第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)に関するナイロビ宣言

2016 年 8 月 26 日
第 6 回アフリカ開発会議(TICAD VI)に関するナイロビ宣言
8 月 26 日、アフリカ労働組合統一機構(OATUU)および日本労働組合総連合会(連合)
は、ケニア・ナイロビで「TICAD VI に関する合同ワークショップ」を開催し、下記の
声明をとりまとめた。
記
アフリカ労働組合統一機構(OATUU)および日本労働組合総連合会(連合)は、1993
年の TICAD 第 1 回会合以来のアフリカ開発の推進に向けた日本の継続的なイニシアテ
ィブを歓迎する。あわせて、今回、6 回目の会合が初めてアフリカで開催されること、
会合開催頻度が 5 年ごとから 3 年ごととなったことについても歓迎する。
OATUU および連合は、アフリカの持続的な発展を実現させていくためにはアフリカの
すべての労働者のディーセント・ワークの前進が不可欠であると考える。我々は、日
本政府、アフリカ連合委員会(AUC)、国連、国連開発計画(UNDP)および世界銀行
に対し、以下の事項に留意し、必要な取組を促進させることを求める。
Ⅰ.TICAD と持続可能な開発目標(SDGs)との相互関連
1. TICAD の枠組みに基づく開発協力は、「持続可能な開発のための 2030 アジェン
ダ」に含まれる「持続可能な開発目標(SDGs)」、および「アフリカ連合 2063
アジェンダ」「第 13 回 ILO アフリカ地域会議アディスアベバ宣言:持続可能
な開発のためのディーセント・ワークを通じてアフリカを変革する」との整合
性を十分に意識し、政策の一貫性を担保すること。また、経済的側面だけでな
く、貧困撲滅、環境への配慮、平和、安全保障、安定など開発の社会的側面も
十分に踏まえ、施策の実施に組み込むこと。
すべての SDGs の達成に向けて前進をめざす観点から、「持続可能な開発目標
8:すべての人々のための持続的、インクルーシブかつ持続可能な経済成長、
生産的な完全雇用およびディーセント・ワークを推進する」、および「持続可
1
能な開発目標 5:ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化
を行う」を前進させる必要がある。今般の TICAD VI の主要課題である 3 つの
柱である「産業化」「保健」「社会の安定」は、「持続可能な開発目標」の 1、
4、6、9、16 などと深く関連している。TICAD の取り組みを実行する際は、こ
れら関連する SDGs に対応するアフリカの状況を十分に踏まえるべきである。
Ⅱ.貧困撲滅(SDG1)
2. 世界銀行の報告書「発展するアフリカにおける貧困」
(2016 年 3 月)によれば、
過去 10 年に世界の貧困削減は大きく前進したが、その進展度合いにはばらつ
きがある。アフリカ地域の最貧困層の人口比率は 1990 年の 56%から 2012 年の
43%へと減少したと推計されている。ただしアフリカ大陸の人口増加ペースは
これを上回っていて、最貧困者数はむしろ 1990 年比で 6,300 万人も増えてい
る。驚異的な経済や社会の発展は最貧困層の削減をもたらすが、それ以上の速
さで人口が増加している。アフリカの最貧困層は、人口の 65%~70%が暮らす
農村地域に集中している。
あらゆる形態の貧困撲滅に向けた進捗状況は国や人口グループによって大き
く異なり、全体としての達成度はいまなお相当に低い。したがってアフリカ各
国は、域内に眠る潜在的な力を貧困撲滅に活かさなければならない。極端な貧
困の撲滅は「持続可能な開発 2030 アジェンダ」や「アフリカ連合 2063 アジェ
ンダ」の柱である。
アフリカ各国は、最貧困層の人口比率を 2030 年までに 15%以下、2045 年まで
に 4%以下に抑えるという目標を協力して達成することが求められる。アフリ
カの政策決定者は、貧困削減ペースを大幅に高める可能性のある政策を立案す
べきである。政策の具体的内容は各国で異なり、それらは行動に転化されるべ
きであるが、総合的かつ計画的な貧困削減を念頭においたものでなければなら
ない。
Ⅲ.質の高い教育(SDG4)
3. アフリカの教育危機は緊急の対応を要する。通学する子供の多くは、きわめて
低水準の教育しか受けておらず、学習内容は極端に少ない。またアフリカは教
育における不平等がもっとも顕著な地域でもある。貧困、障害、女性、農村ま
たは紛争地域に生まれた子供は、教育において極端に不利な立場におかれる場
合が多い。
すべての子供に質の高い教育機会が与えられたとき、学習は経済成長を加速さ
せ、イノベーションを喚起し、雇用を生み出す。貧困から抜け出し、繁栄を共
有するために必要なスキルを国と国民に植え付ける。そして人々が安定した暮
らしを営み、環境を保護し、健康状態を改善し、生活を左右する政治の過程に
参加することを可能にする。
インクルーシブな教育は、アフリカにおいて万人の自由を実現するための黄金
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のドアの鍵である。それは「持続可能な開発 2030 アジェンダ」の中軸であり、
すべての目標達成に不可欠なものである。
したがって我々はアフリカ各国の政府に対し、「教育 2030-インチョン宣言」
と「教育 2030 行動枠組み-万人のためのインクルーシブ、公平、質の高い教
育と生涯学習に向けて-」に示されたように、人間開発および経済、社会、環
境の持続可能性のための教育の目標と重要性に、あらためて注目するよう求め
る。アフリカ各国のすべての政府は持続可能な開発に向けて、万人のためのイ
ンクルーシブで公平で質の高い教育と生涯学習を提供し、強化するための努力
を倍化させなければならない。
Ⅳ.インフラ構築、産業化、イノベーション(SDG9)
4. 過去 40 年間のアフリカにおける産業化の経験は、落胆すべきものだった。2010
年のサハラ以南アフリカの GDP の製造業比率は平均 10%で、1970 年代から変
わっていない。各国とも最大の製品輸出先である外部市場の変動に振り回され、
主要産業は外国企業と関連するサービス企業や金融機関に支配されている。
ディーセントな雇用を創出し、原材料に付加価値をもたらすような強力な産業
がない限り、アフリカ各国はいつまでも失業と貧困に悩まされかねない。原材
料に付加価値を生み出す強力な産業がなければ、外国のバイヤーはそれら原材
料の価格を支配、操作でき、アフリカ各国と国民に大きな損害をもたらす。
「産
業化は贅沢な望みなのではなく、アフリカ大陸の発展に不可欠なものと考える
べきである」。
アフリカ各国の政府は単独または集団で、投資のガイドラインとこれを支える
政策を立案しなければならない。産業育成のためには持続的な電力供給、円滑
な輸送といった基幹的インフラが必要である。
アフリカの産業化を加速するには、そのための強力な産業化戦略を立て、短期
的に集中すべき優先産業を確定し、同時に中長期の戦略を練るとともに、産業
開発を力強く始動し、持続するための中心的主体を明確にしなければならない。
産業化は偶然に実現するものではない。計画的で粘り強く一貫した官民のパー
トナーシップと、将来を見通せるリーダーシップが必要である。
輸送、灌漑、エネルギー、情報通信技術といったインフラへの投資は、持続可
能な開発の達成とアフリカ社会の力を養うために、もっとも重要なものである。
インフラ投資は生産性と所得の長期的な成長にとって、また社会、経済、政治
の発展にとって、さらに保健と教育の改善に不可欠である。経済、政治、社会
の変革を達成するには、基幹的なスキルと発想の転換が必要であり、アフリカ
各国の政府は研究、科学、技術に大胆に投資すべきである。
アフリカ各国は各国の実情に合わせた科学的、技術的解決策を立案し、適応し、
活用できなければならない。そうしないと先進国の助言や援助への依存はいっ
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そう強まりかねない。政府の短期、中期、長期的計画のなかに、科学、技術、
イノベーションを組み込まないかぎり、持続可能な産業に向けたアフリカの野
心の実現はむずかしい。
アフリカ各国政府は、開発パートナー、民間部門、労働組合、訓練機関、メデ
ィアと協力し、産業化を通したアフリカの経済的、社会的転換のための能力を
高めなければならない。
Ⅴ.環境の持続可能性と社会開発(SDG6,7,12,13,14,15)
5. 持続可能な開発目標は、環境の持続可能性と社会開発を結びつける明確で包括
的な目標項目を一体的に提示している。具体的には、水に関する「目標 6」、
エネルギーに関する「目標 7」、持続可能な消費と生産に関する「目標 12」、
気候に関する「目標 13」、海洋に関する「目標 14」、森林に関する「目標 15」
などである。
この 10 年間、アフリカは継続的な高成長を経験してきた。だが多くの国は、
食料不安、高失業、貧困と格差、一次産品への依存、経済転換の欠如、清潔で
安全な水供給の欠如、エネルギー危機、環境破壊など、開発をめぐる多くの困
難と闘っている。そのどれもがアフリカにおける持続可能な開発の足を引っ張
っている。
6.
アフリカは公衆衛生に悪影響を与えるいくつかの課題で大きな困難に直面し
ている。とくに地方でも都市でも清潔な水を利用できないことは深刻な問題で
ある。アフリカ全体、とくにサハラ以南では、水供給の拡大に向けた努力とア
プローチがなされているにもかかわらず、下水・衛生システムとサービスの状
態から、死に至る健康へのさまざまな影響が域内に表出している。不衛生な水
と基礎的な下水処理の欠如が、世界の最貧国における極貧状態と疾病の根絶に
向けた努力に水を差している。
水は、その存在、質、量の面で労働者の生活に影響する。水と下水処理への投
資はアフリカ各国での有給のディーセントな雇用創出につながり、これによっ
て持続可能な開発に貢献できる。
7.
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によれば、2010 年時点で、アフリカで
は電力を利用できない人が約 5 億 9,000 万人(人口の 57%)、清潔な調理設備
を持たない人が 7 億人(人口の 68%)いる。エネルギー利用をめぐるこうした
傾向が今後も続けば、2030 年時点でもアフリカでは電力を利用できない人が 6
億 5,500 万人(人口の 42%)、清潔な調理設備のない人が 8 億 6,600 万人(人
口の 56%)いて、過半数の住民が健康で生産的な生活の機会を奪われているこ
とになる。
半面、アフリカでは継続的な経済成長と転換が続いている。人口は急速に増大
し、経済も発展して多様化している。この成長を持続可能なものとするために、
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エネルギーへの大規模な投資によってこれを後押しする必要がある。アフリカ
には再生可能資源の可能性があり、これを利用して将来の成長の大部分を再生
可能エネルギーで刺激できる能力がある。
エネルギーへの持続的で信頼できるアクセスを確保すれば、基礎的サービスの
電化にとどまらず、人々が自らの力で貧困から抜け出せるようになる。エネル
ギーへのアクセスは経済と社会の発展の前提条件である。事実上、あらゆる生
産的活動が資源としてのエネルギーを必要とするからである。
8.
アフリカにおける「持続可能な消費と生産」(SCP)は持続可能な開発の柱で
あり、それには国際協力も必須である。アフリカの多数の貧困層にとって、環
境と天然資源の質は生存にかかわる問題である。問われているのは、天然資源
を劣化させずに、また誰もが依存する生態系を破壊することなく、いかにより
多くの人に質の高い生活を保障するかである。資源の活用をもっと効率化すれ
ば、貧困層は同じ資源からより多くのニーズを満たし、より多くを消費できる
ようになる。
したがって SCP は、持続可能な開発目標、とくに貧困を終わらせる「目標 1」、
飢餓を終わらせる「目標 2」、清潔な水と衛生に関する「目標 6」、安価でク
リーンなエネルギーに関する「目標 7」、責任ある消費と生産に関する「目標
12」、気候変動対策に関する「目標 13」、海洋資源に関する「目標 14」、土
地と生活に関する「目標 15」の実現にとって必須のツールである。
各国政府や他の主体は、エネルギー、食料、水を管理し、持続可能な開発のた
めの「グリーン・エコノミー」を構築すべきである。それは万人のためのディ
ーセント・ワークと結び付けられなければならない。とくにグリーン・ジョブ
は環境面で持続可能な開発に貢献する。それは貧困を削減し、持続可能な開発
を達成するための中心的取り組みである。
9.
アフリカが気候変動に対してもっとも脆弱な大陸の一つであることは広く知
られている。気候変動の影響を示す兆候は、気温の上昇だけでなく、農業(収
穫量の減少)や水資源の利用可能性をはじめ、すでに表れている。気候変動と
マラリアなどの疫病発生との関連も明確になりつつある。他の場所と同様にア
フリカでも、気候変動に対しては労働の世界の積極的な関与が求められており、
ディーセント・ワークの適用は大きな効果をもたらす。
10.アフリカには、食料確保と経済開発を魚類の貿易に大きく依存する国がいくつ
かある。アフリカでは第 1 次産業である漁業と養殖業の雇用が一貫して拡大し
てきた。その漁業資源は貿易に大きく貢献している。
だがアフリカ全体で、大きくいって 3 種類の違法漁業が問題になっている。第
1 は無資格の外国漁船、第 2 は、沿岸を中心とした禁止海域での違法漁網によ
る違法操業、第 3 は小型船舶での違法操業である。違法漁業はアフリカ大陸の
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何百万人もの人々の生活と栄養状態を危うくしている。過剰漁獲と違法漁業は
アフリカの漁業の持続可能性に悪影響を与えている。アフリカには法令順守を
監視し、強制する能力を欠いた国が多すぎる。したがって収穫を効果的に規制
し、過剰漁獲や違法漁業、無届けおよび規制の網を抜けた漁業を根絶する必要
がある。
アフリカ各国は、その専門的能力と資源を出し合い共有し、持続可能な開発の
ために生態系の管理と保護を強化する必要がある。
Ⅵ.公正、平和でインクルーシブな社会の促進(SDG16)
11.平和と安全保障は、アフリカの貧困根絶と持続可能な開発にとって決定的に重
要な要素である。アフリカ各国の独立以来、武力紛争や平和と安全保障をめぐ
る問題への懸念と注目が各国内外で高まってきた。最近の特徴は国家間の紛争
が減少していることである。一方で内戦や民族紛争といった国内対立は増大し
ている。紛争は国内経済を荒廃させ、産業と職場を破壊し、その結果、強制移
民、難民、疾病、社会の信頼と安全の崩壊をもたらす。
これらさまざまな状況には一定の共通する諸問題があり、アフリカ地域の人間
の安全保障に深刻な影響を与えている。具体的には極度の貧困と社会的排除、
女性と子供の権利をはじめとする人権の侵害、政治と経済のガバナンスの劣悪
さ、腐敗、小型武器の拡散、麻薬売買、食料不安、環境破壊、非識字と感染症
などである。
近年は平和と安全保障に関して一定の改善はあったが、狭い意味での平和と安
全保障問題を超えて、より幅広い対話を推進するという点で困難がある。アフ
リカ各国政府は、紛争防止、紛争管理、紛争後の復興への関与という点で労働
組合を含む非政府主体の役割をもっと強めるべきである。
アフリカ各国政府は民主的なガバナンスの原則を堅持することで、公正で平和
でインクルーシブな社会を推進すべきである。グッドガバナンスなしには、他
の 16 項目の持続可能な開発目標が示す人間の福祉向上への取り組みは実現し
ない。インクルーシブで説明責任のある政府と、公正で予測可能な司法制度が
なければならず、それこそが開発と繁栄という約束を実現できる。「目標 16」
は、進歩と繁栄が幅広く共有され、もっとも困窮している人々がアフリカ市民
として自らの権利を主張し、行使できるようにするため極めて重要である。
Ⅶ.持続可能な開発のための実施手段の強化とグローバル・パートナーシップの活性
化(SDG17)
12.アフリカでは債務負担がいまなお問題である。各国とも財源の大部分を債務返
済に充てている。これら多くの国では、さまざまな段階での債務返済と「持続
可能な開発 2030 アジェンダ」に組み込まれた持続可能な開発目標の達成とを
両立させることはできない。
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債務を帳消しにすれば、アフリカの貧困国の政府は、医療、教育、清潔な水と
いった重要分野への公共投資を増やせる。したがってグローバルなパートナー
シップと援助提供者は、国内資源の大部分を債務返済に充てているアフリカの
貧困国で、債務帳消しの範囲を拡大できないか検討すべきである。またアフリ
カ各国政府も、責任ある資金の貸し借りを行うべきである。徴税管理の強化、
腐敗の根絶、違法な資金移動への対策、インフラ投資の規模拡大、民間資金の
誘導など、国内資金の活用体制を改善すべきである。
13.持続可能な開発アジェンダを成功させるためには、政府、民間部門、労働組合、
市民社会とのパートナーシップが必要である。人間と地球を中心に据えた原則
と価値観、共通のビジョン、共通の目標に基づくこうしたインクルーシブなパ
ートナーシップが、グローバル、地域、各国、地方の各段階で求められている。
14.開発協力の実行可能性を高めるには、関係各国政府および関係国際機関との緊
密な調整が必要である。また市民社会や民間部門との対話も、これまで以上に
重視するべきである。複数ステークホルダーが参加するプラットフォームの必
須要素として、とくに民間部門の一員としての労働組合の役割を認めるべきで
あり、労働組合の関与と対話を推進すべきである。
15.アフリカ各国で開発協力を立案し、実行していく際、労働組合の参加を確保す
ることによって民主的なガバナンスと職場の具体的改善を確かなものにして
いくべきである。結社の自由、団結権と団体交渉権を含む ILO の中核的条約の
批准と適用の促進には、とくに注力すべきである。日本の ODA プロジェクトに
おいて、サプライチェーンを含めた中核的労働基準の順守を全面的に徹底すべ
きである。
アフリカ労働組合統一機構(OATUU)
書記長 アレツキー・メズード
日本労働組合総連合会(連合)
事務局長
逢見 直人
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