運動方程式を解く3― 単振動 ― tF r )( )( tFtam r r = tF r = )( tFx ( 1f r f r

力学Ⅰ
運動方程式を解く3― 単振動 ―
r
ある時刻 t において,物体に作用する合力 F (t ) が分かっている場合,
r
r
物体の運動は,運動方程式 ma (t ) = F (t ) を解くことによって決まる。
今回は,基本手順のように Step2→Step3のように加速度→速度→位置の順では
r
求められないケースを考える。 F (t ) が位置(座標)や速度によって変化する場合
である。今回扱うような手順で解を求める方が一般的である。
一般的な手順
Step1 運動方程式を立て,加速度を求める。
Step2+Step3
加速度から位置(座標)と速度を一気に求める。
Step4 初期条件から,具体的な運動を決める。
弾性力のみ Fx (t ) = − kx が作用する場合(単振動)
問題
質量 m = 5.0[kg]の物体を,一方の端が壁に固定されたばねの他方の
端につないで,滑らかな水平面上で運動させる。
)ばね定数を k = 180[N/m]
とする。
t = 0 のとき,ばねが自然長より 0.02[m]伸びた位置から,物体を静かに
放した。その後の運動を求めよ。
伸び x
y
fN
kx
O
x
mg
Step1 運動方程式を立て,加速度を求める。
運動方程式を立てる手順
① 問題を必ず図に書く
r
r
② 物体に働く力( f1 , f 2 ,
・・・)を全て見つけて図に書き込み,
v
r
r
その合力 F (= f1 + f 2 +・・・)を求める
③ 解きやすいように座標軸を決める。
v
④ 合力 F を成分( Fx , F y , Fz )で表す。
⑤ 運動方程式を各成分ごとに立てる。
ma x (t ) = Fx (t ), ma y (t ) = Fy (t ), ma z (t ) = Fz (t )
31
力学Ⅰ
①′②′
描け。
③′ばねが自然長(伸び縮みしていない長さ)の状態での,物体の位置を
原点 O に決める。
水平面内でばねが伸びる向きを x 軸の正,鉛直上向きを y 軸の正とする。
④′合力を成分で求める。
Fx (t ) = − kx(t )
, Fy (t ) = f N − mg
⑤′運動方程式
ma x (t ) = − kx(t )
, ma y (t ) = f N − mg
・・・(ア)
・・・(イ)
物体は水平面上を運動し, y 軸方向には運動しないことが分かって
いるから, a y (t ) = 0 である。
(イ)に代入すると, f N − mg = 0 が
成り立つことが分かる。
加速度を求める。
a x (t ) = −
k
x(t )
m
, a y (t ) = 0
・・・(ウ)
・・・(オ)
興味がある x 軸方向の運動のみを求める。
Step2+Step3 加速度から速度と位置(座標)を一気に求める。
(ウ)を速度の時間微分を用いて表してみる。
dv x (t )
dv (t )
k
を用いると, x
= − x(t )
・・・(カ)
dt
dt
m
(カ)には, v x (t ) と x(t ) という,求めなければならない未知の式が2つも
a x (t ) =
含まれている。→ 未知の式を1つ, x(t ) だけにしたい。
(カ)をさらに座標の時間微分(2階微分)を用いて表す。加速度は
dv x (t ) d
d  dx(t )  d 2 x(t )
= v x (t ) = 
[ x(t ) の2階微分]
=
dt
dt
dt  dt 
dt 2
(注意: dt 2 は (dt ) 2 の意味であるが,約束として dt 2 と書く)
と表せるので,
d 2 x(t )
dt
2
=−
k
x(t )
m
・・・(キ)
(この種の方程式は2階微分を含むので,2階の微分方程式と呼ばれる)
座標 x(t ) は,時間 t で2回微分すると元の関数の負の定数倍になる関数
微分の公式から探す
⇒ 三角関数(sin または cos)
32
力学Ⅰ
一般解を,2つの任意定数 A と α を使って,
x(t ) = A cos(ω t + α )
数学の微分の公式
・・・(ク)
と表すことができる。
(以下確かめる。
)
定数 ω は,
(キ)が成り立つ条件から決まる。
d(sin x)
= (sin x)′ = cos x
dx
d(cos x)
= (cos x)′ = − sin x
dx
すなわち, x(t ) を時間 t で2回微分すると, x(t ) の −
k
倍になるはず。
m
まず,(ク)を時間 t で1回微分して速度を求める。
dx(t ) d{ A cos(ω t + α )}
=
= { A cos(ω t + α )}′
dt
dt
= A(cos u )′ ⋅ (ω t + α )′ = A(− sin u ) ⋅ ω
v x (t ) =
[ u = ω t + α とおいて合成関数の微分の公式を用いた]
= −ωA sin(ωt + α )
・・・(ケ)
(ケ)を時間 t でもう1回微分する。
(加速度を求める。
)
( a x (t ) = )
d 2 x(t )
dt
2
=
d{−ωA sin(ω t + α )}
= {−ωA sin(ω t + α )}′
dt
= −ω 2 A cos(ω t + α )
・・・(コ)
ここで,
(ク)を使うと(コ)は
d 2 x(t )
dt
2
= − ω 2 x(t )
・・・(サ)
(サ)を(キ)と比較して ω 2 =
ω=
k
m
[rad/s]
k
であれば,
(ク)は運動方程式の解である。
m
・・・(シ)
ω=
180 [N/m]
= 6.0 [rad/s]
5.0 [kg]
を角振動数とよぶ。単位は[rad/s]である。
(なぜなら,t [s]をかけると,
三角関数で用いる変数の単位[rad]になるから。
)
したがって,運動方程式の解である座標の式は
x(t ) =
A cos(ω t + α )
[m]・・・(ク)
ωt + α [rad]を位相
とよぶ
である。 ω [rad/s]は(シ)で決まる定数。 A [m]と α [rad]は
任意定数(積分定数)で初期条件を用いて決める。
A [m]: 振幅
, α [rad]:初期位相
(通常 A は正の値とする)
33
とよぶ。
力学Ⅰ
Step4 初期条件から,具体的な運動を決める。
t = 0 での座標と速度の値・・・初期条件
x(0) = 0.02[m]・・・(ス), v x (0) = 0 [m/s]・・・(セ)
一般解(ク)と,微分して求めた速度(ケ)で t = 0 と置き,
初期条件(ス),
(セ)を用いれば,
x(0) = A cos(ω × 0 + α ) = A cos α = 0.02
v x (0) = − ωA sin(ω × 0 + α ) = − ωA sin α = 0
A cos α = 0.02・・・(ソ)と, − ωA sin α = 0 ・・・(タ)を連立させて解く。
(タ)より sin α = 0 → α = 0 または α = π 。 A > 0 なので,α = 0 を選ぶ。
(ソ)より A cos 0 = 0.02 → A = 0.02 。
( α = π を選ぶと A = − 0.02 < 0 )
∴ A = 0.02[m],
α = 0 [rad]
したがって, t > 0 での運動の具体的な軌道を表す式は,
x(t ) = 0.02 ⋅ cos(6.0 t )
・・・(チ) ,v x (t ) = −0.12 ⋅ sin(6.0 t )
・・・(ツ)
(チ)が特解である。
(この初期条件のときだけ成り立つ特別な解)
位置 x ,速度,加速度の時間変化を
x [m]
グラフに表す。
0.02
6
微分は「グラフの接線の傾き」である。
− 0.02
1回振動して元にもどる時間
→ cos の()の中が 2π 変化する
:周期
T=
ω
[s]
v x [m/s]
微分
t [s]
積分
0.12
1秒間に振動する回数
:振動数
2π
6
O
(そうなっていることを確認せよ。)
2π
π
O
− 0.12
1 ω
[ Hz ]
f = =
T 2π
単位[Hz]
(ヘルツ)
(=[1/s])
は振動する現象にのみ用いる。
角振動数と振動数
a x [m/s2 ]
− 0.72
34
6
2π
6
微分
積分
t [s]
2π
6
0.72
O
ω = 2π f [rad/s]
π
π
6
t [s]
力学Ⅰ
練習① 質量 m = 0.14 [kg]の物体を,ばね定数 k = 3.8 [N/m]のばねにつないで
振動させる。角振動数 ω[rad/s],周期 T[s],
◎ 角度の単位[rad]について
力学では[kg],[m],[s]を含ま
ない量の単位(角度など)は[1]と
同じで省略できる。(無次元という)
ただし角度の単位にも種類がある
ので,区別するために[rad]と名前
が付いている。省略しないで明記す
る方がよい。
計算によって[rad]⇔[1]と変化
するので注意する。
振動数 f [Hz]を数値で求めよ。
3.8 [N/m]
= 5.2 [rad/s]
0.14 [kg]
k
=
m
ω=
2π
2π
= 1.2 [s]
ω
5.2 [rad/s]
1
1
= 0.83 [Hz]
f = =
T
1.2 [s]
T=
=
練習② 上と同じ設定で,t = 0 のとき,ばねが自然長である位置から速さ v 0[m/s]
で,ばねが伸びる方向に物体を打ち出した。その後の運動を求めよ。
(⇒ 教科
書の演習問題 A に関係)
一般解
x(t ) = A cos(ω t + α ) ・・・(ク), v x (t ) = = −ωA sin(ωt + α )
・・・(ケ)
を求めるところまでは,ここでは省略する。
(各自確認しておくこと。
)
初期条件は,
x(0) = 0 [m] , v x (0) = v 0 [m/s]
y
式(ク),(ケ)で t = 0 と置き,初期条件を用
初速 v 0
k
いると,
m
O
x(0) = A cos α = 0
x
・・・(テ)
v x (0) = − ωA sin α = v 0
・・・(ト)
A > 0 とする。(テ)より, cos α = 0 → α = ±
π
2
。α = −
π
2
を採用する。
v
π
 π
 = v 0 → A = 0 。( α = を採用すると A < 0 )
ω
2
 2
(ト)より, − ωA sin  −
∴A=
⇒
v0
ω
,α = −
x(t ) =
π
2
π

cos ω t − 
ω
2

v0
=
35
v0
ω
sin(ω t )
力学Ⅰ
練習③
単振動の一般解
x(t ) = A cos(ω t + α ) ・・・(ク)
を,加法定理を用いて, P cos(ω t ) + Q sin(ω t ) の形に変形せよ。
加法定理: cos(θ + φ ) = cos θ cos φ − sin θ sin φ
を用いると,
x(t ) = A cos(ω t + α )
= A{cos(ω t ) cos α − sin(ω t ) sin α }
= A cos α cos(ω t ) − A sin α sin(ω t )
したがって, P = A cos α
, Q = − A sin α
x(t ) = P cos(ω t ) + Q sin(ω t )
とおけば,一般解は
・・・
(ナ)
の形に表せる。
(注)一般解の形は1通りとは限らない。
(ナ)の形に表した場合,任意定数は P
と Q である。運動方程式(2階の微分方程式)の一般解は,どんな形に表そ
うと必ず2個の任意定数を含む。
練習④ 質量 m[kg]の物体を,ばね定数を k[N/m]のばねにつないでつるすと,
ばねが自然長から d[m]伸びてつり合った。この位置(原点 O とする)から,
さらに x0 だけ伸ばして放すと,物体は単振動することを示せ。
鉛直下向きを x 軸の正の向きにとり,運動方程式を立てる
と,
ma x (t ) = − k{d + x(t )} + mg
・・・(ⅰ)
自然長
の位置
O
原点 O の位置で静止しているときのつり合い条件は,
− kd + mg = 0
・・・(ⅱ)
である。式(ⅱ)を用いると,運動方程式(ⅰ)は,
ma x (t ) = − kx(t )
となり,その解(運動)は単振動となることが分かる。
36
x
k
d
m
x0