2012年3月29日 PIC/S GMP ガイドラインに関する当局の考え方が示さ

C-CAST
CORPORATION
業界トピックス
(Vol.2)
株式会社 シ-・キャスト
代表 荻原 健一
PIC/S GMP ガイドラインに関する当局の考え方が示される!
-国内の GMP 査察は順次 PIC/S 基準に移行するか?1 概要
平成24年2月1日に厚生労働省医薬食品局 監視指導・麻薬対策課より、「PIC/SのGMPガイドライン
を活用する際の考え方(案)に関する意見募集の結果について」が事務連絡された。 本連絡は平成23年
11月4日から12月5日の1か月間にわたるパブリックコメントに対する回答となっている。
また、厚労省はこれらの全ての意見に対する個別の回答を公開し、合わせて代表的な質問に対する取組
みの考え方を示した「「PIC/SのGMPガイドラインを活用する際の考え方について」の質疑応答集
(Q&A)について」を発行している。
そこには規制当局としてのPIC/S加盟に向けた決意と取組み姿勢に併せて、今後のGMP査察にあた
っての苦しい状況を垣間見ることができる。
2 PIC/Sとは
2.1 PICとPICS
PIC/S は元々EFTA(欧州自由貿易連合)によって1970年10月に設立されたPIC(Pharmaceutical
Inspection Convention: 医薬品査察協定)が母体となっている。PICはGMP査察の相互承認、GMPの
ハーモナイゼーション等を目的に結成され、当初の加盟国はオーストリア、デンマーク、フィンランド、
アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、ポルトガル、スウェーデン、スイス、イギリスの10ヵ国で
あった。その後、1995年1月までにオーストラリア、ベルギー、フランス、ドイツ、ハンガリー、アイルラン
ド、イタリア、ルーマニアが新たに加盟しPIC加盟国は18か国となっている。しかし、1993年以降、EU法
との関係もありPICに新規加盟国を迎え入れることができなくなった。 査察当局や産業界は、PICの原
則の維持を支持していたこともあり、1995年11月にPICS(Pharmaceutical Inspection Co-operation
Scheme:医薬品査察協同スキーム)が組織された。
PICSは査察機関当局の協同合意を基本として査察情報等の交換等を目的にスタートしたが、PICと
PICSは共同で活動することになり「PIC/S」が共通ロゴとなっている。PIC/S加盟国は欧州諸国を中心に近
年ではアジア、アフリカ、そして昨年1月には米国FDAも加盟し現在では38か国/40当局が加盟している。
(2012/1現在)
また、主な加盟申請中は、イラン、タイ、インドネシア、フリッピン、ブラシル、ニュージーランド、台湾となっ
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ており、さらに加盟検討国として韓国、中国、香港、トルコ、サウジアラビア、ロシアそして日本がある。これ
らの状況からPIC/S GMPが世界のGMPと言われる所以である。
2.2 PIC/Sの活動とその意義
PIC/SはPICの目的を引き継ぐと同時に、さらには国家間の枠組みから保健機関当局の協力という柔軟
な組織となった。PIC/Sの主な目的は次のようになる。
■高いGMP基準を保証
・ PIC/Sは全ての加盟メンバーがPIC/S基準を守ることを保証。(加盟するにはGMP査察システムが
強要される) これによりPIC/S基準の高い品質システムが担保される。
■査察官のトレーニングの場を提供
・セミナー、合同訪問プログラム、専門家サークル等への参加によりトレーニングの機会が増加する。
(PIC/S以外に規制当局が連帯してトレーニングを行っている場はない)
■国際的なGMPの調和
・PIC/Sに加盟している規制当局は、委員会に参加することで国際的なGMP指針等の作成に参加で
きる。 また、GMPや査察官のための品質システムに対し統一した解釈が可能となる。
■ネットワーク化の実現
・他の規制当局の人との個人的な交流も可能となり、情報交換が容易になる。
■情報の共有
・GMP査察レポートの共有を通して、査察資源の効率的な運用を提供している。
・査察の増加に直面している規制当局にとって、大きなコスト削減が期待できる。
■他協定の締結の促進
・PIC/Sに加盟することにより、他の協定(MRA等)が促進される。(豪州とカナダ、EUとスイス等)
医薬品産業のグローバル化が進む中で、各国の規制当局が情報を共有し、査察に向けた相互協力と
査察官のトレーニングの場が提供される意義は大きい。
2.3 日本の規制当局のPIC/S加盟
厚労省は一昨年よりPIC/S加盟への調査・検討を行っているが、加盟にむけて下記のような課題が
考えられる。
(1)GMP調査当局(PMDAと都道府県)の品質システムの整備、連携
⇒国内調査権者が同一の品質システムで動いていることを示す必要がある
(2)個々のGMP調査員の質の確保(査察能力がが国際レベルである必要がある)
⇒調査員の資格要件の設定、教育・訓練プログラム等の充実が求められる。また、数年ごとの人事異
動でも査察レベルが維持できるシステム/制度の確保と証明
(3)国内GMP関連規制とPIC/S GMPガイドの同等性確保
⇒いくつかの異なる点の整合性が必要
GMPの基本的な考え方には大きなギャップはないが、個々の要件を見ると事務連絡、自主基準等、そ
の位置付けが曖昧なものに要件が記載されているところもあり、今後の課題となっている。
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3 厚労省の考え方が示される
2月1日の回答のポイントは次の通りである。(厚労省の事務連絡より抜粋)
・PIC/SのGMPガイドラインには外国における品質確保のための様々な具体的手法が示されているとこ
ろであり、GMPを運用する上での参考となる品質確保の手法を示したものであること。実際の運用におい
ては、製造業者等の自らの手法においてもPIC/SのGMPガイドラインの手法と同等以上の品質が確保
される場合、PIC/SのGMPガイドラインの手法を活用することの是非については、製造業者等において
主体的に判断して対応すべきものであること。
・独立行政法人医薬品医療機器総合機構及び都道府県のGMP調査に係る業務等にあたっては、PIC/
SのGMPガイドラインを品質確保のための参考となる手法とし、製造業者等の自らの製造管理及び品質
管理の手法によってもPIC/SのGMPガイドライン等の手法と同等以上の品質が確保されているか、科
学的な知見に基づき検討すべきものであること。その結果、製造業者等の自らの手法において、許容でき
ない品質及び保健衛生に対するリスクがあると判断される場合にあっては、GMP省令を踏まえた上で必
要に応じPIC/SのGMPガイドラインにある手法を活用するよう指導しても差し支えないこと。
また、これらの中から代表的な質問については、質疑応答集(Q&A)が発行されている。
下記に一例を示した。
Q16 今後のGMP調査において、PIC/SのGMPガイドライン上の問題が認められた場合、そ
の取扱いはどのように行われるのか。
A16 製造業者等の自らの製造管理及び品質管理の手法が、PIC/SのGMPガイドラインの手法
と異なっていること自体、直ちに問題とならない。ただし、その手法において、許容でき
ない品質及び保健衛生のリスクがあると判断される場合は、GMP省令に基づく必要な指導の
一つにPIC/SのGMPガイドラインにある手法を求める場合がある。したがって、製品及び製
法等の特性に加え製造管理及び品質管理上のリスクを十分に考慮した上で、品質保証の指
針を示した通知、事務連絡等又はPIC/SのGMPガイドラインの趣旨を十分に踏まえた指導が
なされる。
4 総括
世界各国の規制当局がPIC/Sへの加盟を進める中で、日本の当局だけがガラパゴス状態ではいられな
いことは明白である。 国内医薬品市場の大きな拡大が期待できない状況の中で、PIC/S加盟が国内製
薬企業の国際化への大きなきっかけになることも期待される。 しかし、一方ではGMP査察の強化・厳格
化など、輸出品目を持たないドメスティック企業への影響も考えられる。
PIC/S加盟が不可欠である以上、日本の製薬企業も腹を括ってPIC/Sへの対応を推し進めることが求
められている。
以上
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