2
するようになり,行動変容が確認できた.
1
0
介入時
介入終了時
足の痛み あり群
介入時
表 1 足部ケアによる医療費の変化
介入終了時
2011
2012
全体
¥254,009 ¥202,874
非転倒リスク群 ¥198,607 ¥178,684
転倒リスク群 ¥358,657 ¥248,567
足の痛み なし群
図 8 足の痛みに対する足部ケアの効果
高齢者の移動機能を低下させる要因に足部の
痛みが挙げられるが,図 8 より足部に痛みのある
5. まとめ
対象者は痛みのない群に比べ,足指力が有意に低
本研究では,慢性疾患や変形性膝関節症などの
下していることがわかる.これらの群に足部のケ
医療や健康活動への問題につながると考えられ
アを実施することにより,有意に下肢筋力が向上
る高齢者に対して,足部のケアや身体機能の計測
することがわかった.
を実施した.
その結果,転倒に密接に関係する身体機能の向
4. 足部ケアによる医療費の変化
上が確認でき,医療費の最適化,対象者の行動変
表 1 に足部ケアの介入による対象者の医療費
容が明らかになった.これらの活動や計測システ
(75 歳未満は国保,75 歳以上は後期高齢者医療
ムなどの工学技術が人間のココロにアプローチ
費)の分析結果を示した.表 1 より,全体の平均
でき,人と人をつなぐ,あるいは高齢者の人生の
として平均 5 万円の減少であり,特に転倒リスク
最期を華やかで自信が持てる形につなげられる
群の医療費の減少率が大きいことがわかった.
ことは有意義であると考える.
本研究の対象者の中には,変形性膝関節症や腰
痛症などの整形外科的疾患,糖尿病等の慢性疾患
参考文献:
[i] Ruvenstein LZ, Josephson KR: The
が含まれる.これらの対象者に足部のケアを実施
することで,医療的アクティビティを高めるので
epidemiology of falls and syncope. Clin Geriat
はなく,健康活動に意識が変化したことは有意義
Med.18: 141-158, 2002
だと考えられる.
[ii] Guideline for the Prevention of Falls in
Older Persons, JAGS, 49, pp664-672, 2001
医療行動の最適化と健康観の高まり,さらには
日常生活を快適にできることは高齢者の健康活
動に重要である.さらに,図 6 に示したように,
21
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
メリハリをつけて歩く「インターバル速歩」
生活習慣病・介護予防のための遠隔型個別運動処方システム
能勢 博
信州大学大学院医学系研究科、熟年体育大学リサーチセンター
我々は、過去 10 年以上にわたって「インターバル速歩トレーニング」によって、地域密着型個別運動
処方を実施し成果を上げてきた。それを例に、今後の中高年者の健康増進について「ややきつい運動」
の重要性を提言したい。
▼ 何が社会問題か?
少子高齢社会における高齢者医療費の高騰である。H24 年度には 24 兆円であったが、このままの医療
体制では、わずか 10 年後の H35 年には 56 兆円になる。すなわち、医療を「治療」から「予防」に急速
に転向する必要がある。我々は「運動処方で何処まで医療費が削減できるのか」を命題とし、H9 年度に
産官学民の共同事業「松本市熟年体育大学」を立ち上げ、以降 16 年間運動処方による介入研究を実施
してきた。
▼ 何故、体力か?
事業発足当初 H9 年-H13 年の 4 年間、厚労省が推奨する「1 日 1 万歩を毎日歩こう」をスローガンに
事業 1,000 人で実施したが、1 年間の定着率が 50%以下、さらに、たとえ 1 万歩/日、毎日歩いても、
生活習慣病の症状の改善は顕著なものではなく、(さらに重要なことに)体力が向上していないことが
判明した。一方、疫学的な研究結果として 30 歳以降 10 歳加齢するごとに 5-10%ずつ体力は低下するが、
これと医療費とが非常に強く相関することは良く知られている。すなわち、1 日 1 万歩の運動処方では
体力が向上せず、したがって生活習慣病も改善しない、ことが明らかとなった。
▼ 何故、個別運動処方か?
体力を向上するにはどうしたらいいか。米国のスポーツ医学会は体力向上、生活習慣病予防・治療の
ためには、まず「個人」の最大体力を測定し、その 70%以上の負荷の運動を 15 分/日以上、4 日/週以
上、実施すれば、5 カ月で体力が 10%向上、生活習慣病の症状も 10-20%改善すると保証している。こ
れが現在の運動処方に関する国際的な運動指針である。
▼ 何故、欧米型個別運動処方は普及しないのか?
しかし、この運動指針の普及は、米国でも 15% 程度に過ぎない(日本では 5%)。原因は「費用がか
かる」の一言につきる。すなわち、トレッドミル、自転車エルゴメータ等のマシンの購入費、それを収
容するための施設、それらのマシンを使いこなせるトレーナーの雇用費を考えれば、1 人の参加者当た
り年間 20 万円の費用が必要となり、一般市民には手が届かない。
▼ 「インターバル速歩」とは何か?
体力向上のためにもっと現実的な運動処方を提案できないか。我々は H13 年より何時でも、
何処でも、
誰でも、安価に実施できる体力向上のための運動処方として個人の体力に合った個別運動処方「インタ
22
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
ーバル速歩トレーニング」を提案し、以降、それを軸に事業を展開してきた。特徴は、以下の3つであ
る。
① 【携帯型カロリー計(熟大メイト)
】 3 軸の加速度計と気圧による高度計を内蔵し、それぞれ傾
斜地(階段)歩行時の運動エネルギー、位置エネルギーを測定し、それらの和から歩行時の消費エネ
ルギー量を正確に測定できる世界初のロジックを搭載している。この装置を腰に装着して、フィール
ドで 3 分間の最速歩行を実施すれば、体力に自信のない人(中高年者の 90%以上、若年者の 60%以
上)であれば、個人の体力が正確に測定できる。すなわち、この装置の開発でマシンなしで個人の最
大体力の測定と運動中のエネルギー消費量の測定が可能になった。
② 【インターバル速歩トレーニング】 個人ごとに 3 分間の最速歩行で決定した最大体力の 70%以
上の速歩と 40%以下のゆっくり歩きを 3 分間ずつ交互に 5-10 セット/日、4 日/週以上を目標に、5
カ月間繰り返す方法。
③ 【遠隔型個別運動処方システム (e-HPS) 】 「熟大メイト」を装着して、各自、自由にインター
バル速歩トレーニングを実施する。2 週間に1回、近くの地域公民館から熟大メイトに記憶された歩
行記録を PC 端末からサーバーに転送する。すると、サーバーから折り返し、歩行中のカロリー消費
量のトレンドグラフと、DB に基づいて e-HPS によって自動的に作成されたコメントが返信される。
このグラフに基づき、トレーナー、栄養士、保健師が目標の達成度を確認し個別運動指導を行なう。
▼ マシン並みの効果があるのか?
H22 年までにインターバル速歩トレーニングの効果について 4,000 人の DB を構築した(現在は 5,400
人)
。その結果、5 カ月間の同トレーニング効果について、体力が最大 20%向上し、生活習慣病の症状
が 20%改善、うつ症状と膝関節痛の症状がそれぞれ 50%改善し、医療費が 20%抑制できた。また、継
続率が 94%と、マシントレーニングより高かった。以上、マシントレーニングに匹敵する効果がその
1/4 の費用で達成できた。
▼ 分子生物学的な裏付けはあるのか?
最近、生活習慣病の発症機序について、加齢、運動不足によって細胞内のミトコンドリア機能が劣化
し、これによって全身性の慢性炎症がおき、それが脂肪細胞でおきれば「糖尿病」、免疫細胞で起きれ
ば「循環器疾患」
、脳細胞でおきれば「認知症」、
「うつ病」
、がん抑制遺伝子に影響すれば「がん」にな
る、すなわち、それぞれ疾患の症状は違うが、根本原因は加齢・運動不足であるという考え方が世界の
潮流になりつつある。最近の我々の研究でも、インターバル速歩の遺伝子修飾(メチル化)への効果を
ゲノムワイドで解析した結果、炎症促進遺伝子群のメチル化(不活性化)、炎症抑制遺伝子の脱メチル
化(活性化)が起きることを突き止めた。さらに、遺伝子に関する 2,200 人の DB から、運動処方に特
に反応する遺伝子の同定にも成功した。これらの結果は同運動処方の効果が非常に再現性と確実性の高
いことを意味する。
▼ 普及は期待できるのか?
「科学的証拠に基づく体力向上のための運動処方」として、国内では厚労省「エクササイズガイド 2006 」、
文科省「平成 22 年度科学技術白書」に紹介され、国外では、生理学のトップジャーナルである Journal
of Physiology (Lond.)の表紙で未来型の運動処方として紹介された。それと並行してコペンハーゲン
大学、米国イェール大学、メイヨークリニックで追試実験が行われ、本運動処方の有効性を支持する論
23
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
文が発表された。
国内の過去 4 年間のマスコミ取材件数は 200 件以上、
講演依頼は 100 件以上にのぼる。
このように、同事業に対する社会的な期待は大きい。
24
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
シンポジウム 2
1 日目(5/24(土)
)15:20~17:20
第 1 会場
現場から学ぶ
モバイルヘルスケアの Tips and Pitfalls
座長
杉本真樹(神戸大学大学院)
磯部
陽(国立病院機構東京医療センター)
講演 1 円城寺
雄介(佐賀県健康福祉本部)
講演 2 三宅 琢(東京大学先端科学技術研究センター)
講演 3 山寺 純(Eyes, Japan)
講演 4 菅野 忠博(ニュートン・グラフィックス)
講演 5 杉本 真樹(神戸大学大学院)
25
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
現場から学ぶモバイルヘルスケアの Tips and Pitfalls
5/24(土) 15:20~17:20 第 1 会場
座長:杉本真樹(神戸大学大学院)
、磯部 陽(国立病院機構 東京医療センター)
IT とモバイルの普及により、医療情報の利活用は大きく進化した。タブレット端末やクラウド、医
療機器セキュリティや画像管理、3D プリンタなど、新しい領域への影響も議論されてきた。
そこでモバイルヘルスケアの現状と課題について、実際の臨床現場で活躍している当事者たちが報告
する。
講演 1
佐賀の救急 iPad の成果と課題からみえるヘルスケアの未来
円城寺 雄介(佐賀県健康福祉本部)
講演 2 産業保健分野における iPad、iPhone の活用
三宅 琢(東京大学先端科学技術研究センター)
講演 3 創発的な医療、医療セキュリティ
山寺 純(Eyes, Japan)
講演 4 OsiriX による中小規模病院におけるモバイル PACS 連携
菅野 忠博(ニュートン・グラフィックス)
講演 5 医療を可視化・可触化する ICT と 3D プリンティング
杉本 真樹(神戸大学大学院)
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IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
演者
略歴
円城寺 雄介(えんじょうじ ゆうすけ)
2000 年
立命館大学 経済学部卒業
2001 年
佐賀県庁入庁
2010 年
医務課で救急医療担当
2012 年
MCPC アワード 2012 グランプリ・総務大臣賞受賞、全国知事会先進政策大賞受賞
2012 年
総務省 ICT 地域マネージャー委嘱
2013 年
第 8 回マニフェスト大賞 優秀賞受賞
2014 年
現職
三宅 琢(みやけ たく)
2005 年
東京医科大学医学部医学科・卒業
2005 年
東京医科大学八王子医療センター 初期研修
2007 年
東京医科大学病院 眼科学教室 後期研修医
2012 年
東京医科大学病院 眼科学教室大学院・卒業
2012 年
東京医科大学病院 眼科学教室 兼任助教
2013 年
東京大学先端科学技術研究センター 人間支援工学分野 特任研究員
2014 年
神戸理化学研究所 網膜医療研究開発プロジェクト 客員研究員
山寺 純(やまでら じゅん)
菅野 忠博(かんの ただひろ)
杉本 真樹(すぎもと まさき)
1996 年
帝京大学医学部卒業
1996 年
帝京大学医学部附属病院外科
1998 年
国立病院機構東京医療センター外科
2000 年
帝京大学大学院医学研究科
2000 年
帝京大学医学部附属病院外科 医員
2004 年
帝京大学ちば総合医療センター外科
2008 年
米国退役軍人局パロアルト病院消化器内視鏡科 Visiting fellow
2009 年
(現職)神戸大学大学院 医学研究科 消化器内科 特命講師
2011 年
(兼任)帝京大学医療情報システム研究センター 客員教授
2012 年
(兼任)千葉大学フロンティア医工学センター特別研究准教授
27
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
佐賀の救急 iPad の成果と課題からみえるヘルスケアの未来
佐賀県庁 統括本部 情報・業務改革課 主査 円城寺 雄介
佐賀県では2011年4月に全国で初めて県内全ての救急車(50台)にタブレット型端末「iPad」
を配備し、救急医療現場でのICT活用に取り組んでいる。
症状に対応する医療機関の検索や、医療機関の受け入れ可否の情報、そして搬送後に救急隊員が搬送実
績情報をiPadへ入力することで、救急医療現場の情報をリアルタイムに双方向で消防機関と医療機
関との間で共有するという、
「見える化」の取組みを行ってきた。
その結果、地域の救急搬送の全体像を「俯瞰」できるようになり、関係者の間に連携体制や協力意識が
生まれた。さらに集まった統計データを分析し地域の課題を共有したことが新しい政策に繋がり、本年
1月には医療関係者の念願であったドクターヘリの導入を実現することができた。
本講演では行政職員の立場から取り組んだ、佐賀県の救急医療変革について紹介させていただくととも
に、ICT を活用した更なる救急医療の充実ためにヘルスケアとの連動による新時代の救急医療について
お話させていただく。
28
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
Application of the iPad and the iPhone in Occupational Health
(産業保健分野における iPad、iPhone の活用)
三宅 琢
東京大学先端科学技術研究センター 人間支援工学分野
Taku Miyake
Department of Advanced Interdisciplinary Studies,
Research Center for Advanced Science and Technology, Tokyo University, Tokyo, Japan.
つ社員に対する合理的配慮の視点からも就労環
1. はじめに
境の適性化において有用である。
近年障害者の雇用の促進や就労環境の適正化な
どの合理的配慮の必要性が高まりつつある。高齢
5.おわりに
化や雇用期間の延長に伴い中途で発症する障害
産業保健分野における ICT の導入は有用であり、
の中に、就労の継続が困難になる事が多い障害と
障害者への導入には眼科医や産業医、教育機関や
して視覚障害がある。
障害者支援などの異なる分野の連携の構築が必
要である。
ここ数年、眼科領域において視覚障害者に対する
iPad や iPhone の活用が注目されており、多くの
参考文献:
企業でもすでに導入されている ICT を活用する
[1]日本眼科医会研究班報告:日本における視覚障
事で、就労環境の改善に有用な可能性がある。
害者の社会的コスト. 日本の眼科. pp.1-48, 2009.
[2] 三宅
琢、野田知子、柏瀬光寿、後藤
浩:
2.目的
多機能電子端末(iPad2)のロービジョンエイド
産業保健分野における就労環境の適性化やメン
としての有用性.臨床眼科. 66(6): pp.831-836,
タルヘルスケアおいて、ICT 活用の意義と可能性
2012.
について紹介する。
[3] 三宅
琢:タブレット型PCの眼科領域での応
用(第1章) なぜ今、眼科医療においてタブレット
3.方法
型PCが大切なのか. あたらしい眼科. 29(6)
就労環境における ICT の活用の意義を三つの視
pp.809-810, 2012
点に分けて、これまでに経験した事例をもとに
[4] 三宅
ICT 導入の可能性と意義、問題点等を紹介する。
ト型PCやスマートフォンを用いたロービジョン
a 視覚障害者における ICT 導入
ケア. 日本の眼科. 84(6) pp.746-749, 201
b 重複障害者における ICT 導入
c 産業保健における ICT 導入
4.考察
ICT の導入は、産業形態の多様化した現代社会に
おいて、人や情報をつなぐ重要なツールとなる可
能性がある。ICT の活用は、さまざまな障害を持
29
琢:わかりやすい臨床講座 タブレッ
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
医療を可視化・可触化する ICT と 3D プリンティング
Visible and tangible medical informatics using information technology and 3D printing
杉本真樹*
*神戸大学大学院 医学研究科 消化器内科 特命講師
Maki Sugimoto*
*Department of gastroenterology, Kobe University Graduate School of Medicine, Hyogo, Japan.
1.はじめに
4.考察
近年の情報通信技術 ICT とモバイル端末の普及によって, 医
ICT と 3D プリンティング技術は, お互いを融合し補完しあう
療健康情報の可視化が進み,個人の医療健康データがいわゆるビ
ことで医療健康情報を直感的に扱う手段として有用と考えられ
ッグデータとして注目されているが, その有効な活用が議論さ
る. 一方その普及には, 技術進歩と低コスト化が今後の課題と
れている. 個人情報の取り扱いやユーザビリティなどの課題も
してあげられる.
多く, とくに医療画像情報などはいまだ医療機関内での活用に
5.おわりに
留まり,十分利活用されているとはいえない. そこで, さらに医
医療健康情報をビッグデータとして有効活用するために, 個
療を可視化し,直感的に可触化するために, ICT と 3D プリンティ
人情報の取り扱いやユーザビリティなどの課題をクリアしなが
ングを活用し,成果を得たので報告する.
ら, ICT と 3D プリンティングを活用した医療の可視化可触化を推
2.方法
進していきたい.
臨床における医用画像を低コストに取り扱うため, 無償医用
画像解析アプリ OsiriX を使用し, 3D 画像に再構成, 拡張現実感
AR や混合現実感 MR を用いたプロジェクションマッピング, 立体
参考文献:
視モニタ表示とし,直感的認知を向上した. これらの情報操作を,
[1]杉本真樹(Team 医療 3.0)著編:
モバイル端末やタッチパネル、ジェスチャーコントロール、ウェ
らの課題解決への提言. アスキー・メディアワークス. 東京,
アラブル端末などの直感的インターフェイスにて構築した. さ
2012.
らにこれらの医療画像データを元に 3D プリンターにより立体的
[2]杉本真樹:DVD 3D臨床解剖アトラス
に生体の質感ごと再現し、触覚を得ることができる技術、
[3]杉本真樹:医用画像解析アプリOsiriXパーフェクトガイド.
IT が医療を変える 現場か
CT・MRIとOsiriXで再構
成された動画ライブラリー. メディカ出版, 大阪, 2012.
エクスナレッジ, 東京, 2011.
Bio-Texture ModelingⓇを開発した(特許)。これらの医療情報活
[4]杉本真樹(Team 医療 3.0):
用の有用性につき, 実臨床にて実践し検討した.
スマホ, タブレットが変える IT
医療革命. アスキー・メディアワークス. 東京, 2011.
3.結果
[5]杉本真樹著,
ICT による医療健康情報の活用には限界があり, その提示法
編:医療現場 iPad 実践ガイド. エクスナレッジ,
東京, 2011.
とインターフェイスおよびユーザビリティの改善により, ビッ
[6]杉本真樹:消化管・肝胆膵ベッドサイドイメージング
グデータ活用の活路が見いだされる可能性が示唆された. さら
Mac
対応フリーソフトウェア OsiriX でつくる 3D ナビゲーション(DVD
にモバイル技術や 3D プリンティング技術を融合すれば, 一般社
付). へるす出版 東京,2009
会との境界を減少し, 直感性を向上できる可能性が示唆された.
30
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
シンポジウム 3
2 日目(5/25(日)
)9:00~11:00
第 1 会場
認知症を取り巻く現状と ICT への期待
~ケアの視点を中心に~
座長
町永俊雄(元 NHK)
高瀬義昌(医療法人社団 至高会理事長)
講演 1 本田美和子(国立病院機構 東京医療センター)
講演 2 竹林洋一(静岡大学大学院)
講演 3 澤登久雄(大田区地域包括支援センター入新井)
講演 4 山本奨(株式会社カナミックネットワーク)
講演 5 中山政昭(東京都高齢社会対策部長)
31
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
認知症を取り巻く現状と ICT への期待~ケアの視点を中心に~
5/24(土) 9:00~11:00 第 1 会場
座長:町永 俊雄(元 NHK)
,高瀬義昌(医療法人社団至髙会たかせクリニック理事長)
医療と介護の連携が語られて久しい一方、認知症 500 万人時代、軽度認知障害(MCI)を入れると
1,000 万人時代となる。高齢者 3000 万人のうちの 1,000 万人という超、超超認知症時代に向けて、認
知症の人が尊厳を持って、 また安全に暮らすことができる社会づくりが必要であり、ICT に期待され
るところは大きい。
【前半】ユマニチュードの実際と知能情報学的な解釈 今、認知症の人が生き生きとして暮らすことが
できる社会をつくるために認知症ケアメソッドのひとつ「ユマニチュード」が注目されている。「ユマ
ニチュード」に着目された総合内科医の本田氏に、認知症対策の現状とあるべき姿を語っていただく。
同時に、知能情報学の専門家である竹林氏には全体を通してその特徴と「認知症情報学」としての意義
について語っていただく。
【後半】地域における認知症対策(区~東京都)
『みま~も』をはじめとして、地域見守りネットワークを東京・大田区の包括支援センターと、周囲の
企業体をも含めた地域ネットワークづくりに尽力している澤登氏。および、その ICT ネットワークの土
台づくりに尽力された山本氏をお迎えし、 現在の姿と将来に向かって語っていただく。今後の認知症
ケアをサポートするための ICT を使った啓蒙普及、 ICT を利用した地域ネットワークづくりの未来に
ついて総合的に討論して頂く予定である。 最後に、東京都における認知症対策の要として尽力されて
いる中山氏に東京都の現状とあるべき姿を語っていただく。 尚、ユマニチュードについては 2014 年 2
月 5 日(水)の NHK クローズアップ現代で紹介された。
講演 1 知覚・感情・言語による包括的ケア技術・ユマニチュード
本田 美和子(国立病院機構 東京医療センター)
講演 2 人間中心の認知症情報学の発展に向けて
竹林 洋一(静岡大学大学院)
講演 3 新たな都市型ネットワークモデル 『みま~も』が生み出した地域に暮らす安心とは!
澤登 久雄(大田区地域包括支援センター入新井)
講演 4 地域見守りネットワークにICTの有効活用、多職種間連携で実動するクラウドサービスの事
例報告
山本 奨(株式会社カナミックネットワーク)
講演 5 2025 年を見据えた東京都の認知症対策~地域包括システムの構築に向けて~
中山 政昭(東京都高齢社会対策部長)
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IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
演者
略歴
本田 美和子(ほんだ みわこ)
1993 年
筑波大学医学専門学群卒業
1993 年
国立東京第二病院(現・国立病院機構 東京医療センター)内科
1995 年
医療法人鉄蕉会・亀田総合病院 総合内科
1997 年
国立国際医療センター エイズ治療・研究開発センター
1998 年
米国トマスジェファソン大学 内科
2001 年
米国コーネル大学 老年医学科
2002 年
国立国際医療研究センター
2009 年
同専門外来医長
2011 年
国立病院機構東京医療センター 総合内科医長
2014 年
同
エイズ治療・研究開発センター
政策医療企画研究部・医療経営情報室
室長兼任
竹林 洋一(たけばやし よういち)
1980 年
東北大学大学院博士課程了,東芝入社.
MIT メディア研究所客 員研究員,ヒューマンインタフェース技術センター長,知識
メディアラボラトリー技監など.
2002 年
静岡大学教授
2004 年
デジタルセンセーション(株)会長兼務
これまで、音響信号処理、パターン認識、人工知能、音声自由対話シ
ステム、知識情報共有システ ム、医療情報システムの研究実用化に従事。情報
処理学会ヒューマンインタフェース研究会主査、情報処理学会理事、人工知能学
会理事などを歴任、現在、人工知能学会「コモンセンス知識と情動研究会」主
査、日本子ども学会理事。
最近は、
「現場主義」で、対話型知識映像コンテンツ、高齢者の意図感情理解、
コモンセンスに基づくコミュニケーション科学、認知症情報学の研究に取り組
んでいる。
33
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
澤登 久雄(さわのぼり ひさお)
2008 年4月
地域の医療・介護事業者に呼びかけ、「おおた高齢者見守りネットワーク」を発足。
現在、協賛事業所・企業・団体は70を超える。
2009 年8月
当団体にて「SOS みま~もキーホルダー登録システム」を生み出す。
2012 年
大田区サービス「高齢者見守りキーホルダー」事業として移行。
65 歳以上の区民全てが利用可能なシステムとなる。
2013 年 8 月
「高齢者見守りキーホルダー」登録者は 17,3263 名。全国の 10 ヶ所の自治体で導入
されている。
大田区地域包括支援センター入新井 センター長。
社会医療法人財団仁医会 牧田総合病院 医療福祉部・在宅医療部 部長。
山本 奨(やまもと しょう)
1953 年
京都市に生れる
1975 年
大学中退後 映像制作のクリエイターとして独立
1984 年
東京に移住し広告業界で TVCF などの制作を行う
1999 年
介護保険制度の告知 TVCM を制作
2000 年
介護サービスの地域連携を可能にする ASP サービスを開発提供開始
株式会社カナミックネットワークを設立
2002 年
ケアマネジメント及び介護サービス業務管理システムを開発提供
その後も連携機能を充実させ多職種連携のベースとなる
2009 年
ASP・SaaS・クラウドアワードで 3 年連続受賞(ASPIC 主催・総務省後援)
~2011 年
2011 年
東京大学高齢社会総合研究機構と共同研究開始
情報共有システムを千葉県柏市に導入
2014 年
地域包括ケアシステム構築に向けて全国各地の医師会や自治体に導入
現在に至る
34
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
中山 政昭(なかやま まさあき)
1978 年
1978 年
1996 年
2001 年
2004 年
2008 年
2011 年
中央大学法学部卒業
東京都庁入都
都立府中病院医事課長
福祉局子ども家庭部子育て推進課長
福祉保健局少子社会対策部計画課長
大田区保健福祉部長
福祉保健局高齢社会対策部長(現職)
2003 年
内閣府「保育サービス価格に関する研究会」委員
2013 年
厚生労働省「都市部の高齢化対策に関する検討会」委員
35
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
知覚・感情・言語による包括的ケア技術・ユマニチュード
国立病院機構 東京医療センター 本田美和子
加齢による認知機能の低下が進行するにつれ、自分が受けているケアや治療の意味が理解できず、ケ
アの拒絶もしくはケアを実施する者に対する暴言・暴力行為などを表出する高齢者は多い。これにより
高齢者本人の生活の質保持が難しくなるとともに、ケアを行う者は疲弊し、燃え尽き症候群を呈して職
場を立ち去るなど看護・介護人材の離職率増加にも直結している。このようなケア困難例に対して、包
括的なコミュニケーションに基づく技法を用いることによってケア困難な認知症高齢者が穏やかにケ
アを受け入れるようになり、認知症周辺症状も徐々に改善する効果を上げることが知られている。この
ケア技法は知覚・感情・言語に基づく包括的高齢者ケアメソッド・ユマニチュードと呼ばれ、フランス
をはじめ欧州で 35 年の実績を持つ。ユマニチュードは4つの基本技術:見る・話す・触れる・立位援
助の4つの基本技術から構成され、ケア実施者に対してこの基本技術を柱とした教育を行い、それを実
践することによってケア困難者の拒否行動が減少し、本人およびケア実施者である看護師介護士双方の
ケアに対する満足度がそれぞれ上昇していることや、看護師が自己の看護技術の向上を自覚し、職務に
関する満足度も増加するとなどのアウトカム研究および質的研究の報告がある。本シンポジウムでは、
本メソッドの概説および、コミュニケーションに基づく知能情報学との関連について討議を行いたい。
参考文献
Delmas C. et al. Are difficulties caring for patients with Alzheimer’s disease becoming an
opportunity to prescribe well-being with the Gineste Marescotti care methodology? European Union
Geriatric Society Annual Meeting, 2013
Honda M. et al. The effectiveness of French origin dementia care method; Humanitude® for acute
care hospitals in Japan, a pilot study. European Union Geriatric Society Annual Meeting, 2013
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IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
高齢者見守りキーホルダーがつくる『安心』と『安全』
大田区地域包括支援センター入新井 センター長・
社会医療法人財団 仁医会 牧田総合病院 医療福祉部・在宅医療部
澤登
部長
久雄
1.はじめに
(3)情報更新は年 1 回、地域包括支援センターで行う
「高齢者見守りキーホルダー」
(以下見守りキーホ
ため、連携機関にとって確実性の高い情報である。
ルダー)は、2012 年 4 月に施行された大田区高齢
4.地域包括支援センターの果たす役割
者福祉施策であり、大田区が今後の更なる高齢化に
見守りキーホルダーの運用にあたり核となってい
向けて、地域包括ケアの核としている施策である。
るのは地域包括支援センターである。その役割は大
登録者は、平成 26 年 2 月末で 19,750 名、65 歳以上
きく二つに分けられる。
一つ目は、登録者数を増やすための PR といった、
人口に対する割合は約 12.7%である。大田区が実施
した「平成 25 年度高齢者実態把握調査」の結果で
対住民への役割である。これは、地域住民と専門機
は、居宅サービス利用者及び未利用者において、最
関の繋がり、つまり『人と人との交わり』の中での
も認知度の高いサービスであり、利用意向について
み生まれるものであり、地域の『安心』といえる。
は、第一号被保険者、サービス未利用者、施設・居
その手法などについては保健師、社会福祉士、主任
宅系サービス利用者において 1 位であった。
介護支援専門員といった専門職のスキルに委ねられ
この見守りキーホルダーは、おおた高齢者見守り
る所も大きい。
ネットワーク(※注)が 2009 年に、病院ソーシャ
二つ目は、登録に繋がり地域包括支援センターが
ルワーカーと協働し生み出したシステムであり、当
知り得た個人情報を、如何に管理・運用していくか
初は一部地域のみでの取組であった。その後住民か
である。実際に緊急事態の際、関係機関からの照会
らの要望により行政施策となり、また、全国的にも
に対し、24 時間 365 日、如何にスピーディかつ正
注目されることとなり、更に幾つかの自治体では実
確に情報共有できるか、日頃から確実な情報更新が
際に施行が始まるなど、驚く程の波及をみせている。
遂行されているかなどが、見守りキーホルダーを実
2.見守りキーホルダーの概要
際に活用しなければならない緊急事態から、対象者
本人情報、緊急連絡先、かかりつけ医療機関、病
を救うことに繋がるものであり、
『安全かつ確実』な
歴等を事前に地域包括支援センターで登録し、個人
運用を求められ、それは ICT なしには為し得ない。
番号の書かれたキーホルダーを受け取る。これを持
そして『安全かつ確実』な運用こそが、高齢者の『安
った人が、外出先での救急搬送や、徘徊などの際、
全』を守ることにも繋がる。
警察や消防から地域包括支援センターに連絡が入り
情報を共有することが出来るシステムである。
※注
大田区地域包括支援センター入新井の呼びか
3.見守りキーホルダーの特徴
けで 2008 年に発足。賛助会員となっている事業所・
(1)高齢者の総合相談窓口である「地域包括支援セン
企業は 26 年度 75 ヶ所である。
(愛称:みま~も)
ター」が窓口となっている。
(2)見守りキーホルダー自体は非端末であり、個人情
引用参考文献:
報を持たない(居住エリアの地域包括支援センター
1.平成 25 年度高齢者実態把握調査報告書
の連絡先・利用者IDのみ記載)ため、紛失しても
2.澤登久雄, 野中久美子:
「地域資源に欠かせない
個人情報が流出することがない。それが高齢者には
多彩な資源が織りなす地域ネットワークづくり~高
受け入れられている。
齢者見守りネットワーク『みま~も』のキセキ~」
37
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
地域見守りネットワークにICTの有効活用、多職種間連携で実動するクラウドサービスの事例報告
株式会社カナミックネットワーク
取締役会長 山本 奨(ヤマモト ショウ)
地域包括ケアシステムの構築と運営は今後の超高齢社会の到来とともに、喫緊の課題である。そんな
中で高齢者、特に軽度認知症の方々などを中心に特定高齢者なども含めて地域で見守る仕組み作りが試
行されている。東京都大田区では「みま〜も」という活動で地域の高齢者が安心して生活できる仕組み
を実践し、それを「キーホルダー事業」として推進していることが全国各地から注目されている。この
ような試行は地域全体にとって重要なツールにもなり、これを進化させる可能性は無限大に広がってい
ると感じている。
私どもは地域包括支援センターと地域のケアマネジメントをクラウド情報システムで結び、情報共有
を通じて高齢者の実態把握を促進させ、あるいは在宅医療と介護の連携(多職種連携)も効率化し促進
させることによって、
「地域の見守りと安心の力」を強化させるための情報インフラを計画し実践して
いる。
近年、クラウドコンピューティングの技術が飛躍的に向上し、情報ネットワークを活用することで、
職種や法人の壁を超えて「繋がる」ことが可能となっている。セキュリティに関しては日々進歩した技
術で情報を第三者に閲覧させないよう配慮しながら運用している。
今回発表する事例は、実際にキーホルダー事業を取り入れた地域において、クラウド情報システムが
いかに活用されているか、それがどういった結果に結びついているかなどをお知らせしたいと思う。そ
して、このキーホルダーの可能性についてもビジョンなどをお話したいと思う。
同時に在宅医療と看護・介護連携で情報共有システムがもたらす可能性と、地域包括ケアシステムに
必要な情報連携基盤の課題などについてお話をしたい。
38
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
シンポジウム 4
2 日目(5/25(日)
)15:30~17:30
第 1 会場
日本における
医療・ヘルスケアビッグデータの未来を考える
—現状と展望—
座
長
原 晋介(大阪市立大学大学院)
阿久津靖子(株式会社 MT ヘルスケアデザイン研究所)
講演 1 和辻 徹(シャープ株式会社)
講演 2 田上信介(元ヘルスコンティニュアアライアンス日本代表)
講演 3 黒田正博(独立行政法人情報通信研究機構)
39
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
日本における医療・ヘルスケアビッグデータの未来を考える—現状と展望—
5/24(日) 15:30~17:30 第 1 会場
座長:原 晋介(大阪市立大学大学院)
、阿久津 靖子(株式会社 MT ヘルスケアデザイン研究所)
インターネット、スマートフォンとった情報通信ネットワークや機器と医療・ヘスルケアサービスを
より密に連携させ、得られるビッグデータをうまく利活用 することは、アベノミクス第三の矢の一つ
である「健康長寿社会から創造される成長産業」の端緒となることは間違いない。そのための技術的な
ハードウェアと ソフトウェアはすでに整っていると思われるが、残念ながら、そのビジネスモデルは
未だに見えてこない。
本シンポジウムでは、情報通信―医療・ヘスルケア連携により生まれる新たなサービスを日本で提供
するためのアライアンスや企業の取り組みと、海外での成 功事例に関する話題をシンポジストにより
提供してもらう。そして、医療・ヘルスケアビッグデータの利活用に対する、現状の日本がかかえてい
る問題点を浮き 彫りにし、その将来について展望する。
講演 1 ビッグデータを活用したデジタルヘルスケアに向けた開発・標準化
和辻 徹(シャープ株式会社)
講演 2 PHR の今後の展望
田上 信介(元ヘルスコンティニュアアライアンス日本代表)
講演 3 ボディエリアネットワーク国際標準化とリバースイノベーション指向のヘルスケアへの適用
黒田 正博 (独立行政法人情報通信研究機構)
40
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
演者
略歴
和辻 徹 (わつじ とおる)
現在、シャープ株式会社 新規事業開発推推進本部
健康医療事業推進センターに所
属。主に健康・医療システム開発および事業開発を担当。理学博士(インペリアルカ
レッジ)
。
インペリアルカレッジ契約研究員、ケンブリッジ大助手を経てシャープに入社、バイ
オ素子研究開発、健康家電商品開発等を担当し、現在に至る。
田上 信介(たがみ しんすけ)
1993 年
米国オレゴン州立大学大学院
1993 年
山武ハネウエル株式会社入社
1998 年
ダイアロジックシステムズ株式会社入社
2001 年
インテル株式会社入社
2009 年
イノベーション事業本部
電子工学科卒業
デジタルヘルス事業開発部長
コンティニュア・ヘルス・アライアンス日本地域委員会代表
2014 年
インテル社退社
黒田 正博(くろだ まさひろ)
1980 年
東京工業大学大学院修了
1980 年
三菱電機株式会社 入社
1989 年
カリフォルニア大学 サンタバーバラ校修了
2000 年
静岡大学情報学部修了 工学博士
2002 年
(独) 情報通信研究機構(旧通信総合研究所)に勤務し現在に至る
41
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
PHR の今後の展望
田上信介 ICT ヘルスケア・コンサルタント
元コンティニュア・ヘルス・アライアンス日本地域委員会代表
進行する高齢社会から見える種々の課題が
取り沙汰されて久しいが、それらの課題は
日本だけにとどまらず、世界的に同様な傾
向にある。それに対して医療リソースの増
加は見込めない。つまりケアの必要性は増
加の一途であるのに対してそれに使える医
連したアナログ的なものである。健康状態
が、生まれて成長し生活していく過程で、
様々な内的及び外的要因と心身状態バラン
スとの関わりつつ時々刻々と変化していく
ものであることからも、体の状態検知をも
とに予防的管理がまずあって、病気になっ
療リソースは相対的に低下するということ
である。これは医療にまつわるコストも増
た際は医療システムのお世話になり、完治
すればまた健常状態に戻るというサイクル
加の一方であることを意味する。この問題
を解決する一つの方法が効率を上げること
であり、情報通信技術の根本は効率の向上
であることと合わせてみれば医療・健康分
野も情報通信技術(ICT)が貢献できるもの
の一つである。
を幾度と無く繰り返していく。まさにこの
全サイクルの状態管理に ICT を使った健
康管理という概念がある。
近年ではケアにまつわるコストだけではな
く生活の質(QOL)の向上という観点も重要
な要素として語られるようになった。その
両極端な例でいえば、健康で家にいること
と、病気で入院することが考えられる。そ
従来の医療システムは人口全体が比較的健
康で増加していた時代の、退院した後は健
常であるという仮定を基本にしている。そ
れに対して、現在の高齢社会においては退
院した後も医療・福祉の範囲において継続
したケアが必要になることから考えても、
情報連携がますます重要になってくる。可
能な限り健康な状態を保って人生をおくる
ことが理想であるとともに、病気でないと
いう意味においての健康維持とは現在の医
療システムの範囲外にあるという事実も忘
れてはならない。生活習慣に起因する慢性
の間には慢性疾患などを患っていても家庭
内でケアできるようなケースもあれば,
老人介護施設などでのケアのケースもある。
遠隔で健康状態監視を可能にする技術があ
れば必要に応じた対処を適切なタイミング
で応ずることができる。
疾患を例にとってみてもある日突然発症す
るものではなく、その名が示すように長年
に渡る生活習慣の結果であることを考えて
みれば、日常の生活改善を通して健康状態
を維持管理していくことは非常に意味のあ
ることである。人間の人生における健康状
態は決してデジタル的なものではなく、一
は間違いないが、そのアプローチとして現
医療システムを基本にしたものと、健康寿
命の延伸を目的にしたヘルスケア側からの
アプローチと主に二つ考えられる。ICT視点
で見れば前者では既存の医療ITサプライヤ
がプレイヤであるし、後者では既存の医療
ITサプライヤはもとより、その他の多様な
昨今クラウドベースの情報連携を基にした
ビッグデータの活用が注目されている。ヘ
ルスケアもその有力な応用分野であること
42
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
民間企業の新規ビジネス開発というアプロ
ーチが考えられる。ユーザを中心に考えた
場合に、アナログ的な連続系としての人生
をサービス対象とする観点から、それらは
連携したサービスであるべきものだが、そ
れが実現するまでにはいくつか超えなけれ
ばいけないハードルがあると思われる。
とが重要である。日本では相当数の地域連
携の事例があり、地域の医療従事者の努力
で実現していることも事実である。しかし
ながら, それらの特定の地域を越えた広域
連携、それの延長線上にある国際間連携ま
で可能にしている例は非常に稀である。
まず一つ目として、医療システム側の延長
としての情報連携を考えた場合の課題は、
既存の医療システムは医療サプライヤ側で
二つ目に、個人のデータを収集して有用な
サービスと結びつけるという観点でみると,
データの所有者は個人であるという意識を
個人が持つことが非常に重要である。一般
積み上げられたものであるということが挙
げられる。関連するデータは医療システム
の中で生成され、データの生成側に帰属す
的なサービスを考えると、ユーザが自身の
データを管理し、有用なサービスを自身で
選択し恩恵を受け、それの対価を支払うと
るという観念が一般的になっている。つま
り各医療機関のデータは基本的にその外に
出ることを前提としていない。システム間
情報連携はこれが基本になっていることが、
シームレスな情報連携におけるハードルの
一つである。 日本の情報通信インフラが世
界的に見ても先進的であることは疑いもな
い事実ではあるが、インフラが整っている
いうモデルが自然であるのに比べて、医
療・健康分野では一部を除けばそういうモ
デルが未だに実現できていない。つまり医
療・健康サービスにおいては一般的なサー
ビスモデル論が成り立っておらず、個人が
主体的な選択をし、サービス対価をはらう
モデルとは異なっている。これに関しては、
日本の医療制度のキャッシュフローが長ら
ことと情報連携ができることは別の議論で
ある。例えて言うならば水道管があること
とそこに水を流せることは同じではない。
一般論としてここ数十年の間で情報通信イ
ンフラは整いつつあるし、インターネット
に出てさえ行けば情報を得ることは可能で
ある。しかしながら、それは標準のデータ
交換のためのプロトコルと共通のデータフ
ォーマットがあることで可能になっている。
ICT 従事者側からするとすごく当たり前の
く国民皆保険制度の元で成り立っているこ
とが、ユーザそのものの健康に関する意識
に強く影響していると考えられる。つまり
医療コストの本人負担率が低いということ
が、ユーザ側からは健康はタダ、医療費は
安い、医療者側からは支払いは保険者とい
う考え方に繋がっているのではないだろう
か。日本の皆保険制度は素晴らしい制度で
あることは諸外国が参考にしていることか
らも明白ではあるが、こと個人の主体的健
ことではあるが、実際に現医療システムの
日本全体としての情報連携は、インフラの
成熟度とはうらはらに、未だに実現できて
いない。加えて言えばデータ交換のプロト
コルがあることと、それを使う必然性は別
の話ということである。つまり連携するた
めの目的と、繋ぎたいという意志があるこ
康意識改革という観点ではまだまだ改善の
余地があるとともに、既存の枠組みにとら
われない、個々人に訴えるヘルスケア関連
サービスの発展が期待されるところである。
健康分野における個人の主体性を培うには、
自身のデータとその主体的管理という意識
の醸成が必要である。
43
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
自身の状態管理を自身の選択として行い、
そのための有用なサービスという産業界か
らの明確な価値提案が必要であるが、ヘル
スケア分野で利益を挙げるためのビジネス
の設計が未熟な点がもう一つの課題点とし
て挙げられる。ビッグデータがテーマとし
て取り上げられる際に、いかにデータを大
量に集めるかが議論されているが、本論は
集めたデータからいかにしてユーザに対価
に値する価値を提供するかである。医療シ
ステム側からすると、ヘルスケアのデータ
ヘルスケア関連データもビッグデータの一
部であると見て、他の非ヘルスケア関連デ
ータとマッシュアップすることでサービス
を設計すると、極論を言えば医療・ヘルス
ケアのアプリケーション以外で、直接また
は間接的なアプローチでユーザにメリット
のあるサービスを提供するビジネスも可能
であろう。
を医療サービスに使うことは今後も発展し
ていく分野であることは自然である。個人
ンではあるが、ビッグデータの観点から考
えると、生体データと非生体データとの組
み合わせも視野にいれたビジネスを設計す
生体データのヘルスケアへの応用はデータ
の出所から考えると自然なアプリケーショ
健康記録(PHR)という観点からみると、健常
な人々のデータが大半であり、健康な人が
病気になり、また健康に戻るというのが一
般的なサイクルであるとすれば、健常な状
態から時間をかけて徐々に変化していき、
ある閾値を超えて病気と判断される、加え
て退院後のケアも含めた連続系のプロセス
としての健康データの蓄積は医療データと
ることが今後注目すべき流れの一つになる
と思われる。非生体データとはGPSデータ、
Web の履歴、部屋の明るさ、気温など生体
に起因しないデータである。現時点ではこ
の生体データと非生体データの組み合わせ
を用いたサービスは非常に少ないが、昨今
のウエアラブルセンサー等のIOT(Internet
of things)の流れが、世界の知見を集め既存
連携することでライフログになり得るし、
昨今身近になりつつある遺伝子データと連
携することで、世代を超えたデータ活用の
可能性も出てくる。対して、医療IT以外の
もっと一般的な民間企業からのサービスの
観点から考えれば、まず認識しなければい
けないことはICT の基本要素は計算能力に
つきるということである。つまりICTができ
ることは多様な状態をセンシングし、数値
化してデータとして処理をすることにつき
る。それに対して、サービス設計とは、そ
の枠組みにとらわれない多様なアプリケー
ションの出現につながっていくと期待して
いる。
今後の流れとして、個人のデータとしての
PHRを医療データと結びつけていくことと
同時に、趣味、スポーツ、美容、ファッシ
ョン、ウェブマーケティングなどの医療以
外で生活に密着したサービスが発展するこ
とで、個人のヘルスケアに対する意識の変
革と行動変容を促し、結果として自立した
選択ができる個人の集団としての社会とな
れば、高齢社会、生活習慣病、それに起因
する医療関係財政危機の回避に結びつく一
助になろう。
れらのデータを様々なユーザニーズとの接
点の中で取り入れ、ユーザに魅力的なサー
ビスを提供し対価をもらうビジネスを設計
することである。もっとマクロな視点から
44
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
ボディエリアネットワークとリバースイノベーション指向ヘルスケアへの適用
黒田 正博
独)情報通信研究機構 国際推進部門 標準化推進室
ボ デ ィ エ リ ア ネ ッ ト ワ ー ク (Body Area
ヘルスケア分野での持続可能なビジネスモデル
Network, 以降 BAN と呼ぶ)は、広い意味で、
に基づいたサービスを概観する。
無線の到達距離に関係なく、身体の周りからデー
バングラデシュでは、九州大学とバングラデシ
タを携帯端末などに集める省電力短距離無線ネ
ュのグラミングループによる広域健診と遠隔診
ットワークの事である。この BAN の中に、既存
療「ポータブルヘルスクリニック」が進められて
の Bluetooth、ZigBee、そして世界初の医療用途
おり、その延長線上に MBAN 技術を積極的に取
の 無 線 を 対 象 と し た メ デ ィ カ ル BAN( 以 降
り込んだ BAN-PHC がある。
MBAN と呼ぶ)である IEEE802.15.6 がある。本
MBAN は、1 対 1 通信を基本とした Bluetooth
講演では、MBAN のグローバルなヘルスケア分
と異なり、複数の医療・健診用機器やセンサから
野への適用を目指した海外での実用例を紹介し、
の同時データ到達を保証する方式をとっている。
今後の普及方法の1つを概観する
病院などでの利用を想定した IEEE11073 医療機
発展途上国は、日本で注目されている生活習慣
器類だけでなく、ストレス度評価に使われる活動
病とは無縁と思われがちだが、先進国と同様に、
量計、利用者認証用の静脈認証センサなどを同一
この問題を抱えている。世界保健機関(WHO)
インタフェースで MBAN 構成とすることで、一
は発展途上国の生活習慣病撲滅は喫緊の課題で
歩進んだサービスを実現できる。時々刻々データ
あると警告している。このようなグローバルな問
を送るセンサを MBAN 構成に入れる事もできる。
題解決のために、日本で開発した技術・サービス
BAN-PHC は、医療・健康リアルタイムデータ
が海外で受け入れられる可能性は大いにあるが、
や生体認証データなどを同時に扱うことができ、
そのまま持って行くと相手の国に受け入れられ
新たなセンサ群を取り入れたサービスも実現す
ない可能性が高い。
る事が容易にできる。BAN-PHC のバングラデシ
このような状況下、医療・健康機器の世界では、
ュでの適用状況を紹介し、ビッグデータを扱う新
発展途上国において、本当に必要な機能のみを実
たなビジネスモデルの可能性を議論する。
現した使いやすい機器を開発し、そこで普及させ
るアプローチが取られている。そして、このよう
E-Mail:[email protected]
な機器の性能とコストパーフォーマンスの良さ
参 考 論 文 :Masahiro Kuroda, et al. , "Reverse
からこれらの機器が先進国に戻ってくるという
Standardization From Public E-health Service", ITU
リバースイノベーションが起こりつつある。
Kaleidoscope2014, 2014 年 6 月発表予定
リバースイノベーションを起こす可能性のあ
る BAN ポータブルヘルスクリニック
(BAN-PHC
と呼ぶ)を紹介するとともに、同クリニックがも
たらすビッグデータの一次・二次利用で、今後の
45
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
ランチョンミーティング
1 日目(5/24(土)
)12:10~13:00
地域包括ケアを支える基盤としての ICT
~医療・介護を繋ぐハブとしての SNS とコールセンターの役割は?~
座長: 高瀬 義昌(医療法人社団 至高会理事長)
ゲストパネリスト:土屋 淳郎(土屋医院)
協賛: ソフトバンクテレコム株式会社,株式会社日本エンブレース,綿半綱機株式会社
※このセッションは当日に引換券を配布します.なくなり次第,終了とさせていただきます.
46
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
地域包括ケアを支える基盤としての ICT
~医療・介護を繋ぐハブとしての SNS とコールセンターの役割は?~
5/24(日) 12:10~13:00 第 1 会場
座長:高瀬 義昌(医療法人社団至髙会たかせクリニック理事長)
ゲストパネリスト:土屋 淳郎(医療法人社団創成会土屋医院)
協賛企業:ソフトバンクテレコム株式会社/株式会社日本エンブレース/綿半綱機株式会社
地域包括ケアの実現に当たって ICT により患者や家族が安心できる環境と職種間連携について考察
する。
地域医療連携ネットワークなどの ICT 活用が進んでいるが、医療・介護従事者と患者家族に利用を限
定した「完全非公開型医療介護専用 SNS サービス」を活用する事例が生まれている。
豊島区医師会では、SNS を用いて医師会内の情報共有や地域連携を実現しており、主な活用シーンを
紹介する。
また地域包括ケアを支える主治医の負担を軽減する為に、看護師が 365 日対応する「夜間コールセン
ター」の運用が 2014 年 4 月から始まっている。有資格者と直接会話が可能な迅速性や、家族への安心
感醸成に繋がるケースを紹介する。
前半ではケース紹介講演、後半は総合討論を実施する。
ゲストパネリスト
土屋 淳郎(つちや あつろう)
医療法人社団創成会土屋医院院長
昭和大学医学部、昭和大学医学部大学院卒業後、土屋医院院長に就任
担当科は内科・小児科・放射線科
伊東 学(いとう まなぶ)
株式会社日本エンブレース
代表取締役社長兼 CEO
宮下義雄(みやした よしお)
綿半鋼機株式会社 ドクターエイド部 部長
葭葉敦史(よしば あつし)
ソフトバンクテレコム株式会社 ヘルスケアプロジェクト推進室 担当課長
47
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
ランチシンポジウム
2 日目(5/25(土)
)12:00~13:00
ユマニチュードをより深く理解するために
座長: 高瀬 義昌(医療法人社団 至高会理事長)
講演 1 本田美和子(国立病院機構 東京医療センター)
講演 2 竹林洋一(静岡大学大学院)
講演 3 上野 秀樹(海上寮診療所)
※このシンポジウムは学会当日に先着順で整理券(お弁当・資料代が別途 1,000 円必要)を配布いたし
ます.定員になり次第終了とさせていただきます.
※このシンポジウムは整理券をお持ちの方のみ入場できます.そのほかのかたはサテライト会場をご利
用ください.
48
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
ユマニチュードをより深く理解するために
5/25(土) 12:00~13:00 第 1 会場
座長:高瀬義昌(医療法人社団至髙会たかせクリニック理事長)
・ユマニチュードの効果、ケーススタディ(午前のシンポジウムとは違うケース)
・ケアの4つの柱(見る・話す・触れる・立つ)とケア実施にあたって重要な5つのステップについて。
・スキルの伝達、普及と評価、それと何故有効なのかの解明が 課題であること。
・その他、精神科医療と地域、多職種連携など。
講演 1 知覚・感情・言語による包括的ケア技術・ユマニチュード
本田 美和子(国立病院機構 東京医療センター)
講演 2 ユマニチュードのスキルの伝達・普及・評価のための知能情報学
竹林 洋一(静岡大学大学院)
講演 3 精神症状のある高齢者に対するユマニチュードの意義
上野 秀樹(海上寮診療所)
49
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
BME on Dementia
(日本生体医工学会共催セッション)
2 日目(5/25(日)
)11:00~12:00
50
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
認知症予防を目的としたパソコン教育手法の効果と有用性
Effect and usability of computer education method for dementia
向川誉 1),西村英子 1),小野寺良太 2),浅川毅 2)
1) 株式会社ウォンツ・ジャパン,2) 東海大学情報理工学部コンピュータ応用工学科
Takashi Mukaigawa1) , Eiko Nishimura1) , Ryota Onodera2) , Takeshi Asakawa2)
1) Wants Japan Co.,Ltd.
2) Department of Applied Computer Engineering, Tokai University
1.はじめに
者である高齢者からの関心が高く、天候や生活状
厚生労働省が発表した報告1)によると、65 歳
況に左右されることも少なく、習慣化がしやすい
以上の 4 人に 1 人が認知症及びその予備軍である
こと。2 つ目は、高齢者の ICT(パソコン)利活
MCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)
用には、総務省が介護や医療、健康、社会参加、
と推計されている。認知症への対策は国を挙げて
就労に有効性があると期待を寄せている 4)とおり、
の火急の課題との認識が深まっているが、医療保
高齢者の生活の質(QOL)向上に貢献できること
険や介護保険は認知症患者にしか適用されず、健
である。これまで自治体などで多くのパソコン利
常者や MCI 発症者に対する予防対策は、個人もし
用のプログラムが試みられてきたが、いずれもが
くは自治体の自主的活動に委ねられているのが
パソコンやインターネットなどのインフラ環境、
現状である。一方、アルツハイマー病には認知症
また指導者の質と数の観点から、高齢者である参
予防として、厚生労働省「認知症予防・支援マニ
加者の需要にプログラム側が充分に追いついて
ュアル」2)を始め、生活習慣の重要性が強調され
いないのが現状と考える。この問題を解決する手
るようになってきた。マニュアル作成に携わった、
法のひとつにパソコン教室の活用が挙げられる。
東京大学高齢社会総合研究機構の矢冨直美氏ら
パソコン教室にはパソコン利活用の習得を支援
により、認知症予防の意識向上と認知症になりに
するのに長けた講師が存在すること。会場となる
くい生活習慣を身につけることを目的とした『地
教室、パソコンやインターネットなどのインフラ
域型認知症予防プログラム』3)が提唱されている。
環境も充分に整備されていること。何よりパソコ
このプログラムでは、MCI の時期に低下が起こり
ン教室には、高齢者がすでに通学していることか
がちな脳の認知機能((1)エピソード記憶(2)
ら、『地域型認知症予防プログラム』を行う上で
注意分割機能(3)計画力)を鍛える活動を、グ
必要なグループの形成がしやすいこと。これらの
ループワーク形式で参加者の自主性を促しなが
ことや Table1 に示す関連性の面より、パソコン
ら、認知症になりにくい生活習慣を身につけるこ
教室の活用は認知症予防意識の向上と認知症に
とを目的にしている。「有酸素運動」「知的活動」
なりにくい生活習慣の形成に、効果的であると考
「対人的接触頻度」が認知症発症の抑制に大きく
えている。そこで、われわれは、『地域型認知症
関わっているという知見に基づき、運動プログラ
予防プログラム』の中から「パソコン」と「旅行」
ム(ウォーキング)と知的活動プログラム(パソ
を組み合わせて、パソコン教室事業者向けに、認
コン、旅行、料理)の 4 つのプログラムが提唱さ
知症予防を目的としたパソコン教育プログラム
れている。パソコンを活用したプログラムは、他
を開発した。本プログラムの特長は、民間で培わ
のプログラムと比べて、2 つの点において優位性
れた教室事業のノウハウを活かして、参加者の高
があるとわれわれは考えている。1 つ目は、対象
い満足と実生活における ICT 利活用スキルの習
51
Table2 教材一覧
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
得を提供しながら、事業の継続性も実現できる点
入力、OS について
ワードの基本操作
にある。本稿では、開発したパソコン教育プログ
表作成
◆宿題
表作成
→手順を
年賀状作成
思い出す
旅
計
画
・
し
お
り
作
成
準
備
学
習
パソコン教室
新しい機能を覚える
→前回習った操作を思い出す
人と接する、社会参加
→遠足や行事参加、人と会話する
手順を考える、逆算する
→作成手順を考える
行動を促進する環境と仲間の存在
→週 1 回の通学
習慣化
える
人と一緒に
案内文書な
どを効率よく
作る
作業したり、
助け合い、同
時に作業を
する
年賀状作成の復習
Table1 認知症予防とパソコン教室の関連性
計画力
思い出す
入門①
インターネ
注意分割機能
える
Word2013
効果と有用性について検証する。
エピソード記憶
の手順を考
文書作成
ラムをパソコン教室にて実施し、認知症予防への
認知症予防で鍛えたい
脳の認知機能
又、前回の
学習内容を
インターネットの基本、しくみ
◆2 日前の
Yahoo をまるごと楽しむ
日記をつけ
キーワード検索:旅行
ット
る
検索もしも! ワーク
入門
調べたいこと
を効率よく調
べる
お気に入り、安全性につい
て
はがき作成
Word2013
はがきやチラ
チラシ作成
入門②
シを効率よく
地図入りはがき
作る
文書作成
デジカメ
入門
充電・撮影・
撮影のポイント
閲覧が効率
郊外学習:撮影練習
インターネ
ット活用:
旅行を楽し
旅
行
準
備
デジカメの基本操作
もう!
よくできる
観光情報収集
時間や予算
旅ポータルサイト
の配分を考
レストラン情報収集
えながら旅
旅行先選定・観光ポイント・
行の計画を
名物情報収集、乗換、予算
行う
効率よい作
しおり作成
成手順を考
える
旅行イベント
2. 認知症予防を目的としたパソコン教育プログ
ラムの概要
3.実施方法
本プログラムは、6 人程度のグループワークで
開発したパソコン教育プログラムの認知症予
行われ、クラス目標として「パソコンの利活用を
防への有用性を調べるために、参加者への負荷の
習得する」「皆で旅行に行く」などを設定する。
少ない観察法を用いて、評価を行った。
行き先の観光名所をインターネットで調べたり、
(1) 評価項目と評価スケール
旅のしおりを Word で作成したり、デジカメで撮
脳の認知機能が賦活しているときに見せるで
った写真をアルバムにしたりと、パソコンを実生
あろう被験者の外的変化を Table3 に示す a〜j の
活で利用するシーン(旅行)を想定した講座内容
10 項目に分類し、5 段階評価で採点を行った。
となっている。毎回の授業の中で、パソコンを実
(2) 実施
生活に応用できるスキルの習得、人とのコミュニ
授業は毎週 1 回行われ、
1 コマあたり 110 分(途
ケーション、認知症になる前に低下する脳の認知
中 10 分間の休憩含)となっている。各月第 1,3
機能である「エピソード記憶」
「注意分割機能」
「計
画力」を鍛える知的活動の習慣化を目指している。
授業終了後に担当講師が観察法による採点を行
った。なお参加者に事前に本研究の趣旨などを説
教材制作にあたり、認知症予防の観点から東京大
明し、書面によるインフォームドコンセントを得
学高齢社会総合研究機構の矢冨直美氏に監修を
ている。また観察法による採点が行われた後は、
依頼した。教材一覧を Table2 に示す。また講師
評価者である担当講師による定例会議を行い、評
の認知症に関する知識習得と指導力強化を目的
価者によるばらつきを少なくすることに努めた。
として、教則本の提供や研修制度を確立し、長年
2014 年 2 月には被験者に対して、筆記によるア
の講師経験に頼らず、パソコン教育プログラムを
ンケート調査を実施した。
展開できるようにしている。
Table3 評価項目と評価スケール
パソコン学習
講座
基
の 本
習 的
得 ス
キ
ル
内容
項目
知的活動の習慣
エピソー
ド記憶
計画力
入門
マウス操作
文字入力
アプリ:ペイント
文章入力、アプリ:電卓
◆授業中
10 分前到着
人の話を聞
→操作手順
事前準備
き、発言のタ
を学習
パソコン操作
イミングを考
評価スケール
5)受講生がグループ全体に笑顔で働きかけることができる
パソコンの電源の入切
Windows8
機能
▼いきいき度
注意分
割機能
a
表情
(笑顔)
喜び
(感情)
b
社会
4)受講生が隣の受講生に笑顔で働きかけることができる
3)インストラクターが話かけなくても、よく笑顔が見られる
2)インストラクターが話しかけると時々笑顔が見られる
1)ほとんど無表情である
52
5)周囲から見られることをかなり意識した身なりをしている
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
身なり
参画
・関心
4)周囲から見られることを意識し、それに応じた身なりをしている
の上昇が見られた。観察法にて採点を行った第 1
3)周囲から見られることには無頓着であるが、それなりの身なりにしている
2)身なりに気遣わず周囲を意識していない
回目の平均スコアは 2.7 であるのに対して、第 11
1)身なりに気遣わず全く周囲を意識していない
5)授業中に、他の授業生に発言を誘導するような発言をすることができる
c
発言
頻度
回目の平均スコアは 4.5 を示している。このこと
4)授業中に、自分のことについて発言をする
積極性
3)インストラクターと受講生との間であれば、自主的に発言をする
より開発したパソコン教育プログラムは、全体的
2)インストラクターと受講生との間のみ、質問すれば発言をする
1)発言が殆どない
▼人とのつながり
な傾向として、脳の認知機能の活性化に有効な作
5)受講生がグループ全体に目と目をしっかり合わせる
用を及ぼしているものと考えられる。終盤に行っ
コミュニケーションが常に成立している
d
コミュニ
ケーショ
ン
社会参
画・関心
他人へ
の関心
4)受講生が特定の受講生となら目と目をしっかり合わせる
コミュニケーションが常に成立している
たアンケート調査では、質問「仲間と学ぶレッス
3)インストラクターと受講生間となら、目と目をしっかり合わせる
コミュニケーションが常に成立している
ンは楽しいですか?」に対して、
「楽しい / まあ
2)インストラクターと受講生間となら、目と目をしっかり合わせる
コミュニケーションが時には成立している
まあ楽しい」への回答が 100%となり、参加者の満
1)誰とも目と目をしっかり合わせるコミュニケーションが殆ど成立しない
5)受講生がグループ全体と、コミュニケーションを図ることが常にできている
e
休憩中
の会話
(発言)
足度は高いと考えられる。「入学前と比べて、考
4)受講生が隣の受講生と、コミュニケーションを図ることが常にできている
社会参
画・関心
3)インストラクターと受講生間とで、コミュニケーションが常にスムーズに行わ
れている
える、手順を思い出す、人と話すといった行動を
2)インストラクターと受講生とで、コミュニケーションが時には達成できる
1)インストラクターと受講生とで、コミュニケーションが殆ど達成されない
f
周囲
との
コミュニ
ケーショ
ンの取
り方
g
与えら
れた役
割への
積極性
習慣的に行うようになりましたか?」の質問に対
5)話し手の立場に立った対応(話を聞く、発言者と目を合わせる、相づちやう
なずきのしぐさをするなど)が見られると共に、周囲に発言を促す行動が見ら
して、
「習慣化している / まぁまぁ習慣化してい
れる
4)話し手の立場に立った対応がだいたいできている
協調性
る/ あまり変わらない」の 3 段階で回答を集計し
3)話し手の立場に立った対応がたまに見受けられる
2)周囲を考慮しない発言や言動がときどき見られる(授業の進行には支障は
ない)
たところ、71%が「習慣化している / まぁまぁ
1)周囲を考慮しない発言や言動がかなり目立つ(授業の進行に支障が出る
ほど)
習慣化している 」と回答している。
「パソコンを
5)提案がなくても、役割を持ち、人のために自主的に役割を達成する
4)提案がなくても、積極的に役割を持ち達成する
積極性
習慣的に使うようになり、生活の中で変わったこ
3)提案をうけると、積極的に役割を達成する
2)提案を受けると、消極的な姿勢ではあるが役割を達成する
とはありますか?」の質問(自由回答)に対して
1)提案を受けても、行動しない
▼認知機能
集計したところ、「子供とのメールのやり取りを
5)テキストやヒントがなくても、内容をほぼ思い出すことができている
h
前回の
授業内
容の
記憶度
エピソ
ード記
憶
i
授業で
の取り
組み
注意分
割機能
j
10 分前
到着と
準備
計画力
・自己管
理
4)テキストは見ずに、ヒントを通じて内容を思い出すことができている
パソコンでしたり、パソコンでいろいろな事(手
3)テキストを見て、またヒントを通じて、内容をほぼ思い出すことができている
2)テキストを見て、またヒントを通じて、内容を半分程度思い出すことができ
で書く部分を)やっていす」「家族での会話が多
ている
1)テキストを見ても、ヒントがあっても、内容を殆ど思い出すことができない
くなった」などの回答があり、脳の認知機能の活
5)テキストのヒントをあまり見なくても課題を完成させることができる
4)テキストのヒントを見ながら取り組む課題が、だいたい自分でできる
3)テキストのヒントを見ながら取り組む課題が、あまりできない
性化とその習慣化の形成に、本プログラムが貢献
2)インストラクターの説明は、聞いているが操作が伴わない
1)インストラクターの説明を聞いていない
しているものと考えられる。今後は、観察法と併
5)10 分前には到着し、授業前に準備もほぼ完了している
4)10 分前には到着しているが、授業前の準備は完了していない
用してかなひろいテストなどの認知症スクリー
3)始業時間 10 分未満前に到着
2)始業時間以降の到着(事前連絡あり)
ニングテストを実施し、本プログラムの有用性を
1)始業時間以降の到着(事前連絡なし)
(3) 被験者
より明確にしていきたいと考えている。
男性:5 名、女性:12 名の合計 17 名
平均年齢:64.8 歳(最高齢 78 歳、最年少 55 歳)
クラス編成は 6 名(男性 1 名、女性 5 名)、6 名
(男性 3 名、女性 3 名)
、5 名(男性 1 名、女性 4
名)の 3 編成となっている。
(4) 実施期間
観察法による採点は 2013 年 10 月 2 日〜2014
年 2 月 5 日の間に、計 11 回にわたり行った。
4.結果
Fig.1 に評価結果の平均値を示す。本調査の結
果により、10 項目のすべてにわたり継続的な数値
53
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
Fig.1 評価結果の平均値
5.おわりに
今後の予定として、脳の認知機能の活性度をパ
ソコンやタブレット端末で測定できる診断アプ
リの開発を行う。パソコン教育メソッドと診断ア
プリを合わせて普及することで、参加者の認知症
予防への意識と学習意欲が更に向上するものと
期待している。また臨床美術による創作活動は共
感性に関する部位の機能を高める可能性を示唆
する研究がなされている 5)。パソコンでは、様々
なアプリケーションや Web サービスを利用する
ことで、高齢者でも絵画や音楽などの創作活動を
比較的容易に行うことができる。創作活動を通し
て自己表現をし、承認される活動は認知症予防に
つながるものと考え、その教育メソッドの確立に
も努めていきたい。
謝辞:
本研究を実施するにあたり、ご協力をいただい
たパソコン教室ウォンツ福井本校の生徒様に感
謝申し上げます。
参考文献:
[1] 厚生労働省 HP :http://www.mhlw.go.jp/
[2] 厚生労働省 HP :
http://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/dl/tp0501
-1h_0001.pdf
[3] 矢冨直美、宇良千秋著:「地域型認知症予防プ
ログラム」実践ガイド―地域で行う認知症予防の新
しいカタチ. 中央法規出版, 東京, 2008.
[4] 総務省「平成 25 年版情報通信白書」.
[5] 宇野正威:認知症と美術活動.日本早期認知症
学会論文誌:p4
54
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
漢字色別テスト物語編を要介護者に適用した結果
-認知症の有無についての比較-
志村孚城 1) 奥山恵理子 2) 山田暁 3) 大城昌平4)
1)創生生体工学研究所 2)浜松人間科学研究所 3)ユーシン 4)聖隷クリストファー大学大学院
The traial of applieing CKPT to the elderly requiring nursing care
-comparison between dementia and nondementiaTakaki SHIMURA1) Eriko OKUYAMA2) Satoru YAMADA3) Syouhei OOGI4)
1) BME Lab. Sosei 2) Hamamatsu human science research lab.
3)Yusin 4)Seirei
Key Words: 認知症, 漢字色別テスト物語編,要介護者
脳血管性認知症
その他疾患
1. はじめに
漢字色別テスト物語編(Colore Kanji Pick-up
Test)は認知症予防のスクリーニング用に開発
された神経心理テストである 1)。このテストは
前頭前野を含む前頭葉機能の軽微な低下を検出
する能力があり 2)、静岡県下では 3000 人以上の
検診が行なわれている。
今回は、本テストを通所介護事業所で介護サ
ービスを受けている要介護者に受けて頂き、認
知症と診断されている群と認知症と診断が下さ
れていない群に分けて、CKPT 1) スコアである
INDEX1 を測定し、さらに一般に行われている
MMSE を測定し、両者がどのような関係になるか
を検討した。
2. 3 解析方法
縦軸に CKPT 得点を横軸に MMSE 得点を
取り、測定結果を書き込み散布図を作成する。
先行研究で用いられている MMSE の境界線
( 認 知 症 と 軽 度 認 知 障 害 ( MCI:Mild
Cognitive Impairment)の境界)を縦に引き、
CKPT については正常値の範囲を決めるとき
に良く用いられる平均値-1.5SD(これ以下は
全体の 0.0668)を横に引くと、Fig.1 のような
4 っの象限に分けられる。
従来から用いられている MMSE の認知症
と MCI の境界線(27 点以下が認知症)に対
して CKPT の得点の平均値-1.5SD でカット
オフ値設定すると、True positive(TP)、 False
positive(FP) 、 False negative(FN) 、 True
negative(TN) はどのようになるかを検討し
た。
Table 1 対象者
70 代
80 代
認知症情報
分類記号
人
アルツハイマー型認知症
認知症(種別指定なし)
その他疾患
アルツハイマー型認知症
認知症(種別指定なし)
レビー小体型認知症
○
□
△
○
□
●
6
2
3
9
9
1
2
11
2. 2 測定方法
MMSE と CKPT は同日に実施することは
デイサービスの御利用者に課することは適切
でないため、それぞれは適宜実施した。ただ
しその間隔は 3 月以内なるようにした。
また、CKPT の実施は、健常者に対して実
施するのと同じ環境、説明用パワーポイント
を用いて実施した。ただし、監視役のサポー
ターは御利用者 4 人に対して 1 人以上と、厚
めに配置した。
2. 方法
2. 1 被検者
被検者は創生の通所介護事業所、佐鳴台倶
楽部、入野倶楽部、山の手倶楽部に通所して
いる御利用者 43 人である。その属性(年代、
性別、医師の意見書に書かれた認知症情報)
を Table 1 に記した。ここで、アルツハイマ
ー混合型認知症と記載されている認知症はア
ルツハイマー型認知症に入れ、幻視、幻聴の
ある認知症と記載されている認知症はレビー
小体型認知症の分類に入れている。
年代
◎
△
55
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
MMSE の 境 界
線
CKPT
平
-1.5SD
均
Fig. 1 解析方法
3. 測定結果
性別
CKPT
MMSE
1
70
女
0
15
□
2
70
女
0
22
□
3
70
女
0
20
△
4
70
女
11
25
△
5
70
女
3.3
27
△
6
70
女
0
3
○
7
70
女
0
9
○
8
70
女
0
13
○
9
70
女
0
18
○
10
70
男
0
17
○
11
70
男
0
22
○
12
80
女
0
13
□
13
80
女
0
22
□
14
80
女
1.7
23
□
15
80
女
0
25
□
16
80
女
0
27
□
17
80
女
9.1
30
□
18
80
男
0
18
□
19
80
男
1.5
21
□
20
80
男
3.8
25
□
21
80
女
0
17
△
22
80
女
0
20
△
23
80
女
3.3
24
△
24
80
女
3
25
△
25
80
女
2
26
△
26
80
女
16
28
△
27
80
女
0
28
△
28
80
女
3
29
△
29
80
女
2.7
29
△
30
80
女
0
30
△
80
男
0
26
△
32
80
女
0
19
○
33
80
女
1
20
○
34
80
女
0
20
○
35
80
女
1
22
○
36
80
女
1.8
23
○
37
80
女
5.8
30
○
38
39
80
80
男
男
0
0
18
23
○
○
40
80
男
1.3
24
○
41
80
女
0
20
◎
42
80
男
0
14
◎
43
80
女
0
23
●
Table 2 に 測 定 し た CKPT の 得 点 と
MMSE の得点を記す。測定は、通所介護事業
所の御利用者であるので両テストを同日実施
するわけにはいかず、3 ヶ月内に実施した結
果を示した。
Table 2 測定結果
年代
31
分類記号
4. 解析結果
70 歳代の被検者の男女別、医師の分類別の
解析結果を Fig.2-5 に、80 歳代の解析結果を
Fig.6-14 に示す。
Fig.2 70 歳代男性(AD)
Fig.3 70 歳代女性(AD)
56
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
Fig.4 70 歳代女性(認知症)
Fig.8 80 歳代男性(認知症)
Fig.5 70 歳代女性(その他の疾病)
Fig.9 80 歳代女性(認知症)
Fig.6 80 歳代男性(AD)
Fig.10 80 歳代男性(脳血管性認知症)
レビー総体型認知症
脳血管性認知症
Fig.7 80 歳代女性(AD)
Fig.11 80 歳代女性
57
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
(脳血管性認知症とレビー小体型認知症)
知症とのみ記載されている場合がある。両者
を合わせる、認知症被検査者数は 29 人となる。
CKPT を用いてスクリーニングを行う時、
MMSE で不合格の人を誤って合格としてし
まう FN に注目しなければならないが、3.4%
であることは許容される限界である。
しかしながら、該 FN に該当する被検者は
病名がなく単に認知症と記載されている群に
1 名いただけであるので、医師の診断のバラ
ツキが反映した可能性も考えられる。同時に
サンプル数も少ないので、今後データを重ね
ることも必要であると考えている。
Fig.12 80 歳代男性(その他の疾病)
5.2 認知症以外の疾患についての評価
医師の意見書に認知症の記載がなくそれ以
外の疾病が記載されている場合の被検者の合
計は 14 名である。被検者は 80 歳代と 90 歳
代の高齢者のため、主な疾病以外に認知症が
潜在しているケースが多いと思われた。
しかしながら、FN は 21.4%と良くない。
Fig.8 や Fig.14 を見ると CKPT のカットオフ
値を平均値-1SD にすれば、False Negative
は劇的に減少(7.1%)し、True Negative や
True Positive は上昇する。ここで FN の該当
者は MMSE=25、CKPT=11 の 70 歳代女性一
人であり、MMSE からは MCI の領域と診ら
れるが前頭葉機能の低下には至っていない被
検者と思われる。サンプル数が増やして結果
を吟味したい。
Fig.13 80 歳代男性(その他の疾病)
疾病情報
アルツハイマー病
脳血管性認知症
レビー小体型認知症
認知症
Fig.14 80 歳代女性(その他の疾病)
小計
5. 考察
従来から用いられている MMSE の認知症
と MCI の境界線に対して新たに開発された
CKPT の得点の平均値-1.5SD にカットオフ値
を設定し、解析した結果の全体を Table 3 に
示す。
Table 3 判定
TP
FN
人
人
(%)
(%)
14
0
2
0
1
0
9
1
26
1
(89.7)
(3.4)
被検者数
5.1 認知症患者についての評価
医師の意見書に認知症の病名が明記されて
いる場合と病名は明記されていないで単に認
(6.9)
(0.0)
7
3
2
2
(50.0)
(21.4)
(14.3)
(14.3)
4
2
14
その他の疾病数合計
総合計
FP
人
(%)
0
0
0
0
0
29
認知症被検者数合計
その他の疾病
TN
人
(%)
1
0
0
1
2
33
4
43
6. まとめ
通所介護事業所の御利用者に MMSE と
58
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
CKPT を適用し、何らかの認知症と診断され
ている被検者群に対しては感度 =TP/(TP+
FN)=0.963、特異度=TN/(TN+FP)=1.00 と素
晴らしい評価がえられた。一方、認知症と表
記されていない被検者は CKPT のカットオフ
値や MMSE の境界線の取り方について、サン
プル数を増やして、さらなる吟味が必要と考
える。
倫理的配慮
創生の御利用者は契約書の中で、個人の介
護情報を個人を同定できない範囲で認知症研
究に用いて良いことに合意している。
参考文献
1) 志村孚城他:痴呆検査装置,痴呆検査サーバ,
痴呆検査クライアントおよび痴呆検査システム, 特
許2003-280626PCTW02005/009247A1.
2) 奥山恵理子他:漢字色別テスト物語編の基
準関連妥当性の検討,日本早期認知症学会
誌 Vol.6,No.1,90-97,2013.
59
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
一般演題
60
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
1 日目(5/24(土)
)13:00~15:20
セッション A:医療画像システム・医療機器
座長 大矢 哲也(日本医療科学大学)
61
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
救急外来待合室画像のインターネット配信
菊野 隆明*,鈴木 亮,磯部 陽**
*独立行政法人国立病院機構東京医療センター 救命救急センター,**同外科
要旨
当院の救急外来は休日には 100 人を超える救急患者が来院する。重症患者がいる時や多
数の患者が待っているときには、救急外来トリアージで軽症と判断された患者は、1 時間を
超える待ち時間を要する。多数の診療待ち患者を抱えながら診療することは医師にとって
も非常にストレスが強い。時間外受診を希望する患者がスマートフォンなどで病院待合室
の込み具合を事前に知ることができれば、不急の受診希望者は待ち患者が少なくなってか
ら来院することができる。救急外来待合室の 5 分毎の静止画像をネット配信することとし
た。待合室画像のインターネット配信は患者・病院双方にとって有用と考えられるが、患
者の顔などが判別できるような画像をネット配信することは個人情報保護上も好ましくな
い。顔の識別が困難なように画像加工して配信する様に工夫した。待合室画像のネット配
信によって、診察待ち患者の波が少なくなって患者数を平均化することができる。更には
不急の時間外受診希望者が受診を取りやめて、救急外来の混雑が解消されることも期待で
きる。
62
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
変形性膝関節症の運動器具について
石原幸一、山下浩史*、黒澤 尚**
株式会社東新製作所、*ルーデンス技研株式会社、**順天堂東京江東高齢者医療センター
要旨
変形性膝関節症は、特に 55 歳以上の女性に多くみられる膝の病気で、進行性の関節軟骨
の摩耗が主な病態である。主な症状は歩行時などに見られる膝の痛みで、病気の進行に伴
い関節の動きが悪化し、正座ができにくくなったりする。こうした変形性膝関節症の症状
の改善として順天堂大学の黒沢教授は、運動療法を推奨する。痛みに対する治療には、消
炎鎮痛剤やシップ、外用薬などがあるが、薬物療法は痛みを取るための対症療法なので、
十分ではない。運動療法は、自宅で、安全かつ短時間に、気軽に行うことができるため、
近年注目をされてきている。
そこで、我々は、運動療法(筋力強化訓練)を気軽に安全に簡単にかつ自動でおこなえるた
めの運動補助装置を開発した。簡単な膝の曲げ伸ばしを装置により自動で行わせることに
より、体操により筋肉を鍛える方法と同等の効果を得ることを目的としている。
また、黒澤医師は安静が症状を悪化させる可能性があることも指摘している。そのため
運動が億劫になりがちな高齢者などに対して症状が悪化することを防ぐ役割を果たせるの
ではと期待している。
これらのことを実証データと被験者の声を通じて明らかにしていき、今後の装置の普及
に努めていきたい。変形性膝関節症の運動器具について
63
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
モバイル画像閲覧システムを利用した救急遠隔読影と画像診断教育の実際
Teleconsultation and education of emergency radiology with mobile viewer system
妹尾聡美 1)2) 一ノ瀬嘉明 1)2)
佐久間正吉 3)
1) 国立病院機構災害医療センター放射線科
2) DIRECT 研究会
3) 株式会社トライフォー システム開発部
はじめに
救急診療では診断・治療方針決定において画像診断の担う役割は大きく、救急診療を行っている医療
機関では昼夜を問わず CT・MRI が施行されている。
重症な症例ほど正確な診断と即時性が求められるが、
画像診断専門医が 24 時間 365 日常時関与することは難しく、特に夜間・休日は検査をオーダーした現
場医師が自分で読影し診療を行っているというのが本邦における救急画像診断の現状である。当院では
常時緊急読影に対応すべくトライフォー社製のモバイル画像閲覧システム ProRad Nadia を導入してい
る。
またこうした本邦の現状において救急画像診断の質を高めるには、救急診療に携わる現場医師の読影
力育成が急務である。我々が所属する DIRECT 研究会では、クラウド型の ProRad Nadia を用いて、参加
者各自が連続画像を操作して能動的に読影しながら実践的な診断プロセスを身につけることができる
画像診断セミナーを行っている。キー画像のみの呈示や演者のパソコンによる受動的な画像供覧による
従来型の画像診断教育とは一線を画し、高い参加者満足度を得ている。
モバイル画像閲覧システムを用いたこれらの取り組みについての実際を紹介する。
1) 災害医療センター放射線科の紹介
◆当院放射線科の時間外緊急読影体制
◆災害医療センター放射線科の特徴
夜間・休日の時間外は、画像診断専門医と
当院は北多摩地区の地域中核総合病院として、
修練医師(非専門医)がペアで院内もしくは病
外傷、脳卒中、循環器疾患など年間約 2000 例の
院敷地内にほぼ常駐する体制をとり、on call
重傷救急患者を受け入れている。当院放射線科は
にて常時緊急読影依頼に対応している。修練
24 時間 365 日の緊急読影および緊急 IVR に対応し、
医師は緊急依頼を受けると 5 分以内に読影室
スピーディーで質の高い高度急性期医療を支え
に到着して診断を行う。非専門医では診断が
ている。また当院放射線科では画像診断および
難しい症例については、画像診断専門医を呼
IVR の修練施設として全国から他科医師(主に救
び出し共に読影を行っている。一部の専門医
急医)を受け入れており、2014 年 4 月現在、画像
は院外に住居を構えており、来院までに時間
診断専門医 4 名・修練医師(救急医)4 名で構成さ
を要する場合には、モバイル画像閲覧システ
れている。
ムを用いて読影対応を行っている。
64
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
2)当院のモバイル画像閲覧システム、救急遠隔読
てスピーディーである。遠隔読影を行う専門医は、
影の実際
修練医師からサーバーへの送信完了後に電話連
◆モバイル画像閲覧システム
絡を受け、外出先よりモバイル端末の Web ブラウ
-トライフォー社製 ProRad Nadia‐
ザにて Nadia サーバーへアクセスし画像閲覧を行
緊急遠隔読影に求められる条件は、場所を選ば
う。
ずモバイル端末にてスムーズかつ簡便に画像閲
覧が可能であり、速やかに正確な画像診断を行え
ることである。それに対応するシステムとして当
科では 2011 年 5 月に Nadia の前身である ProRad
Diva を導入し、2012 年 9 月から現在使用してい
る ProRad Nadia に移行した。このシステムは、
PACS システムと接続した Nadia サーバーを院内に
設置し、外出先からインターネットを介して同サ
ーバーに VPN 接続し、
画像閲覧を行うものである。
図 1;当院における緊急遠隔読影時の画像閲覧シス
インターネットにつながる端末であれば PC や Mac、
テム(ProRad
Nadia)
タブレットやスマートフォンなど機種の種類を
選ばず運用可能である。サーバー上で DICOM 情報
緊急読影で頻度の高い症例に絞って、診断専門医
は自動的に匿名化され、またデータは端末側に残
による診断・治療方針決定までの時間をそれぞれ
らない仕様であり、セキュリティー面にも問題は
計測してみた(図 2)
。画像アップロード後、電話
ない。画像の拡大・縮小やウインドウレベル(WL)、
連絡を経て約 2 分後に画像閲覧開始、早ければ 2
ウインドウ幅(WW)の調整、複数シリーズの比較表
分、遅くとも 13 分後には専門医による診断およ
示など DICOM ビューアーとして必要十分な閲覧機
び治療方針決定を完了しており、速やかな対応を
能を備えており、動作も軽快でスムーズな画像閲
行えていると考えられる。結果的に IVR が必要な
覧を行うことができる。最近では 1-2mm 厚の Thin
症例であった場合は、専門医の到着を待たずに手
Slice 画像を PACS に配信している施設も増えてい
技準備を開始することができ、また専門医も移動
るが、Prorad Nadia ではこうした大量の Thin
中に画像検討を終えた状態で到着するため、速や
Slice 画像を最初は 4-6mm 間隔などに間引いて表
かな治療介入を行うことにつながり、遠隔読影が
示させ、関心領域のみ 1-2mm 厚の Thin Slice で
極めて有効であることが実感される。
閲覧することも可能である。
◆救急遠隔読影の実際
院外にいる専門医が遠隔読影を行う際はまず、
院内にいる修練医師が HIS 端末上のアップロード
ツールを用いて PACS の画像データを Nadia サー
バーに送る(図 1)。より簡便にアップロードを行
うため、当該検査のレポート作成画面からワンク
リックで送信を行えるよう改良を予定している。
図 2;緊急読影時、実際の時間経過
画像送信に要する時間は、外傷症例の 1000 枚を
超える全身 CT 画像であっても約 30 秒程度と極め
65
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
3)モバイル画像閲覧システムの応用による画像
像を閲覧できる ProRad Nadia の機能を応用した
診断教育
クラウドサービスである。院内にサーバーを置
◆ 救急診療で必要な読影力育成
く遠隔画像診断用の ProRad Nadia とは異なり、
−DIRECT 研究会について−
クラウド上の Nadia サーバー上にセミナーで使
冒頭で述べたとおり、常時リアルタイムで画
用する画像をアップロードすることで、画像閲
像診断専門医による画像読影が行われている施
覧用の URL が生成される。アップロード時に患
設が少ない本邦において救急画像診断の質を高
者データは自動的に匿名化される(図 3)
。
めるためには、救急診療にあたっている現場医
師が的確な画像診断を行えるよう実践的な読影
力を育成することが急務である。我々が所属す
る DIRECT 研究会 1)ではこのような趣旨に則り、
救急診療に従事する医師、医療従事者を対象と
した画像診断セミナーを定期的に開催している。
「DIRECT」とは Diagnostic and Interventional
Radiology in Emergency , Critical care and
Trauma の頭文字をとったものである。救急診療
における画像診断や IVR の普及や質の向上によ
り救命率の改善に寄与することを目的とし 2011
年に有志で結成した。2014 年 3 月現在で会員数
図 3;DIRECT 研究会の画像閲覧システム(Nadia ク
は約 750 名であり、2013 年度までに画像診断や
ラウド for 研究会)
IVR に関するセミナー、症例検討会を延べ 29 回
開催している。
参加者は各自の端末の Web ブラウザにてこの
従来の画像診断教育でありがちなキーイメージ
URL にアクセスすることで画像閲覧が可能とな
のみでの解説では、いかにしてその所見にたど
るシステムである。画像データや Viewer ソフト
りつくかといった実践的な部分を学ぶことが難
などをダウンロードする必要はなく、インター
しく、講演形式の一方向性の教育では参加者の
ネットにつながる端末であれば、パソコンやタ
診断プロセスの歪みを把握して正しい画像診断
ブレット、スマートフォンなどどんな端末でも、
へ導くことが難しいため、DIRECT 画像診断セミ
各自の手元で好きなように画像を閲覧すること
ナーでは参加者に各自の端末で症例画像全体を
ができる。外傷全身パンスキャンの大量のデー
読んでもらいながら、読影・診断のプロセスを
タでも問題なくスムーズに読影でき、セミナー
体験しながら学んでいくというスタイルを採っ
だけでなく、このシステムを用いて外傷症例の
ている。
検討会も行っている。
多くの人数が参加するイベントの際にはイン
◆画像診断セミナー、外傷症例検討会における画
ターネット回線速度に依存しないよう、会場にイ
像供覧への応用
ントラネットを構築して運用することも可能で、
このようなスタイルでセミナーを行うために、
2012 年の日本救急医学会総会・学術集会における
2)
我々は「Nadia クラウド for 研究会」 を使用し
モーニングセミナーでは 200 名規模の参加者に対
ている。インターネット環境があれば場所や読
して画像供覧を行うことができた。
影端末の種類を問わずモバイル端末で DICOM 画
66
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
◆DIRECT 研究会の画像診断セミナーの実際
現在 2 種類のセミナーを行っており、それぞれ
内因性救急疾患、外傷画像診断をテーマとしてい
る。内因性疾患としては、大動脈解離やクモ膜下
出血など救急外来で見逃したくない疾患を扱っ
ている。外傷診断コースは外傷初期診療ガイドラ
イン JATEC 第 4 版に採用された外傷全身 CT 撮影
の段階的読影法を実践しながら学ぶ内容となっ
ている。Nadia クラウド for 研究会では画像の事
前・事後公開も可能であり、コースの前後でやや
図 4;セミナー全体を通しての満足度
難解な症例画像を読影させて結果を比較するこ
(過去 6 回分の診断セミナーアンケートより)
とで、コースの理解度を確認している。
実際の指導にあたっては、受講生を 5 人前後の
4)おわりに
少人数ブースに分け、インストラクターと共に各
参加者が能動的かつ自由に画像閲覧できる形
自の端末で Window の調整などを行いながら画像
こそが、これからの画像供覧のあるべき姿だと思
所見を拾い上げていき、見つけた所見をどう解釈
われ、今やインターネット環境さえあれば簡単に
しながら最終診断にたどりつくかという実践的
それが実現できるようになった。今後、遠隔画像
な読影プロセスを伝えるようにしており、参加者
診断だけではなく画像診断教育においてもこう
アンケートでも高い満足度を得ている(図 4)
。
したモバイル画像閲覧システムの普及が進むこ
とに期待している。
参考資料
1)DIRECT 研究会
http://direct.kenkyuukai.jp
2) Nadia クラウド for 研究会 https://prorad.jp/nadia/
67
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
腹腔鏡手術トレーニングへの 3 次元骨盤モデル導入の試み
A surgical training simulator for laparoscopic pelvic surgery produced by 3D-printing
磯部 陽*,**,西原佑一*,**,松永篤志*,川口義樹*,徳山
丞*,大住幸司*,浦上秀次郎*,
島田 敦*,大石 崇*,松本純夫*,**,杉本真樹**,***
*国立病院機構東京医療センター外科,**同臨床研究センター,
***神戸大学大学院医学研究科
Yoh Isobe*,**, Yuichi Nishihara*,**, Atsushi Matsunaga*, Yoshiki Kawaguchi*, Jo Tokuyama*,
Koji Osumi*, Hidejiro Urakami*, Atsushi Shimada*, Takashi Ohishi*,
Sumio Matsumoto*,**, Maki Sugimoto**,***
*Department of Surgery, National Hospital Organization (NHO) Tokyo Medical Center,
**Institute of Clinical Research of NHO Tokyo Medical Center, Tokyo, Japan,
***Kobe University Graduate School of Medicine, Kobe, Japan.
要約
近年,腹部外科領域における低侵襲手術として腹腔鏡下手術の実施件数は飛躍的に増加し
つつあるが,内視鏡の 2D 視野や手術用鉗子の可動域の制限のため,技術習得のための
learning curve が存在することが知られている.我々は,一般に用いられているボックス型
手術シミュレーターを用いて,3D 内視鏡や手術支援ロボットなどの先端技術がこれらの
learning curve を短縮する可能性を報告してきた.しかしながら,既存のトレーニングシス
テムでは実臨床に近い環境での技術習得や新たに導入された先端技術の評価を行うことは
必ずしも容易ではなかった.そこで,腹部 CT の DICOM データから 3D プリンタにより造
形した腹腔鏡手術トレーニング用 3 次元骨盤モデルを試作し,初心者にとって手術器械操
作の難易度が比較的高い腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術のシミュレーションを行いその有用
性を検討した.その結果,生体をリアルに再現した 3 次元モデルにより,手術手技のより
実践的なシミュレーションやトレーニングを実施することができ,learning curve の短縮や
手術の質の向上が得られる可能性が示唆された.
キーワード:腹腔鏡下手術,シミュレーター,3 次元モデル
1. はじめに
開催されているが,日常的に実施が可能であるド
近年,腹部外科領域における低侵襲手術として
ライモデルを用いたシミュレーショントレーニ
腹腔鏡下手術の実施件数は飛躍的に増加しつつ
ングへの期待も高まっている.我々は,縫合結紮
あるが,内視鏡の 2D 視野による空間認識の低下
手技の習得などのために一般に用いられている
や手術用鉗子の可動域の制限のため,技術の習得
ボックス型内視鏡手術シミュレーターを用いて,
には learning curve が存在することが知られてい
3D 内視鏡や手術支援ロボットなどの先端技術が
る.この learning curve を短縮するために,ブタ
腹腔鏡手術の learning curve を短縮する可能性を
などの動物を用いた内視鏡手術セミナーが広く
報告してきた[1] [2].しかしながら,既存のトレー
68
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
ニングシステムでは実臨床に近い環境での技術
腹膜の切開と剥離,ヘルニア修復用メッシュの挿
習得や新たに導入された手術機器の評価を行う
入および腹膜の縫合閉鎖とし,一連のタスクの終
ことは容易ではない.そこで,腹部 CT の DICOM
了までに要した時間を測定した.鉗子や腹壁に刺
データから 3D プリンタにより造形した腹腔鏡手
入して鉗子類の腹腔内への挿入ルートとなるポ
術トレーニング用 3 次元骨盤モデルを試作し,日
ート(トロッカー)等の手術器具は,すべて実物
本人の狭い骨盤腔内で行われる外科手術のなか
と同等品を使用した.この TAPP モデルは,国立
で症例数が多く難易度も比較的高い腹腔鏡下鼠
病院機構主催の手術セミナー等において,動物を
径ヘルニア修復術 transabdominal preperitoneal
用いた手術の前段階としてのドライラボのプロ
approach (TAPP) のシミュレーションを行いそ
グラムに採用し,有用性を評価した.
の有用性を検討した.
(3) 骨盤シミュレーターの導入と改良
従来型トレーニングボックスに TAPP モデルを
2. 方法
設置したシミュレーションの経験をふまえ,より
(1) 鼠径ヘルニア (TAPP) モデルの作製
実体感のあるトレーニング環境を構築するため
鼠径床に見立てた 15 cm×18 cm×2 cm のスポ
に,手術支援ロボット da Vinci による前立腺摘出
ンジ素材に下腹壁動静脈,精管,Cooper 靭帯,
術のトレーニング用として株式会社ファソテッ
腸恥靭帯などの外科解剖学的ランドマークの模
クが Bio-Texture Modeling®の手法[3]により開発
型を接着し,腹膜前筋膜に見立てたラッピング素
した骨盤シミュレーター(図 2)を原型とした腹腔
材で被覆した上にさらに腹膜に見立てたナイロ
鏡手術用 3 次元骨盤モデルを設計した.骨盤シミ
ンストッキングを被覆し,TAPP モデルを作製し
ュレーターは, 腹部 CT から取得した日本人成人
た(図 1)
.ランドマークの向きを変えることによ
男性の骨盤データの平均値に基づいて 3D プリン
り,右側モデルと左側モデルを準備した.
タを用いて造形したものである.
図 1.TAPP モデル(右側,腹膜縫合後)
図 2.骨盤シミュレーター(市販品)
(2) TAPP シミュレーション
既に製品化されている骨盤シミュレーターの
作製した TAPP モデルを腹腔鏡手術用トレーニ
改修の主な要点は,既存の TAPP モデルをシミュ
ングボックス内に置いて,腹腔鏡の観察下に実際
レーターの鼠蹊部に装着できるスペースを確保
に鋏や把持鉗子,持針器などの内視鏡手術器具を
すること,トレーニングを効率的に行うために鼠
用いて手術シミュレーションを行った.シミュレ
径部などの主要部分をユニット化して着脱可能
ーションのタスクは,実際の手術操作を模倣した
とすること(図 3)
,組み立て式にして可搬性を高
69
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
めること,腹壁にポート挿入孔を多数設けること,
手術時の CO2 による気腹により膨隆した腹壁の
直腸切除術のシミュレーションにも使用できる
形状となっているため,ポート挿入部から目標ま
よう直腸吻合モデルの装着も可能とすることな
での直線距離と角度を鉗子を挿入して確認する
どであった(図 4)
.
ことが可能となり,適切なポート挿入部位のシミ
ュレーションを行うことができた.また,腹腔鏡
も実際と同様に臍部のポートから挿入できるた
め,モニター画面を見ながら内視鏡操作のシミュ
レーションを効果的に行うことが可能となった
(図 5,6,7).一方,ポート挿入部が気腹時の腹
図 3.着脱式の鼠径部ユニットに装着した TAPP
モデル
図 5.3 次元骨盤モデル試作品を用いた TAPP シ
ミュレーション(3D 内視鏡使用)
図 4.3 次元骨盤モデル試作品
3. 結果
従来型トレーニングボックスに鼠径ヘルニア
モデルを設置し 2D 腹腔鏡を装着して 19 名の外
科医を対象として TAPP のシミュレーションを行
図 6.3 次元骨盤モデル試作品を用いた TAPP シ
った結果,全タスクの平均完遂時間は腹腔鏡手術
ミュレーション(2D 内視鏡モニター画面)
の初心者群(5 名)25.0 分,一般群(7 名)18.8
分,内視鏡手術熟練群(7 名)12.7 分であった.
壁と同様の曲面となっても実際の腹壁とは異な
制限時間を 25 分に設定したため,初心者は全員
り柔軟性に欠けるため,硬質ゴム製の挿入孔で鉗
タスクを完遂することができなかった.
子の可動域が予想以上に制限されることも判明
腹腔鏡手術用 3 次元骨盤モデルは,腹壁部分が
した.さらには,タスクを遂行する間にポート挿
70
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
入部と各パーツの結合部への負荷が増大し,モデ
るともいえる従来型シミュレーターでのタスク
ルの強度が不足していることも確認された.試作
と異なり,我々が試作した 3 次元骨盤モデルを用
品を用いた検討では,腹腔鏡手術用 3 次元骨盤モ
いたタスクはより実践的で難易度が高く,その結
デルによる TAPP シミュレーションのタスク完遂
果トレーニングを受けるモチベーションも向上
には,熟練者でも 15 分以上を必要とした.
し,初心者だけではなく learning curve の途上に
ある修練者にとっても有用なトレーニングとな
リ得ると考えられた.今後,モデルの完成度を高
め,本格的な実用化を目指していきたい.
5. おわりに
腹部 CT の DICOM データを取得し 3D プリン
タにより造形した腹腔鏡手術トレーニング用骨
盤モデルを試作し,腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術
のシミュレーションにおいてその有用性を検討
した.その結果,生体をリアルに再現した 3 次元
図 7.3 次元骨盤モデル試作品を用いた TAPP シ
モデルを用いたトレーニングにより,手術手技の
ミュレーション(骨盤腔内)
より実践的なシミュレーションが可能となり,
learning curve の短縮や手術の質の向上が得られ
4. 考察
る可能性が示唆された.
内視鏡手術のシミュレーターとしては,コンピ
ューターグラフィックス技術を駆使したバーチ
謝辞:鼠径ヘルニアモデルの作製でコヴィディエ
ャルシミュレーターが既に実用化されているが,
ンジャパン株式会社に,シミュレーショントレー
仮想空間におけるシミュレーションは手術操作
ニングの実施でコヴィディエンジャパン,ジョン
の理解には有用であっても手技の習得のために
ソン・エンド・ジョンソンおよびオリンパスメデ
はより実体のあるトレーニングモデルが必要と
ィカルシステムズ株式会社にご協力いただき,3
考えられる.スポンジを素材とした TAPP モデル
次元骨盤モデルは株式会社ファソテックに作製
は重要な手術手技の多くを体験でき,安価で容易
していただいた.関係の方々に深く感謝致します.
に作製できることから実用性が高く,トレーニン
グセミナー等において実際に使用され始めてい
参考文献:
る.しかし,腹腔鏡手術の難易度を高めている体
[1] 磯部 陽,浦上秀次郎,大石 崇,他:内視鏡
腔内操作という空間的制約を体現するためには,
手術ドライラボシミュレーションによる 3D 内
このモデルを格納する容器をより生体に近づけ
視鏡および手術支援ロボットの有用性評価.IT ヘ
ることが重要と考えられる.今回検討した結果で
ルスケア学会誌 8(1) : pp.20-23, 2013.
は,腹部 CT の DICOM データから 3D プリンタ
[2] Yoh Isobe, Yuichi Nishihara, Atsushi
により作製した 3 次元骨盤モデルを用いることに
Matsunaga, et al: Evaluation of 3D Endoscopy
より,手術の難易度に影響を及ぼす鉗子の可動域,
in Laparoscopic Simulation Training. ELSA
ポート挿入位置,術野における空間認識の状況な
2013, 2013.12, Taipei.
どを人工的な疑似環境で比較的忠実に再現する
[3] http://www.biotexture.com/about/btm.html,
ことが可能であった.熟練者にとっては簡単すぎ
FASOTEC Co., Ltd, accessed May 9, 2014.
71
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
内視鏡手術における医用映像の保存と管理について
Data storage and management of medical image in the endoscopic surgery.
○関川 智重*,木村 哲也*,子安 保喜**,笠間 和典***,黒川 良望***
*四谷メディカルキューブ 臨床工学科,**同 ウィメンズセンター,***同 減量外科
Tomoshige Sekikawa*,Tetsuya Kimura*,Yasuki Koyasu**,Kazunori Kasama***,Yoshimochi Kurokawa***
*Department of Clinical Engineering, Yotsuya Medical Cube, Tokyo, Japan.
** Women's Center. *** Department of Weight Loss Surgery.
1.はじめに
3.結果
近年,医療技術は高度な進歩を遂げ,内視鏡手術
(1)病院情報システムおよび手術オーダシステム
はHD時代となり,SD画質の約7倍高精細な画質と
との連携により,患者情報や手術属性が各⼿術室
記録情報量が肥大化している.
へ⾃動取得が可能となった.誤⼊⼒の回避が実現
その中で,医用映像を高品位な状態で保存し,学
し信頼性が向上した.
術的・教育的価値を目的とした用途に運用するニ
(2)患者属性情報や手術情報を映像に付帯してサ
ーズが高まっている.
ーバにデータ保存を行うことで,日付や診療科,
しかし,内視鏡手術における映像の保存義務や保
患者情報やキーワードなど,目的とするデータが
存期間に規定がなく,診療科独自の方針により保
容易に検索することが可能となった.
存が行われている.そのため,記録媒体の多様化
(3)リアルタイムネットワーク転送(配信)によ
により映像の効率的な保存と管理ができていな
り長時間の連続録画が可能となった.また,オン
い状況にある.今回,我々は医用映像支援システ
デマンド配信による許可端末からの閲覧やビデ
ムOPELIO(株式会社セブンスディメンジョンデザ
オカンファレンス,患者家族への説明などインフ
イン)を導入し,医用映像の一元管理を行った.
ォームドコンセントへの活用により手術の透明
その有用性ついて報告する.
性が向上した.
2.方法
4.考察
当施設では,2005 年開院時から媒体に一切記録し
医用映像の保存と管理において大切なことは,増
ない方式の医用映像支援システム DATA Solution
え続ける膨大なデータを効率よく保存と保管,期
を導⼊し,術中動画や静⽌画データを HDD 記録を
間経過後,情報の廃棄が自動化できる環境構築が
行い,⼤容量の動画サーバへ移⾏蓄積,院内端末
必要である.
からの検索・閲覧を可能にした.2013 年 1 月,
4.結語
FullHD 内視鏡システム導⼊に伴い,記録システム
OPELIOシステムにて医用映像の一元管理を行っ
を OPELIO にリプレイスを⾏った.記録方式は HD
たことで, 情報の質の向上・共有化・記録データ
(H.264 10Mbps)ビットレートにて医療情報部門
の統合を効率よく管理することが実現した.
管理下のサーバシステム(15TB ストレージ容量)
真正性・見読性・保存性の向上に有用であると考
にリアルタイムにネットワーク転送を行う.
えられる.
サーバに保存したデータは,HD(10Mbps)3 ヶ月間
保存後,SD(H.264 2Mbps)に自動再エンコードを
実施し,5 年間の保存経過後,自動消去を行う.
72
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
Web
型電子カルテを用いた画像参照と利用状況
田村
1
正樹
1,2
、磯部
陽
1,2
、磯部
義 憲 2、 樋 口
順也
2
国立病院機構東京医療センター医療情報部、2 同放射線科、3 同外科
要約
2011 年 に WEB 型 電 子 カ ル テ ブ ラ ウ ザ を 導 入 し 、 そ の 一 環 と し て 遠 隔 画 像 読 影 可 能 な 画 像
参照システムを構築した。このシステムは医療スタッフがモバイルデバイスにて院外から
電 子 カ ル テ を 閲 覧 で き る 機 能 を 確 立 す る こ と で あ る 。 稼 働 後 3 年 間 の 利 用 状 況 は 、 Web 型
電 子 カ ル テ の 閲 覧 状 況 で 約 250 件 /月 、画 像 参 照 状 況 が 約 30 件 /月 と な り 継 続 的 に 利 用 さ れ
て い る こ と が 分 か っ た 。 Web 型 電 子 カ ル テ で は 稼 働 後 大 き な ト ラ ブ ル も な く 運 用 が さ れ て
いるが、画像参照機能では画像が閲覧できない事例が複数回確認された。今後は、多機能
で 高 速 な 画 像 閲 覧 シ ス テ ム の 構 築 や thin client system の導入を含め検討していきたい。
1.はじめに
ムCIS V300
当院の現在於かれている勤務状況では放射線
NTMC内の医療情報から下記の項目の閲覧が
科読影医師が24時間病院にとどまることは難
Web型電子カルテから閲覧が可能となってい
しく、夜間・休日時間帯では、放射線科読影
る.
医師が不在となり画像診断に支障が出ること

が見受けられた。2011年8月より放射線科オン
記録(診療,看護記録,手術,放射線治
療,処置,リハビリ)

コール担当医師によるWeb型電子カルテブラ
ウザとモバイル端末を用いた緊急時遠隔画像
検査結果(検体,細菌,生理,病理,内
視鏡のキー画像・レポート)
読影の運用を開始した。ベースになるシステ

病名
ムとしては2011年3月に東京都地域診療情報

サマリー
連携推進事業にて導入した病診連携システム

紹介状
であり、このシステムを院内職員間の診療情

食事摂取
報共有に応用したシステムが本システムであ

IN/OUT
る。3年間のカルテ、画像の参照状況と問題点、
 診療予約
今後の展望について報告する。
 処方
 注射
 輸血オーダー履歴
2.Web型電子カルテ閲覧システムの概要
i.
システムの構成と閲覧範囲
Web型電子カルテは2種のサブシステムによ
本システムは当院で使用されている電子カル
※1
テ( NTMC
り構成されている。
① Web-NTMC
)の機能を限定的に院外・院内か
らweb browsingにより閲覧するシステムであ
地域連携用診療情報共有システムとして連携
る。※1 NTMC:日本IBM社製統合医療情報システ
登録医を対象としたシステム:当該施設の患
73
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
者で同意が得られ患者のみに限定され前日23
 乱数表を用いるログイン認証
時までのデータの参照が可能。PACS内の画像
 電子署名によるクライアント認証
データに関しては閲覧不可
 暗号化通信(SSL-VPN)使用
② Mobile-NTMC
さらなるのセキュリティ確保として機能付加
 アクセスログの公開
当院職員が専用に使用できる医療情報システ
※2
ム:対象患者は全患者でありPACS 内に保存
 オートログオフ
されている画像データの閲覧可能
 一定回数のログイン失敗によるアカウン
ト停止
※2 富士フィルム社製SYNAPS
本システムからPACS内の画像を直接閲覧する
以上の多段階に及ぶ認証は存在するが、一般
システムの構築はセキュリティ問題、DICOM画
的な4G回線に接続したiPadで接続を行うと
像の容量の大きさを考慮すると実用は難しい状
ログイン開始から、患者選択画面表示まで
況にあったため、画像参照用の中間サーバーを
約60秒で認証は終了する。またシステムの
設置し、DICOM画像をJPEG画像へと返還後格納
初期画面は患者ID、または、患者名称入力画
するシステムを構築した。システム全体の構成
面となっており、この画面から以外ではカル
は図1を参照。
テの閲覧は行えず、ここで更なるチェックが
ii.
閲覧に必要なハードウエア・ソフトウエ
働いている。カルテ内においても個人情報は
ア
極力載せていない構造になっており、住所や
① ハードウエア
電話番号などの閲覧をすることはできない。
接続に必要なハードウエアは

インターネット接続が可能な環境

PC(OSはwindowsまたはMac)

iPad、iphoneなどのモバイル機器
(Andoroid端末は、セキュリティ強化後使用不可)
② ソフトウエア

OS標準のブラウザ

当院より配布される電子証明書
閲覧側が準備するものは以上でありユーザー
側の費用負担はなく登録連携医、当院職員は
ユーザー登録と電子証明書の設定で使用が可
能になる。
図1システム構成図
iii.
セキュリティ対策
電子カルテ上の医用情報の閲覧が最大の目的
iv.
放射線画像参照機能
であるため、開発の段階から最重要視されて
放射線画像は前述のとおりDICOM形式での
いた項目が、セキュリティ対策であり4項目の
運用は障害があり断念した。画像はJPEG形式
セキュリティ対策を講じることにより、イン
(圧縮品質75)で参照し、モバイル端末を用
ターネット・バンキングと同等のレベル確保
いた一次読影に耐える画質とビューアの操作
に努めている.
性を実現することをめざした。画像ビューア
 ID,パスワードの認証 2回
のボタンの位置や形状はiPadでの指先操作が
74
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
容易となるような配慮とし、JPEG画像では濃
の閲覧実績があった。
度、諧調調整が行えないため、モダリティご
とに9種類のデフォルト値を設定した。CTで
は、CT値を頭部、頸部・縦隔、軟部、肝、肺
野、骨盤、骨等9種類に切り替えてJPEG画像
を表示できる機能を装備した。CT画像はシリ
ーズ毎に画面左側にサムネイル画像、右側に
選択画像を表示する仕様で(図2、図3)、サム
ネイル画像の更新に要する時間は、iPadでは
回線の状態にもよるが5~30秒程度である。
図4Web型電子カルテ閲覧件数
図4放射線画像閲覧件数
4.システム活用への今後への課題
図2 放射線画像閲覧画面:腹部
i.
障害発生
Mobile-NTMC,Web-NTMCにおける障害発生
状況は,稼働3年間を経過した現在,ユーザー
の操作不慣れなど軽微なもの以外発生はして
いない。しかしながら,画像参照システムに
関しては,画像閲覧ができない事例が3年間で
8件発生している.障害発生場所としては,
JPEG画像を取り扱っている中間サーバーで
のトラブルがすべてである。
 サーバーのフリーズ
図3 放射線画像閲覧画面:肺野
サーバートラブルは導入当初に発生が見受けら
れたが設定の変更等により稼働1年以降の発生は
3.画像参照と利用状況
見受けられない。
2011年4月の本システム稼働から2014年4月に
 DICOM画像からJPEG画像への変換トラブル
て3年超が経過し、Web型電子カルテの閲覧は
画像参照システムは,全放射線画像、MRI、内視
約250件/月(図4)
、画像参照は約30件/月(図5)
鏡、病理画像など多大な画像を変換保管している。
75
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
変換の停止や遅延を招いているのは,血管造影検
集31:366-367,2011
査に代表されるマルチフレームのDICOM画像で
2) 磯部 陽 込山 修 野田 徹 他.Web型電子カ
あり、
JPEG画像の変換に遅延や停止といったトラ
ルテ閲覧システムを用いた地域医療連携と遠
ブルが発生している。
隔画像診断.ITヘルスケア7,58-61,2012
現状では、システムトラブルや画像変換に遅延が
3) 磯部 陽 金子 英樹 田村 正樹
野田 徹
発生していてもアラートを出す機構が無い状況
菊野 隆明 磯部 義憲 松本 純夫:Web型電子
にある。また、システムトラブルの復旧に関して
カルテとモバイルデバイスを用いた緊急遠隔
も当院常駐のSEでは対応ができない状況にある。
画像読影.ITヘルスケア8,31-34,2013
画像の閲覧は5~10件/週程度であり頻度が高いと
は言えないためトラブルの早期の発見、早期復旧
が難しい状況にあり今後の改善が必要である。
ii.
次期システムへの展望
本システムは、画素数の少ないCTやMRIを中心に
「遠隔コンサルテーション」の位置づけとしてそ
の役割を発揮してきた。一検査あたりの画像容量
の増大化や連続画像、動画などの画像をストレス
なく読影するためには画質の再評価と精度管理
を行い、高速、高機能化するモバイル通信環境に
対応していく必要がある。また、電子カルテシス
テムの一部にthin client systemを導入したが,放射
線画像にはまだ対応していないため,今後,院外
からのカルテ記入やレポートの作成を考慮し,
PACS・レポーティングシステムのthin client system
を検討していきたい.
5.終わりに
本システムの継続的な利用状況からみても医
療チーム内での情報共有の重要な手段となっ
ておりインターネット経由でリアルタイムに
画像を閲覧できるようになったことの意義は
大きい。今後、更なる機能拡大と高速化をす
ることにより、医療の中で欠かせないシステ
ムになっていくことを期待したい。
引用文献
1) 磯部 陽 加藤 浩之 野田 徹 他.Web型電子
カルテ閲覧システムとモバイル端末による診
療情報共有化の推進.医療情報連合大会論文
76
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
1 日目(5/24(土)
)13:00~15:40
セッション B:生体計測・モニタリング
座長 原 晋介(大阪市立大学大学院)
77
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
サッカー競技における
リアルタイムバイタルデータ収集システム
~フィールド実験に寄るパケットロス率測定とシステム UI~1
○手塚耕平*,辻岡哲夫*,原 晋介*,中村 肇**,河端隆志***,
奥畑宏之****,伊勢正尚****,渡邊賢治****,有銘能亜****
*大阪市立大学大学院工学研究科,
***関西大学人間健康学部,
**大阪市立大学大学院医学研究科,
****株式会社シンセシス
要約
近年、コーチや監督などの指導者は,運動選手のバイタルデータを用い,スポーツ健康科学に基づい
て練習メニューの作成をする傾向にある.我々は無線通信を用いて,チームで行うスポーツ中に選手全
員のバイタルデータをリアルタイムに収集することを目指している.チームスポーツとしてサッカーを
選択し,フィールド実験により競技中の無線伝送におけるパケットロス率の測定を行った.また,スポ
ーツ健康科学の専門家,サッカー監督,フィジカルコーチなどの指導者からの意見をもとにシステムユ
ーザインターフェースを考案した.本稿では,フィールド実験による測定結果と考案したシステムユー
ザインターフェースについて報告する.
1. はじめに
and System User Interface近年,スポーツ選手の練習メニューの作成や運
動中の怪我予防のためにバイタルデータが利用さ
れている.バイタルデータとは心拍数や体表温度,
エネルギー消費量などであり,スポーツ健康科学
に基づく健康モニタリングを行うことで,命に関
わる重大な事故や選手生命に関わる怪我を軽減す
ることができる.本稿では,無線通信を用いたサ
ッカー競技におけるリアルタイムバイタルデータ
収集システムの実現のため,フィールド実験によ
り測定したパケットロス率の結果を報告する.ま
た,スポーツ健康科学の専門家や,現役のサッカ
ー監督などの実際のスポーツ競技の現場に携わっ
ている共同研究者からの意見に基づいて考案した
図 1 リアルタイムデータ収集システム
システムのユーザインターフェースについて述べ
ツでは通信品質が低下する.複数選手で行うスポ
る.
ーツ中では他の選手の体が電波を遮断する障害物
2. データ収集システム
となり,正しく通信できなくなる現象(ブロッキン
運動中のスポーツ選手から,無線通信を用いて グ)が頻繁に発生するためである.この問題の対
リアルタイムにバイタルデータを収集するシステ 策として,運動中のフィールドの周囲に,監督ノ
ムでは,選手から取得したバイタルデータを監督 ードに向けて中継伝送を行うノード(データ収集
の使用しているデバイス(監督ノード)へ収集し, ノード)を,複数設置する空間ダイバーシチ方式
データを有用な形に変換し表示する.リアルタイ をによって,ブロッキングの影響の低減を図る.
ムデータ収集システムを図1に示す.このように 本稿ではフィールド実験により,データ収集ノー
して,運動選手を支援する既存システムとして, ドから監督ノードに伝送する際のパケットロス率
GPSports1)などが挙げられる.しかし,一般的にそ を測定し,その性能を評価する.
れらのシステムは 1 人のスポーツ選手のモニタリ
ングを対象にしているため,チームで行うスポー
3. サッカー競技におけるデータ収集法
データ収集ノードから監督ノードまで無線伝送
1
Real Time Vital Data Collection for Soccer Games
を行う際の周波数帯として,920MHz帯と 2.4GHz
帯を選定する.サッカー競技を行うフィールドは
-Measurement of Packet Loss Rate in Field Experiments
78
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
ムスロット外で受信したバイタルデータは,アグ
リゲーション処理によってパケット数を削減し,
長辺が 90m ~ 120m であり,短辺 45m ~ 90m と定
められている.そこで,電波到達性を考慮し,
表 1 フィールド実験諸元
送信電力
送信速度
送信
データサイズ
送信時間間隔
アンテナ高
データ収集
ノード配置
測定時間
920MHz 帯
2.4GHz 帯
20mW
100kbps
10mW
250kbps
可変長(30~210 バイト)
1 秒(250 ミリ秒で TDMA)
2m
50cm
フィールドの四隅
90 分
表 2 二つの周波数帯のパケットロス率
図 2 サッカー競技におけるデータ収集
無線周波数帯
パケットロス
率
ロス数/全パケッ
ト数
920MHz 帯
2.4GHz 帯
両帯域
6.17×10-4
6.17×10-4
0
3/4859
3/4859
0/4859
トラヒックを低減する.サッカー競技におけるデ
ータ収集の様子を図 2 に示す.
4. フィールド実験
本フィールド実験の目的は,フィールド内でサ
ッカー競技を行っている状態で,データ収集ノー
ドから監督ノードへの無線伝送を行った際のパケ
ットロス率の測定である.関西大学のサッカーフ
ィールドにおいて,サッカークラブチーム 22 名が
1 チーム 11 名ずつに分かれてサッカーの紅白戦を
行っている中で,ダミーデータを伝送し,パケッ
トロス率を測定する.ダミーデータは選手 22 名の
それぞれに装着した選手ノードから送信する.デ
ータ収集ノードの少なくとも 1 台で受信されたダ
ミーデータが,監督ノードまで到達できなかった
とき,パケットロスが発生したと定義する.
フィールド実験諸元を表 1 に示す.送信電力は
920MHz 帯は 20mW,2.4GHz 帯は 10mW であり,そ
れぞれの最大許容送信電力を用いている.4 台の
図 3 データ収集ノード
データ収集ノードをフィールドの四つ角に,頂点
920MHz 帯を用いた場合は,データ収集ノードから から縦 2m,横 2m 離れた位置に設置する. 920MHz
監督ノードへ直接伝送を行い,2.4GHz 帯を用いた 帯は ARIB 標準規格 STD-T108 に準拠して使用し,
場合は,隣接ノードに転送しながら監督ノードへ 監督ノードにユニキャストで伝送する.2.4GHz 帯
の伝送する.データ収集ノードでは TDMA を行い, は Windows7 に標準搭載されている Virtual Wi-Fi
データ伝送の際の衝突を回避する.割当てたタイ 機能を使用し,監督ノードに近いデータ収集ノー
79
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
が原因と考えられる.920MHz 帯にも再送制御を導
入すれば,大きな改善が期待できる.
ドを経由して伝送する.各データ収集ノードのデ
0.05
2.4GHz帯
0.04
920MHz帯
0.03
0.02
0.01
0
図 5 システム全体のブロック図
Relay1
Relay2
Relay3
Relay4
表 3 データベースのフィールド
(a) Session Table
Field Name
Description
id
ユニーク番号
session_id
トレーニング番号
start_time
開始時間
end_time
終了時間
date
日付
weather
天気
air_temp
気温
humidity
気圧
図 4 周波数帯ごとのパケットロス率
ータ送信間隔は 1 秒とし,250ms のタイムスロッ
トを割当てて TDMA を行う.受信データのアグリゲ
ーション処理によって,送信パケットサイズは 30
~210 バイトの範囲の 30 の倍数となる.監督ノー
ドとデータ収集ノードのアンテナ高については,
920MHz 帯では 2m,2.4GHz 帯ではパソコン内蔵ア
ンテナを用いるため 50cm である.フィールドに実
際に設置するデータ収集ノードを図 3 に示す.測
定時間はサッカー競技の試合時間の 90 分間とす
る.
(b)Vital Table
Field Name
Description
id
ユニーク番号
session_id
トレーニング番号
source_node_id
選手番号
seq
データのシーケンス番
号
i_total
運動量
temp
体温
heart_rate
心拍数
c_time
DB 書き込み時間
5.フィールド実験結果
二つの周波数帯における 4 章で定義したパケッ
トロス率の結果を表 2 に示す.今回の実験では
920MHz 帯と 2.4GHz 帯にパケットロス率の差は生
じず,共に 6.17×10-4 となった.また,二つの周
波数帯を併用して伝送を行うと,パケットロス率
は 0 となった.二つの周波数帯において連続した
パケットロスは存在せず,バーストエラー長は最
大で 1 であった.
次に,各データ収集ノードから監督ノードに至
る経路におけるパケットロス率を,両周波数帯で
それぞれ算出した.両周波数帯のパケットロス率
の結果を図 4 に示す.各データ収集ノードには図
2 に示すように Relay1~Relay4 の番号を割り振っ
ている.明らかに,監督ノードから離れたデータ
収集ノードの方がパケットロス率が高く,また,
2.4GHz 帯のほうが 920MHz 帯よりもパケットロス
率が高いことが分かる.これは,2.4GHz 帯は TCP
通信を用いており,再送制御を行っているが,そ
れに対し 920MHz 帯は再送制御を行っていないこと
6.システム設計
システム全体のブロック図を図 5 に示す.選手
より集められたバイタルデータは監督ノードにお
いて,リレーショナルデータベースに追記される.
Collection Daemon 収集ネットワークを介して受
信したデータをデータベースに記録する.データ
ベースではトレーニングを行う時間,日付,天気,
気温などを記録するセッションテーブルと,選手
から取得したバイタルデータを記録するバイタル
テーブルを用いてデータを管理する.データベー
スのセッションテーブルを表 3(a),バイタルテー
80
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
ットロス率は 0 となった.また,各データ収集ノ
ードを個別にしてパケットロス率を算出すると,
すべてのデータ収集ノードにおいて 2.4GHz 帯の方
がパケットロス率が低くなることがわかった.こ
れは,2.4GHz 帯にのみ再送制御が実装されている
ことが原因であると考えられ,同等の条件での再
実験が必要である.
また,リレーショナルデータベースを導入した
システム設計と,スポーツ医学的根拠に基いて考
案したシステムユーザインターフェースについて
述べた.
なお,これまでの関連検討には参考文献 2)~5)を
参照されたい.
ブルを表 3(b)に示す.記録されたデータは,監督
の PC や Pad で PAN を介して閲覧できるようになっ
図 6 実際に考案したシステム
ている.監督ノード内の Service Daemon に TCP/IP
接続して,任意の試合や練習,任意の時間のバイ
タルデータを呼び出せる.現在進行中のトレーニ
ングはもとより,5 分前,10 分前の状態も確認が
用意である.データベースを間に介在させること
で,フレキシブルなシステムを設計,構築できた.
実際に考案したシステムのユーザインターフェ
ースを図 6 に示す.このユーザインターフェース
は現役のサッカー監督,及び,スポーツ健康科学
の専門家の意見をもとに考案した.表示する項目
は,ポジションごとにソートされた選手の「名前」,
「現在の心拍数」,
「体表温度」,「一つ前の心拍数
からの変化」である.また,1 人の選手を選ぶこと
で,その選手の心拍数とエネルギー消費量の推移
を表示する.推移の様子を表示する時間は自由に
変更することができ,また,トレーニング時間も
表示する.
7.まとめ
本稿では,サッカー競技中の選手のバイタルデ
ータを収集する方法として,競技フィールドの周
囲に複数の受信機(データ収集ノード)を配置す
る空間ダイバーシチ方式を考え,データ収集ノー
ドから監督ノードに無線伝送を行う際に,920MHz
帯と 2.4GHz 帯の二つの周波数帯を用いた場合のパ
ケットロス率をフィールド実験により測定した.
実験の結果,各データ収集ノードを統合して考え
た場合,両周波数帯において差は生じず,6.17×
10-4 となり,両周波数帯を併用して用いるとパケ
謝辞
本研究は,総務省の戦略的情報通信研究開発推
進制度(SCOPE)の公的研究費を使用して行ってい
る研究(122307002)であり,関係部局の方々には
この場をもって厚く御礼を申し上げます.
参考文献
1)
2)
3)
4)
5)
81
GPSports System, “SPI HPU.” [Online].
Available: http://gpsports.com
山本裕美,辻岡哲夫,原晋介“UHF 帯モバイ
ルセンサネットワークを用いたバイタルデ
ータ収集のためのダイバーシチ受信の検討”,
IT ヘルスケア学会, 第 7 巻 1 号, 2012.
神田冬威,原晋介,辻岡哲夫他,“運動中の
スポーツ選手からのリアルタイム・バイタル
データ収集システム(1)~920MHz/2.4GHz 帯
を用いた選手ノードの試作~”,信学総大,
pp.B-19-61, 2013.
大川敬祐,原晋介,辻岡哲夫他,“運動中の
スポーツ選手からのリアルタイム・バイタル
データ収集システム(2)~920MHz/2.4GHz 帯
無線を用いたバイタルセンサノードによる
RSSI 特性の測定~”,信学総大,pp.B-19-62,
2013.
手塚耕平,原晋介,辻岡哲夫他,“運動中の
スポーツ選手からのリアルタイム・バイタル
データ収集システム(3)~920MHz 帯無線バイ
タルセンサを用いたサッカー競技における
パケットロス率測定~”,信学総大,
pp.B-19-63,2013.
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
加速度 情報を 用 いた運 動選手 の エネル ギー消 費 量推算
1
○ 有 賀 雅 人 *, 辻 岡 哲 夫 *, 原 晋 介 *, 中 村 肇 ** , 河 端 隆 志 ***,
奥 畑 宏 之 ****, 伊 勢 正 尚 ****, 渡 邊 賢 治 ****, 有 銘 能 亜 ****
*大 阪 市 立 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 ,
***関 西 大 学 人 間 健 康 学 部 ,
**大 阪 市 立 大 学 大 学 院 医 学 研 究 科 ,
****株 式 会 社 シ ン セ シ ス
要約
近 年 ,運 動 選 手 の バ イ タ ル デ ー タ を 用 い て 運 動 中 の 身 体 状 態 を 把 握 す る 研 究 が 盛 ん で あ
る.我々は,歩行運動に加えて,速度の速い走行運動においても,加速度情報から身体の
エネルギー消費量を正確に推算することを目指している.走行時は,歩行時と比較して動
作が異なり,従来の推算法では誤差が大きいため,新しい推算法が必要とされていた .本
稿 で は ,加 速 度 の 大 き さ の 多 次 モ ー メ ン ト を 用 い て 酸 素 摂 取 量 を 推 算 す る 方 法 を 提 案 し た .
運動選手に加速度センサと呼気ガス分析装置のマスクを装着し,トレッドミルを用いて運
動 選 手 を 対 象 と し て 検 証 実 験 を 行 っ た .従 来 方 式 と 提 案 方 式 の 2方 式 を 評 価 す る た め ,測 定
し た 共 通 の 3軸 加 速 度 を 用 い て 酸 素 摂 取 量 を 推 算 し ,同 時 に 測 定 し た 酸 素 摂 取 量 の 実 測 値 と
の RMSE を そ れ ぞ れ 求 め た . 2方 式 を RMSE に よ り 評 価 し , 提 案 方 式 に お い て 全 被 験 者 で
共通に用いることができる推算法を求めた.
5.
はじめに1
の推算値を求め,同時に測定した酸素摂取量の実
近年,運動選手の運動中のバイタルデータを取
測値との RMSE を比較する.最後に,提案方式に
得することにより身体状態を把握し,効率的なト
おいて全被験者で共通に用いる共通係数を求め,
レーニングに利用されている[1].
バイタルデータ
推算法を評価する.
は,エネルギー消費量,心拍数,体表温度などで
ある.特に,エネルギー消費量は身体状態を把握
6.
従来方式
[3]
する上で重要な疲労の指標となるため,運動中の
従来方式では,3軸加速度センサで得られた加
エネルギー消費量を推算する研究が行われている
速度の大きさを積分し,酸素摂取量を推算する.
[2].従来のエネルギー消費量の推算法では,3軸
両者には強い相関があり,1次関数で近似できる.
加速度センサで測定した加速度の大きさの積分値
加速度情報の1分当りのサンプル数を𝑁とし,𝑖サ
(平均値または1次モーメントと同等)を用いて
ンプル目の X 軸,Y 軸,
Z 軸加速度をそれぞれ𝛼𝑥,𝑖 ,
酸素摂取量(VO2 )とエネルギー消費量(EE)を推算
𝛼𝑦,𝑖 ,𝛼𝑧,𝑖 とすると,加速度の大きさ𝐴𝑖 の平均値(積
する[3].しかし,ランニングやスプリントなどの
分値)𝐼は,次式で与えられる.
速度の速い激しい運動時においては,誤差が大き
くなり,正確に推算できない問題があった.
𝐴𝑖 = √(𝑎𝑥,𝑖 − ̅̅̅)
𝑎𝑥 2 + (𝑎𝑦,𝑖 − ̅̅̅)
𝑎𝑦 2 + (𝑎𝑥,𝑖 − ̅̅̅)
𝑎𝑧 2 (1)
本稿では,3軸加速度センサで得られた加速度
の大きさの多次モーメントを用いた酸素摂取量の
𝑁
推算式を提案し,激しい運動時において,エネル
𝐼 = 𝐸[𝐴] =
ギー消費量を正確に推算することを目指す.酸素
1
∑ 𝐴𝑖
𝑁
(2)
𝑖=1
摂取量とエネルギー消費量が比例関係にあること
から,酸素摂取量の推算値について議論する.従
ここで,𝐸[∙]は期待値計算を表す.また,重力加
来方式と提案方式の2方式を評価するため,3軸加
速度を除去するために平均値(̅̅̅
𝑎𝑥 ,̅̅̅,及び
𝑎𝑦
,̅̅̅
𝑎𝑧 )
速度と酸素摂取量の実測値を同時に測定する検証
を差し引いている.1次関数近似により,酸素摂
̂2 [ml⁄(min∙kg)]は,
取量の推算値𝑉𝑂
実験を行う.2方式を用いてそれぞれ酸素摂取量
̂2 = 𝑘1 × 𝐼
𝑉𝑂
英文タイトル: Exercise energy expenditure
estimation for athletes using acceleration data
1
82
(3)
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
に対応することを目指す.
激しい運動時にも対応させるため,本稿では,
加速度の大きさの多次モーメントを用いて酸素摂
取量の推算値を求める方法を提案する.モーメン
トは,周波数解析などと比較して計算量が少ない
利点を有する.運動選手の腰部に3軸加速度セン
サを装着し,測定した加速度情報から特徴量とし
て多次モーメント求め,次式で酸素摂取量の推算
̂2 [ml⁄(min∙kg)]を求める.
値𝑉𝑂
図 1 酸素摂取量の推算法
𝑛max
̂2 = ∑ 𝛼𝑛 𝐸[𝐴𝑛 ]
𝑉𝑂
(5)
𝑛=0
ここで,𝐸[𝐴𝑛 ]は加速度の大きさの𝑛次のモーメン
ト,𝑛maxは推算に使用するモーメントの最大次数,
𝛼𝑛 は推算係数である.本稿では,𝑛max = 3,𝛼0 = 0
図 2 提案方式の位置付け
とし,1次から3次のモーメントを用い,提案する
多次モーメントによる推算法を評価する.
で推算できる.ここで,𝑘1は1次比例係数である.
更に,酸素摂取量𝑉𝑂2とエネルギー消費量𝐸𝐸は比
例関係にあるので,体重を𝑀 [kg]とすると,エネ
ルギー消費量𝐸𝐸[kcal⁄min]は,次式で求まる.
̂2 × 𝑀
𝐸𝐸 = 𝑘2 × 𝑉𝑂
8.
検証実験
提案方式による推算式の導出,及び,従来方式
との評価をするため,被験者に加速度センサと呼
気ガス分析装置のマスクを装着し,トレッドミル
(4)
を用いて検証実験を行った.検証実験の様子を図
ここで,𝑘2は1次比例係数である.図 1 に,酸素
摂取量の推算法について示す.図 1(a)に示すよう
に,運動選手の酸素摂取量の実測値𝑉𝑂2 を,呼気
ガス分析装置を用いて測定する.一方,図 1(b)で
は,3軸加速度センサで得たデータを推定処理し
̂2を推算する.図中の「Estimation」
て,酸素摂取量𝑉𝑂
で示されたブロックが本稿での議論の中心である.
3 に示す.加速度センサは体の重心から近く,運
動選手の運動の妨げにならない左後腰部に装着す
る.加速度センサで3軸加速度を測定し,呼気ガ
ス分析装置のマスクで酸素摂取量の実測値を測定
する.被験者は大阪市立大学と関西大学の学生20
人以上を対象とした.検証実験は表 1 の測定プロ
トコルに従い行った.酸素摂取量は一定運動時に
7.
おいて,定常状態に達するまで約3分を要する.
提案方式
ランニングやスプリントなどの速度の速い激し
そのため,各運動時の測定時間は4分とし,一定
い運動は,
装着している加速度センサが回転する,
運動開始(運動強度の変更の区切り)の3分後から
両足が地面についていない動作時間が長くなる,
1分間のデータだけを用いて3軸加速度と酸素摂
走行フォームについては運動選手ごとのばらつき
取量を比較する.静止時は,測定開始前から安静
が大きい,といった特徴がある.このため,従来
にしてもらうことにより,酸素摂取量が定常状態
方式による加速度の大きさの積分値と1次比例係
に達していると見なし,静止時間は1分短い3分と
数を用いた𝑉𝑂2 推定では,激しい運動時の推定誤
する.1人の被験者に必要となる測定時間は27分
である.本稿では,激しい運動時でも正確にエネ
差が大きくなってしまう問題があった.
図 2 に,提案方式の位置付けを示す.従来方式
ルギー消費量を推算することを目的としているた
は,停止から速歩までの運動範囲に対応する.一
め,測定に不具合のなかった関西大学の運動選手
9人のデータを評価の対象とした.
方,提案方式では,スプリントまでの激しい運動
83
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
̂ 2 [ml⁄(min∙kg)]
𝑉𝑂
3
図 3 検証実験の様子
表 1 測定プロトコル
Activity Speed[km/h] Time[min]
0.04086
9 0.04085
0.05117
A
v
e
r 0.04026
a
g
e
0.03976
-0.0128
7
-0.0316
2
-0.0218
7
0.00384
0.01046
0.00995
0.0
4.0
3
4
9.
6.6
4
るため,酸素摂取量の実測値と推算値を RMSE に
8.4
10.0
4
4
より評価する.評価区間のサンプル数を𝑁,𝑖番目
̂ 2 [ ml⁄(min∙kg) ],実測値を
の推算値を𝑉𝑂
𝑖
12.0
4
16.0
4
実験結果と考察
̂ 2 [ml⁄(min∙kg)]
𝑉𝑂
Resting
Walking
Fast
walking
Jogging
Running
Fast
running
Sprint
Total
time
8 0.03892
酸素摂取量とエネルギー消費量は比例関係にあ
27
表 2 RMSE が最小となる係数
𝑛max
S
u
∑ 𝛼𝑛 𝐸[𝐴𝑛 ]
𝑛=0
b
j 𝑘1 × 𝐼
e
𝛼1
𝛼2
c
t
1 0.04286
0.02730
2 0.04557
0.04625
3 0.04341
0.04418
4 0.04022
0.04000
5 0.04025
0.03160
6 0.03231
0.03644
7 0.03798
0.04007
0.00673
-0.0319
6
-0.0284
2
-0.0215
3
-0.0113
9
-0.0315
8
-0.0342
𝑉𝑂2 [ml⁄(min∙kg)]
図 4 従来方式による推算値と実測値
𝛼3
0.00206
0.01410
0.01170
0.01119
0.01025
𝑉𝑂2 [ml⁄(min∙kg)]
0.01394
図 5 提案方式による推算値と実測値
0.01199
84
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
𝑉𝑂2 𝑖 [ ml⁄(min∙kg) ]とすると𝑅𝑀𝑆𝐸[ ml⁄(min∙kg)]
2 の係数を用いて従来方式と提案方式を実測値と
は,次式で求まる.
の RMSE により評価する.被験者ごとの実測値と
の RMSE を図 6 に示す.横軸は被験者番号,縦軸
は𝑅𝑀𝑆𝐸 [ ml⁄(min∙kg)]を表す.全被験者において,
𝑁
1
̂ 2 − 𝑉𝑂2 )2
𝑅𝑀𝑆𝐸 = √ ∑(𝑉𝑂
𝑖
𝑖
𝑁
(6)
RMSE 値の改善が見られ,
平均2.46 ml⁄(min∙kg)の
𝑖=1
改善が得られた.
次に,表 2 の最下行の係数の平均値を,全被験
まず,被験者ごとに実測値との RMSE が最小と
者で共通に用いる共通係数とした場合の RMSE を
なる係数を検討する.表 2 は,式(6)の𝑅𝑀𝑆𝐸が最
評価する.本検証実験のデータ(速歩までに限ら
小となる係数を表し,𝑘1は式(3)の係数,𝛼1,𝛼2,
ず,停止からスプリント走行までのデータを使用)
𝛼3 は式(5)の係数である.全被験者において,係
から新たに求めた従来方式のための1次比例係数
数の傾向が似ていることがわかる.被験者 2 の場
𝑘1は,𝑘1 = 0.04026である.また,提案方式のた
合の従来方式による推算値と実測値を図 4 に,提
めの共通係数𝛼1,
𝛼2 ,
𝛼3は,表 2 より,
𝛼1 = 0.03976,
案方式による推算値と実測値を図 5 に示す.
図 4,
⁄
(min∙kg)
図 5 ともに横軸は実測値𝑉𝑂2 [ml
],縦軸
̂
⁄
(min∙kg)
は推算値𝑉𝑂2 [ml
]を表し,5秒ごとにプ
𝛼2 = −0.02187,𝛼3 = 0.00995である.従来方式
と提案方式について,これらの係数を用いて求め
̂2 と実測値𝑉𝑂2 との RMSE
たそれぞれの推算値𝑉𝑂
ロットしている.また,斜線は線形近似曲線であ
る.図 4 では,実測値が約50 ml⁄(min∙kg) に対し
を図 7 に示す.横軸は被験者番号,縦軸は
𝑅𝑀𝑆𝐸[ ml⁄(min∙kg)]を表す.被験者8を除いて従
て,推算値が約37 ml⁄(min∙kg) と小さくなってい
来方式から平均1.50 ml⁄(min∙kg) の RMSE 値の改
善が得られた.被験者8は𝛼3が表 2 の係数と大き
く異なることが影響したと考えられる.図 6 と図
7 を比較すると,共通係数を用いたことによる推
定劣化は,平均2.47 ml⁄(min∙kg) に抑えられてい
る.以上のことから,共通係数の有効性を確認で
きた.
10. まとめ
本稿では,多次モーメントを用いて酸素摂取量
図 6 被験者ごとの係数を用いた RMSE
を推算する方法を提案して,従来方式と提案方式
を酸素摂取量の実測値を測定する検証実験により
RMSE を用いて評価した.結果として,被験者ご
とに最適な係数を変えた場合は,平均して
2.46 ml⁄(min∙kg) の RMSE 値の改善が得られた.
更に,提案方式の共通係数は,𝛼1 = 0.03976,𝛼2 =
−0.02187 , 𝛼3 = 0.00995 で あ り , 平 均
1.50 ml⁄(min∙kg) の RMSE 値の改善が得られ,ま
た,被験者ごとの係数時からの劣化は,平均
2.47 ml⁄(min∙kg) に抑えられた.本稿では,多次
モーメントを式(5)の形で用いたが,
次元が揃って
図 7 共通係数を用いた RMSE
いない問題を有する.この検討については今後の
課題としたい.
る.図 5 では,実測値,推算値ともに約
50 ml⁄(min∙kg) を示しており,実測値の大きい激
謝辞 本研究は,総務省の戦略的情報通信研究開
しい運動時において推算精度が改善している.表
発推進制度(SCOPE)の公的研究費を使用して行
85
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
っている研究(122307002)であり,
関係部局の方々
June. 2011.
にはこの場をもって御礼申し上げます.また,本
[2] T.Yamazaki, H.Genno, Y.Kamijo, K.Okazaki, S.Masuki, and
研究を進めるにあたり,信州大学の能勢博先生,
H.Nose, “A new device to estimate VO2 during lncline
walking by accelerometry and barometry,” Medicine & Science
森川真悠子先生より大変有意義な御助言や解析の
in Sports & Exercise, pp.2213-2219, 2009.
サポートを頂きました.この場をもって御礼申し
[3] M.Asano, Y.Tanabe, K.Watanabe, H.Genno, K.Nemoto,
上げます.
M.Isawa, and H.Nose, “Development of an exercise meter using
triaxial acceleration data,” Proc. IEEE Engineering in Medicine
参考文献
and Biology Society 27th Annual Conference, pp. 3731-3734,
[1] M.Garcia, A.Catala, J.Lloret, J.J.P.C.Rodrigues, “A wireless
Jan. 2006.
sensor network for soccer team monitoring,” in Distributed
Computing in Sensor Systems and Workshops (DCOSS), pp. 1-6,
86
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
光電脈波計と体動センサをもちいた体動ノイズキャンセリングの最適値の検討
島崎 拓則†
原 晋介†
† 大 阪 市 立 大 学 工 学 部 〒 558-8585 大 阪 市 住 吉 区 杉 本 3-3-138
E-mail: † { shimazaki@c., hara@}info.eng.osaka-cu.ac.jp
要約
過 去 の 我 々 の 発 表 で ,脈 波 計 に 近 接 さ せ た 体 動 セ ン サ を 腰 部 に 装 着 し ,運 動 中 の 心 拍
数取得を試みたところ良好な結果を得た.本研究の最終目標はスポーツ選手の健康管
理である.練習中に激しく体を動かしているときはもちろんであるが,息を切らして
深呼吸しているときのモニタリングも体調を管理する上で重要となる.しかし,深呼
吸時は脈波波形より大きな体動ノイズとなり,検出精度は著しく低下してしまい,特
に胸部や腰部にセンサを装着するタイプでは問題となる.今回,この 体動センサを用
いて深呼吸時の心拍数取得と,その時の適応フィルタのパラメータの検討を行う.
1.はじめに、
スポーツ中の生体情報を取得することは,選
手の体調を管理するとともに運動効率の向上に
も活用される.ハードな練習は運動能力の向上
を期待できる反面,体調を損ねてしまうリスク
も伴う.そこで広く用いられている方法にカル
ボーネンの式があり,心拍数を代入することで
選手に合わせた最適な運動強度で練習を行うこ
とが可能となる[1].このように心拍数は,運動
効率と体調管理の面で有用であるが,激しく体
を動かしている間の測定は難しい.我々は過去
の発表で,腰部に装着した光電脈波計と体動セ
ンサにより運動中の心拍数検出を試み,良好な
結果を得た[2][3].本研究の最終目標はスポー
ツ選手の健康管理であるが,激しい練習をして
いるときだけでなく,スタミナが切れて息切れ
しているときのモニタリングも体調の異変を察
知する上で重要となる.普段の生活における呼
吸性変動は,脈波より振幅は小さく,呼吸数も
15~20cycles/minと心拍数より低いため問題と
なることはないが,激しい運動では,振幅は脈
波より大きくなり,呼吸数は60cycles/min以上
と心拍数と重なる周期となってくる.これは,
センサを胸部や腰部に巻くタイプでは顕著とな
る.今回,体動センサを用いて深呼吸時の心拍
数取得と,その時の適応フィルタのパラメータ
の検討を行う.
ヘモグロビンに対して吸光する特性を利用し,
動脈の拍動変化を吸光度変化としてとらえるこ
とで脈波波形が出力される.
一般的に発光色は近赤外光が用いられるが,
近年,浅部血管には緑色光が高い
SNR(Signal-Noise Ratio)を得られるという報
告があり[4],予備実験により有効性が確認され
たため,我々も緑色 LED を用いた.
図 1 光電脈波計の原理
2-2.適応フィルタ
図 2 の原理図に示すように,2 つの入力信号
d(k)と x(k)から,d(k)に近い y(k)を合成し,
誤差 e(k)が最小となるようにフィルタ係数を
調整することで体動をキャンセルする.フィー
ドバックにより異なる運動時であってもフィ
ルタ係数が適応的に更新される.
適応アルゴリズムの一つである逐次最小二乗
法 RLS(Recursive least square)のフィルタ特
性は忘却係数λ(λ<1)とタップ数 L により決定
され,他の適応アルゴリズムに比べて,演算量
は大きいが,収束時間が短い特徴をもつ.運動
時は短時間の体動ノイズが予想されるため,
RLS を用いて処理を行う.
2.原理
2-1.光電脈波計
発光体は発光ダイオード(LED),受光体には受
光素子(PD)が用いられる.図 1 に光電脈波計の
原理を示す.赤血球内に存在する血色素である
87
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
図 5 のように,BPF(0.8≦fc≦0.3Hz)で処理
し,256 サンプル(12.8sec)ごとに時分割した後
50%オーバーラップさせたデータを RLS 処理し,
FFT により心拍数を算出した.指尖部脈波から
算出した心拍数を基準にした式(1)の二乗平均
平方根誤差 RMSE(Root Mean Square Error)で
評価を行った.RLS のパラメータは,過去に行
った競歩・走行実験で誤差が低かった忘却係数
λ0.99,タップ数 L=60 を用いる.
指尖部データは BPF のみ行い,同じ手順で心
拍数の算出を行う.
図 2 適応フィルタの原理図
2-3.センシング部
適応フィルタで処理するには,2 つの入力信号
d(k) ,x(k)のうち,d(k)は脈波波形と体動を,
x(k)は体動のみを取得する必要がある.そのた
め図 3 に示すように,d(k)は皮膚に密着させ,
もう一方の x(k)は少し浮かせることで体動の
みの信号を得た.さらに体動が同期するように,
2 つのセンサを最適な距離で隣接させて配置し
た.これにより,図 4 のように d(k)は脈波信号+
体動を x(k)は体動のみの信号を得た.
図3
脈波センサ(左)と体動センサ (右)
図 4 脈波-体動計の原理図
3.方法
被験者(5名)の背面腰部に脈波-体動計と,
基準用の光電脈波計を指尖部(左人差し指)に
装着し,指尖部は動かさないように,安静呼吸の
後,腹式呼吸を80(cycles/min)で30秒間おこな
った.
88
図 5 適応フィルタ処理の流れ
(1)
Fi :適応フィルタによる心拍数(実測値)
Ai :指尖部からの心拍数(基準値)
N :データ数
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
表 1 システム構成
ハ
ー
ド
ウ
ェ
ア
(
腰
部
)
ハ
ー
ド
ウ
ェ
ア
(
指
尖
部
)
ソ
フ
ト
ウ
ェ
ア
ワンボード
マイコン
デジタル
カラーセンサ
緑色 LED
ワンボード
マイコン
デジタル
カラーセンサ
緑色 LED
Arduino Fio
1
S9706
2
LK-1PG-6
3
Arduino UNO
1
S9706
1
LK-1PG-6
1
数値解析
MATLAB
ソフトウェア
/SIMULINK
1
4.結果
図6に被験者1名の指尖部と腰部の脈波-体
動計による安静時と深呼吸時の呼吸性変動を示
す.安静時の腰部の呼吸性変動は,脈波より大
きな周期でのっているが,深呼吸が始まると振
幅は増大し,完全に脈波は呼吸性変動に埋もれ
てしまっている.また,脈波は腰部の体動波形
x(k)だけに入り,腰部の脈波波形d(k)とx(k)に
は呼吸性変動の同期信号が入っていることも確
認される.
図6 安静時と深呼吸による呼吸性変動
(フィルタ処理なし)
図 7 に 被 験 者 5 名 の BPF お よ び RLS 処 理 ( λ
=0.99,タップL=60)を示す.安静時のBPFとRLS
は共に指尖部の心拍数とほぼ一致しているが,
深呼吸が始まるとBPFは大きく下方に外れてい
るのに対して,RLSはほぼ一致している.
89
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
更することなく練習中の一連のモニタリングが
可能となることを意味する.また,信号処理プ
ログラムを作成する上でも簡略化が可能となる.
今回の実験により,深呼吸時の呼吸性変動の
キャンセリングは,BPFでは不十分であるが,本
法により高い精度での心拍測定が可能であるこ
とが確認された.
6.参考文献
[1] M. Karvonen, K. Kentala, and O. Mustala, “The
effects of training on heart rate: a longitudinal
study,” Ann Med Exp Biol Fenn, vol. 35, no. 3,
pp. 307-315, 1957.
[2] 島崎拓則,原 晋介,“適応アルゴリズムを
用いた運動時の脈拍測定,” 電子情報通信
学会 医療情報通信技術時限研究会 MICT,
2013-27,pp.P24-31,Nov.2013.
図7 心拍数-時間(被験者5名)
次に,安静時から深呼吸終了までのRMSEを表
2に示す.BPFは9bpmから19bpmと大きなばらつき
で誤差が生じているのに対して,RLSは5bpm以下
に抑えられている.
[3] 島崎拓則,原 晋介,“複数種類の運動時の
適応アルゴリズムによる心拍数測定,”
電 子 情 報 通 信 学 会 , 新 潟 総 会 , BS-5-8
S-181-182,Mar.2014.
表2 全区間のBPFとRLSのRMSE
BPF
RLS
被験者 1
13bpm
4bpm
被験者 2
10bpm
1bpm
被験者 3
16bpm
3bpm
被験者 4
9bpm
5bpm
被験者 5
19bpm
2bpm
[4] 前田 祐佳,関根 正樹ほか, “歩行中の光
電脈波計に関する計測部位と計測光の比
較 , ” 生 体 医 工 学 , 2011,49(1),
p132-138.
次に,深呼吸区間だけのRMSEを表3に示す.
BPFは13bpmから32bpmとさらに大きなばらつき
で誤差が生じているのに対し,RLSは2bpmと高い
精度で抽出できていることが示されている.
表3 深呼吸区間のBPFとRLSのRMSE
BPF
RLS
被験者 1
21bpm
2bpm
被験者 2
15bpm
2bpm
被験者 3
20bpm
2bpm
被験者 4
13bpm
2bpm
被験者 5
32bpm
2bpm
5.まとめ
RLSのパラメータは忘却係数λ=0.99,タップ
数L=60で運動時と呼吸性変動による体動ノイズ
をキャンセリングできることが示された.これ
は,運動中と休息時の異なる体動ノイズをキャ
ンセリングできることを示し,パラメータを変
90
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
ラベンダー精油、青森ヒバ精油のリラックス効果計測を指標とした
心電図 R-R 間隔分析の有効性検討
○木暮 睦美*, 今津 研太郎*, 木暮 祐一**, 廣瀬 隼***,宇宿 功市郎***
*熊本大学大学院医学教育部博士課程
**青森公立大学経営経済学部地域みらい学科
***熊本大学医学部附属病院医療情報経営企画部
Mustumi Kogure*, Kentaro Imazu*, Yuichi Kogure**, Jun Hirose***, Koichiro Usuku***
*Doctoral Course, Graduate School of Medical Sciences, Kumamoto University, Kumamoto, Japan.
**Department of the Regional Frontier, College of Business Administration and Economics,
Aomori Public University, Aomori, Japan.
***Division of Medical Information Technology, Kumamoto University Hospital, Kumamoto, Japan.
1.はじめに
の緊張状態のバランスによって、HF と LF の変動
スマートフォンの普及と共に、各種生体情報を
波の現れる大きさが変わってくるため、これを利
収集するセンサー類を活用した健康管理サービ
用して自律神経のバランスを推定するというも
スが各社から提供されるようになった。ウェアラ
のである。
ブル型スマートデバイスも近年急速に様々な製
心電図計測というと、これまでは一般の人たち
品が市販されるようになり、こうした機器の応用
が日常生活で手軽に計測できるものではなかっ
として、今後も様々な手段でより多くの生体情報
たため、日常生活における緊張状態やリラックス
収集の模索や、その活用などが検討されていくと
状態の検出手法としては適切な手段とはされて
考える。
こなかったが、腕時計型の脈拍計や、指先に装着
中でも、緊張状態やリラックス状態をリアルタ
する脈波センサーなどが各社から市販されるよ
イムに計測できる手法の考案は、医療・ヘルスケ
うになり、こうした機器で R-R 間隔を計測できれ
ア分野での活用はもとより、各種モバイルコンテ
ば日常生活の緊張状態やリラックス状態がより
ンツサービスへの活用に至るまで様々な応用が
手軽に計測できるようになっていくものと考え
期待できる。
た。こうした将来を見据え、日常生活における心
緊張状態やリラックス状態の計測ではすでに
身の計測に心電図 R-R 間隔が適するかどうかの検
いくつかの手段が報告されているが、筆者らは心
証を行った。
電図 R-R 間隔を指標とした生体情報計測に着目し
た。これは心電図の R 波と R 波の時間間隔のゆら
2.実験方法
ぎを計測するもので、R-R 間隔のデータを周波数
(1) 計測の方法と使用した機器等
解析し周波数スペクトルを描くと、周波数 0.15Hz
日常生活におけるリラックス状態の見立てと
以上の強度の成分(HF: High Frequency)は副交
して、被験者に対してアロマ精油混入湯による足
感神経活動を表し、それ以下の周波数成分(LF:
浴を行い、その間の心電図 R-R 間隔の取得し、こ
Low Frequency)は交感神経と副交感神経の双方の
れを分析することとした。アロマテラピーは芳香
活動を表すとされている。交感神経と副交感神経
療法の一種で、手軽に行えるリラクゼーションと
91
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
して古くから用いられてきたもので睡眠促進や、
プラセボ効果を防ぐ為、被験者には精油の内容に
緊張の緩和、浮腫の軽減、その他の様々な効果が
ついては伏せた状態で計測を行った。
あることは、体験や歴史から認知されているが、
我が国での精油の医学的臨床効果はまだ明確に
されておらずエビデンスの確立までには至って
いない。本研究では、アロマ精油の医学的臨床効
果の検証も将来的な目的としている。
心電図 R-R 間隔の計測には、指先にセンサーを
装着することにより脈波から R-R 間隔を計測でき
る株式会社 YKC 社の加速度脈波計測機器「Pulse
Analyzer Plus TAS9VIEW」
(図 1)を用いた。
図 2 実験で行った足浴の様子
計測は、レディスクリニック・セントセシリア
(青森県青森市)の協力を得て、同クリニックに
勤務する職員に研究参加を依頼し、参加同意を取
れた健常成人女性 28 名を対象に評価を行なった。
計測は被験者の休憩時間または勤務開始前、勤務
終了後に実施した。実験は 2014 年 1 月 31 日から
図 1 計測に用いた YKC 社製 Pulse Analyzer Plus
3 月 24 日に行った。精油はジャスミン・アロマテ
TAS9VIEW(同社ホームページより)
ィークオーガニクス株式会社のラベンダー(学
アロマテラピーに用いる精油は、鎮静作用[1] 、
名:Lavendula angustifolia)と青森ヒバ(学名:
リラクセーション作用[2]、ストレス抑制作用[3]な
Thujopsis dolabrata var. hondai)を使用した。
どが報告されているラベンダー精油に加え、これ
前述の加速度脈波計測機器「Pulse Analyzer Plus
まであまり効果の検証が行われていなかった青
TAS9VIEW」を用い、この機器と PC を USB ケーブ
森ヒバ精油についても比較検証を行った。
ルで接続することで計測データを CSV 形式により
(2) 計測の実際
パソコンに保存し、得られたデータの分析を行っ
背もたれのある椅子で座位安静を 2 分間行なっ
た。
た後、計測機器を左第 2 指の指尖に装着し、アロ
(3)計測データの分析
マ精油混入湯での足浴を行なった。足浴器の湯量
一般的に HF は副交感神経の活性を見る指標と
は 10ℓ、温度は 40℃に設定し、足湯時間は 10 分
して用いられる。しかし交感神経活動の成分も若
間とした(図 2)
。
干含まれることから、周波数帯域を除した補正値
足浴は同じ被験者に対し、精油を使用した足浴
である HF Norm(HF 補正値)を用いて時間遷移を
と精油を不使用の足浴の 2 回を 1 セットとしたク
グラフ化した。また、LF と HF の比を取ったもの
ロスオーバー試験とした。同じ被験者に対して日
(LF/HF)が一般的にストレスの指標として用い
にちを変え、ラベンダー精油を用いた場合と、青
られているが(交感神経の活性度)、この時間遷
森ヒバ精油を用いた場合の両方を計測した。なお、
移もグラフ化した。ストレス状態にあると HF に
92
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
対して LF 成分が大きくなるので LF/HF の値が大
LF/HF 値の変化においては、ラベンダー精油を
きくなる。本研究ではリラックスを計測すること
入れた群の値は、下降を続けた。精油を入れない
が目的であるが、リラックスという状態が必ずし
湯の群は緩やかに下降した(図 4)
。
もストレスと相反する状態であるとは言い切れ
L-LF/HF
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
ず、このため、HF 値、LF/HF 値のそれぞれの時間
遷移をグラフ化することで、アロマ精油混入湯の
足浴効果を計測した。
3.結果
ラベンダー精油を入れた湯と比較検証用の精
1
38
75
112
149
186
223
260
297
334
371
408
445
482
519
556
油を入れない湯を使った計測(以下の(1))と、
WL-LF/HF
青森ヒバ精油を入れた湯と比較検証用の精油を
Beat count
入れない湯を使った計測(以下の(2))のそれぞ
れの結果を示す。また、心電図 R-R 間隔から様々
図 4 ラベンダー精油(L-LF/HF)を入れた湯と
なデータが取得できているが、ここでは HF、LF/HF
精油を入れない湯(WL-LF/HF)の LF/HF 値の時間遷移
の時間遷移を示す。
また、
今回指標とする HF Norm、
LF/HF は心拍を1拍毎に貯めて累乗計算をするの
(2) 青森ヒバ精油による計測結果
で、ある程度の心拍データがないと正しく分析
HF 値の変化において、青森ヒバ精油を入れた群、
ができない。計測結果の図 3〜図 6 の Beat count
精油を入れない湯の群、両群ともあまり変化は見
約 100 拍目までは予備データであり、急な変化が
られなかった(図 5)
。
あるのはその為である。実際の分析結果はこの急
な変化後の数値となる。
60%
(1) ラベンダー精油による計測結果
40%
油を入れた湯の群に比べ、精油を入れない湯の群
30%
の値が高かったが、その後、ラベンダー精油を入
20%
れた湯の群の値が緩やかに上昇し続け精油を入
10%
0%
1
41
81
121
161
201
241
281
321
361
401
441
481
521
561
れない湯の群の値と逆転した(図 3)
。
L-HF
WH-HF
50%
HF 値の変化において、足浴開始後ラベンダー精
50%
H-HF
WL-HF
Beat
count
40%
図 5 青森ヒバ精油を入れた湯(H-HF)と
30%
精油を入れない湯(WH-HF)の HF 値の時間遷移
20%
LF/HF 値の変化においては、青森ヒバ精油を入
0%
れた群は大きな変化は見られなかった。精油を入
1
41
81
121
161
201
241
281
321
361
401
441
481
521
561
10%
れない湯の群は約 300 拍目まで緩やかに下降し、
Beat
その後大きな変化は見られなかった(図 6)
。
count
図 3 ラベンダー精油を入れた湯(L-HF)と
精油を入れない湯(WL-HF)での HF 値の時間遷移
93
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
H-LF/HF
の解析と、性別、年齢別、香りと地域の関係の有
WH-LF/HF
無などを踏まえて様々な角度から引き続き分析
3
を続ける必要を感じた。
2.5
2
5.おわりに
1.5
非侵襲的に生体の自律神経機能を評価できる
1
方法として心電図 R−R 間隔を用いた心拍変動解析
0.5
が広く行なわれているが、今後は一時的な計測デ
1
41
81
121
161
201
241
281
321
361
401
441
481
521
561
0
ータからの評価ではなく、長時間測定が可能なウ
ェアラブル機器を活用し、活動状態を明らかにし
Beat count
ていくことが可能になっていくと考えられる。し
図 6 青森ヒバ精油を入れた湯(H-LF/HF)と
かしその手法はまだ研究途上であり、本研究がこ
精油を入れない湯(WH-LF/HF)の LF/HF 値の時間遷移
うした研究発展の一助となるよう、適切なデータ
取得方法やデータの解析方法を今後も検討を続
4.考察
けていく予定である。
心電図 R-R 間隔を用いた心身状態の時間遷移計
測が可能であることは立証できた。しかし、デー
謝辞:
本研究を遂行するにあたり、青森県青森
タ収集の方法やタイミングは反省すべき点も少
市のレディスクリニック・セントセシリアおよび
なくなく、引き続き検討を続ける。
同クリニック職員各位の協力を得た。また、実験
またアロマ精油の効果に関しては、ラベンダー
に使用した加速度脈波計測機器メーカーの株式
精油は足湯後の HF 成分が上昇し、LF/HF 成分が下
会社 YKC 代表取締役 崔元哲氏には、心電図 R-R
降した。これにより、ラベンダー精油での足浴は
間隔計測における助言をいただいた。研究に関わ
リラックス効果があったと考えられる。一方、青
った各機関、各位に心よりお礼申し上げます。
森ヒバ精油は足湯後の HF 成分は精油を使用しな
い湯の値とあまり変化はみられなかった。LF/HF
参考文献:
値は青森ヒバ精油を入れた湯は入れない湯に比
[1] Buchbauer
べ上昇した。これにより、交感神経活動の亢進が
Dietrich H., Plank C.: Aromatherapy: evidence
みられ、リラックス効果はなかったと考えられる。
for sedative effect of the essential oil of
青森ヒバ精油は、青森県にある多くの温泉施設
lavender after inhalation, Z. Naturforsch. C,46,
G.,Jirovetz L., Jager W.,
の浴槽に使用されるなど、地域の文化に根付く香
1067-1072(1991).
りであり、本研究の被験者からは、「お風呂の香
[2] 中蔦広美, 椎原康史, 小笠原映子, 牧野孝俊,
り」、「懐かしい香り」「ほっとする」などの意見
安藤満代, 小板橋喜久代:ラベンダーオイルを用
があり、ラベンダー精油に比べ、香りを特定でき
いた足温浴のリラクセーション効果, 看護研究,
る者が多かった。青森ヒバ精油を使用した湯の
39, 491-502
LF/HF 値が精油を使用しない湯より上がったのは
[3] AtsumiT., Tonosaki K.: Smelling lavender
このことが影響したためではないかと考えられ
and
る。香りは記憶とも深い関係があり、また好みの
scavenging activity and decrease cortisol level
個人差にもより、効果に差が生じる可能性がある。
in saliva, Psychiatry Res., 150, 89-96(2007)
今後は、本実験で得たデータより様々な生体情報
94
rosemary
increases
frère
radical
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
スマートフォンを用いた脱水予防支援アプリケーションの開発
Development of a dehydration prevention support applications using smartphone
廣島 孝香 今泉 一哉
東京医療保健大学 医療保健学部 医療情報学科
Takako Hiroshima
Kazuya
Imaizumi
Division of Healthcare Informatics, Faculty of Healthcare, Tokyo Healthcare University
1.はじめに
の水分や体液不足になると栄養素、酸素、老廃物
近年、ヒートアイランド現象や、地球温暖化の
の出し入れが滞り、電解質の不足から障害がおこ
影響により、平均気温の上昇や、熱帯夜、猛暑日
る恐れがある。そのため、体液のそれ以上の喪失
の増加など、一般環境における熱ストレスが増大
にブレーキをかけるため、発汗をストップさせる。
している
1)。例えば、東京の平均気温は、1985
年
発汗による体温低下ができないため、体温が上昇
で 15.7℃であったものが、2012 年とは 16.3℃とな
し、生理的な機能に問題が生じる状況が熱中症で
っている。
ある。
国立環境研究所の調査によると、熱中症による
死亡数は、1993 年以前は年平均 67 人であったの
体温異常
に対して、1994 年以降は年平均 492 人に増加して
おり、年々上昇する傾向にあるとされている。こ
熱中症
の理由として、夏の気温上昇が影響すると考えら
発汗
れ、これまでで最も暑かった 2010 年は 1,745 人
(男
熱放出
940 人、女 805 人)であったとしている 1)。
発汗不能
熱中症となった場所については、年齢によって
体液不足
(脱水)
異なっており、19~64 歳では、屋外作業を筆頭
に比較的多様な場所で発生しているのに対して、
7~18 歳は運動中 50.5%、学校 15.4%、65 歳以
図 1 熱中症および脱水のメカニズム
上は自宅(居室)43.7%、道路(&駐車場)24.6%
体温上昇と熱放出の関係について、図 2 に示し
と、特定の場所での発生が多く見られた 2)。
従来は、熱中症は炎天下のスポーツや作業が主
た。何等かの理由で体温の上昇が起こった場合、
な原因とされているが、特に高齢者においては、
温度に応じて発汗が起こりその蒸発によって体
自室など屋内の発生割合が高いことが特徴的で
温下熱を行う。つまり、湿度が高い場合は、蒸発
ある 1)。
が起こりにくいために体温調節が難しいことを
熱中症は、体液の不足・体温上昇で起こる障害
意味する。
の総称である。ヒトは恒温動物であり、体温を一
定にすることが重要である。体温が上昇すると発
汗によって熱を放出し温度維持を行うが、図 1 に
示すように、異常に体温が上昇し発汗により体内
95
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
(2) アプリケーションの概要
本アプリケーションの概要としては、1)熱中
温度と湿度
温度
体
温
異
常
症および脱水に関する基礎知識の教育コンテン
体温異常が起きやすいのは?
発汗
蒸発
下熱
ツ、2)セルフチェック、3)熱中症指数の表示
熱
放
出
の 3 種類からなる。アプリケーションの開発環境
は、Eclipse 3.4,Android 4.2.2、Android
SDK2.1、
JavaSDK6.1 とした。
湿度
アプリケーション起動後のトップ画面を図 1 に
示した。大項目として、現在情報の取得・脱水を
汗は蒸発する時に身体の熱を奪い体温を調節
知ろうに分けて表示させている。
湿度が高い時 : 蒸発しにくいため体温がなかなか下がらない
湿度が低い時 : 蒸発しやすいため体温が下がりやすい
図 2 温度と湿度
以上のことから、熱中症および脱水症を予防す
るためのポイントとして以下の 3 点に着目した。
まず、脱水および熱中症に関する基礎知識と適切
な対応の取得であり、これには教育や啓蒙活動が
必要である。次に、脱水の自覚症状や疑いがある
場合の簡単なセルフチェックであり、素早く把握
できる仕組みが必要であると考えた。最後に、現
在の環境(気温や湿度)をリアルタイムにモニタリ
ングして、熱中症および脱水のリスクマネジメン
ト する ことで あり 、その ため には、 暑さ 指数
図 3 アプリケーション全体像
(WBGT 値)のリアルタイムの算出が必要である。
教育啓蒙活動に必要なコンテンツやセルフチ
ェックリストの提供、環境モニタリングを提供す
(2)-1 脱水の基礎知識の提供
る日常的に利用可能なプラットホームとして、ス
熱中症・脱水の予防の基本は適切な水分補給
マートフォンが挙げられる。
であることから、日常、スポーツ、ダイエットな
本研究では、脱水予防を支援するスマートフォ
どの状況において、水、お茶、アルコール、スポ
ンアプリケーションを開発することを目的とし
ーツ移動などの飲み物を飲むときの特徴や注意
た。
事項を表形式で示したコンテンツを作成した(図
4)
。
2.アプリケーションの開発
(1) 対象者
本アプリケーションのユーザは、スマートフォ
ンを用いることのできるすべての人であり、支援
の対象は、新生児から高齢者まで幅広く設定して
いる。
96
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
(2)-3 環境のリスクモニタリングの方法
現在の環境(気温や湿度)をリアルタイムにモニ
タリングして、熱中症および脱水のリスクマネジ
メントするために、気温と湿度をリアルタイムに
モニタリングし、熱中症指数(WBGT 値)を算出・
表示する機能がある。そのために、センサの使用
方法に関する説明を付加した(図 7)
。
図 4 温度と湿度
次に脱水によって引き起こされる病気につい
て、紹介するページを作成した(図 5)
。ボタンを
タッチするとダイアログ形式で脱水によって引
起こされる可能性のある病気の説明が表示され
る。
図 7 センサの使用方法の説明
(3) 暑さ指数(WBGT)のモニタリング
現在、我が国の熱中症対策の基準として、熱
中症指数(WBGT)が利用されている。これは、人
ダイアログで
表示
体の熱収支に影響の大きい湿度、輻射熱、気温の
3つを取り入れた指標で、乾球温度、湿球温度、
黒球温度の値を使って計算する。これに基づいて
図 5 温度と湿度
労働環境やスポーツ環境に関する指針が策定さ
れている。また、湿度および気温から室内の WBGT
(2)-2 脱水のセルフチェック
値を簡易的に推定する変換表が、日本生気象学会
より公開されている 3)。
脱水かと疑われる場合、または心配がある場合
に、10 個の項目を答えることによってセルフチェ
本アプリケーションでは、スマートフォンにお
ックが出来るような、コンテンツを作成した(図
いて気温と湿度をリアルタイムに取得可能であ
6).
るセンサを用いて、上記の変換表を用いた WBGT
値をリアルタイムに取得する。使用したセンサは、
米国 SENSORCON 社製の SensorDrone であり、
「選択終了」
Bluetooth 通信を用いて、気温、湿度、気圧の他
クリック
合計 7 種類の気象・環境情報を取得可能であり、
Android や iOS 用の開発環境が提供されている。
現在の段階では、Android 側で Bluetooth を通
じて気温と湿度を取得し、先の変換表を用いて
図 6 脱水のセルフチェック
WBGT 値を算出・表示することを実装した(図 8)
。
97
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
参考文献:
[1]環境省:熱中症環境保健マニュアル
(http://www.env.go.jp/chemi/heat_stroke/manua
l/full.pdf)[accessed May 8 2014]
[2]国立環境研究所:発生場所別患者数割合
図 8 モニタリングの画面の例
3.
(https://www.nies.go.jp/health/HeatStroke/spot/
2008/1-7.html)[accessed May 8 2014]
考察
[3]日本生気象学会:熱中症予防の指針 Ver.3 確
本研究では、日常的に安価に利用可能であるス
マートフォンのアプリを利用して、熱中症と脱水
定版
を予防する方法について検討し、アプリケーショ
(http://www.med.shimane-u.ac.jp/assoc-jpnbio
ンの試作を行った。
met/pdf/shishinVer3.pdf)[accessed May 8 2014]
従来から、暑さ指数(WBGT)がテレビ等のマス
メディアや WEB サイトにおいて情報提供されて
いるが、建築物の構造やエアコンの有無、屋内外
など様々な環境要因や時間的な気候変動によっ
て大きく変化し得る情報であることから、ある特
定の地域の暑さ指数について情報提供しても効
果は限定的である。
リアルタイムに暑さリスクを知る手法として、
アナログの温度・湿度計の中に色で暑さ指数を示
す商品が市販されており、一定の有効性がある
近年の我が国において、熱中症や脱水が社会問
題として取り上げられて背景には、ヒートアイラ
ンド現象や温暖化のような自然環境の要因だけ
ではなく、基礎疾患や加齢による生理機能低下に
よる熱中症リスクの高い高齢者の増加、高齢世帯
や 独居 高齢者 の増 加によ る見 守りの 不足 など
様々な要因が考えられる 1)。
現在の普及啓蒙活動によって、水分補給の重要
性やエアコン等の利用について、一定の効果を得
ていると予想される。
一方で、熱中症によって搬送される人の 4 割程
度が高齢者という報告もあり、リアルタイムのリ
スクマネジメントの仕組みが重要であると考え
られる。
98
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
スマートフォンによる口腔機能評価アプリケーションの開発
Development of a smart phone application for the oral function assessment
向井 歩美 今泉 一哉
*東京医療保健大学医療保健学部 医療情報学科
Ayumi Mukai Kazuya Imaizumi
Division of Healthcare Informatics, Faculty of Healthcare, Tokyo Healthcare University
1.はじめに
運動機能の評価を行う。
少子高齢化が加速しており、医療費・介
介護予防事業の取り組みにおいて、口腔
護費の適正化だけでなく、高齢者の QOL の
機能のトレーニングを行うことによって、
維持・向上のために、介護予防の取り組み
オーラルディアドコキネシスが向上するこ
が重要である。
とが確かめられている
2)
。問題点として、
2011 年より我が国の死因の 3 位が肺炎と
この測定においては、特別な機器の利用ま
なったように、高齢者の肺炎が増加してい
たは手動による計数が必要であることが挙
る。高齢者の肺炎の特徴として、咳、痰、
げられる 3)。
発熱などの臨床症状が見られずに発見が遅
口腔機能の低下は、低栄養や脱水、誤嚥
れるケースがあることや、基礎疾患のため
性肺炎、日常生活動作の低下などをひき起
に重症化しやすいこと、治療薬の副作用が
こす可能性があるため、適切なリスク管理
生じやすいこと、口腔内の環境が悪いこと
を行うためには、特別な機材や人材が必要
や、嚥下機能の低下のため誤嚥性肺炎が多
のないスクリーニング手法が望まれる。
いことなどが挙げられる。国立病院機構が
本研究では Android のスマートフォンを
多施設共同で行った調査では入院治療を要
用いて簡易に日常的にオーラルディアドコ
した市中肺炎 430 例中の 256 例、約 60%が
キネシスが実行可能なアプリケーションの
誤嚥性肺炎であり、院内肺炎 145 例中 126
開発を目的とした。
例、約 87%が誤嚥性肺炎だったと報告され
2.アプリケーションの開発
ている
1)
。従って、誤嚥性肺炎は今後高齢
(1) 対象者
化が進むことから、より重大な問題となる
本アプリケーションの対象者は、介護予
ことが予想される。
防の対象となる高齢者一般を想定している。
口腔機能の評価方法として、基本チェッ
利用環境としては、介護予防の現場だけで
クリストなどの質問紙によるもの、専門家
なく一般の在宅でも利用できる。
による観察、反復唾液飲み込み(RSST)検
(2) アプリケーションの機能
査などがある。中でも比較的簡便に、客観
機能の概要として、Android の音声認識
的な評価が可能であるものに、オーラルデ
機能を用いて、「ぱ」「た」「か」「ら」の音
ィアドコキネシスがある。この手法は、
「ぱ」
、 声認識を行い、その回数を計数することと
「た」、
「か」、「ら」という発話を連続的に
し た 。 開 発 環 境 は Eclipse3.7 , Android
行ったときの回数等で嚥下や口腔に関する
SDK2.1、JavaSDK6.1 とした。
99
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
図 1 にアプリケーション起動後の初期画
話回数の表示が可能となった。現在、性能
面を示す。利用者は、画面上の測定ボタン
の検証を行っているが、若年者が比較的速
をタッチしたあと、図 2 のように Android
く発話する場合は、正しく認識されるが、
端末のマイクに向かって、
「ぱ」
、
「た」
、
「か」、
ゆっくりと発話する場合には、誤認識が起
「ら」を連続して可能な限り発話する。
こる問題を確認している。
従来のオーラルディアドコキネシスにお
いては、一定時間内の発音回数測定を行う
ため、同様の機能を付加する予定である。
また、音声分析の手法を用いた評価の可能
性についても検討する。
図 1 アプリケーションの初期画面
図 3 結果の表示
参考文献:
[1] 寺本信嗣:誤嚥性肺炎の診断と治療
〈 http://radio848.rsjp.net/abbott/html/20
100604.html〉[accessed May 5, 2014]
図 2. 利用方法
[2]口腔機能向上マニュアル~高齢者が一
生おいしく、楽しく、安全な食生活を営む
図 3 に結果表示の例を示す。画面下部に、
た
め
に
~
(
改
訂
版
)
音声認識の結果と、その中にある「ぱ」
「た」
〈 http://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/d
「か」
「ら」の数が表示される。
l/tp0501-1f.pdf〉[accessed May 5, 2014]
3.結果と考察
[3]伊藤加代子、葭原明弘、高野尚子、石上
これまでに先に述べたアプリケーション
和男、清田義和、井上誠、北原稔、宮崎秀
について、音声入力、音声認識、計数、結
夫:オーラルディアドコキネシスの測定法
果表示の基本的な機能の実装を行った。そ
に 関 す る 検 討 . 老 年 歯 科 医 学 .24(1),
の結果、特別な機器を用いることなく、発
pp.48-54,2009.
100
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
クラウド版「おくすり日記アプリ」システム
北村 晃*,○丁井 雅美**,田代 朋子***,折井 孝男****
*
株式会社エレクトリック・マテリアル,**広島国際大学 医療経営学部
***
有限会社ティ辞書企画,****NTT 東日本関東病院 薬剤部
要約
おくすり手帳は,薬品の服用歴を管理するための記録帳である.その内容を医師や薬剤
師が確認することで,副作用などを回避できる優れたアイテムである.患者の医療機関や
薬局へ持参するのを忘れすることも多い.多くの人が利用しているモバイル機器を使った
「電子版お薬手帳」の全国的な普及が厚生労働省を中心に進められている.
本研究では,服薬記録のためのクラウド型「おくすり日記」システムの構築を踏まえて,
スマートディバスへの対応を進めるために,
「おくすり日記」のシステムのアプリ化を行っ
た結果について報告する.スマートディバスに対応することで利用者にとって使いやすく
するための新たな機能について提案する.
な普及が厚生労働省を中心に進められている.
1.はじめに
おくすり手帳は,薬品の服用歴を管理するための
2012 年の 9 月に,保健医療福祉情報システム工
記録帳であり,その内容を医師や薬剤師が確認する
業会(JAHIS)によって「電子版お薬手帳」の標準
ことで,副作用などを回避できる優れたアイテムで
データフォーマットが策定された[2].
ある.
厚生労働省および日本薬剤師会などの関係団体
おくすり手帳は,患者への薬剤の情報提供ツール
が普及に向けた啓発を行っている.さまざまな取り
としてはもちろん,患者自らが病気や治療,薬剤に
組みが行われている.たとえば,一般社団法人大阪
関することなどを書き込み,医師や薬剤師との意思
府薬剤師会が中心になって進めている大阪府の「大
疎通のツールとして利用されている.また,複数の
阪 e-お薬手帳」[3]や神奈川県が慶応大学と進めて
医療機関を受診している患者の重複投薬の防止や,
いる神奈川県の「神奈川マイカルテ」[4]などの事例
過去の服用歴を確認することで,副作用やアレルギ
があげられる.
ーを未然に防止し,より質の高い医療を提供できる
「電子お薬手帳」は,医療現場の視点から構築さ
ツールとして活用されている[1].
れている事例が多いが,著者らが研究している「お
しかし,全国でのおくすり手帳の普及率は平成
くすり日記」システムは,患者の視点から構築を目
22 年において約 55%程度であり,さらに来客時に
指しているという特徴がある.
必ず持参している患者は 30%というデータもあり,
健康福祉のためのモバイルの活用研究としても
薬剤師がおくすり手帳の意義についての説明が必
クラウド型「おくすり日記」システムの研究[5],服
要である[1].
薬記録のためのクラウド型「おくすり日記」システ
しかし,患者の医療機関や薬局へ持参するのを忘
ムの研究[6]を進めてきた.
れすることも多い.多くの人が常に持っているモバ
「患者が自分の健康に関する情報を管理する取
イル機器を活用した,
「電子版お薬手帳」の全国的
り組み」に関する研究においても,「お薬手帳」は
101
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
患者にとっては、単に病院・薬局へ持って行ってみ
システム個別の機能としては,おくすり日記シス
せるためのものという意識が強く,自分のための健
テム,おからだ日記,おくすり検索,ミニコラム,
康管理に利用している人は少ない.高齢者ほど電子
カレンダー機能,健康診断結果記録,家族のおくす
化に対する抵抗感はあるものの,電子化に対する理
り,健康記録,おくすりメール,おくすり辞書など
解もみられ,使いやすいものであれば,70 歳代ま
がある[6].
では使える可能性が大きい.患者、あるいは患者の
3.システムの利用方法
家族がより興味がある日常的な健康情報とともに,
「おくすり日記」システムの利用者は,最初にニ
お薬情報を患者自身あるいは患者の家族が管理す
ックネームを登録すると簡単に利用が可能となる.
ることにより,健康意識,薬に対する理解を向上さ
薬の登録はカーナビ風の検索システムを使い,50
せることができる可能性が示唆された[7]。
音のボタンから文字を選択,確認しながら登録が可
本研究では,服薬記録のためのクラウド型「おく
能である.保険調剤薬局からの処方薬は搭載してい
すり日記」システムの構築を踏まえて,スマートデ
る辞書機能から検索が可能で,市販薬やサプリメン
ィバスへの対応を進めるために,「おくすり日記」
トについては任意で登録することが可能である.
のシステムのアプリ化について報告する.スマート
登録された薬は服薬管理の設定を行う.さらに,
ディバスに対応することで利用者にとって使いや
曜日,日時,頓服,個数,メール配信を設定するこ
すくするための新たな機能について提案する.
とができる.
設定が完了すると服薬時間に「お知らせメール」
2.おくすり日記システムの概要
著者らの開発している「おくすり日記」システム
が配信され,ユーザに服薬を促し,飲み忘れを防ぐ
は,モバイルデバイスとクラウド技術を使って服薬
ことができる.このメールをそのまま返信すると,
管理と健康管理を行うことを目的としている.
「お
「服薬完了」がデータベースに記録される.
くすり日記」システムの運用の概要を図 1 に示す.
利用者はカレンダーから服薬記録を確認するこ
とが可能で,服用・未服用はカレンダーの枠の色分
けで視覚的にわかりやすく表示される.
「おからだ日記」では,あらかじめ用意されてい
る血圧や体重等の記録項目に数値を入力すること
で,蓄積された体調記録を一覧表示やグラフで可視
化することができる.
日々の入力データはカレンダー画面から閲覧可
能で「しおり」をつけることができるので,体調に
図 1 「おくすり日記」システムの概要
変化が出た日等のチェックも行える.
「おくすり日記」システムは,服薬履歴データベ
また,医療機関を登録することができるので,通
ース,健康管理データベース,医療用医薬品データ
院日をカレンダーに設定すれば「お知らせメール」
ベースを中心に構成されており,利用者の端末から
が通院日の前日に配信される.
アクセスすることで様々なサービスを受けること
「おくすり日記」のデータはすべてクラウド上に
ができる.
格納されるので,ネット環境があればスマートフォ
飲んだ薬の履歴,健康記録のデータはクラウド上
ン,タブレット,PC,携帯電話のすべてのデバイ
の自分専用のデータベースに記録され,スマートフ
スからアクセスが可能である.
ォン,タブレット端末,携帯電話,パソコンから利
4.おくすり日記アプリの機能
用可能となる.
著者らは,
「おくすり日記」システムは Web ベー
102
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
スのサービスを構築したが,スマートデバイスの利
お知らせすることが可能で,「お知らせメール」と
用者の増加に対応することで,2014 年 6 月公開に
組み合わせて飲み忘れを防止する.プッシュ通知は
向けてスマートデバイス向けのアプリの開発を進
端末がスリープ状態でもアラームのように通知の
めている.
表示ができるため,利用者に服薬時刻を視覚的に伝
さらに,アプリケーション版はブラウザ版にない, えることができる.
ホームボタン,プッシュ機能,QR コード読み取り
プッシュ通知をタッチするとアプリケーション
機能,オフライン入力機能が追加される予定である.
おくすり日記アプリの利用の際の端末のスペッ
画面へ遷移し,迅速に服薬のチェックをすることが
可能である.
クは,iOS 版は,iPhone4S 以上で iOS7 以上が動
さらに E メール送信と併用することで,利用者に
作する端末.Android 版 AndroidOS4 以上が動作す
対し,よりわかりやすく通知することが可能である.
る端末 .但し,QR コード読み取り機能を利用の
メールの返信のみで服薬チェックが完了する.
場合は端末にカメラ機能が必要となる.多くのスマ
ートデバイスの利用が可能となる.
4.1
ホームボタン
スマートフォンのホーム画面にアイコンを表示
することが可能になる.アイコンから簡単に起動が
できる点はユーザに大きな利便性を実現する.アプ
リをインストールするとホーム画面にアプリのア
イコンが作成されるので,容易にアプリケーション
を起動することができる(図 2)
.
図 3 プッシュ機能
4.3
QR コード読み取り機能
また,QR コードの読み取り機能を実装することで,
保険調剤薬局から出力された QR コード(JAHIS
準拠)をスマートフォンのカメラで読み取り,処方
薬のデータを簡単に登録することができる(図 4)
.
図 2 ホームボタン
アプリケーションが認証状態を保持するので 2 回
目以降からは,ログイン確認せずに起動が可能であ
る.
なお,アプリケーションは,iOS 版は App Store,
Android 版は Google Play よりダウンロードするが,
図 4 QR コード読み取り機能
初期設定でサーバーに認証してアカウントを登録
QR コードの読み取り機能を実装することで,保
する必要がある.
4.2
健薬局から出力された QR コードが JAHIS 規格に
プッシュ機能
図 3 に示した,プッシュ機能を使って服用時間を
準拠していれば,スマートフォンのカメラで読み取
103
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
り,処方薬のデータを簡単に登録することができる.
も利用者の服薬状況を把握することが可能となる.
すでに登録されている医療用医薬品がある場合
自治体向けでは住民に対して服薬指導,健康管理
は,あらかじめ確認を行うことで重複して登録され
を行うことで,医療費の抑制へつなげ,保険財政の
ないよう誘導する.
健全化を図る.服用中の薬のジェネリックの割合を
将来的にアプリケーションが NFC に対応すれば
確認させる機能を用いて,厚労省が掲げる「後発医
端末には装置にかざすだけでデータが移行できる.
薬品のさらなる使用促進のためのロードマップ」で
(NFC 対応端末のみ)さらに,普及が期待される
ある平成 30 年に後発薬の割合 60%(G60)といっ
レセコンから QR コードが発行される保険調剤薬
た目標に向けて,住民の意識向上のための支援を行
局においては,残薬管理や適切な服薬指導を可能と
う.
する.
4.4
保険調剤薬局との連携で残薬チェックも行い薬
オフライン入力機能
の無駄を削減することができる.また,服薬管理以
図 5 のオフライン入力機能は,電波の届きにくい
外の機能として独居高齢者向けの確認機能である
エリアや,通信圏外時にはアプリケーション内のロ
「見守り隊」を提供し,本人の日々のチェックを家
ーカル・データベースに一時的にデータを保持する. 族や介護者で共有することが可能となる.
電波が繋がった時点でローカル・データベースから
参考文献
クラウド上にデータを転送する.
[1] 電子おくすり手帳の実用化への挑戦,社会法人
日本病院薬剤師会
http://medical.radionikkei.jp/medical/Jshp/fi
nal/pdf/121001.pdf
[2] JAHIS 電子版お薬手帳データフォーマット
仕様書 Ver.1.1
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/buny
a/kenkou_iryou/iyakuhin/dl/01-06.pdf
[3] 大阪 e-お薬手帳
http://www.e-okusuritecho.jp/
[4] 神奈川マイカルテプロジェクト
図 5 オフライン入力機能
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f470240/
5.まとめ
[5] 梶元人・岩瀬道夫・北村晃・丁井雅美,健康福
保険調剤薬局で服薬指導の支援をする機能であ
祉のためのモバイルの活用-クラウド型「おく
る.薬局向けのタブレット端末から利用者が提示す
すり日記」システム-モバイル 13 研究論文集,
る ID 番号を入力すると,本人が服薬する薬剤一覧
(2013),モバイル学会,pp.217-220
が表示され,そこから禁忌,併用禁忌・重複のデー
[6] 北村 晃, 岩瀬 道夫, 丁井 雅美,服薬記録のた
タが閲覧できるので適切な服薬指導ができる.
めのクラウド型「おくすり日記」システム,モバ
利用者が他の薬局から出された処方薬を「おくす
イル 14 研究論文集, (2014),モバイル学会,
り日記」に登録していればこちらも対象となる.
pp.109-112
このように保険調剤薬局側では「電子お薬手帳」
のような運用も可能となる.
[7] 田代朋子,折井孝男,
「患者が自分の健康に関す
る情報を管理する取り組み」に関する研究,日
また,QR コードからの入力システムと組み合わ
本薬学会第 134 年会,熊本,2014.
せれば残薬管理も行うことが可能になり,薬局側で
104
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
2 日目(5/25(日)
)11:00~12:00
セッション C:二次利用
座長
水島 洋(国立保健医療科学院)
105
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
日本の医療における ICT イノベーションの必要性
―医療の価値財としての電子カルテの普及の課題―
河﨑
所属
泰 子 (理 学 修 士 ,MBA)
早 稲 田 大 学 大 学 院 商 学 研 究 科 専 門 職 学 位 過 程 ビ ジ ネ ス 専 攻 MBA
( MOT 夜 間 主 コ ー ス ) 2014 年 3 月 修 了
要約
日 本 は 、超 高 齢 化 社 会 を 迎 え「 医 療 費 の 適 正 化 」、「 医 療 制 度 維 持 」、「 医 療 の 質 の 向 上 」の 同 時 達
成 が 望 ま れ て い る 。日 本 再 興 戦 略 の「 健 康 長 寿 」の コ ン セ プ ト を 実 現 す る 為 に は 、疾 病 予 防 ・ 疾 病
管 理 が 重 要 で あ る 。こ れ ら の 課 題 に 応 え る た め に は ICT の 利 用 が 必 要 不 可 欠 で あ る 。た だ 、医 療 の
ICT 化 の 進 展 は 十 分 で は な い 。 本 報 告 で は 、医 療 ICT の 主 要 な 二 つ の シ ス テ ム で あ る レ セ プ ト 電 算
処 理 シ ス テ ム( レ セ プ ト・オ ン ラ イ 化 を 含 む )と 電 子 カ ル テ シ ス テ ム の 普 及 状 況 の 顕 著 な 差 異 に 注
目して、電子カルテ普及の遅れの原因を分析した。
筆 者 は 、日 本 の 医 療 を 田 中( 2010)が 規 定 す る「 価 値 財 」と し て 定 義 す る 。電 子 カ ル テ シ ス テ ム
も ま た 、価 値 財 と し て 位 置 づ け ら れ る 。医 療 の 提 供 体 制 と し て 、公 共 財 、私 的 財 の バ ラ ン ス が 必 要
で あ り 、レ セ プ ト 電 算 処 理 シ ス テ ム は「 公 共 財 」の 性 質 を 有 す る が 、現 状 で は 、電 子 カ ル テ は 医 療
機 関 の「 私 的 財 」の 側 面 が 強 い こ と が 分 か る 。電 子 カ ル テ の 普 及 に は 、医 療 情 報 基 盤 と い う 社 会 イ
ンフラの中で、電子カルテシステムが「公共財」の性質を強めていく 必要がある。
<研究の目的>
化社会を迎える日本が、社会の根本となる医療におけ
日本において、医療の質を確保しつつ標準的かつ効率
る課題を克服し、今後同様の社会を迎える国々に社会
的に医療を提供するためには、医療の一層の ICT 化は
問題解決として海外に発信する端緒としたい。
避けて通れない流れである。ICT 化は、医療業務の効率
<問題意識>
化という点で、記録、保全性、見読性、経時的記録等
医療は生命に関る事業であり、公平な医療アクセス
に優れているばかりでなく、その情報を二次利用する
を確保する必要があり、市場原理主義には委ねられな
ことによって、疾病の予防や国民の健康管理、無駄の
い。医療は完全に予測不可能な不確実性もあり、適切
ない医療費の利用に生かす事が出来る。特に、現代の
に医学的知見の情報を収集し、リスクに備える社会シ
日本での大きな課題である慢性期医療においては、今
ステムも必要である。更に、医療提供者と患者には情
後普及が予想される個人が所有するスマートデバイス
報の非対称性があり、医療提供者には説明責任が求め
を通じて日常的に蓄積される個人の PHR(Personal
られている。患者にとって、何が最適な医療かを判断
Health Record)と合せて、医療機関に蓄積されている
するには、データ蓄積による科学的な妥当性に基づい
医療情報の連携・活用は、大きな意味を持つ。本報告
た EBM(Evidence Based Medicine)から個人の価値観
では、現在の医療情報連携基盤の中核となるレセプ
に基づいた医療 VBM(Value Based Medicine)医療のモ
ト・オンライン化の経緯を総括し、それとの対比で、
デルにパラダイムシフトしつつある。医療の透明性を
電子カルテの普及の遅れの原因を探った。こうした分
高めるためにも ICT 化は必要である。
析と教訓を通じて、今後の日本の医療の ICT 化の課題
日本においては、社会保障制度が確立しており、社会
を明らかにしたい。将来の医療像に向けた構想の中に
保障費用及び税金を医療費に再配分しているため医療
ICT の必要性を位置づけることにより、いち早く超高齢
は公共的性質をもっている。しかし、医療提供体制に
106
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
おいては大半が民間医療機関に委ねられている。その
必要である。本報告のリサーチ・クエスションを、
「医
中で、安全性を含む「医療の質の向上」、「医療の効率
療情報連携基盤の中で、レセプトと比較して、電子カ
性の推進」、「医療費の適正化」の同時達成が求められ
ルテの普及はなぜ進まないのか」に設定し分析した。
ている。
<本報告の研究方法>
第一の論点については、本報告では田中(2010)の「価
文献レビュー、フォーカスインタビュー、ケーススタ
値財」という規定に依拠して、日本における医療サー
ディ、価値財2の規定を背景としたステークホルダー毎
ビスは「価値財」と位置付けることにより、医療サー
の分析
ビスにおける国・政府の財政支出・政策関与の根拠と
分析対象のシステム:レセプトに係るシステム(オン
なる同時に、医療サービスを提供する医療機関や医療
ライン化も含む)と電子カルテシステム
サービスを補完する企業、被保険者である国民の役割
<研究の要旨>
が明確になる。
前述した通り、医療費の増大を抑制しつつ、個別化さ
第二の論点については、
「健康長寿」というコンセプ
れた質の高い医療を実現する為には、医療における医
トに基づき、疾病の予防、疾病管理をする取組みによ
療におけるイノベーションが不可欠である。その為に
って、国の総医療費の削減が期待出来るという展望を
は、ICT の利活用が重要な役割を果たしうる。医療にお
示す。それは単一医療機関完結のモデルから医療機関
ける ICT 化のベネフィットと阻害要因を明確にしなが
間連携による地域医療連携による包括ケアという医療
ら、医療におけるイノベーションを進める必要がある。
のネットワーク化への医療供給体制のシフトを必要と
レセプトに係るシステムはほぼ 100%導入され、レセプ
するプロセスイノベーションである。
トデータ分析による情報の利活用について方針が決定
本報告の主要な関心は、第三の論点である日本の医
されつつある。しかし、電子カルテから得られるより
療における ICT の利活用の現状と課題に向けられてい
センシティブな医療情報の二次的な公益利用について
る。医療機関の機能分化、ネットワーク化による医療
は、医療情報の取り扱いの困難さから、社会的コンセ
提供体制へシフトするには、ICT 利用による情報連携等
ンサスがでられてはいない。診療録の価値として、①
は今後、益々重要となる。しかし、医療情報システム
患者にとっての価値 ②病院 にとっての価値 ③ 医 学
は診療報酬制度の枠組みから外れており、医療機関に
研究上の価値 ④医学教育上の価値⑤ 公衆衛生上の
とって、原則義務化をされたレセプト・オンライン化
価値⑥法的防衛上の価値がある。電子カルテによる
以外は、医療情報システムの導入は必ずしも必須では
保存により、閲覧性、見読性、情報連携機能が向上す
ない。レセプト電算処理システムについては、
「レセプ
る。
ト・オンライン化の原則義務化」の施策が奏功して、
医療の ICT 化におけるステークホルダーとは、政府、
例外を除き、レセプト・オンライン化の完了を迎えつ
保険者、被保険者、国民、IT ベンダーである。ICT 化
つある。しかし、電子カルテについては国が掲げた目
の取り組みの遅れについては、基本的には、第一、第
標に未達であり、普及の途上にある。医療機関におけ
二の論点で述べた現状認識・将来展望が、各ステーク
る電子カルテの導入は、2000 年以降、政府主導で推進
ホルダーに共有出来ていないことが最大の問題である。
されたにも拘らず、現状、日本全体の医療機関の導入
医療サービスの「価値財」規定は、医療サービスにお
普及率は約 20%に留まっている。東日本大震災という
大災害時に、紙カルテが津波で流されたため患者の診
2
田中(2010)は、
「価値財とは、特定の時代と特定の社会(国・
地域)の価値観から見て必須と思われるニーズが、公的介入のな
い状態で決まる利用・生産量では充足しきれない、つまりその量
では、
(ある価値観に基づく)社会的限界便益が私的限界便益を
上回ると判断されるため、政府(社会保障制度を含む)利用者
and/or 生産者への費用補助、もしくは公的セクターによる生産を
通じ、利用・生産量を拡大する政策の対象となった私的財を指す」
と定義する。
療記録がなくなり、対応に苦慮した。こうした背景か
ら、医療情報を ICT 化して保存しておく方法について
もクラウド利用も検討されるようになった。医療情報
連携基盤構築は、社会インフラのサブシステムとして
107
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
いて、医療機関・民間企業の自由な経済活動を許して
な課題解決を果たさなければならない場合がある。
おり、国策が貫徹する「純粋公共財3」ではない。いく
結論として、ステークホルダーの中で、政府と制度を
つかの条件の成熟がなければ、政府はレセプトのよう
運用する公的セクターの役割とイニシアティブは決定
に電子カルテの導入を「義務化」することは出来ない。
的に重要である。更に企業の協力、国民一人一人が自
本報告におけるリサーチ・クエッションは、電子カル
身の健康と医療問題への関心を持つことなしには、こ
テ導入の遅れを受容する為に立てられたものではなく、
うした課題の解決は困難である。
阻害要因を明らかにし、障害となっている課題を取り
医療情報においてはデータフォーマットの標準化と
除いていく道を探す為のものである。
いう課題もある。IT ベンダーが自社に対する囲いこみ
<結論>
による競争戦略ゆえに、標準化に消極的であった。情
報システムが広く活用されることによって、社会の利
分析結果:電子カルテとレセプトとの比較表
電子カルテ
便性を高めるという視点が欠けているといわざるを得
レセプト
普及状況 2013年時点
×(約20%)
○(約100%)
財の性質 2013年時点 医療機関の私的財としての性質が強い 公共財としての性質を有する
政府の対応 助成金による支援
原則、義務化、公益利用の方針策定
政府
ない。医療が公共的な社会インフラであると捉えるの
情報
共有されない
医療サービスの適切性をチェック、医
療ニーズの把握
であれば、医療情報の標準化は、行政府が標準化にお
ベネフィット
EHRの構築標準的に質の高い医療提供 レセプトデータ分析、医療費の適正化
いて主導的な役割を担う必要がある。HL7、SS-Mix とい
情報
共有されない
った標準化のデータ方式だけでなく、具体的なシステ
ベネフィット
平常時には特にないが、災害時には有 事務効率化、レセプト分析による医療
効に活用されうる。
ニーズの把握
ム導入において理解されやすいように技術参照モデル
情報
医療機関への開示請求(手続きが困難 診療の内容、支払う対象の医療サービ
な場合がある)
スの明確化
の提示を行う必要性もある。データフォーマットの標
ベネフィット
院内、院外で共有されることによって医
医療費の適正化、待ち時間の短縮
療の質が向上、重複検査の回避
準化は、普及し社会的な取引コストを下げ、社会の利
情報
(医療者間)患者の同意を得て情報共有 審査支払機関に提出。保険者のレセプ
(患者)開示請求
ト分析によってチェックされる。
便性が高まることによって社会的意義を持つ。IT ベン
ベネフィット
医療の質の向上、医療の透明性の確
保、医学の発展に貢献
ダーはもとより医療提供者の理解も必要である。医療
保険者
被保険者
医療機関
支払のチェックのため共有される
医療費の適正化
情報は個人情報である反面、医療機関が管理する情報
図 1:河﨑(2014)専門職学位論文より
医療機関および IT ベンダーの短期的利益を追求する
もある。臨床医学の発展、安全性のモニタリング等の
経済合理的な振舞いの下で、目指すべき将来の医療像
公益利用の可能性を秘めている。医療情報は非常にセ
として社会的コンセンサスの形成が不十分で、かつ適
ンシティブであり、個人が不利益を被らないように公
切なインセンティブも設けられず、あるいはレセプト
的機関が主体的役割を担う必要がある。G8 サミットに
のように「義務化」といった強制力も設けられていな
おけるオープンデータに関する合意事項には、行政の
かった。政府、自治体等をはじめとする公的な医療保
透明性、信頼性の向上、国民参加・官民協働の推進で
険者は、医療費の公的財源の再配分という社会的な機
進めることが盛り込まれている。医療情報についても
能を持ちながらも被保険者に対して、その機能を発揮
公益利用という視点で、広く社会に還元する道筋を模
しているとは言えない状況にあった。
索する必要がある。オープンデータの本質的な課題は、
現時点においては、電子カルテシステムは、レセプ
社会における新規技術クラウド利用を背景に、ウェブ
ト電算処理システムと比較して、医療機関の個々の私
上に集積していく膨大な情報を、どの部分オープン化
的財としての性質が強いといえる。医療機関の電子カ
し、どの部分をクローズド化するかという情報の適切
ルテの導入行動は、政府が政策として推進している医
なマネジメントの主体と管理運用の在り方にある。
療上連携基盤の構築とは独立した動きである。清成
<今後の課題>
(2013)が述べるように、医療や福祉など、売上げや
・医療情報の公益利用と個人情報の保護
株主利益を追求するだけでなく、社会にとって、重要
医療情報は誰のものか。医療情報は個人のものであ
ると同時に、公的性質をもち得るものとして捉える二
3
公共財とは、
治安や国防といった消費における非競合性と消費
における非排除性を持つ性質をもつ財を示す。
重の観点が、電子カルテから得らえる医療情報の性質
108
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
を理解する上では重要である。医療情報には、個人で
・引用文献
管理可能な PHR と医療機関で管理する EHR とがある。
1) 田中滋(2010)「社会保障の役割と国民負担率」宮島洋ほか編
そして、医療情報の利活用として、個人の健康管理に
『社会保障と経済2 財政と所得保障』東京大学出版会 p.141
生かすという方向性と、医療情報を公益利用し広く社
・参考文献
会に還元するという方向性がある。個人の医療情報は、
1) ジョセフ・E・スティグリッツ(Stiglitz, J.,E)(2000) 『公
匿名化された上で集積されマスのデータになることに
共経済学 第 2 版 (上)(下) 』Economics of The Public Sector,
よって、社会的な公共性を帯びる。従って、継続的に
3rd ed. 2000, 藪下史郎訳『公共経済学』東洋経済新報社
「医療の質」を高めていくように利用されることを前
2)小川紘一(2009)『国際標準化と事業戦略―日本型イノベーショ
提とした「社会的価値」を見出すこともできる。公益
ンとしての標準化ビジネスモデル』白桃書房
利用する場合にも個人情報の取扱いという課題がある。
3) 清成忠男(2013) 『事業構想力の研究』宣伝会議
現状、医療情報の公益利用については、社会的なコン
・参照サイト
センサスが得られてはいない。個人の医療情報の取扱
首相官邸健康・医療戦略推進本部トップ
いを誤れば、個人の社会生活を脅かす危惧があるため
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/(2014 年 3 月
である。
28 日閲覧)
2013 年 5 月に成立した「行政手続における特定の個
内
閣
府
(
2013
) 「
日
本
再
興
戦
略
」
人を識別するための番号の利用等に関する法律」
(マイ
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/saikou_
ナンバー法)では、住民基本台帳に記載されている住
jpn.pdf
民全てに「個人番号」を付番し、社会保障・税に係る
(2013 年 7 月閲覧)
事務に必要な情報の円滑な連携を図ることを目的とし
内閣府(2013)「G8サミットにおけるオープンデータに関する
ている。番号制度の導入に対しては、個人のプライバ
合
シー等の観点から懸念する意見もある。そのため、個
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/densi/dai4/sankou8.p
人番号に紐づく情報(特定個人情報)の取り扱いを監
df
視する第三者機関を創設した。また、プライバシー保
内 閣 府 ( 2012 )「 電 子 行 政 オ ー プ ン デ ー タ 戦 略 」 よ り
護の在り方については規制改革実施計画 (平成 25 年 6
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/pdf/120704_siryou2.p
月 14 日 閣議決定) を受けて、ビッグデータ・ビジネ
df (2013 年 6 月 28 日閲覧)
スの普及へ向け、2013 年 9 月より「IT 戦略本部 パー
内閣府「社会保障・税番号制度」
(2014 年 4 月 10 日閲覧)
ソナルデータに関する検討会」で検討が開始された。
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/
2014 年 12 月 10 日の議事要旨では、個人が特定される
首相官邸パーソナルデータに関する検討会 決定等
可能性を低減した個人データの扱いを柔軟化する方針
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/pd/(2014 年 4 月 25 日
が示された。更に、
「IT 戦略本部 新戦略推進専門調査
閲覧)
会 マイナンバー等分科会」では、個人番号の利用範囲
首相官邸高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合
として医療分野についてどこまで含めるかについて検
戦略本部)
討が進められている。しかし、現状では「医療の質の
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon_bunka/number/
向上」という社会的便益向上のために医療情報をどの
dai1/gijisidai.html(2014 年 5 月 6 日閲覧)
ように管理統合していくかを決定づけることに対して、
※本報告は、2014 年 3 月河﨑作成の専門職学位論文(非公開)を
社会的コンセンサスが必要である。その際には、医療
基に作成しております。
情報の利活用におけるリスク・ベネフィットのバラン
スの根拠となる社会的な価値基準が明確になっていな
ければならない。
109
意
事
項
(
英
文
・
仮
訳
)
」
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
病院情報システム内のデータ活用に関する取り組みについて
〇大沢 昌二(仙台医療センター 情報管理室)
長澤 良相(仙台医療センター 経営企画室)
後藤 興治(仙台医療センター 医療安全管理室)
鈴木 貴夫(仙台医療センター 腫瘍内科)
明城 光三(仙台医療センター 産科)
齋藤 泰紀(仙台医療センター 呼吸器外科)
要約
当院では平成24年1月より電子カルテシステムを本稼動した.併せてデータの二次利用促進を目
的にDWH「CLISTA!(医用工学研究所)
」を導入した.「CLISTA!」は電子カルテシステム,医事会計シ
ステム,診療情報管理システムと接続している.
電子カルテシステム導入により医療情報の検索,収集が従来に比べ容易となったため,DWH等によ
る医療情報の利活用の方法を様々な立場で追求し,その方法や成果を共有して医療の質改善や効率
化に寄与することを目的として,「データ活用研究会」を発足させた.研究会では,各部署のデータ
活用事例の取り組み報告や情報共有を行った.
本発表では事例として,外来患者アレルギー情報の入力精度向上の取り組みについて報告を行う
布をした.
1.はじめに
システムの更新において,アレルギー情報
3.結果
は移行対象となったが,旧システムはオーダ
アレルギー初回入力患者数は増加し,不明
リングシステムであり,紙カルテ情報が主で
リスト配布件数は減少した.
あった.そのため,アレルギー情報は必ずしも
システムの患者プロフィールに登録されてい
4.考察
なかった.
事例のとおり,データの二次利用をルーチ
電子カルテシステムでは,アレルギーがあ
ン業務として運用に組み込むことでアレルギ
る場合は患者プロフィールの該当項目に「あ
ー不明患者を減少させることが出来たと考え
り」のチェックを行い,詳細の登録を行う.ア
る.また,これらの取り組みをデータ活用研究
レルギーが無い場合は「なし」の登録を行う.
会で情報共有を行うことにより,DWH等による
登録がないものが不明となるが,不明の場合,
医療情報の二次利用を必要に応じて現場運用
医療過誤のリスクがある.そこでアレルギー
に組み込む取り組みが進んだと考えられる.
不明患者を減らす取り組みを行った.
2.方法
「CLISTA!」より翌診療日に来院予約のある
患者のうち,アレルギー不明の患者リストを
抽出し,アレルギー確認用問診票に予約日,ID,
氏名,診療科を差し込み印刷し,各診療科に配
110
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
地域で予想される疾患の推移の検証
遠山 義彦(1 磯部 陽(1 尾藤 誠司(1
石川 ベンジャミン光一(2 武井 真寿代(1
(1
(2
国立病院機構 東京医療センター
国立がん研究センター がん対策情報センター
がん統計研究部 がん医療費調査室長
要約
診療報酬、社会保障と税の一体改革による医療機関の機能分化が進む中で、東京医療センターの救
急搬送患者や救命救急センター入院患者数、入院患者年齢構成等の抽出を行い、救急車搬送からの入
院患者の医療資源を最も投入した疾患を調査した。
また地域における人口動態から疾患の変化を見るため、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人
口・世帯数、男女・年齢(5歳)階級データを基に年齢階級別に集計を行った。これと並行して、政
府統計の総合窓口(2011年)を利用し、地域における疾患の推移を、東京医療センター救急搬送
入院患者の医療資源最投入疾患と照合を行い、疾患別の
今後の動向の集計を行った。特に、20
10年から2040年までを5年毎に、65歳以上の高齢者を対象とした疾患の入院患者数の推計を
行った。
これらの作業より、東京医療センターへの救急搬送患者、救命救急センターの利用予測を調査する
ことで、必要な医療体制の構築へのデータ提供の報告を行う。
1.はじめに
ンターの救急医療の提供体制作りに寄与す
平成24年診療報酬・介護報酬の同時改定で
るための分析を行った。
は、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者をむ
かえる 2025年に向けて、医療費の増大が
2.方法
懸念される中、医療政策として医療機能分化と
調査期間として東京医療センターが
役割分担の明確化、地域連携体制の強化などが
DPC に参入した以降の 2009 年から 2013
点数評価される改定となった。
年までの 5 年間を対象とし、年度別退院
患者を抽出した。
平成26年診療報酬改定では、より医療機関
の機能分化と連携、在宅医療の充実等の対応が
図られ、医療機関の機能強分化の一環として、
高度急性期と一般急性期を担う機能の明確化、
機能に合った評価が行われた。
救急救命センターを有する、東京医療セン
ターに おいては、高度急性期に対応してい
る実績から特性や患者層を調査すると共に、
東京医療センターを取り巻く地域において
今後増加が予想される疾患がどんなもので
あるか。年齢層の変化を、とりわけ65歳以
上の高齢者を調査することで、東京医療 セ
111
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
本の地域別将来推計人口」(平成25年3月推計)
を用いて集計を行った。
区西南部では、総人口は、2020年をピークに以
後減少に転ずる。
総人口における65歳以上の占める割合は上昇を
続け2010年を100%とした場合、2040年では16
5.3%の増加率になり、2040年の総人口の約3
3%を占めると予想される。
区西南部に隣接する神奈川県の「川崎北部」にお
ける人口動態を調査すると、2040年まで増加傾
まずは退院患者の年齢別構成比較を行
向であることが予想され、かつ65歳以上が総人口
い65歳以上の高齢者の割合を算出した。
に占める割合が年々高くなっていることが分かっ
た。
次に救急搬送患者数と救急搬送からの
このことから、区西南部の人口動態と年齢構成は、
入院患者の年度別データを比較、様式 1
データから抽出した救急搬送患者の医療
2040年に向けて65歳以上の増加率が著しく、総
資源最投入疾患を調査した。
人口は減少していくため高齢者の患者層の疾患
構成を注視していくことが求められてくる。
次に社人研のデータから東京医療セン
ター周辺地域の人口動態を算出し204
また隣接する神奈川県川崎北部地域は、人口の
0年までの人口推移と高齢化率を調査。
増加・65歳以上の高齢化に歯止めがかからないこ
今後予測される疾患を政府統計の受療率
とが予想されるため、救急搬送患者の受け入れ要
を掛け合わせ東京医療センター周辺地域
請の増加も想定し、年齢構成と疾患の関係を注視
で増大が予測される疾患の調査を行った。
していかなくてはならないと感じた。
今後予想される高齢者層の増加に伴い、どのよう
な疾患が関連して増加してくるのか、その関連性を
探るべく政府統計の総合窓口(e-Stat)、2011年
受療率など用いて調査した。
東京医療センターにおいて救急搬送され入院した
患者を対象に、入院中に医療資源を最も投入した
傷病の 上位となる疾患と併せて調査した。
まず疾患数では、心不全、脳梗塞、脳内出血、肺
炎、くも膜下出血、股関節近位骨折などが挙げら
れた。
年間の区西南部の延入院患者(推計)と1日あたり
の入院患者数(推計)では、上記に挙げた疾患は
3.結果
いずれも増加することがわかった。脳梗塞におい
東京医療センターの属する二次医療圏、区西南
ては、65.3%の増加率が認められ、区西南部に
部における人口動態を把握するため、国立社会保
おいて2040年では1日あたり1,386人ベッドが必
障・人口問題研究所より発出されている「将来推計
要で、年間183,138人 延入院患者数がいること
人口・世帯数 男女・年齢(5歳)階級データ」「日
が推計されるため、この増加に対しての救命救急
112
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
センターや二次救急医療の体制を考えていかなく
再来)
てはならないことが想定された。
表75-9 退院患者平均在院日数、
脳梗塞に限らず、他の疾患においても受け入れ体
性・年齢階級×傷病小分類×病院-一般診療所・
制を考慮していかなくてはならないことが示唆され
病床別の種類別
た
(病院))
4.考察
(一般病院
<協力者>
区西南部における東京医療センターでの救急医
国立がん研究センター がん対策情報センター
療体制を考える上で、他の地域と同じように高齢化
がん統計研究部 がん医療費調査室長
を見据えた医療体制を敷くことが必要となる。
石川 ベンジャミン光一 (敬称略)
とりわけ脳卒中・心疾患・呼吸器疾患・外傷など
による骨折は、高齢化と比例するように上昇が認め
られた。
また15分・30分圏内における救急搬送患者
は、目黒区・世田谷区からの搬送が救急搬送全体
の半分を占めていたことがわかった。さらに神奈川
県川崎北部からの救急搬送も増加が予測され、今
後救命救急搬送を必要とする疾患(脳卒中・心疾
患等)の増加も見込まれるため迅速な受入体制の
充実が不可欠となる。
今後は、診療費等の経営学的視点と外来の患
者動向も含めて分析を進めて参りたいと思う。
詳しくは Web で http://www.ntmc.go.jp/
<出典>
厚生労働省 平成23年度 DPC調査データに基づ
く
地域病院ポートフォリオ
編集 石川ベンジャミン光一 伏見清秀 松田晋
哉
若尾文彦
国立社会保障・人口問題研究所
将来推計人口・世帯数 男女・年齢(5歳)階級デー
タ
「日本の地域別将来推計人口」(平成25年3月推計)
政府統計の総合窓口(e-Stat) 2011年
表42 受療率(人口10万対)、
性・年齢階級×傷病小分類×入院-外来(初診-
113
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
2 日目(5/25(日)
)13:00~15:00
セッション D:地域医療連携・認知症
座長
木村 憲洋(高崎健康福祉大学)
114
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
がん治 療にお け る薬薬 連携に 必 要な知 識の検 討
○ 矢 田 部 恵 1, 小 川 千 晶 1, 髙 橋
森
達 也 1, 近 藤 直 樹
郷 1, 大 橋 養 賢
1
1 ,2 , 鈴 木 義 彦 1 , 2
国 立 病 院 機 構 東 京 医 療 セ ン タ ー 薬 剤 科 1, 臨 床 研 究 ・ 治 験 推 進 室
2
要約
近 年 、が ん 化 学 療 法 は 患 者 の QOL 向 上 な ど の 観 点 よ り 入 院 治 療 か ら 外 来 治 療 へ シ フ ト し
ており、病院薬剤師のみならず保険薬局薬剤師によるサポートが欠かせない。しかしなが
ら、がん患者に対する介入内容の詳細が双方間で情報共有できておらず、取り組むべき課
題が不明瞭であるなど問題点が多い。そこで外来がん化学療法施行患者に対して病院薬剤
師が実施している介入内容について調査し、がん化学療法における必要な知識について検
討した。その結果、有害事象に対する支持療法の提案や治療レジメンの内容に関する疑義
の確認が多くを占めていた。今後薬薬連携を促進していくため、今回の調査結果を踏まえ
た 上 で 、が ん 化 学 療 法 に 関 す る 情 報 共 有 向 上 や IT を 駆 使 し た 新 し い ツ ー ル を 活 用 し て 、保
険薬局のニーズに即した情報提供を行っていく必要があると考えられた 。
1. 緒言および目的
携をテーマとした研修会を企画した。本研修会で実
近年、患者の quality of life (QOL) の向上、外来化
施したアンケート調査において、がん治療における
学療法加算および急性期医療における入院医療費の
薬薬連携が円滑に行われないことの原因の一つとし
包括化導入などの観点から、がん治療は通院治療に
て、保険薬局薬剤師のがん治療に対する知識不足が
て行われることが基本となりつつある
1)2)。
その中で、
あり、その結果、適切な患者指導を行うことができ
がん化学療法における薬剤師の積極的なチーム医療
ないとの意見があった 6)。保険薬局では、外来がん
への参画は、治療の効率化と安全性の向上にも有効
化学療法において数多くあるキードラッグの注射抗
であることが報告されている 3)4)。しかしながら、画
がん薬を取り扱うことがなく、経口抗がん薬や支持
期的な経口抗がん薬が続々市販され、院内における
療法薬の調剤が中心であり、がん治療全体の情報を
チーム医療だけでは十分な対応が困難となっている。
把握した上での十分な患者指導の実施が難しい環境
従って、外来がん化学療法を安全かつ効率的に実施
にある。
するために、病院薬剤師は院内における他職種との
その解決策として、病院薬剤師におけるがん化学
連携はもとより、保険薬局との連携も必須であると
療法患者に対する介入内容を分析し、保険薬局薬剤
考えるが 5)、保険薬局との連携が円滑に行われてい
師へフィードバックすることで、がん治療全体に対
るとは言えない現状がある。国立病院機構東京医療
する理解度の向上の一助となると考えた。
センター(以下、当院)では、経口抗がん薬の院外処
そこで今回は、当院の通院治療センター(ATC)にお
方箋発行率は 80%を超えており、地域の保険薬局と
ける薬剤師の介入内容を調査・集計し、その結果よ
の連携を図ることは重要な課題となっている。
りがん治療に対する知識としてどのような内容が保
そのため我々は、当院近隣の病院・保険薬局の薬
険調剤薬局薬剤師に求められるのか考察した。
剤師を対象とした研修会である「ファーマコカンフ
ァレンス城南」において、がん治療における薬薬連
115
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
2. 対象と方法
②面談・薬学的介入件数および外来がん化学療法施
2-1. 対象
行件数の推移
当院の ATC において 2011 年 1 月から 2013 年 12
外来がん化学療法施行件数の推移を図 2 に示す。
月までの 36 ヶ月間における、
外来がん化学療法施行
外来がん化学療法施行件数は外来担当薬剤師が
件数 11,568 件を対象に診療録、患者記録をもとに後
ATC に常駐した時点から現在に至るまで、
最大で 1.9
方視的な調査を行った。
倍の増加がみられた。外来担当薬剤師が面談を実施
2-2. 方法
した件数のうち約 3.5%(345 件)に薬学的介入が実
① 調査項目
施された。その件数は1ヶ月あたり中央値 10 件であ
がん種、面談件数、薬学的介入件数、外来がん化
った。
学療法施行件数について月ごとの外来担当薬剤師に
面談件数
よるカルテ記載をもとに調査を行った。なお、件数
薬学的介入件数
外来がん化学療法施行件数
450
は化学療法施行ごとに 1 件と数え、同一患者でも複
430
392
400
数回の治療を受けた場合は、その全てをカウントす
370
350
335
313
る事とした
(例:ある患者が 6 回治療を受けた場合、
300
件数
6 件と数える)
。
② 薬学的介入項目の分類
281
275
271 273
250
213 209
200
294
243
226225
246
277
258
238
235
359
345 365 348
340
230
376
362
329
313
287 313
286 285
280 263
259
246 244
242
266 269
408
405
384
382
316
297
281
261
436 441
372
401
363
354
334
328
327
421
394 385
368
345 345
311
306
268
215 197
191
170
150
抽出されたデータから、薬学的介入の内訳を分類
100
50
対象患者の属性は、男性 4704 件、女性 6964 件、
図 2 外来がん化学療法施行件数の推移
年齢中央値は 64 歳であった。
また、がん種は
「乳腺」
33.2%(3838 件)が最も多く、次いで「血液」23.9%
③
薬学的介入内容の内訳
(2760 件)
、
「大腸」17.5%(2019 件)
、
「肝胆膵」8.2%
外来がん化学療法施行件数 11,568 件のうち、外来
(945 件)、
「肺」5.5%(637 件)、
「胃」4.0%(489
担当薬剤師による薬学的介入が必要となった症例は
件)
「婦人科」3.2%(369 件)
、
「泌尿器」2.8%(321
2.9%(345 件)であった。さらに、薬学的介入を受
件)の順であった。
(図 1)
けた群の内訳は
「有害事象に対する支持療法の介入」
1.7%(194 件)、
「治療に関する介入」0.6%(80 件)
、
「疼痛コントロールにおける介入」0.2%(26 件)、
「基礎疾患、常用薬などに関する介入」0.3%(34 件)
、
「その他の介入」0.1%(11 件)であった(表 1)。
「有害事象に対する支持療法の介入」のうち、継続
処方漏れなどを除いた新規処方提案などの介入対象
となった 137 件における有害事象の内訳は、「悪心・
嘔吐」39.4%(53 件)
、「便秘」14.6%(20 件)
、「末
梢神経障害」5.1%(6 件)、
「皮膚障害」5.1%、
「急性
図 1 がん種別化学療法施行件数の内訳(n = 11,568)
過敏症」4.4%であり、悪心・嘔吐に対する支持療法
薬を医師へ処方提案する内容が最も多かった
(図 3)。
116
Dec-13
Oct-13
① 患者背景
Nov-13
Jul-13
Sep-13
Aug-13
Apr-13
Jun-13
May-13
Jan-13
Feb-13
Mar-13
Oct-12
Dec-12
Nov-12
Jul-12
Sep-12
Aug-12
Apr-12
Jun-12
Mar-12
May-12
Jan-12
Dec-11
Feb-12
Oct-11
Sep-11
Nov-11
Jul-11
Jun-11
Aug-11
Apr-11
Mar-11
Jan-11
3. 結果
May-11
13 11 13 10 12 11 13 11 12 10 9 11 10 9 15 10 12 9 12
4 8 6 10 10 10 10 11 8 9 9 8 7 7 11 10 9
0
Feb-11
した。
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
「治療に関する介入」について、その具体的な内訳
は、
「治療薬の処方漏れ」22.5%(18 件)
、
「投与スケ
ジュール」10%(8 件)、「投与量変更」26.3%(21
患者指導
14%
件)
、
「投与手技・投与方法」15%(12 件)
、
「患者指
導」13.8%(11 件)
、
「レジメン継続・変更」7.5%(6
その他
レジメン 5%
継続・変更
8%
投与
スケジュール
10%
投与手技・
投与方法
15%
件)であった(図 4)。
以上のとおり、有害事象を回避、軽減するための
治療薬の
処方漏れ
22%
投与量変更
26%
支持療法における薬学的介入が多いことから、保険
薬局薬剤師が患者に面談、指導するにあたっては、
自覚症状の聴取と観察が重要であり、適切な治療薬
が処方されているか、服薬コンプライアンスは良好
図 4 治療に関する薬学的介入の内訳(n=80)
か、服薬に対する不安などがないか、アプローチし
ていくことも必要であると示唆された。
4. 考察
表 1 薬学的介入の内訳
今回我々は、外来がん化学療法施行患者における
病院薬剤師の介入内容について調査し、がん治療を
受ける患者に対し、どのような視点で介入を行って
いるか、またその結果、保険薬局薬剤師に対して、
どのようにフィードバックし、理解度を高めていく
必要があるかを検討した。
介入内容の中で、最も多かったものは「有害事象
に対する支持療法の介入」であり、全介入件数の約
半数を占める結果となった。がん化学療法における
支持療法の発展は目覚ましいものの、その恩恵を十
分に受けるためには支持療法薬を適切に使用する必
要がある。入院と異なり、限られた時間の中で診療
を行う医師のみでは、有害事象の発現状況の把握は
時に困難であり、薬剤師が面談時に症状確認・聴取を
行うことで、見落とされている症状に気づく可能性
があり、その結果を反映していると考える。有害事
象に対する支持療法については、
国内・海外ガイドラ
イン、適正使用ガイドなどが出版されているため、
これらを利用することも、適切な薬学的介入の一助
となり得ると思われる。
図 3 有害事象の内訳(n=137)
また、病院から保険薬局に提供すべき情報として
は、今回の調査結果を反映させたものである必要が
あると考えている。その情報の共有手段としてはお
薬手帳の活用などが多くの施設で報告されているが
7)-9)、
お薬手帳の患者持参率は決して高くなく記載内
117
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
容もかなり制限される。当院では、図のような患者
指導ツールを用いて、薬剤師間または他職種間での
情報共有を図っている(図 5)。このようなツールは、
院内・院外におけるシームレスな介入を目的とした
3)
4)
情報提供ツールとしても活用出来る可能性がある。
今後さらなる改善を行い、IT を駆使した新しいツー
5)
ル(cloud など)を検討していく必要があると思われ
る。
6)
7)
8)
9)
図 5 患者指導ツール
保険薬局では、患者の治療内容を知る術が処方箋
しかなく、
がん患者の服薬指導に不安を抱えており、
情報共有の必要性を強く感じている。我々病院薬剤
師は、今回の調査結果を踏まえ、院内で実施されて
いる支持療法セットの内容公開、生じやすい有害事
象などを記載したシートなどを IT 等を用いて作成
し、院外に発信できるようなシステムを構築するな
どの手段を検討していく必要がある。今後も合同研
修会等を通して、保険薬局のニーズに即したアプロ
ーチを推し進めていく必要があると考える。
引用文献
1)
2)
山下真紀, 三津家真由実, 中村代史子ら :当院
の外来化学療法室の取り組み. 癌と化学療法,
37, 1617-1621. (2010)
窪田和弘, 藤巻眞弓, 大久保吉弘ら :がん化学
療法における薬剤師のアプローチ 薬剤師が
118
説明にかかわる有効性. 日本病院薬剤師会雑
誌, 43, 387-389. (2007)
井上忠夫:癌化学療法における薬剤師の役割.
Jpn. J. Cancer Chemother, 31, 11-16. (2004)
中田栄子, 折井孝男, 榊原賢一郎ら : 婦人科
病棟における癌化学療法時の薬剤師の関わり.
医薬ジャーナル, 38, 1814-1820. (2002)
松久哲章, 江口久恵:病院・保険薬局間で患者
情報を共有化する. 薬局, 61(11), 96-97. (2010)
髙橋 郷、小川 千晶、日浦 寿美子ら:がん治
療における薬薬連携の意義と課題の検討 フ
ァーマコカンファレンス城南アンケート調査
より:日本臨床腫瘍薬学会 学術大会 2014
縄田修一, 橋本真也, 佐々木琢也: 外来化学療
法における薬薬連携 お薬手帳を利用した情
報共有の取り組み. Pharma Scope, 8, 9-10.
(2010)
須藤 正朝, 森井 博朗, 阪中 美紀ら:外来がん
化学療法における服薬指導業務の導入とその
効果. 医療薬学.39 巻 2 号 P.77-84(2013.02)
浅子 恵利:お薬手帳(薬薬連携)で行う患者指導.
薬事.51 巻 13 号 P.1975-1980(2009.12)
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
練馬医 療連携 ネ ットワ ーク構 築 から 2 年 間の 実 績
2-Years Results after Establish and Management of Nerima Medical Network System
栗原直人、大野麻耶、野村繁之、小谷野圭子、井上聡、柳川達生、飯田修平
公益財団法人東京都医療保健協会
練馬総合病院
要約
練 馬 総 合 病 院 は 、H24 年 4 月 か ら 地 域 連 携 医 療 機 関 を 結 ぶ「 練 馬 医 療 連 携 ネ ッ ト ワ ー ク 」
を構築した。連携する医療機関の医師が患者の承諾を得た上で、練馬総合病院への診療・
検査予約、および、検査・診療後の患者の画像データや診療情報等を円滑かつ迅速に閲覧
できることを目的とした。本システムの特徴は、①地域医療機関に初期および月額維持費
用が掛からないこと、②紹介患者の検査結果や画像などの診療情報がいつでも閲覧可能な
こと、③いつでも検査・診察予約が可能なこと、④経過報告書作成をメールで連絡するこ
とである。予約手順は①患者登録、②検査予約、③予約表の印刷、④診療情報提供書 の作
成 、 ⑤ 予 約 完 了 の 自 動 メ ー ル 送 信 で あ る 。 地 域 医 療 機 関 は 24 時 間 、 特 に 週 末 や 時 間 外 に
予約が可能となった。画像結果は検査終了直後から閲覧可能である。読影終了後検査結果
を 登 録 す る と 、紹 介 医 療 機 関 に G-mail で 案 内 し 、紹 介 医 は 検 査 の 読 影 結 果 を 確 認 で き る 。
本 シ ス テ ム を 運 用 開 始 か ら 2 年 経 過 し た 。 契 約 医 療 機 関 は 21 施 設 、 登 録 患 者 数 は 450
名を超えた。医療機関からの要望を反映して、予約スケジュールの改訂や診療情報登録の
簡 略 化 な ど を 改 善 し 、 継 続 し て 利 用 価 値 を 高 め て い る 。 本 シ ス テ ム の 構 築 に よ り 医 療 IT
を利用して、患者の医療情報の共有が可能となった。
Key words: 医 療 連 携 ネ ッ ト ワ ー ク ,
医 療 IT, 医 療 連 携
1.はじめに
能内視鏡の導入)、下部消化管内視鏡検査、
練馬総合病院は地域住民が地域によい病院
婦人科的3D検査、骨密度などの医療機器を地
を設立してほしいという希望の中、昭和23年3
域の医療機関が利用できるように 予約システ
月に開設した。平成24年4月から東京都知事か
ムを構築してきた。過去5年間に約2000医療機
ら公益財団法人の認可を受け、現在、急性期、
関から患者紹介があり、多くの医療機関との
224床 の 地 域 中 核 病 院と し て 地 域 医 療 機 関 と
連携を行っている。これらの医療機関から、
の連携強化につとめている。平成19年1月か
患者の紹介や検査の予約は、連携の窓口とな
ら新病院となり、外来診察はもとより、CT、M
る地域連携室を通して行い、診療内容や検査
RI, 超音波検査、上部消化管内視鏡検査(経
結果は報告書、診療情報提供書とともに検査
鼻内視鏡の導入やハイビジョンが可能な高性
結果およびCD-ROMに収録した画像データを
119
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
① 費用は練馬総合病院が負担するため地域医療
郵送している。
機関の初期および月額費用が掛からないこと、
一方、患者の診療情報共有の重要性は認識
されており、欧米では、医療制度(Health s
② 紹介患者の検査結果や画像などの診療情報が
ystem)の一部として、健康記録(EHR:Ele
いつでも閲覧可能なこと、
ctronic health record)の普及が推進されて
③ いつでも検査・診察予約が可能なこと、
おり、日本では政府IT政策としてi-Japan戦略
④ 経過報告書を作成したことをメールで連絡す
2015に医療・健康分野において地域の医師不
ること
である。
足への対応、地域医療連携や日本版EHRを達
成目標に挙げている。その方策の一つに医療
2-3 セキュリティ
機関間の情報連携の仕組みの整備がある。厚
生労働省は、日本の医療が抱える課題として、
以下の3つが特徴である。
高齢化に伴う医療需要・財政負担の増加と疾
① 通信は SSL で暗号化した。
病構造の変化をあげ、医療改革の方向性とし
② 診療所毎のログイン ID, パスワードを設定し
た。
て健康の維持増進・疾病の予防および早期発
③ あらかじめデジタル証明でクライアント認証し
見の促進、医療機能の分化・連携の推進、地
たパソコンを利用した。
域包括ケアシステムの構築を挙げ、解決する
手段として医療のICT化を進めている。特に医
3つの強固なセキュリティを確保し、各診療所で導
療情報ネットワークの普及・展開、在宅医療
入後に運用を開始した。
や介護連携の推進は重要な課題である。内閣
2-4 ネットワーク導入にむけての準備
官房IT総合戦略室の調べでは現在 160件の地
練馬医療連携ネットワークを導入するに向けて
域医療ネットワークが形成されている。練馬
総合病院では、H24年3月から地域連携医療機
の準備を以下に示す。
関からの検査予約、検査結果の閲覧などを24
① ネットワークの運用規定の作成
時間可能とした「練馬医慮連携ネットワーク」
② 診療所用および患者用説明書、ネットワーク利
用契約書、および承諾書などの書類作成
を構築し運用開始した。
今回、その構築と2年間の実績を報告する。
③ ネットワーク、予約システムの設計
④ ID-Link、予約システムの運用フロー作成
2.
『練馬医療連携ネットワーク』の構築と初期運用
⑤ ネットワーク説明会の開催
2-1 目的
⑥ 診療所へのシステム紹介・個人契約手続き
練馬総合病院と連携する医療施設に属する医師
2-5 内視鏡検査の予約および画像閲覧
等が練馬総合病院での医療用画像データ,患者情報
等を円滑かつ迅速に交換し,また医療施設から練馬
内視鏡検査は平成 23 年度の紹介医療機関約 160
総合病院への診療・検査予約手段を提供することを
施設、上部消化管内視鏡検査約 300 件、下部消化管
目的とした。
内視鏡検査約 200 件と実績があり、安定した検査予
約や結果報告を行っている。本ネットワークを用い
2-2 特徴
た検査予約・情報共有を内視鏡検査から始動するこ
「練馬医療連携ネットワーク」の特徴は、
ととした。
120
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
内視鏡検査の現状把握では、①予約システム:電
が可能であった。
話および診療情報提供書を FAX で受け取り、地域
診療所など地域連携医療機関からのアンケート
連携室が窓口となり予約する。②内視鏡検査:患者
では、「24 時間、特に週末や時間外に予約ができる
は検査当日担当医から説明を受けた後、検査を受け
こと」や「診療所で紹介患者の診療情報が確認でき
る.③結果の報告:地域連携室から約一週間後に読影
ること」が有用であると意見が出され、本システム
した検査結果を郵送する。患者は予約や検査結果の
の参加を希望された。
ために当院を来院せずに、紹介医から結果の説明を
受ける。以上のような検査の連携システムを構築し
3 診療・検査予約システムの構築
ている
3-1 診療・検査予約システムの開発
練馬医療連携ネットワークの予約手順は①患者
予約管理システムを独自に開発した。機能設計で
登録、②検査予約、③予約表の印刷、④診療情報提
は①検査種毎、診療科別、医師別の予約、②診療情
供書の作成、⑤検査予約完了の自動メール送付であ
報提供書の作成、
③予約票の印刷機能、
④予約管理、
る。診療情報提供書は短い診療時間内に作成するこ
⑤予約確認 ⑦メール機能 などを開発ベンダーに
とは臨床では困難であるため、予約登録後に 24 時
要求した。当初は内視鏡検査から開始し、①希望す
間いつでも作成可能とした。患者登録は初回検査予
る予約項目を選択、②希望日を選択、③患者情報を
約時におこなう。上部消化管内視鏡検査の予約枠は
入力して予約完了とした。ID-LINK と予約システム
午前 9 時から 12 時まで 30 分ごとに 6 枠とし、院内
の運用フローを作成し、院内予約システムとは連動
の内視鏡検査予約と混乱を避けるため独立させた。
しないため、地域連携室が登録・確認を行うことと
下部消化管内視鏡検査は前処置の問題があるため、
した(図1)
。
従来の地域連携室を介した予約方法でしばらく運用
3-2
することにし、本システム開設当初の運用は延期し
た。患者情報(検査結果、各種報告書、注射や処方
運用後の改善点
運用後に地域連携医療機関からの意見を参考に、
歴、画像など)の閲覧システムは ID-Link を利用し
以下の問題点を改善した。①予約項目の拡大 内視
た。検査および読影が終了し、結果の登録終了後に
鏡検査から開始した検査予約は、CT, MRI、超音波
紹介医療機関へ G-mail にて案内する。紹介医は検
検査、骨密度、3D 超音波など地域医療機関が利用
査結果を 24 時間いつでも閲覧可能である。内視鏡
している当院の医療機器の予約に拡大した。各科、
検査画像は、読影が終了していなくても、検査終了
各医師の診療予約を可能にした。③予約日までの日
直後からいつでも確認することできる。
数短縮化 運用当初予約可能期間は2週間前までで
あったが、「これでは電話のほうが早く予約できる」
2-5 地域連携医療機関からの意見
などの意見があり、各部門や医師と調整して最短2
本システムの運用を開始する前に第一回練馬医療
営業日前まで予約可能とした。これにより、週末に
連携ネットワーク連絡協議会や医療機関への個別訪
予約すれば最短で火曜日に検査を受けることができ
問をおこなった。地域医療機関のインターネット環
る。③操作性の改善 診療情報の患者基本情報入力
境を利用して、デモ患者登録から検査予約までの動
項目が多いとの意見があり、登録時の入力項目の簡
作確認、デモ患者の検査画像や検査結果、処方、報
素化を行った。④予約方法の改善 検査項目の選択
告書などの閲覧確認を行った。訪問した複数の医療
から予約する方法に、特定の希望日に複数の検査や
機関でシステムは正常に作動し、予約、画像の閲覧
診療が予約できる機能を追加した。
121
IT ヘルスケア
4
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
運用実績
果の共有、薬剤の使用情報、栄養管理などの医療情
契約した医療機関は H26 年4月までに 21 医療機関
報を必要に応じて 24 時間確認することが可能とな
(20 診療所、1病院)である。登録患者数は 450
るため利用価値が高いと考えられる。今後、厚生労
例である(図2)
。24 時間予約可能なため、週末や
働省が進める在宅医療推進、医療と介護の連携、地
平日の早朝や電話がつながりにくい時間帯の利用が
域包括システムの構築に向けて、本ネットワークの
多くみとめられた。一方、項目別予約利用率では内
更なる活用に努める。
視鏡検査 66%,CT14%、MRI12%であった。
練馬医療連携ネットワーク運用開始後、実際に運
4.最後に
用いただいている医療機関と、本ネットワークの現
患者の診療情報を鍵にした医療連携は今後益々
状、実際の運用状況、改善希望点などの意見交換す
重要となる。多職種連携、在宅医療を推進するため
るため、連絡協議会を年一回開催している。H25 年
には医療 IT を積極的に進める必要がある。今回、
3 月第2回連絡協議会では画像利用の有効利用や予
診療や検査予約などの医療連携や患者情報の共有利
約方法の追加や診療情報提供書の簡略化について説
用として我々が構築した「練馬医療連携ネットワー
明し、利用が簡単になったことを報告した。院外 13
ク」について報告した。病院および地域の医療機関
施設、院内外あわせて 50 名が参加した。H26 年3
が患者の診療情報を共有するシステムは、医療連携
月第3回連絡協議会では現在の運用状況、厚生労働
を充実させる上で意義が大きい。本ネットワークの
省での事業報告、練馬医療連携ネットワークに加え
利用を広げ、患者の利便性を向上し、地域医療に貢
て、災害時のカルテ保全事業として練馬医療情報保
献できるように活動を継続する。
全ネットワークの運用状況などについても報告し、
予約システムとID-LINKの運用フロー作成
意見交換をおこなった。院外8施設、院内外あわせ
予約システム
診療所
て 40 名が参加した。
診療・検査予約の
必要性を判断
ID-LINK
院内システム
医療機関へのアンケート結果は①診療に利用で
予約項目・日時の入力
当院
予約完了の自動メール送信
患者基本情報の登録
きる。②時間外で予約がとれる。③患者情報を利用
ID-LINK登録の
同意書取得
する。④継続した診療が行える。⑤十分に使いこな
予約票印刷
院内予約システムに登録
診療情報提供書作成
同意書を当院に
FAX
ID-LINKに患者登録
していないことがわかり、利用法について参考にな
検査・診察
読影結果を入力
った。などの意見がみとめられた。また、診療所や
読影結果が出たことを紹介
元にG-mailで自動連絡
ID-LINKで結果参照
在宅で検査画像を見せながら患者に説明しているな
図1予約システムとID―Linkの運用フロー
ど実際の運用についての報告があった。特に画像は
検査直後から閲覧可能ため意義が高い。
練馬医療連携ネットワーク登録患者数の推移
500
450
5 今後の展望
400
地域医療連携は病診連携、病病連携、病薬(病院
350
300
と薬局)連携、病看連携(病院と訪問看護ステーシ
250
200
ョン)など様々な形態が考えられる。今回、練馬医
150
100
療連携ネットワークは病診連携から開始した。患者
ワーク」は、入院・外来における画像検査や採血結
4月
3月
2月
1月
12月
11月
9月
8月
10月
7月
6月
5月
4月
3月
2月
1月
12月
11月
9月
8月
10月
7月
6月
5月
0
4月
50
の医療情報共有ツールとして「練馬医療連携ネット
図2練馬医療連携ネットワーク登録患者の推移
122
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
名古屋医療センターにおける地域医療連携システム
―
2 回のバージョンアップの結果は―
佐藤智太郎
1)
2)
1)
真 子 2 )、 山 田
、梶田
国立病院機構名古屋医療センター
同
安貢2)
医療情報管理部
地域医療連携室
要約
当 院 で は 2009 年 9 月 に オ ー ダ リ ン グ か ら 電 子 カ ル テ シ ス テ ム へ の 変 更 を 行 い 、そ れ か ら
2 カ 月 後 に パ ッ ケ ー ジ 型 の カ ル テ 閲 覧 シ ス テ ム 「 HOPE 地 域 連 携 」 を 稼 働 さ せ た 。 こ れ は 院
外から電子カルテを閲覧させる施設が少なかった当時としてはかなりユニークなシステム
で 、PACS 画 像 の 参 照 や 、閲 覧 画 面 の レ イ ア ウ ト な ど に 特 徴 が あ っ た が 、当 時 の ユ ー ザ ー ア
ンケートでは使いやすいとの評価は必ずしも多くなかった。その後、 N 対 N 連携対応のシ
ス テ ム ( HumanBridge V3) を 追 加 導 入 し 、 既 存 ユ ー ザ の た め 2 つ の シ ス テ ム を 並 行 稼 働 し
た 。さ ら に 、電 子 カ ル テ デ ー タ の 遠 隔 地 バ ッ ク ア ッ プ 機 能 の 追 加 の た め V4 へ の バ ー ジ ョ ン
ア ッ プ を 行 い 、初 期 の シ ス テ ム は 停 止 し た 。現 在 の ユ ー ザ ー は 65 施 設 、月 間 ア ク セ ス 数 は
220 件 前 後 で あ る 。 当 院 と 連 携 し て い る 登 録 医 の う ち 、 電 子 カ ル テ 参 照 施 設 は そ の う ち の
約 6% と な る 。2 度 の 更 新 で 画 面 は わ か り や す く な り 、放 射 線 画 像 も よ り 視 認 し や す く な っ
た 。最 近 行 っ た ユ ー ザ ア ン ケ ー ト で は 、操 作 し や す い と の 回 答 が 76% を 占 め 、大 幅 な 改 善
がみられた。3 年間で進歩の著しかった当院における 3 つのバージョンを比較した。
【はじめに】
で自院の電子カルテを閲覧させる「HOPE地域連携」
地域医療連携が重要であることは言を待たな
を2カ月遅れで「金鯱メディネット」の愛称で稼働
いが、その具体的な方向には様々な考え方がみら
させた。2011年3月には、厚労省の平成22年度補助
れる。電子カルテの普及に伴い、紹介や逆紹介等
金事業として複数の拠点病院とそれぞれに関連
の患者の動きに従って医療情報を電子的に共有
する診療所などをネットワークで結ぶN対N連
する考え方が徐々に拡大してきており、当院でも
携に対応する「HumanBridge V3」を2代目として
オーダリングから電子カルテへの変更に伴って、
導入し、初代の「HOPE地域連携」としばらく並行
2009年11月にパッケージ型のカルテ閲覧システム
運用した。この2代めのV3により、N対N連携を
を導入した。その後のニーズの変化に伴い、2013年3
進めることに関して、近隣の拠点病院や医師会と
月には3つ目のシステムに更新を行った。
この間の地
話し合いができるようになった。さらに、2013年
域医療連携システム変更の状況を報告する。
3 月 に は 集 団 で の 医 療 情 報 BCP(Business
【方法】
Continuity Plan)をめざす平成24年度厚労省補助
当院は2003年6月に導入した某社のオーダリン
金事業のため、V3を現在の「 HumanBridge V4」
グシステムを2009年9月に富士通の電子カルテシ
にバージョンアップして現在に至っている。
ステムに変更した。その際、インターネット経由
【結果】
123
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
「金鯱メディネット」稼働後、利用施設は順調
院でも議論の末、地域の拠点病院が単独で周囲の
に伸び(図1)、2014年3月現在65施設となってい
診療所と連携するいわゆる1対N連携から、あじ
る。ただし、この中で週に1回以上当院のカルテ
さいネット1)に代表されるN対N連携へ対応する
を閲覧しているユーザー医師はおよそ20施設に
ことになった。隣接する医療機関でも同様の動き
とどまっている。
があり、「HumanBridge V3」の稼働を数カ月後に
初代の「HOPE地域連携」稼働から間もない2010
控えた2010年12月には、「愛知メディカルレコー
年2月から3月に行った利用者アンケート(28施設
ドネットワーク研究会」を当院と近隣の4病院で
中46%より回答)
(図2)では、診療に利用してい
発足させることができた。
る施設は46%(「全くそうだ」と「そうだ」の合
この研究会は徐々に拡大をみせ、さらに平成24
計)、役に立つという回答は57%(同)であった
年度からは「 HumanBridge V4」を活用した、研
が、操作しやすいとの答えは16%(同)にとどま
究会メンバー6病院でのBCP事業2)3)が開始されて
っていた。これが、現行の「HumanBridge V4」に
現在まで継続している。当院においては、3回の
変更してからのユーザーアンケートでは、操作し
地域連携システムの変更で、当初の目的であった
やすいとの答えが76%となり大幅に増加した。
「1対Nの病診連携」は、
「N対Nの地域連携を目
【考察】
指すための地域研究会の設立」更には「電子カル
最初に導入した「HOPE地域連携」はその後の
テデータの災害に備えたバックアップ」や「他の
「HumanBridge V3」
「 HumanBridge V4」に比較し、
拠点病院とのデータ連携および相互援助」に必須
・画面レイアウトが独特でアイコンが少なく、直
のツールへと変化した。特に2011年3月の東日本
感的な操作になじみにくい。
大震災をきっかけに、「院外からの電子カルテ閲
・閲覧できるデータは、地域連携サーバーへのデ
覧」から、「災害時の相互援助まで含めた広い地
ータ転送の時刻の制約から大半は前日のもので
域の医療情報バンク」へのデータアクセスツール
あった。
へと目的が大きく変化した感がある。
・当初は放射線画像をPACSサーバーから地域連携
今後、医療情報の集約化と閲覧端末のタブレッ
サーバー経由で閲覧することがやや困難であっ
ト等での分散化が進むなか、セキュリティを確保
た。
しつつ、あまねく情報を活用するために「地域連
・1対N連携のみに対応している。
携に関するネットワークシステム」が今後もさら
などの特徴があったが、病院外から電子カルテを
に進化することを期待したい。
そのまま閲覧できるという、当時としては画期的
な機能であったため、意見交換会などでは連携医
【文献】
療機関からおおむね好評であった。稼働開始直後
1)木村博典、病院 CIO による医療情報化イノベ
には、当院において下肢骨折の緊急手術を行った
ーション、図書印刷、東京、2011。
患者に関してかかりつけの内科医師からリハビ
2)佐藤智太郎、クラウドを利用した医療情報シ
リテーションについてアドバイスを受けるなど、
ステムの BCP 対策、映像情報メディカル、(印刷
病診連携を強化する目的は達せられたと感じら
中)、2014。
れた。この事例があってからは、近隣の医療機関
3)佐藤智太郎、愛知メディカル BCP ネットワー
に自信をもって接続を勧めるることができ、接続
クによる災害時の情報連携、ITvision、
(印刷中)、
数も増加していった。
2014。
「HOPE地域連携」が稼働してわずか数カ月後に
は厚労省の平成22年度補助金事業が公募され、当
124
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
図 1
図 2
125
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
認知症ケア高度化のための顔が見える
知識映像コンテンツの構築
石川翔吾 1)、柴田健一 1)、神谷直輝 1)、エーニンプインアウン 1)、
田中とも江 2)、上野秀樹 3,4)、竹林洋一 1)
1)静岡大学、2)ケアホーム西大井こうほうえん、
3)海上寮療養所、4)桜新町アーバンクリニック
要約
本発表では,認知症ケア高度化のための顔が見える知識映像コンテンツについて述べる.認知症ケアを
持続的に学ぶために,認知症ケア知識創造サイクルにより認知症に関するマルチモーダル情報を結びつ
けて知識構造を設計し,知識映像コンテンツを構築した.構築したコンテンツは,筆者らが運営する認
知症ケア支援サービス:認知症アシストフォーラム(https://ninchisho-assist.jp/)から提供される.
対話型コンテンツ,意味ネットワーク型コンテンツの 2 種類のコンテンツを開発した.コンテンツの視
聴評価の結果,認知症ケアの学習に有効であることが示された.また,提案する知識創造サイクルによ
って,認知症の知識を深化成長させることができる見通しが得られた.
フォーラム(https://ninchisho-assist.jp/)を運営し,
1.はじめに
認知症に関する知識を蓄積してきた[5].
超高齢社会に突入し,高齢化が主要因である認知
本稿では,認知症を学習するための知識映像コン
症は喫緊の課題である.認知症は誰もがなる可能性
テンツの構築アプローチを示し,ケア高度化への有
があるが,初期の段階から認知症のことを理解し,
効性について述べる.
適切な対応をすることでその人らしい生活をできる
2.専門家と現場の相互作用による認知症ケ
だけ長く持続できることが分かってきた.
そのため,
ア知識創造サイクル
地域での認知症支援活動が盛んとなってきており,
2.1.認知症ケアアシストサービス
成果も現れ始めている[1].しかし,このような取り
認知症は医師,看護師,介護福祉士,家族,本人
組みは属施設的,属地域的になりがちであり,横展
が協同する場であるため,立場や状況に適切な知識
開しにくいのが現状である.
を提供し,同等に議論できる場の設計が必須である.
一方,インターネット上では種々の認知症に関す
筆者らが運営する認知症アシストフォーラムは,3
る情報が提供されており,誰もが認知症に関する情
段階のユーザ種別を設け,1)コンテンツ視聴のみ,
報を容易に取得することができる[2].認知症に関す
2)立場や状況に応じた学びの促進,3)認知症知識の
る事例から認知症に関するケア方法に関する知見を
発展に積極的にかかわることのできる環境を設計し
収集し体系化するためのシステムや[3],認知症の行
た.
各段階の共通の目標を持つユーザをアシストし,
動・心理症状を分析するプロセスをシリアスゲーム
認知症に関する知を深化成長させていくことが本フ
とした学習環境の構築も進められている[4].しかし, ォーラムの狙いである.2013 年 8 月の稼働から
認知症は未解明な部分も多く,持続的に知識を発展
2014 年 4 月までに,会員登録数が 343 名,訪問数
させていくことが必要である.このような観点から
13,291 名,85,639 ページビューの実績が得られて
我々は,持続的に認知症について学び,知を育んで
いる.本稿では,第 2 段階目のユーザを対象にコン
いくためのプラットフォームである認知症アシスト
テンツを提供した結果について示す.
126
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
田中 とも江
2.2.認知症ケア知識深化成長サイクル
本研究では,継続的に認知症に関する知を創出し,
発展させていくマルチモーダル認知症コーパスを機
拘束廃止運動を主導し,拘束の要
因となりやすい排泄ケアを提案.
玉井 顯
初期集中支援チームを結成し,情
軸とした認知症知識創造サイクル(図 1)によりコ
報端末を活用したコメディカル
ンテンツを開発していく.認知症の課題は If-then
システムを開発・運用している.
レベルで対処できるものではなく,そもそも未解明
本田 美和子
なことも多く,ある状況下のある認知症の人にはど
ユマニチュード日本支部長であ
り,日本における普及に尽力.
ういうケアをすべきかを考える力が必要である.本
サイクルは,コーパスを基軸に現場と専門家の相互
2.3.マルチモーダル知識映像コンテンツ管理システ
作用から認知症に関する知を生み出す仕組みである.
ム
図 1 右側のサイクルは,さまざまな専門家が認知
コンテンツの配信と視聴者からのフィードバッ
症に対する知識を創り出すことを表している.また
クによって継続的にコンテンツを提供,発展させる
表1に連携する専門家と特徴ついて示す.図 1 左側
ための知識映像コンテンツ管理システムを開発した.
のサイクルは,その知識の構造を利用した知識コン
専門家には映像コンテンツによる情報,視聴者から
テンツを現場の人が視聴し,学習,実践を行うこと
はコンテンツへのコメントや視聴ログをコーパスへ
を表している.本サイクルをまわすことによって,
の入力と見なし,コンテンツの構造を発展させるこ
持続的に未解明な知識を創出し,実践・評価を継続
とが可能である.映像や画像に付与されるヘッダ情
的に行うことで知識を体系化することが可能である.
報や,コンテンツのアクセスログは構造が一意に定
まらないため,NoSQL サーバの MongoDB を用い
て管理している.コンテンツの配信は Windows
server 2008 R2 上の認知症支援サービスの一部と
して提供される.アクセスログは,全文検索エンジ
ンの Elasticsearch から可視化ツールの Kibana へ
連動して解析することが可能である.
3.マルチモーダル情報を利用した認知症知識
映像コンテンツ
図1.認知症知識創造サイクル
3.1.対話型知識映像コンテンツ
問題形式の対話型知識映像コンテンツを構築し
た(図 2).本コンテツは,現場で問題となった状況
表1.認知症ケア支援サービスを支える専門家
を提示し,そのケア方法について回答してもらい,
専門家
特徴
ケアの効果について解説するというシナリオで構成
Yves Gineste
人の尊厳を重視した認知症ケア
されている.本コンテンツの特徴は,コーパスに蓄
技法ユマニチュード創設者.
積されているマルチモーダル情報を組み合わせて,
精神科医療の型を破り,訪問診療
シナリオモデルによって制御し,回答内容に応じて
を立ち上げ.
対話的にコンテンツを提示している点である.
上野 秀樹
加藤 忠相
小規模多機能型居宅介護事業を
展開し,認知症の人が地域で活躍
できる場をデザイン.
127
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
ADL と,映像に現れるキーワードをタグとして設計
(表 3)し,それぞれのマルチモーダル情報の関係
を表現した.それらの観点とキーワードを手がかり
に映像コンテンツをフィルタリングし,グループを
生成する.次に,グループ間の関係性を意味ネット
ワークとして人手で関連付ける.意味関係タグにつ
図 2.対話型知識映像コンテンツの例
いては,専門家とのカンファレンスにより,専門職
は方法だけではなくなぜこの方法を使うのか
(目標),
3.2.マルチモーダル情報提示の効果
医療従事者,及び医療系学生 6 名,情報系学生 6
問題だと考える状況をどのように捉えればよいか
名を対象にコンテンツの視聴評価実験を実施した.
(考え方)を発展的に考える必要があることが見出
制作したコンテンツを視聴してもらい,その後コン
された[5].そこで,意味関係の表現に表 3 に示す 5
テツに関する Web アンケート調査を行った.結果を
つのタグを活用し,グルーピングされた映像群に対
表 2 に示す.結果から,情報量が豊富である映像コ
し,意味関係タグを主観的に付与し木構造で関係性
ンテンツによって気づきにつながる結果が得られ,
を表現した.
専門家の解説を理解することを支援し,スキルの向
意味ネットワークは,Web アプリケーションにお
上に貢献できることが示唆された.また,自由記述
けるデータの軽さ,処理の容易さ,表現能力を考慮
欄より,
「ケアの手順を細かく記載してあり,映像と
して,JSON 形式で表現した.全 255 中 47 の映像
リンクしている点が良いと思った」
,
「ポイントが明
解説に対して 18 の関連情報 JSON ファイルを生成
示的に示されていた」というポジティブな意見が得
した.
表 3.意味ネットワークを表現するためのタグ
られた.一方,
「内容が分かりにくい」という意見も
あり,個人適応型のコンテンツ提示につながる意見
観点
タグ
も得られた.
ADL
食事,排泄,清潔,起床,
表 2.コンテンツ視聴アンケート結果
アクティビティ
平均
映像から抽出される
尊厳,叩く,おむつ,ベッ
(5 点満点)
キーワード
ド,拘束,事例,他
新たに気づいた点の有無
4.1
映像間の意味関係
目標,考え方,ケア方法,
ケア現場での活用の可能性
4.3
タグ
事例,事例の詳細
コンテンツの難易度
3.9
4.2.意味ネットワーク型知識映像コンテンツ
コンテンツの流れ
3.8
意味ネットワーク型知識映像コンテンツを開発
映像の横のテキスト解説は
4.8
した.映像コンテンツ間の関係を視覚的に確認しな
アンケート質問項目
がら視聴することができる.図 3 は,拘束が起こる
役に立ちますか?
要因を起点として,拘束しないための目標,方法,
4.多様な専門家の解説映像の関係を表現した
事例の詳細,目標を達成するための考え方を関係性
コンテンツ
として表現したものである.ノード間の関係性を記
述した JSON データを可視化するためのライブラ
4.1.解説映像間の関係性の表現
リとして D3.js を使って実現している.視聴者は見
関係性を表現するために,認知症の人の生活全般
たいノードをクリックすることで,映像を視聴する
に関わり拘束にもつながる排泄ケアに着目して 2 段
ことができる.18 のコンテンツを筆者らが運営して
階で関連付けを行った.まず,排泄ケアにおける
128
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
いる認知症支援サービスで提供している.
(全体)
図 5.関係グラフのノードをクリックした割合
(ユーザ A:左,ユーザ B:右)
5.おわりに
図 3.意味ネットワーク型知識映像コンテンツ
コーパスに基づくコンテンツ生成手法は,認知症
の知識を深化成長させるために有効であることが示
4.3.意味関係表現コンテンツの視聴評価
筆者らの認知症ケア支援サービスに登録したユ
された.また,顔の見える信頼できる知識映像コン
ーザに対して,
構築したコンテンツを Web 上で提供
テンツによって,専門家同士の関係性が可視化され,
した結果について示す.2013 年 12 月から 2014 年
認知症の学びを促進することが示唆された.
今後は,
4 月までの間に 66 人のユーザがコンテンツを視聴
継続的なサービス運営により認知症学習ライフログ
した.図 4 は,ノードをクリックした数の割合を平
を収集し,認知症の知識を深化成長させていく.
均したものである.5 つの観点が同程度アクセスさ
れていることが示されている.単体のコンテンツで
引用文献
視聴を終了するのではなく,関連するコンテンツに
1) 東内京一:介護予防における保険者の公的責任-和光市
アクセスして映像を視聴したことが現れている.関
の取り組み,公衆衛生, 73(4), pp.253-259, 2009.
連するコンテンツを視聴する際にネットワーク図が
2)ひもときねっと:http://www.dcnet.gr.jp/retrieve/
利用され,本コンテンツが認知症の学びに有効であ
3) BPSD register: http://www.bpsd.se/in-english/
ることが示唆された.一方,個別レベルの解析では
4) N. Maiden, S. D'Souza, S. Jones, et al.: Computing
図 5 に示すようにノードをクリックした割合に偏り
Technologies for Reflective, Creative Care of People with
が見られた.ユーザ A は,考え方のグラフを中心に
Dementia,Communications of the ACM, Vol.56 No.11,
視聴しており,一方ユーザ B は方法を中心に視聴し
pp.60-67, 2013.
ていることが分かる.ユーザごとの視聴行動を取得
5)石川翔吾,神谷直輝,エーニンプインアウン,他:多様
することによって,ユーザの状況や特徴に適応した
なユーザの要求に応える認知症知識コンテンツの共創,HIシ
適切なコンテンツ提示システムに発展することが可
ンポジウム2013,pp.549-552,2013.
能である.
図 4.関係グラフのノードをクリックした割合
129
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
高次脳機能障害に対応した日常生活支援アプリの考察
九鬼隆章※、池田茂※※
※ 株式会社インサイト 代表取締役社長
※※ 株式会社インサイト システム事業部
要約
事故や脳血管障害に起因する脳損傷が惹き起こす様々な神経心理学的症状(記憶障害、注意障害、遂
行機能障害、失語、社会的行動障害など)により、日常生活や社会生活に制約がある状態を高次脳機能
障害 1)という。発症者はこれらの制約により自立生活が困難となるため、長期間に亘る家庭や関係機関
の支援が必要となる。本研究では、発症者や家族がその地域で安心して自立した生活を過ごせるよう、
障害された注意機能、記憶機能、遂行機能の補綴手段として支援機器「あらた」を開発した。本機器は
所定の日時になると音声、文字、アラーム音で行動を促し、その行動の際に必要な項目を一つひとつ確
認させることで行動の確実な実施を支援するものである。5都県の発症者の協力で実証実験を実施し、
発症者の自立生活向上および家族の心理的負担の軽減効果を確認した。
改善効果を評価した。
1.はじめに、
なお、本研究開発は厚生労働省平成25年度障害
高次脳機能障害の発症数は平成20年(2008年)
に東京都で実施された調査によると、東京都内の
者自立支援機器等開発促進事業で実施したもの
である。
高次脳機能障がい者総数は49,508人と推計され、
ここから全国の発症者数は約50万人と推計2)され
2.システム概要
ている。これら発症者は記憶、注意、遂行機能な
本研究では、日常生活のリズムを確立し、生活
どの障害に起因する様々な症状により、日常生活
管理能力が向上することを目標に以下の機能を
を送る上で多くの困難を抱えている。
開発した。本研究で対象とする高次脳機能障害の
発症者の日常生活で生じる障害の補綴手段と
症状は記憶障害、注意障害、遂行機能障害である。
して手帳やメモが利用されるが、どこに書いたか
脳血管障害を原因疾患とする高次脳機能障害
わからない、日付と実行予定が一致しないなどの
で多くみられる失語については、今後の機能改善
問題があった。
時の対応とした。
本研究では、神戸大学大学院保健学研究科種村
(1)スケジュール機能
研究室の指導の下、これらの問題の解決手段とし
日課に沿った生活リズムを掴めるように、1日
てタブレット端末を活用した生活支援機器を開
の日課を分かり易く表示する。所定の日課を始め
発し、兵庫県、岡山県、東京都など5都県の発症
る時刻になるとその日課を文字表示し、アラーム
者の協力を得て実証実験を行った。本機器は、発
音とともに声掛け誘導することにより行動を促
症者の自立生活向上および家族の心理的負担の
す。また同時にその時にしなければならない項目
軽減を目指すものである。
が一覧表示され、1項目毎の確認操作により行動
日常生活における補綴評価指標として、「アン
忘れを防止する。なお、日課・スケジュールの立
ケートによる機器の使用感・満足度」を設定した。
案や、機器への組み込みが困難な発症者について
併せて機器使用前後で神経心理検査を実施し、
は、家族などの介護者がスケジュールを登録する
130
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
ようにした。
スケジュール画面例を図1に示す。
図4 日付指定のメモ表示例
写真メモ機能では、タブレット端末で撮影した
図1 スケジュール画面例
写真に表題やコメントを紐付けて登録できる。写
確認項目の表示例を図2に示す。
真と名前を紐付けることにより、顔を見ても名前
が分からない、或いは名前は覚えているが顔が分
からないといった記憶障害の補綴手段を提供す
る。また、本機能にシークレット機能を付与して、
貴重品の保管場所を写真やメモで記録できるよ
うにした。
図5に顔写真メモ表示例を示す。
図2 確認項目の表示例
(2)メモ機能
記憶障害の補綴手段として、手書きメモ機能と
写真メモ機能を用意した。
手書きメモ機能では、メモが必要になるとメモ
用紙と同じ操作で、タブレット端末画面に手書き
図5 顔写真メモ表示例
メモを取れるようにした。このメモは、メモ一覧
で参照することが可能である。
3.モニター評価結果
また、メモを日付指定で登録した場合、その日
対象者は頭部外傷や脳血管障害後に高次脳機
が来ると、確認すべきメモがある旨を点滅して通
能障害を有した19例である。内訳は男性14例、女
知する。
性5例、平均年齢47.1±13.9歳、疾患は、頭部外
メモ作成画面例を図3に、日付指定メモ表示例
傷9例、脳出血3例、多発性脳梗塞1例、くも膜下
を図4に示す。
出血3例、神経膠腫1例、サリン中毒1例、低酸素
脳症1例であった。各症例の高次脳機能障害の内
容を表1に示した。対象者の居住地域は、岡山県、
兵庫県、滋賀県、東京都、静岡県である。
図3 メモ作成画面例
131
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
表1 対象者の内訳
図7 アンケート結果②
支援機器についての全体的な意見
当事者からは、「小さくなってよいが、持ち運
びがしやすいようにカメラの位置を変えて欲し
い」「効率よく予定が進むようになり、今後も続
けていく」などの意見があった。
家族からは、
「ペンでの手書きがよかった」
「人
によって必要のない機能があるので個人に最適
な表示があればよい」「1ヶ月のスケジュール、
メモ、カメラ、ゲームが出来、入力方法も簡単で
よい」「1ヶ月のスケジュールが一目で分かる様
上記の19例に、2013年11月~2014年2月の期間
になると良い」
「時間入力がしやすい」
「本人が電
に約1ヶ月間「あらた」を試用してもらい、うち
源を切ったりタブレットを全く見なかったりす
16例にたいして使用後のアンケート、および神経
る」などの意見があった。
心理検査を行った。
(1)アンケート結果
(2)神経心理検査結果
試用後、当事者と介護者に行ったアンケート結
「あらた」使用前後の神経心理検査結果を表2
果(抜粋)を示す。
に示す。認知機能の検査として、 Mini-Mental
この支援機器は役に立ちましたか?
State Examination (以下MMSE)、記憶の検査とし
「役に立った」
、
「ふつう」と合わせると当事者
て、リバミード行動記憶検査(以下RBMT)および
は79%、家族は82%と、ともに役立っていること
生活健忘チェックリスト(当事者、家族)、日常
がわかった。
の遂行機能アンケートであるThe Dysexecutive
Questionnaire(以下DEX、当事者、家族)を行った。
検定は、ウィルコクソン符号付き順位和検定にて
機器使用前後の有意差を見た。なお、症例3、1
7、18は、新たな補助手段は必要ない等の理由
に
図6 アンケート結果①
この支援機器を引き続き使いたい(使ってもら
いたい)ですか?
当事者の60%以上が継続使用を希望してお
り、また家族も50%以上が継続して使わせたい
と回答された。
132
よ
り
使
用
を
中
止
し
た
。
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
ら外出したくてトラブルのもとであったが、アラ
ームを待ち、確認してから外出できるようになっ
表2 機器使用前後の神経心理検査結果
てトラブルが減ったことなど、多くの感謝の言葉
を伺い、その評価を実感できた。
一方、Mini-Mental State Examination、リバ
ミ ー ド 行 動 記 憶 検 査 、 The Dysexecutive
Questionnaire(当事者、家族)を行ったが、使用
前後で有意差が見られなかった。
このような評価を実施する場合、一般的な実施
ウィルコクソン符号付き順位和検定
期間として通常3ヶ月程度の検査と言われるが、
*:P<
事業期間内にモニター評価実験を完了させる制
0.05
生活健忘チェックリスト(家族)では、機器使
約上から、今回モニター期間を1ヶ月としたこと
用前は33.8±16.8、機器使用後は37.3±18.1で有
による影響を受けた可能性が考えられる。
意な差は見られなかったが、生活健忘チェックリ
スト(当事者)では、機器使用前は27.6±10.6 、
5.まとめ
機器使用後は24.7±10.3で、機器使用後に有意に
本機器からの規則的な行動指示や記憶補完な
健忘が軽減したと感じていた。
(表2内の*印)
ど様々な行動補助により発症者の日常生活行動
機器使用前のMMSE得点は、24.3±4.6、機器使
を支援することが出来た。また発症者の自立に有
用後は23.9±5.4、記憶の評価ではRBMTプロフィ
効であるばかりではなく、家族の心理的負担の軽
ールは機器使用前10.5±6.9、機器使用後は11.9
減にも有効であった。
±7.1、RBMTスクリーニングは機器使用前は4.3±
なお、本機器は発症者の日常生活を支援するも
3.3、機器使用後は4.9±3.3、当事者のDEX得点で
のであり、家族や介護者の支えが前提である。そ
は、機器使用前は29.7±20.6、機器使用後が25.4
のためにも発症者、家族、介護者など関係者が喜
±17.5、家族のDEX得点は、機器使用前は42.2±
びを感じながら使って頂く仕組みや環境を構築
21.7、機器使用後は44.7±18.7であり、有意な差
することが今後の課題である。
は見られなかった。
6.参考文献
4.考察
1) http://www.rehab.go.jp/ 平成26年4月10日
神経心理検査結果において、生活健忘チェック
高次脳機能障害者支援の手引き 平成20年11月
リスト(当事者)については有意差があり、実
厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部国立障害
験終了後に健忘が軽減したとの結果が得られた。
者リハビリテーションセンター
またアンケートから、当事者および介護者の40%
2) 渡邉修, 山口武兼, 橋本圭司, 猪口雄二,
以上の方から本機器が役に立ったと回答されて
菅原誠: 東京都における高次脳機能障害者総数
いることから本機器の支援による改善効果が見
の推計. 日本リハビリテーション医学会誌
られたものと考えられる。ご家族からは口頭で本
46(2), 118-125, 2009.
人に直接言わなくてもタブレットに表示されて
いることに従ってくれるので助かっていること、
タイマー通知によりガスを使うときに目を離し
ても安心だったこと、予定時間の2~3時間前か
133
IT ヘルスケア 第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
STUDY ON REMOTE MONITORING FOR DEMENTIA CARE AT HOME
― Fighting Dementia in the Digital Age ―
Wang, Hsuan-Yao, Prof. Mitomo Hitoshi
Waseda University Graduate School of Asia-Pacific Studies
Research Background
the caregiver’s factors. (2) What factors affect the
Japan has the highest life expectancy rate in the
intention to use the remote monitoring services? (3)
world, and the status on Long-Term Care for the elderly
What are the key factors for future development of
is setting a benchmark for other nations to follow. As the
Remote Monitoring Services?
life expectancy prolonged, the Alzheimer’s disease will
Theoretical Framework and Methodology
become the medical and social problems which need the
The Delphi technique is a structured methodology
government to attach the great importance to it. It will be
that uses a series of questionnaires to gather information
the front burner of international society for how to enable
from pre-selected panel of experts, and the questioning
the caregivers to understand and take care the elderly
process continues until consensus has been reached
dementia, and furthermore to minimize their problematic
(Keeney et al., 2006). By means of the Delphi Method to
behaviors. Since the Long-Term Care Insurance (LTCI)
collect the opinions toward the utilization of Remote
of Japan was introduced in the year 2000, the number of
Monitoring Services for dementia elderly care from the
the people using in-home care services has increased up
panel members, it has been analyzed which specific
to date. One the other hand, due to the environment of
contributions by the services can improve both in
health care changed, people have higher expectations
caregiver and patient side, what is the future trend of the
toward health care service. With the maturity of using the
development and which obstacles need to be overcome
Information and Communication Technologies (ICT)
on the way towards realization.
such as Remote Monitoring Services to enhance the
This study applied the modified Delphi method
qualities of in-home elderly care has already become one
proposed by Murry & Hommons (1995) to achieve
of the emerging markets in Japan.
effective interactions within the panel members. The
Objectives and Research Questions
procedure and implementation of modified Delphi
The purpose of the study is to understand how the
method are basically similar to the traditional Delphi
Remote Monitoring Services can assist the caregivers to
method. Instead of using open-ended questionnaire in the
do dementia care at home or benefit from the utilization
first step, this study conducted from literature reviews
in both caregiver and dementia elderly side. Furthermore,
and extracted the influential and possible factors, making
the study can not only anticipate the future trends and
the concrete structured questionnaire in the first round
development of remote monitoring services but also
survey.
figure out what factors affect the user's intention to
Two-round Delphi surveys were conducted. Under
utilize the technology for dementia in-home care through
Snowball sampling, the participants in this study
the experts' point of view. The research questions are: (1)
included different professional areas including academic,
"How can Remote Monitoring Services assist the
nursing care and professional care workers, family
dementia in-home care?". It comprises two parts, one
caregivers, local government specialists and consulting
includes the patient's factors, and the other part includes
related professions. They were quite familiar with
134
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
Alzheimer’s disease and well-understood the functions
medical institutions and strengthen the connection with
and types of Remote Monitoring Services in this study
the support groups in local community. “Big Data”
thoroughly.
which can make the contribution to the further research
was also considered as the key factors in the future
Results and Conclusion
For the dementia elderly side, Remote Monitoring
development.
Services could provide the effect of maintaining “Health
Comparing the One-way ANOVA test in two-round
Status” of dementia elderly. The other function was
surveys, the results showed that the experts’ opinions
“Location Tracking”. Some forms of location device
from different professional areas did not have the
combine smart phone and “Global Positioning System”
significant difference in two-round surveys. But, in
(GPS) technology which can be utilized to locate
contrast, the experts who have different years of work
dementia elderly who may leave their place and become
experience held different views in some statements. It
disorientated; another was that it can also be in
can be concluded that experts have fewer years of work
connection with the public institutions such as police
experience would have higher expectation toward the
station timely to ensure the safety of elderly or help to
effect of ICT for dementia care.
solve the emergent conditions in time. For caregiver side,
The local government would be crucial to develop
the result has shown that it can assist to enhance the
the "Smart elderly in-home care" particularly, and the
“Quality of Life” (QOL) of the caregiver. The panelists
support
agreed that the caregiver can feel at ease and safe while
communities play a helpful role to introduce the Remote
utilizing ICT for caring, and the application of ICT can
Monitoring Services to caregivers staying at home. Last
provide the chance to build a care team to share the care
but not least, to arouse public awareness of Alzheimer’s
work with different people as well. It can make the
disease can encourage families to find out solutions,
primary caregiver have a brief respite from the burden
reduce isolation and misunderstanding felt by caregivers,
feeling and get consideration from other care members.
and assist them in receiving accurate information,
The third dimension discussed what causes the
groups
and
organizations
in
the
local
resources and services.
reluctance for the caregivers to utilize the Remote
References
Brian Kerr, Colm Cunningham and Suzanne Martin
(2010). Using telecare effectively in the support of
people with dementia, Scoland, The University of
Stirling press p.6-7
Keeney, S., Hasson, F., & McKenna, H. (2006).
Consulting The Oracle: Ten Lessons From Using
The Delphi Technique In Nursing Research. Journal
of Advanced Nursing, 53(2), 205-212.
Murry J. W. & Hommons, J. O. (1995). Delphi: A
versatile methodology for conducting qualitative
research. The Review of Higher Education, 18(4),
423-436.
Monitoring Services to do dementia care at home. The
result has shown that two reasons could mainly cause the
reluctance. One reason was economic concerns and the
other was resistance to ICT. In terms of lack of
information about which kind of services can be utilized
to do the dementia care, it did not reach the threshold of
high agreement in the first round survey but was
regarded as one of the reasons in second round
investigation. The fourth dimension examined, the key
factors for future development of the Remote Monitoring
Services, appeared that the security of the personal data
should be taken in the first place while the Remote
Monitoring Services has improved. The panel members
agreed that it is essential to make the cooperation with
135
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
活動量計を利用した健康支援
Health Support using Health Tracker
水島 洋
国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター
要約
Fitbit や Basis b1 をはじめとする活動量計が普及しはじめている。
これらの特徴や課題などに関しての報告を行い、これらを使った健康支援に関して検討を行ったので報
告する。また、独居老人の見守りや、災害時支援などへの応用も示す。一方で国産のデバイスが少なく、
これらのデータが海外へ送られることに関する課題も論じる。
Keywords: 活動量計、Health Tracker、健康支援、見守り、
1.
はじめに
古くは万歩計としてよばれていたが、
「たまごっち」などの流行で電子的に遊び
として普及したものの話題にならなくな
っていた活動量計であるが、数年前から高
機能なものが登場し、注目され始めている。
今回、これらの製品のいくつかを試用し、
その機能比較と活用法に関する検討を行
ったので報告する
2.
図2 Basis b1
方法
3.
結果
3.1 Fitbit Flex
Basis Science 社の Basis B1 と、Fitbit
社の Flex, および Force を米国で購入し、
Fitbit Flexは米国で99ドルで販売されてお
筆者が数か月に渡って試用して、検討を行
り、Bluetoothを用いてPCやモバイル端末等を経
った。比較のため同じ位置(左手)に装着
由してデータを自動的にUploadする仕組みにな
して試用した。
っている。日本でもSoftbank社が独占的に扱って
いるが月々の利用料(500円)がかかる。本体に
は5つのLEDしかなく、スイッチもないので、特定
なたたき方をすることで様々な機能を行う。5つ
のLEDでその日の歩数を2000歩単位で表示するだ
けであるが、Uploadされたデータを見ることで、
5分単位での歩数や睡眠の質などをみることがで
きる。ホームページの設定によって、音の出ない
目覚ましとして使うこともできるので便利であ
る。1回の充電(USB経由)で約1週間使うことが
図1 Fitbit Force
できるので、充電についてはそれほど苦にならな
い。防水のためシャワー程度ならそのままでも良
136
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
いとなっているが、水泳などについては避けたほ
うがよさそうである。
管理画面であるホームページ(図4、ただし
Forceのもの)では各種の到達度合が表示される。
食事を入力する機能があるが、日本の食事に対応
していないために富裕さがある。体重も入力でき
るが、手動なためめんどうになってしまう。自動
的にUploadされるAria体重計の導入を検討して
いる。
睡眠についてはその全体像とともに質が評価
される。睡眠時間についても手動設定なので、多
少の自由さがある。
図4 Fitbit(Forece)の管理画面
週ごとに報告書がメールされてきて、Friend登
録している人とのデータ比較もホームページで
行われる。また、イベントごとにバッジがもらえ、
筆者はこれまで最高1日100階、通算2000階を達成
している。
3.3 Basis B1
図3 睡眠に関するデータ表示
Basis Science社のBasis B1は時計として常に
表示されているので使いやすい上、他のトラッカ
単純な機能にしぼっているので、気楽に使うこ
ーと比較して、いくつかの特徴がある。
とができる反面、高度な使い方については使いづ
大きな違いは裏面からの光や電極を使って心
らい。
拍数や発汗量、表面体温を測定していることであ
り、これらのデータが取れるトラッカーは少ない。
3.2 Fitbit Force
歩行の歩数と時間、走った時間、睡眠時間や自
同じFitbit社から出ているForceトラッカー
転車に乗っていた時間などを判定して管理して
は150ドル程度であるが、時間や文字が表示され
いるが、これらは自動判定されて自分で修正する
る点や、気圧の測定によって階段をどれだけ上っ
ことはできない。これは判定間違っていた際にど
たかを管理できるなどのメリットがある。使用し
うしようもないというデメリットもあるが、判定
ている材料の関係で現在リコール中であるが、近
を得るためには実際に行わなくてはならないと
日再発売される予定である。
いう点ではすぐれているかもしれない。
Forceでも同様なホームページによって管理さ
ホームページは図5のようになっており、課題
れるが、図4に示すとおり階段登りの達成度が表
を得るごとにポイントを得られ、獲得したポイン
示される。
トを使って新たな課題を設定できるしくみにな
137
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
っている。目標単位は自分で設定できるが、前述
る。
のようにすべてが自動判定なので、融通の利かな
いところもある。
図6
カロリー表示、脈拍数、発汗量、の24時
間のパターン
図5 Basis のホームページ
図6に示すように24時間の行動パターンを表示
図5にある個々のマークが課題の達成度である。 することも可能である。(図では海外出張のため
現在私の設定している課題としては、次のような
に活動パターンが変わったところを示している)
ものがある。
着用時間、活発な活動時間、1日の歩数、午前
中の歩数、午後(17時)までの歩数、17時以降夜
間の歩数、自転車走行時間、消費カロリー数、ラ
ンニング時間、起床時間、就寝時間、睡眠時間、
最長着座時間(活動時間間隔)
。
ポイントは各項目の合計が加算されるが、項目
ごとに週に4日達成しないとグレードが下げられ
138
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
それほど苦にならずに行えるであろう。データの
Upload も Bluetooth 等で自動的に行われることか
ら、IT に不慣れな高齢者にとっても体に付けてい
るだけでモニターできる点ですぐれている。随時
データは転送され、スマホなどを経由した Upload
モカのであれば外出時のモニターも可能であり、
外からみたり、振動を送ったりすることができる
ので、見守り機器としては活用可能であろう。ま
図7 睡眠解析
た、一般的に普及している民生品であることから
価格も低く、2 万円以下でこれらの機能が行える
BasisB1では睡眠に関しても自動判定し、その
のは大変有用であると考えられた。
質の管理も行っている。Fitbitよりも詳細な解析
また、これらの活動データに、遺伝子やmRNA
を行っており、これらの週ごとの報告もメールで
発現情報などを加えた個人ビッグデータの解析
送られてくる。
が今後可能になると考えており、その研究を始め
ている。さらにこの個人ビッグデータを統合する
4.
考察
ことで地域や国民ビッグデータを解析すること
今回は時間の関係で 2 社の 3 製品の比較を行っ
も可能になり、携帯電話の動きを利用したビッグ
た 。 Fitbit Flex は 日 本 で 入 手 す る 場 合 に は
データに加えて、体の情報を含めた解析が期待で
Softbank との契約が必要となるため、今回米国で
きる。
購入し、Basis も日本では入手不能(医療機器承
現在これらの製品は米国製であり、データはす
認の関係?)、Fitbit Force に関しては現在入手
べて米国のサーバーに送られているが、本来これ
できないが、今後日本でも多くの製品が発売され
らの領域では先行していたはずの日本でこのよ
る予定である。
うなサービスが出てきていないのは残念である。
活動量計は 24 時間の活動量を測定することに
今後この分野でも日本における開発および応用
よって活発に動く働きかけをするツールとして
事例が増えることを期待したい。
は優秀であると考えられる。また、Fitbit に関し
ては友達機能を使って知り合い同士で連絡取り
ながら比較することが可能であり(項目ごとに公
開範囲を設定可能)、これも働きかけとしては重
要な機能を果たす。
私自身、これらの機器の試用を始めた以降に活
発に動くようになり、Basis の課題の数が増える
ごとに取り組むことが増えており、さまざまな働
きかけによって楽しみながら活動できるような
ソフト面での工夫もある。
一方、これらの機器を用いた独居老人や高齢者
の見守りも可能であると考えられる。1 週間に 1
度程度の充電は必要であるが、こと程度の頻度は
139
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
2 日目(5/25(日)
)13:00~15:20
セッション E:薬剤管理・アプリケーション開発
座長 川崎良雄(株式会社コミュニティメディカル)
140
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
携帯情報通信端末利用教育の必要性と教育プログラムの開発*
神崎秀嗣 1, 2, 3
1 京都大学ウイルス研究所細胞生物学部門、2 大阪大学大学院医学研究科分子病態内科学、3 大和大学医
療保健学部所属
要約
演者は、看護師、臨床検査技師養成校で情報科学を講義している。学習指導要領によると、情報教育
は中等教育から開始され、様々な科目においてパソコン(PC)等を用いた教育が進められている。
スマートフォンやタブレットは、医療現場においても使用され始めており、インフォームドコンセン
トの場においては特に便利なツールとなりつつある。例えば、医師が病室を訪れなくても、検査結果を
患者に分かりやすく説明することができ、円滑なチーム医療の運営や医療チームのコミュニケーション
に便利である。
臨床検査技師養成においては、レントゲンや心電図、エコーのデータも見易く、奇麗な図で提供でき、
3D 画像も講義で提供できる。今回、現場の医療スタッフや当該養成校等の教職員にこのような最新技術
を「主体的に」使いこなせるようになってもらうためには、どのようにすべきか、幾つかの例を挙げて
考察する。
1.
はじめに
演者は、医療現場における携帯情報通信端末利
西岡1)によると、キャリアデザインとは
用を想定した教育カリキュラムを開発した(表1)
「人それぞれの捉え方があり,定義もまだまだ一
2)
致していないと思われる。ある人は人生全部のラ
履修する。
。このカリキュラムは、基本的なICTの授業後に
イフイメージを作るライフプランとして考え,あ
携帯情報通信端末の操作は、パソコンの操作と基
る人は就職後,企業内で成長,活躍していくため
本的には大きな相違はないが、クラウドコンピュー
の人材育成の視点」であるとしている。本研究で
ティングに関する概念の理解、医師が頻繁に利用す
は,西岡の定義のうち後者の視点でコメディカル
るソフトウェアの使用方法の修得、携帯通信情報端
(臨床検査技師、看護師、臨床検査技師、診療放
末をインフォームドコンセントなどに利用すること
射線技師などの医療に従事し医師の診断や治療
を想定したプレゼンテーションの技術を重点的に教
の手助けをする職種の総称)のキャリアデザイン
育する必要があるのではないかと考える。医療現場
を捉え,医療現場で急速に増えつつある携帯情報
におけるプレゼンテーションは、場所や時間を選ば
通信端末の操作に習熟していることが,医療機関
ずにいつでもどこでも行うことができるように準備
に就職し,成長,活躍していくためには必要であ
されている必要があることから、このような操作技
るという問題意識から,コメディカル養成校にお
術を修得するためのカリキュラムを加えた。
ける携帯情報通信端末利用教育プログラムを開
また最近では、例えばデジタル・グローブ社が
発した。今回、そのプログラムの実践と評価につ
いて考察する。
2.
方法
141
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
などは携帯情報通信端末を利用することによって、
表 1 携帯情報通信端末利用教育を取り入
医療従事者間で容易に情報共有を行うことができる。
れたカリキュラム例
また解剖学、生理学などでは三次元画像を利用する
項目
回数
内容
こともできる。無料で配布されているアプリケーシ
iPad の基本操作
2
1. タ ッ プ 、 ス ワ ッ
ョンのなかには、医療現場ですぐにでも利用するこ
プ、フリック、拡大
とができるほど品質の優れたソフトも多く、医療現
縮小などのタッチパ
場への採用基準の構築が必要になってくることが考
ネルの操作方法
えられる(GMP/QMS(JIS Q 13485)3)や品質マネジ
2. タイピング
メントシステム 4)5)を適用するのも一案である)
。従
3. イ ン タ ー ネ ッ ト
って、それらに関する知識も教育する必要がある。
本研究において開発したカリキュラムでは、携帯
閲覧(Safari)
基本アプリケー
3
ションの操作
4. セキュリティ
情報通信端末に特徴的なアプリケーション(特に、
1. GoodReader
医療現場で使用するアプリケーションやクラウドシ
2. Documents to Go
ステム)の操作方法と、医療従事者間、あるいは患
Premium
者等に対するインフォームドコンセントを想定した
3. Keynote
プレゼンテーション方法の習得に多くの時間を費や
4.AirPrint による印
している。
刷
3.
4. ファイル管理
クラウド
プレゼンテーシ
3
3
ョン
プレゼンテーシ
ョン練習
1. 施 設 か ら の フ ァ
授業後に、受講した感想を自由記述で書いても
イルのダウンロード
らったところ、「レントゲンや心電図、エコーの
方法
データも見易く、医師に説明し易い」
、
「データの
2. Dropbox の使用方
やり取りもし易いし、その場でメモ書きするよう
法
に入力することができるので、便利」、
「クラウド
3. 固 有 施 設 外 で の
にも慣れたので、就職しても大丈夫」
、
「授業資料
ファイルのダウンロ
の細胞や染色の画質が奇麗で分かり易い」「拡
ード方法
大・縮小がすぐ出来て見易い」といった記述がみ
1. Keynote によるプ
られた。
授業で携帯情報通信端末利用教育を行うよう
レゼンテーションフ
4
結果
ァイルの作成
になったことによって、臨床検査技師に関連する
2. 画像作成
内容だけでなく、臨地実習を行う病院や就職希望
3. 画像データ処理
の病院の様子等を自主的に調べるようになり、ま
1. 各個人、スマート
た、教員に対する質問内容も専門的になっており、
フォン、iPad を使用
他の医療従事者との違いや臨床検査技師の仕事
したプレゼンテーシ
内容にも興味を持ち始めるといった副次的な効
ョンファイル演習
果も見られるようになっているように思われる。
また、携帯情報通信端末を用いて、学生同士で、
開発したクラウドシステム型電子カルテ「Open
臨床検査技師が行う検査を学び、模した実習のデ
Dolphin」なども提供されている。心電図、エコー
ータを説明し、議論しあう光景も多々見られるよ
142
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
うになった。プレゼンテーションを練習し、相互
では「医療・福祉」情報通信の利用率が ICT 先進国
評価をし合う機会も増えており、インフォームド
との比較で特に低いことが判明している。その後は
コンセントの練習にもなっている。 以前は、プ
改善傾向にあるようであるが、アメリカでは既に
レゼンテーションの経験も少なく、授業に対して
EHR(Electronic Health Record)や PHR(Personal
も受動的で、分からないことがあれば、すぐに教
Health Record)など、カルテや投薬記録、日々の
員に聞くことが当たり前であったが、携帯情報通
健康状態など医療従事者が日常的に使用する総括的
信端末の導入後は、第三者の前においても明晰に
な医療情報を IT によって一元化し、医療機関と個
自分の意見を発言することができるようになり、
人をネットワーク化していこうというサービスがす
自主的かつ主体的に疑問点などを携帯情報通信
でに実用化され始めていることから、医療従事者に
端末で調べるようになった。これらは、一概に携
対する当該機器の使用方法等に関する教育は充実し
帯情報通信端末利用教育の成果とは関連付けら
ているようである。
れるものではないが、学生の履修態度が変化して
一方、日本では電子カルテでさえもまだ十分に普
きていることを観察できることは、本研究の成果
及しているとはいえない。池田 7)は、
「スタンフォー
ではないかと考える。
ド大学医学部では医学教育分野では多くの iPad が
導入されており、今後伸びていくと思われる」と指
4.
摘している。実際、情報通信白書 平成 24 年度版
考察
2012年度から、医療現場においてコメディカル
8)によると、世界的にみてもスマートフォンは普及
の携帯情報通信端末利用技術の習得を目的とし
しており、特にタブレットは積極的に電子教科書に
た情報科学(ICT利用教育)の授業を導入した。
利用されている事が明らかになっている。
また、同書 8)によると、日本における医療・福祉・
導入以前は、プレゼンテーション発表の機会はほ
とんどなかったが、現在、校内の学生や教職員、
健康関連サービスの利用例として、端末の画面を通
外部の医療従事者(120名程度)を前にして携帯
じて、かかりつけ医の診察を受けたり、直接相談す
情報通信端末を使ってプレゼンテーションを実
ることができることが挙げられている。医療教育を
施する機会(前後期各1回程度)を設けている。
含めた教育について、世界的にみた場合においても、
学生の発表の際には、緊張した様子も見られず、
教育 ICT3 品目(電子黒板、教育用タブレット、電
内容も明瞭で、しっかり発表できており、質疑応
子教科書)の導入が進められている。イギリスでは、
答にもしっかりと対応できるようになってきて
電子黒板が最も普及しており、ロシアや中東諸国、
いる。
アフリカ諸国では、教師を育成する代わりに電子黒
医療現場における ICT の急速な発展に伴い、医療
板を導入するという動きが広がっている。電子教科
従事者の情報科学に関する知識習得の必要性は高ま
書については、韓国が 2012 年にすべての小・中学
っている。医療機関の中には、すでに病院情報シス
校に電子教科書を導入した。2013 年には教育用タブ
テムに携帯情報通信端末を導入しているところも出
レットも“1 人 1 台”とする計画である。シンガポー
てきている。刻々と変化する患者に関する情報(バ
ルやタイでも同様の取り組みがなされている。日本
イタルサインや手術の様子など)を的確に把握する
おいても佐賀県武雄市で、2014 年度にはすべての
必要があるためである。これらの医療現場からの要
小・中学生に配布されることが決まっている 9)。ま
求の高まりから、本研究において開発したカリキュ
た長崎市でも 2014 年度から 3 年かけて市内の小中
ラムは、医療現場に出て久しい医療従事者のリメデ
学校にタブレット端末配備することが決まった 10)。
ィアル教育にも応用することが期待される。
情報通信白書 平成 21 年度版
電子教科書を読む端末としての教育用タブレッ
トについては, インテルが全世界で「Classmate PC」
6)
によると、日本
143
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
を展開し, アップル iPad も有力候補のようである。
*神崎秀嗣, 石田洋一, 藤田洋一他, 臨床検査技師養
今後は、本研究で開発した教育カリキュラムの
成における携帯情報通信端末利用教育の必要性と教
効果を継続的に評価していきたいと考えている。
育プログラムの開発, キャリアデザイン研究, 9,
201-209, 2013.
引用文献
1) 西岡博史, Ⅱ.自治体におけるキャリアデザイ
ンの役割について, 自治体職員とキャリアデザ
イン, 36-40, 2006.
2) 神崎秀嗣, A Proposal for Information
Science Education for Paramedics/Medical
Technologist Training in Japan, 情報処理学会
第74回全国大会学会講演要旨集(4), 4-493-494,
2012.
3) GMP/QMS (JIS Q 13485)
(http://www.tbcs.jp/iso/gmp_iso13485.html),
2014. 4.1アクセス.
4) ISO9001
(http://www.tbcs.jp/iso/iso9001.html), 2014.
4.1 アクセス.
5) ISO27001
(http://www.tbcs.jp/security/isms_naibu.htm
l)2013. 8.21 取得.
6) 総務省, 情報通信白書 平成 21 年度版,
(http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whit
epaper/ja/h21/), 2014. 8.21, 2009.
7) 池田俊也, 携帯情報端末の医療応用の問題点と
今後の展望, IT へルスケア学会 移動体通信
端末の医療応用に関する分科会, 「モバイルヘ
ルス 2010」シンポジウム, 2010.
8) 総務省, 情報通信白書 平成 24 年度版,
(http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whit
epaper/ja/h24/html/nc122400.html) 2014. 4.1
アクセス.
9) 毎日新聞, <武雄市>全小中生にタブレット端
末…来年度配布へ 全国初, 2013 年 5 月 9 日付
朝刊.
10) 長崎新聞, 小中学校にタブレット端末はイブ,
2014 年 3 月 11 日付.
144
IT ヘルスケア
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アプリを用いた救急医療に対する貢献の試み
―
QQstreaming119―
山口正人
弘前大学医学部医学科
要約
救急医療における患者搬送時の情報伝達は、電話による音声伝達が主である。しかし、音声だけでは情報は的
確に伝わらない。また、現存のシステムは救急隊が到着してから病院搬送までをいかに効率よく行うかに腐心
している。しかしながら、ポータブルドクター(患者が発生した際、医師が患者に駆けつけるという概念では
なく、患者の側から医師にいつでもアクセスできる手段を持つという発想)という発想のもとに、患者が備え
をできたら救急医療に貢献出来ないであろうか。そこで、新たなアプリケーションの開発を提案したいと思う。
アプリを起動し、ワンアクションで、現状起こっている状況をリアルタイムで医療従事者(救急センター、病
院等)に伝えることができると、医療体制に貢献できると考える。たとえば、脳卒中は、[腕が上がらなくなる][顔
がゆがむ][舌がもつれる]などが特徴で、医療従事者が画像を見ただけで、すぐに鑑別が可能な場合が多々ある。
また、脳梗塞は発症からの経過時間が予後に大きく影響する。既存の救急カプセルのように容易に持ち運ぶこ
とができ、かつドクターカーやドクターヘリのようにいち早く医師が患者に適切な治療を行える。
1.
はじめに
像とをリアルタイムで医療機関に伝えることができる
救急医療用アプリ開発に当たって、患者目線のサービ
ことで、救急搬送を待ってから処置にあたっていた場
スを探してみると、患者は医療を提供される受身の立
合と異なり、医師の目が初期段階から介在することに
場であるので、患者が自分の為に医療機関を改善しよ
なり、治療においても有意差を期待できる。また、遠
うとする試み(患者・家族が治療に参加する試み)は
隔地医療にも効果が期待できる。バイタルサイン測定
極端に少ない。企業や行政が関与し、患者目線で試み
や視診をIT技術に委託することで、プレホスピタルケ
たものは、いくつか見つかる。しかし、啓発的なもの
アに対する負担が減る。処置に関して、医師が指示、
や学習教材的な要素の強いものがほとんどで、1分1
指導・助言を行うためには、傷病者の病状を正確にか
秒を争う緊急時には役に立たない。緊急時に使えるも
つリアルタイムに把握することが前提であり、また、
のは皆無といっていい状況である。一方で、社会背景
的確な情報が伝送可能であるならば、救急救命士によ
を考えると、スマートフォンの普及が著しい。そして、
る処置範囲もさらに拡大できることも期待される。具
スマートフォンには、動画録音と音声会話の機能が標
体例として“脳卒中”は、症状が画像によって判断す
準装備されている。そこで、スマートフォンを用いる
ることが容易で、かつ初期診療までの時間が予後に大
ことにより患者の緊急時、医師がいかにアプローチで
きく影響する疾患には有効である。救命率の向上の為
きるかに関してインフラ整備をしたいと考えている。
にスマートフォン・アプリを開発することにより貢献
医療機関側の利点は、救命率の向上、医療従事者を
したいと考える。
適材適所に配置でき、労働力の偏在を解消する助けと
なることである。一方、患者側には、緊急時にいち早
2、
く医療従事者の元に情報が届くという“見守り”によ
機能1・学習ツール:救急処置のやり方などを学ぶこ
る安心感がある。また、通報者が口頭で説明できなく
とができる。
ても、画像共有によりコミュニケーションの問題解決
機能2・メディカル・レコード:患者情報の登録:利
の一角を担うことができる。患者の緊急時を音声と画
用者自身の基本情報・既往歴・内服薬・かかりつけ医
145
アプリケーション機能
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
の情報を保存できる。緊急連絡先:緊急時に連絡をし
3、救急搬送における脳卒中の現状
て欲しい連絡先(家族など)の登録が可能。
脳卒中と診断されたケース 413 件のうち、発症時刻
機能3・バイタルサイン測定:別売りバイタルサイン
が明らかなケース 270 件についてみると、①発症から
測定キットに連動してバイタルサインを計測・保存・
覚知までの平均時間は 3 時間 22 分、中央値は 42 分で
送信(共有)することができる。
あった。発症から覚知までの時間別にみると、270 件
機能4・メモ帳:ボイスメモ、テキストメモは保存し、
全体に占める割合は 30 分未満が 116 件(43%)と最も
送信することができる。
高い。30 分以上 1 時間未満が 35 件で、1時間以上が
機能5・救急電話:ワンタッチで、医療者と通話する
119 件であった。また、③発症から病着までの平均時
ことが可能。ワンアクションで、救急センターにつな
間は3時間 58 分、中央値は 1 時間 25 分であった。発
がることができる。
症から病着までの時間別にみると、270 件全体に占め
機能6・現在地:現在地を表示することができる。
る割合は 30 分以上1時間未満が 84 件(31%)と最も高
機能7・救急車位置情報:救急車到着までの時間(概
い。1時間以上 1.5 時間未満の 54 件。
(20%)で、1.5
算)と位置情報を示すことができる。
時間以上が 130 件であった。すなわち、発症から覚知
機能8・AED位置情報:近くのAED設置場所を示すこ
まで、素早く(30 分以内)に対処されることが多いが、
とができる。
素早い対処は半数を超えるには至らない。対策を施す
機能9・ストリーミング:動画(静止画)を共有する
ことにより、覚知までの時間短縮が見込まれることは
ことにより、医療従事者によるいち早い視診を可能に
もとより、時間短縮に伴う救命率向上も見込める。
する。
4、脳梗塞における発症から病着まで
3、脳卒中におけるストリーミングの可能性
脳梗塞については、発症から病着までの時間によっ
1、脳卒中は時間との勝負である。
て t-PA 治療の実施の可否が決定されるため、発症時間
Time lost is Brain lost. ( American Stroke
が明らかなケース 170 件について検証する。発症から
Association)脳卒中の急性期では、時間経過とともに
病着まで2時間以内(n=93)のケースでは、平均 21 分
多くの脳機能が失われてしまうことが知られている。
中央値 15 分であった。発症から病着まで 2 時間〜10
脳梗塞超急性期に対する rt-PA による血栓溶解療法
時間(n=52)のケースでは,平均 3 時間 13 分 中央値
(rt-PA 常注療法)は発症から 3 時間以内に治療を開始
2 時間 21 分、発症から病着まで 10 時間以上(n25)の
できる症例しか適用がないことからも、脳卒中と時間
ケースでは、平均 20 時間 42 分
との関係は重要である。
であった。
2、救急医療の現状
5、覚知から病着までの時間
中央値 18 時間 40 分
救急医療において、発症から病着まで3種類に分類
覚知から病着までの時間を検討すると、発症から病
できる。①発症から覚知までの時間:傷病者に異変が
着まで2時間以内のケース(n=93)では平均 40 分・中
起きてから救急隊が 119 番通報を受けるまでの時間、
央値 40 分であった。発症から病着まで2時間〜10時
②覚知から病着までの時間:119 番通報を受けてから、
間(n=52)のケースでは、平均 45 分・中央値 39 分、
現場へ到着し、救急処置、搬送先医療機関の選定、病
発症から病着まで10時間以上(n=25)のケースでは、
院到着までの時間、③発症から病着までの時間:傷病
平均 41 分 中央値 40 分となっている。すなわち、い
者に異変が起きてから、救急隊が医療機関へ搬送完了
ずれの場合も 40 分程度で経過時間の有意差は見られ
するまでの時間の3種である。
ない。発症から病着までの時間の大きな要因となって
いるのは、発症から覚知までの時間であることがわか
146
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
る。
6、脳卒中における選定時間と精度
救急搬送において、脳卒中において、救急隊による
選定がもっとも多い。325/503(64.6%)
救急隊が”脳
卒中の疑いあり“と判断したケース 503 件について、
搬送先医療機関の選定にかかった時間は平均所要時間
9.6 分であった。
(中央値 6.0 分)感度:脳卒中である
ものを、救急隊が脳卒中と判断する割合
300/300+64=82.4%特異度:脳卒中でないものを、救急
隊 が 脳 卒 中 で な い と 判 断 す る 割 合
9542/203+9542=97.9%であり、救急隊による選定も精
度が高いことがわかる。現状は電話による音声による
選定であるので、画像共有システム(QQstreaming119)
が介在することにより、時間の短縮と精度の向上が見
込まれる。
8、まとめ
いままでは、医師が救急患者に如何に早くアプロー
チするかに腐心してきたが、近年のスマートフォンの
普及に伴い、新たな救急医療の形を提案する。アプリ
をスマートフォンにインストールすることにより、既
往歴のある患者はいつでも医療機関にアクセスする手
段を持つことになる。救急カプセルの現代版ともいう
べき新しい形である。また、患者を家系にもつ人は、
いざという時の備えとしてインストールすることが勧
められる。救急患者が発生した際に、発見した際、救
急車が到着するまでの間、音声・画像情報を医療機関
と共有することで救命率・社会復帰率の向上に貢献で
きることが見込まれる。
参考文献
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/iryo
_hoken/nousottyuutorikumi/
(2014 年 5 月 9 日)
http://www.youtube.com/watch?v=N7tvkHTa8_4
147
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
電子版おくすり手帳 「Liloca(リロカ)
」について
汲田宏司
株式会社 エッグワークス
■電子おくすり手帳を取り巻く環境の変化
サイズのICカードを使った「Lilocaカード」による
認証にあります。この財布に入れて持ち運びができ
平成26年度調剤報酬改定にて、これまでの薬剤
るサイズのカードを、従来のおくすり手帳と同様に、
服用歴管理指導料に特例が追加され、おくすり手
1人1枚ずつ配布します。
帳を交付しない場合は低く修正されました*1)。こ
かつてはカードと言えばテレホンカードなどの
れにより、従来のおくすり手帳の開示なくシール
磁気カードでしたが、2001年にJR東日本がSuicaとし
の発行では、報酬として算定されません。
てICカードを採用してから普及に弾みがつきました。
また、高血圧症、糖尿病、脂質異常症及び認知
素早い読み込み速度だけではなく、情報はカード内
症(4疾病)を対象とした地域包括診療料にて、
部で暗号化されるので高いセキュリティも保証され
服薬管理におくすり手帳の持参、またはコピーが
ます。LilocaカードはこのICカードを使うことで利
必要となりました。*1)患者の服薬状況並びに残薬
便性と安全性を高めています。*2)
状況についても、これまでは確認するよう「努力
カードには登録時に、利用者の情報を格納します。
する」ことを求められていましたが、これからは、
そして、おくすり情報を確認したい時、カードをカ
調剤を行う前の処方せん受付時に「確認する」こ
ードリーダーにかざすだけで、店頭のタブレット端
とが求められています*1)。おくすり手帳に記載さ
末に患者のこれまでの調剤情報を表示させます。会
れた情報と、その情報から発生するコミュニケー
員登録時に記入したアレルギー歴や既往歴、服薬情
ションを重要視する方向性が打ち出されたと言
報も表示できるので、患者と一緒にタブレットを見
えます。
ながら、調剤情報の説明が可能になります。
一見手続きが煩雑となり、現状の薬局での業務
新たに処方された調剤情報は、Lilocaカードをカ
効率が悪化するのではないかとも受け取れる今
ードリーダーにセットして、領収書に印字された
回の改定ですが、ICTを積極活用するチャンスと
「2次元バーコード(QRコード)」を端末にかざす
弊社では捉え、今回のシステムを開発しました。
ことで追加されます。新たな調剤情報は確立された
2010年から進められてきた「おくすり手帳の電子
セキュリティ環境下にて管理されるサーバーのデー
化」の本格的な普及のきっかけに本システムがな
タベースにスケジューラ設定され、登録済のメール
ればと願います。持ち運びが容易で、既往歴や服
アドレス、またはSMSに服薬促進案内が配信されます。
薬情報が確認できて、かつこれらの情報の追加が
服薬案内履歴は、患者のLilocaカードをカードリー
容易であること。これらを兼ね備えた、私たちが
ダーにかざすことで表示できます。これにより飲み
考える電子版おくすり手帳が、
『Liloca(リロカ)』
残しなどの服薬指導に役立てることができます。
です。
「カードをかざす」「情報が表示される」「説明を受
ける」といった一連の動作も、薬剤師と患者のコミ
■ おくすり手帳が1枚のLilocaカードに
ュニケーションのきっかけになります。必要な情報
をスムースに獲得しながら業務効率を向上させ、患
我々が提案するLilocaの1つ目の特色は、免許証
者の来店満足度も高めるシステムです。また、QRコ
148
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
ードを活用するモデルを採用すれば、店舗に導入さ
また、このフォロー関係を広げて、患者を見守る
れているレセコンへの改修は必要ありません。従来
メンバで見守りネットワークを構築できるのが、
のシステムに負荷をかけず、手軽に導入を検討いた
Lilocaの特長です。患者となるLilocaユーザの承認
だくことができます。
の元で、フォローを許可された人たちをグループ化
し、特定の服薬情報を共有できます。
グループ内には掲示板や予定表も作成可能で、メ
ンバのスマートフォン等の端末に更新メッセージを
配信することもできます。
具体的な使い方としては、在宅介護ケアのアセス
メントを登録し、グループのメンバに指定されたケ
アマネージャや担当医、訪問薬剤師間で確認するこ
とや、それぞれの訪問記録を掲示板に記載し共有す
ること、
定型フォーマットの介護予防支援経過記録、
あるいはモニタリング結果報告書の記入や回覧も可
能です。
Liloca カ ー ド は電 子 版お く す り手 帳 で すが 、
図1:取り込み部分がカメラになっており、QRコードをかざすこ
Lilocaを始めることで簡単かつ適切な「見守る」
とで調剤情報を取得できます
ネットワークサービス提供の可能性が見えてきます。
■ 蓄積された情報は「フォロー」で共有
■ 「どこでもMY病院構想」*3)につながるICTアプリ
「Liloca」のもう一つの大きな機能。それは特定
のメンバーとの情報共有ができることにあります。
処方されたおくすり情報がWEB上で検索及び閲覧
例えば、小児ぜんそくは定期的な服薬により症状
できるアプリケーションや、介護現場での帳票やス
を抑えることができる病気ですが、服薬促進メール
ケジュールを管理するアプリケーションは、部分的
や服薬チェックをするのは、カードを持つ子供本人
に実現されてはいますが、社会を支えるシステム基
ではなく、両親または親族となるケースがほとんど
盤になるような広がりはありません。
です。
Lilocaは違います。Lilocaの名前の由来は、Life
Lilocaでは、この親族にカードを持つ本人が、本
Log Cardです。
人が許可することにより親族などの関係者に「フォ
日常の生活で発生するさまざまな情報がLiloca
ロー」してもらう機能を搭載しています。これによ
カードを介してデジタル情報にて蓄積され、必要な
り、服薬タイミングなどの諸情報は本人と同様に、
ときにLilocaカードを使って瞬時に必要な情報を取
Lilocaカードを保有する親族も閲覧できるようにな
り出すことにより、受けるサービスの質を向上させ
り、
飲み忘れの防止を親族から促すことができます。
る仕組み。それこそが、場所を選ばず医療を受ける
フォローの関係設定は、双方が持っているLiloca
ことができる、政府により提唱されている「どこで
カードを店頭のタブレット端末にてリーダーにかざ
もMY病院構想」の道なのだと考えます。
すだけで簡単にできます。
ベンチャーながら、医療に関わるICTの発展に少
しでも貢献していきたいという思いを新たに、精進
■ Lilocaから始まる「見守り」ネットワーク
して参ります。
149
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
*1) 厚生労働省 平成26年度診療報酬改定資料
*2) SONY Felicaホームページ
http://www.sony.co.jp/Products/felica/
*2) 厚生労働省 「どこでもMY病院」構想の実現 工程表
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001usi6-a
tt/2r9852000001utdz.pdf
150
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
がん治療における薬薬連携の課題検討
髙橋 郷 1)、小川 千晶 1)、矢田部 恵 1)、大橋 養賢 1)、近藤 直樹 1,2)、鈴木 義彦 1,2)
独立行政法人国立病院機構東京医療センター 1)薬剤科、2)臨床研究・治験推進室
要約:
がん治療における薬薬連携を推進するため研修会を企画し、地域におけるがん治療の薬薬連携についての課題を
検討した。その結果、課題としてあげられた項目には、病院薬剤師と保険薬局薬剤師で乖離があることが分かっ
た。続いて、取り組むべき優先順位の高い問題点として、がん治療に関連する知識の不足、患者情報の不足、が
ん治療での薬薬連携についての理解不足があげられた。今後、地域におけるがん治療の薬薬連携推進のためにも、
今回あげられた問題点についての解決策を検討し、情報伝達ツールの共有化などを進めていきたいと考える。
1.はじめに
京医療センター(以下、当院)においても、経口抗が
近年、経口抗がん薬や支持療法の進歩、外来化学
ん薬の院外処方箋発行率は 80%を超えており、地域
療法加算、急性期医療における入院医療費の包括化
の薬局との連携を図ることは急務である。
導入などの理由から、がん治療は通院治療にて行わ
そこで我々は、当院の所在地にある病院・保険薬
れることが基本となりつつある。
通院治療において、
局の薬剤師を対象とした研修会である「ファーマコ
注射抗がん薬は院内の医師、薬剤師、看護師などが
カンファレンス城南」において、がん治療における
連携し、患者情報を共有しながら厳重な安全管理体
薬薬連携をテーマとした研修会を企画し連携を図る
制のもとで処方監査から調製、投与までが行われて
こととした 2)。
いるが、併用される経口抗がん薬や支持療法薬は、
今回は、これまでに 2 回開催したファーマコカン
病院薬剤師による監査が行われず、院外処方箋によ
ファレンス城南でのアンケート調査結果及び、スモ
り保険薬局で調剤されることも多い。経口抗がん薬
ールグループディスカッション(SGD)を通して、経口
を用いた治療は、休薬期間を必要とするものや、併
抗がん薬の薬薬連携における課題を考察したので報
用する注射抗がん薬により発現する副作用が異なる。
告する。
また、自宅にて副作用が発現した場合に、患者自身
で適切な対応がとれることは、治療を安全に行うた
2.方法
めに不可欠であり、入院して治療を行う以上に患者
1.第 20 回ファーマコカンファレンス城南アンケー
指導が重要となる。しかし、経口抗がん薬を含む処
ト調査結果の集計
方が保険薬局で調剤される場合、処方箋だけでは患
平成 25 年 11 月 26 日に開催された第 20 回ファー
者がどのような理由で、どのような治療を受けてい
マコカンファレンス城南の参加者に対して、本研修
るのかを理解することは難しく 1)、適切な患者指導
会の内容についておよびがん治療に対する薬薬連携
を行うためには病院と保険薬局とが連携して情報を
についてアンケート用紙を配布し、調査を実施した。
共有していくことが重要であると考える。実際、東
アンケート内容を図 1 に示す。
151
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
病院薬剤師 34 名(61.8%)、保険薬局薬剤師 21 名
(38.2%)であった.がん治療の薬薬連携に対する勉強
会の必要性について、94.5%が必要性を感じていた。
半数以上があげた課題として、病院薬剤師は連携・
コミュニケーションのみであったのに対し、保険薬
局薬剤師は連携・コミュニケーション以外に患者情
報の不足、教育・知識不足、患者の指導拒否をあげ
ていた(図 2)。
2. 第 22 回ファーマコカンファレンス城南の実施
第 22 回ファーマコカンファレンス城南の参加者
は 48 名であり、その内訳は病院薬剤師 28 名、保険
薬局薬剤師 20 名であった。参加者を 4 グループに分
け、それぞれのグループで KJ 法を用いて「地域のが
ん薬物治療の薬薬連携を行うための問題点」につい
て SGD を行い、それらを緊急性と重要性にて二次元
展開することにより、取り組むべき問題点の優先順
図 1 アンケート内容の抜粋
位付けを行った(図 3)。取り組むべき優先順位の高
い問題点として、がん治療に関連する知識の不足、
2.第 22 回ファーマコカンファレンス城南の実施
患者情報の不足、がん治療での薬薬連携についての
平成 26 年 2 月 23 日に第 22 回ファーマコカンフ
理解不足があげられた。
ァレンス城南を開催し、
「地域のがん薬物治療の薬薬
連携を行うための問題点」
というテーマで KJ 法を用
4.考察
いて SGD を行った。さらに抽出された問題点を、緊
第 20 回ファーマコカンファレンス城南で行った
急性と重要性にて二次元展開することにより、取り
アンケート調査より、がん治療の薬薬連携実施に対
組むべき問題点の優先順位づけを行った。
して課題としてあげられた項目には、病院薬剤師と
保険薬局薬剤師との間に乖離があることが分かった。
3.結果
過去に、がん治療の薬薬連携実施に対する課題につ
1.第 20 回ファーマコカンファレンス城南アンケー
いて、薬局薬剤師を対象としたアンケート調査の結
ト調査の集計
果は報告されているが 3,4)、病院薬剤師と保険薬局薬
第 20 回ファーマコカンファレンス城南の参加者
剤師を比較した論文は島ノ江ら 5)が報告しているも
は 63 名であり、その内訳は病院薬剤師 40 名、保険
のの報告数として多くはなく、今回の結果はがん治
薬局薬剤師 22 名、その他 1 名であった。アンケート
療における薬薬連携を推進していくために参考とな
の回収率は 88.7%(55 名/63 名)で、回答者の内訳は
る有用なデータであると考える。
152
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
図 2 地域のがん治療の薬薬連携における課題
図 3 地域のがん治療の薬薬連携を行うための問題点の二次元展開
(取り組むべき優先順位の高い問題点について各グループの結果)
153
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
アンケート結果を踏まえ、病院と保険薬局の薬剤
は必ずしも高くない。また、そのようなツールを保
師が個別に薬薬連携について検討するのではなく、
険薬局では見せたくないと考える患者も存在するた
協働して検討する必要があると考えた。そこで、第
め 14)、単独ではなく複数のツールを組み合わせて使
22 回ファーマコカンファレンス城南において、KJ
用し情報を共有する必要があると考える。
法を用いて「地域のがん薬物治療の薬薬連携を行う
宮崎の報告によると、地域における医療連携の形
ための問題点」について、SGD 形式で検討を行った。
態として、「地域勉強会型」、「院外処方箋対応型」、
その結果、取り組むべき優先順位の高い問題点とし
「退院時地域連携型」の 3 つが上げられている
て、
「がん治療に関連する知識の不足」
、
「患者情報の
今後、地域の保険薬局とのがん治療における薬薬連
不足」
「がん治療での薬薬連携についての理解不足」
、
携を、これら 3 つの形態を組み合わせてすすめてい
があげられた。
平成 24 年度東京都がん診療連携拠点
きたいと考えている。すなわち、
「地域勉強会型」の
病院等薬剤師研修会において、
「がん薬物療法に関わ
形態として本研修会を継続し、課題としてあげられ
る薬薬連携"均てん化"への取り組み」として、同様
たがん治療に関連する知識不足を改善していきたい
の取り組みが報告されており、課題として病院と保
と考える。そして「院外処方箋対応型」、
「退院時地
険薬局との連携、コミュニケーション、知識不足、
域連携型」の形態として、お薬手帳を利用した患者
6)
15)
。
教育があげられている 。がん治療における薬薬連
情報など治療情報の共有、さらに治療レジメンや患
携についての重要性・必要性は広く認識され、様々
者説明内容などをホームページ上や、ICT を駆使し
な取り組みが報告されているものの、円滑に行われ
て広めていきたいと考えている。さらに、これらの
ているとの報告が少ない。その原因として、今回の
取り組みと平行して、がん治療に関する情報を、病
結果より、それらの問題に合わせて「がん治療での
院と保険薬局が共有することでより適切な患者指導
薬薬連携についての理解不足」があるのではないか
にあたることができることを患者に働きかけていく
と考えた。糖尿病や喘息などの薬物治療での薬薬連
必要があると考える。
携においては、HbA1c や喘息発作の発現頻度など明
確な評価項目をもとに薬薬連携の推進を評価してい
引用文献:
る 7,8)。しかし、がん治療においては、一部の抗がん
1)杉山 清子, 辻野 靖彦, 近藤 康則ら:テガフー
薬で、その薬剤に特化した評価項目を定め、薬薬連
ル・ギメラシル・オテラシルカリウム配合抗癌剤
携の推進を評価する報告はあるものの 9)、がん治療
の疑義照会の実態調査. 新薬と臨牀.62 巻 10 号
全体について適切な評価項目を設定し、薬薬連携の
P.1896-1901.(2013.10)
推進を評価する報告はまだない。この点についても
2)http://www.lab.toho-u.ac.jp/med/ohashi/yakuz
今後、検討していかなくてはならないと考える。ま
ai/medical_agency/pharmaconference.html2014.
た、患者情報をどのように共有するかも重要な課題
05.09
であると考える。保険薬局に対するアンケート結果
3)河合 一志, 鈴木 善貴, 冨田 敦和ら:外来がん化
でも、
「告知の有無」や「説明時の留意点」などの患
学療法の薬学的管理 保険薬局におけるがん患者
者情報が不足していると報告されている 3,4)。病院か
指導の現状調査と意識調査. APJHP: 愛知県病院
ら保険薬局への情報共有の取り組みとしては、お薬
薬剤師会雑誌.38 巻 3 号 P.48-54(2011.02)
手帳、化学療法治療カード、FAX、Information and
4)服部 暁昌, 宮本 典文, 高平 豊ら:地域がん診療
Communication Technology(ICT)などを用いた取り
連携拠点病院における薬剤師の取り組み 高知市
組みが報告されている
3,10~14)
。これらを使用するこ
内の保険薬局における経口抗がん剤の薬学管理に
とにより不足している患者情報を共有することは可
関する実態調査. 高知医療センター医学雑誌.5 巻
能であると考えられるが、患者のお薬手帳の携帯率
1-2 P.7-13(2012.02)
154
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
5)島ノ江千里, 持永早希子, 溝上泰仁ら: ポートフ
医療連携 理想的な薬薬連携とは. 薬学雑誌.133
ォリオ図を利用した外来がん化学療法のための
巻 3 号 P.337-341(2013.03)
「薬物療法パスシート」の作成. 日本医療マネジ
メント学会雑誌.13 巻 3 号 P.116-122(2012.12)
6)高橋郷, 清水久範, 青山剛ら: 平成 24 年度・東京
都がん診療連携拠点病院等薬剤師研修会における
取り組み アンケート結果報告及びがん薬物療法
に係る薬薬連携"均てん化"に向けて. 薬事新
報.2764 号 P.25-29(2012.12)
7)高橋 克栄, 高橋 淳一, 清水 靖ら:吸入指導にお
け る取組 みと薬 薬連携 . 新 潟 県立 病院医 学会
誌.59 号 P.1-5(2011.03)
8)友滝 和人, 伊藤 裕至, 高木 佐苗ら:保険薬局と
病院薬剤師の薬薬連携による糖尿病療養指導の継
続. プラクティス.27 巻 3 号 P.332-337(2010.05)
9)山田 知里, 高畑 知帆子, 宮谷 美智子ら:S-1 を
用いた化学療法例の病院・院外薬局連携の有用性.
日本癌治療学会誌.48 巻 3 号 Page1200(2013.09)
10)後藤愛実, 平祥子, 細見誠ら: お薬手帳を利用
した薬・薬連携の意義と課題の検討 高槻市の薬剤
師によるがん化学療法情報の共有状況に関するア
ンケートより. 日本病院薬剤師会雑誌.49 巻 6 号
P.641-647(2013.06)
11)岡明美, 米川ゆみ子, 須磨一夫ら: 化学療法パ
スポート 外来化学療法患者のための薬薬連携情
報 共 有 ツ ー ル . 癌 と 化 学 療 法 .39 巻 13 号
P.2581-2583.(2012.12)
12)上田浩貴, 倉橋基尚, 中尾祐子ら: 薬・薬連携を
用いた内服抗がん剤のレジメン共有化. 日本病院
薬剤師会雑誌.48 巻 3 号 P.356-359.(2012.03)
13)間 俊男, 川崎 玄博, 三浦 雅典ら:経口抗がん
剤治療におけるインターネットを利用した薬薬連
携 . 全 国 自 治 体 病 院 協 議 会 雑 誌 .52 巻 3 号
P.320-322.(2013.03)
14) 木村 緑:薬薬連携で取り組むがん患者の服薬支
援 化学療法版お薬手帳「かけはし」の活用. 調
剤と情報.17 巻 6 号 P.733-736(2011.06)
15) 宮崎 美子:これからの医療のかたち 在宅医療
と薬剤師・薬局のあるべき姿を探る 地域における
155
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
がん患者に対する薬剤師外来の開設
○小川千晶 1,大橋養賢 1,矢田部恵 1,髙橋 郷 1,森 達也 1, 近藤直樹 1,2,幸阪貴子 3,西村富啓 5,
鈴木義彦 1,2,磯部 陽 4
国立病院機構東京医療センター薬剤科 1,臨床研究・治験推進室 2,看護部 3,外科 4
国立病院機構横浜医療センター薬剤科 5
要約
国立病院機構東京医療センターでは、安全ながん薬物療法を実践していくことを目的に、レゴラフェニブ
を服用する外来患者を対象として薬剤師外来を開設した。薬剤師外来において、動画を用いた指導を取り入
れることで、
文字が主体となる教育ツールに比べ音声や画像が主体のツールは情報の取り込みが簡便であり、
また医療スタッフの説明が標準化されることにより服薬説明の質が担保されるため、患者の理解度の向上の
みならず、スタッフの教育や効率的な服薬指導に直結すると思われる。動画作成には専門的な技術が必要で
あるが、今回確立した作成方法を用いることにより、低コストで簡便に動画を作成することができ、同時に
自主制作であれば迅速な情報のアップデートも可能にする点で有益であると考える。
1. はじめに
スポーザブル注入器)を用いる FOLFOX または
がん薬物療法において、抗がん薬に起因する副作
FOLFIRI 療法など従来の代表的な治療法とは異なり、
用を重篤化させず、
治療を継続させていくためには、
患者の治療負担を大きく軽減できると期待されてい
薬剤師の介入が肝要である 1)。さらに昨今、がん医
る 3)。
療の均てん化が謳われており、日本医療薬学会認定
しかしながら、これら外来通院での治療継続には、
がん専門薬剤師、日本病院薬剤師会認定がん薬物療
副作用管理に関する患者自身と家族などのキーパー
法認定薬剤師、日本臨床腫瘍薬学会認定外来がん治
ソン、支援者の理解が不可欠であり、経口抗がん薬
療認定薬剤師など、がん領域において高度の専門的
に至っては治療完遂の可否をも患者自身に依拠する
な知識を有した薬剤師の認定制度が確立し、今後ま
こととなる。また、外来患者の増加は、医師一人当
すます薬剤師の役割が拡大していくことが見込まれ
たりの担当患者数が増加することによって、十分な
る 2)。一方、様々ながん腫に対する薬物療法は、日
病状説明および治療経過の把握などが困難になる可
進月歩の状況であり、これまで入院治療が基本であ
能性がある。さらに入院中であれば病棟担当薬剤師
った抗がん薬治療が、外来通院でも可能となったこ
によって治療による有害事象の評価などをすみやか
とで、がん患者の生活スタイルは数年前と比べ著し
に医師へ報告できるが、外来患者では多くの場合、
く変化している。特に、近年登場した進行再発大腸
薬剤師は医師の診察後に面談を行うため、情報共有
がん治療に対するレゴラフェニブは経口薬(錠剤)
にタイムラグが生じるなど、新たな問題が出現して
であり、特殊なデバイス(CV ポート、携帯型ディ
いる 4)。
156
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
そこで、国立病院機構東京医療センター(以下、
トになるよう検討を行った。なお、動画上の服薬説
当院)では、外来通院治療のメリットを十分に活か
明にあたっては、レゴラフェニブを販売するバイエ
した上、医師の負担軽減を補うととも
に、薬剤師による副作用管理の支援を
行うことで安全、安心ながん薬物療法
を実践していくことを目的に、わが国
において最初の医薬品リスク管理計画
(RMP)の施策が講じられた医薬品で
例)レゴラフェ二ブ(REG)導入を予定した段階
医 師:電子カルテに「スチバーガ®適正使用基準」を入力→外来担当薬剤師へ電話連絡する
薬剤師:「スチバーガ®適正使用基準」より、使用予定の患者の適格性を確認する
院内処方でも対応できるよう、あらかじめ在庫を確認する
REG の初回導入時(初回薬剤師外来)
来院・受付
医師の診察
次回の薬剤師外来を医師
診察の1時間前に予約
あるレゴラフェニブを服用する外来患
(薬剤師)
情報を医師に伝達する
薬剤師外来にて
面談を行う
1)REG の処方入力を確認
2)服薬説明(動画供覧)
3)理解度確認表による評価
4)補足説明
(患 者)
会計後、薬剤を受け取り
帰宅する
者を対象とした薬剤師外来を立ち上げ、
医師の診察前に介入することにより、
2回目以降の薬剤師外来
来院・受付
これら諸問題を解決する方策を試みた。
予約時間に薬剤師外来で
担当薬剤師による面談
採血
医師の診察
会計
次回の薬剤師外来を医師
診察の1時間前に予約
1)REG の残数、必要数量の記載
2)支持療法薬の提案
3)有害事象等の情報を多職種と共有
4)理解度に応じて再度指導(動画供覧)
また、レゴラフェニブを導入する患者
を対象とし、さらなる理解度の向上を
担当薬剤師は可能な限り
処方内容の確認を行い、
必要に応じて疑義照会する
目的として、動画を用いた運用を取り
入れたので報告する。
ル薬品株式会社の「スチバーガ®錠」患者用説明パ
ンフレットをもとに作成することとした。
2. 方法
図 1 東京医療センターの薬剤師外来の運用フロー
① 薬剤師外来の開設に向けた施策
薬剤師外来の開設にあたり、担当薬剤師の人選を検
3. 結果
討する。また、レゴラフェニブの適正使用を鑑み、
① 薬剤師外来の開設について
医師が処方前に入力する投与開始前チェックリスト、
薬剤師外来の担当薬剤師は、当院通院治療センタ
薬剤師が初回服薬開始前に入力する患者理解度チェ
ーにおいて、抗がん薬施行患者の薬歴管理や処方監
ックリスト、投与開始後の 2 回目来院以降に薬剤師
査、抗がん薬治療の説明、患者教育、副作用モニタ
が入力する副作用等観察チェックリストの作成を検
リングを行っている常駐薬剤師 1 名を選定した。
討する。さらに、これらのチェックリストが、レゴ
薬剤師外来の運営については、レゴラフェニブ初回
ラフェニブ投与患者を担当する医師、薬剤師、看護
導入時は医師の診察後に、投与開始後の 2 回目以降
師等がタイムリーに情報を共有できる手段の検討を
は、
医師の診察前に薬剤師が介入することとした(薬
行った。
なお、
本施策を円滑に遂行させるためには、
剤師外来の運用フローは図 1 に示す)
。これはすなわ
他職種の理解、協力が必要不可欠であり、今回の薬
ち、初回導入時の医師の診察時には、レゴラフェニ
剤師外来に関係する外科医長、外来師長にあらかじ
ブ投与開始前チェックリストである「スチバーガ®
め個別に内諾を得るとともに、病院の幹部会への了
錠の適正使用患者基準」
(図 2)を医師が入力し、薬
承を得る形で進めることとした。
剤師と電子カルテ上、情報共有するシステムを構築
② 服薬説明用動画の作成に向けた施策
することにした。また、レゴラフェニブ投与後の有
服薬説明用動画の作成にあたっては、特別な環境や
害事象の発現状況の確認、服薬状況の確認は図 3 の
複雑な技術を要さず、簡便に作成でき、また、ナレ
テンプレートを用いて実施することとし、タイムリ
ーター、出演者、編集者等、本動画の作成に関与す
ーに医師と電子カルテ上、情報共有できる仕組みづ
るスタッフは、我々自身で対応するなど、専門業者
くりを構築した。
に委託することなく、自主制作を基本とし、低コス
以上のような運営を行うことについて、他職種を
157
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
含めた薬剤師外来の関係者の内諾を得て、その後、
病院幹部会の了承が得られたことか
スチバーガ® 錠の適正使用患者基準
確認事項 回
(正)
□ 今予定の治療レジメン 単
剤スチバーガ錠
40mg 単独)⇒併用の場合、投与回避 者
□ 患同意 あ
り
⇒無い場合、投与回避
剤
□ 本の成分に対する過敏症の既往歴
【禁忌】 なし
⇒ある場合、投与回避
娠
□ 妊またはその可能
し
【禁忌】/授乳中 な
⇒ある場合、投与回避
等
性
□ 中度以上の肝機能障害 な
し
⇒ある場合、投与回避
ン
□ コトロール不良の高血圧 な
し
⇒ある場合、投与回避
転
□ 脳移 な
し
⇒ある場合、慎重投与
栓
□ 血塞栓症またはその既往歴 な
し
⇒ある場合、慎重投与
術
□ 手なし( 28 日以内に施行された開腹・開胸・腹腔鏡手術等の侵襲の大きな手術)
⇒ある場合、慎重投与
S
□ ECOG P 0 ,1,2,3,4
準
⇒2以上、投与回避
□ 標治療後(3次治療以降)での施行であるか?
⇒でない場合、投与回避
(術後補助化学療法はカウントせず)
臨床検査項目
□ 好球数( /mm3)
□ ヘモグロビン(g/dL)
□ 血小板数(/mm3)
□ AT ( IU/L)
□ AT ( IU/L)
□ 総ビリルビン(mg/dL)
★上記入力後、薬剤科 ●●●
⇒該当しない場合、投与回避
中
≧1,500
≧9
≧100,000
S
<100 L
連
<100
●
<2.0
ま
で絡をお願いいたします
。
ら、2013 年 7 月よりその運用を開始
した。
その結果、患者への検査結果の解
説、投薬の検討、および副作用に応
じた処方提案を行うことが可能にな
った。
② 服薬説明用動画作成について
今回作成する「スチバーガ ®錠」
用説明動画は当薬剤科に所属するが
ん専門薬剤師、がん薬物療法認定薬
剤師などを中心に作成した。その後、
薬剤科内においてその内容を十分に
検討し、最終的には、当該診療部門
図 2 スチバーガ®適正使用チェックリスト
の責任者である統括診療部長をはじめ、実務責任者
である外科医長、外来看護師長の了承を得て、本動
画の運用を開始した。
使用機器およびソフトは Macbook Pro、iMovie、
keynote(全て Apple Inc. Japan)を使用した。また、
患者説明時に用いるツールとしては iPad (Apple Inc.
薬剤科チェック項目(2回目以降面談時のチェック項目)
Japan) を使用した。動画のナレーター、その他出演
■処方区分 □院内処方 □院外処方(かかりつけ薬局名: )
者は全て当院薬剤科所属の薬剤師が担当した。
■残薬数量 ( 錠 ) ⇒飲み忘れ ( 回分 )
週
い
■投与スケジュール、服用方法の確認と理解
スチバーガ®錠に関する説明動画の作成手順は、
(原則3週内服 1休薬 、空腹時を避けた食後投与)
■手足症候群 □Grade1 □Grade2 □Grade3 □Grade4
□
図 4 に示したとおりである。シナリオは「スチバー
■手足症候群の予防外用剤は適切に使用していたか? は □いいえ
■たんぱく尿 □Grade1 □Grade2 □Grade3 □Grade4
ガ®錠」患者用説明パンフレット(バイエル薬品株
■発 疹 □Grade1 □Grade2 □Grade3 □Grade4
■下 痢 □Grade1 □Grade2 □Grade3 □Grade4
■高 血 圧 □Grade1 □Grade2 □Grade3 □Grade4
式会社提供)をもとに作成しているが、専門用語の
■家庭血圧の測定を遵守されているか? □はい □いいえ
平易な表現への変更、説明を強調すべき箇所への画
■嘔 気 □Grade1 □Grade2 □Grade3 □Grade4
像の追加などを行った。
■嘔 吐 □Grade1 □Grade2 □Grade3 □Grade4
■食欲 不振 □Grade1 □Grade2 □Grade3 □Grade4
服薬説明動画の実際の運用に関しては、レゴラフ
■発 熱 □Grade1 □Grade2 □Grade3 □Grade4
■口腔粘膜炎 □Grade1 □Grade2 □Grade3 □Grade4 S
ェニブ初回導入時(医師診察後)の薬剤師外来で患
■ECOG P □0 □1 □2 □3 □4
■支持療法の提案
者に視聴させ、また、
患者の理解度を確認するため、
Ex) プリンペラン(5) 1T/スチバーガ内服 1時間前
動画視聴後にその場で「スチバーガ®初回投与患者
理解度確認表」(図 5)を用いて評価した。
図 3 薬剤師外来におけるチェック項目
158
IT ヘルスケア
(1)
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
(2)
(3)
シナリオ作成
【承認受諾】
専門・認定薬剤師な
ど専門領域に精通し
た薬剤師による承認
(4)
(5)
(6)
図 4 服薬説明動画作成方法のチャート
(1) シナリオを作成し専門・認定薬剤師など専門領域に精通した薬剤師の承認を受ける。(2) 作成したシナリオをもとに関連
する図表を載せたスライドを Keynote (Apple Inc.) で作成する。※著作権・肖像権が関係する場合は許可を取る。(3) 作成
したスライドを Keynote コマンド「再生」を選択し「スライドショーを記録」により記録する。この時、ナレーターによる音
声吹き込みをする。(4) Keynote コマンドの「共有」を選択し「QuickTime」に書き出す。(5) 書き出した動画を iMovie (Apple
Inc.) でつなぎ合わせ、
「共有」から「ムービーを書き出す」を選択する。(6) 出力デバイスに合わせた保存形式で保存し、出
力デバイスと同期する。※HD720P(1280×720)を繁用した(大:960×540 でも可)
。
評価の定量化が今後の課題である。しかしながら、
4. 考察
今回我々は医師の診察前後において薬剤師外来を
薬剤師外来を担当する薬剤師の人数は限られている
開設し、その効率的な運用のツールとして服薬説明
こと、患者の評価を担当する薬剤師個人の臨床経験
動画を作成した。
の大小等によって変化する可能性があること、客観
既報においても、薬剤師外来の開設による有用性
的かつ再現性を有する評価指標を設けることが困難
が複数報告されている。内容としては、
「がん患者の
であることから、今後評価の定量化に向けた取り組
QOL 向上」
、
「がん治療の質の向上」、
「医師業務の負
みの工夫と客観的かつ再現性の高い指標を用いたア
担軽減」
、「リスクマネージメントの強化」に貢献で
セスメントシステムを構築していくためのさらなる
きるとした報告や薬剤師外来受診後の治療薬剤の理
検討が必要と考える。
また近年、手術前後において創傷ケアの説明動画
解、および副作用の発現や予防法の理解に繋がった
5)-7)。当院においてはレ
を使用することで、患者教育と日常診療時間を効率
ゴラフェニブ導入症例が現段階で 2 名と有用性を実
よく管理できた報告や、投薬の待ち時間に LED
証するほどのデータが十分に集積されていないため、
(Light Emitting Diode)基板を使用した情報提供が、
ことなどが挙げられている
159
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
されることから、服薬説明の質が担保されるため、
患者の理解度の向上のみならず、スタッフの教育や
効率的な服薬指導に直結すると思われる。
今回我々は、自主制作による低コストで簡便な服
薬説明動画の作成方法を構築した。これにより、服
薬説明動画の範囲であれば、画質や音質は臨床現場
で十分に応用できると同時に、難しい操作を行うこ
となく、だれでも迅速な情報のアップデートを可能
にしている点で有益である。
今後の課題として、現在はレゴラフェニブのみを対
象薬剤として薬剤師外来を実施しているが、レゴラ
フェニブ以外の抗がん薬へ応用することや、前述の
とおり動画を使用した服薬説明が理解度の向上に有
効であることを客観的に評価する必要があると考え
ている。
5. おわりに
我々の最終目標は、外来がん薬物療法のさらなる
安全性の確保、およびより手厚い患者ケアと強固な
患者の自立を支援することであると考えている。そ
れらを実現するための一つの手段として、今回われ
われが開発した動画を含めた服薬支援ツールを情報
図 5 スチバーガ®初回投与患者理解度確認表
共有できるような IT 環境を整備していくことが重
要と考えている。
患者の薬に対する関心を高める効果的な手段であ
ること、薬物療法への関心度と理解度を向上させる
引用文献
など有用性を示した報告が様々な領域からなされて
いる
8)-9)。がん領域においても同様に活用できる可
1)
能性が高いと考えている。なぜならば、外来がん化
学療法施行件数の増加とともに、経口抗がん薬にお
いては服用スケジュールの管理、副作用対策、そし
2)
て有害事象の有無のチェックなど、多くの点で今ま
3)
で以上に患者教育が必要であるが、がんを告知され
た直後の患者にとって、パンフレットのような活字
を読むという能動的な情報の取り込み作業は十分な
効果が得られない可能性があるためである。
さらに、
文字が主体となる教育ツールに比べ、音声や画像が
4)
主体のツールは、情報の取り込みが簡便であり、ま
5)
た、医療スタッフの説明が標準化されることも期待
160
川上和宣, 吉村知哲, 日置三紀ら: がん診療拠
点病院を対象とした外来化学療法における薬
剤師の業務展開に関する調査結果. 日病薬誌
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小川千晶, 大橋養賢: がん薬物療法病棟業務マ
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者に対する薬剤師外来の有用性の検討. 医療
IT ヘルスケア
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7)
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使用を目指した電光表示装置 (LED) による静
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価. 病院薬学, 24(3), 221-228.(1998)
161
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
ペインティング : 在宅癌患者の痛みを医療者に翻訳する
皆川 暁生、藤巻 慎、日野浦 文彩
東京理科大学、東京薬科大学、多摩美術大学
要約
国民の二人に一人は癌になると言われている今日において、癌患者の大きな悩みの一つに痛みがある。しか
し、その痛みの多くは、事前に適切な情報(患者の服薬継続率や副作用の内容またレスキュー使用後の痛みの
推移など)を患者と医療者間で伝達し切れていない故に生まれている可能性がある。私達はこの悩みを解消し、
患者の QOL を改善していきたい。
はじめに
療行為に必要な情報が失われていくために、医療者
当方は癌患者でも在宅患者を主なターゲットと
の可能な医療行為の限界が抑制されてしまうのでは
している。
4
ないかと私達は考える。
痛みというものは同じ大きさでも二回目、三回目
では、患者が自分の痛みを医療者に適切に伝えて
と受け続ける事によって、患者の感じる痛みの大き
いくためにはどうすれば良いのか、私達は患者に
さは大きくなっていきます。癌の進行によって痛み
日々の痛みの記録をとってもらう方法を採用する。
自身の大きさが増していけば、患者が感じる痛みの
記録の継続化のためにも、それは簡便であり且つ医
大きさはそれ以上に増していく事になります。痛み
療者が閲覧した際に有用な情報でなくてはならな
の抑制にたいする医療者と患者間の意識の乖離。
い。例えば痛む部位、痛みの種類、その大きさ、時
NPO によれば、現在の技術では、 がんの痛みの 90%
刻、副作用は出ているのか、服薬状況は良好かなど、
は薬剤によってコントロールできるといわれてい
医療者がより適切な処置を施せるような詳細な患者
る。6だがとある調査では痛みの治療が適切に行わ
データを提示出来るように、これらの複数の項目を
れたと感じている患者は 36%程しかいないという結
患者が困難を意識しないでも記録出来るような仕組
果も出ている。何故このような事態が起こるのか、
みを作る事で改善していきたい。実際のところ、痛
原因の一つに患者が医師に対して痛みを訴える事を
み日記というものが今までも使われてきたのだが、
我慢してしまう、また遠慮してしまう事があるので
長所はもちろん多いのだが、紙媒体である故に日々
はないかと私達は考えている。 とある調査レポー
の記録が医療者にリアルタイムで転送されない点、
トによれば我慢してしまう患者、遠慮してしまう患
用紙の管理コストの点で在宅患者と医療者をつなぐ
者がともに 50%を超えるという結果が出ている。こ
には今一歩足りないと考える。
5
7
のような要因も含め、患者と医療者間で、適切な医
方法
4
今回、医療者と患者間の情報伝達の効率化はスマ
http://www.chiro-journal.com/2011/10/1734/ : アクセス日
2014/5/6
ートフォンにより行う。近年、Android や iPhone な
5
どのスマートフォンが開発されてから、8その国内
http://www.jspc.gr.jp/gakusei/gakusei_grounding_02.html : ア
における普及率は今や約 50%に昇る。60 台以降の年
クセス日 2014/5/7
齢層は依然として普及率が低いが、今回は疼痛緩和
MMJ June 2008 Vol.4 No.6 p-534(ボストン コンサルティ
6
ングがん患者インターネット調 査:BCG)
7
8
ルシーエー、東京(2005)
アクセス日 2014/5/6
小川節郎:がん疼痛治療患者調査レポート Vol.1.p.2、日本エ
162
http://www.idcjapan.co.jp/Press/Current/20131003Apr.html :
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
ケアを行う、在宅癌患者での使用を主に考えている
無い事にあった。しかし、スマートフォン側で記録
のでその介護者または近親者が使用する事を考えれ
した患者データを、医療者側の PC で閲覧出来る様
ば、利用者層がスマートフォンを扱えない事態は二
にすればその問題は解決する。よって医療者用に患
人に一人であり、扱えないにしても PC を所有して
者データを閲覧、管理するための Web アプリケーシ
いる層が 9 割を越えているため直に馴染むと考え
ョンを製作すれば良い。
る。
患者が医療者に対して正確な情報を提供出来て
進捗状況
いない原因と考えるのは以下の点である
現在、アプリケーションは稼働しておらず、スマ
1. 医療者が自宅に訪問するまでに、過去の詳細な
ートフォン側は患者の方々からのユーザインタフェ
痛みの大きさ、場所、種類、時刻、服薬状況や副作
ースに対するレビューを待ってから、デザインの再
用などを忘れてしまう点
考、実装、システムの結合を残している。Web 側は
2.医療者が患者に対して問診できる時間は限られ
デザインの実装、通信傍受への対策、個人情報が盗
ており、更に訪問してから初めて患者の状況を確認
まれた際に個人情報を守る対策、サービス利用者を
する点
権限を与えられた特定の医療者に限定する処理など
まず(1)に関しては、痛み日記などの様な従来の手
が多く残っている。取り扱うものが患者の個人情報
法では、記録するために数多くの項目をペンで埋め
であるためセキュリティ面に非常に気を遣う必要が
ていく、という患者の自主性に全てを委ねる形式を
あり、現在、セキュリティ方面の知識、技術を得る
取っており、これでは患者の記録に対するハードル
ため奔走中である。
が高く、記入忘れも防止出来ない上に、医療者にと
っては記録の保管に対するコスト、以前の情報を閲
考察
覧する際のコスト、データを二次利用する際のコス
今回、患者の疼痛緩和をより適切に行うために患
トなどが高くなってしまう。そこで、私達が開発す
者の痛みや副作用、レスキューや定時薬の服薬情報
るアプリケーションはスマートフォンのアラーム機
を医療者側へ伝達しようとしている。私達はその過
能を用いて服用薬に応じたアラームを患者又は介護
程で患者全ての個人情報や、医療者の患者に対する
者に設定して頂く。また、痛みの記録を服薬時に記
処置の一部を DB に保存し、管理していく事になる。
録するように構成する。その後、服薬アラームが起
将来的に、患者データ、医療データが高い信頼性の
動してから、服薬したというボタンを押す事でアラ
下に収集する事が可能になれば、疼痛緩和に必要な
ームが止まり、痛みの入力画面に移るようにしてい
医療用麻薬の個別量や副作用に対する適切な処置な
る。その際には医療者にとって必要最低限な情報を
どを発見する手がかりになるかもしれない。
記入してもらう。服薬率を少しでも上げるためにア
ラームを設定し、
服薬から現在の痛みの入力を促し、
一連の記録項目に無理の無い流れをつくる事で記録
率の上昇を促す。また、患者ないしは介護者の負担
を可能な限り小さくするために自動的に埋める事の
可能な項目(アラームによる服薬時の時刻など)を補
完する事で患者ないしはその介護者の負担を出来る
だけ小さくしていく。
次に(2)に関しては、今までの手法の問題点は訪問
するまで患者の情報が全く無い、もしくは一部しか
163
IT ヘルスケア
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IT ヘルスケア
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次期学術大会のご案内
IT ヘルスケア学会 第9回年次学術大会
th
The 9
Annual Meeting of the Japan Association of Applied IT Healthcare
開 催 趣 意 書
平成26年5月 吉日
第9回年次学術大会実行委員長
木暮 祐一(青森公立大学経営経済学部)
宇宿 功市郎(熊本大学医学部附属病院)
大会テーマ『スマート&ウェアラブル化する IT ヘルスケアへの展望』
2015 年 6 月 6 日(土)、7 日(日) 熊本県熊本市で開催
謹啓、時下益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
超高齢化社会の実現、健康で安全安心な生活ができる環境の実現に向け、ICT(=IT、情
報通信技術)の利活用は今後もますます重要なものとなっています。日常生活における健
康管理・疾病管理は世界共通の課題とされ、自分自身の健康状態を常に把握すると共に、
そうした生体情報データを医療スタッフと共有することで的確な助言が得られる環境がす
でに現実のものとなり、すでに世界では高騰する医療費を適正化する効果があることも認
められるようになりました。こうした ICT の利活用は医療機関や保険者等の経営効率改善
にも期待できます。また救急医療の分野においても、ICT を用いた迅速な情報共有の成果
が救命率の向上に寄与しています。ICT を用いることによる様々な情報の可視化によって
医療行為に関わる安全性や質の向上に期待が持たれています。
さらにわが国では、医療・ヘルスケア分野で ICT 利活用していくためのインフラにおい
て世界の中でもトップクラスの光ブロードバンドインフラやモバイル通信ネットワークが
整った素晴らしい環境が整備されています。近年はスマートフォンの普及により、誰でも
がコンピュータに相当する機器を常に身につけて利用する環境が当たり前のこととなり、
市民一人ひとりの日常生活における健康に関わる情報の収集や、健康状態に応じた情報提
供が簡単に実現できるようになりました。さらに 2015 年以降はウェアラブルコンピューテ
ィング時代の幕開けとなり、これまで以上に ICT を身につけながら医療やヘルスケアのサ
ービスを受動的に利用できる時代が到来しようとしています。
165
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
すでに様々な分野において、医療・ヘルスケア分野における ICT 利活用の研究・開発が
進んでいるところですが、
第9回学術大会では、こうした超高齢化社会に向けた取り組み、
人々の日常生活における健康管理の取り組み、救急医療や医療施術における ICT 利活用の
取り組みなど、医療・ヘルスケアをめぐる ICT 利活用の様々な研究成果の集大成を目指し
たいと考えています。さらに、医療・ヘルスケア分野に応用可能な最新の ICT 利活用環境
を探るべく、情報通信、情報工学、医療情報やその活用に関わる研究者や企業関係者にも
ぜひ積極的にご参加いただきたく企画を進めてまいります。学際分野や立場を超えて共に
最新の情報を共有することで、ICT を活用した健康で安全な社会の実現を目指し、ご参加
いただく皆様同士で闊達な議論ができることを期待しております。
本学会の活動が広く認識されると共に、第9回学術大会の開催趣旨をご理解いただき、
皆様のご支援を賜りたくお願い申し上げます。
謹白
IT ヘルスケア学会 第 9 回年次学術大会事務局
〒030-0844 青森県青森市大字合子沢字山崎 153-4 青森公立大学経営経済学部 木暮祐一研究室内
連絡先 [email protected]
166
IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
ITヘルスケア学会への入会のご案内
このような方たちのためにITヘルスケア学会はあります
IT とヘルスケアに関心のある方でしたら、もちろん、どなたでも入会できます。大学、研究
機関、医療機関、企業などでヘルスケアや IT にかかわりのある方々、医療・看護・介護等に
かかわる方々、特にヘルスケアの現場で実践する方々の役に立つような学会になることを目標
としています。医師、看護師、介護師、専門家、研究者、企業だけでなく、幅広い層からご参
加いただけるよう、特に学生の方々には負担にならないような会費区分を設けています。
会員になるとこんな特典があります
1. 学会誌に投稿できます。IT ヘルスケア学会誌は、IT を駆使して投稿から査読、オンラ
イン出版までを迅速に完結させることをモットーにしています。
2. 学術集会やセミナーに会員価格で参加できます。
3. 学術集会やセミナーで、実用的な知見を吸収できます。
「最先端の難しい研究ばかりで
初心者にはちょっと……」ということのないように、参加者の誰もが何か一つは新しい
ことを持って帰れるような企画を心がけます。
4. そしてなによりも、幅広い分野、幅広い視点、幅広い知識を持ったさまざまな人たちと
知り合いになることができます。これが当学会の一番の強みだと自負しています。
会則
学会の会則は http://www.ithealthcare.jp/docs/0604kaisoku.html をご確認ください。
年会費(毎年 4 月 1 日より 3 月 31 日)
一般会員
7,000 円
学生会員
3,000 円
団体会員
30,000 円
賛助会員
30,000 円
入会申し込み
学会のホームページ(http://www.ithealthcare.jp/form2.html)に必要事項を記入してご
送信ください。事務局からご連絡させていただきます。
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IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
ITヘルスケア学会 平成24年度・25年度 開催行事一覧
第6回年次学術大会
テーマ:「ME発祥の地からの招待状」
実行委員長:原 晋介(大阪市立大学大学院工学研究科)
中村 肇(大阪市立大学大学院医学研究科)
会期:平成24年5月27日(日)午前
会場:大阪市立大学医学部学舎4階 中講義室 小講義室
大阪市阿倍野区旭町 1-4-3
モバイルヘルスシンポジウム2012
テーマ:「長寿健康社会でのイノベーションを実現するモバイルヘルス」
実行委員長:水島 洋(国立保健医療科学院研究情報支援研究センター)
会期:平成24年7月22日 (土)
会場:東京医科歯科大学M&Dタワー 鈴木章夫記念講堂
東京都文京区湯島 1-5-45
後援:YRP研究開発推進協会
中央コリドー高速通信実験プロジェクト推進協議会
第7回年次学術大会+モバイルヘルスシンポジウム2013合同開催
テーマ:「在宅医療+地域コミュニティーの創意工夫を活かす」
第7回年次学術大会
大会長:高瀬義昌(医療法人社団至髙会 理事長)
会期:平成25年6月29日(土)
会場:東京医科歯科大学M&Dタワー2階 共用講義室1 共用講義室2
東京都文京区湯島 1-5-45
モバイルヘルスシンポジウム2013
実行委員長:水島 洋(国立保健医療科学院研究情報支援研究センター)
会期:平成25年6月29日(土)
会場:東京医科歯科大学M&Dタワー2階 共用講義室1 共用講義室2
東京都文京区湯島 1-5-45
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IT ヘルスケア
第 9 巻 1 号,May 24-25, 2014
平成26年度・27年度理事一覧
理 事
石井 留雄
磯部 陽
大野 ゆう子
神崎 秀嗣
木村 憲洋
木暮 祐一
高瀬 義昌
原 晋介
水島 洋
八幡 勝也
山下 和彦
山田 康夫
中央コリドー情報通信研究所
国立病院機構東京医療センター
大阪大学大学院医学系研究科
京都大学ウイルス研究所
高崎健康福祉大学健康福祉学部
青森公立大学経営経済学部
医療法人 社団至高会
大阪市立大学大学院工学研究科
国立保健医療科学院
医療法人 住田病院
東京医療保健大学医療保健学部
英国国立ウェールズ大学経営大学院
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