高畑ニュース#126(商いはたねやに訊け)

高畑ニュース#126(商いはたねやに訊け)
060627
歴史地理学会(6/23-25)のせいか、Wカップのせいか、はたまた O-K セミナー(次々号
で紹介)のせいか、しばらく T ニュースが中断してしまった。本日、学会の風景を少々語
って、再開する。
近江八幡で開催された歴史地理学会に、珍しくフルに参加した。23 日金曜夕方の基調講
演では筑波大学の石井英也先生がドイツの変わらない農村風景、滋賀大学の秋山元秀先生
が激変する中国西安の都市景観を示された。今年の夏にハンブルク郊外の農村風景は見学
してこようと思うし、西安にはいつか訪ねてその城壁一週 12km を自転車で回りたいと思
った。
24 日午後の自由発表、いい発表もあればそうでもない発表もあり、まあそれが学会だと
納得した。その中で名古屋大学院生諸氏はまあまあうまく発表しうまく答えていたように
思う。私の発表「尾張藩士朝日文左衛門の描く妻とその外出行動」
(#44-46)に対して、
「な
ぜ日記を書いた本人の行動を分析しなかったのですか」という質問がでたが、一部の人し
かわからない「実は内の元院生で高校の先生になった人のためにとってあるんです」とい
うごまかしの答弁でお茶を濁した。これは本人に聞かせたかったなあ。
25 日の景観の保全に関するシンポジウムでは、全報告を聞いた感想として、行政(開発
者)と住民と研究者が三位一体になることが重要だ、と思った。総括者の金田章裕先生(京
都大学)が、
(歴史)地理学研究者がなすべきことは、
「研究に独創的価値があればインパ
クトがある。ただし、目的・方法・データ・意義が明示されていないと、他のディシプリ
ンから理解されにくい」と力説されていた。傾聴すべき言葉である。
24 日の夜は、10 年ぶりにユースホステルに泊まった。建物が明治期に建てられた登録有
形文化財と聞いて、味気ないビジネスホテルをやめてユースにした。近江牛のステーキ(要
予約のため)が賞味でき無かったのが唯一の心残りであった。夜7時から9時半まで平松
君と琵琶湖河畔をドライブ。暗闇にかつて石工の島であった沖島をながめつつ、信長の安
土城まで足を伸ばす。安土駅前の食事処「あしがる亭」はドラゴンズ色に染まっており、
良し。10 時半に消灯。久しぶりに熟睡。7時半に起床し、シンポジウム開催の9時半まで、
近江商人の町並みを見学。秀吉ゆかりの日牟礼八幡神社隣りの和菓子屋「たねや」に入る。
そこで銘菓「ふくみ天平(てんびん)
」を求めるとともに、店頭で目に止まったたねや社長
山本徳次氏の『商いはたねやに訊け』毎日新聞社、2003 を購入した。
昔から教訓とかお説教は大嫌いであったが、素直に耳を傾ければ、なかなかいいではな
いか、これが率直な読後感であった。商売を地理学に替えればいける!と思ったので、2
回にわたって紹介することにした。しばらく近江商人の声を聞いていただこう。
第1話:デザイナーでなくアーティストになれ
お客様に触れる最初の接点が商品の表情。つまりデザイン。デザインはそれくらい大切
なんやけど、デザイナーは「色使いはこう、形はこう」とセオリーに縛られやすく、
「デザ
イン上はこんなものタブーです」ということもある。それが問題や。たとえタブーでも良
いものは良いではないか。・・・「すべてが未完成」
・・・
「それが個性を発揮することや」
と一瞬思った。個性がないとあかん。その部分でたねやのデザイナーはデザイナーではな
く、アーティストになってほしい。デザインを一度壊し脱皮してほしい。そこから本当の
個性がでる。たねやらしくなるのや。
● TM:デザイナーを教授・老院生に置き換えてみて下さい。痛快でしょう。院ゼミを切
り抜けるこつはここにあり。皆さんにもアーティストになってほしい。
第2話:経営者はバイキンをばらまいているようなもの
経営者は社員に「やる気」という強烈な病原菌をいつもばらまいてんとあかん。
・・・店
員にもその気になってやってもらう。それが経営者にとっては一番重要な仕事やな。
・・・
社長がとやかく言う以上に社員が「やったろう」という気になってもらわんと困るのや。
社長よりわしの方が上やという反骨精神がないと独り歩きしていけへん。
● TM:経営者(教授)は「嫌気」をばらまいてはいないか、反省すべし。逃げているわ
けではないが、皆さんには教授なんかほっといても「やったろう」という気になってほ
しい。
第3話:お菓子には物語がないといかん
お菓子は三度の食事と違うて、気持ちがちょっとよそ行きになるもんや。そこに物語が
生まれてくる。物語性のない菓子なんか夢も雰囲気もあらへん。ほんなもん誰が買う
や。
・・・わしはよくちょっとした料亭の雰囲気やら料理の話をする。
・・・
「この魚は三陸
沖のどこそこの荒海でこれこれという漁師さんが今朝釣ったものです」なんて聞かされた
ら、もう最高やな。目の前に三陸沖の荒海。そこでの一漁師の姿が浮かび、しぜんに物語
が創れるし、魚も余計においしゅうなる。
・・・歴史も季節も物語。要するにドラマとして
見んとあかんということや。ドラマ性のない人間ほど退屈なものはないが、お菓子も同じ。
ドラマのない菓子なんか売ったらあかん。
● TM:ドラマのない論文なんか書いたらあかん。
第 16 話:疑問から新商品が生まれる
人間は何事につけ、いつも疑問符を投げかけんとあかんもんや。この疑問というものが
わいてこなかったら新商品はできん。
・・・問題は今の時代の嗜好性をどれだけつかむかや。
それもこれも、まずは疑問を持つところから始まるんや。発想の転換は疑問からやな。
●TM:ドラマのある論文を書くコツは、謎解きにあると思う。