高層気象観測資料からみた平成 18 年豪雪の特徴 伊藤 智志 * ・熊本 真理子 * Characteristics of Aerological Data in Heavy Snowfalls during the 2005/2006 Winter in Japan Satoshi ITO and Mariko KUMAMOTO 要旨 平成 18 年豪雪における日本海沿岸への寒気の流入と降雪の関係,および秋から冬にかけての低気圧活動と 寒気の動向について,各地の高層気象観測資料などから解析を行った. 2005 年 12 月は中層が寒気に覆われていたため,降水が雨ではなく雪として降ることが多かった.対流圏 中層へ寒気の中心が流入して気温が低下するときとほぼ同じタイミングで降雪が多かった.日本付近への寒 気の流入経路は,比較した 2000 年と 2004 年より南側の経路が多く,流入する寒気の中心位置の近傍で降雪 が多かった. 強い寒気の動向に影響をもたらす 2005 年 11~12 月の低気圧活動は,他の年に比べて日本に近いところで 発達しており,寒気の流入経路が南よりであったことと符合した.また,2005 年 11~12 月には広範囲で雷 活動が活発であった.館野の高層気象観測資料によると,11 月中旬~12 月下旬にかけて,対流圏中・下層で 気温の負偏差,上層で正偏差が継続し,12 月には対流圏中層で寒気が断続的に観測された.11 月中旬から偏 西風が強まる一方,日本付近では偏西風の蛇行により,高緯度から南下した寒気が日本付近を覆いやすい特 徴があった. 1.はじめに a 2005 年 12 月から 2006 年 1 月上旬にかけて非常に強い 寒気が日本付近に南下し (図 1 ),断続的に強い冬型の気圧 配置となり,日本海側を中心に記録的な大雪となった. 気象庁 (2006c)は平成 18 年の冬 (平成 17 年 12 月~平成 18 年 2 月 )に発生した大雪について「平成 18 年豪雪」と命 名した.2005 年 12 月の記録的な低温と大雪をもたらし たことについて,気象庁 (2006b )は「①例年より大きく南 に蛇行した偏西風に沿って,寒気の中心から強い寒波が b 次々と流入したことに加え,②熱帯の活発な対流活動が 偏西風の蛇行を強化し,寒気の流入がさらに活発化した ことが大きな要因である.」と報道発表している.また, 気象庁 (2006a)は,2005 年 12 月の北半球 500hPa 高度・平 年偏差図 (図略 )について, 「北極付近の高度が高く,北半 球中緯度は全体的に高度が低い傾向の寒気放出パターン が続いた.また,北半球全体で偏西風の蛇行が大きく,(中 略 ),冬の寒気放出期に卓越しやすい三波数パターンが現 ࿑ 1 ኙ᳇ධਅᤨߩᄤ᳇࿑ (2005 ᐕ 12 23 ᣣ 00UTC) 㧖 㜞ጀ᳇⽎บ a㧦㧘b㧦500hPa 㕙 (ਛᄩߩ㒶ᓇၞߪ42͠એਅߩኙ᳇ ) ᷹ⷰ╙ੑ⺖ −9− 高層気象台彙報 第 67 号 2007 れ,特に中国大陸から北太平洋北部の負偏差が 大きく,北半球全体でも日本付近に強い寒気が 南下しやすかった.」と解説している.さらに気 象庁 (2006d ) は,「大気大循環の観点からは,こ N の強い冬型の気圧配置の持続は,北半球規模の 主要な大気変動である北極振動に加えて,熱帯 S 域のベンガル湾からフィリピン付近の強い積雲 M 対流活動に強制された定常ロスビー波束によっ てもたらされた.」と結論づけている.このよう に大気大循環のスケールからみた解析や豪雪期 間を通じての平均的な場についての議論は多く, 豪雪の背景についての理解は進んでいる.一方 で,日々の観測資料を用いて数日単位の多降雪 事例のレベルで調査を行い,その集積によって 豪雪期間について論じた報告は少ない.総観場 の寒気のふるまいについて調査することは,特 図2 に短期予報の現場で求められることであろう. 調査対象として選定した地点 熊本ほか (2006 )は,速報として平成 18 年豪雪時 ●国内の高層気象観測地点,◆東アジアの高層気象観測地点 の館野の高層気象観測資料の解析結果を報告し 図中のN (North ),M (Middle),S (South )は3.2節で設定した上空 500hPa た.本稿では,館野のデータに加え国内および の寒気流入経路. 東アジア各地の観測所のデータを用いて,より 広範囲について詳細な調査を行い,日本海沿岸を中心と なる.9 時については館野が 1986~2000 年,その他の官 した寒気の流入と降雪の関係について,さらに秋から冬 署では 1988~2000 年,21 時については 1981~2000 年, にかけての低気圧活動と寒気の動向の特徴について報告 925hPa については 9 時・21 時ともに 1991~2000 年であ する. る . 地 上の 気温 の 日別 平 年値 は 地 上気 象観 測 の平 年値 (1971~2000 年 )である. 調査対象地点を図 2 に示す. 2.資料 本調査では,以下の資料を用いた. (1 ) 国内の高層気象観測資料 3.日本海沿岸の寒気の流入と降雪 (2 ) 国内の地上気象観測資料 3 .1 寒 気 の 流 入 と 降 雪 の 地 域 差 (3 ) 地上および高層天気図 降雪の多かった日本海側の温度場と降雪の関係を調べ (4 ) 日本付近の気象衛星画像 るために,図 2 に黒丸印で示した日本海側に位置する稚 (5 ) 東アジア各地の高層気象観測資料 内,札幌,秋田,輪島,米子,福岡の 6 地点(以下,日 ( 1 ) , (2 ) は 各 年 の 高 層 気 象 観 測 年 報 ( 気 象 庁 : 本海側地点と呼ぶ)の高層気象観測資料について,各地 2001b,2005,2006 )および各月の気象庁月報 (気象庁:2006 ) 点の鉛直プロファイルを参考に対流圏上・中・下層を代 から抽出を行い,(2 )については気象庁気象資料電子デー 表する面として 300,500,850hPa 面を選択し,気温に関 タベースの地上気象観測原簿からも抽出を行った. (3 ) する等圧面時系列を調査した. は各月の気象庁天気図 (気象庁:2000,2004,2005 )を使用し, 図 3a は日本海側地点の各層における 2005 年 12 月の (4 ) については気象衛星月報 ( 気象衛星センター:2005~ 日々の気温の平年偏差である.この図によると,500hPa 2006 ) を使用した. (5 ) は米国 Wyoming 大学の高層資料 では気温の平年偏差がほとんど負であり,少なくとも日 HP (http://weather.uwyo.edu/upperair/sounding.html) か ら 入 本海側の地域では 12 月を通して中層が寒気に覆われて 手した. いたことを示している.4~7 日,12~18 日,21~24 日 (1 ),(2 )の平年値は気象庁観測平年値(1971~2000) (気 には特に強い寒気 (図中の濃青色部分 )が流入しているこ 象庁:2001a)を使用した.(1 )の日別平年値については,9 とがわかる.また,西日本では 850hPa,北日本では 300hPa 時と 21 時および 925hPa についてそれぞれ統計期間が異 で寒気場が持続する傾向があった. − 10 − 高層気象観測資料からみた平成 18 年豪雪の特徴 a 2005 年 12 月 30 25 20 15 10 5 0 稚内 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 30 25 20 15 10 5 0 札幌 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 30 25 20 15 10 5 0 b 秋田 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 2000 年 12 月 30 25 20 15 10 5 0 輪島 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 30 25 20 15 10 5 0 米子 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 図4 日本海側地点の 2005 年 12 月の日別降雪の深さ 福岡は期間中に 0cm 超の降雪がないため図を省略. 縦軸:各地の降雪の深さ (cm),横軸:日 c 2004 年 12 月 対流圏中層を代表する面として選択した 500hPa にお ける日々の寒気の変動と日本海側地点の降雪の深さ ( 図 4 )を対比させると,降雪が多い日は,気温の負の平年偏 差が 5 日前後の間隔で大きくなるタイミングにほぼ合致 している.高層天気図を併せてみると,このときの気温 低下は寒気の中心が対流圏中層に流入して生じているこ とが多かった.これらの寒気の中心は,図 1 の例のよう に温帯低気圧の背後のサーマルトラフに位置することが 多く,500hPa 面高層天気図ではしばしば閉じた等温線の 領域として表されていた.また,期間内の降雪の多い事 例を詳しくみると,降雪の深さに地域差があった (図 4 ). 降雪の多かった地域は対流圏中層に流入する寒気の中心 位置の近傍であることが多かった. 図3 他の年との比較については,熊本ほか (2006 )は,2005 日本海沿岸の各年 12 月の気温平年偏差 (℃ )の比較 年 12 月と 1963 年 1 月の高層断面図により,豪雪年同士 a:2005 年 12 月,b:2000 年 12 月,c:2004 年 12 月 各上,中,下段:300hPa,500hPa,850hPa に対応. の比較を行った.ここでは,豪雪年ではなかった 2000, 左縦軸:緯度 (°N),横軸:日 (00UTC,12UTC ) 2004 年との比較を行い,降雪が多くなる年の特徴につい 右縦軸:Wk 稚内,S 札幌,A 秋田,Wj 輪島,Y 米子,F 福岡 て解析する.比較対象としたのは,2005 年 12 月に対し て 2000 年 12 月 (図 3b )および 2004 年 12 月 (図 3c)である. − 11 − 高層気象台彙報 第 67 号 2007 50 40 a 2005 年 12 月 b 2000 年 12 月 c 2004 年 12 月 40 30 30 20 20 10 40 10 0 30 cm 0 30 20 -10 mm 20 10 10 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 1 2 3 4 5 6 72005降雪深 8 9 10 11 12 13 14 152000降雪深 16 17 18 19 20 21 22 23 2004降雪深 24 25 26 27 28 29 30 31 2005降水量 2005降雪深 図5 2000降水量 2000降雪深 0 2004降水量 2004降雪深 12 月の降水量と降雪の深さ比較 (秋田の例 ) 横軸:日 上段の折れ線 (左縦軸 ): 降水量 (mm) 下段の棒 (右縦軸 ): 降雪の深さ (cm) 図7 図6 500hPa 面の寒気流入経路 500hPa 面の温位 (K)による N,M,S 寒気流入経路の比較 2005,2000,2004 年の各 12 月の高層天気図の読図による,概 a:2005 年 12 月,b:2000 年 12 月,c:2004 年 12 月 ね 60°N 以南の大陸から日本付近で移動する寒気の軌跡 (識別 各上,中,下段:図 2 の N,M,S 経路に対応. のため軌跡ごとに色を変え,重複区間は破線で表示した ). 左縦軸:経度 (°E ),横軸:日 (00UTC,12UTC ) 軌跡の密集帯に沿った高層気象観測地点 (図中◆印 )で図 2 の N, 右縦軸:略称は図 2 の各経路上の地点に対応 M,S 経路を設定. 矢印:寒気流入の下流側 一部データのない箇所は内挿して表示した. − 12 − 高層気象観測資料からみた平成 18 年豪雪の特徴 2000 年 12 月は月平均の北極振動指数が 2005 年 12 月 なお,東アジア各地の高層気象観測資料は,00UTC およ と同程度 (およそ-2.2 前後 (NOAA/CPC:2006 ))であったも び 12UTC を用いた.図 7a と図 2 より,2005 年 12 月の のの顕著な寒冬とはならず,2004 年 12 月は中旬まで北 寒気の流入経路はバイカル湖から渤海を経て山陰・北陸 海道を除いて地上気温の正偏差が明瞭であった年である. 地方付近へ進む S 経路と,バイカル湖周辺から中国東北 北極振動指数が同程度の 2000 年 12 月 (図 3b )は,北日 部を経て北海道・東北地方付近へ進む M 経路のいずれか 本を除いて対流圏各層で負偏差の期間は短く,南側の地 に沿っていたことがわかる.2005 年 12 月の寒気流入経 点ほど正偏差の期間が多い.各種天気図によると,日本 路 ( 図 7a)と日本海沿岸の降雪の深さ (図 4 )の関係をみる 付近を通過する温帯低気圧への暖気北上が相対的に多く, と,M 経路を通った 12 日は秋田で最も降雪が多く,17 低温になりにくい状況であった.また,中旬まで暖かか ~18 日は稚内と札幌での降雪の深さが際立っている.ま った 2004 年 12 月 (図 3c)は,各気圧面における気温の正 た,25~26 日は稚内,札幌,秋田で,31 日は秋田で降雪 偏差が 2000 年 12 月よりさらに顕著であった.図 3 の気 が多くなっている.寒気が M 経路に沿って流入するとき 温平年偏差の比較からは,2005 年 12 月の気温負偏差が は , 寒 気 が 極 め て 強 く 広 範 囲 に 及 ぶ 場 合 (17~ 18 日 は 顕著に維持されていたことがわかる. 280K 以下で,稚内から米子までの全地点で降雪あり )を 対流圏の気温偏差の違いが各年の降水 ( 雪 )にどのよう 除き,秋田 (東北 )以北で降雪が多い.寒気が S 経路を通 に影響していたかを,12 月の降水量と降雪の深さの関係 って流入した 5 日は米子で,22 日は秋田,輪島,米子で で調べた.秋田における例を図 5 に示す.2000 年と 2004 降雪が多くなっており,S 経路の場合は東北,北陸,山 年は,12 月 22 日までの降雪深がほとんど 0cm であり, 陰で降雪が多くなることがわかる. 2005 年 12 月の寒気流入経路 (図 7a)と 2000 年 12 月 (図 降水のほとんどが雨で,負偏差が継続した 2005 年は降水 が雨ではなく雪として降ることが多かったことがわかる. 7b ),2004 年 12 月 (図 7c)を比較すると,北極振動指数が 輪島と米子においても同様であり,2005 年 12 月の東北 2005 年と同じ程度でも寒冬にならなかった 2000 年 (図 地方から山陰地方にかけての日本海側では,例年にない 7b )は M 経路が多くて S 経路がなく,地上気温の正偏差 対流圏の気温負偏差の継続により降雪が持続したことが が明瞭であった 2004 年 (図 7c)は N 経路など北に偏って わかる. おり,相対的に寒気が日本付近へ流入しにくい状況であ った. 3 . 2 500hPa 面 に お け る 寒 気 の 流 入 経 路 3 . 1 節では国内官署のデータから寒気の立体的な特 4.秋から冬にかけての低気圧活動と寒気の動向 徴について述べた.本節では,対流圏中層の強い寒気の 3 章では主に上空 500hPa 面の寒気流入経路と降雪の 流入経路を上流側にさかのぼって調べるために,高層天 関係を調べた.本章では,低気圧活動 (低気圧の中心位置 気図および東アジア各地の高層気象観測資料から と示度,示度の変化 )にともなう寒気の動向と雷電や雷鳴 500hPa 面における温位の時系列を調査した結果につい 等の雷活動,館野の高層気象観測資料による高層大気の て述べる. 特徴について調べる. まず,3 3 . 1 節で,2005 年 12 月の特徴を抽出するため に比較対象とした 2000 年 12 月と 2004 年 12 月を含めた 4 .1 1 低気圧活動に伴う寒気の流入 3 期間について,500hPa の高層天気図上で大陸から日本 強い寒気が流入するパターンを天気図でみると,3 3. 付 近 に かけ ての 地 域で 移 動す る 寒 気の 中心 を 追跡 した 1 節で述べたように,寒気の中心は温帯低気圧後面のサ (図 6 ).図 6 からは経路の密集帯が認められることから, ーマルトラフに位置することが多かった.そこで,降雪 図 2 の N,M,S で示される 3 軸の経路を代表的な寒気 が多くなった原因とみられる寒気が流入する要因を総観 流入経路として設定した. 場で調査するため,00UTC の地上天気図における低気圧 図 7a は 2005 年 12 月の 3 軸のそれぞれの経路に沿った の位置や中心示度等の読図を行い,低気圧活動について 観測地点の温位の時系列であり,寒気の日本付近への移 調査を行った.調査期間は,2005 年秋から冬にかけての 動が右下がりの濃青色部分として表されている.図中の 特徴をみるため,10 月から 12 月までを対象として 2000 寒気流入の南限到達地点と日時を示す矢印は,高層天気 年と 2004 年の同期間についても解析し比較した.読図に 図の読図結果も考慮して決定した.矢印はまた,それが あたっては,6 時間ごとの地上天気図により,前後の時 付された経路の図 (North,Middle,South )により,図 2 の 刻で同一の低気圧であるかどうかを判断した.また,温 寒気流入経路 N,M,S のいずれに対応するかを示す. 帯低気圧への移行を考慮し,調査期間中の熱帯低気圧も − 13 − 高層気象台彙報 第 67 号 2007 11 月中旬から 12 月の毎日 (00UTC)の低気圧中心位置・示度比較 図8 左,中,右:2005 年,2000 年,2004 年 中心示度は円の大きさと濃淡で表現. (例 40 960hPa, 980hPa, 40 1000hPa, 40 2005.11.11 -12.31 2000.11.11 -12.31 2004.11.11 -12.31 30 30 30 20 20 20 10 10 10 0 0 950- 960- 970- 980- 990- 1000- 1010- 1020- 1030959 969 979 989 999 1009 1019 1029 1039 図9 1020hPa ) 0 950- 960- 970- 980- 990- 1000- 1010- 1020- 1030959 969 979 989 999 1009 1019 1029 1039 950- 960- 970- 980- 990- 1000- 1010- 1020- 1030959 969 979 989 999 1009 1019 1029 1039 11 月中旬から 12 月の毎日 (00UTC)の低気圧中心示度別頻度比較 左,中,右:2005 年,2000 年,2004 年 縦軸:頻度 (% ),横軸:中心示度 (hPa ) 図 10 11 月中旬から 12 月における爆弾低気圧の経路比較 左,中,右:2005 年,2000 年,2004 年の経路 +:中心位置プロット, ○:前 24 時間の気圧降下量が爆弾低気圧の定義を満たすもの 00UTC での中心位置 (緯度経度 (° ))・中心示度 (hPa )読み取りによる. − 14 − 高層気象観測資料からみた平成 18 年豪雪の特徴 低気圧ののべ数に対する示度 1000hPa 未満の低気圧の割 合は,2005 年 ( 図 9 左 ) が 33.5%,2000 年 ( 図 9 中 ) が 32.3%, 2004 年 ( 図 9 右 ) が 40.8% で,2005 年と他の年を比べて著 しい差はなかった.すなわち 2005 年の低気圧は他の年に 比べて特に発達していたわけではなかった. 低気圧活動について 11 月中旬から 12 月の爆弾低気圧 の経路で比較したのが図 10 である.ここでいう爆弾低気 圧の定義は,緯度 60°を基準にとり,緯度φのところで 中心気圧が 24 時間に 24× (sinφ/sin60° )hPa 以上降下し た温帯低気圧とするものである (日本気象学会編:1998 ). 2005 年の爆弾低気圧は他の年に比べて日本に近いとこ ろで発達し,2000 年や 2004 年に比べて低緯度側に寄っ 寒気南下と周辺の流れ (2005 年 12 月 12 日 00UTC) 図 11 ていた.このことは寒気の流入経路も南よりであったこ とを示唆し,図 3a の対流圏下層 (850hPa 面 )と中層 (500hPa 500hPa 面 (中央から上の陰影域は-39℃以下の寒気 ) 面 )における寒気の流入 (負偏差 )とも符合する.図 3a の 読図の対象とした (2000 年 6 例,2004 年 9 例,2005 年 6 500hPa 面で寒気の流入にともない気温平年偏差が負偏 例が含まれる ).以下に述べる爆弾低気圧は 2005 年およ 差となった 12 月 12 日 00UTC の 500hPa 面高層天気図を び 2000,2004 年の 10 月には少なく,11 月中旬以降に頻 図 11 に示す.偏西風の蛇行により,高緯度から南下した 発していたため,低気圧活動に関する調査の図 8~図 10 寒気が日本付近を覆いつつあることがわかる.この寒気 はこの 11 月中旬以降について示している. による強い負偏差は 18 日まで継続した (図 3a). 図 8 は当該期間の毎日 (00UTC)の低気圧中心位置と中 心示度の散布図である.前後の日で同定される低気圧に 4.2 秋以降の寒気の動向 ついても全てをプロットしている.濃色の大きな丸で示 寒気の流入に対応した対流活動について調べるために, される中心示度の低い低気圧の分布に着目すると,2005 2005 年 11~12 月の日本海側沿岸の雷活動について,稚 年は 30~50°N 付近で発達する低気圧の割合が多く, 内・札幌・秋田・酒田・相川・輪島・金沢・米子・福岡 2000 年や 2004 年に比べてその存在位置が低緯度側に寄 の地上気象観測原簿の記事および雷日数について調査し っていた. た (図 12 ).11~12 月には広範囲で雷活動 (雷電・雷鳴・電 図 8 で示される低気圧の中心示度別の頻度を図 9 に示 光 )が活発であったことがわかる.地域による雷活動の時 す.いずれの年も 1000 ~ 1009hPa と 1010 ~ 1019hPa が最 間変化をみると,稚内から輪島にかけては 11 月 1~4 日, 頻値とそれに次ぐ頻度となる中心示度で,2000年と2004 金沢は 7 日から雷活動が始まり,11 月下旬~12 月上旬にか 年はよく似た分布をしている.2005年は他の年の分布と けて日本海側全域で雷活動が観測された.金沢では 12 月下 異なり,1000~1009hPaと1010~1019hPaの頻度が突出 旬まで継続した.天気図ではこの期間冬型の気圧配置が強 していて,1020~1029hPaが極端に少ない特徴的な分布 まり,衛星画像から日本海中部の不連続線で擾乱が発達し であった.この分布の特徴と豪雪との関係は不明である. ていたことが認められた. 3 雷電または雷鳴2(強)あり ⒩ౝ ᧅᏻ ⑺↰ ㈬↰ ⋧Ꮉ ベፉ ㊄ᴛ ☨ሶ ጟ 㪈 㪈 㪉 㪊 㪉 㪉 㪉 㪉 㪊 㪊 㪉 㪉 㪈 㪈 㪉 㪉 㪉 㪉 㪉 㪉 㪈 㪉 㪊 㪉 㪊 㪊 㪉 㪊 㪉 㪉 㪉 㪉 㪉 㪊 2 雷電あり、または雷鳴1(並)以上 1 電光または雷鳴0(弱)のみ 㪉 㪈 㪊 㪉 㪊 㪊 㪉 㪉 㪊 㪉 㪉 㪊 㪉 㪉 㪉 㪉 㪊 㪊 㪉 㪊 㪉 㪈 㪈 㪉 㪉 㪊 㪊 㪊 㪉 㪉 㪉 㪉 㪈 㪊 㪈 㪊 㪈 㪊 㪉 㪉 㪉 㪊 㪉 㪉 㪊 㪉 㪊 㪉 㪉 㪉 㪊 㪉 㪉 㪉 㪉 㪉 㪉 㪉 㪉 㪉 㪊 㪉 㪉 㪊 㪊 㪈 㪉 㪉 㪊 㪉 㪉 㪉 㪊 㪊 㪈 㪉 㪈 㪉 㪉 㪊 㪉 㪉 㪊 㪊 㪉 㪉 㪉 㪊 㪊 㪉 㪊 㪉 㪊 㪊 㪊 㪊 㪉 㪉 㪉 㪉 㪉 㪉 㪉 㪊 㪊 㪉 㪉 㪊 㪊 㪉 㪊 㪊 㪉 㪉 㪉 㪉 㪉 㪉 㪊 㪉 㪉 㪉 㪉 㪉 㪉 㪊 㪉 㪉 㪉 㪉 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 ࿑ 12 ᣣᧄᶏᴪጯߩ᳇⽎᷹ⷰේ★ߩ⸥ߦࠃࠆ㔗ᵴേ (2005 ᐕ 11 1 ᣣ㨪12 31 ᣣ ) − 15 − 高層気象台彙報 第 67 号 2007 [℃] 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 図 13 気象衛星画像 (赤外画像 )の輝度温度の時系列 (2005 年 11 月 1 日~12 月 31 日 輪島付近 ) a [hPa] [℃] b [m/s] W E c [m/s] S N 11 月 図 14 12 月 1月 館野の高層気象観測資料による鉛直プロファイル (2005 年 11 月~2006 年 1 月上旬 ) a:気温の平年偏差,高層風 (b:東西成分,c:南北成分 ) − 16 − 高層気象観測資料からみた平成 18 年豪雪の特徴 対流活動の指標として輪島付近における気象衛星赤外 下は寒気の中心が対流圏中層に流入して生じている 画像の輝度温度の時系列 (図 13 )をみると,11 月 28 日,12 ことが多く,その流入する寒気の中心位置の近傍で 月 4~6 日,12 月 17~19 日と 21~23 日頃は特に低い輝度 降雪が多かった. 温度(-40℃以下)を示した.この輝度温度が低いときに日本 (3 ) 2005 年および 2000,2004 年の各 12 月の 3 期間の寒 海側各地の雷現象が活発で(図 12),気温平年偏差(図 3a)や 気流入経路を調べ,代表的な 3 軸の寒気流入経路 (N, 500hPa における温位(図 7a)の時系列図からも強い寒気が流 M,S 経路 )を設定した.2005 年 12 月の寒気の流入経 入していたことがわかる. 路はバイカル湖から渤海を経て山陰・北陸地方付近 熊本ほか (2006 )は 2005 年 12 月の寒気変動を館野の 21 へ進む S 経路と,バイカル湖周辺から中国東北部を 時の高層気象観測資料で調査したが,今回の調査では平 経て北海道・東北地方付近へ進む M 経路のいずれか 成 18 年豪雪をもたらした上空の強い寒気の流入は 12 月 に沿っており,2000 年と 2004 年の 12 月に比べて日 以前から始まっていたとみられる.このため,秋から冬 本付近に寒気が流入しやすかった. にかけての日本付近への寒気南下とジェット気流の変動 (4 ) 2005 年 12 月は,寒気がM経路に沿って流入する場合, について,館野の 09 時と 21 時の高層気象観測資料によ 寒気が極めて強く広範囲に及ぶ場合を除き,秋田 (東 り,2005 年 11 月~2006 年 1 月上旬の期間を対象に調査 北 )以北で降雪が多く,寒気が S 経路を通って流入し した.高層風の東西成分と南北成分,気温の平年偏差の た場合は東北,北陸,山陰で降雪が多かった. 鉛直分布の時系列図を図 14 に示す.気温の平年偏差 (図 (5 ) 2005 年 11 月中旬~12 月の低気圧は他の年に比べて特 14c)をみると,11 月上旬は対流圏中層に一過性の寒気が に発達していたわけではないが,爆弾低気圧は他の 流入し,11 月 15 日から 12 月 27 日にかけて,対流圏中・ 年 に 比べ て日 本 に近 いと ころ で 発達 し, 2000 年や 下層で気温の負偏差,上層で正偏差が継続していた.特 2004 年の同時期の爆弾低気圧に比べて低緯度側に寄 に,日本海側で雷活動が活発 (図 12 )な 12 月 5 日から 25 っており,寒気の流入経路が南よりであったことを 日 の間 は対 流圏中 層 (700~ 400hPa) に-9℃以下 の負 偏差 示唆した. (寒気の強まり )が断続的に観測された.高層風は,11 月 (6 ) 2005 年 11~12 月には広範囲で雷活動が活発であった. 中旬から偏西風が強くなり (図 14a) ,時には西風成分が 稚内から輪島にかけて 11 月 1~3 日,金沢は 7 日から 90m/sec を超える日 (11 月 19 日,12 月 26~29 日 )もあっ 雷活動が始まり,11 月下旬~12 月上旬にかけて日本海 た.南北成分風 (図 14b )は 11 月中旬から 12 月下旬にかけ 側全域で雷活動が観測された. て南風成分の場合が多く,日本付近における対流圏の流 (7 ) 2005 年 11 月~2006 年 1 月上旬の館野の高層気象観測 れは図 11 のパターンが支配的であったことがわかる. 資料によると,11 月上旬は対流圏中層に一過性の寒 気が流入し,11 月 15 日から 12 月 27 日にかけて,対 5.まとめ 流圏中・下層で気温の負偏差,上層で正偏差が継続 平成 18 年豪雪について,主に高層気象観測資料を用い していた.11 月中旬から偏西風が強くなり,西風成 て 12 月の日本海沿岸への寒気の流入と降雪の関係を調 分が 90m/sec を超える日 (11 月 19 日,12 月 26~29 日 ) 査し,さらに期間を広げて低気圧活動にともなう寒気の もあった.日本付近における対流圏の流れは偏西風 動向,雷活動,館野の高層気象観測資料による高層大気 の蛇行により,高緯度から南下した寒気が日本付近 の特徴について調査を行い,以下の結果を得た. を覆いやすいパターンが支配的であった. (1 ) 日本海沿岸における 2005 年 12 月の 500hPa では気温 6.おわりに の平年偏差がほとんど負であり,12 月を通して中層 本稿では,国内外の高層気象観測資料等を用い,日本 が寒気に覆われていた.そのため,比較した 2000 年 海沿岸の寒気の流入と降雪の関係,秋以降の寒気の動向 と 2004 年は 12 月の降水のほとんどが雨であるのに と低気圧活動の関係について調査を行った.調査に際し 対し,負偏差が継続した 2005 年は降水が雨ではなく ては,対象とする観測地点を拡充することで寒気の時空 雪として降ることが多かった. 間変動を把握することに努めた.また,高層気象観測資 (2 ) 降雪が多い日は,500hPa において気温の負の平年偏 料が直接観測によって得られるデータであることを活か 差が 5 日前後の間隔で大きくなるタイミングにほぼ し,日々の観測資料を詳しく解析することで,数日単位 合致していた.また,降雪の深さには地域差があっ の個別の多降雪事例について特徴を抽出した. た.高層天気図を併せてみると,このときの気温低 − 17 − 今後の課題としては,実際の予報に際して豪雪に対す 高層気象台彙報 第 67 号 2007 24pp. る判断のよりどころとなるような指標を見いだすことが 気象庁(2006b):平成 17 年 12 月の天候をもたらした要因に 挙げられる. ついて(速報), 報道発表資料 平成 18 年 1 月 25 日. 謝 http://www.jma.go.jp/(参照 2006 -02 -13 ), 気象庁, 2pp. 辞 地磁気観測所の小出 孝調査課長には,多方面にわたる 気象庁(2006c):平成 18 年の冬に発生した大雪の命名につ ご助言をいただきました.高層気象台観測第二課の阿部 いて.報道発表資料 平成 18 年 3 月 1 日. 豊雄課長には調査のまとめにあたってご指導をいただき, http://www.jma.go.jp/(参照 2006-03-09), 気象庁, 2pp. 佐々木 利測器技術係長には貴重なご助言をいただきま 気象庁(2006d):エルニーニョ/ラニーニャ現象と日本の天 した.また,観測第二課の皆様には多くの貴重なご意見 候・平成 18 年豪雪とその要因,平成 18 年度季節予報研 修テキスト. 気象庁地球環境・海洋部, 86pp. をいただきました.これらの方々に厚くお礼申し上げま 気象衛星センター (2005~2006 ):気象衛星月報 2005 年 11 す. 月~12 月, 気象衛星センター (CD-ROM ). 熊本真理子・阿部 豊雄・佐藤 昌志 (2006 ):館野の高層 引用文献 気象庁(2000,2004,2005):気象庁天気図 (CD-ROM ). 気象観測資料でみた 2005 年 12 月の寒気変動 (速報 ). 高 気象庁(2001a):平年値 (統計期間 1971~2000 ) (CD-ROM ). 層気象台彙報, 66, 1 -6. 気象庁(2001b,2005,2006):高層気象観測年報 2000,2004,2005 年(CD-ROM). 日本気象学会 (1998 ):気象科学事典. 東京書籍,637pp. NOAA/CPC(2006 ):http://www.cpc.ncep.noaa.gov/products/ 気象庁(2006):気象庁月報 2006 年(平成 18 年)1 月(CD-ROM). 気象庁(2006a):12 月の天候, 報道発表資料 平成 18 年 1 precip/CWlink/daily_ao_index/ao.shtml.(参照2006-09-01). Wyoming University(2006 ):http://weather.uwyo.edu/upperair 月 4 日. http://www.jma.go.jp/(参照 2006 -02 -13 ), 気象庁, − 18 − /sounding.html. (参照 2006 -10 -30 ).
© Copyright 2024 Paperzz