「森林技術」本の紹介 2014年3月号 発行/一般社団法人日本森林技術協会 富山和子 著 中公文庫 水の文化史/水の旅日本再発見 発行所:中央公論新社 〒104-8320東京都中央区京橋2-8-7 TEL03-3563-1431 FAX03-3567-3904 2013年8月発行 文庫版304/288頁 定価:本体743円+税/本体724円+税 ISBN978-4-12-205831-6/978-4-12-205832-3 羽田空港の売店のブックスタンドに『水の文化史』『水の旅』が 並ぶ。刊行後30年が経った今でも色褪せない日本人と水の本 質を学びたい人におすすめの著書である。 『水の文化史』は淀川、利根川、木曽川、筑後川の四大河川を 中心に日本人がどのように水と関わりながら国土と文化を築き 上げてきたかを著者の徹底した現場調査と豊富な文献の渉猟 を踏まえ説いている。淀川では上流の琵琶湖周辺の赤べんが ら格子の家の風景から京都―琵琶湖―北陸に至る文化の流れ を感じ、能登の輪島塗やアテ山と青森のヒバの関連性から水が 結ぶ山と山の交流を語る。 「日本海側こそ表日本」とは、この著書が嚆矢であったことを今、 思い起こす。木曽川では林業と自然保護の関係について、環境 問題の視点はいかに土壌の保全をするかであり、自然とつきあ うにあたっては、人もまた土壌の形成ニ積極的に参加していくこ とが重要であると説く。全編を通じて農林漁業の役割を見直し、 日本人のアイデンティティを明らかにしている。 『水の旅』では米、酒、鮭、杉といった身近なものにも人が自然 に働きかけてきた苦心の歴史とそこに息づく知恵と思想がある ことを紹介する。 特に林業については縄文時代からの歴史や『日本書紀』の素戔 嗚尊のひげからスギが生まれた話などを取り上げている。 また、70年前にダムの調査に取り組んだ職員が作ったガリ版 い か り 刷り「五十里湖水」を基本文献とするなど、地域で頑張っている 人、物言わぬ人たちの声に耳を澄ます。著者は、『水の文化史』 のあとがきで「この本は歴史の本でも流域論でもなく、『国土利 用論』である」と述べているが、30年にわたりこれらの本は日本 人と水の歴史の基本書、流域政策の基本書として読まれ、勇気 を与える書でもあった。凛としたかがやきが一層ましたこの2冊 を今回の文庫化によって多くの方におすすめできることは本当 にうれしい。 (日本森林技術協会/関 厚) 一般社団法人 森林技術協会とは http://www.jafta.or.jp/contents/gaiyo/1_list_detail.html
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