日本語版 - ILO

はじめに
労働安全衛生(OSH)は、労働者の健康保護・促進のほか、労働災害の予防を扱う分野で
す。労働条件・環境の改善を目的にしています。労働衛生は、すべての職業における労働
者の身体・精神の健康と社会福祉の高度の維持・促進を意味しています。この文脈におい
ては、労働者の健康と社会福祉を損なうおそれのある職場から、または、職場において生
じる危険の予知、認識、評価および制御が
職業上のリスク評価・管理を統治する過程の
基本的原則です。また、周囲の地域社会や環境へ与え得る影響も配慮されるべきです。
危険・リスク軽減に関する基本的学習過程は、今日の労働安全衛生を統治するより高度な
原則の基盤です。現代において、跳躍する工業化およびそれに伴う原子力エネルギー使用、
輸送手段、増大する複合的科学技術のような高度かつ内在的に危険なエネルギー源の需要
に精通することの必要性が、より進んだリスク評価および管理手法の発展を導いています。
人間活動の全領域にわたり、利益と費用との間で均衡が図られなければなりません。労働
安全衛生の場合、この複雑な均衡は、急速な科学・技術の進展、非常に多様かつ継続的に
変化を続ける労働の世界そして経済のような多数の要因から影響を受けます。労働安全衛
生原則の適用がすべての社会・科学上の規律の流動化を意味するという事実は、この分野
の複雑性の明確な尺度です。
リスク評価と管理
危険とリスクの概念、また、それらの関係は容易に混乱を招きます。危険は、製品の固有
または潜在的性質、害を引き起こす過程または状況、人に対する健康への悪影響または物
に対する損害です。化学(固有の性質)、梯子での作業(状況)、電気、圧縮ガスシリンダ
ー(潜在的エネルギー)、火元、あるいはより単純な滑りやすい床などから起こり得ます。
リスクは、危険に晒された場合に人が傷つきまたは健康への悪影響を受ける、あるいは物
が損害を被りまたは失われる可能性ないし蓋然性です。危険とリスクの関係は、短期であ
れ長期であれ、接触です。簡単な方程式で表されます。
1
危 険
ばく露
リスク
前に述べたように、労働安全衛生の重要な目的は、職業上のリスク管理です。これを実行
するため、物のほか、労働者に害を与え得るものを発見するための危険・リスク評価が行
われなければなりません。それによって適切な予知・予防の手段が開発され実行されるこ
とが出来ます。リスク、とりわけ中小企業(SMEs)のリスクを管理する、世界中で支持さ
れてきた簡単な手法として、下に示された 5 段階のリスク評価手法が、イギリス安全衛生
庁により開発されています。
表1
第 1 段階
危険を特定する
第 2 段階
誰がどのように危害を被り得るか査定する
第 3 段階
リスクを評価し、予防策を決定する
第 4 段階
調査結果を記録し、予防策を実行する
第 5 段階
評価を見直し、必要があれば最新のものにする
リスク評価手続きは、利用できる資源および技術はもちろん、企業の規模と活動に容易に
合わせて用いることが出来ます。石油化学工場のような危険の大きい設備は、高度に複雑
なリスク評価査定が求められ、高い水準の資源と技術が動員されます。多くの国が、規制
2
目的で用いられるか、または国際的な合意基準を開発するために、独自の評価指針を開発
しています。
職業上のリスク管理に不可欠な 2 つのリスク評価過程は、職業上のばく露制限(OEL)の
決定と職業病一覧の設定です。工業化された多くの国はOEL一覧を設定・維持しています。
これらの制限は、化学的、物理学的(熱、騒音、電離・非電離放射線)、生物学的な危険に
ピ ア レ ビュ ー
及んでいます。範囲と強固な科学的同僚評価過程の点で傑出し、それゆえ他の国に参照さ
れている一覧が米国産業衛生専門家会議(ACGIH)の許容限界値(TLVs)です。
職業病の国家一覧への編入も補償目的のための職業病の特定・認知に向けた危険・リスク
評価手続きを基礎としています。これらは、呼吸器・皮膚疾患、筋骨格系疾患、職業癌か
ら精神障害、
行動障害まで及びます。
ILO の「2010 年改定 職業病一覧」
(List of occupational
diseases (revised in 2010) )は、予防、記録、通知、そして当てはまる場合、職場での曝
露を原因とする疾病の補償について各国の一覧作成に役立ちます。
労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)とは何か?
マネジメントシステムの概念は、しばしばビジネスにおける、また、日常生活における、
意思決定過程として、無意識のうちに使われてきました。それは、備品の購入、ビジネス
の拡大だったかもしれませんし、あるいは単に新しい家具の選択だったかもしれません。
労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)の適用は、適切な労働安全衛生基準、規格
そして実行が基礎です。効果的な危険有害要因・リスク管理を通じた職場における
incident
accident
事故誘因事象・事故の予防の実行に対する評価・改善方法の提供が目的です。これは、何
がなされるべきか、どのようにやれば最適かを決定し、設定された目標に向けての進捗状
況を監視し、どの程度うまくやれたか評価し、改善すべき分野を設定する論理的で段階的
な方法です。組織のビジネスや法令の要件の変化に適合可能ですし、また、そうあらねば
なりません。
3
図 1:デミングサイクル 1
この過程の発想は、継続的なビジネス成果の監視のために 1950 年代に設計された「計画
(Plan)-実行(Do)-評価(Check)-改善(Act)」デミングサイクル(PDCA)の原
理を基にしています。労働安全衛生に適用される場合、
「計画」は、労働安全衛生政策の設
定、資源の配置、技術・制度設計の準備、危険有害要因の特定、リスク評価を含む計画策
定を意味します。「実行」段階は、実際の労働安全衛生計画の実施・運営を言います。「評
価」段階は、計画の能動・反動の成果両方の検証に充てられます。最後に、
「改善」段階は、
継続的改善と次のサイクルのための制度の引き金という文脈において、制度の見直しとと
もにサイクルを終結させます。
労働安全衛生マネジメントシステムは、柔軟で、組織の規模・活動に合わせて用いること
が出来、活動に関した一般的あるいは特定の危険有害要因・リスクに焦点が当てられる論
理的なツールボックスです。その複合性は、危険有害要因・リスクの特定が容易な、単純
な製造工程で運営している小規模企業の簡素な需要から、鉱業、原子力、化学製造業、あ
るいは建設業のような多様な危険有害要因を有する産業にまで及び得ます。
労働安全衛生マネジメントシステムの手法は以下の内容を確かのものにします。
„
効率的かつ一貫した方法により、予防的・保護的な手段の実行がなされます。
„
適切な政策が設定されます。
„
責任ある関与がなされます。
„
危険有害要因・リスクの評価のための職場の要素が全て考慮されます。
„
経営陣や労働者が、それぞれの責任をもってその過程に関与します。
1 Karn G. Bulsuk による図形:
(http://blog.bulsuk.com/2009/02/taking-first-step-with-pdca.html#axzz1GBg5Y7Fn)
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労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)への道
1972 年に出された職業上の安全・衛生について言及したイギリスの職場の安全衛生委員会
の報告書(英国ローベンス報告書)は、個々の業界固有規制からすべての産業と労働者を
対象とした枠組みとしての法制への移行を発表しました。これが労働安全衛生に対するよ
り体系的な手法の傾向の始まりです。このパラダイムシフトは、他の工業国における国家
法制とともに、英国の 1974 年労働安全衛生法に具体化されました。国際的には、ILO 所管
の 1981 年の職業上の安全及び健康に関する条約(第 155 号)及びこれと同時に策定された
勧告(第 164 号)が、国家・企業レベル双方における労働安全衛生の実行に政労使三者が
参加することの根本的重要性を強調しました。数年後、増大する複雑性と労働界の性質の
急速な変化が、安全で健康な労働条件・労働環境の維持に対する新たな手法を必要として
いることが認識されました。継続的業績評価を通じてビジネス変動への素早い対応を確実
にするため設計されたビジネス管理モデルが、労働安全衛生管理に対する体系的手法を発
展させる可能性のあるモデルとして急速に認知されました。この手法は、継続的評価、実
践の向上、自主規制に重点をおくことで、労働安全衛生対策の一貫した実行を保証する効
果的な方法として急速に支持されました。
職業上の負傷、疾病、事故死そしてそれらにかかるコストを継続的に減少させるべしとの
要求に応じて、さらに成果を改善するため、従来の指揮統制的な規制・管理手法を強化す
る戦略が探求されています。こうした例として、管理制度計画のほか、
「行動に基づく安全」
手法、改善された安全衛生リスク評価、監査手法が挙げられます。近年、企業、政府、国
際機関は、労働安全衛生にシステム・モデルを適用すること、いわゆる労働安全衛生マネ
ジメントシステムに着目し、これが、労働安全衛生とビジネス上の要請を調和させ、かつ、
予防策の実施における労働者の効果的な参加を確保するために有望で期待できる戦略であ
るとみています。
労働安全衛生マネジメントシステムの概念は、その要件をビジネスの計画や展開過程に統
合することを確保してきたことによって、職場における労働安全衛生の実施を向上させる
効果的な方法として奨励されるようになってから、10 年が経ちました。労働安全衛生の分
野に責任ないし関心を持つ専門家、政府、国際団体により相当数の労働安全衛生マネジメ
ントシステムの基準および指針が開発されてきました。多くの国が、労働安全衛生のため
の国内的な戦略を策定し、ここにもマネジメントシステムの手法を取り入れてきました。
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国際的に、ILO は、2011 年に、労働安全衛生マネジメントシステムに関する ILO ガイドラ
イン(2001 年)
(ILO-OSH2001)を出版しましたが、これは、三者構成の手法でまとめら
れたものであることから、この分野の国内基準を策定するためのモデルとして広く用いら
れるようになりました。
ILO と労働安全マネジメントシステム(OSHMS)
労働安全衛生マネジメントシステムの手法は、品質に関する ISO 基準(ISO9000 系列)と、
その後の環境に関する ISO 基準(ISO14000 系列)が広く承認され、成功したことに続け
て、支持を得るようになりました。このモデルは主に自然科学及び社会科学の分野で考案
されたシステム理論に基づくものですが、経営管理の手法にも似ています。一般システム
理論に共通の 4 要素は、インプット、プロセス、アウトプットそしてフィードバックです。
1990 年代初頭、品質に関する ISO9000 と環境に関する ISO14000 の管理技術標準の採用
に続いて、1996 年の国際標準化機構(ISO)の国際ワークショップにおいて、労働安全衛
生マネジメントシステムに基づく ISO 規格の開発の可能性が議論されました。安全衛生は
人間の健康と生活の保護に関わるため、既に国内法によって使用者の義務として謳われて
いることが直ちに明らかになりました。また、倫理、権利・義務、社会的パートナーの参
加に関するものなど、この文脈においては、配慮を必要とする問題もありました。この分
野における管理規格は、1981 年の職業上の安全衛生に関する条約(第 155 号)のような ILO
の労働安全衛生基準の原理に根付いていなければならず、品質や環境の問題と同じように
扱うことは出来ません。これは議論の主要課題になりましたが、最終的には、三者構成と
基準設定の役割を有する ILO が国際労働安全衛生マネジメントシステムのガイドラインを
考案するのに最も適切な団体であると合意されました。1999 年、ISO の傘の下、安全衛生
管理基準を考案しようとした英国規格協会(BSI)による試みは、再び、強い国際的な反対
に遭い、提案は棚上げに終わりました。BSI は後に、私的技術基準(OHSAS)の形で労働
安全衛生マネジメントシステムのガイドラインを考案しましたが、ISO はしませんでした。
2年間かけて考案しピアレビューを経た後、
「労働安全衛生マネジメントシステムに関する
ガイドライン( Guidelines on occupational safety and health management systems
(ILO-OSH 2001))が、ついに 2001 年春、三者構成の専門家会議において採択され、ILO
理事会の承認を経て 2001 年 12 月出版されました。2007 年、理事会は、ISO に対し、労働
安全衛生マネジメントシステムの国際規格の考案を差し控えるよう求めるとともに、労働
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安全衛生については ILO の領域であることを再確認しました。ILO-OSH2001 ガイドライ
ンは、他の管理システム基準やガイドラインと共存可能なユニークな国際モデルを提供し
ています。また、同ガイドラインは、ILO の三者構成の手法と 1981 年の職場における安全
衛生に関する条約(第 155 号)に定められた原則に代表される国際労働安全衛生の実現手
段を反映しており、国・企業双方における、労働安全衛生の体系的な管理手段を提示して
くれます。以下の図は、同ガイダンスが定める管理手段の諸段階を効率的に要約したもの
です。
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ILO の OSHMS ガイドライン:継続的改善サイクル
方針
労働安全衛生の方針
労働者
組織化
////継続的な改善///
参加
責任と説明
能力と訓練
労働安全衛生の文書化
方針
組織化
監査
改善に向けた行動
予防策と是正行動
継続的改善
計画と実行
改善に向けた
行動
計画と実行
評価
最初の見直し
制度計画、開発、施行
労働安全衛生の目的
危険予防
評価
実績監視と査定
調査
監査管理
見直し
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国家制度としての労働安全衛生マネジメントシステム
(OSHMS)
労働安全衛生は、複合的な分野の介在とすべての利害関係者の関与を必要とする複雑な分
野です。労働安全衛生の国家政策を実行に移すには、関係する組織の調整を要するという
事実が、否応なくこの複雑さを反映しています。その結果、これらの下部組織は、意思疎
通・意思決定過程において多大な時間を費やしますので、労働界の変化に対し迅速なペー
スで継続的に適応するには、特有の困難さを伴います。労働安全衛生上の要件を規定する
国家制度、及び、それらの要件を適用しなければならない企業の双方が、継続的かつ早い
ペースの変化に対処しなければならない以上、マネジメントシステムの手法を労働安全衛
生に関する国家制度に適用することは論理必然の段階であるように思われます。もしマネ
ジメントシステムの手法の適用が体系的になされれば、規制要件を効果的な予防・保護手
段と法令順守(コンプライアンス)の評価に転換していく過程において求められる一貫性、
調和、簡素化、迅速性をもたらしてくれます。
結合、強調、簡易化、規制要件の効果的予防・保護手段への移転過程の速さおよび法令順
守の評価を大いに必要とするでしょう。
ディーセント(人間らしく働きがいのある)で、安全、健康的な労働条件・労働環境の達成・持続
に向けた継続的改善という目標は、2003 年の労働安全衛生についての ILO 世界戦略におい
て促進されました。労働安全衛生マネジメントシステムの国家労働安全衛生制度への適用
という概念は、2006 年、ILO が「職業上の安全及び健康を促進するための枠組みに関する
条約」(187 号条約)とそれに付随した勧告(197 号勧告)を採択した ILO 総会において、
初めて国際基準としての一層の具体化を見ました。条約の主な目的は、国家計画の中で労
働安全衛生に高い優先順位を与えること及び労働安全衛生の向上のため三者構成の場にお
ける政治的関与の促進を確証することでした。条約は、規範的内容というよりも促進的な
ものでした。また、2 つの基本的概念、すなわち、予防的安全衛生文化の発展・維持と国家
レベルでの労働安全衛生への管理制度手法の適用を基礎としています。条約は大まかに言
えば、国家政策の要素と機能、国家制度と国家計画を定義付けています。
鍵となる運営上の要素は、国による約束の広範な認知を保障する政府首脳による承認がな
されるべき国家労働安全衛生計画の開発です。国家水準の管理制度手法の適用は、継続的
改善のための統合された運用体系を提言します。継続的改善は以下の内容を構成します。
„
国家労働安全衛生政策の策定、実行および当局が使用者・労働者の最大の代表組
9
織に相談しながら定期的に行う見直し;
„
国家政策と国家計画の実行、労働安全衛生に関連した国家規制、技術的・促進的
行動の調整を含む国家労働安全衛生制度;
„
所定時間枠の中での労働安全衛生に関連する国家目標を定め、優先順位と国家労
働安全衛生大要により要約された国内の労働安全衛生状況の分析を通じて開発さ
れた行動手段を設定する、国家労働安全衛生計画;
„
進展の評価と次の段階に向けた新たな目標および行動を定めることを目的とした
国家計画の結果を見直すための仕組み。
187 号条約は、国家労働安全衛生制度の管理を成功させるための必要条件として、社会対話
とこの分野におけるすべての利害関係者の参加の重要性を強調しています。また、あらゆ
る段階における教育と訓練も制度とその運営にとって不可欠であると考えられています。
労働監督制度は、いまだ、国家労働安全衛生制度と労働関係ないし労働安全衛生に関連す
る団体との主要な公式のつながりです。適切な訓練により、彼らは、間違いなく体系の審
査、国内法ないし規制との適合を含む、労働安全衛生マネジメントシステムの事業計画を
確実なものとする決定的な役割を果たすことが出来るでしょう。
ILO の文書は、企業における労働安全衛生に直結します。すなわち、1981 年の ILO 労働安
全衛生条約(155 号条約)、2006 年の労働安全衛生条約の促進枠組み(187 号条約)そして
2001 年 ILO-OSH ガイドラインが、国と団体(企業)双方に労働安全衛生管理枠組みの重
要な要素および機能を定めています。
労働安全マネジメントシステム(OSHMS)と団体(企業)
すべての国において、職業上の安全衛生の実施および国内法ないし規制に従った法令順守
は、使用者の責任と義務です。団体(企業)の労働安全衛生管理への制度的手法の施行は、
予防および保護の水準が継続的に評価され、適切かつ時宜を得た改善により維持されるこ
とを確かなものにします。
労働安全衛生計画の管理に制度的手法の導入を決定する際、その多くの重要な原則を斟酌
するのであれば、ほとんどの組織が労働安全衛生マネジメントシステムの概念から恩恵を
受けることが出来るでしょう。管理制度は普遍的な対応策ではなく、組織は慎重に手法に
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関してその必要を分析し、その結果に従って労働安全衛生マネジメントシステムを適合さ
せるべきです。このことは、最終的に、労働安全衛生マネジメントシステムの規模を縮小
マネジメント
し、形式に拘泥しないことによってなされても構いません。 管 理 は、制度が制度それ自体
よりも予防・保護手段の履行に焦点を当てて、改善されるべく設計されていることに注意
されなければなりません。また、監査が、監査成績のみの改善のための仕組みになるので
はなく、継続的な改善過程に役立つものであることに注意されなければなりません。
監査
労働安全衛生マネジメントシステムの主な利点の 1 つは、制度の成果およびそれが時間に
沿って改善しているかを評価する能力です。この評価の質は、内部監査か外部監査か、監
査役の能力、といった監査の仕組みの質に大きく拠ります。一般的に、監査は労働安全衛
生マネジメントシステムの過程から独立した、能力適性のある人またはグループによる過
程の監視です。定期的な監査は、労働安全衛生管理制度およびその要素が、労働者の安全
衛生を守り、事故を防ぐのに適切妥当で、効果的かどうか判断する助けになるよう企画さ
れます。また、時間に沿った制度の成果を評価する手段を提供します。
改善を計画するとき、監査証拠は、常に制度機能の他の資料と一緒に見直されるべきです。
ベンチマーク
どの監査成績制度も過去の成功を強調するよりも将来の改善に向けた 基 準 を示すべきで
す。監査結果は、労働安全衛生マネジメントシステムの履行が組織の労働安全衛生政策と
目的の達成に効果的か、全ての従業員の参加を促しているか、労働安全衛生履行の評価お
よび以前の監査結果に応えているか、組織の関連法規の順守の達成を可能にしているか、
ベ
ス
ト
O
S
H
プ
ラ
ク
テ
ィ
ス
継続的な改善および最高の労働安全衛生実践 の目標を実現するかどうか判断すべきです。
監査役は、団体との良好な意思疎通を必要とします。それによって、監査が行われる際、
人々は必要な情報を書類、記録、インタヴューや敷地への立入りの形で提供する準備をし
てくれます。良好な意思疎通のやり方は、監査結果が散在しているときにも必要です。
民間認証と監査法人は、双方が団体の労働安全衛生マネジメントシステムの設立援助とそ
の監査をするときに容易に利益相反の状況に陥ります。会計監査の経験が監査役と結びつ
きがある場合や、報酬が主な動因となる場合に真に独立した監査をすることの困難さを示
しています。監査役の選択と監査実行のための正確な委託事項の定義が、団体の特性の斟
酌に注意することとともに考慮されなければなりません。真に効果的な監査制度は、監査
の過程が期待され、実践的な改善のための新しく有用な着想が見込まれるようなものです。
監査に恐れを抱くようであれば、監査制度は改善される必要があります。そのようなもの
11
は監査ではありません!
労働安全衛生マネジメントシステムの必要が自発的なものであれ、義務的なものであれ、
団体は、労働安全衛生マネジメントシステムの要件および履行成果の遵守を評価してもら
うため、国家的ないし専門的な登録認証と監査機関を当てにします。監査過程は、成果、
是正措置の提案そして更なる改善に向けた新たな目的への中立的な評価が下されることに
より労働安全衛生マネジメントシステムを完遂します。
従業員の参加
労働安全衛生マネジメントシステムは、安全衛生委員会の場であれ、または労働協約のよ
うな他の仕組みであれ、効果的な社会対話の存在なくしてうまく機能しません。従業員と
その代表者らは、直接の関与および協議を通して、組織における労働安全衛生管理への完
全な参加のための機会を与えられるべきです。制度は、すべての利害関係者が運営への責
任を割り当てられる場合のみ成功します。
労働安全衛生マネジメントシステムの大原則は、組織のあらゆる段階における全従業員の
意味ある関与を含むライン管理責任および明らかにされた労働安全衛生責任の設定です。
労働安全衛生は、労働安全衛生マネジメントシステムについてはさらに、対話と協力を通
じた全ての利害関係者の完全な参加によってのみ成功し得ることは繰り返し論証されてい
ます。制度が、序列下位の従業員による関与なく経営陣のみによって運営された労働安全
衛生マネジメントシステムの場合、その重点を失い、失敗に終わります。多数の研究が、
低い傷病強度率と安全衛生委員会の存在ないし組織内労働組合の関与との間の関連を示唆
しています。他の研究は、参加型職場協定が労働安全衛生マネジメントシステムの実践を
労働安全衛生の向上という結果へ導くことを指摘しています。これは労働組合のある職場
ではなおさらです。
全従業員の参加は、全ての ILO 労働安全衛生基準、とりわけ、労働安全衛生マネジメント
システムについての ILO 指針のほか、1981 年の労働安全衛生条約(155 号条約)とそれに
伴う勧告(164 号勧告)により強く促進されます。安全衛生委員会と類似の取り決めを効果
的にするため、適切な情報と訓練が提供されること、効果的な社会対話と意思疎通の仕組
みが設立されることそして従業員とその代表者が労働安全衛生手段の実行に関与すること
が重要です。労働安全衛生マネジメントシステムへの参加が通常、組織の使用者と労働者
に及ぶことは理解されるにも関らず、情報交換と意思疎通の意識への参加は、手段の実行
12
に関する外注先ないし外部の利害関係者も関わるべきです。国際的な基準設定機構のほか、
監督機関、下請業者、近隣社会ないし団体、顧客、サプライチェーン内の企業、保険者、
株主そして消費者も含まれるかもしれません。
経営層から従業員まで、あらゆるレベルでの労働安全衛生は、労働安全衛生計画の実行に
おける主要な要素です。この訓練は、制度に関する知識を確実にし、組織の最新の変化に
対応した指導をするため、継続的に行われなければなりません。この文脈において、組織
の異なるレベルの間における意思疎通のチャネルは効果的なもので双方向でなければなり
ません。つまり、店舗従業員から上がってきた労働安全衛生に関する情報と懸念が十分考
慮に入れられるであろうこと、より高い経営層まで情報が届くようになることを意味しま
す。これは人に焦点を合わせる制度の必要性が何を意味するかの一例です。
小規模事業場
資金が潤沢ではない小規模事業場においても、製品や設備の購入の際の安全データシート
の事前記入の義務付け、仕事上の危険有害要因の特定または十分な訓練等といった簡易な
方法により、効果的なリスク評価を実施することが可能です。多国籍企業に代表される大
規模事業場が、事業方針や参画体制に労働安全衛生上の要請を取り入れることは、既に定
着した流れとなっていますが、他方で、小規模事業場が、労働安全衛生マネジメントシス
テムの基本要素を自らの労働安全衛生の実務に取り入れるための現実的かつ費用効率のよ
い手段を実現するための支援の面では、なお多大な努力を要します。小規模または中規模
の事業場が、完全に文書化された労働安全衛生マネジメントシステムを取り入れることは
できないとしても、危険有害要因とリスクに対する明確な理解と効果的な管理を実証する
ことは可能です。
労働安全衛生マネジメントシステムの効果的な適用には、必要最低限度の技能、技術的知
識そして資金が必要であるため、小規模事業場がこれを効果的に取り入れるのは、依然と
して困難な挑戦です。この分野の進歩は、初歩的な防止並びに基本的な労働安全衛生に関
する情報及び訓練に容易に接することができるかどうかに負うところが大です。また、多
くの労働安全衛生マネジメントシステム上の諸段階は、さらに簡素化し、事業場の規模や
事業場が有する技術手段にあわせて適合させることが可能です。ILOは、「小規模事業場に
おける労働の改善」
(Work Improvement in Small Enterprises (WISE))及び小規模農家向けの「近
隣の開発における労働の改善」(Work Improvement in Neighbourhood Development (WIND))
といったトレーニング・パッケージ並びに労働組合向けのポジティブ・プログラム
13
(POSITIVE)を開発し、幅広い試行を実施してきています。そして、トレーニング・パ
ッケージには、労働安全衛生マネジメントシステムの実施第1段階に類似するリスク評価
の簡易型が包含されています。
こうしたトレーニング・パッケージは、労働安全衛生マネジメントシステムのひな形では
ありませんが、初歩的な防止策が労働安全衛生マネジメントシステムと同様の方法で展開
されており、小規模な事業場のためのものです。したがって、前記表1の各諸段階に示さ
れている危険有害要因の特定やリスク評価に関する労働安全衛生マネジメントシステムの
基本要素を含めるよう、トレーニング・パッケージを変更することもできます。国の労働
監督事業は、中小規模の事業場における職業上のリスクを管理する簡易な方法についての
助言の提供と情報の普及を行うための有効な方向性( “ベクトル”) を提供します。使用者
や労働者を有する国内外の事業場も、リスク管理の簡易な方法の開発促進や必要な訓練の
提供について重要な役割を担っています。
多国籍企業は、取引先となる多くの供給業者に対して有する影響力の点で、特に重要な役
割を担っています。多国籍企業に対する供給業者の多くは小規模な事業場です。そこで、
地域文化に対するきめ細かな配慮が、労働安全衛生に関する刷新的なアプローチの受容を
積極的に促す可能性があります。より多くの事業場が労働安全衛生マネジメントシステム
に積極的に関心を示すことによって、先進国、途上国を問わず、安全衛生と労働条件は向
上するはずです。
労働安全衛生マネジメントシステムと高リスクの産業部門
既述のとおり、労働安全衛生の本質は職業上のリスク管理です。同様に、労働安全衛生マ
ネジメントシステムは、防止対策及び保護対策の実施にあたり、包括的かつ組織的なリス
ク評価及び複雑な管理体制の実績監視が継続的に必要とされる、とりわけ高いリスク部門
とされるような一定の産業分野や作業工程に特有の危険有害要因の管理に合わせて調整す
ることもできる「一般的な」手法です。以下の記述は、経済活動の中で重要な位置を占め
る高リスクの産業部門における労働安全衛生マネジメントシステムの適用例です。
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建設業は、労働災害の発生率が高く、建設現場では複数の請負業者や下請負業者を用いる
ことが常です。この部門において労働安全衛生マネジメントシステムを活用する強いイン
センティブは、労働安全衛生マネジメントシステムが、現場で働くすべての関係者に対し
共通のテンプレートを提供し、そうしたテンプレートが労働安全衛生上の要請に係る計画、
実施及び監督、並びに、業績評価の基礎の構築についての調和を図ってくれる点にありま
す。また、労働安全衛生マネジメントシステムは、建設プロジェクトの企画、立案、入札、
開始といった複合的な段階の早い段階において、労働安全衛生上のニーズの集約を促しま
す。したがって、建設事業における統合管理システムの実施は、複数の利害関係者からな
る作業現場において、品質、環境及び労働安全に係る各システムの首尾一貫した統合を確
保するための効果的なツールになると認められています。
鉱業もまた、高リスクの産業部門ですが、ここでも、一貫性があり、段階的かつ論理的な
アプローチである労働安全衛生マネジメントシステムは、労働災害及び職業性疾病を低減
するための効果的なツールとなり得ます。
海事部門も高リスクの産業部門の例です。2006 年の ILO 海事労働条約は、労働安全衛生
マネジメントシステム及び災害防止に関する規定・規則・手引のための国内ガイドライン
及び政策の構築を奨励しています。
15
化学物質と労働安全衛生マネジメントシステム
化学物質は、我々の自然環境及び都市環境のいずれにおいても必須の要素であり、これが
社会にもたらす恩恵は計り知れないものである以上、化学物質の不必要かつ有害な影響を
有効に管理するすべを獲得せざるを得ません。化学に関する安全戦略が効果的であるため
には、労働安全衛生の一般原則に忠実でなければなりませんが、それは、すなわち、危険
有害要因の特定とその特性評価、リスクの特性評価、ばく露評価、さらには、全体として、
化学物質の適切な管理を達成するためのシステム・アプローチを実施することです。この
種の管理は、殊に問題が地球規模の影響を持ち得る場合には、分断された個別の方法では
なく、統合的なアプローチを要します。適切に管理するには、化学物質の全ライフサイク
ルをカバーしなければなりません。国内外及び事業場段階において、化学物質の適切な管
理を促進している近時の規制や戦略は、全て、労働安全衛生マネジメントシステムの原則
をまとめたものです。
危険有害な化学物質に対するばく露の防止は、リスク評価の重要な焦点です。ILO、WHO、
UNEP、FAO、OECD 等の政府間機関や国際機関は、危険有害要因及びリスクの評価に関
し、国際的な合意を経た様々なガイドラインを共同で作成しており、これらのガイドライ
ンは、職業上のリスクを評価するための基準として広く使用されています。化学品の分類
および表示に関する世界調和システム(GHS)、国際化学物質安全性カード(ICSC)又は国
際科学物質安全性計画(IPCS)の事業である国際化学物質簡潔評価文書(CICAD)が、こ
の分野における国際的なピア・レビュー又は協力の例として挙げられます。
ILOの労働安全衛生に係る幅広い基準のうち、1990 年のILO化学物質条約(第 170 号)は、
使用者団体及び労働者団体と協議の上、化学物質の適切な管理のための一貫した政策の構
築・実施・定期審査を含む広範囲かつ包括的な国家的枠組を定めています。この条約の最
も重要な特徴は、化学的な危険有害物質の周知と製造者や輸入者からユーザーに対する安
全性情報の伝達に係る規定です。この条約に附属する勧告と職場における化学物質の使用
の安全に関する実務規程(Code of Practice、1993 年)が追加のガイダンスを定めています。
さらに、2006 年に国連環境計画が承認した国際的な化学物質管理の戦略アプローチ
(SAICM) 2 も重要な国際的な文書です。
欧州連合による2007年の化学物質の登録、評価、承認及び制限のための規制(2007
Regulation for Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals
2 http://www.saicm.org
16
(REACH))(REACH)は、年間1トンを超えて、EU域内で製造され、又は、EU域内に輸
入される全ての化学物質について、その登録とデータ作成を義務付けています。1999年の
カナダ環境保護法令(The Canadian Environmental Protection Act, 1999 (CEPA 1999))
(CEPA1999)も、新規及び既存の化学物質の評価及び管理のためのリスク・ベースのアプロ
ーチを採用した立法例です。化学業界も、地球規模での化学物質の適切な管理のための自
主的な取組みを展開しており、レスポンシブル・ケア(Responsible Care)やプロダクト・
スチュワードシップ(Product Stewardship)は、そうした取り組みの例です。
中小企業は、化学物質に対するばく露の管理能力に限界がありましたが、近時、化学物質
の管理についての新たな取組みを展開してきました。こうした取組みは、コントロール・
バンディング(Control Banding)と称され、ある化学物質が、国際基準に従った危険有害
物質の分類、使用量、化学的不安定さ/粒子の大きさに基づき定義された管理方法が各々要
求される各「有害危険物質群(hazard band)」に属する場合における、ばく露の管理に焦
点が当てられています。
大規模な危険有害要因の管理
化学部門及びエネルギー部門(原子力、石炭又は石油ベースのいずれであっても)は、労
働安全衛生マネジメントシステムが最初に適用され、活用された高リスクの産業部門です。
1974 年にイギリスのフリクスボロー(Flixborough)で発生したシクロヘキサン蒸気雲の
爆発事故、1984 年にインドのボパール(Bhopal)で発生し、死者数千人を記録したイソシ
アン酸メチルの漏洩事故、1986 年にチェルノブイリ(Chernobyl)で発生した原子力発電
所の爆発と炉心溶融事故、さらに近時、2001 年にフランスの AZF 社の工場で発生した硝酸
17
アンモニウムの爆発事故といった大規模な労働災害は、産業設備の壊滅的な潜在力と労働
安全衛生管理の機能不全による帰結を示す事例といえます。こうした事故の多くは、危険
有害要因とリスクに係る厳格な評価手続を定めるための規制的かつ技術的なツールの発展
を促進してきました。
大規模な危険設備に係るリスク管理手続において決定的に重要な要素は、設計、建設、操
作の各段階における危険有害要因の分析です。危険有害要因の評価を正式に行うための方
法や技術として、これまでに十分立証されてきたものの中には、予備的危険度解析
(Preliminary Hazard Analysis (PHA))、ハゾップ(Hazard Operability Study (HAZOP))、
フォールト・ツリー解析(Fault Tree Analysis (FTA))、故障モード影響致命度解析(Failure
Modes Effect and Criticality Analysis (FMECA)) があります。これらの方法の多くは、
当初、原子力産業を念頭に発展し、他の手続のためにも改作されていきました。これらの
ツールは、工程中の潜在的故障モードを特定し、結果を予測し、防止手段・効果的な緊急
準備・対応計画を作成するのに有用です。
大方の先進国においては、産業設備について、大規模危険設備に指定するための規制基準
が設けられており、かかる指定を受けた設備は、具体的かつ厳格な安全衛生確保の手段が
義務付けられます。そうした規制基準の好事例として、危険物質が関与する大規模災害の
危険有害要因の管理について、1996 年に欧州連合が定めた Seveso 指令(96/82/EC)を挙
げることができます。
ILO の 1993 年の大規模産業災害防止条約(第 174 号)は、危険有害物質が関与する大規模
産業災害から労働者、公衆及び環境を保護し、災害結果を軽減するための体系的かつ包括
的なモデルとしての枠組みを定めています。この条約の基準は、大規模な危険設備を体系
的に特定すること、当該危険設備の管理、使用者責任、権限当局、労働者の権利義務につ
いて定め、さらには、輸出国の責任も定めています。この条約と同時に策定された勧告(第
181 号)は、例えば、災害被害者の国境を越えた移送や迅速な補償についての規定等も定め
ています。この勧告は、批准国が国内政策を形成するに際し、1991 年の大規模災害防止に
関する実務規程(Code of Practice)を考慮すべき旨、及び、多国籍企業は全ての設立事業
所において同等の基準を設けるべき旨定めています。ILO は、更に、大規模危険設備の管
理のためのシステムやプログラムを策定中の国々を支援する目的で、大規模危険有害要因
の管理に関するマニュアル(1993 年)も定めています。
18
ナノテクノロジー
ナノテクノロジーを利用しナノマテリアルを生産すること、そして、100 ナノメートル未満
の粒子に対するばく露がもたらす健康への潜在的な悪影響は、新たな労働安全衛生上の懸
念です。工学操作がなされたナノ粒子は、類似の化学組成を持つより大きな粒子と比較し
て、化学的、物理的かつ生物学的に明らかに異なっている可能性があります。文献によれ
ば、工学操作がなされた少数のナノ粒子に対する職業上又は環境上のばく露の報告がなさ
れてはいるものの、こうした粒子に対するばく露と関連付け得る健康上・環境上の影響を
特徴づけるには、なお多くのデータを必要とする旨指摘されています。複数の政府や経済
開発協力機構(OECD)のような政府間機関は、ナノ粒子が人間の健康や環境に与える潜
在的な影響を評価するためにタスクフォースを立ち上げ、危険有害要因の分類並びにリス
クの評価及び管理方法を考案し、工業生産とナノ粒子の利用に関する規制的な含意を評価
しています。
ここに見られる協力は、新たに生じつつあるリスクに対する国際的なピア・レビューを経
た評価の好事例です。
19
マネジメントシステムは、労働安全衛生にとって有用か?
労働安全衛生マネジメントシステムは、安全かつ健康な労働環境を確保及び維持し、事業
場の業績を上げる万能薬ではありません。他の手段と同様、労働安全衛生マネジメントシ
ステムには、長所と短所があり、その有効性は、すべからく、如何に理解され、また、如
何に活用されるのかにかかっています。大部分の事業場は、完全な労働安全衛生マネジメ
ントシステムから利益を享受できますが、他方、労働安全衛生の管理について縮小され、
緩やかな形式の手法を検討する事業場もあるでしょう。また、プログラムとシステムの区
別が潜在的に弱いことから、労働安全衛生マネジメントシステムへの移行を正当化するの
は、時として難しいかもしれません。
1981 年の職業上の安全及び健康に関する条約(第 155 号)に奨励されているようなプログ
ラム的なアプローチは、現実にはシステム的な特徴を備えていますし、同様に、システム
的なアプローチも、現実にはプログラム的な特徴を備えています。このことは、多くの労
働安全衛生関連の国内立法についても同様です。しかしながら、システムマネジメントは、
労働安全衛生の実績に関する継続的な評価及び改善に資する仕組を構築する可能性のみな
らず、2003 年の ILO 総会で採択された労働安全衛生に関する世界戦略(2003 年)や 2006
年の職業上の安全及び健康促進枠組条約(第 187 号)に明記されている安全及び健康に関
する危害防止の文化を構築する仕組を確立する可能性を実現してくれます。
労働安全衛生マネジメントシステムの実績如何は、当該事業場の全般的な管理の実績次第
です。労働安全衛生マネジメントシステムも、他の全ての方法論と同様、理解しておくべ
き長所と短所があります。労働安全衛生マネジメントシステムの運用を妨げる潜在的な危
険を知っておくだけでなく、安全と健康を実現するための労働安全衛生マネジメントシス
テムの効果的な実行を確保し、その重要な強みを享受するには、どんな要件を整えておく
べきかについても理解しておく必要があります。これらの長所や短所は、労働安全衛生マ
ネジメントシステムの完全な実施に必要な技術や資金を有する中規模又は大規模な事業場
について妥当するという点に留意しなければなりません。
労働安全衛生マネジメントシステムとは、管理方法のひとつであって、労働安全衛生事業
計画自体ではないということを念頭におくことが重要です。それゆえ、マネジメントシス
テムのアプローチは、事業場で実施されている労働安全衛生の枠組みや事業計画次第です。
労働安全衛生マネジメントシステムに係る事業計画は、労働安全衛生に関する国内立法の
20
枠組の範囲内で機能するものであり、また、事業場は、同システムが、規制要件の見直し
の機会を含み、これに従って更新されることを確保する必要があります。事業場における
労働安全衛生マネジメントシステムの要素についての、労働安全衛生マネジメントシステ
ムに関する ILO ガイドライン(2001 年)
(ILO-OSH2001)に基づく詳細かつ一般的な説明
は、附属書 1 に掲げられているとおりです。
労働安全衛生マネジメントシステムの長所
管理システムのアプローチは、労働安全衛生の実施について、多くの重要な長所を提供し
てくれると認められており、そうした長所の一部については、既述のとおりです。
システム的なアプローチは、更に、長期間かけて安全衛生事業計画全体を調整していき、
危険有害要因の管理とリスク低減に関する判断を徐々に改善していきます。他の重要な長
所は、以下に示すとおりです。
„
労働安全衛生上の必要事項を事業システムと一体化させたり、労働安全衛生上の
目的と事業目的を緊密に適合させたりすることによって、管理設備、管理行程、
技術、訓練そして情報に関する実施コストに対してより効率的に評価し得る可能
性。
„
労働安全衛生上の必要事項を、殊に品質や環境分野といった他の関連分野の必要
事項と調和させること。
„
行動と監視を必要とする全ての要素を扱う労働安全衛生事業計画の確立と運営が
よりどころとすべき論理的な枠組みの提供。
„
普遍的に適用される一連の規範に基づく意思疎通のための仕組、政策、手続、事
業計画及び目的の簡素化と向上。
„
文化や国内規制における差異に対する適用可能性。
„
安全及び健康に関する危害防止の文化の構築に資する環境の構築。
„
社会対話の強化。
„
ライン部門管理の全関係者にわたる労働安全衛生上の責任の分配。このシステム
の効果的な実施のための経営陣、被用者、労働者について、責務の明確化。
„
事業場の規模や活動に合わせた適用可能性、思いがけず遭遇した危険有害要因の
型に対する対処可能性。
„
継続的な向上のための枠組みの確立。
„
実績評価のための監査に耐え得る基準値の提供。
21
労働安全衛生マネジメントシステムの限界
労働安全衛生マネジメントシステムが、安全衛生を向上させる可能性を持つことは否定で
きませんが、他方で、回避しなければ即座に失敗につながってしまう落とし穴も多くあり
ます。この点に関する研究で、労働安全衛生マネジメントシステムについて解決を要する
と強調されている重要な課題の多くは、以下に示すとおりです。
„
文書と記録の作成については、事務作業が度を越して過大になり、システムの目
的を凌駕してしまわぬよう注意深く統制する必要があります。人間よりも労働安
全衛生マネジメントシステム上の形式的な事務作業の要請が強調されてしまう場
合には、人的要素に対する注目が容易に失われてしまいます。
„
種々の管理プロセス(品質、労働安全衛生、環境)相互間の不均衡を回避して、
必要事項の希釈化や焦点の不一致を防止しなければなりません。注意深い計画や
労働安全マネジメントシステム事業計画の導入に先立つ十分な意思疎通の欠如は、
変化に対する懐疑心や抵抗を生じさせる可能性があります。
„
労働安全衛生マネジメントシステムは、しばしば安全により重きを置くことによ
り、職業上の疾病の発生を見逃す危険があります。労働者の職業上の健康調査は、
労働者の健康を長期的に監視するための重要かつ効果的なツールとして、システ
ムに取り入れる必要があります。1985 年の職業衛生機関条約(第 161 号)とこれ
に附属する勧告(第 171 号)に明記されているとおり、労働安全衛生事業は、労
働安全衛生マネジメントシステムの必須の要素であらねばなりません。
„
事業場の規模如何により、労働安全衛生マネジメントシステムの構築に要する資
金が著しく高額になる可能性があるため、システムの導入と運営にかかる全体の
コストについて、実施時間、技術、人的資源の観点から現実的な査定を行う必要
があります。この点は、仕事が外注される場合には、特に重要です。
有効な労働安全衛生マネジメントシステムの重要な要素
9
事業場のニーズを、手段との関係で注意深く評価してください。
9
労働安全衛生マネジメントシステムを状況に応じ改編してください。
9
システムが、予防的かつ保護的な手段に重点を置き続けることを確保してください。
9
自己正当化より、むしろ改善が意図されていることに留意してください。
9
監査が、監査得点のみを上げる仕組みになってしまうのではなく、継続的な改善過
22
程に寄与することを確保してください。
9
マネジメントシステム・アプローチは、事業場で実施されている労働安全衛生の枠
組や事業計画次第であることを念頭に置いてください。
9
労働安全衛生マネジメントシステム事業計画は、国内の労働安全衛生立法の枠内で
機能すべきものです。事業場においては、同システムが、規制要件の見直しの機会
を包含し、定期的に更新されることを確保しなければなりません。
9
労働安全衛生マネジメントシステム事業計画の実施に向けた労働安全衛生に関する
訓練については、最高位の経営陣から作業現場の労働者に至るまでの全てのレベル
で継続的に実施しなければならず、同訓練内容を、定期的に更新し、システムに関
する知識を伴いかつ事業場の変化に対応したものにしなければなりません。
9
事業場内の異なるレベル間における意思疎通手段には、システムが人間に重点を置
いたものであることが必要です。労働安全衛生に関連する情報や懸念事項は、効果
的な双方向性を持つ必要があります。すなわち、作業現場の労働者から発せられた
懸念には十分な考慮が必要であり、それが上級管理職のもとに届かなければなりま
せん。
9
労働安全衛生マネジメントシステムは、効果的な社会対話(直接関与と協議)なく
しては機能しません。労働者とその代表者は、合同の安全衛生委員会の機会であれ、
団体交渉のような他の仕組みであれ、事業場における労働安全衛生の管理に本格的
に参加する機会を与えられなければなりません。
9
1つのシステムは、全ての利害関係人が、同システム運営上の明確な責任を分配さ
れている場合に、はじめて成功します。
9
労働監督事業は、国家の労働安全衛生システムと労働関係や労働安全衛生に関与す
る事業場とを主要かつ正式に結び付けるものです。また、こうした労働監督事業は、
適切な訓練によって、国内法令に適合する労働安全衛生マネジメントシステム事業
計画(監査機能を含む)を確保するために決定的に重要な役割を担う可能性があり
ます。
9
将来の労働安全衛生マネジメントシステムは、自主的な方法と義務的な方法の適正
なバランスをとることによって実現します。特に監査機能についての主流は、自主
的監視と規制的監視を組み合わせた簡素な実施システムになっていくでしょう。
23
安全衛生マネジメントシステムに関する ILO の技術協力
労働安全衛生マネジメントシステムに関する ILO ガイドライン(2001 年)
(ILO-OSH2001)
の出版以来、ILO は自国における労働安全衛生マネジメントシステムのガイドラインの開
発に関心を寄せる国々に対する技術協力支援を積極的に行ってきました。イタリアトリノ
に所在する ILO の国際研修センターでは、この分野に関する課程が提供されています。ア
ルゼンチン、ブラジル、イスラエル、アイルランドは、ILO ガイドラインについて、自国
の要請に適合する労働安全衛生マネジメントシステムのガイドラインの推進又は発展に資
するモデルであるとして正式に承認しました。フランスでは、ILO の諸ガイドラインが、
国内的な認定に用いられる唯一のガイドラインであると承認されています。マケドニア・
旧ユーゴスラビア共和国は、ILO-OSH 2001 を大規模及び中規模事業場において実施する
ための3カ年プログラムを開始したところです。日本では、ILO ガイドラインを模範とし
て、自国の事情に適合する独自のガイドラインが作成されてきました。建設業労働災害防
止協会(JCOSHA)が作成した建設業労働安全衛生マネジメントシステム(COSHMS)ガ
イドラインや中央労働災害防止協会(JISHA)が作成した、製造業者のための労働安全衛
生(OSH)マネジメントシステムガイドラインなどです。
2007 年、独立国家共同体(CIS)の国々も、新たな国家間基準(GOST 12.0.230-2007)を
採用しました。この国家間基準は、ILO-OSH 2001 に基づく、
「労働安全衛生システム、労
働安全衛生マネジメントシステム、一般要件」です。
ILO の諸ガイドラインが、世界規模の承認を得ていることを示す端的な指標は、ILO の諸
ガイドラインが、22 の言語に翻訳され、少なくとも 30 の国々で活用されているという事実
です。ILO の諸ガイドラインは、労働安全衛生マネジメントシステム事業計画の策定の際、
最も参照又は活用されているガイドラインになりつつあります。この急速な変化は、国家
レベル又は事業場レベルのいずれにも当てはまります。ILO の諸ガイドラインの一般的な
形式は、これを労働安全衛生マネジメントシステムの基準とともに活用したり、他の管理
システムと統合したりすることを容易にするばかりでなく、多国籍企業における労働安全
衛生上の必要事項の実施を促進します。
多くの自主基準は、それが国家機関による策定か専門家組織による策定かを問わず、
ILO-OSH 2001 ガイドラインを模範としています。なぜなら、同ガイドラインは、ILO の
労働安全衛生の基準が奨励する方針を反映し、かつ、三者構成で採択されたものであるこ
とから、労働安全衛生管理の最も効果的な方法に関する幅広い意見の一致を象徴するもの
24
だからです。
事業場の業種如何又は国内要件如何によって、労働安全衛生マネジメントシステムの基準
の種々のバージョンが活用されますが、どのバージョンの基準にも、既述の PDCA モデル
が取り入れられています。事業場が用いる労働安全衛生マネジメントシステム上の技術的
な基準やガイドラインの多くは、アメリカ規格協会(ANSI Z10)やイギリス規格協会(BS
OHSAS 18000 series)のような民間組織によって考案されています。この 20 年間、多く
の国が、多くの自主的又は調整的な仕組みによって、事業場における労働安全衛生マネジ
メントシステムの実施を行ってきました。以下に示すのは、かかる仕組みの例です。
„
少なくとも特定の仕事に関し、規制的手段による義務づけがなされるもの。(イン
ドネシア、ノルウェー、シンガポール)
„
認証手段の支持を得た全国的に適用される自主基準。(オーストラリア、ニュージ
ーランド、中国、タイ)
„
国家機関の考案による国の労働安全衛生マネジメントシステムのガイドラインに
よって奨励される自発的行為(日本、韓国)
„
ILO-OSH 2001 のような国際的に承認された労働安全衛生マネジメントシステム
の適用を通じた自発的行為(インド、マレーシア)
結語
この10年間、労働安全衛生マネジメントシステムに関する取り組みは、先進国・途上国
を問わず広く取り入れられてきました。その活用促進の方法は、法律上の義務付けから自
主的な活用まで多種多様です。労働安全衛生マネジメントシステムが、事業所レベルにお
ける労働安全衛生上の行動の継続的改善を促すための論理的かつ効果的なツールであるこ
とは、経験上明らかですが、経営者と労働者がこれを共同での実施する過程における経営
者の関与(commitment)と労働者の積極的参加の確保は、労働安全衛生マネジメントシス
テムを効果的に活用するための重要な要素です。事業場内の労働安全衛生の改善に資する
維持可能な体制の発展を戦略的に促進する手段として、労働安全衛生マネジメントシステ
ムが、より多くの国々の労働安全衛生事業計画に取り入れられることが期待されます。
25
Annex 1
Essential elements of an occupational safety
and health management system
Policy
OSH policy: The employer, in consultation with workers and their representatives, should set out in writing
an OSH policy.
Worker participation: Worker participation is an essential element of the OSH management system in the
workplace.
Organizing
Responsibility and accountability: The employer should have overall responsibility for the protection of
workers' safety and health, provide leadership for OSH activities and ensure that OSH is a line management
responsibility which is known and accepted at all levels.
Competence and training: The necessary OSH competence requirements should be defined by the
employer, and arrangements established and maintained to ensure that all persons are competent to carry out
the safety and health aspects of their duties and responsibilities.
Documentation: According to the size of the workplace and the nature of its activities, OSH related
documentation should be established, maintained, reviewed, revised as necessary; be communicated an readily
accessible to all appropriate or affected workers in the workplace. The documentation may cover the OSH
policy, assigned responsibilities; significant workplace hazards and risks and arrangements for their
prevention and control; records of OSH activities, work-related injuries, ill-health, disease, and incidents,
OSH national laws and regulations; records of exposures, working environment monitoring, health
surveillance data; results of monitoring; technical and administrative procedures, instructions and other
relevant internal guidance documents.
Communication: Arrangements and procedures should be established and maintained for receiving,
documenting and responding appropriately to internal and external communications related to OSH; ensuring
the internal communication of OSH information between relevant levels and functions in the workplace; and
ensuring that the concerns, ideas and inputs of workers and their representatives on OSH matters are
received, considered and responded to.
26
Planning and implementation
Initial review: The existing OSH management system and relevant arrangements should be evaluated by an
initial review, as appropriate to provide a baseline from which continual improvement of the OSH
management system can be measured. In the case where no OSH management system exists, the initial
review should serve as a basis for establishing an OSH management system. The initial review should be
carried out by competent persons, in consultation with workers and/or their representatives, as appropriate.
System planning, development and implementation: The purpose of planning should be to create an
OSH management system that supports: (a) as the minimum, compliance with national laws and regulations;
(b) the elements of the OSH management system; and (c) continual improvement in OSH performance.
Arrangements should be made for adequate and appropriate OSH planning, based on the results of the initial
review, subsequent reviews or other available data. These planning arrangements should contribute to the
protection of safety and health at work, and should cover the development and implementation of all the
OSH management system‘s elements.
Occupational safety and health objectives: Consistent with the OSH policy and based on the initial or
established; these should be consistent with national laws and regulations;, focused towards continually
improving workers' OSH protection to achieve the best OSH performance; realistic and achievable;
documented, and communicated to all relevant workplace functions and levels; periodically evaluated and if
necessary updated.
Hazard prevention
Prevention and control measures: Hazards and risks to workers' safety and health should be identified,
prioritized and assessed on an ongoing basis. In order of priority, preventive and protective measures should
(a) eliminate the hazard/risk; (b) control the hazard/risk at the source through appropriate measures; (c)
minimize the hazard/risk by the design of safe work systems; and (d) where residual hazards/risks cannot be
controlled by collective measures, the employer should provide for appropriate personal protective
equipment, including clothing, at no cost, and should implement measures to ensure its use and maintenance.
Hazard prevention and control procedures should be established and should: (a) be adapted to the
hazards and risks encountered by the organization;(b) be reviewed and modified, if necessary, on a regular
basis; (c) comply with national laws and regulations, and reflect good practice; and (d) consider the current
state of knowledge, including information or reports from organizations, such as labour inspectorates,
occupational safety and health services, and other services as appropriate.
Management of change: The impact on OSH of internal changes (such as those due to staffing, new
processes, working procedures, organizational structures or acquisitions) and of external changes (for
example, as a result of amendments of national laws and regulations, organizational mergers, and
developments in OSH knowledge and technology) should be evaluated and appropriate preventive steps
27
taken prior to the introduction of changes. A workplace hazard identification and risk assessment should be
carried out before any modification or introduction of new work methods, materials, processes or machinery.
Such assessment should be done in consultation with and involving workers and their representatives, and the
safety and health committee, where appropriate. The implementation of a “decision to change” should ensure
that all affected members of the organization are properly informed and trained.
Emergency preparedness and response: Emergency prevention, preparedness and response arrangements
should be established and maintained through continual internal training and information, and ommunication
with external emergency services. These arrangements should identify the potential for accidents and
emergency situations, and address the prevention of OSH risks associated with them. They should be
established in cooperation with external emergency services and other bodies where applicable.
Procurement: Procedures should be established and maintained to ensure that: (a) compliance with
workplace safety and health requirements is identified, evaluated and incorporated into purchasing and leasing
specifications; (b) national laws and regulations and the workplace’s own OSH requirements are identified
prior to the procurement of goods and services; and (c) arrangements are made to achieve conformance to
the requirements prior to their use.
Contracting: Arrangements should be established and maintained for ensuring that the workplace’s safety
and health requirements, are applied to contractors and their workers.
Evaluation
Performance monitoring and measurement: Procedures to monitor, measure and record OSH
performance on a regular basis should be developed, established and periodically reviewed. Responsibility,
accountability and authority for monitoring at different levels in the management structure should be
allocated.
Investigation of work-related injuries, ill health, diseases and incidents and their impact on OSH
performance: The investigation of the origin and underlying causes of work-related injuries, ill health,
diseases and incidents should identify any failures in the OSH management system and should be
documented. Such investigations should be carried out by competent persons, with the appropriate
participation of workers and their representatives. The results should be communicated to the safety and
health committee, where it exists, and the committee should make appropriate recommendations. The
investigation data and the recommendations should be communicated to appropriate persons for corrective
action, included in the management review and should be considered for continual improvement activities.
Reports produced by external investigative agencies, such as inspectorates and social insurance institutions,
should be acted upon in the same manner as internal investigations, taking into account confidentiality.
Audit: Arrangements to conduct periodic audits of each of the elements of the OSH management system
are to be established in order to determine the overall performance of the system and its effectiveness in
28
protecting the safety and health of workers and preventing incidents. An audit policy and programme should
be developed, which includes a designation of auditor competency, the audit scope, the frequency of audits,
audit methodology and reporting.
Management review: Management reviews should be conducted periodically to evaluate the overall strategy
of the OSH management system to determine whether it meets planned performance objectives and
workplace needs; should be based on data collected and actions taken during the period under consideration,
and on the identification of what aspects and priorities should be modified to improve performance and
achieve objectives.
Action for improvement
Preventive and corrective action: Arrangements should be established and maintained for preventive and
corrective action resulting from the OSH management system’s performance monitoring and measurement,
OSH management system audits and management reviews. When the evaluation of the OSH management
system or other sources shows that preventive and protective measures for hazards and risks are inadequate
or likely to become inadequate, the corrective measures should be addressed according to the recognized
hierarchy of prevention and control measures, and completed and documented, as appropriate and in a timely
manner.
Continual improvement: Arrangements should be established and maintained for the continual
improvement of the relevant elements of the OSH management system and the system as a whole. These
arrangements should take into account of objectives, and all the information and data acquired under each
element of the system, including results of assessments, performance measurements, investigations,
recommendations of audits, outcomes of management reviews, recommendations for improvement, changes
in national laws, regulations and collective agreements, new relevant information, any significant technical or
administrative modifications in the activities of the workplace, and the results of health protection and
promotion programmes. The safety and health processes and performance of the workplace should be
compared with others in order to improve health and safety performance
29